(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】半導体ウエハ、赤外線検出器、これを用いた撮像装置、半導体ウエハの製造方法、及び赤外線検出器の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 31/10 20060101AFI20221227BHJP
H01L 27/144 20060101ALI20221227BHJP
H01S 5/343 20060101ALI20221227BHJP
H01L 21/20 20060101ALI20221227BHJP
H01L 27/146 20060101ALI20221227BHJP
H01L 29/207 20060101ALI20221227BHJP
H01L 21/203 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
H01L31/10 A
H01L27/144 K
H01S5/343
H01L21/20
H01L27/146 F
H01L29/207
H01L21/203 M
(21)【出願番号】P 2018235115
(22)【出願日】2018-12-17
【審査請求日】2021-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】奥村 滋一
【審査官】吉岡 一也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/042534(WO,A1)
【文献】特開2018-113407(JP,A)
【文献】特開2016-009716(JP,A)
【文献】特開2011-066319(JP,A)
【文献】YE, H. et al.,MBE growth optimization of InAs (001) homoepitaxy,Journal of Vaccum Science Technology B,2013年,Vol.31,No.3,pp.03C135-1 - 03C135-6
【文献】WANG, M.W. et al.,Study of interface asymmetry in InAs-GaSb heterojunctions,Journal of Vaccum Science Technology B,1995年,Vol.13,N0.4,pp.1689-1693
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/02-31/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
GaSbの下地と、
積層方向で前記下地の上に配置されるInAs層と、
を有し、前記InAs層は、膜厚方向に所定の濃度分布を有するSbを含み、
前記Sbの濃度は、41ppm/nm以上、43ppm/nm以下の傾きで前記膜厚方向に減少することを特徴とする半導体ウエハ。
【請求項2】
前記InAs層において、前記傾きで前記Sbの濃度減少が開始する初期Sb濃度は3000ppmであることを特徴とする請求項1に記載の半導体ウエハ。
【請求項3】
前記濃度分布は、前記下地との界面から前記InAs層の所定膜厚までの界面領域で一定濃度の前記Sbを含み、前記界面領域を超えた膜厚位置で、前記Sbの濃度が前記初期Sb濃度まで低下することを特徴とする請求項2に記載の半導体ウエハ。
【請求項4】
InAs
薄膜とGaSb
薄膜の繰り返しサイクルを有し、赤外帯域に感度を有する超格子層と、
積層方向で前記超格子層の上に配置されるInAs層と、
を有し、
前記超格子層の最上層は
前記GaSb薄膜であり、
前記InAs層は、膜厚方向に所定の濃度分布で存在するSbを含み、
前記Sbの濃度は、41ppm/nm以上、43ppm/nm以下の傾きで前記膜厚方向に減少することを特徴とする赤外線検出器。
【請求項5】
前記InAs層において、前記傾きで前記Sbの濃度減少が開始する初期Sb濃度は3000ppmであることを特徴とする請求項4に記載の赤外線検出器。
【請求項6】
請求項4または5に記載の赤外線検出器と、
前記赤外線検出器に接合される信号読み出し回路と、
を有する撮像装置。
【請求項7】
GaSbの上に、成長温度が460℃より高く、520℃以下、
エピタキシャル成長時のAsのビームフラックスとInのビームフラックスとのV/III比がモル分比で15以上、20未満の条件でInAs層、または所定組成のSbを含むInAs(Sb)層をエピタキシャル成長する、
ことを特徴とする半導体ウエハの製造方法。
【請求項8】
GaSb基板の上に、InAs
薄膜とGaSb
薄膜の繰り返しサイクルを有する超格子層を形成し、
前記超格子層の最上層の
前記GaSb薄膜の上に、成長温度が460℃より高く、520℃以下、V/III比がモル分比で15以上、20未満の条件でInAs層をエピタキシャル成長し、
前記超格子層と前記InAs層を含む積層体を加工して複数の画素を有する画素領域を形成する、
赤外線検出器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハ、赤外線検出器、これを用いた撮像装置、半導体ウエハの製造方法、及び赤外線検出器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
GaSb基板上のInAs/GaS超格子構造は、タイプIIのバンドラインナップを有し、超格子の膜厚と周期の少なくとも一方を調整することで、中赤外から遠赤外の波長帯に感度を有する赤外線検出器に適用することができる。タイプIIの超格子構造は「T2SL」と呼ばれており、赤外線検出器の他に、光通信用のレーザ光源、太陽電池、水分解システムの酸素発生電極などの光電子デバイスへの適用が期待されている。
【0003】
T2SL型の赤外線検出器は、サブバンド間の光吸収を利用した量子ドット型または量子井戸型の赤外線検出器と比べて少数キャリアの寿命が長く、暗電流の低減と、感度の増大が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光電子デバイスに適用されるエピタキシャル積層構造では、例えば特許文献1に記載されているように、T2SLの上方または下方に外部と電気的なコンタクトをとるコンタクト層が形成されることが多い。発明者は、GaSb上に、400℃前後の成長温度でバルクInAs層を成長したときに、As過剰によるピットが発生することを見いだした。さらに、この温度領域では、V/III比の条件を変えても、ピットは消失しないことが判明した。
【0006】
バルクInAs層のピットは、キャリアトラップとなり、赤外線検出器の感度低下、レーザの発光効率の低下などを引き起こす。T2SLの下側に微量組成のSbを含むInAs等のエッチングストッパ層が配置される場合にも、同じ問題が生じる。
【0007】
本発明は、転位、欠陥等が抑制された半導体ウエハと、その適用技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様では、半導体ウエハは、
GaSbの下地と、
積層方向で前記下地の上に配置されるInAs層と、
を有し、前記InAs層は、膜厚方向に所定の濃度分布を有するSbを含み、
前記Sbの濃度は、41ppm/nm以上、43ppm/nm以下の傾きで前記膜厚方向に減少する。
【発明の効果】
【0009】
転位、欠陥等が抑制された半導体ウエハと、その適用技術が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】GaSb上に条件を変えて成長したInAs層のAFM画像である。
【
図3】GaSb上のバルクInAs(Sb)層の深さ方向のSb分布プロファイルを示す図である。
【
図4】実施形態の半導体ウエハを適用した赤外線検出器の製造工程図である。
【
図5】実施形態の半導体ウエハを適用した赤外線検出器の製造工程図である。
【
図6】実施形態の半導体ウエハを適用した赤外線検出器の製造工程図である。
【
図7】実施形態の半導体ウエハを適用した赤外線検出器の製造工程図である。
【
図8】実施形態の赤外線検出器を用いた撮像装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、実施形態の半導体ウエハ100の模式図である。半導体ウエハ100は、積層方向でGaSbの下地101の上に、InAs層102を有する。下地101は、GaSb基板であってもよいし、GaSb層であってもよい。
【0012】
InAs層102は微量のSbを含み、図中の破線で示すように、InAs層102の膜厚方向でSbの濃度分布が変化する。
図3を参照して後述するように、InAs層102の膜厚方向でのSbの濃度プロファイルの傾きは、所定の範囲内にある。
【0013】
InAs層102に含まれるSbは、InAs層102の成膜過程でGaSbの下地101から拡散したものであり、下地101との界面からInAs層102の表面に向かうほど、Sb濃度が小さくなっていく。Sbの濃度プロファイルの傾きは、InAs層102の成長温度と相関するが、傾きが変わっても、GaSbの下地101とInAs層102の界面でのSb組成は一定である。
【0014】
良好な実施形態では、InAs層102で所定の傾きでのSb濃度の減少が開始する初期Sb濃度は約3000ppmであり、約41ppm/nm~43ppm/nmの割合で膜厚方向に向かって減少する。
【0015】
この明細書と特許請求の範囲で、初期Sb濃度が「3000ppm」、あるいは「約3000ppm」というときは、厳密に3000ppmを意味するものではなく、測定ばらつき、製造装置のばらつき、条件制御のばらつき等による3000ppm前後の一定範囲の変動を含むものとする。
【0016】
InAs層102は、所定の温度条件とV/III比で形成されており、転移、ピット等が低減されている。具体的には、GaSbの下地101の上のInAs層102は、460℃よりも高く520℃以下の成長温度、より好ましくは490℃以上、520℃以下の成長温度で、V/III比がモル分比で15以上、20未満範囲で形成されている。この条件で形成されたInAs層102は、上述した傾き範囲でのSb濃度分布を有し、転位、ピット等の欠陥が低減されている。
【0017】
図2は、InAs層の成長温度と、V/III比を種々に変えて成長したInAs層のAFM(Atomic Force Microscope:原子間力顕微鏡)画像である。横方向にInAs層の成長温度、縦方向にInAs層のV/III比(モル分比)をとっている。
【0018】
ピット等の結晶欠陥が抑制されたInAs層の好ましい成長条件を特定するために、異なる成長条件で複数のサンプルを作製し、サンプルの表面をAFMで観察する。サンプルは以下のようにして作製する。
【0019】
MBE法により、GaSb(001)基板上に、InAs層を成長速度0.2μm/hで厚さ100nmに成長する。この条件を固定にして、成長温度を400℃~520℃の範囲で変える。また、V/III比を11~20の範囲で変える。
【0020】
全体的な傾向として、成長温度が低いか、またはV/III比が高い領域で、ピットが発生する。成長温度が430℃以下では、InAs層の表面に多数のピットが観察される。ピットは、観察画像では細かい黒点として現われる。
【0021】
成長温度が460℃のときは、430℃と比較してピットは大幅に減少するが、表面にピットが幾分残る。また、460℃の成長温度で、V/III比が20になると、表面にピットが観察される。
【0022】
成長温度が430℃と460℃で、V/III比が11、または13のときに表面に観察される比較的大きな黒点はピットではなく、As不足に起因するInの凝集である。このような凝集も、応力集中の原因となり望ましくない。
【0023】
このAFM画像から、成長温度が、460℃よりも高く520℃以下、V/III比が15以上、20未満のときに、ピットが抑制された良好な表面が得られることがわかる。成長温度は、490℃~520℃の範囲が、より好ましい。
【0024】
図3は、GaSbの下地101の上に、V/III比が15で、成長温度を460℃と520℃に変えてInAs層102を形成したときの、深さ方向のSb濃度プロファイルである。濃い黒丸のデータ点は520℃でのSb二次イオン強度、灰色のデータ点は460℃でのSb二次イオン強度である。
【0025】
横軸はInAs層102の表面からの深さであり、100nmの深さがGaSbの下地101との界面になる。縦軸は、1秒あたりのSb二次イオンのカウント数である。
【0026】
GaSbの下地101との界面から約15nmの膜厚領域では、成長温度に関係なく、Sb濃度はほぼ一定である。この膜厚領域を「界面領域」を呼ぶ。界面領域で「Sb濃度が一定」という場合には、厳密に単一の値をさすものではなく、測定ばらつき、製造装置のばらつき等に起因する一定の範囲での濃度ばらつきを含むものとする。
【0027】
界面領域を超えると、Sb濃度は急激に低下し、低下したところから、Sb濃度は所定の傾きで膜厚方向にゆるやかに減少する。界面領域を超えた膜厚位置で、Sb濃度が所定の傾きで減少しはじめるときのSb濃度を、「初期Sb濃度」とする。初期Sb濃度は、成長温度に関係なく、約3000ppmである。
【0028】
初期Sb濃度からのSb濃度の変化率は、成長温度によって異なる。520℃の成長温度の方が、Sb濃度の傾きは大きく、約43ppm/nmである。460℃の成長温度でのSb濃度の傾きは、約41ppm/nmである。
【0029】
転位、ピット等の結晶欠陥が抑制された成長条件でGaSb上にInAs層を形成した場合、GaSbの下地101から、SbがInAs層に拡散して、膜厚方向に所定の濃度プロファイルが形成される。良好にエピタキシャル成長されたInAs層102は、界面領域を超えてSb濃度が急激に低下した膜厚でのSb初期濃度が3000ppm、初期濃度からのSb濃度傾きは、41ppm/nm~43ppm/nmの範囲にある。
【0030】
このSb濃度プロファイルを有する半導体ウエハ100は、赤外線検出器、通信用のレーザ等に良好に適用することができる。微量のSbを含むInAs層を、「InAs(Sb)層」と呼んでもよい。
【0031】
図1の半導体ウエハ100で、InAs層102がn型またはp型の不純物を含んでいる場合も、上述した成長条件で形成されている場合は、n型またはp型のInAs層102は、膜厚方向に
図3のSb濃度プロファイルを有する。n型またはp型の不純物を含むInAs層102も、転位、ピット等の欠陥が抑制されている。
【0032】
図4~
図7は、
図1の半導体ウエハ100を用いた赤外線検出器の作製工程図である。まず
図4で、n型のGaSb基板11上に、GaSbバッファ層12、p型GaSbのコンタクト層13、p型InAs
0.91Sb
0.09のエッチングストッパ層14、InAs/GaSbのT2SL層15、及びn型InAsのキャップ層16をこの順で積層する。
【0033】
n型のGaSb基板11は、(001)面から0.35°微傾斜した基板を用いる。このGaSb基板11を、固体ソース分子線エピタキシー(MBE)装置に導入し、ヒータ加熱により基板温度を昇温する。
【0034】
MBE装置で使用するIn、Ga、As、Sbの各原料は、標準的なセルを用いる。もしくは、V族のAsとSbは、バルブドクラッカーセルを用いてもよい。
【0035】
GaSb基板11の基板温度が400℃に達した時点で、SbをGaSb基板11に照射する。Sbのビームフラックスは、たとえば、5.0×10-7 Torrである。基板温度の昇温を続けると、550℃に達した付近で、GaSb表面酸化膜が解離する。その後さらに、Sbビーム照射下で基板温度を570℃まで昇温し、10分間保持し、表面酸化膜を完全に脱離させる。
【0036】
その後、Sbビーム照射下で基板温度を520℃に設定し、Gaを照射して、GaSbバッファ層12を厚さ100nmに形成する。Gaのビームフラックスは、たとえば5.0×10-8 Torrとする。V/III比は10となる。この条件下で、GaSb成長速度は0.30μm/hである。
【0037】
GaSbバッファ層12が100nmに成長した時点で、Beを追加照射する。GaとBeの照射を継続して、p型GaSbのコンタクト層13を厚さ500nmに形成する。Beセル温度を、キャリア濃度がたとえば5.0×1018cm-3となるように調整する。
【0038】
p型GaSbのコンタクト層13が500nm成長した時点でBeとGaの照射を停止し、Sb雰囲気下で、成長温度を480℃まで降温する。温度が安定した時点でSbの供給を停止し、3秒間、成長を中断する。
【0039】
続いて、Be、In,As、及びSbを照射して、厚さ100nmのp型InAs0.91Sb0.09のエッチングストッパ層14を形成する。Beセル温度を、キャリア濃度がたとえば5.0×1018cm-3となるように調整する。Inのビームフラックスはたとえば5.0×10-8 Torr、Asのビームフラックスはたとえば7.5×10-7 Torr、Sbのビームフラックスは、1.0×10-8 Torrである。
【0040】
p型GaSbのコンタクト層13の上に形成されるInAs
0.91Sb
0.09のエッチングストッパ層14の成長温度は480~490℃であり、
図2を参照して説明したように、ピット等の欠陥の発生が抑制されている。
【0041】
p型InAs0.91Sb0.09のエッチングストッパ層14が100nm成長した時点で、Be、In,As、及びSbの照射を停止し、400℃まで降温する。
【0042】
続いて、InAs/GaSbのT2SL層15を形成する。一例として、2nm厚のInAs薄膜151と、2nm厚のGaSb薄膜152を200周期形成して、厚さ800nmのT2SL層15とする。T2SL層15の最上層はGaSb薄膜152となる。
【0043】
具体的には、Sbビームの照射を停止したまま、InとAsを照射する。Inのビームフラックスは5.0×10-8 Torr、Asのビームフラックスは7.5×10-7 Torrとする。V/III比は15である。InAsの成長速度は、たとえば0.30μm/hである。
【0044】
InAsを2nm形成した時点で、InとAsの供給を停止し、真空下で3秒間、成長を中断する。
【0045】
続いて、GaとSbを照射する。Gaのビームフラックスは5.0×10-8 Torr、Sbのビームフラックスは5.0×10-7 Torrとする。V/III比は10である。GaSbの成長速度は、たとえば0.30μm/hである。
【0046】
GaSbを2nm形成した時点でGaとSbの供給を停止し、真空下で3秒間、成長を中断する。
【0047】
上述したInAs薄膜151とGaSb薄膜152の形成を1サイクルとし、200サイクル繰り返して、トータルの厚さが800nmのT2SL層15を形成する。このT2SL層15は、
図4の適用例では、光吸収層として機能する。下地のエッチングストッパ層14で転位、ピット等が抑制されているため、T2SL層15の欠陥も抑制され、キャリアトラップの原因が低減されている。
【0048】
続いて、Sb照射下で成長温度を490℃まで昇温する。490℃で成長温度が安定した後、Sb照射を停止し、In,As、Siを照射しn型InAsのキャップ層16を厚さ100nmに形成する。このとき、Inのビームフラックスは5.0×10-8 Torr、Asのビームフラックスは7.5×10-7 Torrとする。V/III比は、モル分比で15となる。InAsの成長速度は、たとえば0.30μm/hである。Siセル温度は、キャリア濃度がたとえば5.0×1018cm-3となるように調整される。
【0049】
n型InAsのキャップ層16が100nmまで成長した時点で、Inの供給を停止する。その後、Asビーム照射下で降温し、基板温度が400℃になった時点でAsビーム照射を停止して、
図4の積層を得る。
図4の積層構造を有するGaSb基板をMBE装置から取り出す。
【0050】
この積層構造で、キャップ層16の界面領域を超えた膜厚位置でSb組成が急激に低下したときのSb初期濃度は約3000ppm、初期濃度からの膜厚方向に向かってSb濃度は、41ppm/nm~43ppm/nmの範囲で低減している。
【0051】
図5で、
図4の積層体に各画素のためのメサ20を形成する。
図4の積層の上部に、所定の開口パターンを有するレジストパターンを形成し、ドライエッチング装置に導入して、たとえばCF
4系のガスを用いて、n型InAsのキャップ層16、InAs/GaSb超格子のT2SL層15、及びp型InAs
0.91Sb
0.09のエッチングストッパ層14を、エッチング除去する。画素となるメサ20のサイズは、たとえば50μm×50μm、画素を分離する溝幅は10μm程度、画素数はたとえば256×256とする。この設計では、画素領域のトータルの面積は、15.36 mm×15.36 mmとなる。
【0052】
図6で、エッチング加工した基板をプラズマCVD装置に導入し、SiH
4及びNH
3系のガスを用いて、全面にSiNのパッシベーション膜21を形成する。パッシベーション膜21の膜厚は、たとえば100nmである。パッシベーション膜21上に、所定の開口を有するレジストパターンを形成し、CF
4系のガスでパッシベーション膜21の所定の箇所をエッチングして、電極用の開口23と24を形成する。
【0053】
開口23はメサ20の上面に形成されて、開口23内にn型InAsのキャップ層16が露出する。開口24は、隣接する画素110を分離する溝の底面に形成されて、開口24内にp型GaSbのコンタクト層13の一部が露出する。その後、レジストパターンを除去する。
【0054】
図7で、電極用の開口23と開口24に対応する開口形状にレジストをパターニングして、スパッタリング法によりTi/Pt/Auの電極膜を形成し、リフトオフにより電極25と電極26を形成する。電極25は、n型InAsのキャップ層16に接続される。n型InAsのキャップ層16はn型のコンタクト層としても機能する。キャップ層16は、上述したように所定の温度範囲、所定のV/III比で形成されており、ピット等の欠陥が抑制されている。電極26は、p型GaSb層のコンタクト層13に接続されている。
【0055】
電極25の上に、たとえばInのバンプ電極を形成して、赤外線検出器10が作製される。
【0056】
図8は、
図7の赤外線検出器10を信号読み出し回路50にフリップチップ接続した撮像装置1の模式図である。赤外線検出器10は、GaSb基板11の裏面から入射する赤外線を検出する。メサ20で形成される各画素110の電極25に接続されたバンプ電極108は、信号読み出し回路50の電極52に設けられた対応するバンプ電極54と接合されて、信号読み出し回路50と電気的に接続されている。
【0057】
赤外線検出器10の端部にはダミー画素105が形成され、ダミー画素105にバイアス印加用の表面配線106が形成され、表面配線106はダミー画素105のバンプ電極109に接続されている。
【0058】
信号読み出し回路50から、バンプ電極54、バンプ電極109、及び表面配線106を介して、コンタクト層13にバイアス電圧が印加される。信号読み出し回路50によって、各画素110のバンプ電極108に電圧が印加されると、各画素110のT2SL層15で吸収された赤外光の量に比例した光電流が流れる。各画素110から得られる光電流は、アナログ電気信号として、信号読み出し回路50に入力される。信号読み出し回路50は、ノイズキャンセラ、増幅器などを有していてもよい。
【0059】
信号読み出し回路50の出力信号に、A/D変換、画像変換処理等を施して、画像信号を取得してもよい。信号読出し回路50に設けられている電極52の一部を用いて、信号読出し回路50への制御信号の入力や、信号読出し回路50の出力信号の取り出しを行ってもよい。
【0060】
実施形態の赤外線検出器10では、各画素110のメサ20でT2SL層15の上下を挟むキャップ層16とエッチングストッパ層14の少なくとも一方を所定の温度条件で成長することで、転位、ピット等の結晶欠陥が抑制されている。
【0061】
エッチングストッパ層14に実施形態の成長方法を適用することで、T2SL層15での転位、欠陥を低減することができる。実施形態の成長方法をInAsのキャップ層16に適用することで、キャップ層の転位、欠陥を低減することができる。
【0062】
この結果、T2SL層15とキャップ層16の転位、欠陥等に起因するキャリアトラップと発生電流を抑制することができる。赤外線検出器10の暗電流を低減して、感度を向上することができる。
【0063】
以上、特定の実施例を参照して本発明を説明したが、本発明は実施例で例示された構成に限定されない。n型InAsのキャップ層16とオーミック接触する電極材料はTi/Pt/Auの積層に限定されず、Au-Geの上にNiを積層した電極、Au-Geの上にPt、Auをこの順に積層した電極など、適切な良導体を適宜用いることができる。
【0064】
パッシベーション膜21の材料はSiNに限定されず、絶縁性の保護膜であればよく、SiO2、SiON、Al2O3などを用いることができる。キャップ層16の導電型はn型に限定されずp型であってもよい。この場合は、キャップ層16はp型コンタクトとして用いられてもよい。T2SL層15の下部のコンタクト層13の導電型はp型に限定されず、n型のコンタクト層であってもよい。GaSb基板11の導電型はn型に限定されず、p型基板を用いてもよい。
【0065】
図8の撮像装置1を、光学系、及び表示装置と組み合わせて、赤外線撮像システムを構築してもよい。レンズ等の光学系を用いて、赤外光を効率よく赤外線検出器10のGaSb基板11の裏面に入射し、各画素110から得られる検出値を画像信号に変換して表示装置に画像表示してもよい。このような赤外線撮像システムは、セキュリティシステム、無人探査システム等に適用可能であり、赤外光を検出するので、夜間の監視システムにも有効に適用できる。
【0066】
実施形態の半導体ウエハ100とその成長方法を光通信用の面発光レーザ等に適用する場合は、T2SLの活性層で発生する光を効率良く取り出すことができる。
【0067】
以上の説明に対して、以下の付記を呈示する。
(付記1)
GaSbの下地と、
積層方向で前記下地の上に配置されるInAs層と、
を有し、前記InAs層は、膜厚方向に所定の濃度分布を有するSbを含み、
前記Sbの濃度は、41ppm/nm以上、43ppm/nm以下の傾きで前記膜厚方向に減少することを特徴とする半導体ウエハ。
(付記2)
前記InAs層において、前記傾きで前記Sbの濃度減少が開始する初期Sb濃度は3000ppmであることを特徴とする付記1に記載の半導体ウエハ。
(付記3)
前記濃度分布は、前記下地との界面から前記InAs層の所定膜厚までの界面領域で一定濃度の前記Sbを含み、前記界面領域を超えた膜厚位置で、前記Sbの濃度が前記初期Sb濃度まで低下することを特徴とする付記2に記載の半導体ウエハ。
(付記4)
前記濃度分布でSbを含む前記InAs層には、n型またはp型の不純物が添加されていることを特徴とする付記1~3のいずれかに記載の半導体ウエハ。
(付記5)
InAsとGaSbの繰り返しサイクルを有し、赤外帯域に感度を有する超格子層と、
積層方向で前記超格子層の上に配置されるInAs層と、
を有し、
前記超格子層の最上層はGaSb薄膜であり、
前記InAs層は、膜厚方向に所定の濃度分布で存在するSbを含み、
前記Sbの濃度は、41ppm/nm以上、43ppm/nm以下の傾きで前記膜厚方向に減少することを特徴とする赤外線検出器。
(付記6)
前記InAs層において、前記傾きで前記Sbの濃度減少が開始する初期Sb濃度は3000ppmであることを特徴とする付記5に記載の赤外線検出器。
(付記7)
前記積層方向で、前記超格子層の下方に配置されるGaSbコンタクト層と、
前記GaSbコンタクト層と前記超格子層の間に配置され、所定組成のSbを含むInAs(Sb)エッチングストッパ層と、
を有し、
前記InAs(Sb)エッチングストッパ層は、41ppm/nm以上、43ppm/nm以下の傾きで濃度が前記InAsエッチングストッパ層の膜厚方向に減少するSb原子を含むことを特徴とする付記5または6に記載の赤外線検出器。
(付記8)
付記5~7のいずれかに記載の赤外線検出器と、
前記赤外線検出器に接合される信号読み出し回路と、
を有する撮像装置。
(付記9)
GaSbの上に、成長温度が460℃より高く、520℃以下、V/III比がモル分比で15以上、20未満の条件でInAs層、または所定組成のSbを含むInAs(Sb)層をエピタキシャル成長する、
ことを特徴とする半導体ウエハの製造方法。
(付記10)
前記成長温度を490℃以上、520℃以下に設定することを特徴とする付記9に記載の半導体ウエハの製造方法。
(付記11)
GaSb基板の上に、InAsとGaSbの繰り返しサイクルを有する超格子層を形成し、
前記超格子層の最上層のGaSb薄膜の上に、成長温度が460℃より高く、520℃以下、V/III比がモル分比で15以上、20未満の条件でInAs層をエピタキシャル成長し、
前記超格子層と前記InAs層を含む積層体を加工して複数の画素を有する画素領域を形成する、
赤外線検出器の製造方法。
(付記12)
前記成長温度を490℃以上、520℃以下に設定することを特徴とする付記11に記載の赤外線検出器の製造方法。
(付記13)
前記超格子層の形成の前に、前記GaSb基板の上にGaSbコンタクト層を形成し、
前記GaSbコンタクト層の上に、所定組成のSbを含むInAs(Sb)エッチングストッパ層を、460℃より高く、520℃以下の温度範囲と、モル分比で15以上、20未満のV/III比でエピタキシャル成長し、
前記InAs(Sb)エッチングストッパ層の上に前記超格子層を形成する、
付記11または12に記載の赤外線検出器の製造方法。
(付記14)
前記InAs(Sb)エッチングストッパ層の前記温度範囲を490℃以上、520℃以下に設定することを特徴とする付記13に記載の赤外線検出器の製造方法。
(付記15)
前記GaSbコンタクト層は、第1の導電型の不純物を含んおり、
前記InAs層は、第2の導電型の不純物を含んでいる、
付記13または14に記載の赤外線検出器の製造方法。
【符号の説明】
【0068】
1 撮像装置
10 赤外線検出器
11 GaSb基板
12 バッファ層
13 コンタクト層
14 エッチングストッパ層
15 T2SL層(超格子層)
151 InAs薄膜
152 GaSb薄膜
16 キャップ層(InAs層)
50 信号読み出し回路
100 半導体ウエハ
101 下地(GaSb)
102 InAs層