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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-23
(45)【発行日】2023-01-06
(54)【発明の名称】軟カプセル皮膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/81 20060101AFI20221226BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20221226BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20221226BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20221226BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20221226BHJP
   A23L 5/00 20160101ALN20221226BHJP
   A61K 131/00 20060101ALN20221226BHJP
【FI】
A61K36/81
A61K9/48
A61K47/10
A61K47/36
A61K47/42
A23L5/00 C
A61K131:00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018223416
(22)【出願日】2018-11-29
(65)【公開番号】P2020083841
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-09-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000113470
【氏名又は名称】ポーラ化成工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】315001213
【氏名又は名称】三生医薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081271
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 芳春
(74)【代理人】
【識別番号】100162189
【弁理士】
【氏名又は名称】堀越 真弓
(72)【発明者】
【氏名】服部 祐子
(72)【発明者】
【氏名】三谷 信
(72)【発明者】
【氏名】滝口 景介
(72)【発明者】
【氏名】岡山 智一
(72)【発明者】
【氏名】冨田 慎介
(72)【発明者】
【氏名】小林 崇典
【審査官】菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-079201(JP,A)
【文献】特開2013-252084(JP,A)
【文献】特開2009-240219(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/81
A61K 9/48
A61K 47/10
A61K 47/36
A61K 47/42
A23L 5/00
A61K 131/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トウガラシエキスを含むトウガラシエキス原料とアラビアガムを含むアラビアガム原料とを、分散媒に混合し、攪拌分散させて分散液を得る分散工程と、
前記分散液に皮膜基剤を混合する皮膜基剤混合工程と、を有し、
前記分散媒が水又はグリセリンであり、
前記分散工程において、前記トウガラシエキス原料に含まれるトウガラシエキスと前記アラビアガム原料に含まれるアラビアガムとの混合割合が、質量比でトウガラシエキス:アラビアガム=1:1.5以上となるように、前記分散媒に混合することを特徴とする軟カプセル皮膜の製造方法。
【請求項2】
前記分散媒がグリセリンであることを特徴とする請求項1に記載の軟カプセル皮膜の製造方法。
【請求項3】
前記分散工程の前に、予め、前記トウガラシエキス原料と前記アラビアガム原料とを混合する予備混合工程を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の軟カプセル皮膜の製造方法。
【請求項4】
前記予備混合工程で得られた混合物が粉末であることを特徴とする請求項3に記載の軟カプセル皮膜の製造方法。
【請求項5】
前記皮膜基剤が粉末状のゼラチン又はゼラチンを含有する水溶液であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の軟カプセル皮膜の製造方法。
【請求項6】
前記分散工程において、前記トウガラシエキス原料に含まれるトウガラシエキスと前記アラビアガム原料に含まれるアラビアガムとの混合割合が、質量比でトウガラシエキス:アラビアガム=1:2以上となるように、前記分散媒に混合することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の軟カプセル皮膜の製造方法。
【請求項7】
前記分散工程において、前記トウガラシエキス原料に含まれるトウガラシエキスと前記アラビアガム原料に含まれるアラビアガムとの混合割合が、質量比でトウガラシエキス:アラビアガム=1:16以上となるように、前記分散媒に混合することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の軟カプセル皮膜の製造方法。
【請求項8】
ゼラチンと、トウガラシエキスと、アラビアガムとを含み、
前記トウガラシエキスと前記アラビアガムとの配合割合が、質量比でトウガラシエキス:アラビアガム=1:1.5以上であることを特徴とする軟カプセル皮膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般加工食品、健康食品又は機能性食品等の食品類、化粧品、医薬品等の分野で用いられる軟カプセル皮膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
国民の健康に対する関心の高まりから、様々な植物体の粉末や抽出物を主原料とする健康食品等が多く提供されている。これらは、取り扱いを容易にするために、粉末を打錠することにより錠剤化されて流通することが多い。もっとも、錠剤化したとしても、内容物の表面が露出しているため、吸湿や酸化などの化学変化の影響は受ける。また、経口摂取の際には、内容物に由来する臭いや苦味といった不快感は緩和されないといった問題があった。そこで、特許文献1で提案されているように、飲みやすく、臭いや味のマスキングに優れた、軟カプセル皮膜により粉末等の内容物をコーティングすることが行われている。
【0003】
しかし、上述した軟カプセル皮膜でコーティングされた粉末は、体内で軟カプセル外に粉末が拡散するのに時間を要する傾向にあるため、薬効成分の体内への吸収等に時間がかかり、経口摂取後、即座には、薬効成分の効果が得られにくいという問題があった。
【0004】
他方、香辛料として親しまれているトウガラシには、辛味成分としてカプサイシンやジヒドロカプサシン等のカプサイシン類、βカロテン、ビタミンE等の主に脂溶性の有用な機能性成分が含まれている。これらの成分は基礎代謝を上げ、体内の脂肪や糖分の燃焼を助け、肥満を予防する効果や、疲労回復効果及び温熱効果などのさまざまな健康に良い効果があるとされ、注目されている。そこで、トウガラシからこれらの脂溶性(油性)の機能性成分を抽出したトウガラシエキスが製造され、活用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-196958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、特許文献1で提案された軟カプセルに即効性を付与するため、軟カプセル皮膜自体に機能性成分を含有させることを検討した。機能性成分としては、経口摂取後、即座に身体をあたためる効果を付与できる成分として、トウガラシエキスを選択した。
【0007】
しかしながら、トウガラシエキスは、脂溶性を呈する材料であるため、軟カプセル皮膜に用いられるゼラチン、寒天、カラギーナンといった水溶性の皮膜基剤に添加すると水と油に分離してしまい、分散性が悪く、一様な軟カプセル皮膜を形成することが困難であった。
【0008】
そこで、本発明は、トウガラシエキスを含有する軟カプセル皮膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の軟カプセル皮膜の製造方法は、トウガラシエキスを含むトウガラシエキス原料とアラビアガムを含むアラビアガム原料とを、分散媒に混合し、攪拌分散させて分散液を得る分散工程と、分散液に皮膜基剤を混合する皮膜基剤混合工程とを有し、その分散媒が水又はグリセリンである。
【0010】
トウガラシエキスが配合された軟カプセル皮膜を形成するためには、分散媒中にトウガラシエキスを略均一に分散させる必要がある。水又はグリセリンを分散媒として用いた場合、脂溶性のトウガラシエキスをそのまま加えたのみでは、分散媒中で2層に分離して分散しない。本発明においては、トウガラシエキスとアラビアガムを分散媒に混合し、攪拌分散することにより、分散媒中にトウガラシエキスを略均一に分散させることができる。アラビアガムは、アラビノガラクタン-タンパク質(AGP)、アラビノガラクタン(AG)及びグリコプロテイン(GP)等の複数の成分からなる天然樹脂であるところ、本発明者らは軟カプセル皮膜の製造にあたり、このアラビアガムを用いることにより、トウガラシエキスを分散媒中に略均一に分散させることができることを見出した。そして本分散工程により得られた分散液を皮膜基剤に混合することにより、皮膜基剤中においてもこの分散状態が維持される。そして、これらの工程を経ることによって得られた皮膜基剤混合液を用いることによって、トウガラシエキスが略均一に分散された軟カプセル皮膜が得られる。また、通常乳化剤と呼ばれる物質が皮膜基剤に配合されると、皮膜基剤水溶液の界面張力を低下させるため、カプセル皮膜の接着性が低下してカプセル充填性に問題が生じ易いところ、アラビアガムはカプセル皮膜の接着性を低下させることなく、カプセル充填性も好適に維持され得る。
【0011】
また、本発明の軟カプセル皮膜の製造方法における分散媒は、グリセリンであることも好ましい。グリセリンは、水に溶解するが、脂溶性の物質の分散性も比較的高い。そのため、分散媒をグリセリンとすることで、トウガラシエキスの分散性が高まり、皮膜基剤中においても高い分散性を維持する。また、グリセリンは保水性が高く、揮発性が低いという性質を有しているので、カプセル皮膜に可塑性及び柔軟性を与えることができる。そのため、分散媒としてグリセリンを選択することにより、可塑性及び柔軟性に優れ、かつ、トウガラシエキスが略均一に添加された軟カプセル皮膜を製造することができる。
【0012】
また、本発明の軟カプセル皮膜の製造方法における分散工程の前に、予め、トウガラシエキス原料とアラビアガム原料とを混合する予備混合工程を有することも好ましい。この工程によって、両原料が良く馴染んでより分散されやすくなり、分散工程及び皮膜基剤混合工程の効率が良くなる。
【0013】
また、予備混合工程で得られた混合物が粉末であることも好ましい。粉末であると、混合物として安定であるため、取り扱いが容易になる。このことによって、原料を簡単かつ安定的に分散工程に供給でき、軟カプセル皮膜の製造工程を簡素にすることができる。
【0014】
また、本発明の軟カプセル皮膜の製造方法における皮膜基剤は、粉末状のゼラチン又はゼラチンを含有する水溶液であることも好ましい。ゼラチンを皮膜基剤とする軟カプセル皮膜は体内での溶解性に富んでいるため、それによって製造された軟カプセルは、軟カプセル皮膜中に配合されたトウガラシエキス及びカプセル内容物の放出性に優れる。
【0015】
また、本発明の軟カプセル皮膜の製造方法における分散工程において、トウガラシエキス原料に含まれるトウガラシエキスとアラビアガム原料に含まれるアラビアガムとの混合割合が、質量比で1:1.5以上となるように、分散媒に混合することが好ましく、質量比で1:2以上となるように、分散媒に混合することがより好ましく、質量比で1:16以上となるように、分散媒に混合することがさらに好ましい。上記の配合とすることによって、軟カプセル皮膜にトウガラシエキスがより均一に分散された軟カプセル皮膜を製造することができる。
【0016】
本発明の軟カプセル皮膜は、ゼラチンと、トウガラシエキスと、アラビアガムとを含み、トウガラシエキスとアラビアガムとの配合割合が、質量比で1:1.5以上である。アラビアガムをトウガラシエキスの分散剤として上記質量比で用いることにより、トウガラシエキスが略均一に分散された軟カプセル皮膜が得られる。また、アラビアガムはカプセル皮膜自体の接着性を低下させることなく、カプセル充填性も好適に維持され得るため、金型の間にカプセル皮膜を2枚挟み込み、皮膜間に内容物を充填した後に金型を圧着させて製造するロータリーダイ法によっても、軟カプセルを形成することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、以下のような優れた効果を有する軟カプセル皮膜の製造方法及び軟カプセル皮膜を提供することができる。
(1)水溶性材料である軟カプセル皮膜中に、脂溶性材料であるトウガラシエキスを均一分散させることができる。
(2)軟カプセル皮膜どうしの接着性を低減させることがないため、カプセル充填性も良好である。
(3)経口摂取後、即座に身体をあたためる効果が得られる適度な食感を有する軟カプセル皮膜が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第一の実施形態に係る軟カプセル皮膜の製造方法を概略的に示すフローチャートである。
図2】本発明の第二の実施形態に係る軟カプセル皮膜の製造方法を概略的に示すフローチャートである。
図3】実施例4における試験4-1で作成した軟カプセル皮膜の拡大写真(倍率100)である。
図4】実施例4における試験4-2で作成した軟カプセル皮膜の拡大写真(倍率300)である。
図5】実施例4における試験4-3で作成した軟カプセル皮膜の拡大写真(倍率300)である。
図6】実施例4における試験4-4で作成した軟カプセル皮膜の拡大写真(倍率300)である。
図7】実施例4における試験4-5で作成した軟カプセル皮膜の拡大写真(倍率100)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図1を参照し、本発明の第一の実施形態に係る軟カプセル皮膜の製造方法について説明する。図1に示すように、本実施形態に係る軟カプセル皮膜の製造方法は、トウガラシエキスを含むトウガラシエキス原料とアラビアガムを含むアラビアガム原料とを分散媒に混合し、攪拌分散させて分散液を得る分散工程S1と、分散液に皮膜基剤を混合する皮膜基剤混合工程S2と、皮膜基剤混合工程で得られた皮膜基剤混合液から皮膜を形成する皮膜形成工程S3から概略構成されている。
【0020】
[分散工程]
まず、トウガラシエキスとアラビアガムとを分散媒中に分散させる分散工程S1について説明する。
【0021】
本発明において「トウガラシエキス」とは、任意の方法でトウガラシから抽出された、カプサイシンやジヒドロカプサシン等のカプサイシン類、βカロテン、ビタミンE等の主に脂溶性の有用な機能性成分のことを指す。そして、本発明における「トウガラシエキス原料」には、公知の方法で抽出されたトウガラシエキスの他に、抽出の際に用いたエタノールなどの抽出溶媒、パーム、ヤシ若しくは米等由来の油脂、トコフェロール等の酸化防止剤、食品として用いられる物質を含んでいても良い。例えば、トウガラシエキス原料としては、トウガラシSP48868(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製品)、トウガラシOS-30(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製品)、唐辛子エキス200(株式会社カネカサンスパイス製品)、カプシクムペッパー(日本新薬株式会社製品)、トウガラシP-10(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製品)等が挙げられる。このうち、デキストリン等を賦形剤としてトウガラシエキスを粉末化した原料が、取り扱いが容易である観点から好適に用いられ得る。
【0022】
また、本発明において「アラビアガム」とは、マメ科アカシア属のアラビアゴムノキ又はその同属近縁植物の樹皮から分泌された樹脂のことをいい、アラビノガラクタン-タンパク質、アラビノガラクタン及びグリコプロテイン等の複数の成分が含まれる天然樹脂である。このうち、アラビアガムは天然物であるため、産地や植物体ごとに若干の異なる物性を有しているが、セネガル種のアラビアガム原料は、特に優れた乳化特性を持っていることから好ましく選択され得る。そして、本発明における「アラビアガム原料」とは、上述したアラビアガムを含む原料であって、アラビアガムの本発明における乳化剤(界面活性剤)としての効力を阻害しない範囲で他の物質が含まれていても良い。例えば、アラビアガム原料としては、特に限定されないが、市販原料として、精製アラビアガム(豊通ケミプラス株式会社品)、アラビックコールSS「食品添加物アラビアガム」(三栄薬品貿易株式会社品)、アラビアガム「食品添加物」(日本粉末薬品株式会社品)等が挙げられる。
【0023】
また、本発明において、トウガラシエキスを分散させる分散媒としては、水又はグリセリンが用いられる。グリセリンの濃度は特に限定されないが、純度70%以上のものが好ましく、80%以上のものがより好ましい。また、水又はグリセリンには、エタノール、ソルビトール、食物性油脂、無機化合物等、本発明の作用効果を阻害しない範囲で含まれていても良い。さらに、水とグリセリンを所定量で組み合わせて用いることも可能である。
【0024】
また、本分散工程S1における、上述のトウガラシエキス原料に含まれるトウガラシエキスと、アラビアガム原料に含まれるアラビアガムとの混合割合は、質量比でトウガラシエキス:アラビアガム=1:1.5以上となるように分散媒に混合することが好ましく、トウガラシエキス:アラビアガム=1:2以上となるように分散媒に混合することがより好ましく、トウガラシエキス:アラビアガム=1:16以上となるように分散媒に混合することがさらに好ましい。このようにすることで、トウガラシエキスが分散媒中に略均一に分散され、分散性が高まる。具体的には、トウガラシエキスとアラビアガムとの混合割合を、質量比で1:1.5以上となるように分散媒に混合することで、トウガラシエキスの油滴は分散媒に偏在しなくなり、1:2以上とすると油滴が十分小さくなり、1:16以上とすると油滴が目視できないほどに分散し、製造された軟カプセル皮膜の品質が向上する。
【0025】
そして、本発明において、分散とは、分散媒に油滴が偏在していない状態を指す。トウガラシエキス原料とアラビアガム原料とを、分散媒に混合するには、トウガラシエキス原料とアラビアガム原料を予め混合した後に分散媒に混合する方法、分散媒にアラビアガム原料を混合した後にトウガラシエキス原料を混合する方法、及び、分散媒にトウガラシエキス原料を混合した後にアラビアガム原料を混合する方法等により行われ得る。また、トウガラシエキス原料とアラビアガム原料とを、分散媒に混合し、攪拌分散して分散液を得るにあたっては、攪拌分散方法は特に制限されず、公知の方法を用いることができる。例えば、スパーテル等を用いて手動で攪拌してもよく、超音波分散方式、高圧衝突式分散方式、高速回転分散方式、ビーズミル方式、高速せん断分散方式、および自転公転式分散方式などの各種混合装置等を用いて攪拌分散させても良い。
【0026】
上述したように、トウガラシエキス原料とアラビアガム原料とを分散媒に混合し、攪拌分散することにより、アラビアガムがトウガラシエキスの分散媒中への分散を助け、分散媒中にトウガラシエキスを略均一に分散させることができる。このように分散工程S1を経ることで、略均一なトウガラシエキスの分散液を得ることができる。
【0027】
[皮膜基剤混合工程]
次に、分散液に皮膜基剤を混合する皮膜基剤混合工程S2について説明する。
【0028】
本発明における皮膜基剤は、水に可溶であれば特に限定されず、ゼラチン、寒天、カラギーナン、ペクチン、プルラン、ジェランガム、デンプン、アルギン酸ナトリウム、マンナンガム等の公知の皮膜基剤材料を用いることができる。このうち、体内での溶解性に優れている観点から、ゼラチンが好適に選択される。ゼラチンを皮膜基剤として用いることにより、軟カプセル皮膜中に配合されたトウガラシエキス及びカプセル内容物の放出を速め、経口摂取後の効果の付与を速めることができる。
【0029】
分散液に皮膜基剤を混合する方法は、公知の方法を用いることができる。例えば、スパーテル等を用いて手動で攪拌してもよく、超音波分散方式、高圧衝突式分散方式、高速回転分散方式、ビーズミル方式、高速せん断分散方式、および自転公転式分散方式などの各種混合機等を用いても良い。また、皮膜基剤としてゼラチンを用いる場合は、ゼラチンは粉末状のまま用いても、ゼラチンを含有する水溶液として用いても良いが、分散液の分散媒が主に水からなる場合には、ダマの形成を防ぐため、ゼラチン水溶液として混合することが好ましい。このとき、70℃程度に加熱すると混合が容易となる。
【0030】
上述したように、分散工程S1により得られた分散液をゼラチン等の皮膜基剤に混合することにより、皮膜基剤中においてもトウガラシエキスの略均一な分散状態が維持される。このように皮膜基剤混合工程S2を経ることで、トウガラシエキスが略均一に分散された皮膜基剤混合液を得ることができる。
【0031】
[皮膜形成工程]
次に、皮膜形成工程S3について説明する。
【0032】
本発明において、皮膜基剤混合工程S2で得られた皮膜基剤混合液から軟カプセル皮膜を製造する方法は、軟カプセル皮膜を得ることができる方法であれば特に限定されない。例えば、皮膜基剤混合液を加温しながら水流系アスピレータ等で真空脱泡し、粘度を調整した後に、アプリケータを用いてガラス板に塗工し、乾燥させる方法や、公知の充填機の製膜設備を用いて製膜する方法、皮膜混合液をシャーレに伸ばして乾燥させる方法等が挙げられる。皮膜基剤混合液を加温しながら真空脱泡して粘度を調節することで、出来上がった軟カプセル皮膜に気泡が入ることを防ぐことができ、皮膜基剤混合液に含まれる水分量や皮膜基剤量にかかわらず、軟カプセル皮膜の膜厚を調節することができる。また、真空脱泡前に、本発明の作用効果を阻害しない範囲で消泡剤等を混合することができる。消泡剤を滴下すると真空脱泡が効率よくでき、出来上がった軟カプセル皮膜の品質が保たれる。
【0033】
本皮膜形成工程S3では、上述した分散工程S1及び皮膜基剤混合工程S2を経ることによって得られた皮膜基剤混合液を用いることによって、トウガラシエキスが略均一に分散された軟カプセル皮膜が得られる。また、分散剤として使用されたアラビアガムはカプセル皮膜の接着性を低下させることがないため、カプセル充填性も好適に維持され得る。具体的には、軟カプセルの製造法の一つである、金型の間にカプセル皮膜を2枚挟み込み、皮膜間に内容物を充填した後に金型を圧着させて製造するロータリーダイ法のような、皮膜間で強い接着力を必要とするような軟カプセルの製造にも使用することが可能な軟カプセル皮膜が得られる。
【0034】
次に、図2を参照し、本発明の第二の実施形態に係る軟カプセル皮膜の製造方法について説明する。図2に示すように、本実施形態に係る軟カプセル皮膜の製造方法は、分散工程S1の前に予め、トウガラシエキス原料とアラビアガム原料とを混合する予備混合工程S0と、当該混合物を分散媒に混合し、攪拌分散させて分散液を得る分散工程S1と、分散液に皮膜基剤を混合する皮膜基剤混合工程S2と、皮膜基剤混合工程で得られた皮膜基剤混合液から皮膜を形成する皮膜形成工程S3から概略構成されている。
【0035】
[予備分散工程]
分散工程S1、皮膜基剤混合工程S2及び皮膜形成工程S3は上述した第一の実施形態と同様の構成であることから、以下は、トウガラシエキス原料とアラビアガム原料とを混合する予備分散工程S0について説明する。
【0036】
本発明において、トウガラシエキス原料とアラビアガム原料を予め混合する方法は特に限定されず、本発明の作用効果を妨げない範囲で公知の方法を用いることができる。例えば、トウガラシエキスとアラビアガムを、スパーテル等を用いて手動で攪拌してもよく、超音波分散方式、高圧衝突式分散方式、高速回転分散方式、ビーズミル方式、高速せん断分散方式、および自転公転式分散方式などの各種混合装置等を用いても良い。このように、両者を予め混合しておくと、両原料が良く馴染んでより分散されやすくなり、分散工程S1及び皮膜基剤混合工程S2の効率が向上する。
【0037】
分散工程S1、皮膜基剤混合工程S2及び皮膜形成工程S3についての説明は、上述した第一の実施形態に係る工程とそれぞれ同様であり、その作用効果も同様である。
【0038】
上述した第一及び第二の実施形態における各工程S0~S3においては、それぞれ、トウガラシエキス原料、アラビアガム原料、分散媒及び皮膜基剤の他に、本発明の作用効果を妨げない範囲において、他のゲル化材料成分、界面活性剤、可塑剤、防腐剤、香料、甘味料、着色料などを混合させて本発明の軟カプセル皮膜を形成することも可能である。他のゲル化材料成分としては、特に限定されないが、カラギーナン、ペクチン、アルギン酸塩、ゼラチン、可溶性澱粉、デキストリン、グルコマンナン、カードラン、プルラン、ガム類(例えば、ローカストビーンガム、サイリウムシードガム、タマリンドシードガム、ジェランガム、キサンタンガム、グアーガム等)、セルロース類(例えば、HPMC、HPC、MC、HEC、CMEC、HPMCP等)が挙げられる。また、可塑剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ソルビトール、マンニトール、ポリエチレングリコール類、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
【実施例
【0039】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
以下実施例における、トウガラシエキス原料として、表1に示す原料を用いた。また、トウガラシエキスの分散媒中での分散性評価は、表2に示す評価基準に基づいて行った。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
[実施例1]
1.各乳化剤による水中での分散性評価
本実施例では、トウガラシエキス原料としてトウガラシエキス含有量が3.5質量%の原料A1(トウガラシSP48868)を用いた。また、乳化剤(分散剤)として、アラビアガム(品名:精製アラビアガム、豊通ケミプラス株式会社製品)、レシチン(品名:SLP-ペースト、辻製油株式会社製品)、グリセリン脂肪酸エステル(HLB=6.2、型番:ポエムFB-28、理研ビタミン株式会社製品)及びグリセリン脂肪酸エステル(HLB=3、型番:アワブレークG-109、太陽化学株式会社製品)をそれぞれ用いた。原料A1を50mLビーカーに1.44g(トウガラシエキスとして0.05g)取り、アラビアガム0.80gを添加して混合し、スパーテルで馴染ませた。次いで、水10.00gをビーカーに添加してスパーテルで1分間攪拌した(試験1-1)。乳化剤のみをレシチン(試験1-2)、グリセリン脂肪酸エステル(HLB=6.2)(試験1-3)及びグリセリン脂肪酸エステル(HLB=3)(試験1-4)にそれぞれ替えて、試験1-1と同様の方法にてトウガラシエキスの分散を試みた。その後、各試験区のトウガラシエキスの分散状態を目視で評価した。その結果を表3に示す。
【0044】
【表3】
【0045】
表3で示した通り、乳化剤としてアラビアガムを用いたときは、分散液に油滴は目視できず、完全に水に分散していたが、他の界面活性剤では、液体が2層に分離してしまった。以上の結果から、トウガラシエキスを、水に分散させるためには、アラビアガムが適していることが判明した。
【0046】
[実施例2]
2.アラビアガムの濃度による分散性評価
トウガラシエキス原料としてA1(トウガラシSP48868)を用い、分散剤としてアラビアガム(品名:精製アラビアガム、豊通ケミプラス株式会社製品)を用いた。原料A1を1.44g取り、原料A1に含まれるトウガラシエキスの質量0.05gに対して、アラビアガムの混合量を0.80gから0gまで以下表4に示すように変化させ、それぞれ10.00gの水に混合した。スパーテルを用い手動で1分間攪拌する方法で、トウガラシエキスの分散を試み、試験2-1から2-11とした。その後、トウガラシエキスの分散状態を目視で評価した。その結果を表4に示す。
【0047】
【表4】
【0048】
表4に示した通り、アラビアガムが0.80gの場合には、分散液に油滴は目視できず、完全に水に分散していた。アラビアガムの混合割合を下げ、0.70gとした場合には、油滴を目視することはできるが、油滴は十分に小さく、安定しており、水に均一に分散していた。さらに、アラビアガムの混合割合を下げ、0.10gとした場合にも、油滴は、十分に小さく、安定しており、水中に均一に分散していたが、0.075gとした場合には、油滴は、水に分散しているが、油滴が大きかった。さらに、アラビアガムの濃度を下げ0.05g以下とした場合には、油滴が維持できず、液体が2層に分離した。この結果から、分散性を向上させるために、トウガラシエキス原料に含まれるトウガラシエキスと、アラビアガム原料に含まれるアラビアガムとの混合割合を、質量比でアラビアガム/トウガラシエキス=1.5以上となるように分散媒に混合することが好ましく、アラビアガム/トウガラシエキス=2以上となるように分散媒に混合することがより好ましく、アラビアガム/トウガラシエキス=16以上となるように分散媒に混合することがさらに好ましいことがわかった。
【0049】
[実施例3]
3.他のトウガラシエキス原料に対する分散性評価
トウガラシエキス原料として、原料A1(トウガラシSP48868)のほか、原料A2(トウガラシOS-30)及び原料A3(唐辛子エキス200)、乳化剤としてアラビアガム(品名:精製アラビアガム、豊通ケミプラス株式会社製品)を用いた。それぞれのトウガラシエキス原料中に含まれるトウガラシエキスの質量0.05gに対して、アラビアガムが0.80g、水10.00gとなるように混合した(試験3-1から3-3)。また、それぞれのトウガラシエキス原料のトウガラシエキスの質量0.05gに対して、アラビアガム0.80g、グリセリン1.5gとなるように混合し、さらに水10.00gと混合した(試験3-4から3-6)。スパーテルを用い手動で1分間攪拌する方法で、トウガラシエキスの分散を試み、試験3-1から3-6とした。その後、トウガラシエキスの分散状態を目視で評価した。その結果を表5に示す。
【0050】
【表5】
【0051】
表5に示す通り、どのトウガラシエキス原料を用いても、分散液にトウガラシエキスの油滴は目視できず、完全に水に分散していた。これらの結果から、界面活性剤としてアラビアガムを用いれば、トウガラシエキス原料に制限されず、トウガラシエキスを水に分散させることができると判明した。
【0052】
[実施例4]
4.軟カプセル皮膜の作成
実施例2で作成した分散液から、分散性評価に違いのある4つの分散液(試験2-1、試験2-8、試験2-9及び試験2-10の分散液)を選び、軟カプセル皮膜のシート化を行った。トウガラシエキスの質量0.05gに対して、皮膜基剤としてゼラチン150g、グリセリン15gを秤量し、ビーカーに入れて置き、各分散液を投入し、スパーテルでよく混合し、仕込水110gを投入し、さらに攪拌して皮膜基剤混合液を作成した。そして、70℃に加熱しながら攪拌後、水流系アスピレータを用いて脱泡しつつ、60℃でのそれぞれの皮膜基剤混合液の粘度を調整した。65℃にした皮膜基剤混合液を、アプリケータで、2cm/s程度の速さでガラス板をすべらせて塗工した。塗工後、ガラス板にできた皮膜を室温で冷却した。冷却後、皮膜をはがしとり、ビニールの上にのせて25℃で乾燥させた。これによりそれぞれの試験区のシートを得た。表6に各試験区の組成を示す。
【0053】
【表6】
【0054】
試験4-1のシートの拡大写真を図3に、試験4-2のシートの拡大写真を図4に、試験4-3のシートの拡大写真を図5に、試験4-4のシートの拡大写真を図6に、試験4-5のシートの拡大写真を図7に示す。試験4-1で得られたシートは、図3に示すように、表面が均一であり、軟カプセルを形成することが可能である。試験4-2で得られたシートは、図4に示すように、油滴が小さく均一分散されていることがわかった。また、試験4-3で得られたシートは、図5に示すように、油滴がやや大きい傾向があるものの、分散状態は良好であった。試験4-4で得られたシートは、図6に示すように、シート表面にトウガラシエキスが一部凝集し、分散されていない状態を観察することができた。このようなシートは、トウガラシエキスの含量が均一ではない上に、軟カプセルを形成するときに接着不良を起こしてしまうおそれを有している。
【0055】
[実施例5]
5.粉末原料による軟カプセル皮膜の作成
トウガラシエキスとアラビアガムを含む原料として、原料A4(カプシクムペッパー)を用いた。カプシクムペッパーの組成を表7に示す。カプシクムペッパーは、トウガラシエキスとアラビアガムを1:2の質量比で混合した粉末の製品である。カプシクムペッパーを0.1g秤量し、グリセリン15gを入れたビーカーに入れ、スパーテルで1分間攪拌し分散させた。皮膜基剤としてゼラチン150gを入れたビーカーに、上記分散液を投入し、十分に攪拌した。仕込水120gを投入し、さらに攪拌して皮膜基剤混合液を作成した。そして、70℃に加熱しながら攪拌後、水流系アスピレータを用いて脱泡しつつ、60℃でのそれぞれの皮膜基剤混合液の粘度を調整した。65℃にした皮膜基剤混合液を、アプリケータで、2cm/s程度の速さでガラス板をすべらせて塗工した。塗工後、ガラス板にできた皮膜を室温で冷却した。冷却後、皮膜をはがしとり、ビニールの上にのせて25℃で乾燥させた。これによりそれぞれのシートが完成した。出来上がったシートを用い、軟カプセルを作成した結果、問題なくカプセルが形成された。
【0056】
【表7】
【0057】
本発明は、上記の実施形態又は実施例に限定されるものでなく、特許請求の範囲に記載された発明の要旨を逸脱しない範囲内での種々、設計変更した形態も技術的範囲に含むものである。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7