(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】動力伝達装置、動力伝達装置を備える工作機械の旋回装置及び動力伝達装置の調整方法
(51)【国際特許分類】
F16H 1/04 20060101AFI20221227BHJP
B23B 19/00 20060101ALI20221227BHJP
B23Q 1/70 20060101ALI20221227BHJP
F16H 55/18 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
F16H1/04
B23B19/00
B23Q1/70
F16H55/18
(21)【出願番号】P 2019030615
(22)【出願日】2019-02-22
【審査請求日】2022-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】若杉 直矢
(72)【発明者】
【氏名】安藤 善昭
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-089052(JP,A)
【文献】特開平08-159241(JP,A)
【文献】実開昭59-076357(JP,U)
【文献】特許第4655650(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/04
B23B 19/00
B23Q 1/70
F16H 55/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
第一入出力軸線を備える第一入出力回転軸が連結される第一入出力歯車と、
前記第一入出力軸線から所定距離だけオフセットした中間軸線上に配置され、前記第一入出力歯車と噛合する中間歯車と、
前記ハウジングに回転可能に支持され、前記中間歯車と噛合する、少なくとも一つの歯車を備える歯車群である第二入出力歯車と、
前記第一入出力回転軸を回転可能に支持するとともに、前記第一入出力軸線周りにおいて回転可能となるよう前記ハウジングに支持されるギヤフランジと、
前記中間軸線と同軸に配置され前記中間歯車を回転可能に支持するとともに、径方向への所定の範囲内での移動が可能となるよう前記ギヤフランジに支持される第一回転体支持部材と、
前記第一回転体支持部材の前記径方向への移動により、前記第一入出力歯車と前記中間歯車との間が所定の第一バックラッシュを有する第一噛合状態となるよう調整可能な第一噛合状態調整機構と、
前記ギヤフランジの前記第一入出力軸線周りへの回転により、前記第一入出力歯車との間で前記第一噛合状態に調整された前記中間歯車と前記第二入出力歯車との間が所定の第二バックラッシュを有する第二噛合状態となるよう調整可能な第二噛合状態調整機構と、
を備える、動力伝達装置。
【請求項2】
前記ギヤフランジは、前記ハウジングにインローで嵌合される、請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記第一噛合状態調整機構は、
前記第一回転体支持部材の前記ギヤフランジへの取り付け側の端部に設けられた鍔部に形成される鍔部貫通孔と、
前記鍔部貫通孔を挿通し前記ギヤフランジに螺着する、前記鍔部貫通孔の鍔部孔径より小さな第一ボルト軸径で形成された第一ボルトと、を備え、
前記鍔部貫通孔の前記鍔部孔径と前記第一ボルトの前記第一ボルト軸径との径差分を前記第一回転体支持部材が移動可能な前記径方向への前記所定の範囲の調整代として前記第一噛合状態とするための調整が行なわれる、請求項1又は2に記載の動力伝達装置。
【請求項4】
前記第二噛合状態調整機構は、
前記ギヤフランジに形成されるギヤフランジ鍔部貫通孔と、
前記ギヤフランジ鍔部貫通孔を挿通し前記ギヤフランジに螺着する、前記ギヤフランジ鍔部貫通孔のギヤフランジ孔径より小さな第二ボルト軸径で形成された第二ボルトと、を備え、
前記ギヤフランジ鍔部貫通孔の前記ギヤフランジ孔径と前記第二ボルトの前記第二ボルト軸径との径差分を前記ギヤフランジが回転可能な周方向への調整代として前記第二噛合状態とするための調整が行われる、請求項1-3の何れか1項に記載の動力伝達装置。
【請求項5】
前記第一入出力回転軸が、入力軸であるとともにモータの出力軸であり、
前記ギヤフランジが、前記モータのモータフランジである、
請求項1-4の何れか1項に記載の動力伝達装置。
【請求項6】
前記第二入出力歯車は、一つの歯車により構成され、前記第二入出力歯車に第二入出力回転軸が連結される、請求項1-5の何れか1項に記載の動力伝達装置。
【請求項7】
前記第二入出力歯車は、二つの歯車により構成され、
前記二つの歯車は、
前記第二噛合状態で前記中間歯車と噛合する一方の第二入出力歯車、及び前記一方の第二入出力歯車と所定の第三バックラッシュを有する第三噛合状態で噛合する他方の第二入出力歯車であり、
前記ハウジングは、
前記他方の第二入出力歯車が連結する第二入出力回転軸を第二入出力軸線周りに回転可能に支持するとともに、前記第二入出力回転軸から所定距離だけオフセットした位置に第三入出力軸線が配置され、径方向への所定の範囲内での移動が可能となるよう第二回転体支持部材を支持し、
前記動力伝達装置は、
前記第二噛合状態調整機構が、前記中間歯車と前記第二入出力歯車との噛合状態を前記第二噛合状態に調整する前の状態において、前記一方の第二入出力歯車が支持される前記第二回転体支持部材の前記径方向への移動により、前記一方の第二入出力歯車と前記他方の第二入出力歯車との間が前記所定の第三バックラッシュを有する第三噛合状態となるよう調整可能な第三噛合状態調整機構を備える、請求項1-5の何れか1項に記載の動力伝達装置。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の動力伝達装置を備える工作機械の旋回装置であって、
前記動力伝達装置は、
前記第二入出力歯車の前記第二入出力回転軸が、前記旋回装置が備える減速機の入力軸に連結される、工作機械の旋回装置。
【請求項9】
請求項1-7の何れか1項に記載の動力伝達装置の調整方法であって、
前記第一噛合状態調整機構によって前記中間歯車を前記径方向に移動させ、前記中間歯車と前記第一入出力歯車との噛合状態を前記第一噛合状態に調整する第一工程と、
前記第一工程後に前記第一噛合状態が維持された状態で前記中間歯車が支持される前記第一回転体支持部材を前記ギヤフランジに固定する第二工程と、
前記第二噛合状態調整機構によって前記ギヤフランジを回転させることにより、前記ギヤフランジ上において前記第一噛合状態で噛合する前記第一入出力歯車及び前記中間歯車を前記第一入出力軸線周りに回転させ、前記中間歯車と前記第二入出力歯車との噛合状態を前記第二噛合状態とする第三工程と、を備える、動力伝達装置の調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置、動力伝達装置を備える工作機械の旋回装置及び動力伝達装置の調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば三個以上の歯車(ギヤ)で構成され、減速又は増速を行なう動力伝達装置においては、作動性や良好な性能を得るため各歯車間のバックラッシュの大きさを所定の範囲内とする必要がある。バックラッシュの大きさを所定の範囲内とするためには、様々な方法が考えられる。例えば、三つの歯車軸の位置精度、及び歯車の歯の寸法精度を向上させて対応する方法が考えられる。この場合、三つの歯車を組付けるだけで、所定の範囲内の大きさの各歯車間のバックラッシュを得ることができる。しかしながら、この方法では、必要な歯車軸の位置精度、及び歯車の歯の寸法精度を得るためのコストが非常に高くなるという課題がある。
【0003】
しかし、この課題に対応する技術として、例えば、特許文献1の技術がある。特許文献1の技術では、三個の歯車のうち中央の歯車のみを移動可能とし、当該中央の歯車を移動させることにより各歯車間のバックラッシュを調整するものである。この場合、歯車軸の位置精度、及び歯車の歯の寸法精度は、通常の精度で製作できるため、この点については、低コストに対応できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法では、各歯車間の二個所のバックラッシュのうち、一箇所目のバックラッシュを調整すると、二個所目のバックラッシュが連動して変化してしまう虞がある。つまり、二個所のバックラッシュが成立するよう同時に調整することは非常に難しい。これにより、高精度のバックラッシュは得られるが、調整に時間がかかり高コスト化してしまう虞がある。
【0006】
そこで、本発明は、動力伝達装置が三個以上の歯車で構成されても、低コストで、且つ精度よく各歯車間のバックラッシュが調整可能な動力伝達装置、動力伝達装置を備える工作機械の旋回装置及び動力伝達装置の調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1.動力伝達装置)
本発明に係る動力伝達装置は、ハウジングと、第一入出力軸線を備える第一入出力回転軸が連結される第一入出力歯車と、前記第一入出力軸線から所定距離だけオフセットした中間軸線上に配置され、前記第一入出力歯車と噛合する中間歯車と、前記ハウジングに回転可能に支持され、前記中間歯車と噛合する、少なくとも一つの歯車を備える歯車群である第二入出力歯車とを備える。また、動力伝達装置は、前記第一入出力回転軸を回転可能に支持するとともに、前記第一入出力軸線周りにおいて回転可能となるよう前記ハウジングに支持されるギヤフランジと、前記中間軸線と同軸に配置され前記中間歯車を回転可能に支持するとともに、径方向への所定の範囲内での移動が可能となるよう前記ギヤフランジに支持される第一回転体支持部材と、前記第一回転体支持部材の前記径方向への移動により、前記第一入出力歯車と前記中間歯車との間が所定の第一バックラッシュを有する第一噛合状態となるよう調整可能な第一噛合状態調整機構と、前記ギヤフランジの前記第一入出力軸線周りへの回転により、前記第一入出力歯車との間で前記第一噛合状態に調整された前記中間歯車と前記第二入出力歯車との間が所定の第二バックラッシュを有する第二噛合状態となるよう調整可能な第二噛合状態調整機構と、を備える。
【0008】
このような構成により、動力伝達装置は、第一入出力歯車から第二入出力歯車までの各歯車間のバックラッシュをそれぞれ所定の大きさに調整する際、第一噛合状態調整機構によって、まず、第一入出力歯車と中間歯車との間の第一バックラッシュを調整する。そして、その後、第一バックラッシュの調整とは別に、中間歯車と第二入出力歯車との間の第二バックラッシュを調整する。
【0009】
このため、一つの歯車を移動させながら、両側で噛合する各歯車との各バックラッシを同時に調整する従来技術のように、調整するたび各バックラッシが相互に連動して変化してしまう虞はない。従って、調整が容易であるとともに、短時間で精度のよい第一バックラッシュ及び第二バックラッシュが得られる。短時間で第一バックラッシュ及び第二バックラッシュが得られるため、低コストに提供できる。
【0010】
(2.工作機械の旋回装置)
本発明に係る上記動力伝達装置を備える工作機械の旋回装置は、動力伝達装置の第二入出力歯車の前記第二入出力回転軸が、旋回装置が備える減速機の入力軸に連結される。このように、旋回装置に低コストな動力伝達装置を適用するため、旋回装置の低コスト化が図れる。
【0011】
(3.動力伝達装置の調整方法)
本発明に係る動力伝達装置の調整方法は、第一噛合状態調整機構によって前記中間歯車を前記径方向に移動させ、前記中間歯車と前記第一入出力歯車との噛合状態を前記第一噛合状態に調整する第一工程と、前記第一工程後に前記第一噛合状態が維持された状態で前記中間歯車が支持される前記第一回転体支持部材を前記ギヤフランジに固定する第二工程と、前記第二噛合状態調整機構によって前記ギヤフランジを回転させることにより、前記ギヤフランジ上において前記第一噛合状態で噛合する前記第一入出力歯車及び前記中間歯車を前記第一入出力軸線周りに回転させ、前記中間歯車と前記第二入出力歯車との噛合状態を前記第二噛合状態とする第三工程と、を備える。このような、調整方法により、上述した精度が良く低コストな動力伝達装置が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第一実施形態に係る動力伝達装置の歯車の噛合状態を示す図である。
【
図5A】第一噛合状態調整機構を作動させた際の、中間歯車の径方向への移動の状態を説明する図である。
【
図5B】第二噛合状態調整機構を作動させた際の、中間歯車の周方向への回転の状態を説明する図である。
【
図6】第一入出力歯車と中間歯車、及び中間歯車と第二入出力歯車との間のバックラッシュを示す図である。
【
図7】バックラッシュの調整方法のフローチャートである。
【
図8】第二実施形態に係る動力伝達装置の
図2に対応する断面図である。
【
図9】第二実施形態に係る第一入出力歯車及び第二入出力歯車と、中間歯車との間のバックラッシュを示す図である。
【
図10】動力伝達装置が適用された旋回装置を備える工作機械の全体図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<1.第一実施形態>
(1-1.動力伝達装置1の概要)
まず、動力伝達装置の概要について説明する。本実施形態において、
図1、
図2に示す動力伝達装置1は、複数(少なくとも三つ)の歯車(第一入出力歯車、第二入出力歯車及び中間歯車に相当)の組み合わせによって構成された動力の伝達装置であるとともに変速装置である。複数の歯車のうち、両端に配置される歯車(第一入出力歯車、第二入出力歯車)のうちの一方の歯車には入力軸が一体的に連結される。また、他方に配置される歯車には出力軸が一体的に連結される。そして、動力伝達装置の入力軸には、一例としてモータ等、動力源の出力軸が連結される。
【0014】
これにより、動力伝達装置の入力軸に連結された歯車が入力軸回りに回転されることにより、隣接して噛合する歯車を作動させ、当該作動した歯車を介して回転トルクを出力軸に伝達し出力する。そして、動力伝達装置の出力軸は、例えば、別の変速装置の入力軸や、駆動力を必要とする装置の入力軸等に連結可能である。なお、各歯車については、以降で説明する平歯車に限らず、はす歯歯車であってもよい。
【0015】
動力伝達装置1は、所定の入力軸から所定の出力軸に動力を伝達する装置として、様々な装置に適用できる。例えば、動力伝達装置1は、様々な車両が備えるエンジンのバランサ-装置に適用できる。また、動力伝達装置1は、本実施形態で説明する5軸マシニングセンタ(工作機械)の旋回装置(主軸旋回装置)に適用できる。また、動力伝達装置1は、上述した5軸マシニングセンタの旋回装置に限らず、他の工作機械としての研削盤、旋盤、フライス盤等が備える各部の歯車機構(例えば減速機構又は増速機構)にも適用できる。
【0016】
(1-2.動力伝達装置1の構成)
動力伝達装置1の第一実施形態について説明する。尚、説明に用いる各図は概略図であり、各部の形状は必ずしも厳密なものではない場合がある。
図1,
図2に示すように、動力伝達装置1は、主にハウジング10(
図2参照)と、第一入出力歯車20と、ギヤフランジ30と、第一回転体支持部材40と、中間歯車50と、第一噛合状態調整機構60と、第二入出力歯車70と、第二噛合状態調整機構80と、を備えるユニットである。
【0017】
(1-2-1.ハウジング10)
図2に示すようにハウジング10は、主に底板11と、側壁12とを備える。図示省略するが側壁12は、底板11の外周全周に沿って立設される。ハウジング10は、底板11及び側壁12によって包囲される空間内に、動力伝達装置1を構成する第一入出力歯車20、ギヤフランジ30等を収容する。底板11は、ギヤフランジ30をインローで嵌合するための段付きの段付き貫通孔13と、第一入出力歯車20側において、段付き貫通孔13の径方向外側に形成される段付き面14と、を備える。
【0018】
段付き面14の外縁部には、めねじ15が、周方向に複数(例えば6~8個)、整列して形成される。めねじ15は、後に詳述する第二ボルト16の螺着により、ギヤフランジ30の鍔部32の端面32aを段付き面14に当接させた状態で、ギヤフランジ30をハウジング10に固定する。ただし、
図2においては、めねじ15は一箇所のみの記載となっている。底板11とギヤフランジ30との嵌合については後述する。また、上記態様に限らず、一例としてハウジング10に側壁12がない場合を想定しても良い。
【0019】
本実施形態においては、一例として、第一入出力歯車20は平歯車である。
図1に示すように、第一入出力歯車20の歯先円直径はφD1で形成される。また、第一入出力歯車20には、上述したように軸状の第一入出力回転軸21の一端が一体的に連結される。このとき、第一入出力回転軸21の一端と第一入出力歯車20とはどのような手段によって一体的に連結されても良い。
【0020】
例えば、一方の端部におねじを形成し、他方の端部にめねじを形成して、おねじとめねじと、を螺着させることによって連結しても良い。また、第一入出力回転軸21の一端と第一入出力歯車20とを溶着によって連結してもよい。また、第一入出力回転軸21と第一入出力歯車20とを圧入によって連結してもよい。また、本実施形態のように、第一入出力回転軸21の一端側(先端部、
図2において左側)の外周面に、第一入出力歯車20の歯部を例えば加工によって形成し、第一入出力回転軸21と第一入出力歯車20とを一体としてもよい。
【0021】
このとき、加工としては切削加工、鍛造加工等どのようなものでもよい。その他、鋳造や焼結等、加工以外の方法によって、第一入出力回転軸21と第一入出力歯車20とを一体的に形成してもよい。なお、後に説明する第二入出力歯車70と、第二入出力回転軸71についても同様である。
【0022】
また、第一入出力回転軸21の他端(
図2において右側)には様々な装置等の出力軸又は入力軸が連結可能である。例えば、一例として第一入出力回転軸21の他端には、後に本実施形態で説明するモータMの出力軸が連結可能である。このとき、第一入出力回転軸21とモータMの出力軸とはどのような手段(方法)で連結してもよい。例えば、後述する本実施形態のように、第一入出力回転軸21とモータMの出力軸とを同一の軸部材によって一体的に形成してもよい。これにより、モータMが、制御装置によって回転駆動され、出力軸が回転すると、第一入出力回転軸21を介して第一入出力歯車20がモータMの出力軸と一体的に回転する。
【0023】
(1-2-2.ギヤフランジ30)
図2に示すように、ギヤフランジ30は、外周面31aを備える円柱部31と、円柱部31の第一入出力歯車20側に形成される上述した鍔部32と、を備える。鍔部32は、軸線方向における円柱部31側に端面32aを備える。また、ギヤフランジ30は、円柱部31及び鍔部32の軸線中心周りに貫通孔30aを備える。
【0024】
円柱部31の外周面31aは、ハウジング10の段付き貫通孔13の内周面13aにインローで嵌合される。そして、上述したように鍔部32の端面32aが、対向する段付き貫通孔13の段付き部の面14と当接し、ギヤフランジ30の軸線方向における位置決めがされる。このように、ギヤフランジ30は、ハウジング10の底板11が備える段付き貫通孔13に、第一入出力回転軸21の第一入出力軸線C1周りにおいて回転可能となるようインローで嵌合される。
【0025】
このように、ギヤフランジ30は、ハウジング10にインローで支持されるので、ギヤフランジ30の位置決めが容易に行なえるとともに、ギヤフランジ30の回転時においては安定して第一入出力軸線C1周りで回転できる。
【0026】
ギヤフランジ30の鍔部32の外周縁の所定の位置には、複数の第二ボルト16を挿通させるギヤフランジ鍔部貫通孔32bが、上述しためねじ15と対応するよう、めねじ15と同数だけ形成される。そして、ギヤフランジ鍔部貫通孔32bを挿通した複数の第二ボルト16を、めねじ15に螺着させることにより、ギヤフランジ30がハウジング10に固定される。具体的には、ギヤフランジ30は、ハウジング10と螺着された第二ボルト16の頭部との間に挟持されて固定される。
【0027】
なお、第二ボルト16及びギヤフランジ鍔部貫通孔32bは、後に詳述する第二噛合状態調整機構80を構成する。
図3に示すように、ギヤフランジ鍔部貫通孔32bの孔径(ギヤフランジ孔径)は、ΦDa2で形成され、第二ボルト16の軸径(第二ボルト軸径)はΦda2(<ΦDa2)で形成されるものとする。これにより、ギヤフランジ30は、ハウジング10に対し第二ボルト16による締め付けが解除された状態、即ち、ハウジング10に固定されていない固定解除状態において、ギヤフランジ鍔部貫通孔32bのギヤフランジ孔径ΦDa2と第二ボルト16の第二ボルト軸径Φda2との径差(ΦDa2-Φda2)分だけ、周方向に回転可能となる。このとき、径差(ΦDa2-Φda2)は、後述する各歯車間で設定されるバックラッシュを調整する際の調整代を形成する。
【0028】
また、ギヤフランジ30の貫通孔30aには、第一入出力回転軸21(及び第一入出力歯車20)が、ボールベアリングBr1を介して回転可能に支持される。なお、第一入出力回転軸21が、入力軸であるとともにモータMの出力軸と連結されている場合、ギヤフランジ30は、モータMのモータフランジであってもよい。これにより、モータフランジとは別に、新たにギヤフランジを設ける必要がないため、小型化及びコストの低減が図れる。
【0029】
(1-2-3.第一回転体支持部材40)
第一回転体支持部材40は、中間歯車50を回転可能に支持する部材である。
図1に示すように、第一回転体支持部材40は、ギヤフランジ30に支持される第一入出力回転軸21の第一入出力軸線C1から所定距離L1だけオフセットした位置に軸線(中間軸線C2)が配置され、ギヤフランジ30に後述する径方向への所定の範囲内での移動(
図5A参照)が可能となるよう支持される。中間軸線C2は、中間歯車50の軸線と同じものである。
【0030】
主に、
図2に示すように、第一回転体支持部材40は、ギヤフランジ30の端面30cと端面41aで当接する鍔部41と、鍔部41の中央部から
図2における左方向に突設して形成される円柱状の中間歯車支持部42と、を備える。鍔部41の外縁部には、周方向に複数(例えば6箇所)の段付き孔42aが、鍔部41を貫通して形成される。
図4に示すように段付き孔42aのうち、ギヤフランジ30側に形成される小径の貫通孔(鍔部貫通孔43)には、第一ボルト軸径φda1で形成される第一ボルト44の軸部が挿通される。このとき、鍔部貫通孔43の孔径は、ΦDa1(>Φda1)で形成される。
【0031】
また、鍔部貫通孔43に対応するギヤフランジ30の鍔部32及び円柱部31の所定の位置には、第一ボルト44が螺着するためのめねじ17が、鍔部貫通孔43と同数だけ形成される。そして、鍔部貫通孔43を挿通した複数の第一ボルト44が、めねじ17に螺着されることにより、第一回転体支持部材40がギヤフランジ30に固定される固定状態となる。具体的には、第一回転体支持部材40は、ギヤフランジ30と螺着された第一ボルト44の頭部との間に挟持されて固定される。
【0032】
なお、
図4に示すように、第一ボルト44及び鍔部貫通孔43は、後に詳述する第一噛合状態調整機構60を構成する。詳細については後に述べるが、上述したように、第一回転体支持部材40は、第一ボルト44の締め付けが緩められ、ギヤフランジ30に固定されていない固定解除状態である場合、第一噛合状態調整機構60を用いて、ギヤフランジ30の径方向における所定の範囲内で移動可能である(
図5A参照)。
【0033】
前述したように鍔部貫通孔43の鍔部孔径は、ΦDa1で形成され、第一ボルト44の第一ボルト軸径はΦda1(<ΦDa1)で形成される。これにより、第一回転体支持部材40は、固定解除状態において、鍔部貫通孔43の鍔部孔径ΦDa1と第一ボルト44の第一ボルト軸径Φda1との径差(ΦDa1-Φda1)分だけ、ギヤフランジ30に対して径方向に相対移動可能となる。つまり、径差(ΦDa1-Φda1)は、後述する各歯車間で設定されるバックラッシュを調整する際の調整代(所定の範囲の移動量)を形成する。
【0034】
そして、中間歯車支持部42には、円環状の中間歯車50が第一入出力歯車20と噛合した状態で、内周面がアンギュラボールベアリングであるボールベアリングBr2を介して回転可能に支持される。ただし、このとき、噛合した中間歯車50と第一入出力歯車20との間の、バックラッシュの大きさは成行きである。中間歯車50は、第一回転体支持部材40に回転可能で、且つ中間歯車支持部42の中間軸線C2と同軸に支持される。
【0035】
(1-2-4.中間歯車50)
上述したように第一ボルト44を、第一回転体支持部材40が備える鍔部41の段付き孔42aに挿通し、第一回転体支持部材40とギヤフランジ30とを螺着によって固定し固定状態とする際、第一ボルト44及びドライバ等と干渉しないよう、中間歯車50には、両端面間を貫通する複数の貫通孔51が形成される。
【0036】
(1-2-5.第二入出力歯車70)
図2に示すように、第二入出力歯車70は第二入出力回転軸71周りに回転可能となるようハウジング10の底板11に支持され、中間歯車50と噛合する少なくとも一つの歯車を備える歯車群である。本実施形態では、第二入出力歯車70は一個の歯車で構成される。第二入出力歯車70は、第二入出力回転軸71と一体回転可能に連結される。このとき、第二入出力回転軸71と、第二入出力歯車70とはどのような手段によって連結されてもよい。また、第二入出力歯車70の歯先円直径ΦD2は第一入出力歯車20の歯先円直径ΦD1よりも大きい。そして、第二入出力回転軸71は、ハウジング10に形成された貫通孔18にボールベアリングBr3を介して回転可能に支持される。
【0037】
第二入出力回転軸71の他端(
図2において右側)には様々な装置等の出力軸又は入力軸が連結可能である。例えば、第一入出力回転軸21の他端にモータMの出力軸が連結された場合には、モータMの回転駆動力(回転トルク)は、第一入出力歯車20に入力され、第一入出力歯車20から、中間歯車50を介して、第二入出力歯車70に伝達される。従って、第二入出力回転軸71の他端には、伝達された回転駆動力(回転トルク)が入力される入力軸が連結される。一方、第一入出力回転軸21の他端に所定の装置の入力軸が連結される場合には、第二入出力回転軸71の他端には、所定の装置の出力軸が連結される。
【0038】
上記において、第二入出力回転軸71と出力軸、又は第二入出力回転軸71と入力軸とはどのような手段(方法)で連結してもよい。例えば、第二入出力回転軸71と出力軸又は入力軸とを同一の軸部材によって一体的に形成してもよい。
【0039】
(1-2-6.第一噛合状態調整機構60)
第一噛合状態調整機構60は、上述した様に、主に鍔部貫通孔43と、第一ボルト44と、によって構成される。鍔部貫通孔43は、第一回転体支持部材40の鍔部41に形成される。鍔部貫通孔43は、鍔部孔径ΦDa1で形成される。第一ボルト44は、鍔部貫通孔43を挿通し、ギヤフランジ30に螺着する鍔部貫通孔43の鍔部孔径ΦDa1より小さな第一ボルト軸径Φda1(<ΦDa1)で形成される。
【0040】
そして、鍔部貫通孔43の鍔部孔径ΦDa1と第一ボルト44の第一ボルト軸径Φda1(<ΦDa1)との径差(ΦDa1-Φda1)分を第一回転体支持部材40が移動可能な径方向への所定の範囲の調整代として、第一入出力歯車20と中間歯車50との間が所定の第一バックラッシュα1(
図6参照)を有する第一噛合状態となるよう調整が行なわれる(
図5A参照)。詳細な調整方法については、後に述べる。
【0041】
(1-2-7.第二噛合状態調整機構80)
第二噛合状態調整機構80は、上述した様に、ギヤフランジ鍔部貫通孔32bと、第二ボルト16と、によって構成される。ギヤフランジ鍔部貫通孔32bは、ギヤフランジ30の鍔部32を貫通して形成される。第二ボルト16は、軸部がギヤフランジ鍔部貫通孔32bのギヤフランジ孔径ΦDa2より小さな第二ボルト軸径Φda2(<ΦDa2)で形成される。
【0042】
そして、ギヤフランジ鍔部貫通孔32bのギヤフランジ孔径ΦDa2と第二ボルト16の第二ボルト軸径Φda2<ΦDa2)との径差(ΦDa2-Φda2)分を第一回転体支持部材40が回転する際の、周方向(回転方向)への調整代として、第一入出力歯車20との間で第一噛合状態にある中間歯車50と第二入出力歯車70との間が所定の第二バックラッシュα2(
図6参照)を有する第二噛合状態となるよう調整が行なわれる(
図5B参照)。詳細な調整方法については、後に述べる。
【0043】
(1-3.バックラッシュの調整方法)
次に、第一噛合状態調整機構60及び第二噛合状態調整機構80を用いたバックラッシュの調整方法について説明する。なお、バックラッシュの調整方法における前提として、初めは、第一入出力歯車20及び中間歯車50のみが組み付けられ、第一入出力歯車20及び中間歯車50が成り行きで噛合しているとともに、第二入出力歯車70は組み付けられていない状態であることが好ましい。
【0044】
さらに、第一回転体支持部材40及びギヤフランジ30は、第一ボルト44及び第二ボルト16は挿通されてはいるが、固定がされておらず固定解除状態であることが好ましい。このような状態において、動力伝達装置1の調整方法は、
図7のフローチャートに示すように、第一工程S10と、第二工程S20と、第三工程S30と、第四工程S40とを備える。
【0045】
(1-3-1.第一工程S10)
第一工程S10(第一噛合状態調整部)では、第一噛合状態調整機構60によって第一回転体支持部材40(中間歯車50)を径方向に移動させ、中間歯車50と第一入出力歯車20との噛合状態を第一噛合状態に調整する。詳細には、作業者は、
図5Aに示すように、固定解除状態にある第一回転体支持部材40(中間歯車50)を径方向である、第一入出力歯車20に向かう方向、若しくは第一入出力歯車20から離間する方向に移動させる。本実施形態では、第一入出力歯車20に向かう方向が矢印Aで図示されている。
【0046】
このとき、第一回転体支持部材40(第一入出力歯車20)は、上述した第一噛合状態調整機構60の作用によって、鍔部貫通孔43の鍔部孔径ΦDa1と第一ボルト44の第一ボルト軸径Φda1(<ΦDa1)との径差(ΦDa1-Φda1)分である所定の範囲だけ径方向に移動できる。そして、作業者は、第一回転体支持部材40(及び第一入出力歯車20)を径方向に少しずつ移動させながら、第一入出力歯車20と中間歯車50との間のバックラッシュが所定の第一バックラッシュα1となったか否かを、例えば、ダイヤルゲージによって確認する。その後、第一入出力歯車20と中間歯車50との間が所定の第一バックラッシュα1となった時点で、第一回転体支持部材40(及び中間歯車50)の径方向への移動を停止させる。
【0047】
(1-3-2.第二工程S20)
次に、第二工程S20(第一回転体支持部材固定部)では、第一工程S10後において、第一噛合状態が維持された状態で中間歯車50が支持される第一回転体支持部材40をギヤフランジ30に固定する。具体的には、第一ボルト44を締め込むことにより、第一回転体支持部材40をギヤフランジ30に固定する。
【0048】
このとき、中間歯車50が支持される第一回転体支持部材40は、ギヤフランジ30に支持される。また、第一入出力歯車20も、ギヤフランジ30に支持されている。このように、第一入出力歯車20及び中間歯車50は、同じ部材(ギヤフランジ30)に支持されているため、調整された第一バックラッシュα1は容易に維持される。
【0049】
(1-3-3.第三工程S30)
第三工程(第二噛合状態調整部)では、まず、第二入出力歯車70を組み付ける。そして、
図5Bに示すように、第二噛合状態調整機構80によって、ギヤフランジ30を第一入出力軸線C1を中心に回転させる。これにより、ギヤフランジ30上において第一噛合状態が維持された状態で噛合する第一入出力歯車20及び中間歯車50を第一入出力軸線C1周りに回転させ、中間歯車50と第二入出力歯車70との噛合状態を第二噛合状態とする。
【0050】
詳細には、作業者は、
図5Bに示すように、固定解除状態にあるギヤフランジ30(中間歯車50)を周方向において第二入出力歯車70に接近する方向(矢印E参照)に回転させる。このとき、ギヤフランジ30(中間歯車50)は、上述した第二噛合状態調整機構80の作用によって、ギヤフランジ鍔部貫通孔32bのギヤフランジ孔径ΦDa2と第二ボルト16の第二ボルト軸径Φda2(<ΦDa2)との径差(ΦDa2-Φda2)分である所定の範囲だけ周方向へ回転できる。
【0051】
そして、作業者は、ギヤフランジ30(及び中間歯車50)を周方向に少しずつ回転させながら、中間歯車50と第二入出力歯車70との間のバックラッシュが所定の第二バックラッシュα2となったか否かを、例えば、ダイヤルゲージによって確認する。そして、中間歯車50と第二入出力歯車70との間のバックラッシュが所定の第二バックラッシュα2となった時点で、ギヤフランジ30(中間歯車50)の周方向への移動を停止させる。
【0052】
なお、第三工程S30において、ギヤフランジ30を回転させる際、第二噛合状態調整機構80は、さらに、ギヤフランジ30の孔33に先端部を嵌合させ残部がギヤフランジ30から突設される棒状部材を備えてもよい。そして、棒状部材の残部をハンマ等でたたき、ギヤフランジ30の周方向への力を棒状部材に付与(入力)することで、ギヤフランジ30を第一入出力軸線C1周りに回転させ、中間歯車50と第二入出力歯車70とを第二噛合状態に調整してもよい。また、第三工程S30においては、第二入出力歯車70を後から組み付けたが、これに限らず、第二入出力歯車70は初めから組み付けてあってもよい。第二入出力歯車70が初めから組み付けてあることにより、若干、第一工程S10での調整が困難にはなるが、同様の効果は得られる。
【0053】
(1-3-4.第四工程S40)
次に、第四工程S40(ギヤフランジ固定部)では、第一噛合状態及び第二噛合状態が共に保持された状態のギヤフランジ30をハウジング10に固定する。具体的には、複数の第二ボルト16を締め込むことにより、ギヤフランジ30をハウジング10に固定する。
【0054】
このとき、第一入出力歯車20と中間歯車50との間の噛合状態は第一噛合状態であり、バックラッシュは所定の第一バックラッシュα1に調整されている。また、中間歯車50と第二入出力歯車70との間の噛合状態は第二噛合状態であり、バックラッシュは所定の第二バックラッシュα2に調整されている。また、第一バックラッシュα1及び第二バックラッシュα2はともにダイヤルゲージによって直接作業者が測定しながら調整したものである。このため、その精度は非常に高い。このように、非常に簡易な方法であるため、低コストに製造できるとともに、第一噛合状態及び第二噛合状態では共に第一バックラッシュα1及び第二バックラッシュα2の精度がよい。
【0055】
(1-4.第一実施形態による効果)
上記第一実施形態によれば、動力伝達装置1は、第一回転体支持部材40の径方向への移動により、第一入出力歯車20と中間歯車50との間が所定の第一バックラッシュα1を有する第一噛合状態となるよう調整可能な第一噛合状態調整機構60と、ギヤフランジ30の第一入出力軸線C1周りへの回転により、第一入出力歯車20との間で第一噛合状態にある中間歯車50と第二入出力歯車70との間が所定の第二バックラッシュα2を有する第二噛合状態となるよう調整可能な第二噛合状態調整機構80と、を備える。
【0056】
このような構成により、動力伝達装置1は、第一入出力歯車20から第二入出力歯車70までの各歯車20、50、70間のバックラッシュをそれぞれ所定の大きさに調整する際、第一噛合状態調整機構60を用いて、まず、第一入出力歯車20と中間歯車50との間の第一バックラッシュα1を調整する。その後、第一バックラッシュα1の調整とは別に、中間歯車50と第二入出力歯車70との間の第二バックラッシュα2を調整する。
【0057】
このため、一つの歯車を移動させながら、両側で噛合する各歯車との各バックラッシを同時に調整する従来技術のように、調整するたび各バックラッシが相互に連動して変化してしまう虞はない。従って、調整が容易であるとともに、短時間で精度のよい所定の第一バックラッシュα1及び所定の第二バックラッシュα2が得られる。短時間で第一バックラッシュα1及び第二バックラッシュα2が得られるため、低コストに提供できる。
【0058】
また、第一噛合状態調整機構60は、第一回転体支持部材40のギヤフランジ30への取り付け側の径方向外方の端部に設けられた鍔部41に形成される鍔部貫通孔43と、鍔部貫通孔43を挿通しギヤフランジ30に螺着する、鍔部貫通孔43の鍔部孔径ΦDa1より小さな第一ボルト軸径Φda1で形成された第一ボルト44と、を備える。そして、鍔部貫通孔43の鍔部孔径ΦDa1と第一ボルト44の第一ボルト軸径Φda1との径差(ΦDa1-Φda1)分を第一回転体支持部材40(中間歯車50)が移動可能な径方向への所定の範囲の調整代として第一噛合状態とするための調整が行なわれる。
【0059】
このように、第一回転体支持部材40(中間歯車50)の径方向への移動可能範囲が第一ボルト44の軸径及び鍔部貫通孔43の孔径によって設定できるので、低コストに対応できる。また、第一回転体支持部材40の径方向への移動は、径差(ΦDa1-Φda1)の範囲内でしか移動できないので、第一回転体支持部材40が移動しすぎ、第一入出力歯車20と中間歯車50とが衝突することを良好に抑制できる。
【0060】
また、上記第一実施形態では、第二噛合状態調整機構80は、ギヤフランジ30に形成されるギヤフランジ鍔部貫通孔32bと、ギヤフランジ鍔部貫通孔32bを挿通しギヤフランジ30に螺着する、ギヤフランジ鍔部貫通孔32bのギヤフランジ孔径ΦDa2より小さな第二ボルト軸径Φda2で形成された第二ボルト16と、を備える。そして、ギヤフランジ鍔部貫通孔32bのギヤフランジ孔径ΦDa2と第二ボルト16の第二ボルト軸径Φda2との径差(ΦDa2-Φda2)分をギヤフランジ30が回転可能な周方向への調整代として、第一入出力歯車20との間で第一噛合状態にある中間歯車50と第二入出力歯車70との間が所定の第二バックラッシュα2を有する第二噛合状態となるよう調整が行われる。
【0061】
このように、中間歯車50と第二入出力歯車70との間を第二噛合状態に調整する際、ギヤフランジ30の周方向への回転可能範囲が第二ボルト16の軸径Φda2及びギヤフランジ鍔部貫通孔32bのギヤフランジ孔径ΦDa2によって設定できるので、低コストに対応できる。また、ギヤフランジ30は、周方向に、径差(ΦDa2-Φda2)の範囲内でしか回転できないので、ギヤフランジ30が回転しすぎ、中間歯車50と第二入出力歯車70とが衝突することを良好に抑制できる。また、上記第一実施形態では、第二入出力歯車は、一つの歯車(第二入出力歯車70)により構成され、第二入出力歯車70に第二入出力回転軸71が連結される。これにより、動力伝達装置1を簡素な構成で製作できる
【0062】
<2.第二実施形態>
上記第一実施形態では、第二入出力歯車は、一つで構成される態様としたが、これには限らない。
図8に示すように、第二実施形態の動力伝達装置1Aとして、歯車群である第二入出力歯車は、二つの歯車70A、70Bにより構成されてもよい。なお、第二実施形態の動力伝達装置1Aは、第一実施形態の動力伝達装置1と第二入出力歯車のみ異なる。よって、異なる部分のみ詳細に説明し、その他の同様部分の説明については省略する。また、同様の構成については、同じ符号を付して説明する場合がある。
【0063】
上記において、動力伝達装置1Aが備える第二入出力歯車の二つの歯車は、第二噛合状態で中間歯車と噛合する一方の第二入出力歯車70A、及び一方の第二入出力歯車70Aと所定の第三バックラッシュα3(
図9参照)を有する第三噛合状態で噛合する他方の第二入出力歯車70Bである。
【0064】
ハウジング10Aは、他方の第二入出力歯車70Bが連結する第二入出力回転軸71を第二入出力軸線C3周りにボールベアリングBr4を介して回転可能に支持する。また、ハウジング10Aは、第二入出力回転軸71から所定距離L2だけオフセットした位置に第三入出力軸線C4が配置され、径方向への所定の範囲内での移動が可能となるよう第二回転体支持部材40Aを支持する。
【0065】
第二回転体支持部材40Aは、上記第一実施形態の第一回転体支持部材40と同様の構造でハウジング10Aに支持されればよい。そして、一方の第二入出力歯車70AがボールベアリングBr5を介して第二回転体支持部材40Aに、回転可能に支持される。これによって、第二回転体支持部材40A(及び一方の70A)が、固定解除状態において径方向に所定の範囲だけ移動可能となる。
【0066】
また、動力伝達装置1Aは、一方の第二入出力歯車70Aが支持される第二回転体支持部材40Aの径方向への移動により、一方の第二入出力歯車70Aと他方の第二入出力歯車70Bとの間の噛合状態が所定の第三バックラッシュα3を有する第三噛合状態となるよう調整可能な第三噛合状態調整機構90を備える。
【0067】
このような構成において、中間歯車50と一方の第二入出力歯車70Aとの噛合状態を第二噛合状態に調整する前に、第三噛合状態調整機構90によって、一方の第二入出力歯車70Aと他方の第二入出力歯車70Bとの間の噛合状態を第三噛合状態に調整する。そして、その後、第二噛合状態調整機構80が、中間歯車50と一方の第二入出力歯車70Aとの噛合状態を第二噛合状態に調整する。これにより、第一実施形態と同様、全ての歯車間におけるバックラッシュは、所望の第一バックラッシュα1-第三バックラッシュα3で調整できるので、第一実施形態と同様の効果が得られる。なお、上記態様に限らず、第二入出力歯車の歯車群は、二個を超えて歯車が設けられても良い。
【0068】
(2-1.第二実施形態の変形例1)
なお、上記第二実施形態では、二つの第二入出力歯車70A及び70Bが、何れもハウジング10Aに支持される態様であった。しかし、この態様に限らず、変形例1として、二つの第二入出力歯車70A及び70Bが共に、第一実施形態における第一入出力歯車20及び中間歯車50と同様に、ハウジング10Aに回転可能に支持されるギヤフランジ(図示しない)に支持される態様であってもよい。つまり、第二入出力歯車(第二入出力歯車70A及び70B)は、ギヤフランジを介してハウジング10Aに支持されてもよい。なお、このとき、ギヤフランジは、第一実施形態におけるギヤフランジ30と同様の構造を有するものとする。
【0069】
上記の場合、一方の第二入出力歯車70Aと他方の第二入出力歯車70Bとの間の噛合状態を第三噛合状態調整機構90を用いて第三噛合状態に調整したのち、ギヤフランジ30及び変形例1のギヤフランジをいずれも回転させて、中間歯車50と一方の第二入出力歯車70Aとの間の噛合状態を第二噛合状態に調整してもよい。これにより、中間歯車50と一方の第二入出力歯車70Aとの間のバックラッシュの大きさをさらに精度よく調整できる。
【0070】
(3.動力伝達装置1を備える工作機械の旋回装置)
次に、第一実施形態で説明した動力伝達装置1を適用する装置の一例として工作機械の旋回装置について説明する。
図10に示すように、工作機械100は、五軸マシニングセンタであり、主にベッド110、コラム120、サドル130、旋回装置200、スライドテーブル140及びターンテーブル150を備える。ベッド110は、ほぼ矩形状であり、床上に配置される。ベッド110上には、コラム120が起立して設けられる。
【0071】
コラム120の側面には、サドル130がX軸方向に移動可能に設けられる。サドル130の側面には、主軸装置300が取り付けられる旋回装置200が鉛直方向に一致するY軸方向に移動可能に設けられている。又、ベッド110の上には、スライドテーブル140がZ軸方向に移動可能に設けられる。スライドテーブル140の上には、ターンテーブル150がY軸回り(B軸)に回転可能に設けられる。ターンテーブル150には、図略の工作物が冶具を介して固定されるようになっている。
【0072】
図11に示すように、旋回装置200は、旋回部を構成する旋回軸部210(
図12参照)及び旋回本体部220と、固定本体部230と、減速機構部240と、を備える。減速機構部240は、第一実施形態に係る動力伝達装置1を内部に備える。旋回装置200は、固定本体部230に対して旋回軸部210を旋回本体部220と共に回転させる。これにより、旋回装置200は、主軸装置300の姿勢(回転軸Rの向き)を水平方向(0度)から垂直方向(180度)を経て所定角度θ(例えば、210度)までの間で変化させ主軸装置300の旋回割出しを行う(図略)。尚、旋回本体部220(旋回軸部210)の回転角度は、例えば、図示を省略するエンコーダヘッド及びエンコーダスケールを有するロータリエンコーダ等の検出器を用いて検出される。
【0073】
図12に示す旋回軸部210は、中空円筒状であり、旋回軸線DがZ軸に対して略45度傾斜するように、上端側が固定本体部230の内部に配置される。旋回軸部210の上端は、
図12に示すように、駆動源としてのモータMが発生した回転駆動力が減速機構部240(動力伝達装置1を含む)を介して伝達されるリングギヤ210aが設けられており、回転駆動可能に支持される。
【0074】
旋回本体部220は、旋回軸部210の下端に相対回転不能に固定されており、旋回軸線Dの回りに回転可能に設けられる。旋回本体部220には、
図11に示すように、主軸装置300が主軸310の回転軸Rを旋回軸部210の旋回軸線Dに対して45度傾斜させた状態で旋回軸線Dの回りに旋回可能となるように設けられる。ここで、主軸310の先端側には回転工具320が着脱可能に取り付けられ、主軸310の後端側には主軸310の回転用モータ(図示省略)が連結される。
【0075】
固定本体部230は、サドル130の側面に対して、Y軸方向に移動可能に設けられている。固定本体部230の内部には、
図11、
図12に示すように、旋回軸部210及び旋回本体部220を旋回軸線Dの回りに回転させるための回転駆動力を発生する駆動源としてのモータMが収容されている。モータMの出力軸は、減速機構部240の一部を構成する動力伝達装置1の第一入出力歯車20の第一入出力回転軸21と連結される。第一入出力歯車20は
図11に示すように、固定本体部230の側面から突出して設けられており、ハウジング10の内部に収容される。
【0076】
減速機構部240は、回転軸部241、及び中間伝達部としての動力伝達装置1を備える。動力伝達装置1は、前述したように第一入出力歯車20の第一入出力回転軸21が、モータMの出力軸と一体的に連結される。また、第二入出力歯車70の第二入出力回転軸71が、旋回装置200が備える回転軸部241の入力軸に一体的に連結される。このとき、回転軸部241はウォームギヤやローラギヤカム機構(特開2017-89663号公報参照)等の回転軸部である。
【0077】
回転軸部241は、
図12に示すように、旋回軸部210のリングギヤ210aに対して、所謂、食い違い軸となるように配置されている。回転軸部241は、第二入出力歯車70の回転速度を減速して回転駆動力を旋回軸部210のリングギヤ210aに伝達する。
【0078】
第一実施形態で説明したように、第二入出力歯車70は、モータMの出力軸に連結された第一入出力歯車20に中間歯車50を介して噛合している。第二入出力歯車70は、第一入出力歯車20よりも大径とされており、モータM(第一入出力歯車20)の回転速度を、第二入出力回転軸71を介して減速し回転駆動力を、連結された回転軸部241に伝達する。第二入出力回転軸71は、回転軸部241に対して同軸となるように回転軸部241の入力軸と一体的に連結される。
【0079】
(3-1.工作機械100の作動)
次に、工作機械100の工作物に対する加工動作について説明する。尚、本実施形態においては、主軸装置300の姿勢(回転軸Rの向き)が水平方向(0度)にあるときに工作物の一側面に孔を穿設する加工動作について説明する。
【0080】
工作機械100の制御装置は、ターンテーブル150を回転させて工作物の加工側面を回転工具320側に位置決めし、主軸310の回転用モータを駆動して回転工具320を回転させる。そして、制御装置は、駆動源としてのモータMを駆動させて旋回軸部210及び旋回本体部220を回転させて主軸装置300を旋回させ、回転工具320の回転位相を0度に割り出す。続いて、制御装置は、サドル130、旋回装置200及びスライドテーブル140をX,Y,Z軸方向にそれぞれ移動させて工作物の一側面に孔を穿設する加工を開始する。
【0081】
この場合、旋回装置200が主軸装置300の姿勢(回転軸Rの向き)を回転移動させる際には、モータMが発生する回転駆動力は減速機構部240を介して旋回軸部210に伝達される。即ち、減速機構部240においては、動力伝達装置1の第二入出力歯車70が第一入出力歯車20の回転速度を、中間歯車50を介して減速する(第一段減速)。第二入出力歯車70は第二入出力回転軸71を介して回転軸部241の入力軸に同軸に連結されている。これにより、回転軸部241は第二入出力歯車70と同じ回転速度で回転している。
【0082】
回転軸部241は、旋回軸部210のリングギヤ210aと噛み合っている。従って、回転軸部241の回転速度は減速されてリングギヤ210aに伝達される(第二段減速)。このように、モータM(第一入出力歯車20)の回転速度が動力伝達装置1による第一段減速及び回転軸部241による第二段減速を経て減速されて旋回軸部210のリングギヤ210aに伝達される。これにより、減速機構部240は、減速に反比例する回転駆動力(トルク)を旋回軸部210に伝達させることができる。このように、低コストな動力伝達装置1を旋回装置200に適用することで工作機械100も低コストで製作できる。
【0083】
なお、上記旋回装置200には、第一実施形態の動力伝達装置1を適用するものとして説明した。しかし、旋回装置200には、第二実施形態の動力伝達装置1A、若しくは動力伝達装置1Aの変形例1に係る動力伝達装置を適用してもよい。これによっても、第一実施形態の動力伝達装置1と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0084】
1,1A;動力伝達装置、 10.10A;ハウジング、 16;第二ボルト、 20;第一入出力歯車、 21;第一入出力回転軸、 30;ギヤフランジ、 32b;ギヤフランジ鍔部貫通孔、 40;第一回転体支持部材、 40A;第二回転体支持部材、 42;中間歯車支持部、 43;鍔部貫通孔、 44;第一ボルト、 50;中間歯車、 60;第一噛合状態調整機構、 70;第二入出力歯車、 70A;一方の第二入出力歯車、 70B;他方の第二入出力歯車、 71;第二入出力回転軸、 80;第二噛合状態調整機構、 90;第三噛合状態調整機構、 100;工作機械、 200;旋回装置、 M;モータ、 S10;第一工程、 S20;第二工程、 S30;第三工程、 S40;第四工程、 α1;第一バックラッシュ、 α2;第二バックラッシュ、 α3;第三バックラッシュ、 ΦDa1;鍔部孔径、 Φda1;第一ボルト軸径、 ΦDa2;ギヤフランジ孔径、 Φda2;第二ボルト軸径。