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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】医療用材料
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/00 20060101AFI20221227BHJP
【FI】
A61B17/00 500
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018132538
(22)【出願日】2018-07-12
(65)【公開番号】P2020006099
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-05-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120341
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】坂元 悠紀
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】奥村 早紀
【審査官】菊地 康彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/174972(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0367713(US,A1)
【文献】特表2017-510407(JP,A)
【文献】特表2009-532123(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
線材を用いた編み目状組織の筒体により形成された医療用材料であって、
前記筒体の略中央部の筒径が他の部分の筒径よりも小さい形状を備え、
前記略中央部を中心にして前記筒体の長手方向の一端である第1の端部側の第1の筒部と他端である第2の端部側の第2の筒部とが形成され、
前記第1の端部の線材と前記第2の端部の線材とにそれぞれ両端が係合され、前記第1の端部側から前記略中央部を介して前記第2の端部側まで前記第1の筒部および前記第2の筒部の内部に通された弾性部材を備え、
不織布、スポンジ、フィルムおよびこれらの複合体のいずれかから構成された多孔質層であって、前記第1の筒部の略中央部側に配置された第1の多孔質層および前記第2の筒部の略中央部の反対側に配置された第2の多孔質層の少なくともいずれかが、前記筒体の内面に配置され、
前記弾性部材の両端のうちの少なくともいずれかに設けられ、前記弾性部材の端部に連結され、前記医療用材料を移動させるために前記長手方向に沿って作用する力に抗して前記医療用材料の形状を保持する形状保持部材を含み
前記形状保持部材は、糸をらせん状に巻いて熱固定した外装部であるカールコードの始端と終端とを接近させた円環状の状態で前記弾性部材の端部に連結されることにより前記第1の筒部および前記第2の筒部の少なくともいずれかの端部に近接して設けられ、前記長手方向に沿った力が作用した場合に、前記カールコードが前記長手方向に作用する力を吸収して前記医療用材料の形状を保持することを特徴とする、医療用材料。
【請求項2】
前記カールコードが前記長手方向に作用する力を吸収することにより、前記第1の筒部が前記第1の筒部の内部へ押し込まれたり前記第2の筒部が前記第2の筒部の内部へ押し込まれたりすることが抑制されて、前記医療用材料の形状を保持することを特徴とする、請求項1に記載の医療用材料。
【請求項3】
前記形状保持部材は、前記外装部と、前記外装部のらせん状の中心を貫くように内挿された内挿糸とを含むことを特徴とする、請求項1に記載の医療用材料。
【請求項4】
前記形状保持部材が前記弾性部材の両端のうちの両方に設けられる場合において、前記外装部を構成する糸の太さが異なることを特徴とする、請求項3に記載の医療用材料。
【請求項5】
カテーテルに前記医療用材料が収納された場合に、根元側となる形状保持部材の方が先端側となる形状保持部材よりも、前記外装部を構成する糸の太さが太いことを特徴とする、請求項4に記載の医療用材料。
【請求項6】
少なくともいずれかの筒部において、前記内挿糸により、前記線材と前記多孔質層とが連結されていることを特徴とする、請求項3~請求項5のいずれかに記載の医療用材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織に形成された欠損孔を治療するための医療用材料に関し、特に、カテーテルにセットされて血管内を通じて治療部位まで送り込まれて生体内に留置される医療用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
人間の心臓は中隔という組織で左右の部屋が仕切られており、左右それぞれに心房と心室とがあり、右心房、右心室、左心房、左心室の2心房2心室で構成されている。このような構成の心臓において、胎児期の発達障害により、先天的に欠損孔と呼ばれる穴が、右心房と左心房とを隔てる心房中隔に開いている心房中隔欠損症(ASD:Atrial Septal Defect)という疾患がある。
【0003】
この心房中隔欠損症の治療としては、以下に示す2つの方法がある。ひとつは胸を切って行う外科手術、もうひとつが胸を切らずに、閉鎖栓を使ったカテーテル治療である。
外科手術(パッチ手術)は、人工心肺を使用し、開胸して、欠損孔をパッチにて閉じる。カテーテル治療は、カテーテルに閉鎖栓をセットし、カテーテルを血管内に挿入し、目的の位置(欠損孔)まで送り込んで、その後、閉鎖栓を放出し体内に留置する。このカテーテル治療では胸を切開しないで足の付け根の静脈(大腿静脈)から、細長く折り畳んだ閉鎖栓とよばれる小さな治具(デバイス)を心房中隔に開いた穴の位置まで送り込み、穴を塞ぐものである。このカテーテル治療の長所は、全身麻酔が必要な開胸手術をすることなく、足の付け根(そけい部)という目立たない場所から、ごく小さな皮膚の切開(数ミリ)で治療ができる点である。
【0004】
特表2008-512139号公報(特許文献1)は、心房中隔欠損症のカテーテル治療に用いられるアセンブリ(閉鎖栓)を開示する。このアセンブリは、心臓の通路(欠損孔)を密閉する。このアセンブリは、通路の第一端の近位に配置するために使用される第一アンカー、通路の第二端の近位に配置するために使用される第二アンカー、および通路を通って伸び、第一および第二アンカーに結合するために使用される可撓性延長材を含む心臓の通路を密閉する閉鎖装置からなり、第二アンカーは可撓性延長材に対して移動可能で第一および第二アンカーの間の可撓性延長材の長さを変更し、閉鎖装置を心臓の通路に供給する供給システムからなり、供給装置はガイドカテーテルの内腔の中を移動するように設定され、第二アンカーの可撓性延長材に沿った運動を制御するワイヤーを含む。
【0005】
そして、この特許文献1において、卵円孔開存(PFO:Patent Foramen Oval)閉鎖装置(閉鎖栓)は、左心房アンカー、右心房アンカー、テザーおよびロックを含み、左心房アンカー、テザーを介して左心房アンカーに結合する右心房アンカーおよびロックは心臓内に残留してPFOを密閉することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2008-512139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
パッチ手術の場合には、人工心肺を使用し、また、侵襲性が高いため入院期間が長くなるという問題がある。カテーテル治療の場合には、人工心肺は使用せず、また、侵襲性も低いため入院期間も短く好ましい。
特許文献1に開示されるように、左心房アンカーおよび右心房アンカーは心臓内に残留する。そして、左心房アンカーおよび右心房アンカーは一つまたはそれ以上のアームを含み、アームはハブから放射状に外側に向かって伸びており、このアームは好適には二成分ニッケルチタン合金の圧延シートから形成されている。そして、これらの左心房アンカーおよび右心房アンカーを生体内で拡張させて欠損孔を塞ぐことになるが、アンカーの拡張を開始させると、容易には元に戻すことはできない。特許文献1に開示されているような、複雑な構造で、かつ、生体外からの操作が難しい、専用の取出し装置を用いてアンカー
を折りたたむことになる。
【0008】
しかしながら、たとえば、アンカーが心房内の生体組織に引っ掛かり傷付ける等の事態になった場合には、このような専用の取出し装置でアンカーを折りたたむだけの時間的余裕がない場合もある。このような場合には、開胸手術に即座に切り換えざるを得ない。これでは、結局、侵襲性が高い開胸手術を受けることになるという問題点がある。
さらに、金属製の欠損孔閉鎖栓が体内に一生涯残存するため、遠隔期の不具合が懸念されるという問題点がある。
【0009】
本発明は、従来技術の上記の問題点に鑑みて開発されたものであり、その目的とするところは、生体内の治療部位にて放出・留置できる低侵襲のカテーテル治療を、複雑な構造を備えず容易かつ確実な操作で可能となり、体内に残存しても遠隔期の不具合の可能性がほとんどない、医療用材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係る医療用材料は以下の技術的手段を講じている。
すなわち、本発明に係る医療用材料は、線材を用いた編み目状組織の筒体により形成された医療用材料であって、前記筒体の略中央部の筒径が他の部分の筒径よりも小さい形状を備え、前記略中央部を中心にして前記筒体の長手方向の一端である第1の端部側の第1の筒部と他端である第2の端部側の第2の筒部とが形成され、前記第1の端部の線材と前記第2の端部の線材とにそれぞれ両端が係合され、前記第1の端部側から前記略中央部を介して前記第2の端部側まで前記第1の筒部および前記第2の筒部の内部に通された弾性部材を備え、不織布、スポンジ、フィルムおよびこれらの複合体のいずれかから構成された多孔質層であって、前記第1の筒部の略中央部側に配置された第1の多孔質層および前記第2の筒部の略中央部の反対側に配置された第2の多孔質層の少なくともいずれかが、前記筒体の内面に配置され、前記弾性部材の両端のうちの少なくともいずれかに設けられ、前記弾性部材の端部に連結され、前記医療用材料を移動させるために前記長手方向に沿って作用する力に抗して前記医療用材料の形状を保持する形状保持部材を含むことを特徴とする。
【0011】
好ましくは、前記形状保持部材は、糸をらせん状に巻いて形成された外装部を含むように構成することができる。
さらに好ましくは、前記形状保持部材は、糸をらせん状に巻いて形成された外装部と、前記らせん状の中心を貫くように内挿された内挿糸とを含むように構成することができる。
【0012】
さらに好ましくは、前記形状保持部材が前記弾性部材の両端のうちの両方に設けられる場合において、前記外装部を構成する糸の太さが異なるように構成することができる。
さらに好ましくは、カテーテルに前記医療用材料が収納された場合に、根元側となる形状保持部材の方が先端側となる形状保持部材よりも、前記外装部を構成する糸の太さが太いように構成することができる。
【0013】
さらに好ましくは、少なくともいずれかの筒部において、前記内挿糸により、前記線材と前記多孔質層とが連結されているように構成することができる。
さらに好ましくは、前記弾性部材の端部は、前記編み目状組織の筒体の外部に設けられた小筒部であって操作ワイヤーと螺合可能な小筒部と接合され、前記形状保持部材が前記小筒部に連結されているように構成することができる。
【0014】
さらに好ましくは、前記形状は、砂時計型、8の字型または2連の紡錘型であって、前記多孔質層は、前記形状に沿った傘形状を備えるように構成することができる。
さらに好ましくは、前記弾性部材が収縮状態であるときに、前記第1の端部と前記第2の端部とが前記略中央部を中心にして接近して、前記医療用材料により閉鎖される欠損孔に対応した大きさまで前記他の部分の筒径が拡張され、前記他の部分の筒径が拡張することに伴い、前記多孔質層が、前記医療用材料により閉鎖される欠損孔に対応した大きさまで拡張されるように構成することができる。
【0015】
さらに好ましくは、前記弾性部材が伸張状態であるときに、前記第1の端部と前記第2の端部とが前記略中央部を中心にして離隔して、前記医療用材料が収納されるカテーテル
に対応した大きさまで前記他の部分の筒径が縮小され、前記他の部分の筒径が縮小することに伴い、前記多孔質層が、前記医療用材料が収納されるカテーテルに対応した大きさまで縮小されるように構成することができる。
【0016】
さらに好ましくは、前記弾性部材は、前記略中央部の筒径よりも直径が小さいコイルばねであるように構成することができる。
さらに好ましくは、前記線材または前記多孔質層は、生体吸収性材料であるように構成することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の医療用材料によれば、生体内の治療部位にて放出・留置できる低侵襲のカテーテル治療を、複雑な構造を備えず容易かつ確実な操作で可能となる。さらに、本発明の医療用材料によれば、体内に残存しても遠隔期の不具合の可能性がほとんどない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る医療用材料の一例である欠損孔閉鎖材100の全体図(コイルばねが収縮状態)である。
図2】欠損孔閉鎖材100の全体図(コイルばねが中間状態)である。
図3】欠損孔閉鎖材100の全体図(コイルばねが伸張状態)である。
図4】欠損孔閉鎖材100の全体図(コイルばねが収縮状態および伸張状態)である。
図5】(A)は欠損孔閉鎖材100の部分的な側面図であって、(B)はそのA-A断面図である。
図6】欠損孔閉鎖材100を心房中隔欠損症のカテーテル治療に用いる場合の概念図である。
図7】カテーテル治療の手順を示す図6のB部の拡大図(その1)である。
図8】カテーテル治療の手順を示す図6のB部の拡大図(その2)である。
図9】カテーテル治療の手順を示す図6のB部の拡大図(その3)である。
図10】欠損孔閉鎖材100の根元側端部の拡大図である。
図11】欠損孔閉鎖材100を構成する収縮状態のコイルばねの拡大図である。
図12】欠損孔閉鎖材100を構成する中間状態または伸長状態のコイルばねの拡大図である。
図13】欠損孔閉鎖材100を構成する形状保持部材を説明するための図である。
図14】(A)は欠損孔閉鎖材100の先端側端部の拡大図であって、(B)はその斜視図である。
図15】欠損孔閉鎖材100を構成する形状保持部材とコイルばね端部の筒状の金属片との連結状態を説明するための図である。
図16】欠損孔閉鎖材100を構成する形状保持部材の作用効果を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る医療用材料を、図面に基づき詳しく説明する。なお、以下においては、本発明に係る医療用材料の一例として、カテーテル治療に用いられる欠損孔閉鎖材について説明するが、その他の開口または通路、たとえば心室中隔欠損、動脈管開存等の心臓のその他の開口、および動静脈瘻等の生体のその他の部位(たとえば胃)の開口または通路の閉鎖にも適している。従って、本発明の実施の形態に係る欠損孔閉鎖材は、心房中隔欠損症の穴を閉鎖するための使用に限定されるものではない。
【0020】
さらに、以下の実施の形態においては、欠損孔閉鎖材(閉鎖栓)100の編み目状組織は生体吸収性繊維(線材の一例)を編成したものとして説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。生体に形成された欠損孔を閉鎖するカテーテル治療ができる欠損孔閉鎖材であればよく、その編み目状組織(これには後述する形状保持部材を含めない)は、後述する第1の特徴~第4の特徴を備え第1の作用~第4の作用を発現する素材であれば生体吸収性繊維以外の線材で編成されていても構わない。このような線材としては、(後述する形状保持部材による形状保持性とは異なる)欠損孔閉鎖材の形状保持性を備える
ために、ある程度の硬度を備える線材であることが好ましい。
【0021】
[基本的構成]
図1に本実施の形態に係る欠損孔閉鎖材100の全体図(コイルばね140が収縮状態)を、図2にこの欠損孔閉鎖材100の全体図(コイルばね140が中間状態)を、図3にこの欠損孔閉鎖材100の全体図(コイルばね140が伸張状態)を、図4にこの欠損孔閉鎖材100の全体図(コイルばね140が収縮状態および伸張状態)を、それぞれ示す。なお、図3はこの欠損孔閉鎖材100の全体がカテーテル300に収納されている状態を、図4はこの欠損孔閉鎖材100の半分(第1の筒部110側)がカテーテル300に収納されている状態を、それぞれ示す図である。図3に示すカテーテル300の内部(内壁310により形成される空間)にその全体が収納されている欠損孔閉鎖材100を、第1の筒部110側から第2の筒部120をカテーテル300の開口部320から矢示Y方向に押し出すと図4の状態になって、さらに第1の筒部110を矢示Y方向に押し出すと図1の状態になる。ここで、図2に示す欠損孔閉鎖材100の状態は、コイルばね140が収縮状態と伸張状態との中間状態であって仮想的な状態である。
【0022】
さらに、詳しくは図10図16を参照して後述するが、この欠損孔閉鎖材100における弾性部材(コイルばね140)の端部は、編み目状組織の筒体(第1の筒部110および第2の筒部120)の外部に設けられた小筒部であって、この欠損孔閉鎖材100の形状を保持する形状保持部材と連結可能であって操作ワイヤー500と螺合可能な小筒部と接合されている。より具体的には、この小筒部は、筒状の金属片412(根元側)と筒状の金属片422(先端側)であって、根元側の金属片412および先端側の金属片422の両方が形状保持部材と連結可能に形成され、少なくとも根元側の金属片412は操作ワイヤー500と螺合可能に形成されている。
【0023】
これらの図に示すように、この欠損孔閉鎖材100は、大略的には、線材を用いた編み目状組織の筒体により形成され、この筒体の略中央部130の筒径が他の部分の筒径よりも小さい形状を備え、略中央部130を中心にして欠損孔閉鎖材100における筒体長手方向の第1の端部112側の第1の筒部110と他の端部(第2の端部122)側の第2の筒部120とが形成されている。そして特徴的であるのは、第1の端部112の線材と第2の端部122の線材とにそれぞれ両端が係合され、第1の端部112側から略中央部130を介して第2の端部122側まで第1の筒部110および第2の筒部120の内部に通された弾性部材の一例であるコイルばね140を備える点である。弾性部材は、コイルばね140以外であっても弾性を備えその弾性により後述する作用を発現できる部材であればよく、コイルばね140に限定されるものではない。
【0024】
さらに特徴的であるのは、不織布、スポンジ、フィルムおよびこれらの複合体のいずれかから構成された多孔質層であって、第1の筒部110の略中央部130側に配置された第1の多孔質層161および第2の筒部120の略中央部130の反対側に配置された第2の多孔質層162の少なくともいずれかが、筒体の内面に配置されている点である。この多孔質層の材料は限定されるものではないが、欠損孔閉鎖材100における略中央部130以外の他の部分である筒体(第1の筒部110および第2の筒部120)の筒径が拡張/縮小されることに伴い、その筒体の内面形状に沿って多孔質層の形状が変化できる柔軟性を多孔質層が備える必要がある。
【0025】
さらに詳しくは、第1の筒部110の長手方向における略中央部130側に第1の多孔質層161が、第2の筒部120の長手方向における略中央部130の反対側に第2の多孔質層162が、それぞれ配置されている。なお、多孔質層の配置はこのような形態に限定されるものではなく、第1の多孔質層161および第2の多孔質層162の少なくともいずれかが配置されていればよく、第1の多孔質層161および第2の多孔質層162の両方ともが配置されていても、第1の多孔質層161および第2の多孔質層162のいずれかと他の多孔質層(たとえば、第1の筒部110において第1の多孔質層161の長手方向反対側、第2の筒部120において第2の多孔質層162の長手方向反対側)とが配置されていても構わない。以下においては、第1の多孔質層161および第2の多孔質層162の両方が上述した位置(第1の多孔質層161は長手方向における略中央部130
側であって第2の多孔質層162は長手方向における略中央部130の反対側であってそれぞれの筒部における長手方向における先端側の位置)に配置されているものとして説明する。なお、ここでは、第1の多孔質層161および第2の多孔質層162の長手方向の長さは略同じであって、これらをまとめて多孔質層160と(以下の説明および図面において)記載する場合がある。
【0026】
さらに、図5(A)に、この欠損孔閉鎖材100の部分的な側面図を、図5(B)に図2および図5(A)のA-A断面図を、それぞれ示す。なお、図5(B)は、欠損孔閉鎖材100(より詳しくは第2の筒部120)の断面図であるが、コイルばね140の断面および生体吸収性繊維150の断面ならびに第2の多孔質層162の外観のみを図示して、矢示A方向から視認できる生体吸収性繊維150の編み目を図示していない。また、図1図5において、コイルばね140の存在および生体吸収性繊維150の編み目についての理解を容易にするために紙面奥側に配置された生体吸収性繊維150については図示していないとともに、欠損孔閉鎖材100の外観形状についての理解を容易にするためにこの欠損孔閉鎖材100の外観形状を点線で示している部分がある。さらに、全ての図において、この欠損孔閉鎖材100の筒体(第1の筒部110および第2の筒部120)の内面に沿うように配置されている多孔質層160(第1の多孔質層161および第2の多孔質層162)は、欠損孔閉鎖材100にハッチングを施すことにより示している。
【0027】
これらの図(特に図2)に示すように、この欠損孔閉鎖材100は、生体吸収性材料を用いた編み目状組織の2つの筒体(第1の筒部110および第2の筒部120)により形成されており、その形状はこのような2つの筒体から構成される、たとえば砂時計型、8の字型、2連の紡錘型(細長い棒状の真ん中が太く両端が細い紡錘形状物が2つ連続した形状)またはピーナッツ型(2粒の実を内包するピーナッツの殻の外観形状)と呼ばれるような形状を備える。このような形状を備える欠損孔閉鎖材100は、筒体の略中央部130の筒径が他の部分の筒径よりも小さくなるように略中央部130が絞られた形状を備える。すなわち、略中央部130を中心にして第1の端部112側の第1の筒部110と第2の端部122側の第2の筒部120とが形成されている。
【0028】
なお、限定されるものではないが、この欠損孔閉鎖材100は、略中央部130の筒径を他の部分の筒径よりも小さい形状になるように、第1の筒部110および第2の筒部120が一体的に編まれて、この欠損孔閉鎖材100の全体形状としては2つの筒体から構成される砂時計型、8の字型、2連の紡錘型またはピーナッツ型に形成される。
そして、図2から理解できるように、第1の多孔質層161および第2の多孔質層162(2箇所に設けられる多孔質層160)は、このような砂時計型、8の字型、2連の紡錘型またはピーナッツ型の形状に沿った傘形状を備えるものである。しかしながら、上述したように多孔質層は柔軟性を備え筒体の形状変化とともに多孔質層の形状も変化するために、図2に示すコイルばね140が中間状態の欠損孔閉鎖材100の筒体(第1の筒部110および第2の筒部120)の形状に合致する形状が、多孔質層の代表的な形状である傘形状を意味することになる。ただし、この多孔質層160が不織布、スポンジ、フィルムおよびこれらの複合体のいずれかから構成されているという素材の特性上、完全な傘形状を備えるものに限定されず、この欠損孔閉鎖材100の筒体(第1の筒部110および第2の筒部120)の内面に完全に沿って配置されているものに限定されるものではない。
【0029】
この場合において、このような砂時計型、8の字型、2連の紡錘型またはピーナッツ型の型枠(3次元型紙)を用いて、その型枠に合わせて1本の生体吸収性繊維150を編成することによりこの欠損孔閉鎖材100の全体形状が形成される。さらに、限定されるものではないが、この欠損孔閉鎖材100は、第1の筒部110および第2の筒部120が一体的に編まれて略同一径の筒体を編成した後に熱セットすること等により、略中央部130の筒径が他の部分の筒径よりも小さく、かつ、略中央部130の筒径がコイルばね140の直径よりも大きい略中央部130を形成して、この欠損孔閉鎖材100の全体形状としては2つの筒体から構成される砂時計型、8の字型、2連の紡錘型またはピーナッツ型に形成されるようにしても構わない。そして、詳しくは後述するが、このような形状と
することにより、図3に示すカテーテル300の内部(内壁310により形成される空間)にその全体が収納されている欠損孔閉鎖材100を、第1の筒部110側から第2の筒部120をカテーテル300の開口部320から矢示Y方向に押し出すと第2の筒部120がカテーテル300の内壁310により形成される空間から開放されて第2の筒部120のコイルばね140が収縮して図4の状態になって、さらに第1の筒部110を矢示Y方向に押し出すと第1の筒部110がカテーテル300の内壁310により形成される空間から開放されて第1の筒部110のコイルばね140が収縮して図1の状態になるという形状の変化を実現させることができる。
【0030】
さらに、この欠損孔閉鎖材100は、その一端が第1の端部112側に設けられる筒状の金属片412に連結され、他の端部が第2の端部122側に設けられる筒状の金属片422に連結され、第1の端部112側から略中央部130を介して第2の端部122側まで第1の筒部110および第2の筒部120の内部に通されたコイルばね140を備える。なお、コイルばね140と筒状の金属片412および筒状の金属片422との連結については後述する。
【0031】
図1に示すように、このコイルばね140が収縮状態であるときに、第1の端部112と第2の端部とが略中央部130を中心にして接近して、略中央部130以外の他の部分である第1の筒部110および第2の筒部120の筒径が拡張される。特に好ましくは、このコイルばね140が収縮状態であるときに、この欠損孔閉鎖材100により閉鎖される欠損孔に対応した大きさまで、略中央部130以外の他の部分である第1の筒部110および第2の筒部120の筒径が拡張される。そして、このように略中央部130以外の他の部分である第1の筒部110および第2の筒部120の筒径が拡張されることに伴い、第1の多孔質層161および第2の多孔質層162が、この欠損孔閉鎖材100により閉鎖される欠損孔に対応した大きさまで拡張される。
【0032】
そして、図3に示すように、この欠損孔閉鎖材100をカテーテル300に収納すること等により、このコイルばね140が伸張状態であるときに、第1の端部112と第2の端部122とが略中央部130を中心にして離隔して、他の部分である第1の筒部110および第2の筒部120の筒径が縮小される。特に好ましくは、このコイルばね140が伸張状態であるときに、この欠損孔閉鎖材100が収納されるカテーテル300に対応した大きさまで他の部分である第1の筒部110および第2の筒部120の筒径が縮小される。そして、このように他の部分である第1の筒部110および第2の筒部120の筒径が縮小されることに伴い、第1の多孔質層161および第2の多孔質層162が、この欠損孔閉鎖材100が収納されるカテーテル300に対応した大きさまで縮小される。
【0033】
このように略中央部130の筒径よりも小さい直径のコイルばね140を用いることにより、欠損孔閉鎖材100における筒体の長手方向の第1の端部112と他の端部である第2の端部122とを接近させたり離隔させたりすることができる。このコイルばね140を収縮状態とすると図1に示すように、第1の端部112と第2の端部122とが接近して、略中央部130の他の部分の筒径(第1の筒部110および第2の筒部120における胴部分の筒径)が拡張され、このコイルばね140を伸張状態とすると図3に示すように、第1の端部112と第2の端部122とが離隔して、略中央部130の他の部分の筒径(第1の筒部110および第2の筒部120における胴部分の筒径)が縮小される。さらに、図4に示すように、カテーテル300から第2の筒部120を矢示Y方向に押し出すとカテーテル300の内壁310により形状が規制されていた第2の筒部120が自由に形状を変化でき、コイルばね140の中で第2の筒部120に内包された部分だけが収縮して第2の筒部120における胴部分の筒径だけが拡張される。そして、さらに、カテーテル300から第1の筒部110を矢示Y方向に押し出すとカテーテル300の内壁310により形状が規制されていた第1の筒部110も自由に形状を変化でき、コイルばね140の中で第1の筒部110に内包された部分も収縮して図1に示すように第1の筒部110における胴部分の筒径も拡張される。
【0034】
そして、この欠損孔閉鎖材100においては、不織布、スポンジ、フィルムおよびこれらの複合体のいずれかから構成された多孔質層160(第1の多孔質層161および第2
の多孔質層162)が、筒体の内面に配置されている。第1の筒部110および第2の筒部120は、生体吸収性繊維150の織物(目の粗いもの)、編み物、組み紐状織物、または、筒編み状編み物で構成されており、全体が編み目状組織とされている。ここで確認的に記載するが、この編み目状組織は編成により形成される編み物に限定されるものではなく、上述したように網戸のような目の粗い織り組織により網目状組織が形成されるものを含む。すなわち、編み目状と呼ばれる組織であっても網目状と呼ばれる組織であっても構わない。多孔質層160(第1の多孔質層161および第2の多孔質層162)は、薬剤を塗布、含浸、埋め込みなどで保持させることを想定して、不織布、スポンジ、フィルム、または、これらの複合体のいずれかで構成されている。さらに、この多孔質層160(第1の多孔質層161および第2の多孔質層162)は、生体吸収性材料に限定されるものではなく、生体に吸収されない材料であっても構わない。さらに、多孔質層160(第1の多孔質層161および第2の多孔質層162)は、上述したように柔軟性を備えるために、略中央部130以外の他の部分である筒体(第1の筒部110および第2の筒部120)の筒径が拡張/縮小されること伴い、第1の筒部110および第2の筒部120の内面に配置された多孔質層160(第1の多孔質層161および第2の多孔質層162)も(筒体の形状変化と同じように形状が変化することにより)拡張/縮小されることになる。
【0035】
このように、基本的には、たとえばニッケル-チタン合金製のコイルばね140、たとえばステンレス製の金属片412および金属片422、たとえば手術縫合糸で形成される形状保持部材(根元側の第1の形状保持部材610および先端側の第2の形状保持部材620)を除いて、第1の筒部110、第2の筒部120および多孔質層160(第1の多孔質層161および第2の多孔質層162)は全て生体吸収性材料で構成されているために、コイルばね140、金属片412および金属片422を除く欠損孔閉鎖材100の全体が生体吸収性を備える(生体吸収性を向上させるために第1の形状保持部材610および第2の形状保持部材620を形成する手術縫合糸は生体吸収性を備えるように形成することが好ましい)。さらに、欠損孔閉鎖材100の形状が変化することにより欠損孔を閉鎖する治療が行われるわけであるが、欠損孔閉鎖材100のこのように生体内で形状が変化しても生体内組織を損傷することがないような、素材、編み目形状、繊維組織および繊維断面で欠損孔閉鎖材100が、多孔質層160(第1の多孔質層161および第2の多孔質層162)を含めて、形成されている。
【0036】
なお、通常、コイルばね140はたとえばニッケル-チタン合金等が用いられ生体吸収性を備えず、金属片412および金属片422たとえばステンレス等が用いられ生体吸収性を備えないが、後述するマグネシウムをベースとする合金を用いて生体吸収性を備えるようにしても構わない。コイルばね140、金属片412および金属片422に、生体吸収性を備える合金を使用するとレントゲン撮像に反応する点で有利であって、生体吸収性を備える合金を使用すると金属製部材が体内に一生涯残存しないことになるため遠隔期の不具合が懸念されるという問題点を生じない点で有利である。
【0037】
第1の筒部110および第2の筒部120を構成している生体吸収性繊維150は、たとえば、ポリグリコール酸、ポリラクチド(D、L、DL体)、ポリカプロラクトン、グリコール酸-ラクチド(D、L、DL体)共重合体、グリコール酸-ε-カプロラクトン共重合体、ラクチド(D、L、DL体)-ε-カプロラクトン共重合体、ポリ(p-ジオキサノン)、グリコール酸-ラクチド(D、L、DL体)-ε-カプロラクトン共重合体等から選択される少なくとも1種とされ、モノフィラメント糸、マルチフィラメント糸、撚糸、組み紐などのいずれかに加工した形態で使用されるが、モノフィラメント糸の形態で使用されるのが好ましい。
【0038】
さらに、この生体吸収性繊維150の素材は、生体吸収性合金であっても構わない。このような生体吸収性合金の一例として、原材料としてマグネシウムをベースとする合金が挙げられる。
生体吸収性繊維150の直径は、0.001mm~1.5mm程度とされ、適用するカテーテル治療に適切な繊維径および種類が選定される。また、生体吸収性繊維150の断
面は、生体内組織を損傷しないことを条件として、円、楕円、その他の異形(たとえば星形)などのいずれであってもよい。さらに、生体吸収性繊維150の表面は、プラズマ放電、電子線処理、コロナ放電、紫外線照射、オゾン処理等により親水化処理してもよい。また、生体吸収性繊維150は、X線不透過材(たとえば、硫酸バリウム、金チップ、白金チップ等)の塗布または含浸処理や、薬剤(たとえば、心房中隔欠損症のカテーテル治療に適した薬剤)の付着処理、コラーゲン、ゼラチン等の天然高分子あるいはポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等の合成高分子でコーティング処理してもよい。
【0039】
第1の筒部110および第2の筒部120は、生体吸収性繊維150が、たとえば、モノフィラメント糸として所望される外径のシリコーン製ゴム管(図示省略)の回りに複数(たとえば、8口または12口)の給糸口をもつ組紐機を用いて組み紐状織物に製作され、または、丸編機(図示省略)で、略同一径の筒体の編み目状組織に編成される。編成後、上記したように、第1の筒部110および第2の筒部120との2つの筒体から構成される砂時計型、8の字型、2連の紡錘型またはピーナッツ型に形成される。第1の筒部110および第2の筒部120の筒径は、縮径した場合にカテーテルの内径よりも小さく、拡径した場合に心房中隔欠損症のカテーテル治療に好適な大きさを備える。たとえば、拡径した場合の第1の筒部110および第2の筒部120の筒径は、5mm~80mm、好ましくは15mm~25mm程度である。また、第1の筒部110および第2の筒部120の長さ、ならびに、欠損孔閉鎖材100の編み目状組織の密度についても、心房中隔欠損症のカテーテル治療に好適な密度を備える。なお、第1の筒部110および第2の筒部120の筒径および長さは、同じである必要はなく、心房中隔欠損症のカテーテル治療に好適なように変更すれば良い。
【0040】
多孔質層160(第1の多孔質層161および第2の多孔質層162)を構成する生体吸収性材料としては特に限定されず、たとえば、ポリグリコール酸、ポリラクチド(D、L、DL体)、ポリカプロラクトン、グリコール酸-ラクチド(D、L、DL体)共重合体、グリコール酸-ε-カプロラクトン共重合体、ラクチド(D、L、DL体)-ε-カプロラクトン共重合体、ポリ(p-ジオキサノン)、グリコール酸-ラクチド(D、L、DL体)-ε-カプロラクトン共重合体等の合成吸収性高分子が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。なかでも、適度な分解挙動を示すことから、ポリグリコール酸、ラクチド(D、L、DL体)-ε-カプロラクトン共重合体、グリコール酸-ε-カプロラクトン共重合体およびグリコール酸-ラクチド(D、L、DL体)-ε-カプロラクトン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種が好適で、不織布、スポンジ、フィルムまたはこれらの複合体のいずれかから構成される。特に、好ましい態様としては、不織布を例示できる。
【0041】
さらに、この多孔質層160(第1の多孔質層161および第2の多孔質層162)の素材は、生体吸収性合金であっても構わない。このような生体吸収性合金の一例として、原材料としてマグネシウムをベースとする合金が挙げられる。
この多孔質層160(第1の多孔質層161および第2の多孔質層162)が不織布の場合は、親水化処理が施されていてもよい。親水化処理としては特に限定されず、たとえば、プラズマ処理、グロー放電処理、コロナ放電処理、オゾン処理、表面グラフト処理または紫外線照射処理等が挙げられる。なかでも、不織布層の外観を変化させることなく吸水率を飛躍的に向上できることからプラズマ処理が好適である。なお、多孔質層160(第1の多孔質層161および第2の多孔質層162)は、スポンジ層またはフィルム層でもよく、または、不織布とスポンジ層との複合層、不織布とフィルム層との複合層、スポンジ層とフィルム層との複合層、不織布とスポンジ層とフィルム層との複合層、としてもよい。
【0042】
この多孔質層160(第1の多孔質層161および第2の多孔質層162)には、心房中隔欠損症のカテーテル治療に適した薬剤が保持されるようにすることも好ましい。
以上のように、本実施の形態に係る欠損孔閉鎖材100は、以下の特徴を備える。
(第1の特徴)略中央部130において絞られた第1の筒部110および第2の筒部120から構成される砂時計型、8の字型、2連の紡錘型またはピーナッツ型に形成されてい
る。
(第2の特徴)一端が第1の端部112に係合され(第1の端部112のループ状の線材に引っかけられ)他端が第2の端部122に係合され(第2の端部122のループ状の線材に引っかけられ)、第1の端部112側から略中央部130を介して第2の端部122側まで第1の筒部110および第2の筒部120の内部に通されたコイルばね140を備えている。
(第3の特徴)第1の筒部110、第2の筒部120、コイルばね140(マグネシウムをベースとする合金で形成されている場合)および多孔質層160(第1の多孔質層161および第2の多孔質層162)により構成され、これらの素材は全て生体吸収性材料で構成されている(コイルばね140は、必ずしも生体吸収性を備える必要はない)。
(第4の特徴)第1の筒部110の長手方向における略中央部130側に第1の多孔質層161が、第2の筒部120の長手方向における略中央部130の反対側に第2の多孔質層162が、それぞれ筒体の内面にその内面に沿うように配置されている。
【0043】
そして、第1の特徴および第2の特徴により、カテーテル300に収納されたこの欠損孔閉鎖材100に対して、カテーテル300から第2の筒部120を押し出すとカテーテル300の内壁310により形状が規制されていた第2の筒部120が自由に形状を変化でき、コイルばね140の全体のうちの第2の筒部120に内包された部分だけが収縮して第2の筒部120における胴部分の筒径だけが拡張され、さらに、カテーテル300から第1の筒部110を押し出すとカテーテル300の内壁310により形状が規制されていた第1の筒部110も自由に形状を変化でき、コイルばね140の全体のうちの第1の筒部110に内包された部分も収縮して第1の筒部110における胴部分の筒径も拡張される。そして、このように胴部分の筒径が拡張されることに伴い、第1の多孔質層161および第2の多孔質層162が、この欠損孔閉鎖材100により閉鎖される欠損孔に対応した大きさまで拡張される。
特に、この欠損孔閉鎖材100は、以下の作用を発現する点で、心房中隔欠損症のカテーテル治療に適している。
【0044】
(第1の作用)コイルばね140の全体を伸張させることにより、多孔質層を含めて欠損孔閉鎖材100の筒径をカテーテル300の内径よりも細くして、カテーテル300にセットすることができる。
(第2の作用)カテーテル300にセットして心房中隔に開いた穴の位置まで送り込まれて、生体内で第1の端部112をアプリケータ等で押して第2の筒部120をカテーテル300から生体内へ押し出すと第2の筒部120のコイルばね140が収縮して第2の筒部120における胴部分の筒径が拡張されるとともに、第2の多孔質層162が、この欠損孔閉鎖材100により閉鎖される欠損孔に対応した大きさまで拡張され、さらに第1の端部112をアプリケータ等で押して第1の筒部110をカテーテル300から生体内へ押し出すと第1の筒部110のコイルばね140も収縮して第1の筒部110における胴部分の筒径も拡張されるとともに、第1の多孔質層161が、この欠損孔閉鎖材100により閉鎖される欠損孔に対応した大きさまで拡張されて、右心房側に配置された第1の筒部110と左心房側に配置された第2の筒部120とが略中央部130を中心にして接近して、心房中隔に開いた穴を塞ぐことができる。
【0045】
(第3の作用)この欠損孔閉鎖材100を構成する素材(コイルばね140、金属片412および金属片422を除く場合がある)は全て生体吸収性材料であるので、最終的に生体内に吸収されるので遠隔期の不具合の可能性がほとんどなくなる。
(第4の作用)この欠損孔閉鎖材100が備える第1の多孔質層161および第2の多孔質層162は、進行方向(矢示Y方向である先端側)に向かって先細りしている傘形状を備えるために(進行方向に向かって広がっていないために)、矢示Y方向へ押し出すときの抵抗が少ない。そして、第1の筒部110および第2の筒部120ならびに第1の多孔質層161および第2の多孔質層により心房中隔に開いた穴を確実に塞ぐことができる。
【0046】
[形状保持部材]
詳しくは使用態様として後述するように、この欠損孔閉鎖材100を心房中隔欠損症の
カテーテル治療に使用する場合においては、たとえば図6図9に示すように欠損孔閉鎖材100の筒径をカテーテル300の内径よりも細くしてカテーテル300にセットして、大腿静脈より欠損孔閉鎖材100が収納されたカテーテル300を挿入して、右心房210側より欠損孔252を通して左心房230側に欠損孔閉鎖材100が収納されたカテーテル300を近づける。カテーテル300から第1の筒部110を次に第2の筒部120をアプリケータ等(一例として操作ワイヤー500)で矢示Y方向へ押し出す。この場合において、欠損孔閉鎖材100を長手方向に沿って移動させるために長手方向に沿って操作ワイヤー500でカテーテル300から押し出す力を欠損孔閉鎖材100に作用させることになる。
【0047】
図16(A)に示す状態において操作ワイヤー500で押し出す力を欠損孔閉鎖材100に作用させると、図16(B)に示すように欠損孔閉鎖材100の形状を保持できない場合があった。すなわち、操作ワイヤー500で押し出す力は欠損孔閉鎖材100の根元側のみからしか作用させることができないために、第1の筒部110の線材150が変形してしまい、図16(B)のように欠損孔閉鎖材100の形状が変形する場合があった。このため、本実施の形態に係る欠損孔閉鎖材100は、大きな特徴として、以下に詳述する形状保持部材を備える。
【0048】
この形状保持部材は、欠損孔閉鎖材100の第1の筒部110側(根元側)の第1の形状保持部材610および欠損孔閉鎖材100の第2の筒部120側(先端側)の第2の形状保持部材620の少なくともいずれかであって、コイルばね140の両端のうちの少なくともいずれかに設けられ(以下においては第1の形状保持部材610および第2の形状保持部材620の両方を備えるものとして説明する)、コイルばね140の端部に連結されている。そして、この形状保持部材は、欠損孔閉鎖材100(自体)を移動させるために欠損孔閉鎖材100の長手方向に沿って作用する外力(ここでは操作ワイヤー500で押し出す力であるが単に外力と記載する場合がある)に抗して欠損孔閉鎖材100の形状を保持する。
【0049】
ここで、形状保持部材が連結されるコイルばね140の端部は、編み目状組織の筒体の外部に設けられた小筒部であって操作ワイヤーと螺合可能な小筒部と接合されてコイルばね140と一体化されており、コイルばね140と一体化された小筒部に形状保持部材が連結されている。より具体的には、上述したように、この小筒部は、筒状の金属片412(根元側)と筒状の金属片422(先端側)であって、根元側の金属片412および先端側の金属片422の両方が形状保持部材と連結可能に形成され、少なくとも根元側の金属片412は操作ワイヤー500と螺合可能に形成されている。
【0050】
このように本実施の形態に係る欠損孔閉鎖材100は大きな特徴として形状保持部材を備えるが、この形状保持部材は小筒部である筒状の金属片412および金属片422に連結されているために、まず、これらの金属片412および金属片422について説明する。
欠損孔閉鎖材100は、弾性部材(コイルばね140)の端部が、編み目状組織の筒体(第1の筒部110および第2の筒部120)の外部に設けられた小筒部であって、操作ワイヤー500と螺合可能な小筒部と接合されている。
【0051】
図1に示した欠損孔閉鎖材100の全体図(コイルばね140が収縮状態)、図2に示した欠損孔閉鎖材100の全体図(コイルばね140が中間状態)に加えて、図10に示すこれらの図1および図2の根元側の部分拡大図を参照して、この形状保持部材が連結される、小筒部である筒状の金属片412および金属片422について説明する。以下においては、これらの金属片412および金属片422のうちの操作ワイヤー500と螺合可能に形成されている根元側の金属片412について説明する。先端側の金属片422は、操作ワイヤー500と螺合可能に形成されていても形成されていなくとも構わず、以下においては先端側の金属片422は操作ワイヤー500と螺合可能に形成されていないものとするが、操作ワイヤー500と螺合可能に形成されていない点を除けば(特にコイルばね140との接合態様および形状保持部材との連結態様)その構成および作用効果は先端側の金属片422も根元側の金属片412も同じであるので、根元側の金属片412で代
表させて説明する場合がある。
【0052】
これらの図に示すように、根元側の金属片412は、カテーテル300の内部に挿入される操作ワイヤー500の先端部510に設けられた雄ネジ部514と螺合可能な雌ネジ部414を備える。この点を除けば、先端側の金属片422も根元側の金属片412も同じ構成である。
これらの図に示すように、これらの先端側の金属片422および根元側の金属片412は、編み目状組織の筒体(第1の筒部110および第2の筒部120)の外部に設けられる。コイルばね140の両端部142が、カテーテル300の内部に挿入される小筒部(より具体的には先端側の金属片422および根元側の金属片412)と接合されている。たとえば、図10に示すように(ここでは根元側の金属片412で根元側の金属片412および先端側の金属片422を代表させる)、両端部142に金属片412が接合されたコイルばね140が、第1の端部112側から略中央部130を介して第2の端部122側まで第1の筒部110および第2の筒部120の内部に通されている。なお、金属以外の材質の小筒部であっても構わない。そして、上述したように、コイルばね140にニッケル-チタン合金が採用され、金属片410にステンレスが採用されることを例示できる。このような金属の組合せの場合の接合方法としては、図10に示すように小筒状の金属片412に、コイルばね140の両端部142の直径よりもわずかに小さい直径のカシメ穴418を設けて、カシメによる接合が例示できる。このようにしてコイルばね140にカシメにより接合された金属片412および金属片422は、図11および図12に示すように、コイルばね140が伸縮してもコイルばね140との接合が解除されることがない。
【0053】
ここで、コイルばね140の一端が第1の端部112に係合され(たとえば第1の端部112の線材のループに引っかけられ)、他の端部が第2の端部122に係合され(たとえば第2の端部122の線材のループに引っかけられ)ている。そして、両端部142に金属片412および金属片422が接合されたコイルばね140が、第1の端部112側から略中央部130を介して第2の端部122側まで第1の筒部110および第2の筒部120の内部に通されている。
【0054】
コイルばね140の両端が第1の端部112の線材と第2の端部122の線材とにそれぞれ係合されているとは、上述したように、コイルばね140と欠損孔閉鎖材100の両端部の線材とが直接的に係合されていることに加えて、金属片412および金属片422を介して、コイルばね140と欠損孔閉鎖材100の両端部の線材とが係合されている場合を含む。すなわち、上述したように、金属片412および金属片422とコイルばね140とがカシメ等により接合され、金属片412および金属片422が欠損孔閉鎖材100の両端部の線材と接合されている場合である。
【0055】
ここで、形状保持部材との連結のために、図10図12に示すように、金属片412および金属片422は、小筒状の外面から内面に貫通する貫通穴416および貫通穴426を、(図15に示すように)金属片412および金属片422の外面に略180度離隔させて2つずつ設けている。なお、上述したカシメ穴はこの貫通穴と連結されているために(中空円筒形の金属片の外面から内筒に貫通するようにカシメ穴および貫通穴が設けられている)、金属片のカシメ穴側から小筒状の内筒側を通って、貫通穴を経由して金属片の外面側へ内挿糸を通すことができる。
【0056】
形状保持部材としては、たとえば、図14および図15に示すように(図14では第2の形状保持部材620で第1の形状保持部材610および第2の形状保持部材620を代表させている)、コイルばね140の両端に設けられた、欠損孔閉鎖材100の第1の筒部110側(根元側)の第1の形状保持部材610および欠損孔閉鎖材100の第2の筒部120側(先端側)の第2の形状保持部材620である。これらの形状保持部材610および形状保持部材620(の本体)は、図13に示すように、糸(以下において外装糸と記載する場合がある)をらせん状に巻いて形成された外装部612および外装部622と、これらの外装部612および外装部622のそれぞれのらせん状の中心を貫くように内挿された内挿糸614および内挿糸624とを含む。なお、図13(A)の状態が外装
部に力が作用していない状態で、図13(B)の状態が外装部に紙面左右方向に力が作用してらせん状(カール状)の外装部が伸びている状態を示している。いずれの場合においても外装部はらせん状(カール状)の形状を保持しており、外装部が外力を効果的に吸収する点でこの形状が好ましい。
【0057】
ここで、このように第1の形状保持部材610および第2の形状保持部材620がコイルばね140の両端のうちの両方に設けられる場合において、外装部612を構成する外装糸の太さと、外装部622を構成する糸の太さが異なる。特に、カテーテル300にこの欠損孔閉鎖材100が収納された場合に、根元側となる形状保持部材の方が先端側となる形状保持部材よりも、外装部を構成する糸の太さが太いことが好ましい。すなわち、根元側の第1の形状保持部材610における外装部612の外装糸の太さが、先端側の第2の形状保持部材620における外装部622の外装糸の太さよりも太いことが特に好ましい。
【0058】
さらに具体的には、限定されるものではないが、外装糸および内挿糸ともに、手術用の縫合糸が用いられる。糸の太さ(縫合糸の直径)としては、
・根元側の太い方の第1の形状保持部材610における外装部612の外装糸の太さがUSPサイズ3-0(0.20~0.249mm)、
・先端側の細い方の第2の形状保持部材620における外装部622の外装糸の太さがUSPサイズ4-0(0.15~0.199mm)、
・内挿糸614および内挿糸624の太さがUSPサイズ6-0(0.070~0.099mm)
である。
【0059】
この外装部612および外装部622は、それぞれの外装糸を、たとえば、0.5mm直径の金属棒に巻き付けて熱固定することによりらせん状(カール状)に形成される。そして、このように形成されたらせん状(カール状)の外装部612および外装部622に内挿糸614および内挿糸624が挿入されて、第1の形状保持部材610および第2の形状保持部材620が形成される。
【0060】
そして、図14に示すように、これらの第1の形状保持部材610を欠損孔閉鎖材100の根元側に、および、第2の形状保持部材620を欠損孔閉鎖材100の先端側に、それぞれ設けられる。この場合において、上述したように、コイルばね140の一端が第1の端部112に係合され(たとえば第1の端部112の線材のループに引っかけられ)、コイルばね140の他の端部が第2の端部122に係合され(たとえば第2の端部122の線材のループに引っかけられ)ており、かつ、コイルばね140の両端は金属片412および金属片422とそれぞれカシメ等により接合されている。これに加えて、根元側の金属片412に第1の形状保持部材610が、先端側の金属片422に第2の形状保持部材620が、それぞれ連結されている。この金属片と形状保持部材との連結態様について、図14および図15を参照して説明する。
【0061】
図14(A)は欠損孔閉鎖材100の端部(ここでは先端側)の詳細図であって、図14(B)はその斜視図(仮想的な斜視図)である。そして、図15(A)は、図14(A)に対応し金属片と形状保持部材との連結態様を説明するためのさらに詳細な図であって、図15(B)は図15(A)を紙面裏面側から見た図であって、図15(C)は図15(A)に対応し外装部を仮想的に取り外して内挿糸のみを示した図である。なお、外装部の長さについては、この欠損孔閉鎖材100における金属片と形状保持部材との連結態様を容易に理解するために、図14および図15においては金属片の外周分程度として表している。
【0062】
外装部の長さおよび金属片における外装部の位置については、後述する作用効果を発現して、欠損孔閉鎖材100(自体)を移動させるために欠損孔閉鎖材100の長手方向に沿って作用する外力に抗して欠損孔閉鎖材100の形状を保持することができれば、特に限定されるものではない。たとえば、外装部の長さは、金属片の外周分程度でも、金属片の半周分程度でも、金属片の外周2周以上であっても構わない。いずれにしても、図13に示すように、外装部がどのような伸長状態であっても、外装部の形状はらせん状(カー
ル状)であって外力を吸収しやすく、外装部の長さは内挿糸よりも短く外装部の両端から内挿糸が露出しておりこの露出した内挿糸を用いて金属片に形状保持部材が連結される。
【0063】
また、金属片と形状保持部材との連結態様については、根元側の第1の金属片412と第1の形状保持部材610との連結態様も、先端側の第2の金属片422と第2の形状保持部材620との連結態様も同じであるために、以下においては、根元側の第1の形状保持部材610で代表させて金属片と形状保持部材との連結態様を説明する。
これらの図に示すように、限定されるものではないが、外装部612を筒状の金属片412に巻き付けて(金属片において外装部を巻き付ける位置として図示した位置は一例でしかない)、金属片412の先端側で内挿糸614を交差させて一重結びして、金属片412の先端側から内筒側へ内挿糸614の終端部614Eを通して、貫通穴416から内筒側から外面側へ出して、内挿糸614を交差させて一重結びすることにより、根元側の第1の形状保持部材610が金属片412に連結される。
【0064】
そして、図15には図示していないが、内挿糸614の終端部614Eは、欠損孔閉鎖材100の略中央部130へ向かい、内挿糸614は、欠損孔閉鎖材100を形成する線材および多孔質層に交絡して(絡んで)いる。すなわち、内挿糸614により欠損孔閉鎖材100を形成する線材と多孔質層とが連結されている。これにより、多孔質層の欠損孔閉鎖材100における位置がずれることを抑制することができる。
【0065】
このような作用を容易に理解するために、この欠損孔閉鎖材100を心房中隔欠損症のカテーテル治療に使用した場合について、図6図9を参照して説明する。
[使用態様]
図6にこの欠損孔閉鎖材100を心房中隔欠損症のカテーテル治療に用いる場合の概念図を、図7図9にこのカテーテル治療の手順を示す図6のB部の拡大図を、それぞれ示す。なお、以下においては、本実施の形態に係る欠損孔閉鎖材100の使用態様に特有の事項についてのみ説明し、一般的な事項については、公知の心房中隔欠損症のカテーテル治療と同じ説明であるのでここでの詳細な説明は繰り返さない。
【0066】
図6に示すように、人間の心臓200は、上大静脈および下大静脈に接続され全身から静脈血を受け入れる右心房210、肺動脈および三尖弁260を介して右心房210に接続され肺へ静脈血を送り出す右心室220、肺静脈に接続され肺からの動脈血を受け入れる左心房230、大動脈および僧帽弁270を介して左心房230に接続され全身へ動脈血を送り出す左心室240の2心房2心室で構成されている。心房中隔欠損症は、右心房210と左心房230とを隔てる心房中隔250に欠損孔252が開いているという疾患である。なお、図6においては、理解しやすくするために、カテーテル300の先端側を仮想線で示して、カテーテル300に収納された欠損孔閉鎖材100を実線にて示す。
【0067】
まず、生体外において、欠損孔252に対して適切な大きさまで拡張する欠損孔閉鎖材100の第1の端部112と第2の端部122とが離隔する方向へ引っ張ってコイルばね140の全体を伸張させて多孔質層160(第1の多孔質層161および第2の多孔質層162)を含む欠損孔閉鎖材100の筒径がカテーテル300の内径よりも細くして、カテーテル300にセットする。大腿静脈より欠損孔閉鎖材100が収納されたカテーテル300を挿入して(図3参照)、カテーテル300を矢示X(1)方向)へ移動させて、右心房210側より欠損孔252を通して左心房230側に欠損孔閉鎖材100が収納されたカテーテル300を近づける。
【0068】
図6および図7に示すように、欠損孔閉鎖材100の略中央部130が欠損孔252付近に対応するような位置で、欠損孔閉鎖材100を収納したカテーテル300を停止させる。生体内において、カテーテル300から第2の筒部120をアプリケータ等で矢示Y方向へ押し出すとカテーテル300の内壁310により形状が規制されていた第2の筒部120が自由に形状を変化でき、コイルばね140の中で第2の筒部120に内包された部分だけが収縮して第2の筒部120における胴部分の筒径および第2の多孔質層162だけが、図8に示すように拡張される。
【0069】
そして、さらに、カテーテル300から第1の筒部110をアプリケータ等で矢示Y方向へ押し出すとカテーテル300の内壁310により形状が規制されていた第1の筒部1
10も自由に形状を変化でき、コイルばね140の中で第1の筒部110に内包された部分も収縮して第1の筒部110における胴部分の筒径および第1の多孔質層161も、図9に示すように拡張される。
【0070】
すなわち、この欠損孔閉鎖材100をカテーテル300からアプリケータ等で押し出すと、左心房側に配置された第2の筒部120および第2の多孔質層162が先に拡張して、次いで右心房側に配置された第1の筒部110および第1の多孔質層161が後で拡張する。その結果、右心房210側に配置された第1の筒部110および第1の多孔質層161と左心房230側に配置された第2の筒部120および第2の多孔質層162とが略中央部130(欠損孔252)を中心にして接近するとともに、第1の筒部110および第1の多孔質層161、ならびに、第2の筒部120および第2の多孔質層162が拡張する。最終的には、図9に示すように、第1の筒部110および第1の多孔質層161と、第2の筒部120および第2の多孔質層162とにより心房中隔250をその両側から挟み込み、欠損孔閉鎖材100により、心房中隔250に開いた欠損孔252を塞ぐことができる。
【0071】
その後、矢示X(2)方向へカテーテル300を移動させて、カテーテル300を生体外に取り出して治療が完了する。これにより、生体内には(正確には欠損孔252付近)には、全て生体吸収性材料から構成された欠損孔閉鎖材100(コイルばね140、金属片412および金属片422を除く場合がある)が留置される。このように生体内に留置された欠損孔閉鎖材100の素材は全て生体吸収性材料であるので(コイルばね140、金属片412および金属片422を除く場合がある)、最終的に生体内に吸収されるので遠隔期の不具合の可能性がほとんどない。
【0072】
なお、コイルばね140を備えない場合には、欠損孔閉鎖材100を生体内に留置する前に、欠損孔閉鎖材100の形態を図9に示す形態に固定する必要があり、たとえば、生体吸収性繊維150が熱融着性を備えるようにしておいて生体内で生体吸収性繊維150を熱セットすることが考えられていた。しかしながら、この欠損孔閉鎖材100においてはコイルばね140により欠損孔閉鎖材100の形態を図9に示す形態に固定することができるので有利である。
【0073】
そして、このような使用態様において、操作ワイヤー500でカテーテル300から第1の筒部110を次に第2の筒部120を矢示Y方向へ押し出す場合において、欠損孔閉鎖材100を長手方向に沿って移動させるために長手方向に沿って外力(操作ワイヤー500で押し出す力)を作用させる。このような外力を作用させると、形状保持部材を全く備えない欠損孔閉鎖材では、図16(B)に示すように、欠損孔閉鎖材の形状を保持できない場合があった。
【0074】
これに対して、少なくとも1つの形状保持部材を備えたこの欠損孔閉鎖材100を使用すると、このような外力は欠損孔閉鎖材100の根元側のみからしか作用させることができないとしても、らせん状(カール状)の外装部およびその外装部を金属片に連結する内挿糸とを備えた形状保持部材により、外力が作用しても、第1の筒部110が変形してしまうことにより欠損孔閉鎖材100の形状が変形してしまうことを抑制して、欠損孔閉鎖材100の形状を保持することができる。
【0075】
以上のようにして、本実施の形態に係る欠損孔閉鎖材100によると、その全てが生体吸収性材料から構成されており(コイルばね140、金属片412および金属片422を除く場合がある)最終的に体内に吸収されるため、遠隔期の不具合の可能性がほとんどない。また、コイルばね140を備えることにより欠損孔閉鎖材100の筒径が多孔質層とともに容易に変化するので、欠損孔閉鎖材100の筒径および多孔質層の大きさを細く変化させてカテーテルに容易にセットすることができる。さらに、欠損孔の位置にて、欠損孔閉鎖材100をカテーテル300から押し出すだけでコイルばね140を備えることにより、欠損孔閉鎖材100の筒径を多孔質層とともに太くかつ2つの筒体が接近するように容易に変化させることができ、かつ、その形態を容易に固定することができて、心房中隔に開いた欠損孔を塞ぐことができる。
【0076】
さらに、本実施の形態に係る欠損孔閉鎖材100によると、形状保持部材を備えている
ために、欠損孔閉鎖材100を移動させるために欠損孔閉鎖材100の長手方向に沿って作用する外力が作用しても、その外力に抗して欠損孔閉鎖材100の形状を保持することができるので、心房中隔に開いた欠損孔を好ましい操作性で確実に塞ぐことができる。
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、生体組織に形成された欠損孔を治療するためにカテーテルにセットされる医療用材料に好適であり、治療部位にて放出・留置できて低侵襲の治療が可能で、医療用材料が体内に残存しても遠隔期の不具合の可能性がほとんどない点、および、操作性が好ましい点で、特に好ましい。
【符号の説明】
【0078】
100 医療用材料(閉鎖栓)
110 第1の筒部
112 第1の端部
120 第2の筒部
122 第2の端部
130 略中央部
140 コイルばね
150 生体吸収性繊維
160 多孔質層(第1の多孔質層161、第2の多孔質層162)
200 心臓
250 心房中隔
252 欠損孔
300 カテーテル
610、620 形状保持部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図16