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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-23
(45)【発行日】2023-01-06
(54)【発明の名称】水素センサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/04 20060101AFI20221226BHJP
   G01N 27/18 20060101ALI20221226BHJP
   G01N 25/18 20060101ALI20221226BHJP
【FI】
G01N27/04 K
G01N27/04 F
G01N27/18
G01N25/18 K
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018156559
(22)【出願日】2018-08-23
(65)【公開番号】P2020030137
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000133526
【氏名又は名称】株式会社チノー
(74)【代理人】
【識別番号】100067323
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 教光
(74)【代理人】
【識別番号】100124268
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 典行
(72)【発明者】
【氏名】梅島 康秀
(72)【発明者】
【氏名】金澤 美菜子
(72)【発明者】
【氏名】江川 益博
【審査官】清水 靖記
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-103605(JP,A)
【文献】特開2006-047275(JP,A)
【文献】特開2006-317196(JP,A)
【文献】特開2005-156364(JP,A)
【文献】特開2002-243686(JP,A)
【文献】特開2012-163514(JP,A)
【文献】中国実用新案第204010249(CN,U)
【文献】中国実用新案第205091261(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00-G01N 27/92
G01N 25/00-G01N 25/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検知方式が異なる複数種類のセンサを用いて雰囲気中の水素ガスの濃度を測定する水素センサであって、
前記雰囲気中の水素ガスが導入/導出されるガス流路と、
前記ガス流路の上流側で分岐し、前記ガス流路の下流側で合流する分岐流路と、
前記分岐流路の上流側の空間に配置される熱伝導式センサと、
前記ガス流路のガス導入口に設けられ、前記雰囲気中の水素ガスを吸引して応答速度を速めるための第1の吸引手段と、
前記分岐流路の下流側の空間に配置され、前記熱伝導式センサの測定範囲の下限値よりも低濃度側に測定範囲の下限値がある低濃度側センサと、
前記分岐流路における前記ガス流路の下流側との合流部分に設けられ、前記ガス流路の上流側で分岐された水素ガスを吸引するための第2の吸引手段と、
前記熱伝導式センサの測定電源をオンして当該熱伝導式センサにて測定される水素ガスの濃度が測定範囲の下限値以下と判定したときに、前記低濃度側センサの測定電源をオンして前記水素ガスの濃度の測定を行うように制御する制御手段とを備えたことを特徴とする水素センサ。
【請求項2】
検知方式が異なる複数種類のセンサを用いて雰囲気中の水素ガスの濃度を測定する水素センサであって、
前記雰囲気中の水素ガスが導入/導出されるガス流路と、
前記ガス流路の上流側で分岐し、前記ガス流路の下流側で合流する分岐流路と、
前記分岐流路の上流側の空間に配置される熱伝導式センサと、
前記ガス流路のガス導入口に設けられ、前記雰囲気中の水素ガスを吸引して応答速度を速めるための第1の吸引手段と、
前記分岐流路の下流側の空間に配置され、前記熱伝導式センサの測定範囲の下限値よりも低濃度側に測定範囲の下限値がある複数種類のセンサの組み合わせで構成される低濃度側センサと、
前記分岐流路における前記ガス流路の下流側との合流部分に設けられ、前記ガス流路の上流側で分岐された水素ガスを吸引するための第2の吸引手段と、
前記熱伝導式センサの測定電源をオンして当該熱伝導式センサにて測定される水素ガスの濃度が測定範囲の下限値以下と判定したときに、前記低濃度側センサを構成する複数種類のセンサの何れかの測定電源を選択的にオンして前記水素ガスの濃度の測定を行うように制御する制御手段とを備えたことを特徴とする水素センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雰囲気中の水素ガスの濃度を測定する水素センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば下記非特許文献1に記載されるように、雰囲気中の水素ガスの濃度を測定する水素センサは、様々な検知方式が知られており、これら各種の検知方式を用いた水素センサは、これまでに様々なガス専門メーカーで発売されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】化学工学 2017年 第81巻 第8号 第410~413頁「特集 ガスセンサの進歩と新たな応用」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、この種の水素センサは、図5に示すように、検知方式によって測定範囲が異なり、また長所と短所がある。一般的に、半導体式、接触燃焼式、電気化学式の水素センサは、熱伝導式の水素センサの測定範囲の下限値(1%)よりも低い濃度で高感度の測定が行える利点があるが、濃度が10%以上の測定が行えないという欠点がある。これに対し、熱伝導式の水素センサは、1-100%までの広範囲で測定が行える利点があるが、濃度が1%以下の低濃度側での高感度の測定が行えないという欠点がある。
【0005】
このため、従来は濃度が1%以下の低濃度から10%以上の高濃度による幅広い測定範囲で水素ガスを測定できる水素センサは存在しなかった。また、半導体式や電気化学式などの低濃度用の水素センサは、高分解能(ppmオーダー)な測定ができる反面、測定状態がONのまま高濃度の水素ガスに曝されると、ドリフト(測定値ずれ、誤差)や故障などが発生するという問題があった。そのため、使用環境を考慮して水素ガスの検知方式を選ぶ必要があった。
【0006】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであって、異なる検知方式の互いの短所を補って幅広い測定範囲で水素ガスの測定が可能な水素センサを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1に記載された水素センサは、検知方式が異なる複数種類のセンサを用いて雰囲気中の水素ガスの濃度を測定する水素センサであって、
前記雰囲気中の水素ガスが導入/導出されるガス流路と、
前記ガス流路の上流側で分岐し、前記ガス流路の下流側で合流する分岐流路と、
前記分岐流路の上流側の空間に配置される熱伝導式センサと、
前記ガス流路のガス導入口に設けられ、前記雰囲気中の水素ガスを吸引して応答速度を速めるための第1の吸引手段と、
前記分岐流路の下流側の空間に配置され、前記熱伝導式センサの測定範囲の下限値よりも低濃度側に測定範囲の下限値がある低濃度側センサと、
前記分岐流路における前記ガス流路の下流側との合流部分に設けられ、前記ガス流路の上流側で分岐された水素ガスを吸引するための第2の吸引手段と、
前記熱伝導式センサの測定電源をオンして当該熱伝導式センサにて測定される水素ガスの濃度が測定範囲の下限値以下と判定したときに、前記低濃度側センサの測定電源をオンして前記水素ガスの濃度の測定を行うように制御する制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載された水素センサは、検知方式が異なる複数種類のセンサを用いて雰囲気中の水素ガスの濃度を測定する水素センサであって、
前記雰囲気中の水素ガスが導入/導出されるガス流路と、
前記ガス流路の上流側で分岐し、前記ガス流路の下流側で合流する分岐流路と、
前記分岐流路の上流側の空間に配置される熱伝導式センサと、
前記ガス流路のガス導入口に設けられ、前記雰囲気中の水素ガスを吸引して応答速度を速めるための第1の吸引手段と、
前記分岐流路の下流側の空間に配置され、前記熱伝導式センサの測定範囲の下限値よりも低濃度側に測定範囲の下限値がある複数種類のセンサの組み合わせで構成される低濃度側センサと、
前記分岐流路における前記ガス流路の下流側との合流部分に設けられ、前記ガス流路の上流側で分岐された水素ガスを吸引するための第2の吸引手段と、
前記熱伝導式センサの測定電源をオンして当該熱伝導式センサにて測定される水素ガスの濃度が測定範囲の下限値以下と判定したときに、前記低濃度側センサを構成する複数種類のセンサの何れかの測定電源を選択的にオンして前記水素ガスの濃度の測定を行うように制御する制御手段とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、異なる検知方式の複数種類のセンサを用いて幅広い測定範囲(数ppm~100%)で水素ガスの濃度測定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る水素センサの内部構造の概略図である。
図2】本発明に係る水素センサの電気的構成を示すブロック図である。
図3】本発明に係る水素センサに用いられる電気化学式センサの回路構成の概略図である。
図4】本発明に係る水素センサの測定アルゴリズムのフローチャートである。
図5】検知方式が異なる複数種類の水素センサそれぞれの測定範囲を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
[水素センサの用途について]
本発明に係る水素センサは、対象となる雰囲気中の水素ガスの濃度を測定するもので、例えば水素ステーション、水素プラント、運搬、貯蔵庫などの水素ガスを利用するインフラ設備での漏れ検知に用いられる。
【0014】
[水素センサの構成について]
次に、本実施の形態の水素センサの構成について図1を参照しながら説明する。図1に示すように、水素センサ1は、矩形状の装置本体2の上面にガス導入口3が形成され、ガス導入口3と対向してガス導出口4が装置本体2の下面に形成されており、ガス導入口3とガス導出口4との間が直線状の貫通穴からなるガス流路R1を形成している。ガス導入口3には、雰囲気中の水素ガスを吸引して応答速度を速めるため、例えばファンやポンプなどの吸引手段5が設けられる。
【0015】
これにより、雰囲気中の水素ガスは、図1の白矢印の順路A1→A2→A3→A4で示すように、装置本体2のガス導入口3から吸引手段5にてガス流路R1内に吸引され、ガス流路R1を通ってガス導出口4から導出される。
【0016】
ガス流路R1には、図1の黒矢印の順路B1→B2→B3で示すように、ガス導入口3から導入された水素ガスがガス流路R1の上流側で分岐された後にガス流路R1と並行に流れてガス流路R1の下流側で合流する分岐流路R2が形成される。分岐流路R2におけるガス流路R1の下流側との合流部分には、ガス流路R1の上流側で分岐された水素ガスを吸引するため、例えばファンやポンプなどの吸引手段6が設けられる。
【0017】
分岐流路R2は、上流側の空間R2aに熱伝導式センサS1が配置され、下流側の空間R2bに低濃度側センサとしての電気化学式センサS2が配置される。そして、このような配置構成において、電気化学式センサS2は、後述するように、熱伝導式センサS1が測定した水素ガスの濃度が1%以下にならなければ測定電源をONして測定を開始することがないので、電気化学式センサS2が高濃度の水素ガスに曝されることによる劣化や故障を防ぐことができる。
【0018】
熱伝導式センサS1は、図5に示すように、水素ガスの測定範囲が1%(下限値)~100%(上限値)であり、水素ガスと基準ガス(例えば空気)との熱伝導率の差を利用して分岐流路R2に流れる水素ガスの濃度を検出するものである。
【0019】
電気化学式センサS2は、図5に示すように、水素ガスの測定範囲が0.01(下限値)~1%(上限値)であって、測定範囲の下限値が熱伝導式センサS1の測定範囲の下限値よりも低濃度側にあり、電解液を介して2つの電極間を導体で電気的に接続し、電極間に電位差が生じたときの電極表面の酸化反応と還元反応によって導体に流れる電流の大きさから分岐流路R2に流れる水素ガスの濃度を検出するものである。
【0020】
[水素センサの電気的な構成について]
次に、水素センサ1の電気的な構成について図2を参照しながら説明する。図2に示すように、熱伝導式センサS1の出力は、熱伝導式用測定回路11を介してA/D変換回路12に入力される。電気化学式センサS2の出力は、電気化学式用測定回路13を介してA/D変換回路12に接続される。
【0021】
A/D変換回路12は、各測定回路11,13にて測定された水素ガスの濃度に応じた出力電圧(アナログ信号)をそれぞれデジタルデータに変換する。
【0022】
制御回路(CPU)14は、A/D変換回路12から入力される熱伝導式センサS1のデジタルデータに基づく水素ガスの濃度に応じて測定ON/OFF回路15のON/OFFを制御する。
【0023】
さらに説明すると、制御回路14は、熱伝導式センサS1から得られた出力電圧値から水素ガスの濃度を算出し、水素ガスの濃度が1%(測定範囲の下限値)以下の場合は測定ON/OFF回路15を介して後述する測定ON/OFFスイッチSW1,SW2,SW3をONし、電気化学式センサS2の測定も開始するように制御する。
【0024】
これに対し、制御回路14は、熱伝導式センサS1から得られた出力電圧値から算出した水素ガスの濃度が1%(測定範囲の下限値)より大きい場合、測定ON/OFF回路15を介して後述する測定ON/OFFスイッチSW1,SW2,SW3をOFFのままとし、熱伝導式センサS1のみで水素ガスの濃度を測定するように制御する。
【0025】
出力回路としてのD/A変換回路16は、最終的に、水素ガスの濃度が1%より大きければ熱伝導式センサS1の出力に基づいて算出した水素ガスの濃度をアナログ信号(水素濃度値)に変換して出力し、水素ガスの濃度が1%以下であれば電気化学式センサS2の出力に基づいて算出した水素ガスの濃度をアナログ信号(水素濃度値)に変換して出力する。
【0026】
ここで、電気化学式センサS2が接続される電気化学式用測定回路13の回路構成について図3を参照しながら説明する。
【0027】
電気化学式用測定回路13は、図3に示すように、前段増幅回路13a、ボルテージフォロア回路13b、I-V変換回路13cを備えており、電気化学式センサS2のリファレンス極REに一定のバイアス電圧Vrefを与えた状態で、電気化学式センサS2の対極CEと検知極WEとの間の水素濃度に対応した電流を測定する。
【0028】
前段増幅回路13aは、オペアンプOP1の非反転入力端子が抵抗R1を介して接地され、反転入力端子にバイアス電圧Vrefが入力され、出力端子が測定ON/OFFスイッチSW1を介して電気化学式センサS2の対極CEに接続される。
【0029】
ボルテージフォロワ回路13bは、オペアンプOP2の非反転入力端子が測定ON/OFFスイッチSW2を介して電気化学式センサS2のリファレンス極REに接続され、オペアンプOP2の反転入力端子が出力端子に接続され、出力端子が前段増幅回路13aのオペアンプOP1の反転入力端子に接続される。
【0030】
ボルテージフォロワ回路13bは、電気化学式センサS2のリファレンス極REに電流が流れ込まないようにするとともに、リファレンス極REの電位がバイアス電圧Vrefを保つようにする。
【0031】
I-V変換回路13cは、電気化学式センサS2からの測定電流を電圧に変換する回路であり、オペアンプOP3の非反転入力端子が抵抗R2を介して接地され、オペアンプOP3の反転入力端子が電気化学式センサS2の検知極WEに接続されるとともに抵抗R3を介してオペアンプOP3の出力端子に接続される。また、I-V変換回路13cのオペアンプOP3の出力には、測定ON/OFFスイッチSW3が接続される。
【0032】
図3の回路構成において、電気化学式センサS2は、図2の制御回路14により測定ON/OFF回路15を介して制御される測定ON/OFFスイッチSW1,SW2,SW3がOFF状態のときに化学反応が止まり、電流が流れないようにできる。
【0033】
[水素ガスの濃度測定方法について]
次に、上記のように構成される水素センサ1にて雰囲気中の水素ガスの濃度を測定する方法について図4の測定アルゴリズムを参照しながら説明する。
【0034】
雰囲気中の水素ガスの濃度を測定するにあたっては、まず、熱伝導式センサS1の測定電源をONする(ST1)。熱伝導式センサS1は、測定電源がONすると、雰囲気中の水素ガスの濃度測定を開始する(ST2)。
【0035】
次に、制御回路14は、熱伝導式センサS1にて測定した水素濃度が1%以下か否かを判別する(ST3)。そして、熱伝導式センサS1にて測定した水素濃度が1%以下であると判定すると(ST3-Yes)、測定ON/OFF回路15にて測定ON/OFFスイッチSW1,SW2,SW3をONし、電気化学式センサS2の測定電源をONする(ST4)。そして、電気化学式センサS2は、測定電源がONすると、雰囲気中の水素ガスの濃度測定を開始する(ST5)。これにより、熱伝導式センサS1と電気化学式センサS2にて雰囲気中の水素ガスの濃度が測定される。
【0036】
その後、制御回路14は、測定終了か否かを判別し(ST6)、測定終了であると判定すると(ST6-Yes)、そのときの電気化学式センサS2による水素濃度値を出力する(ST7)。これに対し、測定終了ではないと判定すると(ST6-No)、ST2に戻り、熱伝導式センサS1と電気化学式センサS2による雰囲気中の水素ガスの濃度の測定を継続する。
【0037】
一方、制御回路14は、ST3において、熱伝導式センサS1にて測定した水素濃度が1%以下ではない、すなわち、水素濃度が1%未満であると判定すると(ST3-No)、電気化学式センサS2の測定電源をOFFのままとし(ST8)、測定終了か否かを判別する(ST9)。
【0038】
そして、制御回路14は、測定終了であると判定すると(ST9-Yes)、そのときの熱伝導式センサS1による水素濃度値を出力する(ST10)。これに対し、測定終了ではないと判定すると(ST9-No)、ST2に戻り、熱伝導式センサS1による雰囲気中の水素ガスの濃度の測定を継続する。
【0039】
このように、本実施の形態によれば、検知方式の異なる熱伝導式センサと電気化学式センサを用い、熱伝導式センサにて測定した雰囲気中の水素ガスが高濃度の場合には熱伝導式センサにて水素ガスの濃度測定を継続し、熱伝導式センサにて測定した雰囲気中の水素ガスが1%以下の低濃度の場合には電気化学式センサの測定電源をONして水素ガスの濃度測定を行う。これにより、検知方式の異なる熱伝導式センサと電気化学式センサの互いの短所を補って幅広い測定範囲(数ppm~100%)で水素ガスの濃度測定が行え、ユーザは水素ガスの濃度を気にせずに使用することが可能となる。
【0040】
また、雰囲気中の水素ガスが導入/導出されるガス流路の上流側に熱伝導式センサを配置し、ガス流路の下流側に電気化学式センサを配置し、熱伝導式センサが測定する水素ガスの濃度に応じて電気化学式センサの測定電源をON/OFF制御すれば、高濃度の水素ガスに電気化学式センサが曝された場合に劣化や故障を防ぐことができる。
【0041】
さらに、検知方式の異なる熱伝導式センサと電気化学式センサを併用するので、高湿度環境で使用した場合には、熱伝導式センサは湿度の影響を受けて指示ズレを起こすおそれがあるが、電気化学式センサはほぼ影響を受けないため補正が可能となる。
【0042】
ところで、上述した実施の形態において、制御回路14は、熱伝導式センサS1が測定する水素ガスの濃度に応じて電気化学式センサS2の測定電源をON/OFF制御しているが、例えば雰囲気中の水素ガスの濃度が急激に高くなり、熱伝導式センサS1または電気化学式センサS2が測定する水素ガスの濃度の変化量が所定量以上となったときに、電気化学式センサS2の測定電源をOFF制御してもよい。
【0043】
また、上述した実施の形態では、図1に示すように、水素ガスの流速の影響を小さくするため、ガス導入口3から導入された水素ガスがガス流路R1の上流側で分岐された後にガス流路R1と並行に流れてガス流路R1の下流側で合流する分岐流路R2を形成し、分岐流路R2の上流側に熱伝導式センサS1を配置し、分岐流路R2の下流側に電気化学式センサS2を配置する構成としている。また、ガス導入口3から導入された水素ガスを電気化学式センサS2まで行き届かせるため、ガス導入口3とガス導出口4に吸引手段5,6を設けた構成としている。しかし、これらの構成に限定されるものではない。例えばガス流路R1を中心として、それぞれの検出面がガス流路R1に向くように熱伝導式センサS1と電気化学式センサS2とを対向配置してもよい。
【0044】
さらに、上述した実施の形態では、熱伝導式センサS1と電気化学式センサS2による検知方式が異なる2種類のセンサを装置本体2に内蔵した構成として説明したが、この構成に限定されるものではない。
【0045】
すなわち、本実施の形態では、測定範囲が水素濃度1%以上の熱伝導式センサS1を必須の構成とするが、低濃度側センサに関しては、熱伝導式センサS1の測定範囲の下限値よりも低濃度側に測定範囲の下限値があるセンサであれば電気化学式センサS2以外のセンサ(例えば半導体式センサ、接触燃焼式センサなど)でも良い。
【0046】
また、複数種類のセンサを適宜組み合わせて低濃度側センサを構成し、熱伝導式センサS1が測定した水素濃度が1%以下になったときに、低濃度側センサを構成する複数種類のセンサの何れかの測定電源を選択的にONして水素ガスの濃度を測定することもできる。例えば低濃度側センサとして、電気化学式センサ、半導体式センサ、接触燃焼式センサによる3種類のセンサを用いた場合には、熱伝導式センサS1が測定した水素濃度が1%以下になったときに、水素濃度が0.1~1%では接触燃焼式センサの測定電源をONし、水素濃度が0.01~0.1%では電気化学式センサの測定電源をONし、0.001~0.1%では半導体センサの測定電源をONして水素ガスの濃度を測定する。
【0047】
以上、本発明に係る水素センサの最良の形態について説明したが、この形態による記述及び図面により本発明が限定されることはない。すなわち、この形態に基づいて当業者等によりなされる他の形態、実施例及び運用技術などはすべて本発明の範疇に含まれることは勿論である。
【符号の説明】
【0048】
1 水素センサ
2 装置本体
3 ガス導入口
4 ガス導出口
5,6 吸引手段
11 熱伝導式用測定回路
12 A/D変換回路
13 電気化学式用測定回路
13a 前段増幅回路
13b ボルテージフォロア回路
13c I-V変換回路
14 制御回路(CPU)
15 測定ON/OFF回路
16 D/A変換回路
S1 熱伝導式センサ
S2 電気化学式センサ
R1 ガス流路
R2 分岐流路
SW1,SW2,SW3 測定ON/OFFスイッチ
RE リファレンス極
CE 対極
WE 検知極
図1
図2
図3
図4
図5