(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-23
(45)【発行日】2023-01-06
(54)【発明の名称】オリゴヌクレオチドプローブを標識するための方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6876 20180101AFI20221226BHJP
C12Q 1/6841 20180101ALI20221226BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20221226BHJP
C40B 50/06 20060101ALI20221226BHJP
【FI】
C12Q1/6876 Z ZNA
C12Q1/6841 Z
C12N15/11 Z
C40B50/06
(21)【出願番号】P 2019512972
(86)(22)【出願日】2017-09-27
(86)【国際出願番号】 EP2017074505
(87)【国際公開番号】W WO2018060249
(87)【国際公開日】2018-04-05
【審査請求日】2020-07-21
(32)【優先日】2016-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500431380
【氏名又は名称】ドイチェス クレープスフォルシュングスツェントルム シュティフトゥング デス エッフェントリッヒェン レヒツ
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100163544
【氏名又は名称】平田 緑
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ヨン-シェン
(72)【発明者】
【氏名】リュ,ハイ-クン
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-507798(JP,A)
【文献】特開平04-144698(JP,A)
【文献】特表2003-511059(JP,A)
【文献】Nucleic Acids Res.,2014年,Vol. 42, No. 3,p. 1831-1844
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00 - 1/70
C12N 15/00 - 15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
標識された、又はそうでなければ修飾されたオリゴヌクレオチドプローブを製造する方法であって、下記工程:
a.標的核酸に相補的なヌクレオチド配列を含むプローブ配列オリゴヌクレオチドを準備する工程と、
b.少なくとも1つの標識部分、又はその他の機能的部分を含み、予め決められたヌクレオチド配列を有する標識キャリアオリゴヌクレオチドを準備する工程と、
c.(i)前記標識キャリアオリゴヌクレオチドの配列に逆相補的である配列を有する逆相補領域と(ii)ランダムなヌクレオチド配列を含むランダム配列領域とを含む相補的スプリントオリゴヌクレオチドを準備する工程と、
d.ハイブリダイゼーション条件下で、前記プローブ配列オリゴヌクレオチド、前記標識キャリアオリゴヌクレオチド、及び前記相補的スプリントオリゴヌクレオチドを接触させて、複合体を形成させる工程と、
その際、前記複合体において、遊離(未封鎖)のOH基は、遊離(未封鎖)のリン酸基と空間的に近接しており、
e.リガーゼを使用してライゲーション条件下で前記複合体を反応させて、3'-OH基と5'-リン酸基との間に共有結合を形成させることで、標識された、又はそうでなければ修飾されたオリゴヌクレオチドプローブを形成させる工程と、
を含む、方法、
又は、
上記a.~e.とさらに
f.前記相補的スプリントオリゴヌクレオチドを除去する工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
下記工程:
a.標的核酸に相補的なヌクレオチド配列を含むと共に、遊離(未封鎖)のOH基を3'末端に有するプローブ配列オリゴヌクレオチドを準備する工程と、
b.少なくとも1つの標識部分、又はその他の機能的部分を含み、予め決められたヌクレオチド配列を有すると共に、遊離(未封鎖)のリン酸基を5'末端に有する標識キャリアオリゴヌクレオチドを準備する工程と、
c.5'から3'の方向で、(i)前記標識キャリアオリゴヌクレオチドの配列に逆相補的である配列を含む逆相補領域と(ii)ランダムなヌクレオチド配列を含むランダム配列領域とを有する配列を含む工程と、又は
5'から3'の方向で、(i)前記標識キャリアオリゴヌクレオチドの配列に逆相補的である配列を含む逆相補領域と(ii)ランダムなヌクレオチド配列を含むランダム配列領域とを有する配列を含む工程であって、3'末端の封鎖基を含む相補的スプリントオリゴヌクレオチドを準備する工程と、
d.ハイブリダイゼーション条件下で、前記プローブ配列オリゴヌクレオチド、前記標識キャリアオリゴヌクレオチド、及び前記相補的スプリントオリゴヌクレオチドを接触させて、複合体を形成させる工程と、
その際、前記複合体において、前記プローブ配列オリゴヌクレオチドの3'末端の遊離(未封鎖)のOH基は、前記標識キャリアオリゴヌクレオチドの5'末端の遊離(未封鎖)のリン酸基と空間的に近接しており、
e.リガーゼを使用して前記複合体をライゲーション条件下で反応させて、前記プローブ配列オリゴヌクレオチドの3'末端と前記標識キャリアオリゴヌクレオチドの5'末端との間に共有結合を形成させることで、標識された、又はそうでなければ修飾されたオリゴヌクレオチドプローブを形成させる工程と、
を含む、請求項1に記載の標識された、又はそうでなければ修飾されたオリゴヌクレオチドプローブを製造する方法、
又は、
上記a.~e.とさらに
f.前記相補的スプリントオリゴヌクレオチドを除去する工程と、
を含む、請求項1に記載の標識された、又はそうでなければ修飾されたオリゴヌクレオチドプローブを製造する方法。
【請求項3】
標識された、又はそうでなければ修飾されたオリゴヌクレオチドプローブを製造する方法であって、下記工程:
a.標的核酸に相補的なヌクレオチド配列を含み、遊離(未封鎖)のリン酸基を5'末端に有するプローブ配列オリゴヌクレオチドを準備する工程と、
b.少なくとも1つの標識部分、又はその他の機能的部分を含み、予め決められたヌクレオチド配列を有すると共に、遊離(未封鎖)のOH基を3'末端に有する標識キャリアオリゴヌクレオチドを準備する工程と、
c.3'から5'の方向で、(i)前記標識キャリアオリゴヌクレオチドの配列に逆相補的である配列を含む逆相補領域と(ii)ランダムなヌクレオチド配列を含むランダム配列領域とを有する配列を含む、3'末端の封鎖基を含む相補的スプリントオリゴヌクレオチドを準備する工程と、
d.ハイブリダイゼーション条件下で、前記プローブ配列オリゴヌクレオチド、前記標識キャリアオリゴヌクレオチド、及び前記相補的スプリントオリゴヌクレオチドを接触させて、複合体を形成させる工程と、
その際、前記複合体において、前記標識キャリアオリゴヌクレオチドの3'末端の遊離(未封鎖)のOH基は、前記プローブ配列オリゴヌクレオチドの5'末端の遊離(未封鎖)のリン酸基と空間的に近接しており、
e.リガーゼを使用してライゲーション条件下で、前記プローブ配列オリゴヌクレオチドの5'末端と前記標識キャリアオリゴヌクレオチドの3'末端との間に共有結合を形成させて、標識された、又はそうでなければ修飾されたオリゴヌクレオチドプローブを形成させる工程と、
を含む方法、
又は、
上記a.~e.とさらに
f.前記相補的スプリントオリゴヌクレオチドを除去する工程と、
を含む、方法。
【請求項4】
前記標識キャリアオリゴヌクレオチドは、2つ以上の、又は3つ、4つ若しくは5つの標識部分を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記2つ以上の、又は3つ、4つ若しくは5つの標識部分は、少なくとも2つ又はそれより多くの異なる標識部分、又はその他の機能的部分を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記プローブ配列オリゴヌクレオチドと前記標識キャリアオリゴヌクレオチドとのライゲーションされた産物を精製することを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記標識キャリアオリゴヌクレオチドの配列に相補的な配列を含むアダプターオリゴヌクレオチドを準備し、ハイブリダイゼーション条件下で前記プローブ配列オリゴヌクレオチドと前記標識キャリアオリゴヌクレオチドとのライゲーションされた産物を前記アダプターオリゴヌクレオチドと接触させて、安定化されたオリゴヌクレオチドプローブを形成させる更なる工程を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記プローブ配列オリゴヌクレオチドは、20ヌクレオチドから300ヌクレオチドの間の長さを有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記相補的スプリントオリゴヌクレオチドのランダム配列領域は、2個~10個の、又は2個~8個の、又は2個~6個の、又は4個のヌクレオチドからなる、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも2種の蛍光標識されたオリゴヌクレオチドプローブを請求項1~9のいずれか一項に記載の方法により製造することを含む、単一分子蛍光in situハイブリダイゼーション(smFISH)プローブライブラリーを作製する方法であって、前記少なくとも2種の蛍光標識されたオリゴヌクレオチドプローブは、1種の標的核酸に結合することが可能である、方法。
【請求項11】
前記少なくとも2種の蛍光標識されたオリゴヌクレオチドプローブは、少なくとも10種の、又は少なくとも30種の、又は30種~150種の、又は約100種の蛍光標識されたオリゴヌクレオチドプローブであり、前記蛍光標識されたオリゴヌクレオチドプローブのそれぞれは、1種の標的核酸に結合することが可能である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
少なくとも1つの標識部分、又はその他の機能的部分を含み、予め決められたヌクレオチド配列を有する標識キャリアオリゴヌクレオチドを含み、(i)前記標識キャリアオリゴヌクレオチドの配列に逆相補的である配列を有する逆相補領域と(ii)縮重されたヌクレオチド配列を含むランダム配列領域とを含む相補的スプリントオリゴヌクレオチドを含む、オリゴヌクレオチドプローブを標識するための標識キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸プローブを標識するための新規方法を提供する。該方法は、リガーゼ触媒反応を使用して、核酸プローブと事前に調製された核酸の標識キャリア分子とを、安定化する相補的スプリントオリゴヌクレオチドの存在下で連結する。該方法は、多数のプローブを多数の異なる標識で、簡単に、廉価に、そして素早く標識することを可能にする。こうして、単一分子蛍光in situハイブリダイゼーション(smFISH)アッセイの創出のための費用及び労力は大幅に削減される。本発明は、FISHライブラリーの作製方法、及び本発明の新規ツールを含む標識キットを更に提供する。
【背景技術】
【0002】
40年以上前のJosephG. Gall及びMary-Lou Pardueによるinsituハイブリダイゼーション(ISH)の発明以来、この強力な技術は、基礎研究(すなわち、遺伝子発現等)及びバイオマーカー検出のための診断学をとても大きく変容させた。研究者は、ISHによってのみ遺伝子発現を研究することができ、空間情報と共にバイオマーカーレベルを診断することができた。現今では、ISH及びその派生物は、組織学、単一細胞生物学等を含む多様な分野において活躍を見せている。ISHを基礎としてアレン脳アトラスのような完全な遺伝子発現アトラスを得ようとするオーミクス規模での取り組みさえも存在した。蛍光体化学及び顕微鏡検査のハードウェアの進歩と共に、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)は、その優れた低バックグラウンド性及びnm規模の空間位置的シグナル(ISHからの酵素反応において生成される拡散型シグナルに対して)のため一層注目を集めており、特にバイオマーカーのデジタル方式の時空間定量を必要とする高精度医療での将来的な用途においてISHのための優れた代替となると考えられる。
【0003】
90年代以降、FISHは、革新的にもRobert Singerと同僚達により、個々のmRNA転写物をin situで単一分子レベルにてイメージング(smFISH)するために使用され、その時から遺伝子発現又はバイオマーカー検出は、デジタル方式でかつ単一分子の様式で行うことができるようになった(
図1)。しかしながら、最初のプローブライブラリーは、5つの遺伝子特異的な異なる特別に合成された5種の蛍光体で標識されたオリゴから作製され、それは今でも依然として非常に高価であり、それがこの強力な発明をあらゆる遺伝子に利用することができないものにしている。2008年以降には、Arjunと同僚達は、古典的なEDC(N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N'-エチルカルボジイミド塩酸塩)コンジュゲーション化学に基づくプローブライブラリーの費用を大幅に削減するプール型単一蛍光体標識法を発明した。そしてこの新規の標識法は、現在Biosearch Technologies Inc.社によりライセンスされているので、研究利用者及び臨床利用者は、この技術を100回~400回の反応につき約760ユーロの価格で利用することが可能となっている。商業的なFISHプローブライブラリーを使用するためのこの非常に高い費用は、その低いスループットと同様にsmFISHの根本的な制約となり、一般的にsmFISHアプローチでは、一度に数遺伝子のプロービングしかすることができない。この低いスループットは、細胞の標識に用いられる区別可能なプローブを欠くことと、高効率の染色のために必要な標識されたプローブを多量に製造する費用とによるものである。このように、smFISHプローブ作製の改善及び検出効率の向上が必要である。
【0004】
本発明を更に詳細に説明する前に、本発明は記載される特定の実施形態に限定されず、したがって当然のことながら変化させることができることを理解すべきである。本発明の範囲は添付の特許請求の範囲のみによって限定されるため、本明細書中で使用される専門用語は特定の実施形態を説明することのみを目的とするものであり、限定することを意図していないことも理解すべきである。
【0005】
本明細書に引用される全ての刊行物及び特許は、個々の刊行物又は特許が各々引用することにより本発明の一部をなすことが具体的に及び個別に示されているかの如く引用することにより本明細書の一部をなし、それとの関連で刊行物が引用される方法及び/又は材料を開示及び記載するように引用することにより本明細書の一部をなす。いずれの刊行物の引用も、出願日前のその開示に関するものであり、本発明が先行発明を理由としてかかる刊行物に先行する権利がないことを承認するものと解釈すべきではない。さらに、提示される刊行日は、実際の刊行日と異なる可能性があり、実際の刊行日を個別に確認する必要がある可能性がある。
【発明の概要】
【0006】
上記の課題は、標識された、又はそうでなければ修飾されたオリゴヌクレオチドプローブを製造する方法であって、下記工程:
a.標的核酸に相補的なヌクレオチド配列を含むプローブ配列オリゴヌクレオチドを準備する工程と、
b.少なくとも1つの標識部分、又はその他の機能的部分を含み、予め決められたヌクレオチド配列を有する標識キャリアオリゴヌクレオチドを準備する工程と、
c.(i)上記標識キャリアオリゴヌクレオチドの配列に逆相補的である配列を有する逆相補領域と(ii)ランダムなヌクレオチド配列を含むランダム配列領域とを含む相補的スプリントオリゴヌクレオチドを準備する工程と、
d.ハイブリダイゼーション条件下で、上記プローブ配列オリゴヌクレオチド、上記標識キャリアオリゴヌクレオチド、及び上記相補的スプリントオリゴヌクレオチドを接触させて、複合体を形成させる工程と、
その際、上記複合体において、遊離(未封鎖)のOH基は、遊離(未封鎖)のリン酸基と空間的に近接しており、
e.リガーゼを使用してライゲーション条件下で上記複合体を反応させて、3'-OH基と5'-リン酸基との間に共有結合を形成させることで、標識された、又はそうでなければ修飾されたオリゴヌクレオチドプローブ(「ライゲーション産物」)を形成させる工程と、
f.任意に、上記相補的スプリントオリゴヌクレオチドを除去する工程と、
を含む、方法によって解決される。
【0007】
本発明の1つの実施の形態においては、上記標識キャリアオリゴヌクレオチドは、プローブ配列オリゴヌクレオチドの3'末端にライゲーションされる。この実施の形態において、本発明の方法は、下記工程:
a.標的核酸に相補的なヌクレオチド配列を含むと共に、遊離(未封鎖)のOH基を3'末端に有するプローブ配列オリゴヌクレオチドを準備する工程と、
b.少なくとも1つの標識部分、又はその他の機能的部分を含み、予め決められたヌクレオチド配列を有すると共に、遊離(未封鎖)のリン酸基を5'末端に有する標識キャリアオリゴヌクレオチドを準備する工程と、
c.5'から3'の方向で、(i)上記標識キャリアオリゴヌクレオチドの配列に逆相補的である配列を含む逆相補領域と(ii)ランダムなヌクレオチド配列を含むランダム配列領域とを有する配列を含む、任意に3'末端の封鎖基を含む相補的スプリントオリゴヌクレオチドを準備する工程と、
d.ハイブリダイゼーション条件下で、上記プローブ配列オリゴヌクレオチド、上記標識キャリアオリゴヌクレオチド、及び上記相補的スプリントオリゴヌクレオチドを接触させて、複合体を形成させる工程と、
その際、上記複合体において、上記プローブ配列オリゴヌクレオチドの3'末端の遊離(未封鎖)のOH基は、上記標識キャリアオリゴヌクレオチドの5'末端の遊離(未封鎖)のリン酸基と空間的に近接しており、
e.リガーゼを使用してライゲーション条件下で上記複合体を反応させて、上記プローブ配列オリゴヌクレオチドの3'末端と上記標識キャリアオリゴヌクレオチドの5'末端との間に共有結合を形成させることで、標識された、又はそうでなければ修飾されたオリゴヌクレオチドプローブを形成させる工程と、
f.任意に、上記相補的スプリントオリゴヌクレオチドを除去する工程と、
を含む。
【0008】
本発明の1つの更なる実施の形態においては、上記標識キャリアオリゴヌクレオチドは、プローブ配列オリゴヌクレオチドの5'末端にライゲーションされる。この実施の形態において、本発明の方法は、下記工程:
a.標的核酸に相補的なヌクレオチド配列を含み、遊離(未封鎖)のリン酸基を5'末端に有するプローブ配列オリゴヌクレオチドを準備する工程と、
b.少なくとも1つの標識部分、又はその他の機能的部分を含み、予め決められたヌクレオチド配列を有すると共に、遊離(未封鎖)のOH基を3'末端に有する標識キャリアオリゴヌクレオチドを準備する工程と、
c.3'から5'の方向で、(i)上記標識キャリアオリゴヌクレオチドの配列に逆相補的である配列を含む逆相補領域と(ii)ランダムなヌクレオチド配列を含むランダム配列領域とを有する配列を含む、3'末端の封鎖基を含む相補的スプリントオリゴヌクレオチドを準備する工程と、
d.ハイブリダイゼーション条件下で、上記プローブ配列オリゴヌクレオチド、上記標識キャリアオリゴヌクレオチド、及び上記相補的スプリントオリゴヌクレオチドを接触させて、複合体を形成させる工程と、
その際、上記複合体において、上記標識キャリアオリゴヌクレオチドの3'末端の遊離(未封鎖)のOH基は、上記プローブ配列オリゴヌクレオチドの5'末端の遊離(未封鎖)のリン酸基と空間的に近接しており、
e.リガーゼを使用してライゲーション条件下で、上記プローブ配列オリゴヌクレオチドの5'末端と上記標識キャリアオリゴヌクレオチドの3'末端との間に共有結合を形成させて、標識された、又はそうでなければ修飾されたオリゴヌクレオチドプローブを形成させる工程と、
f.任意に、上記相補的スプリントオリゴヌクレオチドを除去する工程と、
を含む。
【0009】
本発明の方法及び化合物は、核酸プローブの素早く、廉価で、かつ簡単な標識を可能にする。本発明の着想は、従業者が棚にあるどのような所与のオリゴヌクレオチドプローブ(プローブ配列オリゴヌクレオチド)でも、個々のプローブ配列に標識部分を結合させる必要なく(それは高価であるため、多くの標識された個々のプローブのライブラリーの作製を妨げる)標識することを可能にするシステムを提供することである。このために、本発明は目下、プローブの使用法に応じて選択する、1種以上の事前に調製された標識保有オリゴヌクレオチド、あるいはそれぞれ異なる標識若しくはその他の修飾又はそれらの組み合わせを有する1種以上の選りすぐりの標識保有オリゴヌクレオチドを含むシステムを提供する。本発明による相補的スプリントオリゴヌクレオチドを使用することで、これらの標識キャリアは、上記プローブオリゴヌクレオチドに簡単にライゲーションされて、標識されたプローブ産物が得られる。1つ以上の同一の標識保有オリゴヌクレオチドを多量に標識することが可能であり、次いでそれらを簡単かつ廉価なライゲーション反応に使用することができるので、費用は大幅に削減される。
【0010】
本発明において、特定のオリゴヌクレオチド若しくはプローブ、又は核酸を表すその他の表現について言及される場合に、当業者であれば、その表現は単一の分子を指すのではなく、単一種の分子を指すものと理解するであろう。研究室における実際の利用において、当業者は、或る種の、例えば1種のオリゴヌクレオチド配列の多数の分子の調製物を使用する。分子のそのような集合においては、通常は全てのヌクレオチドは同一であるが、但し、オリゴヌクレオチドが、例えばオリゴヌクレオチド合成の間にランダム配列領域を含むように製造された場合は除く。これは、1種より多くの種類のヌクレオチドの均等な混合物を用い、それらを確率的に結合させて、オリゴヌクレオチドを重合させることにより達成され得る。この状況において、その種のオリゴヌクレオチドは該混合物中に「縮重された」配列を含む。
【0011】
「ヌクレオシド」及び「ヌクレオチド」という用語は、既知のプリン塩基及びピリミジン塩基だけでなく、修飾されたその他の複素環式塩基も含む部分を含むと解釈される。そのような修飾には、メチル化されたプリン若しくはピリミジン、アシル化されたプリン若しくはピリミジン、アルキル化されたリボース又はその他の複素環が含まれる。さらに、「ヌクレオチド」という用語には、ハプテン又は蛍光標識を含むと共に、慣用のリボース糖及びデオキシリボース糖だけでなく、その他の糖も含み得る部分が含まれる。修飾されたヌクレオシド又はヌクレオチドは、上記糖部分にも修飾を含み、例えばヒドロキシル基の1つ以上が、ハロゲン原子又は脂肪族基で置き換えられ、エーテル、アミン等として官能化されている。
【0012】
「核酸」という用語は、任意の長さの重合体、例えば約2塩基より多く、約10塩基より多く、約100塩基より多く、約500塩基より多く、1000塩基より多く、約10000塩基までの又はそれより多く(例えば、100000000以上)のヌクレオチド、例えばデオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチドから構成される塩基の長さの重合体を指し、それらは、酵素的に又は合成的に製造することができ、2つの天然に存在する核酸の様式と同様の配列特異的な様式で天然に存在する核酸とハイブリダイズすることができ、例えば、ワトソン-クリック塩基対形成相互作用の性質を有し得る。天然に存在するヌクレオチドには、グアニン、シトシン、アデニン、及びチミン/ウラシル(それぞれ、G、C、A、及びT/U)が含まれる。
【0013】
本明細書で使用される「オリゴヌクレオチド」という用語は、約2ヌクレオチドから約500ヌクレオチドまでのヌクレオチドの一本鎖多量体を示す。オリゴヌクレオチドは、合成物であっても、又は酵素により製造されてもよい。オリゴヌクレオチドは、リボヌクレオチド単量体(すなわち、オリゴリボヌクレオチドであり得る)、デオキシリボヌクレオチド単量体、又はそれら2つの組み合わせを含み得る。オリゴヌクレオチドは、10ヌクレオチド長~20ヌクレオチド長、11ヌクレオチド長~30ヌクレオチド長、31ヌクレオチド長~40ヌクレオチド長、41ヌクレオチド長~50ヌクレオチド長、51ヌクレオチド長~60ヌクレオチド長、61ヌクレオチド長~70ヌクレオチド長、71ヌクレオチド長~80ヌクレオチド長、80ヌクレオチド長~100ヌクレオチド長、100ヌクレオチド長~150ヌクレオチド長、150ヌクレオチド長~200ヌクレオチド長、若しくは200ヌクレオチド長~250ヌクレオチド長、又は最大500ヌクレオチド長であり得る。
【0014】
「ハイブリダイゼーション」という用語は、核酸がワトソン-クリック塩基対形成を介して相補的な核酸に特異的に結合することを指す。したがって、「in situハイブリダイゼーション」という用語は、細胞内部で又はインタクトな染色体中で、核酸が相補的な核酸に特異的に結合することを指す。核酸に関しては「ハイブリダイズする」及び「結合する」という用語は、互換的に使用される。
【0015】
「ハイブリダイゼーション条件」という用語は、相補的な配列の少なくとも一部を互いにアニーリングさせるのに十分な時間、温度、及びpH、並びに反応物及び試薬の所要量及び所要濃度の条件を意味するものと解釈される。当該技術分野でよく知られるように、ハイブリダイゼーションを達成するために必要とされる時間、温度、及びpHの条件は、ハイブリダイズされるべきオリゴヌクレオチド分子のサイズ、ハイブリダイズされるべきオリゴヌクレオチド間の相補性の度合い、及びハイブリダイゼーション反応混合物中のその他の材料、塩等の存在等に依存する。それぞれのハイブリダイゼーション工程のために必要とされる実際の条件は、当該技術分野でよく知られているか、又は過度の実験をせずに決定することができる。
【0016】
本明細書で使用される「in situハイブリダイゼーション条件」という用語は、細胞中での、核酸の相補的な核酸へのハイブリダイゼーション、例えばRNA分子又はDNA分子のヌクレオチドの配列及び相補的なオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションを可能にする条件を指す。適切なin situハイブリダイゼーション条件には、ハイブリダイゼーション条件と任意の洗浄条件との両方が含まれ、それらの条件には、温度、変性試薬の濃度、塩の濃度、インキュベーション時間等が含まれる。そのような条件は、当該技術分野で知られている。
【0017】
「ランダムなヌクレオチド配列」という文言は、ポリヌクレオチドの集合におけるその他のランダムなヌクレオチド配列と組み合わされる場合に、所与の長さのヌクレオチドに関するヌクレオチドの全ての又は本質的に全ての可能な組み合わせを表す、様々な配列のヌクレオチドを指す。例えば、任意の所与の位置に存在する可能なヌクレオチドは4種であるため、ランダムなヌクレオチド2つの長さの配列は、16種の可能な組み合わせを有し、ランダムなヌクレオチド3つの長さの配列は、64種の可能な組み合わせを有し、又はランダムなヌクレオチド4つの長さの配列は、256種の可能な組み合わせを有する。したがって、本発明の方法に関して使用される場合に、ランダムなヌクレオチド配列は、試料中の任意の標的ポリヌクレオチドにハイブリダイズする可能性を有する。好ましい実施の形態においては、上記ランダムな配列は、約25%の各々のヌクレオチド型(アデニン、チミン/ウラシル、シトシン、及びグアニン)を含む。そのような配列範囲は「縮重されている」とも呼ばれる。
【0018】
本発明の幾つかの実施の形態においては、上記プローブ配列オリゴヌクレオチド、上記標識キャリアオリゴヌクレオチド、及び上記相補的スプリントオリゴヌクレオチドは、一本鎖核酸分子、好ましくはRNA及び/又はDNAである。さらに、全ての核酸分子は、非天然核酸残基又は修飾核酸残基、例えばO-メチル修飾残基を含み得る。しかしながら、特に好ましいのは、合成がより簡単かつ廉価であるDNAオリゴヌクレオチドである。
【0019】
幾つかの実施の形態においては、上記プローブ配列オリゴヌクレオチドが、該ポリヌクレオチドの3'末端OH基及び/又は5'末端リン酸基の修飾を含まないことが好ましく、特に上記プローブ配列オリゴヌクレオチドは、末端アミン基を含まないことが好ましい。本発明において、上記プローブ配列オリゴヌクレオチドは、技術水準のオリゴヌクレオチド合成法に従って化学的に合成されることが見込まれる。そのような方法には、しばしば遮断基又は封鎖基の使用が含まれ、それらの基は、好ましくは上記プローブ配列オリゴヌクレオチドを本発明の方法に適用する前に全て除去される。また、オリゴヌクレオチドの合成は、しばしば5'末端OH基をもたらす。上記標識キャリアオリゴヌクレオチドが上記プローブ配列オリゴヌクレオチドの5'末端にライゲーションされる幾つかの実施の形態においては、ライゲーション反応を可能にするために末端5'リン酸基を取り付ける必要がある。
【0020】
幾つかの実施の形態においては、上記標識キャリアオリゴヌクレオチドは、2つ以上の、好ましくは3つ、4つ、又は5つの標識部分、又はその他の機能的部分を含むことが好ましい。最も好ましくは、それらの多数の標識は、固有の標識の組み合わせを提供する。この実施の形態においては、上記標識キャリアオリゴヌクレオチドに、多数の発色標識の固有の組み合わせによってカラーバーコードが付され得る。この実施の形態は、細胞中のmRNA種等の多数の標的配列の同時のプロービングを可能にする。
【0021】
上記標識キャリアオリゴヌクレオチドは、上記プローブ配列オリゴヌクレオチドとのライゲーションのために適切な任意の長さであり得る。本発明の幾つかの好ましい標識キャリアオリゴヌクレオチドは、3ヌクレオチド長~200ヌクレオチド長、好ましくは3ヌクレオチド長~100ヌクレオチド長、より好ましくは3ヌクレオチド長~30ヌクレオチド長、又は5ヌクレオチド長~20ヌクレオチド長である。上記標識キャリアオリゴヌクレオチドの配列は、本発明の標識法のために重要はなく、又は不利益をもたらさない。しかしながら、上記配列を、標識されたオリゴヌクレオチドプローブの後の使用法に基づいて選択することで、例えば上記標識キャリアオリゴヌクレオチド配列を介した非標的配列への結合を回避すること、又は蛍光体等の多数の標識分子の結合を可能にすることが好ましい場合がある。
【0022】
1つの好ましい実施の形態における上記標識キャリアオリゴヌクレオチドは、上記プローブ配列オリゴヌクレオチドとの酵素触媒によるライゲーションを可能にするために5'(遊離)リン酸基を含む。もう1つの実施の形態においては、上記標識キャリアオリゴヌクレオチドは、3'末端の末端OH基を含む。
【0023】
「スプリントオリゴヌクレオチド」という用語は、一般的に、上記末端に隣接した第1のオリゴヌクレオチドの領域に相補的なヌクレオチドの第1の配列と、上記末端に隣接した第2のオリゴヌクレオチドの領域に相補的なヌクレオチドの第2の配列とを有するオリゴヌクレオチドを指す。上記スプリントオリゴヌクレオチドは、第1のオリゴヌクレオチド及び第2のオリゴヌクレオチドの両方に結合して、複合体を生成し、こうして上記第1のオリゴヌクレオチド及び上記第2のオリゴヌクレオチドの末端を空間的に近接させることが可能である。上記第1のオリゴヌクレオチド及び上記第2のオリゴヌクレオチドの末端を近接させることにより、上記スプリントオリゴヌクレオチドは、上記第1のオリゴヌクレオチドと上記第2のオリゴヌクレオチドとの間のライゲーションの機会を増やす。上記第1のオリゴヌクレオチド及び上記第2のオリゴヌクレオチドは、本発明においては、上記プローブ配列オリゴヌクレオチド及び上記標識キャリアオリゴヌクレオチドである。本出願については上記プローブ配列オリゴヌクレオチドの配列は可変であるので、上記スプリントの相補性は、本開示の他の場所に記載されるランダムな(縮重された)配列を使用することによりもたらされる。したがって、本発明の相補的スプリントオリゴヌクレオチドは、(i)逆相補領域と(ii)ランダム配列領域とを含み、領域(i)は、上記標識キャリアオリゴヌクレオチドへのハイブリダイゼーションを媒介し、そして領域(ii)は、上記プローブ配列オリゴヌクレオチドへのハイブリダイゼーションを媒介する。幾つかの好ましい実施の形態においては、(i)と(ii)との間にヌクレオチドは存在せず、つまり両方の領域は、互いに直接的に隣接している。上記逆相補領域は、好ましくは、上記標識キャリアオリゴヌクレオチドと上記相補的スプリントオリゴヌクレオチドとの結合/ハイブリダイゼーションに際して、該逆相補領域が、上記プローブ配列オリゴヌクレオチドとライゲーションされるべき上記標識キャリアオリゴヌクレオチドの遊離末端と直接的に隣接して位置するように上記相補的スプリントオリゴヌクレオチド中に位置している(添付の図面で図解される)。それにより、本発明の相補的スプリントオリゴヌクレオチドは、上記標識キャリアオリゴヌクレオチドと上記プローブ配列オリゴヌクレオチドとが互いに直接的に隣り合って位置するための「添え木(スプリント)」としての役割を果たすため、それらのオリゴヌクレオチドのそれぞれの3'末端と5'末端とはライゲーションされ得る。
【0024】
上記相補的スプリントオリゴヌクレオチドは、好ましくは、少なくとも3個の、好ましくは4個、5個、6個、7個、8個又はそれより多くの核酸を有する逆相補領域を含む。幾つかの実施の形態においては、上記逆相補領域は、上記標識キャリアオリゴヌクレオチドの配列に逆相補的な配列からなる。更により好ましくは、本発明の相補的スプリントオリゴヌクレオチドの配列は、ランダム配列領域と逆相補領域とからなる。上記相補的スプリントオリゴヌクレオチドの逆相補領域と上記標識キャリアオリゴヌクレオチドとの間の相補性の度合いは、ライゲーションの実施のために適した条件下で2つの分子の安定なハイブリダイゼーションを可能にするように選択される。この関連において、その逆相補性の度合いは、好ましくは少なくとも90%であり、最も好ましくは95%又は100%である。
【0025】
本発明の好ましい標識キャリアオリゴヌクレオチド及び/又は相補的スプリントオリゴヌクレオチドの配列は、配列番号1、配列番号2、及び配列番号35に示される(最後は、二重の標識を保有する標識キャリアオリゴヌクレオチドを表す)。それらの配列は、本発明の概念を立証するために実際に使用された標識の位置又は性質に一切の制約なく好ましいと理解される。
【0026】
幾つかの実施の形態において、上記方法は、上記プローブ配列オリゴヌクレオチドと上記標識キャリアオリゴヌクレオチドとのライゲーションされた産物を精製する工程を更に含むことができる。該ライゲーション産物は、標識された、又はそうでなければ修飾されたオリゴヌクレオチドプローブ、したがって本発明による方法の産物を構成する。精製は、核酸プローブの精製のために当業者に知られるあらゆる手段によって行うことができ、限定されるものではないが、PAGE等のゲル電気泳動を介した精製を含む。
【0027】
幾つかの実施の形態において、上記方法は、上記標識キャリアオリゴヌクレオチドの配列に相補的な配列を含むアダプターオリゴヌクレオチドを準備し、ハイブリダイゼーション条件下で上記プローブ配列オリゴヌクレオチドと上記標識キャリアオリゴヌクレオチドとのライゲーションされた産物を上記アダプターオリゴヌクレオチドと接触させて、安定化されたオリゴヌクレオチドプローブを形成させる工程を更に含むことができる。この実施の形態は、上記標識キャリアオリゴヌクレオチドが多数の標識部分を含む場合に好ましい。多数の標識部分は一本鎖核酸プローブ中で互いにクエンチングし合うので、該プローブは、ライゲーション産物の標識キャリアオリゴヌクレオチド領域への上記アダプターオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションを介して、標識された末端で二本鎖領域を形成することにより安定化され得る。
【0028】
本明細書で使用される「リガーゼ」という用語は、ポリヌクレオチド同士を一緒につなぎ合わせるために、又は単一のポリヌクレオチドの末端同士をつなぎ合わせるために通常使用される酵素を指す。本発明のリガーゼは、好ましくは、ATP依存性二本鎖ポリヌクレオチドリガーゼ、NAD+依存性二本鎖DNA又はRNAリガーゼ、及び一本鎖ポリヌクレオチドリガーゼから選択され、好ましくは、細菌性リガーゼ、例えばE.コリのDNAリガーゼ、Taq DNAリガーゼ、Ampligase(商標)熱安定性DNAリガーゼ、ファージのリガーゼ、例えばT3 DNAリガーゼ、T4 DNAリガーゼ、T7 DNAリガーゼ、並びにDNA結合ドメインとリガーゼとを含む融合リガーゼ、例えばSso7-T3DNAリガーゼ、Sso7-T4 DNAリガーゼ、Sso7-T7 DNAリガーゼ、Sso7-Taq DNAリガーゼ、Sso7-E.コリDNAリガーゼ、Sso7-Ampligase、DNAリガーゼSso7、T4 RNAリガーゼ1、T4 RNAリガーゼ2、及びT4欠損及びT4突然変異(K227Q)RNAリガーゼを含むそれらの突然変異体から選択される。最も好ましいのは、T4 DNAリガーゼの使用である。それというのも、この酵素は、丈夫であり、廉価かつ効率的であるからである。
【0029】
「標的」という用語は、空間的に分離され、プローブにハイブリダイズされ、そして可視化され得る生物学的実体を指す。細胞、個々の染色体、及びアレイ中に付着された材料は、標的の例である。本発明においては、上記標的核酸は、本発明の方法により製造される核酸プローブのための少なくとも1つの、好ましくは多数の結合領域を有する配列を含む標的一本鎖核酸である。好ましい実施の形態においては、上記標的核酸は、メッセンジャーRNA(mRNA)である。
【0030】
本発明における標識は、直接的に又は間接的にシグナルを生成し得る検出可能な部分である。直接的にシグナルを生成する検出可能な部分の1つの例は、蛍光性分子である。間接的にシグナルを生成する検出可能な部分は、検出試薬、例えば基質又は抗体等に曝されるとシグナルを生成する部分を含む。直接的にシグナルを生成する検出可能な部分は、任意に、該部分に結合する標識された抗体を使用することによる等の間接的な手段により検出され得る。或る特定の場合において、シグナルは、光検出器、例えば光学顕微鏡、分光光度計、蛍光顕微鏡、蛍光サンプルリーダー、又は蛍光活性化セルソーター等により検出可能である特定の波長のシグナルであり得る。本発明における標識部分は、該部分の有無の検出を可能にするあらゆる部分であり得る。適切な標識には、キサンテン色素、例えばフルオレセイン色素及びローダミン色素、例えばフルオレセインイソチオシアネート(FITC)、6-カルボキシフルオレセイン(略記FAM及びFにより通常知られる)、6-カルボキシ-2',4',7',4,7-ヘキサクロロフルオレセイン(HEX)、6-カルボキシ-4',5'-ジクロロ-2',7'-ジメトキシフルオレセイン(JOE又はJ)、N,N,N',N'-テトラメチル-6-カルボキシローダミン(TAMRA又はT)、6-カルボキシ-X-ローダミン(ROX又はR)、5-カルボキシローダミン-6G(R6G5又はG5)、6-カルボキシローダミン-6G(R6G6又はG6)、及びローダミン110、シアニン色素、例えばCy3、Cy5、及びCy7色素、クマリン類、例えばウンベリフェロン、ベンズイミド色素、例えばHoechst 33258、フェナントリジン色素、例えばテキサスレッド、エチジウム色素、アクリジン色素、カルバゾール色素、フェノキサジン色素、ポルフィリン色素、ポリメチン色素、例えばシアニン色素、例えばCy3、Cy5等、BODIPY色素、及びキノリン色素を含む蛍光色素が含まれる。幾つかの用途で通常使用される関心が持たれる具体的な蛍光体には、ピレン、クマリン、ジエチルアミノクマリン、FAM、フルオレセインクロロトリアジニル、R110、エオシン、JOE、R6G、テトラメチルローダミン、TAMRA、リサミン、ROX、ナフトフルオレセイン、テキサスレッド、ナフトフルオレセイン、Cy3、及びCy5等が含まれる。主題の方法において有用な適切な区別可能で検出可能な蛍光性標識の対には、Cy-3及びCy-5(AmershamInc.社、ニュージャージー州、ピスカタウェイ)、Quasar 570及びQuasar 670(Biosearch Technology社、カリフォルニア州、ノバート)、好ましくは以下の4種のAlexa色素:Alexafluor 488、Alexa fluor 555、Alexafluor 594、及びAlexa fluor 647(MolecularProbes社、オレゴン州、ユージーン)、BODIPY V-1002及びBODIPY V1005(Molecular Probes社、オレゴン州、ユージーン)、POPO-3及びTOTO-3(MolecularProbes社、オレゴン州、ユージーン)、並びにPOPRO3及びTOPRO3(Molecular Probes社、オレゴン州、ユージーン)が含まれる。更なる適切な区別可能で検出可能な標識は、Kricka et al.(Ann Clin Biochem. 39:114-29,2002)に見出すことができる。
【0031】
「区別可能な標識」若しくは「異なる色の標識」という句又はそれらの任意の文法的等価物は、標識が混合された場合であっても独立的に検出及び測定することができる標識を指す。言い換えると、標識の各々について存在する標識の量(例えば、蛍光の量)は、それらの標識が(例えば、同じチューブ中、又は同じ二本鎖分子中、又は同じ細胞中に)一緒に位置している場合であっても別々に測定可能である。上記の標識は、区別可能な標識として使用され得る。幾つかの好ましい区別可能な蛍光性標識の対には、Cy-3及びCy-5(AmershamInc.社、ニュージャージー州、ピスカタウェイ)、Quasar 570及びQuasar 670(Biosearch Technology社、カリフォルニア州、ノバート)、Alexa fluor 555及びAlexa fluor 647(Molecular Probes社、オレゴン州、ユージーン)、BODIPY V-1002及びBODIPY V1005(Molecular Probes社、オレゴン州、ユージーン)、POPO-3及びTOTO-3(MolecularProbes社、オレゴン州、ユージーン)、並びにPOPRO3及びTOPRO3(Molecular Probes社、オレゴン州、ユージーン)、好ましくはFAM及びATTO550が含まれる。更なる適切な区別可能で検出可能な標識は、Kricka et al.(Ann Clin Biochem. 39:114-29,2002)に見出すことができる。
【0032】
「予め決められた」という用語は、使用前に既知である何かを指す。
【0033】
本発明の方法に使用されるプローブ配列オリゴヌクレオチドは、20ヌクレオチドから300ヌクレオチドの間の長さを有することが好ましい。どの種類の標的核酸が、本発明により製造されたプローブにより検出されるべきかに応じて、該プローブの長さは選択される。smFISHプローブの用途のためにプローブの長さは500塩基未満であると選択されるが、その他の用途であれば、より長い核酸プローブの使用を必要とすることもある。上記プローブ配列の長さは標識過程のために重要ではないので、本発明は、任意の特定の長さに限定されてはならない。しかしながら、好ましいのは、smFISHで使用するためのプローブ配列である。
【0034】
本発明においては、上記相補的スプリントオリゴヌクレオチドのランダム配列領域は、縮重された配列、つまり、上記プローブ配列オリゴヌクレオチドの配列に非特異的に結合することが意図されるランダムに作製されたオーバーハングを含む。上記相補的スプリントオリゴヌクレオチドのランダム配列領域は、2個~10個の、好ましくは2個~8個の、より好ましくは2個~6個の、最も好ましくは4個のヌクレオチドからなることができる。
【0035】
本発明の幾つかの好ましい実施の形態においては、上記相補的スプリントオリゴヌクレオチドの3'末端は、アミン(NH2)基で封鎖される。
【0036】
上記課題は、少なくとも2種の蛍光標識されたオリゴヌクレオチドプローブを上記に開示される本発明の標識方法により製造することを含む、単一分子蛍光in situハイブリダイゼーション(smFISH)プローブライブラリーを作製する方法であって、上記少なくとも2種の蛍光標識された(fluorescent labeled)オリゴヌクレオチドプローブは、1種の標的核酸に結合することが可能である、方法によって更に解決される。
【0037】
本発明の幾つかの実施の形態は、少なくとも2種の蛍光標識されたオリゴヌクレオチドプローブが、1種の標的核酸に異なる、好ましくは重複していない位置(配列)で結合することが可能である、上記ライブラリー作製方法に関する。本発明のライブラリー中の少なくとも2種の蛍光標識されたオリゴヌクレオチドプローブは、少なくとも10種の、好ましくは少なくとも30種の、より好ましくは30種~150種の、最も好ましくは約100種の蛍光標識されたオリゴヌクレオチドプローブであり、上記蛍光標識されたオリゴヌクレオチドプローブのそれぞれは、1種の標的核酸に、好ましくは重複していない位置で結合することが可能である。
【0038】
この態様の幾つかの好ましい実施の形態においては、上記ライブラリー中の少なくとも2種の蛍光標識されたオリゴヌクレオチドプローブのうちの少なくとも2種は、多数の標識部分で標識されるが、好ましくは、上記ライブラリー中のそれぞれの標識されたオリゴヌクレオチドプローブは、同一の標識、又は同一の標識の組み合わせを含む。本発明における核酸プローブのライブラリーは、smFISHアプローチにおいて1種の核酸分子、例えば1種のmRNAをプロービング及び検出するための1セットのプローブを示すものとする。
【0039】
本発明の別の態様において、多数の重複していないプローブ結合領域を含む、メッセンジャーリボ核酸分子(mRNA)の標的配列を細胞中でプロービングする方法であって、
上記細胞を過剰な少なくとも2種のオリゴヌクレオチドプローブ中に浸漬させることと、
その際、それぞれのオリゴヌクレオチドプローブは、少なくとも2種の異なる色の蛍光標識の同じ組み合わせで多重標識されており、かつそれぞれのオリゴヌクレオチドプローブは、上記標的配列の異なるプローブ結合領域に相補的である核酸配列を含み、
上記固定された細胞を洗浄して未結合のプローブを除去することと、
上記プローブから蛍光を検出することと、
を含む、方法を提供する。
【0040】
本発明における異なる色の蛍光標識は、異なる励起波長及び/又はシグナル波長を有する蛍光部分であり、したがって個別の検出を可能にする。
【0041】
本発明の別の態様は、多数の重複していないプローブ結合領域をそれぞれ含む、メッセンジャーリボ核酸分子(mRNA)の少なくとも2種の標的配列を細胞中で同時にプロービングする方法であって、
上記細胞を過剰なプローブセット中に浸漬させることと、
その際、それぞれの標的配列につき1つのプローブセットがあり、ここで、それぞれのプローブセットは、少なくとも2種のオリゴヌクレオチドプローブを含み、1つのプローブセットのそれぞれのオリゴヌクレオチドプローブは、それぞれの標的配列のためのカラーバーコードを得るために少なくとも2種の異なる色の蛍光標識の同一の組み合わせで多重標識されており、かつ上記異なる色の蛍光標識の組み合わせは、それぞれのプローブセット間で異なり、かつ1つのプローブセットにおけるそれぞれのオリゴヌクレオチドプローブは、上記標的配列の異なるプローブ結合領域に相補的である核酸配列を含み、
上記固定された細胞を洗浄して未結合のプローブを除去することと、
上記プローブから蛍光を検出することと、
を含む、方法に更に関する。
【0042】
本発明においては、上記細胞は、好ましくは固定された透過性細胞である。
【0043】
この態様においては、上記「1種以上のオリゴヌクレオチドプローブ」は、好ましくは本明細書で上記に開示される本発明の標識方法により製造される。
【0044】
上記標的mRNAにおけるプローブ結合領域及びプローブの数は、幾つかの実施の形態においては40個~60個であり得る。その他の実施の形態においては、少なくとも30個のプローブは、7ヌクレオチド長~40ヌクレオチド長、最も好ましくは15ヌクレオチド長~30ヌクレオチド長である標的に相補的な配列を有する。
【0045】
それぞれのプローブは、上記細胞に0.2ナノグラム毎マイクロリットル~10ナノグラム毎マイクロリットルの濃度で添加され得る。
【0046】
固定された細胞は、好ましくはホルムアルデヒド固定により調製される。
【0047】
検出には、好ましくは広視野蛍光顕微鏡によるイメージングが含まれる。
【0048】
少なくとも1つの標識部分、又はその他の機能的部分を含み、予め決められたヌクレオチド配列を有する標識キャリアオリゴヌクレオチドを含み、(i)上記標識キャリアオリゴヌクレオチドの配列に逆相補的である配列を有する逆相補領域と(ii)縮重されたヌクレオチド配列を含むランダム配列領域とを含む相補的スプリントオリゴヌクレオチドを含む、オリゴヌクレオチドプローブを標識するための標識キットが更に提供される。本発明の方法の成分に関する具体的な記載は、本発明の標識キットの各々の成分にも同じことが当てはまる。
【0049】
或る特定の実施の形態においては、本発明の標識キットは、標識が異なる多数の標識キャリアオリゴヌクレオチドを含み得る。この実施の形態においては、上記標識キットは、異なる色の標識部分に結合された少なくとも2種の標識キャリアオリゴヌクレオチドを提供する。最も好ましい実施の形態においては、上記標識キットは、多数の標識キャリアオリゴヌクレオチドを含み、該標識キャリアオリゴヌクレオチドのそれぞれには多数の(少なくとも2つの)標識部分が結合されている。この標識キットにおいては、それぞれの標識キャリアオリゴヌクレオチドは、異なる標識組み合わせ、例えば個別の色の組み合わせを含む。これらの個別の色の組み合わせは、多数の標的配列のためのオリゴヌクレオチドプローブを作製するために標識キャリアオリゴヌクレオチドのための標識バーコードとしての役割を果たし得る。この標識キットは、好ましくは多数のmRNAを同時にプロービングするためのsmFISHアプローチにおいて使用される。
【0050】
本発明の標識キットは、リガーゼを、任意にその使用のためのバッファー又は試薬と一緒に更に含み得る。好ましいリガーゼは、本明細書で上記に記載されている。
【0051】
本発明のもう1つの実施の形態においては、上記標識キットは、本明細書で上記のアダプターオリゴヌクレオチドを更に含み得る。
【0052】
本発明の標識キットは、その使用のための使用説明書を更に含み得る。
【0053】
ここで、添付の図面及び配列を参照して、本発明について下記実施例で更に記載するが、これらに限定されない。本発明の目的で、本明細書中に引用する参照文献は全て、それらの全体が引用することにより本明細書の一部をなす。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【
図1】smFISHの分子構造を示す図である。単独で又は多重に蛍光標識された多数の遺伝子特異的ハイブリダイゼーションプローブが、標的mRNAにin situで結合される。局所的に集中した蛍光体のため、個々のmRNAは、光学顕微鏡法において回折限界内(200 nmのサイズ)で単一のドットとして可視化され得る。
【
図2】smFISHオリゴプールのT4 DNAリガーゼに媒介される蛍光標識を示す図である。未標識のsmFISHプローブは、5'にランダムな四量体を有すると共にスプリントの自己ライゲーションを阻止するための追加のアミン基を有するスプリント(splint)DNAによって、共通の蛍光性オリゴと一緒につなぎ合わされる。
【
図3】本発明の標識方法の反応スキームを示す図である。オリゴヌクレオチドプローブが3'末端で標識される実施形態が示されている。
【
図4】Hepa 1-6におけるGAPDH mRNAのsmFISH検出を示す図である。落射蛍光顕微鏡下で、青色染色は核のためのDAPI染色であり、白色のドットはGAPDHのためのsmFISHシグナルである。
【
図5】Hepa 1-6におけるGAPDH mRNAのsmFISH検出を示す図である。異なるz軸で、青色染色は核のためのDAPI染色であり、有色のドットはGAPDHのためのsmFISHシグナルである。
【
図6】マウスNSCにおけるGAPDH mRNAのsmFISH二色検出を示す図である。青色染色は核のためのDAPI染色であり、緑色又は赤色のドットはGAPDHのためのsmFISHシグナルである。
【発明を実施するための形態】
【0055】
配列:
配列番号1 標識キャリアオリゴヌクレオチドcta aat cca tta-ATTO550
配列番号2 相補的スプリントオリゴヌクレオチドATGGATTTAGNNNN-NH2
配列番号3~配列番号34 マウスのGAPDH mRNAコーディング領域特異的プローブ。
【0056】
【0057】
配列番号35 二色用の標識キャリアオリゴヌクレオチド
CTAAAzCCATACGGCGCAACT-ATTO550、FAM-dTのためのz。
【実施例】
【0058】
smFISHプローブを世界中のあらゆる分子生物学研究室及び臨床研究室において容易に利用可能かつ製造可能にするために、本発明者らは、現在のsmFISHプローブライブラリー作製を再発明して、その方法をより容易かつより廉価にするための探求を始めた。市販のプローブのために一般的に使用されるEDCを基礎とする化学を使用する代わりに、本発明者らは、smFISHプローブライブラリーの作製に酵素的標識アプローチを使用することを考えた。このアプローチは、研究室において段取りがより廉価かつより容易であると考えられた。この決定的な変更によって、出発プローブライブラリーを、該ライブラリー中のそれぞれのオリゴに末端アミン基を伴わずに合成することができ、それは、単一のオリゴの価格を15ユーロから2.5ユーロにまで直接的に下げる(表1)。これは、smFISHプローブ製造費用における大幅な削減である。典型的なsmFISHプローブライブラリーの場合には、最小限で32オリゴであり、最大96オリゴである必要がある。
【0059】
表1:様々なsmFISHプローブについての価格比較
【表1】
【0060】
幾つかの酵素が、smFISHプローブライブラリー中のssDNAオリゴを蛍光標識されたオリゴで標識するために使用されることが可能性として考えられる。1つの可能性はT4 DNAリガーゼの使用であり、それは、本明細書ではこの酵素の効率が高く、低価格であるため選択された。本発明者らは、また、スプリントオリゴヌクレオチドから自己ライゲーション産物を生成しない、DNAライゲーションのためのアミン封鎖されたスプリントを作製した(
図2)。
【0061】
標識方法の1つの例の完全な略図が
図3に示されている。1つの択一的な例においては、標識保有オリゴヌクレオチドは、5'末端でプローブオリゴにライゲーションされる。この例においては、スプリントオリゴの配置も逆になる。
【0062】
分取的尿素PAGEゲルで入念に精製した後に、GAPDHのための高度に精製されたsmFISHプローブライブラリーは、BDNF及びその他の2つの作業smFISHプローブライブラリーと同様に得られた。市販のGAPDHのためのプローブと比較したマウスHepa 1-6細胞系統におけるGAPDH mRNA染色の1つの例は、
図4に示されている。Zeiss社からのより高度なイメージング法により、本発明者らは、airyscan(商標)を使用して深部組織全体にわたるより良好なsmFISHイメージを獲得することができた(
図5)。
【0063】
同様の標識方略により、本発明者らは、smFISHプローブと多数の蛍光体とを一度に効果的にコンジュゲートさせたが、それは、本発明のもう1つの例を構成する。以下で、本発明による多重標識プローブを「RainbowFISH」と呼ぶ。本発明のこの実施形態においては、相補的なDNAオリゴを含めることで、蛍光体を保有する標識用オリゴヌクレオチドと共通の標識配列に関して二本鎖を形成することが重要である。そのような二本鎖を形成する相補的なオリゴを「アダプター」オリゴヌクレオチドと呼ぶ。このアダプターオリゴを用いないと、多色のsmFISHプローブは、強力な蛍光クエンチングを起こすこととなる。
【0064】
さらに、2色のRainbowFISHによるマウスの神経幹細胞におけるGAPDH mRNA検出のための1つの例が示されている(
図6)。GAPDHの単一分子mRNAドットは、緑色のシグナル及び赤色のシグナルにより全て完全に共存している。これは、in situでのGAPDH mRNA検出の特異性を増大させるだけなく、1つの検出ハイブリダイゼーションにおけるそれぞれのmRNA種をバーコード化する多数の色の組み合わせをも可能にする。
【0065】
smFISHプローブの多色標識は、単一の蛍光体が十分に強くない場合に、smFISHイメージのためにより明るいスポットを可能にすることにもなる。また多数の蛍光体の使用は、上記ライブラリー中のそれぞれのプローブのためのシグナルを増大させ、したがってそれぞれのライブラリー中に含まれるプローブの数を(最小限で24個の全プローブから5個~6個の全プローブまでも)減らすことができる。
【0066】
理論上、固有の組み合わせの数は、(n+m-1)!/n!(m-1)!(nは蛍光体の数を表し、mは蛍光体の色の数を表す)に等しい。その際、6つの位置での5種の蛍光体は210種の固有の色の組み合わせを生じ、それは、単一分子レベルにて210種の異なるmRNAのin situ検出と言い換えられる。本発明者らが多色プローブによる多数回のハイブリダイゼーションを適用することができるのであれば、MERFISHで使用されるのと同様の方略に基づいて、単一細胞における全トランスクリプトームin situイメージング及びデジタル方式の定量が簡単に終えることとなる。
【0067】
一般的な標識の例及びプローブハイブリダイゼーションの例を、以下に幾つかの主要な工程に分けて示す。
【0068】
1.smFISHプローブ標識のための反応
100 μlの場合の反応例(より大きい規模又はより小さい規模で必要とされる場合に、相応して変更する)
3 μl プローブ配列オリゴヌクレオチド混合物(300 pmol)100 μM混合物
4.5 μl 標識キャリアオリゴヌクレオチド(450 pmol)100 μM混合物
3 μl 相補的スプリントオリゴヌクレオチド1000 μM(3 nmol)
10 μl 10×T4 DNAリガーゼバッファー(NEB社、事前に小分けした)
50 μl PEG8000(50%(重量/容量))
28 μl H2O
1.5 μl T4 DNAリガーゼ(濃度2000 U/μl、NEB社)
【0069】
次いで、その組成物をよく混合し、PCR装置又は温度制御された水浴にて16℃で1時間にわたりインキュベートする。その反応を、900 μlのn-ブタノールの添加により停止させて、全てのオリゴヌクレオチドを沈殿させ、そのオリゴのペレットを、ローディングダイ(キシレンブルー+ブロモフェノールブルー)を有する50 μlの90%のホルムアミド(formamide)中に再溶解させる。再溶解されたオリゴを、95℃で5分間にわたり変性させ(denatured)、直ちに氷上に置く。
【0070】
2.ゲル精製
一方で、尿素PAGEゲルを、調製コーム(1.5 mm厚、1ウェル、5ウェル等)を用いて最大で500 μl試料/ゲル用に調製する。
7.2 g 尿素
1.5 ml 10×TBE
7.5 ml 30%のアクリルアミド:ビスアクリルアミド混合物(19:1)
75 μl 10%のAPS
7.5 μl TEMED
【0071】
上記ゲルを室温で15分間にわたり重合させる(コームを取り除く前に、ウェル間の重合を確認したところ、ガラスプレート中ではファルコンチューブ中よりも遅い)。次いで、そのゲルは、1×TBE中で300 V(電流は約30mA~50 mA)で30分間にわたり予備泳動する必要がある。試料をロードする前に、各ウェルをロード前に洗浄し、そして5ウェルのゲル中に最大で150 μl/ウェルで、又は1ウェルのゲルの場合に600 μl~700 μlでロードする。泳動条件は、300Vで30分~45分であり、キシレンブルーのバンドがゲルの1/3と1/2との間に移動するまで分離させる。そのゲルをプレートから取り出し、切り取ることで、プローブ配列オリゴヌクレオチド及び標識キャリアオリゴヌクレオチドの蛍光標識されたライゲーション産物の細いバンドを得ることができる。そのバンドは、周囲光のもとで目に見え、ゲルを切り取る時間は最小限となるべきである。そのゲル片を、マイクロチューブペッスルを用いて1.5 mlチューブ内で均質化し、少なくとも1 mlのTE(pH8.5)バッファー(又はゲル片の5容量)中で再懸濁する。液体窒素/ドライアイス中での急速冷凍は、ゲル粉末の更なる破壊を助けるために必要とされる。その後に、90℃で5分間にわたり融解させてから、該反応物をローテーター上に室温で一晩置く。そのチューブは、例えばアルミニウム箔で光から遮断する必要がある。
【0072】
3.オリゴの清浄化及び濃縮
TE溶液からのゲルの除去は、0.22 μmのフィルターチューブを通じた濾過により行われる。最大16000 g、室温で30分間にわたり遠心分離する。回収された溶液を、全体で6容量~8容量のn-ブタノールを連続的(任意に3段階)に添加することにより再び濃縮する。次いでブタノールの上相を最大限取り除く。次いで、100 μgのグリコーゲンをその溶液中に添加し、6容量の冷アセトンで沈殿させ、70%のエタノールで1回洗浄する。乾燥したペレットを、30 μlの水中に再溶解させ、例えばNanoDrop装置を使用して濃度を確認する。
【0073】
4.in situ smFISH染色及びイメージング
細胞を、カバーガラス上で3.7%のFAを用いて室温で10分間にわたり固定する。次いで、PBSで2回洗浄し、70%のEtOH中で一晩貯蔵する。in situハイブリダイゼーションの前に、2×SSC(10%のホルムアミド、0.1%のTween 20)で毎回10分間、2回洗浄する。次いで、smFISHハイブリダイゼーションの1×バッファー(2×SSCバッファー、10%の硫酸デキストラン、10%のホルムアミド、1 mg/mlのtRNA、2 mMのRVC(リボヌクレオシドバナジル複合体)、0.2 mg/mlのBSA)中でプローブ希釈1:100(プローブ濃度が約100 ng/μlの場合)にて30℃で一晩ハイブリダイズさせる。ハイブリダイゼーションの後に、2×SSC(10%のホルムアミド、0.1%のTween 20)で毎回30分間、2回洗浄するが、2回目の洗浄は、必要であれば核のためのDAPI染色を含む。試料を、life technologies inc社製のProLong封入剤中で封入する。smFISHドットのイメージングは、構造化照明顕微鏡法、STED顕微鏡法等を含む通常の広視野蛍光顕微鏡法又は超解像顕微鏡法で行うことができる。
【符号の説明】
【0074】
図面訳
図2
T4 DNA ligation T4DNAライゲーション
図3
Unlabelled oligo pool 未標識のオリゴプール
Fluorescent label 蛍光性標識
T4 DNA ligation T4DNAライゲーション
Adaptor アダプター
PAGE GelPurification PAGEゲル精製
In situ staining insitu染色
Adaptor stabilizedfluorescent probes アダプターで安定化された蛍光性プローブ
Fixed Cell 固定された細胞
Super-resolutionImaging 超解像イメージング
図4
GAPDH probe (Stellaris) GAPDHプローブ(Stellaris社)
GAPDH-Label-Atto550 GAPDH標識-Atto550
図6
Nuclei 核
【配列表】