(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】車載用電動圧縮機
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20221227BHJP
H01F 17/06 20060101ALI20221227BHJP
F04B 39/00 20060101ALI20221227BHJP
H02K 11/02 20160101ALI20221227BHJP
H01F 27/29 20060101ALI20221227BHJP
H01F 37/00 20060101ALI20221227BHJP
H02M 1/14 20060101ALI20221227BHJP
H03H 7/01 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
H02M7/48 Z
H01F17/06
F04B39/00 106Z
H02K11/02
H01F27/29 P
H01F37/00 N
H02M1/14
H03H7/01 Z
(21)【出願番号】P 2018245850
(22)【出願日】2018-12-27
【審査請求日】2021-03-19
(31)【優先権主張番号】P 2018070062
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】安保 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】賀川 史大
(72)【発明者】
【氏名】深作 博史
(72)【発明者】
【氏名】永田 芳樹
(72)【発明者】
【氏名】甲斐田 純也
(72)【発明者】
【氏名】川島 隆
(72)【発明者】
【氏名】林 良和
(72)【発明者】
【氏名】工藤 英弘
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 崇央
(72)【発明者】
【氏名】吉田 貴司
【審査官】白井 孝治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/170817(WO,A1)
【文献】特開2018-018865(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03M 7/42~ 7/98
H01F 17/06
F04B 39/00
H02K 11/02
H01F 27/29
H01F 37/00
H02M 1/14
H03H 7/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を圧縮する圧縮部と、
前記圧縮部を駆動する電動モータと、
前記電動モータを駆動するインバータ装置と、を備え、
前記インバータ装置は、
直流電力を交流電力に変換するインバータ回路と、
前記インバータ回路の入力側に設けられるとともに前記インバータ回路に入力される前の前記直流電力に含まれるコモンモードノイズ及びノーマルモードノイズを低減させるノイズ低減部と、を備え、
前記ノイズ低減部は、
コモンモードチョークコイルと、
前記コモンモードチョークコイルと共にローパスフィルタ回路を構成する平滑コンデンサと、を備え、
前記コモンモードチョークコイルは、
環状のコアと、
前記コアに巻回された第1の巻線と、
前記コアに巻回されるとともに前記第1の巻線から離れつつ対向する第2の巻線と、
前記第1の巻線と前記第2の巻線と前記第1の巻線及び前記第2の巻線の間にある前記コアの内側空間とを覆う環状の導電体と、を備え、
前記コアは前記導電体に覆われない露出部を有し、
前記導電体は、前記第1の巻線と前記第2の巻線の間において対向する部位同士が離れており、
前記導電体は薄膜形状であって、薄膜の内周面と前記第1の巻線及び前記第2の巻線の外面との間に形成された樹脂層を有し、
前記導電体は、帯状の前記薄膜を湾曲させて両端部を重ね合わせた構造であって、前記薄膜の両端部
同士が接合され
てタブ部となることにより、電気的に繋がった
環状となっており、
前記導電体のうち、前記第1の巻線と前記第2の巻線と前記第1の巻線及び前記第2の巻線の間にある前記コアの内側空間とを覆う湾曲した部位を環状部としたとき、前記タブ部は、前記環状部から外側に突出されており、
前記環状部は、ハウジングに熱的に結合されており、前記タブ部は、前記ハウジングに拘束されていることを特徴とする車載用電動圧縮機。
【請求項2】
前記コアは、互いに平行になるよう直線に延びる第1の直線部と第2の直線部とを有し、
前記第1の直線部に前記第1の巻線の少なくとも一部が巻回され、前記第2の直線部に前記第2の巻線の少なくとも一部が巻回されていることを特徴とする請求項
1に記載の車載用電動圧縮機。
【請求項3】
前記タブ部は、前記両端部同士を前記導電体よりも低融点の金属材で溶着してなることを特徴とする請求項
1または2に記載の車載用電動圧縮機。
【請求項4】
前記タブ部における前記低融点の金属材との界面には金属メッキ層が形成されていることを特徴とする請求項
3に記載の車載用電動圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載用電動圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車載用電動圧縮機における電動モータを駆動するインバータ装置に用いられるコモンモードチョークコイルの構成として、特許文献1には導電体で覆うことでノーマルモード電流が流れる際に導電体の中に誘導電流を流し熱エネルギーに変換させダンピング効果を持たせたチョークコイルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、チョークコイルを全面導電体で覆う場合、熱がこもりやすく、また、製造しにくくなることが懸念される。一方で、放熱性を高めるために導電体で覆わない箇所を設けると誘導電流が流れにくくダンピング効果が低減するおそれがある。
【0005】
本発明の目的は、放熱性及びダンピング効果に優れたフィルタ回路を有する車載用電動圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明では、流体を圧縮する圧縮部と、前記圧縮部を駆動する電動モータと、前記電動モータを駆動するインバータ装置と、を備え、前記インバータ装置は、直流電力を交流電力に変換するインバータ回路と、前記インバータ回路の入力側に設けられるとともに前記インバータ回路に入力される前の前記直流電力に含まれるコモンモードノイズ及びノーマルモードノイズを低減させるノイズ低減部と、を備え、前記ノイズ低減部は、コモンモードチョークコイルと、前記コモンモードチョークコイルと共にローパスフィルタ回路を構成する平滑コンデンサと、を備え、前記コモンモードチョークコイルは、環状のコアと、前記コアに巻回された第1の巻線と、前記コアに巻回されるとともに前記第1の巻線から離れつつ対向する第2の巻線と、前記第1の巻線及び前記第2の巻線を跨ぎつつ前記コアを覆う環状の導電体と、を備え、前記コアは前記導電体に覆われない露出部を有し、前記導電体は、前記第1の巻線と前記第2の巻線の間において対向する部位同士が離れていることを要旨とする。
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、コアは導電体に覆われない露出部を有するため放熱性に優れる一方で、導電体は第1の巻線及び第2の巻線を跨ぎつつコアを覆う環状であるためノーマルモード電流が流れる際に導電体の中に誘導電流を流し熱エネルギーに変換させやすくダンピング効果に優れる。第1の巻線及び第2の巻線から発生する漏れ磁束は、コアの露出部を通りつつ環状の導電体と鎖状につながるような環状のループを形成するため、導電体に誘導電流が流れやすい。また、その結果としてノーマルモードチョークコイルを省略することもできる。
【0008】
請求項2に記載のように、請求項1に記載の車載用電動圧縮機において、前記導電体は薄膜形状であって、薄膜の内周面と前記第1の巻線及び前記第2の巻線の外面との間に形成された樹脂層を有するとよい。
【0009】
請求項2に記載の発明によれば、樹脂層が薄膜形状の導電体の薄膜の内周面と第1の巻線及び第2の巻線の外面との間に形成されているため、放熱性及びダンピング効果に優れたフィルタ回路を構成するために抵抗性分が高まるよう導電体を薄膜化しても強度を保持しつつ剛性を高めるとともに絶縁性を確保することができる。
【0010】
請求項3に記載のように、請求項1または2に記載の車載用電動圧縮機において、前記コアは、互いに平行になるよう直線に延びる第1の直線部と第2の直線部とを有し、前記第1の直線部に前記第1の巻線の少なくとも一部が巻回され、前記第2の直線部に前記第2の巻線の少なくとも一部が巻回されているとよい。
【0011】
請求項4に記載のように、請求項2に記載の車載用電動圧縮機において、前記導電体は、帯状の薄膜を湾曲させつつ両端部を重ね合わせた構造であり、前記導電体は、前記コアを覆いつつ湾曲した環状部と、前記環状部から外側に突出したタブ部とを有し、前記タブ部は、前記両端部同士を前記導電体よりも低融点の金属材で溶着してなるとよい。
【0012】
請求項4に記載の発明によれば、コアを覆う環状の導電体を容易に製造することができる。
請求項5に記載のように、請求項4に記載の車載用電動圧縮機において、前記タブ部における前記低融点の金属材との界面には金属メッキ層が形成されているとよい。
【0013】
請求項6に記載のように、請求項4または5に記載の車載用電動圧縮機において、前記環状部は、ハウジングに熱的に結合されており、前記タブ部は、前記ハウジングに拘束されているとよい。
【0014】
請求項6に記載の発明によれば、タブ部を拘束することにより、信頼性の向上を図ることができる。
請求項7に記載のように、請求項4または5に記載の車載用電動圧縮機において、前記タブ部は、前記環状部の外周面に沿うように折り曲げられているとよい。
【0015】
請求項7に記載の発明によれば、折り曲げにより体格増大を抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、放熱性及びダンピング効果に優れたフィルタ回路を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図3】(a)は第1の実施形態におけるコモンモードチョークコイルの平面図、(b)はコモンモードチョークコイルの正面図、(c)はコモンモードチョークコイルの右側面図、(d)は(a)のA-A線での断面図。
【
図4】(a)はコア及び巻線の平面図、(b)はコア及び巻線の正面図、(c)はコア及び巻線の右側面図。
【
図5】作用を説明するためのコア及び巻線の斜視図。
【
図6】作用を説明するためのコモンモードチョークコイルの斜視図。
【
図7】ローパスフィルタ回路のゲインの周波数特性を示すグラフ。
【
図8】(a)は第2の実施形態におけるコモンモードチョークコイルの平面図、(b)はコモンモードチョークコイルの正面図、(c)はコモンモードチョークコイルの右側面図。
【
図9】(a)は金属薄膜の製造方法を説明するための平面図、(b)は正面図、(c)は右側面図。
【
図10】(a)は金属薄膜の製造方法を説明するための平面図、(b)は正面図、(c)は右側面図。
【
図11】(a)は別例のコモンモードチョークコイルの平面図、(b)はコモンモードチョークコイルの正面図、(c)はコモンモードチョークコイルの右側面図。
【
図12】(a)は別例のコモンモードチョークコイルの平面図、(b)はコモンモードチョークコイルの正面図、(c)はコモンモードチョークコイルの右側面図。
【
図13】(a)は別例のコモンモードチョークコイルの平面図、(b)はコモンモードチョークコイルの正面図、(c)はコモンモードチョークコイルの右側面図。
【
図14】(a)は別例のコモンモードチョークコイルの平面図、(b)はコモンモードチョークコイルの正面図、(c)はコモンモードチョークコイルの右側面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1の実施形態)
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。本実施形態の車載用電動圧縮機は、流体としての冷媒を圧縮する圧縮部を備えており、車載用空調装置に用いられる。即ち、本実施形態における車載用電動圧縮機の圧縮対象の流体は冷媒である。
【0019】
図1に示すように、車載用空調装置10は、車載用電動圧縮機11と、車載用電動圧縮機11に対して流体としての冷媒を供給する外部冷媒回路12とを備えている。外部冷媒回路12は、例えば熱交換器及び膨張弁等を有している。車載用空調装置10は、車載用電動圧縮機11によって冷媒が圧縮され、且つ、外部冷媒回路12によって冷媒の熱交換及び膨張が行われることによって、車内の冷暖房を行う。
【0020】
車載用空調装置10は、当該車載用空調装置10の全体を制御する空調ECU13を備えている。空調ECU13は、車内温度やカーエアコンの設定温度等を把握可能に構成されており、これらのパラメータに基づいて、車載用電動圧縮機11に対してON/OFF指令等といった各種指令を送信する。
【0021】
車載用電動圧縮機11は、外部冷媒回路12から冷媒が吸入される吸入口14aが形成されたハウジング14を備えている。
ハウジング14は、伝熱性を有する材料(例えばアルミニウム等の金属)で形成されている。ハウジング14は、車両のボディに接地されている。
【0022】
ハウジング14は、互いに組み付けられた吸入ハウジング15と吐出ハウジング16とを有している。吸入ハウジング15は、一方向に開口した有底筒状であり、板状の底壁部15aと、底壁部15aの周縁部から吐出ハウジング16に向けて起立した側壁部15bとを有している。底壁部15aは例えば略板状であり、側壁部15bは例えば略筒状である。吐出ハウジング16は、吸入ハウジング15の開口を塞いだ状態で吸入ハウジング15に組み付けられている。これにより、ハウジング14内には内部空間が形成されている。
【0023】
吸入口14aは、吸入ハウジング15の側壁部15bに形成されている。詳細には、吸入口14aは、吸入ハウジング15の側壁部15bのうち吐出ハウジング16よりも底壁部15a側に配置されている。
【0024】
ハウジング14には、冷媒が吐出される吐出口14bが形成されている。吐出口14bは、吐出ハウジング16、詳細には吐出ハウジング16における底壁部15aと対向する部位に形成されている。
【0025】
車載用電動圧縮機11は、ハウジング14内に収容された回転軸17、圧縮部18及び電動モータ19を備えている。
回転軸17は、ハウジング14に対して回転可能な状態で支持されている。回転軸17は、その軸線方向が板状の底壁部15aの厚さ方向(換言すれば筒状の側壁部15bの軸線方向)と一致する状態で配置されている。回転軸17と圧縮部18とは連結されている。
【0026】
圧縮部18は、ハウジング14内における吸入口14a(換言すれば底壁部15a)よりも吐出口14b側に配置されている。圧縮部18は、回転軸17が回転することによって、吸入口14aからハウジング14内に吸入された冷媒を圧縮し、その圧縮された冷媒を吐出口14bから吐出させるものである。なお、圧縮部18の具体的な構成は、スクロールタイプ、ピストンタイプ、ベーンタイプ等任意である。
【0027】
電動モータ19は、ハウジング14内における圧縮部18と底壁部15aとの間に配置されている。電動モータ19は、ハウジング14内にある回転軸17を回転させることにより、圧縮部18を駆動させるものである。電動モータ19は、例えば回転軸17に対して固定された円筒形状のロータ20と、ハウジング14に固定されたステータ21とを有する。ステータ21は、円筒形状のステータコア22と、ステータコア22に形成されたティースに捲回されたコイル23とを有している。ロータ20及びステータ21は、回転軸17の径方向に対向している。コイル23が通電されることによりロータ20及び回転軸17が回転し、圧縮部18による冷媒の圧縮が行われる。
【0028】
図1に示すように、車載用電動圧縮機11は、電動モータ19を駆動させるものであって直流電力が入力される駆動装置24と、駆動装置24を収容する収容室S0を区画するカバー部材25とを備えている。
【0029】
カバー部材25は、伝熱性を有する非磁性体の導電性材料(例えばアルミニウム等の金属)で構成されている。
カバー部材25は、ハウジング14、詳細には吸入ハウジング15の底壁部15aに向けて開口した有底筒状である。カバー部材25は、開口端が底壁部15aに突き合せられた状態で、ボルト26によってハウジング14の底壁部15aに取り付けられている。カバー部材25の開口は、底壁部15aによって塞がれている。収容室S0は、カバー部材25と底壁部15aとによって形成されている。
【0030】
収容室S0は、ハウジング14外に配置されており、底壁部15aに対して電動モータ19とは反対側に配置されている。圧縮部18、電動モータ19及び駆動装置24は、回転軸17の軸線方向に配列されている。
【0031】
カバー部材25にはコネクタ27が設けられており、駆動装置24はコネクタ27と電気的に接続されている。コネクタ27を介して、車両に搭載された車載用蓄電装置28から駆動装置24に直流電力が入力されるとともに、空調ECU13と駆動装置24とが電気的に接続されている。車載用蓄電装置28は、車両に搭載された直流電源であり、例えば二次電池やキャパシタ等である。
【0032】
図1に示すように、駆動装置24は、回路基板29と、回路基板29に設けられたインバータ装置30と、コネクタ27とインバータ装置30とを電気的に接続するのに用いられる2本の接続ラインEL1,EL2と、を備えている。
【0033】
回路基板29は板状である。回路基板29は、底壁部15aに対して回転軸17の軸線方向に所定の間隔を隔てて対向配置されている。
インバータ装置30は、電動モータ19を駆動するためのものである。インバータ装置30は、インバータ回路31(
図2参照)と、ノイズ低減部32(
図2参照)を備えている。インバータ回路31は、直流電力を交流電力に変換するためのものである。ノイズ低減部32は、インバータ回路31の入力側に設けられるとともにインバータ回路31に入力される前の直流電力に含まれるコモンモードノイズ及びノーマルモードノイズを低減させるためのものである。
【0034】
次に電動モータ19及び駆動装置24の電気的構成について説明する。
図2に示すように、電動モータ19のコイル23は、例えばu相コイル23u、v相コイル23v及びw相コイル23wを有する三相構造となっている。各コイル23u~23wは例えばY結線されている。
【0035】
インバータ回路31は、u相コイル23uに対応するu相スイッチング素子Qu1,Qu2と、v相コイル23vに対応するv相スイッチング素子Qv1,Qv2と、w相コイル23wに対応するw相スイッチング素子Qw1,Qw2と、を備えている。各スイッチング素子Qu1~Qw2は例えばIGBT等のパワースイッチング素子である。なお、スイッチング素子Qu1~Qw2は、還流ダイオード(ボディダイオード)Du1~Dw2を有している。
【0036】
各u相スイッチング素子Qu1,Qu2は接続線を介して互いに直列に接続されており、その接続線はu相コイル23uに接続されている。そして、各u相スイッチング素子Qu1,Qu2の直列接続体は、両接続ラインEL1,EL2に電気的に接続されており、上記直列接続体には、車載用蓄電装置28からの直流電力が入力されている。
【0037】
なお、他のスイッチング素子Qv1,Qv2,Qw1,Qw2については、対応するコイルが異なる点を除いて、u相スイッチング素子Qu1,Qu2と同様の接続態様である。
【0038】
駆動装置24は、各スイッチング素子Qu1~Qw2のスイッチング動作を制御する制御部33を備えている。制御部33は、例えば、1つ以上の専用のハードウェア回路、及び/又は、コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って動作する1つ以上のプロセッサ(制御回路)によって実現することができる。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROM等のメモリを含み、メモリは、例えば各種処理をプロセッサに実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリ即ちコンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。
【0039】
制御部33は、コネクタ27を介して空調ECU13と電気的に接続されており、空調ECU13からの指令に基づいて、各スイッチング素子Qu1~Qw2を周期的にON/OFFさせる。詳細には、制御部33は、空調ECU13からの指令に基づいて、各スイッチング素子Qu1~Qw2をパルス幅変調制御(PWM制御)する。より具体的には、制御部33は、キャリア信号(搬送波信号)と指令電圧値信号(比較対象信号)とを用いて、制御信号を生成する。そして、制御部33は、生成された制御信号を用いて各スイッチング素子Qu1~Qw2のON/OFF制御を行うことにより直流電力を交流電力に変換する。
【0040】
ノイズ低減部32は、コモンモードチョークコイル34とXコンデンサ35を備えている。平滑コンデンサとしてのXコンデンサ35は、コモンモードチョークコイル34と共にローパスフィルタ回路36を構成する。ローパスフィルタ回路36は、接続ラインEL1,EL2上に設けられている。ローパスフィルタ回路36は、回路的にはコネクタ27とインバータ回路31との間に設けられている。
【0041】
コモンモードチョークコイル34は、両接続ラインEL1,EL2上に設けられている。
Xコンデンサ35は、コモンモードチョークコイル34に対して後段(インバータ回路31側)に設けられており、両接続ラインEL1,EL2に電気的に接続されている。コモンモードチョークコイル34とXコンデンサ35とによってLC共振回路が構成されている。即ち、本実施形態のローパスフィルタ回路36は、コモンモードチョークコイル34を含むLC共振回路である。
【0042】
両Yコンデンサ37,38は、互いに直列に接続されている。詳細には、駆動装置24は、第1Yコンデンサ37の一端と第2Yコンデンサ38の一端とを接続するバイパスラインEL3を備えている。当該バイパスラインEL3は車両のボディに接地されている。
【0043】
また、両Yコンデンサ37,38の直列接続体が、コモンモードチョークコイル34とXコンデンサ35との間に設けられており、コモンモードチョークコイル34に電気的に接続されている。第1Yコンデンサ37の上記一端とは反対側の他端は、第1接続ラインEL1、詳細には第1接続ラインEL1のうちコモンモードチョークコイル34の第1の巻線とインバータ回路31とを接続する部分に接続されている。第2Yコンデンサ38における上記一端とは反対側の他端は、第2接続ラインEL2、詳細には第2接続ラインEL2のうちコモンモードチョークコイル34の第2の巻線とインバータ回路31とを接続する部分に接続されている。
【0044】
車両には、車載用機器として例えばPCU(パワーコントロールユニット)39が、駆動装置24とは別に搭載されている。PCU39は、車載用蓄電装置28から供給される直流電力を用いて、車両に搭載されている走行用モータ等を駆動させる。即ち、本実施形態では、PCU39と駆動装置24とは、車載用蓄電装置28に対して並列に接続されており、車載用蓄電装置28は、PCU39と駆動装置24とで共用されている。
【0045】
PCU39は、例えば、昇圧スイッチング素子を有し且つ当該昇圧スイッチング素子を周期的にON/OFFさせることにより車載用蓄電装置28の直流電力を昇圧させる昇圧コンバータ40と、車載用蓄電装置28に並列に接続された電源用コンデンサ41とを備えている。また、図示は省略するが、PCU39は、昇圧コンバータ40によって昇圧された直流電力を、走行用モータが駆動可能な駆動電力に変換する走行用インバータを備えている。
【0046】
かかる構成においては、昇圧スイッチング素子のスイッチングに起因して発生するノイズが、ノーマルモードノイズとして、駆動装置24に流入する。換言すれば、ノーマルモードノイズには、昇圧スイッチング素子のスイッチング周波数に対応したノイズ成分が含まれている。
【0047】
次に、コモンモードチョークコイル34の構成について
図3(a),(b),(c),(d)、
図4(a),(b),(c)を用いて説明する。
コモンモードチョークコイル34は、車両側のPCU39で発生する高周波ノイズが圧縮機側のインバータ回路31に伝わるのを抑制するためのものであり、特に、漏れインダクタンスをノーマルインダクタンスとして利用することでノーマルモードノイズ(ディファレンシャルモードノイズ)を除去するためのローパスフィルタ回路(LCフィルタ)36におけるL成分として用いられる。即ち、コモンモードノイズ及びノーマルモードノイズ(ディファレンシャルモードノイズ)に対応可能であり、コモンモード用チョークコイルとノーマルモード(ディファレンシャルモード)用チョークコイルとを、それぞれ、用いるのではなく1つのチョークコイルで両モードノイズに対応可能である。
【0048】
なお、図面において、3軸直交座標を規定しており、
図1の回転軸17の軸線方向をZ方向とし、Z方向に直交する方向をX,Y方向としている。
図3(a),(b),(c),(d)に示すように、コモンモードチョークコイル34は、環状のコア50と、第1の巻線60と、第2の巻線61と、環状の導電体としての金属薄膜70を備える。
【0049】
コア50は、
図3(d)に示すように断面四角形状をなし、
図4(a)に示すX-Y平面において全体として長方形状をなしている。
図3(d)、
図4(a)に示すように、コア50は、内側空間Sp1を有する。
【0050】
図4(a),(b),(c)に示すように、コア50に第1の巻線60が巻回されているとともに、コア50に第2の巻線61が巻回されている。より詳しくは、
図4(a)に示すように長方形状をなすコア50における一方の長辺部分が第1の直線部51をなし、他方の長辺部分が第2の直線部52をなしており、第1の直線部51と第2の直線部52とは平行である。つまり、コア50は、互いに平行なるよう直線に延びる第1の直線部51と第2の直線部52とを有する。第1の直線部51に第1の巻線60の少なくとも一部が巻回されているとともに、第2の直線部52に第2の巻線61の少なくとも一部が巻回されている。両巻線60,61の巻き方向は、互いに反対方向となっている。また、第1の巻線60と第2の巻線61は互いに離れつつ対向している。
【0051】
なお、コア50と巻線60,61の間には、図示しない樹脂ケースが設けられており、樹脂ケースからは図示しない突起が延び、金属薄膜70を当接規制している。
図3(a),(b),(c),(d)に示すように、金属薄膜70は、銅箔よりなる。即ち、環状の導電体としての金属薄膜70は薄膜形状である。金属薄膜70の厚さは、10μm~100μmである。例えば金属薄膜70の厚さは35μmである。薄くするのは、電流(誘導電流)が流れたときに抵抗を大きくして熱に変えるためである。反面、薄くすると強度を保ちにくく形状を保持しにくい。
【0052】
図3(c),(d)に示すように、金属薄膜70は、環状であり、詳細には帯状かつ無端状をなしている。金属薄膜70は、第1の巻線60と第2の巻線61を跨ぎつつコア50を覆っており、詳細には、第1の巻線60の全てと第2の巻線61の全てとコア50の内側空間Sp1(
図3(d)、
図4(a)参照)の一部を覆うように形成されている。広義には、金属薄膜70は、第1の巻線60と第2の巻線61とコア50の内側空間Sp1(
図3(d)、
図4(a)参照)のそれぞれ少なくとも一部を覆うように形成されている。内側空間Sp1は、第1の巻線60と第2の巻線61の間にあるとも言え、金属薄膜70は第1の巻線60と第2の巻線61の間において、即ち、内側空間Sp1をはさんで対向する部位同士が離れている。
【0053】
金属薄膜70は、薄膜の内周面と第1の巻線60及び第2の巻線61の外面との間に形成された樹脂層80を有する。
図3(c),(d)に示すように、樹脂層80により、金属薄膜70の強度保持、高剛性とともに絶縁性確保が図られている。樹脂層80は、ポリイミドよりなり、薄い金属薄膜70に対し強度を保ち形状を保持することができる。樹脂層80の厚さは、例えば数10μmである。なぜなら、巻線60,61と金属薄膜70とは、より接近しているのが望ましく、巻線60,61により発生する磁界を金属薄膜70で受けて誘導電流が流れるからであり、接近していると誘導電流が流れやすい。
【0054】
なお、金属薄膜70と樹脂層80とは接着剤(図示略)により接着されている。接着剤は、熱硬化タイプ接着剤(接着剤)でも、熱可塑タイプ接着剤(ホットメルト)でも、感圧タイプ接着剤(粘着剤)でもよい。
【0055】
金属薄膜70は、一般的なフレキシブル基板と同じ製法で樹脂層と一体化された帯状の金属薄膜を準備したのち、樹脂層ごと曲げつつ金属薄膜の両端を溶着させることで環状に形成される。このように樹脂層と一体化させれば、金属薄膜を環状に形成しやすく生産性に優れる。
【0056】
コア50は、金属薄膜70に覆われない露出部53,54を有する。
次に、作用について説明する。
まず、
図5及び
図6を用いてノーマルモード(ディファレンシャルモード)について説明する。
【0057】
図5に示すように、第1の巻線60及び第2の巻線61の通電により電流i1,i2が流れる。これに伴いコア50に磁束φ1,φ2が発生するとともに漏れ磁束φ3,φ4が発生する。磁束φ1,φ2は互いに逆向きの磁束であり、漏れ磁束φ3,φ4が発生する。ここで、
図6に示すように、発生する漏れ磁束φ3,φ4に抗う方向に磁束を発生させるべく金属薄膜70の内部において誘導電流i10が周方向に流れる。
【0058】
このようにして、金属薄膜70において、第1の巻線60及び第2の巻線61の通電に伴い発生する漏れ磁束に抗う方向に磁束を発生させるべく誘導電流(渦電流)i10が内部において周方向に流れる。誘導電流が周方向に流れるとは、コア50を周回するように流れることである。
【0059】
コモンモードにおいては、第1の巻線60及び第2の巻線61の通電により同じ方向に電流が流れる。これに伴いコア50に同じ向きの磁束が発生する。このようにして、コモンモード電流通電時は、コア50内部に磁束が発生し漏れ磁束はほとんど発生しないため、コモンインピーダンスは保持できる。
【0060】
次に、ローパスフィルタ回路36の周波数特性について
図7を用いて説明する。
図7は、流入するノーマルモードノイズに対するローパスフィルタ回路36のゲイン(減衰量)の周波数特性を示すグラフである。
図7の実線は、コモンモードチョークコイル34に導電体よりなる薄膜70がある場合を示し、
図7の一点鎖線は、コモンモードチョークコイル34に導電体よりなる薄膜70がない場合を示す。また、
図7において、横軸の周波数は対数で示す。ゲインは、ノーマルモードノイズを低減できる量を示すパラメータの一種である。
【0061】
図7の一点鎖線に示すように、コモンモードチョークコイル34に導電体よりなる薄膜70が存在しない場合には、ローパスフィルタ回路36(詳細にはコモンモードチョークコイル34とXコンデンサ35とを含むLC共振回路)のQ値が比較的高くなっている。このため、ローパスフィルタ回路36の共振周波数に近い周波数のノーマルモードノイズは低減されにくくなっている。
【0062】
一方、本実施形態では、コモンモードチョークコイル34にて発生する磁力線(漏れ磁束φ3,φ4)によって渦電流が発生する位置に導電体よりなる薄膜70が設けられている。導電体よりなる薄膜70は、漏れ磁束φ3,φ4のループの中を通る位置に設けられており、漏れ磁束φ3,φ4によって当該漏れ磁束φ3,φ4を打ち消す方向の磁束が生じるような誘導電流(渦電流)を発生させるように構成されている。これにより、導電体よりなる薄膜70がローパスフィルタ回路36のQ値を下げるものとして機能する。従って、
図7の実線に示すように、ローパスフィルタ回路36のQ値が低くなっている。よって、ローパスフィルタ回路36の共振周波数付近の周波数を有するノーマルモードノイズも、ローパスフィルタ回路36によって低減される。
【0063】
以上のごとく、コモンモードチョークコイルにおいて帯状かつ無端状をなす金属薄膜70による金属シールド構造を採用することにより、コモンモードチョークコイルとしてローパスフィルタ回路に利用し、コモンモードノイズを低減する。また、ノーマルモード電流(ディファレンシャルモード電流)に対して発生する漏れ磁束を積極的に活用し、ノーマルモードノイズ(ディファレンシャルモードノイズ)の低減を兼ね備えた適切なフィルタ特性を得ることができる。つまり、帯状かつ無端状をなす金属薄膜70を用いることで、ノーマルモード電流(ディファレンシャルモード電流)通電時に発生した漏れ磁束に抗う磁束が発生し、電磁誘導によって金属薄膜70に電流が流れ熱として消費される。金属薄膜70は磁気抵抗として働くためダンピング効果を得ることができ、ローパスフィルタ回路によって発生した共振ピークを抑制できる(
図7参照)。また、コモンモード電流通電時は、コア内部に磁束が発生し漏れ磁束はほとんど発生しないため、コモンインピーダンスは保持できる。さらに、金属薄膜(金属箔)70の内周側には樹脂層(ポリイミド層)80を有することで形状を保持できるとともに巻線60,61との絶縁を確保できる。
【0064】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)車載用電動圧縮機11の構成として、電動モータ19を駆動するインバータ装置30を備え、インバータ装置30は、インバータ回路31とノイズ低減部32とを備え、ノイズ低減部32は、コモンモードチョークコイル34と、コモンモードチョークコイル34と共にローパスフィルタ回路36を構成する平滑コンデンサとしてのXコンデンサ35と、を備える。コモンモードチョークコイル34は、環状のコア50と、コア50に巻回された第1の巻線60と、コア50に巻回されるとともに第1の巻線60から離れつつ対向する第2の巻線61と、第1の巻線60及び第2の巻線61を跨ぎつつコア50を覆う環状の導電体としての金属薄膜70と、を備える。コア50は金属薄膜70に覆われない露出部53,54を有し、金属薄膜70は、第1の巻線60と第2の巻線61の間において対向する部位同士が離れている。
【0065】
よって、コア50は金属薄膜70に覆われない露出部53,54を有するため放熱性に優れる一方で、金属薄膜70は第1の巻線60及び第2の巻線61を跨ぎつつコア50を覆う環状であるためノーマルモード電流が流れる際に金属薄膜70の中に誘導電流を流し熱エネルギーに変換させやすくダンピング効果に優れる。第1の巻線60及び第2の巻線61から発生する漏れ磁束は、コア50の露出部53,54を通りつつ金属薄膜70(導電体)と鎖状につながるような環状のループを形成するため、金属薄膜70(導電体)に誘導電流が流れやすい。また、その結果としてノーマルモードチョークコイルを省略することもできる。
【0066】
(2)導電体(70)は薄膜形状であって、薄膜の内周面と第1の巻線60及び第2の巻線61の外面との間に形成された樹脂層80を有していれば、樹脂層80が薄膜形状の導電体(金属薄膜70)の薄膜の内周面と第1の巻線60及び第2の巻線61の外面との間に形成されているため、放熱性及びダンピング効果に優れつつ小型なフィルタ回路を構成するために抵抗性分が高まるよう導電体を薄膜化しても強度を保持しつつ剛性を高めるとともに絶縁性を確保することができる。
【0067】
(3)コア50は、互いに平行なるよう直線に延びる第1の直線部51と第2の直線部52とを有し、第1の直線部51に第1の巻線60の少なくとも一部が巻回され、第2の直線部52に第2の巻線61の少なくとも一部が巻回されている。よって、金属薄膜70を容易に配置することができ、実用的である。
【0068】
次に、別例を説明する。
○金属薄膜70は、銅箔の他にも、アルミ箔、真鍮箔、ステンレス鋼材の箔等で構成されていてもよい。これら非磁性金属は、誘導電流が流れるに伴い更なる磁束を生じないので、扱いやすい。また、銅などの非磁性金属に限らず鉄などの磁性金属でもよい。
【0069】
○コア50を覆う導電体は環状であれば薄膜に限定されない、例えば比較的厚みを有する板状であってもよい。
○樹脂層80は、ポリイミドの他にも、ポリエステル、PET、PEN等で構成されていてもよい。
【0070】
○金属薄膜70の幅を変えることで、ローパスフィルタ回路36のフィルタ特性は容易に調整変更可能である。
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態を、第1の実施形態との相違点を中心に説明する。
【0071】
図3(a)、
図3(b)、
図3(c)、
図3(d)に代わり、本実施形態では
図8(a)、
図8(b)、
図8(c)に示す構成となっている。
薄膜形状の導電体としての金属薄膜70は、帯状の薄膜を湾曲させつつ両端部を重ね合わせた構造である。金属薄膜70は、環状部70aと、タブ部71,72とを有する。環状部70aは、コア50を覆いつつ湾曲している。タブ部71,72は、環状部70aから外側に突出している。タブ部71,72は、帯状の薄膜における重ね合わせる前のそれぞれの両端部である。タブ部71とタブ部72とは、はんだ付けされている。つまり、タブ部71,72は、両端部同士を、金属薄膜(銅箔)70よりも低融点の金属材である、はんだ100で溶着されている。また、タブ部71における、はんだ100との界面には金属メッキ層としてのNiメッキ層73が形成されている。同様に、タブ部72における、はんだ100との界面には金属メッキ層としてのNiメッキ層74が形成されている。タブ部71,72において、対向する全面に、Niメッキ層73,74が形成されているとともに、はんだ100が形成されている。
【0072】
金属薄膜70における環状部70a及びタブ部71,72は、放熱用グリス110を介してハウジング14の底壁部15aに熱的に結合されている。さらに、3本のボルトBがタブ部71,72を貫通する状態でハウジング14の底壁部15aに螺入されている。これにより、タブ部71,72は、ハウジング14の底壁部15aに拘束されている。
【0073】
なお、
図8(b)において仮想線で示すようにコモンモードチョークコイル34に対し回路基板29を接近して配置する場合には絶縁性スペーサ200を介在させるとよい。
製造は、次のように行う。
【0074】
まず、
図9(a)、
図9(b)、
図9(c)に示すように、帯状の金属薄膜(銅箔)70を用意する。この金属薄膜70は、一方の面に、樹脂層80が形成されている。なお、金属薄膜70はアルミ製であってもよい。また、帯状の金属薄膜70における樹脂層80の形成面において、両端部分のタブ部71,72となる部位にはNiメッキ層73.74が形成されている。
【0075】
そして、
図10(a)、
図10(b)、
図10(c)に示すように、帯状の金属薄膜70における樹脂層80及びNiメッキ層73.74の形成面が内周面側にくるようにして帯状の金属薄膜70の両端を繋げて環状にする。このとき、タブ部71,72が環状部70aから外方に突出している。また、タブ部71,72においてNiメッキ層73とNiメッキ層74との間に、溶融前のはんだ100を配置する。
【0076】
この状態で、溶融前のはんだ100を挟んだタブ部71,72を、ヒータで挟持する。そして、ヒータの加熱により、はんだ100を溶融させてタブ部71,72をはんだ100で溶着する。
【0077】
次に、作用について説明する。
帯状かつ無端状をなす金属薄膜70において、漏れ磁束に抗う方向に磁束を発生させようとして内部に電流が流れ、電力を消費して発熱する。
【0078】
コモンモードチョークコイル34で発生した熱Q(
図8(c)参照)は、金属薄膜70が底壁部15aに熱的に接合されているので、底壁部15aに逃がされる。よって、金属薄膜70において発生する熱が放熱用グリス110を通して逃がされ、放熱性に優れたものとなる。
【0079】
以下、詳しく説明する。
金属薄膜70の接合方法と接合位置について、コモンモードチョークコイル34において、金属薄膜70は、第1の巻線60及び第2の巻線61を囲み、かつ電気的に繋がった円環形状が必要であり、さらに板厚はダンピング特性に影響を与えるので、薄い方がダンピング効果は高い。
【0080】
環状の導電体をプレス加工(絞り加工)で製造する場合、円環形状は容易に形成できるが、薄板材を使用したプレス加工には限界があり、板厚が大きい場合には、大きなダンピング効果が期待できない。
【0081】
そこで、帯状(リボン状)の薄板材を準備し、円環形状にしてから接合する場合、薄板材を使用するため大きなダンピング効果は期待できるが、接合部に関して、溶接の場合は、接合の良し悪しが確認できず品質保証が困難である。また、はんだ付けの場合は、シールド部となる環状の導電体が高温(例えば250℃)になると、はんだが溶けてしまう懸念があり、例えば250℃以下にする必要がある。
【0082】
本実施形態ではタブ形状とし、はんだ付けとするとともにハウジング14の底壁部15aに締結する。これにより、はんだ付けした部位であるタブ部71,72が高温になることが防止される。
【0083】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(4)金属薄膜70は、帯状の薄膜を湾曲させつつ両端部を重ね合わせた構造であり、金属薄膜70は、コア50を覆いつつ湾曲した環状部70aと、環状部70aから外側に突出したタブ部71,72とを有する。タブ部71,72は、両端部同士を、金属薄膜70よりも低融点の金属材である、はんだ100で溶着されている。よって、コアを覆う環状の導電体を容易に製造することができる。
【0084】
(5)タブ部71,72における、はんだ100との界面には金属メッキ層としてのNiメッキ層73,74が形成されている。よって、はんだ付けを確実に行うことができる。
【0085】
(6)金属薄膜70における環状部70aは、ハウジング14の底壁部15aに熱的に結合されており、タブ部71,72は、ハウジング14の底壁部15aに拘束されている。よって、タブ部71,72を放熱面に拘束することにより、耐熱・耐振動性に優れ、はんだ付け部の信頼性の向上を図ることができる。
【0086】
次に、別例を説明する。
○
図8(a)、
図8(b)、
図8(c)に代わり、
図11(a)、
図11(b)、
図11(c)に示すように、ボルトで締結することなくタブ部71,72を放熱面であるハウジング14の底壁部15aに接するように配置してもよい。
【0087】
○
図11(a)、
図11(b)、
図11(c)に代わり、
図12(a)、
図12(b)、
図12(c)に示すように、タブ部71,72を放熱面であるハウジング14の底壁部15aから離間する位置に配置してもよい。接合部分は放熱面近傍(例えば
図12(c)におけるコモンモードチョークコイル34の高さH1の半分以下の所)に配置する。その結果、放熱面に近い側ほど温度が低く、はんだ付け部への熱影響が小さくて済む。
【0088】
○
図11(a)、
図11(b)、
図11(c)に代わり、
図13(a)、
図13(b)、
図13(c)に示すように、タブ部71,72は、放熱面であるハウジング14の底壁部15aから離間する方向において、金属薄膜70における環状部70aの外周面に沿うように折り曲げてもよい。さらに、折り曲げたタブ部71,72を、環状部70aに接着させ、拘束させる。よって、
図8の場合には金属薄膜70における環状部70aからのタブ部71,72の飛び出しが大きく体格が増大してしまうのに対し、タブ部71,72の占有面積を小さくすることができる。これにより、省スペース化を図ることができ、当該部位に他の部品を配置することが可能となる。このように、接合部は折り曲げにより体格増大を抑制することができる。
【0089】
なお、回路基板29にコモンモードチョークコイル34を取り付けた後にタブ部71,72を折り曲げても、タブ部71,72を折り曲げた後に回路基板29にコモンモードチョークコイル34を取り付けてもよい。また、折り曲げたタブ部71,72は、
図13(c)においてZ方向で環状部70aから飛び出ないようにするとともにY方向においてなるべく環状部70aから離れないようにするのが好ましい。
【0090】
○
図11(a)、
図11(b)、
図11(c)に代わり、
図14(a)、
図14(b)、
図14(c)に示すように、タブ部71,72は、放熱面であるハウジング14の底壁部15aに接近する方向において、金属薄膜70の環状部70aの外周面に沿うように折り曲げてもよい。
【0091】
○ タブ部71,72は、はんだ付けに代わりロウ付けでもよい。つまり、タブ部71,72が導電体(銅)よりも低融点の金属材としてのはんだ100で溶着したが、はんだ100に代わりロウを用いてもよい。
【符号の説明】
【0092】
11…車載用電動圧縮機、18…圧縮部、19…電動モータ、30…インバータ装置、31…インバータ回路、32…ノイズ低減部、34…コモンモードチョークコイル、35…Xコンデンサ、36…ローパスフィルタ回路、50…コア、51…第1の直線部、52…第2の直線部、53,54…露出部、60…第1の巻線、61…第2の巻線、70…金属薄膜、70a…環状部、71,72…タブ部、73,74…Niメッキ層、80…樹脂層、100…はんだ。