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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-23
(45)【発行日】2023-01-06
(54)【発明の名称】脱臭処理システム及び有機物処理方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/38 20060101AFI20221226BHJP
   B01D 53/78 20060101ALI20221226BHJP
   B01D 53/14 20060101ALI20221226BHJP
   B01D 21/01 20060101ALI20221226BHJP
   C02F 1/52 20230101ALI20221226BHJP
   C02F 1/56 20230101ALI20221226BHJP
   C02F 11/148 20190101ALI20221226BHJP
【FI】
B01D53/38 120
B01D53/78 ZAB
B01D53/14 210
B01D21/01 102
B01D21/01 105
B01D21/01 110
C02F1/52 Z
C02F1/56 Z
C02F11/148
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021109595
(22)【出願日】2021-06-30
(62)【分割の表示】P 2017240996の分割
【原出願日】2017-12-15
(65)【公開番号】P2021151654
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2021-07-29
(73)【特許権者】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】阿部 翔
(72)【発明者】
【氏名】若菜 正宏
(72)【発明者】
【氏名】松田 健
【審査官】壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-104387(JP,A)
【文献】特開平01-293119(JP,A)
【文献】特開2016-179432(JP,A)
【文献】特開2000-185204(JP,A)
【文献】特開平09-299999(JP,A)
【文献】国際公開第2012/176753(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第02724990(EP,A1)
【文献】特公平06-087942(JP,B2)
【文献】特開2006-314908(JP,A)
【文献】特開2014-104432(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/34-53/73,53/74-53/85,53/92,53/96
B01D 53/14-53/18
B01D 21/01
C02F 1/52-1/56
C02F 11/00-11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともし尿又は浄化槽汚泥のいずれかを含む有機性排水及び/又は有機性汚泥を凝集処理して得られる凝集汚泥を脱水処理することによって得られる、無機凝集剤を含む脱水分離液であって生物処理されていない前記脱水分離液を、臭気成分を含むガスと気液混合することにより、前記臭気成分を前記無機凝集剤と反応させる及び/又は水溶性の前記臭気成分を前記脱水分離液中へ溶解させて脱臭処理し、脱臭処理ガスと脱臭処理液とを得る脱臭装置を備える脱臭処理システム。
【請求項2】
前記脱臭装置に接続され、前記脱臭装置に供給する前記脱水分離液を貯留する分離液
を更に備える請求項1に記載の脱臭処理システム。
【請求項3】
前記脱臭装置に供給される前記脱水分離液中の残存鉄量が0.1~10mg/Lである請求項1又は2に記載の脱臭処理システム。
【請求項4】
少なくともし尿又は浄化槽汚泥のいずれかを含む有機性排水及び/又は有機性汚泥を凝集処理して得られる凝集汚泥を脱水処理することによって得られる、無機凝集剤を含む脱水分離液であって生物処理されていない前記脱水分離液を、臭気成分を含むガスと気液混合させることにより、前記臭気成分を前記無機凝集剤と反応させる及び/又は水溶性の前記臭気成分を前記脱水分離液中へ溶解させて脱臭処理し、脱臭処理ガスと脱臭処理液とを得る脱臭装置と、
前記脱臭装置から排出される前記脱臭処理液をそのまま下水道への放流基準を満たすように希釈水で希釈し、下水道へ放流するための下水放流水を貯留する放流水槽
を備る脱臭処理システム。
【請求項5】
少なくともし尿又は浄化槽汚泥のいずれかを含む有機性排水及び/又は有機性汚泥を凝集処理して得られる凝集汚泥を脱水処理することによって得られる、無機凝集剤を含む脱水分離液であって生物処理されていない前記脱水分離液を臭気成分を含むガスと気液混合させることにより、前記臭気成分を前記無機凝集剤と反応させる及び/又は水溶性の前記臭気成分を前記脱水分離液中へ溶解させて脱臭処理する工程を有する有機物処理方法。
【請求項6】
前記脱水分離液を希釈水で希釈し、下水道へ放流する工程を更に有する請求項5に記載の有機物処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱臭処理システム及び有機物処理方法に関し、特に、有機性汚泥の処理設備で発生する臭気ガスを脱臭するための脱臭処理システム及び有機物処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
し尿や浄化槽汚泥等の有機性排水及び/又は有機性汚泥を処理するための浄化槽汚泥の混入比率の高い脱窒素処理方式による処理システムが知られており、これらし尿や浄化槽汚泥は生物学的窒素除去法やリン除去法等を用いた処理によって処理されている(例えば、特開2015-73979号公報参照)。しかしながら、このような処理システムでは悪臭が発生することが問題となっており、悪臭を取り除くための種々の脱臭設備が採用されている。
【0003】
従来の脱臭設備としては生物脱臭方式、薬液洗浄方式、活性炭吸着方式等が知られている。中でも生物脱臭方式の固定床法は、充填材に固定された微生物を用いて臭気成分を分解する方法であり、維持管理が容易でランニングコストが抑えられるという点で有利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-73979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の脱臭設備のいずれも、設置面積や重量が大きく、脱臭装置が大型化するという問題がある。例えば、上述の生物脱臭方式の固定床法を用いた脱臭装置は、上述したような様々な利点がある反面、設置面積や重量が大きくなり、補給水も必要で、循環ポンプの電気代やメンテナンス費用もかかるといった課題もあり、改善の余地がある。
【0006】
上記課題を鑑み、本発明は、脱臭設備をコンパクトに抑えられるとともに、脱臭処理に必要な循環ポンプ等の機器を省略することができ、より簡易且つ経済的に脱臭処理することが可能な脱臭処理システム及び有機物処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明者らが鋭意検討した結果、無機凝集剤を含む脱水分離液を臭気成分を含むガスと気液混合させる脱臭装置を採用することが有効であることを見出した。
【0008】
以上の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、少なくともし尿又は浄化槽汚泥のいずれかを含む有機性排水及び/又は有機性汚泥を凝集処理して得られる凝集汚泥を脱水処理することによって得られる、無機凝集剤を含む脱水分離液を、臭気成分を含むガスと気液混合することにより、臭気成分を無機凝集剤と反応させる及び/又は水溶性の臭気成分を脱水分離液中へ溶解させて脱臭処理し、脱臭処理ガスと脱臭処理液とを得る脱臭装置を備える脱臭処理システムが提供される。
【0009】
本発明に係る脱臭処理システムは一実施態様において、脱臭装置に接続され、脱臭装置に供給する脱水分離液を貯留する分離液槽を更に備える。
【0010】
本発明に係る脱臭処理システムは別の一実施態様において、脱臭装置に供給される脱水分離液中の残存鉄量が0.1mg/L以上である。
【0011】
本発明に係る脱臭処理システムは更に別の一実施態様において、脱臭処理液を希釈水で希釈し、下水道へ放流するための下水放流水を貯留する放流水槽を更に備える。
【0012】
本発明は別の一側面において、少なくともし尿又は浄化槽汚泥のいずれかを含む有機性排水及び/又は有機性汚泥を凝集処理して得られる凝集汚泥を脱水処理することによって得られる、無機凝集剤を含む脱水分離液を、臭気成分を含むガスと気液混合させることにより、臭気成分を無機凝集剤と反応させる及び/又は水溶性の臭気成分を脱水分離液中へ溶解させて脱臭処理する工程を有する有機物処理方法が提供される。
【0013】
本発明に係る有機物処理方法は一実施態様において、脱水分離液を希釈水で希釈し、下水道へ放流する工程を更に有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、脱臭設備をコンパクトに抑えられるとともに、脱臭処理に必要な循環ポンプ等の機器を省略することができ、より簡易且つ経済的に脱臭処理することが可能な脱臭処理システム及び有機物処理方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る脱臭処理システムの一例を示す概略図である。
図2】本発明の第2の実施の形態に係る脱臭処理システムの一例を示す概略図である。
図3】本発明の第3の実施の形態に係る脱臭処理システムの一例を示す概略図である。
図4】本発明の第4の実施の形態に係る脱臭処理システムの一例を示す概略図である。
図5】本発明の第4の実施の形態の第1変形例に係る脱臭処理システムの一例を示す概略図である。
図6】本発明の第4の実施の形態の第2変形例に係る脱臭処理システムの一例を示す概略図である。
図7】本発明のその他の実施の形態に係る脱臭処理システムの一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。以下の図面の記載においては、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。なお、以下に示す実施の形態はこの発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は、構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。
【0017】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態に係る脱臭処理システムは、図1に示すように、有機性排水及び/又は有機性汚泥に高分子凝集剤を加えて凝集汚泥を生成する凝集設備3と、凝集汚泥に無機凝集剤を加えて脱水処理し、脱水汚泥と脱水分離液とを得る脱水装置4と、脱水分離液を貯留する分離液槽5と、無機凝集剤を含む脱水分離液を、臭気成分を含むガスと気液混合することにより、臭気成分を無機凝集剤と反応させる及び/又は水溶性の前記臭気成分を脱水分離液中へ溶解させて脱臭処理し、脱臭処理ガスと脱臭処理液とを得る脱臭装置6とを備える。
【0018】
本実施形態に係る脱臭処理システムの処理対象としては、溶解性有機物を含む有機性排水及び/又は有機性汚泥を用いることができ、具体的には、産業廃水、下水、下水の一次処理水、下水の二次処理水、し尿、畜産廃水、各種製造工場廃水、生物処理において発生する余剰汚泥、浄化槽汚泥などが利用可能である。
【0019】
し尿、浄化槽汚泥等の有機性排水及び/又は有機性汚泥は、まず受入槽1に投入される。この受入槽1には、有機性排水及び/又は有機性汚泥中の異物を沈降させて除去するための沈砂槽1aが配置され、有機性排水及び/又は有機性汚泥が、沈砂槽を経由して受入槽1内に収容されてもよい。また、し尿、浄化槽汚泥を別々に収容してもよいし、混合して収容しても構わない。
【0020】
受入槽1内の有機性排水及び/又は有機性汚泥は、カッター付きポンプによって固形物が破砕されながら貯留槽2において貯留される。受入槽1内の有機性排水及び/又は有機性汚泥は、貯留槽2に供給される前に、前処理設備10において夾雑物を除去するための前処理が施されてもよい。前処理設備10としては、ドラムスクリーン、スクリュープレス、遠心分離機、多重円板機などを用いた種々の前処理を行うことができる。また、前処理設備10が無い場合は、貯留槽2が無くても良い。その場合は、受入槽1から有機性排水及び/又は有機性汚泥が直接、凝集設備3へ送られる。
【0021】
貯留槽2に収容された有機性排水及び/又は有機性汚泥は、ポンプ等を介して凝集設備3に送られる。凝集設備3では有機性排水及び/又は有機性汚泥を撹拌混合することにより凝集フロックを生じさせて凝集汚泥を生成することにより、その後に固液分離しやすくするための処理が行われる。
【0022】
凝集設備3においては、凝集剤添加手段等を介して高分子凝集剤が添加される。高分子凝集剤としては特に制限されないが、アニオン性高分子凝集剤、ノニオン性高分子凝集剤、カチオン性高分子凝集剤及び両性高分子凝集剤のいずれも使用することができ、有機性排水及び/又は有機性汚泥の性状により適宜選択することができる。有機性汚泥を処理する場合には、カチオン性高分子凝集剤又は両性高分子凝集剤を用いるのが特に好ましい。
【0023】
アニオン性高分子凝集剤としては、例えばポリアクリル酸ナトリウム、アクリル酸ナトリウムとアクリルアミドの共重合物、ポリメタクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ナトリウムとアクリルアミドの共重合物などを挙げることができる。
【0024】
ノニオン性高分子凝集剤としては、例えばポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイドなどを挙げることができる。
【0025】
カチオン性高分子凝集剤としては、例えばアクリレート系高分子凝集剤(「DAA系高分子凝集剤」とも称する)、メタクリレート系高分子凝集剤(「DAM系高分子凝集剤」とも称する)、アミド基、ニトリル基、アミン塩酸塩、ホルムアミド基などを含むポリビニルアミジン(「アミジン系高分子凝集剤」とも称する)、ポリアクリルアミドのマンニッヒ変性物などが挙げられる。DAA系高分子凝集剤には、ジメチルアミノエチルアクリレートの四級化物の重合物、ジメチルアミノエチルアクリレートの四級化物とアクリルアミドとの共重合物などがある。DAM系高分子凝集剤には、ジメチルアミノエチルメタクリレートの四級化物の重合物、ジメチルアミノエチルメタクリレートの四級化物とアクリルアミドとの共重合物などがある。
【0026】
両性高分子凝集剤としては、例えばジメチルアミノメチルアクリレートの四級化物とアクリルアミドとアクリル酸との共重合物、ジメチルアミノメチルメタクリレートの四級化物とアクリルアミドとアクリル酸との共重合物などをあげることができる。但し、以上は例示であり、これらに限定するものではない。
【0027】
高分子凝集剤の添加量は、有機性排水及び/又は有機性汚泥の性状や選択した高分子凝集剤の種類によっても異なるが、有機性排水及び/又は有機性汚泥中の固形物乾燥重量(DS)に対して0.5~3.0wt%であることが好ましく、1.0~2.5wt%であることがより好ましい。
【0028】
凝集設備3において生成された凝集汚泥は、脱水装置4へ送られる。脱水装置4は、凝集汚泥を濃縮して濃縮汚泥と濃縮処理液とを得るための濃縮機と、濃縮汚泥を脱水処理することにより脱水汚泥を得るための脱水機と備えている。
【0029】
濃縮機としては、投入された脱水汚泥を固液分離する装置であり、例えば、ドラムスクリーン、重力スクリーン、(楕)円盤式重力スクリーンなどの濃縮機が好適に利用可能である。濃縮機において得られた濃縮汚泥は、脱水機へ投入される。濃縮機で分離された濃縮処理液は分離液槽5へ供給される。
【0030】
脱水機は、濃縮機で濃縮された濃縮汚泥から更に水分を取り除き、脱水汚泥を得るための装置であり、例えば、スクリュー、ベルト、フィルター、遠心分離機等を利用することができる。特に、脱水機として、スクリュー軸を前後にスライドできる軸摺動型スクリュープレス脱水機を利用することにより、安定して濃縮汚泥を脱水処理できるとともに例えば含水率70%以下の低含水率の脱水汚泥を得ることができる。
【0031】
含水率70%以下の低含水率の脱水汚泥を得ることが可能な脱水機を使用することにより、生成した脱水汚泥の容量及び重量を小さくすることができ、外部へ搬出するための費用も削減できる他、ごみ焼却施設などでは設備の燃料として利用することも可能である。また、後述する生物処理設備7に導入する前に濃縮汚泥に対して脱水処理を行うことで、し尿を処理対象として用いた場合には、し尿に含まれるBOD(生物化学的酸素要求量)、COD(化学的酸素要求量)、SS(浮遊物質)、T-N(全窒素)、T-P(全リン)などを予め除去することができるため、生物処理設備7における汚濁負荷量を軽減できる。脱水機で得られた脱水分離液は分離液槽5へ供給され、貯留される。
【0032】
脱水機に投入された濃縮汚泥には、無機凝集剤が添加される。濃縮汚泥に無機凝集剤を添加することにより、濃縮汚泥中の凝集フロックの強度が向上するため、より低含水率、具体的には70%以下の脱水汚泥を安定して得ることができる。
【0033】
無機凝集剤としては、浄化槽汚泥の混入比率の高い脱窒素処理方式による処理システムで発生し得る臭気ガスと反応して臭気ガスを吸着及び/又は溶解できるとともに濃縮汚泥中の凝集フロックの強度を向上させる作用を有する材料であれば特に限定されないが、例えばポリ硫酸第二鉄、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)などが好適に利用できる。中でも、鉄を含む鉄系無機凝集剤を用いることで、硫化水素やメチルカプタン等の硫黄系臭気成分をより効率的に脱臭処理することができる。
【0034】
無機凝集剤の添加量は、多すぎると汚泥量が増加する場合や、凝集が崩れる場合があり、少なすぎると脱水汚泥の含水率の悪化を生じさせる場合がある。無機凝集剤の添加量は、脱水対象とする濃縮汚泥の性状などによっても多少異なるが、投入される濃縮汚泥の固形物乾燥重量(DS)に対して0.5~5.0wt%であることが好ましく、1.0~3.0wt%であることがより好ましい。
【0035】
無機凝集剤として鉄系無機凝集剤を用いた場合、脱水分離液中の残存鉄量は0.1mg/L以上であることが好ましい。この残存鉄量は、凝集設備3及び脱水装置4における脱水処理を効率的に行うために添加された無機凝集剤の添加量によって残存する鉄量とすることができる。
【0036】
硫黄系臭気成分の脱臭処理効率を向上させるためには、脱水分離液中の残存鉄量が多い方が好ましい一方で、無機凝集剤を多量に添加しすぎると、場合によっては、凝集剤添加量のバランスが崩れる場合や、汚泥量が増加する場合もある。脱水処理と脱臭処理とのバランスを考慮し、システム全体で効率的な処理を行うことを考慮すると、本実施形態における脱水分離液中の残存鉄量は、0.1~10mg/Lであることが好ましく、0.5~3.0mg/Lであることがより好ましい。これにより、後述する脱臭装置6の気液混合に用いる液体として脱水分離液を利用することができるため、脱臭処理をよりコンパクトにすることができる。
【0037】
分離液槽5内の脱水分離液は、ポンプ等を介して脱臭装置6へ供給される。脱臭装置6では、本発明の実施の形態に係る脱臭処理システム内で発生する臭気成分、例えば硫化水素、メチルカプタン、硫化メチル、二硫化メチルなどの硫黄系臭気成分、アンモニア等の水溶性臭気成分を含むガスを脱臭処理する。
【0038】
脱臭装置6としては、臭気成分を含むガスと液体とを接触させて気液混合することにより、臭気成分と反応及び/又は水溶性の臭気成分を脱水分離液中へ溶解させることが可能な気液混合型の脱臭装置を使用することが好ましい。脱臭装置6として気液混合型脱臭装置を採用することにより、効率的に臭気成分を含むガスと液体とを接触させることができるため、従来の生物脱臭方式、薬液洗浄方式、活性炭吸着方式等のような脱臭装置を使用した脱臭処理システムに比べて、脱臭処理システム全体の小型化が図れる。
【0039】
気液混合型の脱臭装置6内には、装置内部に流路が備えられており、流路内で臭気成分を含むガスと脱水分離液とが激しく接触するように構成されている。これにより、臭気成分を含むガスの臭気成分を脱水分離液中の無機凝集剤と反応させる及び/又は水溶性の臭気成分を脱水分離液中へ溶解させ、脱臭処理ガスとして、脱臭装置6の外部へ排出する。
【0040】
脱臭装置6で生じた脱臭処理液は、例えば、図1の生物処理設備7で生物処理することができる。生物処理設備7の詳細は特に限定されない。例えば、生物処理設備7は、脱臭装置6からの脱臭処理液を、従属栄養性細菌を用いた脱窒反応により嫌気的に脱窒処理して脱窒液を得る脱窒槽71と、脱窒液中に含まれるアンモニア性窒素を独立栄養性細菌を用いて酸化処理することにより、硝化処理して硝化液を得る硝化槽72と、硝化液を更に脱窒処理する二次脱窒槽73と、二次脱窒槽73で得られる二次脱窒処理液を更に曝気する再曝気槽74とを備えることができる。生物処理設備7で処理された生物処理液は、固液分離設備100において固液分離される。
【0041】
脱窒槽71には、前処理設備10が稼働している場合に、貯留槽2に収容された有機性排水及び/又は有機性汚泥の一部を分離液槽5又は脱窒槽71へ供給するためのバイパスラインB1が接続されていてもよい。脱窒槽71には、分離液槽5に収容された脱水分離液を脱臭装置6からの脱臭処理液と混合して脱窒槽71内へ供給するためのバイパスラインB2が接続されていてもよい。バイパスラインB1、B2を備えることにより、本実施形態に係る脱臭処理システムのメンテナンスや流量調整が行いやすくなり、安定的に処理できる。なお、硝化槽72の硝化液は返送ラインL3を介して脱窒槽71へ返送することができる。
【0042】
固液分離設備100は、再曝気槽74から供給される生物処理液を固液分離するための装置であり、固液分離の手段としては任意の手段、例えば、重力沈降分離、遠心分離、浮上分離、凝集分離、膜分離等が利用可能である。分離効率を向上させるために、無機凝集剤や高分子凝集剤などを添加してもよい。固液分離された分離液は後段処理に送られる。例えば、固液分離設備100に重力沈降分離を用いた場合には、後段処理では、固液分離設備100で取り切れなかった細かい汚泥を凝集させて上澄水と沈殿汚泥を得るための高度処理等が行われる。その後、更に砂ろ過処理や活性炭吸着処理により、SS、COD、色素などが除去され、更に次亜塩素酸などにより消毒が行われる。
【0043】
固液分離設備100には、貯留槽返送ラインL1が接続されている。固液分離設備100で得られる分離汚泥は、貯留槽返送ラインL1を介して、凝集設備3へ供給するための有機性排水及び/又は有機性汚泥を貯留するための貯留槽2へ、貯留槽2がない場合は受入槽1へ返送される。固液分離設備100において無機凝集剤が添加された場合、分離汚泥中には未反応の無機凝集剤が残存するため、無機凝集剤を含む分離汚泥を貯留槽2へ返送することで、未反応の無機凝集剤を再利用することができ、その結果、脱水装置4及び脱臭処理システム全体で無機凝集剤の使用量を低減することができる。
【0044】
貯留槽返送ラインL1には、分離汚泥の少なくとも一部を脱窒槽71へ返送するための返送ラインL2を更に備えていても良い。処理対象物の性状に応じて分離汚泥の返送先及び返送量を適宜調整することで、より安定した有機性排水及び/又は有機性汚泥の処理を行うことができる。なお、図示はしていないが、固液分離設備100で得られた分離汚泥は貯留槽2で貯留される前に、汚泥貯留槽の別水槽で一時貯留された後に貯留槽2に送られてもよい。
【0045】
返送ラインL3には、硝化液の少なくとも一部を脱臭装置6へ供給するための供給ラインL4を更に備えていてもよい。また、返送ラインL2には、分離汚泥の少なくとも一部を脱臭装置6へ供給するための返送ラインL5を更に備えていても良い。固液分離設備100では、固液分離効率を向上させるために、無機凝集剤や高分子凝集剤が添加されているため、分離汚泥には無機凝集剤が残存している。また、本実施形態では、残存する無機凝集剤を含む分離汚泥の少なくとも一部を脱窒槽71に返送するため、硝化液にも無機凝集剤が残存している。これら分離汚泥及び硝化液の少なくとも一部を脱臭装置6へ供給することで、脱臭処理システム全体でより効率的に脱臭処理することができる。
【0046】
本発明の第1の実施の形態によれば、有機性排水及び/又は有機性汚泥の脱水処理で得られた無機凝集剤を含む脱水分離液を、臭気成分を含むガスと気液混合することにより、脱臭装置6において脱臭処理のために新たな無機凝集剤を添加せずに済むため、無機凝集剤の添加量を低減することができる。また、生物処理設備7に送る前の有機性排水及び/又は有機性汚泥に対し、予め凝集処理及び脱水処理を行うことにより、有機性排水及び/又は有機性汚泥中に含まれるBOD、COD、SS、T-P、T-Nなどの物質を予め取り除くことができるため、生物処理設備7の汚濁負荷を軽くでき、より効率的なシステムが実現できる。
【0047】
(第2の実施の形態)
図2に示すように、本発明の第2の実施の形態に係る脱臭処理システムは、有機性排水及び/又は有機性汚泥に無機凝集剤を加えた後、高分子凝集剤を加えて凝集汚泥を生成する凝集設備3と、凝集汚泥を脱水処理し、脱水汚泥と脱水分離液とを得る脱水装置4と、無機凝集剤を含む脱水分離液を、臭気成分を含むガスと気液混合することにより、臭気成分を無機凝集剤と反応させる及び/又は水溶性の臭気成分を脱水分離液中へ溶解させて脱臭処理し、脱臭処理ガスと脱臭処理液とを得る脱臭装置6と、脱臭処理液を生物処理する生物処理設備7とを備える。
【0048】
即ち、第2の実施の形態に係る脱臭処理システムでは、凝集設備3において、無機凝集剤と高分子凝集剤を添加する点が、第1の実施の形態に係る脱臭処理システムと異なる。その他は、第1の実施の形態に係る脱臭処理システムと実質的に同様であるので、重複した説明を省略する。
【0049】
貯留槽2に収容された有機性排水及び/又は有機性汚泥は、ポンプ等を介して凝集設備3に送られる。凝集設備3では有機性排水及び/又は有機性汚泥を撹拌混合することにより凝集フロックを生じさせて凝集汚泥を生成することにより、その後に固液分離しやすくするための処理が行われる。例えば、まず、第1凝集槽に無機凝集剤が添加されることにより、槽内に凝集しやすい微小フロックを形成させる。その後、第1凝集槽の後段に接続された第2凝集槽に高分子凝集剤が添加されることにより微小フロックを架橋させて槽内に粗大フロックを形成させる。
【0050】
第2の実施の形態では、無機凝集剤を添加した後に、高分子凝集剤を添加することにより、有機性排水及び/又は有機性汚泥に含まれるリンを除去することができる。また、フロックがより強くなるため、分離液をより清浄にすることができる。
【0051】
有機性排水及び/又は有機性汚泥の性状により異なるが、凝集設備3の第1凝集槽では有機性排水及び/又は有機性汚泥の固形物乾燥重量(DS)に対して2.0~7.0wt%、より好ましくは4.0~5.0wt%の無機凝集剤を添加することができる。凝集設備3の第2凝集槽では有機性排水及び/又は有機性汚泥の固形物乾燥重量(DS)に対して0.5~3.0wt%、より好ましくは1.0~2.5wt%の高分子凝集剤を添加することができる。
【0052】
なお、第2の実施の形態では、凝集設備3が2槽の凝集槽を備える例を説明したが、単一又は2槽以上の凝集槽であってもよいことは勿論である。
【0053】
(第3の実施の形態)
本発明の第3の実施の形態に係る脱臭処理システムは、脱水装置4が、凝集汚泥を濃縮して濃縮汚泥と濃縮処理液とを得る濃縮機と、濃縮汚泥に無機凝集剤を加えて脱水処理することにより、例えば含水率70%以下の脱水汚泥と脱水分離液を得る脱水機とを備えており、図3に示すように、濃縮機で得られる濃縮処理液の少なくとも一部を貯留するリン原液槽81と、濃縮処理液からリン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)を回収するリン回収装置82を備え、分離液槽5が、MAPを回収した後の回収後液を、脱臭装置へ送る脱水分離液と混合して貯留する点が、第1の実施の形態に係る脱臭処理システムと異なる。他は、第1の実施の形態に係る脱臭処理システムの構成と実質的に同様であるので記載を省略する。
【0054】
リン原液槽81に貯留された濃縮処理液は、ポンプ等を介してリン回収装置82に送られる。リン回収装置82は、リン酸イオン、アンモニウムイオン及びマグネシウムイオンの反応によって生成するMAPの晶析現象を利用して、リンとアンモニウムイオンを含む濃縮処理液に対してマグネシウム源を添加して、過飽和状態で種晶と接触させ、種晶表面にMAPを晶析させて回収するための装置である。
【0055】
添加されるマグネシウム源としては塩化マグネシウム、水酸化マグネシウムなどが利用可能である。リン回収装置82としては、2槽以上の晶析槽を直列又は並列に配置してもよく、その具体的構成は特に限定されない。MAP回収後の回収後液は分離液槽5へ送られる他、リン原液槽81に送られた濃縮処理液の一部を、ポンプ等を介して分離液槽5へ供給するようにしてもよい。
【0056】
本発明の第3の実施の形態に係る脱臭処理システムによれば、有機性排水及び/又は有機性汚泥から化成肥料として有用なMAPを効率的に回収しながら、脱水機によって生成される脱水汚泥の低含水率化及び減容化を達成することができる。
【0057】
(第4の実施の形態)
図4に示すように、本発明の第4の実施の形態に係る脱臭処理システムは、図1に示す生物処理設備7の代わりに、脱臭装置6からの脱臭処理液を希釈水で希釈し、下水道へ放流するための下水放流水を貯留する放流水槽9を備える。分離液槽5からのバイパスラインB2は放流水槽9に接続されている。放流水槽9においては放流基準を満たすように所定の希釈処理が施された後に、ポンプ等を介して下水道へ放流される。他は第1の実施の形態に係る脱臭処理システムの構成と実質的に同様であるので記載を省略する。
【0058】
図5に示すように、凝集設備3が図2に示す凝集設備3と同様に、無機凝集剤を添加する第1凝集槽と、高分子凝集剤を添加する第2凝集槽とを備えていても良い。また、図6に示すように、図3に示すようなリン原液槽81、リン回収装置82、分離液槽5と同様の構成を有し、脱水装置4で発生する濃縮処理液からリン回収を行ってもよい。
【0059】
(その他の実施の形態)
本発明は上記の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態及び運用技術が明らかとなろう。
【0060】
例えば、図7に示すように、脱臭処理液を貯留する貯槽70等から分岐する2以上の生物処理設備7が並設されていてもよい。更に、図1図6に示す脱臭処理システムでは、それぞれ単一の受入槽1、貯留槽2、凝集設備3、脱水装置4、分離液槽5及び脱臭装置6を備える例を示しているが、これらが複数配置されていてもよいことは勿論である。
【0061】
また、例えば図2及び図5の例では、凝集設備3において無機凝集剤が添加され、脱水装置4では特に添加の有無を規定していないが、処理対象とする有機性排水及び/又は有機性汚泥の性状に応じて、脱水装置4において更に無機凝集剤を添加することもまた可能である。
【0062】
このように、本発明は上記の開示から妥当な特許請求の範囲の発明特定事項によって表されるものであり、実施段階においては、その要旨を逸脱しない範囲において変形し具体化し得るものである。
【符号の説明】
【0063】
1…受入槽
1a…沈砂槽
2…貯留槽
3…凝集設備
4…脱水装置
5…分離液槽
6…脱臭装置
7…生物処理設備
9…放流水槽
10…前処理設備
70…貯槽
71…脱窒槽
72…硝化槽
73…二次脱窒槽
74…再曝気槽
81…リン原液槽
82…リン回収装置
100…固液分離設備
B1、B2…バイパスライン
L1…貯留槽返送ライン
L2、L3…返送ライン
L4、L5…供給ライン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7