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特許7200199単結晶圧電層、およびそのような層を含むマイクロエレクトロニクスデバイス、光子デバイスまたは光学デバイスの作製方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-23
(45)【発行日】2023-01-06
(54)【発明の名称】単結晶圧電層、およびそのような層を含むマイクロエレクトロニクスデバイス、光子デバイスまたは光学デバイスの作製方法
(51)【国際特許分類】
   H03H 3/08 20060101AFI20221226BHJP
   C30B 29/18 20060101ALI20221226BHJP
   C30B 29/22 20060101ALI20221226BHJP
   H03H 3/02 20060101ALI20221226BHJP
   H03H 9/17 20060101ALI20221226BHJP
   H03H 9/25 20060101ALI20221226BHJP
【FI】
H03H3/08
C30B29/18
C30B29/22
H03H3/02 B
H03H9/17 F
H03H9/25 C
【請求項の数】 10
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020202217
(22)【出願日】2020-12-04
(62)【分割の表示】P 2018532615の分割
【原出願日】2016-12-21
(65)【公開番号】P2021048624
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2020-12-09
(31)【優先権主張番号】1563057
(32)【優先日】2015-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】500361216
【氏名又は名称】ソワテク
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】ブリュノ、ギスレン
(72)【発明者】
【氏名】イオヌット、ラドゥ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-マルク、ベトゥー
【審査官】▲高▼橋 徳浩
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06593212(US,B1)
【文献】国際公開第2005/050836(WO,A1)
【文献】特開2008-283689(JP,A)
【文献】国際公開第2009/081651(WO,A1)
【文献】特開平08-153915(JP,A)
【文献】特開2004-179630(JP,A)
【文献】国際公開第2013/018604(WO,A1)
【文献】特開2008-211277(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/22
C30B 29/18
H03H3/007-H03H3/10
H03H9/00-H03H9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶圧電層(10)の層の作製方法であって、
圧電材料のドナー基板(100)を供給する工程と、
受入基板(110)を供給する工程と、
前記圧電材料の「起原層」(102)と呼ばれる層を、前記ドナー基板(100)から前記受入基板(110)に移送する工程と、
前記単結晶圧電層(10)の所要厚が得られるまで、前記起原層(102)上に前記圧電材料のエピタキシを実装する工程と、
を含み、
前記圧電材料が、石英、ならびに式LiXO (式中、Xは、ニオブおよびタンタルから選択される)を有する化合物から選択され、
前記受入基板が半導体材料製であり、且つ前記起原層と前記受入基板との間に、多結晶シリコン、非晶質シリコンおよび多孔質シリコンから選択される少なくとも1種の材料で形成されたトラップリッチ層を挟持してなることを特徴とする、作製方法。
【請求項2】
前記起原層(102)の移送が、以下の工程:
移送対象となる前記起原層(102)が画定されるように前記ドナー基板内に脆化ゾーン(101)を形成する工程と、
移送対象となる前記起原層(102)が接合界面にあるように、前記ドナー基板(100)を前記受入基板(110)上に接合する工程と、
前記受入基板(110)上に前記起原層(102)が移送されるように脆化ゾーン(101)に沿って前記ドナー基板(100)を分離させる工程と、
を含む、請求項1に記載の作製方法。
【請求項3】
前記ドナー基板(100)へのイオン注入によって前記脆化ゾーン(101)が形成される、請求項2に記載の作製方法。
【請求項4】
前記起原層(102)の厚さが2μm未満である、請求項1~のいずれか一項に記載の作製方法。
【請求項5】
前記エピタキシを実装する工程の前に、前記受入基板(110)上に移送された前記起原層(102)の厚さの一部が除去される、請求項1~のいずれか一項に記載の作製方法。
【請求項6】
前記エピタキシを実装する工程の終了時に、前記単結晶圧電層(10)の厚さが0.2~20μmになる、請求項1~のいずれか一項に記載の作製方法。
【請求項7】
少なくとも1つの電気絶縁層および/または少なくとも1つの電気伝導層が、前記受入基板と前記起原層との間の界面上に形成される、請求項1~のいずれか一項に記載の作製方法。
【請求項8】
受入基板(110)上に単結晶圧電層(10)を含む、マイクロエレクトロニクスデバイス、光子デバイスまたは光学装置用の基板の製造方法であって、請求項1~のいずれか一項に記載の作製方法を用いた前記単結晶圧電層(10)の作製を含むことを特徴とする、基板の製造方法。
【請求項9】
単結晶圧電層(10)に対向する2つの主面上に電極(12、13)を配設する工程を含む、バルク音響波デバイスの製造方法であって、請求項1~のいずれか一項に記載の作製方法を用いた前記単結晶圧電層(10)の作製を含むことを特徴とする、製造方法。
【請求項10】
単結晶圧電層(10)の表面上に相互に嵌合された2つの電極(12、13)を形成する工程を含む、表面音響波デバイスの製造方法であって、請求項1~のいずれか一項に記載の作製方法により前記単結晶圧電層(10)を作製する工程を含むことを特徴とする、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にマイクロエレクトロニクスデバイス、光子デバイスまたは光学デバイスへ適用に適した単結晶圧電材料の層の作製方法に関する。そのようなデバイスは、特に、限定されるものではないが、無線周波用途に対応したバルク音響波デバイスまたは表面音響波デバイスとすることができる。
【背景技術】
【0002】
無線周波数範囲でのフィルタリングに使用される音響成分のうち、フィルタのカテゴリは大きく以下の2つに分類できる。
1つは、「表面音響波」(SAW)フィルタであり、
もう1つは、「バルク音響波」(BAW)フィルタおよび共振器である。
これらの技術の総説については、W. SteichenおよびS. Ballandras, "Composants acoustiques utilises pour le filtrage - Revue des differentes technologies" (Acoustic components used for filtering - Review of different technologies), Techniques de l' Ingenieur, E2000, 2008に掲載されている。
【0003】
表面音響波フィルタは典型的に、厚い圧電層(すなわち、通常は数百μmに等しい厚さのもの)と、前記圧電層の表面上に互いに嵌合した金属製櫛形態を成して配設された2つの電極と、を含む。電極に印加された電気信号(典型的には電圧の変化)は、圧電層の表面上に伝播する弾性波に変換される。この弾性波の伝播は、波の周波数がフィルタの周波数帯域に対応している場合に促進される。この波は、他の電極に到達すると、再び電気信号に変換される。
【0004】
バルク音響波フィルタは典型的に、薄い圧電層(すなわち、厚さが概ね1μmをはるかに下回る)と、前記薄い層の各主面上に形成された2つの電極と、を備えるのが一般的である。電極に印加された電気信号(典型的には電圧の変化)は、圧電層を通って伝播する弾性波に変換される。この弾性波の伝播は、波の周波数がフィルタの周波数帯域に対応している場合に促進される。この波は、反対側の面に位置する電極に到達すると、再び電気電圧に変換される。
【0005】
表面音響波フィルタの場合、表面波を減衰させることのないよう、圧電層は優れた結晶品質でなければならない。したがって、この場合には、単結晶層を使用するのが好ましい。現時点で産業上利用可能な材料としては、石英、LiNbOまたはLiTaOが好適とされている。前記材料のうちの1つのインゴットを切断することによって圧電層が得られる。本質的にその表面上に波を伝播すべき場合には、前記層の厚さに要求される精度がさほど重要とされない。
【0006】
バルク音響波フィルタの場合、圧電層は、層全体にわたって厚さが判別されていて、且つその厚さが均一であること、および精密に制御されることが必要とされる。一方、結晶品質は、フィルタの性能に関する重要なパラメータという点では二次的なものとして分類されるので、現在、前記層の結晶品質に関しては妥協が為されており、多結晶層は長年にわたって許容範囲内であると考えられてきた。したがって、圧電層は、支持基板(例えば、シリコン基板)上への配設によって形成される。そのような配設用に現在工業的に利用されている材料は、AlN、ZnOおよびPZTである。
【0007】
そのため、その2つの技術において材料の選択肢が非常に狭められている。
【0008】
材料の選択肢は、フィルタ間の特性の相違に対する妥協の結果であり、フィルタ製造業者の仕様によっても異なってくる。
【0009】
バルク音響波フィルタまたは表面音響波フィルタの設計における自由度を高めるためには、上に列挙されている材料よりも多くの材料を使用できることが望ましい。特に、表面音響波フィルタに従来用いられた材料は、バルク音響波フィルタ用の代替として関心の対象となりうる。
【0010】
しかしながら、これにより、これらの材料の薄く、均一で、良質の層が得られるようになる。
【0011】
第1に考えられるのは、研磨および/またはエッチング技術を用いて、インゴットから切断された厚い層を薄層化することである。しかしながら、これらの技術は、材料の損失を深刻化するので、要求される均一性を有する厚さ数百ナノメートルの層を達成しえない。
【0012】
第2に考えられるのは、支持基板に移送される前記層を接合して、石英、LiNbOまたはLiTaOのドナー基板中に脆化ゾーンを作ることによって、移送対象の薄層が画定されるようにし、Smart Cut(商標)タイプの層移送を使用して、薄い層が支持基板上に移送されるように脆化ゾーンに沿ってドナー基板を分離する工程と、を含む。しかしながら、ドナー基板へのイオン注入によって脆化ゾーンが生ずると、移送された層が損傷し、その圧電結晶が劣化する。シリコン層の移送で知られる硬化(特に焼成)方法は、前記層の複雑な結晶構造、およびシリコンにおいて生起される機序とは異質のものと見られる損傷機序のせいで、圧電層を必ずしも完全に修復できるとは限らない。
【0013】
最後に、サファイア等の基板に対して幾つかの試験が遂行されてきたにもかかわらず、十分な品質のヘテロエピタキシによって石英、LiNbOまたはLiTaOからなる単結晶薄膜を形成するための適した基板(特に適切なメッシュパラメータ有する基板)は未だ存在していない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【文献】W. SteichenおよびS. Ballandras, "Composants acoustiques utilises pour le filtrage - Revue des differentes technologies" (Acoustic components used for filtering - Review of different technologies), Techniques de l'Ingenieur, E2000, 2008.
【発明の概要】
【0015】
本発明の一目的は、上述の欠点を克服すること、ならびに、特にマイクロエレクトロニクスデバイス、光子デバイスまたは光学デバイス用の基板、特に限定されないが、バルク音響波デバイスまたは表面音響波デバイス用の基板をより広範な材料から作製し、特に、表面音響波デバイスに使用される材料(すなわち、厚さ20μm未満、または更には厚さ1μm未満)の均一な薄い層を得ることができるようにする方法を設計することにある。しかも、この方法はまた、既存のバルク音響波デバイスにおいて実現されるよりも多様な支持基板を使用可能にするものでなければならない。
本発明は、
圧電材料のドナー基板を供給する工程と、
受入基板を供給する工程と、
「起原層」と呼ばれる層を、前記ドナー基板から受入基板に移送する工程と、
単結晶圧電層の所要厚が得られるまで、起原層上に圧電材料のエピタキシを実装する工程と、
を含むことを特徴とする、単結晶圧電層の層作製方法を開示するものである。
一実施形態によれば、起原層の移送は、以下の工程:
移送対象となる起原層が画定されるようにドナー基板内に脆化ゾーンを形成する工程と、
移送対象となる起原層が接合界面にあるように、ドナー基板を受入基板上に接合する工程と、
受入基板上に起原層が移送されるように脆化ゾーンに沿ってドナー基板を分離させる工程と、を含む。
【0016】
脆化ゾーンは、ドナー基板内へのイオン注入によって形成できる。
【0017】
圧電材料は、石英および式LiXO(式中、Xは、ニオブおよびタンタルから選択される)を有する化合物から選択することが、好ましい。
【0018】
起原層の厚さは2μm未満、好ましくは1μm未満であれば好都合である。
【0019】
一実施形態によれば、エピタキシ工程前に、受入基板上に移送された起原層の厚さの一部が除去される。
【0020】
エピタキシ工程の終了時に、単結晶圧電層の厚さが0.2~20μmとなるのが、好都合である。
【0021】
一実施形態によれば、少なくとも1つの電気絶縁層および/または少なくとも1つの電気伝導層が、受入基板と起原層との間の界面上に形成される。
【0022】
特定の一実施形態によれば、本方法は、エピタキシ後に、単結晶圧電層の少なくとも一部を最終基板に移送することを含む。
【0023】
本方法は、最終基板上への移送後に、起原層を除去することを含むのが、好都合である。
【0024】
受入基板は、半導体材料で作られていて、且つ起原層と受入基板との間に中間トラップリッチ層を挟持してなるのが、好都合である。
【0025】
別の目的は、受入基板上に単結晶圧電層を含むマイクロエレクトロニクスデバイス、光子デバイスまたは光学デバイス用の基板であって、圧電層が、受入基板との界面に位置する第1の部分と、第1の部分から延在する第2の部分、を有し、且つ第2の部分の特性が第1の部分の特性と異なることを特徴とする、基板に関する。
【0026】
別の目的は、圧電層に対向する2つの主面上に電極を形成することを含むバルク音響波デバイスの製造方法に関し、本方法は、上述のような方法を用いた前記圧電層の作製を含むことを特徴とする。
【0027】
別の目的は、上述の方法によって得ることのできる圧電層と、前記層の2つの対向する面上に配置された2つの電極と、を備えることを特徴とする、バルク音響波デバイスに関する。
【0028】
別の目的は、圧電層の表面上に相互に嵌合された2つの電極を形成することを含む表面音響波デバイスの製造方法に関し、本方法は、上記方法を用いての前記圧電層の作製を含むことを特徴とする。
【0029】
別の目的は、上述の方法によって得ることのできる圧電層と、前記圧電層の一つの面上に配置された相互に嵌合された2つの電極と、を備えることを特徴とする、表面音響波デバイスに関する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
本発明の他の特徴および利点は、添付の図表を参照しながら以下の詳細説明を読むことによって明らかとなるであろう。
図1】表面音響波フィルタの主断面図である。
図2】バルク音響波フィルタの主断面図である。
図3A】本発明の第1の実施形態による、単結晶圧電層の作製方法における連続工程を例証する。
図3B】本発明の第1の実施形態による、単結晶圧電層の作製方法における連続工程を例証する。
図3C】本発明の第1の実施形態による、単結晶圧電層の作製方法における連続工程を例証する。
図3D】本発明の第1の実施形態による、単結晶圧電層の作製方法における連続工程を例証する。
図3E】本発明の第1の実施形態による、単結晶圧電層の作製方法における連続工程を例証する。
図3F】前記方法の任意選択的な後続工程を例証する。
図3G】前記方法の任意選択的な後続工程を例証する。
図3H】前記方法の任意選択的な後続工程を例証する。 図面を判読し易いように、例証されている要素が必ずしも一定の縮尺で表されているとは限らない。そのうえ、別々の図面上に描かれた要素でも、同じ参照符号によって指定されている要素どうしは同一物である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1は、表面音響波フィルタの主図である。
【0032】
前記フィルタは、圧電層10と、前記圧電層の表面上に配設された2つの電極12、13と、を具備し、これらの電極は2つの互いに嵌合した金属製櫛の形態を成している。電極12、13とは反対側の、支持基板11上には、圧電層が支持されている。圧電層10は、表面波に減衰を来たさず結晶性に優れるものであることが好ましい。
【0033】
図2は、バルク音響波共振器の主図である。
【0034】
共振器は、薄い圧電層(すなわち、厚さが概ね2μm未満、好ましくは厚さが0.2μm未満)と、前記圧電層10の両側に設置された2つの電極12、13と、を含む。この圧電層は、本発明による作製方法によれば、単結晶とされる。圧電層10は支持基板11上に載置されている。任意選択的に、電極13と基板11との間にブラッグミラー14を挿入することにより、基板の共振器を分離し、それにより、基板内の波の伝播を防止できる。代わりに(不図示)この絶縁を、基板と圧電層との間に空洞を形成することによって達成することも可能である。これらの様々なアレンジは、当業者に公知であるので、本明細書中では詳述しないものとする。
【0035】
概して、本発明は、考えられる圧電材料用の単結晶起原層を、圧電材料のドナー基板から受入基板に移送することによる、単結晶圧電層の形成を開示している。次いで、単結晶圧電層の所要厚が得られるまで、起原層上にエピタキシを実装する。
【0036】
ドナー基板は、考慮の対象となる圧電材料の固体単結晶基板としてもよいし、代わりに、ドナー基板を、複合基板(表面層が単結晶圧電材料から構成される少なくとも2つの異種材料層のスタックから形成される基板)としてもよい。
【0037】
受入基板の一機能は、起原層を機械的に支持することである。受入基板は、(特に、温度を保持するという観点から)エピタキシを実現するための任意の様式にて適応可能で、且つ、必須ではないが、対象となる用途に適応したものが好都合であり、固体であってもよいし、あるいは複合体であってもよい。
【0038】
場合によっては、受入基板と起原層との間に少なくとも1つの中間層を介在させてもよい。例えば、そのような中間層は、電気伝導性であってもよいし、あるいは電気絶縁性であってもよい。当業者は、圧電層を備えることが意図される無線周波デバイスに付与することが望ましい特性に応じて、この層の材料および厚さを選択することができる。
【0039】
受入基板は、半導体材料製のものが、好都合な場合があり、例えば、シリコン基板であってもよい。この導電性材料は、受入基板上、または受入基板の表面上のいずれかに形成される可能性のある「トラップリッチ」型の中間層を含む。ゆえに、前記トラップリッチ型の中間層は、起原層と受入基板との間に位置し、受入基板の電気絶縁性を向上させることができる。前記トラップリッチ型の中間層は、多結晶、非晶質または多孔質型材料、および特に、多結晶シリコン、非晶質シリコンまたは多孔質シリコンによって形成できるが、これらの材料だけに限定されない。そのうえ、エピタキシを生ずるためのトラップリッチ型中間層の温度抵抗性に依存して、熱処理中の再結晶化を防止するためには、受入基板と前記トラップリッチ型中間層との間に追加の層を導入することが好都合である場合がある。
【0040】
起原層の機能は、増殖の対象となる結晶材料のメッシュパラメータを受入基板上に課すことにある。起原層の厚さは、単結晶圧電層の厚さに比べて無視して差し支えない程度である。結果として、単結晶圧電層を組み込んだ高周波デバイスの動作には大した影響を及ぼさないと考えられる。
【0041】
起原層の典型的な厚さは1μm未満、好ましくは0.2μm未満である。
【0042】
エピタキシャル層の厚さは、単結晶圧電層を組み込むデバイスの仕様に依存する。この点において、エピタキシャル層の厚さの最小値または最大値に制限はない。最後の圧電層の厚さは、典型的な厚さは0.2~20μmである。
情報提供を目的に、起原層とエピタキシャル層の厚さの組み合わせを、下表に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
圧電材料は、石英、または式LiXO(式中、Xは、ニオブおよびタンタルから選択される)を有する化合物から選択するのが、好都合である。ただし、これらの材料の利点は、その材料の圧電特性に限定されない。とりわけ、例えば集積光学系に関連する他の用途に関しては、それらの誘電率、屈折率、またはそれらの焦電特性、強誘電特性または強磁性特性を、場合に応じて考慮することも可能である。
【0045】
ゆえに、本発明は特に、優れた結晶品質を有するLiXO化合物の薄い層を、これらの材料用の固体基板として使用して、広範な周波数範囲にて制御された厚さ(特に20μm未満の厚さ)で形成することができる。
【0046】
とりわけ「化学蒸着」(CVD)、「液相エピタキシ(LPE)」、「パルスレーザー堆積」(PLD)等の任意の好適な技術を用い、エピタキシを遂行できる。
【0047】
当業者であれば、試薬および動作条件を、増殖させる対象の圧電材料と選択された技術の関数として特定することができる。
【0048】
起原層の移送は典型的に、起原層が接合界面にあるようにドナー基板と受入基板を接合する工程と、続いて、後続のエピタキシの準備ができた起原層が露出するように受入基板を薄層化する工程と、を含む。
【0049】
接合工程は、例えば、追加の中間層を用いて、または用いずに、直接「ウェーハ接合」型分子の接合によって行うことができる。
【0050】
特にシリコン製の、薄い半導体層の移送用として周知されているSmart Cut(商標)法を用いて移送を実行するのが、特に好都合である。
【0051】
これを達成するために、図3Aを参照すると、圧電材料のドナー基板100が供給され、イオン注入(矢印によって概略的に図示されている)によって脆化ゾーン101が形成されている。これにより、移送対象となる単結晶圧電層102が画定され、起原層が形成される。この図ではドナー基板100が実線で図示されているが、場合によっては上記のように複合体になる可能性がある。注入される種を、考慮の対象となる圧電材料(LiNbO、LiTaOまたは石英)に応じて水素またはヘリウム、単独または組み合わせとすることが好都合である。当業者は、これらの種の用量および注入エネルギーを定量して、特定された深度(典型的には2μm未満)における脆化ゾーンを形成することができる。依然として、圧電材料および考慮の対象となる注入種に応じて、用量は2E+16~2E+17イオン種/cmの範囲、注入エネルギーは30keV~500keVである。埋め込みの脆化ゾーンは、当業者に公知の他の任意の手段、例えば材料の多孔化によってまたはレーザー照射によって得ることができる。
【0052】
図3Bを参照すると、このようにして脆弱化されたドナー基板100が、接合界面での注入が行われたドナー基板の表面である、受入基板110に接合されている。場合によっては、接合の前に、ドナー基板および/または受入基板を、電気絶縁層(例えばSiO)で被覆してもよいし、あるいは移送後に受入基板と起原層との間に介在する電気伝導層(図示せず)で被覆してもよい。
【0053】
図3Cを参照すると、ドナー基板100は、脆化ゾーン101に沿って分離されている。そのような分離は、当業者に公知の任意の手段(例えば、熱的、機械的または化学的手段など)によって誘発できる。次いで、そのドナー基板の残部が回収され、場合によっては再利用される可能性もある。それにより、受入基板110上への層102の移送が可能になる。
【0054】
図3Dを参照すると、移送された層の表面部分は、任意選択的に、例えば、機械的研磨および/または化学エッチングにより除去しても差し支えない。この材料除去の目的は、注入および分離に関して欠陥がある場合に、それを排除することにある。この除去を終えると、結果として、受入基板110上に、薄層化された層102が得られる。この層は、次の工程において起原層として使用される。代わりに、図3C中の移送された層102を、起原層として直接使用できる。
【0055】
図3Eを参照すると、単結晶圧電層103は、起原層102上にエピタキシャル成長している。エピタキシャル層104の材料は起原層102の材料と実質的に同じである。ゆえに、起原層102は、そのメッシュパラメータを課し、良質な単結晶材料の成長を可能にしている。エピタキシャル層の性質は、特に、様々な目的(ドーピング、圧電特性の調整、結晶欠陥/転位の密度、界面活性剤等の最適化)に対応した少量の不純物の導入制御の結果として、起原層102とはわずかに異なる可能性がある。単結晶圧電層の所要厚に達すると、成長が止む。起原層102とエピタキシャル層103とのスタックから、圧電層10が形成される。
【0056】
上述したように、起原層は、エピタキシャル圧電層を組み込んだ無線周波デバイスの動作に全く影響を及ぼさないか、または二次効果を及ぼすと考えられる。結果的に、Smart Cut(商標)プロセス実施のために行われた注入によって前記層に損傷が及んで、その圧電特性が乱された場合でも、これらの欠陥は不利とはならないか、あるいはわずかに不利となるだけである。
【0057】
Smart Cut(商標)法の代替(不図示)として、ドナー基板と受入基板との接合後に、例えば、ドナー基板のドナー基板の機械的な研磨且つ/あるいは化学エッチングにより、起原層が露出するまで材料を除去して移送を行うことができる。この変形例は、ドナー基板の消費を伴うという点で好都合性が低いが、Smart Cut(商標)法によってドナー基板の再利用が可能になる。一方、この変形例では、ドナー基板内への注入を必要としない。
【0058】
図3Eに見られるように、プロセスが終わると、結果としては、受入基板110と、前記受入基板110上の単結晶圧電層10と、を含む表面音響波デバイスまたはバルク音響波デバイス用の基板が得られる。そのような基板はまた、他の応用(例えばフォトニクスおよび集積光学)にも役立つ可能性がある。
層10を特徴付けているのは、特性の異なる以下の2つの部分が存在することである。
起原層に対応する受入基板110との界面にある第1の部分102と、
エピタキシャル層に対応する第1の部分102から延在し、第1の部分とは異なる結晶品質を有する第2の部分(103)であって、エピタキシ工程中に(特に、起原層上で品質向上を得ることを目的に)、前記品質が調節可能であり、場合によっては最適化され、且つ/あるいは、組成が異なるために(特にエピタキシの最中に不純物が導入された場合)、エピタキシャル層上に特定の特性が付与される可能性のある、第2の部分。
【0059】
この基板は、図1に例証されている表面音響波デバイス、または図2に例証されているバルク音響波デバイス、または他の任意のマイクロエレクトロニクスデバイス、光子デバイスもしくは光学デバイスのうち圧電層を含むデバイスを作製する目的に使用するのが、好都合である。
【0060】
場合によっては、エピタキシャル成長が生起される受入基板が、最終用途に至適なものではない可能性もある。受入基板をエピタキシの動作条件に付さなければならないので、適切な材料の選択肢は限定されてしまう。特に、エピタキシ温度により損傷を受ける恐れある層または元素を、受入基板に含有させることはできない。この場合、圧電層10を、標的用途の機能として選択された特性を有する最終基板111上に移送すること(これは、圧電層10を、エピタキシャル層103の表面を貫いて前記基板111上に接合することによって行われる)(図3F参照)、および受入基質を除去すること(図3G参照)が好都合でありうる。この移送は、上述の移送技術のいずれかによって行うことができる。最終基板に対しこの移送を行うもう1つの利点は、エピタキシ後に得られた構造の中に埋め込まれた起原層102が露出されることと、その場合に、特に何らかの欠陥がある場合には除去しても差し支えないことである(特に図3H参照)。この場合、必要とされる特性を有するエピタキシャル層103(または前記層の一部)のみが、最終基板111上に残存する。
【0061】
表面音響波デバイスを作製する必要のある場合には、受入基板、または場合によっては最終基板(前記基板は、受入基板110であるかそれとも最終基板111であるかを問わず、図1に11で示す支持基板を形成する)に対向する圧電層10の表面上に、2つの互いに嵌合した櫛形態の金属製電極12、13を配設する。
【0062】
バルク音響波デバイスを作製する必要のある場合には、上述した方法を適合させる必要がある。第一に、圧電ドナー基板から移送される層102の自由表面上に第1の電極を配設し、図3Bに例証されている接合工程の前に、この第1の電極(図2中の参照番号13)が最終スタック内に埋め込まれる。図3Eに例証されているエピタキシャル成長工程後に、第2の電極(図2の参照番号12)が、第1の電極とは反対側の圧電層10の自由表面上に配設される。もう1つの選択肢は、上述のような最終基板上に圧電層を移送すること、および前記移送の前後に電極を形成することである。第二に、および任意選択的に、例えばブラッグミラー(図2に例証されている)のような絶縁手段、または基板110もしくは最終基板111内に予めエッチングすることの可能な空洞を、受入基板110に組み込むことによって、この受入基板内に音響波が伝播するのを防止できる。
【0063】
このような圧電材料ソリューションの開発に特に関係する応用分野としては、ほかにも、マイクロセンサーおよびマイクロアクチュエータの分野が挙げられる。マイクロセンサーの場合、目的は、概して外部作用によって生じた変形を測定することにある。対照的に、マイクロアクチュエータの目的は、連続的または可変の電場を印加することによって、要素の変形または可動部の変位を生ずることにある。圧電材料を使用すれば、機械的変形と電気信号とを連係させることが可能になる。例えば、音響において外部作用は、膜を変形させる圧力波に相当する。この圧力波は可聴スペクトル内にある場合があり、これに関与する対象物としては、マイクロフォン(センサーモードの場合)および拡声器(アクチュエータモードの場合)がごく一般的である。例えば、圧電型マイクロマシン超音波振動子(PMUT)の製造では、周波数が更に上昇する可能性がある。また、静圧センサーまたは更には慣性センサー(加速度センサー、ジャイロスコープなど)に関係する場合もある。これらのセンサーの場合、印加された加速度によって移動したモバイル質量の変位が、圧電材料を使用して測定される。圧電材料は、変形された要素(膜、梁、片持ち梁など)全体を、または好都合にはその一部のみを、シリコン等の他の材料と積み重ねることによって形成され、それにより、例えば、変形可能部分の機械的特性を向上させる。アクチュエータカテゴリにおいて圧電材料は、極めて精密な変位を制御できる。例えば、プリントカートリッジから、またはマイクロ流体システムからインクを吐出させることを目的に、あるいは光学マイクロシステムの焦点距離を調整することを目的に、圧電材料が使用される。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図3G
図3H