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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】樹脂組成物、成形品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/00 20060101AFI20221227BHJP
   C08L 67/04 20060101ALI20221227BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20221227BHJP
   C08L 5/16 20060101ALN20221227BHJP
【FI】
C08L77/00
C08L67/04
C08K7/02
C08L5/16
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018557431
(86)(22)【出願日】2018-10-15
(86)【国際出願番号】 JP2018038354
(87)【国際公開番号】W WO2019106986
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2021-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2017228649
(32)【優先日】2017-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018086331
(32)【優先日】2018-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018156814
(32)【優先日】2018-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山下 浩平
(72)【発明者】
【氏名】高尾 恵理
(72)【発明者】
【氏名】若林 拓実
(72)【発明者】
【氏名】高本 達也
(72)【発明者】
【氏名】小柳 昂平
(72)【発明者】
【氏名】小林 定之
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/115211(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/167247(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともポリアミド(A)、変性シクロデキストリン(B)(ポリロタキサンに含まれるシクロデキストリンを除く)、および繊維状充填材(C)を配合してなる樹脂組成物であって、前記変性シクロデキストリン(B)が、ポリカプロラクトンで変性された数平均分子量が1.9万~10万の変性シクロデキストリンであり、かつ前記ポリアミド(A)と前記変性シクロデキストリン(B)の合計100重量部に対して、前記ポリアミド(A)を80重量部以上99.9重量部以下、前記変性シクロデキストリン(B)を0.1重量部以上20重量部以下、および前記繊維状充填材(C)を1~200重量部配合してなることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記変性シクロデキストリン(B)が、β-シクロデキストリンまたはγ-シクロデキストリンを変性した変性シクロデキストリンであることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の樹脂組成物を成形してなる成形品。
【請求項4】
少なくとも、前記ポリアミド(A)と前記変性シクロデキストリン(B)を溶融混錬する請求項1または2に記載の樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミドおよび変性シクロデキストリンを配合してなる、剛性および靭性のバランスに優れた成形品を得ることのできるポリアミド樹脂組成物、それを成形してなる成形品、および製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアミドは、剛性、靭性などの機械的性質や熱的性質に優れるなど、エンジニアリングプラスチックとして好適な性質を有していることから、射出成形用を中心として、各種電気・電子部品、機械部品および自動車部品などの用途に広く使用されている。ポリアミド樹脂の靭性をさらに改良する方法として、オレフィン系エラストマーや、ゴム状のコア層をガラス状樹脂のシェル層で覆ったコアシェル型化合物を配合することが知られている。オレフィン系エラストマーを配合する技術としては、例えば、ポリアミド樹脂からなる連続相と、該連続相に分散された、α、β-不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィンからなる粒子状の分散相とからなるポリアミド系樹脂組成物(例えば、特許文献1参照)が提案されている。コアシェル型化合物を配合する技術としては、例えば、ポリアルキル(メタ)アクリレートを芯とし、その上にポリオルガノシロキサンからなる第一層およびポリアルキル(メタ)アクリレートからなる第二層を有する多層構造重合体粒子に、ビニル系単量体をグラフト重合してなる複合ゴム系グラフト共重合体と、熱可塑性樹脂とからなる耐衝撃性熱可塑性樹脂組成物(例えば、特許文献2参照)、テレフタル酸単位を含有するジカルボン酸単位と、1,9-ノナンジアミン単位および/または2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位を含有するジアミン単位とからなるポリアミド樹脂、およびコアシェル構造を有する樹脂微粒子からなるポリアミド樹脂組成物(例えば、特許文献3参照)が提案されている。
【0003】
一方、衝撃強度と靭性を改良する方法として、例えば、不飽和カルボン酸無水物により変性されたポリオレフィンと、官能基を有するポリロタキサンとを反応して得られる樹脂組成物(例えば、特許文献4参照)、ポリ乳酸からなるグラフト鎖を有する環状分子の開口部が直鎖状分子によって包接されたポリロタキサンと、ポリ乳酸樹脂とを含むポリ乳酸系樹脂組成物(例えば、特許文献5参照)が提案されている。また、特許文献6に記載の樹脂組成物は、ポリロタキサンの添加によりポリアミドの靭性を大きく向上させる手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-31325号公報
【文献】特開平5-339462号公報
【文献】特開2000-186204号公報
【文献】特開2013-209460号公報
【文献】特開2014-84414号公報
【文献】国際公開第2016/167247号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
樹脂組成物を各種用途、特に自動車構造材に適用する場合には、剛性と靭性の両立が必要となる。前記特許文献1~3に開示された樹脂組成物は、オレフィン系エラストマーやコアシェル型化合物を配合することにより、耐衝撃性や靭性は向上するものの、剛性が低下する課題があった。特許文献4~5に開示されるように、ポリロタキサンを用いることにより、ポリオレフィンやポリ乳酸の衝撃強度と靭性が向上することは知られていたが、これらに開示されたポリロタキサンは、ポリアミドとの相溶性や反応性が低く、かかるポリロタキサンを、剛性に優れるポリアミドの改質に適用することは困難であった。成形品の靭性と剛性を両立する手法として、ポリアミドと変性ポリロタキサンを含む樹脂組成物が提案されている(特許文献6)。しかし、特許文献6に記載の樹脂組成物は靭性と剛性のバランスに優れているものの、更なる靭性の向上が求められており、さらに原料であるポリロタキサンの合成コストが高価であることが課題であった。
【0006】
本発明は、上記背景技術の課題に鑑み、原料が安価であり、剛性および靭性のバランスに優れた成形品を得ることのできる樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成を有する。
【0008】
少なくともポリアミド(A)、変性シクロデキストリン(B)(ポリロタキサンに含まれるシクロデキストリンを除く)、および繊維状充填材(C)を配合してなる樹脂組成物であって、前記変性シクロデキストリン(B)が、ポリカプロラクトンで変性された数平均分子量が1.9万~10万の変性シクロデキストリンであり、かつ前記ポリアミド(A)と前記変性シクロデキストリン(B)の合計100重量部に対して、前記ポリアミド(A)を80重量部以上99.9重量部以下、前記変性シクロデキストリン(B)を0.1重量部以上20重量部以下、および前記繊維状充填材(C)を1~200重量部配合してなることを特徴とする樹脂組成物。
【0009】
前記樹脂組成物を成形してなる成形品。
【0010】
少なくとも、前記ポリアミド(A)と前記変性シクロデキストリン(B)を溶融混錬する、前記樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の樹脂組成物により、原料が安価な、剛性および靭性のバランスに優れた成形品を得ることができる。さらに、繊維状充填材を添加した樹脂組成物(繊維強化系樹脂組成物)においても剛性を維持したまま靭性を向上することが可能であり、エネルギー吸収性に優れた成形品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0013】
本発明の樹脂組成物は、少なくともポリアミド(A)と、変性シクロデキストリン(B)を配合してなる。ポリアミド(A)を配合することにより、剛性や耐熱性を向上させることができる。また、変性シクロデキストリン(B)を配合することにより、靭性を向上させることができる。なお、本発明の樹脂組成物は、(A)成分および(B)成分以外にも、(A)成分と(B)成分とが反応した生成物をも含むが、当該反応物の構造を特定することは実際的でない。そのため、本発明は配合する各成分により発明を特定するものである。
【0014】
本発明の樹脂組成物におけるポリアミド(A)は、アミノ酸、ラクタムあるいはジアミンとジカルボン酸の残基を主たる構成成分とする。その原料の代表例としては、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸、ε-カプロラクタム、ω-ラウロラクタムなどのラクタム、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-/2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、5-メチルノナメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミンなどの芳香族ジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジンなどの脂環族ジアミン、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2-クロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸、5-メチルイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸などが挙げられる。本発明においては、これらの原料から誘導されるポリアミドホモポリマーまたはコポリマーを2種以上配合してもよい。
【0015】
ポリアミド(A)の具体的な例としては、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリテトラメチレンセバカミド(ナイロン410)、ポリペンタメチレンアジパミド(ナイロン56)、ポリペンタメチレンセバカミド(ナイロン510)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリデカメチレンアジパミド(ナイロン106)、ポリデカメチレンセバカミド(ナイロン1010)、ポリデカメチレンドデカミド(ナイロン1012)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6/66)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリドデカンアミドコポリマー(ナイロン6T/12)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T/6I)、ポリキシリレンアジパミド(ナイロンXD6)、ポリキシリレンセバカミド(ナイロンXD10)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリペンタメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/5T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ-2-メチルペンタメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/M5T)、ポリペンタメチレンテレフタルアミド/ポリデカメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン5T/10T)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン10T)、ポリドデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン12T)、およびこれらの共重合体などが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。ここで、「/」は共重合体を示し、以下同じである。
【0016】
本発明の樹脂組成物において、ポリアミド(A)の融点は150℃以上300℃未満が好ましい。融点が150℃以上であれば、耐熱性を向上させることができる。一方、融点が300℃未満であれば、樹脂組成物製造時の加工温度を適度に抑え、変性シクロデキストリン(B)の熱分解を抑制することができる。
【0017】
ここで、本発明におけるポリアミドの融点は、示差走査型熱量計を用いて、不活性ガス雰囲気下、ポリアミドを、溶融状態から20℃/分の降温速度で30℃まで降温した後、20℃/分の昇温速度で融点+40℃まで昇温した場合に現れる吸熱ピークの温度と定義する。ただし、吸熱ピークが2つ以上検出される場合には、ピーク強度の最も大きい吸熱ピークの温度を融点とする。
【0018】
150℃以上300℃未満に融点を有するポリアミドの具体的な例としては、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリペンタメチレンアジパミド(ナイロン56)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6/66)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリドデカンアミドコポリマー(ナイロン6T/12)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T/6I)、ポリキシリレンアジパミド(ナイロンXD6)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ-2-メチルペンタメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/M5T)、ポリメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)、およびこれらの共重合体などが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。
【0019】
ポリアミド(A)の重合度には特に制限がないが、樹脂濃度0.01g/mlの98%濃硫酸溶液中、25℃で測定した相対粘度が1.5~5.0の範囲であることが好ましい。相対粘度が1.5以上であれば、得られる成形品の靱性、剛性、耐摩耗性、耐疲労特性、耐クリープ性をより向上させることができる。ポリアミド(A)の相対粘度は2.0以上がより好ましい。一方、相対粘度が5.0以下であれば、流動性に優れることから成形加工性に優れる。
【0020】
本発明の樹脂組成物において、ポリアミド(A)は非生分解性が好ましい。ポリアミド(A)が非生分解性であることで、耐久性を向上することができる。
【0021】
本発明の樹脂組成物におけるポリアミド(A)の配合量は、ポリアミド(A)および変性シクロデキストリン(B)の合計100重量部に対して、80重量部以上99.9重量部以下である。ポリアミド(A)の配合量が80重量部未満であると、得られる成形品の剛性、耐熱性が低下する。ポリアミド(A)の配合量は90重量部以上が好ましく、93重量部以上がより好ましい。一方、ポリアミド(A)の配合量が99.9重量部を超えると、変性シクロデキストリン(B)の配合量が相対的に少なくなるため、成形品の靱性が低下する。ポリアミド(A)の配合量は99.5重量部以下が好ましい。
【0022】
本発明の樹脂組成物は、変性シクロデキストリン(B)を配合してなる。
【0023】
変性シクロデキストリンとは、式(a)に示す化合物であり、シクロデキストリンを構成するグルコースに官能基Rを修飾した化合物である。
【0024】
【化1】
【0025】
(nは6~8の整数、Rは水酸基、少なくとも1つ以上のヒドロキシプロポキシ基、メトキシ基、炭素数2以上のアルコキシ基、ポリアルキレングリコール、熱可塑性樹脂、ヒドロキシプロポキシ基を介したポリアルキレングリコール、ヒドロキシプロポキシ基を介した熱可塑性樹脂、アルキルアミンを介した熱可塑性樹脂から選ばれる官能基である。Rは同一であっても、それぞれ異なっていてもよい。但し、全てのRが水酸基の場合を除く。)。
【0026】
変性シクロデキストリンは、シクロデキストリンを変性することで得られる。シクロデキストリンの例としては、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリンが挙げられる。中でも、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリンがより好ましく用いられる。これら好ましいシクロデキストリンを使用することで、得られる成形品の靭性が良好となる。
【0027】
変性シクロデキストリンは、シクロデキストリンを構成する基本骨格であるグルコースの水酸基を化学修飾・変換することで得られる。具体例としては、シクロデキストリンの水酸基をメトキシ基やエトキシ基、プロポキシ基など炭素数2以上のアルコキシ基、ヒドロキシプロポキシ基で変性した変性シクロデキストリン、シクロデキストリンとポリアルキレングリコールまたは熱可塑性樹脂とが結合基を介さずに結合した変性シクロデキストリン、シクロデキストリンとポリアルキレングリコールまたは熱可塑性樹脂とが結合基を介して結合した変性シクロデキストリンなどが挙げられる。より具体的には、ヒドロキシプロポキシ基を介したポリアルキレングリコールを含む変性シクロデキストリン、ヒドロキシプロピキシ基を介した熱可塑性樹脂を含む変性シクロデキストリン、アルキルアミンを介した熱可塑性樹脂を含む変性シクロデキストリンなどが挙げられる。ここで、「ヒドロキシプロポキシ基を介した」とは、一般式(a)における-R基が-O-CH-CHOR’-CHの構造を示し、ヒドロキシプロポキシ基を介したポリアルキレングリコール、ヒドロキシプロピル基を介した熱可塑性樹脂は、前記R’がそれぞれポリアルキレングリコール、または熱可塑性樹脂であることを示す。また、「アルキルアミンを介した」とは、一般式(a)における-R基が-O-CH-CH-CH-NH-R’や-NH-CH-CHNH-R’の構造を示し、アルキルアミンを介した熱可塑性樹脂は前記R’が熱可塑性樹脂であることを示す。熱可塑性樹脂としては脂肪族ポリエステルや脂肪族ポリアミドが挙げられる。
【0028】
脂肪族ポリエステルの例としては、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ3-ヒドロキシブチレート、ポリ4-ヒドロキシブチレート、ポリ(3-ヒドロキシブチレート/3-ヒドロキシバレレート)、ポリ(ε-カプロラクトン)などが挙げられる。これらを2種以上組み合わせてもよい。これらの中でも、得られる成形品の靱性発現の観点から、ヒドロキシプロポキシ基、メトキシ基、またはヒドロキシプロポキシ基とポリ(ε-カプロラクトン)とを両方修飾したものが好ましく、さらに、ヒドロキシプロポキシ基とポリ(ε-カプロラクトン)を両方修飾したシクロデキストリンが特に好ましく用いられる。また、脂肪族ポリアミドの例としては、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)などが挙げられる。これらを2種以上組み合わせてもよい。これらの中でも、ポリアミド(A)との相溶性の観点から、ヒドロキシプロポキシ基、メトキシ基、またはヒドロキシプロポキシ基とポリカプロアミドとを両方修飾したシクロデキストリンが特に好ましく用いられる。
【0029】
ここでシクロデキストリンを変性する熱可塑性樹脂の分子量に特に制限はないが、数平均分子量で100以上100000以下の範囲が例示できる。なかでも、100以上10000以下が好ましく、100以上2000以下がより好ましい範囲として例示できる。熱可塑性樹脂の分子量がこのような好ましい範囲にあることで、変性シクロデキストリン(B)の粘度が下がり、ポリアミド(A)との溶融混錬がし易くなる。
【0030】
また、本発明の変性シクロデキストリン(B)の数平均分子量は特に制限はないが、数平均分子量で950以上100000以下の範囲が例示でき、1000以上50000以下の範囲が好ましく例示できる。変性シクロデキストリン(B)の数平均分子量がこれら好ましい範囲にあることにより、ポリアミド(A)との溶融混錬がし易くなる傾向にある。
【0031】
本発明の樹脂組成物における変性シクロデキストリン(B)の配合量は、ポリアミド(A)および変性シクロデキストリン(B)の合計100重量部に対して、0.1重量部以上20重量部以下である。変性シクロデキストリン(B)の配合量が0.1重量部未満であると、変性シクロデキストリン(B)の応力緩和効果が十分に奏されず、成形品の靭性が低下する。変性シクロデキストリン(B)の配合量は0.5重量部以上が好ましい。一方、変性シクロデキストリン(B)の配合量が20重量部を超えると、相対的にポリアミド(A)の配合量が少なくなるため、得られる成形品の剛性、耐熱性が低下する。変性シクロデキストリン(B)の配合量は、10重量部以下が好ましく、7重量部以下がより好ましい。変性シクロデキストリンの配合量が、これら好ましい範囲にあることにより、剛性と靭性のバランスに優れた樹脂組成物および成形品を得ることができる。
【0032】
本発明の樹脂組成物は、繊維状充填材(C)を配合することができる。繊維状充填材(C)を配合することにより、強度、剛性などの機械特性に加え、寸法安定性に優れた成形品を得ることができる。
【0033】
繊維状充填材(C)は、繊維状の形状を有するいずれの充填材も使用することができる。具体的には、ガラス繊維、ポリアクリロニトリル(PAN)系やピッチ系の炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維、ポリエステル繊維、芳香族ポリアミド繊維などの有機繊維、石膏繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維、ロックウール、チタン酸カリウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカー、ワラステナイト、アルミナシリケートなどの繊維状、ウィスカー状充填材、ニッケル、銅、コバルト、銀、アルミニウム、鉄およびこれらの合金からなる群より選ばれる1種以上の金属で被覆されたガラス繊維、炭素繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリエステル繊維などが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。
【0034】
前記繊維状充填材の中でも、成形品の強度および剛性、表面外観をより向上させる観点から、ガラス繊維、炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維、芳香族ポリアミド繊維が好ましく用いられ、さらに剛性、強度などの成形品の機械特性と樹脂組成物の流動性のバランスに優れる樹脂組成物を得られる点でガラス繊維または炭素繊維が特に好ましく用いられる。
【0035】
また、前記繊維状充填材(C)は、表面にカップリング剤や集束剤等を付着させたものを用いてもよい。カップリング剤や集束剤を付着させることにより、ポリアミド(A)との濡れ性や繊維状充填材(C)の取り扱い性を向上させることができる。カップリング剤としては、例えば、アミノ系、エポキシ系、クロル系、メルカプト系、およびカチオン系のシランカップリング剤等が挙げられ、アミノ系シランカップリング剤が好ましく使用可能である。集束剤としては、例えば、カルボン酸系化合物、無水マレイン酸系化合物、ウレタン系化合物、アクリル系化合物、エポキシ系化合物、フェノール系化合物および/またはこれらの化合物の誘導体を含有する集束剤が挙げられる。
【0036】
本発明における、少なくともポリアミド(A)、変性シクロデキストリン(B)、および繊維状充填材(C)を配合してなる樹脂組成物における繊維状充填材(C)の含有量は、ポリアミド(A)および変性シクロデキストリン(B)の合計100重量部に対し、1~200重量部であることが好ましい。繊維状充填材(C)の含有量が1重量部以上の場合は、成形品の機械特性、寸法安定性を向上させる効果を得ることができる。繊維状充填材(C)の含有量は、10重量部以上がより好ましく、20重量部以上がさらに好ましい。一方、繊維状充填材(C)の含有量が200重量部以下とすることで、成形品表面への繊維状充填材(C)の浮きが発生することなく、表面外観に優れる成形品を得ることができる。繊維状充填材(C)の含有量は、175重量部以下がより好ましく、150重量部以下がさらに好ましい。
【0037】
本発明の樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、さらに繊維状充填材(C)以外の充填材、ポリアミド以外の熱可塑性樹脂、各種添加剤などを配合することができる。
【0038】
繊維状充填材(C)以外の充填材を配合することにより、得られる成形品の強度、剛性をより向上させることができる。繊維状充填材(C)以外の充填材としては、有機充填材、無機充填材のいずれでもよいし、例えば非繊維状充填材が挙げられ、これらを2種以上配合してもよい。
【0039】
非繊維状充填材としては、例えば、タルク、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、マイカ、カオリン、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、アスベスト、アルミナシリケート、珪酸カルシウムなどの非膨潤性珪酸塩、Li型フッ素テニオライト、Na型フッ素テニオライト、Na型四珪素フッ素雲母、Li型四珪素フッ素雲母の膨潤性雲母などの膨潤性層状珪酸塩、酸化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、シリカ、珪藻土、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化スズ、酸化アンチモンなどの金属酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸バリウム、ドロマイト、ハイドロタルサイトなどの金属炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの金属硫酸塩、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、塩基性炭酸マグネシウムなどの金属水酸化物、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイトなどのスメクタイト系粘土鉱物やバーミキュライト、ハロイサイト、カネマイト、ケニヤイト、燐酸ジルコニウム、燐酸チタニウムなどの各種粘土鉱物、ガラスビーズ、ガラスフレーク、セラミックビーズ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、炭化珪素、燐酸カルシウム、カーボンブラック、黒鉛などが挙げられる。上記の膨潤性層状珪酸塩は、層間に存在する交換性陽イオンが有機オニウムイオンで交換されていてもよい。有機オニウムイオンとしては、例えば、アンモニウムイオンやホスホニウムイオン、スルホニウムイオンなどが挙げられる。
【0040】
ポリアミド以外の熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリチオエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、四フッ化ポリエチレン樹脂などが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。また、ここでのポリアミド以外の熱可塑性樹脂の配合量は、本発明のポリアミド(A)100重量部に対し30重量部以下とすることが好ましく例示できる。
【0041】
各種添加剤の具体例としては、銅化合物以外の熱安定剤、イソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物、エポキシ化合物などのカップリング剤、ポリアルキレンオキサイドオリゴマ系化合物、チオエーテル系化合物、エステル系化合物、有機リン系化合物などの可塑剤、有機リン化合物、ポリエーテルエーテルケトンなどの結晶核剤、モンタン酸ワックス類、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミニウム等の金属石鹸、エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物、シリコーン系化合物などの離型剤、次亜リン酸塩などの着色防止剤、滑剤、紫外線防止剤、着色剤、難燃剤、発泡剤などを挙げることができる。
【0042】
銅化合物以外の熱安定剤としては、N,N’-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナミド)、テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンなどのフェノール系化合物、リン系化合物、メルカプトベンゾイミダゾール系化合物、ジチオカルバミン酸系化合物、有機チオ酸系化合物などの硫黄系化合物、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン、4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミンなどのアミン系化合物などが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。
【0043】
これら添加剤を配合する場合、その配合量は、ポリアミドの特徴を十分に活かすため、ポリアミド(A)100重量部に対して10重量部以下が好ましく、1重量部以下がより好ましい。
【0044】
本発明の樹脂組成物は、ポリアミド(A)と変性シクロデキストリン(B)を溶融混練することにより製造する。溶融混練装置としては、例えば、単軸押出機、二軸押出機、四軸押出機などの多軸押出機、二軸単軸複合押出機などの押出機や、ニーダーなどが挙げられる。生産性の点から、連続的に製造可能な押出機が好ましく、混練性、生産性の向上の点から、二軸押出機がより好ましい。
【0045】
以下、二軸押出機を用いて本発明の樹脂組成物を製造する場合を例に説明する。変性シクロデキストリン(B)の熱劣化を抑制し、靱性をより向上させる観点から、最高樹脂温度は、300℃以下が好ましい。一方、最高樹脂温度は、ポリアミド(A)の融点以上が好ましい。ここで、最高樹脂温度とは、押出機の複数ヶ所に均等に設置された樹脂温度計により測定した中で最も高い温度を指す。
【0046】
このようにして得られた樹脂組成物は、通常公知の方法で成形することができ、シート、フィルムなどの各種成形品を得ることができる。成形方法としては、例えば、射出成形、射出圧縮成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形、プレス成形などが挙げられる。
【0047】
本発明の樹脂組成物およびその成形品は、その優れた特性を活かし、自動車部品、電気・電子部品、建築部材、各種容器、日用品、生活雑貨および衛生用品など各種用途に利用することができる。とりわけ、靱性および剛性が要求される自動車外装部品や、自動車電装部品、自動車アンダーフード部品、自動車ギア部品、筐体やコネクタ、リフレクタなどの電気、電子部品用途に特に好ましく用いられる。具体的には、エンジンカバー、エアインテークパイプ、タイミングベルトカバー、インテークマニホールド、フィラーキャップ、スロットルボディ、クーリングファンなどの自動車エンジン周辺部品、クーリングファン、ラジエータータンクのトップおよびベース、シリンダーヘッドカバー、オイルパン、ブレーキ配管、燃料配管用チューブ、廃ガス系統部品などの自動車アンダーフード部品、ギア、アクチュエーター、ベアリングリテーナー、ベアリングケージ、チェーンガイド、チェーンテンショナなどの自動車ギア部品、シフトレバーブラケット、ステアリングロックブラケット、キーシリンダー、ドアインナーハンドル、ドアハンドルカウル、室内ミラーブラケット、エアコンスイッチ、インストルメンタルパネル、コンソールボックス、グローブボックス、ステアリングホイール、トリムなどの自動車内装部品、フロントフェンダー、リアフェンダー、フューエルリッド、ドアパネル、シリンダーヘッドカバー、ドアミラーステイ、テールゲートパネル、ライセンスガーニッシュ、ルーフレール、エンジンマウントブラケット、リアガーニッシュ、リアスポイラー、トランクリッド、ロッカーモール、モール、ランプハウジング、フロントグリル、マッドガード、サイドバンパー、クラッシュボックスなどの自動車外装部品、エアインテークマニホールド、インタークーラーインレット、エキゾーストパイプカバー、インナーブッシュ、ベアリングリテーナー、エンジンマウント、エンジンヘッドカバー、リゾネーター、及びスロットルボディなどの吸排気系部品、チェーンカバー、サーモスタットハウジング、アウトレットパイプ、ラジエータータンク、オイルネーター、及びデリバリーパイプなどのエンジン冷却水系部品、コネクタやワイヤーハーネスコネクタ、モーター部品、ランプソケット、センサー車載スイッチ、コンビネーションスイッチなどの自動車電装部品、SMT対応のコネクタ、ソケット、カードコネクタ、ジャック、電源部品、スイッチ、センサー、コンデンサー座板、リレー、抵抗器、ヒューズホルダー、コイルボビン、ICやLED対応ハウジング、リフレクタなどの電気、電子部品を好適に挙げることができる。
【実施例
【0048】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。各実施例の樹脂組成物を得るため下記原料を用いた。
【0049】
<ポリアミド>
(A-1):ナイロン6樹脂(東レ(株)製“アミラン”(登録商標))、ηr=2.70、融点225℃。
ここで、上記相対粘度ηrは、98%濃硫酸の0.01g/mL溶液、25℃において測定した。また、融点は、示差走査型熱量計を用いて、不活性ガス雰囲気下、ポリアミドを溶融状態から20℃/分の降温速度で30℃まで降温した後、20℃/分の昇温速度で融点+40℃まで昇温した場合に現れる吸熱ピークの温度とした。ただし、吸熱ピークが2つ以上検出される場合には、ピーク強度の最も大きい吸熱ピークの温度を融点とした。
【0050】
<変性シクロデキストリン>
(B-1):ヒドロキシプロピル化α-シクロデキストリン(Sigma-Aldrich社製)に、参考例1に記載の方法でポリカプロラクトンを修飾して作製した。
(B-2):ヒドロキシプロピル化β-シクロデキストリン(Sigma-Aldrich社製)に、参考例2に記載の方法でポリカプロラクトンを修飾して作製した。
(B-3):ヒドロキシプロピル化γ-シクロデキストリン(Sigma-Aldrich社製)に、参考例3に記載の方法でポリカプロラクトンを修飾して作製した。
(B-4):ヒドロキシプロピル化β-シクロデキストリン(HPβCD;Sigma-Aldirch社製)
(B-5):β-シクロデキストリン(純正化学株式会社社製)に、参考例4の方法でポリカプロアミドを修飾して作製した。
(B-6):ヒドロキシプロピル化β-シクロデキストリン(Sigma-Aldrich社製)に、参考例5の方法でポリカプロアミドを修飾して作製した。
【0051】
<繊維状充填材>
(C-1):ガラス繊維(日本電気硝子製 T-251H)
(C-2):ガラス繊維(日本電気硝子製 T-249)。
【0052】
<その他成分>
(B’-1):ポリカプロラクトン(PCL;株式会社ダイセル製プラクセル210N)
数平均分子量1,000の直鎖ポリカプロラクトン
(B’-2):αーシクロデキストリン(純正化学株式会社製)
(B’-3):βーシクロデキストリン(純正化学株式会社製)
(B’-4):ポリロタキサン(アドバンスト・ソフトマテリアル(株)製“セルム”(登録商標)スーパーポリマーSH2400P)。直鎖分子であるポリエチレングリコールの数平均分子量は2万、全体の重量平均分子量は40万である。
【0053】
ここで、ポリロタキサンの重量平均分子量は、ヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒とし、Sodex HFIP-806M(2本)+HFIP-LGをカラムとして用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定した、ポリメチルメタクリレート換算の値である。
【0054】
(参考例1)
ヒドロキシプロピル化α-シクロデキストリン3g、ε-カプロラクトン30.9gを三ツ口フラスコに入れ、フラスコ内に窒素をフローした。110℃のオイルバス中で反応液を1時間撹拌した後、オイルバスを130℃に昇温し、オクチル酸スズ(II)0.18gをトルエン1.5gに溶解した溶液を反応液に滴下した。そのままオイルバス130℃で6時間加熱撹拌した後、加熱を停止し、トルエン45mLを加え反応物を溶解し、ヘキサン600mL中に注ぎ再沈殿した。得られた反応物を回収し、80℃で10時間真空乾燥した。得られた化合物の数平均分子量は2.4万であった。ここで、変性シクロデキストリンの数平均分子量は、ジメチルホルムアミドを溶媒とし、Shodex GPC KF805Lをカラムとして用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定した、ポリメチルメタクリレート換算の値である。
【0055】
(参考例2)
ヒドロキシプロピル化α-シクロデキストリンの代わりにヒドロキシプロピル化β-シクロデキストリンを用い、ε-カプロラクトンを27.5g用いたこと以外は参考例1と同様の操作を行った。得られた化合物の数平均分子量は2.2万であった。
【0056】
(参考例3)
ヒドロキシプロピル化α-シクロデキストリンの代わりにヒドロキシプロピル化γ-シクロデキストリンを用い、ε-カプロラクトンを23.6g用いたこと以外は参考例1と同様の操作を行った。得られた化合物の数平均分子量は1.9万であった。
【0057】
(参考例4)
β-シクロデキストリン4.4gを、40mLのピリジン中に分散させ、氷浴中で冷却を行った。その後、8.8gのパラトルエンスルホニルクロリドを加え、氷浴中で6時間反応を行った。その後、300mLの脱イオン水中に反応液を加えることで固形分を析出させ、ガラスフィルターを用いて固形分の回収を行った。得られた固形分を多量の脱イオン水、及びジエチルエーテルによって洗浄後、真空乾燥させることによってトシル化されたβ-シクロデキストリン(以下、「トシル化β-シクロデキストリン」という)を得た。β-シクロデキストリンのトシル化は、NMRによる構造解析により確認した。
【0058】
上記で得られたトシル化β-シクロデキストリン6.65gをジメチルホルムアミド35mLに溶解し、70℃に加熱した1,2-エチレンジアミン100mL中に滴下ロートを用いて20分かけて滴下した。その後さらに3時間反応させ、反応液をクロロホルム1L中に注ぎ固形物を析出させた。吸引ろ過で固形物を回収し、クロロホルムで洗浄後、真空乾燥させることによってアミノ化されたβ-シクロデキストリン(「アミノ化β-シクロデキストリン」という)を得た。β-シクロデキストリンのアミノ化はNMRによる構造解析により確認した。
【0059】
次に、10.0gのε-カプロラクタムを窒素フロー下、150℃で加熱溶解させ、上述したアミノ化β-シクロデキストリンを0.5gと、0.3gのオクチル酸スズを0.8gのトルエンに溶解させた溶液とを添加した。その後、210℃まで段階的に加熱した後、210℃で1時間反応を行った。得られた反応物を200mLのメタノール中に流し込むことによって固形分を析出させた後、真空乾燥させることにより目的となるポリカプロアミド修飾シクロデキストリンを得た。NMRによる構造解析により、ポリカプロアミド修飾シクロデキストリンが得られたことを確認した。
【0060】
(参考例5)
ヒドロキシプロピル化β-シクロデキストリン3.9gと水酸化ナトリウム3.0gを脱イオン水90mLに溶解させ、氷浴下で撹拌した。アクリロニトリル1.5gを加えて氷浴下5時間反応させた。酢酸で反応液を中和後、吸着樹脂50g(Diaion HP-20 Sigma-Aldrich社製)に吸着させて脱イオン水で洗浄後、メタノール:脱イオン水の1:1(重量比)混合溶媒で抽出した。溶離液をエバポレーターで濃縮乾固させて真空乾燥させることでシアノエチル化β-シクロデキストリンを得た。NMRを用いた構造解析により、シアノエチル化β-シクロデキストリンが得られたことを確認した。
【0061】
上記で得られたシアノエチル化β-シクロデキストリン3.0gを脱イオン水100mLに溶解させ、酸化アルミニウムに担持させたコバルト触媒を1.4g加えた。オートクレーブ中で水素ガス3MPaを封入し、1時間かけて90℃に昇温後、さらに5時間反応させた。反応停止後、セライトろ過で固形物を除き、エバポレーターで濃縮乾固後、真空乾燥させることによってアミノ化β-シクロデキストリンを得た。NMRによる構造解析により、アミノ化β-シクロデキストリンが得られたことを確認した。
【0062】
次に、5.0gのε-カプロラクタムを窒素フロー下、150℃で加熱溶解させ、上記アミノ化β-シクロデキストリンを0.5gと、1.0gのオクチル酸スズを1.5gのトルエンに溶解させた溶液を添加した。その後、210℃まで段階的に加熱した後、210℃で1時間反応を行った。得られた反応物を100mLのメタノール中に流し込むことによって固形分を析出させた後、真空乾燥させることにより目的となるポリカプロアミド修飾シクロデキストリンを得た。NMRによる構造解析により、ポリカプロアミド修飾シクロデキストリンが得られたことを確認した。
【0063】
<評価方法>
各実施例および比較例における評価方法を説明する。評価n数は、特に断らない限り、n=3とし平均値を求めた。
(1)剛性、靭性、吸収エネルギー(引張弾性率、引張破断伸度)
各実施例および比較例により得られたペレットを80℃で12時間真空乾燥し、射出成形機(HAAKE製Minijet)を用いて、シリンダー温度:250℃、金型温度:80℃の条件で射出成形することにより、厚さ2.0mmのISO527-2-5Aダンベルを作製した。この試験片について、ISO527(2012)に準拠して引張試験機オートグラフAG-20kNX(島津製作所製)により、クロスヘッド速度100mm/分で引張試験を行い、引張弾性率および引張破断伸度を測定した。また、繊維状充填材を含むサンプルに関しては、クロスヘッド速度5mm/分で引張試験を行い、引張弾性率および引張破断伸度を測定した。さらに、引張試験における試験開始から破断点までの強伸度積より吸収エネルギー量を算出した。
【0064】
(実施例1~10、比較例1~6)
ポリアミド樹脂と変性シクロデキストリン、その他成分を、表1および2に示す組成となるように配合して、プリブレンドし、シリンダー温度:230℃、スクリュー回転数:200rpmに設定した小型混錬機(HAAKE製MiniLab)へ供給し溶融混錬し、押出されたガットをペレタイズした。得られたペレットを用いて前記方法により評価した結果を表1および2に示す。なお、表中の“CD”はシクロデキストリンを指す。また、実施例1~10は参考例である。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
実施例1~6と比較例1~5の比較から、ポリアミドに変性シクロデキストリンを特定量配合することにより、ポリカプロラクトン単体や変性していないシクロデキストリンと比較して剛性および靭性が優れていることがわかる。また、ポリロタキサンを特定量配合した際は剛性および靭性が良好だが、本発明のポリアミドおよび変性シクロデキストリンからなる樹脂組成物ではさらに靭性が向上し、ポリロタキサンの原料コストが高価であるため、比較的安価な変性シクロデキストリンを使用する方が有利である。
【0068】
さらに、実施例2および実施例7~10と比較例6の比較から、変性シクロデキストリンの添加量は、ポリアミドおよび変性シクロデキストリンの合計100重量部に対し20重量部以下であることにより、剛性と靭性に優れることがわかる。
【0069】
(実施例11、12、比較例7)
ポリアミド、変性シクロデキストリン、およびガラス繊維を表3に示す組成となるように配合して、プリブレンドし、シリンダー温度:240℃、スクリュー回転数:100rpmに設定した小型混錬機(HAAKE製MiniLab)へ供給し溶融混錬した。押出されたガットをペレタイズした。得られたペレットを用いて前記方法により評価した結果を表3に示す。
【0070】
【表3】
【0071】
実施例11、12と比較例7の比較から、ポリアミドに変性シクロデキストリンを特定量配合することにより、ガラス繊維強化系においても弾性率を維持したまま靭性が向上し、エネルギー吸収性に優れることが分かる。