(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】板状の窒化ケイ素質焼結体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/593 20060101AFI20221227BHJP
C04B 35/587 20060101ALI20221227BHJP
C01B 21/068 20060101ALI20221227BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
C04B35/593 500
C04B35/587
C01B21/068 Z
H05K1/03 610D
(21)【出願番号】P 2021564043
(86)(22)【出願日】2020-12-10
(86)【国際出願番号】 JP2020046124
(87)【国際公開番号】W WO2021117829
(87)【国際公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-03-16
(31)【優先権主張番号】P 2019223520
(32)【優先日】2019-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】UBE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100144417
【氏名又は名称】堂垣 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【氏名又は名称】古賀 哲次
(72)【発明者】
【氏名】藤永 猛
(72)【発明者】
【氏名】猪野 あき
(72)【発明者】
【氏名】本田 道夫
(72)【発明者】
【氏名】藤永 昌孝
(72)【発明者】
【氏名】柴田 耕司
(72)【発明者】
【氏名】山田 哲夫
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-096661(JP,A)
【文献】国際公開第2010/002001(WO,A1)
【文献】特開2018-070436(JP,A)
【文献】特開2019-052072(JP,A)
【文献】国際公開第2013/146713(WO,A1)
【文献】特開2001-064080(JP,A)
【文献】国際公開第2019/235593(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/235594(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/584 - 35/596
C01B 21/068
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I)a)β分率が10%以下、酸素含有量が0.75重量%以上2.2重量%以下、BET法による比表面積が7.0m
2/g以上13.0m
2/g以下、レーザー回折散乱法により測定される体積基準の粒度分布における平均粒子径が0.55μm以上1.5μm以下であるα型の第一の窒化ケイ素粉末40~94重量部と、
b)β分率が60%以上100%以下、酸素含有量が0.55重量%以上2.0重量%以下であり、BET法による比表面積が2.5m2/g以上10.0m
2/g以下であって第一の窒化ケイ素粉末の比表面積よりも小さな値であり、レーザー回折散乱法により測定される体積基準の粒度分布における平均粒子径が0.7μm以上2.0μm未満であって第一の窒化ケイ素粉末の平均粒子径よりも大きな値であり、アスペクト比が3以下である第二の窒化ケイ素粉末60~6重量部と
を
合計100重量部含む窒化ケイ素原料に、
c)焼結助剤として、アルカリ土類金属酸化物と希土類金属酸化物との重量比が0.40≦アルカリ土類金属酸化物/希土類金属酸化物≦1.4を満足するような配合比で、アルカリ土類金属酸化物および有効イオン半径が87pm以上の希土類金属酸化物を、窒化ケイ素原料と焼結助剤の合計重量を基準として3.2~7.0重量%含む
出発組成物を調製し、
(II)出発組成物からシート成形プロセスによりグリーンシートを作製し、
(III)グリーンシートを脱脂し、その後、
(IV)窒素含有ガス圧力が0.15MPa以上3MPa以下の加圧雰囲気下、最高保持温度が1790℃以上1910℃以下の温度範囲に保持して焼結する
(V)ことにより、板状の窒化ケイ素質焼結体を得ること、
ここで、得られる板状の窒化ケイ素質焼結体は、実測アルカリ土類金属含有量と実測希土類金属含有量との比率が0.05≦実測アルカリ土類金属含有量/実測希土類金属含有量≦0.85であり、相対密度が98%以上であること
を特徴とする板状の窒化ケイ素質焼結体の製造方法。
【請求項2】
窒化ケイ素質焼結体の実測酸素含有量が1.3重量%以上2.8重量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の板状の窒化ケイ素質焼結体の製造方法。
【請求項3】
板状の窒化ケイ素質焼結体が、厚さが1.5mm以下で、厚さ/面積比が0.015(1/mm)以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の板状の窒化ケイ素質焼結体の製造方法。
【請求項4】
第二の窒化ケイ素粉末の累積粒度分布曲線における95%径が10.0μm以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の板状の窒化ケイ素質焼結体の製造方法。
【請求項5】
第二の窒化ケイ素粉末のアルミニウム含有量および鉄含有量がそれぞれ100ppm以下であり、クロム含有量、ニッケル含有量、タングステン含有量、銅含有量およびマンガン含有量がそれぞれ30ppm以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の板状の窒化ケイ素質焼結体の製造方法。
【請求項6】
焼結助剤は、アルカリ土類金属酸化物と希土類金属酸化物に加え、二酸化シリコン粉末を含み、窒化ケイ素原料と焼結助剤の合計重量を基準として、二酸化シリコンの含有量が0.1重量%以上2.5重量%以下であることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の板状の窒化ケイ素質焼結体の製造方法。
【請求項7】
焼結体としての実測アルカリ土類金属含有量と前記の実測希土類金属含有量とを合計した、ケイ素を除く焼結助剤由来の金属元素含有量が1.5重量%以上4.5重量%以下であることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の板状の窒化ケイ素質焼結体の製造方法。
【請求項8】
アルカリ土類金属酸化物が酸化マグネシウムであり、有効イオン半径が87pm以上の希土類金属酸化物が酸化イットリウム、酸化エルビウムおよび酸化イッテルビウムから選ばれる少なくとも一種の酸化物であることを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載の板状の窒化ケイ素質焼結体の製造方法。
【請求項9】
焼結前後における重量減少率が2.5重量%~8.0重量%となるように
、焼結条件を設定することにより、前記の板状の窒化ケイ素質焼結体を得ることを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載の板状の窒化ケイ素質焼結体の製造方法。
【請求項10】
算術平均粗さRaが0.05μm以上0.5μm以下に研磨された表面から0.08mm以上内側まで研削して得られた平面にX線を照射した際に得られる窒化ケイ素質焼結体中のβ型窒化ケイ素の(200)面の回折強度I(200)および(210)面の回折強度I(210)の平均値{I(200)+I(210)}/2と(101)面の回折強度I(101)との比{I(200)+I(210)}/{2×I(101)}が1.10以上1.40以下であり、
窒化ケイ素質焼結体の板面に垂直な切断面を観察したとき、柱状のβ型窒化ケイ素粒子の内、長軸径が10μmを超える粒子の個数が、1mm
2当たりに1200個以上10000個以下であって、長軸径が10μmを超える粒子の面積分率が6.5%以上39%以下であることを特徴とする請求項1~9のいずれか一項に記載の板状の窒化ケイ素質焼結体の製造方法。
【請求項11】
焼結助剤として、酸化マグネシウムと希土類金属酸化物との重量比が0.42≦酸化マグネシウム/希土類金属酸化物≦1.1を満足するような配合比で、酸化マグネシウム、有効イオン半径が87pm以上の希土類金属酸化物および二酸化シリコンを添加し、
焼結助剤の添加量は、窒化ケイ素粉末と焼結助剤の合計重量を基準として4.0~6.5重量%とすること、
前記焼結は、窒素含有ガス圧力が0.15MPa以上0.9MPa以下の加圧雰囲気下、最高保持温度が1820℃以上1910℃以下の温度範囲で、当該最高保持温度にて6時間以上20時間以下保持して焼結すること、
得られる板状の窒化ケイ素質焼結体は、実測マグネシウム含有量と実測希土類金属含有量との比率が0.07≦実測マグネシウム含有量/実測希土類金属含有量≦0.75であり、前記の実測マグネシウム含有量と前記の実測希土類金属含有量とを合計した、ケイ素を除く焼結助剤由来の金属元素含有量が1.6重量%以上4.0重量%以下であり、実測酸素含有量が1.6重量%以上2.6重量%以下であることを特徴とする請求項1~10のいずれか一項に記載の板状の窒化ケイ素質焼結体の製造方法。
【請求項12】
a)β分率が10%以下、酸素含有量が0.75重量%以上2.2重量%以下、BET法による比表面積が7.0m
2
/g以上13.0m
2
/g以下、レーザー回折散乱法により測定される体積基準の粒度分布における平均粒子径が0.55μm以上1.5μm以下であるα型の第一の窒化ケイ素粉末40~94重量部と、
b)β分率が60%以上100%以下、酸素含有量が0.55重量%以上2.0重量%以下であり、BET法による比表面積が2.5m2/g以上10.0m
2
/g以下であって第一の窒化ケイ素粉末の比表面積よりも小さな値であり、レーザー回折散乱法により測定される体積基準の粒度分布における平均粒子径が0.7μm以上2.0μm未満であって第一の窒化ケイ素粉末の平均粒子径よりも大きな値であり、アスペクト比が3以下である第二の窒化ケイ素粉末60~6重量部と
を合計100重量部含み、かつ、β分率が7%以上64%以下、酸素含有量が0.74重量%以上1.95重量%以下、BET法による比表面積が6.3m
2/g以上12.8m
2/g以下、粒度分布における平均粒子径が0.66μm以上1.5μm以下であり、得られる頻度分布曲線が二つのピークを有し、該ピークのピークトップが、0.5~1.2μmの範囲(第一ピーク)と、1.1~3.8μmの範囲(第二ピーク)にあって、該第二ピークは該第一ピークよりも0.5~3.0μm大きいことを特徴とする板状窒化ケイ素質焼結体製造用の窒化ケイ素粉末。
【請求項13】
a)β分率が10%以下、酸素含有量が0.75重量%以上2.2重量%以下、BET法による比表面積が7.0m
2
/g以上13.0m
2
/g以下、レーザー回折散乱法により測定される体積基準の粒度分布における平均粒子径が0.55μm以上1.5μm以下であるα型の第一の窒化ケイ素粉末40~94重量部と、
b)β分率が60%以上100%以下、酸素含有量が0.55重量%以上2.0重量%以下であり、BET法による比表面積が2.5m2/g以上10.0m
2
/g以下であって第一の窒化ケイ素粉末の比表面積よりも小さな値であり、レーザー回折散乱法により測定される体積基準の粒度分布における平均粒子径が0.7μm以上2.0μm未満であって第一の窒化ケイ素粉末の平均粒子径よりも大きな値であり、アスペクト比が3以下である第二の窒化ケイ素粉末60~6重量部と
を合計100重量部含み、さらに
c)焼結助剤として、アルカリ土類金属酸化物と希土類金属酸化物との重量比が0.40≦アルカリ土類金属酸化物/希土類金属酸化物≦1.4を満足するような配合比で、アルカリ土類金属酸化物および有効イオン半径が87pm以上の希土類金属酸化物を、窒化ケイ素原料と焼結助剤の合計重量を基準として3.2~7.0重量%と
を含む板状窒化珪素質焼結体製造用の原料粉末組成物。
【請求項14】
板状の窒化ケイ素質焼結体であって、
焼結体としての実測アルカリ土類金属含有量と実測希土類金属含有量(希土類金属の有効イオン半径は87pm以上のもの)との比率が0.05≦実測アルカリ土類金属含有量/実測希土類金属含有量≦0.85であり、
実測アルカリ土類金属含有量と実測希土類金属含有量とを合計した、ケイ素を除く焼結助剤由来の金属元素含有量が1.5重量%以上4.5重量%以下であり、
相対密度が98%以上であり、
算術平均粗さRaが0.05μm以上0.5μm以下に研磨
された表面を有しており、かつその表面からさらに0.08mm以上内側まで研削して得られた平面にX線を照射した際に
、得られるβ型窒化ケイ素の(200)面の回折強度I(200)および(210)面の回折強度I(210)の平均値{I(200)+I(210)}/2と(101)面の回折強度I(101)との比{I(200)+I(210)}/{2×I(101)}が、1.10以上1.40以下である
ことを特徴とする板状の窒化ケイ素質焼結体。
【請求項15】
さらに、焼結体としての実測酸素含有量が1.3重量%以上2.8重量%以下であり、焼結体の板面に垂直な切断面を観察したとき、柱状のβ型窒化ケイ素粒子の内、長軸径が10μmを超える粒子の個数が1mm
2当たりに1200個以上10000個以下であることを特徴とする請求項14に記載の板状の窒化ケイ素質焼結体。
【請求項16】
さらに、板状の窒化ケイ素質焼結体が、厚さが1.5mm以下で、厚さ/面積比が0.015(1/mm)以下であることを特徴とする請求項14または15に記載の板状の窒化ケイ素質焼結体。
【請求項17】
さらに、アルカリ土類金属酸化物が酸化マグネシウムであり、有効イオン半径が87pm以上の希土類金属酸化物が酸化イットリウム、酸化エルビウムおよび酸化イッテルビウムから選ばれる少なくとも一種の酸化物であることを特徴とする請求項14~16のいずれか一項に記載の板状の窒化ケイ素質焼結体。
【請求項18】
さらに、焼結体としての実測マグネシウム含有量と前記の実測希土類金属含有量(希土類金属は有効イオン半径が87pm以上のもの)との比率が0.07≦実測マグネシウム含有量/実測希土類金属含有量≦0.75であり、前記の実測マグネシウム含有量と前記の実測希土類金属含有量とを合計した、ケイ素を除く焼結助剤由来の金属元素含有量が1.6重量%以上4.0重量%以下であることを特徴とする請求項14~17のいずれか一項に記載の板状の窒化ケイ素質焼結体。
【請求項19】
さらに、焼結体としての実測酸素含有量が1.6重量%以上2.6重量%以下であることを特徴とする請求項18に記載の板状の窒化ケイ素質焼結体。
【請求項20】
さらに、焼結体としての実測マグネシウム含有量と前記の実測希土類金属含有量(希土類金属は有効イオン半径が87pm以上のもの)との比率が0.09≦実測マグネシウム含有量/実測希土類金属含有量≦0.65であり、前記の実測マグネシウム含有量と前記の実測希土類金属含有量とを合計した、ケイ素を除く焼結助剤由来の金属元素含有量が1.7重量%以上3.5重量%以下であることを特徴とする請求項18または19に記載の板状の窒化ケイ素質焼結体。
【請求項21】
さらに、窒化ケイ素質焼結体の板面に垂直な切断面を観察したとき、柱状のβ型窒化ケイ素粒子の内、長軸径が3μm以上の粒子の面積分率が45面積%以上87面積%以下であり、長軸径が10μmを超える粒子の面積分率が6.5面積%以上39面積%以下であることを特徴とする請求項18~20のいずれか一項に記載の板状の窒化ケイ素質焼結体。
【請求項22】
さらに、柱状のβ型窒化ケイ素粒子の内、面積%基準で表した長軸径の累積粒度分布曲線における50%径D50が5.5μm以上6.8μm以下であり、80%径D80が8.1μm以上12.5μm以下である板状の窒化ケイ素質焼結体であることを特徴とする請求項21に記載の板状の窒化ケイ素質焼結体。
【請求項23】
さらに、熱伝導率が室温において110W/(m・K)以上であり、4点曲げ強度が室温において900MPa以上であり、IF法(インデンテーション法)により測定した破壊靭性値KICが8.0MPa√m以上であることを特徴とする請求項18~22のいずれか一項に記載の板状の窒化ケイ素質焼結体。
【請求項24】
請求項14~23のいずれか一項に記載の板状の窒化ケイ素質焼結体を用いることを特徴とする基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β型窒化ケイ素を主成分する板状の窒化ケイ素質焼結体に関し、特に高い熱伝導率と高い機械的強度および靭性を併せ持ち、絶縁基板および回路基板として用いるのに好適な板状の窒化ケイ素質焼結体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ケイ素質焼結体は、機械的強度、靭性、耐熱衝撃性などに優れるため各種の機械部品、耐摩耗部品に用いられるほか、高い電気絶縁性と優れた熱伝導性を利用して電気絶縁材料にも適用されている。従来の電気絶縁セラミックスとしては、酸化アルミニウム、窒化アルミニウムなどが知られている。酸化アルミニウムは熱伝導率が低いため、パワー半導体などへの適用に対して放熱性が不足する問題がある。一方、窒化アルミニウムは熱伝導率が高く、放熱性に優れるが、機械的強度や破壊靭性が低いため、モジュールの組み立て工程で割れを生じるという問題がある。また、半導体素子を実装した回路基板では半導体素子との熱膨張差に起因して、熱サイクルによりクラックや割れを生じ、実装信頼性が低下するという問題がある。回路基板等の用途においては、特に高いレベルで、高熱伝導性と優れた機械的特性(強度および靭性)を両立する板状の窒化ケイ素質焼結体が求められている。
【0003】
そこで、電気絶縁セラミックスとして強度および靭性に優れた窒化ケイ素を利用した種々の提案がある。例えば特許文献1には、酸化物または酸窒化物から成る粒界相中にMg,Ca,Sr,Ba,Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Gd,Dy,Ho,Er,Ybのうちから選ばれる1種または2種以上の金属元素を0.5重量%以上10重量%以下含有すると共に、粒界相中のAl原子含有量が1重量%以下であり、気孔率が5%以下でかつβ型窒化ケイ素粒のうち短軸径5μm以上を持つものの割合が10体積%以上60体積%以下である高熱伝導率窒化ケイ素質焼結体が開示されている。しかしながら、この焼結体は、焼成ガス圧力100~300気圧、焼成温度2000℃という、非常に過酷な高温・高圧条件で作製されており、高温・高圧下で使用できる高額な焼結炉が必要となるので、コストアップに繋がるという問題がある。このため、より低い雰囲気圧力で窒化ケイ素焼結基板を製造することが求められている。さらに、厚さ4mmまたは厚さ6mmのCIP成形体から得られた焼結体を研削加工して1mm程度の厚さの板状物に仕上げており、薄いシート成形体から基板用の焼結体を作製したものではない。窒化ケイ素質焼結体においては、表層部と内部では、その化学組成および微細構造が著しく異なるため、研削加工して1mm程度の厚さの板状物に仕上げた焼結体の物性値(熱伝導率や機械的特性)をもって、量産向けの窒化ケイ素焼結基板の物性値(熱伝導率や機械的特性)に代用することはできない。
【0004】
例えば特許文献2には、D10、D50およびD90が、それぞれ0.5~0.8μm、2.5~4.5μmおよび7.5~10.0μmの粒度分布を有し、含有酸素量が0.01~0.5wt%であり、平均粒子径(D50)以上の粒子中に存在するβ型窒化ケイ素粒子の割合が1から50%である窒化ケイ素粉末が、シート成形性に優れ、高強度・高靱性でかつ優れた放熱性を有する焼結体を提供することが記載されている。しかしながら、窒化ケイ素粉末のD50が2.5~4.5μmという大きな値であって、その中に存在するβ型窒化ケイ素粒子のアスペクト比が7.0以上であり、MgO/Y2O3重量比も3.0という大きな値であるためか、曲げ強度は790MPa以下、破壊靭性値7.5MPa√m以下である。曲げ強度790MPaの試料の熱伝導率は85W/(m・K)以下である。
【0005】
例えば特許文献3には、窒化ケイ素質焼結体の切断面を観察したとき、柱状のβ型窒化ケイ素粒子の内、長軸の長さが10μmを超えるものの個数が、1mm2当たりに20000個以下であり、熱伝導率が室温において75W/(m・K)以上、室温から200℃までにおいて45W/(m・K)以上であり、3点曲げ強度が室温において800MPa以上である窒化ケイ素質焼結体を提供することが記載されている。
【0006】
例えば特許文献4には、窒化珪素粉末100質量部に対し、MgO、Y2O3及びSiO2を含有し、その比率が(1)MgO/(MgO+SiO2)=34~59mol%、並びに、(2)Y2O3/(Y2O3+SiO2)=50~66mol%である焼結助剤5~15質量部の存在下に、窒化珪素粉末を焼結して得られる窒化珪素焼結体からなる窒化珪素基板が開示されている。しかしながら、その実施例および比較例を示す表1に記載された焼結助剤組成から計算されるMgO/Y2O3重量比は、0.055~0.194(wt/wt)であり、MgOの配合割合が少ない。そのためか、得られる窒化珪素基板の電気特性は優れるものの、熱伝導率は90W/(m・K)以下、抗折強度は750MPa以下という低い値に留まっている。
【0007】
また特許文献5には、厚さ方向に垂直な面内における窒化珪素粒子の配向割合が規定された窒化珪素基板が開示されている。しかしながら、MgO添加量が3wt%以上と多く、X線回折線強度の割合から定まる配向度が、表面で0.28~0.33、内部では0.18~0.29という大きな値であるため、実施例の熱伝導率は93W/(m・K)以下である。また、焼結助剤の重量比および添加量が異なるためか、得られる窒化ケイ素質焼結体の3点曲げ強度は864MPa以下、破壊靭性値は6.8MPa√m以下に留まっている。
【0008】
また特許文献6には、粒界相が非晶質相とMgSiN2結晶相からなり、希土類元素(RE)を含んだ結晶相を含まないことによって熱伝導率を向上させた窒化珪素基板が開示されている。しかしながら、粒界でMgSiN2結晶相が成長するためか、得られる窒化ケイ素質焼結体の3点曲げ強度は862MPa以下に留まっており、破壊靭性値は測定されていない。
【0009】
また特許文献7の実施例には、ロータリーキルン焼成により製造された比表面積5~30m2/gの窒化ケイ素粉末を原料として用いた窒化ケイ素質焼結体の特性値が開示されている。表3および表4には、それぞれ、焼結助剤として酸化イットリウムと酸化アルミニウムを添加して、窒素ガス雰囲気下1780℃で2時間焼結することにより得られた窒化ケイ素質焼結体の曲げ強度、および焼結助剤として酸化イットリウムと酸化マグネシウムを添加して、加圧窒素ガス下1900℃で22時間焼結することにより得られた窒化ケイ素質焼結体の曲げ強度と熱伝導率が掲載されている。表3によれば、窒素ガス雰囲気下1780℃で2時間焼結することにより得られた窒化ケイ素質焼結体の曲げ強度は1020~1220MPaであるが、この表に掲載された、酸化イットリウムと酸化アルミニウムを添加した窒化ケイ素質焼結体が著しく低い熱伝導率を示すことは、当業者の技術常識である。一方、表4によれば、酸化イットリウムと酸化マグネシウムを添加した窒化ケイ素質焼結体は130~142W/mKという高い熱伝導率を示しているが、1900℃-22時間という高温長時間での焼結では、焼結過程における酸素揮発量及び重量減少量が大きくて、粒成長が著しく進行するために、605~660MPaという低い曲げ強度しか得られていない。即ち、高い熱伝導率と優れた機械的強度を併せ持つ窒化ケイ素質焼結体は得られておらず、高い熱伝導率と優れた機械的強度を両立することの難しさを示している。
【0010】
また特許文献8には、β窒化ケイ素粒子のc軸が基板の厚み方向に配向している窒化ケイ素セラミックスが開示されている。しかしながら、この方法では、原料スラリーを成形用の型に容れて、前記型の厚み方向に沿う中心軸を中心とした回転磁場中で前記スラリーを乾燥することにより原料粉からなる成形体を成形しており、特殊な成形法であるため、量産段階には至っていない。さらに、
図4、6および8に掲載された、実施例の窒化ケイ素セラミックスの厚み方向と平行な断面の走査型電子顕微鏡像から明らかなように、β窒化ケイ素粒子のc軸が基板の厚み方向に配向しているため、焼結基板の曲げ強度が著しく低下してしまい、強度特性面で問題を生ずる。
【0011】
さらに特許文献9には、短軸径が2μm以上の粒子を有し、窒化珪素質粒内の酸素、Al、Ca、Feの不純物量の合計を1500ppm以下に制御することで、熱伝導率と機械特性を向上させた窒化珪素質焼結体ならびにその製造方法が記載されている。しかしながら、イットリウム及び/又はランタノイド族元素合計が酸化物換算して8~15重量%という多量の焼結助剤を添加しており、イットリウム及び/又はランタノイド族元素の合計が酸化物換算で8重量%未満では、液相総量が少なくなくなるため、過度に粒成長し強度低下を招くと明記されている(特許文献9の段落0034)。このような多量の焼結助剤の添加は、得られる窒化ケイ素質焼結体の強度特性低下をもたらす。その実施例においては、Yb2O3等の希土類酸化物を8~10wt%、さらにZrO2を1~3wt%添加し、1900℃で24時間保持という、やや過酷な条件で焼結されているため、CIP成形体から得られた焼結体であっても、室温強度は338~638MPa(実施例24のみ803MPa)、破壊靭性値は6.9MPa√m以下に留まっている。また、窒化珪素粉末の平均粒子径も比表面積も記載されておらず、粉末A~MのAl、CaおよびFeの含有量が190ppm~2220ppmと高レベルであることも強度低下の要因となる。
なお、そもそも、非特許文献1によれば、MDシミュレーションから算出されるβ型窒化ケイ素の理論熱伝導率はa軸方向が170W/m・K、c軸方向が450W/m・Kと報告されており、高熱伝導な長軸(c軸)方向の粒径を無視して、短軸径(a軸方向の粒径)を規定することの意味は不明瞭である。
【0012】
さらに特許文献10には、原料粉末に柱状の窒化珪素ウイスカーを予め添加して成形し、焼結過程において当該ウイスカーを核として選択的に粒成長させたミクロ組織を構築することで、熱伝導率を向上させた窒化ケイ素質焼結体の製造方法が記載されている。しかしながら、当該ウイスカーのアスペクト比(平均長さと平均直径との比率)が10以上という大きな値であるために、成形が難しいばかりでなく、焼結過程における緻密化が著しく阻害される。このため、当該ウイスカーを予め水熱処理して表面を酸化させて焼結性を助長している。ところが、水熱処理は120℃で96時間という煩雑なプロセスであるばかりでなく、得られる焼結体の酸素含有量が増加するので、高熱伝導な焼結体が得られ難い。また、CIP成形体の焼結しか行われておらず、曲げ強度は830MPa以下、破壊靭性値は8MPa√m以下に留まっている。
【0013】
さらに特許文献11には、β分率が30~100%であり、酸素量が0.5wt%未満であり、平均粒子径が0.2~10μmであり、アスペクト比が10以下であり、粒子の長軸方向に溝部が形成されている柱状粒子を含み、Fe含有量およびAl含有量がそれぞれ100ppm以下である窒化ケイ素粉末が、高温・高圧焼成といったコストの高い焼成法を必要とせずに、高い熱伝導率および高い強度を有する窒化ケイ素質焼結体を提供することができることが記載されている。しかしながら、原料Si
3N
4粉末の酸素含有量が著しく少なく、平均粒子径が大きてアスペクト比が4以上であり、かつ不純物Fe量およびAl含有量が高くて、助剤成分となるMgO/RExOy重量比が1.5以上であるためか、曲げ強度は850MPa以下であり、破壊靭性値は測定されていない。
図1に掲載された窒化ケイ素質粉末の走査型電子顕微鏡
写真も非常に粗大な粒子であることを示している。
【0014】
さらに特許文献12および13には、β分率が30~100%であり、酸素含有量が0.5wt%以下、平均粒子径が0.2~10μm、アスペクト比が10以下である窒化ケイ素質粉末1~50重量部と、平均粒子径が0.2~4μmのα型窒化ケイ素粉末99~50重量部と、Mgと、Y及び希土類元素(RE)からなる群から選ばれた少なくとも1種の元素とを含む焼結助剤とを配合し、0.5MPaの窒素雰囲気にて、1800℃~1950℃に5~40時間保持して焼結することにより得られた、窒化ケイ素粒子内に、MgあるいはLa,Y,Gd及びYbからなる群から選ばれた少なくとも1種の希土類元素と、O元素とから構成され、核とその周辺部が非晶質相である粒径100nm以下の微細粒子が5個/μm
2以上存在する窒化ケイ素質焼結体が開示されている。しかしながら、β分率が30~100%で、平均粒子径が0.2~10μm、アスペクト比が10以下である窒化ケイ素質粉末はα型窒化ケイ素粉末を高温焼成して得られたものであって、
図13のSEM観察像から明らかなように、粗大で低酸素含有量である(特許文献11に開示された窒化ケイ素質粉末と同じ合成条件が記載されている)。このような粗大で低酸素含有量のβ型窒化ケイ素粉末を粉砕せずに使用すると、焼結を阻害することになる。さらに、窒化ケイ素粒子内に生成した粒径100nm以下の微細粒子は核とその周辺部が非晶質相であることから、窒化ケイ素粒子自体の熱伝導率を低下させる。このため、前記の配合原料から得られた成形体の焼結には高温・長時間の焼結過程を要し、著しい粒成長が起こるため、実施例においては曲げ強度が780MPa以下の焼結体しか得られていない。また表1に掲載された実施例1の焼結体はCIP成形により得られたものであり、実施例2の記載からも明らかなように、ドクターブレード法によるグリーンシート成形で作製した焼結基板の熱伝導率も曲げ強度も開示されていない。
【0015】
さらに特許文献14には、MgとLu及びYを含む希土類元素(RE)から選択された少なくとも1種の希土類元素を焼結助剤として添加する窒化珪素質焼結体であって、粒界相に少なくとも(RE、Lu)4Si2O7N2結晶が析出していること、および窒化珪素粒子内にMgあるいはLuとO元素とを含む粒径100nm以下の微細粒子が存在することを特徴とする高強度・高熱伝導性に優れた窒化珪素質焼結体が開示されている。しかしながら、Lu2O3はY2O3の200倍という高価格な物質であり(Y2O3が3.35ドルに対してLu2O3は671ドル(China F.o.B.Export prices 09-Mar-2018 (USD/kg))、焼結助剤として使用することは現実的でない。さらに、実施例1~3の結果を示す表1、表2および表3から明らかなように大部分の試料は1950℃-20時間保持という過酷な条件で作製されており、焼結過程における酸素揮発率ΔOが53.5%~96.2%という非常に大きな値となっている。このような酸素揮発率が大きくなる過酷な焼結条件では、得られる焼結体に著しい色調ムラを生じ、焼結体内部の組成・組織の変動が大きくて、均一な焼結体を得ることができない。このため、曲げ強度が799MPa以下に低下している。一方、1900℃以下の比較的マイルドな焼結条件で得られた試料は酸素揮発率ΔOが10.7%~22.7%と小さ過ぎるため、焼結体中の組成におけるMgO含有量が大きくなっており(それぞれ1.30モル%、3.20モル%、5.00モル%および8.00モル%)、適正なMgO含有量を有する試料は存在しない。このようにMgO含有量が多い場合には、MgOを含有する脆弱で熱抵抗の大きなガラス相が生成するため、薄板状の焼結体とした場合には高強度・高熱伝導性に優れた窒化珪素質焼結体を得ることが出来ない。また、実施例4の記載からも明らかなように、ドクターブレード法によるグリーンシート成形で作製した焼結基板の熱伝導率も曲げ強度も開示されていない。
なお、上記の特許文献2から特許文献13においては、焼結過程における酸素揮発量および重量減少量は全く考慮されておらず、焼結体中の酸素含有量も記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】特開平09-30866号公報
【文献】特開2002-265276号公報
【文献】特開2002-293641号公報
【文献】国際公開第2007/018050号公報
【文献】特開2009-218322号公報
【文献】国際公開第2010/002001号公報
【文献】国際公開第2013/146713号公報
【文献】特開2015-63440号公報
【文献】特開2001-19557号公報
【文献】特開2002-29848号公報
【文献】特開2004-262756号公報
【文献】特開2003-313079号公報
【文献】特開2006-96661号公報
【文献】特開2005-255462号公報
【文献】国際公開第2018/110565号公報
【非特許文献】
【0017】
【文献】Hirosaki et. al.,Physical Review B,65(2002)134110,1~11ページ
【文献】Shannon et.al.,Acta A32(1976) 751ページ
【文献】G.P.Gazzara and D.P.Messier, Am. Ceram.Soc.Bull.,56[9]777-80ページ (1977).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
これら、従来の窒化ケイ素質焼結体は近年益々発熱量が増大する半導体モジュールに対しては熱伝導性または機械的特性が不足しがちであり、特に動作中の高温域まで放熱性を安定に確保することがより一層望まれている現状においては、熱伝導性と機械的特性の両面で性能不足である。熱伝導率を上げるために1910℃を超える高温で焼結すると、粒成長が進み過ぎて機械的特性が低下し、逆に、機械的特性を向上させるために1790℃未満の温度で焼結すると粒成長が著しく不足して熱伝導率が低下するため、高い熱伝導率と優れた機械的特性(強度と破壊靭性)を併せ持つ板状の窒化ケイ素質焼結体を得ることは非常に難しい。また、特許文献3では、高い熱伝導率と高い機械的強度を両立するには、40気圧(4MPa)以上の高い雰囲気圧力を必要としているため、高圧下で使用できる焼結炉が必要となる。その実施例から分かるように、9気圧(0.9MPa)では、熱伝導率と機械的強度の両面で著しく特性不足である。本発明はかかる事情に鑑み、焼結時の雰囲気圧力を特許文献3のように高くすることなく、より低い圧力で、高い熱伝導率と優れた機械的特性を併せ持つ板状の窒化ケイ素質焼結体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、高い熱伝導率と優れた機械的特性(強度と破壊靭性)を併せ持つ板状の窒化ケイ素質焼結体を得る方法について鋭意研究を重ねた結果、特定の比表面積と酸素含有量を有するα型の第一の窒化ケイ素粉末と、第一の窒化ケイ素粉末よりも比表面積が小さくて、平均粒子径が大きなβ分率60%以上100%以下の第二の窒化ケイ素粉末を配合した原料粉末を用い、シート成形条件と併せて、焼結過程における重量減少率と粒成長を高度に制御することによって、焼結時の雰囲気圧力を大きくすることなく、高い熱伝導率と優れた機械的特性(強度と破壊靭性)を併せ持つ窒化ケイ素質焼結体を製造し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は以下の態様を提供する。なお、以下では、説明の便宜上、本発明の様々の態様を、板状の窒化ケイ素質焼結体の製造方法、板状の窒化ケイ素質焼結体の製造用の窒化ケイ素粉末の配合物、板状の窒化ケイ素質焼結体の製造用の原料粉末組成物、板状の窒化ケイ素質焼結体、及び窒化ケイ素質焼結体基板などのそれぞれの側面に分けて、特にその側面において有効な態様として記述しているが、これらの態様はその特定の側面だけではなく、本発明の他の側面においても、同様に有効な態様であることが理解されるべきである。
【0020】
板状の窒化ケイ素質焼結体の製造方法
本発明は、
(I)a)β分率が10%以下、酸素含有量が0.75重量%以上2.2重量%以下、BET法による比表面積が7.0m2/g以上13.0m2/g以下、レーザー回折散乱法により測定される体積基準の粒度分布における平均粒子径が0.55μm以上1.5μm以下であるα型の第一の窒化ケイ素粉末40~94重量部と、
b)β分率が60%以上100%以下、酸素含有量が0.55重量%以上2.0重量%以下であり、BET法による比表面積が2.5m2/g以上10.0m2/g以下であって第一の窒化ケイ素粉末の比表面積よりも小さな値であり、レーザー回折散乱法により測定される体積基準の粒度分布における平均粒子径が0.7μm以上2.0μm未満であって第一の窒化ケイ素粉末の平均粒子径よりも大きな値であり、アスペクト比が3以下である第二の窒化ケイ素粉末60~6重量部と
を含む窒化ケイ素原料に、
c)焼結助剤として、アルカリ土類金属酸化物と希土類金属酸化物との重量比が0.40≦アルカリ土類金属酸化物/希土類金属酸化物≦1.4を満足するような配合比で、アルカリ土類金属酸化物および有効イオン半径が87pm以上の希土類金属酸化物を、窒化ケイ素原料と焼結助剤の合計重量を基準として3.2~7.0重量%含む
出発組成物を調製し、
(II)出発組成物からシート成形プロセスによりグリーンシートを作製し、
(III)グリーンシートを脱脂し、その後、
(IV)窒素含有ガス圧力が0.15MPa以上3MPa以下の加圧雰囲気下、最高保持温度が1790℃以上1910℃以下の温度範囲に保持して焼結することにより、
(V)板状の窒化ケイ素質焼結体を得ること、
ここで、得られる板状の窒化ケイ素質焼結体は、実測アルカリ土類金属含有量と実測希土類金属含有量との比率が0.05≦実測アルカリ土類金属含有量/実測希土類金属含有量≦0.85であり、相対密度が98%以上であること
を特徴とする板状の窒化ケイ素質焼結体の製造方法(以下、方法Aともいう)を提供する。
【0021】
ここで、前記の有効イオン半径は、非特許文献2(Shannon et.al.)によるものであり、Dy(ディスプロシウム)107pm(6配位)、Er(エルビウム)89pm(6配位)、Ho(ホロニウム)90.1pm(6配位)、La(ランタン)103.2pm(6配位)、Lu(ルテチウム)86.1pm(6配位)、Nd(ネオジウム)98.3pm(6配位)、Sc(スカンジウム)74.5pm(6配位)、Y(イットリウム)90pm(6配位) 、Yb(イッテルビウム)102pm(6配位)と報告されている。希土類金属の有効イオン半径が87pm未満になると、特許文献14に記載されているように窒化珪素粒子内にMgあるいは希土類元素とO元素とを含む粒径100nm以下の微細粒子が存在するようになる。
【0022】
ここで、焼結体としての前記の実測アルカリ土類金属含有量と実測希土類金属含有量との比率を、酸化物基準で焼結体中のアルカリ土類金属酸化物と希土類金属酸化物との重量比に換算すると、アルカリ土類金属がマグネシウム、希土類金属がエルビウムの場合には0.07≦アルカリ土類金属酸化物/希土類金属酸化物≦1.23であり、アルカリ土類金属がマグネシウム、希土類金属がイットリウムの場合には0.06≦アルカリ土類金属酸化物/希土類金属酸化物≦1.11である。
【0023】
本発明の一態様においては、窒化ケイ素質焼結体の実測酸素含有量が1.3重量%以上2.8重量%以下である板状の窒化ケイ素質焼結体を製造することを特徴とする。
【0024】
本発明の一態様においては、窒化ケイ素質焼結体の厚さが1.5mm以下であり、厚さ/面積比が0.015(1/mm)以下であることを特徴とする板状の窒化ケイ素質焼結体の製造方法を提供する。この板状の窒化ケイ素質焼結体は、好ましくは、研削または研磨加工による厚み方向に垂直な板面表層部の除去量が片面当たり0.03mm以下のものである。
【0025】
本発明の一態様においては、前記第二の窒化ケイ素粉末の累積粒度分布曲線における95%径が10.0μm以下である出発組成物を用いて、板状の窒化ケイ素質焼結体を製造することを特徴とする。
【0026】
本発明の一態様においては、前記第二の窒化ケイ素粉末のアルミニウム含有量および鉄含有量がそれぞれ100ppm以下であり、クロム含有量、ニッケル含有量、タングステン含有量、銅含有量およびマンガン含有量がそれぞれ30ppm以下である出発組成物を用いて、板状の窒化ケイ素質焼結体を製造することを特徴とする。
【0027】
本発明の一態様においては、焼結助剤はアルカリ土類金属酸化物と希土類金属酸化物に加え、二酸化シリコン粉末を含み、窒化ケイ素原料と焼結助剤の合計重量を基準として、二酸化シリコンの含有量が0.1重量%以上2.5重量%以下である出発組成物を用いて、板状の窒化ケイ素質焼結体を製造することを特徴とする。
【0028】
本発明の一態様においては、焼結体としての前記実測アルカリ土類金属含有量と前記実測希土類金属含有量とを合計した、ケイ素を除く焼結助剤由来の金属元素含有量が1.5重量%以上4.5重量%以下である前記の板状の窒化ケイ素質焼結体を製造することを特徴とする。
【0029】
ここで、焼結体としての前記のアルカリ土類金属と前記の希土類金属とを合計した実測含有量を、酸化物基準で焼結体中のアルカリ土類金属酸化物と希土類金属酸化物とを合計した含有量に換算すると、2.1重量%以上6.2重量%以下である。
【0030】
本発明の一態様においては、アルカリ土類金属酸化物が酸化マグネシウムであり、有効イオン半径が87pm以上の希土類金属酸化物が酸化イットリウム、酸化エルビウムおよび酸化イッテルビウムから選ばれる少なくとも一種の酸化物である前記の板状の窒化ケイ素質焼結体を製造することを特徴とする。
【0031】
本発明の一態様においては、焼結前後における重量減少率が2.5重量%~8.0重量%となるように、雰囲気ガス圧力、最高保持温度および最高保持温度における保持時間などの焼結条件を設定することにより、所望の焼結体組成を有する前記の板状の窒化ケイ素質焼結体を製造することを特徴とする。
【0032】
本発明の一態様においては、焼結前後における酸素揮発率が23%~50%となるように、セッター内へのグリーンシートの充填量と充填方法、セッターの密閉度、雰囲気ガス圧力、最高保持温度および最高保持温度における保持時間などの焼結条件を設定することにより、所望の実測酸素含有量を有する板状の窒化ケイ素質焼結体を製造することを特徴とする。
【0033】
板状の窒化ケイ素質焼結体の製造方法
本発明の一態様においては、算術平均粗さRaが0.05μm以上0.5μm以下に研磨された表面にX線を照射した際に得られる窒化ケイ素質焼結体中のβ型窒化ケイ素の(200)面の回折強度I(200)および(210)面の回折強度I(210)の平均値{I(200)+I(210)}/2と(101)面の回折強度I(101)との比{I(200)+I(210)}/{2×I(101)}が1.10以上1.50以下である板状の窒化ケイ素質焼結体を製造することを特徴とする。
【0034】
本発明の一態様においては、算術平均粗さRaが0.05μm以上0.5μm以下に研磨された表面から0.08mm以上内側まで研削して得られた平面にX線を照射した際に得られる窒化ケイ素質焼結体中のβ型窒化ケイ素の(200)面の回折強度I(200)および(210)面の回折強度I(210)の平均値{I(200)+I(210)}/2と(101)面の回折強度I(101)との比{I(200)+I(210)}/{2×I(101)}が1.10以上1.40以下であり、
窒化ケイ素質焼結体の板面に垂直な切断面を観察したとき、柱状のβ型窒化ケイ素粒子の内、長軸径が10μmを超える粒子の個数が、切断面1mm2当たりに1200個以上10000個以下であって、全窒化ケイ素粒子の面積を基準として、長軸径が10μmを超える粒子の面積分率が6.5%以上39%以下である板状の窒化ケイ素質焼結体を製造することを特徴とする。
【0035】
本発明の一態様においては、窒化ケイ素質焼結体の板面に垂直な切断面を観察したとき、全窒化ケイ素粒子の面積を基準として、柱状のβ型窒化ケイ素粒子の内、長軸径が3μm以上の粒子の面積分率が45%以上87%以下である板状の窒化ケイ素質焼結体を製造することを特徴とする。
【0036】
本発明の一態様においては、窒化ケイ素質焼結体の板面に垂直な切断面を観察したとき、柱状のβ型窒化ケイ素粒子の内、面積%基準で表した長軸径の累積粒度分布曲線における50%径D50が2.8μm以上6.8μm以下であり、80%径D80が8.1μm以上12.5μm以下である板状の窒化ケイ素質焼結体を製造することを特徴とする。
【0037】
本発明の一態様においては、窒化ケイ素質焼結体の板面に垂直な切断面を観察したとき、粒界相の面積分率が、全窒化ケイ素粒子と粒界相との合計面積を基準として、20面積%以下である板状の窒化ケイ素質焼結体を製造することを特徴とする。
【0038】
本発明の一態様においては、
焼結助剤として、酸化マグネシウムと希土類金属酸化物との重量比が0.42≦酸化マグネシウム/希土類金属酸化物≦1.1を満足するような配合比で、酸化マグネシウム、有効イオン半径が87pm以上の希土類金属酸化物および二酸化シリコンを添加し、焼結助剤の添加量は、窒化ケイ素粉末と焼結助剤の合計重量を基準として4.0~6.5重量%とすること、
シート成形プロセスにより作製された板状の成形体(グリーンシート)を脱脂し、その後、窒素含有ガス圧力が0.15MPa以上0.9MPa以下の加圧雰囲気下、最高保持温度が1820℃以上1910℃以下の温度範囲で、当該最高保持温度にて6時間以上20時間以下保持して焼結すること、
得られる板状の窒化ケイ素質焼結体は、実測マグネシウム含有量と実測希土類金属含有量との比率が0.07≦実測マグネシウム含有量/実測希土類金属含有量≦0.75であって、前記の実測マグネシウム含有量と前記の実測希土類金属含有量とを合計した、ケイ素を除く焼結助剤由来の金属元素含有量が1.6重量%以上4.0重量%以下であり、実測酸素含有量が1.6重量%以上2.6重量%以下であり、相対密度が98%以上である、
ことを特徴とする。
【0039】
本発明の一態様においては、最高保持温度は1790℃以上1910℃以下の温度範囲であってもよい。
【0040】
板状の窒化ケイ素質焼結体の製造用の窒化ケイ素粉末配合物
本発明の一態様においては、前述の「方法A」(段落0020)に規定された第一の窒化ケイ素粉末と第二の窒化ケイ素粉末とを含み、β分率が7%以上64%以下、酸素含有量が0.74重量%以上1.95重量%以下、BET法による比表面積が6.3m2/g以上12.8m2/g以下、粒度分布における平均粒子径が0.66μm以上1.5μm以下であり、得られる頻度分布曲線が二つのピークを有し、該ピークのピークトップが、0.5~1.2μmの範囲(第一ピーク)と1.1~3.8μmの範囲(第二ピーク)にあって、該第二のピークは該第一のピークよりも0.5~3.0μm大きな値であることを特徴とする板状窒化ケイ素質焼結体製造用の窒化ケイ素粉末が提供される。
この窒化ケイ素粉末配合物においても、「方法A」の変形として上述した態様と同様の態様及びその特徴を、窒化ケイ素粉末配合物に適用できる限りにおいて、有することができる。
【0041】
板状の窒化ケイ素質焼結体の製造用の原料粉末組成物
本発明の一態様においては、前述の「方法A」(段落0020)に規定された特徴を有する、第一の窒化ケイ素粉末と第二の窒化ケイ素粉末と焼結助剤とを含む板状窒化珪素質焼結体製造用の原料粉末組成物が提供される。
この原料粉末組成物においても、「方法A」の変形として上述した態様と同様の態様及びその特徴を、原料粉末組成物に適用できる限りにおいて、有することができる。
【0042】
板状の窒化ケイ素質焼結体
本発明の板状の窒化ケイ素質焼結体は、焼結体としての実測アルカリ土類金属含有量と実測希土類金属含有量(希土類金属の有効イオン半径は87pm以上のもの)との比率が0.05≦実測アルカリ土類金属含有量/実測希土類金属含有量≦0.85であって、
実測アルカリ土類金属含有量と実測希土類金属含有量とを合計した、ケイ素を除く焼結助剤由来の金属元素含有量の実測値が1.5重量%以上4.5重量%以下であり、
相対密度が98%以上であることを特徴とする。
この板状の窒化ケイ素質焼結体は、シート成形プロセスにより作製された板状の成形体を雰囲気ガス圧力3MPa以下で焼結して製造することができる。
【0043】
本発明の一態様においては、この板状の窒化ケイ素質焼結体は、算術平均粗さRaが0.05μm以上0.5μm以下に研磨された表面から0.08mm以上内側まで研削して得られた平面にX線を照射した際に得られるβ型窒化ケイ素の(200)面の回折強度I(200)および(210)面の回折強度I(210)の平均値{I(200)+I(210)}/2と(101)面の回折強度I(101)との比{I(200)+I(210)}/{2×I(101)}が1.10以上1.40以下である。
【0044】
以下においては、前記に定義されたβ型窒化ケイ素の(200)面の回折強度I(200)および(210)面の回折強度I(210)の平均値{I(200)+I(210)}/2と(101)面の回折強度I(101)との比{I(200)+I(210)}/{2×I(101)}を「c軸配向に係る回折強度比」と表記する。
【0045】
ここで、焼結体としての前記のアルカリ土類金属と前記の希土類金属とを合計した実測含有量を、酸化物基準で焼結体中のアルカリ土類金属酸化物と希土類金属酸化物とを合計した含有量に換算すると、アルカリ土類金属がマグネシウム、希土類金属がイットリウムの場合には2.1重量%以上6.2重量%以下である。
【0046】
本発明の一態様においては、板状の窒化ケイ素質焼結体は
焼結体としての実測酸素含有量が1.3重量%以上2.8重量%以下であり、
焼結体の板面に垂直な切断面を観察したとき、柱状のβ型窒化ケイ素粒子の内、長軸径が10μmを超える粒子の個数が切断面1mm2当たりに1200個以上10000個以下である板状の窒化ケイ素質焼結体であることを特徴とする。
【0047】
本発明の一態様においては、板状の窒化ケイ素質焼結体は、厚さが1.5mm以下であり、厚さ/面積比が0.015(1/mm)以下であることを特徴とする。この板状の窒化ケイ素質焼結体は、好ましくは、研削または研磨加工による厚み方向に垂直な板面表層部の除去量が片面当たり0.03mm以下のものである。
【0048】
本発明の一態様においては、前記の板状の窒化ケイ素質焼結体は、算術平均粗さRaが0.05μm以上0.5μm以下に研磨された表面にX線を照射した際に得られる前記の「c軸配向に係る回折強度比」が1.10以上1.50以下であることを特徴とする。
【0049】
本発明の一態様においては、算術平均粗さRaが0.05μm以上0.5μm以下に研磨された表面にX線を照射した際に得られるβ型窒化ケイ素のX線回折パターンにおいて、粒界にMgSiN2等からなるMg化合物の結晶相が、実質的に含まれておらず、かつ粒界相を構成するJ相(RE4Si2O7N2)のメインピーク((22-1)面)の回折強度とN-メリライト相(RE2Si3O3N4)のメインピーク((211)面)の回折強度の合計が当該窒化ケイ素焼結体中のβ型窒化珪素の(200)面の回折強度に対して0.07未満(ゼロを含む)である板状の窒化ケイ素質焼結体であることを特徴とする。
【0050】
本発明の一態様においては、前記の窒化ケイ素質焼結体が色調ムラの抑制された板状の窒化ケイ素質焼結体であることを特徴とする。
【0051】
本発明の一態様においては、アルカリ土類金属酸化物が酸化マグネシウムであり、有効イオン半径が87pm以上の希土類金属酸化物が酸化イットリウム、酸化エルビウムおよび酸化イッテルビウムから選ばれる少なくとも一種の酸化物であることを特徴とする。
【0052】
本発明の一態様においては、前記の板状の窒化ケイ素質焼結体は、焼結体としての実測マグネシウム含有量と前記の実測希土類金属含有量(希土類金属は有効イオン半径が87pm以上のもの)との比率が0.07≦実測マグネシウム含有量/実測希土類金属含有量≦0.75であり、前記の実測マグネシウム含有量と前記の実測希土類金属含有量とを合計した、ケイ素を除く焼結助剤由来の金属元素含有量が1.6重量%以上4.0重量%以下であることを特徴とする。
【0053】
本発明の一態様においては、窒化ケイ素質焼結体の板面に垂直な切断面を観察したとき、全窒化ケイ素粒子の面積を基準として、柱状のβ型窒化ケイ素粒子の内、長軸径が3μm以上の粒子の面積分率が45%以上87%以下であり、長軸径が10μmを超える粒子の面積分率が6.5%以上39%以下である板状の窒化ケイ素質焼結体であることを特徴とする。
【0054】
本発明の一態様においては、窒化ケイ素質焼結体の板面に垂直な切断面を観察したとき、柱状のβ型窒化ケイ素粒子の内、面積%基準で表した長軸径の累積粒度分布曲線における50%径D50が2.8μm以上6.8μm以下であり、80%径D80が8.1μm以上12.5μm以下である粒子で構成された板状の窒化ケイ素質焼結体であることを特徴とする。
【0055】
本発明の一態様においては、窒化ケイ素質焼結体の板面に垂直な切断面を観察したとき、粒界相の面積分率が、全窒化ケイ素粒子と粒界相との合計面積を基準として20面積%以下である板状の窒化ケイ素質焼結体であることを特徴とする。
【0056】
本発明の一態様においては、焼結体としての前記の実測酸素含有量が1.6重量%以上2.6重量%以下であることを特徴とする。
【0057】
本発明の一態様においては、焼結体としての前記の実測マグネシウム含有量と前記の実測希土類金属含有量(希土類金属は有効イオン半径が87pm以上のもの)との比率が0.09≦実測マグネシウム含有量/実測希土類金属含有量≦0.65であり、前記の実測マグネシウム含有量と前記の実測希土類金属含有量とを合計した、ケイ素を除く焼結助剤由来の金属元素含有量が1.7重量%以上3.5重量%以下であることを特徴とする。
【0058】
本発明の一態様においては、板状の窒化ケイ素質焼結体の実測アルミニウム含有量および実測鉄含有量がそれぞれ60ppm以下であり、実測クロム含有量、実測ニッケル含有量および実測タングステン含有量、実測銅含有量および実測マンガン含有量がそれぞれ18ppm以下であることを特徴とする。
【0059】
本発明の一態様においては、焼結体としての前記の実測酸素含有量が1.9重量%以上2.46重量%以下であることを特徴とする。
【0060】
本発明の一態様においては、算術平均粗さRaが0.05μm以上0.5μm以下に研磨された表面から0.08mm以上内側まで研削して得られた平面にX線を照射した際に得られる「c軸配向に係る回折強度比」が1.20以上1.40以下であることを特徴とする。
【0061】
本発明の一態様においては、窒化ケイ素質焼結体の板面に垂直な切断面を観察したとき、柱状のβ型窒化ケイ素粒子の内、面積%基準で表した長軸径の累積粒度分布曲線における50%径D50が5.5μm以上6.8μm以下であり、80%径D80が9.5μm以上12μm以下である粒子で構成されている板状の窒化ケイ素質焼結体であることを特徴とする。
【0062】
本発明の一態様においては、熱伝導率が室温において110W/(m・K)以上であり、4点曲げ強度が室温において900MPa以上であり、IF法(インデンテーション法)により測定した破壊靭性値KICが8.0MPa√m以上であることを特徴とする。
【0063】
窒化ケイ素質焼結体基板
また、本発明の一態様においては、上記の各段落に記載された板状の窒化ケイ素質焼結体を用いる基板が提供される。本発明によって得られるこれらの窒化ケイ素質焼結体基板は、絶縁性、熱伝導性に優れることより絶縁基板または回路基板に好適である。
【発明の効果】
【0064】
本発明によれば、高い熱伝導率と優れた機械的特性(強度と破壊靭性)を併せ持つ板状の窒化ケイ素質焼結体が提供され、しかも、この板状の窒化ケイ素質焼結体は焼結時の雰囲気圧力を高くすることなく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0065】
〔本発明の板状の窒化ケイ素質焼結体の製造方法、得られる焼結体〕
本発明は、一つの側面において、
(I)a)β分率が10%以下、酸素含有量が0.75重量%以上2.2重量%以下、BET法による比表面積が7.0m2/g以上13.0m2/g以下、レーザー回折散乱法により測定される体積基準の粒度分布における平均粒子径が0.55μm以上1.5μm以下であるα型の第一の窒化ケイ素粉末40~94重量部と、
b)β分率が60%以上100%以下、酸素含有量が0.55重量%以上2.0重量%以下であり、BET法による比表面積が2.5m2/g以上10.0m2/g以下であって第一の窒化ケイ素粉末の比表面積よりも小さな値であり、レーザー回折散乱法により測定される体積基準の粒度分布における平均粒子径が0.7μm以上2.0μm未満であって第一の窒化ケイ素粉末の平均粒子径よりも大きな値であり、アスペクト比が3以下である第二の窒化ケイ素粉末60~6重量部と
を含む窒化ケイ素原料に、
c)焼結助剤として、アルカリ土類金属酸化物と希土類金属酸化物との重量比が0.40≦アルカリ土類金属酸化物/希土類金属酸化物≦1.4を満足するような配合比で、アルカリ土類金属酸化物および有効イオン半径が87pm以上の希土類金属酸化物を、窒化ケイ素原料と焼結助剤の合計重量を基準として3.2~7.0重量%含む
出発組成物を調製し、
(II)出発組成物からシート成形プロセスによりグリーンシートを作製し、
(III)グリーンシートを脱脂し、その後、
(IV)窒素含有ガス圧力が0.15MPa以上3MPa以下の加圧雰囲気下、最高保持温度が1790℃以上1910℃以下の温度範囲に保持して焼結する
(V)ことにより、板状の窒化ケイ素質焼結体を得ること、
ここで、得られる板状の窒化ケイ素質焼結体は、実測アルカリ土類金属含有量と実測希土類金属含有量との比率が0.05≦実測アルカリ土類金属含有量/実測希土類金属含有量≦0.85であり、相対密度が98%以上であること
を特徴とする板状の窒化ケイ素質焼結体の製造方法にある。
【0066】
窒化ケイ素質焼結体においては、格子振動(フォノン)により熱伝達される。このため、異なるイオンによるフォノン散乱は熱伝導率低下の原因となる。また、窒化ケイ素質焼結体は、窒化ケイ素粒子相とその粒界相とから構成されている。粒界相の熱伝導率が低いため、粒界相量が増えると熱伝導率が低下する。さらに、窒化ケイ素質焼結体内に残存する気孔は熱伝導率を著しく低下させるので緻密な焼結体であることが必要である。
【0067】
(原料粉末)
高い熱伝導率と優れた機械的強度を両立させ、高い熱伝導率と優れた機械的強度を併せ持つ窒化ケイ素質焼結体を得るためには、出発原料となる窒化ケイ素粉末の選択が非常に重要であり、原料粉末の性状を高度に制御する必要がある。即ち、本発明においては、特定の比表面積と酸素含有量を有するα型の第一の窒化ケイ素粉末と、第一の窒化ケイ素粉末よりも比表面積が小さくて、平均粒子径が大きなβ分率60以上100%以下の第二の窒化ケイ素粉末を配合した原料粉末を用いる。
【0068】
(第一の窒化ケイ素粉末)
第一の窒化ケイ素粉末は、β分率が10%以下、酸素含有量が0.75重量%以上2.2重量%以下、BET法による比表面積が7.0m2/g以上13.0m2/g以下、レーザー回折散乱法により測定される体積基準の粒度分布における平均粒子径が0.55μm以上1.5μm以下であるα型の窒化ケイ素粉末である。
【0069】
第一の窒化ケイ素粉末は、α型の窒化ケイ素粉末であり、β分率は10%以下であるが、より好ましい範囲は56%以下、さらに好ましい範囲は3%以下である。
【0070】
α型の窒化ケイ素粉末は、焼結過程で生成するアルカリ土類金属酸化物―希土類金属酸化物―シリカ系助剤成分より成る融液相への溶解速度が速く、融液相への溶解とβ型窒化ケイ素への相転移を伴った析出を通じて、緻密化が進行する。前記のシリケート系融液相が生成するためには、窒化ケイ素粉末が含有している酸素の存在が必須であり、酸素含有量0.75重量%未満では、十分な量の融液相が生成せず、緻密化が阻害され、開気孔率が増大すると共に最大開口径が大きくなる。一方、酸素含有量が2.2重量%を超えると、融液相の体積が多過ぎ、焼結後に粒界相として残存するため、熱伝導率と機械的特性(強度、破壊靱性)の両方を低下させる。特に熱伝導率の低下が著しい。酸素含有量は0.75重量%以上2.2重量%以下であり、より好ましい範囲は1.0重量%以上2.0重量%以下、さらに好ましい範囲は1.2重量%以上1.8重量%以下である。
【0071】
比表面積は、前記の溶解析出過程を通じた緻密化を支配する重要な粉体特性であり、BET法による比表面積が7.0m2/g未満の場合には焼結の駆動力が低下するので、焼結助剤の添加量を7.0重量%を超える量にしないと高密度な窒化ケイ素質焼結体が得られなくなる。一方、焼結助剤の添加量が7.0重量%を超えると熱伝導率が低下するので好ましくない。BET法による比表面積7.0m2/gの窒化ケイ素粉末の球相当径は0.27μmであり、レーザー回折散乱法により測定される体積基準の粒度分布における平均粒子径が1.5μmを超える場合には、凝集指標(平均粒子径と比表面積から算出される球相当径との比率)が5以上となり、凝集が強すぎて、得られる窒化ケイ素質焼結体の微細組織が不均一となるので好ましくない。BET法による比表面積が13.0m2/gを超えると、グリーン密度が低下して成形が難しくなるばかりでなく、焼結時に反り、うねり等の変形が大きくなって、寸法精度に悪影響を及ぼすので好ましくない。BET法による比表面積は7.0m2/g以上13.0m2/g以下、より好ましい範囲は9.5m2/g以上12.0m2/g以下である。
【0072】
レーザー回折散乱法により測定される体積基準の粒度分布における平均粒子径が0.55μm未満の場合にも、塗工用スラリーの調製工程で粒子が凝集して、同様にグリーンシートの成形が難しくなる他、得られる窒化ケイ素質焼結体の熱伝導率が低下する傾向にある。レーザー回折散乱法により測定される体積基準の粒度分布における平均粒子径のより好ましい範囲は0.7μm以上1.1μm以下である。
【0073】
また、窒化ケイ素粉末の製法上、α型窒化ケイ素粉末の方が、高純度(金属不純物含有量が非常に少ない)で微粒(高比表面積で平均粒子径が小さい)な粉末を得やすいという利点もある。第一の窒化ケイ素粉末は非常に高純度なものであることができ、例えば、アルミニウム含有量が10ppm以下、鉄含有量が12ppm以下であり、クロム含有量が2ppm以下、ニッケル含有量が3ppm以下、タングステン含有量、銅含有量およびマンガン含有量がそれぞれ1ppm以下である窒化ケイ素粉末を用いることができる。
【0074】
なお、BET法による比表面積の平均値が7.0m2/g以上13.0m2/g以下かつ酸素含有量の平均値が0.75重量%以上2.2重量%以下であれば、粒度分布を制御するために、比表面積または酸素含有量の異なる2種類の窒化ケイ素粉末を混合しても良い。例えば、BET法による比表面積が7.0m2/g以下で酸素含有量が0.75重量%未満の窒化ケイ素粉末とBET法による比表面積が13.0m2/g以上で酸素含有量が2.2重量%以上の窒化ケイ素粉末を混合した原料を使用したとしても、混合後の窒化ケイ素原料のBET法による比表面積が7.0m2/g以上13.0m2/g以下、酸素含有量が0.75重量%以上2.2重量%以下であって、第二の窒化ケイ素粉末よりも比表面積が大きく、平均粒子径が小さな値であれば、第一の窒化ケイ素粉末として使用できる。
【0075】
(第二の窒化ケイ素粉末)
これに対して、第二の窒化ケイ素粉末は、β分率が60%以上100%以下、酸素含有量が0.55重量%以上2.0重量%以下であり、BET法による比表面積が2.5m2/g以上10.0m2/g以下であって第一の窒化ケイ素粉末の比表面積よりも小さな値であり、レーザー回折散乱法により測定される体積基準の粒度分布における平均粒子径が0.7μm以上2.0μm未満であって第一の窒化ケイ素粉末の平均粒子径よりも大きな値であり、アスペクト比が3以下である。
【0076】
第二の窒化ケイ素粉末は、β分率が60%以上100%以下であるが、β分率の好ましい範囲は80%以上100%以下、さらに好ましい範囲は90%以上100%以下である。
【0077】
β分率が60%以上100%以下の窒化ケイ素粉末は、焼結過程において、前記のアルカリ金属酸化物―希土類金属酸化物系シリケート融液相から柱状のβ型窒化ケイ素粒子が成長する核となるので、α型窒化ケイ素粉末のような急激な相転移と粒成長が抑制され、β型窒化ケイ素より成る焼結体の微細構造の均質化に役立つ。主としてβ粒子より成る窒化ケイ素粉末においても、酸素含有量0.55重量%未満では、十分な量の融液相が生成しないため緻密化が阻害され、開気孔率が増大すると共に最大開口径が大きくなる。酸素含有量が2.0重量%を超えると、融液相の体積が多過ぎ、焼結後に粒界相として残存するため、熱伝導率と機械的強度の両方を低下させる。酸素含有量は0.55重量%以上2.0重量%以下であり、より好ましい範囲は0.9重量%以上1.7重量%以下である。
【0078】
柱状のβ型窒化ケイ素粒子が成長する核としての役割を果たすためには、主としてβ粒子より成る窒化ケイ素粉末は、α型の窒化ケイ素粉末よりも比表面積が小さくて、平均粒子径が大きいことが好ましい。BET法による比表面積が10m2/gを超える場合には、α型の窒化ケイ素粉末と同様にシリケート融液相への溶解が進むので、微細構造制御による組織の均質化の面からは好ましくない。レーザー回折散乱法により測定される体積基準の粒度分布における平均粒子径が0.7μm未満の場合には、塗工用スラリー調製工程で粒子が凝集して、得られる窒化ケイ素質焼結体の微細構造が不均一となり、熱伝導率が低下する傾向にある。一方、BET法による比表面積が2.5m2/g未満の場合には、焼結速度が遅くなって、緻密化しづらくなり、気孔率が上昇する。BET法による比表面積は2.5m2/g以上10.0m2/g以下であり、より好ましい範囲は3.05m2/g以上8.5m2/g以下である。
【0079】
さらにレーザー回折散乱法により測定される体積基準の粒度分布における平均粒子径が2.0μmを超える場合には、焼結速度が遅くなるばかりでなく、焼結工程後にさらに成長した粗大粒子が残存し、得られる窒化ケイ素質焼結体の機械的特性に悪影響を与えるので好ましくない。特に、累積粒度分布曲線における95%径が10.0μmを超える粉末を用いると、異常粒成長した粗大粒子が増大して、機械的特性に悪影響を及ぼす。このため、95%径は10.0μm以下であることが好ましく、8.0μm以下であることがさらに好ましく、6.4μm以下であることが特に好ましい。また、100%径が10.0μm以下であることがさらに好ましい。レーザー回折散乱法により測定される体積基準の粒度分布における平均粒子径は0.7μm以上2.0μm未満であり、より好ましい範囲は0.9μm以上1.5μm未満である。
【0080】
また、アスペクト比が3を超えるとグリーンシートが嵩高くなって、シート嵩密度が低下し、成形が難しくなるばかりでなく、クラック等の欠陥が発生しやすくなるので好ましくない。アスペクト比のより好ましい範囲は2.5未満である。
【0081】
第二の窒化ケイ素粉末はβ分率が60%以上100%以下の窒化ケイ素粒子の塊状物を粉砕することに得られたものである。粉砕工程においては、不可避的に金属不純物が混入する。このため、第二の窒化ケイ素粉末としてはアルミニウム含有量および鉄含有量がそれぞれ100ppm以下であり、クロム含有量、ニッケル含有量、タングステン含有量、銅含有量およびマンガン含有量がそれぞれ30ppm以下である窒化ケイ素粉末を用いることが好ましい。これらの金属不純物は窒化ケイ素質焼結体の粒界相に蓄積され、熱伝導率を低下させる原因になるので、アルミニウム含有量および鉄含有量がそれぞれ100ppmを超えると、熱伝導率が低下する恐れがある。クロム含有量、ニッケル含有量、タングステン含有量、銅含有量およびマンガン含有量についても、それぞれが30ppmを超えると、金属不純物全体として許容できない含有量となるので、熱伝導率が低下する恐れがある。特に、アルミニウムは、焼結後にβ型窒化ケイ素粒子内部に固溶するため、固溶したアルミニウムイオンが熱伝達の主役であるフォノンを散乱させて、著しい熱伝導率低下をもたらすことが知られている。アルミニウム含有量および鉄含有量はそれぞれ60ppm未満、クロム含有量、ニッケル含有量、タングステン含有量、銅含有量およびマンガン含有量はそれぞれ15ppm以下であるものがより好ましい。
【0082】
なお、第二の窒化ケイ素粉末としては、特許文献15に開示された、燃焼反応に伴う自己発熱および伝播現象を利用した燃焼合成法により合成されたβ型窒化ケイ素粉末であって、粉末X線回折パターンよりWilliamson-Hall式を用いて算出される結晶子径DCが120nm以上であり、結晶有効歪が1.5×10-4以下であるβ型窒化ケイ素粉末が好適に使用できる。
【0083】
(配合割合)
第一の窒化ケイ素粉末と第二の窒化ケイ素粉末の配合割合は、第一の窒化ケイ素粉末が40重量部~94重量部、第二の窒化ケイ素粉末が60重量部~6重量部である。第二の窒化ケイ素粉末の配合割合が6重量部未満であると、主としてβ型粒子より成る窒化ケイ素粉末を添加した効果が無く、焼結体の微細構造を均質化するという作用が低下するためか、機械的特性は良好であるものの、熱伝導率が低下するので好ましくない。第二の窒化ケイ素粉末の配合割合が60重量部を超えると、第一の窒化ケイ素粉末と第二の窒化ケイ素粉末とを配合した効果が見られなくなり、焼結速度が低下する。また、高密度な窒化ケイ素質焼結体が得られたとしても、熱伝導率はあまり低下しないものの、曲げ強度と破壊靱性値が低下して、機械的特性が悪化するので好ましくない。したがって、第二の窒化ケイ素粉末の配合割合は60重量部~6重量部であることが好ましく、50重量部~10重量部であることがより好ましく、さらに45重量部~15重量部であることが特に好ましくい。
【0084】
本発明者らは、機械的特性が悪化する原因を色々調べた結果、β分率が60%以上100%以下である第二の窒化ケイ素粉末の配合割合が適正である場合に、窒化ケイ素質焼結体を構成する窒化ケイ素粒子が粗大化すると共に、前記の「c軸配向に係る回折強度比」が小さくなることを見出した。即ち、板状の窒化ケイ素質焼結体の表面に平行な方向(厚さ方向に垂直な方向)に対する柱状粒子の長軸(c軸方向)の傾きが大きな柱状粒子が増加して、表面に垂直な方向に配向してくることによって、曲げ強度が低下し、破壊靱性値も低下することが明らかとなった。アスペクト比の高いβ型窒化ケイ素粒子を添加するという従来技術(特許文献10、12など)からの予想を覆す実験結果を得て、本発明を完成させた。
【0085】
〔板状窒化ケイ素質焼結体製造用の窒化ケイ素粉末配合物〕
本発明は、一つの側面において、第一の窒化ケイ素粉末を40重量部~94重量部、第二の窒化ケイ素粉末を60重量部~6重量部の割合で配合した、第一の窒化ケイ素粉末と第二の窒化ケイ素粉末との配合物であって、β分率が7%以上64%以下、酸素含有量が0.74重量%以上1.95重量%以下、BET法による比表面積が6.3m2/g以上12.8m2/g以下、粒度分布における平均粒子径が0.66μm以上1.5μm以下であり、得られる頻度分布曲線が二つのピークを有し、該ピークのピークトップが0.5~1.2μmの範囲(第一ピーク)と1.1~3.8μmの範囲(第二ピーク)にあって、該第二のピークは該第一のピークよりも0.5~3.0μm大きな値である粉末配合物を提供する。このような特性を有する第一の窒化ケイ素粉末と第二の窒化ケイ素粉末との配合物は板状窒化ケイ素質焼結体製造用の原料粉末として好適に使用される。なお、第二ピーク(粗粒側)のピークトップにおける頻度は、第一ピーク(微粒側)のピークトップにおける頻度よりも低く、平均粒子径は体積基準の粒度分布における平均粒子径である。
【0086】
ただし、第一の窒化ケイ素粉末が40重量部~75重量部、第二の窒化ケイ素粉末が60重量部~25重量部という配合範囲においては、レーザー回折散乱法により測定される体積基準の粒度分布の頻度分布曲線に明瞭な二つのピークが現われ、ピークトップが0.5~1.2μmの範囲の第一ピーク(微粒側)と1.1~3.8μmの範囲の第二ピーク(粗粒側)が認められる。第一の窒化ケイ素粉末が75重量部~90重量部、第二の窒化ケイ素粉末が25重量部~10重量部という配合範囲においても、1.1~3.8μmの範囲の頻度分布曲線が上に凸のカーブとなっており、第二ピーク(粗粒側)を識別できる。しかしながら、第一の窒化ケイ素粉末が90重量部~94重量部、第二の窒化ケイ素粉末が10重量部~6重量部という配合範囲においては、第二の窒化ケイ素粉末の配合割合が少なくて、体積基準の粒度分布の頻度分布曲線では第二ピーク(粗粒側)を識別することは難しい場合がある。そこで、体積基準の粒度分布の頻度分布曲線では第二ピークを識別することは難しい場合における第二ピーク(粗粒側)の識別方法については、実施例の欄の「窒化ケイ素粉末の粒度分布およびピークトップの測定方法」(段落0164)において詳述するが、例えば、ピーク分離法を用いてよい。
【0087】
<β分率>
窒化ケイ素の焼結においては、焼結過程で生成するシリケート系融液相への窒化ケイ素粒子の溶解と析出を通じて、緻密化が進行する。α型の窒化ケイ素粒子は、β型の窒化ケイ素粒子よりもシリケート系融液相への溶解速度が速いため、この窒化ケイ素粉末配合物におけるβ分率は7%以上64%以下であることが望ましい。β分率が7%未満では、焼結体の微細構造(柱状のβ型窒化ケイ素粒子の短軸径、長軸径、アスペクト比などの分布)を制御することが難しくなる。β分率が64%を超えると焼結速度が低下し、高密度な窒化ケイ素質焼結体を得ることが難しくなる。また、気孔率が増加する。
【0088】
<酸素含有量>
前記のシリケート系融液相が生成するためには、窒化ケイ素粉末が含有している酸素の存在が必須であり、窒化ケイ素粉末配合物において、酸素含有量0.74重量%未満では、十分な量の融液相が生成せず、緻密化が阻害され、開気孔率が増大すると共に最大開口径が大きくなる恐れがある。一方、酸素含有量が1.95重量%を超えると、融液相の体積が多過ぎ、焼結後に粒界相として残存するため、熱伝導率と機械的特性(強度、破壊靱性)の両方を低下させる恐れがある。特に熱伝導率の低下が著しい恐れがある。酸素含有量のより好ましい範囲は0.9重量%以上1.8重量%以下である。
【0089】
<BET法比表面積>
窒化ケイ素粉末配合物において、緻密化を支配する重要な粉体特性であるBET法による比表面積は6.3m2/g以上12.8m2/g以下である。BET法による比表面積が6.3m2/g未満の場合には焼結の駆動力が低下するので、焼結助剤の添加量を7.0重量%を超える量にしない限り高密度な窒化ケイ素質焼結体が得られなくなる恐れがある。一方、焼結助剤の添加量が7.0重量%を超えると熱伝導率が低下するので好ましくない。BET法による比表面積が12.8m2/gを超えると、グリーン密度が低下して成形が難しくなるばかりでなく、焼結時に反り、うねり等の変形が大きくなって、寸法精度に悪影響を及ぼすので好ましくない。BET法による比表面積のより好ましい範囲は8.5m2/g以上12.0m2/g以下である。
【0090】
<粒子径;D50,D95>
窒化ケイ素粉末配合物は、レーザー回折散乱法により測定される体積基準の粒度分布における平均粒子径(D50)が0.66μm以上1.5μm以下である。体積基準の粒度分布における平均粒子径が0.66μm未満の場合には、塗工用スラリーの調製工程で粒子が凝集して、同様にグリーンシートの成形が難しくなる他、得られる窒化ケイ素質焼結体の熱伝導率が低下する傾向にある。一方、BET法による比表面積6.3m2/gの窒化ケイ素粉末の球相当径は0.30μmであり、窒化ケイ素粉末配合物のレーザー回折散乱法により測定される体積基準の粒度分布における平均粒子径が1.5μmを超える場合には、凝集指標(平均粒子径と比表面積から算出される球相当径との比率)が5.0以上となり、凝集が強すぎて、得られる窒化ケイ素質焼結体の微細組織が不均一となるので好ましくない。さらに、体積基準の粒度分布における平均粒子径(D50)が1.5μmを超えると、焼結速度が遅くなるばかりでなく、得られる窒化ケイ素質焼結体の機械的特性に悪影響を与えるので好ましくない。体積基準の粒度分布における平均粒子径(D50)のより好ましい範囲は0.7μm以上1.2μm以下である。
【0091】
特に、窒化ケイ素粉末配合物の体積基準の累積粒度分布曲線における95%径(D95)が6.5μmを超える粉末を用いると、異常粒成長した粗大粒子が増大して、機械的特性に悪影響を及ぼす。95%径は6.5μm以下であることが好ましく、5.8μm以下であることがさらに好ましく、5.0μm以下であることが特に好ましい。また、窒化ケイ素粉末配合物の100%径(D100)が7.5μm以下であることがさらに好ましい。
【0092】
<粒度の頻度分布>
窒化ケイ素粉末配合物の粒度分布測定から得られる頻度分布曲線は、第一の窒化ケイ素粉末と第二の窒化ケイ素粉末との配合に起因する二つのピークを有し、該ピークのピークトップが0.5~1.2μmの範囲(第一ピーク)と1.1~3.8μmの範囲(第二ピーク)にあって、該第二ピーク(粗粒側)は該第一ピーク(微粒側)よりも0.5~3.0μm大きな値である。
【0093】
第一ピーク(微粒側)のピークトップが0.5μm未満の場合には、塗工用スラリーの調製工程で粒子が凝集して、グリーンシートの成形が難しくなると共に、得られる窒化ケイ素質焼結体の微細構造が不均一となり、得られる窒化ケイ素質焼結体の熱伝導率が低下する傾向にある。
【0094】
第一ピーク(微粒側)のピークトップが1.2μmを超えた場合には、焼結速度が遅くなり、気孔率および最大開口径が大きくなって、機械的特性が悪化するので好ましくない。
【0095】
第二ピーク(粗粒側)のピークトップが1.1μm未満の場合には、主としてβ型粒子より成る窒化ケイ素粉末を添加した効果が小さく、焼結体の微細構造を均質化するという作用が低下するため、機械的特性は良好であるものの、熱伝導率が低下するので好ましくない。
【0096】
第二ピーク(粗粒側)のピークトップが3.8μmを超えた場合には、焼結速度が遅くなるばかりでなく、焼結工程後にさらに成長した粗大粒子が残存し、得られる窒化ケイ素質焼結体の機械的特性に悪影響を与えるので好ましくない。
【0097】
第一ピーク(微粒側)のピークトップは、0.55~0.98μmの範囲にあることがより好ましい。
【0098】
第二ピーク(粗粒側)のピックトップが1.1~3.8μmの範囲にあって、第一ピーク(微粒側)よりも0.5~3.0μm大きな値である場合には、窒化ケイ素質焼結体を構成する窒化ケイ素粒子が粗大化すると共に、「c軸配向に係る回折強度比」が小さくなるため、高い熱伝導率と優れた機械的特性(強度と破壊靭性)を併せ持つ板状の窒化ケイ素質焼結体が得られる。
【0099】
同様に、第二ピーク(粗粒側)のピークトップが第一ピーク(微粒側)のピークトップから0.49μm以内の値に近接して、第一ピーク(微粒側)の裾野部分に重なってくると、主としてβ型粒子より成る窒化ケイ素粉末を添加した効果が小さく、焼結体の微細構造を均質化するという作用が低下して、機械的特性は良好であるものの、熱伝導率が低下するので好ましくない。
【0100】
第二ピーク(粗粒側)のピークトップが第一ピーク(微粒側)のピークトップよりも3.0μmを超える大きな値になった場合には、焼結速度が遅くなるばかりでなく、焼結工程後にさらに成長した粗大粒子が残存し、得られる窒化ケイ素質焼結体の機械的特性に悪影響を与えるので好ましくない。
【0101】
第二ピーク(粗粒側)のピークトップは、第一ピーク(微粒側)のピークトップよりも0.7~2.8μm大きな値であることがより好ましく、0.9~2.5μm大きな値であることがさらに好ましい。
【0102】
また、第二ピーク(粗粒側)のピークトップにおける頻度は、第一ピーク(微粒側)のピークトップにおける頻度よりも低いことが好ましい。第二ピーク(粗粒側)のピークトップにおける頻度が第一ピーク(微粒側)のピークトップにおける頻度よりも高くなると、焼結速度が低下し、機械的特性が悪化する。
【0103】
〔板状の窒化ケイ素質焼結体の製造〕
(焼結助剤)
本発明の板状の窒化ケイ素質焼結体の製造方法においては、高熱伝導率の窒化ケイ素質焼結体を得るためには、窒化ケイ素粉末に焼結助剤として、アルカリ土類金属酸化物と希土類金属酸化物との重量比が0.40≦アルカリ土類金属酸化物/希土類金属酸化物≦1.4を満足するような配合比で、アルカリ土類金属酸化物および有効イオン半径が87pm以上の希土類金属酸化物を、窒化ケイ素粉末と焼結助剤の合計重量を基準として3.2~7.0重量%添加する。
【0104】
(焼結助剤)
ここで、焼結体としての前記の実測アルカリ土類金属含有量と実測希土類金属含有量との比率を、酸化物基準で焼結体中のアルカリ土類金属酸化物と希土類金属酸化物との重量比に換算すると、アルカリ土類金属がマグネシウム、希土類金属がエルビウムの場合には0.07≦アルカリ土類金属酸化物/希土類金属酸化物≦1.23、アルカリ土類金属がマグネシウム、希土類金属がイットリウムの場合には0.06≦アルカリ土類金属酸化物/希土類金属酸化物≦1.11である。同様に、酸化物基準で焼結体中のアルカリ土類金属酸化物と希土類金属酸化物とのモル比に換算すると、アルカリ土類金属がマグネシウム、希土類金属がエルビウムの場合には0.69≦アルカリ土類金属酸化物/希土類金属酸化物≦11.7、アルカリ土類金属がマグネシウム、希土類金属がイットリウムの場合には0.37≦アルカリ土類金属酸化物/希土類金属酸化物≦6.22である。
【0105】
配合組成におけるアルカリ土類金属酸化物と希土類金属酸化物との重量比(アルカリ土類金属酸化物/希土類金属酸化物)が0.40未満では、希土類金属酸化物の割合が多過ぎるために、焼結過程において粒界相の溶融温度が上昇する。このため、多量のシリカ(SiO2)を添加しない限り、焼結体の相対密度が低下し、緻密な焼結体が得られない。また、アルカリ土類金属酸化物と希土類金属酸化物との重量比を表すアルカリ土類金属酸化物/希土類金属酸化物が0.40未満であっても、1.4を超える値であっても機械的特性(強度および破壊靭性)が低下するので好ましくない。さらに、配合組成におけるアルカリ土類金属酸化物/希土類金属酸化物の重量比は、0.42以上、0.45以上、0.48以上、また1.1以下、0.90以下、0.70以下であってよい。
【0106】
アルカリ土類金属酸化物および希土類金属酸化物の添加量が3.2重量%未満では、焼結過程で生成する液相量が不足して、高密度な焼結体が得られないため、熱伝導率が低下し、機械的特性(強度および破壊靭性)も低下する。アルカリ土類金属酸化物および希土類金属酸化物の添加量が7.0重量%を超えても、機械的特性(強度および破壊靭性)はほとんど低下しないが、熱伝導率が低下するので好ましくない。アルカリ土類金属酸化物および希土類金属酸化物の添加量は4.0重量%以上6.5重量%以下であることがより好ましい。なお、アルカリ土類金属酸化物の添加量は2.5重量%以下であることがより好ましい。
【0107】
出発組成物に使用される第一の窒化ケイ素粉末および第二の窒化ケイ素粉末の酸素含有量が少ない場合には、焼結助剤として、アルカリ土類金属酸化物と希土類金属酸化物に加え、二酸化シリコン粉末を添加することで、緻密化の速度を上げることができる。二酸化シリコンの添加量は窒化ケイ素原料と焼結助剤の合計重量を基準として0.1重量%以上2.5重量%以下である。添加量0.1重量%未満ではその効果が識別できず、2.5重量%を超えると焼結後に粒界相の体積が増加して、熱伝導率が低くなるので、好ましくない。二酸化シリコンの添加量のより好ましい範囲は0.5重量%以上1.8重量%以下である。
【0108】
窒化ケイ素質成形体の焼結は窒素雰囲気中または窒素含有不活性雰囲気中で行われるため、焼結過程においては、焼結助剤として添加したアルカリ土類金属酸化物および希土類金属酸化物の一部が、窒化ケイ素原料中のシリカ成分と共に蒸発により揮散してしまう。このため、窒化ケイ素質焼結体の主として粒界に含まれる焼結助剤の含有量は、出発原料の配合組成と異なってくる。本発明においては、焼結体としての実測アルカリ土類金属含有量と実測希土類金属含有量との比率が0.05≦実測アルカリ土類金属含有量/実測希土類金属含有量≦0.85である。実測アルカリ土類金属/実測希土類金属が0.05未満では、焼結体の相対密度が低下している。また、実測アルカリ土類金属含有量/実測希土類金属含有量が0.05未満であっても、0.85を超える値であっても機械的特性(強度および破壊靭性)が低下していて、好ましくない。さらに、焼結体の実測アルカリ土類金属含有量/実測希土類金属含有量の重量比は、0.07以上、0.09以上、0.10以上、また0.75以下、0.65以下、0.55以下であってもよい。
【0109】
(焼結前後における重量減少率)
このように、焼結助剤成分が揮発して、窒化ケイ素質焼結体の主として粒界に含まれる焼結助剤の含有量が出発原料の配合組成と異なってくるため、本発明においては、窒化ケイ素質焼結体の焼結前後における重量減少率が2.5重量%~8.0重量%となるように、雰囲気ガス圧力、最高保持温度および最高保持温度における保持時間などの焼結条件を設定する。本発明者らは、焼結前後における重量減少率と得られる窒化ケイ素質焼結体の化学組成の関係を詳細に調べた。その結果、焼結助剤成分だけでなく、窒化ケイ素自体も一部揮発しており、焼結前後における重量減少率を前記の範囲内に管理しないと、得られる窒化ケイ素質焼結体の実測アルカリ土類金属含有量、実測希土類金属含有量および両者の比率を制御できないことを見出し、本発明を完成させた。焼結前後における重量減少率のより好ましい範囲は3.5重量%~7.5重量%、さらに好ましい範囲は4.5重量%~7.5重量%である。
【0110】
(焼結体の酸素含有量)
前記のように、窒化ケイ素質焼結体においては、粒界相の熱伝導率が低いため、粒界相量が増えると熱伝導率が低下する。熱伝導率を高めるには、窒化ケイ素質焼結体の酸素含有量を制御することが肝要である。酸素含有量が低いほど熱伝導率は高くなるが、過度に酸素含有量が低いと緻密化が困難となり、気孔が残存して、熱伝導率が著しく低下してしまう。このため、気孔が残存しない範囲内において、焼結体の酸素含有量を低減する必要がある。
【0111】
本発明においては、焼結前後における重量減少率を管理することと併せて、焼結前後における酸素揮発率が23%~50%となるように、セッター内へのグリーンシートの充填量と充填方法、セッターの密閉度、雰囲気ガス圧力、最高保持温度および最高保持温度における保持時間などの焼結条件を設定することにより、所望の実測酸素含有量を有する板状の窒化ケイ素質焼結体を製造する。焼結前後における酸素揮発率を制御するためには、セッター内におけるグリーンシートの充填量を管理することが、特に重要である。
【0112】
本発明における窒化ケイ素質焼結体の実測酸素含有量は1.3重量%以上2.8重量%以下であることが好ましい。より好ましくは1.6重量%以上2.6重量%以下であり、さらに好ましくは1.9重量%以上2.6重量%以下であり、特に好ましくは2.35重量%以上2.55重量%以下である。実測酸素含有量が1.3重量%未満となるような原料配合組成および焼結条件では、焼結体の相対密度が98%未満となってしまう。さらに、板状の窒化ケイ素質焼結体の粒界に結晶相が析出して、色調ムラが発生するので好ましくない。一方、実測酸素含有量が2.8重量%を超える板状の窒化ケイ素質焼結体は熱伝導率が低下しているので好ましくない。さらに、銅、アルミニウムなどの金属板と直接接合した際に、接合界面にボイドが発生して、接合強度が低下するので好ましくない。
【0113】
(焼結助剤の金属酸化物)
アルカリ土類金属酸化物としては酸化マグネシウムが、希土類金属酸化物としては酸化イットリウム、酸化エルビウムおよび酸化イッテルビウムから選ばれる少なくとも一種の酸化物が好適に用いられる。
【0114】
配合組成における酸化マグネシウムと希土類金属酸化物との重量比は0.40≦酸化マグネシウム/希土類金属酸化物≦1.4であるが、0.42≦酸化マグネシウム/希土類金属酸化物≦1.1であることが好ましく、0.45≦酸化マグネシウム/希土類金属酸化物<0.90であることが、より好ましい。さらに0.48≦酸化マグネシウム/希土類金属酸化物≦0.70であることが、特に好ましい。
【0115】
このような酸化マグネシウムと希土類金属酸化物との重量比の設定と、焼結前後における重量減少率の管理および焼結前後における酸素揮発率の管理を可能にする焼結条件の選択との両方の効果により、焼結体としての実測マグネシウム含有量と実測希土類金属含有量の比率が0.07≦実測マグネシウム含有量/実測希土類金属含有量≦0.75とすることが好ましく、さらに0.09≦実測マグネシウム含有量/実測希土類金属含有量≦0.65であることがより好ましい。さらに0.10≦実測マグネシウム含有量/実測希土類金属含有量≦0.55であることが、特に好ましい。
【0116】
(粒界相、二次結晶相)
前記のように窒化ケイ素質成形体の焼結過程においては、焼結助剤として添加した酸化マグネシウムなどのアルカリ土類金属酸化物や希土類金属酸化物の一部が、窒化ケイ素原料中のシリカ成分と共に蒸発により揮散してしまう。さらに、高温において溶融状態にある粒界相に窒素が溶解する。このため、焼結後の降温過程において、Y2Si3O3N4(N-メリライト)、Y10Si7O23N4(H相)、Y4Si2O7N2(J相)、YSiO2N(K相)などの結晶相が析出して、取り出した板状の窒化ケイ素質焼結体に結晶相析出に伴う色調ムラを生じる。前記の析出結晶相は、一般に非晶質相よりも真密度が高いため、収縮により析出結晶相の周辺部にマイクロポアの密集領域を生ずる。マイクロポアの密集領域は繰り返し応力や熱サイクルによる負荷に伴うキ裂成長の起点となり、疲労破壊や熱サイクル破壊の原因となる。また、析出結晶相の成長面の配向とマイクロポア密集領域の存在とが相俟って、焼結体表面に色調ムラを発生させる。本発明の板状の窒化ケイ素質焼結体は、粒界相を構成するJ相(RE4Si2O7N2)のメインピーク((22-1)面)の回折強度とN-メリライト相(RE2Si3O3N4)のメインピーク((211)面)の回折強度の合計が当該窒化ケイ素焼結体中のβ型窒化珪素の(200)面の回折強度に対して0.07未満(ゼロを含む)、さらには0.05以下(ゼロを含む)であるので、色調ムラが抑制されているという特徴がある。色調ムラが抑制されるということは、応力サイクルや熱サイクルの印加による劣化が起こり難く、信頼性の高い材料であることを意味する。
【0117】
さらに、本発明の板状の窒化ケイ素質焼結体の粒界にはMgSiN2等からなるMg化合物の結晶相が、実質的に含まれていない。ここで、MgSiN2からなる結晶相が、実質的に含まれていないとは、前記MgSiN2結晶相の(121)のX線回折ピーク強度が窒化ケイ素質焼結体を構成するβ型窒化ケイ素の結晶粒子の(110)、(200)、(101)、(210)、(201)、(310)、(320)及び(002)面のX線回折ピーク強度の和の0.0005倍未満であることを意味する。
【0118】
本発明においては、窒化ケイ素質焼結体の粒界にMgSiN2等からなるMg化合物の結晶相が生成すると、窒化ケイ素質焼結体の機械的特性(曲げ強度と破壊靭性)が低下する傾向にある。具体的には、本発明における、4点曲げ強度が室温において900MPa以上であり、かつIF法(インデンテーション法)により測定した破壊靭性値KICが8.0MPa√m以上である板状の窒化ケイ素質焼結体が得られ難くなるので、好ましくない。
【0119】
本発明の板状の窒化ケイ素質焼結体の製造においては、好ましくは焼結助剤として酸化マグネシウムおよび酸化イットリウムを添加し、その添加量は4.0重量%以上6.5重量%以下、その重量比が0.42≦酸化マグネシウム/酸化イットリウム≦1.1を満足するように添加することが好ましい。
【0120】
(シート成形法)
本発明の板状の窒化ケイ素質焼結体の製造においては、シート成形プロセスにより板状の成形体(グリーンシート)を作製する。シート成形法はテープ成形法とも呼ばれ、原料粉末100質量部に対して、例えば8質量部以上の有機バインダーまたは樹脂バインダーを含むスラリーを、ドクターブレードやダイコーターなどの装置を用いて、キャリアフィルム上に所定の厚みでキャストしてグリーンシートを作製する。押出し成形法や射出成型法によるグリーンシート作製もシート成形法に含まれるが、本発明においては、CIP成形法や金型プレス成形法はシート成形法には含まれない。特に、有機バインダーや樹脂バインダーを添加せず、厚さ3mm以上のバルクのCIP成形体を焼結した後、得られた窒化ケイ素質焼結体を切削・研磨加工することで得られる試験片の曲げ強度を、本発明の板状の窒化ケイ素質焼結体の曲げ強度と比較することはできない。
【0121】
シート成形法自体は知られており、本発明でも公知のシート成形法を用いてよい。窒化ケイ素粉末と、焼結助剤と、ポリビニルブチラール(PVB)などの有機バインダーと、必要に応じて、アルキルポリアミン系組成物などの分散剤、ジメチルフタレ-トなどの可塑剤、トルエン―イソプロパノール―キシレン混合溶媒などの溶剤とを含むグリーンシート成形用スラリーを調整し、ドクターブレードやダイコーターなどの装置を用いて、キャリアフィルム上に所定の厚みでキャストしてグリーンシートを作製する。シート成形における塗工速度と焼結後のβ型窒化ケイ素粒子の配向との間に相関が認められる。グリーンシートの塗工速度は、スラリー組成やシート厚さなど他の製造条件とも関係するが、一般的には、例えば、0.02~0.5m/分、さらには0.05~0.3m/分、0.1~0.2m/分としてよい。ただし、本発明の板状の窒化ケイ素質焼結体を製造する際のシート成形及び焼結の条件は、β型窒化ケイ素粒子の配向度及び10μm超の柱状のβ型窒化ケイ素粒子の個数が本発明の所定の範囲内になるように選択されるので、それとの関係でグリーンシートの具体的な塗工速度は選択される。グリーンシートは、焼結後の厚さを考慮して、積層グリーンシートとすることができる。シート成形法で作製したグリーンシートあるいは積層グリーンシート(以下、単にグリーンシートという。)は、通常、切断して所定の形状の成形体にされる。
【0122】
(グリーンシートの脱脂、焼結)
本発明の板状の窒化ケイ素質焼結体の製造においては、シート成形プロセスにより作製された板状の成形体(グリーンシート)を雰囲気ガス圧力3MPa以下で焼結して、相対密度が98%以上の焼結体を得ることができる。シート成形プロセスにより作製された板状の成形体(グリーンシート)を雰囲気ガス圧力0.15MPa以上3MPa以下で、最高保持温度1790℃以上1910℃以下の温度範囲に保持して焼結し、焼結体としての実測アルカリ土類金属含有量と実測希土類金属含有量の比率が0.05≦実測アルカリ土類金属含有量/実測希土類金属含有量≦0.85であって、相対密度が98%以上の焼結体とすることができる。
【0123】
なお、最高保持温度は1820℃以上1910℃以下の温度範囲に設定することが好ましい。
【0124】
特に、窒素含有ガス圧力が0.15~0.9MPaの加圧雰囲気下、最高保持温度が1820℃以上1910℃以下の温度範囲で6~20時間保持することによって焼結し、相対密度が98%以上、好ましくは99.0%以上の焼結体を得てよい。焼結時には、1520℃から最高保持温度までの温度範囲を150℃/hr未満の速度で昇温することが、より好ましい。また、1520℃から最高保持温度までの温度範囲において、一定温度に一定時間保持することも、残留気孔を低減する上で効果がある。例えば、1520℃~1670℃の範囲の所定の温度において1~3時間保持する。緻密で残留気孔の少ない板状の窒化ケイ素質焼結体を製造することは、本発明の必須要件の一つである。
【0125】
グリーンシートの成形体を焼結するに当たって、特に1.5mm以下、さらには1.0mm以下の薄い板状の窒化ケイ素質焼結体を製造するときは、従来より、薄板の反り抑制、破損防止、ハンドリング性、生産効率等を考慮して、複数のグリーンシート成形体を、間に分離材(代表的には粒径約4~20μmの窒化ホウ素粉末)を介在させて、重ねた状態で、脱脂及び焼結される。複数のグリーンシート成形体を、重ねて、窒化ホウ素などの容器に入れ、空気中100℃/時程度の昇温速度で400~600℃まで昇温し、同温度で2~5時間加熱することにより、予め添加した有機バインダー成分等を十分に脱脂(除去)することができる。次いで、この脱脂体を後述のように高温熱処理して焼結体を製造する。その後室温まで冷却し、得られる窒化ケイ素質焼結体を分離材層で剥離して、板状の窒化ケイ素質焼結体を得る。得られる板状の窒化ケイ素質焼結体は、通常、ブラスト研磨加工し、所望の表面粗さを有する基板用の窒化ケイ素質焼結体とされる。ブラスト研磨加工による除去厚みは、例えば、平均値で約20μm以下でよい。ブラスト研磨後に、あるいはブラスト研磨なしで、ラップ研磨加工などをしてもよい。
【0126】
なお、分離材としては、粒径約4~20μmの窒化ホウ素粉末と粒径1~5μmの窒化ケイ素粉末との混合粉末を用いることが好ましい。
【0127】
有機バインダーや樹脂バインダーを使用した成形体(グリーンシート)においては、バインダーの凝集により成形体内に粗大な気孔を生成し易いばかりでなく、脱脂後も成形体内に微量の炭素が残存し、残存炭素が焼結過程における粒成長に影響するため、得られる窒化ケイ素質焼結体の機械的特性(曲げ強度と破壊靭性)が悪化してしまう。特に板状の窒化ケイ素質焼結体においてはその影響が顕著である。さらに、窒化ケイ素質焼結体においては、焼結体表面と内部で微細構造(粒子の大きさとアスペクト比、粒界相の組成と結晶相)が異なることが知られている。このため、気孔、キ裂などの欠陥が生成し易い表層部を0.2mm以上研削除去した試験片の曲げ強度は表層部を残した試験片の曲げ強度よりも高くなる。このように、窒化ケイ素質焼結体の曲げ強度は、有機バインダーまたは樹脂バインダーの使用量や試験片作製時の切削・研磨加工によって変化することが知られており、切削・研磨加工することに得られた試験片の曲げ強度が既に開示されていたとしても、本発明における板状の窒化ケイ素質焼結体の曲げ強度と同等ということは言えず、また、同等の曲げ強度の値が既に開示されていたということにはならない。
【0128】
(雰囲気ガス圧力)
焼結過程において、成形体(グリーンシート)が収縮して緻密化してゆくと、成形体(グリーンシート)内の開気孔が徐々に減少し、数%の閉気孔のみが残存した状態となる。さらに緻密化が進むと、この閉気孔も消滅してゆくが、雰囲気ガス圧力が3MPaより高いと、前記の閉気孔内に高圧の窒素ガスが取り込まれてしまう。いったん取り込まれた高圧の窒素ガスは焼結体の外に出ることが出来ないため、焼結後に残存する気孔周辺に残留応力を生じ、窒化ケイ素質焼結体の高温での機械的特性や熱サイクル特性に悪影響を与える。また、雰囲気ガス圧力は等方的に作用するため、本発明のような柱状のβ型窒化ケイ素粒子が配向した焼結体は得られない。具体的には、「c軸配向に係る回折強度比」が1.0近傍または1.0よりも小さな値となるので、熱伝導率と機械的特性のバランス上、好ましくない。さらに、雰囲気ガス圧力を3MPaよりも高めるには、高圧下で使用できる特殊な焼結炉が必要となり、設備費が著しく高くなるので好ましくない。
【0129】
特許文献3では、雰囲気ガス圧力40、60、100および2000気圧で、高い熱伝導率と高い曲げ強度を実現しているが、表1に掲載されたデータは、厚さ3mm以上のバルクのCIP成形体を焼結した後、得られた窒化ケイ素質焼結体を切削・研磨加工して得られた試験片の特性を測定したものであって、有機バインダーを多量に添加するシート成形プロセスで得られた板状の窒化ケイ素質焼結体の特性値ではない。さらに、MgO添加量が0.9~1.0重量%、Y2O3添加量が3.1~3.0重量%(MgO/Y2O3重量比が0.29~0.33)という緻密化にとって厳しい焼結条件であるため、緻密化の進行する温度が高くなり、実際に明細書の表2に記載された焼結温度も高いので、長軸の長さが10μmを超える柱状β型窒化ケイ素粒子の個数が、切断面1mm2当たりに15223~19022個という大きな値となっている。このように柱状β型窒化ケイ素粒子の個数が多くなると、この粗大粒子が破壊の起点として作用するために破壊靭性が低下するばかりでなく、板状の窒化ケイ素質焼結体の表面が荒れ、通常のブラスト研磨加工では算術平均粗さRaが0.06μm以上0.4μm以下という表面状態を実現し難い。算術平均粗さRaが0.4μmを超えると、活性金属ロウ材を用いない直接接合法(DBC法)による銅板やアルミニウム板との接合が困難となる。また、接合できたとしても、耐熱サイクル試験における繰り返し熱サイクルで剥離や基板割れが起こってしまうので、好ましくない。前記の金属との接合体は、-40℃から180℃までの昇温・降温サイクルを繰り返した場合に、2000サイクル以上の耐久性を有することが好ましい。また、コストアップとなるラップ研磨等により所望の表面粗さを実現出来たとしても、研磨された表面における開気孔率が大きくて、開気孔の最大開口径が1.0μmを超える値となるので、好ましくない。
【0130】
一方、窒素含有ガス圧力が0.15MPa未満では、焼結時の最高保持温度を1790℃以上に上げることが出来ない。最高保持温度が1790℃未満では、焼結の進行速度が遅く、相対密度が98%以上となる緻密な板状の窒化ケイ素質焼結体を得ることが難しい。あるいは、最高保持温度1790℃未満で、緻密な窒化ケイ素質焼結体が得られたとしても、柱状のβ型窒化ケイ素粒子の成長が不十分であり、低い熱伝導率の窒化ケイ素質焼結体しか得られないので、板状の窒化ケイ素質焼結体の熱伝導率を90W/(m・K)以上に上げることは困難である。最高保持温度が1910℃を超えると、柱状のβ型窒化ケイ素粒子の成長が著しく速くなり、長軸径が10μmを超えるものの面積分率が39面積%を超えてしまうので好ましくない。さらに、最高保持温度は、1820℃以上、あるいは1880℃以下であってよい。
【0131】
(焼結温度と時間)
1790℃以上1910℃以下の温度範囲における保持時間が6時間未満であると、所望の相対密度、所望の柱状β型窒化ケイ素粒子を有する板状の窒化ケイ素質焼結体を得ることが難しくなる恐れがある。1790℃以上1910℃以下の温度範囲における保持時間が20時間を超えると、柱状のβ型窒化ケイ素粒子の成長が進み過ぎるばかりでなく、板状の窒化ケイ素質焼結体製造に長時間を要し、コストアップに繋がるので好ましくない。特に、1910℃を超える最高保持温度、20時間を超える保持時間という、柱状のβ型窒化ケイ素粒子の成長が著しく速い焼結条件で得られる板状の窒化ケイ素質焼結体は、長軸径の累積粒度分布曲線における50%径D50や80%径D80が過度に大きくなるため、熱伝導率は高いものの機械的特性が著しく劣る恐れがある。例えば、曲げ強度が700MPa未満に低下する。さらには、上記温度範囲における保持時間は、8時間以上や、14時間以下であってよい。
【0132】
(冷却過程)
上記の焼結を行った後の冷却過程においては、1500℃までを350℃/hr以上の速度で降温することが好適である。逆に、粒界での前記のMgSiN2結晶相の生成を抑制できる範囲内において、1000℃までを200℃/hr以下の降温速度で徐冷するか、または、1450℃~1650℃の範囲の温度で一定時間保持することによって熱伝導率および機械的特性の更なる改善を行うことも可能である。
【0133】
〔板状の窒化ケイ素質焼結体〕
本発明は、一つの側面において、板状の窒化ケイ素質焼結体であって、
焼結体としての実測アルカリ土類金属含有量と実測希土類金属含有量(希土類金属の有効イオン半径は87pm以上のもの)との比率が0.05≦実測アルカリ土類金属含有量/実測希土類金属含有量≦0.85であり、
実測アルカリ土類金属含有量と実測希土類金属含有量とを合計した、ケイ素を除く焼結助剤由来の金属元素含有量が1.5重量%以上4.5重量%以下であり、
相対密度が98%以上であり、
算術平均粗さRaが0.05μm以上0.5μm以下に研磨された表面から0.08mm以上内側まで研削して得られた平面にX線を照射した際に得られるβ型窒化ケイ素の(200)面の回折強度I(200)および(210)面の回折強度I(210)の平均値{I(200)+I(210)}/2と(101)面の回折強度I(101)との比{I(200)+I(210)}/{2×I(101)}が1.10以上1.40以下であることを特徴とする板状の窒化ケイ素質焼結体を提供する。
【0134】
(厚さ、厚さ/面積比)
本発明における板状の窒化ケイ素質焼結体は、シート成形プロセスにより作製できるものであるが、厚さが1.5mm以下、好ましくは1.0mm以下であり、厚さ/面積比が0.015(1/mm)以下であるものを言う。研削または研磨加工による厚み方向に垂直な板面表層部の除去量は、好ましくは片面当たり0.02mm以下であり、さらに好ましくは片面当たり0.01mm以下である。シート成形プロセスにより作製された板状の成形体を、分離材層を介して重ねて焼結した場合には、この分離材層で剥離して得られる、厚さが1.5mm以下、好ましくは1.0mm以下さらに好ましくは0.4mm以下の板状の窒化ケイ素質焼結体のことであり、厚さ/面積比が0.015(1/mm)以下であり、研削または研磨加工による厚み方向に垂直な板面表層部の除去量が片面当たり0.02mm以下のものであってよい。例えば、パワーモジュール用高熱伝導窒化ケイ素基板としては、厚み0.32±0.05mmのものが求められている。
【0135】
(金属不純物含有量)
本発明の板状の窒化ケイ素質焼結体の金属不純物含有量は第二の窒化ケイ素粉末中に含まれる金属不純物含有量に依存しているが、実測アルミニウム含有量および実測鉄含有量がそれぞれ60ppm以下であり、実測クロム含有量、実測ニッケル含有量、実測タングステン含有量、実測銅含有量および実測マンガン含有量がそれぞれ18ppm以下であることができる。より好ましくは、実測アルミニウム含有量および実測鉄含有量はそれぞれ40ppm未満、実測クロム含有量、実測ニッケル含有量、実測タングステン含有量、実測銅含有量および実測マンガン含有量はそれぞれ10ppm以下である。金属不純物は窒化ケイ素質焼結体の粒界に蓄積されるため、実測アルミニウム含有量または実測鉄含有量が100ppmを超えると、熱伝導率が低下する恐れがある。また、実測クロム含有量、実測ニッケル含有量、実測タングステン含有量、実測銅含有量および実測マンガン含有量の合計量が100ppmを超えても、熱伝導率が低下する恐れがある。
【0136】
(「c軸配向に係る回折強度比」)
窒化ケイ素質焼結体中のβ型窒化ケイ素粒子の性状を最適化することにより、熱伝導率および曲げ強度を高めることができる。本発明の板状の窒化ケイ素質焼結体の製造においては、原料として使用するα型の第一の窒化ケイ素粉末とβ型窒化ケイ素を含む第二窒化ケイ素粒子の性状と、これらの配合割合によって、焼結体を構成する窒化ケイ素粒子の配向が変化することが認められた。本発明は、α型の第一の窒化ケイ素粉末とβ型窒化ケイ素を含む第二窒化ケイ素粒子の性状と配合割合、ならびに焼結条件を高度に制御することにより焼結後のβ型窒化ケイ素粒子の配向を制御したものである。具体的には、得られる窒化ケイ素質焼結体のX線回折パターンから算出される「c軸配向に係る回折強度比」が制御されている。課題を解決する手段の欄(段落0044)に記載したように、「c軸配向に係る回折強度比」とは、β型窒化ケイ素の(200)面の回折強度I(200)および(210)面の回折強度I(210)の平均値{I(200)+I(210)}/2と(101)面の回折強度I(101)との比{I(200)+I(210)}/{2×I(101)}のことである。
【0137】
本発明の板状の窒化ケイ素質焼結体は、算術平均粗さRaが0.05μm以上0.5μm以下、さらには0.40μm以下、さらには0.30μm以下に研磨された表面にX線を照射した際に得られる前記の「c軸配向に係る回折強度比が1.10以上1.50以下であり、好ましくは1.15以上1.50以下、より好ましくは1.20以上1.50以下である。1.48以下であってもよい。
【0138】
さらに、前記の算術平均粗さRaに研磨された表面から0.08mm以上内側まで研削して得られた同様の算術平均粗さRaを有する平面にX線を照射した際に得られる前記の「c軸配向に係る回折強度比」は1.10以上1.40以下であり、好ましくは1.15以上1.40以下、より好ましくは1.20以上1.40以下である。1.38以下であってもよい。
【0139】
板状の窒化ケイ素質焼結体の「c軸配向に係る回折強度比」の測定は、算術平均粗さRaが0.05μm以上0.5μm以下に研磨された表面のX線回折測定を行って求める。表面の算術平均粗さRaがこの範囲内にないと、「c軸配向に係る回折強度比」の正確な測定ができない。窒化ケイ素質焼結体の表面の算術平均粗さRaが0.05μm以上0.5μm以下であるときは、焼結体のその表面でX線回折測定を行ってよい。窒化ケイ素質焼結体の表面の算術平均粗さRaがこの範囲内にないときは、焼結体の表面を算術平均粗さRaが0.05μm以上0.5μm以下になるように研磨して、その研磨した表面でX線回折測定を行う。表面の算術平均粗さRaを0.05μm以上0.5μm以下にするための研磨方法は特に限定されず、研磨量は上記の算術平均粗さRaを実現するために必要な最低限でよく、一般的に、深さ方向に例えば約10μm前後で十分である。X線回折測定においては、(200)面、(210)面および(101)面のX線回折パターン強度を測定する。
【0140】
一般に、板状の窒化ケイ素質焼結体は粗大なβ型柱状粒子と微細なβ型柱状粒子および粒界相を主たる成分として構成されており、柱状粒子の配向度は粗大な柱状粒子の影響を大きく受ける。前記の「c軸配向に係る回折強度比」が大きくなるほど、板状の窒化ケイ素質焼結体の表面に平行な方向(厚さ方向に垂直な方向)に対する柱状粒子の長軸の傾きが45度以内である柱状粒子をより多く含んでいる。さらに、前記の「c軸配向に係る回折強度比」の値が無限大に近付くことは、表面に平行な方向に対する柱状粒子の長軸の傾きが0度に近くなっていることを示している。表面に平行な方向に対する柱状粒子の長軸の傾きを小さくすることは高強度の実現に有利である。
【0141】
本発明の板状の窒化ケイ素質焼結体は、特にその内部において、前記の「c軸配向に係る回折強度比」の値が1.10以上1.40以下に制御されていることによって、焼結体の表面に平行な方向(厚さ方向に垂直な方向)に対する柱状粒子の長軸の傾きが、優れた機械的特性(高い強度と高い破壊靭性)と高い熱伝導率の両方に適した値となっていることから、絶縁基板用途に適している。
【0142】
特許文献8には、柱状のβ窒化ケイ素粒子のc軸が基板の厚み方向に配向していることを特徴とする窒化ケイ素セラミックスが開示されている。同公報には、前記β窒化ケイ素粒子のうち90%以上の粒子が基板の厚み方向に対するc軸の傾きが±20度以内であり、前記β窒化ケイ素粒子のうち50%以上の粒子が基板の厚み方向に対するc軸の傾きが±5度以内である窒化ケイ素セラミックスの熱伝導率が高いことが記載されている。しかしながら、同公報の
図4、6および8に掲載された、実施例の窒化ケイ素セラミックスの厚み方向と平行な断面の走査型電子顕微鏡像から明らかなように、β窒化ケイ素粒子のc軸が基板の厚み方向に配向しているため、焼結基板の曲げ強度が著しく低下してしまい、強度特性面で問題を生ずる。
【0143】
一方、本発明においては、同公報の開示内容に反して、必ずしもβ型窒化ケイ素粒子が厚み方向と平行に整列・配向しておらず、前記の「c軸配向に係る回折強度比」が1.10より大きくても、高い熱伝導率を実現できるばかりでなく、「c軸配向に係る回折強度比」を1.10よりも大きくすることで、機械的特性(曲げ強度と破壊靭性値)を高めることができることを知得した。
【0144】
これに対して、前記の「c軸配向に係る回折強度比」が1.10未満になると、機械的特性(曲げ強度と破壊靭性値)が低下するので好ましくない。逆に、「c軸配向に係る回折強度比」が1.40を超えると熱伝導率が低下するので好ましくない。「c軸配向に係る回折強度比」のより好ましい範囲は1.20~1.40である。
【0145】
ここで、研磨された表面とは、例えばバレル研磨、ホーニング加工、ラップ研磨、ポリッシング研磨およびバフ研磨によって得られる面である。
【0146】
(柱状のβ型窒化ケイ素粒子)
さらに、本発明の板状の窒化ケイ素質焼結体のミクロ組織は、マトリックスに良熱伝導体である長軸径が3μm以上である柱状のβ型窒化ケイ素粒子を含んでいる。この柱状のβ型窒化ケイ素粒子の短軸径および長軸径は、原料として使用する2種類のSi3N4粉末の性状と配合割合および焼結条件(昇温速度、最高保持温度および最高保持温度での保持時間)を調整することによって制御することができる。
【0147】
本発明の板状の窒化ケイ素質焼結体の微細組織は、長軸径3.0μm以上のβ型窒化ケイ素粒子と、長軸径3μm未満の微細な粒子ならびに粒界相に分類することができる。窒化ケイ素焼結体の中では、微細粒子は粒界相に埋もれているため、窒化ケイ素原料粉末中の金属不純物や酸素が多く含有する粒界相とともにフォノンを散乱し、熱伝導率を低下させる部分と考えられる。
【0148】
本発明の好ましい板状の窒化ケイ素質焼結体においては、走査型電子顕微鏡等で窒化ケイ素質焼結体の板面に垂直な切断面を観察したとき、柱状のβ型窒化ケイ素粒子の内、長軸径が10μmを超える柱状β型窒化ケイ素粒子(粗大β粒子)の個数が、切断面1mm2当たりに1200~10000個という小さな値となっている。より好ましくは9000個以下であってよく、また1000個以下の値も得られている。このように長軸径が10μmを超える柱状β型窒化ケイ素粒子の個数が少ないので、機械的特性(強度と破壊靭性値)が向上する。
【0149】
本発明の板状の窒化ケイ素質焼結体においては、窒化ケイ素質焼結体の板面に垂直な切断面を観察したとき、全窒化ケイ素粒子の合計面積(観察される切断面から粒界相の面積を差し引いた面積)を基準として、柱状のβ型窒化ケイ素粒子の内、長軸径が3μm以上の粒子の面積分率が45面積%以上87面積%以下であり、長軸径が10μmを超える粒子の面積分率が6.5面積%以上39面積%以下であることが好ましい。
【0150】
長軸径が3μm以上の粒子の面積分率が全窒化ケイ素粒子の45面積%以上87面積%以下であり、長軸径が10μmを超える粒子の面積分率が6.5面積%以上39面積%以下である場合に、熱伝導率が高くなると共に、曲げ強度および破壊靭性値が著しく高くなる。柱状のβ型窒化ケイ素粒子の内、長軸径が3μm以上の粒子の面積分率が、全窒化ケイ素粒子の49面積%以上87面積%以下であることがより好ましく、さらに55面積%以上86面積%以下であることが特に好ましい。これに対して、焼結時の最高保持温度が高過ぎて、長軸径が10μmを超える粒子の面積分率が全窒化ケイ素粒子の39面積%を超えた場合には、さらに粗大な粒子が成長しており、組織中に導入されたこの粗大粒子が破壊の起点として作用するために破壊靭性が大きく低下し、室温における4点曲げ強度が850MPa未満となるので、窒化ケイ素質焼結体を基板用途等に適用するには不十分な特性となる恐れがある。一方、焼結時の最高保持温度が低過ぎて、長軸径が3μm以上の柱状β型窒化ケイ素粒子面積分率が45面積%未満となると、熱伝導率が低下するばかりでなく、破壊靭性値が低下するので好ましくない。
なお、粒界相の面積分率は、全窒化ケイ素粒子と粒界相との合計面積を基準として、15面積%以下であることがより好ましく、13面積%以下であることがさらに好ましい。
【0151】
本発明の板状の窒化ケイ素質焼結体においては、窒化ケイ素質焼結体の板面に垂直な切断面を観察したとき、柱状のβ型窒化ケイ素粒子の内、面積%基準で表した長軸径の累積粒度分布曲線における50%径D50が2.8μm以上6.8μm以下であり、80%径D80が8.1μm以上12.5μm以下である。50%径D50は5.5μm以上6.8μm以下であり、80%径D80は9.5μm以上12μm以下であることがより好ましい。
【0152】
特許文献3に開示されているように、従来、長軸の長さが10μmを超えるものの個数が切断面1mm2当たりに10000個を超える値とすることで高熱伝導性が実現されてきたが、粗大な柱状粒子の存在は機械的特性(強度と破壊靱性)に悪影響を及ぼす。本発明においては、過度な粒成長を起こさせず、長軸の長さが10μmを超えるものの個数が著しく少なくても、上記のように,窒化ケイ素質焼結体の板面に垂直な切断面を観察したとき、全窒化ケイ素粒子の面積を基準として、柱状のβ型窒化ケイ素粒子の内、長軸径が3μm以上の粒子の面積分率が全窒化ケイ素粒子の45面積%以上87面積%以下であり、長軸径が10μmを超える粒子の面積分率が6.5面積%以上39面積%以下であるので、前記の表面から0.08mm以上内側まで研削して得られた平面にX線を照射した際に得られる「c軸配向に係る回折強度比」を1.10以上1.40以下に制御することによって、高い熱伝導率を維持したまま、優れた機械的特性(曲げ強度と破壊靱性値)を実現できた。
【0153】
(表面の算術平均粗さRa)
本発明の板状の窒化ケイ素質焼結体においては、表面が研磨されていなくてもよいが、研磨されていること、表面の算術平均粗さRaを0.05μm以上0.5μm以下、さらには0.40μm以下、0.30μm以下とすることが好ましい。算術平均粗さRaが0.05μm未満では、加工時の残留応力等により板状の窒化ケイ素質焼結体の曲げ強度が低下する。逆に、算術平均粗さRaが0.5μmを超えると、回路形成用の金属板との接合が困難となるので好ましくない。特に、活性金属ロウ材を用いない直接接合法(DBC法)による銅板やアルミニウム板との接合が困難となる。
【0154】
前記算術平均粗さRaが0.05μm以上0.5μm以下に研磨された表面における開気孔率は1.0%以下であり、開気孔の最大開口径が1.0μm以下であることが好ましい。表面における開気孔の最大開口径が1.0μm以下であると優れた電気特性を期待できる。特に、表面における開気孔の最大開口径が0.5μm以下であることがより好適である。このような緻密で残留気孔の少ない板状の窒化ケイ素質焼結体は、絶縁抵抗や絶縁耐圧が優れているので、絶縁基板、回路基板などの電子基板用途に適している。
一方、最大開口径が1.0μmを超える大きな値になると、絶縁抵抗や絶縁耐圧が悪化し、絶縁基板や回路基板などの電気絶縁材料用途への適用が難しくなる。
【0155】
(本発明の板状の窒化ケイ素質焼結体の特性、用途等)
本発明によれば、従来は熱伝導性と機械的特性の両面で性能不足であったシート成形プロセスによって、高熱伝導性と優れた機械的特性とを兼ね備えた板状の窒化ケイ素質焼結体を製造することが出来るので、製造コスト面で有利である。即ち、本発明によれば、熱伝導率が室温において110W/(m・K)以上であり、4点曲げ強度が室温において900MPa以上であり、IF法(インデンテーション法)により測定した破壊靭性値KI
Cが8.0MPa√m以上である、高熱伝導性と優れた機械的特性とを兼ね備えた板状の窒化ケイ素質焼結体を製造することができ、熱伝導性と機械的特性とのバランスの取れた板状の窒化ケイ素質焼結体として、基板用途に供することができる。基板とは絶縁基板、回路基板などの電子基板があげられる。
【実施例】
【0156】
以下に具体例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、それらの実施例により限定されるものではない。
【0157】
窒化ケイ素原料としては、表1に示した14種類の窒化ケイ素粉末を用いた。これらの原料粉末のβ分率、組成、性状および金属不純物量を表1に示す。これらの窒化ケイ素粉末のうち、第一の窒化ケイ素粉末(A-1からA-5)はイミド分解法により製造された窒化ケイ素粉末である。第二の窒化ケイ素粉末の内、B-1からB-7は、特許文献15に開示された燃焼反応に伴う自己発熱および伝播現象を利用した燃焼合成法により合成されたβ型窒化ケイ素粉末であって、粉末X線回折パターンよりWilliamson-Hall式を用いて算出される結晶子径DCが120nm以上であり、結晶有効歪が1.5×10-4以下である窒化ケイ素粉末、または必要に応じて同β型窒化ケイ素粉末を振動ミルにて、追加粉砕処理したものである。B-8とB-9は直接窒化法により合成された窒化ケイ素粉末を粉砕処理したものである。
【0158】
焼結助剤として酸化マグネシウム(MgO)粉末(比表面積3m2/g、高純度化学研究所製)、酸化イットリウム(Y2O3)粉末(比表面積3m2/g、信越化学工業製)および二酸化ケイ素(SiO2)粉末(比表面積11.5m2/g、高純度化学研究所製)を用意した。
【0159】
粉砕媒体である窒化ケイ素製ボールは通常、数%のAl2O3を含有しており、ボールミル処理時の摩耗量も多いため、原料調整後の配合粉には20ppm前後のAl2O3が混入している。このため、本実施例においては、Al2O3含有量が1.9重量%前後であり、特に耐摩耗性に優れた窒化ケイ素製ボールを使用して、原料調製時のAl2O3混入量を最小限に抑えた。
【0160】
窒化ケイ素粉末のアルミニウム含有量を60ppm未満に低減することは、窒化ケイ素粉末の製造原料におけるアルミニウム含有量を低減するとともに、窒化ケイ素粉末の製造過程における酸化アルミニウムの混入(例えば、粉砕媒体からの混入)を制限することで可能である。
【0161】
(窒化ケイ素粉末のα相、β相、β分率の測定方法)
窒化ケイ素粉末のX線回折パターン測定には、(株)リガク製RINT-TTRIII型広角X線回折装置を使用した。CuKα線を用いた粉末X線回折測定を行い、非特許文献3に記載されたGazzara& Messierの方法により、生成窒化ケイ素粉末の結晶相(α相およびβ相)を同定し、β分率を算出した。
【0162】
(窒化ケイ素粉末の比表面積の測定方法)
本発明の窒化ケイ素粉末の比表面積は、Mountech社製Macsorbを用いて、窒素ガス吸着によるBET1点法にて測定して求めた。
【0163】
(窒化ケイ素粉末の粒度分布とメジアン径、80%径および95%径の測定方法)
本発明の窒化ケイ素粉末の粒度分布は、以下のようにして測定した。前記粉末を、ヘキサメタリン酸ソーダ0.2質量%水溶液中に投入して、直径26mmのステンレス製センターコーンを取り付けた超音波ホモジナイザーを用いて300Wの出力で6分間分散処理して希薄溶液を調製し、測定試料とした。レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製マイクロトラックMT3000)を用いて測定試料の粒度分布を測定した。得られた本発明の窒化ケイ素粉末の体積基準の粒度分布データより、積算ふるい下分布に基づく頻度(体積%)を求め、累積粒度分布曲線を得た。累積粒度分布曲線におけるメジアン径(50%径)を平均粒子径(D50、d50)とし、積算ふるい下分布80%に相当する粒子径を80%径(D80、d80)とし、積算ふるい下分布95%に相当する粒子径を95%径(D95、d95)とした。
【0164】
(窒化ケイ素粉末の粒度分布およびピークトップの測定方法)
第一の窒化ケイ素粉末が40重量部~75重量部、第二の窒化ケイ素粉末が60重量部~25重量部という配合範囲においては、レーザー回折散乱法により測定される体積基準の粒度分布の頻度分布曲線に明瞭な二つのピークが現われ、第一ピーク(微粒側)のピークトップと第二ピーク(粗粒側)のピークトップとを容易に識別できる。あるいは、第一ピーク(微粒側)の裾野に、第一の窒化ケイ素粉末の粒度分布と比べて頻度分布曲線が上に凸のカーブとなっている部分が存在することで、凸カーブの変曲点として第二ピーク(粗粒側)を識別できる。第一の窒化ケイ素粉末が75重量部~94重量部、第二の窒化ケイ素粉末が25重量部~4重量部という配合範囲においても、第一ピーク(微粒側)と第二ピーク(粗粒側)が十分に離れている場合には、それぞれのピークトップを容易に識別できる。しかしながら、第一ピーク(微粒側)と第二ピーク(粗粒側)が近づいて、例えば4μm以内の範囲に入ってくると、第二の窒化ケイ素粉末の粒度分布との兼ね合いで、体積基準の粒度分布の頻度分布曲線では第二ピークを識別することは難しい場合が生じる。その場合には、ガウス関数とローレンツ関数とを組合せたフォークト(Voigt)分布型曲線を仮定し、ピーク分離により第二ピーク(粗粒側)を識別できる。本発明においては、第二ピーク(粗粒側)を識別することは難しい場合(第一の窒化ケイ素粉末が90重量部~95重量部、第二の窒化ケイ素粉末が10重量部~5重量部である実施例および比較例)には、ピーク分離法により第二ピーク(粗粒側)のピークトップを確認した。さらに、下記の「窒化ケイ素粉末のアスペクト比の測定方法」(段落0166)に記載の走査型電子顕微鏡(SEM)観察法により、面積基準の粒度の頻度分布データを測定することによって、第二ピーク(粗粒側)のピークトップの粒子径を求めることも可能である。
【0165】
粒度分布には、個数基準(粒径の一乗)、面積基準(粒径の二乗)、体積基準(粒径の三乗)など、基準の異なる差分%に基づく、いくつかの頻度分布が定義されている。当業者においては、着目する粒度範囲(微粒に注目するのか、粗粒に注目するのか)に応じて、適宜、粒度分布表示の基準を使い分けており、面積基準の粒度分布の頻度分布データを、計算により体積基準の粒度分布の頻度分布曲線に変換することは容易である。逆に、体積基準の頻度分布(差分%)を面積基準の粒度分布の頻度分布に変換することも容易である。
【0166】
(窒化ケイ素粉末のアスペクト比の測定方法)
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、観察倍率2000倍にて、窒化ケイ素粉末の粒子形状を観察した。200μm×500μm視野面積内にある計500個の窒化ケイ素粒子を無作為に選定して画像を取り込み、画像解析装置(三谷商事(株)製WinROOF
Ver5.6.2)により個々の窒化ケイ素粒子の長辺の長さと短辺の長さを求めた。長辺の長さと短辺の長さとの比率:長辺の長さ/短辺の長さがアスペクト比であり、500個の窒化ケイ素粒子の平均値を求めて、窒化ケイ素粉末のアスペクト比とした。
【0167】
(実施例1)
比表面積11.2m2/g、酸素含有量1.6重量%、β型窒化ケイ素含有割合1.8%の窒化ケイ素(Si3N4)粉末(表1に記載されたA-1)90重量部に燃焼合成法により作製されたβ型窒化ケイ素粉末10重量部を配合した。この配合物94.8重量部に、焼結助剤として前記の酸化イットリウム3.3重量部および前記の酸化マグネシウム1.9質量部を添加し、ソルビタンエステル系の分散剤を粉末に対して2重量部溶解したトルエン-イソプロパノール-キシレン溶媒および粉砕媒体である窒化ケイ素製ボールと共にボールミル用樹脂製ポットに投入して、24時間湿式混合した。得られたスラリーを目開き44μmの篩に通した後、前記樹脂製ポット中の混合粉末100重量部に対しPVB系樹脂バインダー16重量部および可塑剤(ジメチルフタレ-ト)4重量部を溶解したトルエン-イソプロパノール-キシレン溶媒を添加し、さらに24時間湿式混合して、シート成形用スラリーを得た。この成形用スラリーの粘度が50ポイズ程度となるよう真空脱泡して溶媒量を調整後、ドクターブレード装置を使用して、得られた混合粉末スラリーをキャリアフィルム上に所定の厚みでキャストして、シート成形されたグリーンシートを得た。さらに、得られたグリーンシートを温度120℃、所定の圧力で3枚積層圧着処理して、焼き上がり寸法が0.35mm程度の厚みとなる積層成形体シートを作製した。作製した積層成形体シートに対して、外観検査を行い、クラックの有無を確認した。そして、この積層成形体シートを60mm×70mmに切断し、寸法、平均厚さならびに重量を測定して成形体密度を算出した。本実施例における積層成形体シート密度は2.0g/cm3であった。また、焼結体の嵩密度測定および熱伝導率測定のために、前記のグリーンシートの積層枚数を増やし、焼き上がり寸法が直径10mm、厚さ1.0mmとなるように円盤状試験片用の成形体シートを切り出した。
【0168】
次いで、この積層成形体シートを、分離材を介して、重ねて窒化ホウ素製容器に入れ、空気中400~600℃で2~5時間加熱することにより、予め添加した有機バインダー成分等を十分に脱脂(除去)した。脱脂後の重量を測定し、分離材の重量変化は無いとして、グリーンシート脱脂体の重量および嵩密度を求めた。次いで、この脱脂体を、0.8MPaの窒素雰囲気下で、1520℃まで加熱し、1520℃から1800℃までの昇温速度を120℃/hrとして、1850℃まで加熱し、さらに1850℃で10時間保持して焼結した。その後、1500℃までの冷却速度を350℃/hrとして、室温まで冷却し、得られた窒化ケイ素質焼結体を分離材層で剥離して、板状の窒化ケイ素質焼結体を得た。得られた板状の窒化ケイ素質焼結体を重量測定して、重量減少率を記録した後、ブラスト研磨加工し、所望の表面粗さを有する基板用の窒化ケイ素質焼結体とした。ブラスト研磨加工による除去厚みは、平均値で10μm以下であった。
【0169】
本発明においては、積層成形体シートを、分離材を介して、5~10枚重ねて窒化ホウ素製容器に入れ、脱脂後、焼結する。このため、寸法の同じ積層成形体シートを用意し、その重量を測定した後、分離材を塗布、乾燥して、再度、個々の積層成形体シートの重量を測定する。次に、分離材を介して積層成形体シートを重ね、脱脂前後の重量を測定する。個々の積層成形体シートの脱脂率は同じなので、重ねた積層成形体シートの脱脂後重量から、個々の積層成形体シートの脱脂後重量を計算することができる。さらに、焼結後に、重ねた積層成形体シートが焼結されたものの重量を測定して、全体としての、焼結前後の重量変化を知ることができる(分離材の重量変化は無視できる量であることを確認している)。最後に、分離材を注意深く剥離して、得られた焼結体の乾燥重量を測定する。このような各工程における重量を精密に測定することにより、個々の焼結体シートの焼結前後における重量変化を知ることができる。得られた重量データから本発明の構成要因の一つである焼結前後における重量減少率を正確に把握することができる。
【0170】
(板状の窒化ケイ素質焼結体の色調ムラの観察)
得られた板状の窒化ケイ素質焼結体の外観検査を行い、目視により色調ムラの有無を判定すると共に、CCDカメラにより色調の異なる模様の有無を確認した。
【0171】
(板状の窒化ケイ素質焼結体の嵩密度測定)
得られた板状の窒化ケイ素質焼結体の嵩密度は、細線に吊るした試験片の重量と浮力を測定するアルキメデス法により測定した。嵩密度から相対密度(配合組成に基づく理論密度に対する比率)を求めた。
【0172】
(板状の窒化ケイ素質焼結体のX線回折測定)
得られた板状の窒化ケイ素質焼結体のX線回折パターン測定には、(株)リガク製RINT-TTRIII型広角X線回折装置を使用した。X線源はCuKα線であり、β型窒化ケイ素の各回折ピーク((200)面、(101)面および(210)面)のピーク強度を調べると共に、MgSiN2に起因する回折ピークの有無を調べた。
【0173】
β型窒化ケイ素の(200)面の回折強度I(200)および(210)面の回折強度I(210)の平均値{I(200)+I(210)}/2と(101)面の回折強度I(101)との比{I(200)+I(210)}/{2×I(101)}を「c軸配向に係る回折強度比」とし、X線回折による配向度として、表4に記載した。
【0174】
なお、X線回折パターン測定においては、窒化ケイ素質焼結体の表面の算術平均粗さRaが0.05μm以上0.5μm以下でないときは、表面を研磨して算術平均粗さRaを0.05μm以上0.5μm以下に調整した。さらに、β型窒化ケイ素、MgSiN2以外にも焼結助剤成分に起因する結晶相(Y2Si3O3N4(N-メリライト)、Y10Si7O23N4(H相)、Y4Si2O7N2(J相)およびYSiO2N(K相))が粒界に析出しているのか否かを確認した。
【0175】
(板状の窒化ケイ素質焼結体の表面粗さ測定)
得られた板状の窒化ケイ素質焼結体表面の算術平均粗さRaはJIS B 0601-2001(ISO4287-1997)に準拠して測定した。触針式の表面粗さ計を用い、窒化ケイ素質焼結体の研磨された表面に、触針先端半径が2μmの触針を当て、測定長さを5mm、触針の走査速度を0.5mm/秒に設定して表面粗さを測定し、この測定で得られた5箇所の平均値を算術平均粗さRaの値とした。
【0176】
(板状の窒化ケイ素質焼結体の曲げ強度測定)
得られた板状の窒化ケイ素質焼結体の曲げ強度測定には、幅4.0mm×厚さ0.35mm×長さ40mmの曲げ試験片を使用した。インストロン社製万能材料試験機を用いて、試験片の厚み(0.35mmt)が異なる以外は、JIS R1601に準拠した方法で、内スパン10mm、外スパン30mmの四点曲げ試験冶具により、室温の四点曲げ強度を測定した。
【0177】
(板状の窒化ケイ素質焼結体の破壊靱性値測定)
得られた板状の窒化ケイ素質焼結体の破壊靱性値測定は、JIS-R1607:2015に準拠したIF法で測定した。板状の窒化ケイ素質焼結体の鏡面研磨された表面にビッカース圧子を所定の圧子押込み荷重(5kgf(49N))で15秒間押し込み、ビッカース圧痕の一方の対角線が板状の窒化ケイ素質焼結体の厚さ方向と垂直になるようにして、ビッカース圧痕の対角線の長さと対角線の延長上に発生する亀裂長さを測定した。得られた測定長さから破壊靭性値KICを算出した。
【0178】
(板状の窒化ケイ素質焼結体の熱伝導率測定)
得られた板状の窒化ケイ素質焼結体の熱伝導率測定用に、前記の方法で、直径10mmφ×厚さ1mmtの円盤状試験片を作製した。この円盤状試験片を用いて、JIS R1611に準拠したフラッシュ法により熱伝導率を室温で測定した。
【0179】
(板状の窒化ケイ素質焼結体における面積基準の長軸径の頻度分布の測定方法)
窒化ケイ素質焼結体の微細構造観察に際しては、窒化ケイ素質焼結体の板面に垂直な断面を研削加工し、更にダイアモンド砥粒で鏡面研磨した後、粒界相が見易くなる程度に軽くエッチング処理を行った。得られた試料を走査型顕微鏡(SEM)を用いて、観察倍率1000倍にて、研磨面の0.01mm2(1mm2の1/100)の領域を任意に3箇所観察した。さらに、微細組織を定量評価するために、得られたSEM写真を用いて、画像解析装置(三谷商事(株)製WinROOF Ver5.6.2)により窒化ケイ素粒子と粒界とを二値化し、3観察視野・測定総面積に存在する全β型窒化ケイ素粒子の長辺の長さおよび短辺の長さを測定した。測定された長辺の長さまたは短辺の長さのβ型窒化ケイ素粒子の頻度分布は、それぞれの粒子の面積分率(窒化ケイ素粒子全体の面積に対する割合)として表示した。なお、X線回折測定により、窒化ケイ素粒子は総てβ型窒化ケイ素であることを確認している。
【0180】
断面観察では、柱状のβ型窒化ケイ素粒子の正確な形状は分からないため、本発明においては、観察断面に現れた粒子形状で、長辺の長さを長軸径、短辺の長さを短軸径と定義して、長軸径および短軸径の粒子の面積基準の頻度分布を測定し、面積基準の累積粒度分布曲線を取得して、長軸径または短軸径それぞれに対応した面積分率を求めた。長軸径が3μm以上の粒子の面積分率とは、観察したβ型窒化ケイ素粒子の全面積に対する長軸径が3μm以上の粒子の面積分率であり、長軸径が10μmを超える粒子(粗大β型粒子)の面積分率とは、観察したβ型窒化ケイ素粒子の全面積に対する長軸径が10μmを超える粒子の面積分率である。
また、観察領域中に存在する長辺の長さ(長軸径)が10μmを超える柱状のβ型窒化ケイ素粒子(粗大β型粒子)の個数を調べ、切断面1mm2当たりの個数に換算した後、その平均値を求めた。
【0181】
(板状の窒化ケイ素質焼結体の最大開口径および開気孔率の測定方法)
研磨された表面における最大開口径および開気孔率は、以下のようにして算出した。まず、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、観察倍率2000倍にて、窒化ケイ素質焼結体の研磨された表面から、1観察視野当たり60μm×44μmに設定した領域の5観察視野の画像を取り込んだ。画像解析装置(三谷商事(株)製WinROOF Ver5.6.2)により、5観察視野・測定総面積13200μm2の中で最も大きい開気孔の径を測定することで最大開口径を求めた。次に、同画像解析装置により、画像内の1視野の測定面積を400μm2,測定視野数を12,つまり測定総面積を4800μm2として、当該測定総面積における開気孔の面積を求めた。当該開気孔の面積を測定総面積で除して、測定総面積における当該開気孔の面積の割合を表面の開気孔率とした。これにより、表面における開気孔率を算出することができた。
【0182】
(板状の窒化ケイ素質焼結体の酸素含有量の測定方法)
得られた板状の窒化ケイ素質焼結体を破砕・解砕し、目開き250μmの篩を通した。JIS R1603-10酸素の定量方法に準拠した不活性ガス融解-二酸化炭素赤外線吸収法(LECO社製、TC-136型)により、解砕物試料の酸素含有量を測定した。
【0183】
(板状の窒化ケイ素質焼結体の金属不純物の定量分析)
前記の解砕物試料0.5gを硝酸およびフッ化水素酸と共に分析用のテフロン(登録商標)製加圧分解容器に入れ、マイクロ波を照射して加熱分解した後、超純水で定容して検液とした。次に、島津製作所製ICPE-9820型誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)装置により検液中の各金属元素(イットリウム、マグネシウム、エルビウム、イッテルビウム、アルミニウム、鉄、クロム、ニッケル、タングステン、銅およびマンガン)の定量分析を行った。
【0184】
前記の窒化ケイ素質焼結体の製造に使用した原料粉末の特性、原料組成物の配合組成、窒化ケイ素質焼結体の製造条件の概略と得られた板状の窒化ケイ素質焼結体の化学組成、および得られた板状の窒化ケイ素質焼結体の微細構造と熱的・機械的特性に関する前記の評価項目の測定結果を、表1、表2、表3および表4に示す。
なお、表2~表4において、実施例1~44は本発明の実施例であり、比較例1~22は本発明に対する比較例である。室温での曲げ強度とは4点曲げ強度、粗大β粒子個数とは窒化ケイ素質焼結体の板面に垂直な切断面の1mm2の領域に観察される、β型窒化ケイ素粒子の長軸径(長辺の長さ)が10μmを超えるβ型窒化ケイ素粒子の個数を表わす。
【0185】
さらに、観察視野に現われる粗大β粒子(長軸径が10μmを超えるβ型窒化ケイ素粒子)の面積分率、長軸径が3μmを超えるβ型窒化ケイ素粒子の面積分率、長軸径(長辺の長さ)の50%面積径(D50)および80%面積径(D80)を併せて記載した。
【0186】
【0187】
【0188】
【0189】
【0190】
【0191】
【0192】
【0193】
【0194】
表8には、実施例および比較例で使用された、第一の窒化ケイ素粉末と第二の窒化ケイ素粉末との配合物の粉末特性と粒度分布を示す。
【0195】
第一の窒化ケイ素粉末を40重量部~94重量部と第二の窒化ケイ素粉末を60重量部~6重量部を配合した実施例における、第一の窒化ケイ素粉末と第二の窒化ケイ素粉末との配合物は、β分率が7%以上64%以下、酸素含有量が0.74重量%以上1.95重量%以下、BET法による比表面積が6.3m2/g以上12.8m2/g以下、レーザ回折散乱法により測定される粒度分布における平均粒子径が0.66μm以上1.5μm以下であり、既述の「窒化ケイ素粉末の粒度分布およびピークトップの測定方法」(段落0164)に記載した方法で得られる頻度分布曲線が二つのピークを有し、該ピークのピークトップが0.5~1.2μmの範囲(第一ピーク)と1.1~3.8μmの範囲(第二ピーク)にあって、該第二のピークは該第一のピークよりも0.5~3.0μm大きな値である。
【0196】
(実施例2)
焼結温度を1900℃に上げた以外は、実施例1と同様にして、表2および表3に記載された条件にて板状の窒化ケイ素質焼結体を得た。原料組成物の配合組成を表2に、焼結条件と得られた板状の窒化ケイ素質焼結体の化学組成を表3に、得られた板状の窒化ケイ素質焼結体の特性を表4に示す。焼結温度を上げることで、焼結時の重量減少率および酸素揮発率が大きくなると共に、粗大β粒子の面積分率が大きくて、熱伝導率が上昇し、曲げ強度と破壊靭性値も高いレベルであった。
【0197】
(実施例3および4)
β型である第二の窒化ケイ素粉末の種類を変え、第一の窒化ケイ素粉末と第二の窒化ケイ素粉末の配合割合(90/10)はそのままで、実施例1(焼結温度1850℃)及び実施例2(焼結温度1900℃)と同様にして、表2および表3に記載された条件にて板状の窒化ケイ素質焼結体を得た。得られた板状の窒化ケイ素質焼結体の化学組成と諸特性を表3および表4に示す。実施例4では、最高保持温度が高いため、焼結時の重量減少率および酸素揮発率が大きく、c軸配向に係る回折強度比が適切な範囲であって、粗大β粒子の面積分率も大きいため、熱伝導率が上昇し、曲げ強度と破壊靭性値も高いレベルであった。
【0198】
(実施例5、6および7)
β型である第二の窒化ケイ素粉末の種類を変え、第一の窒化ケイ素粉末と第二の窒化ケイ素粉末の配合割合(90/10)はそのままで、実施例1(焼結温度1850℃)及び実施例2(焼結温度1900℃)と同様にして、表2および表3に記載された条件にて板状の窒化ケイ素質焼結体を得た。得られた板状の窒化ケイ素質焼結体の化学組成と諸特性を表3および表4に示す。実施例6では、最高保持温度が高いため、焼結時の重量減少率および酸素揮発率が大きく、c軸配向に係る回折強度比が適切な範囲であって、粗大β粒子の面積分率も大きいため、高い熱伝導率と優れた機械的特性(曲げ強度および破壊靭性値)を示した。実施例7では、焼結助剤の配合割合と添加量を変えたために粒成長が促進された影響か、最高温度での保持時間が若干短くても(7時間)、高い熱伝導率と優れた機械的特性(曲げ強度および破壊靭性値)を示した。
【0199】
(実施例8~10)
第一の窒化ケイ素粉末と第二の窒化ケイ素粉末の配合割合(90/10)はそのままで、焼結助剤に二酸化シリコン粉末0.5重量%を追加してみた。実施例1(焼結温度1850℃)及び実施例2(焼結温度1900℃)と同様にして、表2および表3に記載された条件にて板状の窒化ケイ素質焼結体を得た。得られた板状の窒化ケイ素質焼結体の化学組成と特性を表3および表4に示す。実施例9では、最高保持温度が高いため、焼結時の重量減少率および酸素揮発率が大きく、c軸配向に係る回折強度比が適切な範囲であって、粗大β粒子の面積分率も大きいため、高い熱伝導率と優れた機械的特性(曲げ強度および破壊靭性値)を示した。実施例10では、焼結助剤の配合割合と添加量を変え、最高温度での保持時間を延長したためか(20時間)、Mg含有量の減少が著しく、重量減少率も大きかったが、高い熱伝導率と優れた機械的特性(曲げ強度および破壊靭性値)を示した。
【0200】
(実施例11および12)
第一の窒化ケイ素粉末と第二の窒化ケイ素粉末の配合割合を変えた(75/25)以外は、実施例8(焼結温度1850℃)および実施例9(焼結温度1900℃)と同様にして、表1~表3に記載された条件にて、板状の窒化ケイ素質焼結体を得た。窒化ケイ素原料の配合割合を変えることで、積層成形体シート密度は若干上昇した(2.05g/cm3)。得られた板状の窒化ケイ素質焼結体の化学組成と特性を表3および表4に示す。実施例12では、最高保持温度が高いため、焼結時の重量減少率および酸素揮発率が大きく、c軸配向に係る回折強度比が適切な範囲であって、粗大β粒子の面積分率も大きいため、高い熱伝導率と優れた機械的特性(曲げ強度および破壊靭性値)を示した。
【0201】
(実施例13~17)
第一の窒化ケイ素粉末と第二の窒化ケイ素粉末の配合割合(50/50または40/60)および二酸化シリコン粉末の追加量を変えてみた以外は、実施例8(焼結温度1850℃)および実施例9(焼結温度1900℃)と同様にして、表2および表3に記載された条件にて、板状の窒化ケイ素質焼結体を得た。得られた板状の窒化ケイ素質焼結体の化学組成と特性を表3および表4に示す。実施例14および17では、最高保持温度が高いため、焼結時の重量減少率および酸素揮発率が大きく、c軸配向に係る回折強度比が適切な範囲であって、粗大β粒子の面積分率も大きいため、高い熱伝導率と優れた機械的特性(曲げ強度および破壊靭性値)を示した。実施例15では、1800℃での保持時間を20時間に延長してみた所、焼結時の重量減少率および酸素揮発率が増加し、1850℃焼結品(実施例16)と同等の熱伝導率と機械的特性(曲げ強度および破壊靭性値)を示した。
【0202】
(実施例18~21)
第一の窒化ケイ素粉末と第二の窒化ケイ素粉末の種類の組合せを変えてみた。配合割合(90/10)はそのままで、実施例8(焼結温度1850℃)と同様にして、表2および表3に記載された条件にて板状の窒化ケイ素質焼結体を得た。得られた板状の窒化ケイ素質焼結体の化学組成と特性を表3および表4に示す。実施例18では、酸化マグネシウムと酸化イットリウムの比率を変えてみた所、実施例8と比べて機械的特性が悪化した。実施例19では、助剤添加量を4.5重量%に減らしてみたが、特に大きな影響はなかった。実施例20では雰囲気圧力を0.4MPaに下げてみたが、特に大きな影響はなく、ガス圧力0.4MPaでも0.8MPaの場合とほぼ同等の特性を有する窒化ケイ素質焼結体が得られので0.4MPaに下げても焼結できることを確認できた。
【0203】
(実施例22および23)
第一の窒化ケイ素粉末と第二の窒化ケイ素粉末の種類の組合せを変え、配合割合(75/25)で、実施例8(焼結温度1850℃)と同様にして、表2および表3に記載された条件にて板状の窒化ケイ素質焼結体を得た。得られた板状の窒化ケイ素質焼結体の化学組成と特性を表3および表4に示す。実施例22では、最高保持温度(1880℃)での保持時間を18時間に延長してみたが、焼結時の重量減少率および酸素揮発率が大きく、c軸配向に係る回折強度比が適切な範囲であって、粗大β粒子の面積分率も大きいため、高い熱伝導率と優れた機械的特性(曲げ強度および破壊靭性値)を示した。
【0204】
(実施例24および25)
焼結助剤として使用する希土類酸化物をEr2O3あるいはYb2O3に変えたこと以外は、実施例8と同様にして、表2および表3に記載された条件にて板状の窒化ケイ素質焼結体を得た。得られた板状の窒化ケイ素質焼結体の化学組成と特性を表3および表4に示す。希土類酸化物を変えることによって粒成長が促進され、熱伝導率および曲げ強度がが若干上昇した。
【0205】
(実施例26~28)
第一の窒化ケイ素粉末がA-3、第二の窒化ケイ素粉末がB-2という組合せで、その配合割合を変えた(75/25または90/10)以外は、実施例8と同様にして、表2および表3に記載された条件にて、板状の窒化ケイ素質焼結体を得た。得られた板状の窒化ケイ素質焼結体の化学組成と特性を表3および表4に示す。実施例26では、1880℃における保持時間を延長したため、焼結時の重量減少率および酸素揮発率が大きく、c軸配向に係る回折強度比が適切な範囲であって、粗大β粒子の面積分率も大きいため、高い熱伝導率と優れた機械的特性(曲げ強度および破壊靭性値)を示した。
【0206】
(実施例29および30)
第一の窒化ケイ素粉末と第二の窒化ケイ素粉末の組合せをA-2とB-2を変えた以外は、実施例8と同じ配合割合(90/10)で、同例と同様にして、表2および表3に記載された条件にて、板状の窒化ケイ素質焼結体を得た。得られた板状の窒化ケイ素質焼結体の化学組成と特性を表3および表4に示す。実施例30では、1900℃における保持時間を短縮してみたが、焼結時の重量減少率および酸素揮発率が大きく、c軸配向に係る回折強度比が適切な範囲であって、粗大β粒子の面積分率も大きいため、高い熱伝導率と優れた機械的特性(曲げ強度および破壊靭性値)を示した。
【0207】
(実施例31)
焼結助剤の添加量を減らした以外は、実施例27と同様にして、表2および表3に記載された条件にて、板状の窒化ケイ素質焼結体を得た。得られた板状の窒化ケイ素質焼結体の化学組成と特性を表3および表4に示す。1850℃における保持時間を延長したため、焼結時の重量減少率および酸素揮発率が大きく、c軸配向に係る回折強度比が適切な範囲であって、粗大β粒子の面積分率も大きいため、高い熱伝導率と優れた機械的特性(曲げ強度および破壊靭性値)を示した。
【0208】
(実施例32~37)
焼結温度を1800℃に下げて焼結した以外は、実施例1と同様にして、表2および表3に記載された条件にて板状の窒化ケイ素質焼結体を得た。得られた板状の窒化ケイ素質焼結体の化学組成と特性を表3および表4に示す。実施例1と比べて、焼結温度を下げると、重量減少率および酸素揮発率が低下して、得られる窒化ケイ素質焼結体の酸素含有量が2.7重量%~2.9重量%に増加すると共に長軸径(長辺の長さ)が10μmを超えるβ型窒化ケイ素粒子の個数が減少するため、熱伝導率も機械的特性(曲げ強度および破壊靭性値)もやや悪化した。
【0209】
(実施例38)
焼結助剤である酸化マグネシウム(MgO)と酸化イットリウム(Y2O3)の添加量を減らした以外は、実施例14と同様にして、表2および表3に記載された条件にて板状の窒化ケイ素質焼結体を得た。得られた板状の窒化ケイ素質焼結体の化学組成と特性を表3および表4に示す。焼結助剤の添加量を減らしても、1900℃での保持時間を延長したために、到達密度は問題なかった。しかしながら、実施例14と比べて、高温長時間焼結により、重量減少率および酸素揮発率が著しく増加して、焼結体の実測酸素含有量が1.3重量%まで低下した。このため、粒成長が進行して、熱伝導率は上昇したが、機械的特性(曲げ強度と破壊靭性値)が低下した。
【0210】
(実施例39~44)
第一の窒化ケイ素粉末と第二の窒化ケイ素粉末の組合せと配合割合、および焼結条件(焼結助剤の添加量と焼結時の最高温度および保持時間)を種々変えて、表2および表3に記載された条件にて、板状の窒化ケイ素質焼結体を得た。得られた板状の窒化ケイ素質焼結体の化学組成と特性を表3および表4に示す。しかしながら、いずれの条件においても、対応する実施例(例えば、実施例21~23、26~28および31)と比べて、酸素揮発率が不十分で、焼結体の酸素含有量が高いため、得られる窒化ケイ素質焼結体の熱伝導率(曲げ強度および破壊靱性値)も機械的特性も若干低下した。
【0211】
実施例1~44の検討結果より、配合組成における酸化マグネシウムと希土類金属酸化物との重量比を0.40≦酸化マグネシウム/希土類金属酸化物≦1.4とし、焼結体としての実測マグネシウム含有量と実測イットリウム含有量の質量比率が0.05≦実測マグネシウム含有量/実測イットリウム含有量≦0.85であることが、熱伝導率および機械的特性高める上で好適であることを確認できた。
【0212】
なお、実施例1から44までの全ての実施例において、熱伝導率測定用の円盤状試験片を除く板状の窒化ケイ素質焼結体の厚さは0.33~0.48mm、厚さ/面積比は1.0x10-4~1.9x10-4(1/mm)、厚み方向に垂直な板面表層部の除去量は片面当たり0.008~0.03mmであった。
【0213】
外観検査では、全ての実施例において色調ムラは観察されなかった。窒化ケイ素質焼結体板面のX線回折測定では、MgSiN2等のMg化合物の結晶相は検出されなかった。さらに、粒界相を構成するJ相(RE4Si2O7N2)のメインピーク((22-1)面)の回折強度とN-メリライト相(RE2Si3O3N4)のメインピーク((211)面)の回折強度の合計が当該窒化ケイ素焼結体中のβ型窒化珪素の(200)面の回折強度に対する比が0.07未満(ゼロを含む)である板状の窒化ケイ素質焼結体であることを確認できた。
【0214】
さらに、本発明においては、窒化ケイ素質焼結体の板面に垂直な切断面の観察に際して、窒化ケイ素粒子の短軸径も計測しており、特許文献9に記載されている短軸径が2μm以上の窒化ケイ素粒子の面積平均径(粒子径の面積50%に相当する粒子径(50%径))は、全ての実施例において、5.0μm未満であって、先行技術の焼結体に比べて、著しく粒度分布がシャープであることを確認している。
【0215】
(比較例1および2)
比較例1および2は、窒化ケイ素原料として、第一の窒化ケイ素粉末(A-1)のみを使用した例である。表2および表3に記載された条件にて得られた板状の窒化ケイ素質焼結体の化学組成と特性を表3および表4に示す。高α分率の窒化ケイ素原料を用いることにより、機械的特性(曲げ強度、破壊靭性値など)の優れた板状の窒化ケイ素質焼結体を得ることができた。しかしながら、窒化ケイ素質焼結体を構成する粒子が微細で、粒成長が遅いため、熱伝導率はやや低いという結果となった。
【0216】
(比較例3および4)
比較例3および4は、第一の窒化ケイ素粉末(A-1)に第二の窒化ケイ素粉末(B-1)を配合した原料組成物を使用した例である。最高温度での保持時間は10時間とし、実施例1と同様に、表2および表3に記載された条件にて得られた板状の窒化ケイ素質焼結体の化学組成と特性を表3および表4に示す。焼結体の実測酸素含有量は焼結温度の上昇に伴って、2.75重量%から2.35重量%に低下した。しかしながら、5重量%の第二の窒化ケイ素粉末の配合では、c軸配向に係る回折強度比が小さくて、粗大β粒β型窒化ケイ素粒子の粒成長が不足するためか、期待したほどの特性(熱伝導率、曲げ強度および破壊靱性値)改善は認められなかった。
【0217】
(比較例5~7)
比較例5~7も、第一の窒化ケイ素粉末(A-1)に第二の窒化ケイ素粉末(B-1)を配合した原料組成物を使用した例である。焼結助剤である酸化マグネシウムと希土類金属酸化物との重量比を種々変え、比較例1と同様に、表2および表3に記載された条件にて板状の窒化ケイ素質焼結体を作製してみた。得られた板状の窒化ケイ素質焼結体の化学組成と特性を表3および表4に示す。比較例5および6では、低比表面積の第二窒化ケイ素粉末の配合割合が多過ぎるためか、到達密度も低く、焼結体の特性(熱伝導率、曲げ強度および破壊靱性値)が著しく悪化した。比較例7では、焼結助剤である酸化マグネシウムと希土類金属酸化物との重量比が不適切であり(酸化マグネシウム/希土類金属酸化物が1.5)、1900℃で10時間保持という高温焼結条件においても期待したほどの特性(熱伝導率、曲げ強度および破壊靱性値)改善は認められず、低レベルの熱伝導率、曲げ強度および破壊靱性値であった。
【0218】
(比較例8および9)
β分率100%の第二の窒化ケイ素粉末(B-4)のみを原料組成物に使用した例である。表2および表3に記載された条件にて得られた板状の窒化ケイ素質焼結体の化学組成と特性を表3および表4に示す。焼結助剤の配合比を変えてみたが、c軸配向に係る回折強度比が小さくて、同じ焼結温度で比較すると粗大β粒β型窒化ケイ素粒子の粒成長が不足するためか、低レベルの特性(熱伝導率、曲げ強度および破壊靱性値)しか得られなかった。
【0219】
(比較例10)
第一の窒化ケイ素粉末として、β分率が14質量%で、低比表面積かつ低酸素含有量の窒化ケイ素粉末(A-5)を配合した原料組成物を使用した例である。表2および表3に記載された条件にて得られた板状の窒化ケイ素質焼結体の化学組成と特性を表3および表4に示す。低比表面積かつ低酸素含有量であるために、粒成長が進んだせいか、熱伝導率は高いものの、機械的特性が著しく悪化した。
【0220】
(比較例11および12)
比較例11および12は焼結助剤の添加量を変えた例であり、比較例13はアルカリ土類金属酸化物と希土類金属酸化物との重量比を変えた例(アルカリ土類金属酸化物と希土類金属酸化物との重量比が小さ過ぎる)である。表2および表3に記載された条件にて得られた板状の窒化ケイ素質焼結体の化学組成と特性を表3および表4に示す。焼結助剤の添加量が少な過ぎても多過ぎても、アルカリ土類金属酸化物と希土類金属酸化物との重量比が低過ぎでも、表2および表3に記載された焼結条件(最高温度と同温度での保持時間)では、得られた窒化ケイ素質焼結体の熱伝導率が著しく低下した。さらに比較例12では焼結助剤量が多過ぎたせいか、機械的特性(曲げ強度と破壊靭性値)も著しく低下した。
【0221】
(比較例13および14)
比較例13および14は、比表面積が低過て、粒径が粗大な第二の窒化ケイ素粉末を使用した例である。粗大なβ型窒化ケイ素粒子の存在により、到達密度が低下して、熱伝導率および機械的特性(曲げ強度と破壊靭性値)が著しく低下した。
【0222】
(比較例15)
比較例15は、二酸化ケイ素の添加量が多過ぎた例である。表2および表3に記載された条件にて得られた板状の窒化ケイ素質焼結体の化学組成と特性を表3および表4に示す。二酸化ケイ素の添加量が多過ぎると、焼結体の実測酸素含有量が高くて、粒成長が不足しているため、熱伝導率も低く、機械的特性も低レベルであった。
【0223】
(比較例16~18)
比較例16および17は、焼結時の最高温度が低過ぎる例であり、比較例18は1850℃における保持時間が短過ぎる例である。表2および表3に記載された条件にて得られた板状の窒化ケイ素質焼結体の化学組成と特性を表3および表4に示す。最高温度が低く過ぎても、1850℃における保持時間が短か過ぎても、著しく焼結不足であり、窒化ケイ素質焼結体の相対密度が低下するばかりでなく、焼結過程における焼結助剤(酸化マグネシウムと希土類金属酸化物)や窒化ケイ素原料中の二酸化ケイ素(SiO2)成分の蒸発が抑制された。このため、比較例16および17では、焼結体の実測酸素含有量は2.9重量%前後であった。一方、比較例18では原料組成物自体の酸素含有量が少なくためか、酸素揮発量が小さく、かつ保持時間が短過ぎるためか、長軸径が10μmを超えるβ型窒化ケイ素粒子の個数が著しく減少した。これらの比較例においては、熱伝導率および機械的特性(曲げ強度と破壊靭性値)の両方が低下した。
【0224】
(比較例19)
比較例19は第二の窒化ケイ素粉末のβ分率が50質量%と低く、低比表面積かつ高酸素含有量で95%径D95が大きな粗大粒子を含む例である。表2および表3に記載された条件にて、板状の窒化ケイ素質焼結体を得た。得られた板状の窒化ケイ素質焼結体の化学組成と特性を表3および表4に示す。このような原料組成物を使用すると、粒成長が著しく阻害されてしまうため、熱伝導率も低く、機械的特性(曲げ強度と破壊靱性値)も低レベルであって、好ましくない。
【0225】
(比較例20および21)
比較例20および21は、逆に粒成長が進み過ぎた例である。最高保持温度1850℃で30時間保持または最高保持温度1900℃での保持時間22時間という、高温-長時間の厳しい焼結条件でないと高密度な焼結体が得られない場合には、得られた窒化ケイ素質焼結体の実測マグネシウム含有量と実測希土類金属含有量との重量比(実測マグネシウム含有量/実測希土類金属含有量)が0.03~0.28、実測酸素含有量は1.48重量%~1.56重量であった。より厳しい焼結条件が設定されたため、長軸の長さが10μmを超えるβ型窒化ケイ素粒子の個数が著しく増加し(10000個/mm2超)、曲げ強度および破壊靭性値は低かった。また、研磨された表面における開気孔率は1.5%前後、最大開気孔径は2.0μm前後であり、絶縁基板や回路基板への適用が難しいものであった。
【0226】
(比較例22)
比較例22は、窒化ケイ素原料の特性が不適切な例である。表2および表3に記載された条件にて得られた板状の窒化ケイ素質焼結体の化学組成と特性を表3および表4に示す。第一の窒化ケイ素粉末として、β粉率が高くて、低比表面積・低酸素含有量の粉末を使用しているため、粒成長が抑制されており、その結果として熱伝導率が低下した。機械的特性(曲げ強度と破壊靭性値)も低目の値であった。
【0227】
以上のように、比較例9、19、20および21以外の比較例では熱伝導率が著しく低下し、比較例1、2、3、4、10、12および22以外の比較例では機械的特性(曲げ強度と破壊靭性値)が低下しており、熱伝導率と機械的特性が両立された板状の窒化ケイ素質焼結体は無かった。
【0228】
表2、表3および表4の結果から明らかなように、本発明の実施例は、β分率が0%以上10%以下、酸素含有量が0.75重量%以上2.2重量%以下、比表面積が7.0m2/g以上13.0m2/g以下、平均粒子径が0.55μm以上1.5μm以下であるα型の第一の窒化ケイ素粉末40~94重量部と、β分率が60%以上100%以下、酸素含有量が0.55重量%以上2.0重量%以下であり、比表面積が2.5m2/g以上10.0m2/g以下であって第一の窒化ケイ素粉末の比表面積よりも小さな値であり、平均粒子径が0.7μm以上2.0μm未満であって第一の窒化ケイ素粉末の平均粒子径よりも大きな値であり、アスペクト比が3以下である第二の窒化ケイ素粉末60~6重量部とを含む窒化ケイ素原料を使用する。
【0229】
さらに、表8から明らかなように、所定に割合の第一の窒化ケイ素粉末と第二の窒化ケイ素粉末を配合した配合物は、β分率が7%以上64%以下、酸素含有量が0.74重量%以上1.95重量%以下、BET法による比表面積が6.3m2/g以上12.8m2/g以下、レーザー回折散乱法により測定される粒度分布における平均粒子径が0.66μm以上1.5μm以下であり、既述の「窒化ケイ素粉末の粒度分布およびピークトップの測定方法」(段落0164)で記載した方法で得られる頻度分布曲線が二つのピークを有し、該ピークのピークトップが0.5~1.2μmの範囲(第一ピーク)と1.1~3.8μmの範囲(第二ピーク)にあって、該第二のピークは該第一のピークよりも0.5~3.0μm大きな値であるため、本発明の板状の窒化ケイ素質焼結体の製造原料として好適である。
【0230】
本発明の実施例は、焼結助剤であるアルカリ土類金属酸化物(例えば酸化マグネシウム)および希土類金属酸化物(例えば酸化イットリウム)の合計添加量が3.2重量%以上、7.0重量%以下で、その重量比が、0.40≦アルカリ土類金属酸化物/希土類金属酸化物≦1.4を満足する。得られた板状の窒化ケイ素質焼結体は、実測アルカリ土類金属含有量と実測希土類金属含有量との比率が0.05≦実測アルカリ土類金属含有量/実測希土類金属含有量≦0.85であり、相対密度が98%以上である。
【0231】
さらに、算術平均粗さRaが0.05μm以上0.5μm以下に研磨された表面から0.08mm以上内側まで研削して得られた平面にX線を照射した際に得られるβ型窒化ケイ素の(200)面の回折強度I(200)および(210)面の回折強度I(210)の平均値{I(200)+I(210)}/2と(101)面の回折強度I(101)との比{I(200)+I(210)}/{2×I(101)}が1.10以上1.40以下であり、
実測酸素含有量が1.3重量%以上2.8重量%以下であり、
窒化ケイ素質焼結体の板面に垂直な切断面を観察したとき、柱状のβ型窒化ケイ素粒子の内、長軸径が10μmを超える粒子の個数が、切断面1mm2当たりに1200個以上10000個以下であって、全窒化ケイ素粒子の面積を基準として、長軸径が10μmを超える粒子の面積分率が6.5%以上39%以下であることから、室温における熱伝導率が110W/(m・K)以上、4点曲げ強度が900MPa以上、破壊靭性値KICが8.0MPa√m以上という優れた熱的・機械的特性を有しており、安定した放熱性と優れた耐久性を発揮できることが分かった。
【0232】
特に高い熱伝導率と高い機械的強度および靭性を併せ持っていることから、絶縁基板および回路基板として用いるのに好適である。
【産業上の利用可能性】
【0233】
以上に記述の通り、本発明は、β分率が0%以上10%以下であって、特定の酸素含有量、比表面積および平均粒子径を有する第一の窒化ケイ素粉末と、β分率が60%以上100%以下であって、特定の酸素含有量、比表面積、平均粒子径およびアスペクト比を有する第二の窒化ケイ素粉末と配合した窒化ケイ素原料に、焼結助剤を添加した出発組成物を調製し、出発組成物からシート成形プロセスによりグリーンシートを作製し、グリーンシートを窒素含有ガス圧力が0.15MPa以上3MPa以下の加圧雰囲気下、最高保持温度が1790℃以上1910℃以下の温度範囲に保持して焼結することにより、アルカリ土類金属含有量と希土類金属含有量との比率および酸素含有量が高度に制御された板状の窒化ケイ素質焼結体を製造するものである。
【0234】
本発明の板状の窒化ケイ素質焼結体は、焼結体を構成する柱状のβ型窒化ケイ素粒子の長軸の長さとその配向状態が高度に制御されたミクロ組織を有しているため、窒化ケイ素質焼結体が本来有する高強度/高靱性という機械的特性に加えて、高い熱伝導率を具備している。高い熱伝導率と高い機械的強度および靭性を併せ持っているので、絶縁基板や回路基板として用いた場合に、基板の割れの発生を抑制できるばかりでなく、耐熱衝撃性ならびに耐冷熱サイクル性の著しい向上を期待できる。