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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-23
(45)【発行日】2023-01-06
(54)【発明の名称】電解研磨方法および装置
(51)【国際特許分類】
   C25F 7/00 20060101AFI20221226BHJP
   C25F 3/16 20060101ALI20221226BHJP
   C25F 3/26 20060101ALI20221226BHJP
【FI】
C25F7/00 M
C25F3/16 C
C25F7/00 W
C25F7/00 Q
C25F3/16 B
C25F7/00 S
C25F3/26
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019569059
(86)(22)【出願日】2019-01-24
(86)【国際出願番号】 JP2019002257
(87)【国際公開番号】W WO2019151102
(87)【国際公開日】2019-08-08
【審査請求日】2022-01-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000113838
【氏名又は名称】マルイ鍍金工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】306029176
【氏名又は名称】東日本機電開発 株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519281398
【氏名又は名称】株式会社WING
(74)【代理人】
【識別番号】100083172
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 豊明
(72)【発明者】
【氏名】井田 義明
(72)【発明者】
【氏名】山口 隆宣
(72)【発明者】
【氏名】チョウハン ビジェイ
(72)【発明者】
【氏名】仁井 啓介
(72)【発明者】
【氏名】水戸谷 剛
(72)【発明者】
【氏名】赤堀 卓央
(72)【発明者】
【氏名】宮野 健一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 福巳
(72)【発明者】
【氏名】姉帯 康則
(72)【発明者】
【氏名】早野 仁司
(72)【発明者】
【氏名】文珠四郎 秀昭
(72)【発明者】
【氏名】加藤 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 学行
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-63727(JP,A)
【文献】特開昭61-23799(JP,A)
【文献】特開平11-350200(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0098245(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25F 7/00
C25F 3/16
C25F 3/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架台と、
前記架台に対して、縦方向中央で垂直面に沿って上下反転自在に軸支され、空洞管を縦方向に保持する保持枠と、
前記空洞管に挿通される電極と、
前記空洞管の両端に設けられる液バッファと、
前記上下に反転する空洞管の、反転前と後にかかわらず、電解液を下方の液バッファから上方の液バッファに向かって空洞管内を循環させる弁機構と、
を備えた電解研磨装置。
【請求項2】
空洞管の一方端を下方に、他方端を上方にした状態で、下方の液バッファから空洞管に液を循環させるとともに電解研磨を所定時間実行し、次いで、前記空洞管の他方端を下方に一方端を上方にした状態で、下方の液バッファから空洞管に液を循環させるとともに電解研磨を上記と同じ所定時間実行する制御手段を備えた請求項1に記載の電解研磨装置。
【請求項3】
前記電極が、空洞管の内面に沿った形状の単翼を複数備えた翼電極が、電極軸に巻回された状態の収納状態と、前記巻回を解かれて周方向に延伸した状体の稼動状態をとる請求項1に記載の電解研磨装置。
【請求項4】
前記空洞管が、周期的に膨らみを持ったニオブ管である請求項1に記載の電解研磨装置。
【請求項5】
請求項1に記載の電解研磨装置を用いた電解研磨方法であって、
電解液を前記空洞管の下方の液バッファから上方の液バッファに向かって空洞管内を循環させるとともに、所定時間電界研磨するステップ、
前記電解研磨を停止するとともに、給排液状態を停止するステップ、
前記空洞管を反転するステップ、
前記反転した状態でも、前記空洞管の下方の液バッファから上方の液バッファに向かって空洞管内を循環させた状態で、前記と同じ所定時間電界研磨するステップ、
を備えた電解研磨方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電解処理に関し、特に、電解研磨または電解メッキの電解液の循環に関する装置と方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ビッグバン状態を形成する装置としてリニアコライダが建設されようとしている(ILC計画)。リニアコライダには図10に示すように、両端にフランジ101a、101bを有し、軸方向に周期的に径が変化するニオブの空洞管100が使用される。この実験で所定の効果を得るための要素の1つとして、このニオブの空洞管100の内面が平滑になっているか否かがある。
【0003】
ところが、空洞管100は、成形時に過大な圧力や熱を掛けるところから、その内表面の組織は不均一に歪んだ状態となっている。この表面状態をこのままにしておくと、電気的特性、磁気的特性も不均一な状態となり、結果として、電子や陽子に所定の速度を与えることができなくなる。そこで、空洞管の内面を所定の厚さ、研磨する方法が開発されている。
【0004】
ニオブに限らず、上記のような空洞管を研磨する方法としては、化学研磨と電解研磨が一般的に使用されているが、ここでは電解研磨について記述する。
【0005】
上記のように空洞管、特に内面がストレートでなく複雑な形状を持った空洞管の内面を電解研磨する場合、研磨液から発生する気泡の処理が重要となる。すなわち、気泡が滞留するとその部分の表面が荒れた状態となり、満足できる状態とはならない。
【0006】
特開昭61-23799には、前記管の長手方向中央部にセル(以下セルという)を持った空洞管(金属製中空体)の内面を研磨する装置が開示されている。すなわち、前記空洞管の長手方向を水平に保持した状態で、当該金属製中空体の中心に通液パイプを通して、当該通液パイプの一方の端から電解液を前記セルに供給する構成とし、前記中空体の中心軸に対して中空体を回転させながら内部の略下半分が研磨液に浸漬されるように研磨液を給液する構成としている。ここでは、中空体の中心に通した給液パイプの一方から当該給液パイプの下側で中空体のセルに対応する位置に設けた供給口から電解液を供給し、中空体の他方開口部から抜く構成となっている。したがって、セルに供給される電解液の流れの状態が部分によって異なり、研磨状態に不均一が生じることになる。
【0007】
特開平11-350200では、上記の欠点を改良すべく、給液パイプの上側から電解液を垂直上方向に供給するようにして、電解液の流れをセルに生じさせないようにして、研磨状態を均一にしようとしている。
【0008】
しかしながら、上記のように空洞管を水平に配設した場合、上半分が電解液に浸漬されていない状態となり、電解に伴って発生する気泡による表面荒れを無視することはできない。そこで本願出願人は特許5807938にて空洞管の軸を縦に配置して、空洞管の内面全体が電解液に浸される状態で、電解処理(研磨、メッキ)をする装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開昭61-23799号公報
【文献】特開平11-350200号公報
【文献】特許5807938号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記空洞管の軸を縦に配置して電解研磨を行う、特許5807938の装置を用いると、空洞管の内面を、ある程度の均一性を以って研磨することができるが、更に精密性が要求されたときには不十分である。
【0011】
図7は、軸方向に周期的に径が変化する空洞管を、上記特許5807938に開示の装置を用いて研磨した場合の、各部(図5、m1~m6)の研磨量を測定したものである。以下、前記空洞管の小径部から小径部までの膨らみをセルという。
【0012】
各セルの大径部の径は300mm程度、小径部の径は100mm程度の単位で、9連のセルに対して、下から電解液を注入し、上から当該電解液を排出しながら、例えば、電流27mAで3分間研磨をすることを所定回数繰り返す。この場合、前記単位のセルで1分で200cc程度のガス(水素ガス)が発生し、注入される電解液とともに上昇するので、上の方ほどガス量が増えることになる。
【0013】
この状態で、単位のセルに対して、図5に示すように、軸方向に例えば6箇所(m1~m6)、9セルで合計で54箇所の研磨量を測定したところ、図7に見られるように、単位のセルについて、最も大きく研磨されている部分は、当該セルの最大径より上の部分(図5では空洞管の肩の部分に相当)であり、セルの内部の位置によって研磨量の差が相当あることが理解できる。また、複数のセルを通してみると上のセル(図7左側)ほど、前記部分の研磨量が多くなる。下方端に近いセル(図7右側)と上方端に近いセルの研磨量を比べると、肩の部分で50μm強、小径部で5μm程度の差ができることになる。
【0014】
上記のように特許5807938の装置を用いた場合、セル内部のあるいはセル間の研磨量をある程度の均一性を持って確保することはできるが、更に厳密性が要求されたときには不十分である。
【0015】
本発明は上記従来の事情に鑑みて提案されたものであって、セル内の位置に依存して発生する研磨量、およびセル間の研磨量の差を抑えることができる電界研磨装置と電界研磨方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、空洞管を研磨する電解研磨装置である。
【0017】
空洞管を縦方向に保持する保持枠が、架台に対して縦方向中央で反転自在に軸支される。前記空洞管には電極が挿通され、また、前記空洞管の上下両端には液バッファが設けられる。
【0018】
弁機構は、前記保持枠の反転(空洞管の反転)前であっても反転後であっても、電解液を下方の液バッファから上方の液バッファに向かって空洞管内を循環させるように、液循環回路を切り替えることができる。この構成で、反転前に、空洞管に電解液が循環されている状態で所定時間電解処理がなされるとともに、反転後でも電解液が循環されている状態で、前記と同じ所定時間の電解処理が行われる。
【0019】
前記弁機構の切り替えは、手動で行ってもよいが、切り替え制御手段を用いることもできる。また、前記電解処理も電解制御手段で実行することができる。
【0020】
上記装置を用いて電解研磨する手順は、方法の発明として認識することもできる。すなわち、電解液を下方の液バッファから上方の液バッファに向かって空洞管内を循環させている状態で、所定時間電界研磨する。前記電解研磨を停止するとともに、電解液の循環も停止する。前記空洞管を反転する。前記空洞管を反転した状態でも、電解液を下方の液バッファから上方の液バッファに向かって空洞管内を循環させている状態で、前記と同じ所定時間電界研磨する。
【0021】
上記の工程は必要な回数繰り返される。
【発明の効果】
【0022】
上記構成により、空洞管の下方から電解液を循環し、電解処理によって発生する気泡を循環する電解液とともに上方に押し出すとともに、空洞管を所定時間ごとに反転させて電解処理をしているので、空洞管を構成する単位のセルの内部の位置による研磨量の不均一、あるいはセル間の研磨量の不均一を抑制することができることになる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は本発明の装置を示す斜視図。
図2図2は本発明の模式図。
図3図3は液供給回路のより詳しい図。
図4図4は本発明に用いる電極の斜視図。
図5図5は測定位置を示す図。
図6図6は本発明による研磨状態を示す図。
図7図7は比較例による研磨状態を示す図。
図8図8は他の比較例による研磨状態を示す図。
図9図9は本発明による研磨処理の前後を示す写真。
図10図10は空洞管を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<構造>
図1は、本発明の概要を示す斜視図であり、図2は、図1に示す装置の電解液の給排回路と制御手段を合わせて示す模式図である。
【0025】
架台50は、所定の高さに立ち上げた、所定間隔左右の支柱51a、51bを備えた構造になっている。当該架台50の前記支柱51a、51bに左右の保持枠60の縦方向(空洞管の軸方向)中央が水平の回転軸61を介して支持される。
【0026】
空洞管100の上下端の位置のセルの大径部にフランジ111a、111bが嵌め込まれ、当該フランジ111a、111bを前記保持枠60に固定されたクリップ201a、201bで上下から挟んで、前記フランジ111a、111bを保持枠60に固定、すなわち、前記空洞管100を保持枠60に固定した構成となっている。なお、必要な場合は前記上下のフランジ111a、111bのみに限らず、補強を必要とする箇所に、前記と同じフランジとクリップを用いて前記保持枠60への空洞管100の固定がされる。
【0027】
前記フランジ111a、111bは、直径方向に2分割されており、空洞管100のセルの大径部で、前記2分割したフランジ相互をねじ等で繋ぎ合わせることで、空洞管100への各フランジ111a、111bの固定が可能となる。
【0028】
前記空洞管100の上下両端のフランジ101a、101bを利用して液バッファ300a、300bが設けられ、更に、当該液バッファ300a、300bに対して循環パイプ301(以下に説明する給液パイプ301aと排液パイプ301b)が接続され、当該2つの循環パイプ301は弁機構302とポンプ303を介して液タンク15に接続される。尚、図2で示す弁機構302は、後に説明する図3に描くすべての弁を含むが、ここでは主として3方弁302aと3方弁302bを意味する。
【0029】
前記循環パイプ301は給液パイプ301aと排液パイプ301bで構成されるが、後に説明するように、空洞管100自体が所定の時間間隔で上下に反転し、下側に位置する液バッファ300aに接続される側が給液パイプ301a、上側の液バッファ300bに接続される側が排液パイプ301bとなる。
【0030】
電解処理中に以下に説明する電極20を回転させる必要があり、しかも以下の空洞管100の反転を考慮すると、電極20を回転させるモータとの連結部材70(例えばギア機構)が電極20の電極軸21の両端に設けられる。
【0031】
図3は、図2における空洞管100に電解液を供給する回路をより詳しく示す図である。
【0032】
給液用の3方弁302aの2つのポートは給液パイプ301aと排液パイプ301bを繋ぐように接続され、当該3方弁302aの他の1つのポートはポンプ303を介して液タンク15に接続される。同様に、排液用の3方弁302bの2つのポートも前記給液用の3方弁302aと並列に給液パイプ301aと排液パイプ301bを繋ぐように接続され、当該3方弁302bの他の1つのポートは液タンク15に戻される。
【0033】
前記液タンク15とは別に、洗浄用の純水を蓄える純水タンク16が設けられるとともに、洗浄パイプ401が給水用の3方弁402aの2つのポートに液バッファ300aと300bを繋ぐように接続され、当該給水用の3方弁402aと並列に排水用の3方弁402bの2つのポートが、前記2つの液バッファを繋ぐように接続される。前記給水用の3方弁402aの残りのポートはポンプ403を介して純水タンク16に接続され、前記排水用の3方弁402bの残りのポートは純水タンク16に戻されるようになっている。
【0034】
尚、劣化した電解液、洗浄後の純粋は廃水タンク17に貯められる構成となっている。また、液バッファ300aは、2方バルブ304aを介して前記給液パイプ301aと、洗浄パイプ401に接続され、また、液バッファ300bは、2方バルブ304bを介して排液パイプ301bと洗浄パイプ401に接続されており、電解処理時と洗浄時で、2方バルブ304aと2方バルブ304bを切り替える構造となっている。
【0035】
<電解処理>
以上の構成で、まず、空洞管100が、前記クリップ201a、021bとフランジ111a、111bを用いて、保持枠60に固定される。次いで、空洞管100の上から電極20が挿入される。電極20の構成は特に限定されることはないが、セルの溶接部(特に大径部)を研磨する必要上、後述する特許5807938号公報に記載の電極を使用する。次いで、上下の液バッファ300a、300bが空洞管100の両端に液密に取り付けられ、更に、電極20の電極軸21に取り付けられた前記連結部材70と、電極20の回転駆動手段となるモータ71が連結される。
【0036】
上記の準備が完了すると、弁機構302を構成する各弁302a、302b等を、電解液が空洞管100の下方の液バッファから上方の液バッファに向かって循環するように設定して、ポンプ303によって、電解液を空洞管100の下方から注入する。空洞管100内を電解液が循環している状態で、電解を開始する。単位時間あたり所定量の電解液の循環を継続しながら、所定時間、所定電流で上記の電解処理を実行する。当該電解処理は、モータ71で、電極20を回転させながら電極20側を負、空洞管100側を正にして実行することになる。次いで、一旦、送液、電解処理を停止して、前記保持枠60ごと空洞管100を反転させる。
【0037】
その後、下の液バッファ300aから上の液バッファ300bに向って電解液が循環するように弁機構302(3方弁302a、302b)を切り替え、上記と同様の条件(時間、電流)での電解処理をする。なお、弁機構302を構成する弁としては、給液弁302a、排液弁302b、給水弁402a、排水弁402b等、図3に描かれているすべての弁をいうが、ここで電解液の循環に寄与して、切り替えが必要な弁は給液弁302aと排液弁302bである。すなわち、前記空洞管100の反転によって、排液弁302bは給液弁302aとなり、給液弁302aは排液弁302bはとなるので、本発明が意図する、「下方からの電解液の循環」を達成するためには、給液弁302aと排液弁302bを切り替える必要がある。
【0038】
上記の電解処理は、手動で空洞管100を反転し、弁機構302を切り替え、更に必要な電流、電圧をコントロールすることによって実行することもできるが、制御手段400を用いて自動で行うこともできる。この場合制御手段400は、前記空洞管の反転、液の供給の切り替え、すなわち必ず下の液バッファ300aから電解液が供給されるようにするとともに、電解処理(時間、電流等)の管理を担うことになる。
【0039】
図6は、5L/minの流量で、電解液を空洞管100の下側から供給し、200~ 270mA/cm2、16~17V前後で、3分の電解処理を1回とし、31回の反転を後繰り返すことを1単位とし、空洞管100の内面を研磨したときの、図5に示した各測定位置(m1~m6、および全セルに渡って)の研磨量を複数単位の平均で示す図である。
【0040】
小径部の研磨量は20μm前後で安定しており、大径部の研磨量は30~35μm程度に収まっている。尚、図6では、上の測定位置から下の測定位置に渡って、通し番号を振っている(以下の図7図8も同じ)。
【0041】
図7は比較例を示す図である。電解液を空洞管100の下側から供給しながら電解処理をし、所定時間(3分)後に、電解処理を停止するとともに上記電解液の供給を継続して、セルの肩付近に溜まっている気泡を押し出してから電解処理を再開することを前記と同様の回数繰り返した場合の結果を示したものである。大径部の肩付近の研磨量が80~90μmにも及び、小径部の研磨量との差が50μmにも及ぶことが分かる。
【0042】
図8は他の比較例を示す図である。下側から電解液を供給しながら所定時間(上記と同じ3分)電解処理をし、一旦、当該電解処理と液の供給を停止し、続いて、電解液を空洞管100の上側から供給しながら電解処理をし、所定時間(3分)後に、電解処理を停止するとともに上記電解液の供給を停止することを、上記と同じ回数繰り返した結果を示す。小径部の研磨量こそ20~25μmで、上記空洞管100を反転させる場合と大きくは変わらないが、大径部の研磨量が45μmにもなり、小径部での研磨量と大径部(セルの肩の位置)での研磨量の差が大きくなる。
【0043】
図9は、本発明の処理前後を示すマイクロスコープによる空洞管内部の、溶接部(大径部)の写真である。前記図6では本発明による効果を各部の研磨量から示しているが、図9では、空洞管100の内面の状態が鏡面に仕上がり期待どおり平滑になっていることを示している。
【0044】
すなわち、空洞管100の膨らみ(セル)部分は、当該セルを大径部で半分に切ったカップ状体を相互に突合せた状態で、当該突合せ部分を溶接して形成する。処理前(図9(a))は照射する光が乱反射して、全体として不明瞭な映像しか得られないが、処理後(図9(b))は表面が鏡面になっており、溶接部分のデブリも完全に除去されていることが理解できる。
【0045】
以上の結果、本願発明に係る装置で、空洞管100を反転させながらの研磨が有効であることを示している。
【0046】
尚上記において、反転前と反転後の電解処理時間を同じ時間としているが、状況に応じて変化させることも許容される。例えば、膨らみの上下で形状が異なる場合、あるいは膨らみの上下で物質が異なる場合である。
【0047】
<電極>
電極構造については特許5807938号に説明されているので、ここでは図4に基づいて簡単に説明する。
【0048】
電極軸21には、外周が研磨対象物の空洞管100のセルの膨らみ部の内面形状に対応する形状と同じ単翼22a、22b・・を、1枚もしくは複数枚(図示では4枚)、周方向に等間隔に配置して翼電極22を形成する。
【0049】
翼電極22を構成する各単翼22a、22b・・は、可撓性を有しており、電極軸21に巻回された状態で、最小径となり、この状態で、電極軸21と同心に配置された収納筒29に収納されるようになっている。前記収納筒29に収納された状態の各単翼22a、22b・・の先端に対応する位置に、軸方向のスリット群23(23a、23b・・)が設けられ、当該スリット群を構成する各スリット23a、23b・・に、各単翼22a、22b・・の先端部が、収納筒29の外部に僅かに出る程度に挿通しておく。これによって、電極軸21と収納筒29とを相対的に回転することによって、各単翼22a、22b・・の先端を径方向に挿抜することができ、各単翼22a、22b・・の先端の径を調整できる構成(径調整手段:電極軸21+翼電極22+収納筒29+スリット群23)とする。
【0050】
上記のように翼電極22は、収納状態と、稼動状態の2つの態様を採る。すなわち、各単翼22a、22b・・の先端が、収納筒29の各スリット23a、23b・・から僅かに出た状態が収納状態であり、また、図4に示すように、電極軸21と収納筒29を相対的に回転させ、各単翼22a、22b・・の外周端が、空洞管100の内周面近くに押し出された状態(各単翼22a、22b・・の外周端と空洞管100の内周面との距離が例えば1cm前後)が稼動状態である。
【0051】
少なくとも、各単翼の外周端は金属で構成され、電極軸21と電気的に接続されているので、前記稼動状態を形成した電極20と空洞管100との間に電界を掛けると空洞管100の内面は電解研磨されることになる。
【0052】
上記翼電極22は、空洞管100のセルの数だけ電極軸21に配置されることはもちろんである。
【産業上の利用可能性】
【0053】
以上説明したように、本発明は、空洞管の内面を電解研磨するにあたって、空洞管の下方から電解液を循環させて発生する気泡を押し出すとともに、空洞管の反転を繰り返しながら電解処理をするようにしているので、内面が均一に研磨でき、特に、リニアコライダに用いる空洞管等、精密研磨を必要とする製品に適用すると有効である。
【符号の説明】
【0054】
20 電極
21 電極軸
22 翼電極
22a、22b 単翼
23 スリット群
23a、23b スリット
29 収納筒
50 架台
51a、51b 支柱
60 保持枠
61 回転軸
70 連結部材
100 空洞管
111a、111b フランジ
201a、201b クリップ
300a、300b 液バッファ
301 給排パイプ(301a 給液パイプ、301b 排液パイプ)
302 弁機構
303 ポンプ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10