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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】車両制御装置、及び車両制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/06 20060101AFI20221227BHJP
   B60K 6/442 20071001ALI20221227BHJP
   B60W 20/50 20160101ALI20221227BHJP
   F01N 3/18 20060101ALI20221227BHJP
   F01N 11/00 20060101ALI20221227BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
B60W10/06 900
B60K6/442 ZHV
B60W20/50 ZAB
F01N3/18 C
F01N11/00
F02D45/00 345
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021520773
(86)(22)【出願日】2020-05-15
(86)【国際出願番号】 JP2020019510
(87)【国際公開番号】W WO2020235501
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2021-06-23
(31)【優先権主張番号】P 2019093745
(32)【優先日】2019-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177460
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 智子
(72)【発明者】
【氏名】今岡 健太
(72)【発明者】
【氏名】松永 英雄
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 和通
【審査官】井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-535831(JP,A)
【文献】特開2015-137541(JP,A)
【文献】特開2013-181453(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/06
B60K 6/442
B60W 20/50
F01N 3/18
F01N 11/00
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンから排出される排気ガスの排気流路上に取り付けられる排気ガス処理装置を備える車両の車両制御装置であって、
前記排気流路上の前記エンジンの下流かつ前記排気ガス処理装置の取り付け位置の上流に設けられた第1の温度センサと、
前記排気流路上の前記排気ガス処理装置の取り付け位置の下流に設けられた第2の温度センサと、
前記第1の温度センサによって検出される第1の検出温度と前記第2の温度センサによって検出される第2の検出温度との温度差が、所定の判定期間以内に所定の判定温度以上とならない場合、前記取り付け位置に前記排気ガス処理装置が取り付けられていないと判定する取り付け判定部と、
を備え、
前記取り付け判定部は、前記排気流路が冷却状態にあることを示す所定のソーク条件の成立中に前記エンジンが始動した際に前記判定を開始し、
前記車両は、前記エンジン及びモータの少なくとも一方により駆動輪を駆動するハイブリッド車両であり、
前記ソーク条件の成立は、前記エンジンが停止している状態が所定期間継続することを含み、
前記エンジンが停止している状態の継続期間は、前記モータにより前記車両の駆動輪を駆動して走行するEV走行モードの継続時間を含み、
前記取り付け判定部は、前記エンジンの吸入空気量が大きいほど前記判定温度を大きくする、
車両制御装置。
【請求項2】
前記取り付け判定部は、前記エンジンの吸入空気量が大きいほど前記所定期間を小さくする、
請求項1記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記取り付け判定部は、前記エンジンが停止している状態の継続時間として前記EV走行モードの継続時間をカウントする場合、前記エンジンが停止して前記車両が停車している場合よりも前記所定期間を短くする、
請求項1または2記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記エンジンおよび前記モータの動作状態を制御する駆動制御部を更に備え、
前記駆動制御部は、前記取り付け判定部により前記判定が行われている間は、前記エンジンを所定の高負荷状態で駆動する、
請求項1~3のいずれか一項記載の車両制御装置。
【請求項5】
前記駆動制御部は、前記モータが消費する電力を蓄積するバッテリの充電率に基づいて前記エンジンの負荷の増加量を変更する、
請求項4記載の車両制御装置。
【請求項6】
エンジンから排出される排気ガスの排気流路上に取り付けられる排気ガス処理装置を備える車両の車両制御方法であって、
プロセッサが、
前記排気流路上の前記エンジンの下流かつ前記排気ガス処理装置の取り付け位置の上流における排気ガスの第1の温度と、前記排気流路上の前記排気ガス処理装置の取り付け位置の下流における排気ガスの第2の温度とに基づいて、前記取り付け位置に前記排気ガス処理装置が取り付けられているか否かの判定を行い、
前記排気流路が冷却状態にあることを示す所定のソーク条件の成立中に前記エンジンが始動した際に前記判定を開始し、前記第1の温度と前記第2の温度との温度差が、所定の判定期間以内に所定の判定温度以上とならない場合、前記取り付け位置に前記排気ガス処理装置が取り付けられていないと判定し、
前記車両は、前記エンジン及びモータの少なくとも一方により駆動輪を駆動するハイブリッド車両であり、
前記ソーク条件の成立は、前記エンジンが停止している状態が所定期間継続することを含み、
前記エンジンが停止している状態の継続期間は、前記モータにより前記車両の駆動輪を駆動して走行するEV走行モードの継続時間を含み、
前記エンジンの吸入空気量が大きいほど前記判定温度を大きくする、
車両制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エンジンを備える車両の車両制御装置、及び車両制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンを備える車両は、例えば排気ガス処理フィルタに代表されるような、エンジンから排出される排気ガスの処理用装置(排気ガス処理装置)を排気流路上に有する。このような排気ガス処理装置は取り外しが可能である。このため、一部の車両は、排気流路上に排気ガス処理装置が取り付けられているか否かを判定する機能を有する。
【0003】
例えば、日本国特許第4500359号公報は、内燃エンジンの排ガスの後処理装置(排気ガス処理装置)が車輌に存在するか否かを診断する方法を開示している。この方法は、該後処理装置の下流側で排ガスの温度をある時間の間連続的に測定することによって、変動する振幅を持っている温度の第一の信号を得ること、該第1の温度の信号を変調することによって温度の変調された第二の信号を得ること、そして該温度の第一の信号及び第二の信号を比較することによって信号の間の何らかの有意な差異を検出することを含む。
【0004】
上述した従来技術は、エンジンの排気ガスの温度を用いて排気ガス処理装置が取り付けられているかを判定している。しかし、エンジンの排気ガスの温度は、エンジンの動作状態に応じて変動する。このため、エンジンの動作状態によっては誤判定が生じる可能性がある。
例えば、排気ガス処理装置が高温状態の時にエンジンが再始動した場合に、高温状態の排気ガス処理装置を吹き抜けた排気が下流側の流路に流入し、下流側の排気温度が急変する可能性がある。これは、排気ガス処理装置が取り付けられているにも関わらず取り付けられていないとする誤判定を生じさせる可能性がある。
【発明の概要】
【0005】
本開示の実施形態は、排気ガス処理装置の取り付けの有無をより精度よく判定する車両制御装置、及び車両制御方法を提供する。
【0006】
本開示の一実施形態によれば、車両制御装置は、エンジンから排出される排気ガスの排気流路上に取り付けられる排気ガス処理装置を備える車両の車両制御装置であって、前記排気流路上の前記エンジンの下流かつ前記排気ガス処理装置の取り付け位置の上流に設けられた第1の温度センサと、前記排気流路上の前記排気ガス処理装置の取り付け位置の下流に設けられた第2の温度センサと、前記第1の温度センサによって検出される第1の検出温度と前記第2の温度センサによって検出される第2の検出温度との温度差が、所定の判定期間以内に所定の判定温度以上とならない場合、前記取り付け位置に前記排気ガス処理装置が取り付けられていないと判定する取り付け判定部と、を備え、前記取り付け判定部は、前記排気流路が冷却状態にあることを示す所定のソーク条件の成立中に前記エンジンが始動した際に前記判定を開始する。
また、本開示の他の実施形態によれば、車両制御方法は、エンジンから排出される排気ガスの排気流路上に取り付けられる排気ガス処理装置を備える車両の車両制御方法であって、プロセッサが、前記排気流路上の前記エンジンの下流かつ前記排気ガス処理装置の取り付け位置の上流における排気ガスの第1の温度と、前記排気流路上の前記排気ガス処理装置の取り付け位置の下流における排気ガスの第2の温度とに基づいて、前記取り付け位置に前記排気ガス処理装置が取り付けられているか否かの判定を行い、前記排気流路が冷却状態にあることを示す所定のソーク条件の成立中に前記エンジンが始動した際に前記判定を開始し、前記第1の温度と前記第2の温度との温度差が、所定の判定期間以内に所定の判定温度以上とならない場合、前記取り付け位置に前記排気ガス処理装置が取り付けられていないと判定する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施の形態にかかる車両制御装置が搭載されたハイブリッド車両の構成を示す模式図である。
図2】エンジンで発生した排気ガスの排気系統を示す模式図である。
図3A】取り付け判定部が行う取り付け判定を示すタイミングチャートである。
図3B】取り付け判定部が行う取り付け判定を示すタイミングチャートである。
図4】エンジンの動作状態とソーク条件成立との関係を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に添付図面を参照して、本開示の一実施形態にかかる車両制御装置を詳細に説明する。本実施の形態では、排気ガス処理装置の一例としての排気ガス処理フィルタの取り付けの有無を判定する場合について説明する。
図1は、実施の形態にかかる車両制御装置10が搭載されたハイブリッド車両12の構成を示す模式図である。
本実施の形態では、車両制御装置が搭載される車両の一例として、エンジンとモータとを備えるハイブリッド車両について説明する。なお、車両制御装置が搭載される車両はハイブリッド車両に限らず、エンジンのみを備えたエンジン車であってもよい。また、本実施の形態では、車両に搭載されたエンジンが、ガソリンを燃料に用いるガソリンエンジンであるが、エンジンは、軽油を燃料に用いるディーゼルエンジンであってもよい。ハイブリッド車両は、ディーゼルエンジンとモータとを用いたディーゼルハイブリッド車両であってもよい。
【0009】
図1に示すように、ハイブリッド車両12は、走行システム20と、発電システム30と、ECU(Electronic Control Unit)70とを備えている。
走行システム20は、ハイブリッド車両12の駆動機構であり、前輪21および後輪22と、モータ(第1の回転電機)23と、インバータ24と、エンジン25と、モータ23の出力軸23Aの回転とエンジン25の出力軸25Aの回転とを前輪21に伝達する伝達機構26と、燃料タンク40と、バッテリ50とを備えている。
【0010】
前輪21および後輪22は、それぞれ車幅方向で対となった2つの車輪で構成されている。本実施の形態では、前輪21がモータ23およびエンジン25の駆動輪となっている。例えば前輪21および後輪22のそれぞれに対してモータ23(前輪駆動用モータおよび後輪駆動用モータ)を設けるようにしてもよい。
モータ23は、バッテリ50に蓄積された電力を用いて動作し、出力軸23Aから回転力(トルク)を出力する。なお、モータ23は、ハイブリッド車両12の減速時(アクセルペダルの戻し時など)に回生運転を行い回生発電することも可能である。回生発電により発生した電力はインバータ24を介してバッテリ50に供給され、バッテリ50を充電する。
【0011】
インバータ24は、バッテリ50の電力をユーザ(運転者)の要求に合わせて調整してモータ23に供給する。ユーザの要求とは、一例として、アクセルペダルやブレーキペダル、シフトレバー(図示なし)等の操作や車速センサによって計測された車速などであり、後述するECU70が、ユーザの要求に対応する要求出力値を算出する。ECU70は、算出した要求出力値に基づいてインバータ24を制御する。
【0012】
エンジン25は、燃料タンク40から供給される燃料を燃焼室内で燃焼することによって動作する。本実施の形態では、エンジン25は、ガソリンを燃料とするレシプロエンジンである。エンジン25は、後述するECU70によって制御される。
【0013】
伝達機構26は、モータ23の出力軸23Aの回転を前輪21に伝達するとともに、エンジン25の出力軸25Aの回転を前輪21に伝達する。伝達機構26は、クラッチ装置27を備えている。クラッチ装置27は、一対のクラッチ板27A,27Bと、クラッチ板27A,27Bを互いに接触可能とさせ、かつ、接触状態を解除可能とする駆動部27Cを備えている。
【0014】
クラッチ板27Aは、エンジン25の出力軸25Aと一体に回転する。クラッチ板27Bは、モータ23の出力軸23Aと一体に回転する。駆動部27Cによってクラッチ板27A,27Bどうしが互いに接触すると、クラッチ板27A,27Bは互いに一体に回転する。このことによって、エンジン25の出力軸25Aの回転が前輪21に伝達される。駆動部27Cによってクラッチ板27A,27Bが互いに離れた状態になると、エンジン25の出力軸25Aの回転は前輪21に伝達されなくなる。駆動部27Cは、後述するECU70によって制御される。
【0015】
燃料タンク40は、エンジン25の動力源である燃料(本実施の形態ではガソリン)を蓄積する。
バッテリ50は、モータ23の動力源である電力を蓄積する。バッテリ50は、後述するジェネレータ31による発電、モータ23による回生発電、およびハイブリッド車両12の車体に設けられた充電コネクタ(図示なし)に接続される外部電源からの供給等によって充電される。
バッテリ50にはBMU(Battery Management Unit)50Aが接続されている。BMU50Aは、バッテリ50の電圧や温度、入出力される電流等を検出し、充電率(SOC:State Of Charge)を含むバッテリ50の状態を検出する。BMU50Aは、バッテリ50の状態(充電率やバッテリ電圧、バッテリ温度等)をECU70に送信する。
【0016】
発電システム30は、バッテリ50を充電するための機構であり、エンジン25と、ジェネレータ(第2の回転電機)31と、インバータ24とを備えている。
【0017】
ジェネレータ31の回転軸31Aには、第2の伝達機構32を介してエンジン25の出力軸25Aの回転が伝達される。ジェネレータ31は、ECU70の制御によって発電可能な状態になると、エンジン25の出力軸25Aの回転を受けて回転軸31Aが回転し、発電する。ジェネレータ31はインバータ24に接続されており、ジェネレータ31が発電した交流電力はインバータ24によって直流電力に変換されてバッテリ50に充電される。
また、後述するシリーズ走行モードでは、ジェネレータ31が発電した交流電力がそのままモータ23の駆動に用いられる。この場合、ジェネレータ31の発電した交流電力はインバータ24で適宜周波数が変換された上でモータ23に供給される。
【0018】
ジェネレータ31は、エンジン25を始動する際の電動機(スタータ)としても機能する。ECU70は、エンジン25を始動するときは、インバータ24を制御してジェネレータ31を駆動する。ジェネレータ31が動作することによって回転軸31Aが回転する。回転軸31Aは第2の伝達機構32を介してエンジン25の出力軸25Aに連結されているので、ジェネレータ31が作動して回転軸31Aが回転すると、エンジン25の出力軸25Aが回転する。
【0019】
ECU70は、ハイブリッド車両12全体を制御する車両制御装置10として機能する。
ECU70は、CPU(Central Processing Unit)、制御プログラムなどを格納・記憶するROM(Read Only Memory)、制御プログラムの作動領域としてのRAM(Random Access Memory)、各種データを書き換え可能に保持するEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)、周辺回路等とのインターフェースをとるインターフェース部などを含む。
上記CPUが上記制御プログラムを実行することにより、ECU70は、車両制御装置10の駆動制御部700(エンジン停止部)および取り付け判定部702として機能する。
【0020】
駆動制御部700は、図示しない各種操作部を介して入力されるユーザからの設定やバッテリ50の充電率等に基づいて、ハイブリッド車両12の各部、例えばモータ23、エンジン25、ジェネレータ31、クラッチ装置27の駆動部27C等を制御する。
駆動制御部700は、ハイブリッド車両12の3つの走行モード、すなわちEV(Electric Vehicle)走行モード、シリーズ走行モード、パラレル走行モードの3種類を適宜切り替えてハイブリッド車両12を駆動する。
【0021】
以下、3つの走行モードについて説明する。
EV走行モードは、エンジン25は停止し、モータ23の駆動力で車軸を回転させて走行するモードである。EV走行モードでモータ23に供給される電力は、バッテリ50に蓄積された蓄積電力のみである。
【0022】
シリーズ走行モードは、エンジン25でジェネレータ31を駆動して発電しながら、モータ23の駆動力で車軸を回転させて走行するモードである。シリーズ走行モードでモータ23に供給される電力は、バッテリ50に蓄積された蓄積電力およびジェネレータ31で発電された発電電力となる。
駆動制御部700は、例えばEV走行モード中にバッテリ50の充電率が所定値(以下、「エンジン始動SOC」という)以下に低下した場合にハイブリッド車両12をシリーズ走行モードに移行させる。すなわち、駆動制御部700は、バッテリ50の充電率が所定充電率(エンジン始動SOC)以下となった場合、ジェネレータ31による強制発電を実施する。また、駆動制御部700は、EV走行モード中、低~中速時に要求出力値が所定値以上となった場合(アクセルが踏み込まれた場合など)にも、バッテリ50からの電力に加えジェネレータ31で発電された電力をモータ23に供給するために、ハイブリッド車両12をシリーズ走行モードに移行させる。
【0023】
パラレル走行モードは、エンジン25の駆動力およびモータ23の駆動力で車軸を回転させて走行するモードである。
駆動制御部700は、特に、高速走行時等、エンジン25による車軸駆動の効率が高い場合にハイブリッド車両12をパラレル走行モードに移行させる。パラレル走行モードでは、主にエンジン25が車軸を駆動し、加速時等にモータ23がアシストする。パラレル走行モード時にも、エンジン25の駆動力をジェネレータ31に伝達して発電を行う(すなわち、エンジン25の駆動力を走行と発電とに振り分ける)ことが可能である。
【0024】
ここで、駆動制御部700は、所定のエンジン停止条件成立時にエンジン25の駆動を停止するエンジン停止部として機能する。例えば、アクセルペダルが踏み込まれ(高出力が要求され)、シリーズ走行モードやパラレル走行モードで走行している際に、アクセルペダルが踏み戻されたり、ブレーキペダルが踏み込まれたりした場合(エンジン停止条件成立)、駆動制御部700はエンジン25を停止させ、EV走行モードでハイブリッド車両12を走行させる。
また、車両制御装置10が搭載された車両がハイブリッド車両ではなく、エンジンのみを備えたエンジン車の場合、駆動制御部700は、アイドリングストップ機能により信号待ちなどの停車時や減速時など(エンジン停止条件成立時)にエンジン25を停止させる。
【0025】
図2は、エンジン25で発生した排気ガスの排気系統60を示す模式図である。
エンジン25には、車外から吸入した吸気が供給される吸気流路602と、燃焼室内で生じる排気ガスを車外へと排出する排気流路604とが接続されている。排気流路604は、エンジン25とハイブリッド車両12の車体外部に通じるマフラー開口部(図示なし)とを接続している。
排気流路604上には、排気ガスを処理する排気ガス処理フィルタ606(排気ガス処理装置)が取り付けられている。排気ガス処理フィルタ606は、例えば排気ガスに含まれる粒子状物質を捕集し、除去するガソリン・パティキュレート・フィルタ(GPF)などである。なお、排気ガス処理フィルタ606として、または排気ガス処理フィルタ606とは別個に、三元触媒コンバータ等が設けられていてもよい。
【0026】
排気流路604上のエンジン25の下流かつ排気ガス処理フィルタ606の取り付け位置の上流には、第1の温度センサ608が設けられている。また、排気流路604上の排気ガス処理フィルタ606の取り付け位置の下流には、第2の温度センサ610が設けられている。
第1の温度センサ608および第2の温度センサ610はそれぞれ、その設置位置における排気ガスの温度を検出し、検出温度を、車両制御装置10の取り付け判定部702として機能するECU70に出力する。
【0027】
取り付け判定部702は、第1の温度センサ608によって検出された第1の検出温度と、第2の温度センサ610によって検出された第2の検出温度との温度差に基づいて、排気ガス処理フィルタ606の取り付け状態(取り付けの有無)を判定する。以下、取り付け判定部702による判定を「取り付け判定」という。
より詳細には、取り付け判定部702は、取り付け判定開始後、第1の検出温度と第2の検出温度との間の温度差が所定の判定期間(以下「故障判定期間」という)以内に所定の判定温度以上とならない場合、取り付け位置に排気ガス処理フィルタ606が取り付けられていないと判定する。また、取り付け判定部702は、取り付け判定開始後、第1の検出温度と第2の検出温度との間の温度差が、故障判定期間以内に判定温度以上となり、その状態が所定期間(以下「正常判定期間」という)継続した場合、取り付け位置に排気ガス処理フィルタ606が取り付けられていると判定する。
このような方法で判定を行うのは、排気ガス処理フィルタ606が取り付けられている場合、排気ガス処理フィルタ606の熱容量によって、排気ガス処理フィルタ606の取り付け位置の上流と下流で排気温度に差が生じる一方で、排気ガス処理フィルタ606が取り付けられていない場合には、排気ガス処理フィルタ606の取り付け位置の上流と下流で排気温度にほとんど差が生じないと考えられるためである。
【0028】
図3A及び図3Bは、取り付け判定部702が行う取り付け判定を示すタイミングチャートである。
図3A及び図3Bでは、上から順にエンジン25の動作状態(作動/停止)、排気ガス処理フィルタ606の上流の排気温度(第1の温度センサ608によって検出される第1の検出温度)および下流の排気温度(第2の温度センサ610によって検出される第2の検出温度)、エンジン25の始動からの経過時間、上流・下流間の排気温度差、正常(フィルタ有)判定結果、故障(フィルタ無)判定結果を時系列で示している。
【0029】
図3Aは、排気ガス処理フィルタ606が取り付けられている(フィルタ有)場合のタイミングチャートである。
時刻T0では、エンジン25は停止しており、フィルタの上流と下流で排気温度差は略ゼロである。
時刻T1でエンジン25が始動すると、エンジン25の始動からの経過時間がカウントされる。エンジン25の始動からしばらくすると(時刻T2)、フィルタの上流の排気温度が上昇し始め、上流・下流間で排気温度差が生じる。
この排気温度差が所定の判定温度TN以上になり、その状態が正常判定期間TM継続すると、取り付け判定部702は排気ガス処理フィルタ606が取り付けられていると判断する。図3Aでは、時刻T3に上流・下流間で排気温度差が判定温度TN以上となり、その状態が正常判定期間TM継続した時刻T4に正常判定が成立する。
【0030】
図3Bは、排気ガス処理フィルタ606が取り付けられていない(フィルタ無)場合のタイミングチャートである。
この場合も、時刻T0では、エンジン25は停止しており、フィルタの上流と下流で排気温度差は略ゼロである。
時刻T1でエンジン25が始動すると、エンジン25の始動からの経過時間がカウントされる。エンジン25の始動からしばらくすると(時刻T2)、フィルタ有の場合と同様にフィルタの上流の排気温度が上昇し始めるが、これとほぼ同時に下流の排気温度も上昇し始めるため、上流・下流間で排気温度差がほとんど生じない。すなわち、上流・下流間の排気温度差が判定温度TN未満の状態が継続する。
この状態がエンジン25の始動から故障判定期間TL継続すると、取り付け判定部702は排気ガス処理フィルタ606が取り外されていると判断する。図3Bでは、上流・下流間の排気温度差が判定温度TN未満の状態が故障判定期間TL継続した時刻T5に、故障判定が成立する。故障判定が成立した場合は、ECU70は、例えばインストゥルメントパネルの警告灯を点灯させるなどしてユーザに報知する。
【0031】
なお、図3A及び図3Bに示す判定温度TNや故障判定期間TL、正常判定期間TMは、エンジン25の吸入空気量(≒エンジン負荷)の大小によって変化してもよい。具体的には、例えばエンジン25の吸入空気量が大きいほど、取り付け判定部702は、判定温度TNを大きくし、故障判定期間TL及び正常判定期間TMを小さくする。これは、エンジン25の吸入空気量が変化すると、排気温度の上昇の大きさや温度変化にかかる所要時間も変化するためである。
【0032】
本実施の形態では、上記故障判定期間TLはエンジン25の始動からの経過時間によって規定されるが、例えばエンジン25の始動からの排気流量の積算値によって規定されてもよい。すなわち、例えばエンジン25の始動からの排気流量の積算値がSA以上となった時に故障判定期間TLが経過したものとしてもよい。同様に、正常判定期間TMも排気流量の積算値によって規定されてもよい。
【0033】
ここで、本実施の形態では、取り付け判定部702は、所定のソーク条件の成立中にエンジン25が始動した際に取り付け判定を開始する。ソーク条件とは、エンジン25が停止してから一定の時間が経過し、排気ガス処理フィルタ606や排気流路604を含む排気系統60が冷却状態にあることを示す条件である。
排気ガス処理フィルタ606が十分に冷却された状態からエンジン25が始動すると、排気ガス処理フィルタ606に多くの熱量が吸収されるため、排気ガス処理フィルタ606の取り付け位置の上流の排気温度と下流の排気温度の差がより大きくなる(上流の排気温度>>下流の排気温度)。このため、ソーク条件成立中に取り付け判定を行うことにより、排気ガス処理フィルタ606の取り付けの有無をより精度よく判定することができる。
【0034】
ソーク条件としては、例えば以下のようなものが挙げられる。取り付け判定部702は、例えば下記条件1~3のいずれかが成立した場合に、取り付け判定を実施可能と判断する。
<条件1>
エンジン25が停止している状態が所定時間以上継続する。
条件1では、取り付け判定部702は、エンジン25の動作状態を直接監視し、エンジン25が停止してから所定時間経過した場合に、ソーク条件が成立したと判定する。
本実施の形態では、条件1における「エンジンが停止している状態の継続時間」は、モータ23が車両の駆動輪を駆動して走行するEV走行モードの継続時間を含むものとする。
【0035】
図4は、エンジン25の動作状態とソーク条件成立との関係を示すタイミングチャートである。
図4では、上から順にエンジン25の動作状態(作動/停止)、モータ23の動作状態(作動/停止)、車両の走行速度(車速)、ソーク条件の判定期間(ソーク時間:エンジン停止状態の継続時間)、ソーク条件の成立状態(成立/不成立)を時系列で示している。
時刻T0では、エンジン25およびモータ23が作動しており、車両は所定の車速Vで走行している(シリーズ走行モードまたはパラレル走行モード)。エンジン25が作動しているため、ソーク時間はゼロ、ソーク条件は不成立である。
【0036】
時刻T1でエンジン25およびモータ23が停止すると、車両は停車し、車速ゼロとなる。時刻T1からソーク時間のカウントが開始され、ソーク時間が第1の所定時間tαとなった時刻T2にソーク条件が成立する。
時刻T3でエンジン25およびモータ23が再度始動し、車両が走行を再開した後もソーク条件が成立した状態が維持される。ソーク条件が成立した状態は、再度始動したエンジン25が停止するまで(図4では時刻T4まで)維持される。これは、ソーク条件が成立した状態で取り付け判定を行う必要があるためである。一般には、時刻T3でエンジン25が再度始動したタイミングで取り付け判定が行われる。
【0037】
また、例えば波線より右側において、エンジン25およびモータ23が作動しており、車速Vで走行していた状態から、時刻T5にエンジン25が停止して、モータ23のみが作動するEV走行モードで走行した場合、時刻T5からソーク時間のカウントが実施される。EV走行モードで走行した場合、単に車両が停車している場合と比較して、走行風の影響により排気系統60がより良く冷やされる。よって、EV走行時には、ソーク時間が上記第1の所定時間tαよりも短い第2の所定時間tβとなった時点(時刻T6)でソーク条件が成立してもよい。なお、比較のため第1の所定時間tαを時刻T6付近の点線で示している。
すなわち、取り付け判定部702は、エンジン25が停止している状態の継続時間としてEV走行モードの継続時間をカウントする場合、エンジン25が停止して車両が停車している場合よりもソーク判定成立までの時間TS(所定時間)を短くしてもよい。
【0038】
<条件2>
前回エンジン停止時の温度パラメータ(冷却水温など)が暖機状態を示す所定温度以上であり、かつ今回エンジン始動時の温度パラメータと外気温との差が所定値以下となっている。
<条件3>
前回エンジン停止時の温度パラメータ(冷却水温など)が暖機状態を示す所定温度以上であり、かつ今回エンジン始動時の温度パラメータが所定値以下となっている。
条件2、条件3では、取り付け判定部702は、エンジン25停止状態の継続時間を監視するのではなく、温度パラメータを用いてソーク条件の成立の可否を判定している。これは、例えば外気温が高温の場合、エンジン25が停止してから十分時間が経過しても、排気系統60の冷却が十分になされなかったり、エンジン25の排気と外気との温度差が小さかったりする場合があり、取り付け判定の精度が低下する可能性があるためである。条件2、条件3のように、温度パラメータを用いてソーク条件の成立の可否を判定することによって、取り付け判定の精度をより向上させることができる。
【0039】
また、取り付け判定を安定して行うため、駆動制御部700(エンジン停止部)は、取り付け判定部702による取り付け判定の実施中はエンジン25の停止を中止してもよい。これは、本実施の形態における取り付け判定では、高温の排気が所定期間継続して排気流路604に供給される必要があり、エンジン25が停止すると正確な判定が行えないためである。
すなわち、ハイブリッド車両12において、シリーズ走行モードまたはパラレル走行モードでの走行時に取り付け判定が開始された直後に、通常であればEV走行モードとなる車両状態となった場合でも、駆動制御部700はエンジン25の駆動を継続する。
また、例えばアイドリングストップ機能が付いたガソリン車の場合には、信号待ち時など通常であればエンジン25が停止する車両状態となった場合でも、駆動制御部700はエンジン25の駆動を継続する。
なお、ユーザによりキーオフされた場合には、エンジン25を停止させる。
【0040】
また、駆動制御部700は、取り付け判定部702により取り付け判定が行われている間は、エンジン25を所定の高負荷状態で駆動してもよい。これは、上述のように本実施の形態の取り付け判定では、高温の排気が所定期間継続して排気流路604に供給される必要があるが、低負荷状態ではエンジン回転数が少なく排気量も少ないため、排気ガス処理フィルタ606の上流と下流とで排気温度差が生じにくく、判定精度が低下する可能性があるためである。ハイブリッド車両12では、クラッチ装置27によりエンジン25の出力の駆動輪への伝達を断接可能であるため、ジェネレータ31の負荷を上げることにより走行に直接影響を与えることなくエンジン25の動作状態を取り付け判定に適した領域(高負荷状態)とすることができる。
【0041】
また、駆動制御部700は、取り付け判定時にエンジン25を高負荷状態で駆動する場合、バッテリ50の充電率に基づいてエンジン25の負荷の増加量を変更してもよい。すなわち、駆動制御部700が、エンジン25を車両の走行状態に関わらず高負荷状態で駆動する場合、ジェネレータ31の発電量を上げてエンジン25の負荷を増やす必要があるが、バッテリ50の充電率が高い場合、発電によって生じた電力の受け入れ先が不足する。
このため、駆動制御部700は、バッテリ50の充電率が高いほど取り付け判定時におけるエンジン25の負荷(走行に要する負荷からの増加量)を少なくする。さらに、バッテリ50の充電率が満充電に近い場合(所定充電率以上の場合)には、駆動制御部700は、取り付け判定時におけるエンジン25の負荷の増加を停止してもよい。
【0042】
以上説明したように、実施の形態にかかる車両制御装置10は、排気流路604が冷却状態にあることを示すソーク条件の成立中に取り付け判定を行う。ソーク条件の成立中は、排気ガス処理フィルタ606の有無に基づく上下流の温度差が大きくなる。これにより、判定精度が向上する。
また、アイドリングストップ等で走行中にエンジン25が停止する可能性のある場合に、取り付け判定の実施中はエンジン25の停止を中止してもよい。これにより、エンジン25からの排気が停止することなく安定して判定を行うことができる。
また、制御対象車両がエンジン25に加えモータ23を備えるハイブリッド車両12の場合に、EV走行モードの継続時間をソーク条件に含めてもよい。これにより、ソーク条件が成立しやすくなり取り付け判定の機会を増やすことができる。この時、EV走行モード中は走行風により排気系統が冷却されやすいので、車両が停車している場合よりもソーク条件成立までの時間を短くしてもよい。これにより、さらに効率的に判定を行うことができる。
また、取り付け判定中はエンジン25を高負荷状態で駆動させてもよい。これにより、取り付け判定に適した領域でエンジン25を駆動することができ、取り付け判定の精度を向上させることができる。
また、バッテリ50の充電率に基づいてエンジン25の負荷の増加量を変更してもよい。これにより、過充電等のバッテリ50の不具合を回避することができる。
【0043】
なお、ECU70を駆動制御部700(エンジン停止部)および取り付け判定部702として機能させるためのプログラムは、コンピュータが読取可能な一時的でない(non-transitory)記録媒体に記録されて提供可能である。コンピュータが読取可能な記録媒体は、たとえば、CD-ROM(Compact Disc-ROM)等の光学記憶媒体や、HDD(Hard Disk Drive)等の磁気記録媒体や、フラッシュメモリ等の半導体記憶媒体を含む。また、このようなプログラムは、ネットワークを介したダウンロードによっても提供可能である。
【0044】
本出願は、2019年5月17日出願の日本特許出願特願2019-093745に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0045】
10 車両制御装置
12 ハイブリッド車両
23 モータ
25 エンジン
31 ジェネレータ
40 燃料タンク
50 バッテリ
60 排気系統
602 吸気流路
604 排気流路
606 排気ガス処理フィルタ
608 第1の温度センサ
610 第2の温度センサ
70 ECU
700 駆動制御部(エンジン停止部)
702 取り付け判定部
図1
図2
図3A
図3B
図4