(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】扁平断面ポリエステル仮撚糸
(51)【国際特許分類】
D01F 6/62 20060101AFI20221227BHJP
D02G 1/02 20060101ALI20221227BHJP
D02G 3/24 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
D01F6/62 301B
D01F6/62 303D
D02G1/02 Z
D02G3/24
(21)【出願番号】P 2018221077
(22)【出願日】2018-11-27
【審査請求日】2021-10-19
(31)【優先権主張番号】P 2017231534
(32)【優先日】2017-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高堂 聖英
(72)【発明者】
【氏名】加藤 泰崇
(72)【発明者】
【氏名】吉原 潤一郎
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-270114(JP,A)
【文献】特開2009-150011(JP,A)
【文献】特開平8-218241(JP,A)
【文献】特開2010-168707(JP,A)
【文献】特開2017-218698(JP,A)
【文献】特開平6-184860(JP,A)
【文献】特開2010-65348(JP,A)
【文献】特開2005-336385(JP,A)
【文献】特開2013-199653(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 6/62
D02G 1/02
D02G 3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアルキレンテレフタレートを解重合して得られたテレフタル酸を、酸成分の80モル%以上含むポリエチレンテレフタレートからなり、下記A~Eを満足する扁平断面ポリエステル仮撚糸。
A.ジエチレングリコールを1.70~2.40重量%含有。
B.単糸断面の扁平度が1.0~5.0、扁平度の最大と最小の差が2.0~4.0の不定形多角形状の断面である。
C.扁平度の度数分布におけるCV%が25~40%である。
D.強度が3.0~3.7cN/dtexである。
E.捲縮復元率CRが15~25%である。
【請求項2】
単糸繊度が0.7~1.3dtexである請求項1に記載の扁平断面ポリエステル仮撚糸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防透性、吸水性、濃色性が良好で、かつ高い原糸強度を有するリサイクル原料を使用した扁平断面ポリエステル仮撚糸に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維は、数多くの優れた性質を有しており、衣料品、産業用途、機能製品まで多岐にわたり好適に使用されている。
【0003】
ポリエステル繊維は、優れた機械的特性を持ち、耐久性やハンドリング容易性を有していることから、特に直接触れた状態で着用するインナー用途をはじめ、スポーツ、アウトドア衣料、寝具向けなどに用いられている。近年、幅広い世代において健康維持や体力つくりのため、ウォーキングやランニング、登山などの手軽に行えるスポーツや野外活動の人気が高まっており、スポーツ、アウトドア用途やインナー用途でも、ファッション性が重視されており、従来から要求されている吸水性やソフト性に加えて、防透性、発色性など多岐にわたる機能を有するポリエステル繊維の開発が行われている。
【0004】
ポリエステル繊維に吸水性、防透性を付与する方法としては、特許文献1に単糸断面に凹部を施す方法が提考案されている。この方法によれば、繊維を構成する単糸1本1本を複数の凹部を有した特殊形状とすることにより、単糸側面の凹凸を利用した毛管現象によって吸水性を高めている。ただ、この方法では、仮撚加工での加撚圧縮によって凹凸が潰れて消失するなどの問題があった。加えて凸部を複数有する特殊断面であるが由に単糸は曲げ剛性が高くなり、そのためソフトさや、滑らかさといった風合いが犠牲となり、ごわつき感の強い布帛となり易い。
【0005】
一方で、近年の環境意識の高まりから、環境配慮型素材、例えばリサイクル原料を使用した商品の価値が高まっており、機能性を有したリサイクル原料を用いた繊維の開発が求められている。
【0006】
ポリエステル成形品のリサイクル手法は、一般的には、PETボトルをはじめとするポリエステル成形品あるいは製造工程で発生する繊維やフィルム屑を粉砕し、再溶融してチップ化した後、再び成形品にするというリサイクルが行われているが、ポリエステル繊維に再生した際に原糸強度が十分である繊維を得ることは困難であった。また、得られた繊維を仮撚加工する場合、仮撚時に単糸切れが多発し、さらに原糸強度が低下するという課題がある。
【0007】
機械的強度に優れ、かつ防透性、吸水性などの機能を有するリサイクルポリエステルマルチフィラメントを得る方法としては、特許文献2に固有粘度の高いリサイクルポリマーを用いて高い強度の細繊度糸を毛羽品位良く得られる方法が考案されている。この方法によれば、単糸断面に2対以上の凹部を有した連玉断面構造の扁平糸とすることにより、単糸側面の凹凸部を利用した毛管現象によって吸水性を高めている。ただ、この方法では、凹凸の起伏が大きいがために隣接する単糸の凹凸部と噛み合ってしまい、結果的に空隙部が減少するなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平8-218241号公報
【文献】特開2009-150011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記課題を解決し、従来技術では成し得なかった、バージンポリエステルを用いた場合と同等の原糸強度を有し、かつ防透性、吸水性、濃色性が良好な扁平ポリエステル仮撚糸を提供するものである。また、特に細繊度品種においては、過剰な断面変形を抑えることにより光沢ムラやイラツキといった外観不良の極めて少ない高品位な織編物を構成する仮撚加工糸を得ることができる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)ポリアルキレンテレフタレートを解重合して得られたテレフタル酸を、酸成分の80モル%以上含むポリエチレンテレフタレートからなり、下記A~Eを満足する扁平断面ポリエステル仮撚糸。
A.ジエチレングリコールを1.70~2.40重量%含有。
B.単糸断面の扁平度が1.0~5.0、扁平度の最大と最小の差が2.0~4.0の不定形多角形状の断面である。
C.扁平度の度数分布におけるCV%が25~40%である。
D.強度が3.0~3.7cN/dtexである。
E.捲縮復元率CRが15~25%である。
(2)単糸繊度が0.7~1.3dtexである(1)に記載の扁平断面ポリエステル仮撚糸。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、バージンポリエステルを用いた場合と同等の原糸強度を有し、かつ防透性、吸水性、濃色性が良好な扁平ポリエステル仮撚糸が得られる。また、特に細繊度品種においては、光沢ムラやイラツキといった外観不良の極めて少ない高品位な織編物を構成する仮撚加工糸を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】扁平度の測定における長軸と短軸の測定位置を示した図である。
【
図3】本発明の仮撚糸を得るに好適な未延伸糸の糸断面の一例である。
【
図4】本発明の仮撚糸を得るに好適な仮撚ユニットの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ポリエステル製品をリサイクルする手段は、粉砕したポリエステル製品を解重合によって粗原料まで分解した後、再度重合することによってポリマーを得て、チップ化した後、成形品とするケミカルリサイクル、ポリエステル製品を粉砕、チップ化した後、溶融して再び成形品にするマテリアルリサイクルが行われている。
【0014】
解重合をおこなわないマテリアルリサイクル原料を直接溶融紡糸すると、原糸物性はリサイクル原料に依存し、所望の品質および均一な品質が得られないという問題が発生するので、本発明の仮撚糸に用いるポリエステルは、ポリエステル製品、例えばボトル、繊維製品、フィルム、製造工程において発生する屑ポリマーなどを再生原料としてケミカルリサイクルにより得たテレフタル酸を構成成分とする。ポリエステル製品を構成しているポリエステルとしては、ポリアルキレンテレフタレートやポリアルキレンナフタレートなどのポリエステルであるが、主たる酸成分をテレフタル酸、主たるグリコール成分をエチレングリコールとして構成されるポリエチレンテレフタレート(PET)が本発明に適している。
【0015】
解重合は公知の方法により実施できる。例えば、特開2010-6962号公報に示すとおりで、ポリエステルフィルムを粉砕し、フレーク状にしたものを回分式反応装置に、エチレングリコールと共に仕込み、缶内温度240℃、常圧、窒素雰囲気下において解重合を行い、この際得られた反応生成物であるPET低重合体を別の回分式反応装置に移液し、缶温度290℃、減圧化(1mmHg以下)で重縮合反応をおこなう。
【0016】
また、本発明は、ポリアルキレンテレフタレートを解重合して得られたテレフタル酸を、酸成分の80モル%以上を占めるものである。
【0017】
また、本発明のポリエステルには、本発明の目的を阻害しない範囲で添加剤、例えば艶消剤や顔料、染料、防汚剤、蛍光増白剤、難燃剤、安定剤、耐候剤、紫外線吸収剤、滑剤、あるいは吸湿剤などの機能剤を配合しても良い。また、こうした機能剤がポリエステルに非相溶性である場合は、一旦、マスターバッチを調製した後に溶融ブレンド紡糸して微散性させる方法等を用いて添加しても良い。
【0018】
本発明の扁平断面ポリエステル仮撚糸は、ジエチレングリコール(DEG)を1.70~2.40%含有するものである。かかる範囲とすることにより、バージンポリエステルと同等の原糸強度を有し、布帛とした際に優れた濃色性、耐久性が得られる。ジエチレングリコールが1.70%未満となる場合、濃色性に劣り、ジエチレングリコールが2.40%を超える場合は原糸強度が低下し、耐久性に劣る。好ましくは1.80%~2.00%である。
【0019】
含有されるジエチレングリコール量は、解重合時の反応温度(205~250℃)、解重合時間(3時間50分~5時間)、リサイクル原料に対して供給するエチレングリコール量(供給するエチレングリコール量/リサイクル原料のモル比)(0.3~1.0)によって制御可能である。
【0020】
本発明の扁平断面ポリエステル仮撚糸を構成する単糸の断面は、不定形多角形状である。不定形多角形状とは、単糸断面に直線を有しており、かつ単糸毎に異なるランダムな断面形状をとっている事であり、不定形多角形状にすることによって、単糸の凹部がかみ合うことなく単糸間のミクロ空隙を効率的に形成することができる。また、単糸の扁平度は一定の分布を持って糸条を構成している。単糸の横断面の扁平度は、長径a/短径b(
図2)として算出する。楕円型の断面(
図2-1)では、長径aは断面の最大径であり、短径bはaに対して直角を保ちつつ、かつ径が最大である長さである。また1個の凹部をもつ断面(
図2-2)では、長径aは断面の最大径であり、短径bはaに対して直角を保ちつつ、かつ径が最大である長さb1と、aに対して直角を保ちつつ、凹部頂点を通る径b2の平均値である。さらに2個の凹部をもつ断面(
図2-3)では、長径aは断面の最大径であり、短径bはaに対して直角を保ちつつ、かつ径が最大である長さb1と、aに対して直角を保ちつつ、凹部頂点を通る径b2、およびb3の平均値である。よってn個の凹部を持つ断面についても、同様にbnとして扁平度を算出する。
【0021】
本発明の仮撚糸は構成する単糸の断面扁平度が1.0~5.0である。扁平度が5.0を超える設計とすると仮撚時に単糸断面を大幅に変形させる必要があることから、ヒーター内で単糸切れが発生し、原糸強度が低下するため好ましくない。
【0022】
また、本発明の仮撚糸を構成する単糸断面の扁平度の最大と最小の差が2.0~4.0である。扁平度差を2.0以上とすることにより、単糸間でのミクロ空隙を効率的に形成でき、優れた吸水性能を得ることができる上、単糸表面での光反射がランダムになり、優れた防透性が得られるようになる。一方、扁平度差を4.0を超える設計にすると、仮撚時に単糸に大きい負荷をかけ、断面を大幅に変形させる必要があることから、ヒーター内で単糸切れが発生し、原糸強度が低下するため好ましくない。また、仮撚時の断面変形によってポリマー配向が促進され、濃色性に劣る仮撚糸となる。
【0023】
また、本発明の仮撚糸を構成する単糸の扁平度の度数分布が、標準偏差を平均値で除した値である変動係数CV(扁平度CV)において、25%~40%とするものである。好ましくは25%~30%である。扁平度CVを25%以上とすることで、単糸毎に異なるランダムな断面形状となり、単糸間にミクロ空隙が形成されるようになり、単糸自体に複雑な処理(例えば、単糸表面に多数のスリットを設けた多葉形形状等)をせずとも、吸水性能が得られるようになる。一方、扁平度CVが40%を超えると原糸強度が低下する。
【0024】
ここで、扁平度差や扁平度CVが増すにつれて、防透性や濃色性が増加するメカニズムについて説明する。上記特性が向上する原理は2つあり、まず1つ目は、光の拡散効果によるものである。布帛の透け現象は、布帛に入射した光が、布帛を通り抜けて被覆物の表面で反射し、その被覆物からの反射光が再び布帛を通り抜けて人の目に届くことによって起こる現象である。つまりは、光が布帛を2度通り抜けることによって起こる現象であるため、防透性を上げるには、布帛の光透過性を下げれば良い。ここで単糸断面形状のランダム扁平化が布帛の光透過性ダウンに効果を奏する。単糸の扁平断面表面により光の乱反射が生じて、光の拡散・吸収が起こり被覆物への入射、反射光ともに弱めることができる。また、光拡散効果によって布帛表面でのハレーションが抑制されるため、布帛の本来の色彩を視認できるようになり、濃色効果を発現する。2つめの原理は、単糸の扁平断面形状に由来する形態効果である。扁平化によって繊維表面積は増加することから、染色工程における染料吸尽性が増加し、これに伴って濃色性も増す。さらには、単糸中に多くの染料を多く蓄えられることから、前述の光吸収効果にもプラスの影響を及ぼす。加えて、ランダムな扁平断面が多層に積み重なるため、単糸間の空隙が微分散して光の素通りを抑えることができる。
【0025】
本発明の扁平断面ポリエステル仮撚糸は、強度が3.0~3.7cN/dtexである。3.0cN/dtex未満の場合、布帛とした際の引裂強度、破裂強度、耐摩擦性等が低下し、衣料品とした際の実着用の耐久性が劣る。また、耐久性の点から強度は高いことが望ましいが、3.7cN/dtexを超える場合は布帛の曲げ剛性が高くなることからソフトさや滑らかさといった風合いが悪いものとなり好ましくない。好ましくは、3.3~3.7cN/dtexである。
【0026】
リサイクル原料を用いたポリエチレンテレフタレートは、バージンのポリエチレンテレフタレートに用いられる条件を採用した紡糸、仮撚加工をすると、未延伸糸や原糸の強度が低下してしまう。そのため、バージンのポリエチレンテレフタレートと同等の強度を維持するために、詳細は後述するが、ジエチレングリコール量、紡糸条件(冷却条件)、仮撚条件(仮撚係数)を好ましく制御することにより強度維持が達成できる。
【0027】
本発明の扁平断面ポリエステル仮撚糸の伸縮復元率(CR)は15~25%である。15%未満の場合では、仮撚糸の捲縮が少なくなり形態が単純化するため、糸長手方向の染色差が際立ち、濃色性が劣る。25%より高い場合は、仮撚時、糸条に高い仮撚トルクをかける必要があるため、単糸切れが多発し、原糸強度が低下するため好ましくない。
【0028】
本発明の扁平断面ポリエステル仮撚糸は、前述の断面形状とすることによって吸水性、防透性を高めることができる。また、扁平度CV設計によって光の過剰な乱反射を抑えるとともにポリマー配向を抑制できる。さらに、適切なジエチレングリコール量を含有するリサイクルのポリエチレンテレフタレートとすることによって濃色性が向上、強度低下を抑制することができ、バージンのポリエチレンテレフタレートを用いた扁平断面仮撚糸やリサイクルされたポリエチレンテレフタレートからなる丸断面糸では得られなかった、濃色性を実現することができ、かつ強度をバージンのポリエチレンテレフタレート同等に維持することができる。また、特に繊度33dtex以下の場合で、ヒーター温度、仮撚係数の影響を大きく受け、過剰な断面変形によって、光沢ムラやイラツキといった外観不良や原糸強度低下が起きやすくなるとともに、濃色性も低下してしまう。リサイクル原料を用いたポリエチレンテレフタレートを用いるため、その影響は、バージンポリエチレンテレフタレートよりも受けやすい。かかる課題に対し、前述の断面形状、扁平度CV設計とし、過剰な断面変形を抑制することにより、光沢ムラやイラツキといった外観不良の極めて少なく、かつ濃色性の高い高品位な織編物を構成する仮撚加工糸を得ることができる。
【0029】
本発明の扁平断面ポリエステル仮撚糸の単糸繊度は、大きくなりすぎると単糸間で形成される空隙が粗くなり、吸水性が低下し、逆に小さくなりすぎると原糸強度が低下するため、0.7~1.3dtexであることが好ましい。より好ましくは0.7~1.2dtexである。
【0030】
糸条を構成する単糸の数は、製糸安定性を欠かない範囲で、多い方がより効果的に単糸間空隙を形成し易く、吸水性が向上する。単糸数を総繊度で除した数値で0.8以上とすると好ましい。より好ましくは1.0以上、さらに好ましくは1.2以上である。これら単糸は仮撚加工前の段階で、数種類の形状や単糸繊度のものが混繊されていて良いが、単一断面形状である時が最も吸水性、防透性が良く好ましい。
【0031】
本発明の扁平断面ポリエステル仮撚糸は、総繊度15~167dtexであることが好ましい。総繊度15~167dtexとすることで、単糸毛羽の発生に起因する原糸強度低下がなく、また捲縮形態のムラが良好となり、編地や織物の品位、風合いが良好となる。
【0032】
これより、本発明の扁平断面ポリエステル仮撚加工糸の製造方法について、詳述する。
本発明の扁平断面ポリエステル仮撚糸に用いる未延伸糸の断面形状は、繊維断面の最長軸に対して、両側になだらかな弧で形成された凹部を1つずつ持った扁平形状であると、続く仮撚加工にて扁平度の分布が広い糸条に加工し易く好ましい。好適に用いられる断面形態の例を
図3に示すが、繭形(A)や空豆形(B)等は、特に紡糸性や仮撚性に優れて好ましい。
【0033】
更に、この未延伸糸の異形度は小さいと、続く仮撚加工にて扁平度の分布が広くならず、大きすぎると単糸が繊維軸方向に分離しやすくなるため、1.1~1.3であることが好ましい。ここで言う異形度とは、単糸断面における最単軸長をそれに対して平行に引ける最長軸長で除した数値の逆数の事である。
【0034】
また、未延伸糸の溶融紡糸は公知の方法により実施できる。リサイクル原料を用いたポリエチレンテレフタレートは、再生原料であるためバージンのポリエチレンテレフタレートに用いられる条件にて紡糸すると、断面形成性や強度が低下しやすい。そのため、溶融紡糸法にて、これらの断面形状の繊維を得るには、口金吐出直後のポリマーを均一に急冷すると安定した断面形状が得やすく、環状冷却装置を好ましく用いることができる。この時、口金面から冷却風吹き出し面までの距離を23~30mmにすると適切な異形度を有し、かつ高い強度の未延伸糸が得られる。また、製糸性が安定するため好ましい。
【0035】
また、高い強度の仮撚糸を得るには、紡糸速度1500~3500m/分の範囲で紡糸すると、仮撚り工程にて高い延伸倍率で加工できるため好ましい。特に2000~3000m/分の範囲で紡糸すると、仮撚工程にて延伸倍率1.50~1.90で加工でき、原糸強度を上げることで、バージンのポリエチレンテレフタレート同等の強度に維持することができるのである。さらに、繊度33dtex以下においては、より高倍率延伸することが好ましく、紡糸速度2000~2500m/分の範囲で紡糸することが好ましい。
【0036】
次いで、好適な仮撚加工方法について述べる。仮撚機は、施撚体のタイプによってピン、ベルト、フリクションディスク等いずれも機種においても製造が可能であるが、いずれも機種においても仮撚数(単位:T/m)に、仮撚後繊度(単位:dtex)の平方根を積算した数値(以下、仮撚係数と称する)が、繊度33dtex以下の場合は、22,000~27,000の範囲、繊度33dtexを超える場合は、27,000~32,000の範囲となるよう加工すると、幅広い扁平度分布を持った仮撚糸としやすく、かつリサイクル原料を用いたポリエチレンテレフタレートを用いても原糸強度の低下を抑制できる。一般的な異形断面糸は仮撚係数が10,000~20,000程度で施撚されるが、本発明では、高い仮撚係数を用いて施撚することが技術的ポイントである。これら高い係数で仮撚加工することにより、糸条には高い仮撚トルクが発生するため、糸条中心部付近に存在する単糸には中心に向かう圧縮の力が、糸条外周部に存在する単糸には周方向の延展力が発生する。つまり、糸条中心付近の単糸は扁平度が低下する方向に圧縮され、外周部の単糸は扁平度が大きくなる方向に延展される。このメカニズムによって、扁平単糸は、大きな扁平度差を生みやすくなるのである。更に、単糸断面が前述した好ましい凹部形状を持つ場合には、この凹部が圧縮の起点または延展の支点となって、大きな扁平度差を発生しやすくなるのである。さらに大きな扁平度差を生じさせたい場合には、糸条中心部の単糸にまで、しっかり、じっくりと予熱すると良く、仮撚機の第1ヒーターは接触式であると好ましい。
この時のヒーター温度は、使用ポリマーの結晶化温度以上、融点以下であると好ましく、150~190℃の範囲を好ましく使用できる。また、ヒーター上の通過時間は、0.13~0.20秒、より好ましくは0.15~0.18秒とするのが適当であり、糸条の芯まで予熱することができ好ましい。
【0037】
特に、繊度33dtex以下の場合では、ヒーター温度、仮撚係数の影響を大きく受け、過剰な断面変形によって原糸強度低下が起きやすい。また、リサイクル原料を用いたポリエチレンテレフタレートを用いるため、その影響は、バージンポリエチレンテレフタレートよりも受けやすい。そのため、仮撚係数を22,000~27,000、より好ましくは22,000~24,000、ヒーター温度を130℃~150℃、より好ましくは140~150℃の範囲にすることによって、幅広い扁平度分布と持った仮撚糸としやすく、過剰な断面変形を抑制し、かつリサイクル原料を用いたポリエチレンテレフタレートを用いても原糸強度の低下を抑制できる。また、延伸仮撚加工に用いられる仮撚具は、ピンタイプ、
図4に示すような仮撚ディスクを3軸に配置した仮撚ユニットが好ましい。特に仮撚りディスクを用いる場合は、仮撚ディスクの直径が40~60mmのディスクが好ましい。ディスク直径が40mm未満では、ディスクによる摩擦損傷が増加して断糸および毛羽の発生が多くなりやすい。また、単糸断面が過剰に変形し、原糸強度低下が起きやすい。一方、60mmを超える場合は、ディスクによる撚掛け力が低下して十分な捲縮を付与することが困難になる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明する。なお、実施例における各項目は以下の方法で測定した。
【0039】
(1)ジエチレングリコール(DEG)含有量
試料(チップ、仮撚糸)を2-アミノエタノール/1,6-ヘキサンジオール(内標)で加水分解後、メタノールで希釈し、テレフタル酸で中和した後、ガスクロマトグラフィー(島津製GC14B)のピーク面積比から求めた。
【0040】
(2)固有粘度(IV)
試料(チップ)0.8gを純度98%のO-クロロフェノール10mlに100℃で溶解し、ウベローデ粘度管を用いて25℃で測定した。
【0041】
(3)扁平度、異形度
仮撚糸および未延伸糸サンプルをメタクリル樹脂にて包埋し、繊維軸に垂直に切断して、デジタルマイクロスコープ(キーエンス社製VHX-5000)を用いて糸条を構成する全単糸の観察像を撮影した。撮影された断面写真について、断面形状の最長軸長を最短軸長で除した値を扁平度、最単軸長をそれに対して平行に引ける最長軸長で除した数値の逆数を異形度とした。なお、仮撚糸にて三角形様の最短軸長が不明な断面に対しては、最短辺の半値を最短軸長として用いた。
【0042】
(4)扁平度CV
仮撚糸の全単糸の扁平度を統計処理し、標準偏差を平均値で除した値であるところの変動係数CVを、扁平度CVとして算出した。
【0043】
(5)総繊度および単糸繊度
仮撚糸を解舒張力1/11.1(g/dtex)で枠周1.0mの検尺機で100回巻き、天秤を用いて重量を測定し、100倍することにより得られた重量を総繊度とした。
【0044】
(6)強度、伸度
JIS L 1013(2010)に従い、オリエンテック製テンシロンUCT-100にて測定した。
【0045】
(7)捲縮復元率CR
仮撚糸を周長1.0mの検尺機にて10回巻きしてカセ取りした後、このカセに繊度×0.002×巻取回数×2/1.111gの初加重をかけて、90℃×20分間熱水処理し、脱水後12時間以上放置する。放置後のカセに初荷重と繊度×0.1×巻取回数×2/1.111gの測定加重をかけて水中に垂下し2分間放置する。放置したカセの長さを測り、Lとする。さらに、測定荷重を除き初荷重だけにした状態で3分間放置し、カセの長さを測り、L1とする。次式により、伸縮復元率CRを求めた。
伸縮復元率CR(%)={(L-L1)/L}×100 。
【0046】
(8)防透性
目付150g/m2の筒編み地を作製し、背景に白板を使用した際の明度と黒板を使用した際の明度を測定し、次式にて値を求めた。
防透性(%)=(黒板を背景とした時の明度/黒板を背景とした時の明度)×100
防透性の値が85%以上を合格とした。
【0047】
(9)吸水性
上記の(8)で調製した筒編地を、JIS L 1096(2010)に準じて、幅2.5cmの短冊状にカットした試験片とし、試験片の下端約2cmを水浴に浸漬して10分間放置した後に水が上昇した高さ(mm)を測定した。吸水高さが65mm以上のものを合格とした。
【0048】
(10)濃色性
上記の(8)項で調製した筒編地を下記条件で染色し、熟練の検査員10名に対し、(7)項の条件にて調整し、バージンポリエチレンテレフタレートを用いた繭断面糸の筒編地(比較例1)を基準とし、以下の4段階にて濃色性を評価し、最も多い得票を得たランクを評価とした。合格レベルは○以上である。
○○:非常に濃い、○:濃い、△:同等、×:薄い
[染色条件]
染料:Dinanix Navy S-2G200%、0.3%o.w.f.
染色助剤1:Tetrosin PEC、10.0%o.w.f.
染色助剤2:Sun Salt、1.0%o.w.f.
浴比:1:100
染色温度×時間:98℃×20分 。
【0049】
(リサイクル原料を用いたポリエチレンテレフタレートの製造)
精留塔、ポリエステル屑供給機、撹拌装置を備えた解重合反応容器に、モル比1.5のビスヒドロキシエチルテレフタレートおよび/その低重合体2000kgを常圧で窒素雰囲気下、220℃で存在させておく。そこへエチレングリコール/ポリエステル屑のモル比が0.5のポリエステル屑2000kgとエチレングリコール325kgを3時間かけて連続的に供給する。供給が終了した後、30分かけて反応容器温度を240℃に昇温し、昇温後は240℃に保持する。精留塔の塔頂温度が150℃に到達した後、10分で解重合反応を終了させ、ビスヒドロキシエチルテレフタレートおよび/その低重合体を得た。この時精留塔の塔頂までエチレングリコールは到達していなかった。なお解重合反応工程は4時間25分だった。その得られたビスヒドロキシエチルテレフタレートおよび/その低重合体をサンプリングし、そのジエチレングリコール量を測定したところ1.1重量%だった。
【0050】
このビスヒドロキシエチルテレフタレートおよび/その低重合体を、フィルター(公称目開き40μm)を介して重縮合反応容器に移液し、リン酸を110g(得られるポリエステル中のリン酸濃度として55ppm)添加した後、6分間攪拌した。その後、三酸化アンチモンを600g(得られるポリエステル中の三酸化アンチモン濃度として300ppm)、酢酸コバルト340g(得られるポリエステル中の酢酸コバルト濃度として170ppm)、酸化チタンを6kg添加する(得られるポリエステル中の酸化チタンで0.3%)。その後、低重合体を30rpmで攪拌しながら、反応温度を240℃から290℃まで徐々に昇温するとともに、圧力を40Paまで下げた。所定の攪拌トルクに到達したら反応系を窒素パージして常圧に戻して重縮合反応を停止させた。ストランド状に吐出して冷却後、直ちにカッティングしてポリマーのペレットを得た。なお、減圧開始から所定の撹拌トルク到達までの時間は2時間55分だった。得られたポリエステルのポリマーのジエチレングリコールは1.8重量%だった。
【0051】
同様に、解重合時の反応温度、解重合時間、供給するエチレングリコール量を調整し、ジエチレングリコール量1.6、1.7、1.8、2.3、2.5のチップを得た。
【0052】
(実施例1)
ポリマーIV0.60、DEG量1.8のケミカルリサイクルより得たポリエチレンテレフタレートを用いて、紡糸温度295℃にて溶融後、144ホールのダンベル型吐出孔を有した紡糸口金から吐出、口金面から30mmの位置にて糸条に冷却風を吹き付け冷却し、油剤を供給し集束させ、交絡付与を行いながら、紡糸速度2700m/分の速度で巻取り、総繊度288dtexの部分配向未延伸糸を採取した。フリクション仮撚機にて、仮撚ヒーター温度を170℃、延伸倍率を1.67に設定し、直径54mmのウレタンディスクを仮撚ディスクとして、仮撚係数32000にて、延伸仮撚加工を施して交絡付与を行い、外径65mmの紙管に巻き取った。得られたポリエステル仮撚糸は、表1に示すとおり、十分な原糸強度を有し、かつ優れた吸水性と防透性を具備し、濃色性は良好であった。
【0053】
(実施例2)
仮撚係数を29000で加工した以外は、実施例1と同様にして、167T-144フィラメントの扁平仮撚糸を得た。この仮撚糸の扁平度差は3.0であり、得られた仮撚糸は表1に示すとおり、良好な性質を持っていた。
【0054】
(実施例3)
ポリマーIV0.57、ジエチレングリコール量2.3のポリマーを用い、仮撚係数を27000で加工した以外は、実施例1と同様にして、167T-144フィラメントの扁平仮撚糸を得た。得られた仮撚糸は表1に示すとおり、良好な性質を持っていた。
【0055】
(実施例4)
ポリマーIV0.61、ジエチレングリコール量1.7のポリマーを用いた以外は、実施例1と同様にして、167T-144フィラメントの扁平仮撚糸を得た。得られた仮撚糸は表1に示すとおり、良好な性質を持っていた。
【0056】
(実施例5~7)
ダンベル孔を有する口金を用いて、口金ホール数、ポリマー吐出量、仮撚係数を変化させた以外は、実施例1と同様にして紡糸、仮撚加工して、総繊度、フィラメント数の異なる仮撚糸を得た。得られた仮撚糸は表1に示すとおり、良好な性質を持っていた。
【0057】
(実施例8)
ポリマーIV0.60、DEG量1.8のケミカルリサイクルより得たポリエチレンテレフタレートを用いて、紡糸温度295℃にて溶融後、24ホールのダンベル型吐出孔を有した紡糸口金から吐出、口金面から30mmの位置にて糸条に冷却風を吹き付け冷却し、油剤を供給し集束させ、交絡付与を行いながら、紡糸速度2500m/分の速度で巻取り、総繊度37dtexの部分配向未延伸糸を採取した。フリクション仮撚機にて、仮撚ヒーター温度を150℃、延伸倍率を1.71に設定し、直径51mmのウレタンディスクを仮撚ディスクとして、仮撚係数22000にて、延伸仮撚加工を施して交絡付与を行い、紙管に巻き取り22T-24フィラメントの扁平仮撚糸を得た。得られたポリエステル仮撚糸は、表1に示すとおり、良好な性質を持っていた。
【0058】
(実施例9~11)
ダンベル孔を有する口金を用いて、口金ホール数、ポリマー吐出量、仮撚係数を変更した以外は、実施例8と同様に紡糸、仮撚加工して、総繊度、フィラメント数の異なる仮撚糸を得た。得られた仮撚糸は表1に示すとおり、良好な性質を持っていた。
【0059】
【0060】
(比較例1)
バージンのポリエチレンテレフタレート(IV0.64、DEG量1.0)を用いた以外は、実施例1と同様にして、167T-144フィラメントの扁平仮撚糸を得た。得られた仮撚糸は濃色性に劣るものとなった。
【0061】
(比較例2)
ポリマーIV0.57、ジエチレングリコール量2.5のポリマーを用い、仮撚係数を27000で加工した以外は、実施例1と同様にして、167T-144フィラメントの扁平仮撚糸を得た。この仮撚糸は、吸水性、防透性、濃色性は優れるものの表2に示すとおり、原糸強度の劣るものとなった。
【0062】
(比較例3)
ポリマーIV0.62、ジエチレングリコール量1.6のポリマーを用いた以外は、実施例1と同様にして、167T-144フィラメントの扁平仮撚糸を得た。この仮撚糸は、表2に示すとおり、濃色性に劣るものとなった。
【0063】
(比較例4)
仮撚係数を37000で加工した以外は、実施例1と同様にして、167T-144フィラメントの扁平仮撚糸を得た。この仮撚糸の扁平度差は4.3、扁平度CVは45%であり、表2に示すとおり、吸水性、防透性、濃色性は優れるものの、原糸強度が劣るものであった。
【0064】
(比較例5)
仮撚係数を24000で加工した以外は、実施例1と同様にして、167T-144フィラメントの扁平仮撚糸を得た。この仮撚糸の扁平度CVは22%であり、表2に示すとおり、吸水性、防透性に劣るものとなった。
【0065】
(比較例6)
仮撚係数を20000で加工した以外は、実施例1と同様にして、167T-144フィラメントの扁平仮撚糸を得た。この仮撚糸の扁平度CVは18%であり、表2に示すとおり、吸水性、防透性に劣るものとなった。
【0066】
(比較例7)
丸孔を有する口金を用いて、実施例1と同様にして紡糸、仮撚加工して、167T-144フィラメントの仮撚糸を得た。得られた仮撚糸は扁平度CV%が17%であり、防透性、吸水性および風合いに劣るものとなった。
【0067】
(比較例8)
口金を吐出後合流タイプに変更し、吐出孔3つで3玉融着状の1フィラメントを形成する、72フィラメント用に変更し、紡糸速度2000m/分の速度で巻取り、総繊度140dtexの部分配向未延伸糸を採取した。フリクション仮撚機にて、仮撚ヒーター温度を170℃、延伸倍率を1.60、仮撚係数24000にて、延伸仮撚加工を施して交絡付与を行い、外径65mmの紙管に巻き取った。得られたポリエステル仮撚糸は、表2に示すとおり、強度2.6cN/dtex、扁平度CVが23%であり、耐久性、吸水性に劣るものとなった。
【0068】
【符号の説明】
【0069】
1:楕円型断面
2:1個の凹部を持つ断面
3:2個の凹部を持つ断面
4:回転軸
5:ガイドディスク
6:仮撚ディスク