(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】精錬用ランス装置、電気炉および製鋼方法
(51)【国際特許分類】
C21C 7/072 20060101AFI20221227BHJP
C21C 5/52 20060101ALI20221227BHJP
F27B 3/22 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
C21C7/072 A
C21C5/52
F27B3/22
(21)【出願番号】P 2018234047
(22)【出願日】2018-12-14
【審査請求日】2021-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】井本 健夫
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】特許第7024600(JP,B2)
【文献】特開2010-111940(JP,A)
【文献】特開2012-082491(JP,A)
【文献】特開2012-082492(JP,A)
【文献】特開2004-156083(JP,A)
【文献】特開平07-157819(JP,A)
【文献】特開2005-068532(JP,A)
【文献】特開2002-012907(JP,A)
【文献】特開平10-046226(JP,A)
【文献】特開2003-201509(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 7/00-7/10
C21C 5/00、5/28-5/50
C21C 5/52
F27B 3/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
精錬用ランスを用いた精錬用ランス装置であって、
前記精錬用ランスは、先端に主孔ノズルを有し、
前記主孔ノズルはラバール形状であって、スロート部と、スロート部の下流側に順次径が拡大する末広部を有し、
前記主孔ノズルにガスを供給する主孔ガス流路と、
前記主孔ノズルの末広部に開口する複数の副孔と、前記各副孔にガスを供給する副孔ガス流路と、各副孔ガス流路を流れるガス流量を副孔ごとに独立に制御することのできる副孔ガス流量調整装置とを有し、
前記副孔ガス流量調整装置は、前記各副孔に副孔ガスを流しつつ副孔間の副孔ガス流量を異ならせることができ、
前記副孔は、
前記主孔ノズルの末広部の起点から主孔ノズル出口方向にスロート部直径以上の距離に配置されて
おり、前記複数の副孔のうち少なくとも2つの副孔は前記主孔ノズルの中心軸に対して対称の位置に設けており、
前記主孔ガス流路に、非酸化性ガス、酸素ガス、又は炭素分を含有した石油ガスのうちの2種以上を切り替えて供給することのできる主孔ガス供給装置を有し、
さらに、前記主孔ガス流路に微粉炭を供給する微粉炭供給装置を有することを特徴とする精錬用ランス装置。
【請求項2】
精錬用ランスを用いた精錬用ランス装置を備えた電気炉であって、
前記精錬用ランスは、先端に主孔ノズルを有し、
前記主孔ノズルはラバール形状であって、スロート部と、スロート部の下流側に順次径が拡大する末広部を有し、
前記主孔ノズルにガスを供給する主孔ガス流路と、
前記主孔ノズルの末広部に開口する複数の副孔と、前記各副孔にガスを供給する副孔ガス流路と、各副孔ガス流路を流れるガス流量を副孔ごとに独立に制御することのできる副孔ガス流量調整装置とを有し、
前記副孔ガス流量調整装置は、前記各副孔に副孔ガスを流しつつ副孔間の副孔ガス流量を異ならせることができ、
前記副孔は、
前記主孔ノズルの末広部の起点から主孔ノズル出口方向にスロート部直径以上の距離に配置されて
おり、前記複数の副孔のうち少なくとも2つの副孔は前記主孔ノズルの中心軸に対して対称の位置に設けており、
前記精錬用ランス装置は、前記主孔ガス流路に、非酸化性ガス、酸素ガス、又は炭素分を含有した石油ガスのうちの2種以上を切り替えて供給することのできる主孔ガス供給装置を有し、
前記精錬用ランスが電気炉内の溶鉄表面に向けて配置されていることを特徴とする直流、または、交流型電気炉。
【請求項3】
前記精錬用ランス装置は、さらに、前記主孔ガス流路に微粉炭を供給する微粉炭供給装置を有することを特徴とする
請求項2に記載の直流、または、交流型電気炉。
【請求項4】
精錬用ランスを用いた精錬用ランス装置を用いて行う製鋼方法であって、
前記精錬用ランスは、先端に主孔ノズルを有し、
前記主孔ノズルはラバール形状であって、スロート部と、スロート部の下流側に順次径が拡大する末広部を有し、
前記主孔ノズルにガスを供給する主孔ガス流路と、
前記主孔ノズルの末広部に開口する複数の副孔と、前記各副孔にガスを供給する副孔ガス流路と、各副孔ガス流路を流れるガス流量を副孔ごとに独立に制御することのできる副孔ガス流量調整装置とを有し、
前記副孔ガス流量調整装置は、前記各副孔に副孔ガスを流しつつ副孔間の副孔ガス流量を異ならせることができ、
前記副孔は、
前記主孔ノズルの末広部の起点から主孔ノズル出口方向にスロート部直径以上の距離に配置されて
おり、前記複数の副孔のうち少なくとも2つの副孔は前記主孔ノズルの中心軸に対して対称の位置に設けており、
前記精錬用ランス装置は、前記主孔ガス流路に、非酸化性ガス、酸素ガス、又は炭素分を含有した石油ガスのうちの2種以上を切り替えて供給することのできる主孔ガス供給装置を有し、
溶鋼製造のための酸化鉄還元、加熱溶解、不純物除去を実施する際に、
前記副孔のガス流量を独立制御して、主孔ノズルの軸方向から0°を超え、45°以下の偏向噴流の方向の範囲に噴流噴出角度を変更させることを特徴とする製鋼方法。
【請求項5】
前記精錬用ランス装置は、さらに、前記主孔ガス流路に微粉炭を供給する微粉炭供給装置を有することを特徴とする
請求項4に記載の製鋼方法。
【請求項6】
請求項
2又は請求項3に記載の直流、または、交流型電気炉を用いて、
アーク加熱時には、ガス噴流吹き付け、または、キャリヤーガスと炭材混合噴流吹き付けによる加炭を行い、
電極加熱を停止させた後に、副孔ガス流量の制御によって主孔ノズルからの噴流角度を浴面中心部に偏向させた上で主孔からの酸素吹き付けを実施することを特徴とする製鋼方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶鉄の加熱や酸化鉄の還元に用いるための精錬用ランス、精錬用ランス装置、電気炉、および、それを用いた製鋼方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶鉄の精錬においては、高温下での酸化物還元や鉄源溶解を実施する際にガスや燃料などを溶鉄表面に吹き付ける各種ランスが、転炉や取鍋精錬などのために数多く開発されており、近年では電気炉においても、電気コスト低減加熱や脱炭時に発生するCOガスによるシール効果を利用してスクラップなどに含有される窒素を低減するため、精錬用ランスを用いて送酸を行う溶鉄炭素燃焼(脱炭)操業が実施されている。
【0003】
これらの精錬用ランスによって溶鉄に吹き付けられる噴流は、酸素だけではなく、転炉での脱燐のためやRHでの脱硫のためにCaO系フラックスを吹き付けの精錬剤含有流体や、特許文献1記載のような主孔の酸素と一系統の副孔から吹き込む燃料をラバールノズルの内部で混合することによるバーナー燃焼機能を有するランスも広く実用化されるようになってきた。
【0004】
また、噴流の角度や強度を処理中に変化させるため、主孔とは別系統の1系統の独立した副孔からノズル内でガス噴流を混合させることによって、噴出ジェットを変化させる手段が特許文献2のような技術として検討されてきた。
【0005】
上述のような技術によって、1本のランスによって、酸素吹き付け、バーナー加熱が実施できるようになってきている他、副孔のガスによって噴流挙動を変化させることが可能になっている。
【0006】
ここで問題とされることは、特許文献2に見られるような副孔ガスを利用したジェット噴流の偏向を実施する際には、偏向をなくすために副孔のガスを停止するときに、主孔のガス浸入などによる副孔ノズルの損耗が激しくなり、ランス寿命が極端に低下するといった問題があった。また、ノズル出口近くの主孔圧力による損耗が小さい部分に副孔を設置した場合には、溶鉄製造時に発生するスプラッシュやダスト侵入の影響を十分回避することができないことから、後述する本発明の効果を発現するためのノズル噴流の偏向を安定的に行うためには、パージガスを用いない状態の主孔ノズル噴流と同じ角度のガス噴出操業ができないという問題点が存在した。
【0007】
更に、電気炉操業の効率化の観点からは、電極による加熱時に炭素源となる炭化水素系ガスの吹き付け溶解や微粉炭吹き付けなどは電極のアークスポットと干渉しない位置で実施することが安定的な操業のためには望ましい。一方で、電気加熱後の送酸による脱炭、脱窒などの高純度化および安価加熱処理を実施する際には、主に炉体中心付近に酸素吹き付け火点を形成しないと、高温火点の影響による耐火物ダメージが激しくなる。即ち、電極加熱時の加炭材吹き付けの好適位置と、脱炭処理時の酸素ガス吹き付けの好適位置とが相違している。
【0008】
上記問題を解決するためには、操業中のランス交換、伸縮機能やランスノズル先端角度変更可能な機械的な特殊構造が考えられるが、高温下でスプラッシュやダストが大量に発生する条件で安定的な構造は、実用上の問題が大きいため、極限られた条件でしか実用ができないものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平6-73432号公報
【文献】特開2010-47830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように、ノズル内に主孔と独立した圧力制御が可能なノズルを配置したことによる噴流角度の制御を実施するためには、特許文献1の
図2に示されるようなノズル内対向位置や正多角形配置(例えば90°角度による4孔配置)を用いた場合、副孔が同一系統ではそれぞれのノズルの背圧が等しくなるため、主孔のジェット方向に有効な角度偏向を与えることができず、一方で、特許文献2に記載のような方法では、副孔のパージガスを止めることができない影響で、偏向が発生するために主孔ノズルの軸方向への安定的なジェット形成を維持することができず、その利用範囲は限定されるものであった。
【0011】
本発明は、上記問題を解決することのできる、精錬用ランス、精錬用ランス装置、電気炉および製鋼方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記視点に着目した実験研究によって、本発明では、副孔を用いてジェット噴流を偏向させる制御とそれを主孔ノズルの軸方向へ戻す制御を可能にし、更には、ランスの回転を伴うような操作をせずに複数多方向へジェット噴流を向ける制御を実現するに至り、その、有効な適用方法として溶鉄溶解・精錬への有効活用に適した製鋼方法を見出し、その具現化に至ったものである。
上記課題解決のため、ランス構造の検討とその特性調査を実施して優れた構造を見出し、更に、その特徴を活用することによって優れた製鋼方法を見出すことができた。即ち、本発明の要旨とするところは以下の通りである。
【0014】
(1)精錬用ランスを用いた精錬用ランス装置であって、
前記精錬用ランスは、先端に主孔ノズルを有し、
前記主孔ノズルはラバール形状であって、スロート部と、スロート部の下流側に順次径が拡大する末広部を有し、
前記主孔ノズルにガスを供給する主孔ガス流路と、
前記主孔ノズルの末広部に開口する複数の副孔と、前記各副孔にガスを供給する副孔ガス流路と、各副孔ガス流路を流れるガス流量を副孔ごとに独立に制御することのできる副孔ガス流量調整装置とを有し、前記副孔ガス流量調整装置は、前記各副孔に副孔ガスを流しつつ副孔間の副孔ガス流量を異ならせることができ、
前記副孔は、前記主孔ノズルの末広部の起点から主孔ノズル出口方向にスロート部直径以上の距離に配置されており、前記複数の副孔のうち少なくとも2つの副孔は前記主孔ノズルの中心軸に対して対称の位置に設けており、
前記主孔ガス流路に、非酸化性ガス、酸素ガス、又は炭素分を含有した石油ガスのうちの2種以上を切り替えて供給することのできる主孔ガス供給装置を有し、
さらに、前記主孔ガス流路に微粉炭を供給する微粉炭供給装置を有することを特徴とする精錬用ランス装置。
【0015】
(2)精錬用ランスを用いた精錬用ランス装置を備えた電気炉であって、
前記精錬用ランスは、先端に主孔ノズルを有し、
前記主孔ノズルはラバール形状であって、スロート部と、スロート部の下流側に順次径が拡大する末広部を有し、
前記主孔ノズルにガスを供給する主孔ガス流路と、
前記主孔ノズルの末広部に開口する複数の副孔と、前記各副孔にガスを供給する副孔ガス流路と、各副孔ガス流路を流れるガス流量を副孔ごとに独立に制御することのできる副孔ガス流量調整装置とを有し、前記副孔ガス流量調整装置は、前記各副孔に副孔ガスを流しつつ副孔間の副孔ガス流量を異ならせることができ、
前記副孔は、前記主孔ノズルの末広部の起点から主孔ノズル出口方向にスロート部直径以上の距離に配置されており、前記複数の副孔のうち少なくとも2つの副孔は前記主孔ノズルの中心軸に対して対称の位置に設けており、
前記精錬用ランス装置は、前記主孔ガス流路に、非酸化性ガス、酸素ガス、又は炭素分を含有した石油ガスのうちの2種以上を切り替えて供給することのできる主孔ガス供給装置を有し、
前記精錬用ランスが電気炉内の溶鉄表面に向けて配置されていることを特徴とする直流、または、交流型電気炉。
(3)前記精錬用ランス装置は、さらに、前記主孔ガス流路に微粉炭を供給する微粉炭供給装置を有することを特徴とする(2)に記載の直流、または、交流型電気炉。
【0016】
(4)精錬用ランスを用いた精錬用ランス装置を用いて行う製鋼方法であって、
前記精錬用ランスは、先端に主孔ノズルを有し、
前記主孔ノズルはラバール形状であって、スロート部と、スロート部の下流側に順次径が拡大する末広部を有し、
前記主孔ノズルにガスを供給する主孔ガス流路と、
前記主孔ノズルの末広部に開口する複数の副孔と、前記各副孔にガスを供給する副孔ガス流路と、各副孔ガス流路を流れるガス流量を副孔ごとに独立に制御することのできる副孔ガス流量調整装置とを有し、前記副孔ガス流量調整装置は、前記各副孔に副孔ガスを流しつつ副孔間の副孔ガス流量を異ならせることができ、
前記副孔は、前記主孔ノズルの末広部の起点から主孔ノズル出口方向にスロート部直径以上の距離に配置されており、前記複数の副孔のうち少なくとも2つの副孔は前記主孔ノズルの中心軸に対して対称の位置に設けており、
前記精錬用ランス装置は、前記主孔ガス流路に、非酸化性ガス、酸素ガス、又は炭素分を含有した石油ガスのうちの2種以上を切り替えて供給することのできる主孔ガス供給装置を有し、
溶鋼製造のための酸化鉄還元、加熱溶解、不純物除去を実施する際に、
前記副孔のガス流量を独立制御して、主孔ノズルの軸方向から0°を超え、45°以下の偏向噴流の方向の範囲に噴流噴出角度を変更させることを特徴とする製鋼方法。
(5)前記精錬用ランス装置は、さらに、前記主孔ガス流路に微粉炭を供給する微粉炭供給装置を有することを特徴とする(4)に記載の製鋼方法。
(6)(2)又は(3)に記載の直流、または、交流型電気炉を用いて、
アーク加熱時には、ガス噴流吹き付け、または、キャリヤーガスと炭材混合噴流吹き付けによる加炭を行い、
電極加熱を停止させた後に、副孔ガス流量の制御によって主孔ノズルからの噴流角度を浴面中心部に偏向させた上で主孔からの酸素吹き付けを実施することを特徴とする製鋼方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、溶鋼製造を目的としたランス操作時の噴流角度の調節を、ランス寿命の短縮などの悪影響を受けることなく、なおかつ、多方向に向けた吹き付けをランスの回転操作などのための特殊な機構を必要とせずに実施することができる。また、その機能を活用することで、溶鋼表面の精錬スラグのうち、未滓化部位に向けて送酸を行うことにより、滓化促進などの精錬効率を向上させることができる。さらに、アーク型電気炉の操業においての電気加熱中の炭素添加については炉中心のアーク加熱領域から外れた位置に噴流を向けて炭素を添加する一方、電気加熱後の脱炭、脱燐、および、それに伴う脱窒処理時の噴流位置(火点)を耐火物ダメージの問題にならない炉体中心方向に変化させる操業を実施することが可能である。以上のように、本発明による鉄鋼製品製造における操業改善効果は極めて高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の精錬用ランス構造の一例を説明するための図であり、(A)は正面断面図、(B)はB-B矢視平面断面図、(C)はC-C矢視図である。
【
図3】各系統の背圧制御による主孔ノズル軸に直交する面への噴流衝突操作実施様態例である。
【
図4】本発明の製鋼法の実施様態例を説明するための模式図であり、(A)は正面図、(B)は平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明による精錬用ランス構造の一例として4系統の独立した副孔圧力制御機構を有するものの図面であり、
図2は精錬用ランスを用いたランス装置を示す図であり、
図3は
図1に示した精錬用ランスを用いた主孔ノズル軸に直交する面に向けた噴流衝突位置操作の様態例を、また、
図4は
図1に示した構造のランスを用いて、直流アーク電気炉の操業形態を示したものである。ここで、本発明は、
図1~4に限られたものではなく、本発明の請求項で規定される範囲にて、電気炉以外の転炉や取鍋製錬などの送酸を伴う操業においても適宜その効果を溶鉄精錬プロセスにて発現するものである。
【0020】
ここで、
図1(A)はランス先端チップ構造を垂直縦断面図にて示しており、(B)は吹錬ランスのB-B矢視水平断面を示し、(C)はランス先端を下方から見たC-C矢視図である。
【0021】
本発明の精錬用ランス11は、先端に主孔ノズル27を有し、主孔ノズル27はラバール形状であって、スロート部7と、スロート部7の下流側に順次径が拡大する末広部29を有し、主孔ノズル27にガスを供給する主孔ガス流路31と、主孔ノズルの末広部29に開口する複数の副孔9と、各副孔9にガスを供給する副孔ガス流路32と、各副孔ガス流路32を流れるガス流量を副孔ごとに独立に制御することのできる副孔ガス流量調整装置42とを有し、副孔9は、主孔ノズルの末広部29の起点から主孔ノズル出口方向に、そのノズル軸線上においてスロート部直径以上の距離に配置されていることを特徴とする。
【0022】
精錬用ランス11はまず、先端に主孔ノズル27を有し、主孔ノズル27はラバール形状であって、スロート部7と、スロート部7の下流側に順次径が拡大する末広部29を有し、主孔ノズル27にガスを供給する主孔ガス流路31とを有する。
【0023】
主孔ノズル27の構造は、配管内およびノズル出口での圧力損失を抑制することができるラバールノズル構造である必要があるが、くびれ部である主孔スロート部7における圧力が主孔ガス流路31から主孔ノズル出口まででの最大値になる構造であれば、主孔の背圧制御によって主孔ガスの流量を調整することができる。出口部の断面積は、背圧と出口圧の比率から一義的に決定される適正膨張断面積である必要はなく、噴流の突出角度が出口部の開き角を超えることはないので、操業に支障がない範囲で広い角度になるように出口断面積を設計することが、本発明の実施には適切である。従って、スロート部位と出口部位の断面積が等しいストレートノズルや、出口部位の断面積が最も狭い先細ノズルを主孔に用いた構造では本発明の実施はできない。
【0024】
主孔ノズル27には、主孔ノズルの末広部29に開口する複数の副孔9を有する。また、各副孔9にガスを供給する副孔ガス流路32と、各副孔ガス流路32を流れるガス流量を副孔ごとに独立に制御することのできる副孔ガス流量調整装置42とを有する。副孔ガス流量調整装置42は副孔ガス流量調整弁40を有し、各副孔へ供給する圧力又はガス流量を調整する。
図1に示す例では、副孔9ごとにフレキシブルホース2を用いた副孔ガス流路32を設け、副孔ガス流路32は、主孔ガス流路31を構成する内管1の外側に副孔9の数だけ配置されている。
【0025】
次に、副孔9を設ける目的について説明する。副孔9から副孔ガスを噴出しない場合、主孔ノズル27から噴出する主孔流体8の噴出方向は、主孔ノズル27のノズル軸51方向と一致する。ここにおいて、副孔9から副孔流体28を噴出すると、主孔流体8の噴出方向は、主孔ノズル27のノズル軸51から見て、副孔9の存在位置と反対側に傾いて噴出することとなる。即ち、副孔9を設け、副孔9から副孔流体28を噴出することにより、主孔流体8の噴出方向を変化させるのである。本発明においては、主孔流体中に微粉炭を供給したりしなかったり選択できる。
【0026】
次に、主孔ノズルの末広部における副孔9の設置位置について説明する。本発明による装置の実用効果を確認するために、大気圧条件におけるコールド試験を実施した。コールド試験に用いた精錬用ランス11は、後に示す溶鋼実験用に製作したものであるが、溶鋼実験で実施した
図4に示されるような斜め配置ではなく、実験の精度上垂直配置で行った。
【0027】
ランス構造は、
図1に示される形態のランスであり、
図2に示すランス装置として構成されている。ランスの外形は80mmφの水冷構造で、内管内径が25mmで円形のスロート部7の直径が8mmφで、主孔ガス配管39には主孔ガス流量調整弁38とともに主孔ガス供給装置36が接続され、切り替え式で、酸素ガス系36a、非酸化性ガス系36b(窒素ガス、アルゴンガス)、石油ガス系36c(天然ガス等)が接続されている。また、主孔ガス配管39には、微粉炭供給装置37が接続されている。これにより、酸素ガスや、窒素ガス又はアルゴンガスをキャリヤーガスとした微粉炭混合流体、天然ガスが導入可能な構造としている。
【0028】
主孔ノズル27のスロート部7からノズル出口までの長さは、そのノズル軸線上において24mmで、ラバール形状の末広部29の開き角度は片側40°、背圧が独立制御される4つの副孔9は先端部が1.4mmφのストレートノズルを内向き8°に配置されている。ノズル軸51方向の副孔9の設置位置を、スロート部から副孔中心までの鉛直距離で6mm(チップA)、15mm(チップB)、20mm(チップC)の3種類のランスチップを用いた実験を行った。
【0029】
コールド実験は大気圧条件で行ったが、可燃性のガスを用いるために排気ガスは集塵機に到達する前にアフターバーナーで完全燃焼させた後にサイクロンで集塵機に悪影響がない50℃以下まで空冷した条件で行った。
【0030】
実験に用いたガスは窒素ガスで、主孔の圧力Pm(以下:絶対圧)、副孔の圧力Pa、Pb、Pc、Pdは0.1~2.0MPaの範囲で背圧を独立に制御したときの噴流到達位置の測定を実施した。このときの条件は、ランス直下1mの部位に約1mmの粒状ポーラスアルミナ粒を予め平坦に敷き詰めておき、噴流照射後の凹み部の最も深い位置とランス直下位置の距離から、噴流の偏向角度を幾何学的に算定した。
【0031】
上記のコールド試験の結果、チップA(スロート下部のスロート径の0.75倍位置の内面に副孔を設置)では偏向角度を3°以上変化させることはできなかった。これに対して、チップB(スロート径の1.88倍位置),チップC(スロート径の2.5倍位置)では、
図3に示す要領にて、衝突噴流47bの形態ではb系統の副孔側への偏向角度を45°未満の範囲内に適宜制御可能であること、微粉炭混合流体も同様に制御できることを確認することができた。また、衝突噴流47aの形態での主孔噴流方向の安定維持、衝突噴流47cの形態における面状位置への噴流制御が問題なく可能であることを確認することができた。
【0032】
以上のコールド試験結果からも明らかになったとおり、スロート部位の近傍で、スロートからスロート径(スロート部形状が真円でない場合は、面積から逆算した真円相当直径)に相当する部分には、ジェット圧力に減少が殆どない領域が存在するが、スロートから出口部位に設置される副孔の設置をスロートからスロート径以内に設置した場合には副孔による圧力上昇による偏向効果が著しく小さいため、設置位置はそれよりも出口側に設置することが好ましい。そこで本発明では、副孔9は、主孔ノズルの末広部29の起点から主孔ノズル出口方向に、そのノズル軸線上においてスロート部直径以上の距離に配置されている。
【0033】
本発明は、複数の副孔9を有し、ガス流量を副孔ごとに独立に制御可能であることを特徴とする。以下、この点について説明する。
【0034】
それぞれの圧力を独立に制御してチップの内管出口周囲に配置された副孔9のガス噴出圧力(
図1の縦断面中にはa系統、b系統の副孔ガス流路32及び副孔9とc系統の副孔9のみを記載)を変更することで、主孔流体の噴出角度を制御可能にできる構造となっている。
【0035】
図1に示す例では、副孔9を4か所(a、b、c、d)主孔ノズル軸対称に等角度で設けている。主孔ノズル軸51に対して、aとbが対向し、cとdが対向している。独立配管圧力をa>(c=d)>bに制御すると、c=d(圧力)なので、cとdを結ぶ方向には噴出角度は変化しない。一方、bよりaの圧力が高いので、主孔流体8の噴流46の流体噴出角度10(ノズル軸51との間の角度)をb系統に連結する副孔9の方に偏向している様態を示している。
【0036】
ガス流量を副孔ごとに独立に制御可能としている理由について説明する。圧力制御が単独系統の場合には、単一の副孔を設けることとすれば、副孔に副孔ガスを流すか流さないかで流体噴出方向を変化させることができる。しかし、副孔に流すパージガスを停止させないと噴流方向を偏心させることなく噴出させることができず、その場合には、パージガスを送らないことに起因する、酸化性ガスや、微粉炭が副孔を酸化や粉体付着などで損傷してランスチップの頻繁な交換などのメンテナンスなしには安定操業ができないこととなる。また、一方で、複数の副孔から同一圧力でガスを流すときには、操業中のランス噴流角度制御ができなくなる。
【0037】
副孔の設置数については、最低2個とする。2個の場合は、
図1におけるaとbの位置、即ちノズル軸に対して対称に設けると良い。これにより、2つの副孔のガス流量を同じとしたときには流体噴出方向をノズル軸方向とし、ガス流量を異ならせたときには流体噴出方向をノズル軸方向から変化させることができる。
【0038】
また、副孔の設置数を4個とした場合には、噴流の方向をb系統の副孔の方に偏向させることに加えて、
図1におけるc系統とd系統のガス流量を操作することで、cとdを結ぶ方向にも偏向させることが可能になる。但し、副孔の数は多くするほど噴流方向の制御は容易になるが、多くするほどランスの構造が複雑になるほか、設備費用も嵩むので、6個程度までが適当といえる。
【0039】
独立した副孔制御系統は2系統でも本発明の効果を発現できるが、3系統以上の独立配管を設けることで、主孔噴流の溶鉄表面衝突部位を二次元的に制御することが可能であり、その1例を模式化した
図3にて説明する。ランス設置は必ずしも垂直方向下向きである必要はないが、本発明の特徴を分かりやすく説明するために
図3では垂直に配置したランスに対して吹き付けられる溶鉄浴面上の噴流衝突位置の操作を例示している。
【0040】
衝突噴流47aは、4つの副孔9のパージガス圧力をすべて同一として、さらに主孔ノズルの背圧よりも低くしている例である。衝突噴流47aは、精錬用ランス11のノズル軸51と衝突面との交点位置と一致している。この場合、安定して主孔延直噴流と同じ向きのジェットをノズル直下に衝突させることができる。衝突噴流47bは、副孔c,dを同じ圧力にして副孔aの背圧をそれよりも高い値に、副孔bの背圧を低い値に維持した場合の衝突位置である。図面では衝突噴流はb系統の副孔側(図の右側)に噴出角度を偏向させることができる。衝突噴流47cは、b,c系統の副孔の背圧を主孔よりも高めて、a,d系統の副孔の圧力を低位にした場合の衝突位置である。衝突噴流47cをa,d系統の副孔の間位置(図の左下側)に制御しているものである。このような、副孔のある方向ではなく、衝突位置を溶鉄表面の二次元的任意角度に変更させるためには前述の通り3系統以上の副孔独立配管を有することで実施できることから、配管やノズル設計などに制約がない場合には機能向上には特に適した構造である。
【0041】
精錬用ランスは、溶鋼表面に近接してガス吹き付けを行うため、溶鋼からの輻射熱に対応するため、水冷ランス構造とすることが多い。精錬用ランス11の構造は、
図1に示すように、一般的水冷式を採用している。主孔ガス流路31の配管である内管1と、副孔9につながる4系統(a,b,c,d系統)の副孔ガス流路32であるフレキシブルホース2による独立配管を内挿する外管3が備わっており、高温の溶鉄からの輻射や伝熱によるランスの保護のための冷却水内側通路4から先端部を冷却水が通過して冷却水外側通路5を上昇するように、冷却水循環管6で隔てられた構造になっている。冷却水循環管6の外側に最外管33を有し、冷却水循環管6と最外管33との間の空間が冷却水外側通路5を形成する。
【0042】
本発明の精錬用ランスを用いた精錬用ランス装置は、
図2に示すように、主孔ガス流路31に、非酸化性ガス、酸素ガス、又は炭素分を含有した石油ガスのうちの2種以上を切り替えて供給することのできる主孔ガス供給装置36を有することを特徴とする。
図2に示す例では、主孔ガス供給装置36は、酸素ガス系36a、非酸化性ガス系36b、石油ガス系36cの3系統を切り替えて、主孔ガス流路31にガスを供給することができる。
【0043】
さらに、主孔ガス流路31に微粉炭を供給する微粉炭供給装置37を有すると好ましい。主孔ガス供給装置36の非酸化性ガス系36bから非酸化性ガス、例えばアルゴンガスや窒素ガスを供給してキャリヤーガスとし、微粉炭供給装置37から主孔ガス流路31に微粉炭を供給することにより、主孔ノズルにキャリヤーガスとともに微粉炭を供給することができる。
【0044】
これにより、内管1内側の主孔ガス流路からは、酸素の他、加炭に必要な微粉炭や重油などをアルゴンや窒素などの不活性キャリヤーガスでの添加や、メタンやプロパン、天然ガスなどの燃料ガス(石油ガス)を主孔スロート部7を通過させて主孔流体8として吹き付けることができる。一方、副孔9から主孔ノズルと同種または、不活性ガスなどの精錬効果に悪影響のないガスを独立制御された圧力にて噴出させることによって、流体噴出角度10を制御することができる。
【0045】
図1では、副孔の独立制御用の副孔ガス流路32を、内管1と外管3で分割された通路にa,b,c,dの4系統でフレキシブルホース2にて副孔9に連結させる構造としているが、分割方法は、縦方向に仕切り板を設けるような方式でも実用上支障はない。
【0046】
本発明の製鋼方法においては、上記本発明の精錬用ランス装置を用いて、溶鋼製造のための酸化鉄還元、加熱溶解、不純物除去を実施する際に、副孔9のガス流量を独立制御して、主孔ノズル27の軸方向から0°を超え、45°以下の偏向噴流の方向の範囲に噴流噴出角度を変更させることを特徴とする。
【0047】
転炉や電気炉、各種取鍋精錬において、前記本発明の機能を有する精錬用ランス11を用いると、送酸やバーナー加熱を実施する際には、上部モニターで観察される精錬スラグの未滓化部にジェットをコントロールして滓化促進を図ることなどで精錬速度を速めることができ、また、耐火物溶損が見られる部位から照射部を溶損影響が回避できる部位にコントロールするなど、製鋼方法には広く適用できるものである。しかし、上記の説明になる通り、本発明による制御可能な偏向角度はスロート部の開き角を超えることはなく、実用上開き角45°を超えるノズルの場合、出口部付近の圧力不足によってスピッティングによる地金、スラグ付着やダスト付着などによって安定操業が困難になるため、0°を超える偏向角度に45°の上限を規定した。
【0048】
本発明の直流、または、交流型電気炉は、
図4に示すように、精錬用ランス装置を備えた電気炉であって、精錬用ランスが電気炉内の溶鉄表面45に向けて配置されていることを特徴とする。
【0049】
図4は、適用効果が特に有効に作用する、上記本発明のアーク型電気炉操業の形態様式を示す。ここでは、本発明の精錬用ランス11がシールを保った状態(ここでは特に形態は図示しない)で、水冷パネル12を通過して炉体13に収容された溶鋼14の溶鉄表面45にジェット照射しているものである。図示した電気炉30は上部黒鉛電極15と下部電極16を有した直流電気炉であり、炉体13はガス吹込み装置23を有し、撹拌ガス24を吹込むことができる。また炉体13は出鋼孔26を有し、シール蓋20には排ガスダクト25が設置されている。
図4は、スクラップとダストブリケットを原料に還元溶解を行い、排滓孔17から除滓した状態で、アーク18によって必要温度まで加熱されている状態である。この間に、精錬用ランス11から炭化ガスジェット19を吹き付けることによって、炭素源の溶解を進行させている。ここで炭化ガスとは、溶鉄を加炭する機能を有するガスを意味し、炭素分を含有した石油ガス、微粉炭を含むガスなどが該当する。電気炉によるアーク加熱中は電極とアークが炉体上部に存在して、副原料添加のためのランス位置の設置は極めて限定されるが、炭化ガス(この場合はメタンガス)吹き付け溶解は吸熱反応であるために耐火物近くであっても溶損などの熱的悪影響がない。炭化ガスの種類は、メタン(天然ガス)以外にも、プロパン、ブタン、アセチレン等のガスでも良く、安価な加炭方法としては、不活性ガスをキャリヤーガスとした炭材(微粉炭)添加や灯油や重油などの液体とガスの混合ミスト吹き付けも有効な手段である。また、脱燐処理を行う場合には、脱燐剤を上方ホッパーなどの添加装置などから添加し、高温溶鉄表面に晒してある程度滓化させておき、後の脱炭吹錬時に酸素吹付け位置を操作することによって滓化を促進して、脱燐反応を効果的に進めることも可能である。
【0050】
この操業では、炭材添加は電気加熱による昇温よりもコストの安価な加炭した炭素燃焼(二次燃焼も含む、また、炭化水素の場合は空間水素燃焼効果も享受できる)による脱炭昇温の実施と共に、脱炭時に発生する大量のCOガスに伴う界面拡大とシール作用による脱窒促進を重視しているため、電気炉の構造は、シール蓋20と絶縁シール材21による空気ピックアップ防止が施されている(
図4参照)。従って、所定の昇温と加炭を終えた後に、アーク照射を停止して黒鉛電極15の上昇を行った後に、主孔流体、副孔流体ともに酸素ガスとし、副孔に吹き込む酸素ガス圧力を制御して、噴流が衝突する火点部位が耐火物溶損に問題にならない炉の中心位置になるように、ジェット角度を変更して吹錬することで脱炭、脱窒処理を安定的に進行させることができる。
【0051】
上記のように、請求項4の手段はアーク型電気炉操業での利用に特に適していることから、請求項6には、アーク加熱中の炭資源添加とアーク加熱後に火点発熱が耐火物ダメージ軽減できる中心方向に偏向させた酸素吹錬への利用を規定したものである。
【実施例】
【0052】
本発明の実施例について説明する。ここで記載した条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0053】
本発明による装置の実用効果を確認するために、上記知見に基づいて溶鋼を対象とした操業改善効果を確認すべく、溶解量1.0t(内径1200mm)の試験直流電気炉を用いた検証実験を実施した。
【0054】
実験で用いた精錬用ランス11及びランス装置は、前述のコールド試験で用いたものと同じであり、以下のような構成を有している。
ランス構造は、
図1に示される形態のランスであり、
図2に示すランス装置として構成されている。ランスの外形は80mmφの水冷構造で、内管内径が25mmで円形のスロート部7の直径が8mmφである。
ランスチップは
図1に示す形式の主孔と4か所の副孔を設けたものを使用し、副孔9の孔の位置は
図1(B)に示すb系統の副孔9が主孔ノズル軸と電気炉の炉体中心とを結ぶ線分上にある配置としている。主孔ノズル27のスロート部7からノズル出口までの長さは24mmで、ラバール形状の末広部29の開き角度は片側40°、背圧が独立制御される4つの副孔9は先端部が1.4mmφのストレートノズルを内向き8°に配置されている。スロート部7から20mmの位置に副孔9を設けたチップCを用いた。
【0055】
主孔ガス配管39には主孔ガス供給装置36が接続され、切り替え式で、酸素ガス系36a、非酸化性ガス系36b(窒素ガス、アルゴンガス)、石油ガス系36c(天然ガス)が接続されている。また、主孔ガス配管39には、微粉炭供給装置37が接続されている。これにより、酸素ガスや、窒素ガスをキャリヤーガスとした微粉炭混合流体、天然ガス(LNGを気化したガス)が導入可能な構造としている。微粉炭や天然ガス吹き付けの後に、酸素吹き込みを実施する際には、予め窒素ガスによる管内換気を15秒間実施することによって、管内での残留燃料と酸素混合による発火が起こることはなかった。副孔ガス配管41は、酸素と窒素、アルゴンに切り替えできる構造を採用した。
【0056】
電気炉内における精錬用ランス11の配置については、精錬用ランス11の先端位置は浴面から500mmの高さで、傾き角度を20°中心向きに傾斜させた状態である。4つの副孔9の圧力を同一として、主孔流体8の噴出方向をノズル軸51と同一方向としたとき、噴流46は、電極直下から400mm離れた位置(
図4(B)の衝突噴流47a)の溶鉄表面45に吹き付けられる。
【0057】
実験対象は、スクラップと型銑、ダストペレットを配合して黒鉛電極によって溶解、還元して溶製した、[C]:1.5%,[Si]<0.05%,[Mn]<0.1%、[P]:0.05%、[S]<0.01、[N]:0.01%を基本組成(濃度は質量%で記載)とした溶鋼で、約40kgの40%CaO―15%SiO2-20%t.Feを主成分とする脱燐能を有するスラグ共存させた条件で、精錬を行った。精錬は、前半に加熱・加炭処理を行い、その後、脱炭処理を行う。
【0058】
前半の加熱・加炭処理において、昇温と脱窒のために不足する炭素は、精錬用ランス11を用いて溶鋼中に供給した。電極加熱中に、精錬用ランス11から天然ガスまたはキャリヤーガスとともに微粉炭を噴出し、4つの副孔9の圧力を同一として、主孔流体8の噴出方向をノズル軸51と同一方向とした。これにより、電極直下から400mm離れた位置(
図4(B)の衝突噴流47a)の溶鉄表面45に噴流を吹き付けて浸炭処理を実施した。
【0059】
前半の加熱・加炭処理において、溶鋼温度(放射温度計測定値)が1500℃に達した後は、電極加熱を停止して電極上昇させた上で、後半の脱炭処理に移行する。脱炭処理開始前に、脱燐剤としてCaO換算で8kg(合計40kgの20%分)の粒径20mm程度の生石灰を炉内の溶鋼表面に供給する。脱炭処理では、主孔ノズル、副孔ともに、吹き込むガスを酸素ガスとする。これにより、脱炭反応とともに溶鋼の脱燐精錬が進行する。精錬用ランス11の主孔ノズル27と4か所の副孔9の背圧を操作して、噴流の向きを、
図4(A)の酸素ジェット22の方向とし、衝突位置を
図4(B)の衝突噴流47bの位置とし、炉体中心位置(アーク加熱領域48の中心)に噴流を偏向させた。その上で、主孔ノズルと副孔の合計送酸流量が50~70Nm
3/hの条件によって脱炭処理を実施し、炭素濃度<0.07%まで脱炭して、1560℃以上の低炭素溶鋼を試験製造した。脱炭時の脱炭酸素効率は、単孔ランスを垂直に吹き付ける1t規模の試験転炉と有意差のない75~85%であり、送酸処理後の[P]は、目標値の0.025%以下を満足する脱燐効率が得られている。
【0060】
溶鋼表面に脱燐剤であるスラグ固化が目視にて認められるときには、副孔の圧力制御によって酸素を固化スラグに衝突する角度にして、周囲の脱炭反応による強撹拌による滓化促進ができ、未滓化による反応阻害作用回避のための有効活用ができることも確認できた。例えば、
図4(B)の衝突噴流47cの位置に固化スラグの存在が観察されたときには、b系統、c系統の副孔9の圧力を高くし、a系統、d系統の副孔9の圧力を低くすることにより、噴流の向きを、
図4(A)の酸素ガスジェット34の方向とし、衝突位置を
図4(B)の衝突噴流47cの位置とし、周囲の脱炭反応による強撹拌による滓化促進ができた。
【0061】
これは、前述のランスの回転やノズル角度変更の特殊な機械構造を必要としない3系統以上の独立した圧力制御機能を有するランス使用効果の一例であることは言うまでもない。
【0062】
実験結果を表1に示す。
【0063】
【0064】
本発明例1は、前半の加熱・加炭処理において、アーク加熱時の浸炭に主孔ガスとして天然ガスを用いて実施したものであり、脱炭後の窒素濃度は目標の0.003%未満を充分にクリアできており、本発明の良好な結果を実証することができた。天然ガスは120Nm3/hで5分間の主孔ノズルからの吹き付けを行い、マスバランスから計算されるLNG中の炭素分6kg中の70%以上は溶鉄に吸収されることを確認できた。
【0065】
また、本発明例2は、前半の加熱・加炭処理において、アーク加熱時の浸炭に、主孔キャリヤーガス、副孔パージガスにアルゴンを使用して、主孔ガス中に微粉炭を混入して溶鉄に添加したものであるが、本発明例1と同様良好な結果が得られた。このとき、本発明例2で用いた微粉炭は硫黄含有量の低い土壌黒鉛を用いているため、硫黄ピックアップによる成分変動などの悪影響は見られていない。また、添加した微粉炭の一部が排ガスに流出する分が若干見られたが、微粉炭の炭素添加歩留りは85%以上の良好な値が確認できた。
【0066】
本発明例3は、c,d系統の副孔を停止した状態で試験を実施したものであるが、2か所の副孔を用いた操業においても、後半の脱炭処理において、酸素送酸時の火点を炉体中心側に偏心させることができたため、炉体耐火物の損傷は見られず、良好な溶鋼を得ることができた。一方、c,d系統の副孔のパージガスを流していなかったために、実験後にノズル形状の変形が認められ、すべての副孔にパージガスを流した場合の方が設備メンテナンスなどの面で有利であることを確認することもできた。
【0067】
本発明例4は本発明例1と同じ条件で加熱、精錬処理を実施したものであるが、炭素添加処理後の酸素吹錬前に添加した脱燐剤(CaO換算で8kg(合計40kgの20%分)の粒径20mm程度の生石灰)の滓化状況を確認したところ、送酸開始時には
図4(B)の衝突噴流47cに相当する付近に未滓化状態の精錬剤が存在していた。このまま、滓化処理を行わない条件で処理を行ったものである。この結果、吹錬終了後までにCaO溶解滓化が進行して脱燐が進行して合格レベル成分のものを製造できたが、滓化遅れによる影響で、処理後[P]は上限の0.025%に対して0.024%の比較的高いものであった。
【0068】
本発明例5は、本発明例4と同様の位置に未滓化状態の精錬剤が存在する条件において、脱炭処理の脱炭吹錬開始前に、滓化処理として、噴流角度制御によって酸素を未滓化部に吹き付ける滓化処理を30秒実施したものである。具体的には、表1の「本発明5」「滓化処理」の欄に記載のように、副孔のうち、b系統とc系統の圧力を上げ、これによる副孔ガスの流量調整によって、主孔ノズルからの酸素噴流を未滓化の石灰付近に衝突させた。これにより、完全滓化による脱炭、脱燐、窒素除去処理を実施できた結果、吹錬後の[P]は0.016%と良好な脱燐特性を確認でき、前述の3つ以上の独立した副孔を用いた浴面での二次元的制御効果を操業的に確認することができた。
【0069】
上記、本発明例1~5では実験後の耐火物に特別な溶損などの問題は見られず、ほぼ、脱炭、窒素除去吹錬中の火点中心部は浴面中心付近から100mm程度の範囲に制御できたものと推定された。
【0070】
比較例1は、副孔のない通常の精錬用ランスを用いて、前半の加炭・加熱処理で天然ガス吹き込みを実施した後に、後半の脱炭処理(酸素吹錬)を実施したものである。前半・後半ともに、主孔ノズルからの噴流は、
図4(B)の衝突噴流47aの位置である。加炭時には発熱がしないので耐火物の異常は認められなかったが、酸素吹錬時には火点の一部が耐火物に衝突して、吹錬1分程度で炉体耐火物剥離トラブル発生が発生したために操業を停止したため、目標の溶鋼製造はできなかった。
【0071】
比較例2は、1系統の副孔独立配管を有するランスの配管を4か所の副孔に連結したランスを用いた操業であるが、すべての副孔の圧力が等しいために、噴流を偏向させることができず、比較例1と同様に目的の操業を行うことができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明によって、溶鋼製造を目的としたランス操作時の噴流角度の調節を、ランス寿命の短縮などの悪影響を受けることなく、なおかつ、多方向に向けた吹き付けをランス回転機構などの特別な機械的構造物使用せずに実施することが可能になる。また、その機能を活用することで、未滓化部位の精錬スラグに向けた送酸による滓化促進などの精錬効率を向上させることができる他、電極配置の制約上、ランス設置位置と送酸部位が限られたアーク加熱型電気炉の加熱後の送酸位置を耐火物溶損などに支障のある炉壁周辺から中心位置に変化させて、安定的な脱炭、脱燐、および、それに伴う脱窒処理を安定的に実施することが可能であることから、本発明による鉄鋼製品製造における操業改善効果は極めて高いものである。
【符号の説明】
【0073】
1:内管
2:フレキシブルホース
3:外管
4:冷却水内側通路
5:冷却水外側通路
6:冷却水循環管
7:主孔スロート部
8:主孔流体
9:副孔
10:流体噴出角度
11:精錬用ランス
12:水冷パネル
13:炉体
14:溶鋼
15:黒鉛電極
16:下部電極
17:排滓孔
18:アーク
19:炭化ガスジェット
20:シール蓋
21:絶縁シール材
22:酸素ジェット
23:ガス吹込み装置
24:撹拌ガス
25:排ガスダクト
26:出鋼孔
27:主孔ノズル
28:副孔流体
29:末広部
30:電気炉
31:主孔ガス流路
32:副孔ガス流路
33:最外管
34:酸素ガスジェット
36:主孔ガス供給装置
36a:酸素ガス系
36b:非酸化性ガス系
36c:石油ガス系
37:微粉炭供給装置
38:主孔ガス流量調整弁
39:主孔ガス配管
40:副孔ガス流量調整弁
41:副孔ガス配管
42:副孔ガス流量調整装置
45:溶鉄表面
46:噴流
47:衝突噴流
48:アーク加熱領域
51:ノズル軸