(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】クラッド材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 15/01 20060101AFI20221227BHJP
B23K 20/04 20060101ALI20221227BHJP
C22C 23/00 20060101ALN20221227BHJP
C22C 9/00 20060101ALN20221227BHJP
【FI】
B32B15/01 G
B23K20/04 Z
C22C23/00
C22C9/00
(21)【出願番号】P 2018054159
(22)【出願日】2018-03-22
【審査請求日】2020-12-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】長沼 靖雄
(72)【発明者】
【氏名】木村 浩一
(72)【発明者】
【氏名】柏川 貴弘
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特許第6135835(JP,B1)
【文献】国際公開第2017/115661(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B23K 20/00-20/26
C22C 23/00
C22C 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム又はマグネシウム合金からなるマグネシウム層と、
前記マグネシウム層を厚み方向において両側から挟む、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる第1のアルミニウム層、及びアルミニウム又はアルミニウム合金からなる第2のアルミニウム層と、
前記マグネシウム層と前記第1のアルミニウム層との間に配された、銅又は銅合金からなる第1の銅層と、
前記マグネシウム層と前記第2のアルミニウム層との間に配された、銅又は銅合金からなる第2の銅層と、
を有するクラッド材
の製造方法であって、
前記第1のアルミニウム層に対応する第1のアルミニウム材と、前記第1の銅層に対応する第1の銅材と、前記マグネシウム層に対応するマグネシウム材と、前記第2の銅層に対応する第2の銅材と、前記第2のアルミニウム層に対応する第2のアルミニウム材とを積層し、圧延することと、
前記第1の銅材、及び前記第2の銅材が、厚み方向に貫通孔を有さず、
前記圧延の際に、前記第1の銅材、及び前記第2の銅材を引き伸ばすことにより、前記第1の銅層、及び前記第2の銅層に貫通孔を形成することを含み、
前記第1の銅層、及び前記第2の銅層が、厚み方向に貫通した貫通孔を有し、前記第1の銅層及び前記第2の銅層において前記貫通孔による開孔率が、いずれも30%以上50%以下であり、
前記開孔率が、断面観察による開孔率であり、
前記マグネシウム層の平均厚みが、100μm以上1,000μm以下であり、
前記第1のアルミニウム層の平均厚みが、10μm以上200μm以下であり、
前記第2のアルミニウム層の平均厚みが、10μm以上200μm以下であり、
前記第1の銅層の平均厚みが、4μm以上8μm以下であり、
前記第2の銅層の平均厚みが、4μm以上8μm以下である、ことを特徴とするクラッド材
の製造方法。
【請求項2】
前記マグネシウム層の平均厚みが、前記第1のアルミニウム層の平均厚みより厚く、
前記マグネシウム層の平均厚みが、前記第2のアルミニウム層の平均厚みより厚く、
前記第1のアルミニウム層の平均厚みが、前記第1の銅層の平均厚みよりも厚く、
前記第2のアルミニウム層の平均厚みが、前記第2の銅層の平均厚みよりも厚い、
請求項1に記載のクラッド材
の製造方法。
【請求項3】
前記マグネシウム層の平均厚みが、200μm以上800μm以下であり、
前記第1のアルミニウム層の平均厚みが、30μm以上180μm以下であり、
前記第2のアルミニウム層の平均厚みが、30μm以上180μm以下である、
請求項1から2のいずれかに記載のクラッド材
の製造方法。
【請求項4】
前記マグネシウム層の材質が、前記マグネシウム合金であり、
前記第1のアルミニウム層の材質が、前記アルミニウム合金であり、
前記第2のアルミニウム層の材質が、前記アルミニウム合金であり、
前記第1の銅層の材質が、前記銅であり、
前記第2の銅層の材質が、前記銅である、
請求項1から3のいずれかに記載のクラッド材
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッド材、及びその製造方法、並びに電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
ノートパソコン等の電子機器の筐体内部には、機械駆動部や電源等の内部部品が配置されている。このような電子機器は、外部から受ける衝撃や圧力等から内部部品を保護する必要があるため、筐体には機械的強度が要求される。そのような筐体には、金属筐体として、鉄、アルミニウム合金のプレス加工品や切削加工品が多く用いられてきた。
【0003】
電子機器の用途及び使用場所が多様化することにより、電子機器は持ち運ぶことが想定されるようになってきた。このような電子機器の筐体には、機械的強度に加えて、軽さも要求されるようになってきた。この要求に応えるために、軽量かつ高剛性であるマグネシウム合金をプレス加工したものが使用されるようになってきた。
【0004】
プレス加工用のマグネシウム合金としては、マグネシウムにアルミニウムを3%、亜鉛を1%添加したAZ31B合金が上市されている。また、リチウムを含有するマグネシウム合金が提案されている。
しかし、これらの材料は、鉄、又はアルミニウム合金と比較すると、非常に活性なため、耐食性に劣ることが問題であった。
【0005】
マグネシウム又はマグネシウム合金の耐食性を改良する技術として、マグネシウム又はマグネシウム合金をアルミニウム又はアルミニウム合金と接合したクラッド材が知られている。しかし、このクラッド材の場合、接合界面において、MgとAlとの金属間化合物が生成し、層間密着性を低下させるという問題がある。
【0006】
そこで、マグネシウムまたはその合金とアルミニウムまたはその合金からなるクラッド材において、接合界面の中間層として銀もしくは銅またはその合金を用いる技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1で提案された技術では、電食が生じやすいという問題がある。
【0009】
本発明は、層間密着性に優れつつ、電食が生じにくいクラッド材、及びその製造方法、並びに前記クラッド材を用いた電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
1つの態様では、クラッド材は、
マグネシウム又はマグネシウム合金からなるマグネシウム層と、
前記マグネシウム層を厚み方向において両側から挟む、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる第1のアルミニウム層、及びアルミニウム又はアルミニウム合金からなる第2のアルミニウム層と、
前記マグネシウム層と前記第1のアルミニウム層との間に配された、銅又は銅合金からなる第1の銅層と、
前記マグネシウム層と前記第2のアルミニウム層との間に配された、銅又は銅合金からなる第2の銅層と、
を有するクラッド材であって、
前記第1の銅層、及び前記第2の銅層が、厚み方向に貫通した貫通孔を有する。
【0011】
また、1つの態様では、クラッド材の製造方法は、
開示のクラッド材を製造するクラッド材の製造方法であって、
前記第1のアルミニウム層に対応する第1のアルミニウム材と、前記第1の銅層に対応する第1の銅材と、前記マグネシウム層に対応するマグネシウム材と、前記第2の銅層に対応する第2の銅材と、前記第2のアルミニウム層に対応する第2のアルミニウム材とを積層し、圧延すること含む。
【0012】
また、1つの態様では、電子機器は、開示の前記クラッド材を有する。
【発明の効果】
【0013】
1つの側面として、層間密着性に優れつつ、電食が生じにくいクラッド材を提供できる。
また、1つの側面として、層間密着性に優れつつ、電食が生じにくいクラッド材の製造方法を提供できる。
また、1つの側面として、層間密着性に優れつつ、電食が生じにくいクラッド材を用いた電子機器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1A】
図1Aは、従来のAl/Mg/Alタイプのクラッド材の一例の断面模式図である。
【
図1B】
図1Bは、従来のAl/Mg/Alタイプのクラッド材の断面写真の一例である。
【
図2A】
図2Aは、従来のAl/Cu/Mg/Cu/Alタイプのクラッド材の一例の断面模式図である。
【
図2B】
図2Bは、従来のAl/Cu/Mg/Cu/Alタイプのクラッド材の温湿度サイクル後の断面写真の一例である。
【
図3A】
図3Aは、開示のAl/Cu/Mg/Cu/Alタイプのクラッド材の一例の断面模式図である。
【
図3B】
図3Bは、開示のAl/Cu/Mg/Cu/Alタイプのクラッド材の銅層の一例の上面図である。
【
図4A】
図4Aは、開示のAl/Cu/Mg/Cu/Alタイプのクラッド材の温湿度サイクル後の断面写真の一例である。
【
図5A】
図5Aは、開示のAl/Cu/Mg/Cu/Alタイプのクラッド材の温湿度サイクル後の断面写真の他の一例である。
【
図6】
図6は、開示のクラッド材の製造方法の一例を説明するための模式図である。
【
図7】
図7は、開示の電子機器の一例としてのノート型パソコンの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(クラッド材)
開示のクラッド材は、マグネシウム層と、第1のアルミニウム層と、第2のアルミニウム層と、第1の銅層と、第2の銅層とを少なくとも有し、更に必要に応じて、その他の部材を有する。
前記クラッド材は、通常、板状である。ただし、後述する電子機器などに使用される際は、加工されて所定の形状となる。
【0016】
マグネシウム又はマグネシウム合金をアルミニウム又はアルミニウム合金と接合したクラッド材においては、接合界面において、MgとAlとの金属間化合物が生成し、層間密着性を低下させるという問題がある。層間密着性の低下による剥がれは、主に、プレス成型時に生じやすく、脆い金属間化合物にクラックが生じるためと考えられる。
【0017】
マグネシウム又はマグネシウム合金に、アルミニウム又はアルミニウム合金をクラッドしたクラッド材に、銅又は銅合金を中間層として配する。そうすると、MgとAlとの金属間化合物の生成が抑制され、プレス成型時に剥がれが生じやすくなるという問題は解消される。
【0018】
しかし、本発明者らは、前記中間層に銅又は銅合金を用いると、銅が、アルミニウムやマグネシウムよりも電位的に貴であるために、電食が生じやすいをこと見出した。より具体的には、マグネシウムが中間層中に移動するマイグレーションが起こる。そうすると、経時で剥がれやすくなる。
【0019】
そこで、本発明者らは、層間密着性に優れつつ、電食が生じにくいクラッド材を提供するために鋭意検討を行った。その結果、前記中間層に、厚み方向に貫通した貫通孔を設けることにより、層間密着性を低下させずに電食を防ぐことができることを見出し、開示の技術の完成に至った。
【0020】
<マグネシウム層>
前記マグネシウム層は、マグネシウム又はマグネシウム合金からなる。
前記マグネシウム層は、その材質が、マグネシウム自体であってもよいし、マグネシウム合金自体であってもよい。
【0021】
<<マグネシウム合金>>
前記マグネシウム合金としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、マグネシウムを少なくとも含有し、更に必要に応じて、アルミニウム、亜鉛、リチウムなどのその他の成分を含有する。
【0022】
-マグネシウム-
前記マグネシウム合金において、前記マグネシウムは、主成分である。
前記マグネシウム合金における前記マグネシウムの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、80質量%以上であってもよいし、85質量%以上であってもよい。
【0023】
-アルミニウム-
前記アルミニウムは、前記マグネシウム合金の強度向上に寄与する。
前記マグネシウム合金における前記アルミニウムの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.1質量%以上10質量%以下が好ましい。前記含有量が、10質量%を超えても、強度向上の効果は変わらない。
【0024】
-亜鉛-
前記亜鉛は、前記マグネシウム合金の強度向上に寄与する。
前記マグネシウム合金における前記亜鉛の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.1質量%以上4質量%以下が好ましく、0.2質量%以上2質量%以下がより好ましく、0.5質量%以上1.5質量%以下が特に好ましい。前記含有量が、4質量%以下であると、脆化を起こさずに強度を向上させることができる。
【0025】
-リチウム-
前記リチウムは、前記マグネシウム合金の軽量化に寄与する。
前記マグネシウム合金における前記リチウムの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、6質量%以上16質量%以下が好ましく、7質量%以上11質量%以下がより好ましく、8質量%以上10質量%以下が特に好ましい。前記含有量が、16質量%以下であると、耐食性を低下させずに軽量化することができる。
【0026】
前記マグネシウム合金としては、例えば、Mg-Al-Zn系のAZ31、AZ61、AZ91、AZ91Dなどが挙げられる。
【0027】
前記マグネシウム層の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、100μm以上1,000μm以下が好ましく、200μm以上800μm以下がより好ましく、300μm以上600μm以下が特に好ましい。
【0028】
開示の技術における平均厚みとは、例えば、任意の50箇所で測定した厚みの算術平均値である。前記厚みは、例えば、電子顕微鏡又は光学顕微鏡による断面観察により測定することができる。
【0029】
<第1のアルミニウム層、及び第2のアルミニウム層>
前記第1のアルミニウム層は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる。
前記第2のアルミニウム層は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる。
前記クラッド材において、前記第1のアルミニウム層及び前記第2のアルミニウム層は、前記マグネシウム層を厚み方向において両側から挟んでいる。
【0030】
前記第1のアルミニウム層は、その材質が、アルミニウム自体であってもよいし、アルミニウム合金自体であってもよい。
前記第2のアルミニウム層は、その材質が、アルミニウム自体であってもよいし、アルミニウム合金自体であってもよい。
前記第1のアルミニウム層と前記第2のアルミニウム層とは、同じ材質であることが好ましい。
【0031】
<<アルミニウム合金>>
前記アルミニウム合金としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Al-Cu系のA2017、A2024、Al-Mn系のA3003、A3004、Al-Si系のA4032、Al-Mg系のA5005、A5052、A5083、Al-Mg-Si系のA6061、A6063、Al-Zn系のA7075などが挙げられる。
【0032】
前記第1のアルミニウム層の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10μm以上200μm以下が好ましく、30μm以上180μm以下がより好ましく、50μm以上150μmが特に好ましい。
前記第2のアルミニウム層の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10μm以上200μm以下が好ましく、30μm以上180μm以下がより好ましく、50μm以上150μmが特に好ましい。
【0033】
前記第1のアルミニウム層の平均厚みと前記第2のアルミニウム層の平均厚みとは、同じ平均厚みであることが、クラッド材に反りが生じにくい点で好ましい。ここで、同じ平均厚みとは、全く同じ平均厚みではなくてもよく、反りが生じない範囲であればよく、例えば、10%以下の違いがあってもよいし、20%以下の違いがあってもよい。
【0034】
<第1の銅層、及び第2の銅層>
前記第1の銅層は、銅又は銅合金からなるからなる。
前記第2の銅層は、銅又は銅合金からなるからなる。
前記第1の銅層、及び前記第2の銅層は、前記クラッド材の厚み方向に貫通した貫通孔を有する。
前記第1の銅層と前記第2の銅層とは、同じ材質であることが好ましい。
【0035】
<<貫通孔>>
前記第1の銅層における前記貫通孔の形状、大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記第2の銅層における前記貫通孔の形状、大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記第1の銅層の前記貫通孔による開孔率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、層間密着性の良さと、電食の生じくさとの両立がより優れる点で、10%以上90%以下が好ましく、20%以上80%以下がより好ましく、30%以上60%以下が特に好ましい。
前記第2の銅層の前記貫通孔による開孔率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、層間密着性の良さと、電食の生じくさとの両立がより優れる点で、10%以上90%以下が好ましく、20%以上80%以下がより好ましく、30%以上60%以下が特に好ましい。
ここで、前記開孔率とは、銅層(第1の銅層又は第2の銅層)を上面視した際の前記銅層の一定の面積(S0)に対する、前記一定の面積内の前記貫通孔の開口部の面積の総和(S1)の割合〔S1/S0〕を意味する。
前記開孔率、例えば、前記クラッド材の断面観察を複数の箇所で行って貫通孔の形成状態を測定することで求めることができる。
【0036】
<<銅合金>>
前記銅合金としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、銅に鉛(Pb)、鉄(Fe)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)、アルミニウム、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、シリコン(Si)、リン(P)のうち選ばれた数種を0.1~10mass%添加した合金の利用が可能である。
また、前記銅合金は、いわゆる、りん青銅、黄銅、アルミナ分散強化銅(DSCu)、クロム・ジルコニウム銅、ベリリウム銅(C17510, C17500等)などであってもよい。
【0037】
前記第1の銅の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1μm以上50μm以下が好ましく、2μm以上40μm以下がより好ましく、5μm以上20μm以下が特に好ましい。
前記第2の銅の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1μm以上50μm以下が好ましく、2μm以上40μm以下がより好ましく、5μm以上20μm以下が特に好ましい。
なお、銅層の平均厚みは、銅が存在している箇所の厚みの算術平均値であり、貫通孔については厚みの測定対象からは除かれる。
【0038】
前記第1の銅層の平均厚みと前記第2の銅層の平均厚みとは、同じ平均厚みであることが、クラッド材に反りが生じにくい点で好ましい。ここで、同じ平均厚みとは、全く同じ平均厚みではなくてもよく、反りが生じない範囲であればよく、例えば、10%以下の違いがあってもよいし、20%以下の違いがあってもよい。
【0039】
前記マグネシウム層の平均厚みは、前記第1のアルミニウム層の平均厚みより厚いことが好ましい。
前記マグネシウム層の平均厚みは、前記第2のアルミニウム層の平均厚みより厚いことが好ましい。
前記第1のアルミニウム層の平均厚みは、前記第1の銅層の平均厚みよりも厚いことが好ましい。
前記第2のアルミニウム層の平均厚みは、前記第2の銅層の平均厚みよりも厚いことが好ましい。
【0040】
前記クラッド材の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、120μm以上1,500μm以下が好ましく、200μm以上1,000μm以下がより好ましく、300μm以上900μmが特に好ましい。
【0041】
ここで、
図1A~
図1Cを用いて、マグネシウム合金とアルミニウム合金との従来のクラッドについて、説明する。
図1Aは、Al(アルミニウム合金)/Mg(マグネシウム合金)/Al(アルミニウム合金)タイプのクラッドの断面模式図である。このクラッドは、マグネシウム合金からなるマグネシウム層1を、アルミニウム合金からなる2層のアルミニウム層2A、2Bが厚み方向の両側から挟んでいる。そして、マグネシウム層1とアルミニウム層2Aとは全面において直接接しており、マグネシウム層1とアルミニウム層2Bとは全面において直接接している。
このようなクラッドでは、マグネシウム層1とアルミニウム層2Aとの界面、及びマグネシウム層1とアルミニウム層2Bとの界面には、
図1Cに示すような脆い金属間化合物10が形成される。
このようなクラッドについて絞り加工を行うと、
図1Bに示すような曲がった箇所では、
図1Cに示すように、金属間化合物10が破断した破断箇所10Aが生じる。その結果、層間密着性が低下する。
【0042】
次に、
図2A~
図2Cを用いて、マグネシウム合金とアルミニウム合金との間に銅を設けた従来のクラッドについて、説明する。
図2Aは、Al(アルミニウム合金)/Cu(銅)/Mg(マグネシウム合金)/Cu(銅)/Al(アルミニウム合金)タイプのクラッドの断面模式図である。このクラッドは、マグネシウム合金からなるマグネシウム層1を、アルミニウム合金からなる2層のアルミニウム層2A、2Bが厚み方向の両側から挟んでいる。更に、マグネシウム層1とアルミニウム層2Aとの間に銅層3Aが配され、マグネシウム層1とアルミニウム層2Bとの間に銅層3Bが配されている。そして、マグネシウム層1とアルミニウム層2Aとは全面において接しておらず、マグネシウム層1とアルミニウム層2Bとは全面において接していない。
このようなクラッドでは、マグネシウム層1とアルミニウム層2Aとの界面、及びマグネシウム層1とアルミニウム層2Bとの界面には、
図1Cに示すような脆い金属間化合物10は形成されない。しかし、マグネシウムとアルミニウムとの間にマグネシウム及びアルミニウムよりも貴である銅が配されているため、MIL STD-106D-202Eによる温湿度サイクル(-10℃~65℃、98%RHと、常温常湿との間を2から3時間おきに往復させることを10日間繰り返す)を行うと、電食が生じる。そして、
図2B及び
図2Cに示すように、銅層3Aにマグネシウム1aがマイグレーションにより移動してきてしまう。このような状態が続くと、経時で層間密着性が低下して、剥がれやすくなってしまう。
【0043】
ここで、開示のクラッド材の一例を図を用いて説明する。
図3Aは、開示のクラッド材の一例の断面模式図である。
図3Aのクラッド材は、Al(アルミニウム合金)/Cu(銅)/Mg(マグネシウム合金)/Cu(銅)/Al(アルミニウム合金)タイプのクラッド材である。このクラッドは、マグネシウム合金からなるマグネシウム層1を、アルミニウム合金からなる2層のアルミニウム層2A、2Bが厚み方向の両側から挟んでいる。更に、マグネシウム層1とアルミニウム層2Aとの間に銅層3Aが配され、マグネシウム層1とアルミニウム層2Bとの間に銅層3Bが配されている。
銅層3A、3Bは、
図3Bに示すように、上面図において、複数の貫通孔3aを有する。クラッド材においては、この貫通孔3aには、銅層に隣接するマグネシウム層、又はアルミニウム層が埋まり込む。通常、貫通孔には、柔らかいアルミニウム層が埋まりこむ。
このようなクラッドでは、マグネシウム層1とアルミニウム層2Aとが直接接している箇所、及びマグネシウム層1とアルミニウム層2Bとが直接接している箇所が少なくなるため、
図1Cに示すような脆い金属間化合物10は形成されにくい。他方、マグネシウムとアルミニウムとの間にマグネシウム及びアルミニウムよりも貴である銅が配されているが、マグネシウム層1とアルミニウム層2Aとが直接接している箇所、及びマグネシウム層1とアルミニウム層2Bとが直接接している箇所があるため、MIL STD-106D-202Eによる温湿度サイクルを行っても、電食が生じにくい。そのため、
図2B及び
図2Cに示すような、銅層3Aへのマグネシウム1aのマイグレーションは生じない。そのことは、
図4A、
図4B、
図5A、
図5Bにより確認される。
そのため、開示のクラッド材は、層間密着性が優れつつ、電食も生じにくい。
【0044】
(クラッド材の製造方法)
開示のクラッド材の製造方法は、前記第1のアルミニウム層に対応する第1のアルミニウム材と、前記第1の銅層に対応する第1の銅材と、前記マグネシウム層に対応するマグネシウム材と、前記第2の銅層に対応する第2の銅材と、前記第2のアルミニウム層に対応する第2のアルミニウム材とを積層し、圧延すること含む。
前記クラッド材の製造方法は、開示の前記クラッド材を製造する好適な方法である。
【0045】
<マグネシウム材>
前記マグネシウム材は、前記マグネシウム層の前駆体であり、前記マグネシウム層と同じ材質でありつつ、前記マグネシウム層よりも平均厚みが厚い。
前記マグネシウム材の平均厚みとしては、特に制限はなく、得たい前記マグネシウム層の平均厚み、及び圧延の条件に応じて、適宜選択することができる。
【0046】
<第1のアルミニウム材、及び第2のアルミニウム材>
前記第1のアルミニウム材は、前記第1のアルミニウム層の前駆体であり、前記第1のアルミニウム層と同じ材質でありつつ、前記第1のアルミニウム層よりも平均厚みが厚い。
前記第2のアルミニウム材は、前記第2のアルミニウム層の前駆体であり、前記第2のアルミニウム層と同じ材質でありつつ、前記第2のアルミニウム層よりも平均厚みが厚い。
前記第1のアルミニウム材の平均厚みとしては、特に制限はなく、得たい前記第1のアルミニウム層の平均厚み、及び圧延の条件に応じて、適宜選択することができる。
前記第2のアルミニウム材の平均厚みとしては、特に制限はなく、得たい前記第2のアルミニウム層の平均厚み、及び圧延の条件に応じて、適宜選択することができる。
【0047】
<第1の銅材、及び第2の銅材>
前記第1の銅材は、前記第1の銅層の前駆体であり、前記第1の銅層と同じ材質でありつつ、前記第1の銅層よりも平均厚みが厚い。
前記第2の銅材は、前記第2の銅層の前駆体であり、前記第2の銅層と同じ材質でありつつ、前記第2の銅層よりも平均厚みが厚い。
前記第1の銅材の平均厚みとしては、特に制限はなく、得たい前記第1の銅層の平均厚み、及び圧延の条件に応じて、適宜選択することができる。
前記第2の銅材の平均厚みとしては、特に制限はなく、得たい前記第2の銅層の平均厚み、及び圧延の条件に応じて、適宜選択することができる。
【0048】
<圧延>
前記圧延の条件としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、圧力としては、30トン~40トンなどが挙げられる。
【0049】
ここで、図を用いて、開示のクラッド材の製造方法の一例を説明する。
図6は、開示のクラッド材の製造方法の一例を説明するための模式図である。
まず、以下のコイルを用意する。
・マグネシウム材11が巻き取られたコイル31
・アルミニウム材12Aが巻き取られたコイル32A
・アルミニウム材12Bが巻き取られたコイル32B
・銅材13Aが巻き取られたコイル33A
・銅材13Bが巻き取られたコイル33B
続いて、これらのコイルから、アルミニウム材12B、銅材13B、マグネシウム材11、銅材13A、アルミニウム材12Aの順に積層されるように各材料を引き出す。そして、これら5種類の材料が積層された積層体を2つの圧延ローラ34A、34Bの間を通して圧延して、クラッド材5を得る。得られたクラッド材5は、巻取り装置35により巻取りコイル状にされる。
【0050】
開示のクラッド材は、第1の銅層、及び第2の銅層が、厚み方向に貫通孔を有している。貫通孔の形成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、予め前記第1の銅材、及び前記第2の銅材に貫通孔を形成しておいてもよい。また、前記第1の銅材、及び前記第2の銅材が薄い場合は、圧延条件によっては、前記第1の銅材、及び前記第2の銅材が、圧延によって引き伸ばされた際に裂け、自然と貫通孔が形成されることがある。その場合には、貫通孔は不定形であり、例えば、裂け目のような形状となる場合もある。
【0051】
(電子機器)
電子機器は、開示のクラッド材を有する。電子機器としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、パソコン(ノート型パソコン、デスクトップ型パソコン)、電話機、携帯電話、コピー機、ファクシミリ、各種プリンター、デジタルカメラ、テレビ、ビデオ、CD装置、DVD装置、エアコン、リモコン装置などが挙げられる。これらの中でも、携帯して使用する点でノート型パソコン、携帯電話(スマートフォンを含む)が特に好ましい。
【0052】
前記電子機器において、前記クラッド材は、例えば、前記電子機器の筐体である。
【0053】
ここで、
図7に、開示の電子機器の一例としてのノート型パソコンを示す。
この
図7のノート型パソコン20は、ノート型パソコン本体21と、回動して開かれる液晶表示パネル部22とを備える。ノート型パソコン本体21は、扁平形状のハウジング25の上面に入力手段としてのキーボード部23及びポインティングディバイス24を有する。ハウジング25の内部には、ハードディスク装置、及びCPU、メモリ等を搭載したプリント基板、バッテリなどが収納されている。
例えば、ハウジング25に前記クラッド材が使用される。
【実施例】
【0054】
以下、開示の技術の実施例を説明するが、開示の技術は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0055】
(比較例1)
以下の材料を用意した。
<材料>
・マグネシウム材(Mg):LZ91、平均厚み480μm
・アルミニウム材(Al):A10150、平均厚み120μm
・銅材(Cu):C1020、平均厚み20μm
【0056】
上記材料を、Al/Cu/Mg/Cu/Alの順で積層し、ローラで圧延して、比較例1のクラッド材を得た。
得られたクラッド材について、平均厚み、比重、開孔率、ピール強度、弾性率を測定した。また、MIL STD-106D-202E温湿度サイクル(-10℃~65℃、98%RHと、常温常湿との間を2から3時間おきに往復させることを10日間繰り返す)後の断面観察により、マイグレーションの有無を確認した。結果を表1に示した。
なお、比重は、気体置換法(JIS R 1620 準拠)により測定した。
開孔率は、断面観察を複数の箇所で行うことで求めた。
ピール強度は、JIS Z 0237に準拠して測定した。
弾性率は、JIS K7171に準拠して測定した。
【0057】
(実施例1)
比較例1において、銅材の平均厚みを、15μmに変えた以外は、比較例1と同様にして、クラッド材を作製した。
得られたクラッド材について、比較例1と同様に評価を行った。結果を表1に示した。
【0058】
(実施例2)
比較例1において、銅材の平均厚みを、10μmに変えた以外は、比較例1と同様にして、クラッド材を作製した。
得られたクラッド材について、比較例1と同様に評価を行った。結果を表1に示した。
【0059】
(実施例3)
比較例1において、銅材の平均厚みを、5μmに変えた以外は、比較例1と同様にして、クラッド材を作製した。
得られたクラッド材について、比較例1と同様に評価を行った。結果を表1に示した。
【0060】
(比較例2)
比較例1において、銅材を用いず、Al/Mg/Alの順で積層した以外は、比較例1と同様にして、クラッド材を作製した。
得られたクラッド材について、比較例1と同様に評価を行った。結果を表1に示した。
【0061】
【0062】
比較例1のクラッド材は、ピール強度が大きく、層間密着性に優れるものの、Mgのマイグレーションが観察された。即ち、電食が生じていた。
実施例1~3のクラッド材は、ピール強度が大きく、層間密着性に優れていた。また、Mgのマイグレーションは観察されなかった。即ち、電食が防止されていた。
比較例2のクラッド材は、ピール強度が小さく、層間密着性が不十分であった。
【0063】
更に以下の付記を開示する。
(付記1)
マグネシウム又はマグネシウム合金からなるマグネシウム層と、
前記マグネシウム層を厚み方向において両側から挟む、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる第1のアルミニウム層、及びアルミニウム又はアルミニウム合金からなる第2のアルミニウム層と、
前記マグネシウム層と前記第1のアルミニウム層との間に配された、銅又は銅合金からなる第1の銅層と、
前記マグネシウム層と前記第2のアルミニウム層との間に配された、銅又は銅合金からなる第2の銅層と、
を有するクラッド材であって、
前記第1の銅層、及び前記第2の銅層が、厚み方向に貫通した貫通孔を有する、ことを特徴とするクラッド材。
(付記2)
前記マグネシウム層の平均厚みが、前記第1のアルミニウム層の平均厚みより厚く、
前記マグネシウム層の平均厚みが、前記第2のアルミニウム層の平均厚みより厚く、
前記第1のアルミニウム層の平均厚みが、前記第1の銅層の平均厚みよりも厚く、
前記第2のアルミニウム層の平均厚みが、前記第2の銅層の平均厚みよりも厚い、
付記1に記載のクラッド材。
(付記3)
前記マグネシウム層の平均厚みが、100μm以上1,000μm以下であり、
前記第1のアルミニウム層の平均厚みが、10μm以上200μm以下であり、
前記第2のアルミニウム層の平均厚みが、10μm以上200μm以下であり、
前記第1の銅の平均厚みが、1μm以上50μm以下であり、
前記第2の銅の平均厚みが、1μm以上50μm以下である、
付記1から2のいずれかに記載のクラッド材。
(付記4)
前記第1の銅層の前記貫通孔による開孔率が、30%以上60%以下であり、
前記第2の銅層の前記貫通孔による開孔率が、30%以上60%以下である、
付記1から3のいずれかに記載のクラッド材。
(付記5)
前記マグネシウム層の材質が、前記マグネシウム合金であり、
前記第1のアルミニウム層の材質が、前記アルミニウム合金であり、
前記第2のアルミニウム層の材質が、前記アルミニウム合金であり、
前記第1の銅層の材質が、前記銅であり、
前記第2の銅層の材質が、前記銅である、
付記1から4のいずれかに記載のクラッド材。
(付記6)
付記1から5のいずれかに記載のクラッド材を製造するクラッド材の製造方法であって、
前記第1のアルミニウム層に対応する第1のアルミニウム材と、前記第1の銅層に対応する第1の銅材と、前記マグネシウム層に対応するマグネシウム材と、前記第2の銅層に対応する第2の銅材と、前記第2のアルミニウム層に対応する第2のアルミニウム材とを積層し、圧延すること含むことを特徴とするクラッド材の製造方法。
(付記7)
前記第1の銅材、及び前記第2の銅材が、厚み方向に貫通孔を有さず、
前記圧延の際に、前記第1の銅材、及び前記第2の銅材を引き伸ばすことにより、前記第1の銅層、及び前記第2の銅層に貫通孔を形成する、付記6に記載のクラッド材の製造方法。
(付記8)
付記1から5のいずれかに記載のクラッド材を有することを特徴とする電子機器。
【符号の説明】
【0064】
1 マグネシウム層
2A アルミニウム層
2B アルミニウム層
3A 銅層
3B 銅層
5 クラッド材
10 金属間化合物
10A 破断箇所
11 マグネシウム材
12A アルミニウム材
12B アルミニウム材
13A 銅材
13B 銅材
20 ノート型パソコン
21 ノート型パソコン本体
22 液晶表示パネル部
23 キーボード部
24 ポインティングディバイス
25 ハウジング
31 コイル
32A コイル
32B コイル
33A コイル
33B コイル
34A 圧延ローラ
34B 圧延ローラ
35 巻取り装置