(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】浸炭部品、浸炭部品用の素形材、及び、それらの製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20221227BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20221227BHJP
C21D 1/06 20060101ALN20221227BHJP
C21D 8/06 20060101ALN20221227BHJP
C21D 9/28 20060101ALN20221227BHJP
C23C 8/02 20060101ALN20221227BHJP
C23C 8/22 20060101ALN20221227BHJP
【FI】
C22C38/00 301N
C22C38/60
C21D1/06 A
C21D8/06 A
C21D9/28 A
C23C8/02
C23C8/22
(21)【出願番号】P 2018232243
(22)【出願日】2018-12-12
【審査請求日】2021-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】松元 愛
(72)【発明者】
【氏名】大橋 徹也
【審査官】相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-034683(JP,A)
【文献】特開2000-063943(JP,A)
【文献】特開2012-158827(JP,A)
【文献】特開2015-160979(JP,A)
【文献】特開2006-161142(JP,A)
【文献】特開2007-284739(JP,A)
【文献】特開2015-134945(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 1/06
C21D 8/00- 8/10
C21D 9/00- 9/44
C23C 8/00-12/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
浸炭層と、前記浸炭層よりも内部の芯部とを備え、
前記芯部は、質量%で、
C:0.13~0.23%、
Si:0.02~0.15%、
Mn:0.55~0.95%、
P:0.020%以下、
S:0.003~0.030%、
Cr:0.85~1.23%、
Mo:0.35~0.50%、
Al:0.020~0.050%、
N:0.010~0.025%、
Nb:0.010~0.060%、
Cu:0~0.30%、
Ni:0~0.25%、
Pb:0~0.30%、
Ca:0~0.005%、
Bi:0~0.30%、
Ti:0~0.100%、
B:0~0.010%、
V:0~0.20%、及び、
Zr:0~0.10%を含有し、残部はFe及び不純物からなる化学組成を有し、
ミクロ組織において、最大の結晶粒径を有する最大粒の結晶粒度番号が4.0以上であり、
平均粒度番号と前記最大粒の結晶粒度番号との差が8.0以下であり、
芯部硬さがHV260以上であり、
Nb析出物として析出しているNb量が全Nb含有量の60%以上であり、
前記Nb析出物の最大径が230nm未満である、浸炭部品。
【請求項2】
請求項
1に記載の浸炭部品であって、
前記芯部の前記化学組成は、
Cu:0.02~0.30%、
Ni:0.02~0.25%、
Pb:0.01~0.30%、
Ca:0.0003~0.005%、
Bi:0.01~0.30%、
Ti:0.005~0.100%、
B:0.0001~0.010%、
V:0.005~0.20%、及び、
Zr:0.0003~0.10%からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する、浸炭部品。
【請求項3】
質量%で、
C:0.13~0.23%、
Si:0.02~0.15%、
Mn:0.55~0.95%、
P:0.020%以下、
S:0.003~0.030%、
Cr:0.85~1.23%、
Mo:0.35~0.50%、
Al:0.020~0.050%、
N:0.010~0.025%、
Nb:0.010~0.060%、
Cu:0~0.30%、
Ni:0~0.25%、
Pb:0~0.30%、
Ca:0~0.005%、
Bi:0~0.30%、
Ti:0~0.100%、
B:0~0.010%、
V:0~0.20%、及び、
Zr:0~0.10%を含有し、残部はFe及び不純物からなる化学組成を有し、
Nb析出物として析出しているNb量が全Nb含有量の80%以上であり、
前記Nb析出物の最大径は200nm未満である浸炭部品用の素形材。
【請求項4】
請求項
3に記載の浸炭部品用の素形材であって、
前記化学組成は、
Cu:0.02~0.30%、
Ni:0.02~0.25%、
Pb:0.01~0.30%、
Ca:0.0003~0.005%、
Bi:0.01~0.30%、
Ti:0.005~0.100%、
B:0.0001~0.010%、
V:0.005~0.20%、及び、
Zr:0.0003~0.10%からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する、浸炭部品用の素形材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浸炭部品、浸炭部品用の素形材、及び、それらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や産業機械のエンジン等の動力源及び動力伝達機構に用いられる機械部品は、衝撃的に付与される負荷や摺動により、使用中に曲げ応力を受ける。したがって、これらの用途の機械部品には、高い疲労強度が求められる。高い疲労強度を得るために、これらの用途に用いられる機械部品には、浸炭部品が用いられることが多い。浸炭部品は、鋼材を浸炭処理して得られる。浸炭処理により、浸炭部品の表面には浸炭層が形成されている。この浸炭層により、高い疲労強度が得られる。浸炭層とは、C含有量が浸炭部品の芯部のC含有量よりも高い領域を意味する。
【0003】
高い疲労強度を得るためには、浸炭処理時に発生する旧オーステナイト結晶粒の粗大化を抑制することが効果的である。
【0004】
浸炭処理時の旧オーステナイト結晶粒の粗大化を抑制するために、冷間鍛造後であって浸炭処理前に、焼準処理を実施する方法がある。しかしながら、浸炭部品製造の工程の簡略化のため、冷間鍛造後であって浸炭処理前の焼準処理を省略しても、旧オーステナイト結晶粒の粗大化を抑制可能な浸炭部品の製造方法が求められている。
【0005】
特開2011-157597号公報(特許文献1)、特開2012-229475号公報(特許文献2)及び特開2012-158827号公報(特許文献3)は、冷間鍛造後であって浸炭処理前の焼準処理を実施しなくても、浸炭処理時の旧オーステナイト結晶粒の粗大化を抑制する技術を提案する。
【0006】
特許文献1に記載された熱間圧延棒鋼又は線材は、質量%で、C:0.1~0.3%、Si:0.05~1.0%、Mn:0.4~2.0%、S:0.005~0.05%、Cr:0.5~2.0%、Al:0.01~0.06%、N:0.005~0.025%及びNb:0.02~0.08%を含有し、残部がFe及び不純物からなり、不純物中のP、Ti及びO(酸素)がそれぞれ、P:0.025%以下、Ti:0.003%以下及びO(酸素):0.002%以下である化学組成を有する。棒鋼又は線材の表面から半径の1/5までの領域及び中心部から半径の1/5までの領域において、AlN及びAlN-Nb(CN)として析出しているAl量が0.010%以下、Nb(CN)及びAlN-Nb(CN)として析出しているNb量が0.020%以下であり、かつ、直径100nm以上の、AlN、Nb(CN)及びAlN-Nb(CN)の合計の個数密度が50個/100μm2以下であり、フェライト・ベイナイト組織の面積率が80%以上、ベイナイトの面積率が30~70%及びフェライト平均粒径が15~40μmの、金属組織を有する。これにより、オーステナイト粒の粗大化を抑制できる、と特許文献1には記載されている。
【0007】
特許文献2に記載された熱間圧延棒鋼又は線材は、質量%で、C:0.1~0.3%、Si:0.05~1.0%、Mn:0.4~2.0%、S:0.003~0.05%、Cr:0.5~3.0%、N:0.010~0.025%及びAl:0.02~0.05%を含有し、残部がFe及び不純物からなり、不純物中のP、Ti及びO(酸素)がそれぞれ、P:0.025%以下、Ti:0.003%以下及びO(酸素):0.002%以下である化学組成を有する。フェライト・ベイナイト組織又はフェライト・ベイナイト・パーライト組織からなり、ベイナイトの組織分率が70%を超え、フェライトの平均粒径が40μm以下の、金属組織を有し、棒鋼又は線材の表面から半径の1/5までの領域及び中心部から半径の1/5までの領域において、AlNとして析出しているAl量が0.005%以下、かつ、直径100nm以上のAlNの個数密度が5個/100μm2以下である。これにより、オーステナイト粒の粗大化を抑制できる、と特許文献2には記載されている。
【0008】
特許文献3に記載された表面硬化用熱間加工鋼材は、質量%で、C:0.10~0.30%、Si:0.50%以下、Mn:0.15~1.5%、P:0.04%以下、S:0.005~0.07%、Cr:0.7~3.0%、Al:0.01~0.05%、N:0.007~0.030%、Nb:0.02~0.07%及びH:0.00004%以下、を含有し、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有し、鋼中のNbのうちでNb(C、N)として析出しているNbの割合が、85%以上、直径100nm以上のNb(C、N)の個数密度が、5個/100μm2以下で、かつフェライト結晶粒度の標準偏差が0.15以下、である。これにより、オーステナイト粒の粗大化を抑制できる、と特許文献3には記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2011-157597号公報
【文献】特開2012-229475号公報
【文献】特開2012-158827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで近年、環境規制の側面から、二酸化炭素排出量削減が求められている。そのため、浸炭処理においても、高温かつ短時間での処理が求められている。しかしながら、特許文献1~特許文献3の技術では、加熱温度が1030℃以上となる高温での浸炭処理において、疲労強度が低い場合がある。
【0011】
本発明の目的は、冷間鍛造後の焼準処理を省略し、浸炭処理における加熱温度が1030℃以上となる場合であっても、高い疲労強度が得られる浸炭部品、浸炭部品用の素形材、及び、それらの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の実施の形態による浸炭部品の製造方法は、質量%で、C:0.13~0.23%、Si:0.02~0.15%、Mn:0.55~0.95%、P:0.020%以下、S:0.003~0.030%、Cr:0.85~1.23%、Mo:0.35~0.50%、Al:0.020~0.050%、N:0.010~0.025%、Nb:0.010~0.060%、Cu:0~0.30%、Ni:0~0.25%、Pb:0~0.30%、Ca:0~0.005%、Bi:0~0.30%、Ti:0~0.100%、B:0~0.010%、V:0~0.20%、及び、Zr:0~0.10%を含有し、残部はFe及び不純物からなる化学組成を有する素材を1300℃以上に加熱して圧延することにより鋼片を製造する分塊圧延工程と、製造した鋼片を800~1075℃に加熱して圧延することにより棒鋼を製造する棒鋼圧延工程と、棒鋼圧延工程後の棒鋼に対して球状化焼鈍を実施して素形材を製造する球状化焼鈍工程と、球状化焼鈍工程後の素形材に対して冷間鍛造を実施して冷間鍛造品を製造する冷間鍛造工程と、冷間鍛造工程後の冷間鍛造品に対して浸炭処理を実施する浸炭工程とを備える。
【0013】
本発明の実施の形態による浸炭部品は、浸炭層と、浸炭層よりも内部の芯部とを備え、芯部は、質量%で、C:0.13~0.23%、Si:0.02~0.15%、Mn:0.55~0.95%、P:0.020%以下、S:0.003~0.030%、Cr:0.85~1.23%、Mo:0.35~0.50%、Al:0.020~0.050%、N:0.010~0.025%、Nb:0.010~0.060%、Cu:0~0.30%、Ni:0~0.25%、Pb:0~0.30%、Ca:0~0.005%、Bi:0~0.30%、Ti:0~0.100%、B:0~0.010%、V:0~0.20%、及び、Zr:0~0.10%を含有し、残部はFe及び不純物からなる化学組成を有する。ミクロ組織において、最大の結晶粒径を有する最大粒の結晶粒度番号は4.0以上である。平均粒度番号と最大粒の結晶粒度番号との差は8.0以下である。芯部硬さはHV260以上である。Nb析出物として析出しているNb量が全Nb含有量の60%以上である。Nb析出物の最大径は230nm未満である。
【0014】
本発明の実施の形態による浸炭部品用の素形材の製造方法は、質量%で、C:0.13~0.23%、Si:0.02~0.15%、Mn:0.55~0.95%、P:0.020%以下、S:0.003~0.030%、Cr:0.85~1.23%、Mo:0.35~0.50%、Al:0.020~0.050%、N:0.010~0.025%、Nb:0.010~0.060%、Cu:0~0.30%、Ni:0~0.25%、Pb:0~0.30%、Ca:0~0.005%、Bi:0~0.30%、Ti:0~0.100%、B:0~0.010%、V:0~0.20%、及び、Zr:0~0.10%を含有し、残部はFe及び不純物からなる化学組成を有する素材を1300℃以上に加熱して圧延することにより鋼片を製造する分塊圧延工程と、製造した鋼片を800~1075℃に加熱して圧延することにより棒鋼を製造する棒鋼圧延工程と、棒鋼圧延工程後の棒鋼に対して球状化焼鈍を実施する球状化焼鈍工程とを備える。
【0015】
本発明の実施の形態による浸炭部品用の素形材は、質量%で、C:0.13~0.23%、Si:0.02~0.15%、Mn:0.55~0.95%、P:0.020%以下、S:0.003~0.030%、Cr:0.85~1.23%、Mo:0.35~0.50%、Al:0.020~0.050%、N:0.010~0.025%、Nb:0.010~0.060%、Cu:0~0.30%、Ni:0~0.25%、Pb:0~0.30%、Ca:0~0.005%、Bi:0~0.30%、Ti:0~0.100%、B:0~0.010%、V:0~0.20%、及び、Zr:0~0.10%を含有し、残部はFe及び不純物からなる化学組成を有する。Nb析出物として析出しているNb量が全Nb含有量の80%以上であり、Nb析出物の最大径は200nm未満である。
【発明の効果】
【0016】
本発明による浸炭部品、浸炭部品用の素形材、及び、それらの製造方法によれば、冷間鍛造後の焼準処理を省略し、浸炭処理における加熱温度が1030℃以上となる場合であっても、高い疲労強度が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、浸炭部品の製造方法を示すフロー図である。
【
図2】
図2は、実施例で作製した小野式回転曲げ疲労試験片の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
上記のとおり、高い疲労強度を得るためには、浸炭処理時の旧オーステナイト結晶粒の粗大化を抑制することが効果的である。しかしながら、浸炭処理における加熱温度が1030℃以上となる場合、1030℃未満での浸炭処理の場合よりも、旧オーステナイト結晶粒が粗大化しやすい。そこで本発明者らは、冷間鍛造後の焼準処理を省略し、浸炭処理における加熱温度が1030℃以上となる場合であっても、高い疲労強度を得る方法について、種々の検討を行い、次の知見を得た。
【0019】
本発明者らはまず、特許文献1~特許文献3の鋼材に対して、従前の製造方法を実施することにより浸炭部品を製造した。
図1は、浸炭部品の製造方法を示すフロー図である。従前の製造方法とは、
図1の製造方法を用いて、従前の製造条件で実施した製造方法である。より具体的には、特許文献1~特許文献3の化学組成を有する鋼材を準備した。素材を1250℃で360分加熱した。加熱した素材をリバース式の分塊圧延機で圧延し、リバース式の分塊圧延機での圧延後は再度加熱することなく、素材をタンデム式の圧延機列で圧延した。以上の分塊圧延により、鋼片を製造した(分塊圧延工程:S1)。製造した鋼片を1100℃で50分加熱した。加熱した鋼片を圧延することにより、棒鋼を製造した(棒鋼圧延工程:S2)。製造した棒鋼に対して、740℃で4時間保持後、0.25℃/secで660℃まで冷却した後に放冷し、球状化焼鈍を行った(球状化焼鈍工程:S3)。球状化焼鈍後の棒鋼に対して、後述の実施例にあるように冷間鍛造工程を模擬した引抜きを実施した(冷間鍛造工程:S4)。引抜き後の中間品から後述の小野式回転曲げ疲労試験片を作製した。小野式回転曲げ疲労試験片に対して、1030℃の浸炭処理を実施して、浸炭部品を模擬した試験片を製造した(浸炭工程:S5)。これらの試験片の疲労強度を調査した。
【0020】
上記の加熱温度が1030℃となる浸炭処理を実施した試験片のうち、疲労強度が低かった試験片のミクロ組織を観察した。すると、疲労強度が低かったこれらの試験片のミクロ組織において、観察視野において、最大の旧オーステナイト結晶粒径を有する結晶粒である最大粒の結晶粒度番号が4.0未満であることが分かった。さらに、疲労強度が低かった浸炭部品のミクロ組織において、旧オーステナイト結晶粒は、粗粒と細粒とが混在していることが分かった。
【0021】
最大粒の結晶粒度番号が4.0未満となり、粗粒と細粒とが混在する場合に疲労強度が低下する理由は、次のとおりと考えられる。浸炭部品の疲労強度は、旧オーステナイト結晶粒の粒径に相関する。したがって、粗粒と細粒とが混在していれば、つまり、旧オーステナイト結晶粒の粒径がばらついていれば、局所的に強度の低い部分が生じ、強度の低い部分を起点として、破断が生じる。粗粒と細粒との混在は、最大粒の結晶粒度番号が4.0未満と粗大な旧オーステナイト結晶粒とが発生するときに、特に多く発生する。
【0022】
そのため、本発明者らは、浸炭部品の組織において、旧オーステナイト結晶粒の粒径のばらつき(以下、粒度ばらつきともいう)を抑制するための方法について、さらに検討を行った。
【0023】
本発明者らはまず、ピンニング効果を有する析出物に着目した。析出物とはたとえば、Al窒化物(AlN)、Nb炭化物(NbC)、Nb窒化物(NbN)、Nb炭窒化物(Nb(CN))、及び、NbCとNbNとNbCNとAlNとが複合した析出物(AlN-Nb(CN))である。これらの析出物のうち、本願発明の実施の形態による浸炭部品の化学組成において、ピンニング効果を有効に得られるものは、NbC、NbN、Nb(CN)、及び、AlN-Nb(CN)である。NbC、NbN、Nb(CN)、及び、AlN-Nb(CN)を、以下、Nb析出物という。本発明の実施の形態による浸炭部品において、全析出物中のNb析出物の割合は、60~100質量%であるのが好ましい。
【0024】
本発明者らは、従来技術では、加熱温度が1030℃以上となる浸炭処理を実施した場合に粒度ばらつきが発生する原因は、上記の析出物であって、微細な析出物の数が不足しているためであると考えた。
【0025】
たとえば特許文献1及び特許文献2では、分塊圧延工程での加熱温度を低温にし、棒鋼圧延工程での加熱温度を高温にする。この場合、分塊圧延工程において析出物が十分に溶けず、棒鋼圧延工程中に溶け残った析出物が成長し、粗大化する可能性がある。これらの溶け残った析出物は、球状化焼鈍時にもさらに粗大化する可能性がある。その結果、従前の浸炭処理条件では問題がなくても、冷間加工工程で70%以上の強加工を施し、加熱温度が1030℃以上となる浸炭処理を実施した場合に、粗大な旧オーステナイト粒が発生し、粒度ばらつきが発生する可能性がある。
【0026】
特許文献3では、棒鋼圧延後であって冷間鍛造前に、球状化焼鈍を実施しない。棒鋼圧延後であって冷間鍛造前に球状化焼鈍を実施しない場合、球状化焼鈍時に析出物を析出させられないため、浸炭処理前に十分な数の析出物が得られないと考えられる。その結果、従前の浸炭処理条件では問題がなくても、加熱温度が1030℃以上となる浸炭処理を実施した場合に、粗大な旧オーステナイト粒が発生し、粒度ばらつきが発生する。
【0027】
そこで本発明者らは、従来よりも多くの析出物を粗大に成長させることなく、均一に析出させる方法について検討した。本発明者らは、従来よりも多くの析出物を微細に析出させるために、球状化焼鈍時だけでなく、熱間圧延時にも析出物を微細かつ均一に析出させることを考えた。
【0028】
しかしながら、分塊圧延工程時に析出物を析出させれば、棒鋼圧延工程時に析出物が成長し、粗大化しやすい。粗大な析出物は粗大な旧オーステナイト粒の発生を招き、疲労強度を低下させる。したがって、微細な析出物を、従来よりも多く均一に析出させる必要がある。
【0029】
熱間圧延は、分塊圧延工程と棒鋼圧延工程とを含む。そこで、本発明者らは、熱間圧延時のうち、分塊圧延工程での加熱温度を高温にして析出物をほとんど固溶させ、棒鋼圧延工程での加熱温度を低温にすることで、微細な析出物を多く均一に析出させることを考えた。より具体的には、分塊圧延工程での加熱温度を高温にすることで、析出物がほとんど固溶するため、棒鋼圧延工程時には、微細な析出物を析出させることができる。棒鋼圧延工程時の加熱温度を析出物の析出温度以上であり、かつ、析出物が粗大に成長しない温度にすることで、析出物を多く析出させ、かつ、微細な析出物を均一に析出させることができる。
【0030】
そこで、一例として、
図1の製造方法により、次の製造条件で浸炭部品を製造した。具体的には、後述の実施例中の試験番号1の化学組成を有する鋼材を準備した。素材を1355℃で360分加熱した。加熱した素材をリバース式の分塊圧延機で圧延し、リバース式の分塊圧延機での圧延後は再度加熱することなく、素材をタンデム式の圧延機列で圧延した。以上の分塊圧延により、鋼片を製造した(分塊圧延工程:S1)。製造した鋼片を1005℃で30分加熱した。加熱した鋼片を圧延することにより、棒鋼を製造した(棒鋼圧延工程:S2)。製造した棒鋼に対して、760℃で4時間保持後、0.25℃/secで660℃まで冷却後放冷し、球状化焼鈍を行った(球状化焼鈍工程:S3)。球状化焼鈍後の棒鋼に対して、冷間鍛造工程を模擬した引抜きを実施した(冷間鍛造工程:S4)。引抜き後の中間品を試験片加工し、1030℃で浸炭処理を実施して、浸炭部品を模擬した試験片を製造した(浸炭工程:S5)。得られた試験片のミクロ組織を、後述の方法により観察した。
【0031】
その結果、分塊圧延時の加熱温度を1355℃とし、棒鋼圧延時の加熱温度を1005℃とし、熱間圧延後であって冷間鍛造前に球状化焼鈍を実施した浸炭部品では、上記の従前の製造方法により製造された浸炭部品と比較して、旧オーステナイト結晶粒が比較的均一となった。つまり、粒度ばらつきが小さくなった。さらに、旧オーステナイト結晶粒の平均結晶番号は11.2であり、従前の浸炭部品よりも細粒となった。
【0032】
そこで、後述の小野式回転曲げ疲労試験により、疲労強度を調査した。その結果、旧オーステナイト結晶粒が微細であり、粒度ばらつきの小さい試験片では、粗大な旧オーステナイト粒が発生して粒度ばらつきの大きい試験片よりも、疲労強度が高かった。
【0033】
分塊圧延時の加熱温度と棒鋼圧延時の加熱温度とを変えて、種々調査した結果、本発明者らは、熱間圧延時のうち、分塊圧延時の加熱温度を1300℃以上とし、棒線圧延時の加熱温度を800~1075℃とすることで、微細な析出物を多く析出させることができ、その結果、浸炭部品の粒度ばらつきが抑制できることを見出した。より具体的には、分塊圧延時の加熱温度が1300℃以上の高温であれば、析出物を十分に固溶した鋼片を製造することができる。製造した鋼片に対して、800~1075℃の低温の加熱温度で棒鋼圧延を行うことにより、微細な析出物が均一に析出する。棒鋼圧延時の温度が800~1075℃であればさらに、加熱時に析出した析出物が粗大に成長しない。
【0034】
さらに、熱間圧延後であって冷間鍛造前に球状化焼鈍を行えば、鋼中のNbを、Nb析出物として微細に、多く析出させることができる。これらの析出物により、ピンニング効果を十分に得ることができる。その結果、粗大な旧オーステナイト粒の発生を抑制し、粒度ばらつきを抑制できる。これにより、浸炭部品の疲労強度を高めることができる。
【0035】
本発明の実施の形態において、旧オーステナイト結晶粒径のばらつきが大きいとは、平均粒度番号と最大粒の粒度番号との差が8.0を超えることを意味する。
【0036】
以上の知見に基づいて完成した本発明の実施の形態による浸炭部品の製造方法は、質量%で、C:0.13~0.23%、Si:0.02~0.15%、Mn:0.55~0.95%、P:0.020%以下、S:0.003~0.030%、Cr:0.85~1.23%、Mo:0.35~0.50%、Al:0.020~0.050%、N:0.010~0.025%、Nb:0.010~0.060%、Cu:0~0.30%、Ni:0~0.25%、Pb:0~0.30%、Ca:0~0.005%、Bi:0~0.30%、Ti:0~0.100%、B:0~0.010%、V:0~0.20%、及び、Zr:0~0.10%を含有し、残部はFe及び不純物からなる化学組成を有する素材を1300℃以上に加熱して圧延することにより鋼片を製造する分塊圧延工程と、製造した鋼片を800~1075℃に加熱して圧延することにより棒鋼を製造する棒鋼圧延工程と、棒鋼圧延工程後の棒鋼に対して球状化焼鈍を実施して素形材を製造する球状化焼鈍工程と、球状化焼鈍工程後の素形材に対して冷間鍛造を実施して冷間鍛造品を製造する冷間鍛造工程と、冷間鍛造工程後の冷間鍛造品に対して浸炭処理を実施する浸炭工程とを備える。
【0037】
上記の製造方法により、本発明の実施の形態による浸炭部品では、従来よりも多くの析出物を微細かつ均一に析出させることができる。その結果、冷間鍛造後の焼準処理を省略し、浸炭処理における加熱温度が1030℃以上となる場合であっても、粗大な旧オーステナイト粒の発生を抑制し、粒度ばらつきを抑制し、高い疲労強度が得られる。
【0038】
上記浸炭部品の素材の上記化学組成は、Cu:0.02~0.30%、Ni:0.02~0.25%、Pb:0.01~0.30%、Ca:0.0003~0.005%、Bi:0.01~0.30%、Ti:0.005~0.100%、B:0.0001~0.010%、V:0.005~0.20%、及び、Zr:0.0003~0.10%からなる群から選択される1種又は2種以上を含有してもよい。
【0039】
本発明の実施の形態による浸炭部品は、浸炭層と、浸炭層よりも内部の芯部とを備え、芯部は、質量%で、C:0.13~0.23%、Si:0.02~0.15%、Mn:0.55~0.95%、P:0.020%以下、S:0.003~0.030%、Cr:0.85~1.23%、Mo:0.35~0.50%、Al:0.020~0.050%、N:0.010~0.025%、Nb:0.010~0.060%、Cu:0~0.30%、Ni:0~0.25%、Pb:0~0.30%、Ca:0~0.005%、Bi:0~0.30%、Ti:0~0.100%、B:0~0.010%、V:0~0.20%、及び、Zr:0~0.10%を含有し、残部はFe及び不純物からなる化学組成を有する。ミクロ組織において、最大の結晶粒径を有する最大粒の結晶粒度番号は4.0以上である。平均粒度番号と最大粒の結晶粒度番号との差は8.0以下である。芯部硬さはHV260以上である。Nb析出物として析出しているNb量が全Nb含有量の60%以上である。Nb析出物の最大径は230nm未満である。
【0040】
上記浸炭部品の芯部の上記化学組成は、Cu:0.02~0.30%、Ni:0.02~0.25%、Pb:0.01~0.30%、Ca:0.0003~0.005%、Bi:0.01~0.30%、Ti:0.005~0.100%、B:0.0001~0.010%、V:0.005~0.20%、及び、Zr:0.0003~0.10%からなる群から選択される1種又は2種以上を含有してもよい。
【0041】
本発明の実施の形態による浸炭部品用の素形材の製造方法は、質量%で、C:0.13~0.23%、Si:0.02~0.15%、Mn:0.55~0.95%、P:0.020%以下、S:0.003~0.030%、Cr:0.85~1.23%、Mo:0.35~0.50%、Al:0.020~0.050%、N:0.010~0.025%、Nb:0.010~0.060%、Cu:0~0.30%、Ni:0~0.25%、Pb:0~0.30%、Ca:0~0.005%、Bi:0~0.30%、Ti:0~0.100%、B:0~0.010%、V:0~0.20%、及び、Zr:0~0.10%を含有し、残部はFe及び不純物からなる化学組成を有する素材を1300℃以上に加熱して圧延することにより鋼片を製造する分塊圧延工程と、製造した鋼片を800~1075℃に加熱して圧延することにより棒鋼を製造する棒鋼圧延工程と、棒鋼圧延工程後の棒鋼に対して球状化焼鈍を実施する球状化焼鈍工程とを備える。
【0042】
ここで、浸炭部品用の素形材とは、素材に対して、分塊圧延工程、棒鋼圧延工程及び球状化焼鈍工程を実施したものであって、冷間鍛造工程及び浸炭工程を実施していないものである。
【0043】
上記浸炭部品用の素形材の素材の上記化学組成は、Cu:0.02~0.30%、Ni:0.02~0.25%、Pb:0.01~0.30%、Ca:0.0003~0.005%、Bi:0.01~0.30%、Ti:0.005~0.100%、B:0.0001~0.010%、V:0.005~0.20%、及び、Zr:0.0003~0.10%からなる群から選択される1種又は2種以上を含有してもよい。
【0044】
本発明の実施の形態による浸炭部品用の素形材は、質量%で、C:0.13~0.23%、Si:0.02~0.15%、Mn:0.55~0.95%、P:0.020%以下、S:0.003~0.030%、Cr:0.85~1.23%、Mo:0.35~0.50%、Al:0.020~0.050%、N:0.010~0.025%、Nb:0.010~0.060%、Cu:0~0.30%、Ni:0~0.25%、Pb:0~0.30%、Ca:0~0.005%、Bi:0~0.30%、Ti:0~0.100%、B:0~0.010%、V:0~0.20%、及び、Zr:0~0.10%を含有し、残部はFe及び不純物からなる化学組成を有する。Nb析出物として析出しているNb量が全Nb含有量の80%以上であり、Nb析出物の最大径は200nm未満である。
【0045】
上記浸炭部品用の素形材の上記化学組成は、Cu:0.02~0.30%、Ni:0.02~0.25%、Pb:0.01~0.30%、Ca:0.0003~0.005%、Bi:0.01~0.30%、Ti:0.005~0.100%、B:0.0001~0.010%、V:0.005~0.20%、及び、Zr:0.0003~0.10%からなる群から選択される1種又は2種以上を含有してもよい。
【0046】
以下、本発明の浸炭部品用の素形材及び浸炭部品について詳しく説明する。なお、以下の説明で、各元素の含有量の「%」は、特に断りがない限り、「質量%」を意味する。
【0047】
[浸炭部品用の素形材]
浸炭部品用の素形材とは、素材に対して、分塊圧延工程、棒鋼圧延工程及び球状化焼鈍工程を実施したものであって、冷間鍛造工程及び浸炭工程を実施していないものである。
【0048】
[化学組成]
本発明の浸炭部品用の素形材は、次の元素を含有する化学組成を有する。
【0049】
C:0.13~0.23%
炭素(C)は、浸炭焼入れしたときの部品の芯部硬さを確保し、疲労強度を高める。C含有量が0.13%未満であれば、この効果が得られない。一方、C含有量が0.23%を超えれば、変形抵抗が高くなり、鋼材の冷間鍛造性が顕著に低下する。したがって、C含有量は0.13~0.23%である。C含有量の好ましい下限は0.14%である。C含有量の好ましい上限は0.22%である。
【0050】
Si:0.02~0.15%
シリコン(Si)は、焼入れ性を高める。Si含有量が0.02%未満であれば、この効果が得られない。一方、その含有量が0.15%を超えれば、変形抵抗が高くなり、鋼材の冷間鍛造性が低下する。したがって、Si含有量は0.02~0.15%である。焼入れ性を高める場合、Si含有量の好ましい下限は0.03%である。Si含有量の好ましい上限は0.14%である。
【0051】
Mn:0.55~0.95%
マンガン(Mn)は、焼入れ性及び焼戻し軟化抵抗を高める。Mnはさらに、疲労強度を高める。Mn含有量が0.55%未満であれば、これらの効果が得られない。一方、Mn含有量が0.95%を超えれば、疲労強度を高める効果が飽和するだけでなく、変形抵抗が高くなり、鋼材の冷間鍛造性が低下する。したがって、Mn含有量は0.55~0.95%である。Mn含有量の好ましい下限は0.60%である。Mn含有量の好ましい上限は0.90%である。
【0052】
P:0.020%以下
燐(P)は、不純物であり、素形材中に不可避的に含有される。つまり、P含有量の下限は0%超である。Pは粒界に偏析しやすく、粒界を脆化させる。P含有量が0.020%を超えれば、疲労強度が低下する。したがって、P含有量は0.020%以下である。P含有量の好ましい上限は0.015%である。P含有量はなるべく低い方が好ましい。したがって、P含有量の下限は特に限定されない。しかしながら、実際の操業において、P含有量を0.002%未満に低下するには製造コストが過剰に高くなる。したがって、P含有量の好ましい下限は0.002%である。
【0053】
S:0.003~0.030%
硫黄(S)は、Mnと結合してMnSを形成し、鋼材の被削性を高める。しかしながら、S含有量が0.030%を超えれば、粗大なMnSが生成する。粗大なMnSは割れの起点となるため、浸炭部品の疲労強度が低下する。したがって、S含有量は0.003~0.030%である。また、Sの含有量が低すぎる場合には被削性の低下を招く。したがって、S含有量の好ましい下限は0.005%である。S含有量の好ましい上限は0.025%である。
【0054】
Cr:0.85~1.23%
クロム(Cr)は、焼入れ性及び焼戻し軟化抵抗を高める。その結果、浸炭部品の疲労強度を高める。Cr含有量が0.85%未満であれば、この効果が得られない。一方、Cr含有量が1.23%を超えれば、疲労強度を高める効果が飽和するだけでなく、変形抵抗が高くなる。その結果、鋼材の冷間鍛造性が低下する。したがって、Cr含有量は0.85~1.23%である。Cr含有量の好ましい下限は0.90%である。Cr含有量の好ましい上限は1.22%である。
【0055】
Mo:0.35~0.50%
モリブデン(Mo)は、焼入れ性を高める。Moはさらに、焼戻し軟化抵抗を高める。その結果、浸炭部品の疲労強度を高める。Mo含有量が0.35%未満ではこの効果が得られない。一方、Mo含有量が0.50%を超えると、疲労強度を高める効果が飽和するだけでなく、変形抵抗が高くなる。その結果、鋼材の冷間鍛造性が顕著に低下する。したがって、Mo含有量は0.35~0.50%である。Mo含有量の好ましい下限は0.36%である。Mo含有量の好ましい上限は0.45%である。
【0056】
Al:0.020~0.050%
アルミニウム(Al)は鋼を脱酸する。Alはさらに、Nと結合してAlNを形成する。その結果、浸炭処理時に、旧オーステナイト結晶粒の粗大化が抑制される。Al含有量が0.020%未満であれば、これらの効果が得られない。一方、Al含有量が0.050%を超えれば、鋼材中に粗大なAlNが生成し、かえって旧オーステナイト結晶粒が粗大化する。したがって、Al含有量は0.020~0.050%である。Al含有量の好ましい下限は0.021%であり、さらに好ましくは0.022%である。Al含有量の好ましい上限は、0.045%であり、さらに好ましくは0.040%である。なお、本実施の形態におけるAl含有量とは、鋼中の全Alの含有量を意味する。
【0057】
N:0.010~0.025%
窒素(N)は、Al、Nb、V及びTiと結合してAlN、NbN、VN及びTiNを形成する。これらの析出物により、旧オーステナイト結晶粒の粗大化を抑制する。N含有量が0.010%未満であれば、この効果が得られない。一方、N含有量が0.025%を超えれば、特に熱間圧延工程において、圧延材の表面に疵が発生し、安定して量産することが難しくなる。したがって、N含有量は0.010~0.025%である。N含有量の好ましい下限は0.011%超であり、さらに好ましくは0.012%である。N含有量の好ましい上限は0.024%であり、さらに好ましくは0.023%である。
【0058】
Nb:0.010~0.060%
ニオブ(Nb)はC及びNと結合して、析出物であるNbC、NbN及びNb(CN)を形成する。これらの析出物は、旧オーステナイト結晶粒の粗大化を防止する。Nbの含有量が、0.010%未満では、この効果が得られない。一方、Nb含有量が0.060%を超えると、析出物が粗大になる。その結果、旧オーステナイト結晶粒が粗大化する。したがって、Nb含有量は、0.010~0.060%である。Nb含有量の好ましい下限は、0.015%であり、さらに好ましくは0.020%である。Nb含有量の好ましい上限は0.058%であり、さらに好ましくは0.055%である。
【0059】
本発明による浸炭部品用の素形材の化学組成の残部はFe及び不純物からなる。ここで、不純物とは、本発明の実施の形態による浸炭部品用の素形材を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、又は製造環境などから混入されるものであって、本発明の実施の形態による浸炭部品用の素形材を製造した時に、冷間鍛造性及び疲労強度に顕著な悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0060】
[任意元素について]
本発明の実施の形態による浸炭部品用の素形材の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Cu、Ni、Pb、Ca、Bi、Ti、B、V及びZrからなる群から選択される1種又は2種以上を含有してもよい。これらの元素は任意元素である。
【0061】
Cu:0~0.30%
銅(Cu)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Cu含有量は0%であってもよい。含有される場合、Cuは焼入れ性を高めて、疲労強度を高める。Cuが少しでも含有されれば、この効果が得られる。しかしながら、Cu含有量が0.30%を超えれば、上記の効果が飽和するだけでなく、変形抵抗が高くなる。その結果、鋼材の冷間鍛造性が低下する。したがって、Cu含有量は0~0.30%である。上記効果を安定して得るためのCu含有量の好ましい下限は0.02%であり、さらに好ましくは0.05%である。Cu含有量の好ましい上限は0.20%である。
【0062】
Ni:0~0.25%
ニッケル(Ni)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ni含有量は0%であってもよい。含有される場合、Niは焼入れ性を高めて、疲労強度を高める。Niが少しでも含有されれば、この効果が得られる。しかしながら、Ni含有量が0.25%を超えれば、上記の効果が飽和するだけでなく、変形抵抗が高くなる。その結果、鋼材の冷間鍛造性が低下する。したがって、Ni含有量は0~0.25%である。上記効果を安定して得るためのNi含有量の好ましい下限は0.02%であり、さらに好ましくは0.05%である。Ni含有量の好ましい上限は0.20%である。
【0063】
Pb:0~0.30%
鉛(Pb)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Pb含有量は0%であってもよい。含有される場合、Pbは、被削性を高める。このため、冷間加工で成形した部品の内面などをさらに精密切削して仕上げたい場合などに、疲労強度よりも被削性を重視する場合は必要に応じて含有させてもよい。Pbが少しでも含有されれば、この効果が得られる。しかしながら、Pb含有量が0.30%を超えれば、疲労強度が顕著に低下する。したがって、Pb含有量は0~0.30%である。上記効果を安定して得るためのPb含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.02%である。Pb含有量の好ましい上限は0.25%である。
【0064】
Ca:0~0.005%
カルシウム(Ca)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ca含有量は0%であってもよい。含有される場合、Caは、Pbと同様に被削性を高める。このため、Pbと同じく、冷間加工で成形した部品の内面などをさらに精密切削して仕上げたい場合などのように、疲労強度よりも被削性を重視する場合は必要に応じて含有させてもよい。Caが少しでも含有されれば、この効果が得られる。しかしながら、Ca含有量が0.005%を超えれば、粗大な酸化物を形成して、疲労強度を低下させる。したがって、Ca含有量は0~0.005%である。上記効果を安定して得るためのCa含有量の好ましい下限は0.0003%であり、さらに好ましくは0.0005%である。Ca含有量の好ましい上限は0.004%である。
【0065】
Bi:0~0.30%
ビスマス(Bi)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Bi含有量は0%であってもよい。含有される場合、BiはPb及びCaと同様に被削性を高める。このため、Pb及びCaと同じく、冷間加工で成形した部品の内面などをさらに精密切削して仕上げたい場合などのように、疲労強度よりも被削性を重視する場合は必要に応じて含有させてもよい。Biが少しでも含有されれば、この効果が得られる。しかしながら、Bi含有量が0.30%を超えれば、浸炭部品の疲労強度が低下する。したがって、Bi含有量は0~0.30%である。上記効果を安定して得るためのBi含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.02%である。Bi含有量の好ましい上限は0.25%である。
【0066】
Ti:0~0.100%
チタン(Ti)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ti含有量は0%であってもよい。含有される場合、Tiは、C及びNとともに炭窒化物を形成する。炭窒化物のピンニング作用により、旧オーステナイト結晶粒の粗大化を抑制する。Tiが少しでも含有されれば、この効果が得られる。しかしながら、Ti含有量が0.100%を超えれば、上記の効果が飽和して、製造コストが高まる。Ti含有量が0.100%を超えればさらに、焼入れ性を低下させ、浸炭部品の疲労強度が低下する。したがって、Ti含有量は0~0.100%である。上記効果を安定して得るためのTi含有量の好ましい下限は0.005%であり、さらに好ましくは0.010%である。Ti含有量の好ましい上限は0.09%である。
【0067】
B:0~0.010%
ボロン(B)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、B含有量は0%であってもよい。含有される場合、Bは、鋼の焼入れ性を高める。Bが少しでも含有されれば、この効果が得られる。しかしながら、B含有量が0.010%を超えれば、その効果が飽和してコストが高まる。B含有量が0.010%を超えればさらに、かえって焼入れ性が低下する。その結果、疲労強度が低下する。上記効果を安定して得るためのB含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0003%である。B含有量の好ましい上限は0.008%である。
【0068】
V:0~0.20%
バナジウム(V)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、V含有量は0%であってもよい。含有される場合、Vは、焼入れ性及び焼戻し軟化抵抗を高める。Vが少しでも含有されれば、この効果が得られる。しかしながら、V含有量が0.20%を超えれば、冷間鍛造前の鋼材の強度が高くなりすぎて、鋼材の冷間鍛造性が低下する。したがって、V含有量は0~0.20%である。上記効果を安定して得るためのV含有量の好ましい下限は0.005%であり、さらに好ましくは0.010%である。V含有量の好ましい上限は0.15%である。
【0069】
Zr:0~0.10%
ジルコニウム(Zr)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Zr含有量は0%であってもよい。含有される場合、Zrは、C及び/又はNと結合して、微細な炭化物、窒化物及び炭窒化物を形成する。その結果、旧オーステナイト結晶粒を微細化する。Zrが少しでも含有されれば、この効果が得られる。しかしながら、Zr含有量が0.10%を超えれば、冷間鍛造前の鋼材の強度が高くなりすぎて、鋼材の冷間鍛造性が低下する。したがって、Zr含有量は0~0.10%である。上記効果を安定して得るためのV含有量の好ましい下限は0.0003%であり、さらに好ましくは0.0005%である。Zr含有量の好ましい上限は0.07%である。
【0070】
[析出物について]
本発明の実施の形態による浸炭部品用の素形材において、Nb析出物として析出しているNb量が全Nb含有量の80%以上であり、Nb析出物の最大径が200nm未満である。
【0071】
Nb析出物として析出しているNb量の、全Nb含有量に対する割合は、次のとおり測定する。全Nb含有量に対する、Nb析出物として析出しているNb量の割合を、Nb析出率とする。析出しているNb量は、次の抽出残渣分析法により求められる。10mm×10mm×10mmの試料を、浸炭部品用の素形材から切り出し、抽出残渣分析用試料とする。
【0072】
抽出残渣分析用試料に対して、一般的な条件を用いて溶液中で電気分解を実施する。たとえば、電気分解の条件は、電流密度:250~350A/m2、時間:120分、室温(25℃)とする。溶液は、10%AA系(テトラメチルアンモニウムクロライド、アセチルアセトン、メタノールを1:10:100で混合した液体)溶液である。電気分解された抽出残渣分析用試料を取り出し、フィルターで吸引ろ過する。フィルターのメッシュサイズは0.2μmとする。これにより、残渣を採取する。0.2μmのフィルターを用いても、ろ過の過程で析出物によりフィルターが目詰まりを起こすため、実際には0.2μm以下の微細な析出物の抽出も可能である。
【0073】
上記のフィルター上に採取された残渣を、一般的な化学分析により分析して、Nb析出量(質量%)を求める。たとえば、JIS G 1258-4(2007)に定められたICP発光分光分析方法でNb析出量を求める。
【0074】
得られたNb析出量を、浸炭部品用の素形材の化学組成によるNb含有量で除し、百分率換算したものを、Nb析出率とする。
【0075】
本発明の実施の形態による浸炭部品用の素形材においては、Nb析出物として析出しているNb量が全Nb含有量の80%以上である。つまり、Nb析出率が80%以上である。そのため、ピンニング効果を得るために十分な数の析出物が析出している。
【0076】
Nb析出物の最大径は、次の方法で測定する。浸炭部品用の素形材の断面を研磨した後腐食し、カーボン蒸着を行う抽出レプリカ法により抽出レプリカ試料を作製し、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、一試料につき10視野観察する。倍率20000倍、1視野あたりの面積は10μm2とする。各Nb析出物の長手方向の最大長さを長軸とし、長軸と垂直方向の長さを短軸と定義し、長さを測定した。長軸及び短軸の相加平均を求め、10視野中の最大値を、Nb析出物の最大径とする。Nb析出物の最大径が200nm未満であれば、微細な析出物であると評価できる。
【0077】
本発明の実施の形態による浸炭部品用の素形材においては、Nb析出物として析出しているNb量が全Nb含有量の80%以上であり、Nb析出物の最大径が200nm未満である。そのため、浸炭部品において、粗大な旧オーステナイト粒が発生せず、粒度ばらつきが少ないため、優れた疲労強度が得られる。
【0078】
[浸炭部品]
浸炭部品用の素形材に対して、冷間鍛造工程、及び、浸炭工程を実施することにより、浸炭部品を得ることができる。
【0079】
本発明の実施の形態による浸炭部品は、浸炭層と、浸炭層よりも内部の芯部とを備える。浸炭部品の「浸炭層」とは、浸炭処理による影響を受けた部分である。浸炭部品の「芯部」とは、炭素濃度が、浸炭処理後であっても変動しない部分、つまり、浸炭部品の浸炭層よりも内部を意味する。本明細書において浸炭部品の芯部とは、浸炭部品のすべての表面から深さ2mm以上の内部領域を意味する。浸炭部品の表面から2mm未満の領域を「浸炭層」と定義する。
【0080】
[化学組成]
浸炭部品の芯部は、浸炭処理による影響を受けない。したがって、本発明の実施の形態による浸炭部品の芯部の化学組成は、浸炭部品用の素形材の化学組成と同じになる。つまり、本発明の実施の形態による浸炭部品の芯部は、質量%で、C:0.13~0.23%、Si:0.02~0.15%、Mn:0.55~0.95%、P:0.020%以下、S:0.003~0.030%、Cr:0.85~1.23%、Mo:0.35~0.50%、Al:0.020~0.050%、N:0.010~0.025%、Nb:0.010~0.060%、Cu:0~0.30%、Ni:0~0.25%、Pb:0~0.30%、Ca:0~0.005%、Bi:0~0.30%、Ti:0~0.100%、B:0~0.010%、V:0~0.20%、及び、Zr:0~0.10%を含有し、残部はFe及び不純物からなる化学組成を有する。
【0081】
本発明の実施の形態による浸炭部品の芯部の化学組成の各元素の作用については、上記の浸炭部品用の素形材の対応元素の作用と同じである。
【0082】
[ミクロ組織]
[旧オーステナイト結晶粒について]
本発明の実施の形態による浸炭部品のミクロ組織において、旧オーステナイト結晶粒の結晶粒度番号は4.0以上であり、平均粒度番号と最大粒の結晶粒度番号との差が8.0以下である。したがって、本発明の実施の形態による浸炭部品は、粗大な旧オーステナイト粒を含まず、粒度ばらつきが小さい。その結果、高い疲労強度を有する。
【0083】
旧オーステナイト結晶粒の結晶粒度番号の測定は、次の方法に基づく。本発明の実施の形態による浸炭部品の最も冷間加工度の高い部分を含む断面から、顕微鏡観察用の試験片を採取する。最も冷間加工度の高い部分は、たとえば、FEM(有限要素法)解析を用いたシミュレーションにより特定できる。採取された試験片を用いて、JIS G 0551(2013)に準じて結晶粒度の顕微鏡試験方法を実施し、オーステナイト結晶粒度番号を評価する。具体的には、試験片の表面を鏡面研磨し、界面活性剤を添加したピクリン酸飽和水溶液を用いて腐食し、表面の旧オーステナイトの結晶粒界を現出させる。腐食された表面に対して、光学顕微鏡を用いて、倍率100倍で観察し、JIS G 0551(2013)の7.2に規定された結晶粒度標準図との比較により、結晶粒度番号を評価する。試験面全体を観察し、最大の粒径を有する最大粒の粒度番号を求める。最大粒の粒度番号が4.0以上であれば、粗大な旧オーステナイト結晶粒を含まない浸炭部品であると評価できる。
【0084】
平均粒度番号と最大粒の結晶粒度番号との差は、次のとおり測定する。上記の旧オーステナイト結晶粒度番号の測定と同様に、光学顕微鏡を用いて、倍率100倍で観察する。試験面の任意の10視野を観察し、上記の通り粒度番号を求める。10視野における平均の粒度番号を、平均粒度番号とする。平均粒度番号と最大粒の結晶粒度番号との差が8.0以下であれば、粒度ばらつきが小さい浸炭部品であると評価できる。
【0085】
最大粒の結晶粒度番号が4.0未満であれば、疲労強度が低下する。さらに、最大粒の結晶粒度番号が4.0以上であっても、平均粒度番号と最大粒の結晶粒度番号との差が8.0を超えれば、疲労強度が低下する。本発明の実施の形態による浸炭部品では、最大粒の結晶粒度番号が4.0以上であり、平均粒度番号と最大粒の結晶粒度番号との差が8.0以下である。そのため、本発明の実施の形態による浸炭部品は、優れた疲労強度を有する。
【0086】
[芯部硬さ]
本発明の実施の形態による浸炭部品の芯部硬さにおいて、ビッカース硬さがHV260以上である。ビッカース硬さがHV260未満の場合、浸炭部品として必要な疲労強度が得られない。芯部硬さの好ましい下限はHV280である。芯部硬さの上限は特に限定されないが、たとえば、HV500である。
【0087】
浸炭部品の芯部硬さは下記の通りに評価される。浸炭部品の芯部硬さとは、すべての表面から2mmを超える深さの任意の部分の硬さである。本発明の実施の形態による浸炭部品の芯部の任意部位から硬さ評価用の試料を採取し、JIS Z2244(2009)に準拠した方法でビッカース硬さを求める。試験力は2.94Nとする。得られたビッカース硬さが260以上であれば、浸炭部品として必要な強度を有する。本発明の実施の形態による浸炭部品では、芯部硬さがHV260以上である。そのため、本発明の実施の形態による浸炭部品は優れた疲労強度を有する。
【0088】
[析出物について]
本発明の実施の形態による浸炭部品の芯部において、Nb析出物として析出しているNb量が全Nb含有量の60%以上であり、Nb析出物の最大径が230nm未満である。
【0089】
Nb析出物として析出しているNb量の、全Nb含有量に対する割合、及び、Nb析出物の最大径の測定方法は、上記の浸炭部品素形材におけるNb析出物として析出しているNb量の、全Nb含有量に対する割合、及び、Nb析出物の最大径の測定方法と同じである。
【0090】
[製造方法]
本発明の実施の形態による浸炭部品用の素形材の製造方法及び浸炭部品の製造方法を説明する。本発明の実施の形態による浸炭部品の製造方法のフロー図を、
図1に示す。
【0091】
[浸炭部品用の素形材の製造方法]
本発明の実施の形態による浸炭部品用の素形材の製造方法は、上記化学組成を有する素材を1300℃以上に加熱して圧延することにより鋼片を製造する工程(分塊圧延工程:S1)と、製造した鋼片を800~1075℃に加熱して圧延することにより棒鋼を製造する工程(棒鋼圧延工程:S2)と、棒鋼圧延工程後の棒鋼に対して球状化焼鈍を実施して素形材を製造する工程(球状化焼鈍工程:S3)とを備える。以下、各工程について詳述する。
【0092】
[分塊圧延工程(S1)]
初めに、上記化学組成を有する素材を準備する。たとえば、素材は次の方法で製造される。上述の化学組成を有する溶鋼を、転炉及び電気炉等を用いて製造する。溶鋼を用いて連続鋳造法により鋳片を製造する。又は、溶鋼を用いて造塊法によりインゴットを製造する。
【0093】
準備された素材(鋳片、インゴット)を1300℃以上に加熱する。加熱した素材を、リバース式の分塊圧延機で圧延する。リバース式の分塊圧延機で圧延した素材を、タンデム式の圧延機列で圧延して、鋼片を製造する。リバース式の分塊圧延機での圧延は省略してもよい。
【0094】
本発明の実施の形態による浸炭部品の素形材の製造方法においては、1300℃以上の高温の加熱温度で素材を加熱するため、析出物が十分に固溶する。分塊圧延後の鋼片冷却もしくはその後の棒鋼圧延において、析出物が微細かつ均一に鋼中に析出する。後述の棒鋼圧延工程の条件を満たす場合、微細な析出物を多量かつ均一に析出させることができる。加熱温度が1300℃未満の場合、析出物を十分に固溶することができない。そのため、未固溶の析出物が棒鋼圧延工程において粗大化しその後の浸炭工程において粗大な旧オーステナイト粒が発生し、粒度ばらつきが大きくなるため、浸炭部品において疲労強度が低下する。「加熱温度」とは、加熱炉の炉内温度の平均値を意味する。
【0095】
素材の加熱温度の好ましい下限は、1310℃であり、さらに好ましくは1350℃超である。一方、素材の加熱温度が1400℃を超えても、上記の効果が飽和する。したがって、素材の加熱温度の上限は、1400℃であることが好ましい。
【0096】
好ましい加熱時間は10時間超以上である。
【0097】
[棒鋼圧延工程(S2)]
分塊圧延工程により製造された鋼片に対してさらに熱間圧延を実施して、棒鋼を製造する。ここでの圧延はたとえば、水平ロールスタンド、垂直ロールスタンドが交互に一列に配列されたタンデム式の圧延機列を用いた、連続圧延である。
【0098】
初めに、鋼片を加熱炉に装入して、加熱する。加熱温度は800~1075℃である。「加熱温度」とは加熱炉の炉内温度の平均値を指す。
【0099】
分塊圧延工程での加熱温度が1300℃以上であり、棒鋼圧延での加熱温度が800~1075℃であれば、浸炭部品用の素形材でNb析出物として析出しているNb量を全Nb含有量の80%以上とし、Nb析出物の最大径を200nm未満とすることができる。
【0100】
棒鋼圧延時の加熱温度が1075℃を超えれば、析出物が粗大に成長する可能性がある。この場合、ピンニング効果が十分に得られない。そのため、後述の浸炭処理時に旧オーステナイト結晶粒が粗大化し、粒度ばらつきが発生する。その結果、疲労強度が低下する。
【0101】
加熱温度が800℃未満の場合、変形抵抗が大きく、圧延機に負荷がかかり、工業的に量産が困難である。
【0102】
したがって、棒鋼圧延時の加熱温度は800~1075℃である。棒鋼圧延時の加熱温度の下限は、825℃であることが好ましい。棒鋼圧延時の加熱温度の上限は、1050℃であることが好ましい。
【0103】
加熱された鋼片を用いて、仕上げ圧延機列で熱間圧延(仕上げ圧延)して所定の径の棒鋼にする。仕上げ圧延機列は、一列に配列された複数のスタンドを含む。各スタンドは、パスライン周りに配置された複数のロールを含む。
【0104】
[球状化焼鈍工程(S3)]
製造した棒鋼に対して球状化焼鈍を実施する。球状化焼鈍を実施することにより、鋼中に、析出物を微細にかつ多数析出できる。これにより、析出物のピンニング効果を十分に発揮できる。球状化焼鈍の方法は特に限定されず、一般的なものでよい。球状化焼鈍はたとえば、長時間加熱法、繰返し加熱冷却法、徐冷法及び等温変態法である。
【0105】
球状化焼鈍工程の製造条件は一般的なものでよい。球状化焼鈍工程での加熱温度はたとえば、680~780℃である。球状化焼鈍工程での加熱時間はたとえば、150~1800分である。
【0106】
以上の製造工程により、浸炭部品用の素形材が製造される。つまり、本発明の実施の形態による浸炭部品用の素形材とは、素材に対して、分塊圧延工程、棒鋼圧延工程及び球状化焼鈍工程を実施したものである。
【0107】
[浸炭部品の製造方法]
上記の浸炭部品用の素形材を用いた浸炭部品の製造方法を説明する。浸炭部品の製造方法は、球状化焼鈍工程後の素形材に対して冷間鍛造を実施して冷間鍛造品を製造する工程(冷間鍛造工程:S4)と、冷間鍛造工程後の冷間鍛造品に対して浸炭処理を実施する工程(浸炭工程:S5)とを含む。以下、それぞれの工程について説明する。
【0108】
[冷間鍛造工程(S4)]
浸炭部品用の素形材を用いて、周知の方法で冷間鍛造を実施して、中間品を製造する。冷間鍛造工程前に、伸線加工工程を実施してもよい。伸線加工は、一次伸線のみであってもよいし、二次伸線等、複数回の伸線加工を実施してもよい。
【0109】
本発明の実施の形態による浸炭部品の製造方法においては、十分な数の微細な析出物が得られるため、旧オーステナイト結晶粒の粗大化を抑制できる。そのため、冷間鍛造後の焼準処理を省略することができる。
【0110】
[浸炭工程(S5)]
製造された中間品に対して、浸炭処理を実施する。浸炭処理後の中間品に対して焼戻しを実施してもよい。焼戻し後の中間品に対してさらに、機械加工(切削加工等)を実施してもよい。以上の製造工程により、浸炭部品が製造される。
【0111】
浸炭処理の条件は一般的なものでよい。たとえば、真空浸炭工程は減圧化の雰囲気に浸炭ガスを導入して、鋼材を900~1050℃の範囲に加熱する工程である。
【0112】
浸炭処理において用いられる浸炭ガスの種類は、真空浸炭処理に用いられている公知のものを用いることができる。浸炭ガスはたとえば、アセチレン、プロパン、エチレン等の炭化水素ガスである。
【0113】
好ましい浸炭温度は、980~1075℃である。浸炭温度のさらに好ましい下限は1030℃である。浸炭温度が1030℃以上であれば、より短時間で所定の炭素濃度の浸炭部品が得られる。浸炭温度のさらに好ましい上限は1050℃である。浸炭温度が1050℃以下であれば、結晶粒が粗大化しにくい。
【0114】
浸炭処理における処理時間は、中間品(鋼材)の化学組成と、目標とする芯部での硬さ及び目標とする表面炭素濃度に応じて適宜調整される。
【0115】
浸炭処理において加熱後の冷却工程では、中間品を急冷して焼入れを実施し、浸炭部品を製造する。焼入れは、水焼入れでもよいし、油焼入れでもよい。中間品を急冷することにより、浸炭部品において、HV260以上の芯部硬さを得ることができる。
【0116】
以上の工程により、本実施形態による浸炭部品が製造される。なお、浸炭処理後の中間品に対して焼戻しを実施してもよい。焼戻し後の中間品に対してさらに、機械加工(切削加工等)を実施してもよい。
【0117】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。
【実施例】
【0118】
種々の冷間鍛造用鋼材を製造して、冷間鍛造性と、疲労強度と、量産の可否とを評価した。
【0119】
表1及び表2に示す化学組成を有する試験番号1~試験番号63の溶鋼を、70トン転炉で成分調整した。成分調整後、連続鋳造を行って、400mm×300mm角の鋳片を製造した。得られた鋳片を600℃まで冷却した。
【0120】
【0121】
【0122】
製造された鋳片を、表3及び表4に示された加熱温度(分塊加熱温度)にそれぞれ加熱した。加熱後、分塊圧延を実施して180mm×180mm角の鋼片を作製した。得られた鋼片を室温まで放冷した。
【0123】
【0124】
【0125】
上記鋼片を表3及び表4に示された加熱温度(棒鋼加熱温度)にそれぞれ加熱した後、棒鋼圧延を実施して、直径50mm、長さ1000mmの棒鋼を得た。
【0126】
製造した棒鋼を760℃で4時間保持後、0.25℃/secで660℃まで冷却した後に放冷し、球状化焼鈍処理して浸炭部品用の素形材を得た。浸炭部品用の素形材の中央部から、直径30mm、長さ1000mmの丸棒試験片を採取した。丸棒試験片に対して、酸洗及び潤滑を実施した。その後、丸棒試験片に対して、冷間鍛造を模擬した引抜きを行った。減面率70%を得るために、最終径は16.5mmとした。得られた引抜き材の中心から、
図2に示す、JIS Z 2274(2011)に準拠した小野式回転曲げ疲労試験片を複数採取した。小野式回転曲げ疲労試験片は、平行部の直径が10mmであり、平行部の長さが20.67mmであり、肩部の半径が24mm、平行部の長さ方向の中心に深さ1mm、切欠き底半径1.0mmの半円切欠き付きであった。小野式回転曲げ疲労試験片の中心軸は、引抜き材の中心軸と同軸であった。上記の小野式回転曲げ疲労試験片に対して、1030℃で浸炭処理を実施した。
【0127】
[ミクロ組織観察]
[旧オーステナイト結晶粒径測定]
上記により得られた小野式回転曲げ疲労試験片のノッチ底を含む横断面を切り出した。切断面を鏡面研磨し、界面活性剤を添加したピクリン酸飽和水溶液で腐食した。光学顕微鏡を用いて倍率100倍で観察して、JIS G 0551(2005)に準じて、結晶粒度標準図との比較による評価方法により、旧オーステナイト結晶粒の粗大化発生状況を調査した。試験面を全面観察し、最大粒の粒度を測定した。結果を表3及び表4の「最大粒」欄に示す。粒度番号が4未満の旧オーステナイト結晶粒が認められた場合、粗粒発生と判断した。粒度番号4未満の粒が認められなかった場合、粗粒の発生なしと判断した。
【0128】
さらに、試験面をランダムに10視野観察して平均粒度番号を求めた。平均粒度番号と、上記の最大粒度番号との差を表3及び表4の「平均-最大粒」欄に示す。平均粒度番号と、上記の最大粒度番号との差が8.0以下であれば、旧オーステナイト結晶粒径のばらつきが小さいと評価した。
【0129】
[芯部硬さ測定]
上記により得られた小野式回転曲げ疲労試験片を、ノッチ底を含む横断面で切り出した。切断面を鏡面研磨し、JIS Z 2244(2009)に準拠した方法で、表面より2mm位置の硬さを測定した。試験力は2.94Nとした。結果を表3及び表4の「芯部硬さHV」欄に示す。
【0130】
[析出物測定]
小野式回転曲げ疲労試験片の芯部より10mm立方の抽出残渣試験片を採取した。一般的な条件である、10%AA溶液を用いて、電流密度250~350A/m2で抽出(電気分解)した。抽出した溶液をメッシュサイズ0.2μmのフィルターでろ過して、ろ過物について一般的な化学分析を行った。化学分析により、析出物として析出しているNbの量を求めた。上記の方法により、試験片のNb含有量に対するNb析出率(%)を求めた。結果を表3及び表4の「Nb析出率」欄に示す。
【0131】
また、小野式回転曲げ疲労試験片の芯部から一般的な方法で抽出レプリカ試料を作製した。透過型電子顕微鏡を用いて倍率20000倍、1視野あたりの面積10μm2でランダムに10視野観察した。各Nb析出物の長手方向の最大長さを長軸とし、長軸と垂直方向の長さを短軸と定義し、長さを測定した。長軸及び短軸の相加平均を求め、10視野中の最大値を、Nb析出物の最大径とした。結果を表3及び表4の「最大析出物」欄に示す。
【0132】
上記で得られた浸炭部品用の素形材においても同様の方法でNb析出率及び最大析出物を求めた。それぞれ表3及び表4の「素形材/Nb析出率」欄及び「素形材/最大析出物」欄に示す。
【0133】
[疲労強度評価試験]
上記により得られた小野式回転曲げ疲労試験片を疲労試験に供した。小野式回転曲げ疲労試験における試験片本数は1応力条件につき3本とした。小野式回転曲げ疲労試験片を用いて、室温、大気雰囲気中にて、JIS Z 2274(2011)に準拠した小野式回転曲げ疲労試験を実施した。回転数を3000rpmとした。3本とも繰り返し数1×107まで破断しなかったうちでもっとも高い応力を疲労強度(MPa)とした。一般的に浸炭ギヤ・シャフト等に求められる疲労強度は450MPa程度であるので、450超~475MPaをC、475超~500MPaをB、500MPa超をAとし、450MPa以下を×と評価した。結果を表3及び表4の「疲労強度」欄に示す。
【0134】
[冷間鍛造性評価試験]
上記の球状化焼鈍後の素形材から、直径14mm、長さ21mmの模擬素形材を採取した。また、上記の模擬素形材に代えて、さらに920℃で60分保持した後、室温まで放冷する焼きならしを行った焼きならし材も作成して、円柱の高さ方向で70%の圧縮加工を実施し、冷間鍛造性を調査した。各鋼について、焼きならし材の変形抵抗値を「100」として規格化した場合の、模擬素形材の変形抵抗値の相対値を求めた。表3及び表4の「冷鍛性」欄に結果を示す。上記の相対値が90以下の場合に、球状化焼鈍後の変形抵抗が低く、冷間鍛造性に優れていると判断した。結果を表3及び表4の「冷鍛性」欄に示す。
【0135】
[量産可否]
なお、本発明の実施の形態による浸炭部品は、機械部品として使用するための製品であるため、量産可否についても検討した。製鋼工程、熱間圧延工程で特に問題なく製造できるものを量産に最適であると判断し、表3及び表4の「量産可否」欄に「○」で示した。製鋼工程、熱間圧延工程においてコストや生産性等の課題があり、歩留まりが低下する可能性があるものを、最適ではないが量産可能であると判断し、表3及び表4の「量産可否」欄に「△」で示した。
【0136】
[試験結果]
表1~表4を参照して、試験番号1~17、20~25、28~33、36~49及び51~54の化学組成は本発明の範囲内であり、さらに、浸炭試験片の最大粒の結晶粒度番号が4.0以上であり、平均粒度番号と最大粒の結晶粒度番号との差が8.0以下であり、芯部硬さがHV260以上であり、Nb析出物として析出しているNb量が全Nb含有量の60%以上であり、Nb析出物の最大径が230nm未満であった。その結果、粒度ばらつきが抑制されたため、疲労強度が高かった。また、浸炭部品用の素形材において、Nb析出物として析出しているNb量が全Nb時含有量の80%以上であり、Nb析出物の最大径が200nm未満であった。そして、冷間鍛造性評価試験において、相対値が90以下であり、優れた冷間鍛造性を示した。
【0137】
一方、試験番号18、19、26、27、34、35、50及び55~63では、所望の疲労強度が得られなかったか、量産するには多大なコストがかかると判断された。
【0138】
試験番号18では、Al含有量が本発明で規定するAl含有量の上限を超えた。そのため、Nb析出率が、素形材では80%未満となり、浸炭部品では60%未満となった。浸炭部品において最大粒の結晶粒度番号が4.0未満となり、平均粒度番号と最大粒の結晶粒度番号との差も8.0を超えた。その結果、目標とする疲労強度が得られなかった。そのため、量産に適さないと判断した。
【0139】
試験番号19では、Al含有量が本発明で規定するAl含有量の下限未満であった。そのため、最大粒の結晶粒度番号が4.0未満となり、平均粒度番号と最大粒の結晶粒度番号との差も8.0を超えた。その結果、目標とする疲労強度が得られなかった。
【0140】
試験番号26では、N含有量が本発明で規定するN含有量の上限を超えた。そのため、鋼の表面に疵が発生し、安定して量産するには多大なコストがかかる可能性があると判断した。
【0141】
試験番号27では、N含有量が本発明で規定するN含有量の下限未満であった。そのため、Nb析出率が、素形材では80%未満となり、浸炭部品では60%未満となった。浸炭部品において最大粒の結晶粒度番号が4.0未満となり、平均粒度番号と最大粒の結晶粒度番号との差も8.0を超えた。その結果、目標とする疲労強度が得られなかった。
【0142】
試験番号34では、Nb含有量が本発明で規定するNb含有量の上限を超えた。そのため、素形材の最大析出物のサイズが200nmを超え、浸炭部品の最大析出物のサイズも230nmを超えた。それにより、最大粒の結晶粒度番号が4.0未満となった。その結果、目標とする疲労強度が得られなかった。
【0143】
試験番号35では、Nb含有量が本発明で規定するNb含有量の下限未満であった。そのため、Nb析出率が、素形材では80%未満となり、浸炭部品では60%未満となった。最大粒の結晶粒度番号が4.0未満となった。その結果、目標とする疲労強度が得られなかった。
【0144】
試験番号50では、素形材の最大析出物のサイズが200nmを超え、浸炭部品の最大析出物のサイズも230nmを超えた。さらに、最大粒の結晶粒度番号が4.0未満となり、平均粒度番号と最大粒の結晶粒度番号との差も8.0を超えた。その結果、目標とする疲労強度が得られなかった。分塊圧延時の加熱温度が1300℃未満であったためと考えられる。
【0145】
試験番号55では、素形材の最大析出物のサイズが200nmを超え、浸炭部品の最大析出物のサイズも230nmを超えた。さらに、最大粒の結晶粒度番号が4.0未満となり、平均粒度番号と最大粒の結晶粒度番号との差も8.0を超えた。その結果、目標とする疲労強度が得られなかった。棒鋼圧延時の加熱温度が高すぎたためと考えられる。
【0146】
試験番号56では、棒鋼圧延時の加熱温度が低すぎ、ロールへの負荷が大きすぎた。そのため、安定して量産するには多大なコストがかかる可能性があると判断した。
【0147】
試験番号57では、Mo含有量が本発明で規定するMo含有量の下限未満であった。さらに、分塊圧延時の加熱温度が低すぎ、棒鋼圧延時の加熱温度が高すぎた。そのため、素形材の最大析出物のサイズが200nmを超え、浸炭部品の最大析出物のサイズも230nmを超えた。さらに、最大粒の結晶粒度番号が4.0未満となった。その結果、目標とする疲労強度が得られなかった。
【0148】
試験番号58では、Si含有量及びCr含有量が本発明で規定するSi含有量及びCr含有量の上限を超えた。さらに、Mo含有量が本発明で規定するMo含有量の下限未満であった。さらに、Nbを含有しなかった。さらに、分塊圧延時の加熱温度が低すぎ、棒鋼圧延時の加熱温度が高すぎた。そのため、Nb析出物が析出せず、最大粒の結晶粒度番号が4.0未満となった。その結果、目標とする疲労強度が得られなかった。
【0149】
試験番号59では、Si含有量、P含有量及びCr含有量が本発明で規定するSi含有量、P含有量及びCr含有量の上限を超えた。さらにMn含有量及びMo含有量が本発明で規定するMn含有量及びMo含有量の下限未満であった。そのため、最大粒の結晶粒度番号が4.0未満となり、平均粒度番号と最大粒の結晶粒度番号との差も8.0を超えた。その結果、目標とする疲労強度が得られなかった。
【0150】
試験番号60は、Si含有量及びCr含有量が本発明で規定するSi含有量及びCr含有量の上限を超えた。さらにMo含有量が本発明で規定するMo含有量の下限未満であった。そのため、最大粒の結晶粒度番号が4.0未満となった。その結果、目標とする疲労強度が得られなかった。さらに、冷間鍛造性が低かった。
【0151】
試験番号61では、Si含有量及びCr含有量が本発明で規定するSi含有量及びCr含有量の上限を超えた。さらに、Mo含有量が本発明で規定するMo含有量の下限未満であった。さらに、Nbを含有しなかった。さらに、分塊圧延時の加熱温度が低すぎ、棒鋼圧延時の加熱温度が高すぎた。そのため、Nb析出物が析出せず、最大粒の結晶粒度番号が4.0未満となった。その結果、目標とする疲労強度が得られなかった。
【0152】
試験番号62では、Si含有量が本発明で規定するSi含有量の上限を超えた。さらに、Mn含有量及びMo含有量が本発明で規定するMn含有量及びMo含有量の下限未満であった。さらに、Nbを含有しなかった。さらに、分塊圧延時の加熱温度が低すぎ、棒鋼圧延時の加熱温度が高すぎた。そのため、Nb析出物が析出せず、最大粒の結晶粒度番号が4.0未満となった。その結果、目標とする疲労強度が得られなかった。
【0153】
試験番号63では、Si含有量が本発明で規定するSi含有量の上限を超えた。そのため、冷間鍛造性が低かった。
【0154】
以上のとおり、本発明による冷間鍛造用鋼材は、冷間鍛造性に優れ、さらに高い疲労強度を有する。そのため、これまで「熱間鍛造-切削」工程で製造していた自動車用部品、産業機械用部品、建設機械用部品など機械構造用部品の素材として広く適用可能であり、部品のニアネットシェイプ化に貢献できる。
【0155】
以上、本発明の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。