(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】タイヤ用ゴム組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/20 20060101AFI20221227BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20221227BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20221227BHJP
C08K 5/25 20060101ALI20221227BHJP
B29D 30/00 20060101ALI20221227BHJP
B29D 30/52 20060101ALI20221227BHJP
B29B 7/42 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
C08J3/20 Z CEQ
C08L21/00
C08K3/04
C08K5/25
B29D30/00
B29D30/52
B29B7/42
(21)【出願番号】P 2018246006
(22)【出願日】2018-12-27
【審査請求日】2021-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】時宗 隆一
(72)【発明者】
【氏名】藤倉 慶太郎
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-038172(JP,A)
【文献】特開2016-199723(JP,A)
【文献】特開昭58-128832(JP,A)
【文献】特開2015-017209(JP,A)
【文献】特開2018-193450(JP,A)
【文献】特開平11-077667(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J3/00-3/28、99/00、
C08K3/00-13/08、C08L1/00-101/14、
B29B7/00-11/14、13/00-15/06、B29C31/00-31/10、37/00-37/04、71/00-71/02、
B29C48/00-48/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分と素練促進剤を混練りする素練工程と、前記素練工程で得られた素練ゴム、カーボンブラックおよびヒドラジド類を混練りするベース練り工程とを含む混練工程、ならびに
該混練工程で得られた混練物を押出機で押し出す押出工程
を含むタイヤ用ゴム組成物の製造方法であって、
該押出機が、シリンダ、スクリューおよび該シリンダの内面に突設したピンを備え、かつ前記ピンをスクリューピッチ毎に平均8~15個突設したものである製造方法。
【請求項2】
全ゴム成分100質量部に対するヒドラジド類の含有量が、0.3~2.5質量部である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
全ゴム成分100質量部に対するヒドラジド類の含有量が、0.7~2.5質量部である請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
前記素練工程のゴム成分が、天然ゴムを含む請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記押出機が、前記ピンをスクリューピッチ毎に平均8~12個突設したものである請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1
~5のいずれか1項に記載の製造方法で得られるタイヤ用ゴム組成物の加硫前の段階でタイヤ用部材を成形し、他のタイヤ用部材と組み合わせて生タイヤを成形する成型工程と、
該成形工程で得られた生タイヤを加硫する加硫工程と
を含むタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤ用ゴム組成物においては、低燃費性や破壊特性を向上させる目的で、カーボンブラックなどの充填剤を配合する技術が広く使用されている。
【0003】
しかし、カーボンブラックやシリカなどの無機充填剤は凝集性が高く、ゴム内に均一に分散させることは難しい。このような問題を改善する方法として、天然ゴムを少量の素練促進剤とともに混練りし、天然ゴムの分子量を適度に下げる素練工程を行った後に、他のゴム成分や補強剤などの配合剤を添加し、混練する方法が知られている。
【0004】
また、補強剤の分散性を高めるため、特許文献1では、式(A):
NH2NHCO-Rn-CONHNH2 式(A)
(式中、Rは、6~20個の炭素原子を有する置換または非置換の芳香族基、または2~20個の炭素原子を有する飽和もしくは不飽和で線状もしくは枝分かれの脂肪族基から選ばれる二価の炭化水素基であり、nは値0または1を有する。)
で表されるヒドラジド類を含むゴム組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ゴム成分の低分子化は、行き過ぎると加工性や低燃費性が悪化する。また、特許文献1のゴム組成物についても、さらなる分散性の向上が求められている。
【0007】
本発明は、前記課題を解決し、未加硫ゴム組成物の加工性および加硫ゴム組成物におけるカーボンブラックの分散性を維持しつつ、低燃費性がより改善されたタイヤ用ゴム組成物が得られるさらなるタイヤ用ゴム組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、タイヤ用ゴム組成物の製造において、ゴム成分と素練促進剤を混練りする素練工程と、前記素練工程で得られた素練ゴム、カーボンブラックおよびヒドラジド類を混練りするベース練り工程とを含む混練工程、ならびに該混練工程で得られた混練物を押出機で押し出す押出工程を含み、該押出機が、シリンダ、スクリューおよび該シリンダの内面に突設したピンを備え、かつ前記ピンをスクリューピッチ毎に平均8~15個突設したタイヤ用ゴム組成物の製造方法とすることにより、未加硫ゴムの加工性および加硫ゴム中のカーボンブラックの分散性を維持しつつ、加硫ゴム組成物の低燃費性をより改善することができ、前記課題を解決できることを見出し、さらに検討を重ねて本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、
[1]ゴム成分と素練促進剤を混練りする素練工程と、前記素練工程で得られた素練ゴム、カーボンブラックおよびヒドラジド類を混練りするベース練り工程とを含む混練工程、ならびに
該混練工程で得られた混練物を押出機で押し出す押出工程
を含むタイヤ用ゴム組成物の製造方法であって、
該押出機が、シリンダ、スクリューおよび該シリンダの内面に突設したピンを備え、かつ前記ピンをスクリューピッチ毎に平均8~15個、好ましくは平均9~13個、より好ましくは平均10~12個突設したものである製造方法、
[2]全ゴム成分100質量部に対するヒドラジド類の含有量が、0.3~2.5質量部、好ましくは0.5~2.0質量部、より好ましくは0.7~1.0質量部である上記[1]記載の製造方法、ならびに
[3]上記[1]または[2]記載の製造方法で得られるタイヤ用ゴム組成物の加硫前の段階でタイヤ用部材を成形し、他のタイヤ用部材と組み合わせて生タイヤを成形する成型工程と、
該成形工程で得られた生タイヤを加硫する加硫工程と
を含むタイヤの製造方法
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の、ゴム成分と素練促進剤を混練りする素練工程と、前記素練工程で得られた素練ゴム、カーボンブラックおよびヒドラジド類を混練りするベース練り工程とを含む混練工程、ならびに該混練工程で得られた混練物を押出機で押し出す押出工程を含むタイヤ用ゴム組成物の製造方法であって、該押出機が、シリンダ、スクリューおよび該シリンダの内面に突設したピンを備え、かつ前記ピンをスクリューピッチ毎に平均8~15個突設したものである製造方法によれば、得られる未加硫ゴム組成物の良好な加工性と、加硫ゴム組成物におけるカーボンブラックの分散性を維持しつつ、加硫ゴム組成物の低燃費性をより改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】押出工程で用いる押出機の概略図の一例である。
【
図2】押出機の概略図、およびピン突設箇所における円周面の概要図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示は、ゴム成分と素練促進剤を混練りする素練工程と、前記素練工程で得られた素練ゴム、カーボンブラックおよびヒドラジド類を混練りするベース練り工程とを含む混練工程、ならびに該混練工程で得られた混練物を押出機で押し出す押出工程を含み、該押出機が、シリンダ、スクリューおよび該シリンダの内面に突設したピンを備え、かつ前記ピンをスクリューピッチ毎に平均8~15個突設したものであるタイヤ用ゴム組成物の製造方法である。
【0013】
ゴム成分と素練促進剤(ラジカル捕捉剤)を混練りする素練工程を採用することでゴムの軟化を短時間で促進し、結果としてカーボンブラックの分散性、引いては低燃費性(転がり抵抗性(RR))を向上させることができる。また、混練工程で得られた混練物を押出機で混練りする際、シリンダ等に設けるピン密度(ピンの個数)が高い方が効果的な練りを実現できるため、カーボンブラック分散性を向上させることができる。しかし、より高度に改善しようとしてこられの試みを進め過ぎると、ゴムの切断、切断部分に発生した炭素ラジカルの酸素との結合により再結合が抑制され、低分子化していき、加工性や転がり抵抗性が悪化する。ここで、素練りゴムにヒドラジド類を添加することで、混練中のゴム内の酸素濃度減少し、ゴム分子鎖が切断した後に、酸素と結合する割合が減り、低分子化が抑制され、転がり抵抗(RR)の悪化が抑制されると考えられる。つまり、本開示では、ゴム成分を素練促進剤(ラジカル捕捉剤)と素練りすることによるカーボンブラックの分散性の向上効果と、さらに押出機のピン密度を最適化することによるカーボンブラックの分散性の向上の効果とを、素練りゴムにヒドラジド類を添加して低分子化を抑えることにより、これらが協働して、良好な加工性の維持および良好なカーボンブラックの分散性を維持、向上しつつ、格別な低燃費性の改善という相乗効果を得ることができると考えられる。
【0014】
以下、各工程の詳細について説明する。
【0015】
(素練工程)
素練工程では、一般的に、他のゴム成分と粘度を合わせるため、他のゴム成分に比べて粘度の低い(硬い)ゴム成分、例えば天然ゴムと、素練促進剤とを混練りする。
【0016】
天然ゴムとしては、天然ゴム(NR)に加え、エポキシ化天然合(ENR)、水素化天然ゴム(HNR)、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム(HPNR)等の改質天然ゴムなども含まれる。
【0017】
NRとしては特に限定されず、SIR20、RSS#3、TSR20など、タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。
【0018】
NRを含有する場合の全ゴム成分中のNRの含有量は、用途とするタイヤ部材に適して決められ、特に限定されるものではないが、例えば、30質量%以上が好ましく、35質量%以上がより好ましく、40質量%以上がさらに好ましく、50質量%以上が特に好ましく、60質量%以上がよりさらに好ましい。NRの全ゴム成分中の含有量を、30質量%以上とすることにより、本開示による低燃費性改善効果が得られやすくなる傾向がある。また、NRの全ゴム成分中の含有量は、100質量%がより好ましい。NRの全ゴム成分中の含有量が、100質量%の場合、本開示による低燃費性改善効果が格別顕著に得られる傾向がある。
【0019】
素練促進剤としては、従来タイヤ工業において使用されている、大内新興化学工業(株)製のノクタイザーSD、川口化学工業(株)製のペプター3Sなどのチオフェノールやジスルフィドなどが挙げられる。
【0020】
素練促進剤の全ゴム成分100質量部に対する含有量は、0.03質量部以上が好ましく、0.05質量部以上がより好ましく、0.08質量部以上がさらに好ましい。素練促進剤の含有量を0.03質量部以上とすることにより、素練促進剤の添加による粘度低減の効果が十分に得られ、加工性の悪化を心配し、生産性が低下を抑制する傾向がある。また、素練促進剤の含有量は、0.75質量部以下が好ましく、0.50質量部以下がより好ましく、0.30質量部以下がより好ましい。素練促進剤の含有量を0.75質量部以下とすることにより、ゴム組成物の耐摩耗性の悪化を抑制する傾向がある。なお、本明細書における「全ゴム成分」とは、素練工程に用いるゴムのみならず、ベース練工程において加えるゴム成分や、その他、ゴム組成物中に含有されるゴム成分のすべてを意味する。
【0021】
素練工程は、全体として排出温度140~170℃で1~5分間行うことが好ましく、排出温度150~180℃で1~2分間行うことがより好ましい。素練工程で得られた混練物は、通常80℃以下、好ましくは25~45℃となるまで冷却してから後の工程に使用することが好ましい。
【0022】
(ベース練工程)
ベース練工程では、上記素練工程にて得られた素練ゴムに、必要に応じてゴム成分と、カーボンブラックおよびヒドラジド類を加えて混練する。
【0023】
ベース練工程において添加するゴム成分としては、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)等のジエン系ゴムが挙げられる。
【0024】
BRとしては特に限定されず、例えば、シス含有量が95%以上のBR(ハイシスBR)、希土類元素系触媒を用いて合成された希土類系ブタジエンゴム(希土類系BR)、シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR(SPB含有BR)、変性BRなどタイヤ工業において一般的なものを、目的とするタイヤ用部材に必要とされる物性に合わせて使用することができる。
【0025】
BRを含有する場合のゴム成分中のBRの含有量は、40質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましい。BRの含有量が、40質量%未満の場合は、耐摩耗性の向上効果が得られ難くなる傾向がある。また、BRの含有量は、70質量%以下が好ましく、65質量%以下がより好ましい。BRの含有量が、70質量%を超える場合は、ドライグリップ性能が著しく低下する傾向、ウェットグリップ性能が著しく低下する傾向がある。
【0026】
カーボンブラックとしては特に限定されず、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAFなど、タイヤ工業において一般的なものを使用でき、三菱ケミカル(株)により製造販売されている微粒子カーボンブラックなどを好ましく用いることができる。これらは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0027】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、耐候性や補強性の観点から30m2/g以上が好ましく、70m2/g以上がより好ましい。また、カーボンブラックのN2SAは、低燃費性、分散性、破壊特性および耐久性の観点から250m2/g以下が好ましく、150m2/g以下がより好ましい。なお、本明細書におけるカーボンブラックのN2SAは、JIS K 6217のA法に準じて測定される値である。
【0028】
カーボンブラックのゴム成分100質量部に対する含有量は、3質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましい。カーボンブラックの含有量を3質量部以上とすることにより、タイヤの外部面に使用する場合に紫外線やオゾンによる劣化を防止することができる傾向がある。また、カーボンブラックのゴム成分100質量部に対する含有量は、120質量部以下が好ましく、90質量部以下がより好ましい。カーボンブラックの含有量を120質量部以下とすることにより、低燃費性を向上させやすくなる傾向がある。
【0029】
ヒドラジド類としては、ヒドラジノ基(-NHNH2)を有するものであれば、特に限定されるものではない。具体的には、一般式(1):
Ra-CONHNH2 (1)
(式中、Raは、炭素数1~30のアルキル基、炭素数1~30の不飽和炭化水素基、炭素数3~30のシクロアルキル基、炭素数3~30のアリール基のいずれかを示す。)
で表される化合物、または一般式(2):
NH2NHCO-Rb-CONHNH2 (2)
(式中、Rbは、二価の炭素数1~30のアルカン、二価の炭素数1~30の不飽和炭化水素基、二価の炭素数3~30のシクロアルカン、二価の炭素数3~30のアリールのいずれかを示す。)
で表される化合物が挙げられる。
【0030】
上記一般式(1)で表される化合物の具体例としては、アセトヒドラジド、プロピオン酸ヒドラジド、ブチルヒドラジド、ラウリン酸ヒドラジド、パルミチン酸ヒドラジド、ステアリン酸ヒドラジド、シクロプロピルヒドラジド、シクロヘキシルヒドラジド、シクロヘプチルヒドラジド、ベンゾイルヒドラジン、安息香酸ヒドラジド、サリチル酸ヒドラジド、o-、m-またはp-トリルヒドラジド、p-メトキシフェニルヒドラジド、3,5-キシリルヒドラジド、1-ナフチルヒドラジドなどが挙げられ、ベンゾイルヒドラジンが好ましく、上記一般式(2)で表される化合物の具体例としては、アジピン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、サリチル酸ジヒドラジド、ドデカンジオヒドラジドなどが挙げられ、アジピン酸ジヒドラジドが好ましい。
【0031】
ヒドラジド類のゴム成分100質量部に対する含有量は、0.3質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましく、0.7質量部以上がさらに好ましい。ヒドラジド類の含有量を0.3質量部以上とすることにより、本開示による低燃費性改善効果が得られやすくなる傾向がある。また、ヒドラジド類のゴム成分100質量部に対する含有量は、2.5質量部以下が好ましく、2.0質量部以下がより好ましく、1.0質量部以下がさらに好ましい。ヒドラジド類の含有量を2.5質量部以下とすることにより、本開示による、良好な加工性とカーボンブラックの分散性とを維持しつつ低燃費性を改善する効果が得られやすくなる傾向がある。
【0032】
ベース練工程は、排出温度130~160℃で1~5分間行うことが好ましく、排出温度150~180℃で1~3分間行うことがより好ましい。ベース練工程で得られた混練物は、通常80℃以下、好ましくは25~45℃となるまで冷却してから後の工程に使用することが好ましい。
【0033】
また、ベース練工程と仕上げ練工程との間に、別の混練工程(ベース練り工程2)を行ってもよい。ベース練り工程2は、ベース練り工程で得られた混練物に適宜その他の配合剤を投入し、ベース練り工程と同様の条件で行うことができ、ベース練工程2を行う場合は、ベース練り工程で得られた混練物は、特別冷却することなくベース練り工程2に用いることができ、ベース練り工程2で得られた混練物を、通常80℃以下、好ましくは25~45℃となるまで冷却してから後の工程に使用することが好ましい。
【0034】
(仕上げ練工程)
仕上げ練工程では、ベース練工程で得られた混練物に加硫剤を投入して混練りする。仕上げ練工程の混練方法としては、特に限定されず、例えば、オープンロール等の公知の混練機を用いることができる。
【0035】
加硫剤は特に限定されるものではなく、タイヤ工業において一般的なものを使用することができるが、硫黄原子を含むものが好ましく、例えば、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、表面処理硫黄、不溶性硫黄などが挙げられる。
【0036】
加硫促進剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド-アミン系もしくはアルデヒド-アンモニア系、イミダゾリン系、キサンテート系加硫促進剤が挙げられ、なかでも、本開示の効果がより好適に得られる点から、スルフェンアミド系、チウラム系、グアニジン系加硫促進剤が好ましい。
【0037】
スルフェンアミド系加硫促進剤としては、CBS(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド)、TBBS(N-t-ブチル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド)、N-オキシエチレン-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド、N,N’-ジイソプロピル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミドなどが挙げられる。チアゾール系加硫促進剤としては、2-メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアゾリルジスルフィドなどが挙げられる。チウラム系加硫促進剤としては、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラベンジルチウラムジスルフィド(TBzTD)などが挙げられる。グアニジン系加硫促進剤としては、ジフェニルグアニジン(DPG)、ジオルトトリルグアニジン、オルトトリルビグアニジンなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、本開示の効果がより好適に得られる点からCBS、TBBSが好ましい。
【0038】
仕上げ練工程は、ゴム温度が90~130℃になった時点で排出することが好ましく、ゴム温度が100℃~120℃になった時点で排出することがより好ましい。
【0039】
(押出工程)
押出工程では、仕上げ練工程で得られた混練物をシート状に押出成形する。押出工程では、シリンダ、スクリュー、および前記シリンダの内面に突設したピン(シリンダの内面に突出するように取り付けたピン)を備え、かつスクリューピッチ毎のピンの平均個数が所定範囲の押出機を用いて混練物が押し出される。
【0040】
図1は、押出工程に用いる押出機の一例の概略図である。
図1(a)、(c)の押出機1は、シリンダ11、スクリュー12、シリンダ11の内面に突設されたピン13を備えた形態で、
図1(b)は、ピン13が突設されていない形態である。スクリュー12は、軸部回りに螺旋状にフライト121を有し、シリンダ11ないに挿入して設置される。
図1(a)、(c)のピン13は、シリンダ11内の材料搬送空間に突設されているため、フライト121には、ピン13との干渉を防止するため、切欠部122が設けられている。
【0041】
図2は、押出機の概略図、およびピン突設ヵ所における円周面の概略図の一例を示したものである。
図2の左図は、
図1(a)、(c)と同様、ピン13、切欠部122を備えた形態を示す。右図(i)、(ii)、(iii)は、切欠部122において、それぞれ円周内にピン13を6個、8個、10個突設した形態を示している。なかでも、切欠部122当たり、ピン13を6~8個突設した形態が好ましい。
【0042】
押出機1は、ピン13がスクリューピッチP毎に平均8~15個突設されており、カーボンブラック分散性の観点から、平均9~13個突設した形態が好ましく、平均10~12個突設した形態がより好ましい。スクリューピッチPは、
図1、2に示すように、スクリュー12が360度回転したときにスクリュー12が軸方向に前進する距離(リード)である。
【0043】
例えば、
図1(a)(スクリューピッチP毎のピンの列数:1列)で、
図2(iii)(円周内のピン13の個数:10個)の押出機1の場合、スクリューピッチP毎のピン13の平均個数は、10個(=1列×10個)である。
図1(c)(スクリューピッチP毎のピンの列数:1.5列)で、
図2(ii)(円周内のピン13の個数:8個)の押出機1の場合、スクリューピッチP毎のピン13の平均個数は12個(=1.5列×8個)である。
【0044】
ピン13は、スクリューピッチP毎に均一に突設することが望ましく、例えば、
図1(a)、(c)、
図2に示されている態様のように、円周状のピン13(切欠部122)をスクリュー軸方向に均一に設置することが好適である。また、各切欠部122に設置される各円周状のピンン13の個数は、各切欠部122(各円周状の1組のピン13のセット)で同数であることが好ましい。
【0045】
押出工程では、押出機1の材料供給部(図示省略)から供給された混練物が、シリンダ11内のピン13が所定個数突設された混練室内において、スクリュー12の回転により順次移動し、ピン13とスクリュー12で混練り、可塑化され、先端の射出ノズル(図示省略)の金型に射出され、シート状に成形される。
【0046】
(加硫工程)
上述の押出工程で作製された混練物(未加硫ゴム組成物)は、通常、その後加硫される。例えば、未加硫ゴム組成物をトレッド等のタイヤ部材の形状にあわせて押し出し加工し、タイヤ成型機上にて通常の方法にて成形し、他のタイヤ部材と共に貼り合わせ、未加硫タイヤを形成した後、加硫機中で加熱加圧することで、タイヤを製造することができる。加硫温度は、130~200℃が好ましく、150~180℃がより好ましい。加硫時間は5~20分が好ましく、10~15分がより好ましい。
【0047】
その他、本開示のタイヤ用ゴム組成物の製造方法においては、上記成分以外にも、従来タイヤ工業で一般に使用される配合剤、例えば、カーボンブラック以外の補強用充填剤、加工助剤、ステアリン酸、各種老化防止剤、オイルや粘着樹脂などの軟化剤、ワックス、酸化亜鉛などを適宜投入し、混練りすることができる。投入のタイミングは、特に限定されるものではない。
【0048】
カーボンブラック以外の補強用充填剤としては、シリカ、炭酸カルシウム、アルミナ、クレー、タルクなど、従来からタイヤ用ゴム組成物において用いられているものを配合することができる。
【0049】
シリカを配合することにより、低燃費性、耐摩耗性、ウェットグリップ性能を向上できる。シリカとしては、特に限定されるものではなく、例えば、乾式法により調製されたシリカ(無水シリカ)、湿式法により調製されたシリカ(含水シリカ)など、タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。なかでもシラノール基が多いという理由から、湿式法により調製された含水シリカが好ましい。シリカは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
シリカのチッ素吸着比表面積(N2SA)は、40m2/g以上が好ましく、80m2/g以上がより好ましい。また、N2SAは、250m2/g以下が好ましく、200m2/g以下がより好ましい。上記範囲内であれば、低燃費性および加工性がよりバランス良く得られる傾向がある。なお、本明細書におけるシリカのN2SAは、ASTM D3037-81に準じてBET法で測定される値である。
【0051】
シリカを添加する場合、ゴム成分100質量部に対するシリカの含有量は、3質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましく、30質量部以上がさらに好ましい。シリカの含有量を3質量部以上とすることにより、ウェットグリップ性能と低燃費性能のバランスが向上する傾向がある。また、シリカのゴム成分100質量部に対する含有量は、150質量部以下が好ましく、90質量部以下がより好ましい。シリカの含有量を150質量部以下とすることにより、良好な加工性が得られやすい傾向がある。
【0052】
オイルとしては、特に限定されるものではないが、例えば、プロセスオイル、植物油脂またはその混合物を用いることができる。プロセスオイルとしては、例えば、パラフィン系プロセスオイル、アロマ系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイルなどを用いることができる。なかでも、低温でのタイヤ性能が良好であるという点からミネラルオイルが好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0053】
オイルを含有する場合の全ゴム成分100質量部に対する含有量は、4質量部以上が好ましく、6質量部以上がより好ましい。オイルの含有量を4質量部以上とすることにより、低温での硬度を柔らかく保つなどの良好な低温特性が得られる傾向がある。また、オイルの含有量は15質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましい。オイルの含有量を15質量部以下とすることにより、加硫ゴムにおいて良好な引張強度および良好な低発熱性が得られる傾向、良好な加工性が得られる傾向がある。
【0054】
ワックスとしては、特に限定されないが、日本精鑞(株)製のオゾエース0355、パラメルト社製のOK5258Hなどのパラフィンワックスが好ましい。
【0055】
パラフィンワックスを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、0.5質量部以上が好ましく、0.7質量部以上がより好ましい。また、2.0質量部以下が好ましく、1.5質量部以下がより好ましい。
【0056】
老化防止剤としては、アミン系、フェノール系、イミダゾール系の各化合物や、カルバミン酸金属塩などの老化防止剤を適宜選択して配合することができ、これらの老化防止剤は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、耐オゾン性を顕著に改善でき、破壊特性に優れるという理由からアミン系老化防止剤が好ましく、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミンがより好ましい。
【0057】
老化防止剤を含有する場合の全ゴム成分100質量部に対する含有量は、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましく、1.5質量部以上がさらに好ましい。老化防止剤の含有量が0.5質量部未満の場合は、十分な耐オゾン性が得られない傾向や、破壊特性を向上し難い傾向がある。また、老化防止剤の含有量は、6質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましく、4質量部以下がさらに好ましい。老化防止剤の含有量が6質量部を超える場合は、変色が生じる傾向がある。
【0058】
粘着樹脂は、配合ゴムの粘着性が不足する場合など必要に応じて用いることができる。粘着樹脂としては、芳香族系石油樹脂などの従来タイヤ用ゴム組成物で慣用される樹脂が挙げられる。芳香族石油樹脂としては例えば、フェノール系樹脂、クマロンインデン樹脂、テルペン樹脂、スチレン樹脂、アクリル樹脂、ロジン樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂(DCPD樹脂)などが挙げられる。フェノール系樹脂としては例えばコレシン(BASF社製)、タッキロール(田岡化学工業(株)製)などが挙げられる。クマロンインデン樹脂としては例えばニットレジン クマロン(日塗化学(株)製)、エスクロン(新日鐡化学(株)製)、ネオポリマー(新日本石油化学(株)製)などが挙げられる。スチレン樹脂としては例えばSylvatraxx(登録商標)4401(アリゾナケミカル社製)などが挙げられる。テルペン樹脂としては例えばTR7125(アリゾナケミカル社製)、TO125(ヤスハラケミカル(株)製)などが挙げられる。
【0059】
粘着樹脂を使用する場合、粘着樹脂のゴム成分100質量部に対する含有量に特に下限はないが、0.5質量部以上が好ましく、0.8質量部以上がより好ましい。粘着樹脂の含有量を0.5質量部以上とすることにより良好なグリップ性能が得られやすい傾向がある。また、粘着樹脂のゴム成分100質量部に対する含有量は、10質量部以下が好ましく、6質量部以下がより好ましい。粘着樹脂の含有量を10質量部以下とすることにより、良好な低燃費性および耐摩耗性を得られやすい傾向があり、また、コストに見合った効果が得られる傾向がある。
【0060】
その他、酸化亜鉛、ステアリン酸は、従来タイヤ工業で使用されるものを用いることができる。
【0061】
本開示のタイヤ用ゴム組成物の製造方法における各工程の混練は、公知の混練機を用いることができ、例えば、バンバリーミキサーやニーダー、オープンロールなどの機械的なせん断力を材料に加え、混練および混合を行う装置が挙げられる。
【0062】
本開示のタイヤ用ゴム組成物の製造方法により得られるゴム組成物は、加工性や低燃費性能などのゴム物性に優れることから、各種タイヤ部材(例えば、キャップトレッド、ベーストレッド、サイドウォール、カーカス、クリンチ、ビードなど)に好適に用いることができる。
【0063】
<タイヤの製造方法>
本開示のタイヤの製造方法は、本開示の製造方法にて製造されるタイヤ用ゴム組成物の加硫前の段階でタイヤ用部材(例えば、キャップトレッドまたはベーストレッド)を成形し、他のタイヤ用部材と組み合わせて生タイヤを成形する成型工程と、該成形工程で得られた生タイヤを加硫する加硫工程とを含む。加硫温度は、例えば130~200℃である。
【0064】
これらタイヤは、空気入りタイヤ、非空気入りタイヤを問わないが、空気入りタイヤであることが好ましい。また、空気入りタイヤとしては、乗用車用タイヤ、トラックやバス用タイヤ、二輪車用タイヤ、競技用タイヤなどの高性能タイヤ、ランフラットタイヤなど各種タイヤに用いることができ、それぞれのサマータイヤ、ウインタータイヤ、スタッドレスタイヤとして使用可能である。
【実施例】
【0065】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0066】
以下、実施例および比較例において用いた各種薬品をまとめて示す。
・NR:TSR20
・BR:宇部興産(株)製のBR150B
・素練促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクタイザーSD
・カーボンブラック(1):キャボットジャパン(株)製のショウブラックN134(N2SA:147m2/g)
・カーボンブラック(2):三菱ケミカル(株)製のダイアブラック(登録商標)LH(N326、N2SA:83m2/g)
・ヒドラジド化合物(1):東京化成工業(株)製のアジピン酸ジヒドラジド
・ヒドラジド化合物(2):東京化成工業(株)製のベンゾイルヒドラジン
・ワックス:日本精蝋(株)製のオゾエース0355(パラフィン系)
・老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(6PPD:N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン)
・ステアリン酸:日油(株)製のビーズステアリン酸つばき
・オイル:H&R(株)製のVivaTec400(TDAEオイル)
・酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
・加硫促進剤(1):大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N-t-ブチル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド)
・加硫促進剤(2):大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(CBS、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
・硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄
【0067】
実施例および比較例
(1)素練工程
バンバリーミキサーを用いて、表1および2に示す配合内容に従い、ゴム成分を排出温度150℃で1.5分間素練りし、素練りゴムを得た。
(2)ベース練工程
(1)の素練工程で得られた素練ゴム(約35℃)に、表1および2に示す配合内容に従い、ベース練工程の項目に記載の配合成分を加え、バンバリーミキサーを用いて、排出温度150℃で2.5分混練りし、混練物を得た。
(3)仕上げ練工程
オープンロールを用いて、(2)のベース練工程で得られた混練物(約35℃)に、表1および2に示す配合内容に従い、仕上げ練工程の項目に記載の材料を加えて混練りし、ゴム温度が約110℃になった時点で排出した。
(4)押出工程
(3)の仕上げ練工程で得られた混練物を、
図1(a)~(c)、
図2に示される押出機(スクリュー径:φ80mm、L/D:20、シリンダ温度;75℃)を用いて、スクリュー回転数25RPM、押出速度は約25m/分で、平板状のシートを押出し、未加硫ゴム組成物を得た。なお、各実施例、比較例で用いた押出機の仕様は、各表に記載の通りである。
(5)加硫工程
(4)の押出工程で得られた未加硫ゴム組成物を170℃で10分間、2mm厚の金型でプレス加硫し、加硫ゴム組成物を得た。
【0068】
実施例および比較例において得られた未加硫ゴム組成物、加硫ゴム組成物について、下記の評価を行った。結果を表1および2に示す。なお、実施例1~5および比較例1~8の基準配合は比較例3であり、実施例6~8および比較例9~11の基準配合は比較例9である。
【0069】
<加工性指数(ムーニー粘度)>
得られた未加硫ゴム組成物について、JIS K 6300に準拠したムーニー粘度の測定方法に従い、130℃で測定した。基準配合の値を100として指数表示した。指数が大きいほど粘度が低く、加工性に優れていることを示す。89以上を目標値とする。
【0070】
<カーボンブラック分散指数>
アルファーテクノロジー社製のRPA2000を用いて、測定温度110℃(予熱1分)、周波数6cpm、振幅0.28~10%の条件で上記加硫ゴム組成物の貯蔵弾性率の歪依存性を測定し、歪量0.2%の貯蔵弾性率の値/(歪量0.2%の貯蔵弾性率の値-歪量64%の貯蔵弾性率の値)の値を求め、基準配合の値を100として指数表示した。指数が大きいほど、カーボンブラックの分散が良好であることを示す。
【0071】
<RR指数>
粘弾性スペクトロメーターVES((株)岩本製作所製)を用いて、温度30℃、周波数10Hz、初期歪10%および動歪2%の条件下で、上記加硫ゴム組成物の損失正接(tanδ)を測定し、基準配合を100として指数表示した。指数が大きいほど、転がり抵抗が低く、低燃費性に優れることを示す。実施例1~5については、120以上を目標値とし、実施例6~8については、110以上、好ましくは114以上を目標値とする。
【0072】
【0073】
【0074】
表1および2より、素練促進剤を素練工程で混練りし、ヒドラジド類をカーボンブラックと共にベース練工程で素練ゴムに混練りすると共に、押出機のピン密度を調製した実施例は、良好な加工性を維持し、カーボンブラックの分散性が向上し、低燃費性が顕著に改善した。
【符号の説明】
【0075】
1 押出機
11 シリンダ
12 スクリュー
13 ピン
121 フライト
122 切欠部
P スクリューピッチ