(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】ラックアンドピニオン式ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
F16J 15/52 20060101AFI20221227BHJP
B62D 3/12 20060101ALI20221227BHJP
F16J 3/04 20060101ALI20221227BHJP
F16C 11/06 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
F16J15/52 B
B62D3/12 505Z
F16J3/04 B
F16C11/06 Q
(21)【出願番号】P 2018166483
(22)【出願日】2018-09-06
【審査請求日】2021-09-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100183357
【氏名又は名称】小林 義美
(72)【発明者】
【氏名】森山 誠一
(72)【発明者】
【氏名】西村 信幸
(72)【発明者】
【氏名】根岸 武司
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-180573(JP,A)
【文献】特開2002-195282(JP,A)
【文献】実開昭60-096169(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 3/00-3/06
F16J 15/52
B62D 3/12
F16C 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
前記ハウジングを貫通するラックと、
前記ラックの端部に配置されるボールジョイントと、
伸縮可能な筒状の蛇腹部と、前記蛇腹部の伸縮方向の一端で、前記蛇腹部に連通して設けられている環状の一端側接続部と、前記蛇腹部の伸縮方向の他端で、前記蛇腹部に連通して設けられている環状の他端側接続部とで構成され、ラックハウジングの外周に前記一端側接続部が接続されるとともに、タイロッドの外周に前記他端側接続部が接続されて前記ボールジョイントを覆うボールジョイント用ブーツと、
を含むラックアンドピニオン式ステアリング装置であって、
前記ボールジョイント用ブーツの前記蛇腹部は、中立状態に位置している時のタイロッドの傾斜角度分だけ折れ曲がっている折曲領域を有して形成されており、
前記折曲領域は、前記一端側接続部から連続して形成される非折曲領域と、前記他端側接続部から連続して形成される非折曲領域との間にて連続して形成されており、
前記折曲領域の折れ曲がり角度が、前記ラックハウジングの外周に接続される前記一端側接続部の中心を通るブーツ中心軸線に対して、5度乃至20度の範囲であることを特徴とするラックアンドピニオン式ステアリング装置。
【請求項2】
ステアリング装置を車両に取り付け、かつ中立状態に位置している時、前記折曲領域は、車両前方側の蛇腹部が伸長状態で、車両後方側の蛇腹部が圧縮状態であることを特徴とする請求項1に記載のラックアンドピニオン式ステアリング装置。
【請求項3】
前記他端側接続部から連続して形成される非折曲領域は、前記他端側接続部寄りの山部と谷部が、前記他端側接続部方向に向けて、漸次、径が小さくなるように構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のラックアンドピニオン式ステアリング装置。
【請求項4】
前記ラックハウジングと前記一端側接続部との接触領域には、前記ラックハウジングと前記一端側接続部との回転方向位相決め構造を設け、
前記回転方向位相決め構造は、前記一端側接続部の内周面に設けられた凸部と、前記ラックハウジングの外周面に設けられ、前記凸部が嵌り合う凹部と、で構成され、
前記凸部と前記凹部とは、ステアリング装置の車両搭載時における前後方向の中心線上に設けられており、
前記回転方向位相決め構造は、前記一端側接続部の締結部材配設領域の直下に位置して前記凸部と凹部との嵌め合いを強固にする機能を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のラックアンドピニオン式ステアリング装置。
【請求項5】
前記回転方向位相決め構造は、ステアリング装置の車両搭載時における上下方向の中心線に対して対称位置に設けられていることを特徴とする請求項4に記載のラックアンドピニオン式ステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールジョイント用ブーツ、そのボールジョイント用ブーツを用いたラックアンドピニオン式ステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両には、操作者(運転者)のステアリングホイールに対する操作を車輪に伝えるための装置としてステアリング装置が設けられており、例えば、乗用車には、ラックアンドピニオン式ステアリング装置が数多く採用されている。
【0003】
ラックアンドピニオン式のステアリング装置においては、ステアリングホイールに連動するピニオンを、ラックハウジング内でラックの歯面に噛み合わせ、このラックの左右の端部にボールジョイントを介して左右のタイロッドを連結し、左右のタイロッドにボールジョイントを介して左右の前輪のナックルアームを連結している構造を有しており、ラックが車両の左右方向に移動すると、ラックの移動により左右の車輪の向きが変化する。
【0004】
例えば、ラックアンドピニオン式のステアリング装置の一例が特許文献1に開示されている。
特許文献1に開示されているように、ラックの端部(ラックエンド)に設けられているボールジョイントは、動きを滑らかにするために内部にグリースが封入され、その流出防止と外部からの水やダスト等の浸入を防ぐためにボールジョイント用ブーツで覆われている。
【0005】
この種のボールジョイント用ブーツは、例えばゴム又は合成樹脂などからなり、ラックハウジングの外周に接続される環状の一端側接続部と、タイロッドの外周に接続される環状の他端側接続部と、前記一端側接続部と前記他端側接続部との間にわたって連通して一体に設けられ、ラック端部とタイロッド端部との間に備えられたボールジョイント部分を覆う中空筒状の蛇腹部とで構成されているものが知られている。
【0006】
ところで、ステアリング作動でのラックの移動に伴うブーツの伸縮や、路面状態に対応したサスペンションの上下動に際して、ボールジョイント角が変動する。このとき、ボールジョイント部を覆っているボールジョイント用ブーツは、ボールジョイント角の変動に伴い、蛇腹部が湾曲あるいは伸縮を繰り返すため、ボールジョイントと蛇腹部の内径部(内周面)が干渉することがあり、この干渉の頻度によりブーツの摩耗を招くこともある。
特に、SUV(Sport Utility Vehicle)等の最大ボールジョイント角度が大きい車両にあっては、ボールジョイントと蛇腹部の内径部(内周面)の干渉頻度が多くなるため、ブーツの早期摩耗を招くこともある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は従来技術の有するこのような問題点を解決するためになされたものであり、その課題とするところは、ブーツの蛇腹部内周面とボールジョイントとの干渉の際の発生面圧を低減させてブーツの摩耗を抑えることを可能としたボールジョイント用ブーツ、そのボールジョイント用ブーツを用いたラックアンドピニオン式ステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するために、第1の本発明は、ハウジングと、
前記ハウジングを貫通するラックと、
前記ラックの端部に配置されるボールジョイントと、
伸縮可能な筒状の蛇腹部と、前記蛇腹部の伸縮方向の一端で、前記蛇腹部に連通して設けられている環状の一端側接続部と、前記蛇腹部の伸縮方向の他端で、前記蛇腹部に連通して設けられている環状の他端側接続部とで構成され、ラックハウジングの外周に前記一端側接続部が接続されるとともに、タイロッドの外周に前記他端側接続部が接続されて前記ボールジョイントを覆うボールジョイント用ブーツと、
を含むラックアンドピニオン式ステアリング装置であって、
前記ボールジョイント用ブーツの前記蛇腹部は、中立状態に位置している時のタイロッドの傾斜角度分だけ折れ曲がっている折曲領域を有して形成されており、
前記折曲領域は、前記一端側接続部から連続して形成される非折曲領域と、前記他端側接続部から連続して形成される非折曲領域との間にて連続して形成されており、
前記折曲領域の折れ曲がり角度が、前記ラックハウジングの外周に接続される前記一端側接続部の中心を通るブーツ中心軸線に対して、5度乃至20度の範囲であることを特徴とするラックアンドピニオン式ステアリング装置としたことである。
【0010】
第2の本発明は、第1の本発明において、ステアリング装置を車両に取り付け、かつ中立状態に位置している時、前記折曲領域は、車両前方側の蛇腹部が伸長状態で、車両後方側の蛇腹部が圧縮状態であることを特徴とするラックアンドピニオン式ステアリング装置としたことである。
【0011】
第3の本発明は、第1の本発明又は第2の本発明において、前記他端側接続部から連続して形成される非折曲領域は、前記他端側接続部寄りの山部と谷部が、前記他端側接続部方向に向けて、漸次、径が小さくなるように構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のラックアンドピニオン式ステアリング装置としたことである。
【0012】
第4の本発明は、第1の本発明乃至第3の本発明のいずれかにおいて、前記ラックハウジングと前記一端側接続部との接触領域には、前記ラックハウジングと前記一端側接続部との回転方向位相決め構造を設け、
前記回転方向位相決め構造は、前記一端側接続部の内周面に設けられた凸部と、前記ラックハウジングの外周面に設けられ、前記凸部が嵌り合う凹部と、で構成され、
前記凸部と前記凹部とは、ステアリング装置の車両搭載時における前後方向の中心線上に設けられており、
前記回転方向位相決め構造は、前記一端側接続部の締結部材配設領域の直下に位置して前記凸部と凹部との嵌め合いを強固にする機能を有することを特徴とするラックアンドピニオン式ステアリング装置としたことである。
【0013】
第5の本発明は、第4の本発明において、前記回転方向位相決め構造は、ステアリング装置の車両搭載時における上下方向の中心線に対して対称位置に設けられていることを特徴とするラックアンドピニオン式ステアリング装置としたことである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ブーツの蛇腹部内周面とボールジョイントとの干渉の際の発生面圧を低減させてブーツの摩耗を抑えることを可能としたボールジョイント用ブーツ、そのボールジョイント用ブーツを用いたラックアンドピニオン式ステアリング装置を提供し得た。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明のボールジョイント用ブーツの一実施形態を示し、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は一端側接続部から見た側面図である。
【
図2】(a)は
図1(b)のI-I線断面図、(b)は
図1(a)のII-II線断面図である。
【
図3】本実施形態のステアリング装置の模式図である。
【
図4】本実施形態のステアリング装置におけるステアリングギアボックスの中立状態を示す概略平面図である。
【
図5】本実施形態のステアリング装置を車両に装着し、中立状態の時の状態を示す概略拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態について、添付図面を参照して説明する。なお、本実施形態は、本発明の一実施形態であって、何等これに限定解釈されるものではなく本発明の範囲内で設計変更可能である。
「第一実施形態」
【0019】
図3に示すように、本実施形態のステアリング装置80は、ステアリングホイール81と、ステアリングシャフト82と、ユニバーサルジョイント84と、中間シャフト85と、ユニバーサルジョイント86と、ピニオンシャフト87と、ピニオン88aと、ラック88bと、を備える。
【0020】
ステアリングシャフト82の一端は、ステアリングホイール81に連結される。ステアリングシャフト82の他端は、ユニバーサルジョイント84に連結される。中間シャフト85の一端は、ユニバーサルジョイント84に連結される。中間シャフト85の他端は、ユニバーサルジョイント86に連結される。ピニオンシャフト87の一端は、ユニバーサルジョイント86に連結される。ピニオンシャフト87の他端は、ピニオン88aに連結される。
ピニオン88aは、ラック88bの歯と噛み合う。ピニオン88a及びラック88bは、ピニオンシャフト87に伝達された回転運動を直進運動に変換する。ラック88bの両端は、左右に備えられるタイロッド89,89にそれぞれ連結される。ラック88bが車幅方向に移動することによって車輪の角度が変化する。
【0021】
以下の説明において、ラック88bの軸方向は、単に軸方向と記載される。軸方向に対して直交する方向は径方向と記載される。ラック88bの回転軸を中心とした円周に沿う方向は周方向と記載される。
【0022】
図3に示すように、ステアリング装置80は、電動モータ93と、トルクセンサ94と、車速センサ95と、ECU(Electronic Control Unit)90と、を備える。電動モータ93、トルクセンサ94及び車速センサ95は、ECU90と電気的に接続される。
【0023】
電動モータ93は、例えばブラシレスモータである。電動モータ93は、ブラシ(摺動子)及びコンミテータ(整流子)を備えるモータであってもよい。電動モータ93は、例えば、ハウジング10に固定される。電動モータ93の動力は、ラック88bに伝達され、軸方向にラック88bを移動させる。電動モータ93で生じたトルクにより、操作者がラック88bを移動させるために要する力が小さくなる。すなわち、ステアリング装置80には、ラックアシスト式が採用されている。
【0024】
トルクセンサ94は、例えばピニオン88aに取り付けられている。トルクセンサ94は、ピニオン88aに伝達された操舵トルクをCAN(Controller Area Network)通信によりECU90に出力する。車速センサ95は、ステアリング装置80が搭載される車体の走行速度(車速)を検出する。車速センサ95は、車体に備えられ、車速をCAN通信によりECU90に出力する。
【0025】
ECU90は、電動モータ93の動作を制御する。ECU90は、トルクセンサ94及び車速センサ95のそれぞれから信号を取得する。ECU90には、イグニションスイッチ98がオンの状態で、電源装置(例えば、車載のバッテリ)99から電力が供給される。ECU90は、操舵トルク及び車速に基づいて補助操舵指令値を算出する。ECU90は、補助操舵指令値に基づいて電動モータ93へ供給する電力値を調節する。ECU90は、電動モータ93から誘起電圧の情報又は電動モータ93に設けられたレゾルバ等から出力される情報を取得する。ECU90が電動モータ93を制御することで、ステアリングホイール81の操作に要する力が小さくなる。
【0026】
図4は、ステアリングギアボックスの正面図である。
図4において、電動モータ93及び電動モータ93に付随する部材は省略されている。
ステアリング装置80は、ラックハウジング10とボールジョイント3とボールジョイント用ブーツ5と、を備える。
【0027】
ラックハウジング10は、円筒状の部材である。ラックハウジング10は、ラック88bが軸方向に移動できるようにラック88bを支持する。ラック88bは、ラックハウジング10を貫通する。
【0028】
ボールジョイント3は、ラック88bとタイロッド89とを連結する。タイロッド89は、ラック88bに対して揺動可能である。ボールジョイント3はソケット31と、ボール33と、を備える。ソケット31は、ラック88bの端部に接続される。ボール33は、タイロッド89の端部に接続される。ボール33は、ソケット31に保持される。タイロッド89は、ボール33を中心として揺動可能である。
【0029】
ボールジョイント用ブーツ5は、ボールジョイント3部分を覆う筒状の部材であって、伸縮可能な筒状の蛇腹部55と、蛇腹部55の伸縮方向の一端で、蛇腹部55に連通して設けられている環状の一端側接続部(大径側端部)51と、蛇腹部55の伸縮方向の他端で、蛇腹部55に連通して設けられている環状の他端側接続部(小径側端部)53とで構成されている。
【0030】
ボールジョイント用ブーツ5の材料は特に限定解釈されるものではなく、例えば、ゴム又はエラストマ等仕様に応じて適宜その材料が選択可能である。
ボールジョイント用ブーツ5の伸び率は、例えば200%である。伸び率とは、材料の引張試験において、試験片の当初の標点間距離をL0とし、破断時の標点間距離をLとした場合に、{(L-L0)/L0}×100で算出される値である。
【0031】
一端側接続部(大径側端部)51は、ラックハウジング10の外周に接続される。
本実施形態において一端側接続部51は、蛇腹部55の山部56と略同径の大径短尺円筒状に形成されている。
外周には締結部材11を配設する締結部材配設領域52が周方向に凹状に連続して形成されている。締結部材11は、例えば金属で形成された環状の締結バンドであって、この締結部材11によって一端側接続部51がラックハウジング10の外周に緊密に接続される。
【0032】
他端側接続部(小径側端部)53は、タイロッド89の外周に接続される。
本実施形態において他端側接続部53は、一端側接続部51よりも小径の小径短尺円筒状に形成されている。
外周には締結部材15を配設する締結部材配設領域54が周方向に凹状に連続して形成されている。締結部材15は、例えば金属で形成された環状の締結バンドであって、この締結部材15によって他端側接続部54がタイロッド89の外周に緊密に接続される。
【0033】
蛇腹部55は、ラック88bの移動に伴って変形する部材であって、上述したとおり、一端側接続部51と他端側接続部53とが、それぞれ緊密に接続されることにより、ラック88bとタイロッド89との間に配設されているボールジョイント3部分が密閉され外部と遮蔽される。
蛇腹部55は、大径の環状の山部56と、山部56よりも小径の環状の谷部57とが長手方向に交互に配置された伸縮変形可能な中空筒状に成形されている。山部56と谷部57の傾斜面58はそれぞれ共通である。全ての山部56と谷部57の肉厚はそれぞれ均一に成形されている。
【0034】
本実施形態の蛇腹部55は、一端側接続部51から他端側接続部53に向かって、第一の領域A1、第二の領域A2、第三の領域A3と区分けされている(
図1参照。)。
【0035】
本実施形態では、第二の領域A2は、ステアリング装置80を車両に取り付け、中立状態に位置している時のタイロッド89の傾斜角度分だけ折れ曲がっている折曲領域A21を有するように成形されている(
図1、
図2、
図4及び
図5参照。)。
すなわち、第二の領域A2(折曲領域A21)における車両前方側の蛇腹部が伸長され、車両後方側の蛇腹部が圧縮されているように湾曲状に予め成形されている。
言い換えると、車両前方側の隣り合う山部56と山部56との間隔が広く、車両後方側の隣り合う山部56と山部56との間隔が狭くなるように湾曲して成形されている。
【0036】
また、本実施形態では、第三の領域A3における他端側接続部53寄りの山部56と谷部57とを、その他の山部56と谷部57よりも小径に成形している(
図1参照。)。
すなわち、他端側接続部53から見て1番目の山部56a、2番目の山部56b、3番目の山部56cが、3番目の山部56c、2番目の山部56b、1番目の山部56aと漸次小径となるように成形されている
さらに本実施形態では、他端側接続部53から連続して裾広がり状の環状の肩部59を備えている。また、この肩部59の外周面には等間隔で複数個のリブ59aが突設されている。リブ59aは、他端側接続部53寄りから一端側接続部51方向に向けて漸次幅狭状になるように肩部と一体成形されている(
図1参照。)。
【0037】
折曲領域A21の折れ曲がり角度は、ラックハウジング10の外周に接続される一端側接続部51の中心を通るブーツ中心軸線L1に対して、5度乃至20度の範囲とする(
図1、
図2及び
図5参照。)。この折れ曲がり角度の選択は、適宜仕様に応じて変更可能である。
【0038】
本実施形態によれば、ボールジョイント用ブーツ5の成形状態において、ステアリング装置80を車両に取り付け、中立状態に位置している時のタイロッド89の傾斜角度分だけ折れ曲がっている折曲領域A21(第二の領域A2)を有するように予め成形しておくことにより、車両使用環境下でのブーツの成形状態からの最大曲がり量を低減させることができる。これにより、ブーツの蛇腹部55の内周面とボールジョイント3との干渉の際の発生面圧を低減させてブーツの摩耗を抑えることができる。
【0039】
なお、本実施形態において、蛇腹部55の第一の領域A1、第二の領域A2、第三の領域A3を構成するそれぞれの山部56と谷部57の数、隣り合う山部56と山部56との間隔、あるいは蛇腹部55を構成する肉厚などの諸仕様は本発明の範囲内で設計変更可能である。
【0040】
本実施形態では、ラックハウジング10と一端側接続部51との接触領域に、ラックハウジング10とブーツ5との回転方向位相決め構造60を設けている(
図1、
図2、
図5及び
図6参照。)。
【0041】
回転方向位相決め構造60は、例えば本実施形態では、一端側接続部51の内周面に突出して設けられた角柱状の凸部61と、ラックハウジング10の外周面に設けられ、凸部61が嵌り合う凹部62と、で構成されている。
本実施形態では、ラックハウジング10の端部から軸方向で他端側接続部53方向に所定距離入った外周面の所定位置に凹設されているため、一端側接続部51をラックハウジング10の外周面に嵌め込む際、位置合わせをした後に一端側接続部51を軸方向に押し込むと、凸部61が凹部62に嵌り合う。
【0042】
本実施形態においては、ステアリングギアボックスの軸方向で左右に位置するそれぞれのボールジョイント3,3を覆う各ボールジョイント用ブーツ5,5の一端側接続部51,51とラックハウジング10との接続領域(接触領域)に設けられる回転方向位相決め構造60,60を、ステアリング装置(ステアリングギアボックス)80の車両搭載時における上下方向の中心線L2に対して対称位置に設けることとしている(
図2、
図5及び
図6参照)。
すなわち、ラックハウジング10の外周面に設けられる凹部62をステアリング装置(ステアリングギアボックス)80の車両搭載時における上下方向の中心線L2に対して対称位置に設けることとしている。また、凸部61と凹部62とは、ステアリング装置(ステアリングギアボックス)80の車両搭載時における車両前後方向の中心線L3上に設けている(
図1(c)、
図2(b)、及び
図6参照。)。
【0043】
これにより、上述のとおりに成形した折曲領域A21(第二の領域A2)を有する本実施形態特有のボールジョイント用ブーツ5の左右共通化が図れ、製造コスト及び部品管理点数の削減となり、結果的に製品コスト低廉化にも寄与し得る。また、ボールジョイント用ブーツの誤組付け防止にも大変効果的である。
【0044】
本実施形態において回転方向位相決め構造60は、一端側接続部51の締結部材配設領域52の直下に位置している(
図2、
図5及び
図6参照)。
このように締結部材配設領域52の直下に回転方向位相決め構造60を備えているため、締結部材11による締め付け力が凸部61と凹部62との嵌り合いを強固にするため、一端側接続部51の回転方向位相決めが確実になし得るとともに、ラックハウジング10への締結が強固に図れる。
【0045】
また、図示はしないが、ラックハウジング10の外周面に設けられる凹部62は、ラックハウジング10の端面から軸方向で他端側接続部53方向に向かって連続して切り欠かれた凹溝であってもよい。
このように構成することにより、ラックハウジング10の端面に切り欠かれた凹溝62に、一端側接続部51の内周面に設けられた凸部61をあてがってそのまま軸方向に押し込むことができるため操作性に優れている。
【0046】
なお、本実施形態では、一端側接続部51の内周面に設けられた凸部61と、ラックハウジング10の外周面に設けられた凹部62と、で構成された回転方向位相決め構造60をもって説明したが、ラックハウジング10の外周面に設けられた凸部と、一端側接続部51の内周面に設けられた凹部と、で構成された回転位相決め構造であってもよく、本発明の範囲内で設計変更可能である。
【0047】
また、回転位相決め構造60を円周方向に2箇所以上設ける構造を採用することも本発明の範囲内であって、適宜選択可能である。例えば、車両前後方向の中心線L3上の前後2箇所の位置に設ける構造であってもよく、さらに、中心線L3と直交する中心線(図示省略)上にも2箇所設けて周方向で90度間隔で計4箇所設ける構造を採用することも可能である。
このように2箇所以上に設ける場合、凹凸構造の大きさや形状を変えておくことで誤組付けを防止することが可能である。
なお、本実施形態では、回転方向位相決め構造60は、一端側接続部51の締結部材配設領域52の直下に位置している実施の一形態をもって説明したが、これに限定解釈されるものではなく、本発明の範囲内で設計変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、本実施形態以外のラックアンドピニオン式のステアリング装置にも利用可能である。
【符号の説明】
【0049】
3 ボールジョイント
10 ラックハウジング
5 ボールジョイント用ブーツ
51 一端側接続部
52 締結部材配設領域
55 蛇腹部
53 他端側接続部
60 回転方向位相決め構造
61 凸部
62 凹部
88b ラック
89 タイロッド
A21 折曲領域
L1 ブーツ中心軸線
L2 車両搭載時の上下方向の中心線