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特許7200542アクリルゴム系グラフト共重合体および熱可塑性樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】アクリルゴム系グラフト共重合体および熱可塑性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 265/06 20060101AFI20221227BHJP
   C08L 51/00 20060101ALI20221227BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
C08F265/06
C08L51/00
C08L101/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018157579
(22)【出願日】2018-08-24
(65)【公開番号】P2020029545
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】396021575
【氏名又は名称】テクノUMG株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】前田 一彦
(72)【発明者】
【氏名】深町 雄介
(72)【発明者】
【氏名】平田 浩二
(72)【発明者】
【氏名】谷川 寛
【審査官】飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-196715(JP,A)
【文献】特開2000-095918(JP,A)
【文献】特開2006-028393(JP,A)
【文献】特開平09-216988(JP,A)
【文献】特開平09-316279(JP,A)
【文献】特開平04-253618(JP,A)
【文献】特開昭49-011982(JP,A)
【文献】特開昭57-044641(JP,A)
【文献】特開昭60-137959(JP,A)
【文献】特開平07-145287(JP,A)
【文献】国際公開第2018/062378(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/016473(WO,A1)
【文献】特開2015-172185(JP,A)
【文献】特開2000-095945(JP,A)
【文献】特開2005-112992(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 265/06
C08L 51/00
C08L 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル酸アルキルエステル系単量体単位と多官能性単量体単位を含むゴム質重合体(a)の存在下に、ビニル系単量体をグラフト重合してなるグラフト共重合体であって、
ゴム質重合体(a)100質量%中のアクリル酸アルキルエステル系単量体単位の含有量が75質量%以上であり、多官能性単量体単位の含有量がアクリル酸アルキルエステル系単量体単位100質量部に対して1.0~3.3質量部であり、
アクリルゴム系グラフト共重合体(A)100質量部中のゴム質重合体(a)の含有量が10~90質量部であり、
前記ビニル系単量体が芳香族ビニル系単量体と不飽和ニトリル系単量体を含む単量体混合物であり、
該単量体混合物100質量%中の芳香族ビニル系単量体の割合が20~97質量%で、不飽和ニトリル系単量体の割合が3~50質量%であり、
下記(1)~(5)の物性をすべて満たすことを特徴とするアクリルゴム系グラフト共重合体(A)。
(1) 該ゴム質重合体(a)の体積平均粒子径が100~300nmである。
(2) 該グラフト共重合体のメタノール不溶分中のアセトン可溶分が5~20質量%である。
(3) 該グラフト共重合体のグラフト率が70~120%である。
(4) 目開き20メッシュの篩にて粗粒を篩別した該グラフト共重合体2gを50mlメスリンダーに入れ、全容積が50mlとなるようにトルエンを加え、23℃で24時間静置した際の該グラフト共重合体膨潤体の体積が10~35mlである。
(5) JIS-K-6720規格に準拠して測定した該グラフト共重合体の嵩密度が0.40~0.60g/cmである。
【請求項2】
前記アクリル酸アルキルエステル系単量体がアクリル酸n-ブチルである請求項1に記載のアクリルゴム系グラフト共重合体(A)。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のアクリルゴム系グラフト共重合体(A)を含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
アクリルゴム系グラフト共重合体(A)以外の他の熱可塑性樹脂(B)を、アクリルゴム系グラフト共重合体(A)と熱可塑性樹脂(B)との合計100質量部中に95質量部以下含むことを特徴とする請求項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
熱可塑性樹脂(B)として、アクリルゴム系グラフト共重合体(A)以外のグラフト共重合体を含まないか、或いは、熱可塑性樹脂(B)としてのアクリルゴム系グラフト共重合体(A)以外のグラフト共重合体の含有量が、アクリルゴム系グラフト共重合体(A)と熱可塑性樹脂(B)との合計100質量部に対して30質量部未満であることを特徴とする請求項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項ないしのいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなることを特徴とする熱可塑性樹脂成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種工業材料として有用なアクリルゴム系グラフト共重合体及び熱可塑性樹脂組成物と熱可塑性樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コストダウンや貿易障壁回避および製品安定供給の観点から、海外生産拠点での生産が加速化している。この際、必要となる原料を海外の生産拠点で輸送する必要があるが、原料の嵩密度や貯蔵安定性が低下すると、輸送コストの上昇、輸送時の固結の問題があり、また、他の硬質樹脂とのブレンドによる熱可塑性樹脂組成物製造の際に分級を起こしやすくなるという問題が発生する。このため、より高い嵩密度および貯蔵安定性を有する材料の要求が高まっている。
【0003】
一方、ABS樹脂に代表されるスチレン系ゴム強化樹脂は、成形性や衝撃特性を有すると共に、塗装性やめっき性などといった二次加工性を有していることから、事務機器、電気電子機器、自動車、建材などの幅広い用途に使用されているが、最近では、軽量化やコストダウンを目的とした成形品の薄肉化、高流動化、塗装レス化、単一材料での多用途化が進められており、その影響で耐衝撃性、流動性、耐候性、耐薬品性に加え、成形条件に依存せず安定して高外観を発現する成形材料としての要求が高まっている。
【0004】
例えば、特許文献1には、耐衝撃性、流動性、表面光沢、熱安定性に優れ、かつブロンズ現象を改良した熱可塑性樹脂組成物として、特定構造のアクリル酸エステル系ゴムを有するグラフト共重合体と、芳香族ビニル系単量体およびアルキル(メタ)アクリレート系単量体を必須成分とする共重合体からなる熱可塑性樹脂組成物が提案されている。しかし、この熱可塑性樹脂組成物は、共重合体中にアルキル(メタ)アクリレート系単量体を含むため、耐熱性および高温成形時の熱安定性の点で、近年の厳しいニーズに充分対応し得るものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-241283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記事情を鑑みてなされたものであり、外観性能に対する成形条件依存性が小さく、耐衝撃性、耐薬品性、成形品の表面外観および高温成形時の熱安定性に優れた熱可塑性樹脂組成物を提供し得る高嵩密度のアクリルゴム系グラフト共重合体と、このアクリルゴム系グラフト共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物およびその成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、アクリル酸アルキルエステル系単量体単位と多官能性単量体単位を含む、特定の体積平均粒子径のゴム質重合体にビニル系単量体をグラフト重合してなる特定のアクリルゴム系グラフト共重合体を用いることで、上記課題を解決できることを見出した。
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0008】
[1] アクリル酸アルキルエステル系単量体単位と多官能性単量体単位を含むゴム質重合体(a)の存在下に、ビニル系単量体をグラフト重合してなるグラフト共重合体であって、下記(1)~(5)の物性をすべて満たすことを特徴とするアクリルゴム系グラフト共重合体(A)。
(1) 該ゴム質重合体(a)の体積平均粒子径が100~300nmである。
(2) 該グラフト共重合体のメタノール不溶分中のアセトン可溶分が5~20質量%である。
(3) 該グラフト共重合体のグラフト率が70~120%である。
(4) 目開き20メッシュの篩にて粗粒を篩別した該グラフト共重合体2gを50mlメスリンダーに入れ、全容積が50mlとなるようにトルエンを加え、23℃で24時間静置した際の該グラフト共重合体膨潤体の体積が10~35mlである。
(5) JIS-K-6720規格に準拠して測定した該グラフト共重合体の嵩密度が0.40~0.60g/cmである。
【0009】
[2] 前記アクリル酸アルキルエステル系単量体がアクリル酸n-ブチルである[1]に記載のアクリルゴム系グラフト共重合体(A)。
【0010】
[3] ゴム質重合体(a)100質量%中のアクリル酸アルキルエステル系単量体単位の含有量が75質量%以上であり、多官能性単量体単位の含有量がアクリル酸アルキルエステル系単量体単位100質量部に対して1.0~3.3質量部である[1]又は[2]に記載のアクリルゴム系グラフト共重合体(A)。
【0011】
[4] アクリルゴム系グラフト共重合体(A)100質量部中のゴム質重合体(a)の含有量が10~90質量部であり、前記ビニル系単量体が芳香族ビニル系単量体と不飽和ニトリル系単量体を含む単量体混合物であり、該単量体混合物100質量%中の芳香族ビニル系単量体の割合が20~97質量%であることを特徴とする[1]ないし[3]のいずれかに記載のアクリルゴム系グラフト共重合体(A)。
【0012】
[5] [1]ないし[4]のいずれかに記載のアクリルゴム系グラフト共重合体(A)を含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【0013】
[6] アクリルゴム系グラフト共重合体(A)以外の他の熱可塑性樹脂(B)を、アクリルゴム系グラフト共重合体(A)と熱可塑性樹脂(B)との合計100質量部中に95質量部以下含むことを特徴とする[5]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0014】
[7] 熱可塑性樹脂(B)として、アクリルゴム系グラフト共重合体(A)以外のグラフト共重合体を含まないか、或いは、熱可塑性樹脂(B)としてのアクリルゴム系グラフト共重合体(A)以外のグラフト共重合体の含有量が、アクリルゴム系グラフト共重合体(A)と熱可塑性樹脂(B)との合計100質量部に対して30質量部未満であることを特徴とする[6]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0015】
[8] [5]ないし[7]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなることを特徴とする熱可塑性樹脂成形品。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、外観性能に対する成形条件依存性が小さく、耐衝撃性、耐薬品性、成形品の表面外観および高温成形時の熱安定性に優れた熱可塑性樹脂組成物を提供し得る高嵩密度のアクリルゴム系グラフト共重合体を提供することができる。本発明のアクリルゴム系グラフト共重合体を含む本発明の熱可塑性樹脂組成物およびその成形品は、近年、その需要が拡大している車両内外装材用途や建材用途、家電品用途に利用することができ、その工業的利用価値は極めて高い。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0018】
なお、本願明細書において「単位」とは、重合前の単量体化合物(モノマー)に由来する構造部分をさし、例えば、「アクリル酸アルキルエステル系単量体単位」とは「アクリル酸アルキルエステル系単量体に由来する構造部分」をさす。
また、本願明細書において「(メタ)アクリル」とは「アクリル」と「メタクリル」の一方または双方をさす。
【0019】
[アクリルゴム系グラフト共重合体(A)]
本発明のアクリルゴム系グラフト共重合体(A)は、アクリル酸アルキルエステル系単量体単位と多官能性単量体単位を含むゴム質重合体(a)の存在下に、ビニル系単量体をグラフト重合してなるグラフト共重合体であって、下記(1)~(5)の物性をすべて満たすことを特徴とする。
(1) 該ゴム質重合体(a)の体積平均粒子径が100~300nmである。
(2) 該グラフト共重合体のメタノール不溶分中のアセトン可溶分が5~20質量%である。
(3) 該グラフト共重合体のグラフト率が70~120%である。
(4) 目開き20メッシュの篩にて粗粒を篩別した該グラフト共重合体1gを50mlメスリンダーに入れ、全容積が50mlとなるようにトルエンを加え、23℃で24時間静置した際の該グラフト共重合体膨潤体の体積が20ml未満である。
(5) JIS-K-6720規格に準拠して測定した該グラフト共重合体の嵩密度が0.40~0.60g/cmである。
【0020】
<ゴム質重合体(a)>
本発明のアクリルゴム系グラフト共重合体(A)に用いるゴム質重合体(a)は、アクリル酸アルキルエステル系単量体単位と多官能性単量体単位を必須成分とする。
【0021】
本発明に係るアクリル酸アルキルエステル系単量体としては、炭素数1~12のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルが望ましい。そのようなアクリル酸アルキルエステルとしては、アクリル酸と炭素数が1~12の直鎖或いは側鎖を有するアルコールのエステルが挙げられる。具体的には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル等が挙げられ、特にアルキル基の炭素数が1~8のものが好ましい。これらは単独または2種以上を組み合わせて使用することができるが、得られるゴム質重合体(a)の反応制御が容易であること、また、得られる熱可塑性樹脂組成物の耐候性および耐衝撃性のバランスの点から、これらのアクリル酸アルキルエステル系単量体のうち、アクリル酸n-ブチルが特に好ましい。従って、本発明で用いるゴム質重合体(a)は、アクリル酸アルキルエステル系単量体単位100質量%中に少なくともアクリル酸n-ブチル単位を75質量%以上、特に80~100質量%含むことが好ましい。
【0022】
ゴム質重合体(a)100質量%中のアクリル酸アルキルエステル系単量体単位の含有量は、75質量%以上が好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、85質量%以上が特に好ましい。アクリル酸アルキルエステル系単量体単位の含有量が上記下限未満であると、得られるアクリルゴム系グラフト共重合体(A)および熱可塑性樹脂組成物の耐候性、耐衝撃性、外観のいずれかが低下する場合がある。
【0023】
本発明に係る多官能性単量体としては特に制限はなく、公知の多官能性単量体を用いることができる。公知の多官能性単量体としては、メタクリル酸アリル、アクリル酸2-プロペニル、エチレングリコールジメタクリル酸エステル、1,3-ブタンジオールジメタクリル酸エステル(1,3-ブチレンジメタクリレート)、1,6-ヘキサンジオールジアクリル酸エステル等のジオールのジ(メタ)アクリル酸エステル、ジビニルベンゼン、イソシアヌル酸トリアリル、シアヌル酸トリアリル、トリメット酸トリアリル等が挙げられ、中でもアリル基を有するメタクリル酸アリル、アクリル酸2-プロペニル等、トリアジン環を有するイソシアヌル酸トリアリル、シアヌル酸トリアリル等が好ましく、得られる樹脂組成物の物性改良効率の点からメタクリル酸アリルが特に好ましい。
【0024】
これら多官能性単量体は、それぞれ、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
ゴム質重合体(a)中の多官能性単量体単位の含有量は、アクリル酸アルキルエステル系単量体単位100質量部に対して1.0~3.3質量部が好ましく、3.0質量部以下がより好ましく、2.8質量部以下が特に好ましく、一方、1.2質量部以上がより好ましく、1.5質量部以上が特に好ましい。多官能性単量体単位の含有量が上記上限を超えると、得られるアクリルゴム系グラフト共重合体(A)および熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性が低下する場合があり、上記下限より少ないと、外観および熱安定性が低下する場合がある。
【0026】
ゴム質重合体(a)には、アクリル酸アルキルエステル系単量体単位と多官能性単量体単位以外に、必要によりアクリル酸アルキルエステル系単量体と共重合可能な他の単量体単位が含まれていてもよい。
【0027】
アクリル酸アルキルエステル系単量体と共重合可能な他の単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン等の芳香族ビニル系単量体、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル系単量体、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル等のメタクリル酸エステル系単量体、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸等のα,β-不飽和カルボン酸単量体、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド化合物等が挙げられる。これらは単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0028】
さらに、ゴム質重合体(a)としては、アクリル酸アルキルエステル系単量体単位と多官能性単量体単位を含むゴム質重合体と、アクリル酸アルキルエステル系単量体以外の単量体単位からなるゴム質重合体との複合ゴムを用いることもできる。この場合、アクリル酸アルキルエステル系単量体以外の単量体単位からなるゴム質重合体としては、例えば、エチレン-プロピレンゴム(EPR)、エチレン-プロピレン-ジエン系ゴム(EPDM)、ジエン系ゴム、ポリオルガノシロキサン等が例示される。このような複合ゴムを得る手法としては、例えば、アクリル酸アルキルエステル系単量体以外の単量体単位からなるゴム質重合体の存在下に、アクリル酸アルキルエステル系単量体と多官能性単量体を重合する手法、アクリル酸アルキルエステル系単量体以外の単量体単位からなるゴム質重合体と、アクリル酸アルキルエステル系単量体単位と多官能性単量体単位を含むゴム質重合体とを共肥大化する手法等、公知の手法を用いることができる。
【0029】
本発明に係るゴム質重合体(a)は、上記のような単量体混合物を乳化重合することにより製造されることが好ましい。
【0030】
乳化重合で用いる乳化剤としては、乳化重合時のラテックスの安定性に優れ、重合率を高めることができる点から、アニオン系乳化剤が好ましい。
アニオン系乳化剤としては、カルボン酸塩(例えば、サルコシン酸ナトリウム、脂肪酸カリウム、脂肪酸ナトリウム、アルケニルコハク酸ジカリウム、ロジン酸石鹸等)、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸エステルナトリウム等が挙げられ、前記多官能性単量体の加水分解抑制といった点から、サルコシン酸ナトリウム、アルケニルコハク酸ジカリウム、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸エステルナトリウム等が好ましく、これらの中でも特に重合安定性に優れ、凝固剤の選択肢が広い点から、アルケニルコハク酸ジカリウムが好ましい。これらの乳化剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0031】
本発明のアクリルゴム系グラフト共重合体(A)に用いるゴム質重合体(a)の体積平均粒子径は100nm以上であり、好ましくは110nm以上である。体積平均粒子径が上記下限未満では、得られるアクリルゴム系グラフト共重合体(A)および熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性の低下および外観性能に対する成形条件依存性が大きくなる場合がある。また、ゴム質重合体(a)の体積平均粒子径は300nm以下であり、好ましくは290nm以下である。体積平均粒子径が上記上限を超えると、得られるアクリルゴム系グラフト共重合体(A)および熱可塑性樹脂組成物の外観が低下する場合がある。
【0032】
さらに、ゴム質重合体(a)100質量%に対して粒子径400nm以上のゴム質重合体の含有量が10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。粒子径400nm以上のゴム質重合体の含有量が上記上限を超えると、得られるアクリルゴム系グラフト共重合体(A)および熱可塑性樹脂組成物の外観特性が低下する場合がある。
【0033】
なお、ゴム質重合体(a)及び後述のゴム質重合体(b)の体積平均粒子径は、後述の実施例の項に記載の方法で測定される。
【0034】
<ビニル系単量体>
本発明のアクリルゴム系グラフト共重合体(A)は、このようなゴム質重合体(a)の存在下、ビニル系単量体をグラフト重合して得られたものである。
このグラフト重合に用いるビニル系単量体は、不飽和ニトリル系単量体および芳香族ビニル系単量体、および必要に応じて他のビニル系単量体を含むことが好ましい。
【0035】
不飽和ニトリル系単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。これらは単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0036】
芳香族ビニル系単量体としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等が挙げられる。これらは単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0037】
他のビニル系単量体は、不飽和ニトリル系単量体および芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体であり、かつ不飽和ニトリル系単量体および芳香族ビニル系単量体を除く単量体である。他の単量体としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸N,N-ジメチルアミノエチル、アクリルアミド、メタクリルアミド、無水マレイン酸、N-置換マレイミド等が挙げられる。他の単量体についても、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
ゴム質重合体(a)にグラフト重合させるビニル系単量体としては、得られる成形品の耐衝撃性が優れる点から、スチレン等の芳香族ビニル系単量体とアクリロニトリル等の不飽和ニトリル系単量体との単量体混合物が好ましく、特にスチレンとアクリロニトリルの混合物が好ましい。
【0039】
ゴム質重合体(a)にグラフト重合させる単量体混合物中の不飽和ニトリル系単量体の割合は、単量体混合物(100質量%)中、3~50質量%が好ましく、10~40質量%がさらに好ましい。不飽和ニトリル系単量体の割合が上記下限以上であれば、得られる成形品の耐衝撃性が良好となる。不飽和ニトリル系単量体の割合が上記上限以下であれば、得られる成形品の熱安定性が良好となる。
【0040】
ゴム質重合体(a)にグラフト重合させる単量体混合物中の芳香族ビニル系単量体の割合は、単量体混合物(100質量%)中、20~97質量%が好ましく、30~80質量%がさらに好ましい。芳香族ビニル系単量体の割合が上記下限以上であれば、得られる熱可塑性樹脂組成物の成形性が良好となる。芳香族ビニル系単量体の割合が上記上限以下であれば、得られる成形品の耐衝撃性が良好となる。
【0041】
ゴム質重合体(a)にグラフト重合させる単量体混合物中の他の単量体の割合は、単量体混合物(100質量%)中、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。他の単量体の割合が上記上限以下であれば、耐衝撃性と外観のバランスが良好となる。
【0042】
<アクリルゴム系グラフト共重合体(A)の製造>
本発明のアクリルゴム系グラフト共重合体(A)は、ゴム質重合体(a)ラテックスの存在下、上記のような単量体混合物を乳化重合することにより製造されることが好ましい。
【0043】
乳化重合で用いる乳化剤としては、前記ゴム質重合体(a)の製造時と同様、アニオン系乳化剤が好ましく、前記多官能性単量体の加水分解抑制の観点から、アルケニルコハク酸ジカリウムが好ましい。
【0044】
乳化重合で用いる重合開始剤としては、過酸化物、アゾ系開始剤、酸化剤と還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤等が挙げられる。
乳化重合の際には、グラフト率やグラフト成分の分子量を制御するための連鎖移動剤を用いてもよい。
【0045】
乳化重合における芳香族ビニル系単量体、不飽和ニトリル系単量体等の単量体の添加方法としては、全量一括添加、分割添加、逐次添加等の方法を用いることができ、一部を一括で添加し、残量を逐次添加する等のように、これらの方法を組み合わせて用いることもできる。また、ビニル系単量体を添加した後しばらく保持し、その後に重合開始剤を添加して重合を開始する方法も用いることができる。
【0046】
乳化重合で得られたアクリルゴム系グラフト共重合体(A)のラテックスから、アクリルゴム系グラフト共重合体(A)を回収する方法としては、下記の方法が挙げられる。
アクリルゴム系グラフト共重合体(A)のラテックスを、凝固剤を溶解させた熱水中に投入し、グラフト共重合体を固化させる。次いで、固化したグラフト共重合体を、水または温水中に再分散させてスラリーとし、グラフト共重合体中に残存する乳化剤残渣を水中に溶出させ、洗浄する。次いで、スラリーを脱水機等で脱水し、得られた固体を気流乾燥機等で乾燥することによって、アクリルゴム系グラフト共重合体(A)が粉体または粒子として回収される。
なお、アクリルゴム系グラフト共重合体(A)ラテックスに、必要により他の重合体ラテックス、例えば後述のアクリルゴム系グラフト共重合体(A)以外のグラフト共重合体のラテックスを予め混合した後に前記回収操作を行っても良い。
【0047】
凝固剤としては、無機酸(硫酸、塩酸、リン酸、硝酸等)、金属塩(塩化カルシウム、酢酸カルシウム、硫酸アルミニウム等)等が挙げられる。凝固剤は、乳化剤の種類に応じて適宜選定される。例えば、乳化剤としてカルボン酸塩(脂肪酸塩、ロジン酸石鹸等)のみを用いた場合、どのような凝固剤を用いてもよいが、乳化剤としてアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムのような酸性領域でも安定な乳化力を示す乳化剤を用いた場合、無機酸では不十分であり、金属塩を用いる必要がある。なお、アクリルゴム系グラフト共重合体(A)の加水分解による性能低下を抑制するため、凝固剤としては無機酸、特に硫酸が好ましい。
【0048】
アクリルゴム系グラフト共重合体(A)は、アクリルゴム系グラフト共重合体(A)100質量部に対して、ゴム質重合体(a)の含有量が10~90質量部、特に20~80質量部、とりわけ30~70質量部であることが好ましい。ゴム質重合体(a)の含有量が上記下限以上であれば、得られるアクリルゴム系グラフト共重合体(A)および熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性がより高くなり、ゴム質重合体(a)の含有量が上記上限以下であれば、得られるアクリルゴム系グラフト共重合体(A)および熱可塑性樹脂組成物は良好な外観および熱安定性を保つことができる。
従って、アクリルゴム系グラフト共重合体の製造においては、ゴム質重合体(a)とビニル系単量体とをこのようなゴム質重合体(a)含有量のアクリルゴム系グラフト共重合体(A)が得られるように用いることが好ましい。
【0049】
<アクリルゴム系グラフト共重合体(A)の物性>
(アセトン可溶分)
本発明のアクリルゴム系グラフト共重合体(A)は、そのメタノール不溶分100質量%に対するアセトン可溶分が5~20質量%であり、5~10質量%が好ましい。アクリルゴム系グラフト共重合体(A)のアセトン可溶分が上記範囲であると、成形条件に対する外観特性の依存性が小さくなるとともに熱安定性が向上し、良好な外観を維持することができる。アクリルゴム系グラフト共重合体(A)のアセトン可溶分は、後掲の実施例の項に記載される方法で求められる。
【0050】
(グラフト率)
本発明のアクリルゴム系グラフト共重合体(A)のグラフト率は70~120%であり、70~100%が好ましく、70~90%が特に好ましい。グラフト共重合体(A)のグラフト率が上記範囲であると、得られるアクリルゴム系グラフト共重合体(A)の嵩密度および貯蔵安定性が良好であり、また、このアクリルゴム系グラフト共重合体(A)を用いて得られる熱可塑性樹脂組成物は良好な衝撃強度、耐薬品性、外観および熱安定性を保つことができる。アクリルゴム系グラフト共重合体(A)のグラフト率は、後掲の実施例の項に記載される方法で求められる。
【0051】
(トルエン膨潤体の体積)
本発明のアクリルゴム系グラフト共重合体(A)は、目開き20メッシュの篩にて粗粒を篩別した該グラフト共重合体2gを50mlメスリンダーに入れ、全容積が50mlとなるようにトルエンを加え、23℃で24時間静置した際の該グラフト共重合体膨潤体の体積(以下、「トルエン膨潤体の体積」と称す場合がある。)が10~35mlであり、好ましくは10~30mlである。トルエン膨潤体の体積が上記上限以下であれば、アクリルゴム系グラフト共重合体(A)の嵩密度および貯蔵安定性が良好であり、また、このアクリルゴム系グラフト共重合体(A)を用いて得られる熱可塑性樹脂組成物は良好な耐薬品性、外観および熱安定性を保つことができる。
【0052】
(嵩密度)
本発明のアクリルゴム系グラフト共重合体(A)は、JIS-K-6720規格に準拠して測定した該グラフト共重合体の嵩密度が0.40~0.60g/cmである。嵩密度が上記範囲内であれば、高嵩密度であり、輸送性、貯蔵安定性等において好ましい。
【0053】
(還元粘度)
本発明のアクリルゴム系グラフト共重合体(A)のアセトン可溶分の還元粘度は0.3~0.8g/dl、特に0.4~0.7g/dlであることが好ましい。アクリルゴム系グラフト共重合体(A)のアセトン可溶分の還元粘度が上記下限以上であると衝撃強度がより高くなり、上記上限以下であると良好な外観および成形性を保つことができる。アクリルゴム系グラフト共重合体(A)のアセトン可溶分の還元粘度は、後掲の実施例の項に記載される方法で求められる。
【0054】
[熱可塑性樹脂組成物]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上述の本発明のアクリルゴム系グラフト共重合体(A)を含むものである。本発明の熱可塑性樹脂組成物は、本発明のアクリルゴム系グラフト共重合体(A)の1種のみを含むものであってもよく、ゴム質重合体(a)の単量体組成や粒子径、ビニル系単量体の単量体組成や、物性等の異なるアクリルゴム系グラフト共重合体(A)を2種以上を含むものであってもよい。
【0055】
<熱可塑性樹脂(B)>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、アクリルゴム系グラフト共重合体(A)以外の他の熱可塑性樹脂(B)を含有していてもよい。この場合、熱可塑性樹脂(B)としては、メタクリル酸メチル-スチレン共重合体(MS樹脂)、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、スチレン-ブタジエン-スチレン(SBS)、スチレン-ブタジエン(SBR)、水素添加SBS、スチレン-イソプレン-スチレン(SIS)等のスチレン系エラストマー、各種オレフィン系エラストマー、各種ポリエステル系エラストマー、スチレン系樹脂、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル(変性PPE樹脂)、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアリレート、液晶ポリエステル樹脂、ポリアミド(ナイロン)等が挙げられる。これら熱可塑性樹脂は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0056】
これらの中でも、耐候性向上の点からは、メタクリル酸メチル-スチレン共重合体(MS樹脂)、ポリメタクリル酸メチルが好ましく、耐衝撃性向上の点からは、ポリカーボネートが好ましく、耐薬品性向上の点から、ポリブチレンテレフタレート(PBT)が好ましく、成形加工性向上の点からは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、スチレン系樹脂が好ましく、耐熱性向上の点からは、変性ポリフェニレンエーテル(変性PPE)、ポリアミドが好ましい。また、耐衝撃性と成形性のバランスの面からは、スチレン系樹脂が特に好ましい。
【0057】
スチレン系樹脂は芳香族ビニル系単量体単位を必須成分とし、必要に応じて芳香族ビニル系単量体にシアン化ビニル等の不飽和ニトリル系単量体、不飽和カルボン酸無水物、N-置換マレイミド等、他の単量体を共重合することにより得られる樹脂である。これらの単量体は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0058】
スチレン系樹脂としては、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-α-メチルスチレン共重合体、アクリロニトリル-スチレン-N-フェニルマレイミド共重合体、アクリロニトリル-スチレン-α-メチルスチレン-N-フェニルマレイミド共重合体、スチレン-N-フェニルマレイミド共重合体が特に好ましい。
【0059】
スチレン系樹脂に含まれる芳香族ビニル系単量体単位の割合は、スチレン系樹脂を製造する際に用いる単量体混合物(100質量%)中、20~100質量%が好ましく、30~90質量%がさらに好ましく、50~80質量%が特に好ましい。芳香族ビニル系単量体の割合が上記下限以上であれば、得られる熱可塑性樹脂組成物の成形性が良好となる。
【0060】
また、スチレン系樹脂に含まれる不飽和ニトリル系単量体単位の割合は、スチレン系樹脂を製造する際に用いる単量体混合物(100質量%)中、0~50質量%が好ましく、10~40質量%がさらに好ましい。不飽和ニトリル系単量体の割合が上記上限以下であれば、得られる成形品の熱による変色が抑えられる。
【0061】
また、スチレン系樹脂に含まれる他の単量体単位の割合は、スチレン系樹脂を製造する際に用いる単量体混合物(100質量%)中、55質量%以下が好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。他の単量体の割合が上記上限以下であれば、得られる成形品の耐衝撃性と外観のバランスが良好となる。
【0062】
スチレン系樹脂は、乳化重合法、懸濁重合法、連続塊状重合法等の公知の製造法により製造することができる。
【0063】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(B)として、アクリルゴム系グラフト共重合体(A)以外のグラフト共重合体(以下、このアクリルゴム系グラフト共重合体(A)以外のグラフト共重合体を「グラフト共重合体(B)」と称す。)を含有するものであってもよい。
グラフト共重合体(B)に用いるゴム質重合体(以下、このゴム質重合体を「ゴム質重合体(b)」と称す。)は、アクリル酸エステル系単量体単位を必須成分とすることが好ましい。
【0064】
ゴム質重合体(b)を構成するアクリル酸エステル系単量体としては、本発明のアクリルゴム系グラフト共重合体(A)に含まれるゴム質重合体(a)を構成するアクリル酸エステル系単量体として例示したものが挙げられる。アクリル酸エステル系単量体は単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0065】
ゴム質重合体(b)100質量%に対するアクリル酸エステル系単量体単位の含有量としては、75質量%以上が好ましく、85質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上が特に好ましい。アクリル酸エステル系単量体単位の含有量が上記下限未満であると、得られる熱可塑性樹脂組成物の耐候性、耐衝撃性、剛性、外観のいずれかが低下する場合がある。
【0066】
また、ゴム質重合体(b)は、アクリル酸エステル系単量体単位の他、多官能性単量体単位を含有していてもよく、その場合において、ゴム質重合体(b)に用いる多官能性単量体としては、ゴム質重合体(a)に用いる多官能性単量体として例示したものが挙げられる。多官能性単量体は単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0067】
ゴム質重合体(b)の多官能性単量体単位の含有量は、アクリル酸エステル系単量体単位100質量部に対して3質量部以下が好ましく、2質量部以下がさらに好ましく、1質量部以下が特に好ましく、一方、0.05質量部以上が好ましく、0.1質量部以上がさらに好ましく、0.15質量部以上が特に好ましい。ゴム質重合体(b)中の多官能性単量体単位の含有量が上記上限を超えると、得られる熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性が低下する場合があり、上記下限未満であると、外観が低下する場合がある。
【0068】
また、ゴム質重合体(b)には、必要によりアクリル酸エステル系単量体と共重合可能な他の単量体単位が含まれていてもよい。アクリル酸エステル系単量体と共重合可能な他の単量体としては、ゴム質重合体(a)に用いる他の単量体として例示したものが挙げられ、他の単量体は単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0069】
ゴム質重合体(b)がアクリル酸エステル系単量体と共重合可能な他の単量体単位を含む場合、その含有量はゴム質重合体(b)中の割合で25質量%以下、さらに15質量%以下、特に5質量%以下であることが好ましい。他の単量体単位の含有量が上記上限を超えると得られる熱可塑性樹脂組成物の耐候性、耐衝撃性、剛性、外観のいずれかが低下する場合がある。
【0070】
さらに、グラフト共重合体(B)に用いるゴム質重合体(b)は、アクリル酸エステル系単量体単位を含むゴム質重合体とアクリル酸エステル系単量体単位以外の単量体単位から成るゴム質重合体との複合ゴムを用いることもできる。アクリル酸エステル系単量体単位以外の単量体単位から成るゴム質重合体としては、ゴム質重合体(a)において例示した、アクリル酸エステル系単量体以外の単量体単位からなるゴム質重合体が挙げられる。アクリル酸エステル系単量体単位を含むゴム質重合体とアクリル酸エステル系単量体単位以外の単量体単位から成るゴム質重合体との複合ゴムを得る手法についても同様であり、例えば、アクリル酸エステル系単量体単位以外の単量体単位から成るゴム質重合体の存在下にアクリル酸エステル系単量体を重合する手法等、公知の手法を用いることができる。
【0071】
ゴム質重合体(b)も、ゴム質重合体(a)と同様に上記のような単量体混合物を乳化重合することにより製造されることが好ましい。
【0072】
乳化重合で用いる重合開始剤としては、酸化剤と還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤が好ましい。過酸化物、アゾ系開始剤等の熱分解性開始剤では、前記の重合速度を調整する際に多量の開始剤を用いたり、高い温度での重合が必要となるため、工業的に不利である。レドックス系開始剤を用いた場合、触媒である金属イオンや酸化剤、還元剤の量により重合速度を調整することができる。
【0073】
グラフト共重合体(B)に用いるゴム質重合体(b)の体積平均粒子径は300nmより大きいことが好ましく、400nm以上がより好ましく、一方、600nm以下が好ましく、550nm以下がより好ましく、500nm以下が特に好ましい。ゴム質重合体(b)の体積平均粒子径が上記範囲であれば、得られる熱可塑性樹脂組成物は良好な衝撃強度と外観を保つことができる。
【0074】
グラフト共重合体(B)は、ゴム質重合体(b)の存在下、ビニル系単量体をグラフト重合して得られたものである。
このビニル系単量体としては、アクリルゴム系グラフト共重合体(A)に用いるビニル系単量体と同様のものを用いることができ、その好適なビニル系単量体の種類や使用割合についても同様である。
【0075】
グラフト共重合体(B)は乳化重合法、連続重合法等公知の製造法を用いて製造することができる。これらのうち乳化重合法が特に好ましい。乳化重合法で用いる乳化剤、開始剤、連鎖移動剤等は、アクリルゴム系グラフト共重合体(A)の製造に用いるものと同様に公知のものを用いることができる。
【0076】
グラフト共重合体(B)のラテックスからのグラフト共重合体(B)の回収は、前述のアクリルゴム系グラフト共重合体(A)の回収方法と同様に行うことができる。
【0077】
前述の如く、アクリルゴム系グラフト共重合体(A)ラテックスとグラフト共重合体(B)、必要により他の重合体ラテックスを予め混合した後に前記回収操作を行っても良い。
【0078】
グラフト共重合体(B)は、グラフト共重合体(B)100質量部に対して、ゴム質重合体(b)の含有量が10~90質量部、特に20~80質量部、とりわけ30~70質量部であることが好ましい。ゴム質重合体(b)の含有量が上記下限以上であれば、得られる熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性がより高くなり、ゴム質重合体(b)の含有量が上記上限以下であれば、得られる熱可塑性樹脂組成物は良好な外観を保つことができる。
【0079】
また、グラフト共重合体(B)のグラフト率は30~90%、特に35~70%であることが好ましい。グラフト共重合体(B)のグラフト率が上記範囲内であると良好な外観を維持することができる。グラフト共重合体(B)のグラフト率は、後掲の実施例の項に記載される方法で求められる。
【0080】
更にグラフト共重合体(B)のアセトン可溶分の還元粘度は0.40~1.00g/dL、特に0.50~0.80g/dLであることが好ましい。グラフト共重合体(B)のアセトン可溶分の還元粘度が上記下限以上であると衝撃強度がより高くなり、上記上限以下であると良好な外観および成形性を保つことができる。グラフト共重合体(B)のアセトン可溶分の還元粘度は、後掲の実施例の項に記載される方法で求められる。
【0081】
<樹脂成分>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、樹脂成分として、上述のアクリルゴム系グラフト共重合体(A)を含むことを必須とし、必要により他の熱可塑性樹脂(B)を含む熱可塑性樹脂組成物である。
【0082】
本発明の熱可塑性樹脂組成物が他の熱可塑性樹脂(B)を含む場合、他の熱可塑性樹脂(B)の含有量は本発明の熱可塑性樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対して20~95質量部が好ましく、25~95質量部がより好ましく、25~90質量部が特に好ましい。アクリルゴム系グラフト共重合体(A)に他の熱可塑性樹脂(B)を混合して用いることにより、当該熱可塑性樹脂(B)による耐候性、耐衝撃性、耐薬品性、耐熱性、成形性等の向上効果を得ることができるが、他の熱可塑性樹脂(B)の配合量が多過ぎると、本発明のアクリルゴム系グラフト共重合体(A)による効果を十分に得ることができない場合がある。他の熱可塑性樹脂(B)の配合量が上記上限以下であれば、本発明のアクリルゴム系グラフト共重合体(A)の効果を十分に発揮させて、良好な外観を維持することができる。
【0083】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物がアクリルゴム系グラフト共重合体(A)以外のグラフト共重合体(B)を含む場合、本発明の熱可塑性樹脂組成物中のグラフト共重合体(B)の含有量は、熱可塑性樹脂組成物中の樹脂成分であるアクリルゴム系グラフト共重合体(A)と熱可塑性樹脂(B)との合計100質量部中に30質量部未満であることが好ましく、特に25質量部以下、とりわけ23質量部以下で、例えば10~21質量部であることが好ましい。
本発明の熱可塑性樹脂組成物がアクリルゴム系グラフト共重合体(A)以外の前述のグラフト共重合体(B)を含むことで、得られる熱可塑性樹脂組成物の衝撃強度と外観特性の両立という効果が奏されるが、この含有量が多過ぎると、得られる成形品の外観等が低下する。
【0084】
本発明の熱可塑性樹脂組成物に含まれるゴム質重合体の総量は、熱可塑性樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対して5~35質量部であることが好ましく、5~30質量部であることがより好ましい。熱可塑性樹脂組成物中のゴム質重合体の含有量が上記下限以上であれば、得られる熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性がより高くなり、ゴム質重合体の含有量が上記上限以下であれば、得られる熱可塑性樹脂組成物の良好な外観と流動性を保つことができる。
【0085】
<その他の成分>
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じて、顔料や染料等の着色剤、熱安定剤、光安定剤、補強剤、充填剤、難燃剤、発泡剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、加工助剤等が含まれてもよい。
【0086】
<熱可塑性樹脂組成物の製造方法>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、例えば、アクリルゴム系グラフト共重合体(A)と必要に応じて他の熱可塑性樹脂(B)およびその他の成分とを、V型ブレンダーやヘンシェルミキサー等の混合装置で混合し、その混合装置により得た混合物を溶融混練することで製造される。その溶融混練の際には、単軸または二軸の押出機、バンバリーミキサー、加熱ニーダー、ロール等の混練機などが用いられる。
【0087】
[熱可塑性樹脂成形品]
本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる本発明の熱可塑性樹脂成形品は、様々な用途に使用することができる。
【0088】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の成形方法としては、例えば、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、圧縮成形法、カレンダー成形法、インフレーション成形法などが挙げられる。
【0089】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、他の樹脂や金属等よりなる基材に対して被覆層を形成するための材料として用いることもできる。
この場合、本発明の熱可塑性樹脂組成物による被覆層を形成する基材の構成材料としての他の樹脂としては、例えば、上述したその他の熱可塑性樹脂(B)や、ABS樹脂やハイインパクトポリスチレン系樹脂(HIPS)等のゴム変性熱可塑性樹脂、フェノール樹脂やメラミン樹脂などの熱硬化性樹脂などが挙げられる。
【0090】
本発明の熱可塑性樹脂組成物をこれらの他の樹脂や金属よりなる基材上に被覆成形することにより、耐候性や良好な外観を有する意匠性を付与することができる。
【0091】
このような本発明の熱可塑性樹脂成形品は様々な用途で使用することができる。例えば、工業的用途として、車両部品、特に無塗装で使用される各種外装・内装部品、壁材、窓枠等の建材部品、食器、玩具、掃除機ハウジング、テレビジョンハウジング、エアコンハウジング等の家電部品、インテリア部材、船舶部材、および通信機器ハウジング、ノートパソコンハウジング、携帯端末ハウジング、液晶プロジェクターハウジング等の電機機器ハウジングなどに好適に使用される。
【実施例
【0092】
以下に実施例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例により何らその範囲を限定されるものではない。なお、以下の例中の「部」は特に明記しない限りは質量基準とする。
【0093】
〔ゴム質重合体およびアクリルゴム系グラフト共重合体の測定〕
ゴム質重合体およびアクリルゴム系グラフト共重合体の物性等は、以下の方法で測定した。
【0094】
<固形分>
ラテックスの固形分は、ラテックス1gを正確に秤量し、200℃で20分かけて揮発分を蒸発させた後の残渣物を計量し、下記の式より求めた。
【0095】
【数1】
【0096】
<重合転化率>
重合転化率は、前記固形分を測定し、下記の式より求めた。
【0097】
【数2】
【0098】
<体積平均粒子径>
日機装(株)製動的光散乱式 粒子径・粒度分布測定装置 ナノトラックUPA-EX150で、ローディングインデックスが0.1~100となるようにゴム質重合体ラテックスを蒸留水にて希釈後、動的光散乱法より体積平均粒子径を求めた。
【0099】
<アセトン可溶分の比率>
グラフト共重合体3.0gにメタノール500mlを加え、室温で4時間攪拌後、メタノール可溶分(ノンポリマー成分)の抽出を行った。続いて、ガラスフィルターにてメタノール不溶分(ポリマー成分)を分離後、乾燥して得られたメタノール不溶分の質量を測定した。これにアセトン80mlを加え室温で15時間静置後、30000rpmで60分間遠心分離を行い、得られた上清(アセトン可溶分)をエバポレーターにて濃縮後、メタノールにて再洗浄を行い、乾燥して得られたアセトン可溶分の質量を測定した。
下記式によりメタノール不溶分中のアセトン可溶分比率を算出した。
【0100】
【数3】
【0101】
<還元粘度>
グラフト共重合体中のアセトン可溶分の還元粘度は、上記のアセトン可溶分の比率の測定で分離されたアセトン可溶分を0.2g/dl濃度のN,N-ジメチルホルムアミド溶液とし、ウベローデ粘度計を用いて25℃で測定した。
【0102】
<グラフト率>
グラフト共重合体1gを80mlのアセトンに添加し、65~70℃にて3時間加熱還流し、得られた懸濁アセトン溶液を遠心分離機にて14,000rpm、30分間遠心分離して、沈殿成分(アセトン不溶分)とアセトン溶液(アセトン可溶分)を分取した。沈殿成分(アセトン不溶分)を乾燥させてその質量(Y(g))を測定し、下記式によりグラフト率を算出した。
【0103】
【数4】
【0104】
<トルエン膨潤体の体積>
50mlメスリンダーに、目開き20メッシュの篩にて粗粒を篩別したグラフト共重合体2gと全容積が50mlとなるようにトルエンを加え、23℃で24時間静置した際の該グラフト共重合体膨潤体の体積を目視にて測定した。
【0105】
<嵩密度>
JIS-K-6720規格に準拠する方法により、グラフト共重合体の嵩密度を測定した。
【0106】
〔合成例1:酸基含有共重合体ラテックス(K)の製造〕
試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱機および撹拌装置を備えた反応器内に、
脱イオン水:200部
オレイン酸カリウム:2部
ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム:4部
硫酸第一鉄七水塩:0.003部
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム:0.009部
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート:0.3部
を窒素フロー下で仕込み、60℃に昇温した。60℃になった時点から、
アクリル酸n-ブチル:85部
メタクリル酸:15部
クメンヒドロパーオキシド:0.5部
からなる混合物を120分かけて連続的に滴下した。滴下終了後、さらに2時間、60℃のまま熟成を行い、固形分が33%、重合転化率が96%、酸基含有共重合体の体積平均粒子径が150nmである酸基含有共重合体ラテックス(K)を得た。
【0107】
〔合成例2:ゴム質重合体ラテックス(a-1)の製造〕
試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱機および撹拌装置を備えた反応器内に、
脱イオン水:295部
アルケニルコハク酸ジカリウム:0.62部
アクリル酸n-ブチル:70部
メタクリル酸アリル:0.62部
1,3-ブチレンジメタクリレート:0.05部
t-ブチルヒドロパーオキシド:0.05部
を撹拌下で仕込み、反応器内を窒素置換した後、内容物を昇温した。内温55℃にて、
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート:0.09部
硫酸第一鉄七水和物:0.00015部
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム:0.00045部
脱イオン水:36部
からなる水溶液を添加し、重合を開始させた。重合発熱が確認された後、ジャケット温度を75℃とし、重合発熱が確認されなくなるまで重合を継続し、さらに30分保持した。得られたゴム質重合体の重合転化率は99%であり、体積平均粒子径は110nmであった。
【0108】
続いて、
アルケニルコハク酸ジカリウム:0.2部
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート:0.042部
硫酸第一鉄七水和物:0.002部
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム:0.006部
脱イオン水:44部
からなる水溶液を添加し、内温を70℃に制御した後、
アクリル酸n-ブチル:30部
メタクリル酸アリル:2.16部
1,3-ブチレンジメタクリレート:0.03部
t-ブチルヒドロパーオキシド:0.03部
からなる混合液を60分間にわたって滴下し、滴下終了後、液温70℃の状態を30分間保持し、重合転化率92%、ゴム質重合体の体積平均粒子径が160nmのゴム質重合体ラテックス(a-1)を得た。
【0109】
〔合成例3:ゴム質重合体ラテックス(a-2)の製造〕
試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱機および撹拌装置を備えた反応器内に、
脱イオン水:376部
アルケニルコハク酸ジカリウム:1.45部
アクリル酸n-ブチル:100部
メタクリル酸アリル:1.2部
1,3-ブチレンジメタクリレート:0.1部
t-ブチルヒドロパーオキシド:0.252部
を撹拌下で仕込み、反応器内を窒素置換した後、内容物を昇温した。内温55℃にて、
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート:0.09部
硫酸第一鉄七水和物:0.00015部
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム:0.00045部
脱イオン水:30部
からなる水溶液を添加し、重合を開始させた。重合発熱が確認された後、ジャケット温度を75℃とし、重合発熱が確認されなくなるまで重合を継続し、さらに30分保持した。得られたゴム質重合体の重合転化率は99%であり、体積平均粒子径は100nmであった。
【0110】
ここに、5質量%ピロリン酸ナトリウム水溶液を固形分として1.2部添加し、内温を70℃になるようにジャケット温度の制御を行った。
続いて、内温70℃にて、酸基含有共重合体ラテックス(K)を固形分として3部添加し、内温70℃を保持したまま30分撹拌しながら肥大化を行い、ゴム質重合体の体積平均粒子径が280nmのゴム質重合体ラテックス(a-2)を得た。
【0111】
〔合成例4:ゴム質重合体ラテックス(x-1)の製造〕
試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱機及び撹拌装置を備えた反応器内に、
脱イオン水:200部
アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム:5.4部
アクリル酸n-ブチル:10部
トリアリルイソシアヌレート:0.05部
クメンヒドロパーオキシド:0.08部
を撹拌下で仕込み、反応器内を窒素置換した後、内容物を昇温した。内温70℃にて、
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート:0.12部
硫酸第一鉄七水塩:0.008部
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム:0.016部
脱イオン水:5部
からなる水溶液を添加し、重合を開始させた。重合発熱が確認された後、ジャケット温度
を60℃とし、重合発熱が確認されなくなるまで重合を継続した。
【0112】
次いで、
アクリル酸n-ブチル:99.5部
トリアリルイソシアヌレート:0.5部
クメンヒドロパーオキシド:0.8部
からなる混合液を1.8l/時間で、
アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム:5.2部
脱イオン水:115部
からなる水溶液を2.4l/時間で、
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート:0.12部
硫酸第一鉄七水塩:0.008部
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム:0.016部
脱イオン水:5部
からなる水溶液を100ml/時間で10時間かけて導入し、重合温度70℃で連続重合を実施し、固形分が43質量%、ゴム質重合体の体積平均粒子径が150nmであるゴム質重合体ラテックス(x-1)を得た。
【0113】
〔合成例5:ゴム質重合体ラテックス(x-2)の製造〕
試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱機及び撹拌装置を備えた反応器内に、
脱イオン水:200部
アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム:2.4部
アクリル酸n-ブチル:10部
トリアリルイソシアヌレート:0.05部
クメンヒドロパーオキシド:0.02部
を撹拌下で仕込み、反応器内を窒素置換した後、内容物を昇温した。内温60℃にて、
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート:0.09部
硫酸第一鉄七水塩:0.006部
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム:0.012部
脱イオン水:5部
からなる水溶液を添加し、重合を開始させた。重合発熱が確認された後、ジャケット温度を60℃とし、重合発熱が確認されなくなるまで重合を継続した。
【0114】
次いで、
アクリル酸n-ブチル:99.5部
トリアリルイソシアヌレート:0.5部
クメンヒドロパーオキシド:0.2部
からなる混合液を1.8l/時間で、
アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム:2.5部
脱イオン水:115部
からなる水溶液を2.4l/時間で、
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート:0.09部
硫酸第一鉄七水塩:0.006部
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム:0.012部
脱イオン水:5部
からなる水溶液を100ml/時間で10時間かけて導入し、重合温度60℃で連続重合を実施し、固形分が43質量%、ゴム質重合体の体積平均粒子径が260nmであるゴム質重合体ラテックス(x-2)を得た。
【0115】
〔実施例1:グラフト共重合体(A-1)の製造〕
試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱機および攪拌装置を備えた反応器に、
脱イオン水(ゴム質重合体ラテックス中の水を含む):230部
ゴム質重合体ラテックス(a-1):50部(固形分として)
アルケニルコハク酸ジカリウム:0.1部
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート:0.45部
を仕込み、反応器内を十分に窒素置換した後、攪拌しながら内温を65℃まで昇温した。
次いで、
アクリロニトリル:15部
スチレン:35部
t-ブチルヒドロパーオキシド:0.3部
からなる混合液を120分間にわたって滴下しながら、85℃まで昇温した。
滴下終了後、温度80℃の状態を30分間保持した後、冷却し、グラフト共重合体(A-1)のラテックスを得た。
次いで、2.0%硫酸水溶液100部を80℃に加熱し、該水溶液を撹拌しながら、該水溶液にグラフト共重合体(A-1)ラテックス100部を徐々に滴下し、グラフト共重合体(A-1)を固化させ、さらに95℃に昇温して10分間保持した。
次いで、固化物を脱水、洗浄、乾燥し、粉末状のグラフト共重合体(A-1)を得た。
得られたグラフト共重合体(A-1)のアセトン可溶分は8%、グラフト率は83%、アセトン可溶分の還元粘度は0.48g/dl、トルエン膨潤体の体積は18mlおよび嵩密度は0.53g/cmであった。
【0116】
〔実施例2:グラフト共重合体(A-2)の製造〕
ゴム質重合体ラテックス(a-1)をゴム質重合体ラテックス(a-2)に変更した以外は実施例1と同様にして、粉末状のグラフト共重合体(A-2)を得た。
得られたグラフト共重合体(A-2)のアセトン可溶分は12%、グラフト率は74%、アセトン可溶分の還元粘度は0.66g/dl、トルエン膨潤体の体積は24mlおよび嵩密度は0.50g/cmであった。
【0117】
〔比較例1:グラフト共重合体(X-1)の製造〕
試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱機及び撹拌装置を備えた反応器内に、
脱イオン水(ゴム質重合体ラテックス中の水を含む):180部
ゴム質重合体ラテックス(x-1):45部(固形分として)
を添加し、反応器内部の液温を60℃まで昇温した後、
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート:0.22部
硫酸第一鉄七水塩:0.004部
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム:0.02部
脱イオン水:10部
からなる水溶液、
アクリロニトリル:14部
スチレン:41部
クメンヒドロパーオキシド:0.24部
の混合液を120分間にわたって滴下し、更に、
アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム:1.0部
脱イオン水:10部
からなる水溶液を150分間にわたって滴下して重合した。滴下終了後、内温を60℃に保持したまま60分間撹拌した後、冷却し、グラフト共重合体(B-1)ラテックスを得た。
次いで、1.5質量%塩化カルシウム水溶液150部を75℃に加熱し、該水溶液を撹拌しながら、該水溶液にグラフト共重合体(X-1)ラテックス100部を徐々に滴下し、グラフト共重合体(X-1)を固化させ、さらに90℃に昇温して5分間保持した。次いで、固化物を脱水、洗浄、乾燥し、粉末状のグラフト共重合体(X-1)を得た。
得られたグラフト共重合体(X-1)のアセトン可溶分は30%、グラフト率は67%、アセトン可溶分の還元粘度は0.71g/dl、トルエン膨潤体の体積は6mlおよび嵩密度は0.38g/cmであった。
【0118】
〔比較例2:グラフト共重合体(X-2)の製造〕
ゴム質重合体ラテックス(x-1)の代りにゴム質重合体ラテックス(x-2)を用い、その使用量を60部(固形分として)とし、アクリロニトリルの使用量を13部、スチレンの使用量を27部に変更した以外は比較例1と同様にして、粉末状のグラフト共重合体(X-2)を得た。
得られたグラフト共重合体(X-2)のアセトン可溶分は23%、グラフト率は35%、アセトン可溶分の還元粘度は0.67g/dl、トルエン膨潤体の体積は38mlおよび嵩密度は0.29g/cmであった。
アクリルゴム系グラフト共重合体(A-1),(A-2)およびアクリルゴム系グラフト共重合体(X-1),(X-2)の分析結果を、表1に示す。なお、表1中、各アクリルゴム系グラフト共重合体に用いたゴム質重合体の体積平均粒子径をゴム粒子径として記載する。
また、表1には、後述の合成例6で製造したアクリルゴム系グラフト共重合体(A)以外のグラフト共重合体(B-1)の分析結果も併記する。
【0119】
【表1】
【0120】
〔合成例6:アクリルゴム系グラフト共重合体(A)以外のグラフト共重合体(B-1)の製造〕
<ゴム質重合体ラテックス(b-1)の製造>
(1段目)
試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱機および撹拌装置を備えた反応器内に、
脱イオン水:290部
アルケニルコハク酸ジカリウム:0.96部
アクリル酸n-ブチル:80部
メタクリル酸アリル:1部
t-ブチルヒドロパーオキシド:0.2部
を撹拌下で仕込み、反応器内を窒素置換した後、内容物を昇温した。内温55℃にて、
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート:0.36部
硫酸第一鉄七水和物:0.0002部
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム:0.0006部
脱イオン水:10部
からなる水溶液を添加し、重合を開始させた。重合発熱が確認された後、ジャケット温度を75℃とし、重合発熱が確認されなくなるまで重合を継続し、さらに1時間保持した。得られたゴム質重合体の体積平均粒子径は100nmであった。
ここへ5質量%ピロリン酸ナトリウム水溶液を固形分として1.2部添加し、内温を70℃になるようにジャケット温度の制御を行った。
内温70℃にて、酸基含有共重合体ラテックス(K)を固形分として3.2部添加し、内温70℃を保持したまま30分撹拌し、肥大化を行った。肥大化後の体積平均粒子径は415nmであった。
【0121】
(2段目)
次いで、内温70℃にて、
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート:0.054部
硫酸第一鉄七水和物:0.002部
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム:0.006部
脱イオン水:80部
からなる水溶液を添加し、次いで
アクリル酸n-ブチル:20部
メタクリル酸アリル:0.24部
t-ブチルヒドロパーオキシド:0.03部
からなる混合液を40分にわたって滴下した。滴下終了後、温度70℃の状態を1時間保持した後に冷却し、ゴム質重合体の体積平均粒子径が440nmであるゴム質重合体ラテックス(b-1)を得た。
【0122】
<グラフト共重合体(B-1)の製造>
ゴム質重合体ラテックス(a-1)をゴム質重合体ラテックス(b-1)に変更した以外は実施例1と同様にして、アクリルゴム系グラフト共重合体(A)以外のグラフト共重合体(B-1)を得た。
得られたグラフト共重合体(B-1)のアセトン可溶分は20%、グラフト率は60%、アセトン可溶分の還元粘度は0.76g/dl、トルエン膨潤体の体積は25mlおよび嵩密度は0.40g/cmであった。
【0123】
〔合成例7:共重合体(B-2)および(B-3)の製造〕
公知の懸濁重合法により、アクリロニトリル28質量%、スチレン72質量%からなる、還元粘度0.61g/dlの共重合体(B-2)を得た。
また、アクリロニトリル32質量%、スチレン68質量%からなる、還元粘度0.59g/dlの共重合体(B-3)を得た。
【0124】
また、熱可塑性樹脂(B-4)として、ポリカーボネート樹脂(ユーピロン S-3000(粘度平均分子量(Mv):21,000)、三菱エンジニアリングプラスチック(株)製)を用いた。
【0125】
〔実施例3~10、比較例3~6:熱可塑性樹脂組成物の製造と評価〕
アクリルゴム系グラフト共重合体(A)または(X)、およびその他の熱可塑性樹脂(B)を表2,3に示す配合で用い、これらの合計100部に対して、エチレンビスステアリン酸アミド0.5部、および着色剤としてカーボンブラック#960(三菱ケミカル社製)1部を加え、ヘンシェルミキサーを用いて混合し、該混合物をバレル温度220℃に設定した(株)日本製鋼製28mm二軸押出機(型式:TEX28V)で賦形し、熱可塑性樹脂ペレットを作製した。
【0126】
この熱可塑性樹脂ペレットを、東芝機械(株)製55トン射出成形機(型式:IS55FP)にて235℃で成形し、シャルピー衝撃強度、曲げ弾性率および荷重たわみ温度の測定に必要な10×80×4mm短冊試験片を作製した。また、東芝機械(株)製55トン射出成形機(型式:IS55FP)にて240℃で成形し、耐薬品性の測定に必要な150×10×2mm短冊試験片を作製した。さらに、(株)日本製鋼製75トン射出成形機(型式:JSW-75EIIP)にて、シリンダー温度240℃、射出速度:10g/sec.(低速)および40g/sec.(高速)でそれぞれ成形し、光沢度、発色性および鮮映度の測定に必要な100mm×100mm×2mmの平板成形板を作製した。なお、熱安定性測定用成形板については、以下の通り作製した。
得られた熱可塑性樹脂ペレット、短冊試験片、および平板成形板について、下記の測定を行った。
測定結果を表2,3に示す。なお、表2,3には、各熱可塑性樹脂組成物のゴム含有量を併記した。
【0127】
<耐衝撃性>
ISO 179に準拠する方法により、23℃雰囲気下で12時間以上放置したVノッチあり試験片についてシャルピー衝撃強度を測定した。
【0128】
<耐熱性>
ISO試験法75に準拠し、1.83MPa、4mm、フラットワイズ法で荷重たわみ温度を測定した。
【0129】
<流動性>
ISO1133に準拠して、220℃、10kg荷重の条件で熱可塑性樹脂ペレットを用いてメルトボリュームレイトを測定した。
【0130】
<剛性>
ISO178に準拠して温度23℃での曲げ弾性率を測定した。
【0131】
<耐薬品性>
150×10×2mmの短冊状試験片を、曲率が漸次変化する表面を有するベンディングフォーム法試験冶具に沿わして固定した。次いで、試験片に薬液を塗布し、23℃の環境下で48時間放置した。そして、試験片におけるクレーズおよびクラックの発生有無を確認し、試験冶具の曲率から限界歪み[%]を求めた。薬液としては、アルコール:エタノール(和光純薬(株))、界面活性剤:ノイゲンET-190(花王(株))を使用した。
【0132】
<光沢度>
低速および高速の条件でそれぞれ得られた100mm×100mm×2mmの平板成形板について、スガ試験器社製のデジタル変角光計(型式:UGV-5D)を用い、入射角60°、反射角60°での反射率から光沢度を求めた。
【0133】
<発色性>
低速および高速の条件でそれぞれ得られた100mm×100mm×2mmの平板成形板について、ミノルタ製測色計(型式:CM-508D)を用いて明度:L*を測定した。L*の数値が小さいほど、発色性が良好であることを示す。
また、これらの平板成形板の明度:L*の差(絶対値)を、発色性の成形条件依存性の指標とした。
【0134】
<鮮映度>
低速および高速の条件でそれぞれ得られた100mm×100mm×2mmの平板成形板について、スガ試験機(株)製写像性測定器(型式:ICM-IDP)を用いて、反射角60°、光学櫛幅1mmでの鮮映度を測定した。測定値の数値が大きいほど、鮮映性が良好であることを示す。また、下記式から、鮮映度の成形条件依存性を算出した。
【0135】
【数5】
【0136】
<熱安定性>
シリンダー温度:280℃、射出速度:40g/sec.の条件にて100mm×100mm×2mmの平板成形板を得た。続いて、樹脂計量後、成形作業を中断し、射出成形機内で樹脂を20分滞留させた。その後、成形作業を再開し、3~5ショット目に得られた成形板および滞留をせずに得られた成形板について、スガ試験器(株)製のデジタル変角光計(型式:UGV-5D)を用い、入射角60°、反射角60°での反射率から光沢度を測定し、下記式から光沢保持率を算出し、熱安定性の指標とした。数値が大きいほど、熱安定性が良好である。
【0137】
【数6】
【0138】
【表2】
【0139】
【表3】
【0140】
表2より次のことが分かる。
比較例3および4は、アクリルゴムグラフト共重合体(X)のアセトン可溶分比率、グラフト率、トルエン膨潤体の体積および嵩密度が本発明の範囲外であるため、比較例3については、耐衝撃性、耐薬品性、成形品の発色性、鮮映度および熱安定性、比較例4については、耐薬品性、成形品の発色性、鮮映度および熱安定性が、アクリルゴムグラフト共重合体(A-1)または(A-2)を用いた実施例3~5に対して劣る。
これに対し、実施例3~5の熱可塑性樹脂組成物は、耐衝撃性、剛性、耐熱性、成形性(流動性)、耐薬品性、成形品の光沢度、発色性、鮮映度および熱安定性に優れ、外観性能に対して成形条件依存性が小さいなどの良好な特性を有する。
【0141】
また、表3より、次のことが分かる。
比較例5は、アクリルゴムグラフト共重合体(X-1)のアセトン可溶分比率、グラフト率、トルエン膨潤体の体積および嵩密度が本発明の範囲外のため、成形品の光沢度、発色性および鮮映度が、アクリルゴムグラフト共重合体(A-1)を用いた実施例6~10に対して劣る。
また、比較例6はアクリルゴム系グラフト共重合体(A)を用いていないため、成形品の光沢度、発色性および鮮映度が劣る。
これに対し、実施例6~10の熱可塑性樹脂組成物は、耐衝撃性、剛性、耐熱性、成形性(流動性)、成形品の光沢度、発色性、および鮮映度に優れ、外観性能に対して成形条件依存性が小さいなどの良好な特性を有する。
【0142】
〔実施例11~12、比較例7および8:熱可塑性樹脂組成物の製造と評価〕
アクリルゴム系グラフト共重合体(A)または(X)、および熱可塑性樹脂(B)を表4に示す配合で用い、これらの合計100部に対してパラフィンワックス0.5部、および着色剤としてカーボンブラック#960(三菱ケミカル社製)1部を加え、ヘンシェルミキサーを用いて混合し、該混合物をバレル温度250℃に加熱した(株)日本製鋼製脱揮式二軸押出機(TEX28V)で賦形し、熱可塑性樹脂ペレットを作製した。
【0143】
この熱可塑性樹脂ペレットを、東芝機械(株)製55トン射出成形機(型式:IS55FP)にて250℃で成形し、シャルピー衝撃強度、曲げ弾性率および荷重たわみ温度の測定に必要な10×80×4mm短冊試験片を作製した。また、住友重機械工業(株)150トン射出成形機SG150-SYCAP/MIVにて、シリンダー温度260℃、射出速度:50mm/sec.(低速)および100mm/sec.(高速)でそれぞれ成形し、光沢度、発色性および鮮映度の測定に必要な100mm×150mm×3mmの平板成形板を作製した。
【0144】
得られた熱可塑性樹脂ペレット、短冊試験片および平板成形体について、実施例3と同様にして耐衝撃性、耐熱性、流動性、剛性、光沢度、発色性、鮮映度の測定を行い、測定結果を各熱可塑性樹脂組成物のゴム含有量と共に表4に示した。
【0145】
【表4】
【0146】
表4より次のことが分かる。
比較例7および8は、アクリルゴムグラフト共重合体(X-1)のアセトン可溶分比率、グラフト率、トルエン膨潤体の体積および嵩密度が本発明の範囲外のため、得られた成形品の発色性および鮮映度が、アクリルゴムグラフト共重合体(A-1)を用いた実施例11~12に対して劣る。
これに対し、実施例11~12の熱可塑性樹脂組成物は、耐衝撃性、剛性、耐熱性、成形性(流動性)、成形品の光沢度、発色性、および鮮映度に優れ、外観性能に対して成形条件依存性が小さいなどの良好な特性を有する。