(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】ベンゾオキサジン樹脂組成物、プリプレグ、及び繊維強化複合材料
(51)【国際特許分類】
C08J 5/04 20060101AFI20221227BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20221227BHJP
C08L 65/00 20060101ALI20221227BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
C08J5/04 CEZ
C08J5/24 CFC
C08L65/00
C08L63/00 A
(21)【出願番号】P 2020536990
(86)(22)【出願日】2019-03-19
(86)【国際出願番号】 IB2019000263
(87)【国際公開番号】W WO2019186269
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-02-28
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】ベンジャミン・リーマン
(72)【発明者】
【氏名】ベンジャミン・ルッツ
(72)【発明者】
【氏名】荒井 信之
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-169364(JP,A)
【文献】特開2006-291218(JP,A)
【文献】特開平1-132623(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/04
C08L 65/00
C08L 63/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピーク反応温度を有する成分[A]及びピーク反応温度を有する成分[B]を含む、繊維強化複合材料のためのベンゾオキサジン樹脂組成物であって:
a)前記ベンゾオキサジン樹脂組成物中で示差走査熱量計(DSC)を用いてASTM D3418に従って測定した場合の成分[A]及び成分[B]の前記ピーク反応温度が、互いに対して50℃以内であり;
b)成分[A]は、少なくとも1つの多官能性ベンゾオキサジン樹脂を含み、又は前記少なくとも1つの多官能性ベンゾオキサジン樹脂から本質的に成り、又は前記少なくとも1つの多官能性ベンゾオキサジン樹脂から成り;
c)成分[B]は、式(I)で表される少なくとも1つの脂環式エポキシ樹脂を含み、又は式(I)で表される少なくとも1つの脂環式エポキシ樹脂から本質的に成り、又は式(I)で表される少なくとも1つの脂環式エポキシ樹脂から成り;
【化1】
式中、R
1及びR
2は、同一又は異なっていてよく、各々、エポキシ基の炭素原子と一緒になって少なくとも1つの脂肪族環を形成する脂肪族部分であり、Xは、所望に応じて存在してよく、Xが存在する場合、Xは、単結合又は45g/モル未満の分子量を有する二価部分を表し、Xが存在しない場合、前記脂環式エポキシ樹脂は、R
1及びR
2を含む縮合脂肪族環を備え;並びに、
d)重合触媒の非存在下で、前記ベンゾオキサジン樹脂組成物中で示差走査熱量計(DSC)を用いてASTM D3418に従って測定した場合の成分[A]及び成分[B]の前記ピーク反応温度が、互いに対して50℃以内でない場合、前記ベンゾオキサジン樹脂組成物が、追加として、前記ベンゾオキサジン樹脂組成物中で示差走査熱量計によって測定した場合の成分[A]及び成分[B]の前記ピーク反応温度を互いに対して50℃以内とするのに有効である重合触媒を含む成分[D]を含み、さらに成分[C]を含み、成分[C]は、1又は複数の繰り返し単位を備えた熱可塑性化合物を含
み、前記熱可塑性化合物が少なくとも150℃のガラス転移温度を有するポリエーテルスルホン又はポリイミド樹脂であり、前記ポリイミド樹脂熱可塑性化合物がフェニルトリメチルインダン単位又はフェニルインダン単位を追加として含有する骨格を有するポリイミド樹脂である、ベンゾオキサジン樹脂組成物。
【請求項2】
成分[A]が、一般式(II)で表される通りの2つ以上の構造単位を備える少なくとも1つの多官能性ベンゾオキサジン樹脂を含み、又は前記少なくとも1つの多官能性ベンゾオキサジン樹脂から本質的に成り、又は前記少なくとも1つの多官能性ベンゾオキサジン樹脂から成り:
【化2】
式中、R
1は、炭素数1~12の直鎖状アルキル基、炭素数3~8の環状アルキル基、フェニル基、又は炭素数1~12の直鎖状アルキル基若しくはハロゲンで置換されたフェニル基を示し、ハロゲンは、芳香環酸素原子が結合した炭素原子に対してオルソ位及びパラ位にある炭素原子のうちの少なくとも1つと結合している、
請求項1に記載のベンゾオキサジン樹脂組成物。
【請求項3】
成分[B]が、10℃/分の昇温速度で示差走査熱量計によって個別に分析された場合、成分[A]、[B]、及び所望に応じて[D]の混合物よりも高い温度でピーク発熱を呈する、請求項1に記載のベンゾオキサジン樹脂組成物。
【請求項4】
成分[A]及び成分[B]が、当量比[A
eq]/[B
eq]が0.5~2.5となるのに有効な量で存在し、[A
eq]=成分[A]中のベンゾオキサジン官能基の当量であり、[B
eq]=成分[B]中のエポキシ基の当量である、請求項1に記載のベンゾオキサジン樹脂組成物。
【請求項5】
成分[B]が、式(I)で表される少なくとも1つの脂環式エポキシ樹脂を含み、式中、Xは、単結合である、請求項2に記載のベンゾオキサジン樹脂組成物。
【請求項6】
成分[B]が、式(I)で表される少なくとも1つの脂環式エポキシ樹脂を含み、式中、R
1及びR
2は、各々独立して、シクロペンタン環の一部、シクロヘキサン環の一部、又はビシクロヘプタン環の一部である、請求項2に記載のベンゾオキサジン樹脂組成物。
【請求項7】
成分[D]が存在する、請求項1に記載のベンゾオキサジン樹脂組成物。
【請求項8】
成分[D]が、スルホネートエステルを含む、請求項
7に記載のベンゾオキサジン樹脂組成物。
【請求項9】
さらに、成分[E]を含み、前記成分[E]は、平均粒径が5~30μmである熱可塑性樹脂粒子を含む、請求項1に記載のベンゾオキサジン樹脂組成物。
【請求項10】
成分[A]が、互いに異なる成分[A1]及び成分[A2]を含む、請求項1に記載のベンゾオキサジン樹脂組成物。
【請求項11】
成分[B]が、互いに異なる成分[B1]及び成分[B2]を含む、請求項1に記載のベンゾオキサジン樹脂組成物。
【請求項12】
前記ベンゾオキサジン樹脂組成物が硬化されて、ガラス転移温度を有する硬化マトリックスが提供される場合、前記硬化マトリックスの前記ガラス転移温度は、G’オンセット法によって特定された場合、最も高い硬化温度よりも少なくとも10℃高い、請求項1に記載のベンゾオキサジン樹脂組成物。
【請求項13】
前記ベンゾオキサジン樹脂組成物が、220℃以下の温度で硬化されて、ガラス転移温度を有する硬化マトリックスが提供される場合、水分に曝露した後の前記硬化マトリックスの前記ガラス転移温度は、G’オンセット法によって特定された場合、少なくとも205℃である、請求項1に記載のベンゾオキサジン樹脂組成物。
【請求項14】
前記ベンゾオキサジン樹脂組成物が硬化されて、曲げ弾性率を有する硬化マトリックスが提供される場合、水分に曝露した後の180℃での前記硬化マトリックスの前記曲げ弾性率は、三点曲げ法によって特定された場合、周囲条件下、室温での前記硬化マトリックスの前記曲げ弾性率の少なくとも30%である、請求項1に記載のベンゾオキサジン樹脂組成物。
【請求項15】
請求項1から
14のいずれか一項に記載のベンゾオキサジン樹脂組成物で含浸された強化繊維マトリックスを含むプリプレグ。
【請求項16】
請求項
15に記載のプリプレグを硬化することによって得られる繊維強化複合材料。
【請求項17】
請求項1から
14のいずれか一項に記載のベンゾオキサジン樹脂組成物及び強化繊維を含む混合物を硬化することによって得られる硬化マトリックスを含む繊維強化複合材料。
【請求項18】
ベンゾオキサジン樹脂組成物を製造する方法であって、前記方法は:
a)示差走査熱量計(DSC)を用いてASTM D3418に従って測定された場合のピーク反応温度を有し、少なくとも1つの多官能性ベンゾオキサジン樹脂を含む、又は前記少なくとも1つの多官能性ベンゾオキサジン樹脂から本質的に成る、又は前記少なくとも1つの多官能性ベンゾオキサジン樹脂から成る成分[A]を選択すること;
b)示差走査熱量測定(DSC)を用いてASTM D3418に従って測定された場合のピーク反応温度を有し、式(I)で表され;
【化3】
式中、R
1及びR
2は、同一又は異なっていてよく、各々、エポキシ基の炭素原子と一緒になって少なくとも1つの脂肪族環を形成する脂肪族部分であり、Xは、所望に応じて存在してよく、Xが存在する場合、Xは、単結合又は45g/モル未満の分子量を有する二価部分を表し、Xが存在しない場合、前記脂環式エポキシ樹脂は、R
1及びR
2を含む縮合脂肪族環を備える、
少なくとも1つの脂環式エポキシ樹脂を含む、又は前記少なくとも1つの脂環式エポキシ樹脂から本質的に成る、又は前記少なくとも1つの脂環式エポキシ樹脂から成る成分[B]を選択すること;並びに、
さらに成分[C]を含み、成分[C]は、1又は複数の繰り返し単位を備えた熱可塑性化合物を含み、
前記熱可塑性化合物が少なくとも150℃のガラス転移温度を有するポリエーテルスルホン又はポリイミド樹脂であり、前記ポリイミド樹脂熱可塑性化合物がフェニルトリメチルインダン単位又はフェニルインダン単位を追加として含有する骨格を有するポリイミド樹脂であり、
c)少なくとも成分[A]及び成分[B]を混合して、前記ベンゾオキサジン樹脂組成物を得ること、
を含み;
成分[A]及び成分[B]の前記ピーク反応温度を互いに対して50℃以内とするのに有効である重合触媒を含む成分[D]が、前記重合触媒の非存在下では、前記ベンゾオキサジン樹脂組成物中で示差走査熱量計(DSC)を用いてASTM D3418に従って測定した場合の成分[A]及び成分[B]の前記ピーク反応温度が互いに対して50℃以内でない場合に、追加として、成分[A]及び成分[B]と混合される、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年3月30日に出願された米国仮特許出願第62/650,489号及び2019年2月26日に出願された米国仮特許出願第62/810,671号の優先権を主張するものである。これらの各特許出願の開示事項の全内容は、あらゆる点において参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、ベンゾオキサジン樹脂組成物、プリプレグ、及び炭素繊維強化複合材料を例とする繊維強化複合材料に関する。より詳細には、本開示は、高温多湿などの極端な使用環境下で優れた性能を有する繊維強化複合材料に使用するためのベンゾオキサジン樹脂組成物を提供する。
【背景技術】
【0003】
強化繊維及びマトリックス樹脂を含む繊維強化複合材料は、軽量であり、非常に優れた機械特性を有しているため、スポーツ、航空宇宙、及び一般産業用途において広く用いられている。
【0004】
繊維強化複合材料を製造するための方法としては、未硬化マトリックス樹脂を強化繊維に注入してシート状プリプレグ中間体を形成し、続いて硬化する方法、及び液状樹脂を、モールド中に配置しておいた強化繊維中に流動させて中間体を製造し、続いて硬化する樹脂トランスファー成形法、が挙げられる。プリプレグを用いる方法では、通常は、複数のプリプレグシートを積み重ねた後にホットプレスすることによって、繊維強化複合材料が得られる。プリプレグに用いられるマトリックス樹脂は、生産性を考慮した観点から、一般的には熱硬化性樹脂である。
【0005】
フェノール樹脂、メラミン樹脂、ビスマレイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂などが、熱硬化性樹脂として用いられてきた。しかし、耐湿性及び耐熱性を改善するという観点から、近年では、国際公開第2003018674号に開示されるように、繊維強化複合材料のマトリックス樹脂としてベンゾオキサジン樹脂を用いることに関する研究が進められている。
【0006】
しかし、ほとんどの多官能性ベンゾオキサジン樹脂は、室温近辺又はそれよりも高い融点、及び高い粘度を有する。これらの特性により、強化繊維と組み合わせてプリプレグのためのマトリックス材料として用いた場合、ベンゾオキサジン樹脂は、乏しいタック性及びドレープ性という欠点を呈する。さらに、ベンゾオキサジン樹脂の硬化には、少なくとも200℃という高温で3時間という長い時間が必要であり、これによって、硬化温度を考えた場合、靭性が乏しくガラス転移温度が低い脆弱な材料が得られる。
【0007】
理論に束縛されるものではないが、脆弱な材料、すなわち、低い靭性及び伸びを有する材料が、繊維強化複合材料に用いられた場合に引張強度の低下を受けることは、一般的に受け入れられている。したがって、複合材料用途において引張強度及び破壊靱性を改善するために、熱可塑性化合物をベンゾオキサジン樹脂組成物に添加することが好ましい。熱可塑性化合物の添加が、熱可塑性化合物が完全に溶解した場合に(上述の特性を改善するための理想的なケース)、ベンゾオキサジン樹脂の粘度も上昇させることから、反応性希釈剤を製剤に添加してベンゾオキサジン樹脂の粘度を低下させることが必須である。一般に、ベンゾオキサジン樹脂組成物の粘度は、温度が25℃~100℃の場合、1~50000ポアズであるはずである。ベンゾオキサジン樹脂組成物が、プリプレグによるホットメルト法を用いて使用することを意図している場合、粘度は、温度が60°~100℃の場合、10~10000ポアズであるべきである。本発明において、粘度とは、温度を2℃/分の速度で一定上昇させながら、動的粘弾性測定装置(ARES、TA Instruments製)及び直径40mmのパラレルプレートを用い、周波数0.5Hz及びギャップ長1mmで測定した場合の複素粘弾性係数n*を意味する。
【0008】
米国特許出願公開第20150141583号に開示されるように、40℃で液体である多官能性グリシジル型エポキシ樹脂が、ベンゾオキサジンのための反応性希釈剤として効果的に用いられてきた。これらのエポキシは、ベンゾオキサジンのための理想的な反応性希釈剤であり、なぜなら、それらが、ベンゾオキサジン樹脂の粘度を低下させるのに有効であり、熱可塑性化合物を容易に溶解させることができ、及び硬化マトリックスの架橋密度を高めることで、無希釈ベンゾオキサジン樹脂と比較してガラス転移温度を向上させるからである。残念なことに、それらは、典型的には、無希釈ベンゾオキサジン樹脂と比較してガラス転移温度を向上させはするが、グリシジル型エポキシ/ベンゾオキサジン樹脂のガラス転移温度は、特に調湿後、シアネートエステル及びビスマレイミドなどの他の熱硬化性樹脂と比較して低い。このことは、グリシジル型エポキシ/ベンゾオキサジン樹脂は、特に調湿後、高い温度での弾性率保持率も低いことを意味する。
【0009】
米国特許出願公開第20150376406号に開示されるように、脂環式エポキシ樹脂を樹脂組成物中に含めることによって、グリシジル型エポキシ樹脂のみを含有するベンゾオキサジン樹脂組成物と比較して、粘度を低下させ、水の吸収を抑え、UV分解を低減し、ガラス転移温度を高めることができる。しかし、米国特許出願公開第20150376406号のケースでは、粘度を低下させるために用いられた脂環式エポキシは、エステル結合を含有するその脂肪族骨格がフレキシブルであることにより、硬化マトリックスのガラス転移温度も低下させる。加えて、フレキシブルな脂肪族骨格は、湿熱ガラス転移温度よりも20℃低い温度で試験された場合であっても、調湿後に樹脂の弾性率も大きく低下させる。フレキシブルな脂肪族骨格を有する市販の脂環式エポキシの例を、式A及びBに示す(nは、例えば、1~5の整数であってよい)。
【0010】
【0011】
国際公開第2017188448(A1)号に開示されるように、リジッドな骨格を持つ他の低分子量脂環式エポキシ(以下のジシクロペンタジエン系エポキシ;ジシクロペンタジエン型ジエポキシド、ビスノルボルナン型エポキシド、及びトリシクロペンタジエン型ジエポキシドなど)を含めることによって、ベンゾオキサジンブレンドのガラス転移温度を向上させることができる。残念なことに、それらが上述した刊行物に記載の方法と同様に用いられた場合、ベンゾオキサジン樹脂でのそれらの使用を制限するいくつかの欠点が存在する。まず、高いガラス転移温度を実現するために、これらのエポキシでは、室温近辺又はそれよりも高い融点を有し、樹脂組成の粘度をさらに高める硬化剤、4,4’-スルホニルジフェノールを用いることが必要である。加えて、硬化剤が用いられた場合であっても、これらのエポキシは、260℃という高さの硬化温度が必要であり、これは、加工の観点から望ましくないことに加えて、ベンゾオキサジン樹脂の分解温度よりも高い。220℃を例とするより低い硬化温度が用いられる場合、ベンゾオキサジン樹脂は反応するが、脂環式エポキシは、反応温度が高いことに起因して、触媒の存在下にも関わらず反応していないことから、硬化マトリックスのガラス転移温度は低い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述の問題を解決するために、本発明者らは、ベンゾオキサジン樹脂組成物中に、特定の種類の構造を有する脂環式エポキシ樹脂(例:脂環式エポキシ樹脂が、単結合若しくは分子量が45g/モル未満の結合基によって繋がっている脂環式エポキシ部分を含有する、又は縮合環系を含有する)を組み込んで、多官能性ベンゾオキサジン樹脂及び脂環式エポキシ樹脂成分のピーク反応温度を調整することによって、硬化マトリックスにおいて、特に調湿後に、高いガラス転移温度及び弾性率保持率の両方が実現され、室温において(未硬化の状態で)低い粘度が実現されることを見出した。本発明は、したがって、硬化して、耐熱性に優れた硬化品を形成することができ、それによって、上記で述べた先行技術で公知の樹脂組成物の欠点が克服されるベンゾオキサジン樹脂組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、ピーク反応温度を有する成分[A]及びピーク反応温度を有する成分[B]を含む、又は成分[A]及び成分[B]から本質的に成る、又は成分[A]及び成分[B]から成る、繊維強化複合材料のためのベンゾオキサジン樹脂組成物に関し:
a)ベンゾオキサジン樹脂組成物中で示差走査熱量計(DSC)を用いてASTM D3418に従って測定した場合の成分[A]及び成分[B]のピーク反応温度は、互いに対して50℃以内であり;
b)成分[A]は、少なくとも1つの多官能性ベンゾオキサジン樹脂を含み、又は少なくとも1つの多官能性ベンゾオキサジン樹脂から本質的に成り、又は少なくとも1つの多官能性ベンゾオキサジン樹脂から成り;及び
c)成分[B]は、式(I)で表される少なくとも1つの脂環式エポキシ樹脂を含み、又は式(I)で表される少なくとも1つの脂環式エポキシ樹脂から本質的に成り、又は式(I)で表される少なくとも1つの脂環式エポキシ樹脂から成り;
【0014】
【0015】
式中、R1及びR2は、同一又は異なっていてよく、各々、エポキシ基の炭素原子と一緒になって少なくとも1つの脂肪族環を形成する脂肪族部分であり、Xは、単結合を表し;及び
d)重合触媒の非存在下で、ベンゾオキサジン樹脂組成物中で示差走査熱量計(DSC)を用いてASTM D3418に従って測定した場合の成分[A]及び成分[B]のピーク反応温度が、互いに対して50℃以内でない場合、ベンゾオキサジン樹脂組成物は、追加として、ベンゾオキサジン樹脂組成物中で示差走査熱量計によって測定した場合の成分[A]及び成分[B]のピーク反応温度を互いに対して50℃以内とするのに有効である重合触媒を含む、若しくは重合触媒から本質的に成る、若しくは重合触媒から成る成分[D]を含む、又は成分[D]から本質的に成る、又は成分[D]から成り、さらに成分[C]を含み、成分[C]は、1又は複数の繰り返し単位を備えた熱可塑性化合物を含み、前記熱可塑性化合物が少なくとも150℃のガラス転移温度を有するポリエーテルスルホン又はポリイミド樹脂であり、前記ポリイミド樹脂熱可塑性化合物がフェニルトリメチルインダン単位又はフェニルインダン単位を追加として含有する骨格を有するポリイミド樹脂である。
【0016】
したがって、成分[A]は、1若しくは複数の多官能性ベンゾオキサジン樹脂を含んでよく、又は1若しくは複数の多官能性ベンゾオキサジン樹脂から本質的に成ってよく、又は1若しくは複数の多官能性ベンゾオキサジン樹脂から成ってよく、成分[B]は、1若しくは複数の脂環式エポキシ樹脂を含んでよい、又は1若しくは複数の脂環式エポキシ樹脂から本質的に成ってよい、又は1若しくは複数の脂環式エポキシ樹脂から成ってよい。1若しくは複数の重合触媒を含んでよい、又は1若しくは複数の重合触媒から本質的に成ってよい、又は1若しくは複数の重合触媒から成ってよい成分[D]は、重合触媒の非存在下で、一緒に配合された成分[A]及び成分[B]が、本発明の目的のために互いに充分に近いピーク反応温度(例:互いに対して50℃以内)を呈するかどうかに応じて、ベンゾオキサジン樹脂組成物中に存在しても、又は存在していなくてもよい。ベンゾオキサジン樹脂組成物は、追加として、成分[A]、[B]、及び[D]以外の1又は複数の成分を含有しても、又は含有していなくてもよい。
【0017】
本発明の様々な実施形態では、示差走査熱量計によって(配合されたベンゾオキサジン樹脂組成物中で)測定した場合の成分[A]及び成分[B]のピーク反応温度は、互いに対して50℃以内、互いに対して45℃以内、互いに対して40℃以内、互いに対して35℃以内、互いに対して30℃以内、互いに対して25℃以内、互いに対して20℃以内、互いに対して15℃以内、互いに対して10℃以内、又は互いに対して5℃以内である。他の実施形態では、配合されたベンゾオキサジン樹脂組成物中の成分[A]及び[B]のピーク反応温度は、本質的に同じである、又は同じである。
【0018】
好ましい実施形態では、配合されたベンゾオキサジン樹脂組成物中において、成分[A]のピーク反応温度は、成分[B]のピーク反応温度よりも低い。例えば、成分[A]のピーク反応温度は、成分[B]のピーク反応温度よりも低くてよいが、50℃以下低くてよい、45℃以下低くてよい、35℃以下低くてよい、30℃以下低くてよい、25℃以下低くてよい、20℃以下低くてよい、15℃以下低くてよい、10℃以下低くてよい、又は5℃以下低くてよい。一般的に述べると、本発明のベンゾオキサジン樹脂組成物の成分を、ベンゾオキサジン樹脂組成物が加熱された場合に、両成分の硬化が、加熱サイクルの少なくとも一部分の過程で同時に発生するように選択し、制御することが望ましいことが見出された。すなわち、成分[A]の少なくとも一部分が未硬化のままであるときに、成分[B]が反応、硬化を開始する。
【0019】
本発明のベンゾオキサジン樹脂組成物は、繊維強化複合材料の成形に有用である。より詳細には、本発明により、加熱によって得られる硬化材料が高いレベルの耐熱性を有する、繊維強化複合材料のためのベンゾオキサジン樹脂組成物を提供することが可能となる。本発明の分野において、高いレベルの耐熱性を有する材料とは、高いガラス転移温度、及びその温度又はその近傍での高い機械特性を有する材料として定義される。
【0020】
例えば、ベンゾオキサジン樹脂組成物が硬化されて、ガラス転移温度を有する硬化マトリックスが提供される場合、硬化マトリックスのガラス転移温度は、G’オンセット法(G' onset method)(実施例でより詳細に記載)によって特定された場合、最高硬化温度よりも少なくとも10℃、少なくとも15℃、又は少なくとも20℃高くてよい。
【0021】
他の実施形態では、ベンゾオキサジン樹脂組成物が、220℃以下の温度で硬化されて、ガラス転移温度を有する硬化マトリックスが提供される場合、水分に曝露(沸騰脱イオン水中に24時間浸漬)した後の硬化マトリックスのガラス転移温度は、G’オンセット法(実施例でより詳細に記載)によって特定された場合、少なくとも205℃である。
【0022】
なおさらなる実施形態によると、ベンゾオキサジン樹脂組成物が硬化されて、曲げ弾性率を有する硬化マトリックスが提供される場合、水分に曝露(沸騰脱イオン水中に24時間浸漬)した後の180℃での硬化マトリックスの曲げ弾性率は、三点曲げ法(ASTM D-790)によって特定された場合、周囲条件下、室温(25℃)での硬化マトリックスの曲げ弾性率の少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも50%、又は少なくとも60%であってよい。
【0023】
1つの実施形態では、成分[A]は、式(II)で表される2つ以上の構造単位を含有する少なくとも1つのベンゾオキサジン樹脂を含んでよく:
【0024】
【0025】
式中、R1は、炭素数1~12の直鎖状アルキル基、炭素数3~8の環状アルキル基、フェニル基、又は炭素数1~12の直鎖状アルキル基若しくはハロゲンで置換されたフェニル基を示し、ハロゲンは、芳香環酸素原子が結合した炭素原子に対してオルソ位及びパラ位にある炭素原子のうちの少なくとも1つと結合している。
【0026】
上記の一般式(II)で表される構造単位において、R1の限定されない例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、o-メチルフェニル基、m-メチルフェニル基、p-メチルフェニル基、o-エチルフェニル基、m-エチルフェニル基、p-エチルフェニル基、o-t-ブチルフェニル基、m-t-ブチルフェニル基、p-t-ブチルフェニル基、o-クロロフェニル基、o-ブロモフェニル基、ジシクロペンタジエン基、又はベンゾフラノン基が挙げられる。これらの中でも、R1は、メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基、又はo-メチルフェニル基であることが好ましく、なぜなら、そのようなベンゾオキサジン樹脂の使用は、有利な取り扱い特性に寄与するからである。
【0027】
別の実施形態では、成分[B]は、式(I)で表される少なくとも1つの脂環式エポキシ樹脂を含み、
【0028】
【0029】
式中、R1及びR2は、同一又は異なっていてよく、各々、エポキシ基の炭素原子と一緒になって少なくとも1つの脂肪族環を形成する脂肪族部分であり、Xは、単結合又は45g/モル未満の分子量を有する二価部分を表す。例えば、R1及びR2は、各々独立して、3炭素鎖又は4炭素鎖を備えていてよく、それによって、それぞれ、5員環又は6員環の脂肪族環を形成する。R1及び/又はR2は、ノルボルナン環などの二環式環を提供する構造を有していてもよい。他の実施形態では、Xは、式(I)の脂環式エポキシ樹脂中に存在せず、R1及びR2を含む縮合脂肪族環が存在する(すなわち、R1及びR2を含む縮合環系が存在する)。
【0030】
本発明の別の実施形態では、[A]のベンゾオキサジン官能基と[B]のエポキシ基との当量比[Aeq]/[Beq]は、0.5~2.5である。すなわち、成分[A]及び成分[B]は、当量比[Aeq]/[Beq]が0.5~2.5となるのに有効な量でベンゾオキサジン樹脂組成物中に存在し、[Aeq]=成分[A]中のベンゾオキサジン官能基の当量であり、[Beq]=成分[B]中のエポキシ基の当量である。
【0031】
本発明の別の実施形態では、ベンゾオキサジン樹脂組成物は、追加として、成分[C]を含んでよく、又は成分[C]から本質的に成ってよく、又は成分[C]から成ってよく、成分[C]は、ポリエーテルスルホン、ポリイミド樹脂、アミン官能ブタジエン共重合体、カルボキシル末端ブタジエン、又はブタジエン-アクリロニトリル共重合体などの少なくとも1つの熱可塑性化合物を含む。ポリイミド樹脂熱可塑性化合物の場合、熱可塑性化合物の骨格は、追加として、フェニルトリメチルインダン単位又はフェニルインダン単位を含有してよい。
【0032】
本発明の別の実施形態では、ベンゾオキサジン樹脂組成物は、追加として、成分[D]を含んでよく、成分[D]は、スルホネートエステル(例:エチルp-トルエンスルホネートなどのアリールスルホン酸のアルキルエステル)などの少なくとも1つの重合触媒を含む。本明細書で用いられる場合、「重合触媒」の用語は、成分[A]及び[B]の一方又は両方の反応(硬化)を触媒することができる物質を意味する。少なくとも1つの重合触媒は、ベンゾオキサジン樹脂組成物中に混合された場合の成分[A]及び成分[B]のピーク反応温度が、そうでなければ(すなわち、重合触媒の非存在下では)互いに50℃を超えて離れることになる場合、ベンゾオキサジン樹脂組成物中に存在する。少なくとも1つの重合触媒は、ベンゾオキサジン樹脂組成物中の成分[A]及び成分[B]のピーク反応温度が、そうでなければ(すなわち、重合触媒の非存在下では)互いに対して50℃以内でとなる場合、所望に応じてベンゾオキサジン樹脂組成物中に存在してもよい。
【0033】
本発明の別の実施形態では、ベンゾオキサジン樹脂組成物は、追加として、成分[E]を含んでよく、成分[E]は、平均粒径が好ましくは5~30μmである熱可塑性樹脂粒子を含む。
【0034】
また、上述した実施形態のいずれかに従うベンゾオキサジン樹脂組成物で含浸された炭素繊維を含むプリプレグ、さらにはそのようなプリプレグ、又はそのようなプリプレグの複数から形成された積層体を硬化することによって得られた炭素繊維強化複合材料も、本発明によって提供される。本発明のさらなる実施形態は、上述した実施形態のいずれかに従うベンゾオキサジン樹脂組成物及び炭素繊維を含む混合物を硬化することによって得られた樹脂硬化物を含む炭素繊維強化複合材料を提供する。
【0035】
本発明の追加の実施形態は、ベンゾオキサジン樹脂組成物を製造する方法を提供し、この方法は:
a)示差走査熱量計(DSC)を用いてASTM D3418に従って測定された場合のピーク反応温度を有し、少なくとも1つの多官能性ベンゾオキサジン樹脂を含む、又は少なくとも1つの多官能性ベンゾオキサジン樹脂から本質的に成る、又は少なくとも1つの多官能性ベンゾオキサジン樹脂から成る成分[A]を選択すること;
b)示差走査熱量計(DSC)を用いてASTM D3418に従って測定された場合のピーク反応温度を有し、式(I)で表され:
【0036】
【0037】
式中、R1及びR2は、同一又は異なっていてよく、各々、エポキシ基の炭素原子と一緒になって少なくとも1つの脂肪族環を形成する脂肪族部分であり、Xは、単結合を表し、
少なくとも1つの脂環式エポキシ樹脂を含む、又は少なくとも1つの脂環式エポキシ樹脂から本質的に成る、又は少なくとも1つの脂環式エポキシ樹脂から成る成分[B]を選択すること;並びに
さらに成分[C]を含み、成分[C]は、1又は複数の繰り返し単位を備えた熱可塑性化合物を含み、前記熱可塑性化合物が少なくとも150℃のガラス転移温度を有するポリエーテルスルホン又はポリイミド樹脂であり、前記ポリイミド樹脂熱可塑性化合物がフェニルトリメチルインダン単位又はフェニルインダン単位を追加として含有する骨格を有するポリイミド樹脂であり、
c)少なくとも成分[A]及び成分[B]を混合して、ベンゾオキサジン樹脂組成物を得ること、
を含み;
成分[A]及び成分[B]のピーク反応温度を互いに対して50℃以内とするのに有効である重合触媒を含む成分[D]が、重合触媒の非存在下では、ベンゾオキサジン樹脂組成物中で示差走査熱量計(DSC)を用いてASTM D3418に従って測定した場合の成分[A]及び成分[B]のピーク反応温度が互いに対して50℃以内でない場合に、追加として、成分[A]及び成分[B]と混合される。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本明細書で引用されるすべての刊行物、特許、及び特許出願は、あらゆる点でその全内容が参照により本明細書に援用される。
【0039】
冠詞「1つの(a)」及び「1つの(an)」は、1又は複数の(すなわち、少なくとも1つの)その冠詞の文法的対象を意味するために本明細書で用いられる。例えば、「1つの重合体樹脂(a polymer resin)」とは、1つの重合体樹脂又は2つ以上の重合体樹脂を意味する。本明細書で引用される範囲はいずれも、境界値を含む。本明細書全体を通して用いられる「実質的に」及び「約」の用語は、小さい変動を表し明らかにするために用いられる。例えば、それらは、量又は数量の記載した値からの相違が±5%以内であることを意味し得る。
【0040】
本明細書全体を通して「1つの実施形態」又は「実施形態」の言及は、その実施形態と関連して記載された特定の特徴、構造、又は特性が、少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、「1つの実施形態では」又は「実施形態では」の句が、本明細書全体を通して様々な個所に出現することは、必ずしもすべてが同じ実施形態を意味しているものではない。さらに、特定の特徴、構造、又は特性は、1又は複数の実施形態において、適切ないかなる方法で組み合わされてもよい。
【0041】
特に断りのない場合、「室温」は、本明細書で用いられる場合、25℃の温度を意味する。
【0042】
本開示によると、優れた耐熱性(硬化時)、及び硬化時の弾性率に関する優れたプロセス性さらには機械特性を有するベンゾオキサジン樹脂組成物を得ることができる。さらに、本開示のベンゾオキサジン樹脂組成物を用いることによって、このベンゾオキサジン樹脂組成物を硬化することで、非常に優れた弾性率及びガラス転移温度を有する繊維強化複合材料を得ることができ、そのような繊維強化複合材料は、強化繊維と組み合わせて用いられた場合、優れた機械特性を呈する。
【0043】
本開示のベンゾオキサジン樹脂組成物、プリプレグ、及び繊維強化複合材料を、以下で詳細に記載する。
【0044】
上記で述べた問題点を考慮した広範な研究の結果として、本発明者らは、上述の問題が、繊維強化複合材料用途において、少なくとも1つの多官能性ベンゾオキサジン樹脂[A]及び特定の構造上の特徴を有する少なくとも1つのエポキシ樹脂[B]を混合することによって形成されたベンゾオキサジン樹脂組成物を用いることによって解決されることを見出した。
【0045】
本発明において、多官能性ベンゾオキサジン樹脂とは、分子内にベンゼン環に結合した少なくとも2つのオキサジン環を有する、すなわち少なくとも二官能性である、ベンゾオキサジン化合物を意味する。二官能性、及び三官能性ベンゾオキサジン樹脂、並びにそれらの組み合わせが、本発明において特に有用である。そのようなベンゾオキサジン樹脂は、本技術分野において公知であり、様々な市販業者から入手可能でもある。
【0046】
特定の実施形態によると、成分[A]は、以下の一般式(II)で表される通りの2つ以上の構造単位を含有する、少なくとも1つの多官能性ベンゾオキサジン樹脂を含む、又は少なくとも1つの多官能性ベンゾオキサジン樹脂から本質的に成る、又は少なくとも1つの多官能性ベンゾオキサジン樹脂から成る。
【0047】
【0048】
式(II)において、R1は、炭素数1~12の直鎖状アルキル基、炭素数3~8の環状アルキル基、フェニル基、又は炭素数1~12の直鎖状アルキル基若しくはハロゲンで置換されたフェニル基を示し、ハロゲンは、芳香環酸素原子が結合した炭素原子に対してオルソ位及びパラ位にある炭素原子のうちの少なくとも1つと結合している。
【0049】
上記の一般式(II)で表される構造単位において、R1の限定されない例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、o-メチルフェニル基、m-メチルフェニル基、p-メチルフェニル基、o-エチルフェニル基、m-エチルフェニル基、p-エチルフェニル基、o-t-ブチルフェニル基、m-t-ブチルフェニル基、p-t-ブチルフェニル基、o-クロロフェニル基、o-ブロモフェニル基、ジシクロペンタジエン基、又はベンゾフラノン基が挙げられる。これらの中でも、メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基、又はo-メチルフェニル基を用いることが好ましく、なぜなら、そのような基の存在は、有利な取り扱い特性に寄与するからである。
【0050】
構造式(II)で表される構造単位は、直接結合されていてよく(例:ベンゼン環を繋ぐ単結合によって)、又はリンカー基、特に-CH2-、-C(CH3)2-、カルボニル、-S-、-SO2-、-O-、若しくは-CH(CH3)-などの二価リンカー基によって結合されていてもよい。そのような二価リンカー基は、1つの式(II)の構造単位のベンゼン環にある炭素原子と、及び別の式(II)の構造単位のベンゼン環にある炭素原子と結合していてよい。構造式(II)の構造単位は、二価リンカー基によって、そのような構造単位の窒素原子(R1置換基が関与)を介して連結されることも可能であり、一般式N-L-Nに相当し、Lは、二価のリンカー基であり、各Nは、オキサジン環の一部である。例えば、そのようなリンカー基は、-Ar-CH2-Ar-であってよく、Arは、ベンゼン環である(以下の構造式(IIB)及び式(XIV)で示されるように)。他の適切なリンカー基としては、-Ar-、-Ar-S-Ar-、及び-Ar-O-Ar-が挙げられ、Arは、ベンゼン環である。
【0051】
本発明での使用に適するさらなる二官能性ベンゾオキサジン樹脂としては、以下の式(IIA)及び式(IIB)で表されるものが挙げられる:
【0052】
【0053】
Yは、直接結合、-C(R3)(R4)-、-C(R3)(アリール)-、-C(=O)-、-S-、-O-、-S(=O)-、-S(=O)2-、二価のヘテロ環(例:3,3-イソベンゾフラン-1(3h)-オン)、及び-[C(R3)(R4)]x-アリーレン-[C(R5)(R6)]y-から選択され、又はベンゾオキサジン部分の2つのベンジル環が縮合していてもよい。
【0054】
式(IIA)のR1及びR2は、独立して、アルキル(例:C1-8アルキル)、シクロアルキル(例:C5-7シクロアルキル、好ましくは、C6シクロアルキル)、及びアリールから選択され、シクロアルキル及びアリール基は、所望に応じて、例えばC1-8アルキル、ハロゲン、及びアミン基によって置換されていてもよく、置換されている場合は、1又は複数の置換基(好ましくは、1つの置換基)が、各シクロアルキル及びアリール基に存在してよい。式(IIB)のR1及びR2は、独立して、同じ基から選択されてよいが、追加として、水素であってもよい。
【0055】
R3、R4、R5、及びR6は、独立して、H、C1-8アルキル(好ましくは、C1-4アルキル、及び好ましくは、メチル)、及びハロゲン化アルキル(ハロゲンは、典型的には、塩素又はフッ素である)から選択され、x及びyは、独立して、0又は1である。アリーレン基が存在する場合、アリーレン基は、好ましくは、フェニレンである。1つの実施形態では、フェニレン基に結合した基は、互いに対してパラ位又はメタ位に配置されていてよい。アリール基が存在する場合、アリール基は、好ましくは、フェニルである。
【0056】
Y基は、直鎖状又は非直鎖状であってよく、典型的には、直鎖状である。Y基は、式(IIA)に示されるように、好ましくは、各ベンゾオキサジン部分のベンジル基に、ベンゾオキサジン部分の酸素原子に対してパラ位に結合しており、これは、好ましい異性配置である。しかし、Y基は、二官能性ベンゾオキサジン化合物のベンジル基の一方又は両方に、メタ位又はオルソ位のいずれかで結合していてもよい。したがって、Y基は、パラ/パラ、パラ/メタ、パラ/オルソ、メタ/メタ、又はオルソ/メタ配置でベンジル環に結合していてよい。
【0057】
別の実施形態では、式(IIA)に相当する二官能性ベンゾオキサジン樹脂は、R1及びR2が独立してアリールから選択され、好ましくはフェニルである化合物から選択される。1つの実施形態では、アリール基は、置換されていてもよく、好ましくは、置換基は、C1-8アルキルから選択され、好ましくは、少なくとも1つのアリール基に単一の置換基が存在する。C1-8アルキルは、直鎖状及び分岐鎖状アルキル鎖を含む。好ましくは、式(IIA)中のR1及びR2は、独立して、無置換アリールから選択され、好ましくは、無置換フェニルである。
【0058】
式(IIA)として本明細書で定められる二官能性ベンゾオキサジン樹脂の各ベンゾオキサジン基にあるベンジル環は、独立して、各環の3つの利用可能な位置のいずれで置換されていてもよく、典型的には、所望に応じて存在してよいいずれかの置換基は、Y基の結合位置に対してオルソ位に存在する。しかし、ベンジル環は、無置換のままであることが好ましい。
【0059】
適切な三官能性ベンゾオキサジン樹脂としては、ホルムアルデヒドなどのアルデヒド又はその生成源若しくは均等物の存在下で、芳香族トリアミンをフェノール(一価又は多価)と反応させることによって製造することができる化合物が挙げられる。
【0060】
本開示において、成分[A]の多官能性ベンゾオキサジン樹脂として、以下の構造式(III)~(XIV)で表される少なくとも1つのモノマーを用いることが好ましい。
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
本発明の特定の実施形態では、成分[A]は、好ましくは、少なくとも1つの多官能性ベンゾオキサジン樹脂を含み(又は少なくとも1つの多官能性ベンゾオキサジン樹脂から成り、又は本質的に成り)、及びモノマー単独から構成されていてよい、又は複数の分子が重合されたオリゴマーの形態を有していてよい。加えて、異なる構造を有する多官能性ベンゾオキサジン樹脂が一緒に用いられてもよい(すなわち、成分[A]が、[A1]、[A2]などとして指定され得る2つ以上の多官能性ベンゾオキサジン樹脂を含有してよい)。
【0074】
成分[A]として用いられる多官能性ベンゾオキサジン樹脂は、四国化成工業株式会社、小西化学工業株式会社、及びHuntsman Advanced Materialsを含むいくつかの供給業者から入手され得る。これらの供給業者の中でも、四国化成工業株式会社は、ビスフェノールA-アニリン型ベンゾオキサジン樹脂、ビスフェノールAメチルアミン型ベンゾオキサジン樹脂、及びビスフェノールFアニリン型ベンゾオキサジン樹脂を提供している。市販の原材料を用いる代わりに、多官能性ベンゾオキサジン樹脂は、必要に応じて、フェノール化合物(例:ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、又はチオジフェノール)、アルデヒド、及びアリールアミン間での反応を起こすことによって製造することができる。詳細な製造方法は、米国特許第5,543,516号、同第4,607,091号(Schreiber)、米国特許第5,021,484号(Schreiber)、及び米国特許第5,200,452号(Schreiber)に見出され得る。
【0075】
本発明において、エポキシ樹脂とは、分子内に少なくとも2つの1,2-エポキシ基を有するエポキシ化合物、すなわち、エポキシ官能基に関して少なくとも二官能性であるエポキシ化合物を意味する。
【0076】
本発明の特定の実施形態では、成分[B]は、式(I)で表される少なくとも1つの脂環式エポキシ樹脂を含有し、式中、R1及びR2は、同一又は異なっていてよく、各々、エポキシ基の炭素原子と一緒になって少なくとも1つの脂肪族環(ある特定の場合では、二環式脂肪族環が形成される)を形成する脂肪族部分であり、Xは、単結合又は45g/モル未満の分子量を有する二価部分を表す。他の実施形態では、Xは、式(I)に存在せず、脂環式エポキシ樹脂は、ジシクロペンタジエン型ジエポキシドなどのR1及びR2を含む縮合環系を備える。
【0077】
【0078】
ここで、脂環式エポキシ樹脂とは、少なくとも2つの1,2-エポキシシクロアルカン構造部分が存在するエポキシ樹脂を意味する(そのような部分の各々は、脂肪族環の一部である2つの隣接する炭素原子も、各々が同じ酸素原子と結合しているエポキシ環の一部である、脂肪族環である)。既に記載したように、脂環式エポキシ樹脂は、樹脂組成物の粘度を低下させ得ることから有用である。しかし、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレートなどの典型的な脂環式エポキシは、硬化材料のガラス転移温度及び弾性率も低下させ得る。この問題を解決するために、1,2-エポキシシクロアルカン基の間により短く、よりリジッドな連結基を有する、又は縮合環系を含有する脂環式エポキシが、本発明において用いられる。
【0079】
二価部分が45g/モル未満の分子量を有する、1,2-エポキシシクロアルカン基の間のより短く、よりリジッドな連結基の例は、酸素(X=-O-)、硫黄(X=-S-)、アルキレン(例:X=-CH2-、-CH2CH2-、-CH2CH2CH2-、-CH2CH(CH3)-、又は-C(CH3)2-)、エーテル含有部分(例:X=-CH2OCH2-)、カルボニル含有部分(例:X=-C(=O)-)、又はオキシラン環含有部分(例:X=-CH-O-CH-、この場合、2つの炭素原子間に単結合が存在し、それによって、酸素原子及び2つの炭素原子を含む3員環を形成している)である。
【0080】
特定の実施形態では、式(I)のXは存在せず、R1及びR2は、縮合環系の一部である。ジシクロペンタジエン型ジエポキシドは、R1及びR2が縮合環系の一部である脂環式エポキシ樹脂の例である。他の実施形態では、式(I)のXは、R1及びR2を含有する環状基を繋ぐ単結合である。
【0081】
そのような脂環式エポキシ樹脂に存在するシクロアルカン基は、例えば、単環式又は二環式(例:ノルボルナン基)であってよい。適切な単環式シクロアルカン基の例としては、限定されないが、シクロヘキサン基及びシクロペンタン基が挙げられる。そのようなシクロアルカン基は、置換されていてよく(例えば、アルキル基によって)、又は、好ましくは、無置換であってもよい。Xが単結合、又は45g/モル未満の分子量を有する二価部分である場合、そのようなシクロヘキサン及びシクロペンタン環上のエポキシ基は、環上の2,3位又は3,4位に存在してよい。
【0082】
上述した単結合、45g/mol未満の分子量を有する二価部分、又は縮合環系を有する脂環式エポキシを用いることは、分子がリジッドであることによって硬化材料の弾性率が増加することから、有利である。さらに、既に述べた基準を満たすが、樹脂配合物の他の成分とも共有結合を形成することができる二価部分(例えば、Xがオキシラン環含有部分である場合)を含めることは、架橋密度の増加によって、硬化材料のガラス転移温度及び弾性率の両方を改善することができることから、有利である。
【0083】
成分[B]として有用である脂環式エポキシ樹脂の具体的実例は、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)(式中、Yは、単結合であり、3,4,3’,4’-ジエポキシビシクロヘキシルとも称される)、ビス[(3,4-エポキシシクロヘキシル)エーテル](式中、Yは、酸素原子である)、ビス[(3,4-エポキシシクロヘキシル)オキシラン](式中、Yは、オキシラン環、-CH-O-CH-である)、ビス[(3,4-エポキシシクロヘキシル)メタン](式中、Yは、メチレン、CH2である)、2,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロパン(式中、Yは、-C(CH3)2-である)など、及びこれらの組み合わせである。加えて、ビス(3,4-エポキシシクロペンチル)、ビス(3,4-エポキシシクロペンチル)エーテル、及び3,4-エポキシシクロペンチル-3,4-エポキシシクロヘキシルを含む、上述したモノマーのシクロペンタンで一置換及び二置換されたバージョンが用いられてもよい。
【0084】
Xが無く(すなわち、存在せず)、R1及びR2が縮合環系の一部である脂環式エポキシ樹脂の例としては、ジシクロペンタジエン型ジエポキシド及びトリシクロペンタジエン型ジエポキシドが挙げられる。
【0085】
適切な脂環式エポキシ樹脂の実例としては、成分[B]のエポキシ樹脂として、以下の構造式(XV)~(XIX)で表される以下の化合物が挙げられる。
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
式(XIX)において、X=単結合、-O-、-S-、-CH2-、-CH2CH2-、-CH2CH2CH2-、-CH2CH(CH3)-、-C(CH3)2-、-CH2OCH2-、-C(=O)-、又はオキシランであり、シクロヘキサン環の一方又は両方が、シクロペンタン環及び/又はノルボルナン環で置き換えられてもよい。
【0092】
上記で示される式(XVIII)は、式(I)のXが単結合を表し、R1及びR2が二環式脂肪族環の一部である脂肪族部分である、脂環式エポキシ樹脂の例である。
【0093】
式(XV)、(XVI)、及び(XVII)は、Xが存在せず、脂環式エポキシ樹脂が縮合脂肪族環を含有する脂環式エポキシ樹脂の例である(これらの化合物は、二環式脂肪族環も含有する)。
【0094】
そのような脂環式エポキシ樹脂は、本技術分野にて公知であり、適切ないかなる合成方法を用いて製造されてもよく、例えば、3,3’-ジシクロヘキセニル骨格を有する化合物などの脂環式ジ-及びトリオレフィン系化合物のエポキシ化による。例えば、米国特許第7,732,627号、並びに米国特許出願公開第2004/0242839号及び同第2014/0357836号には、本発明において有用である脂環式エポキシ樹脂を得るための方法が記載されている。
【0095】
成分[B]は、2つ以上の脂環式エポキシ樹脂を含有してよく、この場合、異なる脂環式エポキシ樹脂は、[B1]、[B2]、[B3]などと称され得る。
【0096】
1つの実施形態では、成分[A]によって提供されるベンゾオキサジン官能基の成分[B]によって提供されるエポキシド官能基に対する比は、0.5~2.5の範囲内である。この範囲内であると、製造プロセスに対してより適した粘度範囲を有するベンゾオキサジン樹脂組成物が得られ、同時にプリプレグにおいて、適切な粘着性(タック)及び変形性(ドレープ性)も得られる。加えて、硬化ベンゾオキサジン樹脂組成物において、非常に優れた弾性率及びガラス転移温度が維持されることから、複合材料として用いられる場合、材料は、高い温度で、特に湿熱環境中で、優れた機械特性を提供する。成分[B]の成分[A]に対するブレンド量が少な過ぎる場合、ベンゾオキサジン樹脂組成物の粘度が上昇し、それによって、プリプレグ形成時の製造プロセス性、粘度(タック)、及び変形性(ドレープ性)が損なわれ得る。しかし、成分[B]のブレンド量が多過ぎる場合、ベンゾオキサジン化合物に帰することができる低い吸湿性及び高い弾性率の特性が失われる。その結果、湿熱環境中で複合材料として用いられる場合の機械特性が損なわれる傾向にある。
【0097】
本発明のある特定の実施形態では、ベンゾオキサジン樹脂組成物は、追加として、芳香族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂(ビスフェノールA型エポキシ樹脂など)、及び/又は少なくとも1つの芳香族グリシジルアミン型エポキシ樹脂(例:芳香族アミンをエピクロロヒドリンと反応させることによって製造されるエポキシ樹脂)を含んでよい。樹脂組成物中にこれらの種類のエポキシを含めることは、ベンゾオキサジン樹脂組成物中における熱可塑性化合物の溶解性を改善し得る。
【0098】
本発明の特定の実施形態では、ベンゾオキサジン樹脂組成物は、追加として、一官能性ベンゾオキサジン樹脂を含んでよい。樹脂組成物中にこの種類のベンゾオキサジンを含めることは、熱可塑性化合物の溶解性を改善し、ベンゾオキサジン樹脂組成物の粘度を低下させ得る。一官能性ベンゾオキサジン樹脂は、1分子あたり単一のベンゾオキサジン単位を含有する化合物であり、そのような化合物は、本技術分野において公知であり、一価フェノール、一官能性アミン、及びパラホルムアルデヒドなどのアルデヒドを反応させることによって製造することができる。
【0099】
本発明の特定の実施形態では、上述したベンゾオキサジン樹脂組成物中に少なくとも1つの熱可塑性化合物、成分[C]、を混合又は溶解することも、硬化材料の特性を向上させるために望ましい場合がある。一般的に、熱可塑性化合物(重合体)の主鎖中に炭素-炭素結合、アミド結合、イミド結合、エステル結合、エーテル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、チオエーテル結合、スルホン結合、及び/又はカルボニル結合から成る群より選択される結合を有する熱可塑性化合物(重合体)が好ましい。さらに、熱可塑性化合物はまた、部分架橋構造を有していてもよく、結晶又はアモルファスであってもよい。特に、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリイミド(フェニルトリメチルインダン構造又はフェニルインダン構造を有するポリイミドを含む)、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアラミド、ポリエーテルニトリル、及びポリベンズイミダゾールから成る群より選択される少なくとも1つの熱可塑性化合物が、ベンゾオキサジン樹脂組成物中に混合又は溶解されることが適切である又は好ましい。
【0100】
本発明の特定の実施形態では、成分[C]のガラス転移温度(Tg)は、有利な耐熱性が得られるように、150℃以上であり、170℃以上であることが好ましい。ガラス転移温度は、実施例で詳細に述べる手順に従って示差走査熱量測定によって測定され得る。ブレンドされる成分[C]のガラス転移温度が、150℃未満である場合、得られる成形体は、使用時に熱変形を起こしてしまう傾向にある。高い耐熱性若しくは高い耐溶剤性を得るという観点から、又は溶解性及び接着性を含むベンゾオキサジン樹脂組成物に関する親和性という観点から、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド(フェニルトリメチルインダン構造又はフェニルインダン構造を有するポリイミドを含む)、又はポリエーテルイミドを用いることが好ましい。
【0101】
適切なスルホン系熱可塑性化合物の具体例は、ポリエーテルスルホン、及び米国特許出願公開第2004/044141(A1)号に記載のポリエーテルスルホン-ポリエーテルエーテルスルホン重合体オリゴマーである。適切なイミド系熱可塑性化合物の具体例は、ポリイミド、及び米国特許第3856752号に記載のポリイミド-フェニルトリメチルインダンオリゴマーである。
【0102】
オリゴマーとは、およそ10からおよそ100の有限個のモノマー分子が互いに結合した比較的低分子量の重合体を意味する。
【0103】
ベンゾオキサジン樹脂組成物は、熱可塑性化合物を含有する必要はないが、本発明の様々な実施形態では、ベンゾオキサジン樹脂組成物は、成分[A]及び[B]の合計の100重量部あたり、少なくとも5又は少なくとも10重量部の熱可塑性化合物を含む。例えば、ベンゾオキサジン樹脂組成物は、成分[A]及び[B]の合計の100重量部あたり、10~30重量部の熱可塑性化合物を含んでよい。
【0104】
本発明の特定の実施形態では、重合触媒[D]を上述したベンゾオキサジン樹脂組成物中に混合又は溶解することも、硬化温度及び時間を減少させるために、並びに弾性率及びガラス転移温度などの最適な機械特性を実現するために、望ましい場合がある。重合触媒はまた、ベンゾオキサジン樹脂組成物中に混合された状態で観察される場合の成分[A]及び成分[B]のピーク反応温度を、望ましくは、重合触媒の非存在下の場合よりも互いに近接させるためにも用いられ得る。重合触媒[D]は、ベンゾオキサジン樹脂組成物の硬化時に、多官能性ベンゾオキサジン樹脂[A]、脂環式エポキシ樹脂[B]、又は両方の開環重合を促進させ得る。そのような開環重合は、例えば、カチオン性又はアニオン性の重合機構によって進行し得る。一般的に、カチオン重合系のための重合触媒としては、ルイス酸及びブレンステッド酸、ハロゲン化金属、並びに有機金属試薬が挙げられる。アニオン重合系のための重合触媒の例としては、イミダゾール誘導体、3級アミン、及びホスフィンが挙げられる。重合触媒は、単独で用いられてよく、又は1若しくは複数の他の触媒と組み合わせて用いられてもよい。
【0105】
本発明の特定の実施形態では、重合触媒[D]として、1又は複数のルイス酸錯体又はブレンステッド酸塩を用いることが好ましい。これらは、本開示のベンゾオキサジン樹脂組成物に適する重合触媒であり、なぜなら、それらは、室温(25℃)及びプリプレグ製造プロセスにおいて(典型的には約50℃~約90℃の温度で行われる)優れた安定性を提供し、反応開始温度の調節を容易とするからである。
【0106】
ルイス酸錯体又はブレンステッド酸塩の例としては、プロトン酸エステル、ハロゲン化ホウ素錯体、芳香族スルホニウム塩、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ピリジニウム塩、及び芳香族ヨードニウム塩が挙げられる。これらの化合物の中でも、プロトン酸エステル、ハロゲン化ホウ素錯体、及び芳香族スルホニウム塩から成る群より選択される少なくとも1つを用いることで、ベンゾオキサジン樹脂組成物に、室温又はプリプレグ製造プロセスの過程における優れた安定性が得られる。室温での安定性という観点から、トルエンスルホネートエステル及びベンゼンスルホネートエステルなどの芳香族スルホネートエステルであるプロトン酸エステルが好ましく、なぜなら、これらの触媒は、室温ではエステル化された状態にあり、したがって、低い温度での反応促進効果は乏しいからである。
【0107】
本発明の特定の実施形態における成分[D]は、成分[A]に存在するベンゾオキサジン樹脂のベンゾオキサジン環の開環反応、さらにはエポキシ樹脂成分[B]とベンゾオキサジン構造単位の開環後に存在するベンゾオキサジン成分[A]のフェノールヒドロキシル基との間の反応を促進するスルホネートエステルである。成分[D]を含めることによって、本明細書中の実施形態であるベンゾオキサジン樹脂組成物の硬化を、従来の組成物と比較して低い温度で行うことができる。
【0108】
ベンゾオキサジン樹脂組成物は、重合触媒を含有する必要はないが、本発明の様々な実施形態では、重合触媒(例:スルホネートエステル)[D]は、ベンゾオキサジン樹脂組成物全体の100重量部に対して0.5~5重量部で用いられる。この範囲内では、典型的には、175~310℃でのベンゾオキサジン樹脂組成物における反応促進効果、室温(25℃)での優れた保存安定性、さらにはプリプレグ製造プロセスの過程における優れた粘度安定性(ポットライフ)が得られる。加えて、一般的には、硬化された後、ガラス転移温度などのベンゾオキサジン樹脂組成物の樹脂特性に対する有害な影響はない。別の実施形態では、成分[D]のブレンド量は、適切には、成分[B]の反応性を考慮して調節されてよく、成分[B]の反応性が高い場合、ベンゾオキサジン樹脂組成物全体の100重量部に対して、0.5~2重量部の[D]がブレンドされてよく、一方、成分[B]の反応性が低い場合、ベンゾオキサジン樹脂組成物全体の100重量部に対して、2~5重量部の[D]がブレンドされてよい。重合触媒[D]の量及び種類は、成分[A]及び[B]のピーク反応温度又はピーク反応温度の1つを、望ましくは互いに対して近接させるように(例:互いに対して50℃以内)選択されてよい。
【0109】
芳香族ジアゾニウム塩の例としては、Americure(登録商標)芳香族ジアゾニウム塩(American Can Co.)及びUltraset(登録商標)芳香族ジアゾニウム塩(株式会社ADEKA)が挙げられる。加えて、ヨードニウム塩の例としては、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアルシネート、ビス(4-クロロフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロアルシネート、ビス(4-ブロモフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロアルシネート、フェニル(4-メトキシフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロアルシネート、UV-9310Cヨードニウム塩(東芝シリコーン)、Photoinitiator 2074ヨードニウム塩(Rhone-Poulenc)、UVEシリーズ製品(General Electric Corp.)、及びFCシリーズ製品(3M)が挙げられる。
【0110】
芳香族ヨードニウム塩の例としては、Rhodorsil(登録商標)PI2074(Rhodia Co.)が挙げられる。
【0111】
芳香族ピリジニウム塩の例としては、N-ベンジル-4-ベンゾピリジニウムヘキサフルオロアンチモネート、N-シンナミル-2-シアノピリジニウムヘキサフルオロアンチモネート、及びN-(3-メチル-2-ブテニル)-2-シアノピリジニウムヘキサフルオロホスフェートが挙げられ、これらは、特開平4-327574(A)号、特開平5-222122(A)号、及び特開平5-262813(A)号に記載されている。
【0112】
芳香族スルホニウム塩の例としては、アンチモンヘキサフルオリド系スルホニウム塩、SAN-AID(登録商標)SI-L85、SAN-AID(登録商標)SI-L145、SAN-AID(登録商標)SI-L160、SAN-AID(登録商標)SI-H15、SAN-AID(登録商標)SI-H20、SAN-AID(登録商標)SI-H25、SAN-AID(登録商標)SI-H40、SAN-AID(登録商標)SI-H50、SAN-AID(登録商標)SI-60L、SAN-AID(登録商標)SI-80L、SAN-AID(登録商標)SI-100L、SAN-AID(登録商標)SI-80、SAN-AID(登録商標)SI-100、及びSAN-AID(登録商標)SI-150(三新化学工業株式会社)、並びにリンヘキサフルオリド系スルホニウム塩、SAN-AID(登録商標)SI-110、SAN-AID(登録商標)SI-110L、及びSAN-AID(登録商標)SI-180L(三新化学工業株式会社)が挙げられる。
【0113】
ハロゲン化ホウ素錯体の例としては、ホウ素トリフルオリド-ピペリジン錯体、ホウ素トリフルオリド-モノエチルアミン錯体、ホウ素トリフルオリド-トリエタノールアミン錯体(すべてステラケミファ株式会社)、及びホウ素トリクロリド-オクチルアミン錯体(Huntsman Advanced Materials)が挙げられる。
【0114】
[0078]成分(D)に用いるのに適する市販のトルエンスルホネートエステル製品としては、メチルp-トルエンスルホネート、エチルp-トルエンスルホネート、n-プロピルp-トルエンスルホネート、シクロヘキシルp-トルエンスルホネート、1,3-プロパンジイルジ-p-トルエンスルホネート、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオールビス(トルエンスルホネート)、及び4,(4-((フェニルスルホニル)オキシ)フェノキシ)フェニルp-トルエンスルホネートが挙げられる。加えて、成分[D]に適する市販のベンゼンスルホネートエステル製品としては、メチルベンゼンスルホネート、エチルベンゼンスルホネート、n-プロピルベンゼンスルホネート、シクロヘキシルベンゼンスルホネート、1,3-プロパンジイルジベンゼンスルホネート、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオールビス(ベンゼンスルホネート)、及び4-(4-((フェニルスルホニル)オキシ)フェノキシ)フェニルベンゼンスルホネートが挙げられる。これらのトルエンスルホネートエステル及びベンゼンスルホネートエステルは、Sigma-Aldrich Co.又は東京化成工業株式会社などの試薬製造業者から入手され得る。
【0115】
しかし、本発明の特定の実施形態では、ベンゾオキサジン樹脂組成物は、成分[D]の一部として重合触媒を含有しない。例えば、ベンゾオキサジン樹脂組成物中でDSCによって測定した場合の成分[A]及び[B]のピーク反応温度が、互いに対して充分に近接している場合(例:互いに対して50℃以内)、重合触媒を含める必要はない。特定の状況下では、成分[A]又は成分[B]のうちの一方が、実際には他方成分の重合のための触媒として作用し得ることには留意されたい。例えば、成分[A]が最初に反応する場合、それによって生成された反応生成物の一部が、成分[B]の重合を触媒することによって、成分[B]のピーク反応温度を、成分[A]の非存在下で成分[B]が加熱されることになる場合に見られるピーク反応温度と比較して低下させ得る。
【0116】
成分[A]及び[B]のピーク反応温度を互いに対して50℃以内とする目的で重合触媒をベンゾオキサジン樹脂組成物中に含めることが必要であり得るかどうかを判断するために、ベンゾオキサジン樹脂組成物の他の所望される成分が混合され、得られた組成物が、本明細書の他所に記載の手順に従って示差走査熱量計分析を受けてよい。そのようなDSC分析が、成分[A]及び[B]のピーク反応温度が50℃を超えて離れていることを示す場合、成分[D]として、1又は複数の適切な重合触媒が、ベンゾオキサジン樹脂組成物に配合される。当然、成分[A]及び[B]のピーク反応温度が、重合触媒の非存在下において、互いに対して50℃以内であると判断される場合であっても、重合触媒は、それでもやはり、所望される目的(組成物から得られる硬化マトリックスの特性など)を満たすために組成物の硬化特性を調節する目的で、所望に応じてベンゾオキサジン樹脂組成物に含まれてもよい。
【0117】
本発明の特定の実施形態では、成分[E]として熱可塑性樹脂粒子を含めることも有益であり得る。本発明に従って粒子の形態で用いられるべき熱可塑性樹脂の限定されない例としては、その主鎖中に炭素-炭素結合、アミド結合、イミド結合、エステル結合、エーテル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、ウレア結合、チオエーテル結合、スルホン結合、イミダゾン結合、及びカルボニル結合を有する熱可塑性樹脂である。具体的には、ポリアクリレート、ポリ(酢酸ビニル)、及びポリスチロールに代表されるビニル樹脂、ポリアミド、ポリアラミド、ポリエステル、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリ(フェニレンオキシド)、ポリ(フェニレンスルフィド)、ポリアリレート、ポリベンズイミダゾール、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、及びポリエーテルエーテルケトンなどのエンジニアリングプラスチックに属する熱可塑性樹脂、ポリエチレン及びポリプロピレンに代表される炭化水素樹脂、並びに酢酸セルロース及び乳酸セルロースなどのセルロース誘導体が引用され得る。
【0118】
特に、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリ(フェニレンオキシド)、ポリ(フェニレンスルフィド)、ポリアリレート、ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアラミド、及びポリベンズイミダゾールが、耐衝撃性でよく知られており、本発明の特定の実施形態に従って用いられる熱可塑性樹脂粒子のための材料として適している。これらの中でも、ポリアミド、ポリエーテルスルホン、及びポリスルホンは、非常に強固で耐熱性であり、本発明において好ましい。ポリアミドの強固さは、特によく知られており、非結晶性透明ナイロンなどのポリアミドの粒子を用いることによって、耐熱性も同時に得られる。
【0119】
成分[E]の量は、好ましくは、成分[A]及び[B]の合計の100重量部に対して0~100重量部の範囲内である。100重量部を超えると、成分[A]及び[B]とのブレンドが困難となり、さらに、プリプレグのタック及びドレープ性が大きく低下する。複合材料の圧縮強度を発生させるために硬化ベンゾオキサジン樹脂組成物の剛直性を維持するために、熱可塑性樹脂粒子によって複合材料の層間破壊靱性を向上させるために、並びに高い破断伸び及び可撓性の特性を維持するために、成分[A]及び[B]の合計の100重量部に対して1~30重量部の範囲内のより少ない量の熱可塑性樹脂粒子が好ましい。
【0120】
異なる粒径を有する熱可塑性樹脂粒子が用いられてもよく、2種類以上の異なる熱可塑性樹脂粒子が用いられてもよい。熱可塑性樹脂粒子の平均粒径は、好ましくは、5~30μmである。この範囲内のサイズを有する粒子が望ましく、なぜなら、このサイズでは、ベンゾオキサジン樹脂組成物を強化繊維層中に注入する過程で強化繊維層の内部に材料が浸透する際に繊維の配向を乱すことに起因する、又は強化繊維層間の樹脂層中に融合していない粒子が存在する結果としての大きい起伏によって強化繊維層が乱されることに起因する機械特性の喪失を防止することができるからである。
【0121】
次に、FRP(繊維強化プラスチック)材料について記載する。強化繊維を含浸した後にベンゾオキサジン樹脂組成物の実施形態を硬化することにより、そのマトリックス樹脂として硬化物の形態でベンゾオキサジン樹脂組成物の実施形態を含有するFRP材料を得ることができる。
【0122】
本発明で用いられる強化繊維の種類に関して特別な制限又は限定はなく、ガラス繊維、炭素繊維、グラファイト繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、及び炭化ケイ素繊維を含む広範な繊維が用いられてよい。炭素繊維は、特に軽量で堅いFRP材料を提供し得る。例えば、180から800GPaの引張弾性率を有する炭素繊維が用いられてよい。180から800GPaの高い弾性率を有する炭素繊維が本発明のベンゾオキサジン樹脂組成物と組み合わされた場合、剛性、強度、及び耐衝撃性の望ましいバランスが、FRP材料で実現され得る。
【0123】
強化繊維の形態に関して特別な制限又は限定はなく、例えば、長繊維(一方向延伸)、トウ、織物、マット、ニット、組み紐、及び短繊維(10mm未満の長さに切断)を含む多様な形態の繊維が用いられてよい。ここで、長繊維とは、少なくとも10mmにわたって実質的に連続的である単一繊維又は繊維束を意味する。他方、短繊維は、10mm未満の長さに切断された繊維束である。高い比強度及び比弾性率が要求される用途には、強化繊維束が同じ方向に引き揃えられた繊維配列が適し得る。
【0124】
本発明のFRP材料は、プリプレグ積層成形法、樹脂トランスファー成形法、樹脂フィルム注入法、ハンドレイアップ法、シート成形コンパウンド法、フィラメントワインディング法、及びプルトルージョン法などの方法を用いて製造されてよいが、これに関して特別な制限又は限定は適用されない。
【0125】
樹脂トランスファー成形は、強化繊維ベース材料が、液体熱硬化性樹脂組成物(本明細書で述べるベンゾオキサジン樹脂組成物など)で直接含浸され、硬化される方法である。この方法は、プリプレグなどの中間品が関与しないことから、成形コスト削減の多大な可能性を有し、宇宙船、航空機、鉄道車両、自動車、船舶などのための構造材の製造に有利に用いられる。
【0126】
プリプレグ積層成形法は、強化繊維ベース材料を熱硬化性樹脂組成物で含浸することによって製造されたプリプレグが、成形及び/又は積層され、続いて、成形及び/又は積層されたプリプレグに加熱加圧を適用することで樹脂が硬化されてFRP材料が得られる方法である。
【0127】
フィラメントワインディングは、1から数十の強化繊維ロービングが、所定の角度での張力下、回転する金属芯金(マンドレル)の周りに巻き付けられながら、一緒に一方向に延伸され、熱硬化性樹脂組成物で含浸される方法である。ロービングの巻き付けが所定の厚さに到達すると、それは硬化され、次に金属芯金が取り除かれてよい、又は取り除かれなくてもよい。
【0128】
プルトルージョンは、強化繊維が、液体熱硬化性樹脂組成物で満たされた含浸槽に連続的に通されて熱硬化性樹脂組成物によってそれらが含浸され、続いて、成形及び硬化のためにスクイズ金型及び加熱金型に通され、引張機を用いて連続的に延伸される方法である。この方法は、FRP材料を連続的に成形するという利点を提供することから、釣り竿、棒状体、パイプ、シート、アンテナ、建築構造物などのためのFRP材料の製造に用いられる。
【0129】
これらの方法の中でも、得られるFRP材料に非常に優れた剛性及び強度を与えるために、プリプレグ積層成形法が用いられ得る。
【0130】
プリプレグは、ベンゾオキサジン樹脂組成物及び強化繊維の実施形態を含有してよい。そのようなプリプレグは、強化繊維ベース材料を本発明のベンゾオキサジン樹脂組成物で含浸することによって得られ得る。含浸法は、ウェット法、及びホットメルト法(ドライ法)を含む。
【0131】
ウェット法は、強化繊維がまず、メチルエチルケトン又はメタノールなどの溶媒中にベンゾオキサジン樹脂組成物を溶解することによって作製されるベンゾオキサジン樹脂組成物の溶液中に浸漬され、取り出され、続いて、オーブンによる蒸発などによって溶媒が除去されて、強化繊維がベンゾオキサジン樹脂組成物で含浸される方法である。ホットメルト法は、加熱によって予め流動状とされたベンゾオキサジン樹脂組成物で強化繊維を直接含浸することによって、又は樹脂フィルムとして用いるために離型紙などをベンゾオキサジン樹脂組成物でまずコーティングし、次に平坦形状に配列された強化繊維の一方又は両側上にフィルムを配置し、続いて加熱加圧を適用して強化繊維を樹脂で含浸することによって実行され得る。ホットメルト法は、中に実質的に残留溶媒を有しないプリプレグを与え得る。
【0132】
プリプレグの強化繊維断面密度は、50~350g/m2であってよい。断面密度が少なくとも50g/m2である場合、FRP材料の成形時に所定の厚さを確保するために積層する必要のあるプリプレグの数を少なくすることができ、これによって、積層作業が単純化され得る。他方、断面密度が350g/m2以下である場合、プリプレグのドレープ性が良好となり得る。プリプレグの強化繊維の質量分率は、いくつかの実施形態では、50~90質量%、他の実施形態では、60~85質量%、又はさらに他の実施形態では、70~80質量%であってもよい。強化繊維の質量分率が少なくとも50質量%である場合、繊維含有量が充分であり、このことは、その非常に優れた比強度及び比弾性率、さらには硬化時にFRP材料が過剰の熱を発生させることを防止するという点でのFRP材料の利点を提供し得る。強化繊維の質量分率が90質量%以下である場合、樹脂によって充分に含浸することができ、FRP材料中に大量のボイドが形成されるリスクが低減され得る。
【0133】
プリプレグ積層成形法下での加熱加圧の適用には、プレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、ラッピングテープ法、内圧成形法などが適宜用いられてよい。
【0134】
オートクレーブ成形は、プリプレグが所定の形状のツールプレート上で積層され、次にバッギングフィルムで覆われ、続いて空気が積層体から引き抜かれながら加熱加圧が適用されることによる硬化が行われる方法である。それは、繊維配向の精密な制御を可能とし得るものであり、さらには、ボイド含有量を最小限に抑えることによって、非常に優れた機械特性を有する高品質の成形された材料を提供し得る。成形プロセスの過程で適用される圧力は、0.3から1.0MPaであってよく、一方成形温度は、90から300℃の範囲内であってよい。本発明の硬化されたベンゾオキサジン樹脂組成物のTgが並外れて高いことにより、プリプレグの硬化を比較的高い温度で行うことが有利であり得る(例:少なくとも180℃又は少なくとも200℃の温度)。例えば、成形温度は、200℃から275℃であってよい。別の選択肢として、プリプレグは、それよりも多少低い温度(例:90℃から200℃)で成形され、脱型され、続いてモールドから取り出された後により高い温度(例:200℃から275℃)で後硬化されてもよい。
【0135】
ラッピングテープ法は、プリプレグが、マンドレル又は他の何らかの芯金の周りに巻き付けられて、管状FRP材料が形成される方法である。この方法は、ゴルフシャフト、釣り竿、及び他のロッド形状品の製造に用いられ得る。より具体的には、この方法は、マンドレルの周りにプリプレグを巻き付け、プリプレグを固定してそれに圧力を適用する目的で、熱可塑性プラスチックフィルムから成るラッピングテープを張力下でプリプレグ上に巻き付けることを含む。オーブン中での加熱による樹脂の硬化後、芯金が取り除かれて、管状体が得られる。ラッピングテープの巻き付けに用いられる張力は、20~100Nであってよい。成形温度は、80~300℃の範囲内であってよい。
【0136】
内圧成形法は、熱可塑性樹脂チューブ又は他の何らかの内圧アプリケーターの周りにプリプレグを巻き付けることによって得られるプリフォームが、金属モールド内部にセットされ、続いて内圧アプリケーター中に高圧ガスが導入されて圧力が適用され、それに付随して同時に金属モールドが加熱されてプリプレグが成形される方法である。この方法は、ゴルフシャフト、バット、及びテニス又はバドミントンラケットなどの複雑な形状を有する物体を成形する際に用いられ得る。成形プロセスの過程で適用される圧力は、0.1~2.0MPaであってよい。成形温度は、室温~300℃、又は180~275℃の範囲内であってよい。
【0137】
本発明のプリプレグから製造されるFRP材料は、上記で述べたように、クラスA表面を有し得る。「クラスA表面」の用語は、審美的欠点及び欠陥のない極めて高い仕上げ品質特性を呈する表面を意味する。
【0138】
本発明のベンゾオキサジン樹脂組成物から得られる硬化ベンゾオキサジン樹脂組成物及び強化繊維を含有するFRP材料は、有利には、スポーツ用途、一般産業用途、及び航空宇宙用途に用いられる。これらの材料が有利に用いられる具体的なスポーツ用途としては、ゴルフシャフト、釣り竿、テニス又はバドミントンラケット、ホッケースティック、及びスキー用ストックが挙げられる。これらの材料が有利に用いられる具体的な一般産業用途としては、自動車、自転車、船舶、及び鉄道車両などの移動体用の構造材、ドライブシャフト、板バネ、風車ブレード、圧力容器、フライホイール、製紙用ローラー、屋根材、ケーブル、及び補修/補強材が挙げられる。
【0139】
本明細書中において、明確で簡潔な明細書の作成が可能となる方法で実施形態を記載してきたが、実施形態は、本発明から逸脱することなく、様々に組み合わされ、又は分離され得ることを意図しており、そのことは理解される。例えば、本明細書で述べるすべての好ましい特徴は、本明細書で述べる本発明のすべての態様に適用可能であることは理解される。
【0140】
いくつかの実施形態では、本発明は、本明細書において、組成物又はプロセスの基礎的で新規な特徴に実質的に影響を与えることのないいずれの要素又はプロセス工程も除外するものとして解釈され得る。加えて、いくつかの実施形態では、本発明は、本明細書において指定されないいずれの要素又はプロセス工程も除外するものとして解釈され得る。
【0141】
本発明は、本明細書において具体的な実施形態を参照して説明され、記載されるが、本発明は、示される詳細事項に限定されることを意図するものではない。そうではなく、請求項の均等物の範囲内で、本発明から逸脱することなく、その詳細事項に様々な改変が成されてもよい。
【0142】
本明細書で言及される各特許、公開特許出願、又は他の刊行物の全開示事項は、あらゆる点で参照により本明細書に援用される
【実施例】
【0143】
本発明の例において、特性の測定は、以下で述べる方法に基づいた。各例についての詳細を、表1に示す。
【0144】
<樹脂板の作製>
熱可塑性樹脂粒子及び重合触媒を除く所定量のすべての成分を混合物中に溶解することによって、混合物を作製した。次に、所定量の熱可塑性樹脂粒子及び(用いる場合は)重合触媒を、この混合物中に導入して、ベンゾオキサジン樹脂組成物を得た。ベンゾオキサジン樹脂組成物を、2mm厚のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)スペーサーを用いて厚さ2mmに設定したモールドキャビティ中に投入した。次に、ベンゾオキサジン樹脂組成物を、オーブン中の熱処理によって硬化して、2mm厚の硬化樹脂板を得た。
【0145】
硬化条件1
(1)室温から180℃まで、1.5℃/分の速度で温度を上昇;
(2)180℃で2時間保持;
(3)180℃から200℃まで、1.5℃/分の速度で温度を上昇;
(4)200℃で2時間保持;
(5)200℃から220℃まで、1.5℃/分の速度で温度を上昇;
(6)220℃で2時間保持;及び
(7)220℃から30℃まで、3℃/分の速度で温度を低下。
【0146】
<発熱反応の測定>
ベンゾオキサジン樹脂組成物を作製し、発熱反応エネルギー(J/g)及び発熱ピーク温度(℃)(ピーク反応温度とも称される)を、10℃/分での示差走査熱量計(DSC)を用いてASTM D3418に従って測定した。本発明において、発熱反応エネルギーは、各ピーク(直線フィッティング)を積分し、すべてのエネルギーを一緒に加算することで算出した発熱ピークの合計面積を意味する。ピークが複数ある場合は、それらは別々に積分した。ピークが重なっている場合は、それらは1つのピークとして積分した。ピーク反応温度は、発熱ピーク中の絶対熱流量(W/g)が最大である時点の温度を意味する。
【0147】
<残存発熱反応の測定>
ベンゾオキサジン樹脂組成物を、硬化条件1に従って硬化し、残存発熱反応エネルギー(J/g)を、10℃/分での示差走査熱量計(DSC)を用いてASTM D3418に従って測定した。
【0148】
<硬化ベンゾオキサジン樹脂組成物のガラス転移温度>
硬化された2mmの樹脂板から試料を機械切削し、次にそれを、SACMA SRM 18R-94に従って、動的粘弾性測定装置(ARES、TA Instruments製)を用い、50℃から300℃まで5℃/分の速度で昇温することにより、1.0Hzのねじりモードで測定した。ガラス転移温度(Tg)は、温度-対数貯蔵弾性率曲線上において、ガラス状態の接線、及びガラス状態とゴム状態との間にある遷移状態の接線の交点を見出すことによって特定した。その交点での温度を、一般的にG’オンセットTg(G' onset Tg)と称されるガラス転移温度であると見なした。湿潤ガラス転移温度は、試料を沸騰脱イオン水中に24時間浸漬してから試験したこと以外は乾燥ガラス転移温度と同様にして特定した。
【0149】
<硬化ベンゾオキサジン樹脂組成物の曲げ試験>
硬化された2mmの樹脂板から試料を機械切削し、曲げ弾性率及び曲げ強度を、ASTM D-790に従って測定した。硬化樹脂シートの180℃での湿熱曲げ弾性率及び曲げ強度は、試料を沸騰脱イオン水中に24時間浸漬してから試験したこと以外は室温特性と同様にして測定した。
【0150】
<原材料>
ベンゾオキサジン樹脂組成物の作製には、以下の市販の製品及び化学薬品を用いた。
【0151】
成分[A]:
「アラルダイト」MT35600(登録商標、Huntsman Advanced Materials製)、ビスフェノールA-アニリン型ベンゾオキサジン樹脂;
「アラルダイト」MT35900(登録商標、Huntsman Advanced Materials製)、チオジフェノール型ベンゾオキサジン樹脂;
F-a(四国化成工業株式会社製)、ビスフェノールF-アニリン型ベンゾオキサジン樹脂;
P-d(四国化成工業株式会社製)、フェノール-ジアミノジフェニルメタン型ベンゾオキサジン樹脂。
【0152】
成分[B]:
「アラルダイト」MY0610(登録商標、Huntsman Corporation製)、トリグリシジル メタ-アミノフェノール型三官能性エポキシ樹脂;
「ビニルシクロヘキセンジオキシド」(Alpha Chem Inc.製)、1,2-エポキシ-4-(エポキシエチル)シクロヘキサン;
「セロキサイド」2021P(登録商標、ダイセル化学工業製)、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート;
「セロキサイド」2081P(登録商標、ダイセル化学工業製)、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート変性イプシロン-カプロラクトン;
ビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)(以下に記載の方法によって合成):
まず、200gのビシクロヘキシル-3,3’-ジエン及び600gの酢酸エチルを、丸底フラスコに入れた。窒素ガスをフラスコに導入し、オイルバスで温度を38℃に制御した。次に、酢酸エチル、水(0.40重量%)、及び過酢酸(30重量%)を含む225gの溶液を、約3時間かけて滴下した。溶液の滴下完了後、得られた混合物を、40℃で1時間放置した。次に、得られた液体を30℃の水で洗浄し、続いて70℃で真空乾燥して、いずれの残留不純物をも除去した。最後に、201gのエポキシ化合物を、84%の収率で得た。
【0153】
2,3-ビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)オキシラン(以下に記載の方法によって合成):
まず、300gの4,4’-(1,2-エテンジイル)ビス[シクロヘキセン]及び1000gの酢酸エチルを、丸底フラスコに入れた。窒素ガスをフラスコに導入し、オイルバスで温度を38℃に制御した。次に、酢酸エチル、水(0.40重量%)、及び過酢酸(30重量%)を含む390gの溶液を、約3時間かけて滴下した。溶液の滴下完了後、得られた混合物を、40℃で1時間放置した。次に、得られた液体を30℃の水で洗浄し、続いて70℃で真空乾燥して、いずれの残留不純物をも除去した。最後に、272gのエポキシ化合物を78%の収率で得た。
【0154】
XU19127(Olin Corporation製)、ジビニルベンゼン型ジエポキシド;
D81009 ALDRICH(Sigma-Aldrich製)、ジシクロペンタジエン型ジエポキシド。
【0155】
成分[C]:
「Matrimid」9725(登録商標、Huntsman Advanced Materials製)、ポリイミド樹脂;
「Virantage」VW10700(登録商標、Solvay SA製)、ポリエーテルスルホン;
「Virantage」VW30500(登録商標、Solvay SA製)、ポリエーテルスルホン。
【0156】
成分[D]
104256 ALDRICH(Sigma-Aldrich製)、エチルp-トルエンスルホネート;
Accelerator DT300(Huntsman Corporation製)、チオジフェノール。
【0157】
成分[E]
「トレパール」TN(登録商標、東レ株式会社)、ポリアミド。
【0158】
表1及び2に示すベンゾオキサジン樹脂組成物を、以下のようにして作製した。熱可塑性樹脂粒子及び重合触媒を除く所定量のすべての成分を混合物中に溶解することによって、混合物を作製した。次に、所定量の熱可塑性樹脂粒子及び(用いる場合は)重合触媒を、この混合物中に導入して、ベンゾオキサジン樹脂組成物を得た。ベンゾオキサジン樹脂組成物を、2mm厚のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)スペーサーを用いて厚さ2mmに設定したモールドキャビティ中に投入した。次に、ベンゾオキサジン樹脂組成物を、オーブン中の熱処理によって硬化条件1に従って硬化し、2mm厚の硬化樹脂板を得た。樹脂組成物単独(硬化された形態)の測定された特性を表1に示す。
【0159】
実施例1~9および参考例1では、比較例1~8と比較して、硬化温度に対するガラス転移温度、及び高い温度での曲げ弾性率という点で良好な結果を得た。実施例7と比較例5との比較が、この利点を明白に示しており、グリシジル型エポキシ樹脂のMY0610を脂環式エポキシであるビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)で置き換えることによって、最終的な転移温度及び硬化温度に対するTgの改善という両方に関してガラス転移温度の著しい改善という結果が得られたことを実証している。加えて、脂環式エポキシであるビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)を用いることは、グリシジル型エポキシ樹脂のMY0610を用いた場合と比較して、高い温度での室温曲げ弾性率の維持率も高めている。このことは、グリシジル型エポキシ樹脂が多官能性であるために、より高い架橋密度のマトリックスが得られることが期待され、したがってより高いガラス転移温度が得られることを考えると、驚くべきことである。
【0160】
参考例1と比較例3及び10との比較は、脂環式エポキシ樹脂における連結基の低分子量が重要であることを明白に示しており、45g/モル未満の分子量である連結基を有する脂環式エポキシ樹脂のビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)で、45g/モル超の分子量である連結基を有する脂環式エポキシ樹脂の「セロキサイド」(登録商標)2021P又は「セロキサイド」(登録商標)2081Pを置き換えることによって、最終的な転移温度及び硬化温度に対するTgの改善という両方に関してガラス転移温度の著しい改善という結果が得られたことを実証している。加えて、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)を用いることは、室温(21℃)環境曲げ弾性率と比較した場合、水分で飽和後の180℃での曲げ弾性率の維持率も大きく改善した。
【0161】
実施例9と比較例8との比較から、多官能性ベンゾオキサジン樹脂及び脂環式エポキシ樹脂に対して正しく重合触媒を選択することが重要であることが実証される。実施例9は、水分による飽和後、高いガラス転移温度及び非常に優れた弾性率維持率を実証し、一方比較例8は、低いガラス転移温度を有していた。これは、実施例9で用いた重合触媒スルホネートエステルの結果であり、これは、脂環式エポキシ樹脂のピーク反応温度を低下させて、ベンゾオキサジン樹脂のピーク反応温度に近づけるものである。
【0162】
実施例1と比較例7との比較から、低分子量のリジッドな脂環式エポキシ樹脂であるビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)を、低分子量のリジッドなグリシジル型エポキシ樹脂であるXU19127で置き換えることによって、高いガラス転移温度も高い曲げ弾性率維持率も得られないことが実証される。先の結果と合わせると、この結果から、望ましい高温特性を実現するためには、ベンゾオキサジン樹脂組成物に用いられるエポキシ樹脂は、リジッドな(比較的低分子量な)リンカー基を有する必要があり、かつ脂環式でなければならないことが実証される。
【0163】
【0164】