(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】溶解状態判定装置
(51)【国際特許分類】
F27D 21/00 20060101AFI20221227BHJP
F27B 3/28 20060101ALI20221227BHJP
F27D 11/08 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
F27D21/00 A
F27B3/28
F27D11/08 Z
(21)【出願番号】P 2018137570
(22)【出願日】2018-07-23
【審査請求日】2021-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】特許業務法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大脇 智
(72)【発明者】
【氏名】堀 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】山田 真悟
【審査官】岡田 眞理
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-170748(JP,A)
【文献】特開平07-120160(JP,A)
【文献】特開2012-207904(JP,A)
【文献】特開昭60-101900(JP,A)
【文献】特開昭49-001407(JP,A)
【文献】実開昭52-061557(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27D 17/00-99/00
F27D 11/00-11/12
F27B 3/00- 3/28
H05B 7/00- 7/22
C21C 5/52
G01H 11/00
G01H 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アーク炉の炉内発生音の強度を周波数分析した音周波数データ、および前記アーク炉に電源を供給する炉用変圧器の一次側の電流値または電圧値を周波数分析した電気周波数データの両方よりなる評価データを取得するデータ取得手段と、
前記アーク炉内の金属材料の溶解状態と、前記評価データとの相関に関する機械学習の結果に基づいて、前記データ取得手段によって取得された前記評価データから、前記金属材料の溶解状態を判定する判定手段と、
前記判定手段による判定の結果を通知する通知手段と、を有し、
前記機械学習においては、
前記評価データに含まれる前記音周波数データに対して、電源周波数の偶数倍の周波数を含んだピークの高さについて、第一の閾値を決定するとともに、
前記評価データに含まれる前記電気周波数データに対して、電源周波数の偶数倍の周波数の高調波成分の強度について、第二の閾値を決定し、
前記判定手段は、
前記データ取得手段によって取得された前記音周波数データにおいて、前記ピークの高さが、前記第一の閾値以上となる状態が、所定時間以上持続する現象と、
前記データ取得手段によって取得された前記電気周波数データにおいて、前記高調波成分の強度が、前記第二の閾値以下となる状態が、所定時間以上持続する現象との、
両方または一方が起こった場合に、前記金属材料の溶解が完了したと判定する
ことができ、
前記判定に、前記音周波数データと前記電気周波数データのいずれを用いるか、あるいは両方を用いるかの決定を、機械学習によって行うことを特徴とする溶解状態判定装置。
【請求項2】
アーク炉の炉内発生音の強度を周波数分析した音周波数データ、および前記アーク炉に電源を供給する炉用変圧器の一次側の電流値または電圧値を周波数分析した電気周波数データの両方よりなる評価データを取得するデータ取得手段と、
機械学習の結果として得られる、前記アーク炉内の金属材料の溶解状態と
、前記評価データとの相関に関する
、前記金属材料の種類に応じたモデルに基づいて、前記データ取得手段によって取得された前記評価データから、前記金属材料の溶解状態を判定する判定手段と、
前記判定手段による判定の結果を通知する通知手段と、を有し、
前記機械学習においては、
前記評価データに含まれる前記音周波数データに対して、電源周波数の偶数倍の周波数を含んだピークの高さについて、第一の閾値を決定するとともに、
前記評価データに含まれる前記電気周波数データに対して、電源周波数の偶数倍の周波数の高調波成分の強度について、第二の閾値を決定し、
前記判定手段は、
前記データ取得手段によって取得された前記音周波数データにおいて、前記ピークの高さが、前記第一の閾値以上となる状態が、所定時間以上持続する現象と、
前記データ取得手段によって取得された前記電気周波数データにおいて、前記高調波成分の強度が、前記第二の閾値以下となる状態が、所定時間以上持続する現象との、
両方または一方が起こった場合に、前記金属材料の溶解が完了したと判定する
ことができ、
前記判定に、前記音周波数データと前記電気周波数データのいずれを用いるか、あるいは両方を用いるかの決定を、機械学習によって行うことを特徴とする溶解状態判定装置。
【請求項3】
前記音周波数データと前記電気周波数データの両方を前記判定に用いる場合の判定結果へのそれぞれの寄与の形態の決定を、
機械学習によって行うことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の溶解状態判定装置。
【請求項4】
次に追装する予定の前記金属材料の量に応じて、
前記音周波数データと前記電気周波数データのいずれを前記判定手段での判定に用いるかの決定、および
前記音周波数データと前記電気周波数データの両方を前記判定に用いる場合の判定結果へのそれぞれの寄与の形態の決定を行うことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の溶解状態判定装置。
【請求項5】
前記金属材料の溶解が終期に差しかかっている
ことを通知する場合には、
前記判定手段において、前記溶解状態の判定に、前記電気周波数データにおける前記高調波成分の低下を利用し、
前記金属材料の溶解が完全に終了する
まで、あるいはその直前
まで溶解を進めてから通知する場合には、
前記判定手段において、前記溶解状態の判定に、前記音周波数データにおける前記ピークの成長を利用することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の溶解状態判定装置。
【請求項6】
前記アーク炉の操業にかかる条件、前記金属材料の種類および量、前記金属材料の装入にかかる条件、所望される溶解の進行の程度、次の工程への移行に要する時間、前記アーク炉の周辺環境の各条件を包括したものを操業態様として、
前記金属材料の溶解を開始する前に、予定している個別の操業態様に応じて、前記第一の閾値および前記第二の閾値を、機械学習によって決定することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の溶解状態判定装置。
【請求項7】
溶解工程の途中に、前記操業態様が変化した場合には、その溶解工程において既に取得された前記評価データを利用して、機械学習をやり直し、前記第一の閾値および前記第二の閾値を途中で変更することを特徴とする請求項6に記載の溶解状態判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶解状態判定装置に関し、さらに詳しくは、アーク炉において、炉内の金属材料の溶解状態を判定する溶解状態判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属スクラップ等の金属材料をアーク放電によって溶解するアーク炉においては、金属材料の溶解状態を判定することが重要である。通常、金属材料は、複数回にわたって炉内に装入して溶解され、既に装入した金属材料の溶解がある程度進行した段階で、次の金属材料の追装が行われる。そして、装入した金属材料が全て溶落すると、酸化精錬等、次の工程が実施される。この際、既に装入した金属材料が溶解し、追装可となった時点、また、溶落が起こり、次工程への移行が可能となった時点を、的確に判定する必要がある。追装可、また溶落と判定した時点が、実際の溶解の進行に対して、遅すぎても、また早すぎても、アーク炉の操業効率に支障をきたしうる。
【0003】
しかし、アーク炉の内部を直接観察して金属材料の溶解状態を判定することは困難であり、金属材料の溶解状態に相関を有する現象をアーク炉の外から観察して、金属材料の溶解状態を判定する方法が用いられる。例えば、特許文献1に記載されるように、アーク炉の炉内発生音が、溶解完了の判定に利用されている。従来から、作業者が、炉内発生音を聞いて、その音の変化をもとに、溶解完了の判定を行う場合がある。また、特許文献1では、炉内発生音の音信号を周波数解析して、基本周波数の偶数倍の周波数を中心とした領域の信号成分の強度が、当該領域の低周波側および高周波側の各領域の信号成分の強度に比して一定時間以上持続して所定量以上高くなった時に、溶解完了と判定している。また、特許文献2においては、アーク炉の炉用変圧器の一次側電流/電圧を検出して基本周波数の偶数倍の周波数の高調波電流成分/電圧成分を検出し、その高調波電流成分/電圧成分の値が所定値よりも一定時間以上低下したことで溶解完了を判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-170748号公報
【文献】特開2012-207904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1および特許文献2に記載されるように、炉内発生音の周波数解析の結果や、一次側電流/電圧の高調波成分の強度に基づいて、アーク炉内の金属材料の溶解完了を判定すれば、それらの計測結果と金属材料の溶解状態との間の高い相関性により、追装可や溶落の判断を適時に行うことができる。そして、各計測結果に対して、所定の閾値を設定し、その閾値以上または以下となる状態が所定時間持続することをもって、溶解完了の判定を行うようにすることで、作業者が、炉内発生音を聞いて、溶解完了の判断を行う場合等とは異なり、作業者の経験や技量に依存せずに、溶解完了の判定を定量的に行い、アーク炉の操業の効率化を促進することができる。しかし、炉内発生音の周波数解析結果や、一次側電流/電圧の高調波成分の強度のような評価データを、閾値と比較することで、溶解完了の判定を行う場合にも、判定の精度は、設定した閾値が適切であるかどうかに、大きく依存する。
【0006】
アーク炉内の金属材料の溶解状態と、評価データとの相関性は、個別のアーク炉の構成、装入される金属材料の種類や量等、多くの要因に依存し、評価データと金属材料の溶解状態の相関性によっては、予め定めておいた閾値をもって、溶解が完了しているか否かが、実態どおりに区画されない場合がある。また、金属材料の溶解がどの程度進行したことをもって溶解完了と判定し、追装可や溶落の判断を行うか等、判定を所望される溶解状態も、上記のような多くの要因によって変化する。このように、アーク炉や金属材料の状態や、所望される溶解状態に応じて、適切な閾値を用いなければ、溶解状態の判定を正確に行うことは難しい。予め定めた閾値によらず、個別のアーク炉や金属材料の状態、また所望される溶解状態等に応じて、評価データと炉内の金属材料の溶解状態との対応関係を、適切に見積もることができれば、炉内の金属材料の状態をさらに正確に推定し、溶解完了の判定をはじめ、アーク炉の操業に有効に利用できる可能性がある。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、アーク炉内の金属材料の溶解状態を、炉内発生音や、炉用変圧器の一次側の電流または電圧の計測結果に基づいて判定するに際し、それら計測結果と金属材料の溶解状態の間の対応関係を見積もったうえで、判定を行うことができる溶解状態判定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明にかかる溶解状態判定装置は、アーク炉の炉内発生音の強度を周波数分析した音周波数データ、および前記アーク炉に電源を供給する炉用変圧器の一次側の電流値または電圧値を周波数分析した電気周波数データの少なくとも一方よりなる評価データを取得するデータ取得手段と、前記アーク炉内の金属材料の溶解状態と、前記評価データとの相関に関する機械学習の結果に基づいて、前記データ取得手段によって取得された前記評価データから、前記金属材料の溶解状態を判定する判定手段と、前記判定手段による判定の結果を通知する通知手段と、を有するものである。
【0009】
ここで、前記機械学習においては、前記評価データの波形から、前記金属材料の溶解状態と相関を有する特徴量を算出し、前記判定手段は、前記機械学習によって算出された前記特徴量に基づいて、前記金属材料の溶解状態を判定するとよい。
【0010】
あるいは、前記機械学習においては、前記評価データに含まれるパラメータについて、前記金属材料の溶解完了を示す閾値を決定し、前記判定手段は、前記データ取得手段によって取得された前記評価データにおける前記パラメータの値と、前記機械学習によって決定された前記閾値との比較によって、前記金属材料の溶解が完了したか否かを判定するとよい。
【0011】
この場合に、前記評価データは、前記音周波数データを含み、前記機械学習においては、前記音周波数データに対して、電源周波数の偶数倍の周波数を含んだピークの高さについて、前記閾値を決定し、前記判定手段は、前記データ取得手段によって取得された前記音周波数データにおいて、前記ピークの高さが、前記閾値以上となる状態が、所定時間以上持続した場合に、前記金属材料の溶解が完了したと判定するとよい。
【0012】
また、前記評価データは、前記電気周波数データを含み、前記機械学習においては、前記電気周波数データに対して、電源周波数の偶数倍の周波数の高調波成分の強度について、前記閾値を決定し、前記判定手段は、前記データ取得手段によって取得された前記電気周波数データにおいて、前記高調波成分の強度が、前記閾値以下となる状態が、所定時間以上持続した場合に、前記金属材料の溶解が完了したと判定するとよい。
【発明の効果】
【0013】
上記発明にかかる溶解状態判定装置においては、アーク炉の炉内発生音の強度を周波数分析した音周波数データ、および炉用変圧器の一次側の電流値または電圧値を周波数分析した電気周波数データの少なくとも一方よりなる評価データに基づいて、金属材料の溶解状態を判定する。これらの評価データは、アーク炉内の金属材料の溶解状態との間に高い相関を有しており、溶解状態を敏感に反映するものとして、溶解状態の判定に好適に利用できる。
【0014】
さらに、それら評価データと金属材料の溶解状態との間の相関性を、機械学習によって学習させることで、取得される評価データと金属材料の溶解状態との間の対応関係を、実態に即して見積もり、溶解状態の判定に利用することができる。その結果、固定された閾値等、評価データに対して予め設定された基準に基づいて、評価データを解釈する場合よりも、金属材料の溶解状態を、精度良く判定することが可能となる。また、アーク炉の構成や操業条件、金属材料の種類や量等、個別の操業態様によって、評価データと金属材料の溶解状態との対応関係や、判定を所望される溶解状態は変化しうるが、そのような場合にも、個別の操業態様等に応じて、評価データと金属材料の溶解状態との対応関係を、適切に見積もることができる。例えば溶解が完了したか否かを判定するための閾値を、適切に設定することができる。
【0015】
ここで、機械学習において、評価データの波形から、金属材料の溶解状態と相関を有する特徴量を算出し、判定手段が、機械学習によって算出された特徴量に基づいて、金属材料の溶解状態を判定する場合には、評価データの波形において、金属材料の溶解状態と相関性を有する特徴量を、機械学習によって獲得し、溶解状態の判定に利用することができる。その結果、例えば特定のピークの高さや特定の周波数の信号強度のように、評価データ中で、人間が明確に認識し、閾値を設定できるようなパラメータを予め設定しておかなくても、波形そのものの特徴に基づいて、金属材料の溶解状態を正確に判定することが可能となる。また、個別の操業態様に応じて、金属材料の溶解状態をよく反映する特徴量を発見することも可能となるので、着目すべきパラメータを予め定めておく場合よりも、個別の操業態様に応じて、金属材料の溶解状態を正確に判定することができる。
【0016】
あるいは、機械学習において、評価データに含まれるパラメータについて、金属材料の溶解完了を示す閾値を決定し、判定手段が、データ取得手段によって取得された評価データにおけるそのパラメータの値と、機械学習によって決定された閾値との比較によって、金属材料の溶解が完了したか否かを判定する場合には、特定のピークの高さや、特定の周波数の信号強度等、金属材料の溶解状態と相関を有することが既知であるパラメータに着目することで、評価データに含まれる情報を、明快に、また簡便に、金属材料の溶解状態に対応づけ、溶解状態の判定に利用することができる。また、そのパラメータに閾値を設け、溶解状態の判定を、溶解が完了しているか否かという二者択一方式で行うことで、判定手段による判定および通知手段による通知を簡素に行うことができる。この際、閾値の具体的な値を予め決めておくのではなく、その値の決定に機械学習を用いることで、個別の操業態様に即して、溶解完了の正確な判定を可能にする閾値を、獲得することができる。
【0017】
この場合に、評価データが、音周波数データを含み、機械学習において、音周波数データに対して、電源周波数の偶数倍の周波数を含んだピークの高さについて、閾値を決定し、判定手段が、データ取得手段によって取得された音周波数データにおいて、そのピークの高さが、閾値以上となる状態が、所定時間以上持続した場合に、金属材料の溶解が完了したと判定する構成によれば、音周波数データにおいて、電源周波数の偶数倍の周波数を含んだピークの高さは、金属材料の溶解状態と高い相関性を有しており、溶解が進行するとピークの高さが大きくなる。よって、そのピークの高さにおける閾値を機械学習によって決定し、溶解完了の判定に用いることで、溶解完了の判定を正確に行うことが可能となる。特に、このピークの高さの変化は、溶解完了の近傍の時間において、比較的遅い段階で出現するため、溶解が特によく進行した時点をもって溶解完了の判定を行うのに、適している。
【0018】
また、評価データが、電気周波数データを含み、機械学習において、電気周波数データに対して、電源周波数の偶数倍の周波数の高調波成分の強度について、閾値を決定し、判定手段が、データ取得手段によって取得された電気周波数データにおいて、その高調波成分の強度が、閾値以下となる状態が、所定時間以上持続した場合に、金属材料の溶解が完了したと判定する構成によれば、電源の一次側における高調波成分の強度は、金属材料の溶解状態と高い相関性を有しており、溶解が進行すると、強度が低下する。よって、高調波成分の強度における閾値を機械学習によって決定し、溶解完了の判定に用いることで、溶解完了の判定を正確に行うことが可能となる。特に、この高調波成分の強度の変化は、溶解完了の近傍の時間において、比較的早期に出現するため、溶解がある程度進行した段階で、余裕をもって溶解完了の判定を行うのに適している。さらに、この電気周波数データにおける高調波成分の強度変化に基づく判定と、上記の音周波数データにおけるピークの高さに基づく判定とを組み合わせることで、アーク炉の操業条件や、判定すべき溶解の進行の程度等に応じて、金属材料の溶解の進行を、正確に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる溶解状態判定装置を備えたアーク炉の構成を示す模式図である。
【
図2】上記溶解状態判定装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】音周波数データの一例であり、(a)は溶解初期のデータ、(b)は溶解終期のデータを示している。
【
図4】電気周波数データの一例であり、各次数の高調波成分の強度変化を示している。
【
図5】変形形態にかかる溶解状態判定装置を備えたアーク炉の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態にかかる溶解状態判定装置について、図面を参照しながら説明する。本発明の一実施形態にかかる溶解状態判定装置1は、アーク炉5と共に用いられ、アーク炉5の中の金属材料Mの溶解状態を判定するものである。
図1に、溶解状態判定装置1を備えたアーク炉5の一例を示す。また、
図2に、溶解状態判定装置1の構成を示す。
【0021】
[アーク炉の構成]
まず、溶解状態判定装置1を備えたアーク炉5の構成について、簡単に説明する。アーク炉5においては、炉体50に金属スクラップ等の金属材料Mを収容して、蓋51に取り付けられた電極52と金属材料Mの間で、アーク放電を行うことで、金属材料Mを溶解する。電極52は、図示しない昇降装置に保持され、高さ位置を変更可能となっている。
【0022】
アーク炉5に電力を供給する電源回路には、タップチェンジャを備えた炉用変圧器53が設けられており、炉用変圧器53の一次側回路54が商用電源に接続されている。一次側回路54においては、炉用変圧器53と商用電源の間に、真空遮断器(VCB)56が設けられている。炉用変圧器53の二次側回路55は、電極52に至っており、電極52に電源を供給する。図示した形態では、電極52に、三相交流が供給される。図示は省略するが、二次側回路55には、計器用変流器と計器用変圧器が設けられており、それらを介して計測された二次側回路55の電流値および電圧値に基づくフィードバック制御により、電極52の高さ位置が調整され、炉用変圧器53の出力が調整される。
【0023】
さらに、一次側回路54には、計器用変流器22が設けられている。計器用変流器22は、溶解状態判定装置1のデータ取得手段20を構成しており、一次側回路54を流れる電流値に対応する電気信号を、演算装置10に入力する。計器用変流器22より入力された信号は、演算装置10に含まれる電気周波数分析手段23において演算を受ける。
【0024】
また、炉体50の近傍には、騒音計21が設置されている。騒音計21も、溶解状態判定装置1のデータ取得手段20を構成しており、アーク炉5の炉内発生音を検出し、検出された音の強度に応じた電気信号を、演算装置10に入力する。騒音計21より入力された信号は、演算装置10に含まれる音周波数分析手段24において演算を受ける。なお、騒音計21は、炉体50の近傍に設置されることから、耐熱対策および防塵対策として、図示しない筐体に収容されている。
【0025】
炉用変圧器53の一次側回路54に設けられた真空遮断器56は、演算装置10からの制御信号により、ON/OFF制御される。電極52に電源を供給し、金属材料Mの溶解を行う間は、真空遮断器56はON状態とされる。一方、後述するように、演算装置10において、金属材料Mの溶解が完了したと判定されると、真空遮断器56がOFF状態に切り替えられ、炉用変圧器53を介した電極52への電源の供給が遮断される。あるいは、金属材料Mの溶解が完了したと判定されると、後述する通知パネル60等によって、判定結果が作業者に通知されるにとどめてもよい。この場合には、作業者が真空遮断器56のON/OFF制御を行うものであり、作業者は、通知された判定結果を、切り替えタイミングの指標とするようにしてもよい。
【0026】
[溶解状態判定装置の構成]
次に、溶解状態判定装置1の構成について説明する。溶解状態判定装置1は、上で説明した一次側回路54の計器用変流器22、および炉体50の近傍に設置された騒音計21に加え、演算装置10を備えている。
【0027】
演算装置10は、コンピュータよりなり、アーク炉5の周辺に設置されている。演算装置10は、演算機能として、電気周波数分析手段23と、音周波数分析手段24に加え、判定手段11と、通知手段12と、記憶手段13と、学習手段14とを有している。演算装置10は、アーク炉5において、二次側回路55の電流値および電圧値に基づいて、炉用変圧器53の出力および電極52の高さ位置を制御する制御装置を兼ねるものとしてもよい。
【0028】
騒音計21、音周波数分析手段24、計器用変流器22、電気周波数分析手段23は、溶解状態判定装置1において、データ取得手段20を構成している。上記のように、騒音計21よって検出された炉内発生音の強度に対応する信号は、音周波数分析手段24によって、フーリエ変換やラプラス変換等による周波数分析を受ける。そして、周波数ごとの強度分布を示す音周波数データが、評価データとして、判定手段11に入力される。また、計器用変流器22より入力された一次側回路54の電流値に対応する信号は、電気周波数分析手段23によって周波数分析を受ける。そして、周波数ごとの強度分布のデータそのもの、あるいはその強度分布から、基本周波数(商用電源の電源周波数)の偶数倍の周波数を有する高調波成分の強度変化を抽出したデータよりなる電気周波数データが、評価データとして、判定手段11に入力される。
【0029】
判定手段11は、データ取得手段20より入力された評価データ、つまり音周波数分析手段24より入力された音周波数データ、および電気周波数分析手段23より入力された電気周波数データから、アーク炉5の中の金属材料Mの溶解状態、つまり金属材料Mの溶解が、どの程度、あるいはどのような形態で進行しているかを、判定する。判定に際しては、学習手段14によって与えられた、評価データと金属材料Mの溶解状態の相関に関するモデルに基づいて、実際にデータ取得手段20から入力された評価データを解釈して、その評価データに対応する溶解状態を推定する。例えば、音周波数データにおける特定の周波数のピークの高さ等、評価データに含まれるパラメータの値について、学習手段14によって与えられた閾値との間で、大小を比較することで、金属材料Mの溶解が完了しているか否かを判定する。
【0030】
通知手段12は、判定手段11による金属材料Mの溶解状態に関する判定の結果を、溶解状態判定装置1の外部に通知する。図示した形態においては、通知手段12は、例えば演算装置10の表示画面として設けられた通知パネル60に判定の結果を出力し、作業者に、金属材料Mの溶解状態を通知する。例えば、溶解が完了して、金属材料Mの追装が可能な状態にあることや、全金属材料Mの溶落が起こったことを、画像や文字によって通知する。判定結果を、インターネット等の通信設備を用いて遠隔に通知するようにしてもよい。さらに、通知手段12は、判定手段11によって溶解が完了したと判定された際には、アーク炉5の一次側回路54に設けられた真空遮断器56に、通知として制御信号を出力し、ON状態にあった真空遮断器56をOFF状態として、電極52への電源供給を停止する。
【0031】
記憶手段13は、評価データの波形、つまり音周波数データおよび電気周波数データの波形と、アーク炉5の中の金属材料Mの溶解状態との対応関係を含むデータを、記憶している。換言すると、評価データの波形を、その波形が観測された際の金属材料Mの溶解状態と組にして記憶している。評価データの波形と金属材料Mの溶解状態に加えて、その評価データが取得された際の操業態様に関する情報も、評価データの波形および溶解状態に関連付けて、記憶させておいてもよい。
【0032】
本明細書において、「操業態様」とは、あるアーク炉5を用いてある金属材料Mの溶解を行う際の操業にかかる諸条件を包括するものである。具体的な諸条件の項目としては、アーク炉5の操業にかかる条件(アーク炉5の構成、二次側回路55における電流値および電圧値、使用予定電力量、電極52の高さ位置等)、金属材料Mの種類や量(嵩)、金属材料Mの装入にかかる条件(初装時であるか追装時であるか等)、所望される溶解の進行の程度(完全に溶解が終了している必要があるのか、ある程度未溶解の部分が残っていてもよいのか等)、追装など次の工程への移行に要する時間、アーク炉5の周辺環境(外部の騒音レベル等)を挙げることができる。
【0033】
記憶手段13で記憶するデータとしては、当該溶解状態判定装置1が備えられたアーク炉5で過去に取得されたデータ、あるいはそれに加えて、他のアーク炉で取得されたデータを挙げることができる。ある程度の量の初期データを記憶手段13に記憶させた状態から、アーク炉5の操業を繰り返す中で、データ取得手段20で新たに取得された評価データと、その評価データを用いて判定手段11で判定した溶解状態との対応関係を、初期データにさらに追加して、記憶手段13に蓄積するように構成することもできる。
【0034】
学習手段14は、記憶手段13に蓄積されたデータをもとに、評価データと、アーク炉5の中の金属材料Mの溶解状態の相関について、機械学習を行う。つまり、操業の対象となっているアーク炉5において、どのような評価データが観測された場合に、炉内の金属材料Mがどのような溶解状態にあると判定できるのか、という対応関係を解析する。例えば、評価データにおける特定のピークの高さや特定の周波数の信号強度等、評価データに含まれ、評価データから抽出することができるパラメータの値について、実測された評価データにおける値と比較して、金属材料Mの溶解が完了したか否かを判定するための閾値を、具体的な数値として決定する。機械学習の詳細については、後述する。学習手段14は、機械学習の結果を判定手段11に入力する。判定手段11は、上記のように、その機械学習の結果を用いて、実際にデータ取得手段20から入力された評価データの解釈を行う。
【0035】
ここで説明した形態では、電気周波数分析手段23、音周波数分析手段24、判定手段11、通知手段12を備えた演算装置10が、機能の一部として、記憶手段13および学習手段14をさらに含んでいるが、記憶手段13および学習手段14は、演算装置10と独立したコンピュータ等よりなる外部装置に設けるように構成してもよい。そして、外部装置を、工場外等、アーク炉5から離れた場所に設置してもよい。特に、記憶手段13に、新たに取得された評価データを、初期データに追加して蓄積しない場合や、操業態様が頻繁には変更されず、判定手段11に入力する機械学習の結果を頻繁に更新する必要がない場合、学習手段14における機械学習の演算の負荷が大きい場合等には、記憶手段13および学習手段14を外部装置に設けておくとよい。
【0036】
[金属材料の溶解方法]
以上のような構成を有するアーク炉5および溶解状態判定装置1を用いて、金属スクラップ等の金属材料Mを溶解する方法の一例について、簡単に説明する。溶解を開始する前に、予定している操業態様に応じて、評価データと溶解状態に関して、その操業に適用すべき相関性のモデル、例えば、あるパラメータに関して適用すべき閾値を、学習手段14における機械学習によって決定し、判定手段11に入力しておく。
【0037】
溶解を開始する際に、まず、アーク炉5に対して、作業者が、金属材料Mの初装を行う。そして、電極52に電源を供給して金属材料Mの溶解を進める。この間、溶解状態判定装置1は、データ取得手段20による評価データの取得を行う。そして、取得された評価データを判定手段11に入力し、あらかじめ学習手段14から入力された相関性に従って評価データを解釈し、アーク炉5の中の金属材料Mの溶解状態を、判定する。データ取得手段20による評価データの取得および判定手段11による溶解状態の判定は、溶解工程を通して、繰り返し行われる。その間に、判定手段11によって、初装された金属材料Mが十分に溶解し、追装が可能であると判定されると、通知手段12から、そのことを示す信号が出力される。具体的には、通知パネルによって、追装可能であることが作業者に通知されるとともに、アーク炉5の真空遮断器56がOFF状態とされ、電極52への電源供給が中断される。
【0038】
次に、作業者が、金属材料Mの追装を行う。その後、初装時と同様に、金属材料Mの溶解と、データ取得手段20による評価データの取得、判定手段11による溶解状態の判定を行う。追装と溶解は、複数回(例えば3回)繰り返すことができ、金属材料Mの溶解状態が、さらなる追装が可能な状態にあると判定手段11が判定し、電極52への電源供給を中断した後に、次の追装を行うようにすればよい。
【0039】
最後に追装した金属材料Mを溶解させる際には、判定手段11が、溶落が起こり、酸化精錬等、次の工程に移行できる溶解状態に達したと判定すると、通知手段12からの信号に基づき、通知パネルによって、次工程に移行できることが通知されるともに、アーク炉5の真空遮断器56がOFF状態とされ、電極52への電源供給が終了される。
【0040】
学習手段14から判定手段11に入力され、判定手段11での判定に用いられる、評価データと溶解状態の相関性に関するモデルは、追装可と判定する場合と、溶落が起こったと判定する場合で、異なっていてもよい。また、追装可と判定する場合について、初装時および複数の追装時の間で、異なっていてもよい。例えば、追装可や溶落の判定を、あるパラメータの閾値との比較において行う場合に、要求される溶解の進行の程度が、追装可の判定時と溶落の判定時で異なることを反映させて、追装可の判定と溶落の判定とで異なる閾値を適用することができる。
【0041】
[学習手段における機械学習]
上記のように、本実施形態にかかる溶解状態判定装置1においては、判定手段11での金属材料Mの溶解状態の判定において、実際に取得された評価データを解釈するための基礎として、学習手段14における機械学習によって得られる、評価データと金属材料Mの溶解状態の相関性に関するモデルを用いる。もし、金属材料Mの溶解状態の判定の基礎として用いる評価データと金属材料Mの溶解状態の相関性に関するモデルを、機械学習を行わずに設定するとすれば、実際のアーク炉5における両者の関係性を正確に反映したモデルを設定することが、困難となる可能性がある。また、操業態様の変化等の要因により、金属材料Mの溶解状態が、炉内発生音や一次側回路54の電流値の挙動に与える影響の形態が変化した際に、評価データに基づく溶解状態の判定を正確に行えなくなる可能性がある。操業態様は、アーク炉5ごとに、また、単一のアーク炉5における操業ごとにも、変化しうる。
【0042】
これに対し、上記のように、機械学習を用いて、評価データと金属材料Mの溶解状態の間の相関性を解析する場合、両者の間に実際に観測された結果に基づいて、評価データと溶解状態の間の対応関係を見積もったうえで、その対応関係のモデルを基礎として用いて、溶解状態の判定を行うことができる。よって、評価データと金属材料Mの溶解状態との間の相関性の把握、およびそれに基づく溶解状態の判定を、実態に即して、正確に行うことが可能となる。また、操業態様によって、溶解状態と評価データとの対応関係が変化したとしても、機械学習によって、その操業態様に応じた対応関係のモデルを導き出すことで、その操業態様における評価データと溶解状態の間の実際の対応関係に即して、溶解状態の判定を正確に行うことが可能となる。
【0043】
具体的な機械学習の方法は、記憶手段13に記憶された評価データと金属材料Mの溶解状態の対応関係を含むデータから、評価データと金属材料Mの相関性に関する学習を実行できるものであれば、特に限定されるものではない。教師あり学習、半教師あり学習、教師なし学習のいずれを用いてもよいが、これらのうち、教師あり学習、または半教師あり学習を好適に用いることができる。機械学習に用いられるアルゴリズムも特に限定されるものではなく、線形回帰、サポートベクターマシン等の回帰型、k近傍法等のクラスタリング型、決定木等のツリー型、ディープラーニングや自己組織化マップ等のニューラルネットワーク型の各アルゴリズムを例示することができる。後に例示するなかで、着目すべきパラメータを指定しない形態においては、ディープラーニングを用いることが好ましい。
【0044】
以下、機械学習による評価データと金属材料Mの溶解状態の相関性の解析について、説明する。相関性の解析は、着目すべきパラメータを指定する場合と、指定しない場合に、大別することができる。
【0045】
(1)着目すべきパラメータを指定する場合
評価データを構成する音周波数データや電気周波数データには種々のパラメータ(波形から数値として抽出可能な量)が含まれ、アーク炉5の中の金属材料Mの溶解状態が、それらのパラメータに反映されうる。評価データに含まれるパラメータとしては、信号強度、ピークの高さ、ピークの幅、ノイズレベル等を挙げることができる。また、データ上の異なる領域での値の差や比率、異なるパラメータ間での値の比を挙げることができる。
【0046】
ここでは、いかなるパラメータに着目して、評価データと金属材料Mの溶解状態の相関性を解析し、モデルを作成するかを指定して、機械学習を行わせる形態について説明する。つまり、作業者や溶解状態判定装置1の設計者等がパラメータを指定したうえで、学習手段14が、指定されたパラメータの値がどのように変化した場合に、金属材料Mの溶解状態がどのように変化していると対応づけることができるのかを、機械学習によって解析する。例えば、溶解が進行するほど値が増加または減少するパラメータについて、所望の程度まで溶解が進行して溶解完了と判定することができる閾値を、いかなる具体的な値に設定すべきかを、機械学習によって決定する。このように、評価データと金属材料Mの溶解状態の間の対応付けを、既知のパラメータに着目して行うことで、後に説明するように、未知のパラメータを、特徴量として機械学習によって算出させる形態に比べて、評価データの解釈を、明快に、また簡便に行うことができる。
【0047】
そして、既知のパラメータについて、金属材料Mの溶解状態の判定を、学習手段14が算出した閾値と実測値との比較によって、溶解が完了しているか否かという二者択一の判定として行うことで、判定手段11による判定や、通知手段12による通知を、簡素に行うことができる。ただし、一段階の閾値のみを設定し、その閾値との比較によって、金属材料Mの溶解状態を、溶解が完了したか否かという二者択一の方式で判定する形態に限らず、閾値を多段階に設定し、溶解の進行の程度を多段階で判定するようにしてもよい。あるいは、特定の閾値を設けずに、そのパラメータの値を、溶解の進行の程度や、溶解の不均一性等、金属材料Mの溶解状態に、連続的に対応づけるようにしてもよい。
【0048】
着目するパラメータは、過去の実績等に基づいて、設定することができる。そして、作業者や設計者等が選択した着目するパラメータについて、具体的な閾値を、学習手段14における機械学習によって、記憶手段13に記憶されたデータをもとに、決定すればよい。以下に、着目すべきパラメータが既知であり、そのパラメータに着目することを指定して学習手段14に機械学習を行わせる場合について、具体例を挙げる。
【0049】
(1-1)音周波数データにおける高調波ピークの高さに着目する形態
アーク炉5の中で金属材料Mの溶解が進行するのに伴って、炉内発生音が変化することが知られている。溶解があまり進行していないうちは、不均一に堆積した金属材料Mに対して離散的にアーク放電が起こることに対応して、雷鳴のような間欠的な音が発生するのに対して、溶解が進行すると、連続的な音に変化することが知られている。このような音の変化は、炉内発生音を周波数分析した音周波数データによく反映される。
【0050】
図3(a)に示すように、溶解の初期には、基本周波数の偶数倍(例えば4倍;200Hz)を含む領域において、信号強度に明確な周波数依存性が見られず、広い周波数領域の音が同程度の強度で観測されている。これに対し、
図3(b)に示すように、溶解の終期には、基本周波数の偶数倍の周波数を中心とした一部の周波数領域で信号強度が強くなる一方、その周囲の周波数の信号強度が弱くなり、基本周波数の偶数倍の周波数を中心とした明確なピーク構造が観測されるようになる。
【0051】
そこで、基本周波数の偶数倍の周波数を含んだピーク(高調波ピーク)の高さを、着目するパラメータとして採用し、判定手段11による溶解状態の判定に用いればよい。例えば、高調波ピークの高さに閾値(
図3中のT)を設け、実際に観測される高調波ピークの高さがその閾値以上となる状態が、所定時間以上持続した場合に、金属材料Mの溶解が完了したと判定することができる。高調波ピークの高さの評価においては、高調波ピークの高さを音周波数データから読み取り、その高さが閾値T以上となる状態が所定時間以上持続した場合に、溶解完了と判定すればよい。高調波ピークの高さは、例えば、高調波ピークの頂点の強度と、高調波ピークの低周波側および高周波側の領域(
図3中の領域Qおよび領域Rに相当する周波数領域)の信号強度の平均値との差として、読み取ることができる。例えば、溶解初期の
図3(a)では、高調波ピークの高さは10dB以下であり、溶解終期の
図3(b)では、約40dBとなっている。
【0052】
あるいは、高調波ピークの高さを読み取って閾値と比較する代わりに、閾値を用いて設定した複数の領域に各周波数の信号成分が入っているかどうかを判定してもよい。例えば、
図3においては、2つの閾値T1,T2(T1>T2)に基づいて、3つの領域(領域P,Q,R)を設定している。基本周波数の偶数倍の周波数を中心として、閾値T1によって規定される領域Pに、少なくとも一部の信号成分が入り、かつ、領域Pよりも低周波側に閾値T2によって規定される領域Qと、高周波側に閾値T1によって規定される領域Rに、当該周波数の信号成分が全て入った状態が、一定時間以上持続した場合に、溶解が完了したと判定すればよい。溶解初期の
図3(a)では、信号が領域Pに全く入っておらず、また、一部が領域Qに収まっていない。一方、溶解終期の
図3(b)では、信号の一部が領域Pに入っており、また、領域Q,Rに収まっている。
【0053】
ここで、判定に用いる閾値、つまり高調波ピークの高さの閾値T、あるいは領域P,Q,Rを規定する閾値T1,T2の決定を、学習手段14における機械学習によって行う。この際、記憶手段13には、音周波数データと、その音周波数データが観測された際の金属材料Mの溶解状態、つまり溶解が完了しているか完了していないかの情報とを対応づけたデータを、多数記憶させておく。それらのデータは、操業の対象となっているアーク炉5、および/または同じ構成を有する別のアーク炉で取得されたものとする。さらに、別の構成を有するアーク炉で取得されたデータを加えてもよい。
【0054】
学習手段14は、記憶手段13に記憶されたそれらのデータに基づいて、機械学習を行い、アーク炉5での溶解完了の可否の判定に用いるべき、高調波ピークの高さに関する閾値を算出する。つまり、どのような閾値を設定すれば、その閾値と実測値との比較によって、溶解が完了しているか否を精度良く判定することができるのかを、決定する。また、高調波ピークの高さが閾値以上となる状態、あるいは領域P,Q,Rと信号強度が所定の関係を満たす状態の持続をもって、溶解完了と判定するための所定時間の長さについても、同様に、機械学習によって決定することができる。例えば、どの程度の時間にわたって閾値との比較を行えば、偶発的なノイズの影響を十分に抑えて正確な判定を行いうるかを、決定すればよい。
【0055】
さらに、記憶手段13に、音周波数データに対応づけて記憶させるデータを、その音周波数データが観測された際の金属材料Mの溶解状態のみならず、その音周波数データが観測された際の操業態様に関する情報を含んだものとしておけば、学習手段14によって閾値を決定する際に、操業を予定している個別の溶解工程について、個別の操業態様を考慮して、溶解状態の正確な判断に適した閾値を設定することが可能となる。記憶手段13に記憶されるデータに含ませる操業態様の項目としては、上記のとおり、アーク炉5の操業にかかる条件(アーク炉5の構成、二次側回路55における電流値および電圧値、使用予定電力量、電極52の高さ位置等)、金属材料Mの種類や量(嵩)、金属材料Mの装入にかかる条件(初装時であるか追装時であるか等)、所望される溶解の進行の程度(完全に溶解が終了している必要があるのか、ある程度未溶解の部分が残っていてもよいのか等)、追装など次の工程への移行に要する時間、アーク炉5の周辺環境(外部の騒音レベル等)を例示することができる。例えば、金属材料Mの量が多い時や、完全に溶解が終了していることが要求される場合には、高調波ピークの高さの閾値を高く設定する、また、外部の騒音レベルが高い場合には、閾値との比較を行う所定時間を長く設定する等の因子を、機械学習において考慮し、閾値や所定時間の設定を行うことが可能となる。
【0056】
閾値の決定において考慮すべき操業態様の項目が多岐にわたる場合に、もし、それら項目の組み合わせよりなる個別の操業態様に対応した閾値を、予め作業者や設計者等が決定し、判定手段11に与えておくとすれば、それぞれの項目が閾値にどのように影響するのかを人間が解析し、適切に各項目の内容を反映した閾値を設定する必要が生じるが、そのような閾値の設定には、困難が伴いやすい。例えば、操業態様のうち、アーク炉5の使用予定電力量および金属材料Mの種類と量という3つの項目を考慮して閾値を決定しなければならないとすれば、3つそれぞれの項目が、設定すべき閾値の大きさにどのように影響するのか、また3つそれぞれの項目の影響がどのように相互作用するのかを考慮したうえで、適切に閾値を設定しなければならない。操業態様を規定する項目の数が多くなり、また各項目における態様の変化が多様になると、項目の組み合わせの数に応じて、予め準備しておかなければならない閾値の数も多くなる。しかし、各項目を考慮した閾値の決定を、学習手段14における機械学習を用いて行うことで、複数の項目の組み合わせよりなる個別の操業態様ごとに、各項目による影響を反映した閾値を、適切に決定することが可能となる。項目の数の増加や多様な変化にも対応しやすい。さらに、予定している操業と同じ操業態様を適用した操業で取得されたデータが、記憶手段13に記憶されている中に存在しない場合でも、その予定している操業態様に適した閾値を機械学習によって算出し、判定手段11における溶解状態の判定に利用することができる。また、溶解工程の途中に、意図せずに操業態様が変化してしまった場合等には、その溶解工程において既に取得された評価データを利用して、学習手段13における機械学習をやり直し、閾値を途中で変更することも可能である。
【0057】
(1-2)電気周波数データにおける高調波成分の強度に着目する形態
アーク炉5の中で金属材料Mの溶解が進行するのに伴って、アーク炉5から発生する高調波が減少することが知られている。アーク炉5から発生する高調波は、電極52に電源を供給する電源回路の一次側回路54の電流および電圧に、基本周波数の偶数倍の周波数を有する高調波成分として現れる。よって、一次側回路54の電流および電圧において、基本周波数の偶数倍(例えば2倍)に相当する高調波の強度の時間変化を観察することで、アーク炉5の中の金属材料Mの溶解状態を判定することができる。
【0058】
図4に、計器用変流器22で計測される一次側回路54の電流における各次数の高調波成分の強度の時間変化を示す。図では、次数(周波数が基本周波数の何倍であるか)が異なる複数の偶数次の高調波成分について、測定結果を示している。
図4によると、初装時および2回の追装時のそれぞれの溶解工程において、溶解の終期に近づくまでは、高調波成分の強度が大きくは変化していない。しかし、溶解の終期において、高調波成分の強度が、徐々に低下している。
【0059】
そこで、高調波成分の強度を、着目するパラメータとして採用し、判定手段11による溶解状態の判定に用いればよい。例えば、ある次数の高調波成分の強度に閾値を設定し、実際に観測されるその次数の高調波成分の強度が、設定した閾値以下となる状態が、所定時間以上持続した場合に、金属材料Mの溶解が完了したと判定することができる。
図4の例において、初装時の溶解において、2次高調波に対する閾値を0.15kVに設定すると、溶解の初期においては、2次高調波成分の強度がその閾値を上回っているが、溶解の終期近くに2次高調波の強度が徐々に低下し、閾値を下回るようになっている。その後も2次高調波の強度は低下を続けるが、その強度が閾値以下となった状態が所定時間以上持続した時点で、初装時の溶解が完了し、追装可となったと判定することができる。
【0060】
ここで、判定に用いる高調波成分の強度の閾値の決定を、学習手段14による機械学習によって行う。この際、記憶手段13には、電気周波数データと、その電気周波数データが観測された際の金属材料Mの溶解状態、つまり溶解が完了しているか完了していないかの情報とを対応づけたデータを、多数記憶させておく。
【0061】
学習手段14は、記憶手段13に記憶されたそれらのデータに基づいて、機械学習を行い、アーク炉5での溶解完了の可否の判定に用いるべき、高調波成分の強度に関する閾値を算出する。つまり、実測値との比較によって溶解が完了しているか否かを判定するのに用いる閾値として、その判定を精度良く行うことができるような閾値を決定する。また、高調波成分の強度が閾値以下となる状態の持続をもって溶解完了と判定するための所定時間の長さについても、同様に、機械学習によって決定することができる。
【0062】
さらに、上記音周波数データの場合と同様に、記憶手段13に、電気周波数データに対応づけて記憶させておく情報を、その電気周波数データが観測された際の金属材料Mの溶解状態のみならず、その電気周波数データが観測された際の操業態様の情報を含んだものとしておけば、学習手段14によって閾値を決定する際に、操業を予定している個別の溶解工程について、個別の操業態様を考慮して、溶解状態の正確な判断に適した閾値を設定することが可能となる。その他、記憶手段13における記憶、および学習手段14における機械学習の形態について、上記で音周波数データを利用する場合について説明したのと同様の形態を、電気周波数データを利用する場合にも、好適に適用することができる。
【0063】
なお、ここで説明した形態においては、計器用変流器22で取得された一次側回路54の電流値を周波数分析して、その結果を電気周波数データとし、電流の高調波成分の強度を金属材料Mの溶解状態の判定に用いているが、一次側回路54の電圧の高調波成分、つまり基本周波数の偶数倍の周波数の電圧成分も、電流の高調波成分と同様に、金属材料Mの溶解状態と高い相関性を有し、溶解が進行するのに伴って、強度が低下する挙動を示す。そこで、一次側回路54に、計器用変流器22の代わりに計器用変圧器を設置し、一次側回路54の電圧値を計測して周波数分析し、その結果を電気周波数データとして利用することもできる。
【0064】
(1-3)複数のパラメータを候補とする形態
上記で説明した2つの具体例においては、それぞれ、音周波数データにおける高調波ピークの高さ、および電気周波数データにおける高調波成分の強度に着目し、それぞれの値に対して学習手段14での機械学習によって設定される閾値を用いて、金属材料Mの溶解状態の判定を行っている。
【0065】
しかし、音周波数データにおける高調波ピークの高さと電気周波数データにおける高調波成分の強度の両方を、金属材料Mの溶解判定に同時に用いることもできる。この際、いずれを判定に用いるかの決定、また、両方を判定に用いる場合の、判定結果へのそれぞれの寄与の形態の決定を、学習手段14における機械学習によって行うことができる。
【0066】
その場合に、記憶手段13に、音周波数データと金属材料Mの溶解状態とを関連付けた情報と、電気周波数データと金属材料Mの溶解状態とを関連付けた情報の両方を、記憶させておく。好ましくは、同一の溶解工程において取得された音周波数データと電気周波数データの両方を、共通の金属材料Mの溶解状態と対応付けた情報を記憶させておくとよい。また、本形態においても、金属材料Mの溶解状態のみならず、各音周波数データおよび電気周波数データが観測された際の操業態様を含んだ情報を記憶させておいてもよい。
【0067】
学習手段14は、記憶手段13に記憶されたそれらのデータに基づいて、機械学習を行い、アーク炉5での溶解完了の可否の判定に用いるべきパラメータの種類を決定する。この場合には、音周波数データの高調波ピークの高さと、電気周波数データの高調波成分の強度のいずれを判定に用いるか、あるいは両方を用いるかを、決定する。さらに、複数のパラメータを用いると決定した場合には、溶解状態の判定において、各パラメータに基づく判断をどのような寄与形態で併用するかを決定する。採用するパラメータを決定した後に、学習手段14はさらに、それぞれのパラメータに対して適用する閾値、および閾値との比較を行う所定時間も決定する。
【0068】
これらの決定に際しては、候補となるパラメータのうち、いずれを用いれば、金属材料Mの溶解状態を精度良く判定できるか、つまり、いずれのパラメータが、対象としている溶解状態の変化を敏感に、また正確に反映するかを、考慮すればよい。例えば、電気周波数データにおける高調波成分の強度の低下は、金属材料Mの溶解が終期にあることを比較的早い時期に反映する一方、音周波数データにおける高調波ピークの成長は、金属材料Mの溶解が比較的よく進行してから観測される。そこで、次に追装する予定の金属材料Mの嵩が小さい場合等、溶解が終期に差しかかっていることを比較的早く通知したい場合には、電気周波数データにおける高調波成分の低下を、判定に利用すればよい。一方、次に追装する予定の金属材料Mの嵩が大きい場合等、溶解が完全に終了するまで、あるいはその直前まで溶解を進めてから通知したい場合には、音周波数データにおける高調波ピークの成長を、判定に利用すればよい。
【0069】
このように、予定している操業態様に応じて、採用するパラメータを選択することができる。複数のパラメータについて、閾値を基準とする判定を併用する際の、各パラメータについての判定の寄与形態としては、例えば、採用した全てのパラメータの実測値が閾値を超えた際に、所定の溶解状態(例えば溶解完了)に達したと判定するようにしてもよいし、少なくともいずれか1つのパラメータの実測値が閾値を超えた際に、所定の溶解状態に達したと判定するようにしてもよい。あるいは、複数のパラメータの間で重みづけを行うこともできる。重みづけの具体例としては、あるパラメータAについては、閾値を満たす状態が所定時間Taだけ持続すればよいが、別のパラメータBについては、閾値を満たす状態が、所定時間Taよりも長い所定時間Tbだけ持続する必要があるというように、持続時間に差をつける形態が考えられる。また、あるパラメータAについては必ず閾値を超える必要があるが、別のパラメータBおよびパラメータCについては、一方のみが閾値を超えていればよいというように、条件を満足する必要性の程度に差をつける形態が考えられる。
【0070】
ここで示した具体例においては、候補となるパラメータとして、音周波数データの高周波ピークの高さと、電気周波数データの高周波成分の強度のみを扱っている。しかし、音周波数データおよび電気周波数データに現れるそれら以外のパラメータを、金属材料Mの溶解状態の判定に用いるパラメータの候補として採用してもよい。そのような波形上の特徴としては、種々のピークの強度や幅、ノイズ、所定の周波数における信号強度、あるいはそれらの値について、データ上の異なる点での測定値の差や比率(例えば、2つの異なる周波数での強度の比)、異なるパラメータ間での値の比(例えば、ピーク強度とノイズレベルの比)等を挙げることができる。また、音周波数データや電気周波数データに現れるパラメータに加え、投入電力量等、金属材料Mの溶解状態と相関を有する他のパラメータを、判定に併用してもよい。
【0071】
(2)着目すべきパラメータを指定しない場合
上記では、音周波数データおよび/または電気周波数データよりなる評価データにおいて、いかなるパラメータに着目して、金属材料Mの溶解状態の判定を行うかを、作業者や設計者等が指定したうえで、閾値の決定等、そのパラメータと金属材料Mの溶解状態の間の具体的な対応付けを、機械学習によって、学習手段14に行わせている。しかし、着目すべきパラメータを作業者や設計者等が指定することなく、学習手段14に機械学習を行わせ、評価データと金属材料Mの溶解状態の間の相関性を抽出させることもできる。つまり、評価データにおいて、どのような観点に着目し、金属材料Mの溶解状態との対応づけおよび溶解状態の判定に用いればよいか、というその観点自体を、学習手段14における機械学習によって、獲得させることができる。
【0072】
この場合にも、記憶手段13には、評価データと、その評価データが観測された際の金属材料Mの溶解状態とが対応づけられたデータが、記憶される。記憶されるデータはさらに、各評価データが観測された際の操業態様に関する情報を含んだものであることが好ましい。
【0073】
学習手段14は、記憶手段13に記憶されたデータをもとに、評価データと金属材料Mの溶解状態との間の相関性について、機械学習を行う。この際、学習手段14は、評価データの波形において、金属材料Mの溶解状態との間に相関を有する特徴量を算出する。例えば、金属材料Mの溶解が完了した状態における評価データの波形に共通する特徴、および/または金属材料Mの溶解が完了していない状態における評価データの波形に共通する特徴を、発見して抽出する。
【0074】
特徴量の算出には、例えばディープラーニングを用いることができる。ディープニューラルネットワークにおいて、入力層に、金属材料Mの溶解状態でラベルされた評価データが入力される。入力層に入力されたデータは、複数の隠れ層よりなる中間層に伝達される。そして、中間層によって、評価データの波形における特徴量が算出され、その特徴量が出力層より出力される。
【0075】
学習手段14が機械学習の結果として算出した特徴量は、判定手段11に入力される。そして、判定手段11は、その特徴量を基準として、実際にデータ取得手段20で取得された評価データを解釈し、アーク炉5の中の金属材料Mの溶解状態を判定する。例えば、学習手段14が、金属材料Mの溶解が完了した状態における評価データの波形に共通する特徴、および/または金属材料Mの溶解が完了していない状態における評価データの波形に共通する特徴を、特徴量として算出している場合に、判定手段11は、データ取得手段20で取得された評価データの波形を、学習手段14によって出力された特徴量に基づいて解釈し、その評価データの波形が、金属材料Mの溶解が完了した状態に対応づけられるのか、あるいは、金属材料Mの溶解が完了していない状態に対応づけられるのか、いずれであるかを判定する。
【0076】
このように、着目すべきパラメータを指定するのではなく、機械学習によって、評価データの波形から、金属材料Mの溶解状態と相関を有する特徴量を算出させることで、金属材料Mの溶解状態をよく反映する特徴量を発見することができる。そして、評価データと金属材料Mの溶解状態との対応付けを、上記のように着目すべきパラメータを指定する場合よりも高い精度で行い、溶解状態を正確に判定することが可能となる。特に、金属材料Mの溶解状態が、評価データの波形において、特定のピークの高さや特定の周波数の信号強度のように、明確なパラメータとしては把握できない特徴として現れている場合であっても、そのような特徴を抽出して、判定手段11における評価データの解釈の基礎として利用することができる。つまり、明確なパラメータとしては表現することができないような波形の類似点や相違点を、記憶手段13に記憶された評価データから抽出し、実際にデータ取得手段20で取得された評価データとの間で、画像パターンとしての波形そのものを対比するようにして、波形の間の類似点や相違点を比較して、溶解状態の判定を行うことができる。人間が評価データから認識しえない特徴を、機械学習によって発見できる場合もあり、そのような場合には、特に高い精度で、溶解状態の判定を行うことが可能となる。
【0077】
さらに、記憶手段13に記憶させる情報が、評価データと、その評価データが観測された際の金属材料Mの溶解状態に加え、その評価データが観測された際の操業態様に関する情報を含んでいる場合には、溶解状態に加え、操業態様にかかる多数の項目と、評価データの間に、どのような相関性があるのかについても、学習手段14による機械学習によって、発見することが可能となる。多岐にわたる項目のそれぞれの影響が、評価データの波形上にどのような特徴として現れるのか、またそれらの影響が波形上でどのように相互作用するのかを、人間が解析するのは困難であるが、多数のデータを記憶手段13に記憶させておき、学習手段14に機械学習を実行させることで、各項目による影響の波形上の特徴への対応づけ、またそれらの影響の波形における相互作用の解析を、定量的に行うことができる。その結果、操業態様を規定する項目の数が多くなっても、また各項目の態様が多様に変化しても、個別の操業態様に応じて、評価データの波形と溶解状態の間の相関性に関するモデルを作成し、金属材料Mの溶解状態を、精度良く判定することが可能となる。
【0078】
[変形形態]
ここまで説明した形態においては、
図1に示すように、アーク炉5の蓋51に設けられた電極52に、一次側回路54から炉用変圧器53を介して、三相交流が供給されている。しかし、
図5に変形形態として示すように、蓋51と炉体50の底にそれぞれ電極52,52’を設け、それらの電極52,52’の間に直流を流す形態としてもよい。この場合には、整流回路等を備えてなる電源変換装置53’によって、炉用変圧器53から出力された交流を直流に変換して、直流の出力のマイナス側およびプラス側の一方を蓋51の電極52に、他方を炉底の電極52’に接続すればよい。この場合にも、炉用変圧器53の一次側の電流または電圧を周波数解析したものを、電気周波数データとして利用することができる。
【0079】
また、
図1および
図5では、一次側回路54に計器用変流器22(または計器用変圧器)を設置し、一次側回路54の電流値(または電圧値)に対応する信号を、電気周波数分析手段23に入力している。電気周波数分析手段23は、その信号を周波数分析し、周波数ごとの強度分布のデータそのもの、あるいはその強度分布から、基本周波数の偶数倍の周波数を有する高調波成分の強度変化を抽出したデータよりなる電気周波数データを、評価データとして、判定手段11に入力している。しかし、判定手段11において、電気周波数データとして、基本周波数の偶数倍の周波数を有する高調波成分の強度変化の情報をもっぱら用いる場合には、計器用変流器22(または計器用変圧器)および電気周波数分析手段23を省略し、代わりに、一次側回路54に、一次側電流(または電圧)の高調波成分の強度を計測する高調波計を設けてもよい。この場合には、高調波計によって出力される高調波成分の強度に対応する電気信号を、判定手段11に直接入力し、評価データとして用いればよい。
【0080】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0081】
1 溶解状態判定装置
10 演算装置
20 データ取得手段
21 騒音計
22 計器用変流器(一次側変流器)
5 アーク炉
50 炉体
51 蓋
52 電極
53 炉用変圧器
54 一次側回路
55 二次側回路
56 真空遮断器
M 金属材料