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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-23
(45)【発行日】2023-01-06
(54)【発明の名称】工業油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20221226BHJP
   C10M 105/74 20060101ALN20221226BHJP
   C10M 101/02 20060101ALN20221226BHJP
   C10M 137/02 20060101ALN20221226BHJP
   C10M 129/76 20060101ALN20221226BHJP
   C10M 133/40 20060101ALN20221226BHJP
   C10N 40/20 20060101ALN20221226BHJP
   C10N 40/22 20060101ALN20221226BHJP
   C10N 40/24 20060101ALN20221226BHJP
   C10N 40/12 20060101ALN20221226BHJP
   C10N 40/08 20060101ALN20221226BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20221226BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20221226BHJP
   C10N 40/30 20060101ALN20221226BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20221226BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20221226BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M105/74
C10M101/02
C10M137/02
C10M129/76
C10M133/40
C10N40:20 A
C10N40:22
C10N40:24
C10N40:12
C10N40:08
C10N40:02
C10N40:04
C10N40:30
C10N20:02
C10N30:00 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022547521
(86)(22)【出願日】2021-08-31
(86)【国際出願番号】 JP2021032030
(87)【国際公開番号】W WO2022054651
(87)【国際公開日】2022-03-17
【審査請求日】2022-09-22
(31)【優先権主張番号】P 2020151077
(32)【優先日】2020-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤尾 祐司
【審査官】田名部 拓也
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-056447(JP,A)
【文献】特開平09-157681(JP,A)
【文献】特開平06-041572(JP,A)
【文献】国際公開第2018/173555(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/100430(WO,A1)
【文献】特開平01-247493(JP,A)
【文献】特開平06-192678(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 169/04
C10N 20/02
C10N 30/00
C10N 40/02
C10N 40/04
C10N 40/08
C10N 40/12
C10N 40/20
C10N 40/22
C10N 40/24
C10N 40/30
C10M 101/02
C10M 105/74
C10M 129/70
C10M 133/40
C10M 137/02
C10M 137/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油と
酸化防止剤として下記式(B)で表される中性亜リン酸エステル誘導体および下記式(C)で表される2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体とを含
前記基油が合成油であり、
前記合成油は、リン酸エステル誘導体と、リン酸トリス(イソプロピルフェニル)と、りん酸トリフェニルとを含み、
前記リン酸エステル誘導体は、下記式(A1)で表される繰り返し単位を有し、一方の末端に、下記式(A2)で表される構造を有し、他方の末端に、下記式(A3)で表される構造を有し、40℃の動粘度が100cSt以上200cSt以下である、
工業油組成物。
【化1】
(上記式(B)中、Rb21~Rb24は、それぞれ独立に、炭素原子数10~16の脂肪族炭化水素基を表し、Rb25~Rb28は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、Rb291およびRb292は、それぞれ独立に、水素原子または炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、Rb291およびRb292の炭素原子数の合計は、1~5である。)
【化2】
(上記式(C)中、Rc1は、炭素原子数1~12の直鎖もしくは分枝状のアルキル基である。)
【化3】
【化4】
【請求項2】
前記合成油の合計を100質量%としたときに、前記リン酸エステル誘導体が50質量%以下の量で含まれており、
前記酸化防止剤として、さらに、下記式(D)で表されるヒンダードアミン化合物を含む、
請求項に記載の工業油組成物。
【化5】
(上記式(D)中、Rd21およびRd22は、それぞれ独立に、炭素原子数1~10の脂肪族炭化水素基を表し、Rd23は、炭素原子数1~10の2価の脂肪族炭化水素基を表す。)
【請求項3】
油と、
酸化防止剤として下記式(B)で表される中性亜リン酸エステル誘導体および下記式(C)で表される2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体とを含み、
前記基油が鉱油であり、
前記酸化防止剤として、さらに、下記式(D)で表されるヒンダードアミン化合物を含む、
工業油組成物。
【化6】
(上記式(B)中、Rb21~Rb24は、それぞれ独立に、炭素原子数10~16の脂肪族炭化水素基を表し、Rb25~Rb28は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、Rb291およびRb292は、それぞれ独立に、水素原子または炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、Rb291およびRb292の炭素原子数の合計は、1~5である。)
【化7】
(上記式(C)中、Rc1は、炭素原子数1~12の直鎖もしくは分枝状のアルキル基である。)
【化8】
(上記式(D)中、Rd21およびRd22は、それぞれ独立に、炭素原子数1~10の脂肪族炭化水素基を表し、Rd23は、炭素原子数1~10の2価の脂肪族炭化水素基を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、鉱油および合成油から選ばれる炭化水素系基油に、組成物全量基準で、(A)サルコシン酸誘導体0.008~0.04質量%、(B)アルケニルコハク酸エステル0.01~0.07質量%、(C)アミン系酸化防止剤0.1~3.0質量%、および(D)フェノール系酸化防止剤0.1~3.0質量%を含有する潤滑油組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-179197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の潤滑油組成物は、長期間使用できない問題があった。
【0005】
そこで、本発明の目的は、長寿命であり、長期間使用可能な工業油組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の工業油組成物は、基油として鉱油または合成油と、酸化防止剤として下記式(B)で表される中性亜リン酸エステル誘導体および下記式(C)で表される2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体とを含む。
【0007】
【化1】
【0008】
(上記式(B)中、Rb21~Rb24は、それぞれ独立に、炭素原子数10~16の脂肪族炭化水素基を表し、Rb25~Rb28は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、Rb291およびRb292は、それぞれ独立に、水素原子または炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、Rb291およびRb292の炭素原子数の合計は、1~5である。)
【0009】
【化2】
【0010】
(上記式(C)中、Rc1は、炭素原子数1~12の直鎖もしくは分枝状のアルキル基である。)
【発明の効果】
【0011】
本発明の工業油組成物は、長寿命であり、長期間使用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成は適宜組み合わせることが可能である。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成の種々の省略、置換または変更を行うことができる。
【0013】
<実施形態1の工業油組成物>
実施形態1の工業油組成物は、基油として合成油と、酸化防止剤とを含む。
【0014】
実施形態1の工業油組成物に用いる合成油は、リン酸エステル誘導体と、リン酸トリス(イソプロピルフェニル)と、りん酸トリフェニルとを含む。本明細書において、これらを、それぞれ第1成分、第2成分、第3成分ともいう。この第1成分、第2成分および第3成分を含む合成油は難燃性である。このため、実施形態1の工業油組成物は高温においても使用できる。
【0015】
リン酸エステル誘導体(第1成分、CAS 125997-21-9)は、下記式(A1)で表される繰り返し単位を有し、一方の末端に、下記式(A2)で表される構造を有し、他方の末端に、下記式(A3)で表される構造を有する。具体的には、リン酸エステル誘導体では、繰り返し単位(A1)が1個または2個以上繰り返されている。また、一方の末端、すなわち構造(A1)のベンゼン環側の末端に構造(A2)が結合し、他方の末端、すなわち構造(A1)のO側の末端に構造(A3)が結合している。また、リン酸エステル誘導体は、40℃の動粘度(JIS K 2283)が100cSt以上200cSt以下である。
【0016】
【化3】
【0017】
【化4】
【0018】
このようなリン酸エステル誘導体は、難燃性に優れる。具体的には、以下の4つの要件を満たすことができる。
(1)リン酸エステル誘導体の発火点は、550℃以上である。
(2)リン酸エステル誘導体を400℃に加熱し、火炎を接触させた際に、燃焼を継続しない。
(3)リン酸エステル誘導体を400℃に加熱し、700℃に加熱した金属棒を浸漬させた際に、継続して燃焼しない。
(4)火炎および700℃に加熱した金属棒に、リン酸エステル誘導体のミストを噴霧させた際に、継続して燃焼しない。
【0019】
リン酸エステル誘導体の市販品としては、アデカスタブ PFR(登録商標、株式会社ADEKA製、40℃の動粘度147.3cSt、引火点(JIS K 2265-4:2007)332℃、燃焼点および発火点なし)が好適に用いられる。なお、この市販品は、上記4つの要件を満たす。
【0020】
リン酸トリス(イソプロピルフェニル)(第2成分、Isopropylphenyl phosphate、CAS 68937-41-7)およびりん酸トリフェニル(第3成分、Triphenyl phosphate、CAS 115-86-6)は、基油の粘度調整のために用いられる。第2成分および第3成分の合計100質量%中に、第2成分は、5質量%以上95質量%以下の量で含まれ、第3成分は、5質量%以上95質量%以下の量で含まれることが、粘度調整の観点から好ましい。第2成分および第3成分は混合物として市販されており、これを用いることができる。このような市販品としては、第2成分が41質量%含まれる混合物(40℃の動粘度(JIS K 2283)21cSt、引火点(JIS K 2265-4:2007)256℃、燃焼点320℃、発火点なし)、第2成分が24質量%含まれる混合物(40℃の動粘度(JIS K 2283)26cSt)が好適に用いられる。
【0021】
基油100質量%中に、第1成分は、3質量%以上70質量%以下の量で含まれることが、難燃性の観点から好ましい。また、基油(合成油)が第1成分、第2成分および第3成分からなり、基油100質量%中に、第1成分は、3質量%以上70質量%以下の量で含まれ、第2成分および第3成分は、合計で30質量%以上97質量%以下の量で含まれることが、難燃性、粘度および潤滑性の観点から好ましい。なお、基油には、難燃性を妨げない範囲で、第1成分、第2成分および第3成分以外のその他の成分を含んでいてもよい。
【0022】
酸化防止剤は、中性亜リン酸エステル誘導体および2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体を含む。酸化防止剤として上記2種類を組み合わせて用いるため、工業油組成物の使用時に、酸化防止剤の分子が破壊され難くなり、酸化防止剤の消費を抑制できる。中性亜リン酸エステル誘導体および2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体をそれぞれ単独で用いるよりも、酸化防止剤の消費を抑制できる。したがって、工業油組成物の酸化防止能を長期に渡り持続できる。すなわち、工業油組成物は酸化安定性に優れ、粘度変化も抑制され、長期間使用可能となる。また、実施形態1の工業油組成物は、難燃性の基油を含んでいるため、高温においても使用できる。高温で使用する工業用油組成物は、酸化防止機能を有することが重要となる。上記2種類の酸化防止剤の組み合わせによれば、工業油組成物を高温で使用する際にも、酸化防止機能を長期に渡って持続できる。
【0023】
中性亜リン酸エステル誘導体は、下記式(B)で表される。中性亜リン酸エステル誘導体は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。中性亜リン酸エステル誘導体は、2量体であるため、蒸発しにくく、効率よく酸化防止性能を発揮できる。
【0024】
【化5】
【0025】
式(B)中、Rb21~Rb24は、それぞれ独立に、炭素原子数10~16の脂肪族炭化水素基を表す。
【0026】
炭素原子数10~16の脂肪族炭化水素基は、直鎖、分枝または環状の脂肪族炭化水素基であってもよく、飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基であってもよい。炭素原子数10~16の脂肪族炭化水素基としては、具体的にはデシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基(セチル基)などの直鎖状のアルキル基が好適に用いられる。
【0027】
b25~Rb28は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表す。
【0028】
炭素原子数1~6の直鎖もしくは分枝状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、イソプロピル基、sec-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、イソペンチル基、t-ペンチル基、ネオペンチル基、イソヘキシル基が挙げられる。
【0029】
中性亜リン酸エステルは、Rb25~Rb28に特定の置換基を有しているため、酸化防止性能に加えて、耐摩耗性にも優れる。これは、Rb25~Rb28に特定の置換基を有していると、摺動部に付着させた工業油組成物の膜がより強固になるためであると考えられる。
【0030】
特に、Rb25およびRb27が炭素原子数1~6、好ましくは1~3の直鎖状のアルキル基であり、Rb26およびRb28が炭素原子数3~6、好ましくは3~4の分枝状のアルキル基であると、耐摩耗性の改善の効果がより高まる。
【0031】
b291およびRb292は、それぞれ独立に、水素原子または炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表す。
【0032】
炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、イソプロピル基、sec-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、イソペンチル基、t-ペンチル基、ネオペンチル基が挙げられる。
【0033】
ただし、Rb291およびRb292の炭素原子数の合計は、1~5である。したがって、たとえばRb291が水素原子のときは、Rb292は炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基であり、Rb291がメチル基のときは、Rb292は炭素原子数1~4の直鎖もしくは分枝状のアルキル基であり、Rb291がエチル基のときは、Rb292は炭素原子数2~3の直鎖もしくは分枝状のアルキル基である。
【0034】
工業油組成物の膜がより強固になるため、Rb291が水素原子であり、Rb292が炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基であることがより好ましい。
【0035】
2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体は、下記式(C)で表される。2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0036】
【化6】
【0037】
式(C)中、Rc1は、炭素原子数1~12の直鎖もしくは分枝状のアルキル基である。炭素原子数1~12の直鎖もしくは分枝状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、イソブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、t-ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、イソヘプチル基、n-オクチル基、イソオクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基が挙げられる。上記アルキル基であると、2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体の相溶性が向上する。
【0038】
実施形態1の工業油組成物において、基油100質量部に対して、中性亜リン酸エステル誘導体は、0.001質量部以上5質量部以下の量で含まれることが好ましい。また、基油100質量部に対して、2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体は、0.001質量部以上5質量部以下の量で含まれることが好ましい。酸化防止剤が上記の量で含まれていると、酸化防止機能をより長期に渡って持続できる。
【0039】
基油100質量%中に、リン酸エステル誘導体が50質量%以下の量で含まれている場合、酸化防止剤として、さらに、ヒンダードアミン化合物を含んでいてもよい。リン酸エステル誘導体が上記の量で含まれていると、ヒンダードアミン化合物は、基油と好適に混合できる。ヒンダードアミン化合物を用いると、工業油組成物の酸化防止機能をさらに向上できる。また、工業油組成物を高温で使用する際にも、酸化防止機能をさらに向上できる。
【0040】
ヒンダードアミン化合物は、下記式(D)で表される。ヒンダードアミン化合物は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0041】
【化7】
【0042】
d21およびRd22は、それぞれ独立に、炭素原子数1~10の脂肪族炭化水素基を表す。
【0043】
炭素原子数1~10の脂肪族炭化水素基は、直鎖、分枝または環状の脂肪族炭化水素基であってもよく、飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基であってもよい。
【0044】
炭素原子数1~10の脂肪族炭化水素基としては、具体的にはメチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、イソプロピル基、sec-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、イソペンチル基、t-ペンチル基、ネオペンチル基、イソヘキシル基、2-エチルヘキシル基などの直鎖もしくは分枝状のアルキル基が好適に用いられる。これらのうちで、耐久性の向上の観点から炭素原子数5~10の直鎖もしくは分枝状のアルキル基がより好ましい。
【0045】
d23は、炭素原子数1~10の2価の脂肪族炭化水素基を表す。
【0046】
炭素原子数1~10の2価の脂肪族炭化水素基としては、メチレン基、1,2-エチレン基、1,3-プロピレン基、1,4-ブチレン基、1,5-ペンチレン基、1,6-ヘキシレン基、1,7-ヘプチレン基、1,8-オクチレン基、1,9-ノニレン基、1,10-デシレン基、3-メチル-1,5-ペンチレン基などの2価の直鎖もしくは分枝状のアルキレン基が好適に用いられる。これらのうちで、耐久性の向上の観点から炭素原子数5~10の2価の直鎖もしくは分枝状のアルキレン基がより好ましい。
【0047】
高温における耐久性の向上の観点から、上記の内でRd21、Rd22およびRd23の炭素原子数の和が16~30であることがより好ましい。
【0048】
実施形態1の工業油組成物において、ヒンダードアミン化合物を用いる場合は、基油100質量部に対して、0.002質量部以上5質量部以下の量で含まれることが好ましい。
【0049】
実施形態1の工業油組成物には、その他の添加剤が含まれていてもよい。その他の添加剤としては、油性剤、摩耗防止剤、極圧剤、金属不活性剤、防錆剤が挙げられる。これらは、工業油組成物について高温での長期の使用を妨げない範囲で含まれていることが好ましい。
【0050】
実施形態1の工業油組成物は、上述した成分を適宜混合して調製することができる。
【0051】
実施形態1の工業油組成物は、金属加工に用いる工業油組成物であっても、機械潤滑に用いる工業油組成物であってもよい。金属加工に用いる工業油組成物としては、たとえば、切削加工油、圧延油、絞り・抽伸油、洗浄油、塑性加工油、打ち抜き油、熱処理油、熱媒体油が挙げられる。機械潤滑に用いる工業油組成物としては、たとえば、タービン油、油圧作動油、軸受油、ギア油、圧縮機油、トラクション油が挙げられる。実施形態1の工業油組成物は、高温で長期に渡って使用できるため、特に、上記用途の中でも、高温下で使用される場合に好適である。たとえば、特に、タービン油、油圧作動油、圧延油として好適に用いられる。
【0052】
<実施形態2の工業油組成物>
実施形態2の工業油組成物は、実施形態1とは、基油が異なる。すなわち、実施形態2の工業油組成物は、基油として鉱油と、酸化防止剤とを含む。
【0053】
鉱油としては、パラフィン系基油、ナフテン系基油が挙げられる。鉱油は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0054】
実施形態2の工業油組成物においても、酸化防止剤は、中性亜リン酸エステル誘導体および2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体を含む。酸化防止剤として上記2種類を組み合わせて用いているため、工業油組成物の使用時に、酸化防止剤の消費を抑制できる。したがって、酸化防止能を長期に渡り持続できる。すなわち、工業油組成物は酸化安定性に優れ、粘度変化も抑制され、長期間使用可能となる。中性亜リン酸エステル誘導体および2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体の詳細については、実施形態1で説明したものと同様である。
【0055】
実施形態2の工業油組成物において、基油100質量部に対して、中性亜リン酸エステル誘導体は、0.001質量部以上5質量部以下の量で含まれることが好ましい。また、基油100質量部に対して、2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体は、0.001質量部以上5質量部以下の量で含まれることが好ましい。酸化防止剤が上記の量で含まれていると、酸化防止機能をより長期に渡って持続できる。
【0056】
酸化防止剤として、さらに、ヒンダードアミン化合物を含んでいてもよい。ヒンダードアミン化合物を用いると、工業油組成物の酸化防止機能をさらに向上できる。ヒンダードアミン化合物は、鉱油と好適に混合できる。ヒンダードアミン化合物の詳細については、実施形態1で説明したものと同様である。
【0057】
実施形態2の工業油組成物において、ヒンダードアミン化合物を用いる場合は、基油100質量部に対して、0.002質量部以上5質量部以下の量で含まれることが好ましい。
【0058】
実施形態2の工業油組成物は、上述した成分を適宜混合して調製することができる。
【0059】
実施形態2の工業油組成物には、その他の添加剤が含まれていてもよい。その他の添加剤の具体例については、実施形態1の工業油組成物で説明したものと同様である。これらは、工業油組成物の長期の使用を妨げない範囲で含まれていることが好ましい。
【0060】
実施形態2の工業油組成物も、金属加工に用いる工業油組成物であっても、機械潤滑に用いる工業油組成物であってもよい。金属加工に用いる工業油組成物および機械潤滑に用いる工業油組成物の具体例については、実施形態1の工業油組成物で説明したものと同様である。実施形態2の工業油組成物は、長期に渡って使用できるため、特に、油圧作動油として好適に用いられる。
【0061】
<その他の実施形態の工業油組成物>
その他の実施形態として、実施形態1、2とは、基油が異なる工業油組成物が挙げられる。たとえば、その他の実施形態の工業油組成物は、実施形態1の工業油組成物で用いるリン酸エステル系基油以外の合成油と、酸化防止剤とを含む。このような合成油としては、パラフィン系炭化水素油、ポリオールエステル油、エーテル油が挙げられる。
【0062】
パラフィン系炭化水素油は、炭素原子数が30以上、好ましくは30~50のα-オレフイン重合体が好ましい。パラフィン系炭化水素油は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。このα-オレフイン重合体としては、たとえば、エチレンおよび炭素原子数3~18のα-オレフイン、好ましくは炭素原子数10~18のα-オレフインから選択される1種の単量体の単重合体、エチレンおよび炭素原子数3~18のα-オレフイン、好ましくは炭素原子数10~18のα-オレフインから選択される少なくとも2種以上の単量体の共重合体が挙げられる。具体的には、1-デセンの3量体、1-ウンデセンの3量体、1-ドデセンの3量体、1-トリデセンの3量体、1-テトラデセンの3量体、1-ヘキセンと1-ペンテンとの共重合体などが挙げられる。また、パラフィン系炭化水素油は、100℃での動粘度が4cSt以上6cSt以下であることが好ましい。
【0063】
ポリオールエステル油は、分子中に水酸基を有しないポリオールエステル油であることが好ましい。ポリオールエステル油は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0064】
このようなポリオールエステル油は、1分子中に少なくとも2個の水酸基を有するポリオールと、1価の酸またはその塩とを、混合モル比((1価の酸またはその塩)/ポリオール)が1以上の条件で反応させて製造できる。この場合、得られるポリオールエステル油は分子中に水酸基を有しない完全エステルである。
【0065】
上記ポリオールとしては、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールが挙げられる。上記1価の酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、ピバル酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸などの飽和脂肪族モノカルボン酸;
ステアリン酸、アクリル酸、クロトン酸、オレイン酸などの不飽和脂肪族モノカルボン酸;
安息香酸、トルイル酸、ナフトエ酸、ケイ皮酸、シクロヘキサンカルボン酸、ニコチン酸、イソニコチン酸、フラン-2-カルボン酸、ピロール-N-カルボン酸、マロン酸モノエチル、フタル酸水素エチルなどの環式カルボン酸などが挙げられる。上記1価の酸の塩としては、上記1価の酸の塩化物などが挙げられる。
【0066】
ポリオールエステル油としては、具体的には、ネオペンチルグリコール-デカン酸/オクタン酸混合エステル、トリメチロールプロパン-吉草酸/ヘプタン酸混合エステル、トリメチロールプロパン-デカン酸/オクタン酸混合エステル、ノナン酸トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール-ヘプタン酸/デカン酸混合エステルなどが挙げられる。
【0067】
エーテル油は、腐食を防止する観点から、分子中に水酸基を有しないエーテル油であることが好ましく、下記式(1)で表されるエーテル油がより好ましい。エーテル油は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0068】
【化8】
【0069】
式(1)中、R1およびR3は、それぞれ独立に炭素原子数1~18のアルキル基または炭素原子数6~18の1価の芳香族炭化水素基を表す。R2は炭素原子数1~18のアルキレン基または炭素原子数6~18の2価の芳香族炭化水素基を表す。nは1~5の整数である。
【0070】
炭素原子数1~18のアルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、tert-ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基などが挙げられる。炭素原子数6~18の1価の芳香族炭化水素基としては、具体的には、フェニル基、トリル基、キシリル基、ベンジル基、フェネチル基、1-フェニルエチル基、1-メチル-1-フェニルエチル基などが挙げられる。
【0071】
炭素原子数1~18のアルキレン基としては、具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基などが挙げられる。炭素原子数6~18の2価の芳香族炭化水素基としては、具体的には、フェニレン基、1,2-ナフチレン基などが挙げられる。
【0072】
その他の実施形態の工業油組成物においても、酸化防止剤は、中性亜リン酸エステル誘導体および2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体を含む。酸化防止剤として上記2種類を組み合わせて用いるため、工業油組成物は安定化され、粘度変化も抑制され、長期間使用可能となる。中性亜リン酸エステル誘導体および2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体の詳細については、実施形態1で説明したものと同様である。なお、その他の実施形態の工業油組成物において、中性亜リン酸エステル誘導体および2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体の好ましい量およびその理由も、実施形態1の場合と同様である。
【0073】
その他の実施形態の工業油組成物においても、酸化防止剤として、さらに、ヒンダードアミン化合物を含んでいてもよい。ヒンダードアミン化合物を用いると、工業油組成物の酸化防止機能をさらに向上できる。ヒンダードアミン化合物の詳細については、実施形態1で説明したものと同様である。なお、その他の実施形態の工業油組成物において、ヒンダードアミン化合物の好ましい量も、実施形態1の場合と同様である。
【0074】
その他の実施形態の工業油組成物にも、その他の添加剤が含まれていてもよい。その他の添加剤の具体例については、実施形態1の工業油組成物で説明したものと同様である。これらは、工業油組成物の長期の使用を妨げない範囲で含まれていることが好ましい。
【0075】
その他の実施形態の工業油組成物も、金属加工に用いる工業油組成物であっても、機械潤滑に用いる工業油組成物であってもよい。金属加工に用いる工業油組成物および機械潤滑に用いる工業油組成物の具体例については、実施形態1の工業油組成物で説明したものと同様である。
【0076】
以上より、本発明は以下に関する。
〔1〕 基油として鉱油または合成油と、酸化防止剤として下記式(B)で表される中性亜リン酸エステル誘導体および下記式(C)で表される2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体とを含む、工業油組成物。
【0077】
【化9】
【0078】
(上記式(B)中、Rb21~Rb24は、それぞれ独立に、炭素原子数10~16の脂肪族炭化水素基を表し、Rb25~Rb28は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、Rb291およびRb292は、それぞれ独立に、水素原子または炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、Rb291およびRb292の炭素原子数の合計は、1~5である。)
【0079】
【化10】
【0080】
(上記式(C)中、Rc1は、炭素原子数1~12の直鎖もしくは分枝状のアルキル基である。)
上記〔1〕の工業油組成物は、長寿命であり、長期間使用可能である。
〔2〕 上記基油が合成油であり、上記合成油は、リン酸エステル誘導体と、リン酸トリス(イソプロピルフェニル)と、りん酸トリフェニルとを含み、上記リン酸エステル誘導体は、下記式(A1)で表される繰り返し単位を有し、一方の末端に、下記式(A2)で表される構造を有し、他方の末端に、下記式(A3)で表される構造を有し、40℃の動粘度が100cSt以上200cSt以下である、〔1〕に記載の工業油組成物。
【0081】
【化11】
【0082】
【化12】
【0083】
上記〔2〕の工業油組成物は、高温においても長期間に渡って使用できる。
〔3〕 上記合成油の合計を100質量%としたときに、上記リン酸エステル誘導体が50質量%以下の量で含まれており、上記酸化防止剤として、さらに、下記式(D)で表されるヒンダードアミン化合物を含む、〔2〕に記載の工業油組成物。
【0084】
【化13】
【0085】
(上記式(D)中、Rd21およびRd22は、それぞれ独立に、炭素原子数1~10の脂肪族炭化水素基を表し、Rd23は、炭素原子数1~10の2価の脂肪族炭化水素基を表す。)
上記〔3〕の工業油組成物は、高温で使用する際にも、酸化防止機能がさらに向上されている。
〔4〕 上記基油が鉱油であり、上記酸化防止剤として、さらに、下記式(D)で表されるヒンダードアミン化合物を含む、〔1〕に記載の工業油組成物。
【0086】
【化14】
【0087】
(上記式(D)中、Rd21およびRd22は、それぞれ独立に、炭素原子数1~10の脂肪族炭化水素基を表し、Rd23は、炭素原子数1~10の2価の脂肪族炭化水素基を表す。)
上記〔4〕の工業油組成物は、酸化防止機能がさらに向上されている。
【0088】
[実施例]
以下実施例に基づいて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0089】
[実施例1-1-1]
リン酸エステル誘導体(第1成分、CAS 125997-21-9、商品名:アデカスタブ(登録商標)PFR、株式会社ADEKA製、40℃の動粘度(JIS K 2283)147.3cSt)を60質量%と、リン酸トリス(イソプロピルフェニル)(第2成分、CAS 68937-41-7)およびりん酸トリフェニル(第3成分、CAS 115-86-6)の混合物(商品名:レオフォス35、味の素ファインテクノ株式会社製、混合物中に第2成分が41質量%含まれる。40℃の動粘度(JIS K 2283)21cSt、引火点(JIS K 2265-4:2007)256℃、燃焼点320℃、発火点なし)を40質量%とを含む合成油を基油として用いた。
この合成油100質量部に対して、中性亜リン酸エステル誘導体として4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニル ジトリデシルフォスファイト)0.1質量部と、2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体としてオクチル=3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパノアート(CAS 125643-61-0、商品名:イルガノックス(登録商標)L135、BASFジャパン株式会社製)0.1質量部とを混合して、工業油組成物を得た。
【0090】
[実施例1-1-2]
リン酸トリス(イソプロピルフェニル)およびりん酸トリフェニルの混合物(商品名:レオフォス35、味の素ファインテクノ株式会社製)の代わりに、リン酸トリス(イソプロピルフェニル)(第2成分、CAS 68937-41-7)およびりん酸トリフェニル(第3成分、CAS 115-86-6)の混合物(商品名:レオフォス65、味の素ファインテクノ株式会社製、混合物中に第2成分が24質量%含まれる。40℃の動粘度(JIS K 2283)26cSt)を用いた以外は、実施例1-1-1と同様にして、工業油組成物を得た。
【0091】
[実施例1-1-3~1-1-8]
中性亜リン酸エステル誘導体として4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニル ジトリデシルフォスファイト)(Rb21~Rb24=トリデシル基、Rb25、Rb27=メチル基、Rb26、Rb28=t-ブチル基、Rb291=水素原子、Rb292=n-プロピル基)の代わりに、表1の化合物を用いた以外は、実施例1-1-1と同様にして、工業油組成物を得た。
【0092】
【表1】
【0093】
[実施例1-1-9]
合成油100質量部に対して、中性亜リン酸エステル誘導体を0.1質量部の量で用いる代わりに、中性亜リン酸エステル誘導体を0.001質量部の量で用いた以外は、実施例1-1-1と同様にして、工業油組成物を得た。
【0094】
[実施例1-1-10]
合成油100質量部に対して、中性亜リン酸エステル誘導体を0.1質量部の量で用いる代わりに、中性亜リン酸エステル誘導体を5質量部の量で用いた以外は、実施例1-1-1と同様にして、工業油組成物を得た。
【0095】
[実施例1-1-11]
合成油100質量部に対して、2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体を0.1質量部の量で用いる代わりに、2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体を0.001質量部の量で用いた以外は、実施例1-1-1と同様にして、工業油組成物を得た。
【0096】
[実施例1-1-12]
合成油100質量部に対して、2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体を0.1質量部の量で用いる代わりに、2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体を5質量部の量で用いた以外は、実施例1-1-1と同様にして、工業油組成物を得た。
【0097】
[実施例1-2-1]
リン酸エステル誘導体(第1成分、CAS 125997-21-9、商品名:アデカスタブ(登録商標)PFR、株式会社ADEKA製、40℃の動粘度(JIS K 2283)147.3cSt)を50質量%と、リン酸トリス(イソプロピルフェニル)(第2成分、CAS 68937-41-7)およびりん酸トリフェニル(第3成分、CAS 115-86-6)の混合物(商品名:レオフォス35、味の素ファインテクノ株式会社製、混合物中に第2成分が41質量%含まれる。40℃の動粘度(JIS K 2283)21cSt、引火点(JIS K 2265-4:2007)256℃、燃焼点320℃、発火点なし)を50質量%とを含む合成油を基油として用いた。
この合成油100質量部に対して、中性亜リン酸エステル誘導体として4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニル ジトリデシルフォスファイト)0.1質量部と、2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体としてオクチル=3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパノアート(CAS 125643-61-0、商品名:イルガノックス(登録商標)L135、BASFジャパン株式会社製)0.1質量部と、ヒンダードアミン化合物としてデカン二酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1-(オクチルオキシ)ピペリジン-4-イル)0.1質量部とを混合して、工業油組成物を得た。
【0098】
[実施例1-2-2]
リン酸トリス(イソプロピルフェニル)およびりん酸トリフェニルの混合物(商品名:レオフォス35、味の素ファインテクノ株式会社製)の代わりに、リン酸トリス(イソプロピルフェニル)(第2成分、CAS 68937-41-7)およびりん酸トリフェニル(第3成分、CAS 115-86-6)の混合物(商品名:レオフォス65、味の素ファインテクノ株式会社製、混合物中に第2成分が24質量%含まれる。40℃の動粘度(JIS K 2283)26cSt)を用いた以外は、実施例1-2-1と同様にして、工業油組成物を得た。
【0099】
[実施例1-2-3~1-2-8]
中性亜リン酸エステル誘導体として4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニル ジトリデシルフォスファイト)(Rb21~Rb24=トリデシル基、Rb25、Rb27=メチル基、Rb26、Rb28=t-ブチル基、Rb291=水素原子、Rb292=n-プロピル基)の代わりに、表2の化合物を用いた以外は、実施例1-2-1と同様にして、工業油組成物を得た。
【0100】
【表2】
【0101】
[実施例1-2-9]
合成油100質量部に対して、中性亜リン酸エステル誘導体を0.1質量部の量で用いる代わりに、中性亜リン酸エステル誘導体を0.001質量部の量で用いた以外は、実施例1-2-1と同様にして、工業油組成物を得た。
【0102】
[実施例1-2-10]
合成油100質量部に対して、中性亜リン酸エステル誘導体を0.1質量部の量で用いる代わりに、中性亜リン酸エステル誘導体を5質量部の量で用いた以外は、実施例1-2-1と同様にして、工業油組成物を得た。
【0103】
[実施例1-2-11]
合成油100質量部に対して、2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体を0.1質量部の量で用いる代わりに、2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体を0.001質量部の量で用いた以外は、実施例1-2-1と同様にして、工業油組成物を得た。
【0104】
[実施例1-2-12]
合成油100質量部に対して、2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体を0.1質量部の量で用いる代わりに、2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体を5質量部の量で用いた以外は、実施例1-2-1と同様にして、工業油組成物を得た。
【0105】
[実施例1-2-13~1-2-18]
ヒンダードアミン化合物としてデカン二酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1-(オクチルオキシ)ピペリジン-4-イル)(Rd21、Rd22=n-オクチル基、Rd23=1,8-オクチレン基)の代わりに、表3の化合物を用いた以外は、実施例1-2-1と同様にして、工業油組成物を得た。
【0106】
【表3】
【0107】
[実施例1-2-19]
合成油100質量部に対して、ヒンダードアミン化合物を0.1質量部の量で用いる代わりに、ヒンダードアミン化合物を0.002質量部の量で用いた以外は、実施例1-2-1と同様にして、工業油組成物を得た。
【0108】
[実施例1-2-20]
合成油100質量部に対して、ヒンダードアミン化合物を0.1質量部の量で用いる代わりに、ヒンダードアミン化合物を5質量部の量で用いた以外は、実施例1-2-1と同様にして、工業油組成物を得た。
【0109】
[実施例2-1-1]
鉱油(商品名:350NEUTRAL、ENEOS株式会社製)100質量部に対して、中性亜リン酸エステル誘導体として4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニル ジトリデシルフォスファイト)0.1質量部と、2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体としてオクチル=3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパノアート(CAS 125643-61-0、商品名:イルガノックス(登録商標)L135、BASFジャパン株式会社製)0.1質量部とを混合して、工業油組成物を得た。
【0110】
[実施例2-1-2]
鉱油100質量部に対して、中性亜リン酸エステル誘導体を0.1質量部の量で用いる代わりに、中性亜リン酸エステル誘導体を0.001質量部の量で用いた以外は、実施例2-1-1と同様にして、工業油組成物を得た。
【0111】
[実施例2-1-3]
鉱油100質量部に対して、中性亜リン酸エステル誘導体を0.1質量部の量で用いる代わりに、中性亜リン酸エステル誘導体を5質量部の量で用いた以外は、実施例2-1-1と同様にして、工業油組成物を得た。
【0112】
[実施例2-1-4]
鉱油100質量部に対して、2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体を0.1質量部の量で用いる代わりに、2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体を0.001質量部の量で用いた以外は、実施例2-1-1と同様にして、工業油組成物を得た。
【0113】
[実施例2-1-5]
鉱油100質量部に対して、2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体を0.1質量部の量で用いる代わりに、2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体を5質量部の量で用いた以外は、実施例2-1-1と同様にして、工業油組成物を得た。
【0114】
[実施例2-2-1]
鉱油(商品名:350NEUTRAL、ENEOS株式会社製)100質量部に対して、中性亜リン酸エステル誘導体として4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニル ジトリデシルフォスファイト)0.1質量部と、2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体としてオクチル=3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパノアート(CAS 125643-61-0、商品名:イルガノックス(登録商標)L135、BASFジャパン株式会社製)0.1質量部と、ヒンダードアミン化合物としてデカン二酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1-(オクチルオキシ)ピペリジン-4-イル)0.1質量部とを混合して、工業油組成物を得た。
【0115】
[実施例2-2-2]
鉱油100質量部に対して、中性亜リン酸エステル誘導体を0.1質量部の量で用いる代わりに、中性亜リン酸エステル誘導体を0.001質量部の量で用いた以外は、実施例2-2-1と同様にして、工業油組成物を得た。
【0116】
[実施例2-2-3]
鉱油100質量部に対して、中性亜リン酸エステル誘導体を0.1質量部の量で用いる代わりに、中性亜リン酸エステル誘導体を5質量部の量で用いた以外は、実施例2-2-1と同様にして、工業油組成物を得た。
【0117】
[実施例2-2-4]
鉱油100質量部に対して、2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体を0.1質量部の量で用いる代わりに、2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体を0.001質量部の量で用いた以外は、実施例2-2-1と同様にして、工業油組成物を得た。
【0118】
[実施例2-2-5]
鉱油100質量部に対して、2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体を0.1質量部の量で用いる代わりに、2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体を5質量部の量で用いた以外は、実施例2-2-1と同様にして、工業油組成物を得た。
【0119】
[実施例2-2-6]
鉱油100質量部に対して、ヒンダードアミン化合物を0.1質量部の量で用いる代わりに、ヒンダードアミン化合物を0.002質量部の量で用いた以外は、実施例2-2-1と同様にして、工業油組成物を得た。
【0120】
[実施例2-2-7]
鉱油100質量部に対して、ヒンダードアミン化合物を0.1質量部の量で用いる代わりに、ヒンダードアミン化合物を5質量部の量で用いた以外は、実施例2-2-1と同様にして、工業油組成物を得た。
【0121】
[評価方法および評価結果]
まず、円柱状のディスク(直径30mm、厚さ5mm、SUJ2製)を2枚用意した。一方のディスクの底面に実施例で得られた工業油組成物を塗布し、塗布した工業油組成物の上に他方のディスクの底面を重ね合わせた。容器中の80℃に加熱した実施例で得られた工業油組成物に、重ね合わせた2枚のディスクを、底面が地面と垂直となる方向に浸漬した。次いで、一方のディスクに対して、他方のディスクを150kgの圧力をかけて押しつけながら、一方のディスクを1000rpmで3時間または6時間回転させた。このようにして、3時間または6時間の熱履歴を受けた工業油組成物を作製した。
次いで、3時間または6時間の熱履歴を受けた工業油組成物について、振り子式摩擦試験を行い、摩擦係数を求めた。具体的には、3時間または6時間回転後のディスク間に存在する工業油組成物とともに容器中の工業油組成物を合わせて振り子式摩擦試験に用いた。また、作製したままの状態(熱履歴なしの状態)にある実施例で得られた工業油組成物についても、同様に、摩擦係数を求めた。
表4に結果を示す。
【0122】
【表4-1】
【0123】
【表4-2】
【0124】
【表4-3】
【0125】
実施例の工業油組成物は、長時間の熱履歴後も、摩擦係数が小さく抑えられており、長期間使用可能であることが分かる。また、ヒンダードアミン化合物を用いると、長時間の熱履歴後も、摩擦係数がより小さく抑えられており、より長期間使用可能であることが分かる。また、リン酸エステル誘導体等を含む合成油を用いると、長時間の熱履歴後も、摩擦係数がさらに小さく抑えられており、高温においても長期間使用可能であることが分かる。