(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】半芳香族ポリアミド樹脂組成物からなる成形品を構成成分として有する成形体
(51)【国際特許分類】
C08J 5/12 20060101AFI20221227BHJP
B32B 27/34 20060101ALI20221227BHJP
B32B 27/38 20060101ALI20221227BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20221227BHJP
C08L 25/08 20060101ALI20221227BHJP
C08L 77/06 20060101ALI20221227BHJP
C08G 69/26 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
C08J5/12 CFG
B32B27/34
B32B27/38
C08L63/00
C08L25/08
C08L77/06
C08G69/26
(21)【出願番号】P 2019506459
(86)(22)【出願日】2018-09-21
(86)【国際出願番号】 JP2018035096
(87)【国際公開番号】W WO2019059357
(87)【国際公開日】2019-03-28
【審査請求日】2021-09-06
(31)【優先権主張番号】P 2017183800
(32)【優先日】2017-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018058291
(32)【優先日】2018-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】玉津島 誠
(72)【発明者】
【氏名】中尾 順一
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/019882(WO,A1)
【文献】特開2017-119433(JP,A)
【文献】特開2012-086578(JP,A)
【文献】特開2012-167285(JP,A)
【文献】特開2007-204683(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J5/00-5/02、5/12-5/22、
B32B1/00-43/00、
C08G69/00-69/50、
C08K3/00-13/08、C08L1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)~(c)の要件を満たす半芳香族ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、強化材(B)0~200質量部を含有し、
半芳香族ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、さらにスチレン-マレイミド系共重合体(F)10~60質量部を含有し、80℃95%RH平衡吸水率が3.0%以下である半芳香族ポリアミド樹脂組成物(C)からなる成形品(D)と、グリシジル基を含有する熱硬化性樹脂(E)とが直接介する構造を有する成形体。
(a)示差走査熱量分析(DSC)により測定した降温結晶化に伴うピーク面積(ΔH
Tc2)が40mJ/mg以下
(b)ガラス転移温度(Tg)が120℃以下
(c)末端アミノ基濃度(AEG)と末端カルボキシル基濃度(CEG)の和(AEG+CEG)が70eq/ton以上
【請求項2】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)が、炭素数6~12のジアミンとテレフタル酸からなる繰り返し単位を50~100モル%、炭素数10以上のアミノカルボン酸またはラクタムからなる繰り返し単位を0~50モル%を含む半芳香族ポリアミド樹脂である、請求項
1に記載の成形体。
【請求項3】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)がヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸からなる繰り返し単位を50~100モル%、アミノウンデカン酸またはウンデカンラクタムからなる繰り返し単位を0~50モル%を含む半芳香族ポリアミド樹脂である、請求項
1に記載の成形体。
【請求項4】
グリシジル基を含有する熱硬化性樹脂(E)が、一液型熱硬化性エポキシ樹脂である請求項1~
3のいずれかに記載の成形体。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれかに記載の成形体からなるコネクタ。
【請求項6】
請求項1~
4のいずれかに記載の成形体からなるスイッチ部品。
【請求項7】
請求項1~
4のいずれかに記載の成形体からなるカメラ部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸水寸法安定性、耐熱性に優れた半芳香族ポリアミド樹脂組成物からなる成形品と、グリシジル基を含有する熱硬化性樹脂とが、高い接着性を有して直接介する構造を有する成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂はその優れた特性と溶融成形の容易さを活かして、衣料用、産業資材用繊維、エンジニアリングプラスチックなどに使用されてきた。近年では各分野での技術発展と共に、ポリアミド樹脂の用途はさらに拡大しており、エンジン周辺の自動車部品からスマートフォンに代表される電気電子部品に至る様々な用途で使用されている。
【0003】
用途の拡大に伴い、ポリアミド樹脂の使用される部品の形状や構成が多岐に渡る中で、部品同士を接合する方法が注目されている。最たる例として、ネジやビス等で締結する方法があるが、製品製造プロセスの効率化、部品の微小化に伴い、物理的な締結が困難な場合が生じており、新たな接合方法として、各種の溶着工法や熱硬化性樹脂による接合が進められている。特に電気電子分野においては、製品の精密化が進む中で外部から侵入する微量の水分や異物による機器の動作不良を防止するために熱硬化性樹脂による封止が一般的になりつつあり、使用されるポリアミド樹脂にはこれらの熱硬化性樹脂との高い接着性が強く求められている。
【0004】
また、ポリアミド樹脂では使用環境下における吸水による製品品位への影響がしばしば問題となる。ポリアミド樹脂は大気中の水分を吸水すると寸法が変化するため、製品寸法に変動が生じ、製品の組み付け不良や動作不良に繋がる。また、電気電子分野において一般的になっているハンダリフロー工程においては、吸水による製品の膨れ(ブリスター)が生じ、製品不良の発生に繋がる。市場で広く使用されるPA6、PA66、変性PA6Tなどは樹脂の飽和吸水率が6%以上と高く、上述の問題が生じやすい。よって、より吸水し難い低吸水性のポリアミド樹脂が求められている。
【0005】
上述のような市場要求の変化に伴い、種々のポリアミド樹脂組成物が開発されている。特許文献1には、半芳香族ポリアミド、炭素繊維、エポキシ化合物からなる金属密着性に優れる炭素繊維強化ポリアミド樹脂組成物が開示されている。しかしながら、当該文献に記載の技術はエポキシ化合物を樹脂組成物中に含むことが必須とされており、エポキシ化合物の耐熱性の低さから高温での加工時にアウトガスが増大し、成形品の外観が著しく低下するなど加工性に難がある。
【0006】
また、特許文献2には他の樹脂との接着性に優れた、PA9Tを主とした半芳香族ポリアミド樹脂が開示されている。当該文献に記載の技術は、半芳香族ポリアミドの末端アミノ基量を60~120μ等量/g、かつ、(末端アミノ基量)/(末端カルボキシル基量)で表される比が6以上となるように、言い換えれば、末端アミノ基量に加えて、末端カルボキシル基量を10~20μ等量/gの範囲に制御することで、他の樹脂との高い接着性を得るものである。しかしながら、当該文献では末端カルボキシル基量が高いポリアミド樹脂での高い接着性を発現する技術は開示されていない。
【0007】
特許文献3には、ポリアミド樹脂部材とポリアミド部材と接する接着剤層と、金属部材からなる成形体が開示されている。しかしながら、当該文献に記載の技術は、接着剤層にマレイン酸及び無水マレイン酸の少なくとも一方がグラフト化された熱可塑性ポリオレフィンエラストマー又は熱可塑性ポリエーテルエラストマーが必須とされており、本発明の技術とは異なる。
【0008】
上述のように、ポリアミド樹脂と他の樹脂や素材との高い接着性を得るために種々の発明がなされているものの、各種の課題やポリアミド樹脂組成物または接着剤層としての限定を抱えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2015-129271号公報
【文献】国際公開WO2006/098434号
【文献】特開2017-140768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、かかる従来技術の現状に鑑み創案されたものであり、その目的は半芳香族ポリアミド樹脂組成物からなる成形品と、グリシジル基を含有する熱硬化性樹脂とが、高い接着性を有しながら直接介する構造を有する、吸水寸法安定性、耐熱性に優れた成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記目的を達成するために、組成に加え、末端基量などの特定の物性を有する半芳香族ポリアミド樹脂を含有する樹脂組成物と、グリシジル基を有する熱硬化性樹脂を使用することで、高い吸水寸法安定性、耐熱性、接着性を有する成形体を提供するに至った。この成形体は、半芳香族ポリアミド樹脂組成物からなる成形品とグリシジル基を有する熱硬化性樹脂とが直接介した成形体であることから、複合成形体とも解することもできる。樹脂組成物中に、さらにスチレン-マレイミド系共重合体を特定の割合配合することで、接着性が向上することも見出した。
【0012】
即ち、本発明は、以下の構成を有するものである。
(1) 下記(a)~(c)の要件を満たす半芳香族ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、強化材(B)0~200質量部を含有し、80℃95%RH平衡吸水率が3.0%以下である半芳香族ポリアミド樹脂組成物(C)からなる成形品(D)と、グリシジル基を含有する熱硬化性樹脂(E)とが直接介する構造を有する成形体。
(a)示差走査熱量分析(DSC)により測定した降温結晶化に伴うピーク面積(ΔHTc2)が40mJ/mg以下
(b)ガラス転移温度(Tg)が120℃以下
(c)末端アミノ基濃度(AEG)と末端カルボキシル基濃度(CEG)の和(AEG+CEG)が70eq/ton以上
(2) 半芳香族ポリアミド樹脂組成物(C)が、半芳香族ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、さらにスチレン-マレイミド系共重合体(F)10~60質量部を含有する(1)に記載の成形体。
(3) 半芳香族ポリアミド樹脂(A)が、炭素数6~12のジアミンとテレフタル酸からなる繰り返し単位を50~100モル%、炭素数10以上のアミノカルボン酸またはラクタムからなる繰り返し単位を0~50モル%を含む半芳香族ポリアミド樹脂である、(1)または(2)に記載の成形体。
(4) 半芳香族ポリアミド樹脂(A)がヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸からなる繰り返し単位を50~100モル%、アミノウンデカン酸またはウンデカンラクタムからなる繰り返し単位を0~50モル%を含む半芳香族ポリアミド樹脂である、(1)または(2)に記載の成形体。
(5) グリシジル基を含有する熱硬化性樹脂(E)が、一液型熱硬化性エポキシ樹脂である(1)~(4)のいずれかに記載の成形体。
(6) (1)~(5)のいずれかに記載の成形体からなるコネクタ。
(7) (1)~(5)のいずれかに記載の成形体からなるスイッチ部品。
(8) (1)~(5)のいずれかに記載の成形体からなるカメラ部品。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、半芳香族ポリアミド樹脂組成物からなる成形品と、グリシジル基を有する熱硬化性樹脂からなる、高い吸水寸法安定性、耐熱性、接着性を有する、前記半芳香族ポリアミド樹脂組成物からなる成形品とグリシジル基を有する熱硬化性樹脂とが直接介した複合成形体を提供することができる。ここで、直接介するとは、直接接着していることを表す。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例にて実施する接着強度評価用の試験片形状を示す概略図である。
【
図2】実施例にて実施する接着強度評価の試験片作製方法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の成形体に関して説明する。
【0016】
本発明の成形体は、下記(a)~(c)の要件を満たす半芳香族ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、強化材(B)0~200質量部を含有し、80℃95%RH平衡吸水率が3.0%以下である半芳香族ポリアミド樹脂組成物(C)からなる成形品(D)と、グリシジル基を含有する熱硬化性樹脂(E)とが直接介する構造を有することを特徴とする。
(a)示差走査熱量分析(DSC)により測定した降温結晶化に伴うピーク面積(ΔHTc2)が40mJ/mg以下
(b)ガラス転移温度(Tg)が120℃以下
(c)末端アミノ基濃度(AEG)と末端カルボキシル基濃度(CEG)の和(AEG+CEG)が70eq/ton以上
半芳香族ポリアミド樹脂組成物(C)は、半芳香族ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、さらにスチレン-マレイミド系共重合体(F)10~60質量部を含有していることが好ましい態様である。
【0017】
本発明で用いられる半芳香族ポリアミド樹脂(A)は、特に限定はされず、分子中に酸アミド結合(―CONH―)を有し、かつ芳香族環(ベンゼン環)を有する半芳香族ポリアミドである。
半芳香族ポリアミドの一例としては、6T系ポリアミド(例えば、テレフタル酸/イソフタル酸/ヘキサメチレンジアミンからなるポリアミド6T6I、テレフタル酸/アジピン酸/ヘキサメチレンジアミンからなるポリアミド6T66、テレフタル酸/イソフタル酸/アジピン酸/ヘキサメチレンジアミンからなるポリアミド6T6I66、テレフタル酸/ヘキサメチレンジアミン/2-メチル-1、5-ペンタメチレンジアミンからなるポリアミド6T/M-5T、テレフタル酸/ヘキサメチレンジアミン/ε-カプロラクタムからなるポリアミド6T6、テレフタル酸/ヘキサメチレンジアミン/テトラメチレンジアミンからなるポリアミド6T/4T)、9T系ポリアミド(テレフタル酸/1,9-ノナンジアミン/2-メチル-1,8-オクタンンジアミン)、10T系ポリアミド(テレフタル酸/1,10-デカンジアミン)、12T系ポリアミド(テレフタル酸/1,12-ドデカンジアミン)、セバシン酸/パラキシレンジアミンからなるポリアミドなどが挙げられる。
【0018】
本発明で用いられる半芳香族ポリアミド樹脂(A)は、下記実施例の項目で説明する方法で測定した降温結晶化に伴うピーク面積(ΔHTc2)が40mJ/mg以下である必要がある。また、35mJ/mg以下であることが好ましく、30mJ/mg以下であることがさらに好ましい。ΔHTc2が上記上限を超える場合、熱硬化性樹脂(E)との接着性が低下し、成形体として必要な強度が達成できない可能性があり、好ましくない。ΔHTc2の下限としては5mJ/mgであり、10mJ/mg以上がより好ましい。上記下限を下回る場合、成形サイクルタイムが長くなり、生産効率が低下する可能性がある。また、得られる成形体が高温環境下で二次加工される場合に寸法変化や変形等が生じる可能性があり、好ましくない。
【0019】
本発明で用いられる半芳香族ポリアミド樹脂(A)は、下記実施例の項目で説明する方法で測定したガラス転移温度(Tg)が120℃以下である必要がある。また、110℃以下であることが好ましく、100℃以下であることがより好ましい。Tgが上記上限を超える場合、熱硬化性樹脂(E)の硬化処理温度において分子鎖の運動性が極端に制限されてしまい、熱硬化性樹脂(E)との接着性が低下し、成形体として必要な強度が達成できない可能性があり、好ましくない。Tgの下限としては50℃以上であり、60℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましい。上記下限を下回る場合、使用環境によっては成形体が軟化し、製品の変形や動作不良が生じる可能性があり、好ましくない。
【0020】
本発明で用いられる半芳香族ポリアミド樹脂(A)は、末端アミノ基濃度(AEG)と末端カルボキシル基濃度(CEG)の和(AEG+CEG)が70eq/ton以上であることが必要である。また、80eq/ton以上であることが好ましく、100eq/ton以上であることがより好ましい。(AEG+CEG)が上記下限を下回る場合、熱硬化性樹脂(E)との接着性が低下し、成形体として必要な強度が達成できない可能性があり、好ましくない。(AEG+CEG)の上限としては、200eq/ton以下が好ましく、180eq/ton以下がより好ましく、160eq/tonがさらに好ましい。上記上限を超える場合、加工時の熱による末端基同士の反応が生じ、滞留安定性に問題が生じる可能性があり、好ましくない。
【0021】
本発明で用いられる半芳香族ポリアミド樹脂(A)は、末端アミノ基濃度(AEG)が2eq/ton以上であることが好ましく、10eq/ton以上であることがより好ましく、15eq/ton以上であることがさらに好ましく、20eq/ton以上であることが特に好ましい。末端アミノ基濃度が上記下限を下回る場合でも、本発明に用いられる半芳香族ポリアミド樹脂(A)は熱硬化性樹脂(E)との接着性に優れており本発明の成形体は十分な接着強度を有するが、末端アミノ基濃度を上記下限以上とすることで、さらに高い接着強度が得られることから好ましい。
【0022】
本発明で用いられる半芳香族ポリアミド樹脂(A)は、末端カルボキシル基濃度(CEG)が20eq/ton以上であることが好ましく、30eq/ton以上であることがより好ましく、40eq/ton以上であることがさらに好ましい。末端カルボキシル基濃度を上記下限以上とすることで、熱硬化性樹脂(E)との接着性を高めることができるため、好ましい。
本発明で用いられる半芳香族ポリアミド樹脂(A)は、AEGに比べてCEGが大きい方が好ましい。CEG/AEGは、2以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましい。
【0023】
本発明で用いられる半芳香族ポリアミド樹脂(A)は、下記実施例の項目で説明する方法で測定した最も低温側に位置するDSC融解ピーク温度(Tm)が280℃以上であることが好ましい。また、290℃以上であることがより好ましく、300℃以上であることがさらに好ましい。Tmが上記下限を下回る場合、本発明の成形体をハンダリフロー工程にて加工した場合、成形体の溶融や変形が生じる可能性があり、好ましくない。Tmの上限としては、340℃以下が好ましく、330℃以下がより好ましく、320℃以下がさらに好ましい。Tmが上記上限を超える場合、成形加工時の加工温度が極めて高くなり、熱による樹脂の分解が生じる可能性があり、好ましくない。
【0024】
本発明で用いられる半芳香族ポリアミド樹脂(A)としては、ΔHTc2、Tg、Tmの観点から、以下の半芳香族ポリアミド樹脂であることが好ましい。
半芳香族ポリアミド樹脂(A)は、炭素数6~12のジアミンとテレフタル酸からなる繰り返し単位を50~100モル%、炭素数10以上のアミノカルボン酸またはラクタムからなる繰り返し単位を0~50モル%含む半芳香族ポリアミド樹脂であることが好ましく、炭素数6~12のジアミンとテレフタル酸からなる繰り返し単位を50~98モル%、炭素数10以上のアミノカルボン酸またはラクタムからなる繰り返し単位を2~50モル%含む半芳香族ポリアミド樹脂であることがより好ましく、炭素数6~12のジアミンとテレフタル酸からなる繰り返し単位を55~98モル%、炭素数10以上のアミノカルボン酸またはラクタムからなる繰り返し単位を2~45モル%含む、半芳香族ポリアミド樹脂であることがさらに好ましい。
半芳香族ポリアミド樹脂(A)中の炭素数6~12のジアミンとテレフタル酸からなる繰り返し単位の割合が50モル%を下回る場合、ΔHTc2の低下による成形サイクルタイムが長くなる他、Tmの低下によるハンダリフロープロセスでの成形体の溶融や変形、Tgの低下による使用環境での成形体の軟化による不具合が生じる可能性があり好ましくない。一方で、半芳香族ポリアミド樹脂(A)のΔHTc2、Tg、Tmを適度に向上させることができるため、半芳香族ポリアミド樹脂(A)中の炭素数6~12のジアミンとテレフタル酸からなる繰り返し単位の割合を55モル%以上(炭素数10以上のアミノカルボン酸またはラクタムからなる繰り返し単位を45モル%以下)とすることがより好ましく、60モル%以上(炭素数10以上のアミノカルボン酸またはラクタムからなる繰り返し単位を40モル%以下)とすることがさらに好ましい。
【0025】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)を構成する炭素数6~12のジアミン成分としては、1,6-ヘキサメチレンジアミン、1,7-ヘプタメチレンジアミン、1,8-オクタメチレンジアミン、1,9-ノナメチレンジアミン、2-メチル-1,8-オクタメチレンジアミン、1,10-デカメチレンジアミン、1,11-ウンデカメチレンジアミン、1,12-ドデカメチレンジアミンが挙げられる。これらは単独で用いても良いし、複数用いても良い。
【0026】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)を構成する炭素数10以上のアミノカルボン酸または炭素数10以上のラクタムとしては、炭素数11~18のアミノカルボン酸またはラクタムが好ましい。中でも、11-アミノウンデカン酸、ウンデカンラクタム、12-アミノドデカン酸、12-ラウリルラクタムが好ましい。
【0027】
本発明で用いられる半芳香族ポリアミド樹脂(A)には、構成単位中50%モル以下で他の成分を共重合することができる。共重合可能な他のジアミン成分としては、1,13-トリデカメチレンジアミン、1,16-ヘキサデカメチレンジアミン、1,18-オクタデカメチレンジアミン、2,2,4(または2,4,4)-トリメチルヘキサメチレンジアミンのような脂肪族ジアミン、ピペラジン、シクロヘキサンジアミン、ビス(3-メチル-4-アミノヘキシル)メタン、ビス-(4,4’-アミノシクロヘキシル)メタン、イソホロンジアミンのような脂環式ジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミンなどの芳香族ジアミンおよびこれらの水添物等が挙げられる。
【0028】
共重合可能な他の酸成分としては、イソフタル酸、オルソフタル酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、2,2’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、5-スルホン酸ナトリウムイソフタル酸、5-ヒドロキシイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、イタコン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,11-ウンデカン二酸、1,12-ドデカン二酸、1,14-テトラデカン二酸、1,18-オクタデカン二酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、4-メチル-1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸等の脂肪族や脂環族ジカルボン酸等が挙げられる。
また、共重合可能な他の成分として、ε-カプロラクタムなどが挙げられる。
【0029】
上記成分の中でも、ΔHTc2、Tg、Tmの観点から、共重合成分としては、炭素数11~18のアミノカルボン酸もしくは炭素数11~18のラクタムのうちの一種もしくは複数種を共重合していることが好ましい。
【0030】
本発明で用いられる半芳香族ポリアミド樹脂(A)は、ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸からなる繰り返し単位を50~100モル%、アミノウンデカン酸またはウンデカンラクタムからなる繰り返し単位を0~50モル%含む、半芳香族ポリアミド樹脂であることが好ましく、ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸からなる繰り返し単位を50~98モル%、アミノウンデカン酸またはウンデカンラクタムからなる繰り返し単位を2~50モル%含む、半芳香族ポリアミド樹脂であることがより好ましく、ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸からなる繰り返し単位を55~80モル%、アミノウンデカン酸またはウンデカンラクタムからなる繰り返し単位を20~45モル%含む、半芳香族ポリアミド樹脂であることがさらに好ましく、ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸からなる繰り返し単位を60~70モル%、アミノウンデカン酸またはウンデカンラクタムからなる繰り返し単位を30~40モル%含む、半芳香族ポリアミド樹脂であることが特に好ましい。
半芳香族ポリアミド樹脂(A)中のヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸からなる繰り返し単位の割合が50モル%を下回る場合、ΔHTc2の低下により成形サイクルタイムが長くなる他、Tmの低下によるハンダリフロープロセスでの成形体の溶融や変形、Tgの低下による使用環境での成形体の軟化による不具合が生じる可能性がある。一方で、半芳香族ポリアミド樹脂(A)中のヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸からなる繰り返し単位の割合を55~80モル%とすることで、半芳香族ポリアミド樹脂(A)の結晶性、分子運動性を制御することが可能であり、ΔHTc2、Tg、Tmを適度に向上させることができるため、より好ましい。また、半芳香族ポリアミド樹脂(A)中のヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸からなる繰り返し単位の割合を60~70モル%とすることで、Tmを300℃~320℃の範囲にすることができ、成形加工を容易にするだけでなく、ΔHTc2を10~35mJ/mgに、Tgを70~100℃にすることができ、熱硬化性樹脂(E)との高い接着性を得ることができるため、さらに好ましい。
【0031】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)を製造する際に使用する触媒としては、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸もしくはその金属塩やアンモニウム塩、エステルが挙げられる。金属塩の金属種としては、具体的には、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、バナジウム、カルシウム、亜鉛、コバルト、マンガン、錫、タングステン、ゲルマニウム、チタン、アンチモンなどが挙げられる。エステルとしては、エチルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、ヘキシルエステル、イソデシルエステル、オクタデシルエステル、デシルエステル、ステアリルエステル、フェニルエステルなどが挙げられる。また、溶融滞留安定性向上の観点から、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ化合物を添加することが好ましい。
【0032】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)の96%濃硫酸中20℃で測定した相対粘度(RV)は0.4~4.0であることが好ましく、より好ましくは1.0~3.0、さらに好ましくは1.5~2.5である。ポリアミドの相対粘度を一定範囲とする方法としては、分子量を調整する手段が挙げられる。
【0033】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)は、アミノ基量とカルボキシル基とのモル比を調整して重縮合する方法や末端封止剤を添加する方法によって、ポリアミドの末端基量および分子量を調整することができる。
【0034】
末端封止剤を添加する時期としては、原料仕込み時、重合開始時、重合後期、または重合終了時が挙げられる。末端封止剤としては、ポリアミド末端のアミノ基またはカルボキシル基との反応性を有する単官能性の化合物であれば特に制限はないが、モノカルボン酸またはモノアミン、無水フタル酸等の酸無水物、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル類、モノアルコール類などを使用することができる。末端封止剤としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソ酪酸等の脂肪族モノカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸、安息香酸、トルイル酸、α-ナフタレンカルボン酸、β-ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸等の酸無水物、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等の脂肪族モノアミン、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の脂環式モノアミン、アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミン等の芳香族モノアミン等が挙げられる。
【0035】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)は、従来公知の方法で製造することができ、例えば、原料モノマーを共縮合反応させることによって容易に合成することができる。共縮重合反応の順序は特に限定されず、全ての原料モノマーを一度に反応させてもよいし、一部の原料モノマーを先に反応させ、続いて残りの原料モノマーを反応させてもよい。また、重合方法は特に限定されないが、原料仕込みからポリマー作製までを連続的な工程で進めても良いし、一度オリゴマーを作製した後、別工程で押出し機などにより重合を進める、もしくはオリゴマーを固相重合により高分子量化するなどの方法を用いても良い。原料モノマーの仕込み比率を調整することにより、合成される共重合ポリアミド中の各構成単位の割合を制御することができる。
【0036】
本発明で用いられる強化材(B)は、半芳香族ポリアミド樹脂組成物(C)の成形性と半芳香族ポリアミド樹脂組成物(C)からなる成形品(D)の強度を向上するために配合されるものであり、繊維状強化材及び針状強化材から選択される少なくとも1種を使用することが好ましい。繊維状強化材としては、例えばガラス繊維、炭素繊維、ホウ素繊維、セラミック繊維、金属繊維などが挙げられ、針状強化材としては、例えばチタン酸カリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、酸化亜鉛ウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、硫酸マグネシウムウィスカー、ワラストナイトなどが挙げられる。ガラス繊維としては、0.1mm~100mmの長さを有するチョップドストランドまたは連続フィラメント繊維を使用することが可能である。ガラス繊維の断面形状としては、円形断面及び非円形断面のガラス繊維を用いることができる。円形断面ガラス繊維の直径は20μm以下、好ましくは15μm以下、さらに好ましくは10μm以下である。また、物性面や流動性より非円形断面のガラス繊維が好ましい。非円形断面のガラス繊維としては、繊維長の長さ方向に対して垂直な断面において略楕円形、略長円形、略繭形であるものをも含み、偏平度が1.5~8であることが好ましい。ここで偏平度とは、ガラス繊維の長手方向に対して垂直な断面に外接する最小面積の長方形を想定し、この長方形の長辺の長さを長径とし、短辺の長さを短径としたときの、長径/短径の比である。ガラス繊維の太さは特に限定されるものではないが、短径が1~20μm、長径2~100μm程度である。また、ガラス繊維は繊維束となって、繊維長1~20mm程度に切断されたチョップドストランド状のものが好ましく使用できる。また、繊維状強化材はポリアミド樹脂との親和性を向上させるため、有機処理やカップリング剤処理したもの、または溶融コンパウンド時にカップリング剤と併用することが好ましく、カップリング剤としては、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤のいずれを使用しても良いが、その中でも、特にアミノシランカップリング剤、エポキシシランカップリング剤が好ましい。
【0037】
本発明で用いられる強化材(B)は、半芳香族ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、0~200質量部である必要がある。また、10~200質量部が好ましく、10~180質量部がより好ましく、15~160質量部がさらに好ましい。強化材(B)の割合が上記上限を超える場合、熱硬化性樹脂(E)との接着の際に、熱硬化性樹脂(E)と直接接する半芳香族ポリアミド樹脂(A)の割合が減少するため、接着性が低下する可能性があり、好ましくない。一方で、製品によっては、強化材(B)を用いずとも十分な成形体強度を発現できる場合があるため、強化材(B)の割合の下限は0質量部であるが、成形性や成形品強度の観点から10質量部以上とすることが好ましく、15質量部以上とすることがより好ましい。
【0038】
本発明で用いられるスチレン-マレイミド系共重合体(F)は、半芳香族ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、10~60質量部であることが好ましい。また、12~50質量部が好ましく、15~40質量部がより好ましい。スチレン-マレイミド系共重合体(F)の割合が上記下限を下回る場合、熱硬化性樹脂(E)との接着の際に、接着性が低下する可能性があり、好ましくない。スチレン-マレイミド系共重合体(F)の割合が上記上限を超える場合、射出成形時の流動性が低下し、成形体の外観低下が生じる可能性があり、好ましくない。
【0039】
本発明で用いられるスチレン-マレイミド系共重合体(F)はスチレン系単量体、マレイミド系単量体を構成成分として含む共重合体である。スチレン-マレイミド系共重合体(F)には、半芳香族ポリアミド樹脂(A)との相溶性を向上させる目的でマレイン酸無水物が共重合されても良い。スチレン-マレイミド系共重合体(F)の構成成分の比率は特に限定されるものではないが、具体的な構成成分の例としては、スチレン系単量体25~40モル%、N-フェニルマレイミド50~70モル%、マレイン酸無水物5~15モル%が挙げられる。市販品としては、デンカ株式会社製デンカIP MS-NIPが挙げられる。
【0040】
本発明で用いられる半芳香族ポリアミド樹脂組成物(C)は、本発明により得られる成形体の実使用環境下での寸法変化を抑制するためだけでなく、電気電子部品の実装で用いられるハンダリフロー工程においてブリスターの発生を抑制するために、下記実施例の項目で説明する方法で測定した80℃95%RH平衡吸水率が3.0%(3.0質量%)以下である必要がある。また、80℃95%RH平衡吸水率が2.5%以下であることが好ましい。80℃95%RH平衡吸水率が上記上限を超える場合、得られる成形体の吸水寸法変化が大きくなり、製品組み立て時や製品動作時に不具合が生じたり、ハンダリフロー工程においてブリスターが発生し製品不良に繋がる可能性があり、好ましくない。80℃95%RH平衡吸水率の下限は0%であるが、本発明に用いられる半芳香族ポリアミド樹脂(A)の特性上、1.0%程度が好ましい。
【0041】
本発明で用いられる半芳香族ポリアミド樹脂組成物(C)には、従来のポリアミド樹脂組成物に使用される各種添加剤を使用することができる。添加剤としては、安定剤、衝撃改良材、離型剤、摺動性改良材、着色剤、可塑剤、結晶核剤、半芳香族ポリアミド樹脂(A)とは異なるポリアミド、ポリアミド以外の熱可塑性樹脂などが挙げられる。これら成分の半芳香族ポリアミド樹脂組成物(C)中の可能な配合量は、下記に説明する通りであるが、これら成分の合計は、半芳香族ポリアミド樹脂組成物(C)中、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、5質量%以下が特に好ましい。
本発明において半芳香族ポリアミド樹脂組成物(C)としては、半芳香族ポリアミド樹脂(A)のみからなる場合も含むが、その場合も便宜上、半芳香族ポリアミド樹脂組成物(C)と称する。
【0042】
安定剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤などの有機系酸化防止剤や熱安定剤、ヒンダードアミン系、ベンゾフェノン系、イミダゾール系等の光安定剤や紫外線吸収剤、金属不活性化剤、銅化合物などが挙げられる。銅化合物としては、塩化第一銅、臭化第一銅、ヨウ化第一銅、塩化第二銅、臭化第二銅、ヨウ化第二銅、燐酸第二銅、ピロリン酸第二銅、硫化銅、硝酸銅、酢酸銅などの有機カルボン酸の銅塩などを用いることができる。さらに銅化合物以外の構成成分としては、ハロゲン化アルカリ金属化合物を含有することが好ましく、ハロゲン化アルカリ金属化合物としては、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、フッ化ナトリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、フッ化カリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウムなどが挙げられる。これら添加剤は、1種のみの単独使用だけではなく、数種を組み合わせて用いても良い。安定剤の添加量は最適な量を選択すれば良いが、半芳香族ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して最大5質量部を添加することが可能である。
【0043】
また、本発明で用いられる半芳香族ポリアミド樹脂組成物(C)には、半芳香族ポリアミド樹脂(A)とは異なる組成のポリアミドをポリマーブレンドしても良い。半芳香族ポリアミド樹脂(A)とは異なる組成のポリアミドの添加量は最適な量を選択すれば良いが、半芳香族ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して最大50質量部を添加することが可能である。
【0044】
本発明で用いられる半芳香族ポリアミド樹脂組成物(C)には、ポリアミド以外の熱可塑性樹脂を添加しても良い。ポリアミド以外のポリマーとしては、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)、アラミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルイミド(PEI)、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリサルホン(PSU)、ポリアリレート(PAR)、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート(PC)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリメチルペンテン(TPX)、ポリスチレン(PS)、ポリメタクリル酸メチル、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)が挙げられる。これら熱可塑性樹脂は、溶融混練により、溶融状態でブレンドすることも可能であるが、熱可塑性樹脂を繊維状、粒子状にし、本発明のポリアミド樹脂組成物に分散しても良い。熱可塑性樹脂の添加量は最適な量を選択すれば良いが、半芳香族ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して最大50質量部を添加することが可能である。
【0045】
衝撃改良剤としては、エチレン-プロピレンゴム(EPM)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸エステル共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン系樹脂、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体(SIS)、アクリル酸エステル共重合体等のビニルポリマー系樹脂、ポリブチレンテレフタレートまたはポリブチレンナフタレートをハードセグメントとし、ポリテトラメチレングリコールまたはポリカプロラクトンまたはポリカーボネートジオールをソフトセグメントとしたポリエステルブロック共重合体、ポリアミドエラストマー、ウレタンエラストマー、アクリルエラストマー、シリコンゴム、フッ素系ゴム、異なる2種のポリマーより構成されたコアシェル構造を有するポリマー粒子などが挙げられる。衝撃改良剤の添加量は最適な量を選択すれば良いが、半芳香族ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して最大30質量部を添加することが可能である。
【0046】
本発明で用いられる半芳香族ポリアミド樹脂組成物(C)に、芳香族ポリアミド樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂および耐衝撃改良材を添加する場合にはポリアミドと反応可能な反応性基が共重合されていることが好ましく、反応性基としてはポリアミド樹脂の末端基であるアミノ基、カルボキシル基及び主鎖アミド基と反応しうる基である。具体的にはカルボン酸基、酸無水物基、エポキシ基、オキサゾリン基、アミノ基、イソシアネート基等が例示されるが、それらの中でも酸無水物基が最も反応性に優れている。
【0047】
離型剤としては、長鎖脂肪酸またはそのエステルや金属塩、アマイド系化合物、ポリエチレンワックス、シリコーン、ポリエチレンオキシド等が挙げられる。長鎖脂肪酸としては、特に炭素数12以上が好ましく、例えばステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸などが挙げられ、部分的もしくは全カルボン酸が、モノグリコールやポリグリコールによりエステル化されていてもよく、または金属塩を形成していても良い。アマイド系化合物としては、エチレンビステレフタルアミド、メチレンビスステアリルアミドなどが挙げられる。これら離型剤は、単独であるいは混合物として用いても良い。離型剤の添加量は最適な量を選択すれば良いが、半芳香族ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して最大5質量部を添加することが可能である。
【0048】
本発明で用いられる半芳香族ポリアミド樹脂組成物(C)は、上述の各構成成分を従来公知の方法で配合することにより製造されることができる。例えば、半芳香族ポリアミド樹脂(A)の重縮合反応時に各成分を添加したり、半芳香族ポリアミド樹脂(A)とその他の成分をドライブレンドしたり、または、二軸スクリュー型の押出機を用いて各構成成分を溶融混練する方法を挙げることができる。
【0049】
本発明で用いられる半芳香族ポリアミド樹脂組成物(C)は、射出成形等の公知の成形方法により、成形品(D)とすることができる。
【0050】
本発明で用いられる熱硬化性樹脂(E)は、化学構造中にグリシジル基を含むことを特徴とする熱硬化性樹脂であり、グリシジル基を有する成分が一種または複数種含まれても良い。化学構造中にグリシジル基を含む熱硬化性樹脂とは、グリシジル基が、樹脂の化学構造の一部として結合している樹脂を意味する。化学構造中にグリシジル基を含む熱硬化性樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、環状脂肪族型エポキシ樹脂、長鎖脂肪族型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、難燃性エポキシ樹脂、ヒダントイン系エポキシ樹脂、イソシアヌレート系エポキシ樹脂などが挙げられる。この中でも、半芳香族ポリアミド樹脂(A)との接着性、加工性、汎用性の観点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂が好ましい。
【0051】
本発明で用いられる熱硬化性樹脂(E)には、硬化反応を進める目的で種々の硬化剤成分が含まれる。硬化剤としては、脂肪族ポリアミン、芳香族アミン、変性アミン、ポリアミドアミン、二級アミン、三級アミン、イミダゾール化合物、ポリメルカプタン化合物、酸無水物、三フッ化ホウ素‐アミン錯体、ジシアンジアミド、有機酸ヒドラジッドが挙げられる。脂肪族ポリアミンの例としては、ジエチレントリアミン、トリエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン、ジプロプレンジアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、N-アミノエチルピペラジン、メンセンジアミン、イソフオロンジアミン、1,3-ビスアミノシクロヘキサンが挙げられる。芳香族アミンの例としては、m-キシレンジアミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルフォンが挙げられる。二級アミンの例としては、ピペリジンが挙げられる。三級アミンの例としては、N,N-ジメチルピペラジン、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、2-(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールが挙げられる。イミダゾール化合物としては、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-アミノエチル-2-ウンデシルイミダゾリウム・トリメリテート、エポキシ-イミダゾールアダクトが挙げられる。酸無水物の例としては、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸、エチレングリコールビストリメリテート、グリセロールトリストリメリテート、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチルブテニルテトラヒドロ無水フタル酸、ドデセニル無水コハク酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水コハク酸、メチルシクロヘキセンジカルボン酸無水物、アルキルスチレン-無水マレイン酸共重合体、クロレンド酸無水物、ポリアゼライン酸無水物が挙げられる。硬化剤は一種または複数種含まれても良い。本発明で用いられる熱硬化性樹脂(E)としては、接着用や封止用として市販されている一液型、二液型熱硬化性エポキシ樹脂が使用可能である。また、その中でも一液型熱硬化性エポキシ樹脂が好ましい。
【0052】
本発明に使用される熱硬化性樹脂(E)は、熱硬化性樹脂それぞれに適した温度で熱硬化処理を行えばよいが、23~140℃で熱硬化処理可能であることが好ましく、40~120℃で熱硬化処理可能であることがより好ましく、60~100℃で熱硬化処理可能であることがさらに好ましい。熱硬化性樹脂(E)の熱硬化処理可能な温度が上記下限を下回る場合、熱硬化反応が十分に進まない問題が生じる可能性がある。熱硬化性樹脂(E)の熱硬化処理可能な温度が上記上限を超える場合、硬化反応時に掛かる熱により半芳香族ポリアミド樹脂組成物(C)の結晶化や軟化が生じ、得られる成形体の寸法に不具合が生じる可能性がある。
【0053】
本発明で得られる半芳香族ポリアミド樹脂組成物(C)からなる成形品(D)と熱硬化性樹脂(E)との接着強度は、下記実施例の項目で説明する方法で測定される。接着強度は、本発明で得られる成形体の耐久性に関係する項目である。本発明では、接着強度は1.5MPa以上を達成することができる。また、接着強度は2.0MPa以上が好ましく、2.5MPa以上がより好ましく、3.0MPa以上がさらに好ましい。接着強度が上記下限を下回る場合、半芳香族ポリアミド樹脂(C)からなる成形品(D)と熱硬化性樹脂(E)との接着面の剥離が簡単に生じ、成形体の強度、封止性が満足できない可能性がある。該接着強度測定時の破壊状態は、試験片自体が破壊する母材破壊の状態であることがより好ましい。半芳香族ポリアミド樹脂組成物(C)がスチレン-マレイミド系共重合体(F)を所定量含むことで、母材破壊を起こす程度の接着強度を達成することができる。
【0054】
本発明で得られる成形体は、半芳香族ポリアミド樹脂組成物(C)からなる成形品(D)と化学構造中にグリシジル基を含む熱硬化性樹脂(E)を組付けてなる成形体であるが、組付ける方法としては、半芳香族ポリアミド樹脂組成物(C)からなる成形品(D)に熱硬化性樹脂(E)を注入あるいは塗布することで組付ける方法が好ましい。
【0055】
本発明で得られる成形品(D)は、熱硬化性樹脂(E)を介して同種材料、異種材料と接着することで複合成形体とすることができる。異種材料としては、特に限定されないが、例としては半芳香族ポリアミド樹脂(A)以外の樹脂、金属材料が挙げられる。
【0056】
本発明の成形体は、組成に加え、末端基量などの特定の物性を有する半芳香族ポリアミド樹脂を含有する半芳香族ポリアミド樹脂組成物と、グリシジル基を有する熱硬化性樹脂を使用することで、高い吸水寸法安定性、耐熱性、接着性を有しており、ユーザーニーズを高度に満足する成形体(複合成形体)を提供することが可能となる。半芳香族ポリアミド樹脂組成物にスチレン-マレイミド系共重合体(F)を所定量含むことで、より好ましい態様となる。
【0057】
本発明の成形体は、自動車部品、電気電子部品に広く使用することができ、用途を限定するものではないが、特には、種々のコネクタ、スイッチ、カメラ部品に使用することが好ましい。コネクタ、スイッチ、カメラ部品等は成形品のサイズが小さいことが多く、吸水による寸法変化が生じると端子との接触不良に繋がる可能性がある。成形体がハンダリフロー工程において実装される場合には、吸水による影響で成形体表面にブリスターが発生する可能性がある。成形体がカメラ部品に使用される場合には、吸水による寸法変化により光軸のずれが生じ、カメラとしての動作に不具合が生じる可能性がある。
また、コネクタやスイッチ、カメラ部品においては、外部からの水分、異物の侵入を防止する目的で熱硬化性樹脂を用いて成形体を封止することが多くある。熱硬化性樹脂との接着性が低い場合には、封止性が不足し、外部から侵入する水分、異物の影響により製品の不具合に繋がる可能性がある。
【実施例】
【0058】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例に記載された測定値は、以下の方法によって測定したものである。
【0059】
(1)末端アミノ基濃度、末端カルボキシル基濃度
半芳香族ポリアミド樹脂(A)を、重クロロホルム(CDCl3)/ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)=1/1の溶媒に溶解し、重蟻酸を滴下後、1H-NMRにて各末端基濃度を測定した。
【0060】
(2)降温結晶化に伴うピーク面積(ΔHTc2)
105℃で15時間減圧乾燥した半芳香族ポリアミド樹脂をアルミニウム製パン(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、品番170421S)に10mg計量し、アルミニウム製蓋(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、品番170420)で密封状態にして測定試料を調製した後、高感度型示差式走査熱量計DSC7020(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を用いて室温から20℃/分で昇温し、350℃で3分間保持した後に測定試料パンを取出し、液体窒素に漬け込み、急冷させた。その後、液体窒素からサンプルを取り出し、室温で30分間放置した後、再び、高感度型示差式走査熱量計DSC7020(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を用いて室温から20℃/分で昇温し、350℃で3分間保持した後、10℃/分で30℃まで降温した。降温時の冷結晶化に由来する放熱のピーク面積を(ΔHTc2)とした。
【0061】
(3)融点(Tm)
105℃で15時間減圧乾燥した半芳香族ポリアミド樹脂をアルミニウム製パン(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、品番170421S)に10mg計量し、アルミニウム製蓋(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、品番170420)で密封状態にして測定試料を調製した後、高感度型示差式走査熱量計DSC7020(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を用いて室温から20℃/分で昇温し、350℃で3分間保持した後に測定試料パンを取出し、液体窒素に漬け込み、急冷させた。その後、液体窒素からサンプルを取り出し、室温で30分間放置した後、再び、高感度型示差式走査熱量計DSC7020(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を用いて室温から20℃/分で昇温し、350℃で3分間保持した。昇温時の融解による吸熱のピーク温度を融点(Tm)とした。
【0062】
(4)ガラス転移温度(Tg)
105℃で15時間減圧乾燥した半芳香族ポリアミド樹脂をアルミニウム製パン(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、品番170421S)に10mg計量し、アルミニウム製蓋(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、品番170420)で密封状態にして測定試料を調製した後、高感度型示差式走査熱量計DSC7020(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を用いて室温から20℃/分で昇温し、350℃で3分間保持した後に測定試料パンを取出し、液体窒素に漬け込み、急冷させた。その後、液体窒素からサンプルを取り出し、室温で30分間放置した後、再び、高感度型示差式走査熱量計DSC7020(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を用いて室温から20℃/分で昇温し、350℃で3分間保持した。昇温時のベースラインの変曲点をガラス転移温度(Tg)とした。
【0063】
(5)80℃95%RH平衡吸水率
東芝機械製射出成形機EC-100を用い、シリンダー温度は樹脂の融点+20℃、金型温度は140℃に設定し、縦100mm、横100mm、厚み1mmの平板を射出成形し、評価用試験片を作製した。この試験片を150℃の雰囲気下で2時間アニール処理した後、質量を測定し、このときの質量を乾燥時の質量とした。さらに、アニール処理した試験片を85℃95%RH(相対湿度)の雰囲気下に1000時間静置した後、質量を測定し、このときの質量を飽和吸水時の質量とした。上述の方法で測定した飽和吸水時及び乾燥時の質量から以下の式より80℃95%RH平衡吸水率を求めた。
80℃95%RH平衡吸水率(%)={(飽和吸水時の質量-乾燥時の質量)/乾燥時の質量}×100
【0064】
(6)80℃95%RH平衡吸水寸法変化率
東芝機械製射出成形機EC-100を用い、シリンダー温度は樹脂の融点+20℃、金型温度は140℃に設定し、縦100mm、横100mm、厚み1mmの平板を射出成形し、評価用試験片を作製した。この試験片を150℃の雰囲気下で2時間アニール処理した後、フィルムゲートに対して平行方向、直角方向の寸法をそれぞれ端部から50mmの位置でノギスにて測定し、以下の式より平均寸法を求めた。また、このときの平均寸法を乾燥時の平均寸法とした。
平均寸法(mm)=(平行方向の寸法+直角方向の寸法)/2
さらに、アニール処理した試験片を85℃95%RH(相対湿度)の雰囲気下に1000時間静置した後、上記と同様の方法で平均寸法を求め、このときの平均寸法を平衡吸水時の平均寸法とした。上述の方法で測定した平衡吸水時及び乾燥時の平均寸法から以下の式より80℃95%RH平衡吸水寸法変化率を求めた。
80℃95%RH平衡吸水寸法変化率(%)={(平衡吸水時の平均寸法-乾燥時の平均寸法)/乾燥時の平均寸法}×100
【0065】
(7)接着強度
東芝機械製射出成形機EC-100を用い、シリンダー温度は樹脂の融点+20℃、金型温度は140℃に設定し、
図1に記載する評価用試験片を射出成形にて、作製した。
図1の上図が上から見た天面の図であり、下図が横から見た側面の図である。作製した評価用試験片の接着面(面積310mm
2:
図2の上図の矢印の先の合計面積)に熱硬化性樹脂0.04gを均一に塗布した後、同形状の評価用試験片を接着面が対となるように貼り合わせて固定した状態(
図2の下図)で、100℃の雰囲気下にて60分熱処理を行い、接着強度評価用試験片を作製した。作製した試験片を24時間室温にて静置した後、島津製作所社製精密万能試験機AG-ISにて、引張速度5mm/minで評価し、以下の式より接着強度を求めた。
接着強度(MPa)=試験片破壊時の試験力/接着面積(310mm
2)
【0066】
(8)接着破壊モード
上記に記載の方法で接着強度の評価を行った際の、破壊の状態を以下の指標を用いて分類した。
母材:接着剤(熱硬化性樹脂)部または樹脂組成物試験片と接着剤の界面での破壊は生じず、試験片自体が破壊
界面:接着剤(熱硬化性樹脂)部または樹脂組成物試験片と接着剤の界面での破壊
【0067】
(9)耐ハンダリフロー性
東芝機械製射出成形機EC-100を用い、シリンダー温度は樹脂の融点+20℃、金型温度は140℃に設定し、長さ127mm、幅12.6mm、厚み0.8mmのUL燃焼試験用テストピースを射出成形し、試験片を作製した。試験片は85℃、85%RH(相対湿度)の雰囲気中に72時間放置した。試験片はエアリフロー炉中(エイテック製 AIS-20-82C)、室温から150℃まで60秒かけて昇温させ予備加熱を行った後、190℃まで0.5℃/分の昇温速度でプレヒートを実施した。その後、100℃/分の速度で所定の設定温度まで昇温し、所定の温度で10秒間保持した後、冷却を行った。設定温度は240℃から5℃おきに増加させ、表面の膨れや変形が発生しなかった最高の設定温度をリフロー耐熱温度とし、ハンダ耐熱性の指標として用いた。
○:リフロー耐熱温度が260℃以上
×:リフロー耐熱温度が260℃未満
【0068】
本実施例は、以下に例示するように合成された半芳香族ポリアミド樹脂(A)を使用して行われたものである。
【0069】
<合成例1>
1,6-ヘキサメチレンジアミン7.54kg、テレフタル酸10.79kg、11-アミノウンデカン酸7.04kg、触媒としてジ亜リン酸ナトリウム9g、末端調整剤として酢酸40gおよびイオン交換水17.52kgを50リットルのオートクレーブに仕込み、常圧から0.05MPaまでN2で加圧し、放圧させ、常圧に戻した。この操作を3回行い、N2置換を行った後、攪拌下135℃、0.3MPaにて均一溶解させた。その後、溶解液を送液ポンプにより、連続的に供給し、加熱配管で240℃まで昇温させ、1時間、熱を加えた。その後、加圧反応缶に反応混合物が供給され、290℃に加熱され、缶内圧を3MPaで維持するように、水の一部を留出させ、低次縮合物を得た。その後、この低次縮合物を、溶融状態を維持したまま直接二軸押出し機(スクリュー径37mm、L/D=60)に供給し、樹脂温度を335℃、3箇所のベントから水を抜きながら溶融下で重縮合を進め、半芳香族ポリアミド樹脂(A-1)を得た。得られた半芳香族ポリアミド樹脂(A-1)は、1、6-ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸からなる構成単位が65.1モル%、11-アミノウンデカン酸からなる構成単位が34.9モル%で構成され、相対粘度2.1、融点314℃、1H-NMRにより分析したAEG=20eq/ton、CEG=140eq/tonであった。
【0070】
<合成例2>
1,6-ヘキサメチレンジアミン8.57kg、テレフタル酸12.24kg、11-アミノウンデカン酸7.99kg、触媒としてジ亜リン酸ナトリウム9g、末端封鎖剤として酢酸150gおよびイオン交換水16.20kgを50リットルのオートクレーブに仕込み、常圧から0.05MPaまでN2で加圧し、放圧させ、常圧に戻した。この操作を3回行い、N2置換を行った後、攪拌下135℃、0.3MPaにて均一溶解させた。その後、溶解液を送液ポンプにより、連続的に供給し、加熱配管で240℃まで昇温させ、1時間、熱を加えた。その後、加圧反応缶に反応混合物が供給され、290℃に加熱され、缶内圧を3MPaで維持するように、水の一部を留出させ、低次縮合物を得た。その後、この低次縮合物を大気中、常温、常圧の容器に取り出した後、真空乾燥機を用いて、70℃、真空度50Torrの環境下で乾燥した。乾燥後、低次縮合物をブレンダー(容量0.1m3)を用いて、210℃、真空度50Torrの環境で6時間反応させ、半芳香族ポリアミド樹脂(A-2)を得た。得られた半芳香族ポリアミド樹脂(A-2)は、1、6-ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸からなる構成単位が65.3モル%、11-アミノウンデカン酸からなる構成単位が34.7モル%で構成され、相対粘度2.03、融点313℃、1H-NMRにより分析したAEG=2eq/ton、CEG=111eq/tonであった。
【0071】
<合成例3>
1,6-ヘキサメチレンジアミン13.22kg、テレフタル酸12.25kg、11-アミノウンデカン酸7.99kg、触媒としてジ亜リン酸ナトリウム9g、末端封鎖剤として酢酸395gおよびイオン交換水12.68kgを50リットルのオートクレーブに仕込み、常圧から0.05MPaまでN2で加圧し、放圧させ、常圧に戻した。この操作を3回行い、N2置換を行った後、攪拌下135℃、0.3MPaにて均一溶解させた。その後、溶解液を送液ポンプにより、連続的に供給し、加熱配管で240℃まで昇温させ、1時間、熱を加えた。その後、加圧反応缶に反応混合物が供給され、290℃に加熱され、缶内圧を3MPaで維持するように、水の一部を留出させ、低次縮合物を得た。その後、この低次縮合物を大気中、常温、常圧の容器に取り出した後、真空乾燥機を用いて、70℃、真空度50Torrの環境下で乾燥した。乾燥後、低次縮合物をブレンダー(容量0.1m3)を用いて、210℃、真空度50Torrの環境で6時間反応させ、半芳香族ポリアミド樹脂(A-3)を得た。得られた半芳香族ポリアミド樹脂(A-3)は、1、6-ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸からなる構成単位が64.8モル%、11-アミノウンデカン酸からなる構成単位が35.2モル%で構成され、相対粘度1.84、融点314℃、1H-NMRにより分析したAEG=29eq/ton、CEG=30eq/tonであった。
【0072】
<合成例4>
特開平7-228689号公報の実施例1に記載された方法に従い、テレフタル酸単位と、1,9-ノナンジアミン単位および2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位(1,9-ノナンジアミン単位:2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位のモル比が85:15)からなる半芳香族ポリアミド樹脂の合成を行った(末端封鎖剤は安息香酸を使用)。得られた半芳香族ポリアミド樹脂(A-4)は、相対粘度2.1、融点286℃、1H-NMRにより分析したAEG=13eq/ton、CEG=50eq/tonであった。
【0073】
<合成例5>
WO2006/098434号公報の比較例3に記載された方法に従い、テレフタル酸単位と、1,9-ノナンジアミン単位および2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位(1,9-ノナンジアミン単位:2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位のモル比が80:20)からなる半芳香族ポリアミド樹脂の合成を行った(末端封鎖剤は安息香酸を使用)。得られた半芳香族ポリアミド樹脂(A-5)は、相対粘度2.1、融点282℃、1H-NMRにより分析したAEG=80eq/ton、CEG=46eq/tonであった。
【0074】
本実施例は、以下に例示するように作製された半芳香族ポリアミド樹脂組成物(C)を使用して行われたものである。
【0075】
表1、2に記載の成分と質量割合(質量部)で、コペリオン(株)製二軸押出機STS-35を用いて各ポリアミド原料の融点+20℃で溶融混練し、実施例1~9、比較例1~5の半芳香族ポリアミド樹脂組成物(C)を得た。半芳香族ポリアミド樹脂組成物(C)を用いて上述の方法でポリアミド樹脂組成物の作製に当たり使用した原料は以下の通りである。他添加剤として用いた離型剤と安定剤は、1:5の質量割合で用いた。
半芳香族ポリアミド樹脂(A-1):上記の合成例1に基づいて作製された半芳香族ポリアミド樹脂
半芳香族ポリアミド樹脂(A-2):上記の合成例2に基づいて作製された半芳香族ポリアミド樹脂
半芳香族ポリアミド樹脂(A-3):上記の合成例3に基づいて作製された半芳香族ポリアミド樹脂
半芳香族ポリアミド樹脂(A-4):上記の合成例4に基づいて作製された半芳香族ポリアミド樹脂
半芳香族ポリアミド樹脂(A-5):上記の合成例5に基づいて作製された半芳香族ポリアミド樹脂
半芳香族ポリアミド樹脂(A-6):PA10T(KINGFA SCI.&TECH.CO.,LTD.社製 Vicnyl(R) 700)
強化材(B):ガラス繊維(日本電気ガラス(株)製、T-275H)
スチレン-マレイミド系共重合体(F):スチレン-N-フェニルマレイミド-無水マレイン酸共重合体(デンカ(株)製、デンカIP MS-NIP)
離型剤:ステアリン酸マグネシウム
安定剤:ペンタエリスリチル・テトラキス[3-(3、5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート] (Chiba Speciality Chemicals社製 Irganox1010)
【0076】
本実施例は、上記に記載のように作製された半芳香族ポリアミド樹脂組成物(C)からなる成形品(D)と、熱硬化性樹脂(E)を使用して行われたものである。
【0077】
<実施例1~9、比較例1~5> 実施例1~5は参考例である。
表1、2に記載の半芳香族ポリアミド樹脂組成物(C)および熱硬化性樹脂(E)を用いて、上記記載の方法で実施例1~9、比較例1~5を行った。
熱硬化性樹脂(E-1):一液型熱硬化性エポキシ樹脂(スリーボンド社製 2222P)
熱硬化性樹脂(E-2):一液型熱硬化性エポキシ樹脂(田岡化学社製 AH-3031T)
【0078】
【0079】
【0080】
表1、2から明らかなように、実施例1~3では熱硬化性樹脂(E)との高い接着性を発現できるだけでなく、80℃95%RH平衡吸水寸法変化率も小さく、耐ハンダリフロー性も満足するなど、優れた特性を有することがわかる。また、実施例4では、AEG=2eq/tonと低く、熱硬化性樹脂(E)との接着性が実施例1~3と比べてやや低下するものの、その接着強度は2.9MPaであり、実用上は十分な特性が得られている。実施例5では、熱硬化性樹脂(E)を変更しているが、十分な接着強度が得られており、優れた特性を有することがわかる。一方で、比較例1は実施例1~3と同様のモノマーから製造された半芳香族ポリアミド樹脂を用いているが、(AEG+CEG)の値が59eq/tonと低く、熱硬化性樹脂(E)との接着性が不十分である。比較例2、3は、実施例1~5と異なるモノマーから製造された半芳香族ポリアミド樹脂(PA9T/M8T)を用いており、比較例2では(AEG+CEG)の値が63eq/tonと低いことに加えて、ΔHTc2が大きく、Tgが高いため、熱硬化性樹脂(E)との接着性が不十分である。比較例3では(AEG+CEG)の値が126eq/tonと適切であるものの、ΔHTc2が大きく、Tgが高いため、熱硬化性樹脂(E)との接着性が不十分である。比較例4では、実施例1~5と異なるモノマーから製造された半芳香族ポリアミド樹脂(PA10T)を用いており、(AEG+CEG)の値が44eq/tonと低いことに加えて、ΔHTc2が大きく、Tgが高いため、熱硬化性樹脂(E)との接着性が不十分である。比較例5では、熱硬化性樹脂(E)を変更しているが、比較例3同様に(AEG+CEG)の値が126eq/tonと適切であるものの、ΔHTc2が大きく、Tgが高いため、熱硬化性樹脂(E)との接着性が不十分である。
また、実施例6~9では、接着強度が高く、接着破壊モードも母材であることから、熱硬化性樹脂(D)との優れた接着性を有することがわかる。さらに、80℃95%RH平衡吸水率、80℃95%RH平衡吸水寸法変化率も低く、吸水時の寸法安定性にも優れる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の成形体は、組成に加え、末端基量などの特定の物性を有する半芳香族ポリアミド樹脂を含有する半芳香族ポリアミド樹脂組成物と、グリシジル基を有する熱硬化性樹脂を使用することで、高い吸水寸法安定性、耐熱性、接着性を有しており、ユーザーニーズを高度に満足した成形体(複合成形体)を工業的に有利に製造することができる。