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特許7200594極低炭鋼の連続鋳造用モールドパウダーおよび連続鋳造方法
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  • 特許-極低炭鋼の連続鋳造用モールドパウダーおよび連続鋳造方法 図1
  • 特許-極低炭鋼の連続鋳造用モールドパウダーおよび連続鋳造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】極低炭鋼の連続鋳造用モールドパウダーおよび連続鋳造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/108 20060101AFI20221227BHJP
   B22D 11/111 20060101ALI20221227BHJP
   B22D 11/20 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
B22D11/108 F
B22D11/111
B22D11/20 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018196460
(22)【出願日】2018-10-18
(65)【公開番号】P2020062665
(43)【公開日】2020-04-23
【審査請求日】2021-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】石橋 正嗣
(72)【発明者】
【氏名】長嶋 政樹
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-066304(JP,A)
【文献】特開2002-346708(JP,A)
【文献】特開2006-175472(JP,A)
【文献】特開2008-264791(JP,A)
【文献】特開2004-122139(JP,A)
【文献】特表2016-507382(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/108
B22D 11/111
B22D 11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
C含有量が0.0030質量%以下である極低炭鋼の連続鋳造に用いられるモールドパウダーであって、
Alに対するSiOの質量濃度比SiO/Alが1.0未満であり、
SiOに対するCaOの質量濃度比CaO/SiOが0.9~1.5であり、
CaOを30質量%以上含み、
凝固温度が1000~1200℃であり、
1300℃における粘度が1.0~2.0Pa・sである、
極低炭鋼の連続鋳造用モールドパウダー。
【請求項2】
さらに、MgOを0.01質量%以上0.1質量%以下含む、
請求項1に記載の極低炭鋼の連続鋳造用モールドパウダー。
【請求項3】
さらに、Fを0.01質量%以上4質量%以下含む、
請求項1または2に記載の極低炭鋼の連続鋳造用モールドパウダー。
【請求項4】
さらに、B0.01質量%以上6質量%以下含む、
請求項1~3のいずれか1項に記載の極低炭鋼の連続鋳造用モールドパウダー。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の極低炭鋼の連続鋳造用モールドパウダーを用いる、
極低炭鋼の連続鋳造方法。
【請求項6】
鋳造速度が0.5~1.2m/minである、
請求項5に記載の極低炭鋼の連続鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、C含有量が0.0030質量%以下である極低炭鋼の連続鋳造に用いられるモールドパウダー、および、これを用いる連続鋳造方法等を開示する。
【背景技術】
【0002】
極低炭素鋼のスラブ鋳片が熱間圧延されてコイルになる際、スラブ鋳片の表層に非金属介在物が存在していると、コイル表面に疵が生じ、それが品質上の問題となる。この非金属介在物としては、アルミナを主とした脱酸生成物のほか、連続鋳造時に鋳型内へと供給されるモールドパウダーが溶鋼中に巻き込まれることによって生じるものもある。また、熱間圧延時に酸化スケールを剥離しそこなった場合にも、コイル表面の疵の原因となる。
【0003】
連続鋳造操業においては、局所的な湯面変動や鋳型内に注入された溶鋼の注入流によって形成される溶鋼流動が、パウダーと溶鋼との界面を擾乱することにより、溶融したパウダーが溶鋼中に巻き込まれる場合がある。このようにして溶鋼中に巻き込まれたパウダーは、欠陥の一因になるため、溶鋼中に巻き込まれ難いパウダーを開発することが望まれている。
【0004】
連続鋳造用モールドパウダーに関する技術として、例えば特許文献1には、Al、Tiの少なくとも一方を含有する鋼を連続鋳造するための連続鋳造用モールドパウダーであって、1550℃におけるSiOの活量が0.4以下である、鋼の連続鋳造用モールドパウダーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-175472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術では、1550℃におけるSiOの活量が0.4以下なので、パウダーの物性値を安定化させることが可能になると考えられる。しかしながら、この技術ではパウダーの粘度が不足しているため、溶鋼中へのパウダーの巻き込みを防止し難いという問題があった。
【0007】
本願は、溶鋼中への巻き込みを抑制することが可能な、極低炭鋼の連続鋳造用モールドパウダー、および、これを用いる連続鋳造方法等を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
パウダーの溶鋼中への巻き込みは、溶鋼の流動(せん断応力)が、溶融したパウダーと溶鋼との間の張力を超えた場合に発生するため、適切な粘度のパウダーを添加することにより、溶鋼中へのパウダー巻き込みを抑制することが可能になると考えられる。そこで、本発明者らは、C含有量が0.0030質量%以下である極低炭鋼の連続鋳造時に様々な粘度のパウダーを用いる試験を行うことにより、パウダーの粘度とコイル表面における疵(以下において、単に「表面疵」と称することがある。)の発生との関係について調査した。その結果、パウダーの粘度を所定の範囲にすることにより、表面疵の発生を抑制できることを知見した。さらに、本発明者らは、表面疵の発生率を鋳造初期から末期まで確認した結果、パウダーの物性が変化した鋳造末期で発生率が高いことを知見した。それゆえ、表面疵を抑制するためには鋳造中におけるパウダーの物性変化を抑制することが有効である。本発明者らは、鋭意検討の結果、鋳型へと添加する前のパウダーの組成を最適化することにより、鋳型へと添加された後のパウダーの物性変化を抑制できることを知見した。
【0009】
本発明の第1の態様は、C含有量が0.0030質量%以下である極低炭鋼の連続鋳造に用いられるモールドパウダーであって、Alに対するSiOの質量濃度比SiO/Alが1.0未満であり、SiOに対するCaOの質量濃度比CaO/SiOが0.9~1.5であり、CaOを30質量%以上含み、凝固温度が1000~1200℃であり、1300℃における粘度が1.0~2.0Pa・sである、極低炭鋼の連続鋳造用モールドパウダーである。
【0010】
ここで、「Alに対するSiOの質量濃度比」とは、モールドパウダーに含まれるAlの質量濃度/モールドパウダーに含まれるSiOの質量濃度で表わされる比を意味する。また、「SiOに対するCaOの質量濃度比」とは、モールドパウダーに含まれるSiOの質量濃度/モールドパウダーに含まれるCaOの質量濃度で表わされる比を意味する。
【0011】
また、上記本発明の第1の態様において、さらに、MgOを0.01質量%以上0.1質量%以下含むことが好ましい。
【0012】
また、上記本発明の第1の態様において、さらに、Fを0.01質量%以上4質量%以下含むことが好ましい。
【0013】
また、上記本発明の第1の態様において、さらに、B0.01質量%以上6質量%以下含むことが好ましい。
【0014】
本発明の第2の態様は、上記本発明の第1の態様にかかる極低炭鋼の連続鋳造用モールドパウダーを用いる、極低炭鋼の連続鋳造方法である。
【0015】
また、上記本発明の第2の態様において、鋳造速度が0.5~1.2m/minであることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、溶鋼中への巻き込みを抑制することが可能な、極低炭鋼の連続鋳造用モールドパウダー、および、これを用いる連続鋳造方法を提供することができる。溶鋼中へのパウダーの巻き込みを抑制することにより、表面疵の発生を抑制することができ、取り除かれる表面疵発生部位を低減することができるので、極低炭鋼の歩留まりを向上させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】一実施形態に係る本発明のモールドフラックスおよび連続鋳造方法を説明する図である。
図2】SiO/Al比と表面疵との関係を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下に示す形態は本発明の例であり、本発明は以下に示す形態に限定されない。
【0019】
図1は本発明の実施形態の一例を説明する図である。図1に示したように、本発明のパウダー1は、浸漬ノズル2を介して鋳型3へと注入された溶鋼4の表面に供給される。このようにして供給されたパウダー1は、溶鋼4からの熱供給により溶融する。不図示の冷却手段によって冷却されている鋳型3側から冷却されることによって形成された凝固殻5は、ロール6を用いて鋳型3の下方へと引き抜かれ、冷却水7によって冷却される。本発明の連続鋳造方法では、このようにして、C含有量が0.0030質量%以下である極低炭鋼を連続鋳造する。
【0020】
本発明の極低炭鋼の連続鋳造用モールドパウダーおよび連続鋳造方法について、上記の様に規定した理由および好ましい態様を、以下に説明する。
【0021】
1.極低炭鋼の連続鋳造用モールドパウダー
本発明の極低炭鋼の連続鋳造用モールドパウダーは、Alに対するSiOの質量濃度比SiO/Alが1.0未満であり、SiOに対するCaOの質量濃度比CaO/SiOが0.9~1.5であり、CaOを30質量%以上含み、凝固温度が1000~1200℃であり、1300℃における粘度が1.0~2.0Pa・sである、C含有量が0.0030質量%以下である極低炭鋼の連続鋳造に用いられるモールドパウダーである。また、本発明の極低炭鋼の連続鋳造用モールドパウダーは、さらに、MgOを0.1質量%以下、Fを4質量%以下、Bを6質量%以下含有することが好ましい。これらの要件を満たす本発明のパウダーによれば、溶鋼中へのパウダー巻き込みを抑制することができる。
【0022】
1.1.使用対象鋼の化学組成
連続鋳造時に本発明のパウダーが用いられる、極低炭鋼の炭素含有量は、0.0030質量%以下とする。これは、鋼板の加工性を確保するためである。連続鋳造時に本発明のパウダーが用いられる極低炭鋼の炭素含有量の下限値は特に限定されないが、成品製造という観点から、炭素含有量は0.0001質量%以上とすることが好ましい。
【0023】
1.2.パウダーの化学組成
本技術分野において、モールドパウダーの化学組成を表記する場合、モールドパウダー中に種々の化合物として存在しているCaを酸化物(CaO)に換算して表記するのが技術常識である。同様に、Si、Al、Mg、Li、Na、K、Mn、Zr、Ba等のモールドパウダーが溶融した状態で陽イオンとなり得る元素はすべて酸化物として取り扱う。一方、F、Cl等の陰イオンとなる元素は単体の元素として取り扱う(「第5版 鉄鋼便覧 第1巻 製銑・製鋼(一般社団法人日本鉄鋼協会)」の第418頁左欄第20~27行目等を参照)。本発明のパウダーについてもこの技術常識に則って化学組成が規定される。
【0024】
1.2.1.質量濃度比SiO/Al
鋳造中におけるパウダーの物性変化の抑制とパウダーの高粘度化とを両立するために、パウダーに含まれるSiOの質量濃度/パウダーに含まれるAlの質量濃度で表わされる比SiO/Alを、1.0未満にする。比SiO/Alは小さいほど好ましく、下限値は特に限定されないが、鋳造中のパウダー物性維持という観点から、比SiO/Alは0.01以上とすることが好ましい。
【0025】
1.2.2.質量濃度比CaO/SiO
鋳造中に反応するSiOを減らして鋳造中におけるパウダーの物性変化を抑制するために、パウダーに含まれるSiOの質量濃度/パウダーに含まれるCaOの質量濃度で表わされる比CaO/SiOを、0.9以上にする。また、初期パウダー物性の確保という観点から、比CaO/SiOを1.5未満にする。
【0026】
1.2.3.SiOおよびAl
パウダー中のSiと鋼中のAlとの反応を抑制することによって、パウダーの物性変化を抑制しやすくするために、パウダー中のSiO含有量を30質量%未満にすることが好ましい。一方、鋳造中のパウダー物性維持観点から、パウダー中のSiO含有量は0.01質量%以上にすることが好ましい。
また、鋳造前のパウダーの粘度を高めやすくするために、パウダー中のAl含有量を15質量%以上にすることが好ましい。一方、パウダーの初期物性安定化という観点から、パウダー中のAl含有量は30質量%以下にすることが好ましい。
【0027】
1.2.4.CaO
鋳型と凝固殻との間の潤滑剤としての機能を確保するために、パウダー中のCaO含有量は30質量%以上にする。一方、パウダーの初期物性確保という観点から、パウダー中のCaO含有量は45質量%以下にすることが好ましい。
【0028】
1.2.5.MgO
鋳型と凝固殻との間の潤滑剤としての機能を確保するために、パウダー中のMgO含有量は0.1質量%以下にすることが好ましい。一方、鋳造中のパウダー物性維持という観点から、パウダー中のMgO含有量は0.01質量%以上にすることが好ましい。
【0029】
1.2.6.F
鋳型と凝固殻との間の潤滑剤としての機能を確保するために、パウダー中のF含有量は4質量%以下にすることが好ましい。一方、鋳造中のパウダー物性維持という観点から、パウダー中のF含有量は0.01質量%以上にすることが好ましい。
【0030】
1.2.7.B
鋳型と凝固殻との間の潤滑剤としての機能を確保するために、パウダー中のB含有量は6質量%以下にすることが好ましい。一方、鋳造中のパウダー物性維持という観点から、パウダー中のB含有量は0.01質量%以上にすることが好ましい。
【0031】
1.3.凝固温度
鋳造後のスラブ鋳片とパウダーとの剥離性を確保するために、パウダーの凝固温度は1000℃以上にする。また、鋳型と凝固殻との間の潤滑剤としての機能を確保することにより鋳造を安定化させるために、パウダーの凝固温度は1200℃以下にする。
【0032】
1.4.粘度
鋳造中における溶鋼へのパウダーの巻き込みを防止するために、1300℃における粘度を1.0Pa・s以上にする。また、鋳造中における溶鋼へのパウダーの巻き込み防止と操業性とを両立するために、1300℃における粘度を2.0Pa・s以下にする。なお、1300℃における粘度を規定するのは、鋳造中における鋳型と溶鋼との間の温度が1300℃だからである。
【0033】
2.極低炭鋼の連続鋳造方法
本発明の極低炭鋼の連続鋳造方法は、C含有量が0.0030質量%以下である極低炭鋼を対象とする。そして、モールドパウダーとして、上述の本発明のパウダーを用いる。これにより、溶鋼中へのパウダー巻き込みを抑制でき、且つ、鋳造中におけるパウダーの物性変化を抑制できるので、表面疵が抑制された極低炭鋼を製造することができる。
【0034】
また、本発明の連続鋳造方法において、鋳造中の鋳片表面品位の確保という観点から、鋳造速度は0.5m/min以上にすることが好ましい。一方、鋳造中の製造安定化という観点から、鋳造速度は1.2m/min以下にすることが好ましい。
【実施例
【0035】
実施例を参照しつつ、本発明についてさらに説明を続ける。
【0036】
本発明のパウダーおよび連続鋳造方法の効果を確認するため、C含有量が0.0025質量%である極低炭鋼の連続鋳造試験を行い、その結果を評価した。
本試験では、溶鋼110~660tonから、鋳型内の溶鋼上へモールドパウダーを供給しつつスラブを連続鋳造した。その際、引抜き速度は0.9m/minとし、スラブの寸法は、幅1000~1800mm、厚み250mm、長さ5~10mmであった。
【0037】
本試験に用いたモールドパウダーの化学組成(質量%)、凝固点(℃)、および、1300℃における粘度(Pa・s)とともに、パウダー性欠陥の有無を表1に示す。なお、表1に示した化学組成は、鋳型へと添加する前のパウダーの化学組成である。粘度は1300℃における粘度であり、消費量(kg/t)は 鋼板1t鋳造する際に消費したパウダー質量である。また、パウダー性欠陥「無」とは、圧延工程で鋼板表面にパウダーが付着して発生するパウダー性の欠陥が発生しなかったことを意味し、パウダー性欠陥「有」とは、圧延工程で鋼板表面にパウダーが付着して発生するパウダー性の欠陥が発生したことを意味する。
また、パウダー組成のCaO/SiO比が0.9~1.5、CaOを30質量%以上含み、さらにMgOを0.1質量%以下、Fを3.0質量%以下、Bを5質量%以下含み、1300℃における粘度が1.0~2.0Pa・s、凝固温度が1000~1200℃であるベース成分に対して、SiO/Al比が0.5~1.5となるように調整した場合の、SiO/Al比と巻き込み指数との関係を図2に示す。ここで、「巻き込み指数」とは、鋳造中のパウダー物性値から換算される指数である。巻き込み指数が10以上の場合に鋼板表面で発生するヘゲ疵の発生が顕著となる。
【0038】
【表1】
【0039】
図2に示したように、SiO/Al比が1.0未満のときに、巻き込み指数が10以上になった。したがって、SiO/Al比を1.0未満にすることにより、表面疵を抑制することが可能になると考えられる。
【0040】
また、表1に示したように、実施例は比較例に比べ表面疵の発生は低位であった。これは鋳造中のパウダーの物性が安定化したことに加えて鋳造初期から末期にかけて粘度を高く維持できたためであった。
【符号の説明】
【0041】
1…極低炭鋼の連続鋳造用モールドパウダー
2…浸漬ノズル
3…鋳型
4…溶鋼
5…凝固殻
6…ロール
7…冷却水
図1
図2