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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-23
(45)【発行日】2023-01-06
(54)【発明の名称】エアバッグ
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/239 20060101AFI20221226BHJP
   B60R 21/2338 20110101ALI20221226BHJP
【FI】
B60R21/239
B60R21/2338
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018183777
(22)【出願日】2018-09-28
(65)【公開番号】P2020050277
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000107907
【氏名又は名称】セーレン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小玉 尚賢
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-177845(JP,A)
【文献】国際公開第2012/111544(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0012179(US,A1)
【文献】特開2017-094912(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/239
B60R 21/2338
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアバッグを形成するパーツのうち少なくとも一枚のパーツの一部が、蛇腹状に折り畳まれた状態で結合され、
蛇腹状に折り畳まれた蛇腹状折り畳み部のエアバッグ外側に位置する谷折り部に排気穴を有し、
前記蛇腹状折り畳み部のエアバッグ内側に位置する山折り部周辺に前記排気穴の開閉を制御する吊紐が結合され
前記蛇腹状折り畳み部が互いに向かい合う位置に設置され、
前記吊紐が、互いに向かい合う前記蛇腹状折り畳み部を連結させるように結合され、
かつ、複数ある前記山折り部のうち、エアバッグの中央により近い側に結合されているエアバッグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されるエアバッグ装置のためのエアバッグに関する。詳細には、展開の初期段階ではエアバッグ内のガスが外部に漏れないため早く展開し、乗員がエアバッグに衝突した際にはガスが外部へと排気されて、乗員を保護することができるエアバッグに関する。
【背景技術】
【0002】
車両が衝突した時の衝撃から乗員を保護する乗員保護用の安全装置として、車両へのエアバッグ装置搭載が普及している。エアバッグ装置としては、車両の衝突などの衝撃を受けたときの急激な減速を検知するセンサ、センサからの信号を受けて膨出用の高圧ガスを発生するインフレータ、インフレータからの膨出用の高圧ガスにより、展開、膨張して乗員の衝撃を緩和するエアバッグ、および、エアバッグシステムが正常に機能しているか否かを判断する診断回路を、通常備えている。そして、エアバッグには、ガス抜き穴として排気穴を備えていることが多い。
【0003】
特許文献1には、エアバッグを形成するパネルの重なりを利用してベントホールを開閉するエアバッグが開示されている。この方法によれば、簡単な機構で乗員の衝突有無によるベントホールの開閉に対応することができる。しかしながら、パネル端部の重なりだけで開閉を実現するため、適切な開閉の切り替えが難しく、安定した性能を満足することができない。
【0004】
特許文献2には、一方のパネルに切欠部と余長部を設けて弛ませて接合することで、排気口を形成するエアバッグが開示されている。この方法によれば、乗員が衝突するまでは排気口が閉じられたような状態となっているため、速やかに展開し早期に乗員の衝突に備えることができる。しかしながら、排気口を塞ぐ機能は弱く、安定的に排気口の開閉を制御できる構造ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-74352号公報
【文献】特開2011-189885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
簡便に設置できる可変排気穴であって、展開初期においてはガスの排出を抑制して早期に展開でき、乗員衝突時においては安定してガスを排出することができる可変排気穴を有するエアバッグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、エアバッグを形成するパーツのうち少なくとも一枚のパーツの一部が蛇腹状に折り畳まれた状態で結合され、蛇腹状に折り畳まれた蛇腹状折り畳み部のエアバッグ外側に位置する谷折り部に排気穴を有し、前記蛇腹状折り畳み部のエアバッグ内側に位置する山折り部周辺に前記排気穴の開閉を制御する吊紐が結合され、前記蛇腹状折り畳み部が互いに向かい合う位置に設置され、前記吊紐が、互いに向かい合う前記蛇腹状折り畳み部を連結させるように結合され、かつ、複数ある前記山折り部のうち、エアバッグの中央により近い側に結合されているエアバッグに関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、初期展開状態では、折り畳まれた蛇腹状折り畳み部が排気穴を塞ぐようになるため、ガスの排気を抑制して早期に展開し、乗員衝突時は蛇腹状折り畳み部に結合された吊紐に張力が掛かり蛇腹折りを緩めるため、排気穴から安定して排気されて乗員を保護することができる。可変排気穴を形成するための複雑な構造やセンサ等の特別な装置を追加する必要が無く、簡単な構造であるため作製時の工程も少ない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一例を示す(a)展開完了時のエアバッグの模式斜視図、(b)展開完了時の可変排気部の模式斜視図、(c)展開途中のエアバッグの模式斜視図、(d)展開途中の可変排気部の模式斜視図である。
図2】本発明のエアバッグにおける構成パーツの一例を示す模式平面図である。
図3】(a)本発明の蛇腹状折り畳み部の一例を示す模式拡大図と(b)蛇腹状折り畳み部の他の例を示す模式拡大図である。
図4】(a)展開途中の可変排気部の断面図と(b)展開完了時の可変排気部の断面図である。
図5】本発明の他の例を示す、展開完了時のエアバッグの模式斜視図である。
図6】本発明の他の例を示す、構成パーツの模式平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のエアバッグは、エアバッグを形成するパーツの一部が蛇腹状に折り畳まれた状態で結合され、蛇腹状に折り畳まれた蛇腹状折り畳み部のエアバッグ外側に位置する谷折り部に排気穴を有し、エアバッグ内側に位置する山折り部周辺に前記排気穴の開閉を制御する吊紐が結合されているものである。
【0011】
以下、本発明の実施形態の一例について図面を参照しながら説明する。なお、図1では、手前のパネルで実際には見えない部分を説明しやすいよう可視化している。図1(a)には、展開完了時のエアバッグ1の一例を示している。エアバッグ1は、長尺のセンターパネル2および2枚のサイドパネル3(図2参照)からなっている。サイドパネル3は、蛇腹状折り畳み部37を有する可変排気部31(図1(b)参照)を有しており、長手方向の両端部同士が結合されたセンターパネル2と結合部11にて結合されている。センターパネル2にはインフレータ取付部21を有している。サイドパネル3はメインパネル2を挟んで2つあり、サイドパネル3の一部が蛇腹状に折り畳まれた状態でセンターパネル2と結合され、蛇腹状折り畳み部37を形成している。蛇腹状折り畳み部37は、蛇腹状に折り畳まれた状態で、蛇腹の両端が動かないよう止められ、蛇腹の中央付近は折り畳まれた部分が開けるようになっている。
【0012】
図1(b)に、可変排気部31に該当する部分を示している。可変排気部31は、蛇腹状に折り畳まれた蛇腹状折り畳み部37を有し、向かい合うサイドパネル3の一対の蛇腹状折り畳み部37の一部に吊紐(可変排気部規制紐ともいう)35の両端が結合されている。
【0013】
なお、図1(a)および(b)は、エアバッグの展開完了時を示しており、図1(c)および(d)は、エアバッグの展開途中を示している。
【0014】
図2に、エアバッグ1を形成するパネルの模式平面図を示している。サイドパネル3は、可変排気部31を構成する蛇腹状折り畳み部37を有し、必要に応じて補強布5を結合したセンターパネル2と結合され、エアバッグ1を形成する。蛇腹状折り畳み部37は、エアバッグ内側を山折り部32とし、外側を谷折り部33としたとき、谷折り部33に排気穴である排気スリット34を有する。なお、蛇腹状折り畳み部37におけるエアバッグ内側とは、ガスが充填される側、すなわち、排気されるガスの上流側をいい、図4で説明すると、ガスの上流側、すなわち、図の上側が内側であり、一方、蛇腹状折り畳み部37におけるエアバッグ外側とは、排気ガスの下流側、すなわち、図の下側が外側である。
【0015】
各パネルが結合され形成されたエアバッグは、図1(b)に示すように、可変排気部結合部36が山折り部32の周辺に設定され、向かい合う一対の蛇腹状折り畳み部37を連結させるように可変排気部規制紐35が結合される。なお、可変排気部結合部36は、山折り部32の長さ方向中央周辺に設定することが好ましい。
【0016】
図3に蛇腹状折り畳み部37の拡大図を示す。蛇腹状折り畳み部37は、山折り部32と谷折り部33、排気スリット34を有し、排気スリット34は谷折り部33の中央に設定している。山折り部32と谷折り部33の間の重なり部分がラップ部である。蛇腹状折り畳み部37を形成した状態で、サイドパネル3の長手方向両端部は結合部11にて結合されており、複数の山折り部32及びサイドパネル3で隙間が形成され、排気スリット34に通じる隙間は内側排気領域39となる。図3(b)の例では、3つのスリット排気穴34を有し、それらに通じる3つの内側排気領域39を有している。サイドパネル3はメインパネル2の両側に1つずつあるが、それぞれのサイドパネル3の蛇腹状折り畳み部37にある山折り部32には、お互いの蛇腹状折り畳み部37を連結させるように可変排気部規制紐35が結合されている。可変排気部規制紐35は複数ある山折り部32のうち、エアバッグ1の中央により近い側に結合されている(図4参照)。排気スリット34の長さL(mm)と幅W(mm)、ラップ部の深さD(mm)は適宜設定できる。なかでも排気スリット34の長さLとラップ部の深さDのスリット比P(D/L)は、0.5~5.0の範囲であることが好ましい。より好ましくは0.7~3.5、さらに好ましくは1.0~2.0である。また、幅Wは5.0mm以内であることが好ましく、より好ましくは3.5mm以内であり、さらに好ましくは2.0mm以内である。スリット比Pが0.5~5の範囲であれば、展開初期の段階では確実に排気を抑制しつつ、通常展開時および乗員衝突時のいずれにおいても、適度に排気され、より確実に乗員を保護することができる。
図3(a)に、ラップ部の深さDが比較的小さい例を示し、図3(b)に、ラップ部の深さDが比較的大きい例を示したが、排気スリット34の長さL(mm)と幅W(mm)、ラップ部の深さD(mm)の調整をすることにより、展開の状態に応じたガスの排気量の調整ができる。
【0017】
図3の例では、山折り部32と谷折り部33をそれぞれ3つとしたが、特に限定されない。展開初期の段階での排気スリット34の閉口と乗員衝突時の確実な開口を実施する為には山折り部32と谷折り部33は同じ回数であることが好ましく、それぞれ2~4回であることがより好ましい。
【0018】
また、山折り部32と谷折り部33で形成されるラップ部は、折りの回数に関わらず、深さD(mm)がそれぞれ同一であることがエアバッグ作製の際の作業効率面で好ましい。
【0019】
図4は、可変排気部31の断面を示しており、(a)に可変排気部31の展開途中の模式断面図を、(b)に展開完了時の模式断面図を示している。なお、図4は、一対の蛇腹状折り畳み部37の中央部における断面を示し、エアバッグ1の中心線を点線で示している。図4(a)に示すように、エアバッグ1が展開する初期の段階では、山折り部32と谷折り部33の間のラップ部が閉じられることで、ガスの流れGが堰き止められ、排気スリット34からエアバッグ外側へのガス漏れを防止し早期に展開を実現することができる。図4(b)に示すように、エアバッグが完全に展開した場合は、蛇腹状折り畳み部37に結合された可変排気部規制紐35により引っ張られることにより、内側排気領域39が広げられ、ラップ部の重なりが広がることで、排気スリット34からエアバッグ外側へ排気され、適切に乗員を保護することができる。
【0020】
本実施形態では、エアバッグ1に蛇腹状折り畳み部37が4つ設置された例を説明したが、2つ以上であれば特に限定されない。本実施形態では、一対の蛇腹状折り畳み部37を1つ設けた例を説明したが、複数設けてもよく、一対の蛇腹状折り畳み部37の数を増やすことにより、あらゆる展開段階での乗員衝突の際に展開形状変化に追従させることができる。
本実施形態では、可変排気部規制紐35を蛇腹状折り畳み部37の山折り部32の1つに結合している例を説明したが、山折り部32周辺で排気スリット34の開閉を制御することができる位置であれば特に限定されず、ガスの排出と内圧の調整が可能であればいずれに結合してもよい。また、可変排気部規制紐35が1つである例を説明したが、可変排気部1の開閉を調整出来るのであれば複数設けてもよい。
【0021】
本実施形態では、排気スリット34は谷折り部33の中央に設定し、可変排気部結合部36は山折り部32の中央に設定してあるが、山折り部32周辺で排気スリット34の開閉を制御することができれば特に限定されない。排気スリット34の確実な開口を実現するためには、排気スリット34と可変排気部結合部36の中心は、谷折り部33の中心と山折り部32の中心を結んだ直線上にあることが好ましい。
【0022】
本実施形態では、排気穴(排気スリット34)をスリット形状としたが、スリット形状以外の楕円や多角形等の任意の形状でも構わない。展開初期の段階での閉口と展開時の開口をより安定して実現するためには、排気穴は細長いスリット形状であることが好ましい。また、谷折り部33が1つに対し排気スリットを1つとしたが、谷折り部33が1つに対し排気スリットが複数でもよい。展開初期の段階での閉口と展開時の開口をより安定して実現するためには、排気穴は1つであることが好ましい。また、本実施形態では、可変排気部31以外に通常の排気穴を設けていないが、設けてもかまわない。
【0023】
本実施形態では、センターパネル2を1つとサイドパネル3を2つの合計3つのパネルでエアバッグ1を形成する例を説明したが、本発明の性能を満足すれば図5図6のように可変排気パーツ4を使用してエアバッグを形成してもよく、エアバッグを形成するパネルの形状や数に特に制限はない。
【0024】
なお、パネルの結合は、上述した縫製の他、接着、溶着、製織、製編あるいはこれらの併用など、いずれの方法によってもよい。なかでも、コスト面や工数が短いという点により、縫製によって結合することが好ましい。縫製強度は700~1500N/10cmの範囲内であることが好ましいが、特に限定はされない。
【0025】
エアバッグを収納する際の折り畳みは、運転席用バッグのように中心から左右および上下対称の屏風折り、あるいはエアバッグの外周から中心に向かって多方位から押し縮める多軸折り、助手席バッグのようなロール折り、蛇腹折り、屏風状のつづら折り、あるいはこれらの併用や、シート内蔵型サイドバッグのようなアリゲーター折りなどにより折り畳めばよい。
【0026】
本発明のエアバッグは、運転席用、助手席用、側面衝突用および後部座席用などに使用することができ、とくに限定されない。
【符号の説明】
【0027】
1 エアバッグ
11 結合部
2 センターパネル
21 インフレータ取付部
3 サイドパネル
31 可変排気部
32 山折り部
33 谷折り部
34 排気スリット
35 可変排気部規制紐
36 可変排気部結合部
37 蛇腹状折り畳み部
38 切り欠き部
39 内側排気領域
4 可変排気パーツ
5 補強布
G ガスの流れ
L 排気スリット長さ
W 排気スリット幅
D ラップ部深さ
P スリット比
図1
図2
図3
図4
図5
図6