(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】酵素発電デバイス
(51)【国際特許分類】
H01M 8/16 20060101AFI20221227BHJP
H01M 8/0213 20160101ALI20221227BHJP
H01M 8/0234 20160101ALI20221227BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20221227BHJP
H01M 4/96 20060101ALI20221227BHJP
C12M 1/34 20060101ALN20221227BHJP
【FI】
H01M8/16
H01M8/0213
H01M8/0234
H01M4/86 B
H01M4/96 B
C12M1/34 B
(21)【出願番号】P 2018229508
(22)【出願日】2018-12-07
【審査請求日】2021-08-06
(31)【優先権主張番号】P 2018110047
(32)【優先日】2018-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】八手又 彰彦
(72)【発明者】
【氏名】渡部 寛人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 博友
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/062419(WO,A1)
【文献】特開2012-252955(JP,A)
【文献】特開2009-181889(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/16
H01M 8/0213
H01M 8/0234
H01M 4/86
H01M 4/96
C12M 1/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極および回路配線を含んでなる酵素発電デバイスであって、正極および負極の少なくとも一方に酵素を構成部材として含み、
正極が炭素触媒を含み、正極および負極から外部デバイスへ電気的に接続する回路配線が、非金属材料からなる酵素発電デバイス。
【請求項2】
正極および負極が導電性支持体を有し、前記導電性支持体が、非金属材料からなる請求項1記載の酵素発電デバイス。
【請求項3】
さらに、メディエーターを具備する酵素発電デバイスであり、前記メディエーターが、非金属材料からなる請求項1または2記載の酵素発電デバイス。
【請求項4】
負極が、非金属材料からなる請求項1~3いずれか記載の酵素発電デバイス。
【請求項5】
正極が、非金属材料からなる請求項1~4いずれか記載の酵素発電デバイス。
【請求項6】
燃料および/またはセンシング対象物質が、グルコース、フルクトース、および乳酸から選択される請求項1~5いずれか記載の酵素発電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素発電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、ラップトップ型コンピュータ等の携帯型電子機器の普及に加え、あらゆるモノがインターネットに接続され情報を交換するIoT社会の到来により、携帯可能な電源の重要性がますます高まると共に、その利用形態も多種多様になりつつある。現在、主な携帯型電源としては一次電池や二次電池が挙げられ、電子機器に広く用いられている。しかし、将来的に使用増加が見込まれる使い捨ての小型デバイスや生体センサーなどにおいては、一次電池や二次電池のほとんどが金属を利用した蓄電材料や集電材料、配線を用いているため、廃棄や廃棄のための分別に多大な労力が必要となる。
【0003】
一方、近年開発が進められている酵素発電デバイスは、糖やアルコール、有機酸等の有機物を燃料にして、酵素反応により生成した電気エネルギーを利用する発電型デバイスである。酵素発電デバイスにおいては、アノード及びカソードに酸化還元酵素を含み、多種多様な有機物と空気中の酸素を燃料として発電するエネルギーシステムであり、常温作動が可能、豊富な有機エネルギー源が活用可能、生体への高い安全性が利点として挙げられる。
酵素発電デバイスから取り出した電気エネルギーを電源として活用する以外にも、酵素が持つ基質特異性を利用し、糖などの目的とする有機物をセンシングするための自己発電型センサーとして応用する方法も提案されている。自己発電型センサーは発電と有機物センシング機能を併せ持つため、電源不要な小型軽量化、低コスト化が可能となることに加え、酵素による微小量検出や基質特異性に由来する高いセンシング精度が特長となる。そのため、生体向けのウェアラブルデバイスやインプラントデバイス等に使われるセンサーおよび電源としての利用が期待されている。
酵素発電デバイスの電極は、発電に関わる酵素が有機物のため、電極に非金属材料であるカーボン基材を使用する等により容易に廃棄できることがあるものの、酵素発電デバイスを構成する配線や導電性支持体など他の部材に金属材料を使用することが多く、金属材料の分別や廃棄は容易ではなく、依然として課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、容易に分別、廃棄が可能な酵素発電デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決すべく検討を重ねた結果、本発明に至った。
すなわち本発明は、正極、負極および回路配線を含んでなる酵素発電デバイスであって、
正極および負極の少なくとも一方に酵素を構成部材として含み、正極および負極から外部デバイスへ電気的に接続する回路配線が、非金属材料からなる酵素発電デバイスに関する。
【0007】
また、本発明は、正極および負極が導電性支持体を有し、前記導電性支持体が、非金属材料からなる前記酵素発電デバイスに関する。
【0008】
また、本発明は、さらに、メディエーターを具備する酵素発電デバイスであり、前記メディエーターが、非金属材料からなる前記酵素発電デバイスに関する。
【0009】
また、本発明は、負極が、非金属材料からなる前記酵素発電デバイスに関する。
【0010】
また、本発明は、正極が、非金属材料からなる前記酵素発電デバイスに関する。
【0011】
また、本発明は、燃料および/またはセンシング対象物質がグルコース、フルクトース、および乳酸から選択される前記記載の酵素発電デバイスに関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の酵素発電デバイスを用いることにより、配線部と金属材料を含む電極部を容易に分別、あるいは酵素発電デバイスを分別することなく廃棄が可能となる。また、高価な貴金属材料の使用を低減できるため、低コストでデバイスが作製可能である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、詳細に本発明について説明する。
【0014】
<回路配線>
回路配線とは、酵素発電デバイスにおいて正極および負極と外部デバイスを電気的に接続し、回路を形成する導電性部材である。回路配線は、正極あるいは負極と別途用意された導電性部材を接続し更に外部デバイスに接続してもよく、正極あるいは負極の導電性支持体をそのまま延長して回路配線として外部デバイスと接続してもよい。回路配線と外部デバイスを接続する方法としては特に限定するものではなく、接着剤あるいは粘着剤による接続の他に、スナップボタン、マグネット、クリップ、ファスナー、面ファスナー等を用いた接続が例示できる。
回路配線の材料としては、導電性を有する非金属材料であれば特に限定するものではない。例えば、カーボンペーパーやカーボンクロス、カーボンフェルト等の導電性炭素材料の他、紙類、布類等の非導電性支持体に酵素発電デバイス回路配線用導電炭素組成物やポリアニリン、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性高分子を塗布、乾燥したものやそれらを併用したものを用いてもよい。廃棄の容易さやコストの観点から非導電性支持体に酵素発電デバイス回路配線用導電炭素組成物を塗布、乾燥したものを用いた方が好ましい。特に非導電性支持体は折り曲げ可能な支持体であることが好ましい。更には、紙または布類の非導電性支持体に酵素発電デバイス回路配線用導電炭素組成物を塗布、乾燥したものを用いた方が好ましい。
【0015】
<酵素発電デバイス回路配線用導電炭素組成物>
酵素発電デバイス回路配線用導電炭素組成物は、少なくとも導電性炭素と溶剤とバインダーを含む。また、酵素発電デバイス回路配線用導電炭素組成物は、必要に応じて分散剤、増粘剤、成膜助剤、消泡剤、レベリング剤、防腐剤、pH調整剤等を配合できる。導電性炭素及び溶剤とバインダー、分散剤の割合は、特に限定されるものではなく、広い範囲内で適宜選択され得る。VOC排出の観点から、水あるいは水性溶剤を用いることが好ましく、それに伴いバインダーおよび分散剤等も水性であることが好ましい。
【0016】
<導電性炭素>
本発明における導電性炭素としては、黒鉛、カーボンブラック、導電性炭素繊維(カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンファイバー)、グラフェン系炭素材料(グラフェン、グラフェンナノプレートレット)、多孔質炭素、ナノポーラスカーボン、フラーレン等を単独で、もしくは2種類以上併せて使用することができる。導電性の観点から、少なくとも黒鉛が含有されていることが好ましい。
【0017】
黒鉛としては、例えば人造黒鉛や天然黒鉛等を使用することが出来る。人造黒鉛は、無定形炭素の熱処理により、不規則な配列の微小黒鉛結晶の配向を人工的に行わせたものであり、一般的には石油コークスや石炭系ピッチコークスを主原料として製造される。天然黒鉛としては、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛等を使用することが出来る。また、鱗片状黒鉛を化学処理等した膨張黒鉛(膨張性黒鉛ともいう)や、膨張黒鉛を熱処理して膨張化させた後、微細化やプレスにより得られた膨張化黒鉛等を使用することも出来る。これらの黒鉛の中でも、導電膜に用いる場合は、導電性の観点で天然黒鉛が好ましい。
【0018】
これら黒鉛の表面は、本発明に用いる導電性組成物の特性を損なわない限りにおいてバインダー樹脂との親和性を増すために、表面処理、例えばエポキシ処理、ウレタン処理、シランカップリング処理、および酸化処理等が施されていてもよい。
【0019】
また、用いる黒鉛の平均粒径は、2~100μmが好ましく、特に、20~50μmが好ましい。
【0020】
黒鉛の平均粒径が2μm未満では、黒鉛粒子のアスペクト比が低下し、黒鉛粒子間の接触が、点接触になりやすくなるため、導電ネットワークを十分に形成できない。一方で、黒鉛の平均粒径が100μm以上では、黒鉛粒子間の空隙が大きくなり、導電ネットワーク中の黒鉛以外の炭素材料間で形成する導電パスの割合が多くなり、導電性の低下を引き起こす。
【0021】
本発明でいう平均粒径とは、体積粒度分布において、粒子径の細かいものからその粒子の体積割合を積算していったときに、50%となるところの粒子径(D50)であり、一般的な粒度分布計、例えば、動的光散乱方式の粒度分布計(日機装社製「マイクロトラックUPA」)等で測定される。
【0022】
市販の黒鉛としては、例えば、薄片状黒鉛として、日本黒鉛工業社製のCMX、UP-5、UP-10、UP-20、UP-35N、CSSP、CSPE、CSP、CP、CB-150、CB-100、ACP、ACP-1000、ACB-50、ACB-100、ACB-150、SP-10、SP-20、J-SP、SP-270、HOP、GR-60、LEP、F#1、F#2、F#3、中越黒鉛社製のCX-3000、FBF、BF、CBR、SSC-3000、SSC-600、SSC-3、SSC、CX-600、CPF-8、CPF-3、CPB-6S、CPB、96E、96L、96L-3、90L-3、CPC、S-87、K-3、CF-80、CF-48、CF-32、CP-150、CP-100、CP、HF-80、HF-48、HF-32、SC-120、SC-80、SC-60、SC-32、伊藤黒鉛工業社製のEC1500、EC1000、EC500、EC300、EC100、EC50、西村黒鉛社製の10099M、PB-99等が挙げられる。球状天然黒鉛としては、日本黒鉛工業社製のCGC-20、CGC-50、CGB-20、CGB-50が挙げられる。土状黒鉛としては、日本黒鉛工業社製の青P、AP、AOP、P#1、中越黒鉛社製のAPR、S-3、AP-6、300Fが挙げられる。人造黒鉛としては、日本黒鉛工業社製のPAG-60、PAG-80、PAG-120、PAG-5、HAG-10W、HAG-150、中越黒鉛社製のRA-3000、RA-15、RA-44、GX-600、G-6S、G-3、G-150、G-100、G-48、G-30、G-50、SECカーボン社製のSGP-100、SGP-50、SGP-25、SGP-15、SGP-5、SGP-1、SGO-100、SGO-50、SGO-25、SGO-15、SGO-5、SGO-1、SGX-100、SGX-50、SGX-25、SGX-15、SGX-5、SGX-1が挙げられる。
【0023】
また、本発明中の導電性組成物に占める黒鉛の含有率は、特に、炭素材料100質量%中、40~99質量%であることが好ましい。
【0024】
黒鉛の含有率が、炭素材料100質量%中40質量%未満の場合では、過剰量の黒鉛以外の炭素材料による黒鉛粒子の配向性の低下および導電ネットワークの大部分を黒鉛以外の炭素材料が占めることで、特異的な高い導電性が発現しなくなることがある。一方で、黒鉛の含有率が炭素材料100質量%中99質量%を超える場合には、黒鉛粒子による平面方向の導電性が支配的となり、導電膜の導電性は頭打ちすることがある。
【0025】
黒鉛含有率が、炭素材料100質量%中、70~98質量%である場合、黒鉛粒子による平面方向の高い導電性に加え、適切な量の黒鉛以外の炭素材料(B-2)によって、黒鉛由来の平面方向の導電性を阻害せずに垂直方向の導電ネットワークが強化され、非常に高い導電性を発現できる。
【0026】
(黒鉛以外の炭素材料)
黒鉛以外の炭素材料としては、特に限定されるものではないが、粒径および比表面積の観点からカーボンブラックが好ましい。それ以外にも、導電性炭素繊維(カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンファイバー)、グラフェン系炭素材料、多孔質炭素、ナノポーラスカーボン、フラーレン等を単独で、もしくは2種類以上併せて使用することが出来る。
【0027】
カーボンブラックとしては、気体もしくは液体の原料を反応炉中で連続的に熱分解し製造するファーネスブラック、特にエチレン重油を原料としたケッチェンブラック、原料ガスを燃焼させて、その炎をチャンネル鋼底面にあて急冷し析出させたチャンネルブラック、ガスを原料とし燃焼と熱分解を周期的に繰り返すことにより得られるサーマルブラック、特にアセチレンガスを原料とするアセチレンブラックなどの各種のものを単独で、もしくは2種類以上併せて使用することができる。また、通常行われている酸化処理されたカーボンブラックや、中空カーボン等も使用できる。
【0028】
カーボンの酸化処理は、カーボンを空気中で高温処理したり、硝酸や二酸化窒素、オゾン等で二次的に処理したりすることより、例えばフェノール基、キノン基、カルボキシル基、カルボニル基の様な酸素含有極性官能基をカーボン表面に直接導入(共有結合)する処理であり、カーボンの分散性を向上させるために一般的に行われている。しかしながら、官能基の導入量が多くなる程カーボンの導電性が低下することが一般的であるため、酸化処理をしていないカーボンの使用が好ましい。
【0029】
用いるカーボンブラックの比表面積は、値が大きいほど、カーボンブラック粒子同士の接触点が増えるため、電極の内部抵抗を下げるのに有利となる。具体的には、窒素の吸着量から求められる比表面積(BET)で、20m2/g以上、1500m2/g以下、好ましくは50m2/g以上、1500m2/g以下、更に好ましくは100m2/g以上、1500m2/g以下のものを使用することが望ましい。比表面積が20m2/gを下回るカーボンブラックを用いると、十分な導電性を得ることが難しくなる場合があり、1500m2/gを超えるカーボンブラックは、市販材料での入手が困難となる場合がある。
【0030】
また、用いるカーボンブラックの粒径は、一次粒子径で0.005~1μmが好ましく、特に、0.01~0.2μmが好ましい。ただし、ここでいう一次粒子径とは、電子顕微鏡などで測定された粒子径を平均したものである。
【0031】
市販のカーボンブラックとしては、例えば、東海カーボン社製のトーカブラック#4300、#4400、#4500、#5500、デグサ社製のプリンテックスL、コロンビヤン社製のRaven7000、5750、5250、5000ULTRAIII、5000ULTRA、Conductex SC ULTRA、Conductex 975 ULTRA、PUERBLACK100、115、205、三菱化学社製の#2350、#2400B、#2600B、#3050B、#3030B、#3230B、#3350B、#3400B、#5400B、キャボット社製のMONARCH1400、1300、900、VulcanXC-72R、BlackPearls2000、TIMCAL社製のEnsaco250G、Ensaco260G、Ensaco350G、SuperP-Li等のファーネスブラック)、ライオン社製のEC-300J、EC-600JD等のケッチェンブラック、デンカ社製のデンカブラック、デンカブラックHS-100、FX-35等のアセチレンブラックが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0032】
カーボンナノチューブは、グラフェンシートが環を巻いたナノスケールのチューブ状の構造を有しており、グラフェンシートの積層数によって、単層、多層に区別される。カーボンナノチューブは、原料や合成方法によって繊維径や長さ、結晶性、集合状態を制御することで、材料の比表面積、導電性等の諸物性を制御することが可能となる。グラフェン系炭素材料と同様、合成コストや取り扱いを考慮すると、単層カーボンナノチューブよりも多層カーボンナノチューブの方が好ましい場合がある。
市販のカーボンナノチューブとしては、VGCF、VGCF-H、VGCF-X等の昭和電工社製カーボンナノチューブ、名城ナノカーボン社製カーボンナノチューブ等が挙げられる。
【0033】
グラフェン系炭素材料としては、炭素原子が同一平面上に六角形に配置し、グラファイトを構成する単原子層であるグラフェンが、単層若しくは、多層構造を有している炭素材料であれば良い。単層及び多層グラフェンは、グラファイトを機械的、化学的に剥がしたり、炭化水素系ガスからCVD法でなどにより合成されるが、合成コストや取り扱いを考慮すると、単層グラフェンよりも十数~数十層積層された多層グラフェンが好ましい場合がある。
市販のグラフェン系炭素材料としては、例えば、xGnP-C-750、xGnP-M-5等のXGSciences社製グラフェンナノプレートレット等が挙げられる。
【0034】
多孔質炭素は、一般的に酢酸マグネシウムなどの鋳型材料と炭素原料を混合して焼成後、鋳型材料を除去することで得られる。鋳型材料の種類、粒径、規則性等を制御することで得られる多孔質炭素の物性を制御することが出来る。
市販の多孔質炭素としては、クノーベルMHグレード、クノーベルP(2)010グレード、クノーベルP(3)010グレード、クノーベルP(4)050グレード等の東洋カーボン社製の多孔質炭素等が挙げられる。
【0035】
ナノポーラスカーボンは、表面にメソポーラス構造を有し粒径20~50nm程度の球状粒子である。メソポーラス構造に由来する高い表面積、細孔容積により優れた吸着能を有している。
市販のナノポーラスカーボンとしては、Easy-N社製ナノポーラスカーボンが挙げられる。
【0036】
(溶剤)
本発明に使用する溶剤としては、特に限定せず使用することができる。必要に応じて、例えば、分散性や支持体への塗工性向上のために、複数の溶剤種を混ぜて使用しても良い。溶剤としては、アルコール類、グリコール類、セロソルブ類、アミノアルコール類、アミン類、ケトン類、カルボン酸アミド類、リン酸アミド類、スルホキシド類、カルボン酸エステル類、リン酸エステル類、エーテル類、ニトリル類、水等が挙げられる。中でも水や、炭素数が4以下のアルコール系溶剤が好ましい。
【0037】
(バインダー)
本発明におけるバインダーとは、導電性炭素などの粒子を結着させるために使用されるものであり、それら粒子を溶媒中へ分散させる効果は小さいものである。
バインダーとしては、従来公知のものを使用することができ、例えば、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、スチレン-ブタジエンゴムやフッ素ゴム等の合成ゴム、ポリアニリンやポリアセチレン等の導電性樹脂等、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、パーフルオロカーボン及びテトラフルオロエチレン等のフッ素原子を含む高分子化合物が挙げられる。又、これらの樹脂の変性物、混合物、又は共重合体でも良い。これらバインダーは、1種または複数を組み合わせて使用することも出来る。
【0038】
また、水性液状媒体を使用する場合、一般的に水性エマルションとも呼ばれるバインダーも使用できる。水性エマルションとは、バインダー樹脂が水中で溶解せずに、微粒子の状態で分散されているものである。
【0039】
使用するエマルションは特に限定されないが、(メタ)アクリル系エマルション、ニトリル系エマルション、ウレタン系エマルション、ジエン系エマルション(SBR(スチレンブタジエンゴム)など)、フッ素系エマルション(PVDF(ポリフッ化ビニリデン)やPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)など)等が挙げられる。
【0040】
(分散剤)
本発明において使用する分散剤は、導電性炭素に対して分散剤として有効に機能し、その凝集を緩和することができる。分散剤は導電性炭素に対して凝集を緩和する効果が得られれば特に限定されるものではない。
【0041】
(分散機・混合機)
前記組成物を得る際に用いられる装置としては、顔料分散等に通常用いられている分散機、混合機が使用できる。
【0042】
例えば、ディスパー、ホモミキサー、若しくはプラネタリーミキサー等のミキサー類;エム・テクニック社製「クレアミックス」、若しくはPRIMIX社「フィルミックス」等のホモジナイザー類;ペイントシェーカー(レッドデビル社製)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等)、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等)、若しくはコボールミル等のメディア型分散機;湿式ジェットミル(ジーナス社製「ジーナスPY」、スギノマシン社製「スターバースト」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等)、エム・テクニック社製「クレアSS-5」、若しくは奈良機械社製「MICROS」等のメディアレス分散機;または、その他ロールミル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、分散機としては、分散機からの金属混入防止処理を施したものを用いることが好ましい。
【0043】
例えば、メディア型分散機を使用する場合は、アジテーター及びベッセルがセラミック製又は樹脂製の分散機を使用する方法や、金属製アジテーター及びベッセル表面をタングステンカーバイド溶射や樹脂コーティング等の処理をした分散機を用いることが好ましい。そして、メディアとしては、ガラスビーズ、または、ジルコニアビーズ、若しくはアルミナビーズ等のセラミックビーズを用いることが好ましい。また、ロールミルを使用する場合についても、セラミック製ロールを用いることが好ましい。分散装置は、1種のみを使用しても良いし、複数種の装置を組み合わせて使用しても良い。
【0044】
(塗工・乾燥)
酵素発電デバイス回路配線用導電炭素組成物の塗工及び乾燥は、カーボンペーパー等の導電性支持体や紙類等の非導電性支持体に前記組成物を直接塗布し乾燥することにより作製する方法や、転写基材などに前記組成物を塗布し乾燥することにより形成された塗膜を前記支持体やセパレーター等に転写する方法等で作製される。
組成物の塗布方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、ナイフコーター、バーコーター、ブレードコーター、スプレー、ディップコーター、スピンコーター、ロールコーター、ダイコーター、カーテンコーター、スクリーン印刷等の一般的な方法を適用できる。
【0045】
<導電性支持体>
酵素発電デバイスにおいて、正極および負極に導電性支持体を用いても良い。酵素発電デバイスに用いる導電性支持体は、導電性を有する材料であれば特に限定は無い。カーボンペーパーやカーボンクロス等導電性の炭素材料からなる導電層や金属箔、金属メッシュ等が挙げられる。また、回路配線と同様に、紙類、布類等の非導電性支持体に酵素発電デバイス回路配線用導電炭素組成物やポリアニリン、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性高分子を塗布、乾燥したものやそれらを併用したものを用いてもよい。前記組成物の塗布方法としては、特に限定されるものではなく、酵素発電デバイス用回路配線の作製の際に使用するような一般的な方法を適用できる。
廃棄の容易さやコストの観点から、非導電性支持体に酵素発電デバイス回路配線用導電炭素組成物を塗布、乾燥したものを用いた方が好ましい。特に非導電性支持体は折り曲げ可能な支持体であることが好ましい。更に、紙または布類の非導電性支持体に酵素発電デバイス回路配線用導電炭素組成物を塗布、乾燥したものを用いた方が好ましい。
【0046】
<酵素発電デバイス用負極>
酵素発電デバイス用負極では、燃料の酸化反応により発生した電子をカソードに供給する。酵素発電デバイス用負極は、導電性支持体やセパレーター等の基材に前記酵素発電デバイス回路配線用導電炭素組成物を直接塗布し乾燥した塗膜や、転写基材などに前記酵素発電デバイス回路配線用導電炭素組成物を塗布し乾燥することにより形成された塗膜を支持体やセパレーター等に転写して作製した塗膜に酵素やメディエーターを担持させたり、導電性支持体に酵素やメディエーターを直接担持させたり、酵素を含む酵素発電デバイス回路配線用導電炭素組成物を支持体に塗布し乾燥したりして作製される。また、アスコルビン酸等の還元性燃料を用いる場合は、酵素以外の負極用触媒として炭素材料、導電性高分子、貴金属元素を含む触媒、卑金属元素を含む触媒で酸化反応が起こる。その場合も、導電性支持体やセパレーター等の基材に前記酵素発電デバイス回路配線用導電炭素組成物を直接塗布し乾燥した塗膜や、転写基材などに前記酵素発電デバイス回路配線用導電炭素組成物を塗布し乾燥することにより形成された塗膜を支持体やセパレーター等に転写して作製した塗膜に、酵素以外の負極用触媒を塗工などにより積層、担持させたり、酵素以外の導電性支持体に負極用触媒を直接担持させたり、酵素以外の負極用触媒を含む酵素発電デバイス回路配線用導電炭素組成物を支持体に塗布し乾燥したりして作製される。
前記組成物の塗布方法としては、特に限定されるものではなく、酵素発電デバイス用回路配線の作製の際に使用するような一般的な方法を適用できる。
酵素やメディエーターを担持する方法は、上記組成物に含ませて行っても良いし、塗布後乾燥した塗膜や、導電性支持体に後から行っても良い。後から行う場合では、酵素やメディエーターを溶解させた液を上記塗膜や、導電性支持体に浸漬等させた後、乾燥させて担持する方法等が使用できる。
【0047】
<酵素発電デバイス負極用酵素>
本発明における酵素としては、反応により電子を授受できる酵素であれば特に制限はなく、供給する燃料やコスト、デバイスの種類等に応じて適宜選択される。酵素としては、物質代謝など生体内での多くの酸化還元反応を触媒する酸化還元酵素が好ましい。
酵素発電デバイスの負極に用いる酵素は電子を放出できるものであればよく、糖や有機酸などのオキシダーゼやデヒドロゲナーゼなどが利用できる。中でも、他の酵素に比べ安価で、安定性が高く、人体の血液や尿などの生体試料に含まれるグルコースを燃料にできるグルコースオキシダーゼやグルコースデヒドロゲナーゼが好ましい場合がある。その他、フルクトースを燃料にできるフルクトースオキシダーゼやフルクトースデヒドロゲナーゼ、乳酸を燃料にできる乳酸オキシダーゼや乳酸デヒドロゲナーゼが好ましい場合がある。
【0048】
<メディエーター>
酵素には電極に直接電子を伝達できる直接電子移動型(DET型)酵素と直接電子を伝達できない酵素が存在する。DET型でない酵素の場合には、燃料の酸化によって生じた電子を酵素から電極に伝達する役割を担うメディエーターを併用する必要がある。メディエーターとしては、電極に電子を伝達できる酸化還元物質であれば特に制限はなく、従来公知のものを使用できる。メディエーターの使用方法としては、電極に担持させる方法や電解液に溶解させて使用する方法等がある。メディエーターとしては、テトラチアフルバレン、ハイドロキノンや1,4‐ナフトキノン等のキノン類などの非金属化合物、フェロセン、フェリシアン化物、オスミウム錯体、及びこれら化合物を修飾したポリマー等が例示できる。分別、廃棄の観点から非金属化合物が好ましい。
【0049】
<酵素発電デバイス用正極>
酵素発電デバイス用正極では、アノードで発生した電子を受け取り、電極中の還元反応によりこれを消費する。酵素発電デバイス用正極の構造としては、例えば、酸素を電子受容体として使用する酸素還元反応の場合では、反応場となる正極触媒の活性点まで電子及びプロトンの伝導パスや酸素の供給パスが確保されていることが効率的な発電を行う上では好ましい。
酵素発電デバイス用正極は、触媒に無機化合物を用いるものと酵素を用いるものがある。導電性支持体(カーボンペーパーや導電性カーボン層など)やセパレーター等の基材に正極触媒を含む組成物を直接塗布し乾燥することにより作製する方法や、転写基材などに前記組成物を塗布し乾燥することにより形成された塗膜を前記導電性支持体やセパレーター等に転写する方法等で作製される。また、正極触媒に酵素を用いるものは、酵素発電デバイス用負極と同様の方法で組成物作製、塗布を行ってもよい。
組成物の塗布方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、ナイフコーター、バーコーター、ブレードコーター、スプレー、ディップコーター、スピンコーター、ロールコーター、ダイコーター、カーテンコーター、スクリーン印刷等の一般的な方法を適用できる。
【0050】
<酵素発電デバイス正極用触媒>
酵素発電デバイス正極で無機化合物を触媒として用いる場合、酸素還元触媒として貴金属触媒、卑金属酸化物触媒、炭素触媒が挙げられる。中でも、炭素触媒は金属含有量がほとんど無いあるいは少なくコストの面でも好ましい。
貴金属触媒とは、遷移金属元素のうちルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、オスミウム、イリジウム、白金、金から選択される元素を一種以上含む触媒である。これら貴金属触媒は単体でも別の元素や化合物に担持されたものでも良い。
卑金属酸化物触媒は、ジルコニウム、タンタル、チタン、ニオブ、バナジウム、鉄、マンガン、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、クロム、タングステン、およびモリブデンからなる群より選択された少なくとも1種の卑金属元素を含む酸化物を使用することができ、より好ましくはこれら卑金属元素の炭窒化物や、これら遷移金属元素の炭窒酸化物を使用することができる。
炭素触媒は、1種または2種以上の、炭素材料と、窒素元素および/または前記卑金属元素を含有する化合物とを混合し、熱処理を行い作製された炭素触媒であって、従来公知のものを使用できる。炭素触媒に用いられる炭素材料は、無機材料由来の炭素粒子および/または有機材料を熱処理して得られる炭素粒子であれば特に限定されない。
また、酵素を触媒として用いる場合、酵素発電デバイスの正極では電子を消費できる酵素であれば良く、ビリルビンオキシダーゼ、ラッカーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼなどの還元酵素の一種で、分子状酸素の還元を触媒する酸素還元酵素を用いることが出来る。酸素還元酵素を使用する酵素発電デバイス用正極では、電位負荷や副反応における酵素の劣化により無機化合物の触媒より使用耐久性が低いことがある。
【0051】
<セパレーター>
セパレーターとしては、負極と正極を電気的に分離できる(短絡の防止)ものであれば、特に限定されず従来公知の材料を用いる事ができる。具体的には、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ガラス繊維、樹脂不織布、ガラス不織布、フェルト、濾紙、和紙等を用いることができる。また、正極と負極が十分な距離を保ち接触による短絡が無い構造を取るならば、セパレーターを用いなくてもよい。
【0052】
<イオン伝導体>
本発明におけるイオン伝導体はアノードとカソードの間でイオンの伝導を行うものである。イオン伝導体の形態はイオン伝導性を有するものであれば特に限定されるものではない。イオン伝導体としては例えば、リン酸緩衝液などの液体に電解質が溶けている電解液や、固体のポリマー電解質などを使用しても良い。
【0053】
<燃料>
本願の酵素発電デバイスで使用できる燃料としては、酵素で分解できる有機物であれば特に限定はされず、D-グルコース等の単糖類、デンプン等の多糖類、エタノール等のアルコール、有機酸などの有機物であれば幅広く利用できる。例えば、グルコース、フルクトース、および乳酸が挙げられる。
【0054】
<酵素発電デバイス(酵素電池ともいう)>
本発明における酵素発電デバイスは前述の様に、発電した電力を用いた電源、電源とセンサーを兼ねる自己発電型センサー、有機物センサーや水分センサー等として機能し、これらは様々な用途での利用が見込まれる。使い方としては、電源として別方式の電池(コイン電池など)、センサーとして本発明の酵素発電デバイスを利用したり、電源及びセンサーに本発明の酵素発電デバイスを1種類以上利用したり、電源として本発明の酵素発電デバイス、センサーとして別方式のセンサーを利用したりすることができる。
【0055】
本発明における酵素発電デバイスの電源用途としては、例えば、家庭用電源、モバイル機器用の電源、使い捨て電源、生体用ウェアラブル電源・インプラント電源、バイオマス燃料用電源、IoTセンサー用電源、周囲の有機物を燃料として発電できる環境発電(エネルギーハーベスト)電源などが挙げられる。
【0056】
センサーの用途としては、例えば、各種有機物を対象とした有機物センサー、血液や汗、尿、便、涙、唾液、呼気などの生体試料中の有機物や体液を対象とした生体センサー、水分を対象にした水分センサー、果物や食品中の糖等を対象にした食品用センサー、IoTセンサー、大気や河川、土壌など環境中の有機物を対象にした環境センサー、動物や昆虫、植物を対象にした動植物センサー等が挙げられ、上記は電源とセンサーを兼ねる自己発電型センサーであっても良いし、電源としては利用しないセンサーとしての利用だけでも良い。生体センサーとしては、例えば、血液中の糖をセンシングする血糖値センサーや、尿中の糖をセンシングする尿糖値センサー、汗中の乳酸値をセンシングする疲労度センサーや熱中症センサー、汗や尿中の水分をセンシングする発汗センサーや排尿センサー等が挙げられる。また、生体向けのウェアラブルセンサーとしての用途として例えば、おむつ内にセンサーを仕込んだ排尿センサーや尿糖値センサー、経皮貼付型の発汗、熱中症センサーなどが挙げられる。
IoTセンサーとしては、無線機とセンサーを組み合わせ、センシング情報をワイヤレスで外部に送信する使い方ができる。その場合、本発明の酵素発電デバイスを好適に使用することができる。
例えば、無線機の電源及びセンサーとして酵素発電デバイスを利用したり、無線機の電源に酵素発電デバイス、センサーとして別の酵素発電デバイスを利用したり、無線機の電源に酵素発電デバイス、センサーとして別方式のセンサーを利用したり、無線機及びセンサーの電源に1種以上の酵素発電デバイス、センサーとして別方式のセンサーを利用したり、無線機の電源に別方式の電池(コイン電池など)、センサーとして酵素発電デバイスを利用したりすることができる。
上記のIoTセンサーをおむつ用の生体センサーとして利用する場合は、おむつ内に酵素発電デバイスを仕込み、例えば下記の様な使い方が出来る。尿糖値センサーの場合、尿中の糖を燃料及びセンシング対象として利用し、得られた電力で無線機を作動したり、尿中の糖をセンシング対象として利用し、予め燃料を内蔵し尿中の水分を利用し発電し得られた電力で無線機を作動したり、尿中の糖をセンシング対象として利用し、別方式の電池(コイン電池など)の電力で無線機を作動したりできる。排尿センサーの場合、予め燃料を内蔵し尿中の水分をセンシング対象とし、また同時に水分を利用し発電し得られた電力で無線機を作動したり、予め燃料を内蔵し尿中の水分を利用し発電し得られた電力で無線機及び別方式の排尿センサーを作動したり、予め燃料を内蔵し尿中の水分をセンシング対象とし、別方式の電池(コイン電池など)の電力で無線機を作動したりできる。
また、上記センサーを皮膚貼付型の生体センサーとして使用する場合は、酵素発電デバイスを粘着剤などにより直接皮膚に貼り付けたり、衣類や装飾品に酵素発電デバイスを埋め込むことで、例えば下記の様な使い方ができる。乳酸値センサーの場合、汗中の乳酸を燃料及びセンシング対象として利用し、得られた電力で無線機を作動したり、汗中の乳酸をセンシング対象として利用し、予め燃料を内蔵し汗中の水分を利用し発電して得られた電力で無線機を作動したり、汗中の乳酸をセンシング対象として利用し、別方式の電池(コイン電池など)の電力で無線機を作動したりできる。
【実施例】
【0057】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。なお、実施例および比較例における「部」は「質量部」、%は質量%を表す。
【0058】
<酵素発電デバイス回路配線用導電炭素組成物の作製>
鱗状黒鉛CB-150(日本黒鉛社製)を18部、ファーネスブラックVULCAN(登録商標)XC72(CABOT社製)を4.5部、バインダーとしてエマルション型アクリル樹脂分散溶液(トーヨーケム社製:W-168)を3部(固形分50%)、分散剤としてカルボキシメチルセルロース水溶液50部(固形分2%)、溶剤として水49.5部をミキサーに入れて混合し、更にサンドミルに入れて分散を行い、酵素発電デバイス回路配線用導電炭素組成物(1)を得た。
【0059】
<酵素発電デバイス用回路配線の作製>
前記酵素発電デバイス回路配線用導電炭素組成物(1)を、基材となる定性ろ紙No.1(アドバンテック社製)上にドクターブレードを用いて塗布した後、加熱乾燥し、導電層の厚さが80μmとなるよう調整し、酵素発電デバイス用回路配線(1)を得た。
【0060】
<酵素発電デバイス用導電性支持体の作製>
酵素発電デバイス用回路配線と同様に、前記酵素発電デバイス回路配線用導電炭素組成物を、基材となる定性ろ紙No.1(アドバンテック社製)上にドクターブレードを用いて塗布した後、加熱乾燥し、導電層の厚さが80μmとなるよう調整した。長さ8cm幅15cmの四角形に切り出したものを酵素発電デバイス用導電性支持体(1)、長さ18cm幅15cmの四角形に切り出したものを酵素発電デバイス用導電性支持体(2)とした。
【0061】
<酵素発電デバイス負極用電極の作製>
導電性炭素材料としてファーネスブラックVULCAN(登録商標)XC72(CABOT社製)の組成物をドクターブレードにより、導電性支持体(1)および(2)の片端に、乾燥後の導電性炭素材料の目付け量が2mg/cm2となるように塗布した後、メディエーターとしてフェロセンのメタノール溶液と、負極触媒としてグルコースオキシダーゼ水溶液をそれぞれ滴下し、自然乾燥させ酵素発電デバイス用負極(1)および(2)を得た。また、メディエーターをテトラチアフルバレンとして同様に酵素発電デバイス用負極(3)および(4)を作製した。また、メディエーターをテトラチアフルバレン、酵素を乳酸オキシダーゼとして同様に酵素発電デバイス用負極(5)および(6)を得た。
【0062】
<酵素発電デバイス正極用炭素触媒の製造>
[製造例1]
グラフェンナノプレートレットxGnP-C-750(XGscience社製)と鉄フタロシアニン P-26(山陽色素社製)を、質量比1/0.5(グラフェンナノプレートレット/鉄フタロシアニン)となるようにそれぞれ秤量し、乾式混合を行い、混合物を
得た。上記混合物を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、800℃で2時間熱処理を行い、酵素発電デバイス正極用炭素触媒(1)を得た。
【0063】
[製造例2]
グラフェンナノプレートレットxGnP-C-750(XGscience社製)とフタロシアニンを、質量比1/0.5(グラフェンナノプレートレット/フタロシアニン)となるようにそれぞれ秤量し、乾式混合を行い、混合物を得た。上記混合物を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、800℃で2時間熱処理を行い、酵素発電デバイス正極用炭素触媒(2)を得た。
【0064】
<酵素発電デバイス用正極の作製>
酵素発電デバイス正極用炭素触媒(1)4.8部、水性液状媒体として水49.2部、更に分散剤としてカルボキシメチルセルロース水溶液40部(固形分2%)をミキサーに入れて混合し、更にサンドミルに入れて分散した。その後、バインダーとしてエマルション型アクリル樹脂分散溶液(トーヨーケム社製:W-168)6部(固形分50%)を加えミキサーで混合し、酵素発電デバイス正極用電極組成物(1)を得た。
その後、酵素発電デバイス正極用電極組成物(1)を、ドクターブレードにより、導電性支持体(1)および(2)の片端に、乾燥後の酵素発電デバイス正極用炭素触媒の目付け量が2mg/cm2となるように塗布し、待機雰囲気中95℃、60分間乾燥し、酵素発電デバイス用正極(1)および(2)を得た。
酵素発電デバイス正極用炭素触媒(2)を用いて、上記酵素発電デバイス正極(1)および(2)と同様の方法で、酵素発電デバイス用正極(3)および(4)を得た。
導電性炭素材料としてファーネスブラックVULCAN(登録商標)XC72(CABOT社製)組成物をドクターブレードにより、導電性支持体(1)および(2)の片端の片面に、乾燥後の導電性炭素材料の目付け量が2mg/cm2となるように塗布、乾燥した後、正極触媒(3)として酸素還元酵素のビリルビンオキシダーゼ水溶液を滴下し、自然乾燥させ酵素発電デバイス用正極(5)および(6)を得た。
【0065】
<酵素発電デバイスの作製>
上記作製した酵素発電デバイス用回路配線、同正極、同負極に加えて、セパレーターとして定性ろ紙No.1(アドバンテック社製)を貼り合わせて、表1に示す酵素発電デバイスを作製した。なお、実施例4~6、10~12、15、16は回線配線と導電性支持体が一体となっている。
【表1】
【0066】
<無線通信回路の構築>
上記作製した酵素発電デバイスについて、昇圧コンバーター(LTC3108 ストロベリーリナックス社製)、無線機(送信モジュール IM315TX、受信モジュール IM315RX インタープラン社製)を、酵素発電デバイスから昇圧コンバーターへ接続し、昇圧コンバーターから無線機の送信モジュールに接続、更に送信モジュールから発信された無線信号を無線機の無線モジュールで受信する無線通信回路を構築した。実施例1~3、7~9、13については、酵素発電デバイス正極および負極から昇圧コンバーターへの接続は、回路配線(1)を貼り合わせて用いており、実施例4~6、10~12、14については、正極および負極組成物の塗布部分から延長した導電性支持体に直接昇圧コンバーターへ接続した。
【0067】
<酵素発電デバイスを用いた無線送信の評価>
上記回路を構築後、実施例1~12の酵素発電デバイスのセパレーター部分に燃料として0.01MのD-グルコースを含む0.1Mりん酸緩衝液(燃料溶液)を滴下すると、いずれの実施例においても受信モジュールで信号の受信が確認された。これはグルコースを含む溶液の滴下によって酵素発電デバイスで発電が起こり、その電力により送信モジュールが起動し信号が送られたことを示している。すなわち、本発明の酵素発電デバイスで発電が確認された。また、電源を必要としない無線送信システムとして使用できることも併せてわかった。また、実施例13~16の酵素発電デバイスのセパレーター部分に燃料として0.01Mの乳酸を含む0.1Mりん酸緩衝液(燃料溶液)を滴下すると、いずれの実施例においても樹脂新モジュールで信号の受信が確認された。
また、実施例1~12における酵素発電デバイスのセパレーターに、燃料としてD-グルコース、イオン伝導体として塩化ナトリウムが予め担持されたろ紙(燃料ろ紙)を設置し、水を上記と同様に滴下したところ、いずれの酵素発電デバイスにおいても受信モジュールで信号の受信が確認された。これは、水が滴下されると燃料ろ紙内のグルコース及び塩化ナトリウムが水中に溶解、拡散し、それぞれ燃料およびイオン伝導体として働くため酵素発電デバイスの発電が生起していることを示している。
【0068】
<酵素発電デバイスを用いたセンシング>
実施例7の酵素発電デバイスについて、0.01M、0.05M、0.1Mのグルコースを含む0.1Mりん酸緩衝液(燃料溶液)中で、ポテンショ・ガルバノスタット(VersaSTAT3、Princeton Applied Research社製)を用いて、室温下におけるLinear Sweep Voltammetry(LSV)測定で出力密度を確認したところ、グルコース濃度と出力密度の間には相関がみられた。実施例9、10の酵素発電デバイスにおいても、同様にグルコース濃度と出力密度に相関がみられた。更に実施例13~16の酵素発電デバイスについて、0.01M、0.05M、0.1Mの乳酸を含む0.1Mりん酸緩衝液(燃料溶液)中で、LSV測定により0.1Vにおける出力密度を確認したところ、いずれも乳酸濃度と出力密度に相関がみられた。燃料濃度による出力変化を得られたため、センサーとしての使途が示唆された。
【0069】
実施例1~16での回路配線(および導電性支持体)はいずれも非金属材料から構成されているため、分別、廃棄が容易である。更に、実施例7~16においては、メディエーターも非金属元素から構成されており、電極の分別、廃棄が容易である。また、触媒(2)および(3)は非金属材料のため、これらを使用した実施例は非金属材料の導電性支持体を使用したことも相まって正極の分別、廃棄が容易になる。
また、実施例1~16は回路配線および導電性支持体にフレキシブルな基材を用いているため、折り曲げ可能である。例えば、カーボンペーパーを回路配線や支持体に適用した場合、折り曲げると割れるため酵素発電デバイスとして機能しないが、実施例1~16は破断しない。そのため、実施例1~16は折り曲げが生じる箇所や湾曲した箇所に取りつけて動作することも可能である。