(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】油井用電縫鋼管およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20221227BHJP
C21D 8/10 20060101ALI20221227BHJP
C21D 9/08 20060101ALI20221227BHJP
C21D 9/50 20060101ALI20221227BHJP
C22C 38/14 20060101ALI20221227BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
C22C38/00 301Z
C21D8/10 B
C21D9/08 F
C21D9/50 101A
C22C38/14
C22C38/58
(21)【出願番号】P 2018192458
(22)【出願日】2018-10-11
【審査請求日】2021-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】長井 健介
(72)【発明者】
【氏名】河野 英人
(72)【発明者】
【氏名】吉田 治
(72)【発明者】
【氏名】津末 高志
(72)【発明者】
【氏名】横井 龍雄
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/152170(WO,A1)
【文献】特開2013-231221(JP,A)
【文献】特開2011-063878(JP,A)
【文献】特開2000-256777(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/00- 8/10
C21D 9/08
C21D 9/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C :0.020~0.100%、
Mn:0.60~2.00%、
Ti:0.015~0.150%、
Nb:0.015~0.100%、
N :0.0010~0.0200%、
Si:0.010~0.500%、
Al:0.001~0.100%、
B :0.0010~0.0025%
を含み,
P :0.030%以下、
S :0.010%以下
に制限し、残部がFe及び不純物からなる成分組成を有し、
Mn%/Si%比が2.0以上であり、式(1)で示されるSK値が0.10以上、かつ式(2)で示されるBH値が1.3~2.7の範囲であり、母材の金属組織が面積率で80%以上のベイナイトとマルテンサイトの一方または両方から構成される組織と、面積率で5%以上のフェライトとを含み、電縫溶接部の金属組織
における面積率97%以上がベイナイトとマルテンサイトの混合組織であり、母材の引張降伏強度が655MPa以上758MPa以下、母材の引張強度が724MPa以上であり、母材および電縫溶接部の-20℃のシャルピー吸収エネルギーが100J以上であり、電縫溶接部の硬度が240Hv以上であることを特徴とする油井用電縫鋼管。
SK=Nb%+Ti%+(V%+Mo%)/5 …式(1)
BH=2.7C%+0.4Si%+Mn%+0.45(Ni%+Cu%)+0.8Cr%+2Mo%…式(2)
【請求項2】
板厚が10mm以上、25mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の油井用電縫鋼管。
【請求項3】
質量%で、
Mo:0.01~0.50%、
Cu:0.05~0.50%、
Ni:0.05~0.50%、
Cr:0.05~0.50%、
V :0.01~0.10%、
Ca:0.0001~0.0100%、
REM:0.0001~0.0100%
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の油井用電縫鋼管。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の油井用電縫鋼管の製造方法であって、
請求項1または請求項3に記載の成分組成を有するスラブを、950℃以下での累積圧下比が2.0以上、圧延終了温度が850℃以下の条件で仕上圧延した後、35℃/sec以上の平均冷却速度で450~650℃まで冷却し巻き取った熱延鋼板を造管、電縫溶接した後、電縫溶接部を900℃~1050℃の間に加熱し、その後、平均冷却速度が15℃/s以上で冷却し、500℃以下の範囲で冷却を停止することを特徴とする油井用電縫鋼管の製造方法。
SK=Nb%+Ti%+(V%+Mo%)/5…式(1)
BH=2.7C%+0.4Si%+Mn%+0.45(Ni%+Cu%)+0.8Cr%+2Mo%…式(2)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油井用に好適な電縫鋼管およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、API規格 5CT R95相当の強度(降伏強度YS:655MPa以上758MPa以下、引張強度TS:724MPa以上)を有し、さらに、靭性に優れた油井用電縫鋼管及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油井管は、ガスやオイルを地中から採取する際に使用する鋼管であるが、近年、天然資源の掘削地域の過酷化に伴い、油井管に求められる特性が変化しつつある。
そのひとつの例として、深井戸化が進んでおり、圧潰特性(外圧に対して座屈しない特性)の向上および高靱性化が求められ始めた。
【0003】
圧潰特性は、鋼管の周方向降伏強度が高いこと、鋼管の形状精度(特に偏肉・真円度)が高いことで向上する。電縫鋼管は形状精度が高いことから、同サイズ(外径・肉厚)の他管種に比べて圧潰特性が高いことが知られている。
圧潰強度を向上させるためのもう一つの方策は高強度化であるが、強度と靱性はおおむね相反特性であり、両立が困難である。
さらに電縫鋼管においては、結晶粒を微細化させづらい電縫溶接部の高靱性化が鋼管の高靱性化を阻害する要因である。
【0004】
特許文献1、2には、Moを活用した降伏強度655MPaクラスの電縫油井管の製造方法が開示されている。
特許文献1には、C、Si、Mn、Ti、B、Mo、V、Nbを規定量含有し、P、S、Oを低く抑えた熱延鋼板において、金属組織を焼戻し上部ベイナイトとし、楕円状の旧γ粒の短径を25μm以下とした電縫鋼管用熱延鋼板が開示されている。
特許文献2には、C、Si、Mn、Nb、V、Ti、Mo、Ni、Alを規定量含有しMo量とNi量の合計値を規定の範囲とした電縫鋼管において、10面積%以下のポリゴナルフェライトと残部がベイネティックフェライトからなり、引張強度と降伏強度とシャルピー吸収エネルギーを特定の範囲とした高強度電縫鋼管が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-168864号公報
【文献】特許第6048621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2に記載の電縫鋼管はともに、0℃でのシャルピー吸収エネルギーが22J以上であることを特徴とするものであり、特許文献1では0℃でのシャルピー吸収エネルギー46~76Jの実施例が開示されており、特許文献2では0℃でのシャルピー吸収エネルギー75~170Jの実施例が開示されている。しかしながら、前述したように近年はさらなる高靱性化、具体的には-20℃でのシャルピー吸収エネルギー100J以上が求められており、特許文献1,2に記載の電縫鋼管ではこの要求を満足することができない。
【0007】
本発明は、前記の課題を解決するためになされた発明であって、母材部、電縫溶接部ともに655MPa以上の降伏強度を有し、-20℃におけるシャルピー靭性値が100J以上である油井用電縫鋼管およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上述したような課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、以下に示す知見を得ることができた。
鋼材の強度・靱性特性は、その金属組織と密接に関連しており、結晶粒径の微細化は強度と靱性を共に向上させる数少ない方法である。一方、熱延鋼板を素材とし、製造される電縫鋼管においては、一般的には析出強化が主たる強化メカニズムであるが、析出強化は靱性を劣化させることが知られている。電縫鋼管の母材部は、熱延鋼板の製造において低温圧延などの実施により結晶粒を微細化することが可能であり、析出強化鋼であっても比較的靱性の高い鋼管は既に製造可能である。
【0009】
一方、電縫溶接部に関しては、電縫溶接後の熱処理により金属組織が形成されるため、低温圧延などの組織微細化技術が使用できない。電縫溶接後の熱処理は、再加熱(オーステナイト化)後、単純な水冷で金属組織を制御しており、金属組織の制御範囲も熱延プロセスに比べて小さい。このようなプロセスの制約があるなかで、本発明者らは、母材・電縫溶接部の組織因子と強度・靱性特性の関係を鋭意検討した。
【0010】
その結果、母材部・電縫溶接部ともに、高強度化と高靱化の両立のために実施可能かつ最適な金属組織を明確化するに至った。具体的には、母材部では、析出強化と、熱延条件と熱延後の冷却条件の制御による組織分率の最適化が重要であり、電縫溶接部では、焼入れ性に効くBを含有させた上で低温で変態させることで、析出物の析出を抑制し、ベイナイト・マルテンサイト組織が主体の金属組織を形成することが重要であるとの知見を得た。これは電縫溶接部では強化に寄与する析出物をできるだけ減らすことで、き裂が発生しにくくなるためである。
【0011】
本発明者らは、これら知見に基づく技術的思想により、母材部、電縫溶接部ともに655MPaクラスの降伏強度を有するとともに、-20℃のシャルピー試験における吸収エネルギーを100J以上とした靭性を満足する電縫鋼管を製造可能とする技術を開発し、本発明に到ったものである。
前記課題を解決することを目的とした本発明の要旨は、以下のとおりである。
「1」本形態の油井用電縫鋼管は、質量%で、C:0.020~0.100%、Mn:0.60~2.00%、Ti:0.015~0.150%、Nb:0.015~0.100%、N:0.0010~0.0200%、Si:0.010~0.500%、Al:0.001~0.100%、B:0.0010~0.0025%を含み、P:0.030%以下、S:0.010%以下に制限し、残部がFe及び不可避的不純物からなる成分組成を有し、Mn%/Si%比が2.0以上であり、式(1)で示されるSK値が0.10以上、かつ式(2)で示されるBH値が1.3~2.7の範囲であり、母材の金属組織が面積率で80%以上のベイナイトとマルテンサイトの一方または両方から構成される組織と、面積率で5%以上のフェライト組織を含み、電縫溶接部の金属組織における面積率97%以上がベイナイトとマルテンサイトの混合組織であり、母材の降伏強度が655MPa以上758MPa以下、母材の引張強度が724MPa以上であり、母材および電縫溶接部の-20℃のシャルピー吸収エネルギーが100J以上であり、電縫溶接部の硬度が240Hv以上であることを特徴とする。
SK=Nb%+Ti%+(V%+Mo%)/5 …式(1)
BH=2.7C%+0.4Si%+Mn%+0.45(Ni%+Cu%)+0.8Cr%+2Mo%…式(2)
【0012】
「2」本形態の油井用電縫鋼管において、板厚が10mm以上、25mm以下であることが好ましい。
【0013】
「3」本形態の油井用電縫鋼管において、質量%で、Mo:0.01~0.50%、Cu:0.05~0.50%、Ni:0.05~0.50%、Cr:0.05~0.50%、V:0.01~0.10%、Ca:0.0001~0.0100%、REM:0.0001~0.0100%の1種又は2種以上を含有しても良い。
【0014】
「4」本形態に係る油井用電縫鋼管の製造方法は、「1」~「3」のいずれかに記載の油井用電縫鋼管の製造方法であって、「1」または「3」に記載の成分組成を有するスラブを、950℃以下での累積圧下比が2.0以上、圧延終了温度が850℃以下の条件で仕上圧延した後、35℃/s以上の平均冷却速度で450~650℃まで冷却し巻き取った熱延鋼板を造管、電縫溶接した後、電縫溶接部を900℃から1050℃の間に加熱し、その後、平均冷却速度が15℃/s以上で冷却し、500℃から室温の範囲で冷却を停止することを特徴とする。
SK=Nb%+Ti%+(V%+Mo%)/5…式(1)
BH=2.7C%+0.4Si%+Mn%+0.45(Ni%+Cu%)+0.8Cr%+2Mo%…式(2)
【0015】
「5」本形態に係る油井用電縫鋼管の製造方法において、質量%で、Mo:0.01~0.50%、Cu:0.05~1.00%、Ni:0.05~1.00%、Cr:0.05~1.00%、V:0.01~0.10%、Ca:0.0001~0.0100%、REM:0.0001~0.0100%の1種又は2種以上を含有することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、母材部と電縫溶接部の靭性と圧潰特性を向上させることが可能であり、油井用電縫鋼管及びその製造方法を提供することができ、産業上の貢献が極めて顕著な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】BH値とビッカース硬度の関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る油井用電縫鋼管の一実施形態について説明する。
まず、本発明に係る一実施形態の油井用電縫鋼管に好適な鋼の成分組成について述べる。なお、成分組成における「%」は、特に断りがない限り質量%を意味する。また、成分組成における数値範囲において、「~」を用いて表される数値範囲は、特に指定しない限り、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。よって、例えば、0.020~0.10%は0.020%以上、0.10%以下の範囲を意味する。
【0019】
本実施形態に係る油井用電縫鋼管は、以下に説明するように、質量%で、C:0.020~0.100%、Mn:0.60~2.00%、Ti:0.015~0.150%、Nb:0.015~0.100%、N:0.0010~0.0200%、Si:0.010~0.500%、Al:0.001~0.100%、B:0.0010~0.0025%を含み、P:0.030%以下、S:0.010%以下に制限し、残部がFe及び不可避的不純物からなる成分組成を有する。
【0020】
また、前述の組成の油井用電縫鋼管は、Mn%/Si%比が2.0以上であり、後記する式(1)で示されるSK値が0.10以上、かつ後記する式(2)で示されるBH値が1.3~2.7の範囲である。
【0021】
SK=Nb%+Ti%+(V%+Mo%)/5 …式(1)
BH=2.7C%+0.4Si%+Mn%+0.45(Ni%+Cu%)+0.8Cr%+2Mo%…式(2)
式(1)と式(2)において、C%、Si%、Mn%、Ni%、Cu%、Cr%、Mo%、Nb%、Ti%、V%は、それぞれ、C、Si、Mn、Ni、Cu、Cr、Mo、Nb、Ti、Vの含有量(質量%)である。Mo、Cu、Ni、Cr、Vは任意の含有元素であり、意図的に含有しない場合は、前記式(1)では0として計算する。また、成分組成について下限の規定がないものについては、不純物レベルまで含むことを示す。
以下、本発明の鋼材の成分組成を限定した理由について説明する。
【0022】
「C:炭素(0.020~0.100%)」
Cは、鋼の焼き入れ性の向上および強度の発現に寄与する重要な元素であり、C含有量を0.020%以上とする。これより低い炭素量では、母材の強度が低下する。一方、C含有量が0.100%を超えると、鋼の強度が超過するため、C含有量の上限を0.100%とする。
「Mn:マンガン(0.60~2.00%)」
Mnは、鋼の焼入れ性を高める元素であり、Sの無害化のためにも必須であり、Mn含有量を0.60%以上とする。Mnを過剰に含有すると、板厚の中央部に粗大なMnSが生成して、母材鋼板および電縫溶接部靭性を損なう場合がある。そのため、Mn含有量の上限を2.00%とする。
【0023】
「Ti:チタン(0.015~0.150%)」
Tiは、炭窒化物を形成し、母材鋼板の強度を向上させる元素であるとともに、結晶粒の微細化にも寄与する元素であり、Ti含有量を0.015%以上とする。しかし、Ti含有量が0.150%を超えると、粗大な炭窒化物を生成し、母材鋼板および電縫溶接部靭性の低下を招くため、Ti含有量の上限を0.150%とする。
【0024】
「Nb:ニオブ(0.015~0.100%)」
Nbは母材鋼板の靭性を高めたり、母材鋼板の強度向上にも寄与するために含有されている。未再結晶圧延による靭性向上のため、Nb含有量を0.015%以上とする。Nb含有量が0.100%を超えると、粗大炭化物により靭性が劣化するため、Nb含有量の上限を0.100%とする。
「N:窒素(0.0010~0.0200%)」
Nは、鋼中に合金窒化物を形成することで結晶粒の粗大化を抑制し、母材鋼板の靭性を向上させる。その効果を得るため、N含有量を0.0010%以上とする。一方、N含有量が0.0200%を超えると、合金窒化物の生成量が増加し、母材鋼板および電縫溶接部の靭性が劣化するため、N含有量の上限を0.0200%とする。
【0025】
「Si:ケイ素(0.010~0.500%)」
Siは、鋼の脱酸剤として使用される元素であり、母材鋼板と電縫溶接部に粗大な酸化物が生成することを抑制し、靭性を向上させる効果がある。その効果を得るため、Si含有量を0.010%以上とする。一方、Si含有量が0.500%を超えると電縫溶接部に介在物が生成し、シャルピー吸収エネルギーが低下し、靭性が低下する可能性があることから、Si含有量の上限を0.500%とする。
「Al:アルミニウム(0.001~0.100%)」
Alは、Si同様、鋼の脱酸材として含有される。フリー酸素起因の割れ防止のため、Al含有量を0.001%以上とする。一方、Al含有量が0.100%を越えると、電縫溶接時のAl系酸化物の生成に伴い、電縫溶接部靭性が低下するため、Al含有量の上限を0.100%とする。
【0026】
「B:ホウ素(0.0010~0.0025%)」
Bは、微量で鋼の焼入れ性を高める元素である。その効果を得るため、B含有量を0.0010%以上とする。一方、B含有量が0.0025%を超えるとB析出物が生成することで焼き入れ性向上の効果が低下するので、B含有量の上限を0.0025%とする。
【0027】
「P:リン(0.030%以下)」
Pは、鋼中に的不純物として存在する元素で、P含有量が0.030%を超えると、粒界に偏析することで靭性を損なうため、P含有量の上限を0.030%とする。
「S:硫黄(0.010%以下)」
Sは、鋼中に不純物として存在する元素であり、過剰に含有されると鋼の靱性を劣化させるために、S含有量の上限を0.010%とする。
【0028】
本実施形態では、上記の元素に加えて、前記母材鋼板に、更に、質量%で、Mo:0.01~0.50%、Cu:0.05~0.50%、Ni:0.05~0.50%、Cr:0.05~0.50%、V:0.01~0.10%、Ca:0.0001~0.0100%、REM:0.0001~0.0100%から選ばれる1種又は2種以上の元素を含有してもよい。
【0029】
「Mo:モリブデン(0.01~0.50%)」
Moを含有する理由は、鋼材の焼入れ性を向上させるとともに析出強化により高強度を得るためである。その効果を得るためには、Mo含有量を0.01%以上とする。Moを多量に含有するとMo炭窒化物の生成により靭性を低下させる可能性があるため、Mo含有量の上限を0.50%とした。
「Cu:銅(0.05~0.50%)」
Cuは、母材の強度向上に有効な元素であり、その効果を得るためには、Cu含有量を0.05%以上とする。しかし、Cuを多量に含有し過ぎると、微細なCu粒子を生成し、靭性を著しく劣化させるおそれがある。そのため、Cu含有量の上限を0.50%とする。
【0030】
「Ni:ニッケル(0.05~0.50%)」
Niは、鋼の強度及び靭性の向上に寄与する元素である。それらの効果を得るためには、Ni含有量を0.05%以上とする。しかし、Niを多量に含有すると、強度が高くなりすぎるため、Ni含有量の上限を0.50%とする。
「Cr:クロム(0.05~0.50%)」
Crは、鋼において固溶強化元素であり、その効果を得るためには、Cr含有量を0.05%以上とする。一方で、Crは溶接性を低下させる元素でもあり、多量に含有すると電縫溶接部に生成したCr系介在物により電縫溶接部の靭性が低下する。そのため、Cr含有量の上限を0.50%とする。
【0031】
「V:バナジウム(0.01~0.10%)」
VはNbとほぼ同様の効果を有し、効果を得るためには、V含有量を0.01%以上とする。Vは電縫溶接部の軟化を抑制する効果も有する。ただし、Vを多量に含有するとV炭窒化物の析出により、靭性が低下する。そのため、V含有量の上限を0.10%とする。
「Ca:カルシウム(0.0001~0.0100%)」
Caは、硫化物系介在物の形態を制御し、鋼の低温靭性を向上させる元素である。その効果を得るため、Ca含有量を0.0001%以上とする。Ca含有量が0.0100%を超えると、Ca系の粗大な介在物やクラスターが生成し、靭性に悪影響を及ぼすおそれがある。そのため、Ca含有量の上限を0.0100%とする。
【0032】
「REM:希土類元素(0.0001~0.0100%)」
REMは、脱酸剤及び脱硫剤として含有される元素であり、REM含有量を0.0001%以上とする。一方、0.0100%を超えてREMを含有すると、粗大な酸化物を生じて母材鋼板の靱性を低下させることがある。そのため、REM含有量の上限を0.0100%とする。
ここで、REMは、Sc、Yおよびランタノイドの合計17元素を指し、前記REMの含有量はこれらの元素の合計含有量を意味する。REMは、例えばこれらの元素を複数混在させたミッシュメタルを用いることができる。
【0033】
上記元素以外の残部は、Fe及び不可避的不純物からなる。上記元素以外に、本実施形態の作用効果を害さない元素を微量に含有してもよい。
また、本実施形態においては、先に記載した式(1)で示されるSK値を0.10以上とする。SK値は析出強化量と関連するパラメータであり、高いほど析出強化量が大きいことを示す。
本実施形態において、熱延後の鋼板の冷却停止温度は450~650℃であり、この温度範囲で冷却を停止し巻き取った鋼材においては、析出強化が主たる強化機構である。このことから、本パラメータ(SK値)は、
図1に示すように母材部の降伏強度と関係がある。
図1は後述する実施例と比較例の中から、SK値と母材降伏強度の関係について複数の試料から選択して表示したグラフである。
降伏強度を例にとると、SK値が0.10を下回ると降伏強度655MPaを下回るため、SK値は0.10以上とする。尚、SK値は降伏強度に影響するのと同様に、引張強度にも影響する。
【0034】
本実施形態において、式(2)で示されるBH値を1.3以上とする。BH値は鋼の焼き入れ性と関係があり、高いほど焼き入れ性が高いことを示す。
本実施形態において、電縫溶接部強度は500℃以下までの急冷により金属組織が形成されるため、実質的に析出物は析出せず、焼き入れ性により強度がほぼ決まることから、本パラメータ(BH値)は
図2に示すように電縫溶接部の強度と関連がある。
図2は後述する実施例と比較例の中から、BH値と電縫溶接部のビッカース硬度の関係について複数の試料から選択して表示したグラフである。
BH値を1.3以上とすることで電縫溶接部の硬度が240Hv以上となる。そのため、BH値は、1.3以上とする。BH値が高すぎると焼き入れ性が高すぎることで母材にフェライトが生成せず、靱性が劣化するため、上限を2.7とした。
なお、上述の組成の鋼板において、硬度240Hvであることは、引張試験における降伏強度換算で655MPa相当の硬度であることを示す。本パラメータ(BH値)の(2)式中にBが入っていないが、本パラメータはB(ボロン)含有を前提としており、Bが含有されていない鋼材においては適用不可能である。
【0035】
本実施形態において、Mn%/Si%比のパラメータが2.0より小さくなると、電縫溶接部の靭性が低下する。これは電縫溶接部に生成するMnSi系の介在物が破壊の起点となるためと思われる。Mn%/Si%比が2.0以上となるとシャルピー吸収エネルギーが高位安定するため、本実施形態の電縫鋼管ではMn%/Si%比を2.0以上とする。
【0036】
本実施形態の油井用電縫鋼管の必要な金属組織およびその比率は以下の通りである。
本実施形態の成分範囲では、母材の金属組織は、面積率で80%以上のベイナイトとマルテンサイトの一方または両方から構成される組織と、面積率で5%以上のフェライトが含まれていることで、靱性が向上する。ベイナイトとマルテンサイトの一方または両方から構成される組織の面積率が80%未満では、ベイナイトおよびマルテンサイトへの炭素濃化が顕著になり、またBを含有していることで、硬度が上昇して母材靱性が劣化する。また、フェライトを所定量生成させることは、結晶粒微細化を通して靭性を向上させる効果があり、その効果を得るためフェライトの面積率は5%以上である。フェライトが5%未満では母材靱性が劣化する。
また、電縫溶接部の金属組織は、主としてベイナイトとマルテンサイトの混合組織である。なお、母材部、電縫溶接部ともに不可避的に面積率で3%以下の残留オーステナイトが含まれる場合があるが、鋼材の特性に影響を及ぼすものではない。
【0037】
これらの金属組織は、後述する熱間圧延プロセスおよび電縫溶接部熱処理を高度に制御することで作りこむことが可能である。なお、金属組織の面積率の測定は、電縫鋼管において、母材については電縫溶接部から管周方向に90°ずれた位置の断面(詳細には、管軸方向に対して垂直な断面)における肉厚中央部において、電縫溶接部については板厚方向と管周方向からなる面の溶接線をナイタールエッチングにより現出させたのち、溶接線から左右500μm離れた位置において、EBSD(Electron Back Scatter Diffraction patterns)法により得られた結晶方位情報をもとに、Grain Average Misorientation 解析(以下GAM解析)により求めることができる。詳細には、該表面を鏡面研磨後、コロイダルシリカによる仕上げ研磨を行った後、Field-Emission 型Scanning Electron Microscope(JEOL社製・7001F)を用い、200μm×300μmの領域について0.3μmステップにてEBSD法で結晶方位解析を行う。
【0038】
その後のGAM解析において、15°の結晶方位差で囲まれる領域を一つの結晶粒と定義し、その中の平均の結晶方位差が1°以下のものをフェライトと判定する。なお、上記の測定を別視野で5視野以上測定し得られた各視野でのフェライトの面積率を相加平均することで得られる値を調査した電縫鋼管のフェライトの面積率とする。
また、EBSD法では、結晶方位情報とともに結晶構造情報も取得可能であり、結晶構造情報からフェライト・ベイナイト・マルテンサイトと残留オーステナイトを分類することが可能である。従い、EBSD測定を行うことで、残留オーステナイトの面積率も測定することが可能である。
ベイナイトとマルテンサイトの一方または両方から構成される組織の面積率は、フェライトと残留オーステナイトの面積率の残部とする。
【0039】
次に、本発明における油井用電縫鋼管の製造方法について説明する。
まず、上述の組成に調整した溶鋼から連続鋳造法などにより得た鋳片を、加熱炉に装入し加熱する。本実施形態の鋼は、Ti、Nbの含有量が多いので、鋳片の加熱温度が低いと、未固溶のNb炭化物が生成し靭性が劣化するために、加熱温度は、1100℃以上にすることが好ましい。一方、加熱温度が高すぎると組織が粗大になり靭性が劣化するため,加熱温度は1350℃以下とすることが好ましい。
加熱した鋳片を粗圧延した後、950℃以下での累積圧下比が2.0以上、かつ仕上圧延終了温度が850℃以下の条件で仕上圧延を行う。
これらの条件は、母材の金属組織を微細化し、強度と靱性をともに向上させるために必要であり、特に本実施形態のようにベイナイト・マルテンサイト主体の組織を活用する場合には、特に重要なプロセスである。
【0040】
仕上圧延後、Ar3点以上の温度で加速冷却を開始することが好ましい。これは、仕上圧延後、フェライト変態が開始するAr3点未満まで空冷すると、粗大なポリゴナルフェライトが生成し、強度が低下するなど、靭性が劣化することがあるからである。
Ar3点温度以上で加速冷却を開始し、フェライトの生成を抑制することで所定量のベイナイトとマルテンサイトを含む組織が生成する。
Ar3点は、母材鋼板の成分から、下記式(3)によって求めることができる。
Ar3(℃)=910-310C%-80Mn%-55Ni%-20Cu%-15Cr%-80Mo% …式(3)
式(3)において、C%、Mn%、Ni%、Cu%、Cr%、Mo%は、それぞれ、C、Mn、Ni、Cu、Cr、Moの含有量(質量%)である。Ni、Cu、Cr、Moは任意の含有元素であり、意図的に含有しない場合は、上記式(3)では0として計算する。
【0041】
本実施形態において、主相であるベイナイト・マルテンサイトと副相であるフェライトの面積率を制御することは、強度・靱性をバランスさせるために不可欠である。
鋼材は熱間加工されたオーステナイトから、まずはフェライト変態をおこし、その後ベイナイト変態またはマルテンサイト変態を起こすことで変態を完了させる。鋼の変態挙動は、成分と熱延条件・冷却パターンによって決まり、特に成分・冷却パターンの影響が大きい。
本実施形態における油井用電縫鋼管の成分と冷却速度の範囲は、金属組織の面積率をコントロールするための技術である。35℃/s以上の平均冷却速度で、冷却停止温度450~650℃まで冷却する。冷却停止温度が650℃を超えると、フェライト面積率が高くなり、残部への炭素濃化が顕著になることで、硬質なマルテンサイトやベイナイトが生成し、靱性が劣化する。冷却停止温度が450℃未満になると、その後の巻き取り工程で析出物が生成せず、強度を満足することができない。冷却停止後10秒以内に巻き取ることが好ましい。
なお、実施形態の鋼板は、板厚10~25mmの鋼管に対し特に有効である。
【0042】
上述のように得られた熱延鋼板を連続的にロール成型し、オープンパイプとした後、突合せ部近傍を融点以上に加熱し、スクイズロールで圧接する電縫溶接を行う。電縫溶接の後、電縫溶接部の外表面が900℃から1050℃の範囲になるように加熱し、その後、平均冷却速度が15℃/s以上となるように冷却し、500℃から室温の範囲で冷却を停止することで目的の電縫鋼管を得ることができる。
なお、加熱中の温度測定は、鋼管の外表面から放射温度計にて測定する。これらの条件は、電縫溶接部の強度を確保するとともに、析出元素をできる限り固容状態で残存させることにより靱性を劣化させないために必要なプロセスである。
電縫溶接部の加熱温度が900℃を下回ると、溶接時に生成した粗大な組織が残存するため、靱性が劣化する。また、電縫溶接部の加熱温度が1050℃を超過すると、結晶粒径が粗大化するため、靱性が劣化する。冷却速度は、マルテンサイト・ベイナイトを生成させ、析出物を析出させることなく所望の電縫溶接部硬度を得るために、15℃/s以上とすることが必要である。冷却速度が15℃/s未満になると、電縫溶接部靱性を確保することが困難となる。冷却停止温度は、500℃を超過するとその後の放冷中に析出物が析出し、電縫溶接部靱性を確保することが困難となる。本実施形態において冷却停止温度の下限は特に特性に影響しない。
熱処理・冷却が完了した後,常温まで冷却しサイザーロールにより縮径圧延を行う。縮径圧延の縮径率は0.3%~5.0%の範囲とすることが好ましい。
【0043】
以上のようにして製造した油井用電縫鋼管の特性を測定する方法は以下の通りである。
鋼管の軸方向(圧延方向)の全厚試験片を引張試験片として電縫鋼管より採取し、引張試験を行い、降伏強度(YS:0.2%オフセット)及び引張強度(TS)を測定する。ここで、全厚試験片及び引張試験片は、電縫鋼管のシーム部から周方向に90°の位置に対応する部分から採取する。
なお、圧潰強度は通常周方向の圧縮試験にて算出した圧縮降伏強度の値が重要であるが、造管後の電縫鋼管において周方向の圧縮降伏強度と軸方向の引張降伏強度は相関を持っているため、軸方向の引張試験にて圧潰強度を評価可能である。
【0044】
さらに、電縫鋼管の靭性の測定方法は以下の通りである。
靭性については、周方向(圧延垂直方向)のフルサイズVノッチシャルピー試験片を電縫鋼管の電縫溶接部および母材(電縫鋼管のシーム部から周方向に90°の位置に対応する部分)より採取し、Vノッチシャルピー試験を行い、-20℃での吸収エネルギー(CVN値)を測定した。電縫溶接部のシャルピー試験では、板厚方向と周方向から構成される面内の電縫照合部にVノッチを付与した試験片を使用する。
【0045】
電縫溶接部の硬度の測定は、株式会社フューチュアテック社製の硬度試験器(FV-300)を用いる。板厚方向と管周方向からなる面の溶接線をナイタールエッチングにより現出させたのち、溶接線から左右500μm離れた位置の外面1/4t、1/2tおよび内面3/4t位置の6点を荷重1kgで測定し、すべての値の相加平均値を電縫溶接部硬度とする。
【0046】
以上説明のように製造された電縫鋼管は、母材の金属組織が面積率で80%以上のベイナイトとマルテンサイトの一方または両方から構成される組織と、面積率で5%以上のフェライト組織を含み、電縫溶接部の金属組織が主としてベイナイトとマルテンサイトの混合組織である。
この電縫鋼管は、母材の降伏強度が655MPa以上758MPa以下、母材の引張強度が724MPa以上であり、母材および電縫溶接部の-20℃のシャルピー吸収エネルギーが100J以上であり、電縫溶接部の硬度が240Hv以上である優れた電縫鋼管である。
【実施例】
【0047】
以下に実施例を示す。但し、以下に記載の実施例は具体的な例に沿って説明を行うものであり、本願発明は、以下の実施例で用いた条件に限定されるものではない。
表1に示す組成のNo.1~No.16の発明例のスラブと表1、表2に示すNo.17~No.48の比較例のスラブを、連続鋳造により製造し、1200~1250℃に加熱して粗圧延した後、表3、表4に示す950℃以下の累積圧下比、仕上圧延終了温度の条件で仕上圧延し、厚さ17.5mmの鋼板とした。
熱延後の鋼板に対し、仕上圧延後のROT(ランアウトテーブル)において、表3、表4に示す平均冷却速度にて表3、表4に示す冷却停止温度まで加速冷却して巻き取りを行ない、熱延鋼板を得た。
【0048】
得られた熱延鋼板について、連続的にロール成型し、オープンパイプとした後、突き合わせ部近傍を融点以上に加熱し、スクイズロールで圧接する電縫溶接を行い、電縫鋼管とした。
電縫鋼管の電縫溶接部を表3、表4に示す温度(ERW部加熱温度)に再加熱し、その後、表3、表4に示す平均冷却速度で、表3、表4に示す冷却停止温度まで冷却し、その後冷却を停止し放冷した。常温まで冷却した後、サイザーロールにより縮径圧延を行い、外径406mm、肉厚17.5mmの電縫鋼管を得た。
【0049】
得られた電縫鋼管の母材および電縫溶接部の金属組織を前述した方法で調査した。また、母材の引張試験、母材および電縫溶接部のシャルピー試験、電縫溶接部の硬度測定を前述した方法で実施した。
【0050】
表3、表4に母材のベイナイトおよびマルテンサイト面積率、母材のフェライト面積率、電縫鋼管の母材降伏強度、母材引張強度、母材シャルピー吸収エネルギー(J)、電縫溶接部硬度(Hv)、電縫溶接部シャルピー吸収エネルギー(J)をまとめて示す。
母材のベイナイトおよびマルテンサイト面積率とは、ベイナイトとマルテンサイトの一方または両方から構成される組織が母材の全組織に対して占有する面積率(%)を示す。
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
表1、表3に示すように、本発明例のNo.1~No.16の試料は、油井用として好適な母材の引張降伏強度が655MPa以上758MPa以下、母材の引張強度が724MPa以上であり、母材および電縫溶接部の-20℃のシャルピー吸収エネルギーが100J以上であり、電縫溶接部の硬度が240Hv以上である優れた電縫鋼管であった。
【0056】
表1に示す比較例No.1の試料は、C含有量が望ましい範囲の下限を下回ったため、表3に示すように母材降伏強度が望ましい範囲の下限を下回った。
表1に示す比較例No.2の試料は、C含有量が望ましい範囲の上限を超過したため、表3に示すように母材降伏強度が望ましい範囲を超過した。
表1に示す比較例No.3の試料は、Mn含有量が望ましい範囲の下限を下回ったため、S起因の脆化が起こり、表3に示すように母材靭性と電縫溶接部靱性が劣化した。
表1に示す比較例No.4の試料は、Mn含有量が望ましい範囲の上限を上回ったため、MnS起因の脆化が起こり、表3に示すように母材靭性と電縫溶接部靱性が劣化した。
【0057】
表1に示す比較例No.5の試料は、Ti含有量が望ましい範囲の下限を下回ったため、結晶粒径が大きくなり、表3に示すように母材靱性が劣化した。
表1に示す比較例No.6の試料は、Ti含有量が望ましい範囲の上限を超過したため、Ti系炭窒化物が多量に生成し、表3に示すように母材靭性と電縫溶接部靱性が劣化した。
表1に示す比較例No.7の試料は、Nb含有量が望ましい範囲の下限を下回ったため、結晶粒径が大きくなり、表3に示すように母材靱性が劣化した。
表1に示す比較例No.8の試料は、Nb含有量が望ましい範囲の上限を超過したため、Nb系炭窒化物が多量に生成し、表3に示すように母材靭性と電縫溶接部靱性が劣化した。
【0058】
表1に示す比較例No.9の試料は、N含有量が望ましい範囲の下限を下回ったため、炭窒化物が生成せず、結晶粒径が粗大となり、表3に示すように母材靱性が劣化した。
表1に示す比較例No.10の試料は、N含有量が望ましい範囲の上限を超過したため、合金炭化物の生成が多くなり、表3に示すように母材靭性と電縫溶接部靱性が劣化した。
【0059】
表2に示す比較例No.11の試料は、Si含有量が望ましい範囲の下限を下回ったため、脱酸が不十分となり、表4に示すように母材靭性と電縫溶接部の靱性が劣化した。
表2に示す比較例No.12の試料は、Si含有量が望ましい範囲の上限を超過したため、電縫溶接部に多量のSi酸化物が生成し、表4に示すように電縫溶接部靱性が劣化した。
表2に示す比較例No.13の試料は、Al含有量が望ましい範囲の下限を下回ったため脱酸が不十分となり、表4に示すように母材靭性と電縫溶接部の靱性が劣化した。
表2に示す比較例No.14の試料は、Al含有量が望ましい範囲の上限を超過したため、電縫溶接部に多量のSi酸化物が生成し、表4に示すように電縫溶接部靱性が劣化した。
【0060】
表2に示す比較例No.15の試料は、B含有量が望ましい範囲の下限を下回ったため、焼き入れ性が不足し、表4に示すように電縫溶接部の硬度が低下した。
表2に示す比較例No.16の試料は、 B含有量が望ましい範囲の上限を超過したため、B析出物が生成したことで、焼き入れ性が低下し、表4に示すように電縫溶接部硬度が低下した。
表2に示す比較例No.17の試料は、P含有量が望ましい範囲の上限を上回ったため、粒界脆化が起こり、表4に示すように母材靭性と電縫溶接部靱性ともに劣化した。
表2に示す比較例No.18の試料は、S含有量が望ましい範囲の上限を上回ったため、粗大な介在物を生成し、表4に示すように母材靭性と電縫溶接部靱性が劣化した。
【0061】
表2に示す比較例No.19の試料は、Mn/Siが望ましい範囲の下限を下回ったため、電縫溶接部にMnSi系酸化物が生成し、表4に示すように電縫溶接部靱性が劣化した。
表2に示す比較例No.20の試料は、SK値が望ましい範囲の下限を下回ったため、表4に示すように母材引張降伏強度が低下した。
表2に示す比較例No.21の試料は、BH値が望ましい範囲の下限を下回ったため、表4に示すように電縫溶接部硬度が低下した。
【0062】
表2、表4に示す比較例No.22の試料は、仕上げ圧延終了温度が望ましい範囲の上限を超過したため、表4に示すように母材靱性が劣化した。
表2、表4に示す比較例No.23の試料は、累計圧下比が望ましい範囲の下限を下回ったため、表4に示すように母材靱性が劣化した。
【0063】
表2、表4に示す比較例No.24の試料は、熱間圧延後の第一段冷却速度が望ましい範囲の下限を下回ったため、表4に示すように母材靱性が劣化した。
表2、表4に示す比較例No.25の試料は、冷却停止温度が望ましい範囲の下限を下回ったため、析出が十分に起こらず表4に示すように強度が規定値に達しなかった。
表2、表4に示す比較例No.26の試料は、冷却停止温度が望ましい範囲の上限を超過したため、組織分率が規定を満足せず、表4に示すように母材靱性が劣化した。
【0064】
表2、表4に示す比較例No.27の試料は、電縫溶接部再加熱温度が望ましい範囲の下限を下回ったため、溶接したままの粗大組織が残存し、表4に示すように電縫溶接部靱性が劣化した。
表2、表4に示す比較例No.28の試料は、電縫溶接部再加熱温度が望ましい範囲の上限を超過したため、組織が粗大化し、表4に示すように電縫溶接部靱性が劣化した。
【0065】
表2、表4に示す比較例No.29の試料は、電縫溶接部熱処理時の冷却速度が望ましい範囲の下限を下回ったため、表4に示すように電縫溶接部靱性が劣化した。
表2、表4に示す比較例No.30の試料は、電縫溶接部熱処理時の冷却停止温度が望ましい範囲の上限を超過したため、表4に示すように電縫溶接部靱性が劣化した。
表2、表4に示す比較例No.31の試料は、BH値が望ましい範囲の上限を超過したため、表4に示すようにフェライト面積率が規定を下回り、母材靱性が劣化した。
以上の説明から、上述した条件で製造することが上述の優れた特性を有する油井用電縫鋼管を製造する際に重要であることがわかった。