(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】光ファイバの伝送損失測定方法およびOTDR測定装置
(51)【国際特許分類】
G01M 11/02 20060101AFI20221227BHJP
G01M 11/00 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
G01M11/02 J
G01M11/00 Q
(21)【出願番号】P 2020522211
(86)(22)【出願日】2019-05-28
(86)【国際出願番号】 JP2019021089
(87)【国際公開番号】W WO2019230720
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2022-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2018102289
(32)【優先日】2018-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲鄭▼ 鐘大
【審査官】小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-191947(JP,A)
【文献】特開2000-39378(JP,A)
【文献】特開2003-207413(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0164601(US,A1)
【文献】CELIKEL, et al.,Determination of attenuation coefficients of single mode optical fiber standards to be used in OTDR calibrations,OPTICS & LASER TECHNOLOGY,2005年,Vol. 37, No. 5,pp.420-426
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 11/00 - G01M 11/08
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
Science Direct
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め伝送損失基準値が求められている基準光ファイバに対し、OTDR測定装置により基準光ファイバ伝送損失測定値を測定する基準光ファイバ伝送損失測定工程と、
前記基準光ファイバ伝送損失測定工程で測定された前記基準光ファイバ伝送損失測定値から前記伝送損失基準値を差し引いて伝送損失差分値を算出する差分値算出工程と、
前記OTDR測定装置で被測定光ファイバの伝送損失を測定する被測定光ファイバ測定工程と、
を含み、
前記基準光ファイバ伝送損失測定工程を繰り返し行い、前記基準光ファイバ伝送損失測定値が得られる毎に前記差分値算出工程を行って伝送損失差分値を算出し、算出された複数の前記伝送損失差分値に基づいて補正値を算出し、前記被測定光ファイバ測定工程で得られた測定値に対して前記補正値を用いて補正し前記被測定光ファイバの伝送損失値を求める、
光ファイバの伝送損失測定方法。
【請求項2】
前記補正値は、
前記被測定光ファイバ測定工程を行った時点に近い順の所定の期間に得られた複数の前記伝送損失差分値を平均して補正値を算出する、
請求項1に記載の光ファイバの伝送損失測定方法。
【請求項3】
前記所定の期間は、
前記伝送損失差分値が変化する傾向に基づいて決定する、
請求項2に記載の光ファイバの伝送損失測定方法。
【請求項4】
前記基準光ファイバ伝送損失測定工程は、
複数回測定を行って、得られた複数の測定値の平均値を前記基準光ファイバ伝送損失測定値とする、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の光ファイバの伝送損失測定方法。
【請求項5】
光ファイバに光パルスを入射し、前記光ファイバからの後方散乱光の戻り時間と光量から伝送損失を測定する測定部と、
前記測定部により基準光ファイバの伝送損失を測定して得られた測定値から、前記基準光ファイバの予め求められた伝送損失基準値を差し引いて伝送損失差分値を算出する伝送損失差分値演算部と、
前記測定部により繰り返し測定が行われて、当該測定毎に得られる前記基準光ファイバの伝送損失の測定値に対してそれぞれ算出された前記伝送損失差分値をそれぞれ記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶されている複数の前記伝送損失差分値に基づいて補正値を算出し、前記測定部により被測定光ファイバの伝送損失を測定して得られた測定値に対して、前記補正値を用いて補正して前記被測定光ファイバの伝送損失値を算出する伝送損失値演算部と、
を備える、OTDR測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光ファイバの伝送損失測定方法およびOTDR測定装置に関する。
本出願は、2018年5月29日出願の日本国特許出願2018-102289号に基づく優先権を主張し、当該出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
OTDR測定装置によって光ファイバの伝送損失を測定する方法が知られている。その測定の際に、OTDR測定装置毎の器差、すなわち、OTDR測定装置毎の伝送損失の測定値のばらつきを抑えるための測定方法や補正方法が、例えば、特許文献1、2に記載されている。
特許文献1には、基準光ファイバに対する所定の測定項目を複数のOTDR測定装置(測定器)により測定し、測定値が所定の基準範囲から外れた場合などにおいて、当該OTDR測定装置に異常があると判断し光源を交換する、OTDR測定器による測定方法が記載されている。
また、特許文献2には、OTDRノンリニアリティ補正方法が記載されている。上記の補正方法は、先ず、基準光ファイバの一方の端から試験光を入射して後方散乱光出力に対するOTDR特性を測定すると共に、その直線近似データを算出する。次に上記補正方法は、上記のOTDR特性および直線近似データから差分データを算出し、被測定光ファイバに対して測定したOTDR特性を前記差分データで補正する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国特開2005-147997号公報
【文献】日本国特開2010-91406号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示の一態様に係る光ファイバの伝送損失測定方法は、
予め伝送損失基準値が求められている基準光ファイバに対し、OTDR測定装置により基準光ファイバ伝送損失測定値を測定する基準光ファイバ伝送損失測定工程と、
前記基準光ファイバ伝送損失測定工程で測定された前記基準光ファイバ伝送損失測定値から前記伝送損失基準値を差し引いて伝送損失差分値を算出する差分値算出工程と、
前記OTDR測定装置で被測定光ファイバの伝送損失を測定する被測定光ファイバ測定工程と、
を含み、
前記基準光ファイバ伝送損失測定工程を繰り返し行い、前記基準光ファイバ伝送損失測定値が得られる毎に前記差分値算出工程を行って伝送損失差分値を算出し、算出された複数の前記伝送損失差分値に基づいて補正値を算出し、前記被測定光ファイバ測定工程で得られた測定値に対して前記補正値を用いて補正し前記被測定光ファイバの伝送損失値を求める。
【0005】
本開示の一態様に係るOTDR測定装置は、
光ファイバに光パルスを入射し、前記光ファイバからの後方散乱光の戻り時間と光量から伝送損失を測定する測定部と、
前記測定部により基準光ファイバの伝送損失を測定して得られた測定値から、前記基準光ファイバの予め求められた伝送損失基準値を差し引いて伝送損失差分値を算出する伝送損失差分値演算部と、
前記測定部により繰り返し測定が行われて、当該測定毎に得られる前記基準光ファイバの伝送損失の測定値に対してそれぞれ算出された前記伝送損失差分値をそれぞれ記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶されている複数の前記伝送損失差分値に基づいて補正値を算出し、前記測定部により被測定光ファイバの伝送損失を測定して得られた測定値に対して、前記補正値を用いて補正して前記被測定光ファイバの伝送損失値を算出する伝送損失値演算部と、
を備える。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本開示の実施形態に係るOTDR測定装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】本開示の実施形態に係る光ファイバの伝送損失測定方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
OTDR測定装置の異常は、光源以外の原因による異常の場合もあり、特許文献1に記載された上記方法では、OTDR測定装置毎の測定値のばらつきの解消にならない場合がある。また、近年光ファイバの伝送損失が少なくなるに従い、従来よりさらに、光ファイバの伝送損失に対して厳密な規格管理が要求される場合がある。ところが、例えば特許文献2に記載されているような補正方法では、経時変化や温度環境の変化等によるOTDR測定装置の伝送損失の測定値のばらつきを補正することができず、被測定光ファイバに対する規格管理が不十分になるおそれがある。
【0008】
そこで、本開示は、経時変化や温度環境の変化等による伝送損失の測定値のばらつきを補正することができ、被測定光ファイバに対する規格管理を十分に行うことができる光ファイバの伝送損失測定方法およびOTDR測定装置を提供することを目的とする。
【0009】
[本開示の効果]
本開示に係る光ファイバの伝送損失測定方法およびOTDR測定装置によれば、経時変化や温度環境の変化等による伝送損失の測定値のばらつきを補正することができ、被測定光ファイバに対する規格管理を十分に行うことができる。
【0010】
(本開示の実施形態の説明)
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
本開示の一態様に係る光ファイバの伝送損失測定方法は、
(1)予め伝送損失基準値が求められている基準光ファイバに対し、OTDR測定装置により基準光ファイバ伝送損失測定値を測定する基準光ファイバ伝送損失測定工程と、
前記基準光ファイバ伝送損失測定工程で測定された前記基準光ファイバ伝送損失測定値から前記伝送損失基準値を差し引いて伝送損失差分値を算出する差分値算出工程と、
前記OTDR測定装置で被測定光ファイバの伝送損失を測定する被測定光ファイバ測定工程と、
を含み、
前記基準光ファイバ伝送損失測定工程を繰り返し行い、前記基準光ファイバ伝送損失測定値が得られる毎に前記差分値算出工程を行って伝送損失差分値を算出し、算出された複数の前記伝送損失差分値に基づいて補正値を算出し、前記被測定光ファイバ測定工程で得られた測定値に対して前記補正値を用いて補正し前記被測定光ファイバの伝送損失値を求める。
上記方法によれば、基準光ファイバ伝送損失測定を繰り返し行い、基準光ファイバ伝送損失測定値が得られる毎に伝送損失差分値を算出し、算出された複数の伝送損失差分値に基づいて補正値を算出している。これにより、基準光ファイバ伝送損失測定を繰り返し行った測定値のうちの比較的現在の状態に近いと思われる直近の測定値を用いて伝送損失差分値を得ることができる。その伝送損失差分値により被測定光ファイバの測定値を補正することにより、経時変化や温度環境の変化等による伝送損失の測定値のばらつきを補正することができ、被測定光ファイバに対する規格管理を十分に行うことができる。
【0011】
(2)前記補正値は、
前記被測定光ファイバ測定工程を行った時点に近い順の所定の期間に得られた複数の前記伝送損失差分値を平均して補正値を算出してもよい。
上記方法によれば、被測定光ファイバ測定工程を行った時点に近い順の所定の期間に得られた複数の伝送損失差分値を平均して補正値を算出するので、より確実に経時変化や温度環境の変化等による測定値のばらつきを補正することができる。
【0012】
(3)前記所定の期間は、
前記伝送損失差分値が変化する傾向に基づいて決定してもよい。
上記方法によれば、前記所定期間を伝送損失差分値の変化がある程度安定した期間とすることができ、これにより、さらに確実に測定値のばらつきを補正することができる。
【0013】
(4)前記基準光ファイバ伝送損失測定工程は、
複数回測定を行って、得られた複数の測定値の平均値を前記基準光ファイバ伝送損失測定値としてもよい。
上記方法によれば、複数回測定を行って、得られた複数の測定値の平均値を基準光ファイバ伝送損失測定値とするので、基準光ファイバ伝送損失測定値をより正確な値とすることができる。
【0014】
また、本開示の一態様に係るOTDR測定装置は、
(5)光ファイバに光パルスを入射し、前記光ファイバからの後方散乱光の戻り時間と光量から伝送損失を測定する測定部と、
前記測定部により基準光ファイバの伝送損失を測定して得られた測定値から、前記基準光ファイバの予め求められた伝送損失基準値を差し引いて伝送損失差分値を算出する伝送損失差分値演算部と、
前記測定部により繰り返し測定が行われて、当該測定毎に得られる前記基準光ファイバの伝送損失の測定値に対してそれぞれ算出された前記伝送損失差分値をそれぞれ記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶されている複数の前記伝送損失差分値に基づいて補正値を算出し、前記測定部により被測定光ファイバの伝送損失を測定して得られた測定値に対して、前記補正値を用いて補正して前記被測定光ファイバの伝送損失値を算出する伝送損失値演算部と、
を備える。
上記構成によれば、OTDR測定装置を使用することで、基準光ファイバ伝送損失測定が繰り返し行われ、基準光ファイバ伝送損失測定値が得られる毎に伝送損失差分値が算出され、算出された複数の伝送損失差分値に基づいて補正値が算出される。このような、補正値を用いて被測定光ファイバ測定で得られた測定値を補正するので、経時変化や温度環境の変化等による伝送損失の測定値のばらつきを補正することができ、被測定光ファイバに対する規格管理を十分に行うことができる。
【0015】
(本開示の実施形態の詳細)
本開示の実施形態に係る光ファイバの伝送損失測定方法およびOTDR測定装置の具体例を、図面を参照しつつ説明する。
なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0016】
図1は、本開示の実施形態に係るOTDR測定装置の一例を示すブロック図である。
図1に示すように、OTDR(Optical Time Domain Reflectometer)測定装置1は、測定部2と、伝送損失差分値演算部3と、記憶部4と、伝送損失値演算部5と、を備えている。
【0017】
測定部2は、光ファイバに光パルスを入射し、後方散乱光の戻り時間と戻り光量とから光ファイバの伝送損失を測定するものである。
測定部2では、パルス発生器20から発生される一定周期のパルス波で、例えば、レーザダイオード等の光源21が励起され、光源21から光パルスが発生される。光源21から発生された光パルスは、方向性結合器22を通り、光コネクタ23を介して接続される基準光ファイバや被測定光ファイバなどの光ファイバ10の一端に入射され、その光ファイバ10内を伝搬される。ここで、基準光ファイバとは、予め準備されている光ファイバであって、特性の安定している光ファイバのことを意味する。特性の安定している光ファイバとは、例えば、製造条件が安定しているプリフォームの中間部分から製造された光ファイバのことをいう。
【0018】
光ファイバ10内に伝搬された光パルスは、光ファイバ10内に、例えば、破断点があると、その破断点で一般的には全反射される。なお、OTDR測定では、伝送損失特性の傾きが光ファイバ10の伝送損失を表す。また、光ファイバ10にガラス異常や巻き乱れがあると、伝送損失特性の波形がうねったり、伝送損失特性の段差となったりする。したがって、伝送損失特性を測定することにより、光ファイバ10の伝送損失、ガラスや巻き状態の異常等を検知することが可能である。
【0019】
光ファイバ10内で反射された光パルスは、後方散乱光出力として方向性結合器22に戻り、方向性結合器22から受光部24に送られる。受光部24は、例えば、アバランシェ・フォトダイオード(APD)等を内蔵しており、受光した後方散乱光出力を電気信号に変換する光電変換器として機能する。受光部24において変換された電気信号は、アンプ(増幅器)25で増幅された後、信号処理装置26に送られる。
【0020】
信号処理装置26は、受信した電気信号に対して所定の処理を実施し、後方散乱光出力に対する伝送損失特性を求め、伝送損失特性の傾きから光ファイバ10の伝送損失測定値を算出する。
【0021】
例えば、方向性結合器22に光コネクタ23を介して接続されている光ファイバ10が基準光ファイバである場合、信号処理装置26は、基準光ファイバの伝送損失測定値を算出し伝送損失差分値演算部3に向けて送信する。
【0022】
また、例えば、方向性結合器22に光コネクタ23を介して接続されている光ファイバ10が被測定光ファイバである場合、信号処理装置26は、被測定光ファイバの伝送損失測定値を算出し伝送損失値演算部5に向けて送信する。
【0023】
伝送損失差分値演算部3は、信号処理装置26から送信されてきた基準光ファイバの伝送損失測定値から、基準光ファイバの伝送損失基準値を差し引いて、測定部2自身の測定ずれである伝送損失差分値を算出する演算部である。伝送損失差分値演算部3は、算出された伝送損失差分値を記憶部4に向けて送信する。ここで、伝送損失基準値とは、基準光ファイバの基準となる伝送損失のことであり、予め求められている基準光ファイバの伝送損失を意味する。なお、伝送損失基準値は、例えば、予め準備した基準測定用のOTDR測定装置であって、安定した測定性能を有しているOTDR測定装置を用いて測定するようにしてもよい。
【0024】
記憶部4は、例えば、伝送損失差分値演算部3で算出された伝送損失差分値、測定部2で測定された伝送損失基準値および基準光ファイバの伝送損失測定値等を保存するためのメモリである。
【0025】
伝送損失値演算部5は、信号処理装置26から送信されてくる被測定光ファイバ測定値を補正するための補正値を算出する演算部である。伝送損失値演算部5は、記憶部4に記憶されている複数の伝送損失差分値に基づいて、上記補正値を算出する。
また、伝送損失値演算部5は、信号処理装置26から送信されてくる被測定光ファイバ測定値を上記補正値を用いて補正し、被測定光ファイバの伝送損失値を算出する演算部である。
【0026】
次に、OTDR測定装置1を用いた光ファイバの伝送損失測定方法について、
図2のフローチャートを参照して説明する。
【0027】
(基準光ファイバの値付け)
先ず、基準光ファイバの損失波長特性を測定する(ステップS1)。
次に、分光器に起因する波長ずれで生じた損失測定誤差を測定し、その誤差を補正する(ステップS2)。
上記ステップS1とステップS2とに基づいて、基準光ファイバの伝送損失である伝送損失基準値α(s,0)を予め求めておく(ステップS3)。OTDRの測定波長としては、例えば、1310nmが用いられる(以下において同様とする)。伝送損失基準値α(s,0)は、例えば、OTDR測定装置1の記憶部4に保存しておく。
【0028】
(伝送損失差分値の測定)
上記基準光ファイバの伝送損失である基準光ファイバ伝送損失測定値を測定部2により測定する(ステップS4:基準光ファイバ伝送損失測定工程)。この測定は、例えば、毎日、製造作業の開始時に一度実施する。この一度の実施の際には、複数回の測定を行い、得られた複数の測定値の平均値を基準光ファイバ伝送損失測定値とする。なお、複数回の測定に限定されず、一回の測定で得られた測定値を基準光ファイバ伝送損失測定値としてもよい。測定された基準光ファイバ伝送損失測定値α(s,i)は、記憶部4に記憶しておく。
【0029】
続いて、伝送損失差分値演算部3により、ステップS4で測定された基準光ファイバ伝送損失測定値α(s,i)からステップS3で求められている伝送損失基準値α(s,0)を差し引いて伝送損失差分値ε(s,i)を算出する(ステップS5:差分値算出工程)。
算出された伝送損失差分値ε(s,i)を記憶部4に記憶する(ステップS6)。記憶部4への伝送損失差分値の記憶は、例えば、毎日、基準光ファイバの伝送損失値が測定されて伝送損失差分値ε(s,i)(i=1、2、・・・)が算出されるたびに行って蓄積しておく。
【0030】
記憶部4に蓄積された複数の伝送損失差分値ε(s,1)、ε(s,2)、・・・に基づいて、被測定光ファイバの伝送損失の測定値(被測定光ファイバ測定値)を補正するための補正値εを、伝送損失値演算部5によって算出する(ステップS7)。補正値εの算出は、被測定光ファイバの伝送損失の測定を行った時点に近い順の所定の期間に得られた複数の伝送損失差分値ε(s,i)に基づいて行う。また、補正値εの算出は、得られた複数の伝送損失差分値ε(s,i)を平均化することにより求める。例えば、被測定光ファイバの伝送損失の測定を行ったその日から4日前までの5回分の伝送損失差分値ε(s,i)を平均化することにより補正値εを求める。
【0031】
なお、上記所定の期間は、伝送損失差分値ε(s,i)が変化する傾向に基づいて決定してもよい。例えば、記憶部4に蓄積される複数の伝送損失差分値ε(s,1)、ε(s,2)、・・・を参照し、それらの伝送損失差分値が、大きくなっていく或いは小さくなっていく等の経時変化の傾向が認められた場合、測定を行った時点の直近で傾向の変化が安定している日数分の伝送損失差分値ε(s,i)を用いて補正値εを算出してもよい。
被測定光ファイバ測定値α(mea)を補正するために、算出した上記補正値εを出力する(ステップS8)。
【0032】
(被測定光ファイバの損失測定)
測定対象である被測定光ファイバの伝送損失を測定部2により測定する(ステップS9:被測定光ファイバ測定工程)。
ステップS9で測定された被測定光ファイバの伝送損失の測定値(被測定光ファイバ測定値α(mea))に対して、ステップS8で算出された補正値εを用いて補正し、被測定光ファイバの伝送損失値α’を求める(ステップS10)。例えば、ステップS9で測定された被測定光ファイバ測定値α(mea)からステップS8で出力された補正値εを差し引いて被測定光ファイバの伝送損失値α’を求める。
ステップS10で求められた伝送損失値α’を、例えばOTDR測定装置1の表示装置(図示せず)に表示する(ステップS11)。
【0033】
なお、ステップS7で算出された補正値εが大きすぎる場合、OTDR測定装置1が故障していることが考えられる。そこで、例えば、記憶部4に記憶されている基準光ファイバ伝送損失測定値のばらつきを予め求めておき、補正値がそのばらつきを超える場合はOTDR測定装置1が故障していると判定してもよい。
【0034】
上記OTDR測定装置1および光ファイバの伝送損失測定方法によれば、基準光ファイバ伝送損失の測定が繰り返し行なわれ、基準光ファイバ伝送損失測定値α(s,i)が得られる毎に伝送損失差分値ε(s,i)が算出される。そして、算出された複数の伝送損失差分値ε(s,i)に基づいて補正値εが算出され、算出された補正値εを用いて被測定光ファイバ測定値α(mea)が補正される。このため、例えば、毎日の製造作業の開始時において、基準光ファイバ伝送損失測定値α(s,i)のうちの比較的現在の状態に近いと思われる直近の測定値から補正値εを算出し、その補正値εにより被測定光ファイバ測定値α(mea)を補正することができる。したがって、OTDR測定装置1における経時変化や温度環境の変化等による伝送損失の測定値のばらつき(ずれ)を補正することができ、被測定光ファイバに対する規格管理を十分に行うことができる。
【0035】
また、被測定光ファイバの伝送損失の測定を行った時点に近い順の所定の期間に得られた複数の伝送損失差分値ε(s,i)を平均して補正値εが算出される。このため、この平均化された補正値εを用いて被測定光ファイバの伝送損失の測定値α(mea)を補正することができるので、より確実に経時変化や温度環境の変化等による測定値のばらつきを補正することができる。
【0036】
また、平均化された補正値を算出するための複数の伝送損失差分値ε(s,i)を所定の期間から得る場合、例えば、伝送損失差分値ε(s,i)の変化がある程度安定している期間をその所定の期間として決定することができる。このため、さらに確実に経時変化や温度環境の変化等による測定値のばらつきを補正することができる。
【0037】
また、基準光ファイバの伝送損失を測定する場合、複数回の測定を行って、得られた複数の測定値の平均値を基準光ファイバ伝送損失測定値α(s,i)とすることができる。このため、基準光ファイバ伝送損失測定値α(s,i)を、より正確な測定値とすることができる。
【0038】
以上、本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。また、上記説明した構成部材の数、位置、形状等は上記実施の形態に限定されず、本発明を実施する上で好適な数、位置、形状等に変更することができる。
【符号の説明】
【0039】
1:OTDR測定装置
2:測定部
3:伝送損失差分値演算部
4:記憶部
5:伝送損失値演算部
10:光ファイバ(基準光ファイバ,被測定光ファイバ)
20:パルス発生器
21:光源
22:方向性結合器
23:光コネクタ
24:受光部
25:アンプ
26:信号処理装置