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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-23
(45)【発行日】2023-01-06
(54)【発明の名称】薬剤溶出型ステント
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/82 20130101AFI20221226BHJP
   A61L 31/12 20060101ALI20221226BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20221226BHJP
   A61L 31/16 20060101ALI20221226BHJP
   A61L 31/02 20060101ALI20221226BHJP
   A61L 31/06 20060101ALI20221226BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20221226BHJP
   A61K 31/4709 20060101ALI20221226BHJP
【FI】
A61F2/82
A61L31/12 100
A61L31/14 500
A61L31/16
A61L31/02
A61L31/06
A61P9/10
A61K31/4709
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022029319
(22)【出願日】2022-02-28
(62)【分割の表示】P 2021530714の分割
【原出願日】2020-07-08
(65)【公開番号】P2022078154
(43)【公開日】2022-05-24
【審査請求日】2022-03-28
(31)【優先権主張番号】P 2019127529
(32)【優先日】2019-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】512046383
【氏名又は名称】大塚メディカルデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【弁理士】
【氏名又は名称】言上 惠一
(74)【代理人】
【識別番号】100138885
【弁理士】
【氏名又は名称】福政 充睦
(72)【発明者】
【氏名】永澤 正和
(72)【発明者】
【氏名】大野 啓
(72)【発明者】
【氏名】大山 貴史
【審査官】上石 大
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-531391(JP,A)
【文献】国際公開第2015/020139(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/067994(WO,A1)
【文献】特開2006-198390(JP,A)
【文献】特表2014-502193(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/82
A61L 31/12
A61L 31/14
A61L 31/16
A61L 31/02
A61L 31/06
A61P 9/10
A61K 31/4709
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステント骨格と、
ステント骨格上に複数の層が堆積した堆積層を有し、
前記堆積層は、第1の層と、前記第1の層よりも前記ステント骨格から遠い第2の層と、を含み、
前記第1の層と前記第2の層とは、結晶性のシロスタゾールと、生体吸収性ポリマーと、を含み、
前記第1の層のシロスタゾールの含有量は、前記第2の層のシロスタゾールの含有量より大きい、
ステント。
【請求項2】
ステント骨格と、
ステント骨格上に複数の層が堆積した堆積層を有し、
前記堆積層は、第1の層と、前記第1の層よりも前記ステント骨格から遠い第2の層と、を含み、
前記第1の層と前記第2の層とは、結晶性のシロスタゾールと、生体吸収性ポリマーと、を含み、
前記第1の層のシロスタゾールの含有率は、前記第2の層のシロスタゾールの含有率より大きい、
ステント。
【請求項3】
ステント骨格と、
ステント骨格上に複数の層が堆積した堆積層を有し、
前記堆積層は、第1の層と、前記第1の層よりも前記ステント骨格から遠い第2の層と、を含み、
前記第1の層と前記第2の層とは、結晶性のシロスタゾールと、生体吸収性ポリマーと、を含み、
前記第1の層の生体吸収性ポリマーの含有率は、前記第2の層の生体吸収性ポリマーの含有率より小さい、
ステント。
【請求項4】
前記第1の層のシロスタゾールの含有量が300~750μgであり、
前記第2の層のシロスタゾールの含有量が0~100μgである、
請求項1~3のいずれか一項に記載のステント。
【請求項5】
前記第1の層のシロスタゾールの含有量が300~550μgであり、
前記第2の層のシロスタゾールの含有量が10~100μgである、
請求項1~3のいずれか一項に記載のステント。
【請求項6】
前記第1の層のシロスタゾールの含有率が55~100質量%であり、
前記第2の層のシロスタゾールの含有率が0~50質量%である、
請求項1~5のいずれか一項に記載のステント。
【請求項7】
前記第1の層のシロスタゾールの含有率が55~70質量%であり、
前記第2の層のシロスタゾールの含有率が2~50質量%である、
請求項1~5のいずれか一項に記載のステント。
【請求項8】
前記第1の層の生体吸収性ポリマーの含有率が0~60質量%であり、
前記第2の層の生体吸収性ポリマーの含有率が70質量%以上である、
請求項1~7のいずれか一項に記載のステント。
【請求項9】
前記第1の層の生体吸収性ポリマーの含有率が25~60質量%であり、
前記第2の層の生体吸収性ポリマーの含有率が80質量%以上である、
請求項1~7のいずれか一項に記載のステント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シロスタゾールをコーティングしたステント及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、シロスタゾールを含む複数の層を有するステント及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、心筋梗塞、狭心症、脳卒中、末梢血管疾患等の動脈硬化性疾患が増加している。動脈硬化性疾患に対する確実な治療法として、例えば心臓の冠状動脈における経皮的冠動脈形成術等の、血管の狭窄部或いは閉塞部を外科的に開大させる経皮的血管形成術(Percutaneous Transluminal Angioplasty;以下、「PTA」と略す)が広く用いられている。PTAの中で特に冠動脈の狭窄部又は閉塞部に対して行われる治療法は、経皮的冠動脈形成術(Percutaneous Transluminal Coronary Angioplasty; 以下、「PTCA」と略す)と呼ばれる。
【0003】
PTCAとは、先端にバルーン(風船)が付いた細いチューブ(バルーンカテーテル)又はステントを、腕又は大腿部の動脈から挿入して心臓冠動脈の狭窄部に通した後、先端のバルーンを膨らませて、狭窄した血管を押し拡げることで、血流を回復させる手技である。これにより、病変部の血管内腔は拡張され、それにより血管内腔を通る血流は増加する。このPTCAは、動脈硬化性疾患の他、血液透析患者の腕に形成したシャント血管の狭窄治療等にも用いられる。
【0004】
一般に、PTCAを行った血管部位は、内皮細胞の剥離又は弾性板損傷等の傷害を受けており、血管壁の治癒反応である血管内膜の増殖が起こるので、PTCAにより狭窄病変部の開大に成功したうちの約30~40%に再狭窄が生じる。
【0005】
ヒトにおける再狭窄の成因は、主としてPTCAの1~3日後に生じる単球の接着及び/又は浸潤に見られる炎症過程と、約45日後に最も増殖性がピークとなる平滑筋細胞による内膜肥厚形成過程が考えられている。再狭窄が生じた場合、再びPTCAを行う必要があるので、その予防法及び治療法の確立が急務である。
【0006】
そこで、ステント等の表面に、抗癌剤、免疫抑制剤、抗炎症剤又は平滑筋細胞の増殖抑制剤を担持させた薬剤溶出型の管腔内留置用医療デバイス(ステント)を用いることによって、管腔内の留置部位で数日程度局所的に薬剤を放出させ、再狭窄率の低減化を図る試みが盛んに行われている。
【0007】
薬剤溶出型ステントに塗布される薬剤として、抗癌剤及び免疫抑制剤として作用し得るリムス系の薬剤が一般的である。これらの薬剤はその強い細胞毒性によって、再狭窄の主な要因である血管平滑筋細胞の増殖、いわゆる内膜肥厚を強力に抑制する効果がある。しかし、血管内皮細胞の再生をも強力に抑制するため、遅発性ステント内血栓症を誘発し得るという臨床上の大きな課題がある。
【0008】
リムス系以外の薬剤、例えば、水に難溶で調製が困難と予想されるが、細胞毒性のないシロスタゾールを使用する試みもなされている。例えば、特許文献1は、40,000~600,000の分子量を有する生体吸収性ポリマーとシロスタゾールとを含む混合物が、金属又は高分子材料からなるステント本体の表面にコーティングされて含まれる薬剤溶出型ステントを提案する(請求の範囲及び[0015]等参照)。更に、特許文献1は、そのステントが、ステント留置後の炎症過程や内膜肥厚形成過程で再狭窄が生じる時期に薬物を溶出させて、血管内細胞に作用し、効果的な内膜肥厚抑制作用を有し、高い確率で生じていたステント留置後の再狭窄を大きく改善し得ることを開示する([0028]参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】WO2016/067994
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に開示されたステントは、心臓冠動脈等の比較的太い動脈等に用いられ、PTCA後の1~3日後に生じる単球の接着・浸潤に見られる炎症過程に作用することが求められる。従って、特許文献1に記載のステントは、設置から数日間シロスタゾールが放出されて、効果を発揮することが求められる。
【0011】
一方、近年、より太さが細い抹消動脈の梗塞などによる抹消動脈疾患(PAD)が注目されつつある。例えば、足の血管に動脈硬化が起こり、血管が細くなったり、詰まったりして、足に十分な血液が流れなくなる病気がある。これにより、歩行時に足がしびれる、痛い、冷たいなどの症状が現れる。病気が進行すると、歩けなくなる(間欠性跛行)、又はじっとしていても足が痛むようになる。さらに悪化すると、足に潰瘍ができたり、壊死したりすることもあり、ひどい場合は足を手術しなければならなくなることもある。
【0012】
PADは手足の症状だけを示すものであっても、動脈硬化は手足に限らず体中の血管に及ぶ可能性がある。PADを放置すると、心筋梗塞、狭心症、及び脳梗塞等をひき起こす可能性もある。PADに対し、薬物療法、理学療法、及び手術等、病状の進行及び治療目標に応じて種々の治療法がある。もし、抹消動脈用の薬物留置型ステントを実現することができれば、低侵襲でPADを治療する、新たな治療方法を提供することができる。
【0013】
本発明者らは、種々検討した結果、心臓冠動脈用薬物留置型ステント(例えば、特許文献1)より、更に長期間(例えば、6~12箇月間)、病態血管動脈に有効成分が存在し得るステントが必要と考えた。
【0014】
本発明は、より長期間(例えば、6~12箇月間)に渡り、有効成分が病態血管に存在し得る薬物留置型ステントを提供することを目的とする。そのような薬物留置型ステントは、抹消血管(例えば、抹消動脈血管)の治療に、好適に使用することができ、より低侵襲な治療方法を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者等は、鋭意検討を重ねた結果、ステント骨格上に複数の層が堆積した堆積層を有し、堆積層の各層は、結晶性のシロスタゾールを含み、前記複数の層の少なくとも1層が生体吸収性ポリマーを含み、前記結晶性のシロスタゾールが、インビトロで溶出率を試験して、24時間後に、5質量%以下溶出する、薬物留置型ステントを得られることを見出した。更に、そのような薬物留置型ステントは、抹消血管用途に好適であることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0016】
本明細書は、下記の態様を含む。
1.ステント骨格と、
ステント骨格上に複数の層が堆積した堆積層を有し、
堆積層の各層は、結晶性のシロスタゾール(CLZ)を含み、
前記複数の層の少なくとも1層が生体吸収性ポリマーを含む、ステントであって、
前記結晶性のシロスタゾールが、インビトロでステントを、37℃の0.25質量%ラウリル硫酸ナトリウムを含むリン酸緩衝塩化ナトリウム溶液の溶出媒体に接触させてから24時間後に、5質量%以下溶出する、ステント。
2.ステント骨格と、
ステント骨格上に複数の層が堆積した堆積層を有し、
堆積層の各層は、結晶性のシロスタゾール(CLZ)を含み、
前記複数の層の少なくとも1層が生体吸収性ポリマーを含む、ステントであって、
前記結晶性のシロスタゾールが、インビトロでステントを、37℃で0.25質量%ラウリル硫酸ナトリウムを含むリン酸緩衝塩化ナトリウム溶液の溶出媒体に接触させてから15日後に、20質量%以下溶出する、ステント。
3.堆積層は少なくとも2層を有し、ステントに近い第1層のシロスタゾール含有量は、ステントから遠い第2層のシロスタゾール含有量より大きい、上記1又は2に記載のステント。
4.堆積層は少なくとも2層を有し、ステントに近い第1層のシロスタゾール含有量は、ステントから遠い第2層のシロスタゾール含有量より大きく、2層とも生体吸収性ポリマーを含む、上記1~3のいずれか1に記載のステント。
5.生体吸収性ポリマーは、ポリ乳酸を90質量%以上含む、上記1~4のいずれか1に記載のステント 。
6.生体吸収性ポリマーは、LラクチドとDLラクチドを6:4~8:2の質量比率で含み、1.8~4.5 dL/g の粘度を有する上記1~5いずれか1に記載のステント。
7.生体吸収性ポリマーは、Lラクチドを90質量%以上含み、0.6~1.4 dL/g の粘度を有する上記1~5いずれか1に記載のステント。
8.抹消血管用に使用される、上記1~7のいずれか1に記載のステント。
9.ステント骨格と、
ステント骨格上に堆積した第1層と、その上に堆積した第2層とを含み、
第1層及び第2層はそれぞれシロスタゾールと生体吸収性ポリマーを含み、
前記生体吸収性ポリマーはLラクチドとDLラクチドを6:4~8:2の質量比率で含み、1.8~4.5 dL/g の粘度を有し、
第1層はシロスタゾールを470±47μg及び前記生体吸収性ポリマーを313±31μg、第2層はシロスタゾールを30±3μg、前記生体吸収性ポリマーを270±27μg含む、ステント。
【発明の効果】
【0017】
本発明の実施形態の薬物留置型ステントは、結晶性のシロスタゾールが、インビトロで溶出率を試験して、24時間後に、5質量%以下溶出することができる。よって、本発明の実施形態の薬物留置型ステントは、より長期間に渡って結晶性シロスタゾールを放出することができ、抹消血管用により好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の一の実施形態のステントの全形(a)及びステントのA-A間での断面(b)を模式的に示す。
図2図2は、超音波噴霧器を用いてステントにコーティング剤をコーティングする様子を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一の実施形態のステントは、
ステント骨格と、
ステント骨格上に複数の層が堆積した堆積層を有し、
堆積層の各層は、結晶性のシロスタゾールを含み、
前記複数の層の少なくとも1層が生体吸収性ポリマーを含み、
前記結晶性のシロスタゾールが、インビトロでステントを、37℃の0.25質量%ラウリル硫酸ナトリウムを含むリン酸緩衝塩化ナトリウム溶液の溶出媒体に接触させてから24時間後に、5質量%以下溶出する。
【0020】
本発明の別の実施形態のステントは、
ステント骨格と、
ステント骨格上に複数の層が堆積した堆積層を有し、
堆積層の各層は、結晶性のシロスタゾールを含み、
前記複数の層の少なくとも1層が生体吸収性ポリマーを含む、ステントであって、
前記結晶性のシロスタゾールが、インビトロでステントを、37℃で0.25質量%ラウリル硫酸ナトリウムを含むリン酸緩衝塩化ナトリウム溶液の溶出媒体に接触させてから15日後に、20質量%以下溶出する。
【0021】
本発明の更なる実施形態のステントは、
ステント骨格と、
ステント骨格上に堆積した第1層と、その上に堆積した第2層とを含み、
第1層及び第2層はそれぞれシロスタゾールと生体吸収性ポリマーを含み、
前記生体吸収性ポリマーはLラクチドとDLラクチドを6:4~8:2の質量比率で含み、1.8~4.5 dL/g の粘度を有し、
第1層はシロスタゾールを470±47μg及び前記生体吸収性ポリマーを313±31μg、第2層はシロスタゾールを30±3μg、前記生体吸収性ポリマーを270±27μg含む。
【0022】
本発明の実施形態のステントは、ステント骨格と、そのステント骨格上に複数の層が堆積した堆積層を有する。
本発明の実施形態において「ステント骨格」とは、ステントを形成する骨格を意味し、通常、例えば、金属又は高分子材料を用いて、目の粗い円筒状に形状され、本発明が目的とするステントを得られる限り特に制限されることはない。
【0023】
金属製のステント骨格として、例えば、ニッケル、コバルト、クロム、チタン、及びステンレス鋼等の適切な合金製のステント骨格を例示することができ、好ましくはコバルトクロム合金を主成分とする金属製ステント骨格である。
【0024】
本発明の実施形態のステントは、そのステント骨格上に複数の層が堆積した堆積層を有する。その堆積層の各層は、結晶性のシロスタゾールを含み、前記複数の層の少なくとも1層が生体吸収性ポリマーを含む。
【0025】
本明細書において「シロスタゾール」とは、化学名が6-[4-(1-シクロヘキシル-1H-テトラゾール-5-イル)ブトキシ]-3,4-ジヒドロカルボスチリルという。シロスタゾールは、血小板凝集抑制作用、ホスホジエステラーゼ(PDE)の阻害作用、抗潰瘍作用、降圧作用及び消炎作用を有し、抗血栓症剤、脳循環改善剤、消炎剤、抗潰瘍剤、降圧剤、抗喘息剤、ホスホジエステラーゼ阻害剤などとして有用であることが知られており、本発明が目的とするステントが得られる限り、特に制限されることはない。なお、シロスタゾールにはその医薬的に許容される塩も含まれる。
また、シロスタゾールは、結晶であることが好ましい。シロスタゾールは、結晶構造を有さない(非結晶)より、結晶構造を有する方が、溶出率を低く抑えることができるので好ましい。
【0026】
本発明の実施形態において、生体吸収性ポリマーは、本発明が目的とするステントを得られる限り特に制限されることはない。生体吸収性ポリマーとして、例えばラクチドを含むポリ乳酸などが挙げられ、その分子量(Mw:重量平均分子量)は40,000から700,000であってよい。また、その粘度は0.4~5.0 dL/g であってよく、0.4~4.2 dL/g であってよい。更に、生体吸収性ポリマーは、DLラクチド、Lラクチド等を含み、グリコリド、カプロラクトン等を含んでよい。より具体的には、分子量が10,000~1,000,000のDLラクチドを含むポリマー、LラクチドとDLラクチドを6:4~8:2の質量比率で含み、分子量が300,000~650,000または粘度が1.8~4.5 dL/g のポリマー、分子量が50,000~150,000またはLラクチドを90質量%以上含み、粘度が0.6~1.4 dL/g のポリマー(Lラクチド100質量%のポリL乳酸を含む)を例示できる。生体吸収性ポリマーとして、市販品を使用することができ、例えば、LR704S(商品名)、L206S(商品名)、LR706S(商品名)等を例示できる。生体吸収性ポリマーは、単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0027】
生体吸収性ポリマーは、ポリ乳酸を90質量%以上含むことが好ましく、93質量%以上含むことがより好ましく、96質量%含むことが更により好ましい。生体吸収性ポリマーは、ポリ乳酸を90質量%以上含む場合、徐放することができるという、有利な効果を奏する。
【0028】
堆積層は少なくとも2層を有し、ステント骨格に近い第1層のシロスタゾール含有量は、ステント骨格から遠い第2層のシロスタゾール含有量より大きいことが好ましい。ステント骨格により近い層は、シロスタゾールの含有量がより大きい場合、長期に徐放するという有利な効果を奏する。
【0029】
第1層のシロスタゾールの含有量は、300~750μgであることが好ましく、350~550μgであることがより好ましく、440~480μgであることが更に好ましい。更に第1層はシロスタゾールを470±47μg含むことが好ましい。
第2層のシロスタゾールの含有量は、0~100μgであることが好ましく、10~80μgであることがより好ましく、20~60μgであることが更に好ましい。更に第2層はシロスタゾールを30±3μg含むことも好ましい。
【0030】
第1層のシロスタゾールの含有率は、40~100質量%であることが好ましく、50~70質量%であることがより好ましく、55~65質量%であることが更に好ましい。
第2層のシロスタゾールの含有率は、0~50質量%であることが好ましく、2~20質量%であることがより好ましく、5~10質量%であることが更に好ましい。
【0031】
堆積層は少なくとも2層を有し、ステントに近い第1層のシロスタゾール含有量は、ステントから遠い第2層のシロスタゾール含有量より大きく、2層とも生体吸収性ポリマーを含むことが好ましい。
【0032】
第1層の生体吸収性ポリマーの含有量は、0~500μgであることが好ましく、250~350μgであることがより好ましく、300~320μgであることが更に好ましい。更に第1層は生体吸収性ポリマーを313±31μg含むことが好ましい。
第2層の生体吸収性ポリマーの含有量は、180~540μgであることが好ましく、200~300μgであることがより好ましく、260~285μgであることが更に好ましい。更に第2層は生体吸収性ポリマーを270±27μg含むことが好ましい。
【0033】
第1層の生体吸収性ポリマーの含有率は、0~60質量%であることが好ましく、25~50質量%であることがより好ましく、35~45質量%であることが更に好ましい。
第2層の生体吸収性ポリマーの含有率は、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましい。
【0034】
本発明の実施形態のステントでは、インビトロで、37℃の0.25質量%ラウリル硫酸ナトリウムを含むリン酸緩衝塩化ナトリウム溶液の溶出媒体に、ステントを接触させてから24時間後に、前記結晶性のシロスタゾールが3質量%以下溶出する。
【0035】
本発明の実施形態のステントでは、前記結晶性のシロスタゾールが、インビトロで、37℃で0.25質量%ラウリル硫酸ナトリウムを含むリン酸緩衝塩化ナトリウム溶液の溶出媒体に、ステントを接触させてから15日後に、前記結晶性のシロスタゾールが、20質量%以下溶出することが好ましく、ステントを接触させてから8日後に、前記結晶性のシロスタゾールが、7質量%以下溶出することが好ましく、ステントを接触させてから1日後に、前記結晶性のシロスタゾールが、5質量%以下溶出することが好ましく、3質量%以下溶出することがより好ましい。
【0036】
本発明の実施形態のステントでは、前記結晶性のシロスタゾールが、インビトロで、37℃で0.25質量%ラウリル硫酸ナトリウムを含むリン酸緩衝塩化ナトリウム溶液の溶出媒体に、ステントを接触させてから15日後に、前記結晶性のシロスタゾールが、例えば、1.0質量%以上溶出してよく、0.1質量%以上溶出してよく、ステントを接触させてから8日後に、前記結晶性のシロスタゾールが、例えば0.5質量%以上溶出してよく、0.05質量%以上溶出してよく、ステントを接触させてから1日後に、前記結晶性のシロスタゾールが、例えば0.1質量%以上溶出してよく、0.01質量%以上溶出してよい。
【0037】
インビトロで、37℃の0.25質量%ラウリル硫酸ナトリウムを含むリン酸緩衝塩化ナトリウム溶液の溶出媒体に、ステントを接触させてから上述の時間後に、前記結晶性のシロスタゾールが上述の割合以下溶出する場合、シロスタゾールが3箇月を超えて放出され得るので、きわめて長期にわたって、シロスタゾールを生体内部に存在させることができる。
従って、本発明の実施形態のステントは、例えば抹消血管用として、好ましくは抹消動脈血管用として、好適に使用することができる。
更に、本発明の実施形態のステントは、例えば、心臓の冠状動脈、下肢動脈等の従来からステントが使用されている比較的太い動脈等にも使用することができる。
【0038】
本発明が目的とするステントを得られる限り、本発明の実施形態のステントの製造方法は、特に制限されない。
本発明の実施形態のステントは、例えば、(i)ステント骨格を準備すること;(ii)シロスタゾールを含む混合物を準備すること;(iii)その混合物でステント骨格をコートすること、(ii)及び(iii)を繰り返す(ただし、シロスタゾールの含有量等は調整される)ことを含む製造方法を用いて製造することができる。
【0039】
シロスタゾールを含む混合物は、シロスタゾールに加えて上記生体吸収性ポリマーを含むことができる。混合物は、更に、添加剤等の溶媒を含むことができる。生体吸収性ポリマーは、シロスタゾールが難溶性であることから、コーティングの剥がれを防止するとともに高強度を維持する必要がある。
シロスタゾールと生体吸収性ポリマー、例えばポリ乳酸の混合質量比率は1:0.5~1:1.5であることが好ましい。この比率の範囲内である場合、より良好な内膜肥厚効果を得ることができる。また、混合質量比率が1:1.1~1:1.5の場合、コーティング強度および徐放の効果をより高めることができる。
【0040】
本発明の実施形態において、シロスタゾールと生体吸収性ポリマーとの混合物をステント骨格にコーティングする方法は、本発明が目的とするステントを得られる限り特に制限されることはなく、従来から使用されている、例えば、簡易スプレー法、ディッピング法、電着法、超音波スプレー法などを用いることができるが、コーティングの点で超音波スプレー法を用いることが好ましい。
尚、上述の実施の形態は、可能であれば、適宜組み合わせることができる。
【0041】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0042】
図1(a)は本発明の一の形態の薬剤溶出型ステント1を模式的に示す。薬剤溶出型ステント1は、長手方向軸線を有する円筒状の形態を有し、管腔を有する。薬剤溶出型ステント1は、円筒状の形態について、粗い網目状の側面を有し、側方に拡張可能に形成されている。通常、網目は、ステント骨格を形成する部材2(金属又は高分子材料等の線)によって形成され得る。薬剤溶出型ステント1は、通常、未拡張形態で身体内に挿入され、血管内の治療部位にて拡張されて該血管内に留置される。拡張はバルーンカテーテルにより血管内で達成されてもよい。図1(a)では網目を模式的に記載している。本発明が目的とするステントを得られる限り、網目のパターンは特に制限されることはない。
【0043】
図1(b)は、図1(a)における、ステント骨格を形成する線の断面(A-A断面)を模式的に示す。
本発明の一の形態の薬剤溶出型ステント1はステント骨格部材2上に堆積層3が形成されている。ステント骨格部材2は、任意の方法を用いて製作することができる。例えば、レーザー、放電フライス加工、化学的エッチング又は他の手段により、中空又は形成されたステンレス鋼管から製作することができる。ステント骨格部材2は、ニッケル、コバルト、クロム、チタン又はステンレス鋼の適切な合金等にて形成できる。
堆積層3は、少なくとも二つの層で形成される。図1(b)では、複数の層は示されていない。
【0044】
図2はステント骨格部材2上に堆積層3を塗布して形成する超音波スプレイコーティング装置4を模式的に示す。コーティング工程では、まず、ステント骨格部材2の表面をプラズマ処理装置(図示せず)により、コーティング工程前にプラズマ処理することが好ましい。プラズマ処理後、ステント骨格部材2をマンドレルに装着し、超音波スプレイコーティング装置4に取り付ける。超音波スプレイコーティング装置4では、コーティング液がシリンジポンプにより配管6を通って送液され、超音波噴霧ノズル5により霧化されて噴射される。噴霧中に、超音波ノズル下5でステント骨格部材2を回転させつつ直線移動させることで、ステント骨格部材2上に堆積層3を堆積させる。その後、ステント骨格部材2を回転させつつ直線移動させながら窒素気流で乾燥し、さらに減圧下デシケーター中で乾燥させることで薬剤溶出型ステント1を作成できる。堆積層3が含む層の数に応じて、コーティング液を変更して、ステント骨格部材が、複数回コーティングされて堆積層3が形成される。
【0045】
形成すべき堆積層3に対応するような割合で、シロスタゾールと生体吸収性ポリマーとを溶媒に溶かした混合物を用いて、コーティング液を準備する。堆積層3は、複数層を含むので、複数のコーティング液を準備することが必要である。コーティング溶媒として、コーティング後に容易に除去できるように沸点の低い揮発性溶媒が使用できる。揮発性溶媒として、例えば、メタノール、エタノール、トリフルオロエタノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、イソアミルアルコール、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン、及びそれらの中の少なくとも2つを含む混合溶媒を例示できる。
【実施例
【0046】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的かつ詳細に説明するが、これらの実施例は本発明の一態様にすぎず、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0047】
本実施例で使用した各種ポリマーを下記表1に示す。
【表1】
【0048】
上述のポリマーの粘度は、極限粘度[ηη](dL/g)を意味し、毛細管粘度計法により測定した。極限粘度は濃度C(g/dL)の試料溶液を準備し、その試料溶液の流下時間(t)及び溶媒の流下時間(t0)の測定値から次式により算出した。
【数1】
装置としてウベローデ型粘度計、溶媒としてクロロホルム(25℃)を用いた。
更に、Mark-Kuhn-Houwink の式(Mark-Howink-桜田の式)を用いて、重量平均分子量(Mw)を求めた。
【0049】
実施例1
ステント骨格部材2としてコバルトクロム合金を用い、シロスタゾール(CLZ)を塩化メチレンで溶解した溶液を準備した。この溶液を超音波スプレイコーティングにより、ベース材料のコバルトクロム合金上に塗工して、440μgのシロスタゾールでできている、第1層を形成した。
次に、シロスタゾールとポリマー(a)を1:9(質量比)で混合して塩化メチレンで溶解した溶液を準備した。この溶液を、超音波スプレイコーティングにより、第1層上に塗工して、540μgのポリマー(a)と60μgのシロスタゾールでできている、第2層を形成して、実施例1のステントを得た。
【0050】
実施例2~3
ポリマー(a)を、ポリマー(b)又は(c)に変えた他は、実施例1に記載の方法と同様の方法を用いて、実施例2~3のステントを製造した。
【0051】
比較例1~3
ポリマー(a)を、ポリマー(d)~(f)に変えた他は、実施例1に記載の方法と同様の方法を用いて、比較例1~3のステントを製造した。
【0052】
実施例4
ステント骨格部材2としてコバルトクロム合金を用い、シロスタゾールとポリマー(b)とを3:2の割合で混合して、塩化メチレンに溶解した溶液を準備した。この溶液を超音波スプレイコーティングにより、ステント骨格部材のコバルトクロム合金上に塗工して、313μgのポリマー(b)と470μgのシロスタゾールでできている第1層を形成した。
次に、シロスタゾールとポリマー(b)を1:9(質量比)の割合で混合して塩化メチレンに溶解した溶液を準備した。この溶液を、超音波スプレイコーティングにより、第1層上に塗工して、270μgのポリマー(b)と30μgのシロスタゾールでできている、第2層を形成して、実施例4のステントを得た。
【0053】
実施例5
ステント骨格部材2としてコバルトクロム合金を用い、シロスタゾールとポリマー(b)とを3:2の割合で混合して、塩化メチレンに溶解した溶液を準備した。この溶液を超音波スプレイコーティングにより、ベース材料のコバルトクロム合金上に塗工して、323μgのポリマー(b)と485μgのシロスタゾールでできている第1層を形成した。
次に、シロスタゾールとポリマー(b)を1:19(質量比)の割合で混合して塩化メチレンに溶解した溶液を準備した。この溶液を、超音波スプレイコーティングにより、第1層上に塗工して、285μgのポリマー(b)と15μgのシロスタゾールでできている、第2層を形成して、実施例5のステントを得た。
【0054】
実施例6
ステント骨格部材2としてコバルトクロム合金を用い、シロスタゾールとポリマー(b)とを3:2の割合で混合して、塩化メチレンに溶解した溶液を準備した。この溶液を超音波スプレイコーティングにより、ベース材料のコバルトクロム合金上に塗工して、313μgのポリマー(b)と470μgのシロスタゾールでできている第1層を形成した。
次に、シロスタゾールとポリマー(c)を1:9(質量比)の割合で混合して塩化メチレンに溶解した溶液を準備した。この溶液を、超音波スプレイコーティングにより、第1層上に塗工して、270μgのポリマー(c)と30μgのシロスタゾールでできている、第2層を形成して、実施例6のステントを得た。
【0055】
実施例7
ステント骨格部材2としてコバルトクロム合金を用い、シロスタゾールとポリマー(b)を3:2の割合で混合して、塩化メチレンに溶解した溶液を準備した。この溶液を超音波スプレイコーティングにより、ベース材料のコバルトクロム合金上に塗工して、490μgのポリマー(b)と735μgのシロスタゾールでできている第1層を形成した。
次に、シロスタゾールとポリマー(b)を1:19(質量比)の割合で混合して塩化メチレンに溶解した溶液を準備した。この溶液を、超音波スプレイコーティングにより、第1層上に塗工して、285μgのポリマー(b)と15μgのシロスタゾールでできている、第2層を形成して、実施例7のステントを得た。
【0056】
実施例8
180μgのポリマー(b)と270μgのシロスタゾールでできている第1層を形成した他は、実施例4に記載した方法と同様の方法を用いて、実施例8のステントを得た。
【0057】
実施例9
247μgのポリマー(b)と370μgのシロスタゾールでできている第1層を形成した他は、実施例4に記載した方法と同様の方法を用いて、実施例9のステントを得た。
【0058】
シロスタゾールの溶出試験(インビトロ)
1.シロスタゾールの溶出試験方法
溶出試験器400-DS(Apparatus 7)を用いて、試験液に0.25質量%ラウリル硫酸ナトリウムを含むリン酸塩緩衝塩化ナトリウム溶液 10mLを用い、溶出試験液の温度を37℃、Dip Speed 10で試験を行った。
0.5, 1, 3, 6, 9, 12, 18, 24時間後にサンプリングを行い、採取時間ごとに試験液を全量交換した。
【0059】
2.シロスタゾールの溶出率測定(HPLC測定)
それぞれの試料溶液及び標準溶液10μLにつき以下の条件でHPLC測定を行い、シロスタゾールのピーク面積値At及びAsから溶出率を算出した。
溶出率の算出は以下の式を用いて算出を行った。
【0060】
【数2】
【0061】
測定条件
検出器:紫外吸光光度計 (測定波長:254nm)
カラム:内径4.6mm×長さ150mmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充填したもの
カラム温度:25℃付近の一定温度
移動相:水/アセトニトリル/メタノール混液(10:7:3, v/v/v)
流量:シロスタゾールの保持時間が約9分になるように調整
【0062】
ウサギ腸骨動脈埋入による動脈組織中のシロスタゾール濃度及びステント上のシロスタゾール残存量(インビボ)
ウサギ腸骨動脈に、実施例及び比較例の各ステントを埋入した。埋入は、下記のように行った。
まず、ウサギの頚部を切開し、右頚動脈を露出させて、イントデュサーを留置する。バルーンカテーテル用ガイドワイヤーをイントデュサーから挿入して、X線透視下で腸骨動脈の処置部位の遠位部まで移動させる。その後、造影用カテーテルをガイドワイヤーに沿って挿入し、腸骨動脈の処置部位の血管造影を行う。処置部位の血管造影終了後、X線透視下にて、検体のバルーンカテーテルを処置部位までバルーンカテーテル用ガイドワイヤーに沿って挿入する。検体のステント(標準径拡張圧9atm時ステント径2.75mm)が腸骨動脈の処置部(予定血管径2.5mm)にあることを確認した後、インデフレーターを用いてバルーンを14atm(過拡張、予定ステント径3.0mm、20質量%過拡張)で1回20秒間拡張を保持しステントが拡張したことを確認した後、バルーンを収縮させてインデフレーターを取り外し、バルーンカテーテルをバルーンカテーテル用ガイドワイヤーに沿って引き抜く。左右の腸骨動脈に同様の方法で処置を行う。
次いで、バルーンカテーテル用ガイドワイヤーに沿って造影用カテーテルを処置部位の手前まで移動させて、希釈造影剤を用いて血管造影を行う。左右の腸骨動脈に同様の方法で処置を行った後、造影用カテーテルを引き抜く。最後にシース挿入部位の血管を結紮し、皮膚及び筋層を縫合する。以上により、ウサギの腸骨血管内にステントが留置される。
【0063】
埋入から、90日後に、各ステントの埋入部位の動脈組織中のシロスタゾール濃度及びステント残存量を分析した。
前処理として各ステントの埋入部位の動脈組織をステントと動脈組織に分離した。分離したそれぞれの試料から液液抽出法により得られた有機層を乾固し、試料とした。得られた試料についてエレクトロスプレーイオン化法を用いたLC/MS/MS法により、シロスタゾールを定量し、動脈組織中のシロスタゾール濃度(1gの組織中のシロスタゾールのμg数:μg/g組織)及びシロスタゾール残存量(ステント上のシロスタゾールの残存率(%))を算出した。
【0064】
ブタ腸骨動脈埋入による動脈組織中のシロスタゾール濃度及びステント上のシロスタゾール残存量(インビボ)
ブタ腸骨動脈埋入による動脈組織中のシロスタゾール濃度及びシロスタゾール残存量の評価は、ウサギについて行った方法と同様の方法を用いて、ブタについて、腸骨動脈埋入による動脈組織中のシロスタゾール濃度(1gの組織中のシロスタゾールのμg数:μg/g組織)及びシロスタゾール残存量(ステント上のシロスタゾールの残存率(%))を分析した。
【0065】
【表2】









【0066】
【表3】

a:1gの組織中のシロスタゾールのμg数を示す。単位は、μg/g組織である。




















【0067】
【表4】

a: 1gの組織中のシロスタゾールのμg数を示す。単位は、μg/g組織である。
【0068】
実施例1~9のステントは、いずれも、ステント骨格と、ステント骨格上に複数の層が堆積した堆積層を有し、堆積層の各層は、結晶性のシロスタゾールを含み、前記複数の層の少なくとも1層が生体吸収性ポリマーを含み、前記結晶性のシロスタゾールが、インビトロでステントを、37℃の0.25質量%ラウリル硫酸ナトリウムを含むリン酸緩衝塩化ナトリウム溶液の溶出媒体に接触させてから24時間後に、5質量%以下溶出する。
【0069】
また、実施例1~9のステントは、いずれも、ステント骨格と、ステント骨格上に複数の層が堆積した堆積層を有し、堆積層の各層は、結晶性のシロスタゾールを含み、前記複数の層の少なくとも1層が生体吸収性ポリマーを含み、前記結晶性のシロスタゾールが、インビトロでステントを、37℃の0.25質量%ラウリル硫酸ナトリウムを含むリン酸緩衝塩化ナトリウム溶液の溶出媒体に接触させてから15日後に、20質量%以下溶出する。
従って、実施例1~9のステントは、シロスタゾールを3箇月を超えて徐放することができる。
なお、複数の層としては2層に限らず、3層以上でも適用可能であることは言うまでもない。
【0070】
これに対し比較例1~3のステントは、いずれも、結晶性のシロスタゾールが、インビトロでステントを、37℃の0.25質量%ラウリル硫酸ナトリウムを含むリン酸緩衝塩化ナトリウム溶液の溶出媒体に接触させてから24時間後に、5質量%を超えて溶出する。
従って、比較例1~3のステントは、シロスタゾールを3箇月を超えて徐放することができない。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の実施形態の薬物留置型ステントは、結晶性のシロスタゾールが、インビトロで溶出率を試験して、24時間後に、5質量%以下溶出することができる。または、本発明の実施形態の薬物留置型ステントは、結晶性のシロスタゾールが、インビトロで溶出率を試験して、15日後に、20質量%以下溶出することができる。よって、本発明の実施形態の薬物留置型ステントは、より長期間に渡って結晶性シロスタゾールを放出することができ、抹消血管用により好適に使用することができる。
【0072】
[関連出願]
尚、本出願は、2019年7月9日に日本国でされた出願番号2019-127529を基礎出願とするパリ条約第4条に基づく優先権を主張する。この基礎出願の内容は、参照することによって、本明細書に組み込まれる。
【符号の説明】
【0073】
1:ステント
2:ステント骨格部材
3:堆積層
4:超音波スプレイコーティング装置
5:超音波噴霧ノズル
6:配管
図1
図2