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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】ポリカルボン酸誘導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 69/48 20060101AFI20221227BHJP
   C08F 8/32 20060101ALI20221227BHJP
   A61L 24/06 20060101ALI20221227BHJP
   A61L 24/08 20060101ALI20221227BHJP
   A61L 24/04 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
C08G69/48
C08F8/32
A61L24/06
A61L24/08
A61L24/04 200
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018126643
(22)【出願日】2018-07-03
(65)【公開番号】P2020007389
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-06-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】白馬 弘文
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-103479(JP,A)
【文献】Propargyl-Assisted Selective Amidation Applied in C-terminal Glycine Peptide Condugation,CHEMISTRY A Europian Journal,2016年10月12日,22,18865-18872
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 69/00 - 69/50
C08F 8/00 - 8/50
A61L 24/00 - 24/12
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカルボン酸および下記一般式(1)のプロパルギルアミノ酸を共通溶媒に溶解した溶液に、縮合剤を添加して脱水縮合させる、水溶性のポリカルボン酸誘導体の製造方法であって、
前記縮合剤は1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N´,N´-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロりん酸から選ばれる1種以上であり、
前記ポリカルボン酸に対する前記プロパルギルアミノ酸の修飾率は6~45%である、
製造方法
【化6】

(式中のRは、水素原子または、炭素数1~8の炭化水素基を示す。また、前記炭化水素基において、複数の水素原子が窒素原子、酸素原子、硫黄原子に置換されたものであってもよい。また、式中のnは、炭素数1~3の整数を示す。)
【請求項2】
前記ポリカルボン酸とプロパルギルアミノ酸との仕込モル比が1:0.25~1:1である、請求項1に記載のポリカルボン酸誘導体の製造方法。
【請求項3】
前記溶液に、反応促進剤をさらに添加する、請求項1または2に記載のポリカルボン酸誘導体の製造方法。
【請求項4】
前記反応促進剤は、塩基、触媒および活性エステル体からなる群から選ばれる1種以上である、請求項に記載のポリカルボン酸誘導体の製造方法。
【請求項5】
前記反応促進剤は、トリエチルアミンおよび/または1-ヒドロキシベンゾトリアゾールである、請求項またはに記載のポリカルボン酸誘導体の製造方法。
【請求項6】
前記ポリカルボン酸は、ポリグルタミン酸、ポリアクリル酸、アルギン酸およびそれらの塩からなる群から選ばれる1種以上である、請求項1~のいずれかに記載のポリカルボン酸誘導体の製造方法。
【請求項7】
前記プロパルギルアミノ酸は、プロパルギルグリシンである、請求項1~のいずれかに記載のポリカルボン酸誘導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子内に2個以上のカルボキシル基を有するカルボン酸のカルボキシル基にプロパルギルアミノ酸が付加されたポリカルボン酸誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカルボン酸は、分子内に複数のカルボキシル基を有する化合物であり、吸水剤、分散剤、水処理剤等の産業用途に用いられている。また、ポリカルボン酸のカルボキシル基に対し、化学反応性を有する置換基を導入することで、ヒドロゲル、医療用接着剤等の架橋剤等にも用いられている。
【0003】
上記剤の例として、カルボキシル基にN-ヒドロキシスクシンイミジルエステル基(NHS)等の活性エステル基を導入したポリカルボン酸誘導体が知られており、主に、医療用接着剤及びヒドロゲルの架橋剤として用いられている。
【0004】
特許文献1には、NHS型架橋剤として、クエン酸等をベースとする低分子誘導体が開示されている。また、特許文献2には、ポリグルタミン酸をベースとする高分子誘導体が開示されている。当該発明は、ポリグルタミン酸に含まれるNHS基が生体高分子のアミノ基とアミド結合を形成し、ヒドロゲルが形成されるものである。
【0005】
特許文献2に記載の通り、NHS型架橋剤の製造法は、ポリグルタミン酸に溶解可能なジメチルスルホキシド(DMSO)を溶媒とし、N-ヒドロキシスクシンイミドを水溶性カルボジイミド(WSC)存在下で反応させることで実施されている。WSCは、反応後、水洗浄により副生物を容易に除去できるため、脱水縮合剤として多用されている。
【0006】
NHS型架橋剤は、水に対する溶解性が低く、アルカリ溶液として使用されている(特許文献2、非特許文献1)。非特許文献1には、NHS型架橋剤のアルカリ加水分解に関するデータが記載されており、水に対する安定性が指摘されている。具体的には、スクシンイミドエステル化γPGA(60:40)の炭酸水素ナトリウム水溶液について、経時的にH-NMR測定を行いスクシンイミドエステルの残存量を調べると、30分後にはスクシンイミドエステル残存量は50%まで低下したことが記載されている。そのため、NHS型架橋剤から水溶性のWSC由来の副生成物を除去する場合、水洗及び透析等の水を用いた精製を行うと、NHS架橋剤の加水分解が進行し、工業的生産には不向きであると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】

【文献】特開2004-99562号公報
【文献】特開平09-103479号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】ネットワークポリマー,Vol.36,No.6(2015),p.282-287.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、水に溶解し、原料の安全性が高いことから、特に医療用の架橋剤として好適に利用可能なポリカルボン酸誘導体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意検討した結果、以下に示す手段により上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
【0012】
1. ポリカルボン酸および下記一般式(1)のプロパルギルアミノ酸を共通溶媒に溶解した溶液に、縮合剤を添加して脱水縮合させる、水溶性のポリカルボン酸誘導体の製造方法であって、
前記縮合剤は1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N´,N´-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロりん酸から選ばれる1種以上であり、
前記ポリカルボン酸に対する前記プロパルギルアミノ酸の修飾率は6~45%である、
製造方法
【化1】

(式中のRは、水素原子または、炭素数1~8の炭化水素基を示す。また、前記炭化水素基において、1以上の水素原子が窒素原子、酸素原子、硫黄原子に置換されたものであってもよい。また、式中のnは、炭素数1~3の整数を示す。)
2. 前記ポリカルボン酸と前記プロパルギルアミノ酸との仕込モル比が1:0.25~1:1である、1に記載のポリカルボン酸誘導体の製造方法。
3. 前記溶液に、反応促進剤をさらに添加する、1または2に記載のポリカルボン酸誘導体の製造方法。
4. 前記反応促進剤は、塩基、触媒および活性エステル体からなる群から選ばれる1種以上である、に記載のポリカルボン酸誘導体の製造方法。
5. 前記反応促進剤は、トリエチルアミンおよび/または1-ヒドロキシベンゾトリアゾールである、またはに記載のポリカルボン酸誘導体の製造方法。
6. 前記ポリカルボン酸は、ポリグルタミン酸、ポリアクリル酸、アルギン酸およびそれらの塩からなる群から選ばれる1種以上である、1~のいずれかに記載のポリカルボン酸誘導体の製造方法。
7. 前記プロパルギルアミノ酸は、プロパルギルグリシンである、1~のいずれかに記載のポリカルボン酸誘導体の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、酸およびアルカリの存在なしに水に溶解可能なポリカルボン酸誘導体を製造できる。また、得られたポリカルボン酸誘導体は、カルボン酸基を有し、酸・アルカリ等を必要とせず水に溶解し、生体に対する安全性の高い材料を用いているので、特に医療用接着剤(2液型接着剤等)の架橋剤としての有用性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】プロパルギルグリシンを修飾したポリグルタミン酸(GPE化γ-PGA)の精製前のH-NMRスペクトルチャートである。
図2】プロパルギルグリシンを修飾したポリグルタミン酸(GPE化γ-PGA)の精製後のH-NMRスペクトルチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明において、ポリカルボン酸誘導体は、分子内に2個以上のカルボキシル基を有するカルボン酸に対し、少なくとも1個以上のプロパルギルアミノ酸(活性化試薬)を修飾した誘導体である。
【0016】
本発明において、プロパルギルアミノ酸とは、一般式(1)で表されるアミノ酸誘導体である。式中のRは、水素原子または、炭素数1~8の炭化水素基である。また、前記炭化水素基において、1以上の水素原子が窒素原子、酸素原子、硫黄原子に置換されたものであってもよい。また、式中のnは、炭素数1~3の整数を示す。
【化2】
【0017】
上記一般式(1)のプロパルギルアミノ酸を構成するアミノ酸は、いずれを使用しても、制限はなく、市販されているものがあればそれを用いてもよいが、生体適合性の観点から生体タンパク質を構成するアミノ酸を用いるのが好ましい。生体タンパク質を構成するアミノ酸としては、アスパラギン、アスパラギン酸、アラニン、アルギニン、システイン・シスチン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、プロリン、セリン、チロシン、イソロイシン、ロイシン、バリン、ヒスチジン、リジン(リシン)、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン(トレオニン)、トリプトファンが挙げられ、いずれもL体を用いるのが好ましい。これらの中でも、入手が容易であり、安全性が高く、最も構造が単純な材料であるグリシンを用いるのが好ましい。
【0018】
前記一般式(1)のプロパルギルアミノ酸は、下記反応式(2)に示されるように前記アミノ酸とプロパルギルアルコール又はプロパルギルハロゲン化物等を縮合して得ることができる。より具体的には、アミノ酸とプロパルギルアルコール等を混合溶解し、塩化チオニル等の縮合剤を添加して反応させることにより、プロパルギルアミノ酸を容易に製造することができる。なお、式中のRは、水素原子または、炭素数1~8の炭化水素基を示す。また、前記炭化水素基において、複数の水素原子が窒素原子、酸素原子、硫黄原子に置換されたものであってもよい。また、式中のnは、炭素数1~3の整数を示す。また、式中のXは、水酸基または、ハロゲン基を示す。
【化3】
【0019】
本発明において、ポリカルボン酸誘導体を構成するカルボン酸は、分子内に2個以上のカルボキシル基を有するカルボン酸である。具体的には、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、クエン酸、酒石酸等の低分子型カルボン酸、ポリアクリル酸、ポリメタアクリル酸等の高分子型合成ポリマー、ペクチン、アルギン酸、ヒアルロン酸、カルボキシメチルセルロース等の天然物型多糖類、ポリ-γ-グルタミン酸、ポリ-α-グルタミン酸、ポリアスパラギン酸等のポリプチドが挙げられる。この中でも好ましいのは、分子内に複数の架橋点を有し、安全性が高いことから、ポリアクリル酸、アルギン酸、ポリ-γ-グルタミン酸およびそれらの塩である。
【0020】
本発明において、ポリカルボン酸誘導体は、下記反応式(3)に示されるように前記ポリカルボン酸のカルボキシル基に、一般式(1)のプロパルギルアミノ酸を縮合して得ることができる。前記ポリカルボン酸とプロパルギルアミノ酸を縮合する方法としては、ポリカルボン酸とプロパルギルアミノ酸を、室温(1~30℃)、脱水縮合剤存在下にて反応させて製造することができる。より具体的には、ポリカルボン酸を溶媒に溶解した後、前記調製したプロパルギルアミノ酸を添加し、縮合剤、必要に応じて反応促進剤を添加して反応させることにより製造することができる。このとき、プロパルギルアミノ酸(活性化試薬)は、ポリカルボン酸を構成するカルボン酸単位に対して0.25~1.0当量とするのが好ましい。前記カルボン酸単位に対してプロパルギルアミノ酸のモル比が小さすぎると、反応が不足し、修飾率が低下する問題がある。一方、前記カルボン酸単位に対してプロパルギルアミノ酸のモル比が大きすぎると、未反応原料及び副生成物の量が多くなる問題がある。
【化4】
【0021】
本発明において、脱水縮合剤は、N,N´-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(WSC)、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N´,N´-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロりん酸(HBTU)等が挙げられる。前記脱水縮合剤は、ポリカルボン酸を構成するカルボン酸単位に対して0.25~1.0当量添加するのが好ましい。
【0022】
本発明において、縮合反応の反応溶媒は、ポリカルボン酸が溶解する溶媒であれば特に制限されず、例えば、水、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)等が挙げられる。
【0023】
本発明において、縮合反応を促進する場合には、反応促進剤として、塩基、触媒、活性エステル体を反応液に添加するのが好ましい。塩基は、トリエチルアミン(EtN)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン等のアミン等が挙げられる。触媒は、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン(DMAP)等が挙げられる。活性エステル体は、反応中間体のエステルとして、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)が挙げられる。塩基を添加する場合は、縮合剤に対して1~2当量、またはポリカルボン酸を構成するカルボン酸単位に対して、0.5~1.5当量添加するのが好ましい。また、活性エステル体を添加する場合は、ポリカルボン酸を構成するカルボン酸単位に対して0.25~1.0当量添加するのが好ましい。
【0024】
上記縮合反応において、プロパルギルアミノ酸及び脱水縮合剤等の各原料の仕込量を変えることにより、ポリカルボン酸に対するプロパルギルアミノ酸の修飾率を変えることができる。ポリカルボン酸を用いる場合、プロパルギルアミノ酸の修飾率は、カルボン酸単位あたり1~55%が好ましく、より好ましくは5~50%の範囲である。55%を超えると、溶媒に対する溶解性が悪くなる場合がある。ポリカルボン酸に対するプロパルギルアミノ酸の修飾率を前記範囲に調整することにより、後述するような2液型の接着剤として使用した際に、架橋体中の架橋点(化学的共有結合)と生体組織等の被着体との水素結合とのバランスが最適化され、接着強度を高めることができる。
【0025】
本発明において、反応後のポリカルボン酸誘導体を回収するには、反応液に対し、ポリカルボン酸誘導体に不溶な有機溶媒(貧溶媒)を添加して沈殿させる。貧溶媒は、ポリカルボン酸誘導体に不溶であり、分散性が良い溶媒であれば、特に制限はないが、例えば、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エステル等が挙げられる。貧溶媒は、反応溶媒に対し、3~10倍量が好ましい。貧溶媒の添加量が少なすぎると、ポリカルボン酸誘導体が十分に析出しないことがある。また、貧溶媒の添加量が多すぎると、洗浄のコストが増大する。
【0026】
本発明において、ポリカルボン酸誘導体を回収後、不純物の除去を行う場合、ポリカルボン酸誘導体を水などの良溶媒に溶解した後、室温にて撹拌しながら貧溶媒を添加して前記ポリカルボン酸誘導体を再沈殿させる、いわゆる溶解再沈殿法を用いて精製する方法が挙げられる。良溶媒は、ポリカルボン酸誘導体が溶解する溶媒であれば、特に制限はないが、安全と環境の面からは水が好ましい。貧溶媒は、ポリカルボン酸誘導体が溶けにくい溶媒であれば特に制限はなく、好例としては、アセトン、メタノール、エタノール等が挙げられる。
【0027】
上記の良溶媒の添加量は、ポリカルボン酸誘導体の溶解性に応じて調整できるが、工業生産性の面からは高濃度が望ましい。例えば、良溶媒は、ポリカルボン酸誘導体が10~30wt%の濃度になるように添加するのが適当である。
【0028】
上記の貧溶媒の添加量は、ポリカルボン酸誘導体の溶解性に応じて調整すればよく、例えば、良溶媒に対し、2倍量~12倍量が適当である。
【0029】
このようにして得られたポリカルボン酸誘導体は、実質的に水溶性である。実質的に水溶性であるとは、後述するように前記ポリカルボン酸誘導体を水に溶解させた際に、目視で未溶解物が観察されないことを意味する。
【0030】
このようにして調製されたポリカルボン酸誘導体を、例えば、2液型の生体組織用接着剤等の架橋剤として用いる場合には、副生物として得られるヒドロキシベンゾトリアゾールを除去しておくのが好ましい。ヒドロキシベンゾトリアゾールは、重篤な有害性が確認されたものではないが、NMR測定において7~8ppmに現れるヒドロキシベンゾトリアゾール塩由来のピークが観察されないのが好ましい。具体的には、400MHzのNMR装置において、サンプル濃度:2wt%、重溶媒:DMSO-D又は、DO、測定対象核:H、遅延時間:1.5秒、積算時間:3.5秒、積算回数:16回の条件で測定した場合に、当該不純物のピークが検出されないことを示す。前記、溶解再沈殿法を1~3回行えば、おおよそピークが観察されない程度にポリカルボン酸誘導体を精製することができる。
【0031】
本発明において、ポリカルボン酸誘導体は、アミノ基を有する生体由来高分子等の主剤と混合して架橋体を形成することができるため、接着剤として使用することができる。
【0032】
本発明において、アミノ基を有する生体由来高分子としては、血漿アルブミン、卵白アルブミン、カゼイン、コラーゲン、ゼラチン等のタンパク質が挙げられ、いずれを用いてもよい。
【0033】
本発明において、ポリカルボン酸誘導体を(医療用)接着剤の架橋剤として使用する場合、当該ポリカルボン酸誘導体を含む架橋剤溶液と、前記主剤を含む溶液を混合して生体組織等に塗布する。すると、反応式(4)に示されるような反応を経てポリカルボン酸と生体由来高分子との架橋体を生成する。ここで、ポリカルボン誘導体溶液中のポリカルボン酸誘導体の濃度は、0.001~20重量%が好ましく、0.005~20重量%がより好ましい。一方、主剤溶液中の主剤の濃度は、0.1~30重量%の範囲が好ましく、より好ましくは、0.5~20重量%の範囲である。溶液に使用する溶媒は、安全性の観点から、水、生理食塩水、低濃度エタノール等が好ましい。主剤とポリカルボン酸誘導体の重量比は、1:0.01~1:1が好ましく、より好ましくは、1:0.05~1:1の範囲である。
【化5】
【0034】
本発明において、ポリカルボン酸誘導体は、生体に対して安全性の高い材料を用いており、かつ水に溶解するため、水溶性の接着剤主剤と併用することで、筋肉、血管、臓器等の軟組織、皮膚の接合に使用する接着剤、傷口、血管を塞ぐためのシーリング剤等、医療用途に適用することができる。
【実施例
【0035】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0036】
(GPE修飾率の測定)
ポリカルボン酸誘導体を構成するカルボキシル基に対するプロパルギルアミノ酸の修飾率は、DMSO-d中のH-NMRスペクトル(BRUKER、MR400)を測定することにより決定した。修飾率の算出は、プロパルギルアミノ酸が修飾されたカルボキシル基と修飾されていないカルボキシル基のα水素の積分強度比を測定し、下記の式により求めた。
修飾率(%)=[修飾されたカルボキシル基のα水素]/[(未修飾のカルボキシル基のα水素)+(修飾されたカルボキシル基のα水素)]×100
【0037】
(グリシン,2-プロピン-1-イル,エステル(GPE)の製造)
グリシン(ナカライテスク)2.1gと2-プロピン-1-オール(ナカライテスク)30mLの混合液を調製し、室温で塩化チオニル(ナカライテスク)2.4mLを添加した。反応液を室温で2時間撹拌し、更に50℃で2時間撹拌した。反応液を5℃まで冷却し、酢酸エチル90mLを添加することにより、沈殿物を得た。沈殿物をろ過により分離し、更に酢酸エチルで洗浄し、乾燥することにより、グリシン,2-プロピン-1-イル,エステル(アミノエタン酸2-プロピニル)(GPE)を得た。
【0038】
(実施例1)GPE化γ-PGA(45)の調製
ポリ-γ-グルタミン酸(γ-PGA、東洋紡)0.5gにDMSO(ナカライテスク)8mLを加え、60℃で1時間撹拌し溶解させた。当該溶液を室温まで冷却し、γ-PGAを構成するカルボン酸単位に対して0.75当量のグリシン,2-プロピン-1-イル,エステル(GPE)および同0.75当量のO-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N´,N´-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロりん酸(HBTU、東京化成工業)を添加した。さらに、同1.5当量のトリエチルアミン(EtN、ナカライテスク)を添加し、室温で24時間撹拌し反応させた。反応後、アセトン(ナカライテスク)35mLを添加し、ポリマーを析出させた。得られたポリマーをアセトン30mLで洗浄し、乾燥させた。乾燥後、粗ポリマーを水5.5mLに溶解し、アセトン60mLを添加して、再び沈殿させ、ろ過により分取した。60℃で12時間真空乾燥し、目的のGPE化γ-PGAを得た。H-NMR(DMSO-D)より、γ-PGAのカルボン酸単位に対するGPEの修飾率は、45%であることを確認した。本実施例により得られたポリカルボン酸誘導体をGPE化γ-PGA(45)とした。
図1に、粗ポリマーと精製後のH-NMRスペクトルチャートを示す。精製後には、副生成物のヒドロキシベンゾトリアゾール塩由来のピークが消失していた。
【0039】
(実施例2)GPE化γ-PGA(25)の調製
原料の仕込量として、γ-PGAを構成するカルボン酸単位に対して0.5当量のGPE、同0.5当量のHBTUおよび同1.0当量のEtNを用いた以外は、実施例1記載の方法によりポリカルボン酸誘導体を調製した。H-NMR(DMSO-D)より、γ-PGAのカルボン酸単位に対するGPEの修飾率は、25%であることを確認した。本実施例により得られたポリカルボン酸誘導体をGPE化γ-PGA(25)とした。
【0040】
(実施例3)GPE化γ-PGA(15)の調製
原料の仕込量として、γ-PGAを構成するカルボン酸単位に対して0.25当量のGPE、同0.25当量のHBTUおよび同0.5当量のEtNを用いた以外は、実施例1記載の方法によりポリカルボン酸誘導体を調製した。H-NMR(DMSO-D)より、γ-PGAのカルボン酸単位に対するGPEの修飾率は、15%であることを確認した。本実施例により得られたポリカルボン酸誘導体をGPE化γ-PGA(15)とした。
【0041】
(実施例4)GPE化γ-PGA-Na(16)の調製
ポリグルタミン酸ナトリウム(γ-PGA-Na、東洋紡)0.5gに水8mLを加え、室温で撹拌し溶解した。当該溶液に、γ-PGA-Naを構成するカルボン酸単位に対して1.0当量のGPE、同1.0当量の1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(WSC、和光純薬工業)を加え、室温で24時間反応させた。反応後、アセトン35mLを添加し、ポリマーを析出させた。以降、実施例1と同様に処理してGPE化γ-PGA-Naを得た。H-NMR(DO)より、γ-PGAのカルボン酸単位に対するGPEの修飾率は、29%であることを確認した。本実施例により得られたポリカルボン酸誘導体をGPE化γ-PGA-Na(16)とした。
【0042】
(実施例5)GPE化γ-PGA-Na(37)の調製
ポリグルタミン酸ナトリウム(γ-PGA-Na)0.5gに水8mLを加え、室温で撹拌し溶解した。当該溶液に、γ-PGA-Naを構成するカルボン酸単位に対して1.0当量のGPE、同1.0当量のWSCおよび同1.0当量の1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt、ペプチド研究所)を加え、室温で24時間反応させた。以降、実施例1と同様に処理してGPE化γ-PGA-Na(37)を得た。
【0043】
(実施例6)GPE化γ-PGA-Na(29)の調製
ポリグルタミン酸ナトリウム(γ-PGA-Na)0.5gに水8mLを加え、室温で撹拌し溶解した。当該溶液に、γ-PGA-Naを構成するカルボン酸単位に対して0.75当量のGPE、同0.75当量のWSCおよび同0.75当量のHOBtを加え、室温で24時間反応させた。以降、実施例1と同様に処理してGPE化γ-PGA-Na(29)を得た。
【0044】
(実施例7)GPE化γ-PGA-Na(15)の調製
原料の仕込量として、γ-PGA-Naを構成するカルボン酸単位に対して0.5当量のGPE及び同0.5当量のWSC、同0.5当量のHOBtを用いた以外は、実施例5記載の方法によりポリカルボン酸誘導体を調製した。H-NMR(DO)より、γ-PGAのカルボン酸単位に対するGPEの修飾率は、15%であることを確認した。本実施例により得られたポリカルボン酸誘導体をGPE化γ-PGA-Na(15)とした。
【0045】
(実施例8)GPE化γ-PGA-Na(10)の調製
原料の仕込量として、γ-PGA-Naを構成するカルボン酸単位に対して0.25当量のGPE、同0.25当量のWSC、同0.25当量のHOBtを用いた以外は、実施例5記載の方法によりポリカルボン酸誘導体を調製した。H-NMR(DO)より、γ-PGAのカルボン酸単位に対するGPEの修飾率は、10%であることを確認した。本実施例により得られたポリカルボン酸誘導体をGPE化γ-PGA-Na(10)とした。
【0046】
(実施例9)GPE化PAC-Na(35)の調製
原料として、ポリアクリル酸ナトリウム(PAC-Na,Lシリーズ、日本触媒)30wt%水溶液を用いた以外は、実施例6記載の方法によりポリカルボン酸誘導体を調製した。H-NMR(DO)より、PACのカルボン酸単位に対するGPEの修飾率は、35%であることを確認した。本実施例により得られたポリカルボン酸誘導体をGPE化PAC-Na(35)とした。
【0047】
(実施例10)GPE化PAC-Na(19)の調製
原料として、ポリアクリル酸ナトリウム(PAC-Na,Lシリーズ)30wt%水溶液、仕込量として、PAC-Naを構成するカルボン酸単位に対して0.5当量のGPE、0.5当量のWSCおよび同0.5当量のHOBtを用いた以外は、実施例9記載の方法によりポリカルボン酸誘導体を調製した。H-NMR(DO)より、PACのカルボン酸単位に対するGPEの修飾率は、19%であることを確認した。本実施例により得られたポリカルボン酸誘導体をGPE化PAC-Na(19)とした。
【0048】
(実施例11)GPE化PAC-Na(11)の調製
原料として、ポリアクリル酸ナトリウム(PAC-Na,Lシリーズ)30wt%水溶液、仕込量として、PAC-Naを構成するカルボン酸単位に対して0.25当量のGPE、同0.25当量のWSCおよび同0.25当量のHOBtを用いた以外は、実施例9記載の方法によりポリカルボン酸誘導体を調製した。H-NMR(DO)より、PACのカルボン酸単位に対するGPEの修飾率は、11%であることを確認した。本実施例により得られたポリカルボン酸誘導体をGPE化PAC-Na(11)とした。
【0049】
(実施例12)GPE化ALG-Na(22)の調製
原料として、アルギン酸ナトリウム(ALG-Na、ナカライテスク)、仕込量として、ALG-Naを構成するカルボン酸単位に対して0.75当量のGPE、0.75当量のWSC、0.75当量のHOBtを用いた以外は、実施例6記載の方法によりポリカルボン酸誘導体を調製した。H-NMR(DO)より、ALGのカルボン酸単位に対するGPEの修飾率は、22%であることを確認した。本実施例により得られたポリカルボン酸誘導体をGPE化ALG-Na(22)とした。
【0050】
(実施例13)GPE化ALG-Na(13)の調製
原料として、アルギン酸ナトリウム(ALG-Na)、仕込量として、ALG-Naを構成するカルボン酸単位に対して0.5当量のGPE、同0.5当量のWSCおよび同0.5当量のHOBtを用いた以外は、実施例6記載の方法によりポリカルボン酸誘導体を調製した。H-NMR(DO)より、ALGのカルボン酸単位に対するGPEの修飾率は、13%であることを確認した。本実施例により得られたポリカルボン酸誘導体をGPE化ALG-Na(13)とした。
【0051】
(実施例14)GPE化ALG-Na(6)の調製
原料として、アルギン酸ナトリウム(ALG-Na)、仕込量として、ALG-Naを構成するカルボン酸単位に対して0.25当量のGPE、同0.25当量のWSCおよび同0.25当量のHOBtを用いた以外は、実施例6記載の方法によりポリカルボン酸誘導体を調製した。H-NMR(DO)より、ALGのカルボン酸単位に対するGPEの修飾率は、6%であることを確認した。本実施例により得られたポリカルボン酸誘導体をGPE化ALG-Na(6)とした。
【0052】
(比較例1)NHS化γ-PGA(50)の調製
NHS(N-ヒドロキシスクシンイミジル)化γ-PGAの調製は、ネットワークポリマー,Vol.36,No.6(2015),p.282-287.の記載の方法により行った。H-NMR(DMSO-D)より、γ-PGAのカルボン酸単位に対するNHSの修飾率は、50%であることを確認した。本比較例により得られたポリカルボン酸誘導体をNHS化γ-PGA(50)とした。
【0053】
(比較例2)NHS化γ-PGA(25)の調製
比較例1と同様にして、γ-PGAのカルボン酸単位に対するNHSの修飾率が25%であるNHS化γ-PGA(25)を調製した。
【0054】
(比較例3)NHS化γ-PGA(7)の調製
比較例1と同様にして、γ-PGAのカルボン酸単位に対するNHSの修飾率が7%であるNHS化γ-PGA(7)を調製した。
【0055】
(比較例4)GPE化γ-PGA(56)の調製
ポリ-γ-グルタミン酸(γ-PGA)0.5gにDMSO8mLを加え、60℃で1時間撹拌し溶解させた。当該溶液を室温まで冷却し、γ-PGAを構成するカルボン酸単位に対して1.0当量のGPEおよび同1.0当量のHBTUを添加した。さらに、同2.0当量のEtNを添加し、室温で24時間撹拌し反応させた。反応後、アセトン35mLを添加しポリマーを析出させた。得られたポリマーをアセトン30mLで洗浄し、60℃で12時間真空乾燥した。得られたポリカルボン酸誘導体のGPE修飾率は、56%であった。本比較例により得られたポリカルボン酸誘導体をGPE化γ-PGA(56)とした。
【0056】
(比較例5)
ポリ-γ-グルタミン酸(γ-PGA)0.5gにDMSO8mLを加え、60℃で1時間撹拌し溶解させた。当該溶液を室温まで冷却し、γ-PGAを構成するカルボン酸単位に対して1.0当量のGPEおよび同1.0当量のWSCを添加し、室温で24時間撹拌し反応させた。反応後、アセトン35mLを添加してポリマーを析出させ、H-NMRを測定したが、未修飾のγ-PGAが検出されたのみであった。
【0057】
(比較例6)
ポリ-γ-グルタミン酸(γ-PGA)0.5gにDMSO8mLを加え、室温で撹拌し溶解した。当該溶液に、γ-PGAを構成するカルボン酸単位に対して1.0当量のGPE、1.0当量のWSCおよび同0.1当量のN,N-ジメチル-4-アミノピリジン(DMAP)を加え、室温で24時間反応させた。反応後、アセトン35mLを添加してポリマーを析出させ、H-NMRを測定したが、未修飾のγ-PGAが検出されたのみであった。
【0058】
(比較例7)
ポリ-γ-グルタミン酸(γ-PGA)0.5gとDMSO8mLを入れ、室温で撹拌し溶解した。当該溶液に、γ-PGAを構成するカルボン酸単位に対して1.0当量のGPEおよび同1.0当量のHBTUを加え、室温で24時間反応させた。反応後、アセトン35mLを添加してポリマーを析出させ、H-NMRを測定したが、未修飾のγ-PGAが検出されたのみであった。
【0059】
(溶解性試験)
実施例1-14及び比較例1-4において得られた各ポリカルボン酸誘導体について、水への溶解性を調べた結果を表1に示す。水への溶解性試験は、純水に各ポリカルボン酸誘導体を20wt%になるように添加し、25℃で350rpm、1時間撹拌した後に、目視にて溶解具合を確認した。液中のポリカルボン酸誘導体が完全に溶解した状態を「溶」とし、溶け残りがある状態を「不溶」とした。表1の結果から明らかなように、実施例1-14のポリカルボン酸誘導体は、純水への溶解性が良好であった。
【0060】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明により得られるポリカルボン酸誘導体は、カルボン酸基を有し、酸・アルカリ等を必要とせず水に溶解し、また生体に対する安全性の高い材料を用いているので、特に医療用の接着剤の架橋剤としての有用性が高い。
図1
図2