(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】エアーシール部材、及び、エアーシール方法
(51)【国際特許分類】
F16J 15/40 20060101AFI20221227BHJP
【FI】
F16J15/40 Z
(21)【出願番号】P 2019097442
(22)【出願日】2019-05-24
【審査請求日】2021-12-03
(31)【優先権主張番号】P 2018105664
(32)【優先日】2018-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年11月28日~30日、東京ビッグサイトでの展示会「国際粉体工業展 東京2018」において、エアーシール部材、及び、エアーシール方法に関するシール性能の評価試験を公開 平成30年11月28日~30日、東京ビッグサイトでの展示会「国際粉体工業展 東京2018」において、エアーシール部材、及び、エアーシール方法に関するシール性能の評価試験についてパンフレットを配布
(73)【特許権者】
【識別番号】000107619
【氏名又は名称】スターライト工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100177264
【氏名又は名称】柳野 嘉秀
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100166958
【氏名又は名称】堀 喜代造
(72)【発明者】
【氏名】絹川 智哉
(72)【発明者】
【氏名】林 悠帆
【審査官】宮下 浩次
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-132088(JP,A)
【文献】特開2009-085340(JP,A)
【文献】特開2002-333068(JP,A)
【文献】実開昭54-118560(JP,U)
【文献】特開2011-036789(JP,A)
【文献】特開2007-239933(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一面と第二面とを備える本体部を有し、
前記第一面には、気体が注入される給気孔が開口され、
前記第二面には、前記本体部の内部で前記給気孔と連通し、前記給気孔から注入された気体が噴出される排気孔が開口され、
被シール部材の被シール面と前記第二面との間に形成される隙間に、前記排気孔から気体が噴出されることにより、前記隙間をシールするエアーシール部材であって、
前記給気孔から前記排気孔にかかる流路には、前記気体の流路断面積を小さくする絞り部が形成され、
前記給気孔、前記絞り部、及び、前記排気孔は、中心が同一軸線上に配置されるように形成され、
前記給気孔、前記絞り部、及び、前記排気孔が前記被シール面に沿った方向のうち一方向に向かって傾斜することにより気体が前記一方向に噴出される、エアーシール用部材。
【請求項2】
気体の流路方向において、前記排気孔の長さは前記絞り部の長さよりも短く形成される、請求項1に記載のエアーシール用部材。
【請求項3】
対応する前記排気孔及び前記給気孔が複数組形成され、
少なくとも二個の前記給気孔が連通される、請求項1又は請求項2に記載のエアーシール用部材。
【請求項4】
前記被シール部材は軸部材であり、
前記本体部が前記軸部材の半径方向外側を囲む筒状に形成され、
前記一方向は前記軸部材の軸方向の何れか一方である、請求項1から請求項3の何れか1項に記載のエアーシール用部材。
【請求項5】
前記隙間が0.2mm以上1.0mm以下に形成される、請求項1から請求項4の何れか1項に記載のエアーシール用部材。
【請求項6】
第一面と第二面とを備える本体部を有し、前記第一面には、気体が注入される給気孔が開口され、前記第二面には、前記本体部の内部で前記給気孔と連通し、前記給気孔から注入された気体が噴出される排気孔が開口されたエアーシール部材で、被シール部材の被シール面と前記第二面との間に形成される隙間に、前記排気孔から気体を噴出することにより、前記隙間をシールするエアーシール方法であって、
前記給気孔から前記排気孔にかかる流路には、前記気体の流路断面積を小さくする絞り部が形成され、
前記給気孔、前記絞り部、及び、前記排気孔は、中心が同一軸線上に配置されるように形成され、
前記給気孔、前記絞り部、及び、前記排気孔を前記被シール面に沿った方向のうち一方向に向かって傾斜させることにより気体を前記一方向に噴出させる、エアーシール方法。
【請求項7】
前記隙間を0.2mm以上1.0mm以下とする、請求項6に記載のエアーシール方法。
【請求項8】
前記気体は空気である、請求項6又は請求項7に記載のエアーシール方法。
【請求項9】
前記排気孔を通る前記気体の流速が40m/秒以上である、請求項6から請求項8の何れか1項に記載のエアーシール方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアーシール部材、及び、エアーシール方法に関し、具体的には気体を用いて被シール部材の被シール面をシールする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、粉砕機や撹拌機において、粉体が回転軸の周囲から軸受部分に進入することを防止するために、回転軸をシールするシール部材が用いられている。このようなシール部材として、回転軸に接触させて使用するオイルシールが知られている(例えば、特許文献1を参照)。また、回転軸に接触させずに空気などの気体を用いるエアーシールが知られている(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-62463号公報
【文献】特開2012-189211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1に記載の技術の如く、被シール部材である回転軸とシール部材とが接触する構成によれば、シール部材の摩耗によって摩耗粉が発生するため、摩耗粉による回転軸の焼付きや、粉砕機内部への摩耗粉の混入などの問題が生じていた。
【0005】
また、前記特許文献2に記載の技術によれば、軸方向の両側に加圧空気を排出する構成であるため、シールを必要とする方向と逆の方向への気流が生じていた。このため、エアーシールに用いる気体の一部しかシール機能を発揮しておらず、シール性能の向上が求められていた。
【0006】
本発明は以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、被シール部材に対して非接触でシールすることにより摩耗粉の発生を防止するとともに、シール方向と逆の方向への気流を抑制することにより気体によるシール性能を向上させることが可能となる、エアーシール部材、及び、エアーシール方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前述の課題解決のために、以下のエアーシール部材を構成した。
【0008】
(1)第一面と第二面とを備える本体部を有し、前記第一面には、気体が注入される給気孔が開口され、前記第二面には、前記本体部の内部で前記給気孔と連通し、前記給気孔から注入された気体が噴出される排気孔が開口され、被シール部材の被シール面と前記第二面との間に形成される隙間に、前記排気孔から気体が噴出されることにより、前記隙間をシールするエアーシール部材であって、前記給気孔から前記排気孔にかかる流路には、前記気体の流路断面積を小さくする絞り部が形成され、前記給気孔、前記絞り部、及び、前記排気孔は、中心が同一軸線上に配置されるように形成され、前記給気孔、前記絞り部、及び、前記排気孔が前記被シール面に沿った方向のうち一方向に向かって傾斜することにより気体が前記一方向に噴出される、エアーシール用部材。
【0009】
(2)気体の流路方向において、前記排気孔の長さは前記絞り部の長さよりも短く形成される、(1)に記載のエアーシール用部材。
【0010】
(3)対応する前記排気孔及び前記給気孔が複数組形成され、少なくとも二個の前記給気孔が連通される、(1)又は(2)に記載のエアーシール用部材。
【0011】
(4)前記被シール部材は軸部材であり、前記本体部が前記軸部材の半径方向外側を囲む筒状に形成され、前記一方向は前記軸部材の軸方向の何れか一方である、(1)から(3)の何れか1に記載のエアーシール用部材。
【0012】
(5)前記隙間が0.2mm以上1.0mm以下に形成される、(1)から(4)の何れか1に記載のエアーシール用部材。
【0013】
また、本発明は、前述の課題解決のために、以下のエアーシール方法を構成した。
【0014】
(6)第一面と第二面とを備える本体部を有し、前記第一面には、気体が注入される給気孔が開口され、前記第二面には、前記本体部の内部で前記給気孔と連通し、前記給気孔から注入された気体が噴出される排気孔が開口されたエアーシール部材で、被シール部材の被シール面と前記第二面との間に形成される隙間に、前記排気孔から気体を噴出することにより、前記隙間をシールするエアーシール方法であって、前記給気孔から前記排気孔にかかる流路には、前記気体の流路断面積を小さくする絞り部が形成され、前記給気孔、前記絞り部、及び、前記排気孔は、中心が同一軸線上に配置されるように形成され、前記給気孔、前記絞り部、及び、前記排気孔を前記被シール面に沿った方向のうち一方向に向かって傾斜させることにより気体を前記一方向に噴出させる、エアーシール方法。
【0015】
(7)前記隙間を0.2mm以上1.0mm以下とする、(6)に記載のエアーシール方法。
【0016】
(8)前記気体は空気である、(6)又は(7)に記載のエアーシール方法。
【0017】
(9)前記排気孔を通る前記気体の流速が40m/秒以上である、(6)から(8)の何れか1に記載のエアーシール方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るエアーシール部材、及び、エアーシール方法によれば、被シール部材に対して非接触でシールすることにより摩耗粉の発生を防止するとともに、シール方向と逆の方向への気流を抑制することにより気体によるシール性能を向上させることを可能とする、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本実施形態に係るエアーシール部材を示した斜視図。
【
図2】(a)はエアーシール部材を示した断面図、(b)は
図2(a)における排気孔部分の拡大図。
【
図10】シール性能評価試験の方法を示した断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
まず、
図1及び
図2を用いて、本発明に係るエアーシール部材1の概略構成を説明する。
図1及び
図2に示す如く、本実施形態に係るエアーシール部材1は短円筒状に構成された樹脂製の部材である。エアーシール部材1として、アルミニウムやステンレスの金属等、他の素材を用いることも可能であるが、錆防止、焼き付き防止という観点より樹脂が最も好適である。
【0021】
エアーシール部材1の素材として採用される樹脂としては、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリイミド(PI)、ポリアセタール(POM)、ポリアミド(PA)及びフェノール樹脂、ポリプロプレン、ポリエチレン等が適用可能であるが、切削における加工精度が優れている点でPPSが最も好適である。
【0022】
図1及び
図2に示す如く、エアーシール部材1は円筒形状の本体部2を備える。本体部2は、第一面である外周面2aと第二面である内周面2bとを備えている。本体部2の軸方向両端部には、外径方向に突出するフランジ部3・3が形成されている。
【0023】
エアーシール部材1には外周面2aと内周面2bとを連通する流路10・10・・・が、周方向に八個並んで形成されている。具体的に、外周面2aには外部に設けられる給気装置から気体が注入される給気孔11が開口されている。また、内周面2bには本体部2の内部で給気孔11と連通し、給気孔11から注入された気体が噴出される排気孔12が開口されている。
【0024】
外周面2aにおいて、フランジ部3・3の間は給気孔11・11・・・を連通する連通路4として構成されている。この連通路4により、例えば給気装置が一つしかなく、気体の給気先が一つしかない場合であっても、給気孔11及び排気孔12を複数設ける事ができる。これにより隙間Cを流れる空気をムラなく均一に分布させることができ、均一なシール効果が得られる。また、給気孔11・11・・・に気体を供給する際の供給経路を共通化することが可能となる。なお、連通路4を本体部2の内部に形成することも可能である。また、連通路4は少なくとも二個の給気孔11を連通する構成であれば良い。
【0025】
本実施形態に係るエアーシール部材1において、給気孔11から排気孔12にかかる流路10には、気体の流路断面積を小さくする絞り部13が形成されている。即ち、
図2(b)に示す如く、流路10は給気孔11、絞り部13、及び、排気孔12とで構成されており、排気孔12は給気孔11よりも細く(流路断面積が小さく)なるように形成されている。
【0026】
エアーシール部材1の内側には、本実施形態における被シール部材である軸部材Aが挿通される。本実施形態においては、軸部材Aの外側面Paが被シール面として用いられる。本実施形態においては
図2(b)に示す如く、軸部材Aの外側面Paと、エアーシール部材1の内周面2bとの間に隙間Cが形成される。エアーシール部材1においては、この隙間Cに、排気孔12から気体が噴出されることにより、隙間Cをシールするのである。
【0027】
本実施形態に係るエアーシール部材1においては
図2に示す如く、排気孔12が軸部材Aの外側面Paに沿った方向のうち一方向(本実施形態においては軸部材Aの軸方向のうち一方向)であるシール方向に向かって(内周面2bに近接するに従ってシール方向に向かうように)傾斜して設けられている。これにより、排気孔12から気体がシール方向に噴出される(
図5を参照)。
【0028】
次に、
図3から
図6を用いて、エアーシール部材1におけるシール方法について本願出願人が行ったCAE(computer aided engineering)解析について説明する。本明細書において記載する解析は、Livermore Software Technology Corporation(米国企業)製のCAEソフトウェアである、「LS‐DYNA(登録商標)」を用いて流体解析を行った。
【0029】
本解析に際し、本願出願人は
図3及び
図4に示す如く、エアーシール部材1によって形成される気体の流路を半径方向に八分割した解析モデルMeを作成した。詳細には、解析モデルMeは、エアーシール部材1に形成される流路10、及び、エアーシール部材1と軸部材Aとの間の隙間Cをモデル化したものである。
【0030】
解析モデルMeにおいては、エアーシール部材1の流路10をモデル化した流路モデル10mを構成した。
図4に示す如く、流路モデル10mは、それぞれ給気孔11、絞り部13、及び排気孔12に対応する給気孔モデル11m、絞り部モデル13m、及び排気孔モデル12mで構成されている。
【0031】
解析モデルMeはエアーシール部材1及び軸部材Aを八分割したものであるため、
図3に示す対称境界面P1~P5は、隣接する他の部分との境界面として、境界面に平行な流速をもつ滑り壁境界条件を適用した。また、
図3に示す流出口E1~E4は開放境界面とした。本実施形態においては特に、シール方向である流出口E1・E2が形成されている側を第一流出口、反対方向である流出口E3・E4が形成されている側を第二流出口とした。他の面はエアーシール部材1又は軸部材Aの表面として、境界面の流速が0になる固体壁境界条件を適用した。
【0032】
本解析の解析モデルMeにおいて、軸部材Aの半径(
図3中に示すφ/2)は42mmとした。また、エアーシール部材1の内径は85mmとした。即ち、エアーシール部材1の内周面2bと軸部材Aの外側面Paとの隙間Cを0.5mmとして設定した。エアーシール部材1の軸方向長さLは42mmとした。
【0033】
気体は質量密度1.18415kg/m
3、粘性係数1.85508×10
-5Pa・秒の空気を用いた。この条件の空気を、流入口E0から
図4中の矢印Aiに示す如く0.625L/分で流入させて、流出口E1~E4から
図4中の矢印Aoに示す如く流出する際の流れを解析した。排気孔モデル12mは、流通する気体の流速が50m/秒となるように直径を0.5mmに設定した。
【0034】
図5は軸部材Aの外側面Paにおいて、排気孔モデル12mから排出された気体が排出部Asに当たった後で流れる経路である流線Afを表示したものである。
図5及び
図6に示す如く、本解析における解析モデルMeによれば、流線Afは矢印Rに示すように排出部Asの周囲を渦巻き状に回転した後に、第一流出口E1・E2の側であるシール方向にのみ形成された。
【0035】
次に、
図7から
図9を用いて、エアーシール部材1におけるシール方法と比較するために本願出願人が行ったCAE解析について説明する。本解析に際し、本願出願人は
図7に示す如く、比較例に係るエアーシール部材によって形成される気体の流路を半径方向に八分割した比較モデルMcを作成した。詳細には、比較モデルMcは、比較例に係るエアーシール部材に形成される流路、及び、エアーシール部材と軸部材Aとの間の隙間Cを再現したものである。
【0036】
比較モデルMcは解析モデルMeと同様にエアーシール部材及び軸部材Aを八分割したものであり、対称境界面P11・P13j・P15、流出口E11・E12・E13・E14等の境界条件、及び、その他の解析条件は解析モデルMeと同様に構成した。
【0037】
比較モデルMcにおいては、エアーシール部材の流路を再現した流路モデル110mを構成した。
図7に示す如く、流路モデル110mは、一定の径の流路により形成されている。
【0038】
図8及び
図9は軸部材Aの外側面Paにおいて、流路モデル110mから排出された気体が排出部Asに当たった後で流れる経路である流線Afを表示したものである。
図8及び
図9に示す如く、本解析における比較モデルMcによれば、流線Afは第一流出口E11・E12の側であるシール方向と、第二流出口E13・E14の側である反対方向とに形成された。なお、
図9において排出部Asの周囲を取り囲むように表示される流線Afは隙間Cにおいて形成されているものではなく、
図8に示す如く流路モデル110mに入る前の気体の流れ(エアーシール部材の外側における気体の流れ)を示すものである。
【0039】
上記の如く、比較モデルMcにおいて気体は第一流出口E11・E12と第二流出口E13・E14との両方に流れたのに対し、本実施形態に係るエアーシール部材1をモデル化した解析モデルMeにおいては第一流出口E1・E2の側であるシール方向にのみ気体を流すことができた。これは、本実施形態においては絞り部13で流路断面積を小さくしたことにより気体の流速が高くなったことに起因する。すなわち、流路断面積を小さくする事で50m/秒という高い流速で気体が排気される。排気孔12は被シール面である外側面Paに沿った方向に向かって傾斜されるため、シール方向に向かう気流が発生する。高い流速でシール方向の気流が発生すると、シール方向に対する反対方向の気流は低圧となり、シール方向の気流に巻き込まれてシール方向に吸い上げられる。これにより、反対方向の気流発生が抑制されるのである。
【0040】
即ち、エアーシール部材1においては、排気孔12をシール方向に向かって傾斜して設けるとともに、流路10の流路断面積を小さくする絞り部13を形成している。これにより、排気孔12から排出される気体の流速を高めることが可能となるため、気体をシール方向に噴出することができる。このため、解析モデルMeにおいては、シール方向にのみ気体を流すことができたのである。このように、排気孔12から排出される気体の流速を高めるという観点から、排気孔12の直径は流通する気体の流速が40m/秒以上となるように設定することが好ましい。
【0041】
また、排気孔12を流通する気体の流速をある程度維持するという観点からは、外側面Paと内周面2bとの間の隙間Cを0.2mm以上に設定することが好ましい。さらに、エアーシール部材1によるシール性を高めるという観点からは、隙間Cを1.0mm以下に設定することが好ましい。なお、絞り部13は流路10の流路断面積を小さくするものであって、必ずしも本実施形態の如く被シール面に対して傾斜している必要はなく、例えば排気孔12の孔設方向に対して直角であっても良い。
【0042】
このように、本実施形態に係るエアーシール部材1、及び、エアーシール部材1を用いたエアーシール方法によれば、シール方向と逆の方向への気流を抑制することができる。具体的には排気孔12からの高い流速の気体がある程度速度を維持したまま隙間Cへと流れ込むことで、排気孔12周辺の静圧が下がり、第二流出口E13・E14から気体が入り込む。結果として、
図5及び
図6に示す如く、気体の流線Afは渦巻き状の回転を伴い気体をシール方向のみに流すことが可能となるのである。即ち、エアーシールに用いる気体と第二流出口E13・E14から入り込んだ気体とでシール機能を発揮することができるため、エアーシール部材1におけるシール性能を向上させることが可能となる。
【0043】
また、本実施形態に係るエアーシール部材1によれば、気体を用いてシールするため、軸部材Aと接触することがない。このため、エアーシール部材1が摩耗することがなく、摩耗粉による軸部材Aの焼付きや、粉砕機内部への摩耗粉の混入などの問題が生じることがない。このように、エアーシール部材1においては、軸部材Aに対して非接触でシールすることにより摩耗粉の発生を防止するとともに、気体によるシール性能を向上させることが可能となるのである。
【0044】
なお、本実施形態においては、エアーシール部材1を円筒形状としているが、エアーシール部材1の形状は本実施形態に限定されず、角筒状、円柱状、直方体等、給気孔11、絞り部13、及び、排気孔12からなる流路10を形成できる形状であれば採用することが可能である。
【0045】
また、本実施形態において、流路10はエアーシール部材1を円筒状に形成した後に加工して形成する構成としているが、他の構成で流路10を構成することもできる。例えば、エアーシール部材1を溝が形成された複数の部材に分割して構成し、これらの部材を組付けた際に溝を流路10として形成することも可能である。
【0046】
また、本実施形態において用いられる気体は、加圧空気、加圧窒素ガス、炭酸ガス等、流体で高い圧力を出せるものであれば採用することが可能である。特に、動粘性が適切であり、コストで優れ、工場付帯設備のコンプレッサーを流用できるという理由で加圧空気を採用することが好ましい。
【0047】
また、排気孔12の傾斜角度(内周面2bとなす角度)は0~90度未満で設定することが可能である。排気孔12の傾斜は軸方向に対して平行に近いほど(0に近いほど)、気体をシール方向に噴出することが可能となる。
【0048】
また、エアーシール部材1では、気体の流路方向において、排気孔12の長さを絞り部13の長さよりも短く形成することが好ましい。これにより、気体の流速が早くなる箇所を短くして、粘性抵抗によるエネルギーの損失を低減させることができる。
【0049】
また、本実施形態において、エアーシール部材1によるシール対称である被シール部材は軸部材Aである。即ち、本体部2が軸部材Aの半径方向外側を囲む筒状に形成され、軸部材Aの軸方向の何れか一方がシール方向として構成される。具体的には、流路10がエアーシール部材1の周方向に並んで形成され、排気孔12が軸部材Aの軸方向に傾斜して形成されている。これにより、エアーシール部材1を軸部材Aのシール部材として使用することができる。
【0050】
本実施形態に係るエアーシール部材1においては、グリス等の潤滑油を使用することがないため、食品・医薬品向けの製造装置等に適用することが可能となる。特に、エアーシール部材1は上記の如く軸部材Aに適用できるため、粉砕機や攪拌機の回転軸等のシール部材として好適である。
【0051】
次に、
図10を用いて、本実施形態に係るエアーシール部材1について行ったシール性能の評価試験について説明する。
図10に示す如く、本試験においては、エアーシール部材1の内側に円柱状の軸部材A(ステンレス鋼製)を挿通し、エアーシール部材1の上側に粉体ケース21及び蓋部材22を配置する。また、軸部材A及びエアーシール部材1の下方には粉体受け部材23を配置する。
【0052】
そして、粉体ケース21の内部にシール対象物である粉体Ptを入れ、矢印Fの如くエアーシール部材1の流路10に気体を注入した状態で軸部材Aを矢印Raの如く回転させて、粉体Ptをシールできるか(粉体受け部23の内部への粉体Ptの落下を防止できるか)否かを評価した。
【0053】
なお、本試験において、粉体Ptは平均粒径0.25mmのグラニュー糖を使用した。また、軸部材Aの外周面とエアーシール部材1の内周面との間隙は0.3mmとした。また、流路10への気体の給気圧力を0.02MPa、流量を10L/minとした。また、軸部材Aは図示しないモータ等の回転駆動機構により、100rpmで回転させて試験を行った。
【0054】
本試験においては、23.5度の温度条件の下で24時間経過しても、粉体受け部材23の内部に粉体Ptは落下していなかった。即ち、本試験条件において、エアーシール部材1によれば24時間経過後もシール漏れが無いことを確認することができた。
【符号の説明】
【0055】
1 エアーシール部材 2 本体部
2a 外周面(第一面) 2b 内周面(第二面)
3 フランジ部 4 連通路
10 流路 10m 流路モデル
11 給気孔 11m 給気孔モデル
12 排気孔 12m 排気孔モデル
13 絞り部 13m 絞り部モデル
21 粉体ケース 22 蓋部材
23 粉体受け部材 Pt 粉体
110m 流路モデル A 軸部材
Af 流線 Ai 矢印
Ao 矢印 As 排出部
C 隙間 E0 流入口
E1 第一流出口 E2 第一流出口
E3 第二流出口 E4 第二流出口
E11 第一流出口 E12 第一流出口
E13 第二流出口 E14 第二流出口
Me 解析モデル Mc 比較モデル
L 部材長さ Pa 外側面
P 対称境界面 R 矢印
F エアー流入方向 Ra 回転方向