(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20221227BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20221227BHJP
B32B 7/022 20190101ALI20221227BHJP
C08F 299/06 20060101ALI20221227BHJP
C08F 290/06 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
B32B27/00 L
B32B27/30 A
B32B7/022
C08F299/06
C08F290/06
(21)【出願番号】P 2018174736
(22)【出願日】2018-09-19
【審査請求日】2021-08-23
(31)【優先権主張番号】P 2018064022
(32)【優先日】2018-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】三羽 規文
(72)【発明者】
【氏名】八尋 謙介
(72)【発明者】
【氏名】石田 康之
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-071549(JP,A)
【文献】特開2018-039962(JP,A)
【文献】特開昭48-057402(JP,A)
【文献】特開2000-084977(JP,A)
【文献】特開昭63-295300(JP,A)
【文献】特表2015-509056(JP,A)
【文献】特開2011-046773(JP,A)
【文献】国際公開第2015/163129(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
B05D1/00-7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基材の少なくとも一方の面に離型層を有する離型フィルムと、該離型フィルムから剥離可能な樹脂層を有する積層体であり、前記樹脂層が化学式1および/または化学式2のセグメントを含み、かつ以下の条件2を満たすことを特徴とする、積層体。
条件2: 樹脂層の表面自由エネルギーS
1(mJ/m
2)と、離型層の表面自由エネルギーS
2(mJ/m
2)と、原子間顕微鏡による離型層の表面弾性率E
2(MPa)とについて、下記式1および2を満たす。
式1: S
1-S
2 < 60
式2: E
2 < 1,000
【化1】
R
1は、水素またはメチル基を指す。
R
2は、以下のいずれかを指す。
置換または無置換のアルキレン基
置換または無置換のアリーレン基
内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有するアルキレン基
内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有するアリーレン基
内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有する無置換のアルキレン基
内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有する無置換のアリーレン基
【化2】
【請求項2】
温度25℃周波数1Hz条件における前記樹脂層の貯蔵弾性率が1MPa以上100MPa以下であることを特徴とする、請求項
1に記載の積層体。
【請求項3】
温度25℃周波数1Hz条件における前記樹脂層の損失正接が0.5以下であることを特徴とする、請求項
1または請求項
2に記載の積層体。
【請求項4】
前記樹脂層における離型層と接する面の反対の表面に、前記離型層とは剥離力の異なる保護層をさらに設けてなることを特徴とする、請求項
1から請求項
3のいずれかに記載の積層体。
【請求項5】
以下の条件3を満たすことを特徴とする、請求項1から請求項
4のいずれかに記載の積層体。
条件3: 飛行時間型2次イオン質量分析計(TOF-SIMS)により測定される、前記離型層の表面のジメチルシロキサンに由来するSi(CH
3)
+フラグメントイオン(M/Z=43)の強度が1,000以下。
【請求項6】
前記離型層が化学式3および化学式4の構造を有するセグメントを含むことを特徴とする、請求項1から請求項
5のいずれかに記載の積層体。
【化3】
【化4】
R
1
~R
6
はそれぞれ独立に、水素、R
x
OCH
2
-で表される基、または化学式4で表されるメラミン誘導体に由来する基を表す。ただし、R
x
は水素、炭素数1~4のアルキル基を表す。
【請求項7】
前記樹脂層が化学式5のセグメントを含むことを特徴とする、請求項1から請求項
6のいずれかに記載の積層体。
【化5】
R
1は炭素数1以上6以下のアルキル基またはアルキレン基、nは2以上50以下である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟性と後加工性を両立する積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォン、タブレット、パーソナルコンピューターおよび液晶テレビ等、ディスプレイ搭載機器や、様々なデバイスの普及が広く進んでおり、それらの構成部材として、合成樹脂等からなるフィルムやシート材料が多数用いられている。このような状況の中、近年ではフレキシブルデバイス・ウェアラブルデバイスの研究開発が活発に行われており、変形可能な機器や部材の開発が進められている。
【0003】
このような状況のため、従来のディスプレイやデバイスに使用されてきた材料では適用困難な技術領域が新たに生まれると考えられるため、高い柔軟性や伸縮性を有する新しい材料へのニーズが高まっていくものと予想される。
【0004】
一方、柔軟性や伸縮性を有する既存材料の例として、特許文献1には「第1のポリエチレンからなる層と、前記第1のポリエチレンからなる層に積層された熱可塑性ポリウレタン層と、前記熱可塑性ポリウレタン層に積層された第2のポリエチレンからなる層と、を少なくとも有する積層体であって、前記第1のポリエチレンの結晶化熱量が前記第2のポリエチレンの結晶化熱量よりも大きいことを特徴とする熱可塑性ポリウレタン層を有する積層体。」が提案されている。
【0005】
また、非特許文献1にはいわゆる「シリコーン材料」が挙げられており、シリコーン材料の一例としてシリコーンゴムを使ったシート材料が提案されている。
【0006】
また、特許文献2には「スチレン成分が65~95質量%含まれるスチレン-ブタジエン-スチレン共重合体(SBS-A)と、スチレン成分が5~40質量%含まれるスチレン-ブタジエン-スチレン共重合体(SBS-B)を、(SBS-A)/(SBS-B)=75/25~95/5の組成比で混合したSBS樹脂組成物と、前記SBS樹脂組成物100質量部に対して20~45質量部の割合で配合されたフィラー(C)とを含み、比重が1.10~1.32とされていることを特徴とする弾性フィルム。」が提案されている。
【0007】
また、特許文献3には「ウレタン樹脂、有機溶剤、水およびフッ素系界面活性剤の混合物をポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルムまたはメチルペンテンポリマーフィルムのいずれか一種のフィルムであって、片面に粘着剤を有する基材に塗布、加温することにより得られる発泡体を前記基材上に有する発泡ウレタンシートであって、前記有機溶剤がトルエンとメチルエチルケトンの混合溶液であり、前記発泡体が連続通気構造の微細セルで構成されることを特徴とする発泡ウレタンシート。」が提案されている。
【0008】
また、単に高い柔軟性を有する材料ということであれば、伸縮性を有する材料とはいえないものの、非特許文献2に記載される粘着材料を挙げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2013-91223号公報
【文献】特開2008-88293号公報
【文献】特開2014-231170号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】シリコーンハンドブック 株式会社日刊工業新聞社 1990
【文献】初歩から学ぶ粘着剤-なぜ付くの?なぜ剥がれるの?- 丸善出版株式会社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に提案されている材料について本発明者らが確認したところ、一定の柔軟性や伸縮性は確認できたものの、高温時の耐熱性が不足しており、ディスプレイやデバイスの部材として適用するために必要な、加熱を伴う後加工に不適であった。
【0012】
また、非特許文献1に提案されているシリコーンゴム材料については、柔軟性や伸縮性は得られるが、異素材への接着性が乏しく、後加工に不向きであった。
【0013】
次に、特許文献2に提案されている材料については、一定の柔軟性は確認できたものの、伸縮性や透明性が不十分であることが分かった。
【0014】
さらに、特許文献3に提案されている材料については、一定の柔軟性や伸縮性は確認できたものの、透明性が不十分であった。また、発泡部分の存在により、塗布を伴う後加工工程においても不適であることが分かった。
【0015】
そこで、本発明の目的は柔軟性や伸縮性を持ちながら、後加工性に優れる積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、以下の発明を完成させた。すなわち、本発明は以下の通りである。
<1>
支持基材の少なくとも一方の面に離型層を有する2枚の離型フィルムの間に樹脂層を有する積層体であって、温度25℃周波数1Hz条件における樹脂層の貯蔵弾性率が1MPa以上100MPa以下かつ損失正接が0.5以下であり、樹脂層に対する2枚の離型フィルムの剥離力が異なることを特徴とする、積層体。
<2>
以下の条件1を満たすことを特徴とする、<1>に記載の積層体。
【0017】
条件1: 剥離速度300mm/min条件における、樹脂層と2枚の離型フィルムの剥離力について、高い方の剥離力が100mN/50mm以上1,000mN/50mm以下。
<3>
<1>または<2>に記載の積層体において、一方の離型フィルムを剥離してなることを特徴とする、積層体。
<4>
支持基材の少なくとも一方の面に離型層を有する離型フィルムと、該離型フィルムから剥離可能な樹脂層を有する積層体であり、前記樹脂層が化学式1および/または化学式2のセグメントを含み、かつ以下の条件2を満たすことを特徴とする、積層体。
【0018】
条件2: 樹脂層の表面自由エネルギーS1(mJ/m2)と、離型層の表面自由エネルギーS2(mJ/m2)と、原子間顕微鏡による離型層の表面弾性率E2(MPa)とについて、下記式1および2を満たす。
【0019】
式1: S1-S2 < 60
式2: E2 < 1,000
【0020】
【0021】
R1は、水素またはメチル基を指す。
【0022】
R2は、以下のいずれかを指す。
置換または無置換のアルキレン基
置換または無置換のアリーレン基
内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有するアルキレン基
内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有するアリーレン基
内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有する無置換のアルキレン基
内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有する無置換のアリーレン基
【0023】
【0024】
<5>
温度25℃周波数1Hz条件における前記樹脂層の貯蔵弾性率が1MPa以上100MPa以下であることを特徴とする、<4>に記載の積層体。
<6>
温度25℃周波数1Hz条件における前記樹脂層の損失正接が0.5以下であることを特徴とする、<4>または<5>に記載の積層体。
<7>
前記樹脂層における離型層と接する面の反対の表面に、前記離型層とは剥離力の異なる保護層をさらに設けてなることを特徴とする、<4>~<6>のいずれかに記載の積層体。
<8>
以下の条件3を満たすことを特徴とする、<1>から<7>のいずれかに記載の積層体。
【0025】
条件3: 飛行時間型2次イオン質量分析計(TOF-SIMS)により測定される、前記離型層の表面のジメチルシロキサンに由来するSi(CH3)+フラグメントイオン(M/Z=43)の強度が1,000以下。
<9>
前記離型層が化学式3および化学式4の構造を有するセグメントを含むことを特徴とする、<1>から<8>のいずれかに記載の積層体。
【0026】
【0027】
【0028】
R
1
~R
6
はそれぞれ独立に、水素、R
x
OCH
2
-で表される基、または化学式4で表されるメラミン誘導体に由来する基を表す。ただし、R
x
は水素、炭素数1~4のアルキル基を表す。
【0029】
<10>
前記樹脂層が化学式5のセグメントを含むことを特徴とする、<1>から<9>のいずれかに記載の積層体。
【0030】
【0031】
R1は炭素数1以上6以下のアルキル基またはアルキレン基、nは2以上50以下である。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、柔軟でありながら、後加工性が良好な積層体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図3】本発明における樹脂層の形成方法の一例を示す断面図である。
【
図4】本発明における樹脂層の形成方法の一例を示す断面図である。
【
図5】本発明における樹脂層の形成方法の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の実施形態を説明する前に、従来技術の問題点、すなわち柔軟性と搬送性の両立について、本発明者の視点で考察する。なお、以下において、本発明と単に記載する場合、後述の第一構成の積層体および第二構成の積層体の両方を含む意味である。
【0035】
[本発明と従来技術の比較]
従来技術において、柔軟性や伸縮性を示す材料は存在するが、柔軟性や伸縮性を有するために、後加工性が不足していた。そのため、柔軟性や伸縮性の観点からは適した材料であっても、ディスプレイ・デバイス・センサー等のような用途において、フィルム材料は様々な後加工が行われた上で使用されることが多いため、実際に適用するのは困難であった。
【0036】
柔軟性や伸縮性を示す材料(以下、柔軟材料)において、Roll-to-Rollのような連続プロセスに適用する場合、単体では搬送に困難を要する。すなわち、搬送するためには材料に張力をかける必要があるが、柔軟材料ではこの張力により変形が生じてしまう。また、搬送方向に張力をかけることにより、搬送方向と垂直方向に収縮が生じることでシワが発生してしまい、このような状態では品位が悪化ししまう。また、シワが発生した状態では粘着剤の塗工・貼合や回路形成は困難を極め、現実的に使用することができない。
【0037】
そこで、柔軟材料においては、支持基材(いわゆるキャリア)を伴って使用される。支持基材はこのような材料の片面のみに用いられることもあれば、両面に用いられることもある。ここで問題となるのが、支持基材は柔軟性や伸縮性を示す材料の搬送性を向上することには有効であるが、後加工や使用の際には支障なく剥離可能であることが求められる。支持基材を剥離する際、通常、柔軟材料と支持基材の両方を把持して剥離を行うため、剥離力を適切にコントロールする必要がある。
【0038】
例えば、剥離力が高すぎる場合、柔軟材料から支持基材を上手く剥離できなくなる場合、剥離に要する力が強すぎて柔軟材料が変形・破壊してしまう場合、さらには柔軟材料の上に形成した粘着剤や回路が破壊する場合が考えられる。一方、剥離力が低すぎる場合、意図せぬ剥離が生じる場合が考えられる。また、柔軟材料の両面に支持基材を用いる状況において、剥離力が重すぎる場合には同上の問題や、剥離したい方ではない面の離型フィルムが剥離してしまう場合がある。剥離力が軽すぎる場合、前述のように剥離したい方ではない面の離型フィルムが剥離してしまう場合、両方がそれぞれ部分的に中途半端に剥離してしまう場合が考えられる。
【0039】
また、本発明における積層体について、柔軟材料と非特許文献2に例示される汎用的な粘着材料との挙動の差に着目したところ、離型フィルムからの剥離について異なる挙動を示すことも同時にわかった。
【0040】
具体的には、本願で扱う柔軟材料と比較した場合、粘着材料では仮に前述のような離型フィルムの意図せぬ剥離が生じた場合においても、その意図せぬ剥離が成長しにくいことがわかった。これは、粘着材料はそもそも粘着性を帯びるため、意図せぬ剥離が僅かであれば、搬送過程において再度貼合が起きやすいためと考えている。また、柔軟材料は粘着材料と比較して貯蔵弾性率が高く、相対的に自己支持性が高い。そのため、柔軟材料では意図せぬ剥離が生じた場合、剥離した部分における柔軟材料の自己支持性により剥離にかかる応力が伝搬し、粘着材料よりも意図せぬ剥離が成長しやすいためと考えている。したがって、従来扱われてきた粘着材料と比較しても、柔軟材料ではより高いレベルでの剥離コントロールが求められると考えている。
【0041】
ここで、前述のように樹脂層の片面もしくは両面に支持基材を用いて使われる材料として、柔軟材料に近い材料として粘着材料が上げられる。例えば、粘着材料の片面に支持基材を設けるものとしては粘着テープ等が挙げられ、粘着材料の両面に支持基材を設けるものとしては光学粘着シート(OCA)等が挙げられる。しかし、本願で扱う柔軟材料は粘着材料とは異なる機械特性を持つ。すなわち、本願で扱う柔軟材料では、例えば貯蔵弾性率が1MPa以上100MPa以下であったり、損失正接が0.5以下であったり、または両方を満たす材料であったりする。粘着材料において、これら貯蔵弾性率や損失正接は粘着特性に大きな影響を与え、上記特性を満たす材料では適切な粘着性(貼り付きやすさ、保持力等)を発現することができない。したがって、本願で扱う柔軟材料は、粘着材料とは異なる領域の技術分野に属する。また、柔軟材料では前述の貯蔵弾性率や損失正接を有するため、粘着材料と異なり他の材料への付着する力が非常に弱い(言い換えると、粘着性を持つとは言えない)ため、柔軟材料と離型フィルムの剥離力の関係については、従来の粘着材料と離型フィルムに関する知見をそのまま展開することができない。実際、本発明者らが柔軟材料と離型フィルムの剥離力について詳細に検討したところ、粘着材料における知見とは異なる傾向が多数みられた。
【0042】
そこで、本発明者らは、柔軟材料と離型フィルムの剥離力を適切にコントロールするため、その特性を詳細に検討した。まず、柔軟材料の両面に支持基材を有する構成において、支持基材は離型層を有する離型フィルムであり、かつ、両面それぞれの離型フィルムと柔軟材料の剥離力が異なることで、後加工工程等で一方の離型フィルムを剥離する際、その離型フィルムを選択的に剥離できることが分かった。それぞれの離型フィルムと柔軟材料の剥離力が同じである場合、一方を剥離する際にもう一方も部分的・全体的に意図せぬ剥離が生じる場合があるが、それぞれの剥離力が異なる場合、特に剥離力が小さい方の離型フィルムのみを選択的に剥離することができる。
【0043】
具体的には、樹脂層に対する2枚の離型フィルムの剥離力が異なることが好ましい。
【0044】
さらに、本発明者らが剥離力について検討したところ、樹脂層と離型フィルムの剥離力を一定の範囲にすることが有効であることが分かった。
【0045】
樹脂層を離型フィルムから剥離する点だけを考慮した場合、その剥離力は低ければ低いほど、剥離しやすくなる。しかし、極端に剥離が軽すぎる場合、前述のような意図せぬ剥離が生じやすくなる。特に、樹脂層の両面に2枚の離型フィルムをそれぞれ積層する構成とした場合、樹脂層に積層された少なくとも一方の離型フィルムを剥離する必要があり、この時に意図せぬ剥離が生じてしまうと、その後の後加工工程にも支障をきたす場合がある。
【0046】
そこで、樹脂層と離型フィルムの剥離力について、最適な範囲を検討したところ、剥離力を一定の範囲にすることで、後加工工程等においても適切に離型フィルムを選択的に剥離できることがわかった。
【0047】
具体的には、剥離速度300mm/min条件における、樹脂層と2枚の離型フィルムの剥離力について、高い方の剥離力が100mN/50mm以上1,000mN/50mm以下であることが好ましい。
【0048】
また、樹脂層の両面に2枚の離型フィルムを有する構成において、一方の離型フィルムを剥離することで、樹脂層を再び露出させることができる。そのため、樹脂層に様々な後加工(印刷加工、塗布加工、貼合加工、蒸着加工、酸・アルカリ処理加工、等)を行うことができる。
【0049】
具体的には、前記2枚の離型フィルムにおいて、一方の離型フィルムを剥離することで、積層体を形成することが好ましい。
【0050】
さらに、本発明者らは、積層体における離型フィルムと樹脂層の剥離力をコントロールする観点から、離型フィルムの特性に着目して詳細に検討を行った。その結果、離型層と樹脂層の表面自由エネルギーの差が一定未満であり、かつ、離型層の表面弾性率が一定未満であることが重要であることを見出した。
【0051】
一般に、被着体と離型フィルムの剥離力を下げようとする場合、離型フィルムの離型層に使う材料を調整し、離型層の表面自由エネルギーを下げようとすることが多い。しかし、これは定性的にはそのような傾向があるものの、その傾向に一致しないケースも非常に多い。また、逆に表面自由エネルギーを上げた場合においては、必ずしも剥離力が上昇するというわけでもない。
【0052】
そこで、本発明者らは離型フィルムだけでなく、本発明における被着体となる柔軟材料の表面自由エネルギーにも着目し、その差を詳細に検討した。その結果、表面自由エネルギーの差と離型層の表面弾性率を組み合わせることで、柔軟材料と離型フィルムの剥離力をコントロールできることを見出した。これは、表面自由エネルギーの差により、柔軟材料と離型フィルムの化学的な親和性を制御し、離型フィルムの表面弾性率を下げることで、柔軟材料が離型フィルムから剥離される際に離型層側が積極的に変形を示し、柔軟材料へ余計な変形を与えずに剥離ができるため、と考えている。
【0053】
具体的には、樹脂層の表面自由エネルギーS1(mJ/m2)と、離型層の表面自由エネルギーS2(mJ/m2)と、原子間顕微鏡による離型層の表面弾性率E2(MPa)について、下記式が成立することが好ましい。
【0054】
式1: S1-S2 < 60
式2: E2 < 1,000。
【0055】
前述のように、柔軟材料と離型フィルムについて適切な剥離力コントロールをするため、本発明者らは離型層を構成する材料として、様々な材料についての検討を行った。その結果、特に限定されるわけではないが、離型層を構成する材料として好ましい材料が存在することを見出した。
【0056】
本発明で例示する柔軟材料においては、その柔軟材料と離型層の表面自由エネルギーを制御する観点から、離型層を構成する成分において、例えば、ジメチルシロキサンに由来する成分が少ないことが好ましい。他にも、後述のように、離型層を構成する成分として好ましい材料が存在することがわかった。
【0057】
具体的には、飛行時間型2次イオン質量分析計(TOF-SIMS)により測定される、前記離型層の表面のジメチルシロキサンに由来するSi(CH3)+フラグメントイオン(M/Z=43)の強度を1,000以下とすることが好ましい。
【0058】
また、離型層を構成する樹脂は、後述の化学式3や化学式4の構造を有するセグメントを含むことが好ましい。
【0059】
上記構造を有するセグメントを離型層を構成する樹脂が含むかどうかは、様々な分析方法により調べることが可能であるが、飛行時間型2次イオン質量分析計(TOF-SIMS)による方法が最も容易である。また、離型層を構成する原料から判断することもできる。
【0060】
なお、前述に例示した積層体において、積層体に後加工(印刷加工、塗布加工、貼合加工、蒸着加工、酸・アルカリ処理加工、等)を行うためには、樹脂層と離型フィルムが積層され、樹脂層の一方の面が露出されていることが好ましい。一方、本発明における積層体を形成後、前述の後加工を行うためには梱包や輸送を行う必要がある。しかし、本発明における積層体の樹脂層は前述のように非常に柔軟であり、梱包や輸送などの取扱い時に傷や凹みが入ってしまったり、異物が混入したりする場合がある。
【0061】
そこで、本発明における後述の第二構成の積層体においては、前記樹脂層における離型フィルム(離型層)が接する面と反対の表面に、保護層を設けることが好ましい。保護層は樹脂層を保護できるものであれば特に限定されないが、例えばフィルム、特に離型フィルムであることが好ましい。また、この保護層として設ける離型フィルムと樹脂層の剥離力が、樹脂層の反対の表面に設けられる離型フィルムの剥離力と異なることが好ましい。剥離力が異なると、前述のように意図せぬ剥離を予防することができるため。後加工時など必要に応じて一方の離型フィルムを剥離する場合、取扱いが容易になり好ましい。
【0062】
さらに、本発明者らが長期耐久性と剥離力について検討したところ、樹脂層の耐久性が高い方がより好ましいことを見出した。
【0063】
前述の通り、本発明の積層体は後加工が施されることを想定しているが、製造上の都合などにより、本発明の積層体が製造されてからすぐに後加工が施されるとは限らない。その場合、後加工まで本発明の積層体は保管されることとなるが、場合により、高温多湿のような過酷な環境で長期保管されることも考えられる。そのため、このような過酷な環境に晒されても、積層体における樹脂層と離型フィルムが適切に剥離することができれば、より製品として扱いやすく、より好ましいと言うことができる。
【0064】
本発明者らはこのような観点で検討したところ、特に樹脂層の耐久性を高めることが有効であることを見出した。樹脂層の挙動を観察したところ、樹脂層の耐久性が低い場合、過酷な環境において樹脂層が変質していると推察された。この場合、樹脂層が粘着製を帯びてしまい(いわゆるベタベタした状態)、結果的に離型フィルムから上手く剥離できなくなる場合があった。
【0065】
そこで、本発明者らが樹脂層を構成する成分を調べたところ、後述の化学式1や化学式2のセグメントに加え、化学式5のセグメントを樹脂層が有することで、伸縮性や強靭性に加え、このような過酷な環境での耐久性を高めることができることが分かった。
【0066】
[本発明の形態]
以下、本発明の実施の形態について具体的に述べる。
【0067】
上記課題、すなわち柔軟性や伸縮性と後加工性を満足するために、本発明の第一構成の積層体は、支持基材の少なくとも一方の面に離型層を有する2枚の離型フィルムの間に樹脂層を有する積層体であって、温度25℃周波数1Hz条件における樹脂層の貯蔵弾性率が1MPa以上100MPa以下かつ損失正接が0.5以下であり、樹脂層に対する2枚の離型フィルムの剥離力が異なることが好ましい。ここで、樹脂層に対する2枚の離型フィルムの剥離力が異なるとは、実施例の〔剥離力〕の項に記載の測定方法により、2枚の離型フィルムそれぞれを剥離した際の剥離力(mN/50mm)が異なることをいう。
【0068】
貯蔵弾性率、剥離力の測定方法は後述する。
【0069】
柔軟性や伸縮性の観点から、本発明の積層体は、温度25℃周波数1Hz条件における、前記樹脂層の貯蔵弾性率が1MPa以上100MPa以下であることが好ましいが、より好ましくは50MPa以下であり、特に好ましくは30MPa以下である。貯蔵弾性率を特定の範囲にすることで、柔軟性を高めることができる。なお、樹脂層の貯蔵弾性率が1MPa以上100MPa以下であることが好ましい点は、第一構成の積層体だけでなく、後述する第二構成の積層体においても同様であり、第二構成の積層体においても優れた効果を得ることができる。
【0070】
樹脂層の貯蔵弾性率が特定の範囲をとると、柔軟性が向上し好ましい。貯蔵弾性率が低いと柔軟性が向上するが、過剰に低い場合は剛性が不足する場合があり、下限値は1MPa程度と考えられる。一方で、貯蔵弾性率が100MPaより高い場合、樹脂層の柔軟性が低下するため、目的の用途に不適となる場合がある。
【0071】
前記樹脂層の貯蔵弾性率を1MPa以上100MPa以下とするためには、例えば前記樹脂層に含まれる樹脂が後に例示する材料を選択することで可能となる。
【0072】
伸縮性の観点から、本発明の積層体は、温度25℃周波数1Hz条件における、前記樹脂層の損失正接が0.5以下であることが好ましい。損失正接を一定以下にすることで、樹脂層の伸縮性を高めることができる。なお、樹脂層の損失正接が0.5以下であることが好ましい点は、第一構成の積層体だけでなく、後述する第二構成の積層体においても同様であり、第二構成の積層体においても優れた効果を得ることができる。
【0073】
樹脂層の損失正接が0.5以下になると、伸縮性が向上し好ましい。一方で、損失正接が0.5より高い場合、樹脂層の伸縮性が不足し、製品として不適となる場合がある。また、損失正接が高いと樹脂層が粘着性を帯びてしまい、用途により不適となる場合がある。
【0074】
前記樹脂層の貯蔵弾性率を1MPa以上100MPa以下とするためには、例えば前記樹脂層に含まれる樹脂が後に例示する材料を選択することで可能となる。
【0075】
剥離性の観点から、本発明の積層体は、樹脂層に対する2枚の離型フィルムの剥離力が異なることが好ましい。樹脂層に対する2枚の離型フィルムの剥離力が異なると、特に剥離力が小さい方の離型フィルムを剥離する時、その離型フィルムのみを選択的に剥離することができる。一方、樹脂層に対する2枚の離型フィルムの剥離力が同じであると、一方の離型フィルムを剥離するとき、もう一方の離型フィルムが部分的もしくは全体的に意図せぬ剥離を起こす場合があり、離型フィルムを選択的に剥離することができない場合がある。
【0076】
樹脂層に対する2枚の離型フィルムの剥離力を異なるようにするためには、例えば異なる離型フィルムを選択することで可能となる。なお、本発明における2枚の離型フィルムについて、一方の離型フィルムを「離型フィルム(塗布側)」、他方の離型フィルムを「離型フィルム(貼合側)」ということもある。
【0077】
さらに、後加工性の観点から、前記第一構成の積層体は、以下の条件1を満たすことが好ましい。
【0078】
条件1: 剥離速度300mm/min条件における、樹脂層と2枚の離型フィルムの剥離力について、剥離力が高い方の剥離力が100mN/50mm以上1,000mN/50mm以下。
【0079】
剥離力の測定方法は後述する。
【0080】
後加工性の観点から、本発明の積層体において、剥離速度300mm/min条件における、樹脂層と2枚の離型フィルムの剥離力について、剥離力が高い方の剥離力が100mN/50mm以上1,000mN/50mm以下であることが好ましいが、より好ましくは100mN/50mm以上800mN/50mm以下であり、特に好ましくは100mN/50mm以上500mN/50mm以下である。剥離力は離型フィルムと樹脂層の剥離しやすさを表している。
【0081】
樹脂層と2枚の離型フィルムの剥離力について、剥離力が高い方の剥離力が特定の範囲であると、前述の効果により、一方の離型フィルムを選択的に剥離することができ、操作性が向上し好ましい。樹脂層と2枚の離型フィルムのいずれも剥離力が100mN/50mm未満であると、離型フィルムが樹脂層から剥離しやすくなりすぎ、一方を剥離する際にもう一方も剥離するなど、選択的に剥離できなくなる場合がある。また、いずれも剥離力が1,000mN/50mmを超えると、剥離できなくなる場合や、剥離に大きな力を要するため選択的に剥離できなくなる場合がある。
【0082】
剥離速度300mm/min条件における、樹脂層と2枚の離型フィルムの少なくともいずれか一方の剥離力を100mN/50mm以上1,000mN/50mm以下とするためには、例えば後述の条件5および条件6を満たすことや、条件9や条件10または条件11のいずれかまたは複数を満たすことで可能となる。
【0083】
また、剥離性を含む後加工性の観点から、本発明の第二構成の積層体は、支持基材の少なくとも一方の面に離型層を有する離型フィルムと、離型フィルムから剥離可能な樹脂層を有する積層体であり、樹脂層が化学式1および/または化学式2のセグメントを含み、かつ以下の条件2を満たすことが好ましい。
【0084】
条件2: 樹脂層の表面自由エネルギーS1(mJ/m2)と、離型層の表面自由エネルギーS2(mJ/m2)と、原子間顕微鏡による表面弾性率E2(MPa)とについて、下記式1および2を満たす。
【0085】
式1: S1-S2 < 60
式2: E2 < 1,000
化学式1において、R1は、水素またはメチル基。
【0086】
化学式1において、R2は、以下のいずれかを指す。
置換または無置換のアルキレン基
置換または無置換のアリーレン基
内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有するアルキレン基
内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有するアリーレン基
内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有する無置換のアルキレン基
内部にエーテル基、エステル基、またはアミド基を有する無置換のアリーレン基
表面自由エネルギーおよび表面弾性率の測定方法は後述する。
【0087】
化学式1はアクリレートおよび/またはメタクリレートに由来する基を表す。樹脂層が化学式1のセグメントを含むためには、市販のアクリレート材料やメタクリレート材料、または後述のアクリレート材料やメタクリレート材料を樹脂層に用い、硬化工程を経ることで可能となる。例えば後述のように、樹脂層を形成するために用いる塗料組成物中に、上述したアクリレート材料やメタクリレート材料を用い、支持基材もしくは離型フィルム上に塗料組成物を塗布し、乾燥し、硬化することで樹脂層を形成する方法が例示される。
【0088】
樹脂層の伸縮性や強靭性の観点から、樹脂層が化学式1および/または化学式2のセグメントを含むことが好ましい。また、樹脂層が化学式1および化学式2のセグメントの両方を含むことがより好ましい。
【0089】
柔軟性や伸縮性の観点から、式1および式2を満たすことが好ましい。式1は樹脂層と離型層の化学的な親和性を表している。また、前述の通り、離型層の表面弾性率は剥離力に影響する。
【0090】
式1および式2を満たすと、前述の通り、樹脂層と離型フィルムの剥離力を一定以上とすることができ好ましい。一方、式1および式2の少なくとも一方を満たさない場合、樹脂層と離型フィルムの剥離力が過剰に小さくなり、意図せぬ剥離が生じる場合がある。また、樹脂層の両方の表面に離型フィルムを有する構成の場合、剥離力が過剰に低いため、一方の離型フィルムを選択的に剥離することが困難となる場合がある。
【0091】
式1および式2を満たすためには、例えば離型層が後述の化学式3および化学式4の構造を有するセグメントを含むことで可能となる。
【0092】
さらに、剥離性の観点から、前記第二構成の積層体は、以下の条件3を満たすことが好ましい。
【0093】
条件3: 飛行時間型2次イオン質量分析計(TOF-SIMS)により測定される、前記離型層の表面のジメチルシロキサンに由来するSi(CH3)+フラグメントイオン(M/Z=43)の強度が1,000以下。
【0094】
飛行時間型2次イオン質量分析計(TOF-SIMS)の詳細は後述する。
【0095】
前記離型層の表面のジメチルシロキサンに由来するSi(CH3)+フラグメントイオン(M/Z=43)の強度は離型層表面におけるジメチルシロキサン成分の偏在の強さを表す。
【0096】
剥離性の観点から、前記離型層の表面のジメチルシロキサンに由来するSi(CH3)+フラグメントイオン(M/Z=43)の強度は1,000以下であることが好ましい。
【0097】
前記離型層の表面のジメチルシロキサンに由来するSi(CH3)+フラグメントイオン(M/Z=43)の強度が1,000以下であると、樹脂層と離型フィルムの剥離力が向上し好ましい。一方、前記離型層の表面のジメチルシロキサンに由来するSi(CH3)+フラグメントイオン(M/Z=43)の強度が1,000を超える場合、樹脂層と離型フィルムの剥離力が過剰に低くなりすぎ、意図せぬ剥離が生じる場合がある。また、樹脂層の両方の表面に離型フィルムを有する構成の場合、剥離力が過剰に低いため、一方の離型フィルムを選択的に剥離することが困難となる場合がある。
【0098】
前記離型層の表面のジメチルシロキサンに由来するSi(CH3)+フラグメントイオン(M/Z=43)の強度を1,000以下とするためには、例えば、離型層が化学式3および化学式4の構造を有するセグメントを含むことや、ジメチルシロキサン等のシリコーンに由来する材料を使わないことで可能となる。
【0099】
化学式4において、R1~R6はそれぞれ独立に、水素、RxOCH2-で表される基、または化学式4で表されるメラミン誘導体に由来する基を表す。ただし、Rxは水素、炭素数1~4のアルキル基を表す。
【0100】
さらに、長期耐久性の観点から、前記樹脂層が化学式5のセグメントを含むことが好ましい。
【0101】
化学式5において、R1は炭素数1以上6以下のアルキル基またはアルキレン基、nは2以上50以下である。また、R1は炭素数2以上4以下のアルキル基またはアルキレン基、nは10以上40以下であることがより好ましい。
【0102】
積層体の長期耐久性の観点から、樹脂層が化学式5のセグメントを含むことが好ましい。樹脂層が化学式5のセグメントを含むと、樹脂層の耐久性が向上し、前述のような過酷な環境で長期保管された場合でも、積層体をより扱いやすくすることができる。
【0103】
[離型フィルム、離型層]
本発明の離型フィルムにおける離型層は、少なくとも、支持基材の一方の面にあり、離型層の支持基材とは反対の面に、樹脂層を設けることにより使用される。離型層は、密着性や帯電防止性、耐溶剤性等を付与する観点から複数の層から構成されていてもよく、支持基材の両面にあってもよい。
【0104】
ここで層とは、表面側から厚み方向に向かって、隣接する部位と区別可能な境界面を有し、かつ有限の厚みを有する部位を指す。より具体的には、前記離型層の断面を電子顕微鏡(透過型、走査型)または光学顕微鏡にて断面観察した際、不連続な境界面の有無により区別されるものを指す。離型層の厚み方向に組成が変わっていても、その間に前述の境界面がない場合には、1つの層として取り扱う。
【0105】
離型層の厚みは、樹脂層を設ける側の面が、前述の特定の弾性率分布の標準偏差、および平均値を持つことができれば特に限定されないが、離型層の面内均一性、品位、剥離力の面から10nm以上500nm以下であることが好ましく、20nm以上300nm以下であることがより好ましい。
【0106】
離型層は、表面自由エネルギーS1と原子間力顕微鏡による表面弾性率E2が前述の範囲を満たすことができれば、その材料は特に限定されないが、後述する離型層用塗料組成物により形成されていることが好ましく、後述する離型層の製造方法により、塗布、乾燥、硬化することにより支持基材の表面に形成することが好ましい。
【0107】
[支持基材]
本発明の離型フィルムに用いられる支持基材を構成する樹脂は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれでもよく、ホモ樹脂であってもよく、共重合または2種類以上のブレンドであってもよい。支持基材を構成する樹脂は、成形性が良好であれば好ましく、その点から熱可塑性樹脂がより好ましい。
【0108】
熱可塑性樹脂の例としては、ポリエチレン・ポリプロピレン・ポリスチレン・ポリメチルペンテンなどのポリオレフィン樹脂、脂環族ポリオレフィン樹脂、ナイロン6・ナイロン66などのポリアミド樹脂、アラミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、4フッ化エチレン樹脂・3フッ化エチレン樹脂・3フッ化塩化エチレン樹脂・4フッ化エチレン-6フッ化プロピレン共重合体・フッ化ビニリデン樹脂などのフッ素樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリグリコール酸樹脂、ポリ乳酸樹脂などを用いることができる。熱硬化性樹脂の例としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂などを用いることができる。熱可塑性樹脂は、十分な延伸性と追従性を備える樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂は、強度・耐熱性・透明性の観点から、特に、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、もしくはメタクリル樹脂であることがより好ましい。
【0109】
本発明におけるポリエステル樹脂とは、エステル結合を主鎖の主要な結合鎖とする高分子の総称であって、酸成分およびそのエステルとジオール成分の重縮合によって得られる。具体例としてはポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどを挙げることができる。またこれらに酸成分やジオール成分として他のジカルボン酸およびそのエステルやジオール成分を共重合したものであってもよい。これらの中で透明性、寸法安定性、耐熱性などの点でポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレートが特に好ましい。
【0110】
また、支持基材には、各種添加剤、例えば、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、無機粒子、有機粒子、減粘剤、熱安定剤、滑剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、屈折率調整のためのドープ剤などが添加されていてもよい。支持基材は、単層構成、積層構成のいずれであってもよい。
【0111】
支持基材の表面には、前記樹脂層を形成する前に各種の表面処理を施すことも可能である。表面処理の例としては、薬品処理、機械的処理、コロナ放電処理、火焔処理、紫外線照射処理、高周波処理、グロー放電処理、活性プラズマ処理、レーザー処理、混酸処理およびオゾン酸化処理が挙げられる。これらの中でもグロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ放電処理および火焔処理が好ましく、グロー放電処理と紫外線処理がさらに好ましい。
【0112】
また、支持基材の表面には、本発明の樹脂層とは別に易接着層、帯電防止層、アンダーコート層、紫外線吸収層、離型層などの機能性層をあらかじめ設けることも可能であり、本発明の積層体においては、支持基材と樹脂層の剥離力を低下させるため、特に離型層を設けることが好ましい。
【0113】
前述の離型層が設けられたポリエステル樹脂により構成されたフィルムの例として、東レフィルム加工株式会社製の“セラピール”(登録商標)、ユニチカ株式会社製の“ユニピール”(登録商標)、パナック株式会社製の“パナピール”(登録商標)、東洋紡株式会社製の“東洋紡エステル”(登録商標)、帝人株式会社製の“ピューレックス”(登録商標)などを挙げることができ、これらの製品を利用することができる。
【0114】
[離型層用塗料組成物]
離型層用塗料組成物は、前述の離型フィルムの製造方法によって、支持基材上に離型層が形成されたとき、原子間力顕微鏡による弾性率、表面自由エネルギーを満たすことができれば、その材料は特に限定されないが、支持基材上に離型層が掲載されたとき、離型層を構成する樹脂が前述の構造を有するセグメントを含むことができる成分から構成されることが好ましい。
【0115】
化学式3の構造を有するセグメントを含む化合物として、ポリエステル化合物およびその誘導体や前駆体が挙げられ、特にアルキド化合物およびその誘導体や前駆体が好ましい。また、化学式4の構造を有するセグメントを含む化合物として、メラミン化合物およびその誘導体や前駆体が挙げられる。
【0116】
メラミン化合物は、化合物中にメラミン骨格を有する化合物のことである。例えば、アルキロール化メラミン誘導体、アルキロール化メラミン誘導体にアルコールを反応させて部分的・完全にエーテル化した化合物が挙げられる。アルキロール化の例として、メチロール化、エチロール化、イソプロピロール化、n-ブチロール化、イソブチロール化が挙げられる。また、エーテル化に用いるアルコールの例として、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、イソブタノールが挙げられる。また、メラミン化合物は単量体であっても良いし、二量体以上の多量体であってもよいし、これらの混合物であってもよい。また、メラミンの一部に尿素等を共縮合してもよいし、メラミン化合物の反応性を向上するために触媒を使用してもよい。
【0117】
また、長鎖アルキル基を有する化合物を含んでもよい。長鎖アルキル基を有する化合物の例として、長鎖アルキル基を有するアクリルモノマーを挙げることができる。長鎖アルキル基を有するアクリルモノマーとして、例えば、デキル(メタ)アクリレート、ウンデキル(メタ)アクリレート、ドデキル(メタ)アクリレート、トリデキル(メタ)アクリレート、テトラデキル(メタ)アクリレート、ペンタデキル(メタ)アクリレート、ヘキサデキル(メタ)アクリレート、ヘプタデキル(メタ)アクリレート、オクタデキル(メタ)アクリレート、ノナデキル(メタ)アクリレート、イコシル(メタ)アクリレート、ヘンイコシル(メタ)アクリレート、トリアコンチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0118】
上記の材料に加えて、アクリルポリオールなどのアクリル樹脂、ポリエステル樹脂や、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂およびそれらの前駆体を含んでいてもよい。
【0119】
[積層体、および樹脂層]
本発明の積層体は、前述の物性を示す樹脂層を有していれば平面状態、または成形された後の3次元形状のいずれであってもよい。前記樹脂層の層数に特に限定はなく、1層から形成されていてもよいし、2層以上の層から形成されていてもよい。
【0120】
前記樹脂層の厚みは特に限定はないが、その下限値として1μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、10μm以上がさらに好ましい。また、その上限値として、500μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、50μm以下がさらに好ましく、30μm以下が特に好ましい。前記樹脂層の厚みは、前述した他の機能に応じてその厚みを選択することができる。
【0121】
前記樹脂層は、本発明の課題としている柔軟性、伸縮性の他に、光沢性、耐指紋性、成型性、意匠性、耐傷性、防汚性、耐溶剤性、反射防止、帯電防止、導電性、熱線反射、近赤外線吸収、電磁波遮蔽、易接着等の他の機能を有してもよい。
【0122】
また、前記樹脂層の上に、さらに1つ以上の層を形成してもよく、例えば前述の機能を有する機能層、粘着層、電子回路層、印刷層、光学調整層等や他の機能層を設けてもよい。
【0123】
[樹脂層用塗料組成物]
本発明の積層体の製造方法は特に限定されないが、本発明の積層体は、前述の離型フィルムの少なくとも一方に、樹脂層用塗料組成物を塗布する工程、必要に応じて乾燥する工程や硬化する工程を経て得ることができる。ここで「塗料組成物」とは、溶媒と溶質からなる液体であり、前述の離型フィルム上に塗布し、溶媒を乾燥工程で揮発、除去、硬化することにより樹脂層を形成可能な材料を指す。ここで、塗料組成物の「種類」とは、塗料組成物を構成する溶質の種類が一部でも異なる液体を指す。この溶質は、樹脂もしくは塗布プロセス内でそれらを形成可能な材料(以降これを前駆体と呼ぶ)、粒子、および重合開始剤、硬化剤、触媒、レベリング剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等の各種添加剤からなる。
【0124】
また、本発明の積層体において、以下の樹脂層用塗料組成物Aを用い、離型フィルム上に塗布することにより樹脂層を形成することが好ましい。
【0125】
さらに、本発明の積層体において、長期耐久性の観点からは、以下の樹脂層用塗料組成物Bを用い、離型フィルム上に塗布することにより樹脂層を形成することが好ましい。
【0126】
[樹脂層用塗料組成物A]
樹脂層用塗料組成物Aは、本発明の樹脂層を構成するのに適した材料を含む、もしくは形成可能な前駆体を含む液体であり、溶質として次の(1)から(2)のセグメントを含む樹脂もしくは前駆体を含むことが好ましい。また、(3)のセグメントを含む樹脂もしくは前駆体を含んでいてもよい。
(1)ポリカプロラクトンセグメント、ポリカーボネートセグメントおよびポリアルキレングリコールセグメントからなる群より選ばれる少なくとも一つを含むセグメント
(2)ウレタン結合
(3)フッ素化合物セグメント、ポリシロキサンセグメントおよびポリジメチルシロキサンセグメントからなる群より選ばれる少なくとも一つを含むセグメント。
【0127】
この樹脂層の表面におけるA層を構成する樹脂が含む各セグメントについては、TOF-SIMS、FT-IR等により確認することできる。
【0128】
また、塗料組成物A中に含まれる前記(1)、(2)、(3)の質量部は、(1)/(2)/(3)= 95/5/1 ~ 50/50/15 が好ましく、(1)/(2)/(3)= 90/10/1 ~ 60/40/10 がより好ましい。以下、(1)、(2)、(3)の詳細について説明する。
【0129】
前記(1)ポリカプロラクトンセグメント、ポリカーボネートセグメントおよびポリアルキレングリコールセグメントの詳細については後述するが、前記樹脂層を構成する樹脂がこれらのセグメントを有することで、樹脂層の伸縮性や柔軟性を向上させることができる。また、樹脂層の耐久性の観点から、樹脂層を構成する樹脂がポリアルキレングリコールセグメントを有することが特に好ましい。
【0130】
前記ウレタン結合の詳細については後述するが、前記樹脂層の表面におけるA層を構成する樹脂がこの結合を有することで、樹脂層全体の強靭性や伸縮性を向上させることができる。
【0131】
前記フッ素化合物セグメント、ポリシロキサンセグメントおよびポリジメチルシロキサンセグメントの詳細については後述するが、樹脂層を構成する樹脂がこれらを含むことにより最表面に低表面エネルギーを示す分子を高密度に存在させることができ、樹脂層の耐溶剤性を向上させることができる。
【0132】
他にも、塗料組成物Aの溶質として好ましい樹脂の一例として、ウレタンアクリレートが挙げられる。ウレタンアクリレートは様々な汎用品が入手でき、また、目的に応じて様々な物性を持つ材料を合成することも可能となる。
【0133】
本発明において、より好ましい形態の一つとして、樹脂層のガラス転移温度を下げる方法が挙げられるが、その手段の一つとしてウレタンアクリレートの種類を選択することができる。また、同様により好ましい形態の一つとして、一定の数平均分子量を有するウレタンアクリレートを硬化させてなる樹脂組成物を樹脂層に用いることが挙げられるが、その手段の一つとしてウレタンアクリレートの種類を選択することができる。
【0134】
ウレタンアクリレートの市販されている例としては、亜細亜工業株式会社製のウレタンアクリレート、共栄社化学株式会社製のウレタンアクリレート、新仲村化学工業株式会社製のウレタンアクリレート、大成ファインケミカル株式会社製のウレタンアクリレート、第一工業製薬製の“ニューフロンティア”(登録商標)、ダイセル・オルネクス株式会社製の“EBECRYL”(登録商標)、日本合成株式会社製の“紫光”(登録商標)、DIC株式会社製のウレタンアクリレートなどを挙げることができ、これらの製品を利用することができる。
【0135】
[樹脂層用塗料組成物B]
樹脂層用塗料組成物Bは、本発明の樹脂層を構成するのに適した材料を含む、もしくは形成可能な前駆体を含む液体であり、溶質として化学式5のポリエーテルセグメントと化学式1の(メタ)アクリルセグメントと化学式2のウレタンセグメントを含む樹脂もしくは前駆体を含むことが好ましい。これらは1種類のポリマー、またはオリゴマー内に全て存在していてもよいし、それぞれを含む別のポリマー、オリゴマーの混合物であってもよい。
【0136】
本発明の積層体では、樹脂層の柔軟性や復元性など機械的な性質が重要である。そのため、樹脂層を形成するポリマーの構造を制御できる方法が好ましい。また、本発明の積層体は、樹脂層に対して、高いレベルでの外観品位や厚みの平滑性が求められるため、後述する積層体の製造方法において、樹脂フィルム形成用塗料組成物の粘度には好ましい範囲がある。さらに、本発明の積層体は、後工程にて加工されるため、できるだけ溶媒等への耐久性がある方が好ましい。
【0137】
そのため、樹脂層用塗料組成物Bは、化学式5のポリエーテルセグメントと化学式1の(メタ)アクリルセグメントと化学式2のウレタンセグメントを含む前駆体を分子量が制御できる状況で重合したオリゴマーを作り、次いで、これに、各種添加剤を添加して、樹脂フィルム形成用塗料組成物を作成し、これを後述する積層体の製造方法において、支持基材上に塗布、架橋させることで、樹脂フィルムにすることが好ましい。
【0138】
具体的には、ポリエーテルポリオールとイソシアネート基を含有する化合物とヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートや、アクリル変性ポリエーテルポリオールとイソシアネート基を含有する化合物などをあらかじめ重合して、ウレタンアクリレートオリゴマーを作り、これに適宜添加剤を加えて、樹脂フィルム形成用塗料組成物とすることが好ましい。
【0139】
ポリエーテルポリオールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどの、ポリアルキレングリコールやその各種誘導体が挙げられる。
【0140】
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が例示される。
【0141】
[ポリカプロラクトンセグメント、ポリカーボネートセグメント、ポリアルキレングリコールセグメント]
まず、ポリカプロラクトンセグメントとは化学式6で示されるセグメントを指す。ポリカプロラクトンには、カプロラクトンの繰り返し単位が1(モノマー)、2(ダイマー)、3(トライマー)のようなものや、カプロラクトンの繰り返し単位が35までのオリゴマーも含む。
【0142】
【0143】
ここで、nは1~35の整数である。
【0144】
ポリカプロラクトンセグメントを含有する樹脂は、少なくとも1以上の水酸基(ヒドロキシル基)を有することが好ましい。水酸基はポリカプロラクトンセグメントを含有する樹脂の末端にあることが好ましい。
【0145】
ポリカプロラクトンセグメントを含有する樹脂としては、特に2~3官能の水酸基を有するポリカプロラクトンが好ましい。具体的には、化学式7で示されるポリカプロラクトンジオール、
【0146】
【0147】
ここで、m+nは4~35の整数で、m、nはそれぞれ1~34の整数、RはC2H4、C2H4OC2H4またはC(CH3)3(CH2)2
または化学式8で示されるポリカプロラクトントリオール、
【0148】
【0149】
ここで、l+m+nは3~30の整数で、l、m、nはそれぞれ1~28の整数、RはCH2CHCH2、CH3C(CH2)3またはCH3CH2C(CH2)3
などのポリカプロラクトンポリオールや化学式9で示されるポリカプロラクトン変性ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート
【0150】
【0151】
ここで、nは1~25の整数で、RはHまたはCH3などの活性エネルギー線重合性カプロラクトンを用いることができる。他の活性エネルギー線重合性カプロラクトンの例として、ポリカプロラクトン変性ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリカプロラクトン変性ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0152】
さらに本発明において、ポリカプロラクトンセグメントを含有する樹脂は、ポリカプロラクトンセグメント以外に、他のセグメントやモノマーが含有(あるいは、共重合)されていてもよい。たとえば、後述するポリジメチルシロキサンセグメントやポリシロキサンセグメント、イソシアネート化合物を含有する化合物が含有(あるいは、共重合)されていてもよい。
【0153】
また、本発明において、ポリカプロラクトンセグメントを含有する樹脂中の、ポリカプロラクトンセグメントの重量平均分子量は500~2,500であることが好ましく、より好ましい重量平均分子量は1,000~1,500である。ポリカプロラクトンセグメントの重量平均分子量が500~2,500であると、伸縮性や柔軟性がより向上するため好ましい。
【0154】
次にポリアルキレングリコールセグメントとは、化学式10で示されるセグメントを指す。ポリアルキレングリコールには、アルキレングリコールの繰り返し単位が2(ダイマー)、3(トライマー)のようなものや、アルキレングリコールの繰り返し単位が11までのオリゴマーも含む。
【0155】
【0156】
nは2~4の整数、mは2~11の整数である。
【0157】
ポリアルキレングリコールセグメントを含有する樹脂は、少なくとも1以上の水酸基(ヒドロキシル基)を有することが好ましい。水酸基はポリアルキレングリコールセグメントを含有する樹脂の末端にあることが好ましい。
【0158】
ポリアルキレングリコールセグメントを含有する樹脂としては、弾性を付与するために、末端にアクリレート基を有するポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートであることが好ましい。ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートのアクリレート官能基(またはメタクリレート官能基)数は限定されないが、硬化物の伸縮性や柔軟性の点から単官能であることが最も好ましい。
【0159】
樹脂層を形成するために用いる塗料組成物中に含有されるポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートとしては、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコール(メタ)アクリレートが挙げられる。それぞれ次の化学式11、化学式12、化学式13に代表される構造である。
【0160】
ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート:
【0161】
【0162】
ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート:
【0163】
【0164】
ポリブチレングリコール(メタ)アクリレート:
【0165】
【0166】
化学式11、化学式12、化学式13で、Rは水素(H)またはメチル基(-CH3)、mは2~11となる整数である。
【0167】
本発明では、好ましくは、後述するイソシアネート基を含有する化合物と(ポリ)アルキレングリコール(メタ)アクリレートの水酸基を反応させてウレタン(メタ)アクリレートとして樹脂層に用いることにより、樹脂層を構成する樹脂が、(2)ウレタン結合および(3)(ポリ)アルキレングリコールセグメントを有することができ、結果として樹脂層の強靱性を向上させると共に伸縮性や柔軟性を向上することができて好ましい。
【0168】
イソシアネート基を含有する化合物とポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートとのウレタン化反応の際に同時に配合するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が例示される。
【0169】
次に、ポリカーボネートセグメントとは化学式14で示されるセグメントを指す。ポリカーボネートには、カーボネートの繰り返し単位が2(ダイマー)、3(トライマー)のようなものや、カーボネートの繰り返し単位が16までのオリゴマーも含む。
【0170】
【0171】
nは2~16の整数である。
R4は炭素数1~8までのアルキレン基またはシクロアルキレン基を指す。
【0172】
ポリカーボネートセグメントを含有する樹脂は、少なくとも1以上の水酸基(ヒドロキシル基)を有することが好ましい。水酸基は、ポリカーボネートセグメントを含有する樹脂の末端にあることが好ましい。
【0173】
ポリカーボネートセグメントを含有する樹脂としては、特に2官能の水酸基を有するポリカーボネートジオールが好ましい。具体的には化学式15で示される。
ポリカーボネートジオール:
【0174】
【0175】
nは2~16の整数である。Rは炭素数1~8までのアルキレン基またはシクロアルキレン基を指す。
【0176】
ポリカーボネートジオールは、カーボネート単位の繰り返し数がいくつであってもよいが、カーボネート単位の繰り返し数が大きすぎるとウレタン(メタ)アクリレートの硬化物の強度が低下するため、繰り返し数は10以下であることが好ましい。なお、ポリカーボネートジオールは、カーボネート単位の繰り返し数が異なる2種以上のポリカーボネートジオールの混合物であってもよい。
【0177】
ポリカーボネートジオールは、数平均分子量が500~10,000のものが好ましく、1,000~5,000のものがより好ましい。数平均分子量が500未満になると好適な柔軟性が得難くなる場合があり、また数平均分子量が10,000を超えると耐熱性や耐溶剤性が低下する場合があるので前記程度のものが好適である。
【0178】
また、本発明で用いられるポリカーボネートジオールとしては、UH-CARB、UD-CARB、UC-CARB(宇部興産株式会社)、PLACCEL CD-PL、PLACCEL CD-H(ダイセル化学工業株式会社)、クラレポリオールCシリーズ(株式会社クラレ)、デュラノールシリーズ(旭化成ケミカルズ株式会社)など製品を好適に例示することができる。これらのポリカーボネートジオールは、単独で、または二種類以上を組合せて用いることもできる。
【0179】
さらに本発明において、ポリカプロラクトンセグメントを含有する樹脂は、ポリカプロラクトンセグメント以外に、他のセグメントやモノマーが含有(あるいは、共重合)されていてもよい。たとえば、後述するポリジメチルシロキサンセグメントやポリシロキサンセグメント、イソシアネート化合物を含有する化合物が含有(あるいは、共重合)されていてもよい。
【0180】
本発明では、好ましくは、後述するイソシアネート基を含有する化合物とポリカーボネートジオールの水酸基を反応させてウレタン(メタ)アクリレートとして樹脂層に用いることにより、樹脂層を構成する樹脂が、前述の(2)ウレタン結合および(1)ポリカーボネートジオールセグメントを有することができ、結果として樹脂層の強靱性を向上させると共に伸縮性や柔軟性を向上させることができる。
【0181】
[ウレタン結合、イソシアネート基を含有する化合物]
本発明において、「ウレタン結合」とは前述の化学式2で示される結合を指す。
【0182】
前記樹脂層を構成する樹脂がこの結合を有することで、樹脂層全体の強靭性や伸縮性を向上させることができる。
【0183】
塗料組成物Aが市販のウレタン変性樹脂を含むことにより、樹脂層を構成する樹脂がウレタン結合を有することが可能となる。また、樹脂層を形成する際に前駆体としてイソシアネート基を含有する化合物と水酸基を含有する化合物とを含む塗料組成物Aを塗布、乾燥、硬化することにより、ウレタン結合を生成させて、樹脂層にウレタン結合を含有させることもできる。
【0184】
本発明ではイソシアネート基と水酸基とを反応させてウレタン結合を生成させることにより、樹脂層を構成する樹脂にウレタン結合を導入することが好ましい。イソシアネート基と水酸基とを反応させてウレタン結合を生成させることにより、樹脂層の強靱性を向上させると共に伸縮性を向上させることができる。
【0185】
また、前述したポリカプロラクトンセグメント、ポリカーボネートセグメント、ポリアルキレングリコールセグメントを含有する樹脂や、水酸基を有する場合は、熱などによってこれら樹脂と前駆体としてイソシアネート基を含有する化合物との間にウレタン結合を生成させることも可能である。
【0186】
イソシアネート基を含有する化合物と、後述する水酸基を有するポリシロキサンセグメントを含有する樹脂や、水酸基を有するポリジメチルシロキサンセグメントを含有する樹脂を用いて樹脂層を形成すると、樹脂層の強靱性および伸縮性に加えて、表面のすべり性を高めることができ、また、耐溶剤性の観点からもより好ましい。
【0187】
本発明において、イソシアネート基を含有する化合物とは、イソシアネート基を含有する樹脂や、イソシアネート基を含有するモノマーやオリゴマーを指す。イソシアネート基を含有する化合物は、例えば、メチレンビス-4-シクロヘキシルイソシアネート、トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、ヘキサメチレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、イソホロンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、トリレンジイソシアネートのイソシアヌレート体、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体、ヘキサメチレンイソシアネートのビューレット体などの(ポリ)イソシアネート、および上記イソシアネートのブロック体などを挙げることができる。
【0188】
これらのイソシアネート基を含有する化合物の中でも、脂環族や芳香族のイソシアネートに比べて脂肪族のイソシアネートが、伸縮性や柔軟性が高く好ましい。イソシアネート基を含有する化合物は、より好ましくは、ヘキサメチレンジイソシアネートである。また、イソシアネート基を含有する化合物は、イソシアヌレート環を有するイソシアネートが耐熱性の点で特に好ましく、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体が最も好ましい。イソシアヌレート環を有するイソシアネートは、伸縮性と耐熱特性を併せ持つ樹脂層を形成する。
【0189】
[フッ素化合物セグメント、ポリシロキサンセグメント、ポリジメチルシロキサンセグメント]
本発明の積層体において、樹脂層を構成する樹脂が、フッ素化合物セグメント、ポリシロキサンセグメントおよびポリジメチルシロキサンセグメントからなる群より選ばれる少なくとも一つを含むセグメントを有していてもよい。
【0190】
さらに、フッ素化合物セグメント、ポリシロキサンセグメントおよびポリジメチルシロキサンセグメントからなる群より選ばれる少なくとも一つを含むセグメントを含む樹脂、もしくは前駆体を含む塗料組成物Aを、樹脂層を形成する塗料組成物の一つに用いることにより、樹脂層を構成する樹脂がこれらを有することができる。
【0191】
以下、これらフッ素化合物セグメント、ポリシロキサンセグメント、ポリジメチルシロキサンセグメントについて説明する。
【0192】
まず、フッ素化合物セグメントは、フルオロアルキル基、フルオロオキシアルキル基、フルオロアルケニル基、フルオロアルカンジイル基およびフルオロオキシアルカンジイル基からなる群より選ばれる少なくとも一つを含むセグメントを指す。
【0193】
ここで、フルオロアルキル基、フルオロオキシアルキル基、フルオロアルケニル基、フルオロアルカンジイル基、フルオロオキシアルカンジイル基とはアルキル基、オキシアルキル基、アルケニル基、アルカンジイル基、オキシアルカンジイル基が持つ水素の一部、あるいは全てがフッ素に置き換わった置換基であり、いずれも主にフッ素原子と炭素原子から構成される置換基であり、構造中に分岐があってもよく、これらの部位を有する構造が複数連結したダイマー、トリマー、オリゴマー、ポリマー構造を形成していてもよい。
【0194】
また、前記フッ素化合物セグメントとしては、フルオロポリエーテルセグメントが好ましく、これはフルオロアルキル基、オキシフルオロアルキル基、オキシフルオロアルカンジイル基などからなる部位である。
【0195】
前記フルオロポリエーテルセグメントとは、フルオロアルキル基、オキシフルオロアルキル基、オキシフルオロアルカンジイル基などからなるセグメントで、化学式16、化学式17に代表される構造である。
【0196】
【0197】
【0198】
ここで、n1は1~3の整数、n2~n5は1または2の整数、k、m、p、sは0以上の整数でかつp+sは1以上である。好ましくは、n1は2以上、n2~n5は1または2の整数であり、より好ましくは、n1は3、n2とn4は2、n3とn5は1または2の整数である。
【0199】
このフルオロポリエーテルセグメントの鎖長には好ましい範囲があり、炭素数は4以上12以下が好ましく、4以上10以下がより好ましく、6以上8以下が特に好ましい。炭素数が、3以下では表面エネルギーが十分に低下しないため撥油性が低下する場合があり、13以上では溶媒への溶解性が低下するため、樹脂層の品位が低下する場合がある。
【0200】
この樹脂層に含まれる樹脂がフッ素化合物セグメントを含む場合には、前述の塗料組成物Aが以下のフッ素化合物を含むことが好ましい。このフッ素化合物は化学式18で示される化合物である。
【0201】
【0202】
ここでRf1はフッ素化合物セグメント、R7はアルカンジイル基、アルカントリイル基、およびそれらから導出されるエステル構造、ウレタン構造、エーテル構造、トリアジン構造を、D1は反応性部位を示す。
【0203】
この反応性部位とは、熱または光などの外部エネルギーにより他の成分と反応する部位を指す。このような反応性部位として、反応性の観点からアルコキシシリル基およびアルコキシシリル基が加水分解されたシラノール基や、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基などが挙げられる。なかでも、反応性、ハンドリング性の観点から、ビニル基、アリル基、アルコキシシリル基、シリルエーテル基あるいはシラノール基や、エポキシ基、アクリロイル(メタクリロイル)基が好ましい。
【0204】
フッ素化合物の一例は次に示される化合物である。3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリイソプロポキシシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリクロロシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリイソシアネートシラン、2-パーフルオロオクチルトリメトキシシラン、2-パーフルオロオクチルエチルトリエトキシシラン、2-パーフルオロオクチルエチルトリイソプロポキシシラン、2-パーフルオロオクチルエチルトリクロロシラン、2-パーフルオロオクチルイソシアネートシラン、2,2,2-トリフルオロエチルアクリレート、2,2,3,3,3-ペンタフロオロプロピルアクリレート、2-パーフルオロブチルエチルアクリレート、3-パーフルオロブチル-2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-パーフルオロヘキシルエチルアクリレート、3-パーフルオロヘキシル-2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-パーフルオロオクチルエチルアクリレート、3-パーフルオロオクチル-2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-パーフルオロデシルエチルアクリレート、2-パーフルオロ-3-メチルブチルエチルアクリレート、3-パーフルオロ-3-メトキシブチル-2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-パーフルオロ-5-メチルヘキシルエチルアクリレート、3-パーフルオロ-5-メチルヘキシル-2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-パーフルオロ-7-メチルオクチル-2-ヒドロキシプロピルアクリレート、テトラフルオロプロピルアクリレート、オクタフルオロペンチルアクリレート、ドデカフルオロヘプチルアクリレート、ヘキサデカフルオロノニルアクリレート、ヘキサフルオロブチルアクリレート、2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレート、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルメタクリレート、2-パーフルオロブチルエチルメタクリレート、3-パーフルオロブチル-2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、2-パーフルオロオクチルエチルメタクリレート、3-パーフルオロオクチル-2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、2-パーフルオロデシルエチルメタクリレート、2-パーフルオロ-3-メチルブチルエチルメタクリレート、3-パーフルオロ-3-メチルブチル-2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、2-パーフルオロ-5-メチルヘキシルエチルメタクリレート、3-パーフルオロ-5-メチルヘキシル-2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、2-パーフルオロ-7-メチルオクチルエチルメタクリレート、3-パーフルオロ-6-メチルオクチルメタクリレート、テトラフルオロプロピルメタクリレート、オクタフルオロペンチルメタクリレート、オクタフルオロペンチルメタクリレート、ドデカフルオロヘプチルメタクリレート、ヘキサデカフルオロノニルメタクリレート、1-トリフルオロメチルトリフルオロエチルメタクリレート、ヘキサフルオロブチルメタクリレート、トリアクリロイル-ヘプタデカフルオロノネニル-ペンタエリスリトールなどが挙げられる。
【0205】
なお、フッ素化合物は1分子あたり複数のフルオロポリエーテル部位を有していてもよい。
上記フッ素化合物の市販されている例としては、RS-75(DIC株式会社)、オプツールDAC-HP(ダイキン工業株式会社)、C10GACRY、C8HGOL(油脂製品株式会社)などを挙げることができ、これらの製品を利用することができる。
【0206】
次にポリシロキサンセグメントについて述べる。本発明においてポリシロキサンセグメントとは、後述の化学式19で示されるセグメントを指す。
【0207】
ここで、ポリシロキサンには、シロキサンの繰り返し単位が100程度である低分子量のもの(いわゆるオリゴマー)およびシロキサンの繰り返し単位が100を超える高分子量のもの(いわゆるポリマー)の両方が含まれる。
【0208】
【0209】
R1、R2は、水酸基または炭素数1~8のアルキル基のいずれかであり、式中においてそれぞれを少なくとも1つ以上有するものであり、nは100~300の整数である。
【0210】
前記ポリシロキサンセグメント、ポリジメチルシロキサンセグメントの詳細については後述するが、前記樹脂層を構成する樹脂がこれらのセグメントを有することで耐熱性、耐候性の向上や、樹脂層の潤滑性による滑り性を向上することができる。より好ましくは後述する化学式20で表されるポリジメチルシロキサンセグメントを含むことが潤滑性の面から好ましい。
【0211】
本発明では、加水分解性シリル基を含有するシラン化合物の部分加水分解物、オルガノシリカゾルまたは該オルガノシリカゾルにラジカル重合体を有する加水分解性シラン化合物を付加させた塗料組成物を、ポリシロキサンセグメントを含有する樹脂として用いることができる。
【0212】
ポリシロキサンセグメントを含有する樹脂は、テトラアルコキシシラン、メチルトリアルコキシシラン、ジメチルジアルコキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリアルコキシシラン、γ-グリシドキシプロピルアルキルジアルコキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリアルコキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルアルキルジアルコキシシランなどの加水分解性シリル基を有するシラン化合物の完全もしくは部分加水分解物や有機溶媒に分散させたオルガノシリカゾル、オルガノシリカゾルの表面に加水分解性シリル基の加水分解シラン化合物を付加させたものなどを例示することができる。
【0213】
また、本発明において、ポリシロキサンセグメントを含有する樹脂は、ポリシロキサンセグメント以外に、他のセグメント等が含有(共重合)されていてもよい。たとえば、ポリカプロラクトンセグメント、ポリジメチルシロキサンセグメントを有するモノマー成分が含有(共重合)されていてもよい。
【0214】
ポリシロキサンセグメントを含有する樹脂が水酸基を有する共重合体である場合、水酸基を有するポリシロキサンセグメントを含有する樹脂(共重合体)とイソシアネート基を含有する化合物とを含む塗料組成物を用いて樹脂層を形成すると、効率的に、ポリシロキサンセグメントとウレタン結合とを有する樹脂層とすることができる。
【0215】
次にポリジメチルシロキサンセグメントについて述べる。本発明において、ポリジメチルシロキサンセグメントとは、化学式20で示されるセグメントを指す。ポリジメチルシロキサンには、ジメチルシロキサンの繰り返し単位が10~100である低分子量のもの(いわゆるオリゴマー)およびジメチルシロキサンの繰り返し単位が100を超える高分子量のもの(いわゆるポリマー)の両方が含まれる。
【0216】
【0217】
mは10~300の整数である。
【0218】
樹脂層を構成する樹脂が、ポリジメチルシロキサンセグメントを有すると、ポリジメチルシロキサンセグメントが樹脂層の表面に配位することとなる。ポリジメチルシロキサンセグメントが樹脂層の表面に配位することにより、樹脂層表面の潤滑性が向上し、摩擦抵抗を低減することができる。また、耐溶剤性の観点からも好ましい。
【0219】
本発明においては、ポリジメチルシロキサンセグメントを含有する樹脂としては、ポリジメチルシロキサンセグメントにビニルモノマーが共重合された共重合体を用いることが好ましい。
【0220】
樹脂層の強靱性を向上させる目的で、ポリジメチルシロキサンセグメントを含有する樹脂は、イソシアネート基と反応する水酸基を有するモノマー等が共重合されていることが好ましい。
【0221】
ポリジメチルシロキサンセグメントを含有する樹脂が水酸基を有する共重合体である場合、水酸基を有するポリジメチルシロキサンセグメントを含有する樹脂(共重合体)とイソシアネート基を含有する化合物とを含む塗料組成物を用いて樹脂層を形成すると、効率的にポリジメチルシロキサンセグメントとウレタン結合とを有する樹脂層とすることができる。
【0222】
ポリジメチルシロキサンセグメントを含有する樹脂が、ビニルモノマーとの共重合体の場合は、ブロック共重合体、グラフト共重合体、ランダム共重合体のいずれであってもよい。ポリジメチルシロキサンセグメントを含有する樹脂がビニルモノマーとの共重合体の場合、これを、ポリジメチルシロキサン系共重合体という。ポリジメチルシロキサン系共重合体は、リビング重合法、高分子開始剤法、高分子連鎖移動法などにより製造することができるが、生産性を考慮すると高分子開始剤法、高分子連鎖移動法を用いるのが好ましい。
【0223】
高分子開始剤法を用いる場合には化学式21で示される高分子アゾ系ラジカル重合開始剤を用いて他のビニルモノマーと共重合させることができる。またペルオキシモノマーと不飽和基を有するポリジメチルシロキサンとを低温で共重合させて過酸化物基を側鎖に導入したプレポリマーを合成し、該プレポリマーをビニルモノマーと共重合させる二段階の重合を行うこともできる。
【0224】
【0225】
mは10~300の整数、nは1~50の整数である。
【0226】
高分子連鎖移動法を用いる場合は、例えば、化学式22に示すシリコーンオイルに、HS-CH2COOHやHS-CH2CH2COOH等を付加してSH基を有する化合物とした後、SH基の連鎖移動を利用して該シリコーン化合物とビニルモノマーとを共重合させることでブロック共重合体を合成することができる。
【0227】
【0228】
mは10~300の整数である。
【0229】
ポリジメチルシロキサン系グラフト共重合体を合成するには、例えば、化学式23に示す化合物、すなわちポリジメチルシロキサンのメタクリルエステルなどとビニルモノマーとを共重合させることにより容易にグラフト共重合体を得ることができる。
【0230】
【0231】
mは10~300の整数である。
【0232】
ポリジメチルシロキサンとの共重合体に用いられるビニルモノマーとしては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、オクチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、スチレン、α-メチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジアセチトンアクリルアミド、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、アリルアルコールなどを挙げることができる。
【0233】
また、ポリジメチルシロキサン系共重合体は、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶剤、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶剤などを単独もしくは混合溶媒中で溶液重合法によって製造されることが好ましい。
【0234】
必要に応じてベンゾイルパーオキサイド、アゾビスイソブチルニトリルなどの重合開始剤を併用する。重合反応は50~150℃で3~12時間行うことが好ましい。
【0235】
本発明におけるポリジメチルシロキサン系共重合体中の、ポリジメチルシロキサンセグメントの量は、樹脂層の潤滑性や耐溶剤性の点で、ポリジメチルシロキサン系共重合体の全成分100質量%において1~30質量%であることが好ましい。またポリジメチルシロキサンセグメントの重量平均分子量は1,000~30,000とすることが好ましい。
【0236】
本発明において、樹脂層を形成するために用いる塗料組成物として、ポリジメチルシロキサンセグメントを含有する樹脂を使用する場合は、ポリジメチルシロキサンセグメント以外に、他のセグメント等が含有(共重合)されていてもよい。たとえば、ポリカプロラクトンセグメントやポリシロキサンセグメントが含有(共重合)されていてもよい。
【0237】
樹脂層を形成するために用いる塗料組成物には、ポリカプロラクトンセグメントとポリジメチルシロキサンセグメントの共重合体、ポリカプロラクトンセグメントとポリシロキサンセグメントとの共重合体、ポリカプロラクトンセグメントとポリジメチルシロキサンセグメントとポリシロキサンセグメントとの共重合体などを用いることが可能である。このような塗料組成物を用いて得られる樹脂層は、ポリカプロラクトンセグメントとポリジメチルシロキサンセグメントおよび/またはポリシロキサンセグメントとを有することが可能となる。
【0238】
ポリカプロラクトンセグメント、ポリシロキサンセグメントおよびポリジメチルシロキサンセグメントを有する樹脂層を形成するために用いる塗料組成物中の、ポリジメチルシロキサン系共重合体、ポリカプロラクトン、およびポリシロキサンの反応は、ポリジメチルシロキサン系共重合体合成時に、適宜ポリカプロラクトンセグメントおよびポリシロキサンセグメントを添加して共重合することができる。
【0239】
[溶媒]
前記離型層用塗料組成物および樹脂層用塗料組成物は溶媒を含んでもよい。溶媒の種類数としては1種類以上20種類以下が好ましく、より好ましくは1種類以上10種類以下、さらに好ましくは1種類以上6種類以下、特に好ましくは1種類以上4種類以下である。
【0240】
ここで「溶媒」とは、塗布後の乾燥工程にてほぼ全量を蒸発させることが可能な、常温、常圧で液体である物質を指す。
【0241】
ここで、溶媒の種類とは溶媒を構成する分子構造によって決まる。すなわち、同一の元素組成で、かつ官能基の種類と数が同一であっても結合関係が異なるもの(構造異性体)、前記構造異性体ではないが、3次元空間内ではどのような配座をとらせてもぴったりとは重ならないもの(立体異性体)は、種類の異なる溶媒として取り扱う。例えば、2-プロパノールと、n-プロパノールは異なる溶媒として取り扱う。
【0242】
さらに、溶媒を含む場合には以下の特性を示す溶媒であることが好ましい。
【0243】
条件1 酢酸n-ブチルを基準とした相対蒸発速度(ASTM D3539-87(2004))が最も低い溶媒を溶媒Bとした際に、溶媒Bの相対蒸発速度が0.4以下。
【0244】
ここで、溶媒の酢酸n-ブチルを基準とした相対蒸発速度とは、ASTMD3539-87(2004)に準拠して測定される蒸発速度である。具体的には、乾燥空気下で酢酸n-ブチルが90質量%蒸発するのに要する時間を基準とする蒸発速度の相対値として定義される値である。
【0245】
前記溶媒の相対蒸発速度が0.4よりも大きい場合には、前述のポリシロキサンセグメントおよび/またはポリジメチルシロキサンセグメント、およびフッ素化合物セグメントの樹脂層中の最表面への配向に要する時間が短くなるため、得られる積層体における樹脂層の耐溶剤性の低下を生じる場合がある。また、前記溶媒の相対蒸発速度の下限は、乾燥工程において蒸発して塗膜から除去できる溶媒であれば問題なく、一般的な塗布工程においては、0.005以上であればよい。
【0246】
溶媒としては、イソブチルケトン(相対蒸発速度:0.2)、イソホロン(相対蒸発速度:0.026)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(相対蒸発速度:0.004、)、ジアセトンアルコール(相対蒸発速度:0.15)、オレイルアルコール(相対蒸発速度:0.003)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(相対蒸発速度:0.2)、ノニルフェノキシエタノール(相対蒸発速度:0.25)、プロピレングリコールモノエチルエーテル(相対蒸発速度:0.1)、シクロヘキサノン(相対蒸発速度:0.32)などがある。
【0247】
[塗料組成物中のその他の成分]
また、前記離型層用塗料組成物および樹脂層用塗料組成物は、重合開始剤や硬化剤や触媒を含むことが好ましい。重合開始剤および触媒は、樹脂層の硬化を促進するために用いられる。重合開始剤としては、塗料組成物に含まれる成分をアニオン、カチオン、ラジカル重合反応等による重合、縮合または架橋反応を開始あるいは促進できるものが好ましい。
【0248】
重合開始剤、硬化剤および触媒は種々のものを使用できる。また、重合開始剤、硬化剤および触媒はそれぞれ単独で用いてもよく、複数の重合開始剤、硬化剤および触媒を同時に用いてもよい。さらに、酸性触媒や、熱重合開始剤を併用してもよい。酸性触媒の例としては、塩酸水溶液、蟻酸、酢酸などが挙げられる。熱重合開始剤の例としては、過酸化物、アゾ化合物が挙げられる。また、光重合開始剤の例としては、アルキルフェノン系化合物、含硫黄系化合物、アシルホスフィンオキシド系化合物、アミン系化合物などが挙げられる。また、ウレタン結合の形成反応を促進させる架橋触媒の例としては、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジエチルヘキソエートなどが挙げられる。
【0249】
また、前記離型層用塗料組成物および樹脂層用塗料組成物は、アルコキシメチロールメラミンなどのメラミン架橋剤、3-メチル-ヘキサヒドロ無水フタル酸などの酸無水物系架橋剤、ジエチルアミノプロピルアミンなどのアミン系架橋剤などの他の架橋剤を含むことも可能である。
【0250】
光重合開始剤としては、硬化性の点から、アルキルフェノン系化合物が好ましい。アルキルフェノン形化合物の具体例としては、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-フェニル)-1-ブタン、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-(4-フェニル)-1-ブタン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-1-ブタン、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルフォリニル)フェニル]-1-ブタン、1-シクロヘキシル-フェニルケトン、2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-[4-(2-エトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、ビス(2-フェニル-2-オキソ酢酸)オキシビスエチレン、およびこれらの材料を高分子量化したものなどが挙げられる。
【0251】
また、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、離型層用塗料組成物および樹脂層用塗料組成物にレベリング剤、紫外線吸収剤、滑剤、帯電防止剤等を加えてもよい。これにより、樹脂層はレベリング剤、紫外線吸収剤、滑剤、帯電防止剤等を含有することができる。レベリング剤の例としては、アクリル共重合体またはシリコーン系、フッ素系のレベリング剤が挙げられる。紫外線吸収剤の具体例としては、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シュウ酸アニリド系、トリアジン系およびヒンダードアミン系の紫外線吸収剤が挙げられる。帯電防止剤の例としてはリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩、セシウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩などの金属塩が挙げられる。
【0252】
[離型フィルム、積層体の製造方法]
本発明の離型フィルムおよび積層体の製造方法は、特に限定されないが、離型フィルムにおいては離型層用塗料組成物を支持基材上に、積層体においては樹脂層用塗料組成物を前述の離型フィルム上に、塗布し、乾燥し、硬化することにより形成することが好ましい。以下、各塗料組成物を塗布する工程を塗布工程、乾燥する工程を乾燥工程、硬化する工程を硬化工程と記述する。各塗料組成物として、2種類以上の塗料組成物を逐次にまたは同時に塗布して、2層以上の層からなる樹脂層を形成してもよい。
【0253】
ここで「逐次に塗布する」とは、支持基材もしくは離型フィルム上に、一種類の塗料組成物を塗布し、乾燥し、硬化した後、その上に、他の塗料組成物を、塗布し、乾燥し、硬化することにより2層以上の層からなる離型層もしくは樹脂層を形成することを意味している。用いる塗料組成物の種類を適宜選択することにより、離型層の離型層側-支持基材側の柔軟性や表面自由エネルギーの購買、樹脂層の樹脂層側-離型フィルム側の柔軟性や伸縮性の大小や勾配、離型フィルムと樹脂層の柔軟性や伸縮性の大小などを制御することができる。さらに塗料組成物の種類、組成、乾燥条件および硬化条件を適宜選択することにより、離型層内や樹脂層内の柔軟性や伸縮性の分布の形態を段階的、または連続的に制御することができる。
【0254】
また、「同時に塗布する」とは塗布工程において、支持基材もしくは離型フィルム上に、二種類以上の塗料組成物を同時に塗布した後、乾燥および硬化することを意味している。
【0255】
塗布工程において、塗料組成物を塗布する方法は特に限定されないが、塗料組成物をディップコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法やダイコート法(米国特許第2681294号明細書)などにより支持基材に塗布することが好ましい。さらに、これらの塗布方式のうち、グラビアコート法または、ダイコート法が塗布方法としてより好ましい。
【0256】
また、2種類以上の塗料組成物を同時塗布する場合には、特に限定されないが、多層スライドダイコート、多層スロットダイコート、ウェット-オン-ウェットコートなどの方法を用いることができる。
【0257】
多層スライドダイコートの例を
図3に示す。多層スライドダイコートにおいては、2種類以上の塗料組成物からなる液膜を、多層スライドダイ6を用いて順に積層した後、支持基材または離型フィルム上に塗布する。
【0258】
多層スロットダイコートの例を
図4に示す。多層スロットダイコートにおいては、2種類以上の塗料組成物からなる液膜を、多層スロットダイ7を用いて、支持基材または離型フィルム上に塗布と同時に積層する。
【0259】
ウェット-オン-ウェットコートの例を
図5に示す。ウェット-オン-ウェットコートにおいては、支持基材上に、単層スロットダイ8から吐出された塗料組成物からなる1層の液膜を形成した後、該液膜が未乾燥の状態で、他の単層スロットダイ8から吐出された他の塗料組成物からなる液膜を積層させる。
【0260】
塗布工程に次いで、乾燥工程によって、支持基材または離型フィルムの上に塗布された液膜を乾燥する。得られる積層体中から完全に溶媒を除去する観点から、乾燥工程は、液膜の加熱を伴うことが好ましい。
【0261】
乾燥工程における加熱方法については、伝熱乾燥(高熱物体への密着)、対流伝熱(熱風)、輻射伝熱(赤外線)、その他(マイクロ波、誘導加熱)などの方法が挙げられる。この中でも、精密に幅方向も乾燥速度を均一にする必要から、対流伝熱、または輻射伝熱を使用した方法が好ましい。
【0262】
乾燥工程における液膜の乾燥過程は、一般的に(A)恒率乾燥期間、(B)減率乾燥期間に分けられる。前者は、液膜表面において溶媒分子の大気中への拡散が乾燥の律速になっているため、乾燥速度は、この区間において一定で、乾燥速度は大気中の被蒸発溶媒分圧、風速および温度により支配され、膜面温度は熱風温度と大気中の被蒸発溶媒分圧により決まる値で一定になる。後者は、液膜中における溶媒の拡散が律速となっているため、乾燥速度はこの区間において一定値を示さず低下し続け、液膜中の溶媒の拡散係数により支配され、膜面温度は次第に上昇する。ここで乾燥速度とは、単位時間、単位面積当たりの溶媒蒸発量を表わしたもので、g・m-2・s-1の次元からなる。
【0263】
乾燥速度は、0.1g・m-2・s-1以上10g・m-2・s-1以下であることが好ましく、0.1g・m-2・s-1以上5g・m-2・s-1以下であることがより好ましい。恒率乾燥区間における乾燥速度をこの範囲にすることにより、乾燥速度の不均一さに起因するムラを防ぐことができる。
【0264】
好ましい乾燥速度が得られるならば、特に限定されないが、上記乾燥速度を得るためには、温度が15℃から129℃であることが好ましく、50℃から129℃であることがより好ましく、50℃から99℃であることが特に好ましい。
【0265】
減率乾燥期間においては、残存溶媒の蒸発と共に、前述のポリシロキサンセグメントおよび/またはポリジメチルシロキサンセグメントやフッ素化合物セグメントの配向が行われる。この過程においては配向のための時間を必要とするため、減率乾燥期間における膜面温度上昇速度は、5℃/秒以下であることが好ましく、1℃/秒以下であることがより好ましい。
【0266】
乾燥工程に続いて、熱または活性エネルギー線を照射することによる、さらなる硬化操作(硬化工程)を行ってもよい。
【0267】
活性エネルギー線としては、汎用性の点から電子線(EB線)および/または紫外線(UV線)が好ましい。紫外線により硬化する場合は、酸素阻害を防ぐことができることから酸素濃度ができるだけ低い方が好ましく、窒素雰囲気下(窒素パージ)で硬化することがより好ましい。酸素濃度が高い場合には、最表面の硬化が阻害され、表面の硬化が弱くなり、靭性が低くなる場合がある。また、紫外線を照射する際に用いる紫外線ランプの種類としては、例えば、放電ランプ方式、フラッシュ方式、レーザー方式、無電極ランプ方式等が挙げられる。放電ランプ方式である高圧水銀灯を用いる場合、紫外線の照度が好ましくは100~3,000mW/cm2、より好ましくは200~2,000mW/cm2、さらに好ましくは300~1,500mW/cm2となる条件で紫外線照射を行うことが良い。紫外線の積算光量は、好ましくは100~3,000mJ/cm2、より好ましくは200~2,000mJ/cm2、さらに好ましくは300~1,500mJ/cm2となる条件で紫外線照射を行うことが良い。ここで、紫外線の照度とは、単位面積当たりに受ける照射強度で、ランプ出力、発光スペクトル効率、発光バルブの直径、反射鏡の設計および被照射物との光源距離によって変化する。しかし、搬送スピードによって照度は変化しない。また、紫外線積算光量とは単位面積当たりに受ける照射エネルギーで、その表面に到達するフォトンの総量である。積算光量は、光源下を通過する照射速度に反比例し、照射回数とランプ灯数に比例する。
【0268】
[用途例]
本発明の積層体は、光学特性、柔軟性、伸縮性、搬送性に優れるといった利点を活かし、特に高い柔軟性や伸縮性が求められる用途に好適に用いることができる。
【0269】
一例を挙げると、メガネ・サングラス、化粧箱、食品容器などのプラスチック成形品、水槽、展示用などのショーケース、スマートフォンの筐体、タッチパネル、カラーフィルター、フラットパネルディスプレイ、フレキシブルディスプレイ、フレキシブルデバイス、ウェアラブルデバイス、センサー、回路用材料、電気電子用途、キーボード、テレビ・エアコンのリモコンなどの家電製品、ミラー、窓ガラス、建築物、ダッシュボード、カーナビ・タッチパネル、ルームミラーやウインドウなどの車両部品、および種々の印刷物、医療用フィルム、衛生材料用フィルム、医療用フィルム、農業用フィルム、建材用フィルム等、それぞれの表面材料や内部材料や構成材料や製造工程用材料に好適に用いることができる。
【実施例】
【0270】
次に、実施例に基づいて本発明を説明するが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0271】
[アルキド化合物]
〔アルキド化合物1〕
アルキド化合物1として、アクリル変性アルキド樹脂であるハリフタール KV-905(ハリマ化成株式会社製 固形分濃度53質量%)を使用した。
【0272】
[メラミン化合物]
〔メラミン化合物1〕
メラミン化合物1として、イソブチルアルコール変性メラミン樹脂であるメラン2650L(日立化成株式会社製 固形分濃度60質量%)を使用した。
【0273】
〔メラミン化合物2〕
メラミン化合物2として、ブチル化メラミンホルムアルデヒドであるRP-50(三羽研究所製)を使用した。
【0274】
[亜リン酸エステル化合物]
〔亜リン酸エステル化合物1〕
亜リン酸エステル化合物1として、亜リン酸エステルであるプラスコートDEPクリア(和新化学工業株式会社製)を使用した。
【0275】
[ウレタン化合物]
〔ウレタン化合物1〕
ウレタン化合物1として、アルキル変性ポリウレタン樹脂であるRP-20(日本触媒株式会社製)を使用した。
【0276】
[シリコーン化合物]
〔シリコーン化合物1〕
シリコーン化合物1として、側鎖型変性反応型シリコーンオイルであるX-22-4015(信越化学工業株式会社 有効成分100質量%)を使用した。
【0277】
[シリコーン樹脂前駆体]
〔シリコーン樹脂前駆体1〕
シリコーン樹脂前駆体1として、KS847H(信越化学工業株式会社製)を使用した。
【0278】
[白金触媒]
〔白金触媒1〕
白金触媒1として、PL-50T(信越化学工業株式会社製)を使用した。
【0279】
[ウレタン(メタ)アクリレート]
〔ウレタン(メタ)アクリレート1の合成〕
トルエン100質量部、メチル-2,6-ジイソシアネートヘキサノエート(協和発酵キリン株式会社製 LDI)50質量部およびポリカーボネートジオール(ダイセル化学工業株式会社製 “プラクセル”(登録商標)CD-210HL)119質量部を混合し、40℃にまで昇温して8時間保持した。それから、2-ヒドロキシエチルアクリレート(共栄社化学株式会社製 ライトエステルHOA)28質量部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(東亞合成株式会社製 M-400)5質量部、ハイドロキノンモノメチルエーテル0.02質量部を加えて70℃で30分間保持した後、ジブチル錫ラウレート0.02質量部を加えて80℃で6時間保持した。そして、最後にトルエン97質量部を加えて固形分濃度50質量%のウレタン(メタ)アクリレート1のトルエン溶液を得た。ウレタン(メタ)アクリレート1の数平均分子量は5,800であった。
【0280】
〔ウレタン(メタ)アクリレート2〕
ウレタン(メタ)アクリレート2として数平均分子量4,600であるSUA-017(亜細亜工業株式会社製 固形分濃度100質量%)を使用した。
【0281】
[オリゴマー]
〔オリゴマーAの合成〕
下記、1から7を混合後70℃で5時間保持し、次いでトルエンで希釈して、オリゴマーAの固形分濃度60質量%トルエン溶液を得た。
【0282】
1.トルエン:50質量部
2.ポリテトラメチレングリコール(三菱ケミカル株式会社製 PTMG2000):330質量部
3.ヘキサメチレンジイソシアネート:50質量部
4.ヘキサメチレンジイソシアネートイソシアヌレート変性タイプ
(三井化学株式会社製 “タケネート”(登録商標)D-170N):2質量部
5.ジブチル錫ラウレート:0.02質量部
6.ハイドロキノンモノメチルエーテル:0.02質量部
7.2-ヒドロキシエチルアクリレート:11質量部。
【0283】
〔オリゴマーBの合成〕
下記、1から7を混合後70℃で5時間保持し、次いでトルエンで希釈して、オリゴマーBの固形分濃度60質量%トルエン溶液を得た。
【0284】
1.トルエン:50質量部
2.ポリテトラメチレングリコール(三菱ケミカル株式会社製 PTMG1300):220質量部
3.ヘキサメチレンジイソシアネート:50質量部
4.ヘキサメチレンジイソシアネートイソシアヌレート変性タイプ
(三井化学株式会社製 “タケネート”(登録商標)D-170N):2質量部
5.ジブチル錫ラウレート:0.02質量部
6.ハイドロキノンモノメチルエーテル0.02質量部
7.2-ヒドロキシエチルアクリレート:11質量部。
【0285】
[光ラジカル重合開始剤]
〔光ラジカル重合開始剤1〕
光ラジカル重合開始剤1として“イルガキュア“(登録商標)184(BASFジャパン株式会社製 固形分濃度100質量%)を使用した。
【0286】
[離型層用塗料組成物の調合]
〔離型層用塗料組成物A1〕
下記材料を混合し、メチルエチルケトン/イソプロピルアルコール混合溶媒(質量混合比50/50)を用いて希釈し、固形分濃度5質量%の離型層用塗料組成物A1を得た。
【0287】
・アルキド化合物1 : 100質量部
・メラミン化合物1 : 20質量部
・パラトルエンスルホン酸 : 5質量部。
【0288】
〔離型層用塗料組成物A2〕
下記材料を混合し、メチルエチルケトン/イソプロピルアルコール混合溶媒(質量混合比50/50)を用いて希釈し、固形分濃度5質量%の離型層用塗料組成物A2を得た。
【0289】
・アルキド化合物1 : 100質量部
・メラミン化合物1 : 20質量部
・パラトルエンスルホン酸 : 5質量部
・4-ヒドロキシブチルアクリレート : 5質量部。
【0290】
〔離型層用塗料組成物A3〕
下記材料を混合し、メチルエチルケトン/イソプロピルアルコール混合溶媒(質量混合比50/50)を用いて希釈し、固形分濃度5質量%の離型層用塗料組成物A3を得た。
【0291】
・アルキド化合物1 : 100質量部
・メラミン化合物1 : 20質量部
・パラトルエンスルホン酸 : 5質量部
・4-ヒドロキシプロピルアクリレート : 5質量部。
【0292】
〔離型層用塗料組成物A4〕
下記材料を混合し、トルエン/ヘプタン混合溶媒(質量混合比50/50)を用いて希釈し、固形分濃度2質量%の離型層用塗料組成物A4を得た。
【0293】
・シリコーン樹脂前駆体1 : 100質量部
・白金触媒1 : 1質量部。
【0294】
〔離型層用塗料組成物A5〕
下記材料を混合し、メチルエチルケトン/イソプロピルアルコール混合溶媒(質量混合比50/50)を用いて希釈し、固形分濃度5質量%の離型層用塗料組成物A5を得た。
【0295】
・アルキド化合物1 : 100質量部
・メラミン化合物1 : 20質量部
・パラトルエンスルホン酸 : 5質量部
・シリコーン化合物1 : 5質量部。
【0296】
〔離型層用塗料組成物A6〕
下記材料を混合し、メチルエチルケトン/イソプロピルアルコール混合溶媒(質量混合比50/50)を用いて希釈し、固形分濃度5質量%の離型層用塗料組成物A6を得た。
【0297】
・メラミン化合物1 : 20質量部
・ウレタン化合物1 : 0.3質量部
・亜リン酸エステル化合物1 : 4質量部。
【0298】
[支持基材]
〔支持基材1〕
支持基材1として、“ルミラー”(登録商標)R60R(厚み38μm、東レ株式会社製)を使用した。
【0299】
[離型フィルム]
[離型フィルム1~6]
前述の離型層用塗料組成物と支持基材を用いて、以下の方法を用いて離型層を形成し、離型フィルム1~6を作成した。使用する離型層用塗料組成物の組合せは、表1に記載の通りである。
【0300】
【0301】
〔離型フィルムの作製1〕
小径グラビアコーターを有する塗布装置を用い、支持基材上に、離型層用塗料組成物を乾燥後の樹脂層の厚みが指定の膜厚になるように、グラビア線数、周速、固形分濃度を調整して塗布した。
【0302】
次いで熱風温度140℃にて30秒保持することで、乾燥と硬化を行い、離型フィルムを得た。
【0303】
〔離型フィルムの作製2〕
小径グラビアコーターを有する塗布装置を用い、支持基材上に、離型層用塗料組成物を乾燥後の樹脂層の厚みが指定の膜厚になるように、グラビア線数、周速、固形分濃度を調整して塗布した。
【0304】
次いで熱風温度120℃にて30秒保持することで、乾燥と硬化を行い、離型フィルムを得た。
【0305】
〔貼合側離型フィルム7〕
貼合側離型フィルム7(以下、単に離型フィルム7と表記することもある)として、“セラピール”(登録商標)MDA(厚み38μm、東レフィルム加工株式会社製)を使用した。
【0306】
[樹脂層用塗料組成物の調合]
〔樹脂層用塗料組成物B1〕
以下の材料を混合し、メチルエチルケトンを用いて希釈し固形分濃度30質量%の樹脂層用塗料組成物B1を得た。
【0307】
・ウレタン(メタ)アクリレート1溶液 : 100質量部
・光ラジカル重合開始剤1 : 1.5質量部。
【0308】
〔樹脂層用塗料組成物B2〕
以下の材料を混合し、メチルエチルケトンを用いて希釈し固形分濃度30質量%の樹脂層用塗料組成物B2を得た。
【0309】
・ウレタン(メタ)アクリレート2溶液 : 50質量部
・光ラジカル重合開始剤1 : 1.5質量部。
【0310】
〔樹脂層用塗料組成物C1〕
以下の材料を混合し、メチルエチルケトンを用いて希釈し固形分濃度30質量%の樹脂層用塗料組成物C1を得た。
【0311】
・オリゴマーA溶液 : 100質量部
・光ラジカル重合開始剤1 : 1.5質量部。
【0312】
〔樹脂層用塗料組成物C2〕
以下の材料を混合し、メチルエチルケトンを用いて希釈し固形分濃度30質量%の樹脂層用塗料組成物C2を得た。
【0313】
・オリゴマーB溶液 : 100質量部
・光ラジカル重合開始剤1 : 1.5質量部。
【0314】
[積層体の製造方法]
〔積層体の作製1〕
離型フィルム1~6の上に、樹脂層用塗料組成物をスロットダイコーターによる連続塗布装置を用い、乾燥後の樹脂層の厚みが指定の膜厚になるようにスロットからの吐出流量を調整して塗布した。使用する樹脂層用塗料組成物の組合せは、表2に記載の通りである。
【0315】
塗布から乾燥、硬化までの間に液膜にあたる乾燥風の条件は以下の通りである。
【0316】
〔乾燥工程〕
送風温湿度 : 温度:80℃、相対湿度:1%以下
風速 : 塗布面側:5m/秒、反塗布面側:5m/秒
風向 : 塗布面側:基材の面に対して平行、反塗布面側:基材の面に対して垂直
滞留時間 : 2分間
〔硬化工程〕
照射出力 : 400W/cm2
積算光量 : 120mJ/cm2
酸素濃度 : 0.1体積%。
【0317】
〔積層体の作製2〕
〔積層体の作製1〕で作成した積層体について、樹脂層の面に、離型フィルム7をハンドローラーを用いて、荷重1g/mmで貼合した。なお、離型フィルム7の向きについて、離型層が設けられている面が樹脂層の面に接触するよう貼合した。
【0318】
以上の方法により実施例1~8、比較例1~4の積層体を作成した。各実施例、比較例に対応する上記積層体の作成方法、およびそれぞれの各層の膜厚は、後述の表3~5に記載した。
【0319】
なお、実施例および比較例により2枚の離型フィルムが設けられているため、区別のため、離型フィルム1~6を離型フィルム(塗布側)、離型フィルム7を離型フィルム(貼合側)と記載した。
【0320】
【0321】
[積層体、樹脂層および離型フィルムの離型層の評価]
積層体、樹脂層および離型フィルムの離型層について、次に示す性能評価を実施し、得られた結果を表2~6に示す。特に断らない場合を除き、測定は各実施例・比較例において1つのサンプルについて場所を変えて3回測定を行い、その平均値を用いた。
【0322】
なお、実施例5~6、比較例4で得られた積層体については、後述の剥離力および剥離選択制の評価を除き、積層体から貼合側離型フィルムを剥離した状態で各評価を行った。
【0323】
〔積層体、樹脂層および離型フィルムの離型層の厚み〕
電子顕微鏡(SEM)を用いて断面を観察することにより、積層体、樹脂層および離型フィルムの離型層の厚みを測定した。各層の厚みは、以下の方法に従い測定した。積層体および樹脂層および樹脂フィルムの断面の切片をSEMにより3,000倍の倍率で撮影した画像から、ソフトウェア(画像処理ソフトImageJ)にて各層の厚みを読み取った。合計で30点の層厚みを測定して求めた平均値を、測定値とした。
【0324】
〔剥離力〕
積層体において、樹脂層と離型フィルムを予め端部から少し剥離しておき、引張試験機で測定するための掴みしろを形成した。次いで、23℃65%RH環境下にて、引張試験機を用いて300(mm/分)の速度で180度剥離した時の抵抗値(N)を測定した。なお、抵抗値(N)は支持基材および樹脂層の幅(mm)で除した後に50倍し、それぞれの幅が50mmに相当する剥離力(mN/50mm)に換算した。樹脂層の両側に離型フィルムが存在する積層体については、それぞれの離型フィルムについて測定を行った。
【0325】
〔貯蔵弾性率〕
JIS K7244(1998)の引張振動-非共振法に基づき(これを動的粘弾性法とする)、セイコーインスツルメンツ株式会社製の動的粘弾性測定装置“DMS6100”を用いて樹脂層の貯蔵弾性率と損失弾性率を求めた。
測定モード:引張
チャック間距離:20mm
試験片の幅:10mm
周波数:1Hz
歪振幅:10μm
力振幅初期値:40mN
測定温度:-100℃から100℃まで
昇温速度:5℃/分
損失正接:(損失弾性率)/(貯蔵弾性率)。
【0326】
〔表面弾性率(原子間力顕微鏡)〕
離型層の表面について、AFM(Burker Corporation製 DimensionIcon)を用い、PeakForceQNMモードにて測定を実施し、得られたフォースカーブから付属の解析ソフト「NanoScopeAnalysis V1.40」を用いて、JKR接触理論に基づいた解析を行い、弾性率分布を求めた。
【0327】
具体的にはPeakForceQNMモードのマニュアルに従い、カンチレバーの反り感度、バネ定数、先端曲率の校正を行った後、下記の条件にて測定を実施し、得られたDMT Modulusチャンネルのデータを表面の弾性率として採用した。なお、バネ定数および先端曲率は個々のカンチレバーによってバラつきを有するが、測定に影響しない範囲として、バネ定数0.3(N/m)以上0.5(N/m)以下、先端曲率半径15(nm)以下の条件を満たすカンチレバーを採用し、測定に使用した。
【0328】
測定条件は下記に示す。
測定装置 : Burker Corporation製原子間力顕微鏡(AFM)
測定モード : PeakForceQNM(フォースカーブ法)
カンチレバー: ブルカーAXS社製SCANASYST-AIR
(材質:Si、バネ定数K:0.4(N/m)、先端曲率半径R:2(nm))
測定雰囲気 : 23℃・大気中
測定範囲 : 3(μm)四方
分解能 : 512×512
カンチレバー移動速度: 10(μm/s)
最大押し込み荷重 : 10(nN)
次いで得られたDMT Modulusチャンネルのデータを解析ソフト「NanoScopeAnalysis V1.40」にて解析し、Roughnessにて処理することにより得られた、ResultsタブのImage Raw Meanの値を、離型層表面の弾性率とした。
【0329】
〔表面自由エネルギー〕
離型層および樹脂層の表面自由エネルギーS1、S2の測定は、離型層表面および樹脂層表面に対し、水、エチレングリコール、ホルムアミド、ジヨードメタンによる25℃での静的接触角を求め、各液体での静的接触角と、J.Panzer :J.Colloid Interface Sci.,44,142 (1973).に記載の、各液体の表面自由エネルギーの分散項、極性項、水素結合項を、北崎寧昭、畑 敏雄:日本接着協会紙,8,(3) 131(1972).に記載の「畑、北崎の拡張ホークスの式」に導入し、連立方程式を解くことにより求めた。
【0330】
静的接触角の測定は、試料を事前に25℃の環境下で、12時間放置後に実施した。協和界面科学性Drop Master DM-501を使用し、液滴の作成は、ニードルを這い上がらない範囲で、できるだけ小さい液滴を作成できる条件を選択した。静的接触角は離型層表面に着滴してから5秒後に撮影した画像を使用し、θ/2法を用いて、静的接触角を算出した。
【0331】
〔飛行時間型2次イオン質量分析法(TOF-SIMS)〕
ION TOF社製、飛行時間型2次イオン質量分析計TOF-SIMS 5および同社測定ソフトSURFACE LAB 6を用い、2次イオン質量分析法によって、離型層の表面について測定を行い、Si(CH3)+フラグメントイオンの強度を算出した。測定条件は以下の通りである。
1次イオン種 :Bi3
++
1次イオン加速電圧 :25kV
パルス幅: 7.4ns
質量範囲(m/z): 0~1,500
検出イオン極性:positive(Si(CH3)+)
ラスターサイズ :300μm×300μm
スキャン数 :12回
ピクセル数: 256×256。
【0332】
〔剥離選択性の評価〕
2枚の離型フィルムの間に樹脂層を有する積層体について、100mm幅×200mm長に2枚切り出し、それぞれ試験片とした。次いで、一つ目の試験片について、一方の離型フィルムを樹脂層から剥離し、その剥離性を観察した。さらに、二つ目の試験片について、一つ目の試験片で剥離したものと逆の面の離型フィルムを樹脂層から剥離し、その剥離性を観察した。
【0333】
上記それぞれの離型フィルムの剥離性について、以下の基準に則り判定を行った。
【0334】
なお、二つの試験片では剥離する離型フィルムが異なるため、それぞれ異なる評価結果となる場合がある。その場合、以下の基準において高い点の方の評価結果を優先し、最終的な評価結果として採用した(例えば、一方の離型フィルムを剥離して1点、もう一方の離型フィルムを剥離して4点となった場合、評価結果は4点とした)。
10点: 一方の離型フィルムを剥離する際、もう一方の離型フィルムに浮きなどの変化が起きない。
7点: 一方の離型フィルムを剥離する際、もう一方の離型フィルムに僅かに浮きが発生する。
4点: 一方の離型フィルムを剥離する際、もう一方の離型フィルムに浮きが発生する。
1点: その他(一方の離型フィルムを剥離する際、もう一方の離型フィルムが大きく剥離してしまう。または、一方の離型フィルムを剥離する際、剥離しようとしている離型フィルムが剥離してしまう。または、離型フィルムが剥離できない、など)。
【0335】
〔剥離耐久性の評価〕
積層体において、100mm幅×200mm長に切り出し、試験片とした。次いで、離型フィルムと樹脂層を予め端部から少し剥離しておき、露出した離型フィルムのみを掴み、直径30mmの円筒に巻き付けた。この時、巻き付ける力を強めたり弱めたりすることを繰り返し10回行い、積層体に負荷を与えた。その後、積層体における樹脂層と離型フィルムの剥離状態を観察し、以下の基準に則り判定を行った。
10点: 負荷を与える前と変化がない。
7点: 剥離部分が僅かに広がる。
4点: 剥離部分が広がる。
1点: その他(剥離部分が大きく広がっている等)。
【0336】
〔柔軟性の評価〕
積層体において、離型フィルムから樹脂層を剥離したのち、樹脂層に対して手で引張を行い、以下の基準に則り判定を行った。また、樹脂フィルムについては、樹脂層と同様の評価を行い、以下の基準に則り判定を行った。
10点: 非常に軽い力で変形することができる。
7点: 軽い力をかければ、変形することができる。
4点: やや強めの力をかければ、変形することができる。
1点: その他(変形するのに強い力が必要、等)。
【0337】
〔伸縮性の評価〕
積層体において、離型フィルムから樹脂層を剥離したのち、樹脂層に対して手で軽い力をかけて引張変形を与え、以下の基準に則り判定を行った。また、樹脂フィルムについては、樹脂層と同様の評価を行い、以下の基準に則り判定を行った。
10点: 変形後に負荷を除けば、元の形状に復元する。
7点: 変形後に負荷を除けば、ほとんど元の形状に復元する。
4点: 変形後に負荷を除けば、少し元の形状に復元する。
1点: その他(全く復元しない、等)。
【0338】
〔過酷環境下で長期保管後の評価〕
積層体において、100mm幅×200mm長に2枚切り出し、試験片とした。一方の試験片を、室温環境で500時間静地した。もう一方の試験片を、温度85%湿度85に調整した恒温恒湿槽内に500時間静地した。その後、両試験片を室温環境下で1時間整地した。次いで、各試験片を離型フィルムから剥離し、樹脂層の変化を評価し、以下の基準に則り判定を行った。
10点: 全く変化がない。
7点: 僅かにべたつきが増えているが、ほとんど差がない。
4点: 明らかにべたつきが増えている。
1点: その他(樹脂層が剥離できない、樹脂層が明らかに溶けている、等)。
【0339】
表3~6に最終的に得られた積層体の評価結果をまとめた。
【0340】
【0341】
【0342】
【0343】
【符号の説明】
【0344】
1 樹脂層
2 離型フィルム
3 離型フィルム
4 樹脂層
5 離型フィルム
6 多層スライドダイ
7 多層スロットダイ
8 単層スロットダイ
【産業上の利用可能性】
【0345】
本発明の積層体は、光学特性、柔軟性、伸縮性、搬送性に優れるといった利点を活かし、特に高い柔軟性や伸縮性が求められる用途に好適に用いることができる。
【0346】
一例を挙げると、メガネ・サングラス、化粧箱、食品容器などのプラスチック成形品、水槽、展示用などのショーケース、スマートフォンの筐体、タッチパネル、カラーフィルター、フラットパネルディスプレイ、フレキシブルディスプレイ、フレキシブルデバイス、ウェアラブルデバイス、センサー、回路用材料、電気電子用途、キーボード、テレビ・エアコンのリモコンなどの家電製品、ミラー、窓ガラス、建築物、ダッシュボード、カーナビ・タッチパネル、ルームミラーやウインドウなどの車両部品、および種々の印刷物、医療用フィルム、衛生材料用フィルム、医療用フィルム、農業用フィルム、建材用フィルム等、それぞれの表面材料や内部材料や構成材料や製造工程用材料に好適に用いることができる。