(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-23
(45)【発行日】2023-01-06
(54)【発明の名称】折板屋根材運搬装置並びに二重折板葺屋根の葺設工法
(51)【国際特許分類】
E04D 15/04 20060101AFI20221226BHJP
【FI】
E04D15/04 E
(21)【出願番号】P 2018200694
(22)【出願日】2018-10-25
【審査請求日】2021-07-08
(31)【優先権主張番号】P 2018067469
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】593162095
【氏名又は名称】株式会社長谷川工業所
(73)【特許権者】
【識別番号】518111287
【氏名又は名称】株式会社八幡平板金
(74)【代理人】
【識別番号】100091373
【氏名又は名称】吉井 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100097065
【氏名又は名称】吉井 雅栄
(74)【代理人】
【識別番号】100201237
【氏名又は名称】吉井 将太郎
(72)【発明者】
【氏名】工藤 光栄
【審査官】河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】特開昭48-077627(JP,A)
【文献】登録実用新案第3180607(JP,U)
【文献】実開平05-073135(JP,U)
【文献】実開平02-032544(JP,U)
【文献】登録実用新案第3108343(JP,U)
【文献】特開2015-059349(JP,A)
【文献】特開2000-264220(JP,A)
【文献】実開平02-102885(JP,U)
【文献】特開平07-277199(JP,A)
【文献】登録実用新案第3195473(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04D 15/04
E04D 15/00
E04D 15/02
E04G 21/14-21/22
B62B 1/00- 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設の折板屋根
の山部上を
横断状態で走行可能
に構成された屋根上走行体
に、折板屋根材を載置支承する支承部と、前記支承部に支承された
前記折板屋根材を
前記屋根上走行体の前方側へ滑り落下させる持ち上げ滑り落下部と
が設けられた折板屋根材運搬装置であって、
前記持ち上げ滑り落下部は、前端部が前記屋根上走行体の前側に軸着され、この軸着部を支点に前記屋根上走行体に対して起伏回動自在に設けられ、この持ち上げ滑り落下部を前記軸着部を支点に起動させた場合、前記支承部に支承された前記折板屋根材が持ち上げられ前記屋根上走行体の前方側へ滑り落下するように構成され、また、前記屋根上走行体は、上面前側及び上面後側に作業者が押し走行する際に握持する走行ハンドルを着脱自在に取付可能なハンドル取付部が設けられ、さらに、前記屋根上走行体は、前記既設の折板屋根の谷部に収納配設可能な前後方向に細長い形状に構成されていることを特徴とする折板屋根材運搬装置。
【請求項2】
請求項1記載の折板屋根材運搬装置において、前記支承部
は、前記折板屋根材を載置支承可能で且つ載置支承した
該折板屋根材を前記屋根上走行体の走行方向と直交する方向へ移送可能な支承ローラー
で構成され、この支承ローラーは、前記折板屋根材を該折板屋根材の谷部の下面側から支承する水平支承ローラーを含む構成であり、また、前記水平支承ローラーは、前記屋根上走行体に対して昇降調整可能に構成されていることを特徴とす
る折板屋根材運搬装置。
【請求項3】
請求項2記載の折板屋根材運搬装置において、前記支承ローラーは、前記折板屋根材を該折板屋根材の谷部に隣接する傾斜部の下面側から支承する傾斜支承ローラーを含む構成であり、また、前記傾斜支承ローラーは、前記屋根上走行体に対して傾斜角度調整可能に構成されていることを特徴とする折板屋根材運搬装置。
【請求項4】
請求項1~3いずれか1項に記載の折板屋根材運搬装置において、前記ハンドル取付部は、前記支承部に支承されている
前記折板屋根材の前記屋根上走行体前方への落下を防止する落下防止ストッパーが着脱自在
に設けられ
るように構成されていることを特徴とす
る折板屋根材運搬装置。
【請求項5】
請求項1~4いずれか1項に記載の折板屋根材運搬装置において、前記持ち上げ滑り落下部
には、前記折板屋根材を前記屋根上走行体の前方側へ滑り落下させる落下ローラーが設けられていることを特徴とす
る折板屋根材運搬装置。
【請求項6】
既設の折板屋根上に新たな折板屋根材を重ね葺設する二重折板葺屋根の葺設工法であって、前記請求項1~5いずれか1項に記載の折板屋根材運搬装置を前記既設の折板屋根の山部に架設状態で間隔を置いて複数設置し、この複数の前記折板屋根材運搬装置の前記支承部に一の折板屋根材を架設状態で載置し、前記複数の折板屋根材運搬装置を前記既設の折板屋根の山部上を横断状態で同時に走行移動させて前記一の折板屋根材を設置場所まで運搬し、前記複数の折板屋根材運搬装置の前記持ち上げ滑り落下部を同時に起動させて前記支承部に載置した前記一の折板屋根材を持ち上げ、前記屋根上走行体の前方側へ滑り落下させて前記既設の折板屋根上に配設した後、前記一の折板屋根材を運搬した複数の前記折板屋根材運搬装置の前記走行ハンドルの位置を前記屋根上走行体の上面後側から上面前側に付け替え該屋根上走行体を逆向きに走行させて帰還移動すると共に、複数の前記折板屋根材運搬装置をそれぞれ前記既設の折板屋根の谷部に収納し、前記既設の折板屋根上に待機させた別の複数の折板屋根材運搬装置で次の折板屋根材を所定の設置場所まで運搬することを特徴とする二重折板葺屋根の葺設工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺な折板屋根材の葺設を容易化する折板屋根材運搬装置並びにこの折板屋根材運搬装置を用いた二重折板葺屋根の葺設工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工場などの広大な面積の屋根を有する建物への折板屋根の葺設は、従来、折板屋根材を成形するロール成形機を建物の屋根施工箇所の高さに合わせて設置し、ロール成形機より金属製の折板屋根材を成形して屋根上に送出し、送出された長尺な折板屋根材を多数の作業者が力を合わせて設置場所まで持ち運んだり、適当なキャリーを用いて設置場所まで運んで葺設している。
【0003】
また、ロール成形機は大型の重量物であるため、これを屋根などの高所に設置するためには強固な足場が必要になる。そのため、一旦設置したロール成形機を移動することは容易ではなく、たとえ折板屋根材の葺設場所がロール成形機から遠く離れたとしても、ロール成形機は当初の設置位置から動かさずに、成形した折板屋根材を作業者が屋根上の葺設場所まで運搬するのが一般的であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような屋根上での折板屋根材の運搬作業は、折板屋根材が数十mもの長尺材となると、折板屋根材自体が非常に重いために困難な作業となり、また、運搬時に折板屋根材が変形などを生じないように作業者を3~5m間隔で配置した多人数での作業となるので、人件費も嵩むという問題点があった。
【0005】
本発明は、このような現状に鑑み、施工現場で長尺の折板屋根材を設置場所まで比較的少人数で容易に搬送して葺設することができる折板屋根材運搬装置、並びにこの折板屋根材運搬装置を用いた折板屋根葺設工法、並びに折板屋根材の搬送用ローラー架台としても使用可能な折板屋根材運搬装置を用いた二重折板葺屋根の葺設工法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0007】
既設の折板屋根2の山部32上を横断状態で走行可能に構成された屋根上走行体3に、折板屋根材4を載置支承する支承部5と、前記支承部5に支承された前記折板屋根材4を前記屋根上走行体3の前方側へ滑り落下させる持ち上げ滑り落下部6とが設けられた折板屋根材運搬装置であって、前記持ち上げ滑り落下部6は、前端部が前記屋根上走行体3の前側に軸着され、この軸着部7を支点に前記屋根上走行体3に対して起伏回動自在に設けられ、この持ち上げ滑り落下部6を前記軸着部7を支点に起動させた場合、前記支承部5に支承された前記折板屋根材4が持ち上げられ前記屋根上走行体3の前方側へ滑り落下するように構成され、また、前記屋根上走行体3は、上面前側及び上面後側に作業者が押し走行する際に握持する走行ハンドル1を着脱自在に取付可能なハンドル取付部12が設けられ、さらに、前記屋根上走行体3は、前記既設の折板屋根2の谷部22に収納配設可能な前後方向に細長い形状に構成されていることを特徴とする折板屋根材運搬装置に係るものである。
【0008】
また、請求項1記載の折板屋根材運搬装置において、前記支承部5は、前記折板屋根材4を載置支承可能で且つ載置支承した該折板屋根材4を前記屋根上走行体3の走行方向と直交する方向へ移送可能な支承ローラー8で構成され、この支承ローラー8は、前記折板屋根材4を該折板屋根材4の谷部22の下面側から支承する水平支承ローラー14を含む構成であり、また、前記水平支承ローラー14は、前記屋根上走行体3に対して昇降調整可能に構成されていることを特徴とする折板屋根材運搬装置に係るものである。
【0009】
また、請求項2記載の折板屋根材運搬装置において、前記支承ローラー8は、前記折板屋根材4を該折板屋根材4の谷部22に隣接する傾斜部23の下面側から支承する傾斜支承ローラー15を含む構成であり、また、前記傾斜支承ローラー15は、前記屋根上走行体3に対して傾斜角度調整可能に構成されていることを特徴とする折板屋根材運搬装置に係るものである。
【0010】
また、請求項1~3いずれか1項に記載の折板屋根材運搬装置において、前記ハンドル取付部12は、前記支承部5に支承されている前記折板屋根材4の前記屋根上走行体3前方への落下を防止する落下防止ストッパー9が着脱自在に設けられるように構成されていることを特徴とする折板屋根材運搬装置に係るものである。
【0011】
また、請求項1~4いずれか1項に記載の折板屋根材運搬装置において、前記持ち上げ滑り落下部6には、前記折板屋根材4を前記屋根上走行体3の前方側へ滑り落下させる落下ローラー29が設けられていることを特徴とする折板屋根材運搬装置に係るものである。
【0012】
また、既設の折板屋根2上に新たな折板屋根材4を重ね葺設する二重折板葺屋根の葺設工法であって、前記請求項1~5いずれか1項に記載の折板屋根材運搬装置Aを前記既設の折板屋根2の山部32に架設状態で間隔を置いて複数設置し、この複数の前記折板屋根材運搬装置Aの前記支承部5に一の折板屋根材4を架設状態で載置し、前記複数の折板屋根材運搬装置Aを前記既設の折板屋根2の山部32上を横断状態で同時に走行移動させて前記一の折板屋根材4を設置場所まで運搬し、前記複数の折板屋根材運搬装置Aの前記持ち上げ滑り落下部6を同時に起動させて前記支承部5に載置した前記一の折板屋根材4を持ち上げ、前記屋根上走行体3の前方側へ滑り落下させて前記既設の折板屋根2上に配設した後、前記一の折板屋根材4を運搬した複数の前記折板屋根材運搬装置Aの前記走行ハンドル1の位置を前記屋根上走行体3の上面後側から上面前側に付け替え該屋根上走行体3を逆向きに走行させて帰還移動すると共に、複数の前記折板屋根材運搬装置Aをそれぞれ前記既設の折板屋根2の谷部22に収納し、前記既設の折板屋根2上に待機させた別の複数の折板屋根材運搬装置Aで次の折板屋根材4を所定の設置場所まで運搬することを特徴とする二重折板葺屋根の葺設工法に係るものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明は上述のように構成したから、長尺折板屋根材を、複数の本折板屋根材運搬装置を用いて容易に設置場所まで運搬することができ、しかも設置場所まで運搬した折板屋根材を、持ち上げ滑り落下部の傾斜可動により設置場所へ容易に落下させることができるので、長尺折板屋根材に対する作業者の配置間隔を、従来の配置間隔より広く取ることができ、これにより作業者の人数及び人件費を大幅に削減可能となるなど、極めて実用性に優れた折板屋根材運搬装置並びに折板屋根葺設工法となる。
【0014】
また、傾斜可動させることで支承部に支承されていた折板屋根材を持ち上げて屋根上走行体の前方側へ確実に滑り落下させる持ち上げ滑り落下部を簡易構成にして容易に設計実現可能となる一層実用性に優れた構成の折板屋根材運搬装置となる。
【0015】
また、屋根上に間隔を置いて設置された全ての本折板屋根材運搬装置の支承部に対して、長尺折板屋根材を移送しつつ容易に載置支承することができる。即ち、屋根上の折板屋根材搬送用ローラー架台としても使用可能となる一層実用性に優れた構成の折板屋根材運搬装置となる。
【0016】
また、ストッパー取付部に落下防止ストッパーを取り付けることにより、支承部に支承されている折板屋根材の屋根上走行体前方への落下を防止できると共に、この落下防止ストッパーが、長尺折板屋根材を載置支承した複数の本折板屋根材運搬装置を一斉に走行移動させた際の走行速度差の解消にも役立つなど、一層実用性に優れた構成の折板屋根材運搬装置となる。
【0017】
また、支承部に支承された折板屋根材が、傾斜可動させた持ち上げ滑り落下部から落下ローラーを介して屋根上走行体前方側の設置場所へとスムーズに落下するので、持ち上げ滑り落下部の持ち上げ傾斜可動角度を小さくできる一層操作性に優れ、実用性に優れた構成の折板屋根材運搬装置となる。
【0018】
また、前記作用・効果に加えて、屋根の端部に設置されたロール成形機から送出される長尺折板屋根材を、この折板屋根材の送出方向に間隔を置いて設置された全ての本折板屋根材運搬装置の支承部に対して移送しつつ容易に支承させることが可能となる一層実用性に優れた二重折板葺屋根の葺設工法となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施例1の折板屋根材運搬装置を示す斜視図である。
【
図2】実施例1の折板屋根材運搬装置を示す、持ち上げ滑り落下部を起動させた状態の斜視図である。
【
図3】実施例1の折板屋根材運搬装置を、折板屋根上に間隔を置いて複数設置し、各折板屋根材運搬装置の支承部に長尺な折板屋根材を載置支承した状態を示す概略説明斜視図である。
【
図5】
図3に続いて、実施例1の折板屋根材運搬装置を折板屋根材の設置場所まで走行移動させ、持ち上げ滑り落下部を起動させて折板屋根材を設置場所に滑り落下させようとする状態を示す説明側面図である。
【
図6】
図4に続いて、走行ハンドルを付け替えて作業開始位置へ帰還しようとする状態を示す説明側面図である。
【
図7】実施例2の折板屋根材運搬装置を示す、持ち上げ滑り落下部を少し起動させた状態の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0021】
屋根2上に、間隔を置いて本発明の折板屋根材運搬装置Aを複数設置し、この全ての折板屋根材運搬装置Aの支承部5に長尺な折板屋根材4を載置支承する。
【0022】
次いで、例えば複数の折板屋根材運搬装置Aに一人ずつ作業者を従事させ、各作業者が走行ハンドル1を握持し押し走行することで複数の折板屋根材運搬装置Aを一斉に折板屋根材4の設置場所まで移動する。
【0023】
次いで、複数の折板屋根材運搬装置Aの前記持ち上げ滑り落下部6を一斉に傾斜可動させることで、前記支承部5に支承されていた折板屋根材4を持ち上げて屋根上走行体3の前方側へ滑り落下させ、落下した折板屋根材4を屋根2上に固定(葺設)する。
【0024】
従って、例えば、数十mもの長尺な折板屋根材4を、複数の本折板屋根材運搬装置Aを用いて容易に設置場所まで運搬でき、しかも多数の作業者が折板屋根材4を持ち上げて設置場所へと配設するのではなく、持ち上げ滑り落下部6を手動あるいは動力により自動で傾斜可動させることにより長尺な折板屋根材4を設置場所へと容易に落下配設できるので、この折板屋根材4の設置場所への配設作業が容易に行われる。
【0025】
即ち、従来は長尺折板屋根材4が重いために3~5m間隔で作業者を配置して折板屋根材4を多人数による手作業で設置場所へ配設しなければならなかった(作業者一人あたりの荷重負担は15~25kgにもなっていた)が、本発明の折板屋根材運搬装置Aを用いれば、上記したように折板屋根材4を設置場所に簡単に落下配設可能であるため、折板屋根材4に対し6~9m間隔で作業者を配置しても事足りることとなり、従って作業者数も人件費も大幅に削減可能である。
【0026】
また、例えば、前記支承部5に、折板屋根材4を載置支承可能で且つ載置支承した折板屋根材4を前記屋根上走行体3の走行方向と直交する方向へ移送可能な支承ローラー8が設けられている場合には、屋根2上に間隔を置いて設置されている複数の折板屋根材運搬装置Aに対し、長尺折板屋根材4の端部を、最も屋根2の端側に設置されている折板屋根材運搬装置Aの支承部5から載置支承しつつこの支承部5の支承ローラー8により隣接する折板屋根材運搬装置Aの支承部5へと折板屋根材4の端部を順次移送していくと、全ての折板屋根材運搬装置Aの支承部5に折板屋根材4を容易に載置支承することができる。即ち、このように折板屋根材運搬装置Aを構成した場合には、屋根2上で折板屋根材4の搬送用ローラー架台としても使用可能である。
【実施例1】
【0027】
本発明の具体的な実施例1について
図1~
図6に基づいて説明する。
【0028】
本実施例の折板屋根材運搬装置Aは、屋根2上を走行可能であって作業者が押し走行する際に握持する走行ハンドル1が設けられている屋根上走行体3と、この屋根上走行体3に設けられ折板屋根材4を載置支承する支承部5と、前記屋根上走行体3に設けられ前記支承部5に支承された折板屋根材4を、傾斜可動させることで持ち上げると共に屋根上走行体3の前方側へ滑り落下させる持ち上げ滑り落下部6とを備えている。
【0029】
具体的には、本実施例の屋根上走行体3は、
図1,
図2に示すような長さを有する金属製の帯板材で構成されている。
【0030】
また、この屋根上走行体3を構成する帯板材は、その長さ方向と直交する方向の断面形状が下部開口型のコ字状をなすように折曲形成され、さらに両側の垂下部の下端が断面L字状に折曲形成されて、この垂下部下端の水平下面が、屋根2上を走行(滑走)可能な滑走面19として構成されている。以下、本実施例では、この屋根上走行体3の長さ方向を前後方向と定めて説明する。
【0031】
また、この屋根上走行体3の下部前後には、車輪11が設けられていて、屋根2上の段差をスムーズに乗り越えて走行可能となるように構成されている。
【0032】
また、この屋根上走行体3の上面の前側と後側に、角形筒部12が立設状態に設けられ、この角形筒部12が前記走行ハンドル1を着脱自在に取付可能なハンドル取付部12として構成されている。即ち、本実施例は、屋根上走行体3の前側と後側とに走行ハンドル1を付け替え可能に構成されている。
【0033】
ここで、本実施例の走行ハンドル1について説明すると、角棒(角筒)状の立上がり杆20の上端部左右に、丸棒(円筒)状の握持杆21が突設されたT字状体に構成されており、この走行ハンドル1の立上がり杆20の下端を前記ハンドル取付部12に挿脱自在に挿し込むと、屋根上走行体3に対しこの走行ハンドル1が立設状態で取付けられるように構成されている。
【0034】
また、この走行ハンドル1は、ハンドル取付部12に取付けられた際に、前記握持杆21が作業者の腰付近の高さに存するように設定構成され、この操作ハンドル1の握持杆21を作業者が握持して屋根上走行体3を容易に押し走行可能に構成されている(
図3参照)。
【0035】
また、この屋根上走行体3は、折板屋根材4の谷部22に収納配設可能な左右幅を有する形状(前後方向に細長い形状)に設定構成されている。
【0036】
図中符号13は屋根上走行体3を持ち運ぶ際に使用する取手である。
【0037】
本実施例の支承部5は、折板屋根材4を載置支承可能で且つ載置支承した折板屋根材4を前記屋根上走行体3の走行方向と直交する方向へ移送可能な支承ローラー8で構成されている。尚、この支承部5は、支承ローラー8以外の構成が採用されていても良い。
【0038】
具体的には、前記屋根上走行体3の中ほどの上面に、前記折板屋根材4の谷部22の下面を載置支承しながら屋根上走行体3の左右方向へ移送可能な水平支承ローラー14が設けられていると共に、この水平支承ローラー14よりやや後方側に、折板屋根材4の谷部22に隣接する傾斜部23の下面を載置支承しながら屋根上走行体3の左右方向へ移送可能な傾斜支承ローラー15が設けられている。即ち、本実施例の支承部5(支承ローラー8)は、水平支承ローラー14と傾斜支承ローラー15とから構成されている。
【0039】
また、詳しく図示していないが、水平支承ローラー14は、屋根上走行体3に対し昇降調整可能に設けられ、傾斜支承ローラー15は、屋根上走行体3に対し傾斜角度調整可能に設けられていて、運搬対象の折板屋根材4の形状に応じて適宜調整可能に構成されている。
【0040】
即ち、本実施例の支承部5は、水平支承ローラー14と傾斜支承ローラー15とに折板屋根材5の谷部22と傾斜部23の下面を当接させて支承可能であると共に、この支承ローラー14・15により本折板屋根材運搬装置Aに対して、長尺な折板屋根材4を左右方向に移送可能しつつ容易に支承部5に支承することができる。換言すると、本実施例の支承部5は、屋根2上で折板屋根材4の搬送用ローラー架台としても使用可能に構成されている。
【0041】
本実施例の持ち上げ滑り落下部6は、前記屋根上走行体3の前後幅よりやや小さい前後幅を具備する左右一対の帯状基板24と、この左右一対の帯状基板24を、その前側と後端部の二箇所で連結する連結板25とから成る平面視略ロ字状の枠部材で構成されている。そして、この持ち上げ滑り落下部6の左右の前端部が、屋根上走行体3の前端部上面に設けられた軸受部16に軸着されていて、この軸着部7を支点に持ち上げ滑り落下部6の後側が起伏回動自在に設けられ(
図2,
図5参照)、この持ち上げ滑り落下部6を伏動させて屋根上走行体3の上面に載置すると、この持ち上げ滑り落下部6の中央開口部26内に前記支承部5たる支承ローラー8(14・15)が配設して、この持ち上げ滑り落下部6より支承ローラー8(14・15)が上方へ突出した状態となるように構成されている(
図4,
図6参照)。
【0042】
また、この持ち上げ滑り落下部6の後端部の連結板25の左右端部には、この持ち上げ滑り落下部6を起動操作するためのL字状の落下操作ハンドル17が設けられ、この落下操作ハンドル17を操作して持ち上げ滑り落下部6を起動させると、前記支承ローラー8(14・15)に支承されている折板屋根材4がこの持ち上げ滑り落下部6に起動途中で支持されて持ち上げられると共に、起動により傾斜状態となったこの持ち上げ滑り落下部6に沿って前記屋根上走行体3の前方へ滑り落下するように構成されている。
【0043】
また、本実施例では、前記軸着部7と前記落下操作ハンドル17の間の位置の近傍に前記支承部5(支承ローラー8)が配設される位置関係を採用したことにより、持ち上げ滑り落下部6で支承ローラー8に載置支承されている折板屋根材4を持ち上げる際には、軸着部7が支点,落下操作ハンドル17が力点,持ち上げ滑り落下部6の前記支承ローラー8に対応する軸着部7と落下操作ハンドル17の間の途中部が作用点となる第二種テコ構造を具備することとなり、これにより折板屋根材4の持ち上げ作業が比較的小さい力の手動操作で行われるように構成されている。
【0044】
また、この持ち上げ滑り落下部6について更に詳しく説明すると、左右一対の前記帯状基板24が平坦上面を有する左右対称の断面L字状に折曲されており、この左右の帯状基板24の平坦上面が、折板屋根材4を支持しつつ滑動落下させる滑動面27として構成されている。
【0045】
また、前記屋根上走行体3の前端部には、起動により傾斜状態となった持ち上げ滑り落下部6から滑り落下してくる折板屋根材4を引き続き滑動させる補助スロープ部18が設けられている。
【0046】
尚、図示していないが、支承ローラー8を設けずに、この持ち上げ滑り落下部6の滑動面27が支承部5として機能する構成が採用されていても良い。
【0047】
また、持ち上げ滑り落下部6は、手動でなく、適宜な動力によって起伏回動する構成が採用されていても良い。
【0048】
また、本実施例は、前記屋根上走行体3の前部に、前記支承部5に支承されている折板屋根材4の屋根上走行体3前方への落下を防止する落下防止ストッパー9を着脱自在に取付可能なストッパー取付部10が設けられている。
【0049】
具体的には、屋根上走行体3の前側に設けられている前記ハンドル取付部12がストッパー取付部10としても機能するように構成されており(ハンドル取付部12がストッパー取付部10を兼用する構成とされており)、このストッパー取付部10に適当な角材などを落下防止ストッパー9として採用して挿込取付可能に構成されている。
【0050】
次に、本実施例の折板屋根材運搬装置Aを用いた折板屋根葺設工法を説明する。
【0051】
尚、図面は、既設の折板屋根2上に、新たな折板屋根材4を葺設する二重折板葺屋根の葺設工法を図示しているが、本発明はこれに限らず、新規な折板屋根の葺設工法にも適用可能である。図中符号28は二重葺き用金具である。
【0052】
先ず、折板屋根2の端部に、折板屋根材4を成形して送出する図示省略のロール成形機を足場を組むなどして設置し、このロール成形機で成形された長尺な折板屋根材4の送出方向に、本実施例の折板屋根材運搬装置Aを複数8~9mの間隔を置いて折板屋根2上に設置する。また、各折板屋根材運搬装置Aは、屋根上走行体3後部のハンドル取付部12に走行ハンドル1を取付けておき、屋根上走行体3前部のストッパー取付部10(ハンドル取付部12)に角木材を採用した落下防止ストッパー9を取付けておく。
【0053】
次いで、最もロール成形機に近い位置に設置されている折板屋根材運搬装置Aの前記支承ローラー8に、ロール成形機から送出された長尺折板屋根材4を載置支承しつつ移送して順次隣接する折板屋根材運搬装置Aの支承ローラー8へ例えば30m以上の長さの折板屋根材4を載置支承し、全ての折板屋根材運搬装置Aの支承ローラー8に折板屋根材4を載置支承する(
図3,
図4参照)。
【0054】
尚、例えば、予め成形された長尺な折板屋根材4を、屋根2上に設置した複数の本折板屋根材運搬装置Aの支承部5上にクレーンなどの重機で吊り降ろして載置支承することもできる。
【0055】
次いで、複数の折板屋根材運搬装置Aに、一台につき一人の作業者が従事し、作業者全員が息を合わせて一斉に折板屋根材4設置場所に向かって走行移動する。
【0056】
この際、落下防止ストッパー9によって、支承部5上の折板屋根材4が前方へ落下することは阻止され、尚且つ走行速度が他と比べて遅い作業者の折板屋根材運搬装置Aは、折板屋根材4が落下防止ストッパー9に接することになるので作業者が遅れに気付くことができると共に、板屋根材4が落下防止ストッパー9に接することで他の早い作業者の折板屋根材運搬装置Aに引っ張られるので、自動的に増速して遅れが解消されることになる。
【0057】
走行により折板屋根材4設置場所の手前の位置に至ったら、落下防止ストッパー9を取り外して複数の折板屋根材運搬装置Aの前記持ち上げ滑り落下部6を一斉に傾斜可動させる(
図5参照)。この際、走行ハンドル1も取り外すようにすると、落下操作ハンドル17を握持して持ち上げ滑り落下部6を傾斜可動操作し易い。
【0058】
すると、前記支承部5に支承されていた折板屋根材4が持ち上げ滑り落下部6によって持ち上げられると共に、傾斜状態となる持ち上げ滑り落下部6に沿って屋根上走行体3の前方側へ滑り落下することになり、この落下した折板屋根材4を屋根2上の設置場所に固定することができる。
【0059】
次いで、走行ハンドル1を屋根上走行体3前部のハンドル取付部12(ストッパー取付部10)に付け替えて、屋根上走行体3を逆向きに走行させてロール成形機付近の作業開始位置まで帰還し(
図6参照)、再度ロール成形機から送出される折板屋根材4を支承部5(支承ローラー8)に載置支承し、再度設置場所まで移動して上記作業を繰り返し、折板屋根2(下層折板)の上部全面に新たな折板屋根(上層折板)を葺設し、作業終了となる。
【0060】
尚、予めロール成形機の折板屋根材4送出方向に複数の本折板屋根材運搬装置Aを待機させておき、最初の折板屋根材4が設置場所へ運ばれた後、待機しておいた折板屋根材運搬装置Aに折板屋根材4を載置支承させて次の葺設作業に備えるようにすると、より作業を効率化できる。また、この場合、作業開始位置まで帰還させた折板屋根材運搬装置Aは、折板屋根2(下層折板)の谷部22に収納しておくことが可能であるので、次の折板屋根材4運搬の支障とならない。
【実施例2】
【0061】
本発明の具体的な実施例2について
図7に基づいて説明する。
【0062】
本実施例の折板屋根材運搬装置Aは、前記実施例1とは異なる構成の持ち上げ滑り落下部6が採用されている場合である。
【0063】
具体的には、本実施例の持ち上げ滑り落下部6は、前記支承部5に支承された前記折板屋根材4を傾斜可動させることで持ち上げた際に、この折板屋根材4を前記屋根上走行体3の前方側へ滑り落下させる落下ローラー29が設けられている。
【0064】
即ち、本実施例によれば、前記落下ローラー29により折板屋根材4が前記屋根上走行体3の前方側へ滑り落下し易くなるように構成されており、これにより持ち上げ滑り落下部6の持ち上げ量(持ち上げ角度)を実施例1より小さくできるので操作性に優れる。
【0065】
また、更に詳しく説明すると、前記落下ローラー29は、前記帯状基板24の横幅と略同等の横幅と前後長さを有する平面視長方形枠状のローラー設置台30に多数個が前後並設状態に設けられており、この多数の落下ローラー29を具備するローラー設置台30が、その長さ方向が帯状基板24の長さ方向と合致するようにして左右の帯状基板24の夫々の滑動面27上に付設されている。即ち、本実施例は、持ち上げ滑り落下部6の上部左右に、その前後方向に沿って多数の落下ローラー29が並設状態に設けられている。
【0066】
また、このローラー設置台30は、その後端部が前記帯状基板24の後端より前方側の前記傾斜支承ローラー15の後端部と同等の位置に配設されて、このローラー設置台30の前端部が帯状基板24の前端より前方へ突出状態に配設されており(ローラー設置台30が帯状基板24に対して前方へ位置ずれした状態で付設されており)、これにより持ち上げ滑り落下部6を持ち上げた際に、このローラー設置台30の突出前端部分が屋根2に降下接近してローラー設置台30の前側に存する落下ローラー29が前記補助スロープ18と同等の機能を果たすように構成されている。
【0067】
また、この際、本実施例の補助スロープ18は、ローラー設置台30前端部分の下部が接することで持ち上げ滑り落下部6の持ち上げ過ぎを防止する過回動ストッパーとして機能するように構成されている。
【0068】
また、このローラー設置台30の前端部には、上面が先端側ほど下降傾斜するスロープ形状であって、このローラー設置台30前端部から折板屋根材4をスムーズに滑り落下させるための案内キャップ31が付設されている。
【0069】
他の構成は、前記実施例1と同様である。
【0070】
尚、本発明は、実施例1,2に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。
【符号の説明】
【0071】
1 走行ハンドル
2 既設の折板屋根
3 屋根上走行体
4 折板屋根材
5 支承部
6 持ち上げ滑り落下部
7 軸着部
8 支承ローラー
9 落下防止ストッパー
12 ハンドル取付部
14 水平支承ローラー
15 傾斜支承ローラー
22 谷部
29 落下ローラー
32 山部
A 折板屋根材運搬装置