IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本毛織株式会社の特許一覧 ▶ 味の素製薬株式会社の特許一覧

特許7199950生分解性ステント及びそれを含む医療機器
<>
  • 特許-生分解性ステント及びそれを含む医療機器 図1
  • 特許-生分解性ステント及びそれを含む医療機器 図2
  • 特許-生分解性ステント及びそれを含む医療機器 図3
  • 特許-生分解性ステント及びそれを含む医療機器 図4
  • 特許-生分解性ステント及びそれを含む医療機器 図5
  • 特許-生分解性ステント及びそれを含む医療機器 図6
  • 特許-生分解性ステント及びそれを含む医療機器 図7
  • 特許-生分解性ステント及びそれを含む医療機器 図8
  • 特許-生分解性ステント及びそれを含む医療機器 図9
  • 特許-生分解性ステント及びそれを含む医療機器 図10
  • 特許-生分解性ステント及びそれを含む医療機器 図11
  • 特許-生分解性ステント及びそれを含む医療機器 図12
  • 特許-生分解性ステント及びそれを含む医療機器 図13
  • 特許-生分解性ステント及びそれを含む医療機器 図14
  • 特許-生分解性ステント及びそれを含む医療機器 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-23
(45)【発行日】2023-01-06
(54)【発明の名称】生分解性ステント及びそれを含む医療機器
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/90 20130101AFI20221226BHJP
   A61F 2/95 20130101ALI20221226BHJP
【FI】
A61F2/90
A61F2/95
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018232842
(22)【出願日】2018-12-12
(65)【公開番号】P2019103810
(43)【公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-10-26
(31)【優先権主張番号】P 2017238831
(32)【優先日】2017-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390018153
【氏名又は名称】日本毛織株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】513001606
【氏名又は名称】EAファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】上杉 昭二
(72)【発明者】
【氏名】早乙女 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】衣笠 純
(72)【発明者】
【氏名】澄川 通人
(72)【発明者】
【氏名】飯島 典子
【審査官】竹下 晋司
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-528115(JP,A)
【文献】特開2009-160079(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0264186(US,A1)
【文献】特表2012-527321(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/82 - 2/97
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性ポリマーからなる複数本のフィラメント糸を円筒状の組紐にしたステント本体を含む生分解性ステントにおいて、
前記ステント本体の各端部付近を含む長さ方向の少なくとも一部に弾性糸が配置され、
前記弾性糸の一方の端は前記ステント本体の一方の端部付近に固定され、他方の端は前記ステント本体の他の端部付近に固定されており、
前記弾性糸は、中央側でステント構成糸に固定させて固定点とするか又は交差させて接点としており、
前記ステントの両端部と、前記ステントの中央側の固定点又は接点の間の弾性糸は前記ステントの外側に配置されていることを特徴とする生分解性ステント。
【請求項2】
生分解性ポリマーからなる複数本のフィラメント糸を円筒状の組紐にしたステント本体を含む生分解性ステントにおいて、
前記ステント本体の各端部付近を含む長さ方向の少なくとも一部に弾性糸が配置され、
前記弾性糸の一方の端は前記ステント本体端部付近に固定されており、他方の端は前記ステント本体の端部より中央側でステント構成糸に固定させて固定点としており、
前記ステントの両端部と、前記ステントの中央側の固定点との間の弾性糸は前記ステントの外側に配置されていることを特徴とする生分解性ステント。
【請求項3】
前記弾性糸が、生体適合性のあるポリウレタン、ゴムまたは熱可塑性エラストマーを原料として紡糸されたものである請求項1又は2に記載の生分解性ステント。
【請求項4】
前記ステント本体の中央側の前記弾性糸と前記ステント本体構成糸の固定点又は接点は、ステント本体端部からステント長の1/8~1/2の位置にある請求項1又は3に記載の生分解性ステント。
【請求項5】
前記ステント本体の中央側の前記弾性糸と前記ステント本体構成糸の固定点は、ステント本体端部からステント長の1/8~1/2の位置にある請求項2又は3に記載の生分解性ステント。
【請求項6】
前記弾性糸にかかる張力は、ステント本体を縮径した状態で0.1~5.0N/本である請求項1~5のいずれか1項に記載の生分解性ステント。
【請求項7】
前記弾性糸は、前記ステント本体の周方向に等間隔で3~6本配置されている請求項1~6のいずれか1項に記載の生分解性ステント。
【請求項8】
前記生分解性ステントは、縮径した状態から拡張した状態までの直径の倍率が5~10倍の範囲である請求項1~7のいずれか1項に記載の生分解性ステント。
【請求項9】
前記弾性糸とステント本体との固定が、熱融着、超音波融着、接着剤または金属製若しくは樹脂製の管による接合である請求項1~8のいずれか1項に記載の生分解性ステント。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の生分解性ステントがデリバリーシステムに搭載されていることを特徴とする医療機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は消化管、胆管、膵管、血管、尿管、気管等の生体の管部に挿入するための生分解性ステント及びそれを含む医療機器に関する。特に本発明は、ステント端部の拡張性が改善された自己拡張型の生分解性ステント及びそれを含む医療機器に関する。
【背景技術】
【0002】
体内の管腔は様々な原因により狭窄を起こし、その処置としてステント留置がしばしば行われている。近年、狭窄部位に一定期間は留まるが、その後は分解して体内から消失する生分解性ステントが、その安全性などの点より注目されてきている。
【0003】
しかしながら、プラスチック製樹脂で作られる生分解性ステントの自己拡張力は、形状記憶合金などで作られる金属製ステントと比較して低く、不十分であることが多い。特にステント端部において拡張が不十分な状態となると、かえって管部に通過障害を引き起こす恐れが生じる。
生分解性ステントの拡張力を補強する方法としては、弾性フィラメントなどを使用することが以前より提案されている(特許文献1~3)。しかしながらこれらの方法では、ステント中央部の拡張力を高めることはできるが、ステント端部については十分な拡張性を確保することはできていなかった。これを改善する方法としては、ステント端部に弾性接続部材や形状記憶合金を使用する方法などが提案されている(特許文献4、5)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特公平4-47575号公報
【文献】特表2004-528115号公報
【文献】WO2016-035757号明細書
【文献】特開2016-146869号公報
【文献】特開2017-29387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の自己拡張型の生分解性ステントは、ステント端部における拡張性が十分とはいえず、簡便で確実にステント端部を拡張させる方法が求められていた。
【0006】
本発明は、このような課題を解決しようとするものであり、ステント端部を確実に拡張できる生分解性ステント及びこれを含む医療機器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の生分解性ステントは、生分解性ポリマーからなる複数本のフィラメント糸を円筒状の組紐にしたステント本体を含む生分解性ステントにおいて、前記ステント本体の各端部付近を含む長さ方向の少なくとも一部に弾性糸が配置され、前記弾性糸の一方の端は前記ステント本体の一方の端部付近に固定され、他方の端は前記ステント本体の他の端部付近に固定されており、前記弾性糸は、中央側でステント構成糸に固定させて固定点とするか又は交差させて接点としており、前記ステントの両端部と、前記ステントの中央側の固定点又は接点の間の弾性糸は前記ステントの外側に配置されていることを特徴とする。
本発明の別の生分解性ステントは、生分解性ポリマーからなる複数本のフィラメント糸を円筒状の組紐にしたステント本体を含む生分解性ステントにおいて、前記ステント本体の各端部付近を含む長さ方向の少なくとも一部に弾性糸が配置され、前記弾性糸の一方の端は前記ステント本体端部付近に固定されており、他方の端は前記ステント本体の端部より中央側でステント構成糸に固定させて固定点としており、前記ステントの両端部と、前記ステントの中央側の固定点との間の弾性糸は前記ステントの外側に配置されていることを特徴とする。
【0008】
本発明の医療機器は、前記の生分解性ステントがデリバリーシステムに搭載されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の構成によれば、ステント本体の各端部付近を弾性糸の収縮力で外側方向に広げる力が働くため、ステント本体端部を確実に拡張することが可能である。しかも弾性糸は、ステント本体に固定しているので、特別な部材を用いる必要がなく、極めて簡便な方法で拡張を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の一実施形態におけるステントの模式的側面図である。
図2図2は、本発明の別の実施形態における弾性糸とステント本体構成糸との接点を、ステント本体端部からステント長の1/2の位置としたステントの模式的側面図である。
図3図3は、本発明のさらに別の実施形態における弾性糸とステント本体構成糸との接点を、ステント本体端部からステント長の1/3の位置とし、弾性糸を接点間でステントを構成する組紐の中に配置したステントの模式的側面図である。
図4図4は、本発明のさらに別の実施形態における弾性糸をステント本体の各端部付近の外側に配置したステントの模式的側面図である。
図5図5は、本発明のさらに別の実施形態における弾性糸をステント本体の外側に配置し、各端部付近で固定し、組紐を構成するフィラメント糸端部の結合点が長さ方向に2列並べて配置されているステントの模式的側面図である。
図6図6は同、組紐製造装置を示す模式的説明図である。
図7図7Aは同、組紐製造装置の模式的部分説明図、図7Bは同ボビンの動きを示す動作図である。
図8図8は同、ステントを搭載するデリバリーシステムの模式的側面図である。
図9図9Aは実施例1のステントのデリバリーシステム搭載前のステントの側面写真、図9Bはデリバリーシステムから開放直後の側面写真、図9Cはデリバリーシステムから開放後3分の側面写真である。
図10図10Aは実施例2のステントのデリバリーシステム搭載前のステントの側面写真、図10Bはデリバリーシステムから開放直後の側面写真、図10Cはデリバリーシステムから開放後3分の側面写真である。
図11図11Aは比較例1のステントのデリバリーシステム搭載前のステントの側面写真、図11Bはデリバリーシステムから開放直後の側面写真、図11Cはデリバリーシステムから開放後3分の側面写真である。
図12図12Aは比較例2のステントのデリバリーシステム搭載前のステントの側面写真、図12Bはデリバリーシステムから開放直後の側面写真、図12Cはデリバリーシステムから開放後3分の側面写真である。
図13図13Aは比較例3のステントのデリバリーシステム搭載前のステントの側面写真、図13Bはデリバリーシステムから開放直後の側面写真、図13Cはデリバリーシステムから開放後3分の側面写真である。
図14図14は、本発明の実施例3の留置前のステントの外観写真である。
図15図15は、本発明の実施例3の動物実験において、ステントをミニブタ小腸留置後10分後の外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の生分解性ステントは、生分解性ポリマーからなる複数本のフィラメント糸を円筒状の組紐にしたステント本体を含み、前記ステント本体の外側には長さ方向に弾性糸が配置されている。この弾性糸は、ステント本体の各端部付近を含む長さ方向の少なくとも一部に配置されている。この弾性糸の一方の端はステント本体端部付近に固定されており、他方の端は前記ステント本体のいずれかの部分で固定されている。そして、ステント本体を縮径した状態において、弾性糸には張力がかかっている。これにより、縮径した状態から拡張するとステント本体の各端部付近を弾性糸の収縮力でステント本体を外側方向に広げる力が働くため、ステント本体端部を確実に拡張することが可能である。
【0012】
前記生分解性を有するフィラメント糸を構成するポリマーは、ポリグリコール酸、ポリL乳酸、ポリD乳酸、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、ポリエチレングリコールやこれらの共重合体である生体分解性合成高分子、コラーゲン、ゼラチン、グリコサミノグリカン、キチン、キトサン、ヒアルロン酸、アルギン酸及びシルクフィブロイン、クモ糸フィブロイン等の生分解性天然高分子から選ばれる少なくとも一つであるのが好ましい。生体内における分解期間は、生分解性合成高分子においては、ポリグリコールは約2週間、ポリ乳酸糸は約6月、ポリカプロラクトンは1~2年と言われているが、共重合体比率や、ポリマーブレンド、分子量、結晶化度で調整可能である。また生分解性天然高分子については、分子量や、構造制御、架橋構造の付与などにより生体内における分解期間は調整できる。
【0013】
前記フィラメント糸は16本(16打ち)以上で組紐を構成しているのが好ましく、さらに好ましくは24本(24打ち)以上、より好ましくは32本(32打ち)以上である。上限は64本(64打ち)以下が好ましい。前記の範囲であれば、各フィラメント糸がスパイラル状になって組紐を構成するため、自己拡張性と変形回復性がさらに高いステントとなる。同様な理由から、組紐を構成する各フィラメント糸(組糸)の組角度は30~80°が好ましい。好ましい角度は35~75°である。組糸の角度が前記の範囲であれば歪みがなく、円筒形状に整った組紐ができる。ここで組角度とは、組紐全体の長さ方向と組糸方向との鋭角をいう。また、組目の数は3/インチ以上であり、好ましくは4~18/インチである。これにより、糸密度と組目密度が高く強度も高く、弾力性も高い。組み紐には丸打ちと角打ちがあるが、丸打ちで組み上げた組紐は中空状となりステントに好適である。
【0014】
前記フィラメント糸の直径は0.15~1.0mmが好ましく、さらに好ましくは0.15~0.8mmであり、より好ましくは0.15~0.6mmである。前記の範囲であれば、十分な拡張力を保持できる。
【0015】
ステント本体の外側に配置される弾性糸は 、生体適合性のあるポリウレタン、ゴムまたは熱可塑性エラストマーを原料として紡糸されたものが好ましい。生体適合性のあるポリウレタン糸としては、例えば米国のLubrizol社製、商品名”Pellethane”があり、これは米国class VI適合品である。ポリウレタン糸を使用する場合、直径50~500μmのフィラメント糸が好ましく、さらに好ましくは直径60~300μmのフィラメント糸である。また複数本のフィラメント糸を束ねて使用しても良い。これらの弾性糸は生分解性を有していないが、本発明のステントは組紐の主要部分が生分解性を有するフィラメント糸で形成されているため、所定期間でポリマーは分解し、生分解性を有さない物質が含まれていても排泄されてしまう。
【0016】
弾性糸は、ステント本体の端部より中央側で組紐構成糸に固定させて固定点とするか又は交差させて(くぐらせて)接点としてするのが好ましい。これにより、ステント本体が曲がった状態で生体内に挿入されても、ステント本体の端部は正確に拡張する。前記固定点又は接点は、ステント本体端部からステント長の1/8~1/2の位置にあるのが好ましい。これによりさらにステント本体の端部は正確に拡張する。
【0017】
弾性糸にかかる張力は、ステント本体を縮径した状態で0.1~5.0N/本が好ましく、さらに好ましくは0.3~3.0N/本であり、とくに好ましくは0.5~2.5N/本である。ここでNはニュートンである。これによりさらにステント本体の端部は正確に拡張する。
【0018】
弾性糸は、前記ステント本体の周方向に等間隔で3~6本配置されているのが好ましい。これにより、均一に拡張する。また、生分解性ステントは、縮径した状態から拡張した状態までの直径の倍率が5~10倍の範囲が好ましい。これにより、医療機器として十分な能力を発揮できる。
【0019】
生分解性ステントは、縮径した状態から拡張した状態にしたとき、元の平均直径に対する変化率が、長さ方向において-15~+30%の範囲が好ましく、さらに好ましくは-10~+25%の範囲である。これにより均一な自己拡張ができ、とくに元の状態の近くまで自己拡張できる。
【0020】
ステント本体の端部は、組紐を構成するフィラメント糸端部の結合点が長さ方向に2列以上並べて配置されているのが好ましい。結合点の列は2~4列がさらに好ましい。これにより、デリバリーシステムに搭載しやすく、拡張操作もしやすいステントとなる。また、ステント本体を収束したとき、ステント最端部の結合点の数を減少させることにより、空間的な余裕ができることで端部の径を細くでき、これがデリバリーシステムに搭載しやすく、拡張操作もしやすい効果を発揮する。また、ステント開放後ステント端部が広がりやすいという効果も有する。
【0021】
弾性糸とステント本体との固定は、熱融着、超音波融着、接着剤または金属製若しくは樹脂製の管による接合が好ましい。熱融着、超音波融着は比較的固定操作が容易である。弾性糸の一方の端はステント端部付近に固定する。この固定はステントの最端部に固定することも可能であるが、ステント端部付近のフィラメント糸の交差部である組目に固定することで、ステント端部の拡張をより効果的に行うことができる。この固定する組目も最端部に限定されず、最端部より3組目程度までに行うことができる。また前記弾性糸の他方の端の固定点は、用いる弾性糸の長さによって変えることができるが、拡張後のステントと同程度の長さとし他方の端部付近に固定すれば、1本の弾性糸でステント両端部の拡張を行うことができる。
【0022】
固定の別の方法は、弾性糸を、ステントを構成するフィラメント糸に結びつけることで行うことができる。この方法によれば、固定のために特別な部材を用いる必要がなく簡便に行うことができる。また、ステンレス、金、白金、白金/パラジウム合金、白金/イリジウム合金、白金/タングステン合金などの生体適合性のある金属を用いて、弾性糸とステントを構成するフィラメント糸とをかしめることによっても固定することができる。
【0023】
本発明の医療機器は、前記の生分解性ステントを含む医療機器である。この医療機器は、前記の生体分解性ステントがデリバリーシステムに収束して搭載されている。
【0024】
本発明の最も単純な実施形態は、弾性糸をステント外側に配して、弾性糸の両端をステントの両端部付近のみと固定したものである。この場合、弾性糸の収縮力はステント両端部間のみで働くため、ステントが湾曲してしまうことがある。これを改善する方法として、弾性糸とステントの接点を、ステント端部からステント長の1/8~1/2の位置にすることが好ましい。
【0025】
弾性糸とステントの接点の作成は、上述の固定の方法により行うこともできるが、ステント本体を構成するフィラメント糸と交差させても良い。接点は1か所でも良いが、2か所以上となっても良い。接点を2か所以上とする場合には、弾性糸を接点間でステント外側に配しても内側に配してもよく、またステントに編み込んでも良い。
【0026】
以下図面を用いて説明する。以下の図面において、同一符号は同一物を示す。図1は、本発明の一実施形態(参考例)における生分解性ステント1aの模式的側面図である。ステント1aは、ステント本体を構成する組紐のフィラメント糸2と、ステント本体の外側に配置される弾性糸4a-4dで構成されている。この例においては、弾性糸4a-4dの一方の端はステント本体端部付近に固定されており、他方の端はステント本体の他端部で固定されており、5a,5bは弾性糸の固定点である。この固定は融着によって形成されている。このステント本体は、縮径した状態において、弾性糸4a-4dには張力がかかっている。なお、ステント本体の両端部においては、組紐のフィラメント糸2の先端は融着などにより固定されている。3aはフィラメント糸2の末端の固定点である。
【0027】
図2は、本発明の別の実施形態における弾性糸とステント本体構成糸との接点を、ステント本体端部からステント長の1/2の位置としたステント1bの模式的側面図である。図1と相違する点は、ステント本体の中央部のフィラメント糸に弾性糸4aを交差させ(くぐらせ)、接点6aを形成していることである。接点6aは固定点としてもよい。これにより、ステント本体が曲がった状態で生体内に挿入されても、ステント本体の端部は正確に拡張する。
【0028】
図3は、本発明のさらに別の実施形態における弾性糸とステント本体構成糸との接点を、ステント本体端部からステント長の1/3の位置とし、弾性糸を接点6a,6b間でステントを構成する組紐の中に配置したステント1cの模式的側面図である。接点6a,6bは固定点としてもよい。これにより、図2と同様にステント本体が曲がった状態で生体内に挿入されても、ステント本体の端部は正確に拡張する。
【0029】
図4は、本発明のさらに別の実施形態における弾性糸をステント本体の各端部付近の外側に配置したステント1dの模式的側面図である。弾性糸4aはステント本体を構成するフィラメント糸と固定点5a,5bで固定され、弾性糸4bはステント本体を構成するフィラメント糸と固定点5c,5dで固定されている。これにより、少なくとも両端部は外側に向けて拡張する。
【0030】
図5は、本発明のさらに別の実施形態における弾性糸をステント本体の外側に配置し、各端部付近で固定し、組紐を構成するフィラメント糸端部の結合点が長さ方向に2列並べて配置されているステント1eの模式的側面図である。図2と異なる点は、ステント本体の一端部7aにおいて、フィラメント糸端部の結合点3a,3bが長さ方向に2列並べて配置され、ステント本体の他端部7bにおいて、フィラメント糸端部の結合点3c,3dが長さ方向に2列並べて配置されている。これにより、ステント本体を収束したとき、ステント最端部の結合点の数を減少させることにより、空間的な余裕ができることで端部の径を細くでき、これがデリバリーシステムに搭載しやすく、拡張操作もしやすい効果を発揮する。また、ステント開放後ステント端部が広がりやすいという効果も有する。
【0031】
図6は同、組紐製造装置を示す模式的説明図である。この例は、丸打ちの組紐の製造装置を示す模式的説明図である。この製造装置10は、架台11、およびボビン(キャリア)12と、マンドレル14と、図示しない駆動装置を含んで構成されている。ボビン12が架台11上の軌道19(図7B)の実線上を回転移動することによりボビン12に巻き付けられた糸13が突き上げ動作をするマンドレル14上で編組され、組紐17が作成される。突き上げ部16はボビン12の回転移動と連動して上下に運動する半球状ヘッドとその中心部にある円筒形(または多角形)の円筒部15で構成される。円筒部15の外径は組紐17の内径に略等しい。組紐17は必要な場合は加熱ヒーターに送られ、ヒートセットされる。組紐17は、取出しガイド(プーリー)18を通過して収納容器に振り落としされる。前記において、マンドレル14ストローク長、ストローク回数は適宜設定する。組紐に対しては、ヒートセットを加えることもできる。
【0032】
図7Aは同製造装置の経糸(弾性糸)を挿入する模式的部分説明図、図7Bは同ボビンの動きを示す動作図である。図7A-Bにおいて、ボビン12が架台11上の軌道19の実線上を回転移動することによりボビン12に巻き付けられた糸13が突き上げ動作をするマンドレル14上で編組され、組紐17が作成される。
【0033】
図8は本発明の一実施形態のステント1を搭載するデリバリーシステム20の模式的側面図である。このシステムは、ハブ21、プッシャー22、Yコネクター23、内側にインナーカテーテルを有するアウターシース24を含み、インナーカテーテルのステント搭載部25にステント1が搭載される。この状態で生体内に挿入する。
【実施例
【0034】
以下実施例および比較例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
ポリグリコール酸(PGA)からなるモノフィラメント糸(直径0.23mm)を32本使用し、組紐製造装置により組紐ステントを作成した(直径22mm、長さ80mm)。この組紐ステントにポリウレタン弾性糸(米国Lubrizol社製、商品名”Pellethane”(直径200μm))を、図1に示すようにステント本体外側に配置してステント両端部で固定した。但し、組紐を構成するフィラメント糸端部の結合点は図5に示すように長さ方向に2列並べて配置した。ポリウレタン弾性糸はステントの周上に等間隔に4本配置した。この組紐ステントを、図8に示す内径3mmのデリバリーシステムに搭載したのち、デリバリーシステムから押し出したところ、ステントは自己拡張し、ステント中心部が、元の直径22mmまで拡張し、かつ両端部は元の直径より大きい22-27mmまで拡張した。図9Aにデリバリーシステム搭載前のステントの側面写真、図9Bにデリバリーシステムから開放直後の側面写真、図9Cにデリバリーシステムから開放後3分の側面写真を示す。
【0036】
(実施例2)
ポリウレタン弾性糸を図5に示すようにステント中央で組紐を構成するモノフィラメント糸と交差させた以外は実施例1と同様に組紐ステントを作成した。この組糸ステントを内径3mmのデリバリーシステムに搭載したのち、デリバリーシステムから押し出したところ、ステントは自己拡張し、ステント中心部が、元の直径22mmまで拡張し、かつ両端部は、元の直径より、大きい22-27mmまで拡張していた。図10Aにデリバリーシステム搭載前のステントの側面写真、図10Bにデリバリーシステムから開放直後の側面写真、図10Cにデリバリーシステムから開放後3分の側面写真を示す。
【0037】
(実施例3)
ポリグリコール酸からなるモノフィラメント糸(直径0.29mm)を32本使用し、組紐製造装置により組紐ステントを作製した(直径19mm、長さ75mm)。この組紐ステントにポリウレタン弾性糸(米国Lubrizol社製、商品名”Pellethane”(直径150μm))を、図3に示すように、弾性糸とステント構成糸との接点を、ステント両端部からステント長の1/3の位置まで外側を通して、弾性糸とステントを構成する組紐に接点を配置し、接点と接点間では、ステントを構成する組紐の中に弾性糸を通した。このステントを内径9mmのデリバリーシステムを用いて、ミニブタの小腸内に外科的に留置した。図14は本実施例の留置前のステントの外観であり、図15はミニブタ小腸留置後10分後の外観である。中心部の直径が19mm、胃側端部の直径が19mm、肛門側端部の直径が19mmであり、端部まで良好に拡張していた。
【0038】
(比較例1)
ポリウレタン弾性糸をステント内側に配置した以外は実施例1と同様に組紐ステントを作成した。この組糸ステントを内径3mmのデリバリーシステムに搭載したのち、デリバリーシステムから押し出したところ、ステントは自己拡張したが、片方の端部は15mmほどの拡張にとどまり、元の直径までは拡張しなかった。図11Aにデリバリーシステム搭載前のステントの側面写真、図11Bにデリバリーシステムから開放直後の側面写真、図11Cにデリバリーシステムから開放後3分の側面写真を示す。
【0039】
(比較例2)
ポリウレタン弾性糸をステントの組紐を構成するモノフィラメントに編み込んで配置した以外は実施例1と同様に組紐ステントを作成した。この組糸ステントを内径3mmのデリバリーシステムに搭載したのち、デリバリーシステムから押し出したところ、片方の端部は17mmほどの拡張にとどまり、元の直径までは拡張しなかった。図12Aにデリバリーシステム搭載前のステントの側面写真、図12Bにデリバリーシステムから開放直後の側面写真、図12Cにデリバリーシステムから開放後3分の側面写真を示す。
【0040】
(比較例3)
ポリウレタン弾性糸を配置しない以外は実施例1と同様に組紐ステントを作成した。この組糸ステントを内径3mmのデリバリーシステムに搭載したのち、デリバリーシステムから押し出したところ、片方の端部は17mmほどの拡張にとどまり、元の直径までは拡張しなかった。図13Aにデリバリーシステム搭載前のステントの側面写真、図13Bにデリバリーシステムから開放直後の側面写真、図13Cにデリバリーシステムから開放後3分の側面写真を示す。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の生分解性ステントは、人体、ペット、家畜などの生体の管部に挿入するのに好適である。
【符号の説明】
【0042】
1a-1e 生分解性ステント
2 組紐を構成するフィラメント糸
3a-3d フィラメント糸の末端固定点
4a-4g 弾性糸
5a-5d 弾性糸とフィラメント糸の固定点
6a-6b 弾性糸とフィラメント糸の接点又は固定点
7a,7b ステント本体端部
10 組紐製造装置
11 架台
12 ボビン(キャリア)
13 糸
14 マンドレル
15 円筒部
16 突き上げ部
17 組紐
18 ガイド(プーリー)
19 軌道
20 デリバリーシステム
21 ハブ
22 プッシャー
23 Yコネクター
24 アウターシース
25 デリバリー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15