(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-23
(45)【発行日】2023-01-06
(54)【発明の名称】仮締切システムおよび仮締切構造体の姿勢制御方法
(51)【国際特許分類】
E02D 19/04 20060101AFI20221226BHJP
E02D 23/08 20060101ALI20221226BHJP
【FI】
E02D19/04
E02D23/08 F
(21)【出願番号】P 2019149928
(22)【出願日】2019-08-19
【審査請求日】2021-12-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】山下 遼
(72)【発明者】
【氏名】森田 寛之
(72)【発明者】
【氏名】坂上 幸謙
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】特許第5979556(JP,B2)
【文献】特開平08-020958(JP,A)
【文献】特開昭60-208519(JP,A)
【文献】特開2013-253469(JP,A)
【文献】特開2015-034373(JP,A)
【文献】特開2011-231524(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 5/00- 7/18
E02B 8/00
E02B 8/06- 8/08
E02B 3/04- 3/14
E02C 1/00- 5/02
E02D19/00-25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水面よりも下方から上方へと延びる対象構造物近傍に設置され、水中の作業箇所の周囲を囲んで作業空間を形成する仮締切システムであって、
平面視において異なる位置に配置されてそれぞれが互いに独立して液体を貯溜可能な密閉空間である複数の貯溜部が内部に設けられた仮締切構造体と、
前記仮締切構造体の傾斜角を測定する傾斜センサと、
前記傾斜センサの測定値に基づいて前記複数の貯溜部に対する注排水を制御し、前記複数の貯溜部における貯水量を調節することにより
、水面もしくは水中に浮かんだ状態で組み立て中の前記仮締切構造体の姿勢を制御する制御部と、
を備えることを特徴とする仮締切システム。
【請求項2】
請求項1に記載の仮締切システムであって、
前記仮締切構造体は、左右方向に並んで配置される一対の腕部を備え、
前記一対の腕部の前端部は、前記対象構造物において左右方向に沿って広がる設置対象面に接触し、
前記一対の腕部の後端部同士は、前記設置対象面から後側に離間した位置にて接続されることを特徴とする仮締切システム。
【請求項3】
請求項2に記載の仮締切システムであって、
前記対象構造物はダムの堤体であり、
前記設置対象面は、前記堤体の上流面であることを特徴とする仮締切システム。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1つに記載の仮締切システムであって、
前記仮締切構造体は、上下方向に積層されて互いに接合される複数の構造体要素を備え、
前記複数の構造体要素のうち最下段の構造体要素は、前記複数の貯溜部に含まれる2つ以上の貯溜部を有することを特徴とする仮締切システム。
【請求項5】
請求項4に記載の仮締切システムであって、
前記仮締切構造体の組み立てでは、前記複数の構造体要素のうち下段の構造体要素上に上段の構造体要素が搭載されて接合されることが順次繰り返されることを特徴とする仮締切システム。
【請求項6】
請求項1ないし
5のいずれか1つに記載の仮締切システムであって、
前記傾斜センサによる測定値が所定の閾値以上である場合、前記制御部による注排水が行われることを特徴とする仮締切システム。
【請求項7】
請求項1ないし
6のいずれか1つに記載の仮締切システムであって、
前記仮締切構造体の喫水を測定する喫水センサをさらに備え、
前記制御部による前記複数の貯溜部に対する注排水の制御は、前記喫水センサの測定値にも基づいて行われることを特徴とする仮締切システム。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1つに記載の仮締切システムであって、
前記制御部による姿勢制御により、組み立て中の前記仮締切構造体の上面位置が組み立てに適した位置に調節されることを特徴とする仮締切システム。
【請求項9】
平面視において異なる位置に配置されてそれぞれが互いに独立して液体を貯溜可能な密閉空間である複数の貯溜部が内部に設けられ、水面よりも下方から上方へと延びる対象構造物近傍に設置され、水中の作業箇所の周囲を囲んで作業空間を形成する仮締切構造体の姿勢制御方法であって、
a
)水面もしくは水中に浮かんだ状態で組み立て中の前記仮締切構造体の傾斜角を測定する工程と、
b)前記a)工程における測定値に基づいて前記複数の貯溜部に対する注排水を制御し、前記複数の貯溜部における貯水量を調節することにより
、水面もしくは水中に浮かんだ状態で組み立て中の前記仮締切構造体の姿勢を制御する工程と、
を備えることを特徴とする仮締切構造体の姿勢制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中の作業箇所の周囲を囲んで作業空間を形成する仮締切システム、および、仮締切構造体の姿勢制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ダムの堤体や橋脚等に対する工事の際に、水中の作業箇所の周囲を囲んで作業空間を形成するために、仮締切が使用されている。例えば、特許文献1では、複数の分割止水函体が水平方向に連結された締切用函体ユニットを沈降させ、水底に設けられたフーチング等の台座に着座させることにより、橋脚等の周囲に作業空間を形成する締切用止水壁体が提案されている。当該締切用止水壁体では、分割止水函体の内部に給排水することにより、締切用函体ユニットを略水平状態で沈降および浮上可能である。
【0003】
また、特許文献2では、浮体式の仮締切構造体について、水面上でブロックを連結して注水することにより所定深度まで沈め、当該ブロックの上側に上段のブロックを連結する工程を繰り返す組立方法が開示されている。組み立てられた仮締切構造体は、水面上に起立した状態で曳航され、堤体の壁面に設置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5053339号公報
【文献】特許第5979556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1および特許文献2のような仮締切構造体では、ブロックへの注水および注水停止は、水面下に位置するブロックの注水弁等を潜水士が手動で開閉することにより行われる。このため、仮締切構造体の傾斜を修正する際等に、作業に多大な時間およびコストが必要になる。また、注水するブロックの決定、および、注水量の決定は、仮締切構造体の傾斜等を目視しつつ経験に基づいて行われるため、決定に時間がかかるとともに傾斜修正の精度向上に限界がある。さらに、仮締切構造体の傾斜が急激に変化した際に、傾斜修正を迅速に行うことが難しい。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、仮締切構造体の姿勢を自動的に制御することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、水面よりも下方から上方へと延びる対象構造物近傍に設置され、水中の作業箇所の周囲を囲んで作業空間を形成する仮締切システムであって、平面視において異なる位置に配置されてそれぞれが互いに独立して液体を貯溜可能な密閉空間である複数の貯溜部が内部に設けられた仮締切構造体と、前記仮締切構造体の傾斜角を測定する傾斜センサと、前記傾斜センサの測定値に基づいて前記複数の貯溜部に対する注排水を制御し、前記複数の貯溜部における貯水量を調節することにより、水面もしくは水中に浮かんだ状態で組み立て中の前記仮締切構造体の姿勢を制御する制御部とを備える。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の仮締切システムであって、前記仮締切構造体は、左右方向に並んで配置される一対の腕部を備え、前記一対の腕部の前端部は、前記対象構造物において左右方向に沿って広がる設置対象面に接触し、前記一対の腕部の後端部同士は、前記設置対象面から後側に離間した位置にて接続される。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の仮締切システムであって、前記対象構造物はダムの堤体であり、前記設置対象面は、前記堤体の上流面である。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれか1つに記載の仮締切システムであって、前記仮締切構造体は、上下方向に積層されて互いに接合される複数の構造体要素を備え、前記複数の構造体要素のうち最下段の構造体要素は、前記複数の貯溜部に含まれる2つ以上の貯溜部を有する。
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の仮締切システムであって、前記仮締切構造体の組み立てでは、前記複数の構造体要素のうち下段の構造体要素上に上段の構造体要素が搭載されて接合されることが順次繰り返される。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項1ないし5のいずれか1つに記載の仮締切システムであって、前記傾斜センサによる測定値が所定の閾値以上である場合、前記制御部による注排水が行われる。
【0012】
請求項7に記載の発明は、請求項1ないし6のいずれか1つに記載の仮締切システムであって、前記仮締切構造体の喫水を測定する喫水センサをさらに備え、前記制御部による前記複数の貯溜部に対する注排水の制御は、前記喫水センサの測定値にも基づいて行われる。
請求項8に記載の発明は、請求項1ないし7のいずれか1つに記載の仮締切システムであって、前記制御部による姿勢制御により、組み立て中の前記仮締切構造体の上面位置が組み立てに適した位置に調節される。
【0013】
請求項9に記載の発明は、平面視において異なる位置に配置されてそれぞれが互いに独立して液体を貯溜可能な密閉空間である複数の貯溜部が内部に設けられ、水面よりも下方から上方へと延びる対象構造物近傍に設置され、水中の作業箇所の周囲を囲んで作業空間を形成する仮締切構造体の姿勢制御方法であって、a)水面もしくは水中に浮かんだ状態で組み立て中の前記仮締切構造体の傾斜角を測定する工程と、b)前記a)工程における測定値に基づいて前記複数の貯溜部に対する注排水を制御し、前記複数の貯溜部における貯水量を調節することにより、水面もしくは水中に浮かんだ状態で組み立て中の前記仮締切構造体の姿勢を制御する工程とを備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、仮締切構造体の姿勢を自動的に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】一の実施の形態に係る仮締切システムの側面図である。
【
図5】仮締切構造体の姿勢制御の流れを示す図である。
【
図10】組み立て中の仮締切構造体の正面図である。
【
図11】組み立て中の仮締切構造体の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の一の実施の形態に係る仮締切システム1の構成を示す側面図である。
図2は、仮締切システム1を示す平面図である。仮締切システム1は、水面97よりも下方から上方へと延びる対象構造物近傍に設置され、水中の作業箇所の周囲を囲んで作業空間を形成する。
【0017】
図1に示す例では、当該対象構造物は、ダム9の堤体91である。
図1中の右側は下流側であり、左側は上流側である。以下の説明では、ダム9の下流側および上流側をそれぞれ「前側」および「後側」とも呼ぶ。また、
図2中の左右方向を、単に「左右方向」とも呼ぶ。当該左右方向は、前後方向に垂直な水平方向である。仮締切システム1は、堤体91の上流側の面(以下、「上流面92」とも呼ぶ。)に設置され、ダム9の再開発工事等において使用される。上流面92は、堤体91において左右方向に沿って広がる設置対象面である。上流面92は、略平面状であってもよく、曲面状であってもよい。
【0018】
仮締切システム1は、仮締切構造体2と、傾斜センサ31と、喫水センサ32と、制御部8とを備える。
図1では、図示の都合上、制御部8の図示を省略している。仮締切構造体2は、水面97(すなわち、ダム湖の湖面)上に浮遊可能な浮体式の仮締切構造体である。仮締切構造体2では、内部の空間に対する注排水を行うことにより、浮上量の調節が可能である。仮締切構造体2は、堤体91の上流面92に設けられた水中の架台93上に載置される。架台93は、堤体91の上流面92から後方(すなわち、上流側)へと突出する金属製の仮設台である。架台93は、ダム9の水底98から上側に離間した位置に設けられる。架台93は、仮締切構造体2の重量の一部(すなわち、仮締切構造体2の重量から浮力を減算した値)を下側から支持する。
【0019】
傾斜センサ31は、仮締切構造体2に取り付けられて、組み立て中、曳航時および設置時等の仮締切構造体2の傾斜角を測定する。傾斜センサ31は、例えば、3軸傾斜角測定が可能な重力加速度式のセンサである。また、傾斜センサ31として定点カメラが設けられ、当該定点カメラを用いた変化量測定または位置計測により、仮締切構造体2において左右方向に離れた2つの部位(例えば、左右方向の両端の上端部)の上下方向の高さの差を求め、当該2つの部位の左右方向距離および高さの差に基づいて、仮締切構造体2の傾斜角が求められてもよい。喫水センサ32は、仮締切構造体2に取り付けられて、仮締切構造体2の喫水を測定する。喫水センサ32は、例えば、受圧式センサである。傾斜センサ31および喫水センサ32の種類は、様々に変更されてよい。
【0020】
傾斜センサ31および喫水センサ32による測定値は、制御部8へと送られる。制御部8では、喫水センサ32の測定値に基づいて、仮締切構造体2の水面97からの突出高さ(いわゆる、乾舷)も算出可能である。制御部8は、例えば、仮締切構造体2の組み立てや設置に利用されるクレーン台船等(図示省略)に配置される。制御部8は、後述する複数の貯溜部22に対する注排水を制御する。
【0021】
図3に示すように、制御部8は、例えば、プロセッサ81と、メモリ82と、入出力部83と、バス84とを備える通常のコンピュータシステムである。バス84は、プロセッサ81、メモリ82および入出力部83を接続する信号回路である。メモリ82は、プログラムおよび各種情報を記憶する。プロセッサ81は、メモリ82に記憶されるプログラム等に従って、メモリ82等を利用しつつ様々な処理(例えば、数値計算)を実行する。入出力部83は、操作者からの入力を受け付けるキーボード85およびマウス86、プロセッサ81からの出力等を表示するディスプレイ87、並びに、プロセッサ81からの出力等を送信する送信部等(図示省略)を備える。なお、制御部8は、プログラマブルロジックコントローラ(PLC:Programmable Logic Controller)、または、回路基板等であってもよい。制御部8は、コンピュータシステム、PLCおよび回路基板等のうち、任意の複数の構成を含んでいてもよい。
【0022】
図2に示す例では、仮締切構造体2の平面視における形状は、略コの字状である。仮締切構造体2は、上下方向を向く中心軸J1を中心として略左右対称である。中心軸J1は、仮締切構造体2の重心を通る直線である。仮締切構造体2は、左右方向に並んで配置される一対の腕部24と、一対の腕部24を連結する連結部25とを備える。一対の腕部24および連結部25はそれぞれ、上下方向に長い略直方体状である。一対の腕部24は、左右方向に互いに離間した状態で前後方向に延びる側壁部である。一対の腕部24の前端部は、堤体91の上流面92に接触している。上流面92は、下方に向かうに従って後方(すなわち、上流側)へと向かう傾斜面、または、上下方向に略平行な鉛直面である。したがって、一対の腕部24の前端部も、下方に向かうに従って後方へと向かう傾斜面である。連結部25は、堤体91の上流面92から後側に離間した位置にて、一対の腕部24の後端部同士を接続する。換言すれば、一対の腕部24の後端部同士は、連結部25を介して間接的に互いに接続される。連結部25は、左右方向に延びる後壁部である。
【0023】
仮締切構造体2の前後方向の長さ、左右方向の幅、および、上下方向の高さはそれぞれ、例えば、3m~10m、5m~20m、5m~50mである。仮締切構造体2の重量は、例えば、5t~500tである。腕部24の左右方向の幅、および、連結部25の前後方向の幅は、例えば、0.5m~2mである。仮締切構造体2の大きさおよび重量は、様々に変更可能である。
【0024】
仮締切構造体2は、水平方向および上下方向に配列された複数のブロック21が溶接やボルト等により連結された構造を有する。換言すれば、仮締切構造体2は、互いに接合された複数のブロック21を備える。各ブロック21は、例えば、中空の略直方体状の部材である。水平方向に配列されて互いに接合された複数のブロック21をまとめて「ブロックユニット23」と呼ぶと、仮締切構造体2は、上下方向に積層された複数のブロックユニット23を備える。複数のブロックユニット23は、互いに接合されて仮締切構造体2を構成する複数の構造体要素である。
【0025】
図1に示す例では、仮締切構造体2は8段のブロックユニット23を備える。仮締切構造体2を構成するブロックユニット23の段数は様々に変更されてよい。仮締切構造体2におけるブロックユニット23の段数は、1段であってもよく、2段以上であってもよい。各ブロックユニット23は、例えば、上下方向の位置が略同じである7つのブロック21が互いに接合されることにより形成される。各ブロックユニット23の上下方向の高さ、および、重量はそれぞれ、例えば、0.5m~4m、および、2t~50tである。ブロックユニット23に含まれるブロック21の数は、2つ以上の範囲で様々に変更されてよい。また、ブロックユニット23の大きさおよび重量も、様々に変更可能である。
【0026】
各ブロック21の内部空間は、互いに独立して(すなわち、互いに連通することなく)液体を貯溜可能な略直方体状の密閉空間であり、以下、「貯溜部22」と呼ぶ。各ブロックユニット23は、平面視において異なる位置に配置される複数(例えば、7つ)の貯溜部22を備える。したがって、仮締切構造体2の内部には、平面視において異なる位置に配置される複数の貯溜部22が設けられる。なお、
図2に示す例では、各ブロックユニット23における複数の貯溜部22の数は7つであるが、2以上の範囲で様々に変更されてよい。例えば、各腕部24に2つ以上の貯溜部22が設けられてもよい。また、連結部25に設けられる貯溜部22の数も1つ以上の範囲で適宜変更されてよい。
【0027】
ブロックユニット23に設けられる複数の貯溜部22のうち、腕部24に設けられる貯溜部22を「第1貯溜部」と呼び、連結部25に設けられる貯溜部22を「第2貯溜部」と呼ぶと、ブロックユニット23の複数の貯溜部22は、2つの第1貯溜部と、5つの第2貯溜部とを備える。2つの第1貯溜部は、左右方向の異なる位置に位置する。また、5つの第2貯溜部は、2つの第1貯溜部とは前後方向の異なる位置(すなわち、後側)に位置する。なお、5つの第2貯溜部のうち左右方向の両端に位置する2つの第2貯溜部は、主に連結部25に設けられているが、一部は一対の腕部24に設けられている。
【0028】
後述するように、仮締切構造体2の左右方向および前後方向双方の姿勢制御を行うという観点からは、仮締切構造体2は、2つ以上の第1貯溜部と、1つ以上の第2貯溜部とを備えることが好ましい。また、当該姿勢制御の精度向上という観点からは、2つ以上の第2貯溜部が左右方向の異なる位置に設けられることが好ましい。
【0029】
図4は、複数の貯溜部22への注排水システム5の構成を示す模式図である。
図4では、図示の都合上、仮締切構造体2のうち1つのブロックユニット23のみを描いている。注排水システム5は、複数の貯溜部22にそれぞれ接続される水配管51およびガス配管52を備える。水配管51は、貯溜部22の下端部に接続される。ガス配管52は、貯溜部22の上端部に接続される。
【0030】
水配管51は、貯溜部22とポンプ53とを接続する。ポンプ53は、例えば上述のクレーン台船(以下、単に「台船」とも呼ぶ。)上に配置され、貯溜部22へと水(例えば、ダム9に貯溜されている水)を圧送する。水配管51上には、複数の貯溜部22にそれぞれ対応する複数のバルブ55(例えば、三方弁)が設けられている。バルブ55は、例えば電磁弁であり、制御部8により駆動される。バルブ55が切り替えられることにより、貯溜部22とポンプ53とが接続される状態、貯溜部22が外気(すなわち、仮締切構造体2の周囲の空間)に連通する状態、および、水配管51が閉鎖された状態のうちいずれかが選択される。貯溜部22がポンプ53と接続されている状態では、ポンプ53による貯溜部22への注水が可能となる。貯溜部22が外気に連通する状態では、貯溜部22内の水が水配管51を介して排出可能となる。
図4に示す例では、1つのブロックユニット23の全貯溜部22が1つのポンプ53に接続されているが、1つのポンプ53に接続される貯溜部22の数は様々に変更されてよい。なお、ポンプ53が省略され、水配管51の一の端部がダム湖の水中に配置されていてもよい。この場合、バルブ55により貯溜部22とダム湖とが接続されると、ダム湖の水が水配管51を介して貯溜部22に流入し、貯溜部22に対する注水が行われる。
【0031】
ガス配管52は、貯溜部22とブロワ54とを接続する。ブロワ54は、例えば上述の台船上に配置され、貯溜部22へとガス(例えば、圧縮空気)を供給する。ガス配管52上には、複数の貯溜部22にそれぞれ対応する複数のバルブ56(例えば、三方弁)が設けられている。バルブ56は、例えば電磁弁であり、制御部8により駆動される。バルブ56が切り替えられることにより、貯溜部22とブロワ54とが接続される状態、貯溜部22が外気(すなわち、仮締切構造体2の周囲の空間)に連通する状態、および、ガス配管52が閉鎖された状態のうちいずれかが選択される。貯溜部22がブロワ54と接続されている状態では、ブロワ54による貯溜部22への給気が可能となる。貯溜部22が外気に連通する状態では、貯溜部22内の空気がガス配管52を介して排出可能となる。
図4に示す例では、1つのブロックユニット23の全貯溜部22が1つのブロワ54に接続されているが、1つのブロワ54に接続される貯溜部22の数は様々に変更されてよい。
【0032】
仮締切システム1では、制御部8(
図2参照)により注排水システム5が制御されることにより、複数の貯溜部22における貯水量が調節される。注排水システム5により貯溜部22に対する注水が行われる場合、制御部8により、ポンプ53が駆動されるとともに、バルブ55が切り替えられてポンプ53と貯溜部22とが接続される。また、制御部8によりバルブ56が切り替えられて、貯溜部22と外気とがガス配管52を介して連通する。これにより、ポンプ53から水配管51を介して貯溜部22に水が供給され、貯溜部22内の空気はガス配管52を介して外部に排出される。
【0033】
一方、注排水システム5により貯溜部22からの排水が行われる場合、制御部8によりブロワ54が駆動されるとともに、バルブ56が切り替えられてブロワ54と貯溜部22とが接続される。また、制御部8によりバルブ55が切り替えられて、貯溜部22と外気とが水配管51を介して連通する。これにより、ブロワ54からガス配管52を介して貯溜部22に圧縮空気が供給され、貯溜部22内の水は水配管51を介して外部に排出される。
【0034】
図2に示す制御部8には、仮締切構造体2の姿勢制御に利用される情報が予め記憶されている。制御部8には、例えば、仮締切構造体2の喫水と排水量(すなわち、浮力)との関係を示す排水量曲線、仮締切構造体2の左右方向における復原力曲線、および、仮締切構造体2の前後方向における復原力曲線が予め記憶されている。復原力曲線とは、仮締切構造体2の傾斜角と復原梃(GZ)との関係を示す曲線である。復原力曲線は、仮締切構造体2の複数の喫水のそれぞれについて準備される。上述の排水量曲線および復原力曲線は、例えば、テーブル形式にて記憶される。制御部8には、例えば、各貯溜部22の平面視における重心位置(例えば、中心軸J1からの前後方向および左右方向の距離)も予め記憶されている。なお、貯溜部22における貯水量が変化すると貯溜部22内の水の平面視における重心位置も変化する場合、各貯水量毎の水の重心位置が制御部8に記憶される。
【0035】
次に、仮締切構造体2の組み立て、曳航および設置について
図5を参照しつつ説明する。締切構造体2の組み立て、曳航および設置は、ダム湖の湖面である水面97上にて行われる。仮締切構造体2が組み立てられる際には、まず、7つのブロック21が、水平方向にコの字状に配列された状態で互いに接合され、最下段のブロックユニット23が形成される。最下段のブロックユニット23は、例えば、台船上にて全体が組み立てられた後、クレーンにより水面97へと下ろされて水面97上に浮かぶ。あるいは、最下段のブロックユニット23の全体または一部の組み立ては、水面97上にて行われてもよい。当該ブロックユニット23では、各ブロック21の貯溜部22に水配管51およびガス配管52が接続される。
【0036】
最下段のブロックユニット23には、傾斜センサ31および喫水センサ32が設置される。傾斜センサ31は、例えば、ブロックユニット23の上面中央部に取り付けられる。喫水センサ32は、例えば、最下段のブロックユニット23の下端部近傍に取り付けられる。好ましくは、4つの喫水センサ32が、ブロックユニット23の左右方向および前後方向の4つの角部近傍に配置される。傾斜センサ31および喫水センサ32の取付位置は、適宜変更されてよい。
【0037】
続いて、喫水センサ32により最下段のブロックユニット23の喫水測定が行われ、測定値が制御部8へと送られる。制御部8では、当該測定値から、ブロックユニット23の上面位置(すなわち、水面97からの上面の高さ)が求められる。具体的には、例えば、上述の4つの喫水センサ32による測定値の算術平均(すなわち、平均喫水)が求められ、ブロックユニット23の高さから当該平均喫水が減算されることにより、ブロックユニット23の上面位置が求められる。そして、当該上面位置に基づいて、ポンプ53およびバルブ55,56が制御部8により制御され、貯溜部22に対する注水が行われる。これにより、最下段のブロックユニット23の上面位置が、下から2段目(以下、単に「2段目」とも呼ぶ。)のブロックユニット23の組み立てに適した位置に調節される。なお、ブロックユニット23の上面位置の調節は、必要に応じて行われればよい。
【0038】
次に、最下段のブロックユニット23上にブロック21が積層されて接合されることにより、2段目のブロックユニット23が組み立てられる。具体的には、2段目のブロックユニット23となる予定の複数のブロック21が、クレーンにより最下段のブロックユニット23の上面上に順次搭載され、最下段のブロックユニット23および水平方向に隣接するブロック21と接合される。傾斜センサ31は、好ましくは、2段目のブロックユニット23の組み立て中に、最下段のブロックユニット23から2段目のブロックユニット23の上面中央部へと移設される。
【0039】
2段目のブロックユニット23の組み立てが行われている間、傾斜センサ31および喫水センサ32による測定が継続的に行われ、測定値が制御部8へと送られる(
図5:ステップS11)。仮締切システム1では、当該測定値に基づいて制御部8による制御が行われ、必要に応じて複数の貯溜部22に対する注排水が行われる。これにより、水面に浮かんだ状態で組み立て中の仮締切構造体2の姿勢制御が行われる(ステップS12)。その結果、組み立て中の仮締切構造体2が許容範囲を超えて傾斜することが防止され、また、当該仮締切構造体2の上面位置が組み立てに適した位置に調節される。
【0040】
図6ないし
図11は、上述の姿勢制御を説明するための図である。
図6、
図8および
図10は、水面97上において2段目のブロックユニット23の組み立て中の仮締切構造体2(以下、単に「仮締切構造体2」とも呼ぶ。)を示す正面図である。
図7、
図9および
図11は、組み立て中の仮締切構造体2を示す平面図である。
図6および
図7では、仮に制御部8(
図2参照)による姿勢制御が行われなかったとした場合(すなわち、各ブロック21の貯溜部22に水が貯溜されていない状態)の仮締切構造体2を示す。
図8ないし
図11では、制御部8による姿勢制御が行われた状態の仮締切構造体2を示す。
図8ないし
図11では、貯溜部22内の水に平行斜線を付す。
【0041】
図6および
図7に示す例では、最下段のブロックユニット23上に積層されたブロック21の数は、
図6および
図7中の右側の方が左側よりも多いため、仮締切構造体2は右側に傾斜している。なお、
図6では、図の理解を容易にするために、仮締切構造体2の傾斜を実際よりも大きく描いている。また、
図6および
図7に示す例では、仮締切構造体2は前後方向には傾斜していないものとして説明する。
【0042】
仮締切システム1では、傾斜センサ31により仮締切構造体2の傾斜角θが測定され、喫水センサ32により仮締切構造体2の喫水が測定され、測定値が制御部8へと送られる。
図6に示す例では、傾斜角θ(すなわち、傾斜センサ31による測定値)は、所定の閾値以上であるため、制御部8により注排水システム5(
図4参照)が制御され、複数の貯溜部22に対する注排水が行われて仮締切構造体2の姿勢が調節される。当該閾値は、仮締切構造体2の上部における作業員の安全性確保や、仮締切構造体2の転倒防止を目的として、例えば、仮締切構造体2の形状や復原力曲線や、上流面92の上下方向の傾斜角等に基づいて適宜設定される。また、制御部8では、上述のように、複数の喫水センサ32による測定値から、仮締切構造体2の平均喫水が求められる。なお、傾斜角θが閾値未満である場合、仮締切構造体2の姿勢制御は行われなくてよい。
【0043】
上述の姿勢制御では、例えば、仮締切構造体2の平均喫水、および、上述の排水量曲線から、制御部8により仮締切構造体2の排水量(すなわち、浮力)が求められる。また、仮締切構造体2の平均喫水および傾斜角θ、並びに、上述の左右方向における復原力曲線から、制御部8により仮締切構造体2の復原梃が求められる。そして、仮締切構造体2の浮力と復原梃とが乗算されることにより、仮締切構造体2の浮力による回転モーメント(すなわち、前後方向に延びる回転軸を中心とした回転モーメント)が求められる。当該回転モーメントは、仮締切構造体2の重量の偏りにより生じる回転モーメントに略等しい。
【0044】
仮締切システム1では、当該回転モーメントを打ち消すために、
図8および
図9に例示するように、最下段のブロックユニット23において、
図8および
図9中の左側の腕部24に位置する貯溜部22に対して注水を行う。当該貯溜部22に対する注水量は、制御部8により、上記回転モーメントを、当該貯溜部22の重心と中心軸J1との間の左右方向の距離(すなわち、仮締切構造体2が傾斜している状態では、中心軸J1に垂直な方向における距離)で除算することによって求められる。これにより、仮締切構造体2の左右方向における傾斜が解消され、左右方向の傾斜角θがおよそ0°となる。仮締切システム1では、貯溜部22に対して実際に注入された水量は、貯溜部22に予め設けられた水位計等により測定されてもよく、貯溜部22に対する注水時間と注水流量とを乗算することにより求められてもよい。
【0045】
仮締切構造体2は、左側の腕部24に位置する貯溜部22(すなわち、第1貯溜部)に対する注水により、前側に傾く。このとき、前後方向の傾斜角が所定の閾値以上であれば、上述の左右方向の姿勢制御と略同様に、前後方向の姿勢制御が行われる。そして、
図8および
図9に例示するように、最下段のブロックユニット23において、連結部25の左右方向の中央部に位置する貯溜部22(すなわち、第2貯溜部)に対して注水が行われ、仮締切構造体2の前後方向における傾斜が解消される。これにより、組み立て中の仮締切構造体2が許容範囲を超えて傾斜することを防止することができる。
【0046】
なお、仮締切構造体2の姿勢制御では、左右方向の傾斜を解消する際には、必ずしも腕部24に位置する貯溜部22に対して注水が行われる必要はなく、連結部25に位置する貯溜部22に対して注水が行われてもよい。また、仮締切構造体2の前後方向の傾斜を解消する際には、必ずしも連結部25に位置する貯溜部22に対して注水が行われる必要はなく、腕部24に位置する貯溜部22に対して注水が行われてもよい。
【0047】
仮締切構造体2の姿勢制御では、貯溜部22に予め水が貯溜されている場合、必ずしも貯溜部22に対する注水が行われる必要はなく、貯溜部22からの排水が行われてもよい。貯溜部22からの排水による姿勢制御では、上述の姿勢制御にて注水が行われた貯溜部22とは左右対称または前後対称の位置に位置する貯溜部22(すなわち、左右方向または前後方向において中心軸J1に対して線対称の位置に位置する貯溜部22)から、上述の姿勢制御における注水量と同量の水が排出される。これにより、上記と同様に、仮締切構造体2の左右方向および前後方向における傾きが解消される。なお、仮締切システム1では、貯溜部22に対する注水、および、貯溜部22からの排水の双方が行われることにより、仮締切構造体2の左右方向および前後方向における傾きが解消されてもよい。
【0048】
上記の説明では、仮締切構造体2の左右方向の傾斜を解消した後に、前後方向の傾斜を解消するように仮締切構造体2の姿勢制御を行っているが、例えば、仮締切構造体2の左右方向および前後方向の傾斜を並行して解消するように、複数の貯溜部22に対する注排水が行われてもよい。なお、仮締切構造体2の姿勢制御では、左右方向および前後方向の傾斜のうち一方の傾斜のみを解消するように、貯溜部22に対する注排水が行われてもよい。例えば、前後方向の傾斜角が閾値未満である場合、左右方向の傾斜のみが解消されてもよい。
【0049】
仮締切システム1では、
図8に示すように、仮締切構造体2の傾斜が解消された後、
図10および
図11に示すように、制御部8により注排水システム5が制御され、最下段のブロックユニット23において複数の貯溜部22に対する注水が行われることにより、仮締切構造体2が全体的に少し下降する。これにより、最下段のブロックユニット23の上面位置(すなわち、仮締切構造体2の上面位置)が、2段目のブロックユニット23の組み立てに適した位置に調節される。このとき、仮締切構造体2に新たな傾斜が生じないように、注水が行われる複数の貯溜部22が制御部8により選択される。具体的には、複数の貯溜部22に注入される水全体の重心が、平面視において中心軸J1と重なるように、注水が行われる貯溜部22および注水量が決定される。
図10および
図11に示す例では、一対の腕部24に位置する貯溜部22(すなわち、第1貯溜部))、および、連結部25に位置する貯溜部22(すなわち、第2貯溜部)に対して注水が行われる。
【0050】
仮締切構造体2の上記姿勢制御では、仮締切構造体2の左右方向および前後方向の傾斜を解消した後に、仮締切構造体2の上面位置の調節が行われているが、例えば、仮締切構造体2の左右方向および前後方向の傾斜解消と、仮締切構造体2の上面位置の調節とが並行して行われるように、複数の貯溜部22に対する注排水が行われてもよい。なお、仮締切構造体2の上面位置の調節は、2段目のブロックユニット23の組み立て終了後に行われてもよい。
【0051】
2段目のブロックユニット23の組み立てが終了すると、当該ブロックユニット23の各貯溜部22に水配管51およびガス配管52が接続される。続いて、3段目以降の各ブロックユニット23の組み立てが、上記と略同様の手順により行われ、仮締切構造体2が形成される。3段目以降の各ブロックユニット23の組み立てが行われている間も、上記と同様に、傾斜センサ31および喫水センサ32による測定が継続的に行われ、当該測定値に基づいて、必要に応じて組み立て中の仮締切構造体2の姿勢制御が行われる(ステップS11~S12)。これにより、上述のように、組み立て中の仮締切構造体2が許容範囲を超えて傾斜することが防止され、また、当該仮締切構造体2の上面位置が組み立てに適した位置に調節される。その結果、仮締切構造体2の組み立てを安全かつ安定的に行うことができる。
【0052】
なお、当該姿勢制御では、仮締切構造体2の重心を低くして仮締切構造体2の姿勢を安定させるために、注水は、水底98にできるだけ近いブロックユニット23の貯溜部22に対して行われ、排水は、水底98からできるだけ離れたブロックユニット23の貯溜部22から行われることが好ましい。以後の姿勢制御においても同様である。
【0053】
仮締切構造体2の形成が終了すると、傾斜センサ31および喫水センサ32による測定値に基づいて、制御部8による仮締切構造体2の姿勢制御が行われ、仮締切構造体2の姿勢が、水面97上における曳航に適した姿勢に調節される(ステップS11~S12)。曳航に適した姿勢とは、例えば、仮締切構造体2の左右方向および前後方向の傾斜が約0°であり、喫水が所定の範囲内である姿勢である。当該姿勢制御も、上記と略同様の方法により行われる。
【0054】
続いて、仮締切構造体2は、台船等により堤体91近郊の設置位置へと曳航される。仮締切構造体2の曳航中も、傾斜センサ31および喫水センサ32による測定が継続的に行われ、傾斜センサ31および喫水センサ32の測定値に基づいて、上記と略同様の方法により仮締切構造体2の姿勢制御が継続的に行われる(ステップS11~S12)。これにより、仮締切構造体2の曳航中も、仮締切構造体2が許容範囲を超えて傾斜することが防止される。具体的には、仮締切構造体2の周囲の水流や風等の外乱、および、仮締切構造体2の曳航に利用される曳航索に加わる荷重の偏り等によって、曳航中の仮締切構造体2が大きく傾斜することが防止される。その結果、仮締切構造体2を安定して曳航することができる。
【0055】
仮締切構造体2の曳航が終了すると、クレーン等により、仮締切構造体2が水面97に浮いた状態で架台93の上方へと搬送される。そして、仮締切構造体2の貯溜部22に対する注水が行われることにより、仮締切構造体2の重量が浮力よりも大きくなる。これにより、仮締切構造体2が下降し、架台93上に水密に載置されて堤体91の上流面92と水密に接触する。その後、仮締切構造体2および堤体91に囲まれる空間から水が排除されることにより、作業空間が形成される。
【0056】
仮締切構造体2の下降中も、傾斜センサ31および喫水センサ32による測定が継続的に行われ、傾斜センサ31および喫水センサ32の測定値に基づいて、上記と略同様の方法により仮締切構造体2の姿勢制御が継続的に行われる(ステップS11~S12)。これにより、架台93上への設置の際も、仮締切構造体2が許容範囲を超えて傾斜することが防止される。その結果、仮締切構造体2が架台93に接触する際に、架台93に加わる荷重や衝撃が偏ることを抑制することができる。また、仮締切構造体2が下降時等に堤体91に衝突することを抑制することもできる。
【0057】
以上に説明したように、仮締切システム1は、水面97よりも下方から上方へと延びる対象構造物(例えば、ダム9の堤体91)近傍に設置され、水中の作業箇所の周囲を囲んで作業空間を形成するシステムである。仮締切システム1は、仮締切構造体2と、傾斜センサ31と、制御部8とを備える。仮締切構造体2の内部には、平面視において異なる位置に配置される複数の貯溜部22が設けられる。複数の貯溜部22はそれぞれ、互いに独立して液体を貯溜可能な密閉空間である。傾斜センサ31は、仮締切構造体2の傾斜を測定する。制御部8は、傾斜センサ31の測定値に基づいて、複数の貯溜部22に対する注排水を制御し、複数の貯溜部22における貯水量を調節することにより、水面97に浮かんだ状態の仮締切構造体2、または、水面97に浮かんだ状態で組み立て中の仮締切構造体2の姿勢を制御する。
【0058】
これにより、仮締切構造体2の姿勢を自動的に制御することができる。このため、潜水士による水中での貯溜部22に対する注排水作業を省略または減少することができる。その結果、仮締切構造体2の組み立て、曳航および設置における安全性を向上することができる。また、仮締切構造体2の組み立て、曳航および設置に要する時間およびコストを低減することもできる。さらに、仮締切構造体2の傾斜が急激に変化した場合等であっても、当該変化に対応して仮締切構造体2の姿勢を迅速に制御することができる。
【0059】
なお、上述の制御部8による複数の貯溜部22に対する注排水の制御とは、複数の貯溜部22の全てに対して注水または排水を行うことを意味しているわけではなく、複数の貯溜部22のうち1つ以上の貯溜部22に対して注水または排水を行うことを意味する。換言すれば、制御部8による複数の貯溜部22に対する注排水の制御では、複数の貯溜部22のそれぞれに対して、注水、排水、または、現状維持(すなわち、注排水のいずれも行わない)のいずれかが選択的に実行される。
【0060】
上述のように、仮締切構造体2は、左右方向に並んで配置される一対の腕部24を備えることが好ましい。また、一対の腕部24の前端部は、対象構造物において左右方向に沿って広がる設置対象面(例えば、堤体91の上流面92)に接触し、一対の腕部24の後端部同士は、当該設置対象面から後側に離間した位置にて接続されることが好ましい。このような非回転体の仮締切構造体2は、筒状等の回転体に比べて傾斜し易いため、上述のように仮締切構造体2の姿勢を自動制御可能な仮締切システム1における仮締切構造体2として特に適している。
【0061】
上述のように、対象構造物はダム9の堤体91であり、設置対象面は堤体91の上流面92であることが好ましい。仮締切システム1では、仮締切構造体2の姿勢を自動的に制御することができるため、堤体91の上流面92に対する作業に利用される大型の仮締切構造体2の組み立て、曳航および設置に特に適している。
【0062】
上述のように、仮締切構造体2は浮体式仮締切構造体であることが好ましい。これにより、仮締切構造体を設置するコンクリート製の台座を水底98に形成する台座式等に比べて、上記対象構造物近傍にて仮締切構造体2を支持するための支持構造物を簡素化および軽量化することができる。その結果、対象構造物に対する作業に要する時間およびコストを低減することができる。
【0063】
上述のように、複数の貯溜部22は、左右方向の異なる位置に位置する2つの第1貯溜部(例えば、一対の腕部24に位置する2つの貯溜部22)と、当該2つの第1貯溜部とは前後方向の異なる位置に位置する第2貯溜部(例えば、連結部25に位置する1つの貯溜部22)と、を含むことが好ましい。これにより、左右方向および前後方向の双方における仮締切構造体2の姿勢を自動的に制御することができる。
【0064】
上述のように、仮締切構造体2は、複数の貯溜部22をそれぞれ内部空間として有するとともに水平方向に配列されて互いに接合される複数のブロック21を備えることが好ましい。これにより、ダム9等の設置場所までの仮締切構造体2の搬送を容易とすることができる。また、仮締切構造体2の組み立て等において使用されるクレーン台船等の設備を小型化することもできる。
【0065】
上述のように、仮締切構造体2は、上下方向に積層されて互いに接合される複数の構造体要素(すなわち、ブロックユニット23)を備えることが好ましい。また、複数の構造体要素のうち最下段の構造体要素は、上述の複数の貯溜部22に含まれる2つ以上の貯溜部22を有することが好ましい。これにより、上下方向の高さが高い大型の仮締切構造体2を容易に形成することができる。また、2段目以降の各段の構造体要素を積層する際に、最下段の構造体要素の貯溜部22に対する注排水を行って姿勢制御が可能であるため、組み立て中の仮締切構造体2の姿勢制御を容易とすることができる。なお、上記構造体要素は、複数のブロック21が水平方向に連結されたブロックユニット23には限定されず、一繋がりの部材であってもよい。
【0066】
上述のように、仮締切システム1では、傾斜センサ31による測定値が所定の閾値以上である場合、制御部8による注排水が行われることが好ましい。これにより、傾斜角が比較的大きい傾斜に対して姿勢制御が行われ、仮締切構造体2の姿勢を所望の姿勢にて好適に維持することができる。また、傾斜角が閾値未満の微小傾斜については仮締切構造体2の姿勢制御が行われないため、仮締切構造体2の組み立て等において、貯溜部22に対する注排水の頻度を低減し、作業効率を向上することができる。
【0067】
上述のように、仮締切システム1は、仮締切構造体2の喫水を測定する喫水センサ32をさらに備えることが好ましい。また、制御部8による複数の貯溜部22に対する注排水の制御は、喫水センサ32の測定値にも基づいて行われる。これにより、仮締切構造体2の傾斜解消を高精度に行うことができる。また、仮締切構造体2の上面位置(すなわち、水面からの高さ)を適切に維持することができるため、仮締切構造体2の組み立ておよび曳航を好適に行うことができる。
【0068】
上述の仮締切構造体2の姿勢制御方法は、水面に浮かんだ状態の仮締切構造体2、または、水面に浮かんだ状態で組み立て中の仮締切構造体2の傾斜角を測定する工程と(ステップS11)、ステップS11における測定値に基づいて複数の貯溜部22に対する注排水を制御し、複数の貯溜部22における貯水量を調節することにより、水面に浮かんだ状態の仮締切構造体2、または、水面に浮かんだ状態で組み立て中の仮締切構造体2の姿勢を制御する工程とを備える。これにより、上記と同様に、仮締切構造体2の姿勢を自動的に制御することができる。
【0069】
上述の仮締切システム1では、様々な変更が可能である。
【0070】
例えば、上記説明では、仮締切構造体2の姿勢制御において、傾斜角が閾値以上である傾斜の解消が行われるが、傾斜角が閾値未満である場合であっても、貯溜部22に対する注排水が行われて仮締切構造体2の傾斜が解消されてもよい。また、当該姿勢制御は、必ずしも仮締切構造体2の傾斜解消を目的とするものである必要はなく、例えば、仮締切構造体2を所定の傾斜角だけ傾けることを目的として行われてもよい。例えば、曳航時におけるクレーンのワイヤが弛むことを抑制するために、仮締切構造体2を曳航方向の後側に向けて所定角度だけ傾斜させてもよい。
【0071】
仮締切構造体2では、上下方向に隣接する2つ以上の貯溜部22が、水および空気の移動が可能に連通されていてもよい。
【0072】
仮締切構造体2は、平面視において略コの字状の複数のブロックが、上下方向に1つずつ積層されることにより形成されてもよい。この場合、積層構造を有する仮締切構造体2の各段は、1つのブロックにより構成される。当該略コの字状のブロックの内部空間は、複数の貯溜部22に仕切られる。あるいは、当該ブロックの内部空間が複数の分割空間に仕切られ、当該複数の分割空間のうち1つ以上の分割空間が貯溜部22とされてもよい。なお、仮締切構造体2は、必ずしも積層構造を有する必要はなく、単層構造であってもよい。
【0073】
仮締切構造体2において、前後方向における姿勢制御が行われない場合、仮締切構造体2の内部には、左右方向の位置が異なる2つ以上の貯溜部22が設けられていればよい。また、仮締切構造体2において、左右方向における姿勢制御が行われない場合、仮締切構造体2の内部には、前後方向の位置が異なる2つ以上の貯溜部22が設けられていればよい。これらの2つ以上の貯溜部22は、上下方向の異なる位置に配置されてもよい。
【0074】
仮締切構造体2の平面視における形状は、略コの字状には限定されず、例えば略半円状であってもよい。この場合、当該略半円状の左右方向における中央部(すなわち、平面視における頂部)の左右両側の部位が、堤体91の上流面92から後側に離間した位置にて後端部同士が直接的に接続される一対の腕部24に相当する。また、仮締切構造体2は、必ずしも一対の腕部24を備える必要はなく、様々な形状(例えば、略円筒状や略四角筒状)を有していてもよい。
【0075】
上述の仮締切システム1、および、仮締切構造体2の姿勢制御方法では、水中に浮かんだ状態(すなわち、仮締切構造体2の全体が水面97よりも下方、かつ、水底98よりも上方に位置する状態)の仮締切構造体2の傾斜角が上記と同様に測定され、当該仮締切構造体2の姿勢が上記と同様に制御されてもよい。また、水中に浮かんだ状態で組み立て中の仮締切構造体2の傾斜角が上記と同様に測定され、当該仮締切構造体2の姿勢が上記と同様に制御されてもよい。これらの場合であっても、上記と同様に、仮締切構造体2の姿勢を自動的に制御することができる。
【0076】
仮締切システム1では、喫水センサ32は省略されてもよい。この場合、仮締切構造体2の喫水は、例えば、仮締切構造体2の側面等に設けられた喫水線等を目視することにより取得され、制御部8に入力されてもよい。また、上記例では、仮締切構造体2の平均喫水と排水量曲線とに基づいて仮締切構造体2の浮力が求められるが、仮締切構造体2の喫水が不明である場合であっても、仮締切構造体2の重量(組み立て中の場合は、組み立てが終了している部材の合計重量)が分かっていれば、仮締切構造体2の浮力は当該重量に略等しいとして求めることができる。
【0077】
仮締切構造体2は、重量よりも浮力の方が大きい状態で、堤体91の上流面92に設置されてもよい。この場合、例えば、上流面92等において仮締切構造体2の上端部よりも上方に浮上防止具が設けられ、仮締切構造体2の上端部が当該浮上防止具に下方から当接することにより、仮締切構造体2の上下方向の位置が固定される。この場合、仮締切構造体2の底部に底面を設けて架台93を省略してもよい。
【0078】
仮締切構造体2は、必ずしも浮体式仮締切構造体である必要はなく、様々な種類の仮締切構造体であってよい。例えば、仮締切構造体2は、水底98に形成された台座上に載置される台座式仮締切構造体であってもよい。
【0079】
仮締切構造体2により囲まれる作業箇所は、必ずしも堤体91の上流面92に位置する必要はなく、例えば、上流面92近傍に位置していてもよい。また、仮締切構造体2が設置される対象構造物は、必ずしもダム9の堤体91には限定されず、水面よりも下方から上方へと延びる様々な構造物(例えば、水面を貫通する橋脚、または、浮体構造物のストラット等)であってよい。
【0080】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【符号の説明】
【0081】
1 仮締切システム
2 仮締切構造体
8 制御部
9 ダム
21 ブロック
22 貯溜部
23 ブロックユニット
24 腕部
31 傾斜センサ
32 喫水センサ
91 堤体
92 上流面
97 水面