(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】ダストカバー
(51)【国際特許分類】
F16J 3/04 20060101AFI20221227BHJP
B62D 1/16 20060101ALI20221227BHJP
F16J 15/52 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
F16J3/04 B
B62D1/16
F16J15/52 Z
(21)【出願番号】P 2018172406
(22)【出願日】2018-09-14
【審査請求日】2021-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森山 誠一
【審査官】山本 健晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-162014(JP,A)
【文献】特開平07-091545(JP,A)
【文献】実開平04-128537(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 3/04
B62D 1/16
F16J 15/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダッシュパネルを貫通するステアリングシャフトの外周面に取り付けられるブッシュと、
前記ダッシュパネルと前記ブッシュとの間に配置される環状のベローズと、
を備え、
前記ベローズは、前記ブッシュの移動に応じて変形可能であるベローズ本体部と、前記ベローズ本体部の外周側に設けられた溝に嵌められた補強部材と、を備
え、
前記ベローズ本体部は、前記補強部材の外周面を前記ベローズ本体部から露出させるスリットを備える、
ダストカバー。
【請求項2】
前記ベローズ本体部は、前記補強部材の前記外周面の一端部を覆う第1覆部と、前記補強部材の前記外周面の他端部を覆う第2覆部と、を有し、
前記スリットは、前記第1覆部の先端と前記第2覆部の先端との間に設けられる、
請求項
1に記載のダストカバー。
【請求項3】
前記補強部材は、前記ステアリングシャフトの軸方向に沿って延びる環状の補強部材本体部と、前記補強部材本体部から前記軸方向に直交する径方向に沿って広がるフランジと、を有する、
請求項
1または2に記載のダストカバー。
【請求項4】
前記補強部材は、樹脂又は軽金属である、
請求項1から
3のいずれか1項に記載のダストカバー。
【請求項5】
前記補強部材の角部の少なくとも一部は、曲面状又は面取りされている、
請求項1から
4のいずれか1項に記載のダストカバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ステアリングシャフトとダッシュパネルとの間の隙間に配置されるダストカバーに関する。
【背景技術】
【0002】
車両に設けられるステアリング装置は、ステアリングホイールの回転を車輪に伝えるためステアリングシャフトを備える。ステアリングシャフトは、車室とエンジンルームとを隔てるダッシュパネルに設けられた貫通孔の内方を貫通している。
【0003】
ステアリングホイールの位置の調整又は走行中の振動等に伴ってステアリングシャフトが移動するため、ステアリングシャフトとダッシュパネルの貫通孔の縁との間には所定の隙間が設けられる。その一方、粉塵等の異物を含む外気及びエンジンルームで生じる音等の車室内への侵入を防止する必要がある。このため、ステアリングシャフトとダッシュパネルの貫通孔の縁との間の隙間にダストカバーが設けられる。例えば特許文献1には、ダストカバーの一例が記載されている。
【0004】
特許文献1に記載されたダストカバーは、ダッシュパネルの貫通孔の縁に嵌め込まれる取付部(支持部)を有する。筒状に形成された金属製の補強部材がインサート成形によって取付部の内部に埋設されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ダストカバーの取付部に金属製補強部材をインサート成形する場合、補強部材の脱脂工程や接着剤の塗布工程、及び補強部材の成形金型への供給工程などが必要となる。このため、ダストカバーの製造工数が多大で、コストも高くなる。
【0007】
本開示は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、製造工数及び製造コストがより低減されるダストカバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本開示の一態様に係るダストカバーは、ダッシュパネルを貫通するステアリングシャフトの外周面に取り付けられるブッシュと、前記ダッシュパネルと前記ブッシュとの間に配置される環状のベローズと、前記ベローズを前記ブッシュに固定する固定部材と、を備え、前記ベローズは、前記ブッシュの移動に応じて変形可能であるベローズ本体部と、前記ベローズ本体部の外周側に設けられた溝に嵌められた補強部材と、を備える。
【0009】
これにより、補強部材をベローズ本体部に組み付けやすくなるため、ダストカバーの製造工数がより低減される。すなわち、ベローズ本体部の外周側には、溝が設けられており、補強部材を前記溝に嵌めるという簡単な作業によって補強部材をベローズ本体部に取り付けることができる。
【0010】
ここで、上述したように、従来のダストカバーにおいては、補強部材がインサート成形によって取付部の内部に埋設されている。従って、補強部材をインサート成形する場合、補強部材の脱脂工程や接着剤の塗布工程、及び補強部材の成形金型への供給工程などが必要であった。しかし、本発明によれば、補強部材を取付部の内部に埋設する構造ではないため、補強部材の脱脂工程や接着剤の塗布工程、及び補強部材の成形金型への供給工程などが不要となる。以上より、本発明によれば、製造工数及び製造コストがより低減されるダストカバーを得ることができる。
【0011】
ダストカバーの望ましい態様として、前記ベローズ本体部は、前記補強部材の外周面を前記ベローズ本体部から露出させるスリットを備えることが好ましい。これによれば、ベローズ本体部におけるスリットの部分を変形させて補強部材を溝に嵌める作業が容易になる。
【0012】
ダストカバーの望ましい態様として、前記ベローズ本体部は、前記補強部材の前記外周面の一端部を覆う第1覆部と、前記補強部材の前記外周面の他端部を覆う第2覆部と、を有し、前記スリットは、前記第1覆部の先端と前記第2覆部の先端との間に設けられることが好ましい。これにより、補強部材の周辺部の外周側とダッシュパネルの貫通孔の縁とをバンド等を用いて締め付けることでダストカバーをダッシュパネルに固定する場合、補強部材とダッシュパネルとが直接に接触することを抑制することができる。特に、補強部材及びダッシュパネルが共に金属等の硬度が高い部材の場合、補強部材とダッシュパネルとが接触した状態で締め付けられると、補強部材とダッシュパネルとの接触部分でのシール性が低下することが考えられる。しかし、本発明では、補強部材とダッシュパネルとの間に第1覆部と第2覆部とが介在するため、シール性能を高く維持することができる。
【0013】
ダストカバーの望ましい態様として、前記補強部材は、前記ステアリングシャフトの軸方向に沿って延びる環状の補強部材本体部と、前記補強部材本体部から前記軸方向に直交する径方向に沿って広がるフランジと、を有することが好ましい。これにより、さらに強固に補強部材をベローズ本体部に組み付けることができる。また、補強部材が補強部材本体部とフランジとを有する形状にすることで、補強部材の剛性も向上するため、補強部材の板厚を薄くして軽量化を図ることができる。
【0014】
ダストカバーの望ましい態様として、前記補強部材は、樹脂又は軽金属であることが好ましい。これにより、補強部材の重量が軽減され、ひいてはダストカバー全体の重量を軽減することができる。
【0015】
ダストカバーの望ましい態様として、前記補強部材の角部の少なくとも一部は、曲面状又は面取りされていることが好ましい。このため、補強部材をベローズ本体部に組み付けやすくなる効果及び補強部材の角部がベローズに接触してもベローズの摩耗を抑制することができる効果などを得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、製造工数及び製造コストがより低減されるダストカバーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係るステアリング装置の概略を示す模式図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係るステアリング装置の概略を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態に係るダストカバーの周辺を示す断面図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態に係るダストカバーの正面図である。
【
図9】
図9は、第2実施形態に係るダストカバーにおける
図5に相当する断面図である。
【
図11】
図11は、第3実施形態に係るダストカバーにおける支持部を拡大した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。なお、「IN」は車室内側、「OUT」はエンジンルーム側を示すものとする。
【0019】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係るステアリング装置の概略を示す模式図である。
図2は、第1実施形態に係るステアリング装置の概略を示す斜視図である。
図1に示すように、ステアリング装置80は、操作者から与えられる力が伝達する順に、ステアリングホイール81と、第1ステアリングシャフト82と、操舵力アシスト機構83と、ユニバーサルジョイント84と、第2ステアリングシャフト85と、ユニバーサルジョイント86と、を備え第3ステアリングシャフト87に接合されている。また、ステアリング装置80は、ECU(Electronic Control Unit)90と、トルクセンサ94とを備える。車速センサ95は、車体に備えられ、CAN(Controller Area Network)通信により車速信号VをECU90に出力する。
【0020】
図1に示すように、第1ステアリングシャフト82は、入力軸82aと、出力軸82bとを備える。入力軸82aの一方の端部がステアリングホイール81に連結され、入力軸82aの他方の端部が出力軸82bに連結される。また、出力軸82bの一方の端部が入力軸82aに連結され、出力軸82bの他方の端部がユニバーサルジョイント84に連結される。第1実施形態では、入力軸82a及び出力軸82bは、機械構造用炭素鋼(SC材(Carbon Steel for Machine Structural Use))又は機械構造用炭素鋼鋼管(いわゆるSTKM材(Carbon Steel Tubes for Machine Structural Purposes))等の一般的な鋼材等から形成される。
【0021】
図1に示すように、第2ステアリングシャフト85は、ユニバーサルジョイント84を介して出力軸82bに連結される。第2ステアリングシャフト85の一方の端部がユニバーサルジョイント84に連結され、他方の端部がユニバーサルジョイント86に連結される。第3ステアリングシャフト87の一方の端部がユニバーサルジョイント86に連結され、第3ステアリングシャフト87の他方の端部がステアリングギヤ88に連結される。また、
図2に示すように、第2ステアリングシャフト85は、ダッシュパネル10を貫通している。ダッシュパネル10は、車室とエンジンルームとを隔てる仕切り板である。
【0022】
図1に示すように、ステアリングギヤ88は、ピニオン88aと、ラック88bとを備える。ピニオン88aは、第3ステアリングシャフト87に連結される。ラック88bは、ピニオン88aに噛み合う。ステアリングギヤ88は、ピニオン88aに伝達された回転運動をラック88bで直進運動に変換する。ラック88bは、タイロッド89に連結される。すなわち、ステアリング装置80は、ラックアンドピニオン式である。
【0023】
図1に示すように、操舵力アシスト機構83は、減速装置92と、電動モータ93とを備える。電動モータ93は、例えばブラシレスモータであるが、ブラシ(摺動子)及びコンミテータ(整流子)を備えるモータであってもよい。減速装置92は、例えばウォーム減速装置である。電動モータ93で生じたトルクは、減速装置92の内部のウォームを介してウォームホイールに伝達され、ウォームホイールを回転させる。減速装置92は、ウォーム及びウォームホイールによって、電動モータ93で生じたトルクを増加させる。そして、減速装置92は、出力軸82bに補助操舵トルクを与える。すなわち、ステアリング装置80は、コラムアシスト方式である。
【0024】
トルクセンサ94は、ステアリングホイール81を介して入力軸82aに伝達された操作者(運転者)の操舵力を操舵トルクとして検出する。車速センサ95は、ステアリング装置80が搭載される車体の走行速度(車速)を検出する。電動モータ93、トルクセンサ94及び車速センサ95は、ECU90と電気的に接続される。
【0025】
ECU90は、電動モータ93の動作を制御する。また、ECU90は、トルクセンサ94及び車速センサ95のそれぞれから信号を取得する。すなわち、ECU90は、トルクセンサ94から操舵トルクTを取得し、且つ車速センサ95から車体の車速信号Vを取得する。ECU90は、イグニッションスイッチ98がオンの状態で、電源装置99(例えば車載のバッテリ)から電力が供給される。ECU90は、操舵トルクTと車速信号Vとに基づいてアシスト指令の補助操舵指令値を算出する。そして、ECU90は、その算出された補助操舵指令値に基づいて電動モータ93へ供給する電力値Xを調節する。ECU90は、電動モータ93から誘起電圧の情報又は電動モータ93に設けられたレゾルバ等から出力される情報を動作情報Yとして取得する。
【0026】
ステアリングホイール81に入力された操作者の操舵力は、入力軸82aを介して操舵力アシスト機構83の減速装置92に伝わる。この時、ECU90は、入力軸82aに入力された操舵トルクTをトルクセンサ94から取得し、且つ車速信号Vを車速センサ95から取得する。そして、ECU90は、電動モータ93の動作を制御する。電動モータ93が作り出した補助操舵トルクは、減速装置92に伝えられる。
【0027】
出力軸82bを介して出力された操舵トルク(補助操舵トルクを含む)は、ユニバーサルジョイント84を介して第2ステアリングシャフト85に伝達され、さらにユニバーサルジョイント86を介して第3ステアリングシャフト87に伝達される。第3ステアリングシャフト87に伝達された操舵力は、ステアリングギヤ88を介してタイロッド89に伝達され、車輪を変位させる。
【0028】
図3は、第1実施形態に係るダストカバーの周辺を示す断面図である。
図4は、第1実施形態に係るダストカバーの正面図である。
図5は、
図4におけるA-A断面図である。以下の説明において、第2ステアリングシャフト85の回転中心軸Zに沿う方向は軸方向と記載され、軸方向に対する直交方向は径方向と記載され、回転中心軸Zを中心とした円の接線方向は周方向と記載される。
【0029】
図3に示すように、ダッシュパネル10は、筒状部101を備える。筒状部101の内周面は、第2ステアリングシャフト85の外周面と対向する。第2ステアリングシャフト85は、ステアリングホイール81の位置の調整又は走行中の振動等に伴って移動することがある。このため、筒状部101の内周面と第2ステアリングシャフト85の外周面との間には、環状の隙間Gが設けられている。この隙間Gを塞ぐために、ステアリング装置80は、ダストカバー1を備える。ダストカバー1は、筒状部101の内周面に嵌められており、且つ筒状部101の端部に設けられたフランジ102によって位置決めされている。筒状部101の外周面に設けられたバンド103によって、ダストカバー1が筒状部101に固定されている。
【0030】
図5に示すように、ダストカバー1は、ベローズ2と、ブッシュ5と、シールリップ6と、固定部材14と、第2シールリップ12と、を備える。
【0031】
ベローズ2は、ダッシュパネル10の筒状部101に支持されている。ベローズ2は、
図5に示すようにベローズ本体部21と、補強部材22と、を備える。ベローズ2は、ブッシュ5と筒状部101との間の隙間を塞ぐための部材である。ベローズ2は、第2ステアリングシャフト85の偏芯によって生じるブッシュ5の移動に伴って変形することができる。
【0032】
ベローズ本体部21は、筒状部101からブッシュ5に亘って設けられる部材であって、例えば合成ゴムで形成されている。より具体的には、ベローズ本体部21は軟質ゴムが好ましい。ベローズ本体部21は、ブッシュ5の移動に応じて容易に変形可能である。ベローズ本体部21は、支持部211と、第1可撓部212と、第1嵌合部213と、第2可撓部215と、第2嵌合部216を含む。支持部211、第1可撓部212、第1嵌合部213、第2可撓部215及び第2嵌合部216は、一体成形されている。支持部211は、筒状部101の端部及びフランジ102に接する円環状の部位である。第1可撓部212は、支持部211と第1嵌合部213とを繋ぐ部位である。
【0033】
図5に示すように、回転中心軸Zを含む断面において、第1可撓部212は、エンジンルーム側に凸の略U字状である。第1嵌合部213は、ブッシュ5の外周面に嵌められる。第2可撓部215は、支持部211と第2嵌合部216とを繋ぐ部材である。
図5に示すように、回転中心軸Zを含む断面において、第2可撓部215は、エンジンルーム側に凸の略U字状である。第2可撓部215は、第1可撓部212に対して隙間を空けて対向している。第2嵌合部216は、ブッシュ5の外周面に嵌められる。第2嵌合部216は、第1嵌合部213の外周面に重なっている。
【0034】
補強部材22は、ベローズ本体部21の全周に亘って配置された環状の部材である。補強部材22については、詳細に後述する。
【0035】
ブッシュ5は、第2ステアリングシャフト85を回転可能に支持する軸受である。ブッシュ5は、環状の部材であって、例えば合成樹脂で形成されている。
図5に示すように、ブッシュ5は、基部50と、フランジ51と、凹部57と、返し部58と、複数の溝59とを備える。基部50の内周面が第2ステアリングシャフト85に接しており、基部50の外周面が第1嵌合部213及び第2嵌合部216に接している。
【0036】
フランジ51は、基部50の軸方向の端部から径方向外側に突出している。フランジ51には第1嵌合部213が接している。フランジ51は、第1嵌合部213を軸方向に位置決めしている。凹部57には、固定部材14が嵌まる。返し部58が固定部材14を軸方向に位置決めしている。溝59は、例えば軸方向に沿う溝であって、ブッシュ5の軸方向の全長に亘って設けられている。例えば複数の溝59が周方向に等間隔に配置されている。溝59には、グリース54が充填されている。グリース54は、ブッシュ5と第2ステアリングシャフト85との間の摩擦を抑制するための潤滑剤である。
【0037】
シールリップ6は、ブッシュ5の内側とエンジンルームとを隔てるための密封部材である。シールリップ6は、例えば合成ゴムであって、ブッシュ5と一体成形されている。より具体的には、シールリップ6は、ベローズ本体部21とは異なる硬質ゴムが好ましい。ベローズ本体部21は、第2ステアリングシャフト85の偏芯に追従させるために軟質ゴムが好ましい。しかし、シールリップ6は、第2ステアリングシャフト85の外周面との摺動時に異音が発生することを抑制するために硬質ゴムが好ましい。シールリップ6は、具体的には、内周面613のエンジンルーム側の端部に位置するシール部611が第2ステアリングシャフト85の外周面に接する。内周面613にはグリース64が塗布されている。グリース64は、シールリップ6と第2ステアリングシャフト85との間の摩擦を抑制するための潤滑剤である。
【0038】
固定部材14は、ベローズ2をブッシュ5に固定するための部材である。固定部材14は、例えば金属で形成された環状の部材である。固定部材14は、ブッシュ5の返し部58側から凹部57に嵌められる。固定部材14が返し部58の外周面に押し付けられると返し部58が変形し、固定部材14が凹部57に達すると返し部58の変形が戻る。これにより、固定部材14がブッシュ5に固定される。固定部材14により、第2嵌合部216及び第1嵌合部213がブッシュ5に押し付けられる。また、固定部材14が第2嵌合部216の車室側端部に接する。このため、軸方向に重ねられた第1嵌合部213及び第2嵌合部216が、ブッシュ5のフランジ51と固定部材14とによって挟まれる。すなわち、フランジ51及び固定部材14によって第2嵌合部216及び第1嵌合部213が軸方向に位置決めされる。フランジ51及び固定部材14は、ベローズ2がブッシュ5から脱落することを防止している。
【0039】
第2シールリップ12は、ブッシュ5の内側と車室とを隔てるための密封部材である。第2シールリップ12は、例えば合成ゴムであって、固定部材14と一体成形されている。より具体的には、第2シールリップ12は、ベローズ本体部21とは異なる硬質ゴムが好ましい。
図5に示すように、第2シールリップ12は、固定部材14の端面から車室側に突出している。例えば、第2シールリップ12は、第2ステアリングシャフト85の外周面に接している。第2ステアリングシャフト85に接する前における第2シールリップ12の最小内径は、第2ステアリングシャフト85の外径より小さい。このため、第2シールリップ12が第2ステアリングシャフト85に接すると、第2シールリップ12が変形する。第2シールリップ12の弾性により、第2シールリップ12と第2ステアリングシャフト85との間の隙間が生じにくくなっている。このため、第2シールリップ12は、ブッシュ5の内側から車室へのグリース54の漏洩を防ぐことができる。また、第2シールリップ12は、エンジンルームで生じる音の車室への漏洩を抑制することができる。さらに、第2シールリップ12は、車室からブッシュ5へ埃が侵入することを防ぐことができる。
【0040】
図6は、
図5の支持部を拡大した断面図である。
図7は、補強部材の斜視図である。
図8は、
図7におけるB-B断面図である。
【0041】
図6に示すように、ベローズ本体部21の支持部211は、軸方向に延びる軸方向壁部2112と、径方向に広がって延びる径方向壁部2111と、を有する。軸方向壁部2112の外周側(径方向外側)には、溝3が設けられている。溝3は、軸方向壁部2112の外周面2112aから内周側(径方向内側)に向けて凹む凹部である。溝3は、周方向に沿って環状に繋がって延びている。具体的に、溝3は、底面31と、内側縦面32と、外側縦面33と、から断面矩形状の形状を有する。
【0042】
図6、
図7及び
図8に示すように、第1実施形態に係る補強部材22は、周方向に沿って環状に繋がって延びる円環状部材である。補強部材22は、例えば樹脂又は軽金属である。軽金属として、例えばアルミニウム合金等が適用可能である。なお、補強部材22は、樹脂又は軽金属に限定されず、例えば鋼板等でもよい。補強部材22は、径方向から見て
図3に示すバンド103と重なる。すなわち、補強部材22は、径方向に対して直交する平面視で
図3に示すバンド103と重なる。これにより、筒状部101とベローズ本体部21との間の隙間が密封されやすくなる。補強部材22は、外周面221と、内周面222と、第1側面223と、第2側面224と、を有する。回転中心軸Zを含む断面において、補強部材22は、矩形状である。外周面221及び内周面222は、回転中心軸Zの軸方向に沿うと共に周方向に沿って延びる。外周面221は、ベローズ本体部21から露出している。内周面222は、外周面221と平行に延びる。第1側面223及び第2側面224は、回転中心軸Zの径方向に沿うと共に周方向に沿って延びる。第2側面224は、第1側面223と平行に延びる。なお、
図6に示すように、補強部材22の外周面221は、軸方向壁部2112の外周面2112aよりも内周側(径方向内側)に位置している。従って、
図3に示す筒状部101が外周面2112aに押圧された場合でも、筒状部101と外周面221とは径方向に間隙が生じる。
【0043】
また、補強部材22の角部は、曲面状である。外周面221と第1側面223との間は、第1角部225である。第1側面223と内周面222との間は、第2角部226である。内周面222と第2側面224との間は、第3角部228である。第2側面224と外周面221との間は、第4角部227である。第1実施形態においては、第1角部225、第2角部226、第3角部228及び第4角部227は、全て曲面状である。なお、4つの角部の全てを曲面状とする必要はなく、少なくとも1つの角部を曲面状としてもよい。また、補強部材22の角部は、面取りされていてもよい。
【0044】
以上で説明したように、第1実施形態に係るダストカバー1は、ダッシュパネル10を貫通する第2ステアリングシャフト85(ステアリングシャフト)の外周面に取り付けられるブッシュ5と、ダッシュパネル10とブッシュ5との間に配置される環状のベローズ2と、ベローズ2をブッシュ5に固定する固定部材14と、を備える。ベローズ2は、ブッシュの移動に応じて変形可能であるベローズ本体部21と、ベローズ本体部21の外周側に設けられた溝3に嵌められた補強部材22と、を備える。
【0045】
これにより、補強部材22をベローズ本体部21に組み付けやすくなるため、ダストカバー1の製造工数がより低減される。すなわち、ベローズ本体部21の外周側には、溝3が設けられており、成形が完了した後のベローズ本体部21の溝3に補強部材22を嵌めるという簡単な作業によって補強部材22をベローズ本体部21に組み付けることができる。
【0046】
ここで、上述したように、特許文献1のダストカバーにおいては、補強部材がインサート成形によって取付部(支持部)の内部に埋設されている。従って、補強部材22をインサート成形する場合、補強部材22の脱脂工程や接着剤の塗布工程、及び補強部材22の成形金型への供給工程などが必要であった。しかし、本実施形態によれば、補強部材22が支持部211の内部に埋設された構造ではないため、補強部材22の脱脂工程や接着剤の塗布工程、及び補強部材22の成形金型への供給工程などが不要となる。以上より、本実施形態によれば、製造工数及び製造コストがより低減されるダストカバー1を得ることができる。
【0047】
また、補強部材22は、樹脂又は軽金属である。これにより、補強部材22の重量が軽減され、ひいてはダストカバー1全体の重量を軽減することができる。なお、補強部材22を樹脂とした場合、厚さを大きくすることにより、剛性を高めることができる。
【0048】
さらに、補強部材22の角部の少なくとも一部は、曲面状である。このため、補強部材22をベローズ本体部21に組み付けやすくなる。すなわち、補強部材22の径方向外側の角部が曲面状であることにより、補強部材22をベローズ本体部21の溝3に組み付ける際、補強部材22の角部がベローズ本体部21の溝3の一部に接触しても引っかかりにくくなる。なお、前述したように、補強部材22の角部の少なくとも一部は、面取りされていてもよい。
【0049】
(第2実施形態)
図9は、第2実施形態に係るダストカバーにおける
図5に相当する断面図である。
図10は、
図9の支持部を拡大した断面図である。なお、上述した第1実施形態で説明したものと同じ構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0050】
図9及び
図10に示すように、ベローズ2Aにおけるベローズ本体部21Aの支持部211Aは、軸方向に延びる軸方向壁部2112Aと、径方向に広がって延びる径方向壁部2111Aと、を有する。軸方向壁部2112Aの外周側(径方向外側)には、溝3が設けられている。溝3は、軸方向壁部2112Aの外周面2112Acから内周側(径方向内側)に向けて凹む凹部である。溝3は、周方向に沿って環状に繋がって延びている。溝3は、底面31と、内側縦面32と、外側縦面33と、を有する。回転中心軸Zを含む断面において、溝3は、矩形状である。
【0051】
ベローズ本体部21Aは、第1覆部2112Abと、第2覆部2112Aaと、スリット(間隙)Sを有する。なお、覆部の数は、1つでもよく、3つ以上の複数でもよい。設ける溝3の外周側(径方向外側)は、第1覆部2112Ab及び第2覆部2112Aaで覆われている。第1覆部2112Abは、軸方向壁部2112Aの径方向外側の端部から径方向壁部2111Aに向けて(
図10の右側へ向けて)延びる。第2覆部2112Aaは、径方向壁部2111Aの外側縦面2111Aaから第1覆部2112Abに向けて(
図10の左側へ向けて)延びる。
【0052】
スリットSは、第1覆部2112Abと第2覆部2112Aaとの先端同士の間に設けられている。スリットSは、補強部材22の外周面をベローズ本体部21Aから露出させる。このように、補強部材22の表面のうち外周面221(表面の一部)は、第1覆部2112Abと第2覆部2112Aaとで覆われている。すなわち、補強部材22の外周面221の軸方向の一方側(一端部)は、第1覆部2112Abで覆われ、外周面221の軸方向の他方側(他端部)は、第2覆部2112Aaで覆われている。
【0053】
そして、第1覆部2112Ab及び第2覆部2112Aaは、
図10の二点鎖線で示すように、根本部を中心として径方向外側に屈曲する弾性変形が可能である。
【0054】
次いで、ベローズ2のベローズ本体部21Aの溝3に補強部材22を嵌合させる手順を説明する。
【0055】
まず第1工程で、二点鎖線で示すように、第1覆部2112Ab及び第2覆部2112Aaを根本部を中心として径方向外側に屈曲させる。すると、第1覆部2112Ab及び第2覆部2112Aaの先端同士の間に間隙が生じる。従って、第2工程で、前記隙間から補強部材22を挿入し、第1側面223を内側縦面32に押し当てたのち、補強部材22を径方向内側へ回転させて内周面222を底面31に押し付ける。これによって、補強部材22を溝3に挿入することができる。
【0056】
こののち、第3工程において、第1覆部2112Ab及び第2覆部2112Aaを自由状態にすると、二点鎖線から実線で示す位置まで第1覆部2112Ab及び第2覆部2112Aaが移動する。これによって、
図10の実線で示す状態となり、補強部材22の表面のうち外周面221は、第1覆部2112Abと第2覆部2112Aaとで覆われる。
【0057】
以上で説明したように、第2実施形態に係るベローズ本体部21Aは、補強部材22の外周面221をベローズ本体部21Aから露出させるスリットSを備える。これによれば、ベローズ本体部21AにおけるスリットSの部分を変形させて補強部材22を溝3に嵌める作業が容易になる。
【0058】
ベローズ本体部21Aは、補強部材22の外周面221の一端部を覆う第1覆部2112Abと、補強部材22の前記外周面の他端部を覆う第2覆部2112Aaと、を有する。スリットSは、第1覆部2112Abの先端と第2覆部2112Aaの先端との間に設けられる。
【0059】
これにより、
図3に示すように、補強部材22の周辺部の外周側とダッシュパネル10の筒状部101とをバンド103を用いて締め付けることでダストカバー1Aをダッシュパネル10に固定する場合、補強部材22とダッシュパネル10とが直接に接触することを抑制することができる。特に、補強部材22及びダッシュパネル10が共に金属等の硬度が高い部材の場合、補強部材22とダッシュパネル10とが接触した状態で締め付けられると、補強部材22とダッシュパネル10との接触部分でのシール性が低下する可能性がある。しかし、本実施形態では、補強部材22の外周面221とダッシュパネル10の筒状部101との間に第1覆部2112Ab及び第2覆部2112Aaが介在するため、シール性能を高く維持することができる。
【0060】
(第3実施形態)
図11は、第3実施形態に係るダストカバーにおける支持部を拡大した断面図である。なお、上述した第1及び第2実施形態で説明したものと同じ構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0061】
図11に示すように、第3実施形態に係るダストカバー1Bにおいては、ベローズ本体部21Bの支持部211Bは、軸方向に延びる軸方向壁部2112Bと、径方向に広がって延びる径方向壁部2111Bと、を有する。回転中心軸Zを含む断面において、支持部211Bは、L字状である。径方向壁部2111Bは、径方向外側に向けて延びる径方向壁部本体2111Baと、径方向壁部本体2111Baの端部に設けられた屈曲部2111Bbと、屈曲部2111Bbの先端から径方向内側へ向けて延びる第4覆部2111Bcとを有する。軸方向壁部2112Bの外周側(径方向外側)から径方向壁部2111Bの内部にかけて溝3Aが設けられている。溝3Aは、周方向に沿って環状に繋がって延びている。溝3Aは、軸方向に延びる軸方向溝部3Aaと、軸方向溝部3Aaの端部から径方向外側に向けて延びる径方向溝部3Abと、を有する。回転中心軸Zを含む断面において、溝3Aは、L字状である。
【0062】
図11に示すように、第3実施形態に係る補強部材22Aは、周方向に沿って環状に繋がって延びる環状部材である。補強部材22Aは、例えば樹脂又は軽金属である。具体的には、補強部材22Aは、第2ステアリングシャフト85の軸方向に沿って延びる環状の補強部材本体部221Aと、補強部材本体部221Aの軸方向の端部から径方向の外側に沿って広がるフランジ222Aと、を有する。回転中心軸Zを含む断面において、補強部材22Aは、L字状である。軸方向溝部3Aaには補強部材本体部221Aが嵌められ、径方向溝部3Abにはフランジ222Aが嵌められることによって、補強部材22Aが溝3Aに保持されている。
【0063】
ベローズ本体部21Bは、第3覆部2112Baと、第4覆部2111Bcと、スリット(間隙)Sを有する。溝3Aの外周側(径方向外側)は、第3覆部2112Ba及び第4覆部2111Bcで覆われている。第3覆部2112Baは、軸方向壁部2112Bの径方向外側の端部から径方向壁部2111Bに向けて(
図11の右側へ向けて)延びる。スリットSは、第3覆部2112Baと第4覆部2111Bcとの先端同士の間に設けられている。スリットSは、補強部材22Aの外周面をベローズ本体部21
Bから露出させる。第4覆部2111Bcは、屈曲部2111Bbの先端から径方向内側へ向けて延びる。このように、補強部材22
Aの表面の一部は、第3覆部2112Baと第4覆部2111Bcとで覆われている。そして、第3覆部2112Baと第4覆部2111Bcは、根本部を中心として屈曲する弾性変形が可能である。
【0064】
以上で説明したように、第3実施形態に係るダストカバー1Bにおいては、補強部材22Aは、軸方向に沿って延びる環状の補強部材本体部221Aと、補強部材本体部221Aの軸方向の端部から軸方向に直交する径方向に沿って広がるフランジ222Aと、を有する。これにより、さらに強固に補強部材22Aをベローズ本体部21Bに組み付けることができる。また、補強部材22Aを断面L字状にすることで、補強部材22Aの剛性も向上するため、補強部材22Aの板厚を薄くして軽量化を図ることができる。
【0065】
なお、第3覆部2112Baは、
図3に示すダッシュパネル10の筒状部101で支持され、第4覆部2111Bcは、フランジ102で支持される。従って、補強部材22Aは、溝3Aに嵌った後に外れにくくなっている。また、補強部材22Aの角部が曲面状であることにより、補強部材22
Aをベローズ本体部21
Bの溝3Aに組み付ける際、補強部材22Aの角部がベローズ本体部21
Bの溝3Aの一部に接触しても引っかかりにくくなる。なお、補強部材22Aの角部の少なくとも一部は、面取りされていてもよい。
【符号の説明】
【0066】
1,1A、1B ダストカバー
2,2A ベローズ
3,3A 溝
5 ブッシュ
10 ダッシュパネル
21,21A,21B ベローズ本体部
22,22A 補強部材
85 第2ステアリングシャフト(ステアリングシャフト)
221A 補強部材本体部
222A フランジ
225 第1角部(角部)
226 第2角部(角部)
228 第3角部(角部)
227 第4角部(角部)
2112Ab 第1覆部
2112Aa 第2覆部
S スリット