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特許7200667電池における電解液の漏れを検出する方法
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  • 特許-電池における電解液の漏れを検出する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】電池における電解液の漏れを検出する方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 3/20 20060101AFI20221227BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20221227BHJP
   H01M 10/04 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
G01M3/20 Z
H01M10/48 A
H01M10/04 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018244310
(22)【出願日】2018-12-27
(65)【公開番号】P2020106360
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-06-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 浩光
(72)【発明者】
【氏名】高橋 英樹
【審査官】岩永 寛道
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-117901(JP,A)
【文献】特開2003-279435(JP,A)
【文献】国際公開第2012/005199(WO,A1)
【文献】特開2005-164525(JP,A)
【文献】特開平07-325075(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 3/00- 3/40
H01M 10/00- 10/04
H01M 10/06- 10/34
H01M 10/42- 10/48
H01M 50/00- 50/198
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系電解液と、前記水系電解液を収容する密閉容器と、を備える電池をチャンバ内に配置する工程であって、前記水系電解液は溶存する水溶性ガスを含む、工程と、
前記チャンバ内のガスを排出して前記チャンバ内を減圧する工程と、
前記チャンバから排出されたガス中の前記水溶性ガスの量及び水の量に関する情報を取得する工程と、
前記水溶性ガスの量及び前記水の量に関する情報に基づいて前記水系電解液の漏れの有無を判断する工程と、を備える、電池における電解液の漏れを検出する方法。
【請求項2】
前記水溶性ガスが、二酸化炭素、アンモニア、塩化水素、硫化水素、二酸化硫黄、塩素、二酸化窒素、及びフッ化水素、並びにこれらの任意の組み合わせからなる群より選ばれるガスである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記水溶性ガスが放射性同位体を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記チャンバ内のガスを排出して前記チャンバ内を減圧する工程において、前記チャンバ内の圧力を5kPa以下に減圧する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池における電解液の漏れを検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、密閉型電池における密閉容器からの電解液の漏れは、あらかじめ電池の製造工程において密閉容器のガス相に注入されたトレースガスの漏れを検出することにより行われていた。トレースガスとしては、一般的にヘリウムが用いられていた(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-117901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ヘリウムなど特定のトレースガスを用いる従来の方法では、十分に電解液の漏れを検出することが困難な場合があった。そこで、本発明は、電池における水系電解液の漏れを検出する新たな方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一形態に係る、電池における電解液の漏れを検出する方法は、水系電解液と、前記水系電解液を収容する密閉容器と、を備える電池をチャンバ内に配置する工程であって、前記水系電解液は溶存する水溶性ガスを含む、工程と、前記チャンバ内のガスを排出して前記チャンバ内を減圧する工程と、前記チャンバから排出されたガス中の前記水溶性ガスの量に関する情報を取得する工程と、を備える。
【0006】
前記水溶性ガスは、二酸化炭素、アンモニア、塩化水素、硫化水素、二酸化硫黄、塩素、二酸化窒素、及びフッ化水素、並びにこれらの任意の組み合わせからなる群より選ばれるガスであることができる。
【0007】
前記水溶性ガスは放射性同位体を含むことができる。
【0008】
前記チャンバ内のガスを排出して前記チャンバ内を減圧する工程において、前記チャンバ内の圧力を5kPa以下に減圧することができる。
【0009】
前記情報を取得する工程において、前記チャンバから排出されたガス中の、前記水溶性ガスの総量及び水の総量に関する情報を取得することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電池における水系電解液の漏れを検出する新たな方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】電池における水系電解液の漏れを検出するための装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一形態に係る、電池における電解液の漏れを検出する方法は、水系電解液と、水系電解液を収容する密閉容器と、を備える電池をチャンバ内に配置する工程(配置工程)と、チャンバ内のガスをチャンバ外に排出してチャンバ内を減圧する工程(排気工程)と、チャンバから排出されたガス中の水溶性ガスの量に関する情報を取得する工程(水溶性ガス検出工程)と、を備える。
【0013】
電池は、水系電解液を備える電池であれば特に限定されず、例えば、マンガン乾電池、アルカリ乾電池等の一次電池であってよく、鉛電池、ニッケル・カドミウム電池、ニッケル・水素電池等の二次電池であってもよい。
【0014】
水系電解液(以下、単に電解液ともいう。)の組成は、電池の種類により異なり、酸性の電解液であっても、アルカリ性の電解液であってもよい。酸性の電解液としては、例えば、硫酸水溶液、塩化亜鉛水溶液、塩化アンモニウム水溶液、並びに、塩化亜鉛及び塩化アンモニウムの水溶液が挙げられる。アルカリ性の電解液としては、例えば、水酸化カリウム水溶液が挙げられる。
【0015】
水系電解液は、溶存する水溶性ガスを含む。水溶性ガスとは、1気圧の分圧において、20℃の水1mLに対して、0℃及び1気圧の気体に換算して0.8mL以上溶解できるガスであり、ヘリウムは含まれない。
【0016】
水溶性ガスは、例えば、二酸化炭素、アンモニア、塩化水素、硫化水素、二酸化硫黄、塩素、二酸化窒素、及びフッ化水素、並びにこれらの任意の組み合わせからなる群より選ばれるガスであることができる。ただし、水溶性ガスを組み合わせて使用する場合、水溶性ガス同士は反応しないことが必要である。
【0017】
水溶性ガスを溶解させる前の水系電解液が酸性の場合、溶解させる水溶性ガスは、二酸化炭素、塩化水素、硫化水素、二酸化硫黄、塩素、二酸化窒素、及びフッ化水素からなる群より選ばれてよく、好ましくは二酸化炭素である。
【0018】
水溶性ガスを溶解させる前の水系電解液がアルカリ性の場合、溶解させる水溶性ガスは、好ましくはアンモニアである。アンモニアは水溶性が高く、また、アンモニアは大気中には実質的に存在しないため、アンモニアを検出対象とすることにより、水系電解液の漏れをより正確に検出することができる。水溶性ガスの溶解度が高いと、水系電解液中により多くの量のガスを溶解させることができ、したがって、水系電解液の漏れを正確に検出しやすい。
【0019】
水溶性ガスは、その構成元素に放射性同位体を含むことができる。水溶性ガスは、例えば、14Cを含む二酸化炭素であることができる。
【0020】
水系電解液に溶解させる水溶性ガスの量に特に制限はなく、水溶性ガスの溶解度を超えない範囲で適宜設定できる。例えば、水溶性ガスが二酸化炭素である場合、20℃で最大1.78mg/mLの量の二酸化炭素を溶解させることができる。水溶性ガスがアンモニアである場合、20℃で最大532mg/mLの量のアンモニアを溶解させることができる。
【0021】
電池は、通常、正極、負極、セパレータ、水系電解液、及び、これらを収容する密閉容器を備える。正極と、負極と、セパレータとは、例えば、積層されて電極組立体を構成していてもよい。
【0022】
正極、負極、セパレータ、及び、水系電解液としては、電池の形式に応じて、それぞれ公知の材料を使用できる。
【0023】
密閉容器の形状及び材料は、水系電解液を密閉することが可能な形状及び材料であれば限定されない。密閉容器は、金属缶のような金属容器でもよく、樹脂容器でもよく、金属部材及び樹脂部材の組み合わせを含む容器でもよい。
【0024】
溶存する水溶性ガスを含む水系電解液を備える電池を作製する方法は特に限定されず、水系電解液は公知の方法により電池に導入することができる。水溶性ガスは、水系電解液を電池に導入するときに水系電解液に溶解させてもよいし、水系電解液を電池に導入する前にあらかじめ溶解させておいてもよい。
【0025】
チャンバは、電池を収容した状態で密閉できるチャンバであれば特に限定されず、例えば、公知の真空チャンバを用いることができる。チャンバ内に電池を収容してチャンバを密閉した直後のチャンバ内の圧力は、チャンバの置かれる環境によるが、通常は大気圧である。
【0026】
排気工程では、チャンバ内のガスを、真空ポンプなどで排出してチャンバ内の圧力を低下させる。電池の密閉容器において水系電解液の漏れが存在する場合、チャンバ内の圧力を、チャンバに電池を収容した際の圧力よりも低下させることにより、密閉容器から漏れ出た水系電解液がチャンバ内で気化する。したがって、チャンバから排出するガスは、水蒸気と、水系電解液に溶解していた水溶性ガスとを含むことになる。
【0027】
減圧後のチャンバ内の圧力は、密閉容器から漏れ出た水系電解液の水を全部蒸発させるべく水の飽和蒸気圧未満であることが好ましく、チャンバ内の温度に応じて適宜調整される。チャンバ内が常温(20℃)である場合、チャンバ内の圧力は、例えば、5kPa以下に調整することができる。
【0028】
水溶性ガス検出工程では、排気工程時にチャンバから排出されたガス中の水溶性ガスの量に関する情報を取得する。水溶性ガスの量に関する情報の例は、水溶性ガスの濃度(例えば、単位体積あたりの排出ガス中の水溶性ガスのモル数又は質量)、水溶性ガスの総量(例えば、全排出ガス中の水溶性ガスのモル数又は質量)である。水溶性ガスの量に関する情報を取得する方法は特に限定されない。例えば、質量分析器、プラズマ発光分析器、半導体センサ、燃焼式センサ等、公知のガス分析装置を用いて、排出されたガス中の水溶性ガスの濃度を分析してもよい。また、濃度の変化を分析することに加えて、排出されたガスの流量を計測すること等により、排出されたガス中の水溶性ガスの総量を見積もることもできる。
【0029】
水溶性ガスが放射性同位体を含む場合は、シンチレーション検出器、ガイガー・ミュラー計数管等の公知の放射線測定器を用いて、排出されたガスの放射線量を測定することにより、水溶性ガスの濃度又は総量を分析することもできる。
【0030】
水溶性ガスが、放射性同位体を含むガスであるか、アンモニアのように通常環境中に実質的に含まれないガスの場合には、水溶性ガス検出工程で取得された排出ガス中の水溶性ガスの量に関する情報に基づいて、水系電解液の漏れの有無を容易に把握することができる。例えば、濃度又は総量が実質的にゼロ又は閾値未満であれば漏れがないと判断でき、濃度又は総量がゼロより大きいか又は閾値以上であれば漏れがあると判断できる。
【0031】
一方、水溶性ガス検出工程で検出する水溶性ガスが、二酸化炭素のように環境中にある程度含まれるガスの場合には、水系電解液が密閉容器から漏れていなくても、排出ガス中に水溶性ガスが僅かに検出される。このため、水系電解液の漏れの有無を判断するための水溶性ガスの量に関する情報(例えば、水溶性ガスの濃度又は総量)と比較する閾値を、環境中の水溶性ガスの濃度又は総量に対応する適切な値に設定することにより、漏れの有無を精度よく判断することが可能である。
【0032】
チャンバから排出されるガスには、環境ガス中(例えば、大気中)の水蒸気、並びに、電池及びチャンバの表面に吸着していた水がかなり含まれるため、排出されたガス中の水蒸気の量に関する情報を測定するだけでは、水系電解液の漏れの有無を正確に検出することは難しい。これに対し、上記実施形態に係る方法では、水溶性ガスの量に関する情報を検出するので、水系電解液の漏れを正確に検出することができる。
【0033】
さらに、水溶性ガス検出工程において、チャンバから排出されたガス中の水溶性ガスの総量及び水の総量の両方を検出することにより、漏れの有無だけでなく、漏れ出た水系電解液の量も正確に見積もることができる。排出されたガス中の水蒸気及び水溶性ガスには、水系電解液に由来する部分と、環境ガス、並びに、電池及びチャンバの表面における吸着水など、水系電解液以外に由来する部分、すなわちバックグラウンドに由来する部分がそれぞれ含まれる。そして、バックグラウンドにおける、水溶性ガスに対する水の質量比aと、水系電解液中の、水溶性ガスに対する水の質量比bとは、通常互いに異なる。したがって、これらa及びbをあらかじめ測定しておき、さらに、排出されたガス中の水溶性ガスの総質量及び水の総質量を分析することで、漏れ出た水系電解液の量を求めることができる。
【0034】
なお、上記バックグラウンドに由来する部分には、環境ガス中の水溶性ガス及び水蒸気が含まれるだけでなく、電池及びチャンバの表面に吸着している水が無視できない量で含まれる場合も多い。したがって、バックグラウンドにおける質量比aは、水系電解液の漏れのない電池、又は、水系電解液を含まない電池をチャンバ内に収容し、排気工程、並びに、排出されたガスにおける水溶性ガス及び水の量の測定を行うことにより、求めることが好適である。
【0035】
一方、水系電解液中の、水溶性ガスに対する水の質量比bは、水系電解液に溶解させた水溶性ガスの量に基づいて容易に計算できる。
【0036】
なお、排出されたガス中の水の量の分析方法は特に限定されず、質量分析器、鏡面冷却式露点計、吸光分光法、赤外分光光度計、半導体レーザ光吸収分光法、五酸化リン式水分計、静電容量センサ等、公知の分析方法、分析装置及び流量計等を用いて水の量を検出することができる。
【0037】
一例として、漏れ出た水系電解液の水の量は、下記の連立方程式(W、G、a、bは既知)から得られるx及びyに基づき、W-axとして計算することができる。
排出されたガス中の水の総質量W=ax+by
排出されたガス中の水溶性ガスの総質量G=x+y
ただし、
a=バックグラウンドにおける、水溶性ガスに対する水の質量比
x=バックグラウンドにおける、水溶性ガスの総質量
b=水系電解液中の、水溶性ガスに対する水の質量比
y=密閉容器から漏れ出た水系電解液中の水溶性ガスの総質量
【0038】
図1は、電池における水系電解液の漏れを検出するための装置の一例を示す。電極組立体2及び水系電解液6を密閉容器4内に備える電池10は、チャンバ20内に配置される。チャンバ20には、分析器22、及び真空ポンプ24が接続されている。チャンバ20と分析器22とをつなぐ流路、及び、分析器22と真空ポンプ24とをつなぐ流路には、適宜、バルブが設けられていてもよい。
【0039】
図1に示す装置によれば、チャンバ20内のガスを真空ポンプ24により排出しつつ、排出されたガス中の水溶性ガス及び/又は水の量に関する情報を分析器22で検出することができる。これにより、排出されたガス中の水及び水溶性ガスの定量が容易である。
【0040】
なお、図1に示す装置は、チャンバ20内から排出されたガスを分析器22に直接導入するように構成されているが、チャンバ20内から排出されたガスを一時的に別の容器に溜めて、その後検出器に導入することもできる。
【0041】
本発明の以上の実施形態に係る、電池における電解液の漏れを検出する方法によれば、水に対する溶解性に乏しいヘリウムガスの代わりに水溶性ガスを用いることにより、多量のガスを水系電解液中にあらかじめ溶解させておくことができる。したがって、たとえ電池における水系電解液の漏れが微量であっても、水系電解液の気化により多量の水溶性ガスが発生し、これを検出することにより水系電解液の漏れの有無を正確に検出することが可能である。
【符号の説明】
【0042】
2・・・電極組立体、4・・・密閉容器、6・・・水系電解液、10・・・電池、20・・・チャンバ、22・・・分析器、24・・・真空ポンプ。
図1