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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-23
(45)【発行日】2023-01-06
(54)【発明の名称】ロック機構
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20221226BHJP
【FI】
E04H9/02 331Z
E04H9/02 331A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019027181
(22)【出願日】2019-02-19
(65)【公開番号】P2020133219
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】北村 佳久
(72)【発明者】
【氏名】磯田 和彦
(72)【発明者】
【氏名】濱 智貴
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-168897(JP,A)
【文献】特開2004-232386(JP,A)
【文献】特開2016-17574(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
F16F 15/04
F16F 15/02
F16F 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平方向に相対変位可能な下部構造体と上部構造体との間の免震層に免震装置とともに設けられ、前記下部構造体と前記上部構造体との水平方向の相対変位を抑制可能なロック機構において、
前記下部構造体に設けられ前記上部構造体と上下方向に離間する積層ゴム支承と、
前記積層ゴム支承および前記上部構造体のいずれか一方に他方へ向かって突出するように設けられ塑性変形可能なサイドブロックと、
前記積層ゴム支承および前記上部構造体の前記他方に前記一方へ向かって突出するように設けられ、前記サイドブロックと水平方向に対向する突出部と、を有し、
前記サイドブロックは、前記下部構造体と前記上部構造体とが水平方向に相対変位しようとして前記突出部が当接した際に、前記突出部から受ける外力が所定値未満であると、前記下部構造体と前記上部構造体との水平方向の相対変位を抑制し、前記突出部から受ける外力が所定値以上であると、塑性変形して前記下部構造体と前記上部構造体との水平方向の相対変位を許容することを特徴とするロック機構。
【請求項2】
前記サイドブロックは、前記積層ゴム支承の上部の外周部分から上側に突出するように設けられ、
前記突出部は、前記上部構造体における前記積層ゴム支承と上下方向に対向する位置から下側に突出するように設けられていることを特徴とする請求項1に記載のロック機構。
【請求項3】
前記サイドブロックは、前記上部構造体における前記積層ゴム支承の外周部分と上下方向に対向する位置から下側に突出するように設けられ、
前記突出部は、前記積層ゴム支承の上部から上側に突出するように設けられていることを特徴とする請求項1に記載のロック機構。
【請求項4】
前記サイドブロックは、前記突出部の周囲全体に間隔をあけて複数設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のロック機構。
【請求項5】
前記サイドブロックは、前記積層ゴム支承および前記上部構造体の前記一方に着脱可能に設けられていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のロック機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロック機構に関する。
【背景技術】
【0002】
ある程度規模の大きな建物(大規模オフィス、超高層集合住宅等)は、高い建物高さ、スレンダーなプロポーション、均質な形状、大きなファサード面積、長い固有周期等の特徴を有する場合が多いが、それらはいずれも建物に作用する風外力を増大させる要因となるため、結果的に地震力に対する風外力の影響が相対的に大きくなる場合が多い。
特に、これらの建物を免震構造として計画する場合、毎年発生する台風等に対して居住性を確保するために免震層が変位しないようにする配慮(例えば鉛プラグ等のダンパー量を一定以上確保する等)が必要となる。その一方で過大なダンパーの設置は地震外力に対する免震効果を阻害する傾向にあり、風居住性に対して設定したダンパー量が地震外乱に対しては過多となるケースが多い。
そこで、免震構造物において、風外力に対しては免震層の変位を抑制し、地震外力に対しては免震層の変位を許容するロック機構が知られている(例えば、特許文献1および2参照)。
【0003】
例えば、このようなロック機構が設けられたオイルダンパーでは、ロックがかかると変位が固定され、ロックが解除されるとオイルダンパーとして機能するように構成されている。ロック機構は、風速計や地震計の信号により、電磁弁でダンパーをロックしたり解除したりするように構成され、通常時はロックを解除し、風速計が所定値以上の風速を観測するとロックし、地震計が所定値以上の加速度を測定するとロックを解除し、風速によりロックしていた場合は、風速が所定値未満となると自動的にロックが解除される。
なお、このようなロック機構は、風速計および地震計のいずれかの信号のみで作動することも可能である。
また、例えば、ピンの抜き挿しなど手動でダンパーのロックと解除とを切り替えるロック機構も知られている。このようなロック機構では、強風が予想されるときに、手動でピンをさしてダンパーをロックし、強風が終わったら手動でピンを抜くように構成されている。ピンをさした状態で地震が生じた場合には、ピンが破断してロック解除する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-025211号公報
【文献】特開2004-232287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
風速計や地震計の信号によって、ロックと解除とが切り替えられるロック機構は、制御盤を用いた電気制御を行う必要があるため、構造が複雑で設置や維持にコストがかかるという問題がある。
また、手動でロックと解除とを切り替えるロック機構は、ピンの抜き挿しなどの手動による動作に手間がかかるとともに、ヒューマンエラーが生じる虞がある。
【0006】
そこで、本発明は、簡便な構造で、設置や維持にかかるコストや手間を抑えることができるロック機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係るロック機構は、水平方向に相対変位可能な下部構造体と上部構造体との間の免震層に免震装置とともに設けられ、前記下部構造体と前記上部構造体との水平方向の相対変位を抑制可能なロック機構において、前記下部構造体に設けられ前記上部構造体と上下方向に離間する積層ゴム支承と、前記積層ゴム支承および前記上部構造体のいずれか一方に他方へ向かって突出するように設けられ塑性変形可能なサイドブロックと、前記積層ゴム支承および前記上部構造体の前記他方に前記一方へ向かって突出するように設けられ、前記サイドブロックと水平方向に対向する突出部と、を有し、前記サイドブロックは、前記下部構造体と前記上部構造体とが水平方向に相対変位しようとして前記突出部が当接した際に、前記突出部から受ける外力が所定値未満であると、前記下部構造体と前記上部構造体との水平方向の相対変位を抑制し、前記突出部から受ける外力が所定値以上であると、塑性変形して前記下部構造体と前記上部構造体との水平方向の相対変位を許容することを特徴とする。
【0008】
本発明では、下部構造体と上部構造体とが水平方向に相対変位しようとして、サイドブロックと突出部とが当接し、サイドブロックが突出部から受ける外力が所定値未満であると、突出部のサイドブロックに向かう方向の変位を抑制するため、免震層の変位(下部構造体と上部構造体との水平方向の相対変位)を抑制することができる。また、下部構造体と上部構造体とが水平方向に相対変位しようとして、サイドブロックと突出部とが当接し、サイドブロックが突出部から受ける外力が所定値以上であると、サイドブロックが塑性変形してサイドブロックと突出部とが水平方向に相対変位可能となるため、免震層の変位を許容し免震装置を機能させることができる。
この所定値を、例えば大地震による地震外力が作用した際にサイドブロックが突出部から受ける外力に設定することにより、大地震が生じた際には、免震装置が機能して振動を減衰させることができる。また、大地震による地震外力よりも小さい風外力が作用する強風が生じた際には、免震層の変位が抑制されるため、免震装置の挙動をロックすることができる。
本発明のロック機構では、強風時や小地震時には免震装置が機能しないようにすることで免震構造物の居住性を高めることができ、大地震時には免震装置が機能することで上部構造体の設計外力も低減され、躯体数量削減、プラン自由度の確保が実現できる。
そして、本発明のロック機構は、積層ゴム支承と、塑性変形可能なサイドブロック、突出部を用いた簡便な構造とすることができるとともに、電気制御や手動による操作が必要ないため、設置や維持にかかるコストや手間を抑えることができる。
【0009】
また、本発明に係るロック機構では、前記サイドブロックは、前記積層ゴム支承の上部の外周部分から上側に突出するように設けられ、前記突出部は、前記上部構造体における前記積層ゴム支承と上下方向に対向する位置から下側に突出するように設けられていてもよい。
このような構成とすることにより、ロック機構を構造的およびコスト的に合理化されたものとすることができる。
【0010】
また、本発明に係るロック機構では、前記サイドブロックは、前記上部構造体における前記積層ゴム支承の外周部分と上下方向に対向する位置から下側に突出するように設けられ、前記突出部は、前記積層ゴム支承の上部から上側に突出するように設けられていてもよい。
このような構成とすることにより、ロック機構を構造的およびコスト的に合理化されたものとすることができる。
【0011】
また、本発明に係るロック機構では、前記サイドブロックは、前記突出部の周囲全体に間隔をあけて複数設けられていてもよい。
このような構成とすることにより、下部構造体と上部構造体とが水平方向に相対変位しようとして、サイドブロックと突出部とが当接し、サイドブロックが突出部から受ける外力が所定値未満であった場合には、上部構造体と下部構造体との間に生じる任意の水平方向相対変位を抑制することができる。
【0012】
また、本発明に係るロック機構では、前記サイドブロックは、前記積層ゴム支承に着脱可能に設けられていてもよい。
このような構成とすることにより、サイドブロックを容易に交換することができるため、サイドブロックが塑性変形してもサイドブロックを交換することでロック機構を機能させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ロック機構を簡便な構造とすることができ、ロック機構の設置や維持にかかるコストや手間を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態によるロック機構の一例を示す図で図2のA-A線断面に対応する鉛直断面図ある。
図2図1のB-B線断面に対応する水平断面図である。
図3】サイドブロックの斜視図である。
図4】風外力作用した際のロック機構の挙動を説明する図である。
図5】地震外力作用した際のロック機構の挙動を説明する図である。
図6】本発明の実施形態の変形例によるロック機構の一例を示す鉛直断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態によるロック機構1について、図1乃至図5に基づいて説明する。
図1に示すように、本実施形態によるロック機構1は、免震構造物の免震層13に免震装置(不図示)とともに設けられている。免震層13は、水平方向に相対変位可能な下部構造体11と上部構造体12との間に設けられている。下部構造体11の上面11aおよび上部構造体12の下面12aは、それぞれ水平面に形成され、互いに上下方向に間隔をあけて対向している。
ロック機構1は、免震構造物に風外力が作用した場合や、風外力と同レベルの小地震による地震外力が作用した場合には、免震層13の変位(上部構造体12と下部構造体11との水平方向の相対変位)を抑制するようにロックし、大地震による地震外力が作用した場合には、そのロックを解除するように構成されている。
本実施形態では、免震層13に複数のロック機構1が複数設けられている。
【0016】
以下のロック機構1の説明では、免震構造物に風外力や地震外力が作用していない通常時であるものとする。また、免震構造物に所定の大地震による地震外力が作用している状態を大地震時とし、大地震による地震外力よりも小さい地震外力が作用している状態を小地震時、風外力が作用している状態を風外力作用時とする。なお、風外力は、大地震による地震外力よりも小さい外力である。
【0017】
ロック機構1は、下部構造体11に設けられた積層ゴム支承2と、積層ゴム支承2の外周部分から上側に突出するように設けられたサイドブロック3と、上部構造体12に設けられた上部突出部(突出部)4と、を有している。
【0018】
積層ゴム支承2は、下部構造体11の上面11aに設けられた下側取付部5に固定されている。
下側取付部5は、コンクリートを平板状に形成した部材で、板面が水平面となる向きで下部構造体11の上面に設けられている。下側取付部5は、下部構造体11に対して相対変位しないように固定されている。
上部突出部4は、上部構造体12の下面12aに設けられた上側取付部6に固定されている。
上側取付部6は、コンクリートを平板状に形成した部材で、板面が水平面となる向きで上部構造体12の下面12aに設けられている。上側取付部6は、上部構造体12に対して相対変位しないように固定されている。
下側取付部5と、上側取付部6とは、鉛直方向に間隔をあけて対向している。
【0019】
積層ゴム支承2は、積層ゴム21と、積層ゴム21の下側に設けられた下フランジ22と、積層ゴム21の上側に設けられた上フランジ23と、を有している。
積層ゴム支承2は、円柱状に形成され、円柱の軸線が鉛直となる向きに配置されている。
下フランジ22および上フランジ23は、板面が積層ゴム21の平面視形状の円よりも大きい円形もしくは正八角形となる平板状に形成され、板面が水平となる向きに配置されている。下フランジ22と上フランジ23とは、積層ゴム21が水平方向に変形可能な範囲において水平方向に相対変位可能に構成されている。
積層ゴム支承2は、下フランジ22が下側取付部5の上面5aに固定されて、上フランジ23が上側取付部6の下側に上側取付部6の下面6aと間隔をあけて配置されている。積層ゴム支承2は、下側取付部5を介して下部構造体11と連結されているが、上部構造体12と連結されていない。
【0020】
サイドブロック3は、上フランジ23の上面23aの周縁部に、周方向に等間隔をあけて環状に8つ配列されている。上フランジ23の上面23aが正八角形もしくはこれを内包する円形に形成されているため、サイドブロック3は、上フランジ23の上面23aで正八角形の各辺中央に配置されている。8つのサイドブロック3は、互いに同じ形状に形成され、それぞれが配列の中央を向くように放射状に配列されている。
8つのサイドブロック3は、それぞれ積層ゴム支承2と直列に設けられている。
サイドブロック3は、上フランジ23に固定される固定部31と、固定部31から上側に突出するサイドブロック突出部32と、を有している。
固定部31は、平板状に形成され、板面が水平面となる向きで上フランジ23に固定されている。
【0021】
サイドブロック突出部32は、靭性を有し、塑性変形可能な例えば鋳鋼などの鋼材などで形成されている。
図3に示すように、サイドブロック突出部32は、8つのサイドブロック3の配列の中心を向く側の面(内側面321とする)が下側から上側に向かって配列の中心から外側に向かい、かつ上側に張り出すように湾曲する湾曲面に形成されている。
サイドブロック突出部32は、8つのサイドブロック3の配列の外側を向く側の面(外側面322とする)が、下側から上側に向かって配列の中心から外側に向かう傾斜面に形成されている。
【0022】
サイドブロック突出部32は、内側面321の上縁部と外側面322の上縁部とを接続する略水平面となる上面323と、内側面321、外側面322および上面323の両側方に位置する一対の側面324,324と、を有している。一対の側面324,324は、互いに平行に配置された略鉛直面に形成されている。
サイドブロック突出部32は、下側から上側に向かって内側面321と外側面322との間隔が小さくなる先細りの形状となっている。
図1に示すように、サイドブロック突出部32の上面323は、後述する上部突出部4の固定プレート41と離間している。サイドブロック突出部32は、上部構造体12と連結されていない。
【0023】
上部突出部4は、上側取付部6の下面6aに固定される固定プレート41と、固定プレート41の下面に固定され固定プレート41から下側に突出する突出プレート42と、を有している。
固定プレート41は、平板状に形成され、板面が水平面となる向きで上側取付部6の下面6aに固定されている。固定プレート41は、鋼板などで形成されている。
図1および図2に示すように、突出プレート42は、平面視形状が8つのサイドブロック3のサイドブロック突出部32の内側に配置可能な正八角形となる平板状に形成され、板面が水平面となる向きで固定プレート41の下面に固定されている。図2では、突出プレート42は、二点鎖線で示している。
突出プレート42は、鋼材などで形成され、免震層変位時にサイドブロック突出部32と衝突する。
突出プレート42は、固定プレート41よりも板面の平面形状が小さく形成され、平面視において固定プレート41の内側に配置されている。突出プレート42は、下面と側面との角部が面取りされ、外縁部全体の下側に傾斜面が形成されている。突出プレート42の外縁部の下側の傾斜面を外縁下側傾斜面421とする。
【0024】
突出プレート42は、積層ゴム支承2の上方で、配列された8つのサイドブロック3の内側に配置されている。突出プレート42の下面42aは、サイドブロック3のサイドブロック突出部32の上面323よりも下側に配置されている。突出プレート42の下面42aは、積層ゴム支承2の上フランジ23の上面23aと間隔をあけて上下方向に対向している。
突出プレート42の外縁下側傾斜面421は、各サイドブロック3のサイドブロック突出部32の内側面321と間隔をあけて平行に配置されている。通常時における突出プレート42の外縁下側傾斜面421と、各サイドブロック3のサイドブロック突出部32の内側面321との水平方向の離隔距離を水平離隔距離L1とする。
突出プレート42は、サイドブロック3および積層ゴム支承2と連結されておらず、下部構造体11とも連結されていない。
【0025】
本実施形態のロック機構1は、通常時において、下部構造体11に連結された積層ゴム支承2およびサイドブロック3が、上部構造体12に連結された上部突出部4と離間しているため、上部構造体12と下部構造体11との間で荷重を伝達させることがなく、荷重支持機能を有していない構成である。このため、ロック機構1は、免震層13に対して作用を及ぼすことがない。なお、積層ゴム支承2およびサイドブロック3と上部突出部4との鉛直方向の間隔は、免震層13の通常時の鉛直クリープ量を見越して設定するほか、後述する風外力作用時の条件、地震外力作用時の条件も勘案して決定する。
【0026】
続いて、ロック機構1の挙動について説明する。
図4に示すように、免震構造物に風外力が作用し、上部構造体12と下部構造体11とが水平方向に相対変位すると、ロック機構1は、水平離隔距離L1(図1参照、上部突出部4の突出プレート42における外縁下側傾斜面421とサイドブロック3のサイドブロック突出部32における内側面321との通常時の水平方向の離隔距離)分は免震挙動を示す。
免震層13の変位が水平離隔距離L1に達すると、同時に上部突出部4の突出プレート42の外縁下側傾斜面421とサイドブロック3のサイドブロック突出部32の内側面321とが当接し、上部構造体12と下部構造体11との水平方向の相対変位が拘束され、免震層13の挙動が拘束される。
【0027】
したがって、風外力の観点からは上部突出部4とサイドブロック3との水平離隔距離L1が過大であると免震層13の挙動を拘束できないことに留意し、上部突出部4とサイドブロック3との水平離隔距離L1を適正に設定する必要がある。
なお、サイドブロック3は、鋼材等で形成されていることにより初期剛性が高いものの、水平剛性の小さな積層ゴム支承2と直列に配置されているため、施工時の僅かな位置の不整によって風外力作用時に複数のロック機構1の中の特定の1基だけに応力集中する等の事象は回避される。
【0028】
積層ゴム支承2の剛性は、上記機能も勘案し、免震層13の挙動を拘束可能となる値に調整する。なお、サイドブロック3は放射状に配置されているため、1つのロック機構1であらゆる方向の水平外力に対してもロック機能を発揮することができる。
上記の風外力と同レベルの小地震が生じ地震外力が作用した場合も、上記と同様の挙動を示す。
【0029】
図5に示すように、大地震が生じ、免震構造物に大地震による地震外力が作用し、上部構造体12と下部構造体11とが水平方向に相対変位すると、ロック機構1は、風外力時と同様に上部突出部4の突出プレート42とサイドブロック3のサイドブロック突出部32とが当接するが、その際のサイドブロック3に作用する外力がサイドブロック3の耐力を上回る所定値以上であると、サイドブロック3のサイドブロック突出部32が塑性化して外側に曲がり永久変形する。サイドブロック3は、一旦塑性変形すると復元しないため、それ以降は上部突出部4と接触することなく、免震層13の免震挙動に対して何ら作用を及ぼさなくなる。
【0030】
すなわち、大地震時には、サイドブロック3に上部突出部4が当接して所定の地震外力が作用してサイドブロック3が塑性するため、サイドブロック3と上部突出部4とが水平方向に相対変位可能となり、ほぼ通常の免震層13と同様な挙動を示すことになる。
なお、地震終了後には塑性化したサイドブロック3を交換する必要があるが、上部突出部4とサイドブロック3の水平離隔距離L1を適正に確保しておけば残留変位により交換が困難となることはない。
【0031】
以上の通り、ロック機構1の基数、サイドブロック3の耐力(形状、材質等)、積層ゴム支承2の剛性、サイドブロック3と上部突出部4との水平離隔距離L1等の諸パラメータを適正に設定することで、ロック解除荷重(ロックが解除される風外力の再現期間の設定)、ロック時の特性(ロック不感帯の変位幅、ロック時剛性)、残留変位対応の交換容易性等を設計者の意図通りに実現する自由度の高いロック機構1を実現することができる。
【0032】
次に、上述した本実施形態によるロック機構1の作用・効果について図面を用いて説明する。
上述した本実施形態によるロック機構1では、下部構造体11と上部構造体12とが水平方向に相対変位しようとして、サイドブロック3と上部突出部4とが当接し、サイドブロック3が上部突出部4から受ける外力が所定値未満であると、上部突出部4のサイドブロック3に向かう方向の変位を抑制するため、免震層13の変位(下部構造体11と上部構造体12との水平方向の相対変位)を抑制することができる。
また、下部構造体11と上部構造体12とが水平方向に相対変位しようとして、サイドブロック3と上部突出部4とが当接し、サイドブロック3が上部突出部4から受ける外力が所定値以上であると、サイドブロック3が塑性変形してサイドブロック3と上部突出部4とが再接触することなく水平方向に相対変位可能となるため、免震層13の変位を許容し免震装置を機能させることができる。
【0033】
本実施形態では、上記の所定値を、大地震による地震外力が作用した際にサイドブロック3が上部突出部4から受ける外力に設定しているため、大地震が生じた際には、免震装置が機能して振動を減衰させることができる。また、大地震による地震外力よりも小さい風外力が作用する強風が生じた際には、免震層13の変位が抑制されるため、免震装置の挙動をロックすることができる。
これにより、ロック機構1では、免震装置が大地震時には機能し、強風時や小地震時には機能しないため、免震構造物の居住性を高めることができる。また、上部構造体12の設計外力も低減され、躯体数量削減、プラン自由度の確保が実現できる。
そして、ロック機構1は、積層ゴム支承2、塑性変形可能なサイドブロック3および上部突出部4を用いた簡便な構造とすることができるとともに、電気制御や手動による操作が必要ないため、設置や維持にかかるコストや手間を抑えることができる。
【0034】
本実施形態によるロック機構1は、簡便、明快、安価で大地震後にも部品交換容易なパッシブ型デバイスであり、特性も設計者の意図に沿って明快に調整することが可能な自由度の高い機構である。よって風外力作用時、地震外力作用時のいずれにおいても信頼性に優れたシステムの構築が可能となる。
本実施形態によるロック機構1は、コンパクトな部品の組合せであり、またそれらの接合ディテールも全て既存技術にて構成されるため、工期、調達、施工性の面でも採用が容易である。
【0035】
また、サイドブロック3は、上部突出部4の周囲全体に間隔をあけて複数設けられていることにより、下部構造体11と上部構造体12とが水平方向に相対変位しようとして、サイドブロック3と上部突出部4とが当接し、サイドブロック3が上部突出部4から受ける外力が所定値未満であった場合には、上部構造体12と下部構造体11との間に生じる任意の水平方向相対変位を1つのロック機構1で抑制することができる。
【0036】
また、サイドブロック3は、積層ゴム支承2に着脱可能に設けられていることにより、サイドブロック3を容易に交換することができるため、サイドブロック3が塑性変形しても当該サイドブロック3を交換することでロック機構1を機能させることができる。
特に、サイドブロック3の1台あたりの重量を小さく可搬性に優れる値に設定することにより、損傷した部品を交換する場合にも容易に対応できる。
【0037】
以上、本発明によるロック機構の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記の実施形態では、サイドブロック3は、上部突出部4の周囲全体に間隔をあけて複数設けられているが、上部突出部4の周囲全体にわたるように1つのサイドブロック3が設けられていてもよいし、ある特定方向のみの免震層13の変位を抑制する場合には、上部突出部4の周囲の一部に1つのサイドブロック3のみが設けられていてもよい。
【0038】
また、上記の実施形態では、サイドブロック3は、積層ゴム支承2に着脱可能に設けられているが、サイドブロック3の積層ゴム支承2への固定は適宜設定されてよい。
また、上記の実施形態では、積層ゴム支承2は、下側取付部5を介して下部構造体11に固定され、上部突出部4は、上側取付部6を介して上部構造体12に固定されている。これに対し、積層ゴム支承2は、直接下部構造体11に固定されてもよいし、上部突出部4は上部構造体12に直接固定されてもよい。
また、サイドブロック3および上部突出部4の形状は、上部構造体12と下部構造体11とが相対変位した際に当接可能な形状であれば、上記以外の形状であってもよい。
【0039】
また、上記の実施形態では、サイドブロック3が積層ゴム支承2に設けられ、上部突出部4が上部構造体12に設けられているが、図6に示すロック機構1Bのように、サイドブロック3Bが上部構造体12に設けられ、上部突出部4の代わりに積層ゴム支承2Bに下部突出部(突出部)43が設けられていてもよい。
サイドブロック3Bは、上記の実施形態のサイドブロック3と同じ形態で、上下逆となる向きで固定部31Bが上側取付部6に固定プレート33Bを介して固定され、サイドブロック突出部32Bが下側に突出している。サイドブロック3Bは、上側取付部6における積層ゴム支承2Bの外周部分と上下方向に対向する位置に設けられている。
下部突出部(突出部)43は、積層ゴム支承2Bの上フランジと一体化した平板状の部材で、上面と側面との角部が面取りされ、外縁部全体の上側に傾斜面431が形成されている。この傾斜面431は、下部構造体11と上部構造体12とが水平方向に相対変位すると、サイドブロック3Bのサイドブロック突出部32Bと当接するように構成されている。
サイドブロック3Bは、下部突出部43の周囲全体に間隔をあけて複数設けられている。
【0040】
ロック機構1Bは、上述したロック機構1と同様に、下部構造体11と上部構造体12とが水平方向に相対変位しようとして、サイドブロック3Bと下部突出部43とが当接し、サイドブロック3Bが下部突出部43から受ける外力が所定値未満であると、下部突出部43のサイドブロック3Bに向かう方向の変位を抑制するため、免震層13の変位(下部構造体11と上部構造体12との水平方向の相対変位)を抑制することができる。
また、下部構造体11と上部構造体12とが水平方向に相対変位しようとして、サイドブロック3Bと下部突出部43とが当接し、サイドブロック3Bが下部突出部43から受ける外力が所定値以上であると、サイドブロック3Bが塑性変形してサイドブロック3Bと下部突出部43とが再接触することなく水平方向に相対変位可能となるため、免震層13の変位を許容し免震装置を機能させることができる。
【符号の説明】
【0041】
1,1B ロック機構
2,2B 積層ゴム支承
3,3B サイドブロック
4 上部突出部(突出部)
11 下部構造体
12 上部構造体
13 免震層
43 下部突出部(突出部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6