IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社豊田自動織機の特許一覧

<>
  • 特許-ポット精紡機 図1
  • 特許-ポット精紡機 図2
  • 特許-ポット精紡機 図3
  • 特許-ポット精紡機 図4
  • 特許-ポット精紡機 図5
  • 特許-ポット精紡機 図6
  • 特許-ポット精紡機 図7
  • 特許-ポット精紡機 図8
  • 特許-ポット精紡機 図9
  • 特許-ポット精紡機 図10
  • 特許-ポット精紡機 図11
  • 特許-ポット精紡機 図12
  • 特許-ポット精紡機 図13
  • 特許-ポット精紡機 図14
  • 特許-ポット精紡機 図15
  • 特許-ポット精紡機 図16
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】ポット精紡機
(51)【国際特許分類】
   D01H 1/08 20060101AFI20221227BHJP
   D01H 7/74 20060101ALI20221227BHJP
   D01H 7/82 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
D01H1/08
D01H7/74
D01H7/82
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019111118
(22)【出願日】2019-06-14
(65)【公開番号】P2020204100
(43)【公開日】2020-12-24
【審査請求日】2021-09-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100195006
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 勇蔵
(74)【代理人】
【識別番号】100212657
【弁理士】
【氏名又は名称】塚原 一久
(72)【発明者】
【氏名】冨永 直路
【審査官】住永 知毅
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-256434(JP,A)
【文献】特表2005-520940(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01H1/00-17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を有するポットの内壁に当接可能な先端部と、前記先端部を支持する基端部と、を有する細長部材と、
前記先端部の高さ方向の位置を前記ポットの内壁に巻付けられた糸の糸端位置に調節する昇降駆動部と、
前記細長部材を傾動方向に交差する方向から挟持し、傾動する前記細長部材を案内する案内部材と、
前記先端部を前記傾動方向に対して弾性的に支持する弾性支持部材と、
前記細長部材を傾動させ、前記細長部材の前記先端部を前記ポットの内壁に当接させる傾動駆動部と
を備えるポット精紡機。
【請求項2】
前記弾性支持部材は、前記基端部を前記案内部材に対して弾性的に支持することで、前記先端部を前記傾動方向に対して弾性的に支持する請求項1に記載のポット精紡機。
【請求項3】
前記弾性支持部材は、前記細長部材に当接する当接部材と、前記当接部材を前記細長部材に付勢する弾性体とを有する請求項2に記載のポット精紡機。
【請求項4】
前記弾性支持部材は前記先端部を前記基端部に対して弾性的に支持することで、前記先端部を前記傾動方向に対して弾性的に支持する請求項1に記載のポット精紡機。
【請求項5】
前記案内部材は、前記細長部材を傾動方向に交差する方向から挟持する弾性体を有する請求項1~4のいずれか一項に記載のポット精紡機。
【請求項6】
前記傾動駆動部は、複数の前記ポットの前記細長部材を同時に傾動させる請求項1~5のいずれか一項に記載のポット精紡機。
【請求項7】
前記細長部材は磁性体により構成され、
前記案内部材は、前記細長部材との間の引力により前記細長部材の落下を防止する磁石部を有する請求項1~6のいずれか一項に記載のポット精紡機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポット精紡機に関し、特に、糸切れ時に糸の巻き返しを行う構成を有するポット精紡機に関する。
【背景技術】
【0002】
精紡機の1つとして、円筒形のポットを用いるポット精紡機が知られている。特許文献1に記載のポット紡績機では、導糸管の外側に、導糸管と同軸に円筒形のボビンを配置している。そして、導糸管から紡出される糸に撚りを加えながら、ポットの内壁に糸を巻き付けてケークを形成した後、ボビンへの糸の巻き返しを開始する構成になっている。
【0003】
紡出中に何らかの原因で糸切れが発生した場合、糸通し部材の切刃をポットの内壁に形成されたケークに当てることでケークより糸を持ち上げて、再度ボビンへの糸の巻き返しを開始する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-256434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のポット紡績機では、糸切れ時に糸の巻き返しを行うために糸通し部材全体を上昇させてポットの内部に挿入しているため、装置が全体的に大型化するという問題点を有していた。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、糸切れ時に糸の巻き返しを行う構成をより小型化したポット精紡機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るポット精紡機は、開口部を有するポットの内壁に当接可能な先端部と、前記先端部を支持する基端部とを有する細長部材と、先端部の高さ方向の位置をポットの内壁に巻付けられた糸の糸端位置に調節する昇降駆動部と、細長部材を傾動方向に交差する方向から挟持し、傾動する細長部材を案内する案内部材と、先端部を傾動方向に対して弾性的に支持する弾性支持部材と、細長部材を傾動させ、細長部材の先端部をポットの内壁に当接させる傾動駆動部とを備える。
【0008】
また、弾性支持部材は、基端部を案内部材に対して弾性的に支持することで、先端部を傾動方向に対して弾性的に支持してもよい。
また、弾性支持部材は、細長部材に当接する当接部材と、前記当接部材を細長部材に付勢する弾性体とを有してもよい。
また、弾性支持部材は先端部を基端部に対して弾性的に支持することで、先端部を傾動方向に対して弾性的に支持してもよい。
また、案内部材は、細長部材を傾動方向に交差する方向から挟持する弾性体を有してもよい。
また、傾動駆動部は、複数のポットの細長部材を同時に傾動させてもよい。
また、細長部材は磁性体により構成され、案内部材は、細長部材との間の引力により細長部材の落下を防止する磁石部を有してもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、開口部を有するポットの内壁に当接可能な先端部と、前記先端部を支持する基端部とを有する細長部材と、先端部の高さ方向の位置をポットの内壁に巻付けられた糸の糸端位置に調節する昇降駆動部と、細長部材を傾動方向に交差する方向から挟持し、傾動する細長部材を案内する案内部材と、先端部を傾動方向に対して弾性的に支持する弾性支持部材と、細長部材を傾動させ、細長部材の先端部をポットの内壁に当接させる傾動駆動部とを備えるため、糸切れ時に糸の巻き返しを行う構成をより小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施の形態1に係るポット精紡機の上部の構成例を示す概略図である。
図2】本発明の実施の形態1に係るポット精紡機の下部の構成例を示す概略図である。
図3】本発明の実施の形態1に係るフィラーホルダの斜視図である。
図4図3に示すフィラーホルダの平面図である。
図5図3に示すフィラーホルダの断面図である。
図6】本発明の実施の形態1に係るポット精紡機の駆動制御系の構成例を示すブロック図である。
図7】本発明の実施の形態1に係るポット精紡機の基本的な動作の流れを示す図である。
図8図1に示す導糸管の動作を説明する図である。
図9】ケーク形成ステップにおける図1に示す導糸管の動作を説明する図である。
図10】本発明の実施の形態1に係る巻き返しの第1の状態を説明する断面図である。
図11】本発明の実施の形態1に係る巻き返しの第2の状態を説明する断面図である。
図12】本発明の実施の形態1に係る巻き返しの第3の状態を説明する断面図である。
図13】本発明の実施の形態1に係る巻き返しの第4の状態を説明する断面図である。
図14】本発明の実施の形態1に係る巻き返しの第5の状態を説明する断面図である。
図15】従来のポット精紡機の巻き返しの状態を説明する断面図である。
図16】本発明の実施の形態2に係る巻き返しの状態を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態1について図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
まず、本発明の実施の形態1に係るポット精紡機について説明する。
図1は、本発明の実施の形態1に係るポット精紡機のポットより上部の構成例を示す概略図である。
図1に示すように、ポット精紡機1は、ドラフト装置10と、導糸管11と、ポット12と、ボビン支持部13と、を備えている。なお、これらの構成要素は、精紡の一単位となる1つの紡錘を構成するものである。ポット精紡機1は、複数の紡錘を備えるものであるが、図1ではそのうちの1つの紡錘の構成について説明する。
【0013】
(ドラフト装置)
ポット20の上方にはドラフト装置が設けられている。ドラフト装置10は、粗糸などの糸材料を所定の細さに引き伸ばす装置である。ドラフト装置10は、バックローラ対15、ミドルローラ対16およびフロントローラ対17からなる複数のローラ対を用いて構成されている。複数のローラ対は、糸材料の搬送方向の上流側から下流側に向かって、バックローラ対15、ミドルローラ対16およびフロントローラ対17の順に配置されている。
【0014】
各々のローラ対15,16,17は、後述するドラフト駆動部の駆動に従って回転するものである。各々のローラ対15,16,17の単位時間あたりの回転数(rpm)を比較すると、ミドルローラ対16の回転数はバックローラ対15の回転数よりも高く、フロントローラ対17の回転数はミドルローラ対16の回転数よりも高い。このように各々のローラ対15,16,17の回転数は互いに異なり、この回転数の違い、すなわち回転速度差を利用して、ドラフト装置10は糸材料を細く引き伸ばす。以降の説明では、ローラ対の回転数を回転速度ともいう。ローラ対の回転数と回転速度とは互いに比例関係にある。
【0015】
(導糸管)
導糸管11は、ドラフト装置10で所定の細さに引き伸ばされた糸18をポット12内に導くものである。導糸管11は、細長い管状に形成されている。導糸管11を長さ方向と直交する方向に断面したときの形状は円形になっている。
【0016】
導糸管11は、ドラフト装置10の下流側に、ポット12と同軸に配置されている。導糸管11の下部は、ポット12内に挿入されている。導糸管11は、フロントローラ対17から糸供給管14を通して供給される糸18をポット12内に導く。ドラフト装置10で引き伸ばされた糸18は、たとえば、空気の旋回流を利用して糸供給管14に引き込まれた後、糸供給管14を通して導糸管11に導入される。導糸管11に導入された糸18は、導糸管11の下端部11aから紡出される。導糸管11は、後述する導糸管駆動部によって上下方向に移動可能に設けられている。
【0017】
フロントローラ対17と糸供給管14との間には糸センサ19が配置されている。なお、糸センサはフロントローラ対17と糸供給管14との間以外の任意の位置に配置してもよい。糸センサ19は、ドラフト装置10によって引き伸ばされる糸の状態を検出するセンサである。本実施の形態1においては、糸センサ19が検出する糸の状態の一例として、糸切れを挙げる。また、本実施の形態1では、一例として、発光器19aと受光器19bを組み合わせた光センサを用いて糸センサ19が構成されている。糸センサ19は、糸切れ検知部を構成している。
【0018】
(ポット)
ポット12は、ケーク28の形成と糸の巻き返しに用いられるものである。ポット12は、円筒形に形成されている。ポット12は、ポット12の中心軸回りに回転可能に設けられている。ポット12の中心軸Kは、鉛直方向と平行に配置されている。このため、ポット12の中心軸方向の一方は上方、他方は下方となっている。
【0019】
ポット12は、後述するポット駆動部の駆動に従って回転するものである。ポット12の上端側には導糸管挿入口21が形成されている。導糸管挿入口21は、ポット12に導糸管11を挿入するための開口である。ポット12の下端部には開口部23が形成されている。導糸管挿入口21は、ポット12の内容積を規定する、内壁22の位置を基準とする直径(以下、「ポット内径」という。)よりも小さな直径で上向きに開口している。開口部23は、ポット内径と同じ直径で下向きに開口している。
【0020】
図2は、本発明の実施の形態1に係るポット精紡機のポットより下部の構成例を示す概略図である。
ポット精紡機1の下部には、ボビンレール26の上に載せられた円筒形のボビン25と、ボビン25を収容することができるポット20と、フィラー(細長部材)73と、ワゴンユニット75とが設けられている。ボビン25及び細長部材73は、ボビンレール26に沿って紡錘の数だけ複数配置されている。
【0021】
(細長部材)
ボビンレール26は、垂直方向に昇降可能に構成されている。ボビンレール26の下方には、スライドパイプ71がボビンレール26に沿って設けられている。スライドパイプ71は、ボビンレール26に固定されたスライダガイド72に、ボビンレール26に沿って水平方向に移動可能に支持されている。細長形状の細長部材73はボビンレール26を貫通可能に設けられ、フィラーホルダ40によってボビンレール26に上下自在に支持されている。細長部材73は例えばSUS等の鉄により形成されている。
【0022】
また、ボビンレール26には、駆動用エアシリンダ77が取付けられている。駆動用エアシリンダ77は、スライドパイプ71に接続されている。また、スライドパイプ71にはプッシャー78が各細長部材73の近傍に取付けられている。駆動用エアシリンダ77が駆動することで、スライドパイプ71がボビンレール26に沿う方向に移動し、各プッシャー78がボビンレール26に沿って水平方向に一斉に移動するように構成されている。プッシャー78は、傾動駆動部を構成している。
【0023】
ワゴンユニット75は、細長部材73の下方をボビンレール26に沿って走行する。また、図示しないサーボモータにより上下する押上腕76を用いて、任意の細長部材73を持ち上げる。押上腕76は、昇降駆動部を構成している。ワゴンユニット75が細長部材73を持ち上げた後、ボビンレール26が上昇動作することで細長部材73がポット20の内側に位置する。
【0024】
図3は、フィラーホルダ40の斜視図であり、図4はフィラーホルダ40の平面図である。フィラーホルダ40は、溝部41に挿入された細長部材73を上下に移動可能に支持している。溝部41は、ボビンレール26(図2参照)の延びる方向に平行であり且つ細長部材73の延びる方向に形成された第2ホルダ面43と第3ホルダ面44とを有している。すなわち、第2ホルダ面43及び第3ホルダ面44は、ポット精紡機1(図2参照)の上下方向に延びている。また、第2ホルダ面43と第3ホルダ面44とは平行に形成されている。細長部材73は、第2ホルダ面43及び第3ホルダ面44に対して摺動可能である。フィラーホルダ40は案内部材を構成している。
【0025】
図3図4のフィラーホルダ40のA-A線における断面図を図5に示す。溝部41の下方には、第2ホルダ面43及び第3ホルダ面44に対して垂直であり且つ細長部材73の延びる方向に平行な、第1ホルダ面42が形成されている。すなわち、第1ホルダ面42はポット精紡機1の上下方向に延びている。第1ホルダ面42には、細長部材73が当接している。
【0026】
溝部41の下方には、第2ホルダ面43及び第3ホルダ面44に対して平行に延びる穴45が形成されている。穴45は、第1ホルダ面42を貫通している。穴45の内部には、穴45の内部に嵌合された筒状のスリーブ46と、スリーブ46の内側に嵌合されており、先端部分が円錐形に形成されている先端部材47と、先端部材47に接続された圧縮ばねであるばね48とが設けられている。先端部材47と、ばね48とは弾性支持部材を構成している。また、先端部材47は当接部材を構成し、ばね48は弾性体を構成している。
【0027】
ばね48は、穴45の端部45aに接続されて固定されている。ばね48の付勢力により先端部材47は細長部材73の基端部73bに当接し、押圧されている。そして、基端部73bは先端部材47により第1ホルダ面42に押圧されている。
【0028】
穴45の下方には、第1ホルダ面42に対して非平行な斜面49が形成されている。斜面49は上側と第1ホルダ面42との距離よりも下側と第1ホルダ面42との距離の方が大きくなるように、下側に向かい溝部41が広がる形状に形成されている。
【0029】
図6は、本発明の実施の形態1に係るポット精紡機の駆動制御系の構成例を示すブロック図である。
ポット精紡機1は、制御部51と、ドラフト駆動部52と、導糸管駆動部53と、ポット駆動部54と、ボビン駆動部55と、巻き返し手段駆動部56と、駆動用エアシリンダ77と、ワゴンユニット75を備えている。
【0030】
(制御部)
制御部51は、ポット精紡機1全体の動作を統括的に制御するものである。制御部51には、動作制御の対象として、ドラフト駆動部52、導糸管駆動部53、ポット駆動部54、ボビン駆動部55、巻き返し手段駆動部56及びワゴンユニット75が電気的に接続されている。また、制御部51には、糸センサ19が電気的に接続されている。糸センサ19は、ドラフト装置10で糸切れが発生した場合に、その旨を知らせる糸切れ発生信号を制御部51に出力する。
【0031】
(ドラフト駆動部)
ドラフト駆動部52は、バックローラ対15、ミドルローラ対16およびフロントローラ対17をそれぞれ所定の回転数で回転させるものである。ドラフト駆動部52は、制御部51からドラフト駆動部52に与えられるドラフト駆動信号に基づいて駆動することにより、バックローラ対15、ミドルローラ対16およびフロントローラ対17を回転させる。
【0032】
(導糸管駆動部)
導糸管駆動部53は、導糸管11を動作させるものである。導糸管駆動部53は、導糸管11を上下方向に移動させるように動作させる。導糸管駆動部53は、制御部51から導糸管駆動部53に与えられる導糸管駆動信号に基づいて駆動することにより、導糸管11を上下方向に移動させる。
【0033】
(ポット駆動部)
ポット駆動部54は、ポット12を回転させるものである。ポット駆動部54は、制御部51から与えられるポット駆動信号に基づいて駆動することにより、ポット12の中心軸Kを回転中心としてポット12を回転させる。
【0034】
(ボビン駆動部)
ボビン駆動部55は、ボビン25を動作させるものである。ボビン駆動部55は、ボビン支持部13のボビン装着部27に装着されたボビン25を、ボビン支持部13およびボビンレール26と一体に上下方向に移動させるように動作させる。ボビン駆動部55は、制御部51から与えられるボビン駆動信号に基づいて駆動することにより、ボビン25を上下方向に移動させる。
【0035】
(巻き返し手段駆動部)
巻き返し手段駆動部56は、通常巻き返しを行う場合に図示しない巻き返し手段を動作させるものである。巻き返し手段駆動部56は、制御部51から与えられる巻き返し手段駆動信号に基づいて駆動することにより、巻き返し手段を動作させる。
【0036】
<ポット精紡方法>
続いて、本発明の実施の形態1に係るポット精紡機によるポット精紡方法について説明する。
図7は、ポット精紡機によるポット精紡方法の基本的な流れを示す図である。
図7に示すように、ポット精紡方法は、紡出動作において、ケーク端部検知ステップS1と、細長部材位置調整ステップS2とを有する。また、巻き返し動作において、ボビン配置ステップS3と、細長部材接触ステップS4と、移動ステップS5と、細長部材退避ステップS6と、ボビン配置ステップS3Aと、巻き返し手段駆動ステップS7とを有する。
【0037】
ケーク端部検知ステップS1は、糸切れ時にケーク28のケーク下端部28b(図1参照)を検知するステップである。細長部材位置調整ステップS2は、糸切れが検知された錘に対応する細長部材73の位置を調整するステップである。巻き返し動作は、糸切れが発生した錘に対する細長部材73を用いた糸切れ巻き返しと、糸切れが発生していない錘に対する巻き返し手段を用いた通常巻き返しとからなる。糸切れ巻き返しは、ボビン配置ステップS3の後、細長部材接触ステップS4と、移動ステップS5と、細長部材退避ステップS6とを含んでいる。ボビン配置ステップS3は、ボビン25をポット12の内部に進入させて、巻き返しを開始する位置に配置するステップである。細長部材接触ステップS4は、細長部材73をポット12の内壁22の、ケーク下端部28bよりも下方に押し当てるステップである。移動ステップS5は、細長部材73をケーク下端部28bに向けて移動させるステップである。細長部材退避ステップS6とは、細長部材73を原位置に退避させるステップである。通常巻き返しは、ボビン配置ステップS3Aの後、巻き返し手段駆動ステップS7により巻き返し手段が駆動してボビン25へ巻き返しを行う。以下、各ステップに基づくポット精紡機1の動作について説明する。
【0038】
なお、ポット精紡機1を動作させる前は、糸供給管14に導糸管11が近接して配置されるとともに、ボビン支持部13のボビン装着部27にボビン25が装着され、かつ、ボビン25がポット12よりも下方に退避して配置されているものとする。
【0039】
(引き伸ばし動作)
最初に、引き伸ばし動作が図1に示すようにドラフト装置10を用いて行われる。ドラフト駆動部52は、制御部51から与えられるドラフト駆動信号に基づいて駆動することにより、バックローラ対15、ミドルローラ対16およびフロントローラ対17をそれぞれ所定の回転速度で回転させる。これにより、粗糸などの糸材料は、各々のローラ対15,16,17の回転に従って搬送される。
【0040】
その際、制御部51は、バックローラ対15の回転速度をミドルローラ対16の回転速度よりも低速に設定するとともに、ミドルローラ対16の回転速度をフロントローラ対17の回転速度よりも低速に設定する。これにより、バックローラ対15とミドルローラ対16との間では、それらのローラ対の回転速度差によって糸が引き伸ばされる。同様に、ミドルローラ対16とフロントローラ対17との間でも、それらのローラ対の回転速度差によって糸が引き伸ばされる。
【0041】
その結果、粗糸などの糸材料は、バックローラ対15、ミドルローラ対16およびフロントローラ対17を順に通過しながら所定の細さに引き伸ばされる。こうして引き伸ばされた糸18は、その後、空気の旋回流を利用して糸供給管14に引き込まれた後、導糸管11に導入される。
【0042】
また、制御部51は、引き伸ばし動作の開始に先立って、ポット駆動部54にポット駆動信号を与えることにより、ポット12を所定の回転数で回転させる。
【0043】
(ケーク形成ステップ)
次に、ケーク形成ステップが、導糸管11とポット12を用いて行われる。導糸管駆動部53は、制御部51から与えられる導糸管駆動信号に基づいて駆動することにより、導糸管11を所定量だけ下方に移動させる。また、ポット駆動部54は、制御部51から与えられるポット駆動信号に基づいて駆動することにより、ポット12の回転を継続する。なお、導糸管11を下方に移動させると、糸供給管14から導糸管11が離間した状態となる。また、糸供給管14から導糸管11に導入された糸18は、導糸管11の下端部11aから紡出される。
【0044】
導糸管11の下端部11aから紡出される糸18には、ポット12の回転による遠心力が働き、この遠心力によって糸18がポット12の内壁22に押し当てられて接触する。また、ポット12の内壁22に押し当てられた糸18は、ポット12の回転によって撚られる。その結果、導糸管11の下端部11aから紡出される糸18は、ポット12の回転によって撚りを加えられた状態でポット12の内壁22に巻き付けられる。
【0045】
また、導糸管駆動部53は、上記導糸管駆動信号に基づいて駆動することにより、図8に示すように、導糸管11を所定の周期で繰り返し上下方向に往復移動させながら、導糸管11の位置を相対的に下方に変位させる。これにより、ポット12の内壁22にケーク28が形成される。ケーク28は、ポット12の内壁22に巻かれた糸18によって形成される積層体である。
【0046】
図9は、ケーク形成ステップにおける導糸管の動作を説明する図である。図中の縦軸は、ポット中心軸方向における導糸管の位置を示し、横軸は時間を示す。
図9において、導糸管11は、まず、P1位置まで下降した後、P2位置まで上昇し、次いでP3位置まで下降した後、P4位置まで上昇する。つまり、導糸管11は繰り返し上下方向に往復移動する。この場合、導糸管11がP1位置に到達してからP3位置に到達するまでの期間T1、および、導糸管11がP2位置に到達してからP4位置に到達するまでの期間T2が、それぞれ一周期となる。また、導糸管11の位置を相対的に下方に変位させるため、P3位置はP1位置よりも低位となり、P4位置はP2位置よりも低位となる。P1位置とP3位置との上下方向のズレ量H1、および、P2位置とP4位置との上下方向のズレ量H2は、それぞれ一周期における導糸管11の変位ステップ量となる。つまり、導糸管11は、一定の周期で繰り返し上下方向への往復移動を繰り返しながら、一定の変位ステップ量ずつ下方に変位する。このような導糸管11の動作は、導糸管11がPm位置に到達するまで続く。この場合、P1位置は、図1に示すケーク28の巻き始め側の端部(以下、「ケーク上端部」ともいう。)28aを規定し、Pm位置は、同図に示すケーク28の巻き終わり側の端部(以下、「ケーク下端部」ともいう。)28bを規定する。
【0047】
制御部51は、導糸管駆動部53に導糸管駆動信号を与えることにより、図8及び図9に示すように導糸管11を動作させる。これにより、ポット12の内壁22には図8に示すような形状でケーク28が形成される。本実施の形態1では、ケーク形成ステップにおいて、導糸管11の動作によりケーク28を形成した後、さらに次のようなステップを含む。
【0048】
制御部51は、導糸管11がPm位置に到達した後、導糸管11を所定量Lhだけ下方に移動させる。これにより、ポット12の内壁22には、図8に示すように、ケーク28のケーク下端部28bよりも開口部23側の領域22aに、ボビン25への巻き返し起点部となる糸部18aが巻き付けられる。この糸部18aは、1層で巻き付けてもよいし、複数層で巻き付けてもよい。糸部18aを1層で巻き付ける場合は、導糸管11をPm位置からPn位置へと下降させた段階で糸切りを行えばよい。また、糸部18aを複数層で巻き付ける場合は、導糸管11をPm位置からPn位置へと下降させてから、Pn位置よりも高い位置まで上昇させる動作を、少なくとも1回行った段階で糸切りを行えばよい。ケーク下端部28bは、糸端位置を構成する。
【0049】
ここで、「糸切り」と「糸切れ」の違いについて説明する。
糸切りは、ポット12の内壁22に予め決められた所定量の糸18が巻かれた段階で意図的に行われるものである。これに対し、糸切れは、ポット12の内壁22に所定量の糸18が巻かれる前に何らかの理由によって途中で糸18が切れてしまう現象である。
【0050】
糸切りは、制御部51の制御下で行われる。具体的には、制御部51は、フロントローラ対17の回転を継続したまま、バックローラ対15およびミドルローラ対16の回転を共に停止するように、ドラフト駆動部52の駆動を制御する。これにより、ミドルローラ対16の下流側で糸18が強制的に切られる。
【0051】
(ケーク端部検知ステップ)
ケーク形成ステップの完了前に糸切れが発生した場合は、ケーク端部検知ステップS1が行われる。このケーク端部検知ステップS1は、糸切れが発生したポット12毎に行われる。糸切れが糸センサ19に検知されると、糸切れ発生信号を制御部51に出力する。このとき、制御部51は糸切れ発生信号が入力されたタイミングから、ケーク28のケーク下端部28bの位置を検知する。図9に示すように、例えば導糸管11がP1位置に到達してからP3位置に到達するまでの期間T1においては、P1より上方で糸切れが発生した場合はP1がケーク下端部28bとなり、下降中にP1に達してからP3に至るまでに糸切れが発生した場合は、糸切れ発生時の導糸管11の位置がケーク下端部28bとなる。このように、制御部51は、糸切れ発生信号が入力されたタイミングがどの期間であるかを判定することで、そのポット12におけるケーク下端部28bの位置を検知する。
【0052】
なお、糸切れが発生したポット12についてはそれ以上ケーク28が形成されないが、糸切れの発生していないポット12ではケーク形成ステップの終了までケーク28の形成が行われる。
【0053】
(細長部材位置調整ステップ)
次に、細長部材位置調整ステップS2においては、制御部51が、ワゴンユニット75(図2参照)に駆動信号を入力して糸切れの発生したポット12の位置まで走行させる。糸切れの発生したポット12の位置に到達したワゴンユニット75は、制御部51から駆動信号を入力されることにより、押上腕76を上昇させて細長部材73を持ち上げる。このときの細長部材73の位置は、後述する細長部材接触ステップS4の開始時において細長部材73の先端部高さが、ポット12内部のケーク下端部28bと同じ高さとなる位置である。細長部材73が持ち上げられたら、押上腕76は下降する。フィラーホルダ40のばね48の付勢力により先端部材47が細長部材73を押圧し、細長部材73が第1ホルダ面42と先端部材47とによって挟持されて支持されている。これにより細長部材73は所定の高さに保持され、重力で下方へ移動することがない。
【0054】
細長部材73の基端部73b(図5参照)は第1ホルダ面42と先端部材47とによって挟持されて弾性的に支持され、また、細長部材73は第2ホルダ面43及び第3ホルダ面44に摺動可能に、細長部材73の傾動方向に交差する方向から挟持されていることで、細長部材73は安定して支持されている。
【0055】
(巻き返し動作)
巻き返し動作は、ケーク形成ステップが完了した後に行われる。なお、以降の図8図11図14においては、ケーク端部検知ステップS1において糸切れが検知されていたポット12を図示する。
【0056】
(ボビン配置ステップ)
ケーク形成ステップにおいて、糸切れが検知されていたポット12においては、ボビン配置ステップS3が行われる。ボビン配置ステップS3では、ポット駆動部54(図6参照)の駆動により、開口部23を通してポット12内にボビン25を配置する。ポット駆動部54は、制御部51から与えられるポット駆動信号に基づいて駆動することにより、ポット12の回転を継続する。ボビン駆動部55は、制御部51から与えられるボビン駆動信号に基づいて駆動することにより、ボビン支持部13を上方に移動させる。これにより、後述する図10に示すようにボビン装着部27(図1参照)に装着されているボビン25が、共に上方に移動する。
【0057】
また、図10及び図11に示すように、ボビン25は、ポット12の開口部23を通してポット12内に進入する。一方、導糸管駆動部53は、制御部51から与えられる導糸管駆動信号に基づいて駆動することにより、導糸管11を上方に移動させる。これにより、ポット12内では、ボビン25の進入に先立って、導糸管11の下端部11aがボビン25に接触しない位置へと退避する。
【0058】
また、ケーク端部検知ステップS1において糸切れを検知されていたポット12においては、細長部材73が持ち上げられているので、図11に示すように、細長部材73はボビン25と共にポット12内に進入して、細長部材73の先端部73aはケーク下端部28bの高さまで上昇する。
【0059】
(糸切れ巻き返し)
ケーク形成ステップにおいて糸切れが発生していた場合には、糸部18aが正常に形成されず、通常巻き返しによる巻き返しは行えない。しかし、糸切れが発生したポット12においては、多くの場合切れた糸の糸端はケーク28の下に位置しており、また、遠心力でポット12の内壁22に張り付いている。そのため、以下に示す糸切れ巻き返しが行われる。
【0060】
(細長部材接触ステップ)
糸切れ巻き返しにおいては、まず細長部材接触ステップS4が行われる。制御部51(図6参照)が駆動用エアシリンダ77(図2参照)を駆動することで、スライドパイプ71がボビンレール26に沿う方向に移動し、各プッシャー78がボビンレール26に沿って水平方向に一斉に移動する。
【0061】
図12に示すように、ポット12に進入している細長部材73は、プッシャー78に押されてフィラーホルダ40の第1ホルダ面42の上端Cを支点に傾動する。このとき、プッシャー78に押されている点は力点を構成する。また、細長部材73の基端部73bは先端部材47を押しながら傾動する。このとき細長部材73は、第2ホルダ面43及び第3ホルダ面44により挟持されて案内されながら回動する。また、斜面49が形成されていることにより溝部41内において細長部材73が干渉するということがない。先端部材47は、細長部材73の基端部73bに押されてばね48を押し縮めながら移動する。すなわち、先端部材47及びばね48は、基端部73bをフィラーホルダ40に対して弾性的に支持している。
【0062】
図13に示すように傾動した細長部材73は、ポット12の内壁22の接触点Dに当接する。このときの接触点Dの高さ位置は、ケーク下端部28bの数mm下である。次に、図14に示すようにプッシャー78に押された細長部材73がさらに傾動すると、細長部材73が上端Cを離れ接触点Dが支点となる。
【0063】
細長部材73の先端部73aがポット12の内壁22に、接触点Dがケーク28の下端部の数mm下となるように押し当てられることで、ポット12内にある切れた糸の端部が先端部73aに接触し、ポット12の中心軸K(図1参照)上に配置されたボビン25に巻き付き始める。したがって、この細長部材接触ステップS4により、糸切れの発生したポット12においては、ポット12内の切れた糸の端部を巻き返し起点部として、ボビン25への巻き返しを開始することができる。
【0064】
ポット12内における糸切れの巻き返し開始位置は、ケーク下端部28bの下側であるため、ケーク28の形成状態により上下に変動する。そのため、接触点Dの位置もケーク28の形成状態により上下に変動する。細長部材73の先端部73aが接触点Dを支点としているときの、プッシャー78から接触点Dまでの高さをX1とし、先端部材47から接触点Dまでの高さをY1とする。このとき、細長部材73にプッシャー78が接触する点が力点、接触点Dが支点、細長部材73の基端部73bに先端部材47が接触する点が作用点となる。そのため、力点における細長部材73の接触荷重は、X1とY1との比に略依存して決まる。
【0065】
一方、図15に、従来のポット精紡機の例を示す。なお、図15においてこの発明の実施の形態1と同一符号を付している箇所は、この発明の実施の形態1と同一又は同様の構成である。従来のポット精紡機では、細長部材73の支点Eが、細長部材73の先端部73aとプッシャー78が細長部材73を押圧する位置との間の基端部73bに固定されて配置されている。このとき接触点Dは作用点となり、力点における細長部材73の接触荷重は、X2及びY2の比に略依存して決まる。
【0066】
巻き返し開始位置の変動により接触点Dが上下に変動した場合に、図15に示す従来のポット精紡機における細長部材73の接触荷重よりも、図14に示すこの実施の形態1のポット精紡機1(図1参照)における細長部材73の接触荷重の方が、変動が小さくなる。
【0067】
また、図14に示すこの実施の形態1のポット12及び図15に示す従来のポット精紡機のポット12において、糸切れの巻き返し開始位置が上下に変動し、接触点Dの位置が上下に変動した場合には、細長部材73の持ち上げられる高さが上下に変動する。すると、細長部材73をポット12の内壁22に接触させるために必要な、細長部材73を水平に押す距離、すなわち必要ストロークが変動する。
【0068】
図15に示す従来のポット精紡機のように細長部材73の支点Eが固定されている構成において、プッシャー78のストロークはスライドパイプ71(図2参照)のスライドに応じた一定の距離である。そのため必要ストロークが変動したときに、必要ストロークに対してプッシャー78のストロークが短い場合は細長部材73の先端部73aが内壁22に接触しないという問題がある。また、必要ストロークに対してプッシャー78のストロークが長い場合は、先端部73aが内壁22に強く押圧されて接触荷重が過大となり、細長部材73にひずみを生じるという問題がある。
【0069】
一方、図14に示すこの実施の形態1のポット12においては、必要ストロークに対してプッシャー78のストロークを長めに設定しても、ばね48の圧縮により余剰のストロークを吸収することができる。また細長部材73の接触荷重は、ばね48の圧縮量に依存するため、必要ストロークに対してプッシャー78のストロークを長めに設定しても、直接過大な接触荷重が細長部材73にかかる可能性が低くなり、細長部材73にひずみが生じる可能性が低くなる。
【0070】
(細長部材退避ステップ)
次に、ケーク28を形成しているすべての糸がボビン25に巻き返されると、細長部材退避ステップS6(図7参照)が行われる。制御部51は、ボビン駆動部55にボビン駆動信号を与えることにより、ボビンレール26を下降させる。次に、制御部51は示すワゴンユニット75に駆動信号を与えることにより、押上腕76を下降させて上昇していた細長部材73を下降させる。これにより、糸切れ巻き返しが終了する。
【0071】
(通常巻き返し)
また、ケーク形成ステップにおいて糸切れが検知していないポット12においては、図7に示すように通常巻き返しのためにボビン配置ステップS3Aが行われる。ボビン配置ステップS3Aは、上記ボビン配置ステップS3と同じ動作であり、ボビン配置ステップS3と同時に行われる。
【0072】
次に、巻き返し手段駆動ステップS7(図7参照)が行われる。図示しない巻き返し手段が糸部18a(図8参照)に接触することで、糸部18aはポット12の中心軸K(図1参照)上に配置されたボビン25に巻き付き始める。これにより、糸切れの発生していないポット12においては、ポット12内に排出された糸部18aを巻き返し起点部として、ボビン25への巻き返しを開始することができる。
【0073】
以上の動作により、管糸が巻かれたボビン25が得られる。管糸が巻かれたボビン25はボビン装着部27から取り外される。その後、空のボビン25がボビン装着部27に装着された後、上記同様の動作が行われる。
【0074】
このように、開口部23を有するポット12の内壁22に当接可能な先端部73aと、先端部73aを支持する基端部73bとを有する細長部材73と、先端部73aの高さ方向の位置をポット12の内壁22に巻付けられた糸18の糸端位置に調節する押上腕76と、細長部材73を傾動方向に交差する方向から挟持し、傾動する細長部材73を案内するフィラーホルダ40の第2ホルダ面43及び第3ホルダ面44と、先端部73aを傾動方向に対して弾性的に支持する先端部材47及びばね48と、細長部材73を傾動させ、細長部材73の先端部をポット12の内壁33に当接させるプッシャー78とを備えるため、糸切れ時に糸の巻き返しを行う構成をより小型化することができる。
【0075】
また、先端部材47及びばね48は、基端部73bをフィラーホルダ40に対して弾性的に支持することで、先端部73aを傾動方向に対して弾性的に支持するため、各細長部材73が各ポット12の内壁22に接触したときの接触荷重が過大となる可能性を低減することができる。
【0076】
また、弾性支持部材は、細長部材73に当接する先端部材47と、先端部材47を細長部材73に付勢するばね48とを有するため、簡単な構成で細長部材73を傾動方向に対して弾性的に支持することができる。
【0077】
また、プッシャー78は、複数のポット12の細長部材73を同時に傾動させるため、一斉に全ての糸切れの発生したポット12でボビン25への巻き返しを開始することができる。また各ポット12に対する各細長部材73はそれぞれ独立した先端部材47及びばね48により傾動方向に対して弾性的に支持されるため、各ポット12の糸切れの巻き返し開始位置が異なっても、各細長部材73の先端部73aが各ポット12の内壁22に接触したときの接触荷重が過大となる可能性を低減することができる。
【0078】
なお、この実施の形態1においては、フィラーホルダ40の第2ホルダ面43及び第3ホルダ面44とは固定されていたが、第2ホルダ面43及び第2ホルダ面43がそれぞれ圧縮ばね又は引張りばね等の弾性体を有してもよい。そして、弾性体の付勢力で細長部材73を傾動方向に交差する方向から挟持することで、傾動する細長部材73を案内すると共に細長部材73の高さ方向の位置及び傾きを弾性的に支持してもよい。この弾性体は位置支持部材を構成する。
【0079】
このように、フィラーホルダ40の第2ホルダ面43及び第3ホルダ面44が細長部材73の高さ方向の位置及び傾きを弾性的に支持する弾性体を有するため、細長部材73の高さ方向の位置及び傾きを余剰のストロークの吸収とは別に弾性体により保持することができ、細長部材73がより安定して保持される。
【0080】
また、この実施の形態1においては、細長部材73はSUS等の鉄で形成されており磁性体を構成している。そして、第1ホルダ面42は通常の平面であったが、SUSで形成された細長部材73との間で引力を発生可能な磁石部を有してもよい。
【0081】
このように、細長部材73は磁性体により構成され、フィラーホルダ40の第1ホルダ面42は、細長部材73との間の引力により細長部材73の落下を防止する磁石部を有するため、より安定して細長部材73を保持することができる。
【0082】
また、この実施の形態1においては、ばね48は、穴45に設けられていたが、第1ホルダ面42に設けられ、第1ホルダ面42を細長部材73に押圧してもよい。また、ばね48は引張りばね等の他の種類のばねであってもよい。さらに、先端部材47と、ばね48とは弾性支持部材を構成していたが、先端部材47を例えば圧縮ばね等の弾性体とし、先端部材47のみで弾性支持部材を構成してもよい。さらにまた、先端部材47は先端部が円錐形に形成されていたが、先端部材47の形状は細長部材に当接可能であれば他の任意の形状であってもよい。例えば、先端部材47の先端部が平面であってもよいし、半球状の形状であってもよい。
【0083】
また、この実施の形態1においては、細長部材73はSUS等の鉄で形成されていたが、材質はこれに限定されない。例えば、銅又はアルミニウム合金等の、十分な強度を有する非鉄金属等により形成されていてもよい。
【0084】
また、この実施の形態1においては、ボビン配置ステップS3において細長部材73はケーク下端部28bの高さとなるように調整されていたが、糸切れ巻き返しが可能な範囲内において、細長部材の高さは任意に変更されてもよい。
【0085】
実施の形態2.
次に、この発明の実施の形態2に係るポット精紡機の構成について説明する。尚、実施の形態2において、図1図15の参照符号と同一の符号は、同一又は同様な構成要素であるので、その詳細な説明は省略する。
この実施の形態2に係るポット精紡機の構成は、実施の形態1に対して、細長部材の先端部が基端部に対して弾性的に支持されているものである。
【0086】
図16に、この実施の形態2に係る細長部材73の概略を示す。細長部材73の先端部73aは、圧縮ばね73cにより基端部73bに弾性的に支持されている。圧縮ばね73cは、弾性支持部材を構成している。細長部材73の基端部73bは、固定された支点Eにより支持されている。その他の構成は実施の形態1と同じである。
【0087】
次に、この実施の形態2に係るポット精紡機の動作について説明する。
プッシャー78が細長部材73の基端部73bを押すことにより、細長部材73が傾動し先端部73aがポット内壁22の接触点Dに当接する。
【0088】
このとき、必要ストロークに対してプッシャー78のストロークを長めに設定しても、圧縮ばね73cの圧縮及び変形により、先端部73aが基端部73bに対して接触点Dを押圧する荷重を逃がす方向に移動することができる。すなわち、先端部73aが基端部73bに対して弾性的に支持されていることで、先端部73aは細長部材73の傾動方向に対して弾性的に支持されている。そのため、プッシャー78の余剰のストロークを吸収することができる。また、過大な接触荷重が細長部材73にかかる可能性が低くなり、細長部材73にひずみが生じる可能性が低くなる。
【0089】
このように、圧縮ばね73cは先端部73aを基端部73bに対して弾性的に支持することで、先端部73aを傾動方向に対して弾性的に支持するため、過大な接触荷重が細長部材73にかかる可能性が低くなり、細長部材73にひずみが生じる可能性を低減することができる。
【0090】
なお、この実施の形態2では細長部材73の先端部73aは、圧縮ばね73cにより基端部73bに弾性的に支持されていたが、先端部73aを弾性的に支持する部材はこれに限定されない。例えば、板ばね又はゴム等の任意の弾性部材により先端部73aを弾性的に支持してもよい。また、先端部73a及び弾性支持部材を構成する圧縮ばね73cに代えて、ゴム等の一定の強度を有する弾性部材により細長部材の先端部及び弾性支持部材を一体に形成してもよい。
【符号の説明】
【0091】
1 ポット精紡機、12 ポット、18 糸、22 内壁、23 開口部、28b ケーク下端部(糸端位置)、40 フィラーホルダ(案内部材)、47 先端部材(弾性支持部材、当接部材)、48 ばね(弾性支持部材、弾性体)、73 細長部材、73a 先端部、73b 基端部、73c 圧縮ばね(弾性支持部材)、76 押上腕(昇降駆動部)、78 プッシャー(傾動駆動部)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16