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特許7200722湾曲型連続鋳造装置における鋳型内流動制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】湾曲型連続鋳造装置における鋳型内流動制御方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/115 20060101AFI20221227BHJP
   B22D 11/11 20060101ALI20221227BHJP
   B22D 11/10 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
B22D11/115 B
B22D11/11 D
B22D11/10 330E
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019021263
(22)【出願日】2019-02-08
(65)【公開番号】P2020127953
(43)【公開日】2020-08-27
【審査請求日】2021-10-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 寛
(72)【発明者】
【氏名】池田 圭太
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 悠衣
(72)【発明者】
【氏名】高山 拓也
(72)【発明者】
【氏名】山本 華乃子
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-043763(JP,A)
【文献】特開2004-042063(JP,A)
【文献】特開平10-180427(JP,A)
【文献】特開2009-066619(JP,A)
【文献】特開平06-182510(JP,A)
【文献】特開昭64-053749(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/115
B22D 11/11
B22D 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
湾曲型連続鋳造装置における鋳型内流動制御方法であって、
水平断面内で旋回流を形成する電磁攪拌装置を鋳型内湯面位置に設置し、さらにその下側に幅方向に一様な磁束密度分布を有する直流磁界を鋳型厚み方向に付与する直流磁界発生装置(以下「電磁ブレーキ」ともいう。)を併せて設置し、
鋳型短辺に向けて溶融金属を吐出する吐出孔を有する浸漬ノズルを設け、前記浸漬ノズルの吐出孔下端は前記直流磁界発生装置のコア上端よりも上方に位置し、
注入流量Q(kg/s)、浸漬ノズル吐出孔の浸漬深さL(m)、電磁攪拌装置のコア厚D(m)ならびに推力F(Pa/m)の関係が下記(1)式を満足するとともに、
電磁ブレーキの磁束密度B(T)、ノズル吐出孔平均流速V(m/s)、ノズル吐出孔内径X(m)の関係が下記(2)式を満足することを特徴とする湾曲型連続鋳造装置における鋳型内流動制御方法。ここで、σ:溶鋼の電気伝導度(S/m)、ρ:溶鋼密度(kg/m3)である。
F/(Q×D/L)≧80(Pa・s/kg/m) ・・・・・(1)
(σB2X)/(ρV) ≧ 0.4 (-) ・・・・・(2)
【請求項2】
さらに、電磁攪拌装置の推力F(Pa/m)及び電磁ブレーキの磁束密度Bが下記(3)式、(4)式を満足することを特徴とする請求項1に記載の湾曲型連続鋳造装置における鋳型内流動制御方法。
5000≦F≦15000 (Pa/m) ・・・・・(3)
B ≦ 1.0 (T) ・・・・(4)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湾曲型連続鋳造装置における鋳型内流動制御方法および鋳型内流動制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近のスラブ連続鋳造装置においては、鋳型直下に2ないし3mの垂直部を有する垂直曲げ型連続鋳造装置が多く採用されている。鋳型直下の垂直部で気泡及び非金属介在物を浮上分離させ、鋳片表皮下での気泡と非金属介在物問題を解決するためである(例えば非特許文献1第434頁参照)。鋳型直下の垂直部の下端において、鋳片を曲げて湾曲形状とする。湾曲部から水平部に移行する位置において鋳片を曲げ戻し、水平に引き抜く形式である。
【0003】
垂直曲げ型連続鋳造装置においては、垂直部の下端で鋳片を曲げ変形するため、鋳片の表面には曲げ変形が加えられる。曲げ変形量は、鋳片厚みが厚いほど大きくなる。そのため、割れ感受性の高い鋼種の鋳造を行う場合、あるいは300mm厚みをこえる鋳片の製造を行う場合には、垂直曲げ型ではなく、湾曲型連続鋳造装置が用いられる。湾曲型連続鋳造装置においては、鋳型の部分から湾曲形状であるため、鋳型直下において鋳片が曲げ変形を受けず、垂直曲げに起因するような鋳片表面疵が生成しないからである。
【0004】
連続鋳造用の溶鋼は、取鍋からタンディッシュを経由し、タンディッシュ底部に設けた浸漬ノズルから鋳型内に供給される。浸漬ノズルの底部付近の側面には溶鋼を吐出する吐出孔が設けられ、吐出孔は吐出方向が鋳型長辺面に平行であり、吐出流は鋳型短辺に向けて吐出される。鋳型短辺に衝突した吐出流は、短辺に沿って上昇する上昇流と、下降する下降流を形成する。下降流は未凝固溶鋼の深い位置まで到達するため、下降流とともに運ばれる気泡や非金属介在物も未凝固溶鋼の深い位置まで到達する。特に湾曲型の連続鋳造装置においては、鋳型直下に垂直部を有していないため、未凝固溶鋼の深い位置に到達した気泡や非金属介在物がその後上昇するに際して、上面側の凝固シェルに捕獲され、そのまま鋳片内に留まって鋳片内質欠陥の原因となるため好ましくない。
【0005】
鋳片表面品位を改善するために、鋳型部に電磁攪拌装置を設け、電磁攪拌装置を鋳片長辺背面に対向して設置する方法がよく行われる(例えば特許文献1、2参照)。鋳型内の長辺付近の未凝固溶鋼に互いに逆方向の推進力を付与することで、湯面位置の未凝固溶鋼中に水平断面内で旋回流を付与することができる。
【0006】
鋳片内質向上を図るため、浸漬ノズルの吐出孔から流出する吐出流の流速を低減する目的で、鋳型内に電磁ブレーキ(直流磁界発生装置)を配置する方法が知られている。特に、鋳型内の幅方向全体にわたって磁束密度が均一な電磁ブレーキを厚み方向に付与する方式が一般的であり、その際、電磁制動効果を有効に発揮するため、ノズル吐出流が磁場帯を横切る配置とする必要があることがよく知られている。なお、電磁ブレーキの一態様として、浸漬ノズル吐出孔を上下に挟むように2段の電磁石を配置し、下段の電磁ブレーキでノズル吐出流が短辺に衝突した後の下降流を、上段の電磁ブレーキで湯面位置溶鋼流速を制動する技術が知られている(非特許文献1第463頁参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2006-043763号公報
【文献】特開2016-168603号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】第5版鉄鋼便覧 第1巻 製銑・製鋼 第434、463頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
鋳型内で電磁攪拌装置と電磁ブレーキ(幅方向に一様な磁束密度分布を有する直流磁界を鋳型厚み方向に付与する直流磁界発生装置)を併用しようとする場合、電磁攪拌装置の下方に電磁ブレーキを配置する。浸漬ノズルの吐出孔を設置する位置としては、浸漬ノズルの吐出孔からの吐出流が電磁ブレーキが形成する磁場帯を横切るように、電磁攪拌装置よりも下方の電磁ブレーキ配置位置に吐出孔を配置することが必要となる。その結果、浸漬ノズルの吐出孔配置位置は、湯面位置から深い位置となる。一方、湾曲型連続鋳造装置においては、湯面位置から深くなるに従って鋳片が湾曲するため、浸漬ノズルと長辺凝固シェル間の距離が狭まることとなり、浸漬ノズルの浸漬深さを深くするにも限界がある。
【0010】
前述のように、電磁ブレーキの一態様として、浸漬ノズル吐出孔を上下に挟むように2段の電磁石を配置し、下段の電磁ブレーキでノズル吐出流が短辺に衝突した後の下降流を、上段の電磁ブレーキで湯面位置溶鋼流速を制動する技術が知られている。ところが、浸漬ノズル吐出孔と電磁ブレーキの配置を以上のような態様として連続鋳造を行ったところ、下段の電磁ブレーキでは、ノズル吐出流が短辺に衝突した後の下降流を十分に制動することができず、電磁ブレーキを配置したにもかかわらず、浸漬ノズルからの吐出流に起因する下降流により、鋳片の内質が十分に改善されないことが判明した。そのため、湾曲型連続鋳造装置において表面品位と内部品位の両立は難しいとされてきた。
【0011】
本発明は、湾曲型連続鋳造装置において表面品位と内部品位の両立を実現することのできる、鋳型内流動制御方法および鋳型内流動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
即ち、本発明の要旨とするところは以下のとおりである。
[1]湾曲型連続鋳造装置における鋳型内流動制御方法であって、
水平断面内で旋回流を形成する電磁攪拌装置を鋳型内湯面位置に設置し、さらにその下側に幅方向に一様な磁束密度分布を有する直流磁界を鋳型厚み方向に付与する直流磁界発生装置(以下「電磁ブレーキ」ともいう。)を併せて設置し、
鋳型短辺に向けて溶融金属を吐出する吐出孔を有する浸漬ノズルを設け、前記浸漬ノズルの吐出孔下端は前記直流磁界発生装置のコア上端よりも上方に位置し、
注入流量Q(kg/s)、浸漬ノズル吐出孔の浸漬深さL(m)、電磁攪拌装置のコア厚D(m)ならびに推力F(Pa/m)の関係が下記(1)式を満足するとともに、
電磁ブレーキの磁束密度B(T)、ノズル吐出孔平均流速V(m/s)、ノズル吐出孔内径X(m)の関係が下記(2)式を満足することを特徴とする湾曲型連続鋳造装置における鋳型内流動制御方法。ここで、σ:溶鋼の電気伝導度(S/m)、ρ:溶鋼密度(kg/m3)である。
F/(Q×D/L)≧80(Pa・s/kg/m) ・・・・・(1)
(σB2X)/(ρV) ≧ 0.4 (-) ・・・・・(2)
[2]さらに、電磁攪拌装置の推力F(Pa/m)及び電磁ブレーキの磁束密度Bが下記(3)式、(4)式を満足することを特徴とする請求項1に記載の湾曲型連続鋳造装置における鋳型内流動制御方法。
5000≦F≦15000 (Pa/m) ・・・・・(3)
B ≦ 1.0 (T) ・・・・(4)
【発明の効果】
【0014】
本発明は湾曲型連続鋳造装置において鋳型内湯面位置に電磁攪拌を適用することで良好な表面品質を達成しながら、電磁ブレーキを適用することで内部品質が良好な鋳片を提供することができる。薄板用材料だけでなく厚板、鋼管用スラブ鋳造に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の鋳型内流動制御装置を示す図であり、(A)は平面図、(B)は正面断面図である。
図2】浸漬ノズル吐出流と電磁ブレーキの関係を示す図であり、(A)は正面断面図、(B)はB-B矢視断面図である。
図3】浸漬ノズル吐出流と電磁ブレーキの関係を示す図であり、(A)は正面断面図、(B)はB-B矢視断面図である。
図4】電磁攪拌推力に関する(1)式左辺と、吐出流が鋳型短辺に衝突する部位との関係を示す図であり、(A)は吐出流と鋳型短辺との関係を示す平面図、(B)はグラフである。
図5】電磁ブレーキの位置での下降流位置を示す鋳片断面図であり、(A)は電磁ブレーキのみ、(B)は電磁攪拌と電磁ブレーキを併用した場合を示す。
図6】電磁攪拌推力に関する(1)式左辺と電磁ブレーキのコア中心高さ断面における最大電流密度との関係を示す図である。
図7】電磁攪拌推力に関する(1)式左辺と流量比との関係を示す図である。
図8】電磁ブレーキ制動力に関する(2)式左辺と流量比との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
鋳型の湯面位置に電磁攪拌装置を配置し、その下方に電磁ブレーキ(幅方向に一様な磁束密度分布を有する直流磁界を鋳型厚み方向に付与する直流磁界発生装置)を配置した場合であって、浸漬ノズルの吐出孔を電磁ブレーキの静磁場範囲(コア範囲)に配置しようとすると、前述のように、鋳型内における浸漬ノズルの浸漬深さが非常に深くなる。湾曲型連続鋳造装置においては、長辺凝固シェルが鋳型内において湾曲していることから、浸漬ノズルの浸漬深さが深すぎると、浸漬ノズルと長辺凝固シェル間の距離が狭まることとなり、浸漬ノズルの浸漬深さを深くするにも限界がある。
【0017】
一方、浸漬ノズルの浸漬深さを浅くするため、浸漬ノズル吐出孔位置を電磁ブレーキの配置位置よりも上方に配置して連続鋳造を行ったところ、前述のとおり、ノズル吐出流が短辺に衝突した後の下降流を十分に制動することができず、電磁ブレーキを配置したにもかかわらず、浸漬ノズルからの吐出流に起因する下降流により、鋳片の内質が十分に改善されないことが判明した。
【0018】
そこでまず、浸漬ノズル吐出孔位置を電磁ブレーキの配置位置よりも上方に配置したときに、下降流に対して電磁ブレーキが十分に作動しない原因について検討を行った。
【0019】
電磁ブレーキを用いる通常の連続鋳造においては、図2(A)に示すように、浸漬ノズル4の吐出孔5が電磁ブレーキ7の静磁場範囲8内に配置されているので、吐出孔5から吐出され短辺3へ向かう吐出流11は、その全体が静磁場範囲8内に位置している。吐出流11には、静磁場範囲8内の静磁場21を横切って導電性の溶融金属が移動することによって誘導起電力22が生成され、この誘導起電力22によって誘導電流23が流れるので、吐出流11に制動力が働き、電磁ブレーキが作動することとなる。誘導起電力22によって誘導電流23が流れるためには、電流が閉ループを形成できることが必要である。図2(B)の断面において、吐出流11の周囲に充填されている溶融金属が誘導電流の閉ループ形成場所となるので、誘導電流23が形成され、電磁ブレーキが作動できる。
【0020】
一方、図3(A)に示すように、浸漬ノズル4の吐出孔5位置が電磁ブレーキ7のコア上端9よりも上方に配置されている場合、吐出孔5から吐出した吐出流11は、短辺シェル16に衝突して下降流12を形成し、この下降流12がはじめて、電磁ブレーキ7の静磁場範囲8内に入ることとなる。静磁場範囲8内の下降流12は静磁場21を横切って導電性の溶融金属が移動するので、誘導起電力22が生成する。下降流12は短辺シェル16に沿って下降する。鋳型内の電磁ブレーキ配置位置においてはまだ凝固した短辺シェル16厚が薄い。そのため、下降流中の誘導起電力22によって誘導電流閉ループを形成しようとしても、下降流12に接する短辺シェル16には十分な電流が流れ得ないため、誘導電流23が十分に生成し得ないのではないかと着想した。そこで、この着想に基づき、電磁流体解析を行った。
【0021】
電磁ブレーキ7と浸漬ノズル4の吐出孔5との位置関係が図3(A)に示すような関係にある場合について、電磁流体解析を行ったところ、誘導電流の発生が不十分であることが確認できた。
【0022】
次に、図1に示すように、鋳型1内の湯面位置17に電磁攪拌装置6を配置し、電磁攪拌によって鋳型内の水平断面内で溶融金属の旋回流14を形成させたとき、浸漬ノズル4の吐出孔5からの吐出流11が旋回流14によってどのような影響を受けるかについて検討した。電磁攪拌装置のコア高さ範囲内に浸漬ノズル4の吐出孔5を配置すると、電磁攪拌による旋回流14と浸漬ノズル4からの吐出流11が直接干渉するため、電磁攪拌装置6の下方に浸漬ノズル4の吐出孔5を設置する。その条件でまず電磁流体解析を行い検討した。吐出孔5から短辺3に向かう吐出流11は、図1(A)に模式的に示すように、電磁攪拌装置6により水平断面内で形成される旋回流14の影響により、鋳片の厚み方向に偏向され、短辺3位置における吐出流11の衝突位置が、短辺厚み中央ではなく、ノズル吐出流が対角線上のコーナーに向かって吐出するようになることがわかった。
【0023】
攪拌流と注入流の関係に影響を与える条件について、特許文献1の記載が知られている。同文献によると、電磁攪拌装置の推力F(Pa/m)と浸漬ノズルの浸漬深さL(m)、電磁攪拌コイルのコア厚D(m)(高さ方向)、注入流量Q(kg/s)との関係が、
Z=F/(Q×D/L) (1)’
の値によって影響を受ける。ここで電磁攪拌装置6の推力Fについて具体的には、鋳型内壁面から15mmの位置に真鍮板を設置し、電磁攪拌装置6を駆動させ真鍮板に作用する力を歪みゲージ等を用いて測定した値を意味し、単位はPa/mである。コア厚Dは電磁攪拌コイルのコア厚(高さ方向)であり、浸漬深さLは電磁攪拌装置6のコア上端から吐出孔5の上端までの高さであり、いずれも図1に示した通りである。通常は、電磁攪拌装置6のコア上端を湯面位置17位置と一致させている。注入流量Qの単位はkg/sで表示している。
【0024】
そこで、種々の条件において電磁流体解析を行い、吐出流11が短辺3に衝突する位置について評価した。短辺衝突位置について、短辺3の長辺2側の端部を「0」とし、短辺3の厚み中央部を「0.5」としている。図4(A)に示すように、吐出流が吐出流11Aのように短辺厚み中央に衝突する場合は短辺衝突位置が0.5、吐出流11Bのように衝突する場合は短辺衝突位置が0.2、吐出流11C、吐出流11Dのように衝突する場合はいずれも短辺衝突位置が0となる。次に、上記式(1)’式を横軸とし、吐出流11が短辺3に衝突する短辺衝突位置を縦軸として、結果をプロットした。図4(B)に示すように、横軸の値(F/(Q×D/L))が0のときに吐出流は短辺の厚み中央に衝突し、横軸の値が大きくなるにつれて吐出流は短辺の中央から長辺の側へと移動する。そして、横軸の値が80となると、短辺衝突位置が0であって、吐出流11は短辺3と長辺2が接するコーナー位置に到達していることがわかる。以上より、以下の式(1)を満足することで、注入流量によらず浸漬ノズル4からの吐出流11を長辺側に偏向することができ、主流の衝突位置がコーナーから長辺側にシフトできることを知見した。
F/(Q×D/L)≧80(Pa・s/kg/m) ・・・・・・(1)
【0025】
上記式(1)左辺の分子は攪拌流の慣性力を示す指標である。一方、分母は電磁攪拌コイルのコア下端における吐出流11に起因した流れの程度を示すものである。D/L=1の場合、ノズル吐出孔上端とコア下端が一致する場合であり、D/L≧1の場合が攪拌流と吐出流が直接干渉することになる。逆に、D/Lが小さくなる、すなわち、吐出孔がコア下端から離れるに従い、電磁攪拌コイルのコア下端での吐出流の影響は小さくなる。本発明で好ましくは、吐出孔5の上端が電磁攪拌コイルのコア下端よりも下方に配置されるので、D/L<1となる。(1)式の左辺はノズル吐出流と攪拌流の流動の強さの比を示したものであり、この値が大きいほど攪拌流の影響が大であること、逆に小さければノズル吐出流の影響が大であることを示している。具体的には推力ならびに注入流量に応じて浸漬深さとコア厚の関係を調整し、左辺の数値を80Pa・s/kg/m以上とすることで注入流量によらず浸漬ノズルからの吐出流を長辺側に偏向することができ、主流の衝突位置がコーナーから長辺側にシフトできる(図4(B))。
【0026】
電磁攪拌装置6を設けない場合、吐出流11は短辺3の厚み中央に衝突するため、図5(A)(前述の図3(B)と同じ)に記載のように、下降流12は短辺シェル16に押し付けられ、誘導起電力22が生じても誘導電流の閉ループ形成が困難であり、十分な誘導電流が流れない。それに対して、電磁攪拌装置6を設け、吐出孔5の上方に電磁攪拌による旋回流14を付与した場合、下降流12の位置が、短辺の厚み中央から長辺側に移動して図5(B)に示すようになる。図5(B)の例では、鋳片の厚み方向で、下降流12が長辺シェル18と接する反対側は溶融金属19と接している。その結果として、下降流12中に生成する誘導起電力22による誘導電流23の閉ループが、下降流12の周囲の溶融金属19中に形成し得ることが期待される。
【0027】
そこで、上記式(1)の左辺の値を種々変更したとき、吐出孔の下方に配置した電磁ブレーキ内を通過する下降流12に生成される誘導電流23の挙動と、その結果として下降流が制動される挙動がどのように変化するのかを検討した。
【0028】
上記電磁流体解析に用いた諸元に加え、吐出孔5の下方に電磁ブレーキ7を配置した場合について、同じく電磁流体解析を行った。電磁ブレーキ7の磁束密度Bは0.4Tであり、電磁ブレーキ7のコア厚(高さ方向)は200mmである。一般的に用いられる電磁ブレーキのコア厚みは200~300mmであり、電磁ブレーキのコア厚みが長い方が制動効果が増すことになるが、上記範囲内であれば同等の制動効果が得られるため、本発明においては電磁ブレーキのコア厚は特段限定しない。横軸を図4(B)と同様に上記式(1)左辺とし、縦軸を最大電流密度とした図を図6に示す。最大電流密度とは、電磁ブレーキのコア厚み中心の水平断面内において最大の電流密度を意味している。図6から明らかなように、電磁攪拌を作動させていない、横軸の値(式(1)左辺)がゼロにおいて最大電流密度は極小であり、横軸の値(式(1)左辺)が大きくなるほど、最大電流密度が増大し、式(1)左辺が80でほぼ飽和することがわかった。即ち、前述の想定のとおり、電磁攪拌によって吐出孔5の上方に形成した旋回流14に起因して、吐出孔5からの吐出流11が短辺3の厚み中央から長辺2側に偏向した結果として、吐出孔5の下方に配置した電磁ブレーキ7内を下降流12が通過するに際して、誘導電流23による制動が十分に期待できることがわかった。
【0029】
電磁ブレーキ7の下方に、均一なプラグ流が形成されていることを示す指標として、磁場帯から50mm下方の水平断面で下降流速の最大値13と鋳造速度15との比(以下「流速比」という。)を定義した(図3(A)参照)。流速比が小さく、1に近くなるほど、プラグ流に近い均一流れが形成されていることになる。
【0030】
同じく電磁流体解析の結果に基づいて、横軸を(1)式の左辺とし、縦軸を流速比として、関係を調査した。結果を図7に示すが、電磁攪拌装置の推力Fならびに注入流量Qに応じて浸漬深さLとコア厚Dの関係を調整し、(1)’式の数値を80以上として(1)式とすることで注入流量によらず流速比が1、すなわち、均一な下降流が得られていることがわかった。前述のとおり、流速分布について詳細に解析したところ、(1)式を満足することで、浸漬ノズル4の吐出孔5からの吐出流11を長辺側に偏向することができ、主流の衝突位置がコーナーから長辺側にシフトしていることがわかった。加えて前述のとおり、その際のコア高さ中心断面にみられ最大電流密度も、(1)式左辺の数値の増加とともに増加していることが確認でき、(1)式左辺の値を80以上とすることで約5倍の電流密度が得られることがわかっており、この作用により、電磁ブレーキ内を下降する下降流に電磁ブレーキが十分に作動し、電磁ブレーキ下方において均一な下降流が実現したものと考えられる。
【0031】
次に、本発明を実施する上での、電磁ブレーキの条件について説明する。
【0032】
幅方向に一様な磁束密度分布を有する直流磁界を鋳型厚み方向に付与する直流磁界発生装置(電磁ブレーキ)(「均一電磁ブレーキ」ともいう。)の下方で下降流の断面内分布を一様化するための条件について、電磁流体解析によって検討した。均一電磁ブレーキの磁束密度B(T),ノズル吐出孔平均流速V(m/s)、ノズル吐出孔内径X(m)とし、横軸を下記(2)式左辺((σB2X)/(ρV))、縦軸を前記と同じ流速比として、結果を図8に示した。その結果、以下の(2)式を満足することで下降流の断面内分布が均一化することがわかった。ここで、σ:溶鋼の電気伝導度(S/m)、ρ:溶鋼密度(kg/m3)である。また、(1)式左辺の値が100となる条件を採用して評価を行っている。
(σB2X)/(ρV) ≧ 0.4 (-) ・・・・(2)
以上の結果に基づき、上記(2)式を採用することとした。
なお、前述の図7の評価において、上記(2)式左辺の値が0.7となる条件を採用して評価を行っている。
【0033】
さらに、本発明の好ましい条件について説明する。
【0034】
電磁攪拌装置6は、鋳型1内の湯面位置17に配置する。電磁攪拌装置6が「湯面位置17に配置する」とは、電磁攪拌装置の電磁攪拌コイルのコアの上端と下端との間に、湯面位置17が位置していることを意味する。
電磁攪拌装置6の攪拌推力Fに関しては、攪拌推力Fが5000Pa/m以上になると、攪拌流速が20cm/s以上の流速を付与することができる。そのため好ましくは、推力が5000Pa/m以上の攪拌推力を付与する。なお、攪拌推力の上限値については、電源装置やコイルの冷却装置が膨大となること、銅板や銅板変形のために銅板背面に設置するステンレス板内に誘導される電流によるロスも増大するため、常用としては攪拌推力15000Pa/m以下で用いる。即ち、下記(3)式を好ましい条件とした。
5000≦F(Pa/m)≦15000 ・・・・・・(3)
【0035】
なお、均一電磁ブレーキの磁束密度Bとしては、高いほど好ましいが湾曲型連続鋳造装置において均一電磁ブレーキを適用するに際し、磁極間距離は300mm程度となるため、電磁石を用いる場合、最大1Tが上限とし、下記(4)式を好ましい条件とした。
B ≦ 1.0T ・・・・・・(4)
【0036】
上記本発明の湾曲型連続鋳造装置における鋳型内流動制御方法を実現するための鋳型内流動制御装置は、水平断面内で旋回流を形成する電磁攪拌装置を鋳型内湯面近傍に設置し、さらにその下側に幅方向に一様な磁束密度分布を有する直流磁界を鋳型厚み方向に付与する直流磁界発生装置と併せて設置し、鋳型短辺に向けて溶融金属を吐出する吐出孔を有する浸漬ノズルを設け、前記浸漬ノズルの吐出孔下端は前記直流磁界発生装置のコア上端よりも上方に位置し、電磁攪拌装置の推力F(Pa/m)ならびに直流磁界発生装置の磁束密度Bが上記(3)式(4)式を満足することを特徴とする。
【実施例
【0037】
転炉での精錬と還流式真空脱ガス装置での処理ならびに合金添加により極低炭素鋼を溶製した。この溶鋼を湾曲半径10.5mの湾曲型連続鋳造装置にて厚み360mm、幅1800mmのスラブに鋳造した。鋳型1内に電磁攪拌装置6を設け、コア厚D(m)(高さ方向)や推力F(Pa/m)が異なる幾つかの電磁攪拌コイルを用意し、コア上端が鋳型内湯面位置となるように設置した。幅方向に一様な磁束密度分布を有する直流磁界を鋳型厚み方向に付与する直流磁界発生装置(電磁ブレーキ7)はコア厚(高さ方向)が0.2mであって、コア高さ中心を湯面位置下方0.5m位置にセットした。厚み中心の磁束密度Bは最大0.6Tの磁場が印加できる。
【0038】
鋳造速度は0.8~1.2m/minでノズル内にArガスを3Nl/min流した。浸漬ノズル4の吐出孔5は下向き25°一定として、吐出孔5の浸漬深さL(m)ならびにノズル吐出孔内径Xおよび吐出孔平均流速Vを変化させて鋳造した。ここで、吐出孔内径Xは、吐出孔面積と同じ面積を有する円の直径とし、ノズル吐出孔平均流速については、注入流量Qをノズル左右のノズル吐出孔面積の2倍(ななめ下向きに吐出するためその垂直断面積)で除した値を平均流速Vとした。電磁攪拌装置の推力Fは、鋳型内壁面から15mmの位置に真鍮板を設置し、電磁攪拌装置を駆動させ真鍮板に作用する力を歪みゲージ等を用いて測定した値を意味し、単位はPa/mである。
【0039】
鋳片の気泡・介在物個数については、全幅×鋳造方向長さ200mmのサンプルを鋳片から切り出し、評価を行った。
鋳片表面品質については、上面、下面それぞれ、全幅×長さ200mmの表面内における気泡・介在物を表面から10mm深さまで1mmおきに研削し、100μm以上の気泡・介在物個数を調査した。
鋳片内層については、上面側40mm~80mm(集積帯)について表面と同様に気泡・介在物個数を調査した。
表面、内層ともに、各実施例における欠陥個数を比較例3の欠陥個数で除することにより、表層欠陥個数指数、内層欠陥個数指数とした。
加えて、鋳造条件として、前記(1)式~(3)式で示したパラメータとの関係を調査し、結果を表1にまとめた。なお、電磁ブレーキの磁束密度Bは最大が0.6Tであるため、いずれの条件でも(4)式を満たしていることから、表1には記載していない。本発明から外れる数値に下線を付している。
【0040】
【表1】
【0041】
表1の結果から明らかなように、本発明で述べた装置ならびに方法によって、表層欠陥、内層欠陥のみられない良好な鋳片を製造できることがわかった。
それに対し、比較例1は電磁ブレーキを作動させておらず、電磁ブレーキの磁束密度B=0であって(2)式を満足せず、内層欠陥個数指数が不良である。比較例2は電磁攪拌を作動させておらず推力F=0であって(1)式を満足せず、表面欠陥個数指数、内層欠陥個数指数ともに不良である。比較例3は電磁ブレーキ、電磁攪拌ともに作動させていないため、表面欠陥個数指数、内層欠陥個数指数ともに不良である。
【符号の説明】
【0042】
1 鋳型
2 長辺
3 短辺
4 浸漬ノズル
5 吐出孔
6 電磁攪拌装置
7 電磁ブレーキ
8 静磁場範囲
9 コア上端
11 吐出流
12 下降流
13 下降流速の最大値
14 旋回流
15 鋳造速度
16 短辺シェル
17 湯面位置
18 長辺シェル
19 溶融金属
21 静磁場
22 誘導起電力
23 誘導電流
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8