(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】ピーニング処理装置、ピーニング処理方法および構造物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 31/00 20060101AFI20221227BHJP
C21D 7/06 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
B23K31/00 F
C21D7/06 Z
(21)【出願番号】P 2021547432
(86)(22)【出願日】2021-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2021012967
(87)【国際公開番号】W WO2021193944
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2021-08-13
(31)【優先権主張番号】P 2020056421
(32)【優先日】2020-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】島貫 広志
(72)【発明者】
【氏名】萱森 陽一
(72)【発明者】
【氏名】米澤 隆行
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-172050(JP,A)
【文献】特開2013-022604(JP,A)
【文献】特開平10-204528(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 31/00
C21D 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物に対してピーニング処理を行う装置であって
支持部と、
第1方向において対向配置された、第1ピーニング装置および第2ピーニング装置と、
前記第1ピーニング装置および前記第2ピーニング装置が前記支持部に対して前記第1方向に往復動できるように、前記第1ピーニング装置および前記第2ピーニング装置を前記支持部に連結する遊動連結部と、
前記支持部に支持され、前記第1方向において前記第2ピーニング装置に向かう力を前記第1ピーニング装置に与え、かつ、前記第1方向において前記第1ピーニング装置に向かう力を前記第2ピーニング装置に与える付勢部と、
を備える、ピーニング処理装置。
【請求項2】
前記遊動連結部は、
前記第1ピーニング装置および前記第2ピーニング装置が前記支持部に対して、前記第1方向に直交する第2方向に往復動できるように前記第1ピーニング装置および前記第2ピーニング装置を前記支持部に連結する、
請求項1に記載のピーニング処理装置。
【請求項3】
前記付勢部はさらに、前記第2方向において一方側に向かう力を前記第1ピーニング装置および前記第2ピーニング装置に与える、請求項2に記載のピーニング処理装置。
【請求項4】
前記遊動連結部は、
前記第1ピーニング装置が前記支持部に対して前記第1方向および前記第2方向に往復動できるように前記第1ピーニング装置と前記支持部とを連結する第1連結装置と、
前記第2ピーニング装置が前記支持部に対して前記第1方向および前記第2方向に往復動できるように前記第2ピーニング装置と前記支持部とを連結する第2連結装置と、を含み、
前記付勢部は、
前記第1方向において
一方側に向かう力を前記第1ピーニング装置から受け、かつ前記第1方向において
他方側に向かう反力を前記第1ピーニング装置に与える第1弾性部材と、
前記第1方向において前記他方側に向かう力を前記第2ピーニング装置から受け、かつ前記第1方向において前記一方側に向かう反力を前記第2ピーニング装置に与える第2弾性部材と、を含む、請求項2または請求項3に記載のピーニング処理装置。
【請求項5】
前記付勢部はさらに、
前記第2方向において他方側に向かう力を前記第1ピーニング装置から受け、かつ前記第2方向において前記一方側に向かう反力を前記第1ピーニング装置に与える第3弾性部材と、
前記第2方向において前記他方側に向かう力を前記第2ピーニング装置から受け、かつ前記第2方向において前記一方側に向かう反力を前記第2ピーニング装置に与える第4弾性部材と、を含む、請求項3または4に記載のピーニング処理装置。
【請求項6】
前記構造物は、所定方向に延びる溶接部によって互いに接合された少なくとも2つの金属部材を備えた構造物であり、
前記第1方向は前記溶接部の幅方向であり、
前記第1ピーニング装置は、
前記溶接部の幅方向における一方側の止端部に対してピーニング処理を行うことができるように前記支持部に支持され、
前記第2ピーニング装置は、
前記溶接部の前記幅方向における他方側の止端部に対してピーニング処理を行うことができるように前記支持部に支持されている、
請求項1から5のいずれか一つに記載のピーニング処理装置。
【請求項7】
前記遊動連結部は、前記支持部に対して前記第1ピーニング装置および前記第2ピーニング装置が前記所定方向に移動することを規制した状態で、前記第1ピーニング装置および前記第2ピーニング装置を前記支持部に連結する、請求項6に記載のピーニング処理装置。
【請求項8】
前記支持部は、前記構造物に対して前記溶接部の前記幅方向への移動が規制された状態で前記構造物に対して前記所定方向に相対的に移動する、請求項6または7に記載のピーニング処理装置。
【請求項9】
前記構造物は、円管形状を有し、かつ、周方向に延びる溶接部によって接合された2つの金属管を備えた構造物であって、
前記第1方向は前記溶接部の幅方向であり、
前記支持部は、前記構造物に対して前記周方向に相対的に移動可能に設けられ、
前記第1ピーニング装置は、前記溶接部の幅方向における一方側の止端部に対してピーニング処理を行うことができるように前記支持部に支持され、
前記第2ピーニング装置は、前記溶接部の前記幅方向における他方側の止端部に対してピーニング処理を行うことができるように前記支持部に支持されている、請求項1から8のいずれか一つに記載のピーニング処理装置。
【請求項10】
所定方向に延びる溶接部によって互いに接合された少なくとも2つの金属部材を備えた構造物の前記溶接部に対して、請求項1から9のいずれか一つに記載のピーニング処理装置を用いてピーニング処理を行う方法であって、
前記第1方向は前記溶接部の幅方向であり、
前記支持部を前記構造物に対して前記所定方向に相対的に移動させつつ、前記第1ピーニング装置および前記第2ピーニング装置によって前記溶接部に対してピーニング処理を行う、ピーニング処理方法。
【請求項11】
所定方向に延びる一連の溶接部によって互いに接合された少なくとも2つの金属部材を備えた構造物を、請求項1から9のいずれか一つに記載のピーニング処理装置を用いて製造する方法であって、
前記第1方向は前記溶接部の幅方向であり、
前記溶接部の幅方向両端の止端部に対して同時にピーニング処理を行う、
構造物の製造方法。
【請求項12】
前記溶接部が環状に形成され、前記構造物が筒状体である、請求項11に記載の構造物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピーニング処理装置、ピーニング処理方法および構造物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の構造物において溶接継手が用いられている。このような溶接構造物では、溶接の影響で溶接部の疲労強度が下がるため、溶接部において疲労強度低下への対策をとることが多い。例えば、複数の大径の鋼管を周溶接することによって製造される風力発電用タワーでは、溶接部に風荷重により曲げ負荷が繰り返し付与される。そこで、風力発電用タワーや基礎等の溶接構造物においては、溶接部に対して疲労亀裂の発生を抑制する疲労対策を施す必要がある。
【0003】
溶接部に対する疲労対策としては、従来、ピーニング処理によって溶接ビード止端部に圧縮残留応力を導入する技術が利用されている。例えば、特許文献1には、母材上にリブ板を溶接してなる溶接継手部における溶接ビードの止端部付近の母材金属材料表面にピーニング処理を施すためのピーニング施工台車が開示されている。
【0004】
特許文献1に開示されたピーニング施工台車では、クランプローラによって施工台車をリブ板にクランプするとともに施工台車を走行させながら、チッピングハンマーによってピーニング処理を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されたピーニング施工台車を用いる場合、上記のように施工台車を自走させながらピーニング処理を行うことができる。
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されたピーニング施工台車を用いる場合には、クランプローラによって施工台車をリブ板にクランプする必要がある。このため、母材上にリブ板を溶接してなる溶接継手部に対してピーニング処理を行うことはできるが、例えば、金属管同士の周溶接部のように、リブ板が設けられていない溶接部に対してピーニング処理を行うことはできない。
【0008】
そこで、本発明は、種々の形状の溶接部に対してピーニング処理を効率よく行うことができるピーニング処理装置、ピーニング処理方法および構造物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記のピーニング処理装置、ピーニング処理方法および構造物の製造方法を要旨とする。
【0010】
(1)構造物に対してピーニング処理を行う装置であって
支持部と、
第1方向において対向配置された、第1ピーニング装置および第2ピーニング装置と、
前記第1ピーニング装置および前記第2ピーニング装置が前記支持部に対して前記第1方向に往復動できるように、前記第1ピーニング装置および前記第2ピーニング装置を前記支持部に連結する遊動連結部と、
前記支持部に支持され、前記第1方向において前記第2ピーニング装置に向かう力を前記第1ピーニング装置に与え、かつ、前記第1方向において前記第1ピーニング装置に向かう力を前記第2ピーニング装置に与える付勢部と、
を備える、ピーニング処理装置。
【0011】
(2)前記遊動連結部は、
前記第1ピーニング装置および前記第2ピーニング装置が前記支持部に対して、前記第1方向に直交する第2方向に往復動できるように前記第1ピーニング装置および前記第2ピーニング装置を前記支持部に連結する、
上記(1)に記載のピーニング処理装置。
【0012】
(3)前記付勢部はさらに、前記第2方向において一方側に向かう力を前記第1ピーニング装置および前記第2ピーニング装置に与える、上記(2)に記載のピーニング処理装置。
【0013】
(4)前記遊動連結部は、
前記第1ピーニング装置が前記支持部に対して前記第1方向および前記第2方向に往復動できるように前記第1ピーニング装置と前記支持部とを連結する第1連結装置と、
前記第2ピーニング装置が前記支持部に対して前記第1方向および前記第2方向に往復動できるように前記第2ピーニング装置と前記支持部とを連結する第2連結装置と、を含み、
前記付勢部は、
前記第1方向において前記一方側に向かう力を前記第1ピーニング装置から受け、かつ前記第1方向において前記他方側に向かう反力を前記第1ピーニング装置に与える第1弾性部材と、
前記第1方向において前記他方側に向かう力を前記第2ピーニング装置から受け、かつ前記第1方向において前記一方側に向かう反力を前記第2ピーニング装置に与える第2弾性部材と、を含む、上記(2)または(3)に記載のピーニング処理装置。
【0014】
(5)前記付勢部はさらに、
前記第2方向において他方側に向かう力を前記第1ピーニング装置から受け、かつ前記第2方向において前記一方側に向かう反力を前記第1ピーニング装置に与える第3弾性部材と、
前記第2方向において前記他方側に向かう力を前記第2ピーニング装置から受け、かつ前記第2方向において前記一方側に向かう反力を前記第2ピーニング装置に与える第4弾性部材と、を含む、上記(3)または(4)に記載のピーニング処理装置。
【0015】
(6)前記構造物は、所定方向に延びる溶接部によって互いに接合された少なくとも2つの金属部材を備えた構造物であり、
前記第1方向は前記溶接部の幅方向であり、
前記第1ピーニング装置は、
前記溶接部の幅方向における一方側の止端部に対してピーニング処理を行うことができるように前記支持部に支持され、
前記第2ピーニング装置は、
前記溶接部の前記幅方向における他方側の止端部に対してピーニング処理を行うことができるように前記支持部に支持されている、
上記(1)から(5)のいずれか一つに記載のピーニング処理装置。
【0016】
(7)前記遊動連結部は、前記支持部に対して前記第1ピーニング装置および前記第2ピーニング装置が前記所定方向に移動することを規制した状態で、前記第1ピーニング装置および前記第2ピーニング装置を前記支持部に連結する、上記(6)に記載のピーニング処理装置。
【0017】
(8)前記支持部は、前記構造物に対して前記溶接部の前記幅方向への移動が規制された状態で前記構造物に対して前記所定方向に相対的に移動する、上記(6)または(7)に記載のピーニング処理装置。
【0018】
(9)前記構造物は、円管形状を有し、かつ、周方向に延びる溶接部によって接合された2つの金属管を備えた構造物であって、
前記第1方向は前記溶接部の幅方向であり、
前記支持部は、前記構造物に対して前記周方向に相対的に移動可能に設けられ、
前記第1ピーニング装置は、前記溶接部の幅方向における一方側の止端部に対してピーニング処理を行うことができるように前記支持部に支持され、
前記第2ピーニング装置は、前記溶接部の前記幅方向における他方側の止端部に対してピーニング処理を行うことができるように前記支持部に支持されている、上記(1)から(8)のいずれか一つに記載のピーニング処理装置。
【0019】
(10)所定方向に延びる溶接部によって互いに接合された少なくとも2つの金属部材を備えた構造物の前記溶接部に対して、上記(1)から(9)のいずれか一つに記載のピーニング処理装置を用いてピーニング処理を行う方法であって、
前記第1方向は前記溶接部の幅方向であり、
前記支持部を前記構造物に対して前記所定方向に相対的に移動させつつ、前記第1ピーニング装置および前記第2ピーニング装置によって前記溶接部に対してピーニング処理を行う、ピーニング処理方法。
【0020】
(11)所定方向に延びる一連の溶接部によって互いに接合された少なくとも2つの金属部材を備えた構造物を、上記(1)から(9)のいずれか一つに記載のピーニング処理装置を用いて製造する方法であって、
前記第1方向は前記溶接部の幅方向であり、
前記溶接部の幅方向両端の止端部に対して同時にピーニング処理を行う、
構造物の製造方法。
【0021】
(12)前記溶接部が環状に形成され、前記構造物が筒状体である、上記(11)に記載の構造物の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、種々の形状の溶接部に対してピーニング処理を効率よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るピーニング処理装置を示す概略斜視図である。
【
図3】
図3は、第1連結装置を示す分解斜視図である。
【
図4】
図4は、ピーニング処理装置の他の利用例を示す図である。
【
図5】
図5は、ピーニング処理装置のその他の利用例を示す図である。
【
図6】
図6は、ピーニング処理装置の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態に係るピーニング処理装置およびそれを用いたピーニング処理方法について図面を参照しつつ説明する。
【0025】
(装置構成)
まず、本実施形態に係るピーニング処理装置について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るピーニング処理装置を示す概略斜視図である。
【0026】
なお、本発明に係るピーニング処理装置およびピーニング処理方法は、所定方向に延びる溶接部によって互いに接合された少なくとも2つの金属部材を備えた構造物の上記溶接部に対してピーニング処理を行う装置および方法である。また、本発明に係るピーニング処理方法は、所定方向に延びる溶接部によって互いに接合された少なくとも2つの金属部材を備えた構造物の上記溶接部に対してピーニング処理を行うことによって、溶接部の疲労強度が向上した新たな構造物を製造する方法でもある。
【0027】
図1には、本発明に係るピーニング処理装置によってピーニング処理が行われる構造物の一例として、互いに周溶接された少なくとも2つの金属管1a,1bを備えかつ円管形状を有する構造物1の一部が示されている。また、
図1に示す構造物1においては、金属管1a,1bを接合するように構造物1の周方向に延びる溶接ビード(周溶接部)1cが、本発明に係るピーニング処理装置によってピーニング処理される溶接部である。構造物1は、例えば、風力発電用のタワーである。
【0028】
図1に示すように、本実施形態に係るピーニング処理装置10は、支持部12と、第1ピーニング装置14と、第2ピーニング装置16と、遊動連結部18と、付勢部20とを備えている。なお、
図1においては、ピーニング処理装置10が構造物1の内側に配置されている。以下においては、構造物1の内側から環状に形成された溶接ビード(溶接部)1cに対してピーニング処理を行う場合について説明する。
【0029】
支持部12は、構造物1に対して、溶接ビード1cの溶接方向に相対的に移動可能に設けられている。本実施形態では、上述したように、溶接ビード1cは、構造物1の周方向に延びるように形成されている。したがって、本実施形態では、支持部12は、構造物1に対して、構造物1の周方向に相対的に移動可能に設けられている。
【0030】
また、本実施形態では、支持部12は、ピーニング処理を行う際に、溶接ビード1cの幅方向(第1方向)および構造物1の径方向(第2方向)へ移動しないように設けられることが好ましい。本実施形態では、支持部12は、例えば、ピーニング処理を行う際に溶接ビード1cの幅方向および構造物1の径方向へ移動しないように、図示しない固定部材によって支持されている。ただし、ピーニング処理を適切に行うことができるのであれば、ピーニング処理を行う際に、支持部12を溶接ビード1cの幅方向および構造物1の径方向へある程度移動させてもよい。なお、詳細な説明は省略するが、ピーニング処理装置10を設置する際には、作業者は、支持部12を溶接ビード1cの幅方向および構造物1の径方向へ移動させて、適切な位置に支持部12を配置する。
【0031】
なお、支持部12としては、溶接ビード1cの溶接方向に相対的に移動可能な種々の部材を用いることができる。本実施形態では、例えば、金属管1a,1bを周溶接する際に溶接機が固定されていた部材が、支持部12として用いられる。支持部12を溶接ビード1cの溶接方向に相対的に移動させる方法は特に限定されないが、例えば、金属管1a,1bを周溶接する際に金属管1a,1bを回転するために利用した回転機構を利用し、支持部12の位置を固定した状態で、構造物1を回転させてもよい。
【0032】
第1ピーニング装置14は、溶接ビード1cの幅方向における一方側から溶接ビード1cの上記一方側の止端部2aに対してピーニング処理を行うことができるように、支持部12に支持されている。なお、本実施形態において溶接ビード1cの幅方向とは、構造物1の径方向から見て、溶接ビード1cの溶接方向に直交する方向を意味する。したがって、本実施形態では、溶接ビード1cの幅方向は、構造物1の軸方向に平行な方向である。
【0033】
第2ピーニング装置16は、溶接ビード1cの幅方向における他方側から溶接ビード1cの上記他方側の止端部2bに対してピーニング処理を行うことができるように、溶接ビード1cの幅方向において第1ピーニング装置14の他方側で支持部12に支持されている。
【0034】
詳細は後述するが、本実施形態では、第1ピーニング装置14および第2ピーニング装置16は、所定の方向(第1方向)において対向配置され、遊動連結部18を介して支持部12に支持されている。ピーニング処理を行う際には、第1ピーニング装置14および第2ピーニング装置16が対向する方向である第1方向が、溶接ビード1cの幅方向となるように配置する。なお、第1ピーニング装置14および第2ピーニング装置16としては、止端部2a,2bに対してピーニング処理を行うことができる公知の種々の装置を用いることができる。
【0035】
本実施形態では、
図1に示すように、第1ピーニング装置14として、打撃ピン14aによって超音波衝撃処理(UIT)を行うことができる超音波衝撃装置が用いられる。同様に、第2ピーニング装置16として、打撃ピン16aによって超音波衝撃処理(UIT)を行うことができる超音波衝撃装置が用いられる。本実施形態では、第1ピーニング装置14は、打撃ピン14aと、ホーン14bと、本体部14cとを備えている。なお、図面が煩雑になるために図示は省略するが、本体部14cの下端にはホーン14bを覆うように筒状のピンホルダが設けられており、当該ピンホルダによって、打撃ピン14aの上端部が打撃ピン14aの軸方向に振動可能に支持されている。ホーン14bは、当該ピンホルダ内において打撃ピン14aの上端部に接触可能に設けられている。本体部14cは、内部に図示しないトランスデューサー等を含み、超音波振動を発生する。本体部14cによって発生された超音波振動は、ホーン14bを介して打撃ピン14aを励起し、打撃ピン14aにおいて超音波衝撃が発生し止端部2aを打撃する。
【0036】
なお、本実施形態では、第1ピーニング装置14は、ホーン14bの振動方向が、構造物1の径方向でもある上下方向(第2方向)と一致するように支持部12に支持されている。そして、打撃ピン14aは、ホーン14bの振動方向に対して傾斜するように設けられている。打撃ピン14aが振動方向に対して傾斜していないと、止端部2aを打撃した際の反力の分力が、溶接ビード1cの幅方向、つまり、打撃ピン14aに機械的負荷がかかる方向に作用する。打撃ピン14aはピンホルダの内部でピンホルダの軸方向に振動するように構成・配置されているが、前記機械的負荷により、打撃ピンとピンホルダとの間に機械的負荷として摩擦力が生じ、打撃ピンの滑らかな振動を阻害する。このため、打撃ピン14aを振動方向に対して傾斜させることで、打撃ピン14aにかかる機械的負荷が軽減される。説明は省略するが、第2ピーニング装置16も同様に、打撃ピン16aと、ホーン16bと、本体部16cとを備えている。
【0037】
図1に示すように、本実施形態では、溶接ビード1cは、金属管1a,1bの母材より多少盛り上がる形状となっている。本実施形態では、打撃ピン14a,16aを母材側に傾斜させた状態で、打撃ピン14a,16aの先端によって止端部2a,2bに対して打撃処理を行う。これにより、止端部2a,2bに打撃ピン14a,16aの先端を適切に当てることができる。
【0038】
遊動連結部18は、第1ピーニング装置14および第2ピーニング装置16が、支持部12に対して上下方向および溶接ビード1cの幅方向に移動できるように、第1ピーニング装置14および第2ピーニング装置16を支持部12に連結する。なお、上下方向(第2方向)は、鉛直方向、及び、鉛直方向に対して傾斜する方向を含む。つまり、上下方向は、溶接ビード1cが延びる方向と、溶接ビード1cの幅方向(第1方向)とに交差する方向である。本実施形態では、遊動連結部18は、固定板22、第1連結装置24および第2連結装置26を備えている。固定板22は、支持部12に固定されている。
【0039】
図2は、第1連結装置24を示す斜視図であり、
図3は、第1連結装置24を示す分解斜視図である。
図2および
図3に示すように、第1連結装置24は、ガイド部材28、リニアスライダ30およびリニアスライダ32を有している。ガイド部材28は、固定板22(
図1参照)に固定されている。ガイド部材28は、固定板22とは反対側の面に、上下方向に延びる一対のガイドレール28aを有している。
【0040】
リニアスライダ30は、図示しない複数のベアリングを介して、ガイド部材28のガイドレール28aに取り付けられている。具体的には、リニアスライダ30は、ガイド部材28に対して、厚み方向(ガイドレール28aの突出方向)および溶接ビード1cの幅方向への移動が規制された状態で、ガイドレール28aに沿って上下方向に直線的に移動できるように、ガイドレール28aに取り付けられている。リニアスライダ30は、ガイド部材28とは反対側の面に、溶接ビード1c(
図1参照)の幅方向に延びる一対のガイドレール30aを有している。
【0041】
リニアスライダ32は、図示しない複数のベアリングを介して、リニアスライダ30のガイドレール30aに取り付けられている。具体的には、リニアスライダ32は、リニアスライダ30に対して、厚み方向(ガイドレール30aの突出方向)および上下方向への移動が規制された状態で、溶接ビード1cの幅方向に直線的に移動できるように、ガイドレール30aに取り付けられている。
【0042】
なお、
図2および
図3には、ガイド部材28、リニアスライダ30およびリニアスライダ32がそれぞれ一体物として成形される例を示しているが、ガイド部材28、リニアスライダ30およびリニアスライダ32はそれぞれ複数の部材を組み合わせて構成されてもよい。例えば、ガイド部材28、リニアスライダ30およびリニアスライダ32が3枚の板状体と複数の雄雌レールとの組み合わせによって構成されてもよい。より具体的には、ガイド部材28が板状体と当該板状体のリニアスライダ30側の面に固定されるガイドレール28aとを備え、リニアスライダ30が板状体と当該板状体のガイド部材28側の面に固定されてガイドレール28aが嵌合される溝部材と当該板状体の反対側の面に固定されるガイドレール30aとを備え、リニアスライダ32が板状体と当該板状体のリニアスライダ30側の面に固定されてガイドレール30aが嵌合される溝部材とを備えてもよい。
【0043】
リニアスライダ32においてリニアスライダ30とは反対側の面に、第1ピーニング装置14が取り付けられる。これにより、第1ピーニング装置14は、支持部12に対して、上下方向、溶接ビード1cの幅方向、および斜め方向(上下方向と幅方向との間に向かう方向)に移動可能となる。なお、
図2および
図3に示した第1連結装置24の構成は単なる一例であり、第1連結装置24は、上記のように、厚み方向(ガイドレール28a,30aの突出方向)への移動が規制された状態で、支持部12に対して、上下方向、溶接ビード1cの幅方向、および斜め方向に平行移動可能に第1ピーニング装置14を支持できる構成であればよい。
【0044】
第2ピーニング装置16は、第2連結装置26および固定板22を介して支持部12に連結されている。詳細な説明は省略するが、第2連結装置26は第1連結装置24と同様の構成を有している。これにより、第2ピーニング装置16は、第1ピーニング装置14と同様に、厚み方向への移動が規制された状態で、支持部12に対して、上下方向、溶接ビード1cの幅方向、および斜め方向に平行移動可能となる。
【0045】
また、本実施形態では、上記のような構成により、遊動連結部18(第1連結装置24および第2連結装置26)は、支持部12に対して第1ピーニング装置14および第2ピーニング装置16が溶接ビード1cの溶接方向(構造物1の周方向)に移動することを規制した状態で、第1ピーニング装置14および第2ピーニング装置16を支持部12に連結している。言い換えると、第1ピーニング装置14および第2ピーニング装置16は、溶接ビード1cの溶接方向に直交する同一平面内において、上下方向、溶接ビード1cの幅方向および斜め方向に移動するように、遊動連結部18を介して支持部12に支持されている。
【0046】
図1を参照して、付勢部20は、第1弾性部材34、第2弾性部材36、第3弾性部材38および第4弾性部材40を備える。第1弾性部材34、第2弾性部材36、第3弾性部材38および第4弾性部材40はそれぞれ、遊動連結部18の固定板22を介して支持部12に支持されている。
【0047】
第1弾性部材34は、溶接ビード1cの幅方向において一方側に向かう力を第1ピーニング装置14から受け、かつ溶接ビード1cの幅方向において他方側に向かう反力を第1ピーニング装置14に与える。第2弾性部材36は、溶接ビード1cの幅方向において他方側に向かう力を第2ピーニング装置16から受け、かつ溶接ビード1cの幅方向において一方側に向かう力を第2ピーニング装置16に与える。また、第3弾性部材38は、上方に向かう力を第1ピーニング装置14から受け、かつ下方に向かう反力を第1ピーニング装置14に与える。第4弾性部材40は、上方に向かう力を第2ピーニング装置16から受け、かつ下方に向かう反力を第2ピーニング装置16に与える。第1弾性部材34、第2弾性部材36、第3弾性部材38および第4弾性部材40としてはそれぞれ、例えば、コイルバネを用いることができる。なお、本実施形態に係るピーニング処理装置10において、第3弾性部材38および第4弾性部材40は設けられていなくてもよい。例えば、第1ピーニング装置14および第2ピーニング装置16が衝撃吸収機構(ピーニング処理時に発生した衝撃を吸収する機構)を備える場合には、第3弾性部材38および第4弾性部材40を設けなくてもよい。また、例えば、第1ピーニング装置14および第2ピーニング装置16の重量を調整することによって、第1ピーニング装置14および第2ピーニング装置16の下方への付勢力を調整する場合も、第3弾性部材38および第4弾性部材40を設けなくてもよい。
【0048】
(処理方法および作用効果)
次に、上述のピーニング処理装置10を用いたピーニング処理方法および本実施形態の作用効果について説明する。本実施形態では、支持部12を構造物1に対して当該構造物1の周方向に相対的に移動させながら、第1ピーニング装置14および第2ピーニング装置16によって、溶接ビード1cの止端部2a,2bに対して同時にピーニング処理を行う。
【0049】
具体的には、例えば、溶接ビード1cの止端部2a,2bおよびその近傍が塑性変形するようにピーニング処理が行われる。この場合、第1ピーニング装置14および第2ピーニング装置16から溶接ビード1cに与えられる力が大きくなるので、溶接ビード1cからの反力により、第1ピーニング装置14および第2ピーニング装置16は、溶接部から離れる方向に移動しようとする。この際、第1ピーニング装置14および第2ピーニング装置16とそれらを保持する部分の質量による慣性力もこの反力と相まって作用する。しかし、本実施形態に係るピーニング処理装置10では、溶接ビード1cから第1ピーニング装置14に与えられる反力を溶接ビード1cから第2ピーニング装置16に与えられる反力によって相殺することができる。その結果、溶接ビード1cから第1ピーニング装置14および第2ピーニング装置16に与えられる反力によって、ピーニング処理装置10が溶接ビード1cの幅方向にずれることを抑制することができる。
【0050】
また、本実施形態では、第1ピーニング装置14および第2ピーニング装置16は、遊動連結部18によって、支持部12に対して溶接ビード1cの幅方向に移動可能に設けられている。このため、溶接ビード1cの形状に追従するように、第1ピーニング装置14(打撃ピン14a)および第2ピーニング装置16(打撃ピン16a)を支持部12に対して溶接ビード1cの幅方向に移動させることができる。したがって、例えば、溶接ビード1cが蛇行したり、溶接ビード1cの幅が変動したりしていたとしても、第1ピーニング装置14(打撃ピン14a)および第2ピーニング装置16(打撃ピン16a)を止端部2a,2bに沿って円滑に移動させることができる。
【0051】
また、本実施形態では、付勢部20は、溶接ビード1cの幅方向において他方側に向かう力を第1ピーニング装置14に与え、かつ上記幅方向において一方側に向かう力を第2ピーニング装置16に与える。これにより、第1ピーニング装置14および第2ピーニング装置16が溶接ビード1cからの反力により溶接ビード1cの幅方向に移動したとしても、第1ピーニング装置14および第2ピーニング装置16を溶接ビード1cに適切に接触させることができる。
【0052】
これらの結果、打撃ピン14a,16aによる打撃位置が、溶接ビード1cと金属管1a,1bとの境界部近傍に収まるようになり、第1ピーニング装置14(打撃ピン14a)および第2ピーニング装置16(打撃ピン16a)を止端部2a,2bに沿って円滑に移動させることができる。
【0053】
また、本実施形態では、第1ピーニング装置14および第2ピーニング装置16は、遊動連結部18によって上下方向に移動可能に設けられている。この場合、処理条件に応じて第1ピーニング装置14および第2ピーニング装置16の重量を適切に設定することによって、第1ピーニング装置14および第2ピーニング装置16から溶接ビード1cに与えられる打撃力を容易かつ適切に調整することができる。ピーニング処理時に、第1ピーニング装置14および第2ピーニング装置16に対して、上下方向の大きな力が作用することを防止できる。これにより、第1ピーニング装置14および第2ピーニング装置16の損傷を十分に抑制できる。
【0054】
以上のように、本実施形態に係るピーニング処理装置10によれば、溶接ビード(溶接部)1cに対してピーニング処理を効率よく行うことができる。
【0055】
なお、本実施形態では、第1ピーニング装置14および第2ピーニング装置16は、溶接ビード1cの幅方向における両側に設けられている。これにより、溶接ビード1cから第1ピーニング装置14に与えられる反力を溶接ビード1cから第2ピーニング装置16に与えられる反力によって効率よく相殺することができる。また、本実施形態に係るピーニング処理装置10では特に、付勢部20の第1弾性部材34、第2弾性部材36、第3弾性部材38および第4弾性部材40によって溶接ビード1cの幅方向および上下方向の衝撃を吸収しつつピーニング処理を行うことができる。これにより、さらに効率よくピーニング処理を行うことが可能になる。なお、第1弾性部材34、第2弾性部材36、第3弾性部材38および第4弾性部材40の機械的性質(ヤング率、ばね定数等)は、溶接ビード1cに与えるべき荷重等に応じて適宜設定すればよい。
【0056】
また、本実施形態では、打撃ピン14a,16aを傾斜させた状態で、打撃ピン14a,16aの先端によって止端部2a,2bに対して打撃処理が行われる。この場合、遊動連結部18および付勢部20の機能によって、打撃ピン14a,16aを、自動的にかつ的確に止端部2a,2bに追従するように移動させることができる。
【0057】
また、本実施形態では、上述したように、第1ピーニング装置14および第2ピーニング装置16を、溶接部の幅方向両端の止端部(溶接ビード1cの止端部2a,2b)に沿って円滑に移動させることができる。したがって、本実施形態に係るピーニング処理装置10およびそれを用いたピーニング処理方法は、一連の溶接部(一本の線状に形成された溶接部)によって互いに接合された2つの金属部材を備えた構造物の当該溶接部の幅方向両端の止端部に対して同時にピーニング処理を行って、疲労強度が改善された構造物を製造する際に好適に用いられる。特に、本実施形態に係るピーニング処理装置10およびそれを用いたピーニング処理方法は、風力発電用のタワーのように、製造対象となる構造物が環状に形成された溶接部を有する筒状体である場合にも好適に用いることができる。
【0058】
なお、上述したように、ピーニング処理は、構造物1に対して支持部12が溶接ビード1cの幅方向へ移動することを規制した状態で実施することが好ましい。この場合、ピーニング処理装置10が溶接ビード1cの幅方向にずれることを十分に抑制することができる。
【0059】
上述の実施形態では、金属管1a,1bを周溶接する際に溶接機が固定されていた部材を支持部12として用いる場合について説明したが、ピーニング処理装置10のために支持部12を新たに設けてもよい。この場合、例えば、溶接ビード1cを間に挟むように溶接ビード1cに沿って周方向に延びる一対の環状の走行レールを構造物1の内面に設け、その走行レールに沿って支持部12が構造物1の周方向に移動できるようにピーニング処理装置10を構成してもよい。具体的には、例えば、一対の走行レールに対応する一対または複数対の車輪をピーニング処理装置10に設け、その車輪によって支持部12を支持してもよい。この場合、例えば、構造物1を回転させるとともに、構造物1の回転に同期するように走行レール上においてピーニング処理装置10を走行させつつ、第1ピーニング装置14および第2ピーニング装置16によって、溶接ビード1cに対してピーニング処理を行うことができる。本実施形態では、一対の走行レールおよび車輪によって、支持部12が溶接ビード1cの幅方向に移動することを防止することができる。なお、詳細な説明は省略するが、車輪が走行レールから脱線することを防止できるように、鉄道車両の車輪と同様に、車輪に脱線防止機能(走行レールに係止される突起等)を設けることが好ましい。また、走行レールに車輪が嵌合されるようにして、車輪が走行レールから脱線することを防止できるようにしてもよい。
【0060】
上述の実施形態では、構造物1の内側から溶接ビード1cに対してピーニング処理を行う場合について説明したが、構造物1の外側から溶接ビード1cに対してピーニング処理を行ってもよい。この場合も、構造物1の内側から溶接ビード1cに対してピーニング処理を行う場合と同様に、支持部12は、溶接ビード1cの幅方向および構造物1の径方向へ移動しないように設けられていることが好ましい。したがって、例えば、金属管1a,1bを周溶接する際に溶接機が固定されていた部材を支持部として用いてピーニング処理を行ってもよい。また、溶接ビード1cを間に挟むように溶接ビード1cに沿って周方向に延びる一対の環状の走行レールを構造物1の外面に設け、その走行レールに沿ってピーニング処理装置を構造物1に対して相対的に移動させつつピーニング処理を行ってもよい。なお、ピーニング処理装置の落下を防止するために、磁石を用いて車輪を構成してもよい。
【0061】
上述の実施形態では、第1ピーニング装置14および第2ピーニング装置16として超音波衝撃処理装置を用いる場合について説明した。しかしながら、第1ピーニング装置14および第2ピーニング装置16として用いることができる装置は超音波衝撃処理装置に限定されず、他の打撃処理装置(ハンマーピーニング装置、ニードルピーニング装置等)を用いてもよい。
【0062】
上述の実施形態では、周溶接部に対してピーニング処理を行う場合について説明したが、
図4に示すように、本実施形態に係るピーニング処理装置10は、T字溶接部に対してもピーニング処理を行うことができる。なお、
図4に示す構造物3では、金属板3aが金属板3bの表面に隅肉溶接されている。T字溶接部4(以下、溶接部4と記載する。)は、金属板3aの厚み方向における一方側に設けられた溶接ビード4aと、金属板3aの厚み方向における他方側に設けられた溶接ビード4bとを含む。
【0063】
本実施形態では、金属板3aの厚み方向を溶接部4の幅方向として、溶接部4の幅方向における一方側の止端部(溶接ビード4aの金属板3b側の止端部)を第1ピーニング装置14によってピーニング処理し、溶接部4の幅方向における他方側の止端部(溶接ビード4bの金属板3b側の止端部)を第2ピーニング装置16によってピーニング処理することができる。
【0064】
また、詳細な説明は省略するが、本実施形態に係るピーニング処理装置10は、
図5に示すように、T字溶接部6を有する構造物7に対してもピーニング処理を行うことができる。なお、
図5に示す構造物7では、金属板3aが金属板3bの表面に隅肉溶接され、金属板3cが金属板3bの裏面に隅肉溶接されている。本実施形態でも、金属板3bの表面側および裏面側のそれぞれにおいてピーニング処理装置10を用いることによって、溶接部6に対して円滑にピーニング処理を行うことができる。
【0065】
また、図示は省略するが、本発明に係るピーニング処理装置は、螺旋状に形成された溶接部を備えた構造物(例えば、スパイラル鋼管)に対しても利用することができる。具体的には、構造物に対して支持部を、鋼管の管軸方向に移動させながら鋼管を回転させることで、溶接部の溶接方向に沿って螺旋状に相対移動させることができ、上述の実施形態と同様にピーニング処理を行うことができる。なお、この際は第1ピーニング装置と第2ピーニング装置との位置が溶接ビード方向に対して直交した位置関係とすることで、第1ピーニング装置が受ける反力を、第2ピーニング装置が受ける反力により適切に相殺することが可能となる。これは、第1ピーニング装置と第2ピーニング装置との位置が溶接部(溶接ビード)に対して直角でない場合は打撃時の反力の方向がずれてしまうため遊動機構や支持部に遊動連結部を取り付けた部分にねじりがかかる為である。
【0066】
以上のように、本発明に係るピーニング処理装置では、溶接部(溶接ビード)の形状に追従するように、第1ピーニング装置および第2ピーニング装置を移動させることができる。したがって、本発明に係るピーニング処理装置によれば、所定方向(直線方向または周方向)に延びるように形成された種々の形状の溶接部(T字または十字溶接部および周溶接部等)に対してピーニング処理を効率よく行うことができる。
【0067】
なお、上述の実施形態では、ピーニング装置14,16の軸方向(本体部14c,16cによって発生される超音波の方向、ホーン14b,16bの振動方向)に対して打撃ピン14a,16aが傾斜して設けられる場合について説明したが、
図6に示すように、ピーニング装置14,16の軸方向と打撃ピン14a,16aの軸方向とが一致するように、ピーニング装置14,16を上下方向に対して斜めに傾けて連結装置24,26に取り付けてもよい。
【0068】
また、上述の実施形態では、遊動連結部18は、第1ピーニング装置14および第2ピーニング装置16が、支持部12に対して上下方向および溶接ビード1cの幅方向に移動できるように、第1ピーニング装置14および第2ピーニング装置16を支持部12に連結している。しかしながら、第1ピーニング装置14および第2ピーニング装置16それぞれが、打撃ピン14a,16aによる打撃の衝撃を吸収できる構成であれば、遊動連結部18による第1ピーニング装置14および第2ピーニング装置16の支持部12への連結は、上下方向に移動可能であることは必須ではない。一方、第1ピーニング装置14および第2ピーニング装置16が、支持部12に対して上下方向に移動できる構成を有することにより、処理対象である金属管1a,1bの表面が波打っている等の理由によってピーニング装置と処理対象との距離に変動があっても、追従が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明によれば、種々の形状の溶接部に対してピーニング処理を効率よく行うことができる。
【符号の説明】
【0070】
1,3 構造物
1a,1b 金属管
2a,2b 止端部
3a,3b 金属板
4 T字溶接部
10 ピーニング処理装置
12 支持部
14 第1ピーニング装置
16 第2ピーニング装置
18 遊動連結部
20 付勢部