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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-23
(45)【発行日】2023-01-06
(54)【発明の名称】真空蒸着装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/24 20060101AFI20221226BHJP
   C23C 14/54 20060101ALI20221226BHJP
【FI】
C23C14/24 U
C23C14/54 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019199326
(22)【出願日】2019-10-31
(65)【公開番号】P2021070853
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】清水 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】藤本 英志
(72)【発明者】
【氏名】松本 祐司
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-281808(JP,A)
【文献】特開2013-204073(JP,A)
【文献】特表2016-507644(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着材料を収容した第1るつぼからの前記蒸着材料の放出量を調整する第1調整弁の開放量、および、前記蒸着材料を収容した第2るつぼからの前記蒸着材料の放出量を調整する第2調整弁の開放量を調整する開放量調整工程と、
圧力検出器により、基板に対して放出される前記蒸着材料の放出圧の検出値を取得する圧力検出工程と、を含み、
前記開放量調整工程では、
前記第1調整弁および前記第2調整弁の両方が少なくとも一部開放されている場合、前記基板に蒸着した前記蒸着材料によって形成される膜の膜厚を検出する膜厚検出器により取得した前記膜厚の検出値を用いて、前記第1調整弁および前記第2調整弁の開放量を調整し、
前記第1調整弁および前記第2調整弁の何れか一方のみが少なくとも一部開放されている場合、前記膜厚の検出値ではなく、前記圧力検出工程で取得した前記放出圧の検出値を用いて、前記第1調整弁または前記第2調整弁の開放量を調整する真空蒸着装置の制御方法。
【請求項2】
前記開放量調整工程では、前記第1調整弁および前記第2調整弁の両方が少なくとも一部開放されている場合に、
前記膜厚検出器による前記膜厚の検出結果が一定となるように、前記第1調整弁および前記第2調整弁の何れか一方の開放量を下げていくと共に、他方の開放量を上げていく、請求項1に記載の真空蒸着装置の制御方法。
【請求項3】
前記開放量調整工程では、前記第1調整弁および前記第2調整弁の両方が少なくとも一部開放されている場合に、
前記膜厚検出器による前記膜厚の検出結果が一定となるように、前記第1調整弁および前記第2調整弁の何れか一方の開放量を上げていき、他方の開放量は一定とする、請求項1に記載の真空蒸着装置の制御方法。
【請求項4】
前記第1るつぼで前記蒸着材料を所定の温度に加熱し、前記第1調整弁を閉じた状態で、前記第1るつぼを脱気する第1脱気弁を開放するか、または、前記第2るつぼで前記蒸着材料を前記所定の温度に加熱し、前記第2調整弁を閉じた状態で、前記第2るつぼを脱気する第2脱気弁を開放する前処理工程をさらに含んでいる、請求項1から3の何れか1項に記載の真空蒸着装置の制御方法。
【請求項5】
前記蒸着材料は、フッ素樹脂を含んでいる、請求項1から4の何れか1項に記載の真空蒸着装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空蒸着装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
防汚膜等の機能性を有した膜を形成するために、蒸着材料を基板に蒸着する真空蒸着装置が用いられている。近年、このような真空蒸着装置には、蒸着材料を長時間にわたって連続的に蒸着できることが求められてきている。この場合、るつぼに収容する蒸着材料の量を多くする必要があるが、るつぼの大容量化には限界がある。そのため、複数のるつぼに蒸着材料を収容しておき、これらのるつぼを切り替えながら連続的に蒸着する真空蒸着装置が提案されている。
【0003】
例えば特許文献1には、蒸着材料を収容した少なくとも2つのるつぼを迅速に交換できる真空蒸着装置が開示されている。また、特許文献2に開示の有機ELパネルの製造方法では、成膜材料が収容される複数の材料容器から放出される成膜材料について、各材料容器からの放出状態制御を行う。これにより、成膜工程を所望の状態で長時間連続的に行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-204073号公報
【文献】特開2005-281808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示の真空蒸着装置では、るつぼの交換中は基板への蒸着材料の蒸着を行うことができない。そのため、るつぼを迅速に交換できるとはいえ、るつぼ交換による時間的なロスが無くなるわけではない。
【0006】
特許文献2に開示の方法によれば、材料容器の交換を行いながら長期間連続的に成膜を行うことができる。ここで特許文献2には、2つの材料容器からの放出状態制御には、基板上の膜厚または成膜材料の放出状態等を検出する検出器を用いることが示されている。このとき、例えば基板上の膜厚を検出する膜厚検出器を用いれば正確な成膜状態を検出できる一方、このような膜厚検出器は一般的に耐用寿命が比較的短い。そのため、膜厚検出器による常時検出は、メンテナンスコストの観点から好ましくない。
【0007】
一方、成膜材料の放出状態を検出する圧力検出器等は、耐用寿命は比較的長いが、基板上の膜厚を直接的に検出するものではない。したがって、圧力検出器等を用いる場合、正確な成膜状態が検出できるとは限らない。特許文献2には、これらのような特性を有した各種検出器を、どのように使用して放出状態制御を行うかについては、何ら開示されていない。
【0008】
本発明の一態様は、るつぼの交換時に蒸着レートを制御する真空蒸着装置における膜厚検出器の寿命を延ばすことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る真空蒸着装置の制御方法は、蒸着材料を収容した第1るつぼからの前記蒸着材料の放出量を調整する第1調整弁の開放量、および、前記蒸着材料を収容した第2るつぼからの前記蒸着材料の放出量を調整する第2調整弁の開放量を調整する開放量調整工程と、圧力検出器により、基板に対して放出される前記蒸着材料の放出圧の検出値を取得する圧力検出工程と、を含み、前記開放量調整工程では、前記第1調整弁および前記第2調整弁の両方が少なくとも一部開放されている場合、前記基板に蒸着した前記蒸着材料によって形成される膜の膜厚を検出する膜厚検出器により取得した前記膜厚の検出値を用いて、前記第1調整弁および前記第2調整弁の開放量を調整し、前記第1調整弁および前記第2調整弁の何れか一方のみが少なくとも一部開放されている場合、前記膜厚の検出値ではなく、前記圧力検出工程で取得した前記放出圧の検出値を用いて、前記第1調整弁または前記第2調整弁の開放量を調整する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、るつぼの交換時に蒸着レートを制御する真空蒸着装置における膜厚検出器の寿命を延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態に係る真空蒸着装置1の内部構造を模式的に示す斜視図である。
図2】一実施形態に係る真空蒸着装置1の概略構成図である。
図3】実施形態1に係る真空蒸着装置1の機能ブロック構成を示す図である。
図4】実施形態1に係る制御装置50による真空蒸着装置1の制御方法を示すフローチャートである。
図5】実施形態1に係る制御装置50により実行される前処理工程を示すフローチャートである。
図6】実施形態1に係る制御装置50により実行される単一るつぼ蒸着工程を示すフローチャートである。
図7】実施形態1に係る制御装置50により実行される第1開放量調整工程を示すフローチャートである。
図8】実施形態1に係る制御装置50により実行される第2開放量調整工程を示すフローチャートである。
図9】実施形態1に係る制御装置50により実行される前処理工程を示すフローチャートである。
図10】実施形態2に係る制御装置50により実行される第1開放量調整工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔実施形態1〕
<真空蒸着装置の構成>
本発明の一実施形態について、図1から図4を参照して以下に説明する。図1および図2に示すように、真空蒸着装置1は、真空容器10と、蒸発源11と、圧力センサ(圧力検出器)12と、膜厚センサ(膜厚検出器)13と、巻出しロール14と、巻取りロール15と、第1るつぼ20と、第2るつぼ30と、回収容器40と、制御装置50と、各種弁と、を備えている。各種弁には、第1調整弁21と、第1開閉弁22と、第2調整弁31と、第2開閉弁32と、第1脱気弁23、第2脱気弁33と、第3脱気弁41と、が含まれる。
【0013】
真空蒸着装置1は、基板16上に、防汚膜(AF膜;Anti-Fingerprint膜)等の機能性を有する膜を、蒸着により形成するための装置である。他の機能性を有する膜としては、有機EL(Electro Luminescence)膜、着色膜および親水化膜等が挙げられるが、これに限定されない。基板16については後述する。
【0014】
真空容器10は、基板16への蒸着材料の蒸着を行うための空間が形成された容器である。真空容器10は、脱気ポンプ(不図示)に接続されており、蒸着中は内部が真空状態となっている。真空容器10の内部には、蒸発源11が配置されている。蒸発源11は、基板16に対して蒸着材料を放出するためのノズルを複数備えている。ノズルの放出口は基板16に向けて開口している。蒸発源11へ供給された蒸着材料はノズルから放出され、放出された蒸着材料が基板16に蒸着する。これにより、基板16上に膜が形成される。
【0015】
蒸発源11には、圧力センサ12が配置されている。圧力センサ12は、蒸発源11から放出される蒸着材料の放出圧を検出する。圧力センサ12の検出値は、基板16上に形成される膜の膜厚が一定となるよう、蒸発源11から放出される蒸着材料の放出圧を調整するために用いられる。圧力センサ12は、従来一般的な圧力センサを用いてよい。
【0016】
膜厚センサ13は、真空容器10の内部に設けられている。膜厚センサ13は、例えば水晶振動子マイクロバランス(Quartz Crystal Microbalance;QCM)センサである。このような膜厚センサ13は水晶からなる蒸着面を備えており、蒸発源11から放出された蒸着材料によって当該蒸着面上に形成される膜の膜厚を、水晶の共振周波数の変化により検出する。前記の蒸着面は、例えば蒸発源11の近傍に配置されており、蒸発源11に当該蒸着面に向けて開口したノズルが備えられていてもよい。蒸発源11に備えられた複数のノズルが、略等しい放出圧により蒸着材料を放出していれば、前記の蒸着面に形成される膜の膜厚は、基板16上に形成される膜の膜厚と比例関係になる。したがって、膜厚センサ13は基板16上の膜厚を検出できる。
【0017】
なお、膜厚センサ13が備える蒸着面の配置はこれに限られない。例えば前記の蒸着面は、真空容器10の内部で基板16の近傍に配置されていてもよい。この場合は、前記の蒸着面上に形成される膜の膜厚は、基板16上に形成される膜の膜厚と略等しくなる。したがって、このような配置の膜厚センサ13も、基板16上に形成される膜の膜厚を検出できる。
【0018】
膜厚センサ13は、検出に伴って蒸着面上に膜が積み重なっていく。膜厚センサ13は、蒸着面上に形成される膜が積み重なって厚くなるに従い、水晶の共振周波数が低下して感度が下がってしまうという問題がある。そのため、膜厚センサ13の蒸着面は定期的に再生または交換等のメンテナンスを行う必要がある。膜厚センサ13による検出時間が長いほど、膜厚センサ13の蒸着面のメンテナンス頻度は上がるため、膜厚センサ13によって検出を行う時間は必要最小限であることが好ましい。また、膜厚センサ13によって検出を行わないときは、膜厚センサ13の蒸着面に膜が形成されないよう、当該蒸着面をカバーするQCMシャッタ等を閉じておくことが好ましい。
【0019】
真空蒸着装置1は、このような圧力センサ12および膜厚センサ13等を用いて蒸発源11からの蒸着材料の放出圧を調整するため、基板16上に精度よく所定の厚さの膜を形成することができる。
【0020】
巻出しロール14は、蒸着による膜形成前の基板16が巻かれているロールである。巻取りロール15は、蒸着後の膜が形成された基板16を巻き取るロールである。巻出しロール14および巻取りロール15は、真空容器10の内部に備えられている。巻出しロール14は、基板16を巻き出していく。そして、膜が形成された基板16は、巻取りロール15により巻き取られる。真空蒸着装置1は、基板16を搬送する方向を転換させる搬送機構として、巻出しロール14および巻取りロール15以外のロール等が設けられていてもよい。
【0021】
基板16は、例えばプラスチック製のフィルム等である。このようなプラスチックとしては、例えばポリカーボネート(PC;Poly Carbonate)またはポリエチレンテレフタレート(PET;Poly Ethylene Terephthalate)等が挙げられるが、これに限られない。基板16は、巻出しロール14等に巻かれることが可能な程度の柔軟性があれば、どのような材料により形成されていてもよい。基板16の、巻出しロール14から巻き出される方向の長さは、数メートルであってもよく、長ければ数キロメートルであってもよい。
【0022】
第1るつぼ20および第2るつぼ30は、蒸着材料が収容される容器である。第1るつぼ20および第2るつぼ30は、ヒータ(不図示)により内部が加熱され、収容されている蒸着材料を蒸発させる。蒸発した蒸着材料は、蒸発源11から基板16に対して放出される。また、第1るつぼ20および第2るつぼ30は、前記の脱気ポンプに接続されており、真空容器10と同様に内部を真空にできる。第1るつぼ20および第2るつぼ30から蒸着材料が蒸発し、蒸発源11に蒸発した蒸着材料が供給されるときは、第1るつぼ20および第2るつぼ30は真空状態である。
【0023】
第1るつぼ20および第2るつぼ30に収容される蒸着材料は、基板16上に形成する膜の種類によって適宜選択されてよい。例えば、基板16上に防汚膜を形成する場合、前記の蒸着材料はフッ素樹脂を含んでいてよい。また前記の蒸着材料には、膜を形成するための成分以外の、例えば溶媒等の成分が含まれていてもよい。
【0024】
(各種弁)
第1調整弁21は、第1るつぼ20から蒸発した蒸着材料の放出量を調整する弁である。第2調整弁31は、第2るつぼ30から蒸発した蒸着材料の放出量を調整する弁である。第1るつぼ20または第2るつぼ30からの蒸着材料の放出量は、蒸発源11への蒸着材料の供給量と略等しくなる。したがって、第1るつぼ20または第2るつぼ30からの蒸発した蒸着材料の放出量は、蒸発源11から基板16への蒸着材料の放出量と略等しくなる。
【0025】
第1調整弁21および第2調整弁31は、開放量に応じて通過する蒸着材料の量を調整できる。なお、第1るつぼ20または第2るつぼ30に対して、蒸着材料の放出量を調整するための弁はそれぞれ1つに限られず、複数であってもよい。このような弁を複数設けることで、各るつぼからの蒸着材料の放出量を、より精密に調製できる。
【0026】
第1開閉弁22は、第1るつぼ20の開閉を切り替える弁である。第2開閉弁32は、第2るつぼ30の開閉を切り替える弁である。第1開閉弁22および第2開閉弁32は、第1調整弁21および第2調整弁31のように、開放量に応じて蒸着材料の放出量を調整するものではない。
【0027】
第1脱気弁23は、第1るつぼ20を脱気する弁である。第2脱気弁33は、第2るつぼ30を脱気する弁である。図1に示している第3脱気弁41は、第1脱気弁23および第2脱気弁33よりも外部側のガス経路上に設けられており、第1るつぼ20および第2るつぼ30を脱気する弁である。また第3脱気弁41は、第1るつぼ20および第2るつぼ30への、大気の取り入れを制御する弁でもある。
【0028】
第1るつぼ20および第2るつぼ30に収容される蒸着材料には、基板16上に膜を形成するための主成分以外に、溶媒等の成分を含んでいる場合がある。このような溶媒等が主成分と共に蒸発源11から放出されてしまうと、基板16上に形成される膜が所望の性能を発揮できない、すなわち膜質が低下してしまう場合がある。したがって、蒸着材料に含まれる溶媒等は、蒸発源11に供給する前に除去することが好ましい。
【0029】
このような溶媒等は一般的に、フッ素樹脂等の蒸着材料の主成分と比較して分子量が小さく、沸点が低い。そこで、第1るつぼ20を上述のヒータ等により加熱するとき、収容された蒸着材料が所定の温度(例えば100℃程度)に達してから所定の時間、第1調整弁21を閉じた状態で、第1脱気弁23を開放する。第2るつぼ30を加熱するときも、第2脱気弁33を同様に開放する。これにより、低沸点により先に蒸発した溶媒等が十分に除去された状態の蒸着材料を、蒸発源11に供給できる。したがって、基板16上に形成される膜の膜質を一定の品質に保つことができる。
【0030】
なお、前記の所定の温度は、蒸着材料に含まれている成分および溶媒の種類によって適切な温度が選択されてよい。また前記の所定の時間は、蒸着材料に含まれている成分および溶媒の種類によって適切な時間が選択されてよい。
【0031】
ここで、第1脱気弁23および第2脱気弁33を開放すると、前記の溶媒に加え、前記の主成分もある程度蒸発して除去されてしまう。このとき、除去された前記の溶媒および前記の主成分は、回収容器40に回収されてよい。回収容器40に回収された前記の溶媒および前記の主成分は、蒸着材料等に再利用することができる。
【0032】
なお真空蒸着装置1は、第1脱気弁23、第2脱気弁33、第3脱気弁41および回収容器40を備えていなくてもよい。
【0033】
(制御装置)
次に、図3を用いて真空蒸着装置1が備える制御装置50について説明する。図3に示すように、制御装置50は、真空蒸着装置1の各部の動作を制御する。制御装置50は、開放量調整部51と、圧力検出部52と、膜厚検出部53と、るつぼ制御部54と、を備えている。
【0034】
開放量調整部51は、圧力検出部52から圧力センサ12の検出値を取得する。また開放量調整部51は、膜厚検出部53から膜厚センサ13の検出値を取得する。真空蒸着装置1が他のセンサを備えている場合、開放量調整部51は、当該他のセンサによる検出値をさらに取得してもよい。開放量調整部51は、圧力検出部52等から取得した圧力センサ12等の検出値を用いて、第1調整弁21および第2調整弁31の開放量を調整する。これらの弁の開放量を調整する具体的な方法については後述する。
【0035】
圧力検出部52は、蒸発源11から基板16に対して放出される蒸着材料の放出圧を検出する圧力センサ12から、当該放出圧の検出値を取得する。膜厚検出部53は、基板16に蒸着した蒸着材料によって形成される膜の膜厚を検出する膜厚センサ13から、当該膜厚の検出値を取得する。
【0036】
圧力検出部52は、圧力センサ12の検出中に常時、略リアルタイムで圧力センサ12の検出値を取得してもよく、所定の時間ごとに圧力センサ12の検出値をまとめて取得してもよい。開放量調整部51による第1調整弁21および第2調整弁31の開放量の調製を精密に行うためには、圧力検出部52は略リアルタイムで圧力センサ12の検出値を取得することが好ましい。膜厚検出部53による、膜厚センサ13の検出値の取得については、圧力検出部52と同様であってよい。
【0037】
るつぼ制御部54は、前記のヒータ等による第1るつぼ20および第2るつぼ30の加熱および前記の脱気ポンプによる第1るつぼ20および第2るつぼ30の真空化等を制御する。またるつぼ制御部54は、第1開閉弁22および第2開閉弁32の開閉を制御する。またるつぼ制御部54は、第1るつぼ20および第2るつぼ30が備える残量センサ(不図示)等の検出値を取得し、るつぼ制御部54による上述の各種制御に当該検出値を用いてもよい。
【0038】
真空蒸着装置1が第1脱気弁23、第2脱気弁33、第3脱気弁41および回収容器40を備えている場合、制御装置50は前処理部55を含む。前処理部55は、第1脱気弁23および第2脱気弁33の開閉を制御する。また、前処理部55は第3脱気弁41の開閉を制御してもよい。前処理部55は、るつぼ制御部54から、第1るつぼ20および第2るつぼ30の加熱状態等の情報を取得し、第1脱気弁23および第2脱気弁33の開閉タイミングを制御してよい。
【0039】
制御装置50の各部の機能は、例えばCPU(Central Processing Unit)等により実現される。また、制御装置50の各部が取得した各種センサの検出値は、制御装置50が備えるHDD(Hard Disk Drive)、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)等の記憶媒体に記憶されてよい。
【0040】
<真空蒸着装置の制御方法>
真空蒸着装置1の制御方法の一例について、図4から図9を参照して以下に説明する。なお、真空蒸着装置1の制御方法は、以下に示す方法に限定されるものではない。
【0041】
図4では、まず第1るつぼ20に収容された蒸着材料を用いて基板16上に膜を形成し、途中で蒸着材料の容器を第2るつぼ30に切り替え、さらに第1るつぼ20に切り替える場合の制御方法について説明している。なお、るつぼの交換順番および交換回数はこれに限られない。図4では、S4以降のフローについて、紙面に向かって左側に第1るつぼ20に係る制御フローを、右側に第2るつぼ30に係る制御フローをそれぞれ示している。第1るつぼ20に係る制御フローと、第2るつぼ30に係る制御フローは、並行して実行される。ただし、特に示さない限り、これらの制御フローに含まれる各ステップが同時に実行される必要はない。
【0042】
また、図5から図9には、真空蒸着装置1の制御方法における各工程のサブフローを示している。これらのサブフローでは、示している各ステップが第1るつぼ20に係る処理(第1るつぼ20側の処理)か、第2るつぼ30に係る処理(第2るつぼ30側の処理)かは明示していない。これらのサブフローがいずれのるつぼに係る処理であるかは、図4でいずれのるつぼに係る処理として示されているかによって決定される。なお、第1るつぼ20に係る処理とは、第1るつぼ20、第1調整弁21、第1開閉弁22および第1脱気弁23を制御する処理を示す。また、第2るつぼ30に係る処理とは、第2るつぼ30、第2調整弁31、第2開閉弁32および第2脱気弁33を制御する処理を示す。
【0043】
(制御方法の概略)
るつぼ制御部54は、真空蒸着装置1に、蒸着材料が収容された第1るつぼ20および第2るつぼ30が取り付けられたことを検知する(S1)。るつぼ制御部54は、第1るつぼ20および第2るつぼ30を上述の脱気ポンプにより真空状態にする(S2)。制御装置50は、真空蒸着の準備として、真空蒸着装置1の第1るつぼ20および第2るつぼ30以外の部分を加熱する(S3)。S3で加熱されるのは、蒸発した蒸着材料が通過する部分であり、例えば第1るつぼ20および第2るつぼ30から蒸発源11までの間のガス経路および各種弁等である。
【0044】
次に、第1るつぼ20側について、るつぼ制御部54は、第1開閉弁22を閉止し、第1脱気弁23を開放する(S4)。そして制御装置50は、第1るつぼ20に係る前処理工程を実行して、第1るつぼ20に収容された蒸着材料から、溶媒等の成分を除去する(S5)。前処理工程については後述する。
【0045】
次にるつぼ制御部54は、第1るつぼ20を蒸着材料に含まれる主成分が蒸発する温度である目標温度に加熱し、第1るつぼ20を当該目標温度で安定させる(S6)。るつぼ制御部54は第1開閉弁22を開放し(S7)、圧力センサ12を第1調整弁21および第2調整弁31の開放量の調整に用いるセンサとして設定する(S8)。そして、制御装置50は、第1るつぼ20に係る単一るつぼ蒸着工程を実行し、第1るつぼ20を用いた基板16上への蒸着材料の蒸着を行う(S9)。単一るつぼ蒸着工程については後述する。
【0046】
ここで制御装置50は、S4からS9の処理を実行している間に、並行して以下に示すS10からS13の処理を実行する。具体的にはまず、前処理部55は第2脱気弁33を閉止する(S10)。次に、るつぼ制御部54は第2開閉弁32を閉止し、前処理部55は第2脱気弁33を開放する(S11)。そして、制御装置50は第2るつぼ30に係る前処理工程を実行し、第2るつぼ30に収容された蒸着材料から、溶媒等の成分を除去する(S12)。また、制御装置50は、S9の単一るつぼ蒸着工程を実行中、第1るつぼ20に残留する蒸着材料が所定量以下となったことを検知した場合、第2るつぼ30を前記の目標温度に加熱し、第2るつぼ30を当該温度で安定させる(S13)。このように、制御装置50は、第1るつぼ20の準備および第1るつぼ20による蒸着工程と並行して、第2るつぼ30の準備を行う。
【0047】
制御装置50は、第1るつぼ20に残留する蒸着材料が、蒸発源11からの目標とする放出圧を維持できない量となった場合、第1るつぼ20から第2るつぼ30への切り替えを実行する。このとき制御装置50は、第1るつぼ20に係る第1開放量調整工程を実行し(S14)、並行して第2るつぼ30に係る第2開放量調整工程を実行する(S15)。開放量調整部51は、S14およびS15で、膜厚センサ13の検出値を用いて第1調整弁21および第2調整弁31の開放量を調整することで、第1るつぼ20から第2るつぼ30への連続的な切り替えを実現する。第1開放量調整工程および第2開放量調整工程については後述する。
【0048】
そして、第1るつぼ20から第2るつぼ30への切り替え後は、制御装置50は第1るつぼ20に係る充填工程(S16)を実行し、第1るつぼ20への蒸着材料の充填を制御する。充填工程については後述する。また制御装置50は、第1るつぼ20に係る前処理工程(S17)を実行し、第1るつぼ20から溶媒等の成分を除去する。制御装置50は、S16およびS17により、次のるつぼ切り替えに備えて第1るつぼ20の準備を行う。
【0049】
第1るつぼ20の準備を行っている間、制御装置50は並行して、第2るつぼ30に係る単一るつぼ蒸着工程を実行し、第2るつぼ30を用いた基板16上への蒸着材料の蒸着を行う(S18)。そして制御装置50は、第2るつぼ30に残留する蒸着材料が、蒸発源11からの目標とする放出圧を維持できない量となった場合、第2るつぼ30から第1るつぼ20への切り替えを実行する。このとき制御装置50は、第2るつぼ30に係る第1開放量調整工程を実行し(S19)、並行して第2るつぼ30に係る第2開放量調整工程を実行する(S20)。
【0050】
そして制御装置50は、第1るつぼ20から第2るつぼ30への切り替え後は、さらに第1るつぼ20に係る単一るつぼ蒸着工程を実行し(S21)、一連の処理を終了する。なお制御装置50による、S19およびS21の工程終了後の、基板16上への蒸着材料の蒸着を終了する処理については、本明細書では説明を省略する。なお、第1るつぼ20側で、S21の工程終了後にS14に処理を戻し、第2るつぼ30側では、S19の工程終了後、第2るつぼ30に係る充填工程を行った後S12に処理を戻してもよい。これにより、さらにるつぼの交換を実行できる。したがって、るつぼの交換は、基板16の長さに応じて任意の回数行うことができるため、基板16上への蒸着材料の蒸着を長時間連続して行うことができる。
【0051】
(前処理工程)
図5に示すように、前処理工程では、るつぼ制御部54が第1るつぼ20または第2るつぼ30を所定の脱気温度に加熱する(S31)。ここでは、所定の脱気温度は略100℃である。次に、前処理部55は、第1るつぼ20または第2るつぼ30からガスが脱気する脱気経路にかかる圧力が、所定の圧力以下であるか否かを判定する(S32)。前記の脱気経路にかかる圧力が、所定の圧力以上であった場合(S32でNO)、前処理部55は、第1るつぼ20または第2るつぼ30に収容される蒸着材料に所定量以上の溶媒等が残留していると判定する。この場合前処理部55は、第1脱気弁23または第2脱気弁33を開放したままにする。一方、前記の脱気経路にかかる圧力が、所定の圧力より小さかった場合(S32でYES)、前処理部55は、蒸着材料に含まれていた溶媒等の除去が完了したと判定し、第1脱気弁23または第2脱気弁33を閉止する(S33)。これにより、前処理工程が終了する。
【0052】
前処理工程によって、蒸着材料から、基板16へ膜を形成する主成分以外の、溶媒等の成分を効果的に除去できる。したがって、基板16上に蒸着される蒸着材料には前記の主成分以外の成分がほとんど含まれないため、基板16上に形成される膜の膜質を一定の品質に保つことができる。なお制御装置50は、前処理工程を省略してもよい。
【0053】
(単一るつぼ蒸着工程)
図6に示すように、単一るつぼ蒸着工程では、開放量調整部51が第1調整弁21または第2調整弁31を開放する(S41)。開放量調整部51は、蒸発源11からの蒸着材料の放出圧レートが、目標とする所定の目標レートの範囲内であるか否かを判定する(S42)。放出圧レートは、圧力検出部52が、圧力センサ12から取得した検出値を用いて算出する(圧力検出工程)。前記の放出圧レートが前記の目標レートの範囲内にあれば、圧力センサ12の検出値は一定であるといえる。なお、単一るつぼ蒸着工程では、膜厚センサ13のメンテナンス頻度を低減するため、膜厚センサ13は用いられないことが好ましい。
【0054】
蒸発源11からの蒸着材料の放出圧レートが前記の目標レート範囲内である場合(S42でYES)、開放量調整部51は、第1調整弁21または第2調整弁31の開放量を維持する。一方、蒸発源11からの蒸着材料の放出圧レートが前記の目標レート範囲外である場合(S42でNO)、開放量調整部51は、第1調整弁21または第2調整弁31の開放量を調整する(S43)。このとき開放量調整部51は、S43で調整後の第1調整弁21または第2調整弁31の開放量が、所定の閾値以上であるか否かを判定する(S44)。ここで所定の閾値とは、例えば、第1調整弁21または第2調整弁31により、これらの弁を通過する蒸着材料の量を正確に調整できる最大限の開放量である。
【0055】
第1調整弁21または第2調整弁31の開放量が所定の閾値以上ではないと判定した場合(S44でNO)、開放量調整部51はS42に戻り、放出圧レートに応じて第1調整弁21または第2調整弁31の調整を継続する。一方、開放量調整部51が、第1調整弁21または第2調整弁31の開放量が所定の閾値以上であると判定した場合(S44でYES)、るつぼ制御部54は、第1るつぼ20または第2るつぼ30を加熱する。当該加熱により第1るつぼ20または第2るつぼ30の温度が目標温度よりも高い温度となるため、これらのるつぼに収容される蒸着材料の蒸発速度が加速する。したがって、第1るつぼ20または第2るつぼ30に残留した蒸着材料が少ないことで低下した放出圧レートを、S45での加熱により一時的に回復できる。
【0056】
このとき、るつぼ制御部54は、第1るつぼ20または第2るつぼ30の温度が、これらのるつぼの最大耐用温度である限界温度以下であるか否かを判定する(S46)。第1るつぼ20または第2るつぼ30の温度が限界温度以下であると判定した場合(S46でYES)、るつぼ制御部54は、第1るつぼ20または第2るつぼ30の加熱を継続する。一方、第1るつぼ20または第2るつぼ30の温度が限界温度を超えていると判定した場合(S46でNO)、るつぼ制御部54は、単一るつぼ蒸着工程にて制御されているるつぼとは異なる方のるつぼ(他方のるつぼ)について、前記の目標温度への加熱を開始する(S47)。これは、現在制御しているるつぼから、当該他方のるつぼへの切り替えタイミングが近づいているためである。
【0057】
なお、前記他方のるつぼの加熱は、現在制御しているるつぼが前記の限界温度に達するよりも少し前に開始することが好ましい。前記他方のるつぼが前記の目標温度に達してから、安定するまでの時間を確保するためである。なお、上述のS13で説明した、「第1るつぼ20に残留する蒸着材料が所定量以下となったことを検知した場合」の一例が、S46でNOと判定された場合である。
【0058】
そして開放量調整部51は再度、蒸発源11からの蒸着材料の放出圧レートが、前記の目標レートの範囲内であるか否かを判定する(S48)。ここで、蒸発源11からの蒸着材料の放出圧レートが、前記の目標レートの範囲内であると判定した場合(S48でYES)、開放量調整部51は、第1調整弁21または第2調整弁31の開放量を維持する。
【0059】
一方、蒸発源11からの蒸着材料の放出圧レートが、前記の目標レートの範囲内でないと判定した場合(S48でNO)、開放量調整部51は、第1調整弁21または第2調整弁31の開放量を調整する(S49)。そして開放量調整部51は、第1調整弁21または第2調整弁31の開放量が前記の閾値以上であるか否かを判定する(S50)。第1調整弁21または第2調整弁31の開放量が前記の閾値以上であると判定した場合(S50でYES)、開放量調整部51はS48に処理を戻す。一方、第1調整弁21または第2調整弁31の開放量が前記の閾値以上ではないと判定した場合、制御装置50は単一るつぼ蒸着工程を終了する。これは、第1調整弁21または第2調整弁31の開放量が前記の閾値以上であり、かつ第1るつぼ20または第2るつぼ30の温度が前記の限界温度以上である場合である。制御装置50は、これ以上単一のるつぼにより、蒸発源11からの放出圧レートを維持するのは不可能であると判定し、単一るつぼ蒸着工程を終了する。
【0060】
(第1開放量調整工程および第2開放量調整工程)
図7および図8を参照して、るつぼの切り替え時に制御装置50が行う処理を説明する。制御装置50は、第1開放量調整工程(開放量調整工程)と第2開放量調整工程(開放量調整工程)とを、同時並行で実行する。説明の容易化のため、ここでは第1るつぼ20に係る第1開放量調整工程と、第2るつぼ30に係る第2開放量調整工程とを同時並行で実行する例について説明する。ただし以下の説明は、第2るつぼ30に係る第1開放量調整工程と、第1るつぼ20に係る第2開放量調整工程とを同時並行で実行する場合にも適用できる。
【0061】
図8に示すように第2開放量調整工程では、制御装置50が膜厚センサ13の蒸着面をカバーしていたQCMシャッタを開く。そして制御装置50は、膜厚センサ13を第1調整弁21および第2調整弁31の開放量の調整に用いるセンサとして設定する(S71)。制御装置50は、S71を第1開放量調整工程の開始数秒前に実行することが好ましい。膜厚センサ13は、QCMシャッタを開いた後、膜厚センサ13の蒸着面への輻射熱およびQCMシャッタを開いたときに生じた振動等が安定するまで数秒間待機させることが好ましいためである。
【0062】
一方、図7に示すように、第1開放量調整工程ではまず、開放量調整部51が、第1調整弁21を一定速度で閉止していく(S61)。これにより開放量調整部51は、蒸着材料が残り少なくなった第1るつぼ20からの、蒸着材料の供給を徐々に絞っていく。なお、開放量調整部51がS61で第1調整弁21を閉止していく速度は、一定速度に限られるものではないが、一定速度であれば放出圧レートおよび膜厚の調整が容易である。
【0063】
次に第1開放量調整工程では、開放量調整部51は、第1調整弁21が全閉となったか否かを判定する(S62)。第1調整弁21が全閉となっていない場合(S62でNO)、開放量調整部51は、第1調整弁21の一定速度での閉止を継続する。このとき第2開放量調整工程では、第2開閉弁32を開放し(S72)、第2調整弁31を開放する(S73)。そして開放量調整部51は、第2調整弁31の開放量を調整し(S74)、基板16上に形成される膜の膜厚が、所定の目標膜厚の範囲内であるか否かを判定する(S75)。このとき開放量調整部51は、膜厚検出部53が取得した膜厚センサ13の検出値から、前記の膜厚を算出する。前記の膜厚が前記目標膜厚の範囲内にあれば、膜厚センサ13の検出値は一定であるといえる。
【0064】
前記の膜厚が目標膜厚の範囲内ではないと判定した場合(S75でNO)、開放量調整部51は、第2調整弁31の開放量を再度調整する。そして、前記の膜厚が目標膜厚の範囲内であると判定した場合(S75でYES)、開放量調整部51は、第1調整弁21が全閉となっているか否かを判定する(S76)。
【0065】
第1調整弁21が全閉となっていた場合(S62およびS76でYES)、第1開放量調整工程では、るつぼ制御部54が第1開閉弁を閉止し(S63)、第1るつぼ20、第1開閉弁22および第1脱気弁23の加熱を停止する(S64)。このとき、第1調整弁21は加熱したままにする。第2調整弁31から流れてくる蒸発した蒸着材料が、第1調整弁21にコンデンス(付着)することを防ぐためである。コンデンスが発生すると、蒸着レートが大きく低下する。また、作業者のやけどを防ぐため、このときの第1るつぼ20の温度は60℃以下が望ましい。一方、第2開放量調整工程では、制御装置50が圧力センサ12を第1調整弁21および第2調整弁31の開放量の調整に用いるセンサとして設定し、膜厚センサ13の蒸着面に備えられたQCMシャッタを閉じる(S77)。そして制御装置50は、るつぼの切り替えが完了したと判定し、第1開放量調整工程および第2開放量調整工程を終了する。
【0066】
このように、るつぼの切り替え時に、開放量調整部51が第1調整弁21および第2調整弁31を調整する構成によれば、基板16上に形成される膜厚を一定に保ちつつ、蒸着材料が収容されたるつぼを切り替えることができる。
【0067】
また本実施形態では、制御装置50は、開放量調整部51が、第1調整弁21および第2調整弁31の両方が少なくとも一部開放されている場合、言い換えれば、第1調整弁21および第2調整弁31の両方が完全には閉じていない場合に、膜厚検出部53での膜厚センサ13による膜厚の検出結果が一定となるように、第1調整弁21および第2調整弁31の何れか一方の開放量を下げていくと共に、他方の開放量を上げていく構成を備えている。このように、開放量調整部51が第1調整弁21および第2調整弁31の両方の開放量を一度に調整して、るつぼを切り替える構成によれば、るつぼの切り替えが比較的短時間で完了できる。そのため、るつぼの切り替え時にのみ用いる膜厚センサ13の使用時間も短時間とすることが出来るため、膜厚センサ13のメンテナンス頻度を下げることができる。
【0068】
また、るつぼの切り替え時には、直前まで用いていた方のるつぼに収容されている蒸着材料は、加熱による劣化が進行している虞がある。前記の構成によれば、直前まで用いていた方のるつぼに収容されている蒸着材料を全て使い切るわけではないため、劣化した蒸着材料を基板16上に蒸着する虞を低減できる。さらに、直前まで用いていた方のるつぼは、比較的早く全閉状態となるため、新しい蒸着材料を充填するための時間を十分に確保できる。
【0069】
また制御装置50は、るつぼの切り替え時のみ膜厚センサ13による検出値を用い、それ以外の場合は圧力センサ12による検出値を用いて、蒸着材料の放出圧レートおよび基板16上に形成される膜の膜厚を調整する。そしてるつぼの切り替え時以外は、膜厚センサ13が備えるQCMシャッタを閉じて、膜厚センサ13が備える蒸着面に膜が形成されない構成である。言い換えれば、開放量調整部51は、第1調整弁21および第2調整弁31の両方が少なくとも一部開放されている場合、膜厚検出部53が取得した膜厚の検出値を用いて、第1調整弁21および第2調整弁31の開放量を調整する。そして開放量調整部51は、第1調整弁21および第2調整弁31の何れか一方のみが少なくとも一部開放されている場合、膜厚の検出値ではなく、圧力検出部52が取得した放出圧の検出値を用いて、第1調整弁21または第2調整弁31の開放量を調整する。
【0070】
このような構成によれば、制御装置50は、膜厚センサ13のメンテナンス頻度を低減しつつ、基板16上に形成される膜の膜厚を正確に検出できる膜厚センサ13について、るつぼ切り替え時に要求される正確な検出のため有効に活用できる。
【0071】
(充填工程)
図9に示すように、充填工程では、前処理部55が第1脱気弁23または第2脱気弁33を開放すると共に第3脱気弁41を切り替えて、第1るつぼ20または第2るつぼ30に大気を導入する(S81)。これは、新しい蒸着材料を第1るつぼ20または第2るつぼ30に投入できるようにするためである。制御装置50は、新しい蒸着材料が収容された第1るつぼ20または第2るつぼ30が、真空蒸着装置1に取り付けられたことを検知する(S82)。そして制御装置50は、S82で取り付けられた第1るつぼ20または第2るつぼ30を、上述の脱気ポンプにより真空状態にする(S83)。
【0072】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、前記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0073】
本実施形態に係る真空蒸着装置1は、開放量調整部51による第1調整弁21および第2調整弁31の開放量の調整方法が、実施形態1に係る真空蒸着装置1とは異なる。より具体的には、本実施形態に係る制御装置50が実行する第1開放量調整工程は、実施形態1に係る制御装置50が実行する第1開放量調整工程と異なる。制御装置50によるその他の工程については、実施形態1と同様であるためここでは説明を省略する。
【0074】
図10を参照して、本実施形態に係る真空蒸着装置1による開放量調整部51の処理について以下に説明する。説明の容易化のため、ここでは第1るつぼ20に係る第1開放量調整工程と、第2るつぼ30に係る第2開放量調整工程とを同時並行で実行する例について説明する。ただし以下の説明は、第2るつぼ30に係る第1開放量調整工程と、第1るつぼ20に係る第2開放量調整工程とを同時並行で実行する場合にも適用できる。
【0075】
図10に示すように、本実施形態に係る第1開放量調整工程では、開放量調整部51は第1調整弁21の開放量について、直前の単一るつぼ蒸着工程の終了時と同じ開放量を維持する(S91)。そして開放量調整部51は、第1開放量調整工程が開始してから一定時間が経過したか否かを判定する(S92)。このとき開放量調整部51は、並行して実行されている第2開放量調整工程で、開放量調整部51が第2調整弁31の開放(S73)を実行してから一定時間が経過したか否かを判定してもよい。前記の一定時間は例えば、第1るつぼ20から、第1るつぼ20に残留した蒸着材料の略全部が蒸発する時間であってよい。
【0076】
前記の一定時間が経過していないと判定した場合(S92でNO)、開放量調整部51は、前記の一定時間が経過するまでS92の判定を継続する。一方、前記の一定時間が経過したと判定した場合(S92でYES)、開放量調整部51は、第1調整弁21を一定速度で閉止していく(S93)。なお、S93での第1調整弁21の閉止速度は一定速度に限られない。
【0077】
このとき第2開放量調整工程では、前記の一定時間が経過するまでの間、または前記の第1調整弁21について一定速度での閉止が終了するまでの間に、制御装置50がS72からS75までの工程を並行して実行する。
【0078】
開放量調整部51は、第1調整弁21が全閉となっているか否かを判定する(S94)。第1調整弁21が全閉となっていた場合(S94およびS76でYES)、第1開放量調整工程では、るつぼ制御部54が第1開閉弁を閉止し(S95)、第1るつぼ20、第1開閉弁22および第1脱気弁23の加熱を停止する(S96)。一方、第2開放量調整工程では、制御装置50が圧力センサ12を第1調整弁21および第2調整弁31の開放量の調整に用いるセンサとして設定し、膜厚センサ13の蒸着面に備えられたQCMシャッタを閉じる(S77)。そして制御装置50は、るつぼの切り替えが完了したと判定し、第1開放量調整工程および第2開放量調整工程を終了する。
【0079】
本実施形態では、開放量調整部51が、第1調整弁21および第2調整弁31の両方が少なくとも一部開放されている場合に、膜厚検出部53での膜厚センサ13による膜厚の検出結果が一定となるように、第1調整弁21および第2調整弁31の何れか一方の開放量を上げていき、他方の開放量は一定とする構成を備えている。このように、開放量調整部51が第1調整弁21および第2調整弁31の一方の開放量を維持しつつ他方の開放量を調整してるつぼを切り替える構成によれば、直前まで用いていた方のるつぼに収容されている蒸着材料の略全部を使い切ることが可能である。従って、るつぼの切り替えによる蒸着材料のロスを低減できる。
【0080】
また開放量調整部51は、第1調整弁21および第2調整弁31の一方の開放量のみ調整すればよい。そのため、基板16上への蒸着材料の蒸着レートを容易に一定に保つための、開放量調整部51による第1調整弁21および第2調整弁31の調整が容易となる。
【0081】
〔ソフトウェアによる実現例〕
制御装置50の制御ブロック(特に開放量調整部51、圧力検出部52および膜厚検出部53)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0082】
後者の場合、制御装置50は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば1つ以上のプロセッサを備えていると共に、前記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えている。そして、前記コンピュータにおいて、前記プロセッサが前記プログラムを前記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。前記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。前記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、前記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などをさらに備えていてもよい。また、前記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して前記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、前記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0083】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0084】
1 真空蒸着装置
12 圧力センサ(圧力検出器)
13 膜厚センサ(膜厚検出器)
20 第1るつぼ
21 第1調整弁
23 第1脱気弁
30 第2るつぼ
31 第2調整弁
33 第2脱気弁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10