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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】天井防振材及び天井防振構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 9/00 20060101AFI20221227BHJP
   F16F 15/04 20060101ALI20221227BHJP
   E04B 1/98 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
E04B9/00 A
F16F15/04 A
E04B1/98 R
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019064464
(22)【出願日】2019-03-28
(65)【公開番号】P2020165124
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】598093277
【氏名又は名称】株式会社ポリシス
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】中瀬 弘之
(72)【発明者】
【氏名】毛利 隆人
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-028177(JP,A)
【文献】特開平08-232386(JP,A)
【文献】特開昭62-233537(JP,A)
【文献】特開2007-133246(JP,A)
【文献】特開2000-205333(JP,A)
【文献】特開2008-039153(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 9/00
E04B 1/62 - 1/99
F16F 15/00 -15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天井面材を支持する天井下地材において、対向する該天井下地材に架け渡される天井防振材であって、
前記天井下地材に係止される左右のL型の係止片と、左右の前記係止片を繋ぐ底片と、が一体とされている、正面視ハット型のハット材と、
前記底片の底面の左右二箇所に取り付けられていて、圧縮率10%乃至20%の範囲で圧縮された状態で前記天井面材に当接される防振材と、を有することを特徴とする、天井防振材。
【請求項2】
前記防振材の硬度が1度乃至20度の範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の天井防振材。
【請求項3】
前記ハット材が鋼製のハット材であり、該ハット材の厚みが3.2mm乃至4.5mmの範囲にあることを特徴とする、請求項1又は2に記載の天井防振材。
【請求項4】
天井面材と、該天井面材を支持する天井下地材と、対向する該天井下地材に架け渡される請求項1乃至3のいずれか一項に記載の天井防振材と、を有し、
前記防振材が圧縮率10%乃至20%の範囲に圧縮した状態で前記天井面材に当接していることを特徴とする、天井防振構造。
【請求項5】
前記ハット材が前記天井下地材に固定されていることを特徴とする、請求項4に記載の天井防振構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天井防振材及び天井防振構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の上階の床衝撃音は、上階の床を介してその振動が下方にある下階の天井に伝搬され、下階の天井が励振されることにより床衝撃音が下階へ放射される。尚、この床衝撃音には、63Hz前後の重量床衝撃音と、256Hz乃至500Hz程度の軽量床衝撃音が含まれる。
【0003】
例えば、格子状に組み付けられた天井下地材(野縁や野縁受等)に対して石膏ボード等からなる天井面材が留め付けられ、天井下地材は床梁から垂下される吊木にて支持される。天井面材のうち、天井下地材に直接留め付けられている箇所の振動は抑制されるものの、格子状の天井下地材の間にあって直接留め付けられていない箇所は振動し易い。
【0004】
そこで、天井面材の背面の全面に比較的重量のある遮音シートからなる天井防振材を配設する方策があるが、このように天井面材の上面の全面に重量のある遮音シートを配設したとしても、必ずしも床衝撃音を低減できないことが分かっている。また、全面に遮音シートを配設することにより材料コストのアップに繋がり、工費の観点においても好ましくない。さらに、重量のある遮音シートによって天井防振材の重量が重くなり過ぎると、建物の構造躯体に対する重量負担に繋がり得る。天井面材に強化石膏ボード等を適用して天井面材そのものの重量を重くすることにより、天井面材の振動低減を図ろうとする方策においても、同様の課題が生じ得る。従って、可及的に少ない面積でかつ軽量な天井防振材を配設しながら、重量床衝撃音と軽量床衝撃音の双方を効果的に低減できる防振性能に優れた天井防振材及び天井防振構造の開発が望まれている。
【0005】
ここで、天井下地材に対して、重量床衝撃音対応の中央部と、軽量床衝撃音対応の左右二箇所の端部と、を備えているダイナミックダンパーが提案されている。ダイナミックダンパーは、左右の野縁に係止される質量体(第一質量体とする)と、第一質量体の中央位置の上方に錘として載置される質量体(第二質量体とする)を有する。この第一質量体はその長手方向に三つの領域に区分され、中央の領域の上方には第二質量体が載置され、各領域の下方にはそれぞれの領域に対応して相互に分割された弾性体が取り付けられている。そして、第二質量体の負荷のない左右の領域が軽量床衝撃音を低減でき、第二質量体の負荷のある中央の領域が重量床衝撃音を低減できるとしている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-28177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のダイナミックダンパーによれば、中央の領域で重量床衝撃音を低減でき、左右の端部の領域で軽量床衝撃音を低減できるとしている。ところで、一般に、軽量床衝撃音を低減するように例えば256Hz乃至500Hz程度にチューニングされた防振材は、防振設計上は63Hz前後で共振することから、63Hz前後の重量床衝撃音に対して悪影響を及ぼす可能性がある。特許文献1に記載のダイナミックダンパーでは、このように軽量床衝撃音を低減するための領域が左右の端部の比較的広い範囲に設定されていることから、63Hz前後の重量床衝撃音の固体伝搬経路になりかねない。また、重量床衝撃音を低減するための中央領域においては、第一質量体の上に第二質量体が載置されていることから、防振材の重量が重くなり、建物の構造躯体に対する重量負担に繋がり得るといった課題を内包する。
【0008】
本発明は上記する課題に鑑みてなされたものであり、重量に依存することなく、広範囲の周波数帯域の床衝撃音に対する防振性を有する、天井防振材及び天井防振構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明による天井防振材の一態様は、
天井面材を支持する天井下地材において、対向する該天井下地材に架け渡される天井防振材であって、
前記天井下地材に係止される左右のL型の係止片と、左右の前記係止片を繋ぐ底片と、が一体とされている、正面視ハット型のハット材と、
前記底片の底面の左右二箇所に取り付けられていて、圧縮率10%乃至20%の範囲で圧縮された状態で前記天井面材に当接される防振材と、を有することを特徴とする。
【0010】
本態様によれば、防振材が圧縮率10%乃至20%の範囲で圧縮された状態で天井面材に当接されるようになっていることにより、上階の床衝撃音による天井面材が振動した際に、圧縮状態の防振材がこの天井面材の振動に追随しながら弾性変形して、上階の床衝撃音に起因する天井面材の振動を効果的に低減することができる。例えば、天井下地材にハット材が架け渡された状態において、天井面材は、ハット材の底面に取り付けられている防振材を圧縮率10%乃至20%の範囲(圧縮量としては例えば数mm程度)圧縮した状態で天井下地材に取り付けられるようになっている。すなわち、本態様の天井防振材は、天井下地材にハット材が架け渡された状態において、天井面材にて押圧されて防振材が圧縮率10%乃至20%の範囲に圧縮されるように、ハット材の係止片の高さや防振材の厚みが設定されている。
【0011】
防振材は数mm乃至十数mm程度の厚みを有しており、したがって圧縮率10%未満に設定することは難しい。また、20%を超える圧縮率では防振材が圧縮され過ぎて振動に対する応答性が悪くなり、十分な防振性が得られ難い。これらを理由として、防振材の圧縮率を10%乃至20%の範囲に規定している。ここで、ハット材には、例えば、鋼製のハット材や、比較的硬質の樹脂製のハット材が適用され、ある程度の重量を有しているのがよい。防振材が圧縮された状態において、ハット材が軽過ぎて上方に反った状態では、十分な防振性が得られ難いためである。
【0012】
尚、天井下地材にハット材を架け渡す施工段階では、係止片が天井下地材に係止されるが、天井下地材に天井面材が取り付けられ、防振材が天井面材にて下方から押圧されて所定の圧縮率で圧縮している施工完了段階では、係止片は天井下地材に係止された状態を維持していてもよいし、係止片が天井下地材から浮いた状態であってもよい。天井防振材が係止片を有していることで、施工時に天井防振材を天井下地材に係止できることのみならず、例えば地震時に天井防振材が落下することを防止できる。
【0013】
また、天井下地材に対する天井面材の取り付け方法は、一般に、天井の端部の天井面材を取り付けた後、目地を合わせるようにして取り付け済の天井面材に対して新たな天井面材をスライドさせながら天井下地材に留め付けていく。仮に、ハット材の底片の底面の一箇所(例えば中央位置)に防振材が取り付けられている形態では、上記するように天井面材をスライドさせながら留め付ける際に、一つの防振材がスライドする天井面材から横方向にひきずられる際にせん断力を受け、防振材には部位ごとに圧縮量(もしくは圧縮率)の分布が生じ易くなる。防振材の部位ごとに圧縮量(もしくは圧縮率)の分布があると、防振材が初期の防振性能を発揮できない恐れがある。そこで、本態様の天井防振材では、ハット材の底片の底面の左右二箇所に防振材が取り付けられていることにより、スライドしながら留め付けが行われる天井面材にて付与されるせん断力が左右二つの防振材に振り分けられることで、各防振材のせん断力による圧縮量(もしくは圧縮率)の分布を低減でき、防振材による初期の防振性能を保障することを可能にしている。
【0014】
また、本発明による天井防振材の他の態様は、前記防振材の硬度が1度乃至20度の範囲であることを特徴とする。
【0015】
本態様によれば、防振材の硬度が1度乃至20度の範囲にあることにより、施工時に上記する圧縮率10%乃至20%の範囲に容易に圧縮することができ、防振性に優れた天井防振材を形成することができる。尚、防振材の硬度は、1度乃至20度の範囲の中でも、1度乃至5度の範囲がより好ましい。
【0016】
また、本発明による天井防振材の他の態様において、前記ハット材が鋼製のハット材であり、該ハット材の厚みが3.2mm乃至4.5mmの範囲にあることを特徴とする。
【0017】
本態様によれば、ハット材が鋼製のハット材であって、その厚みが3.2mm乃至4.5mmの範囲にあることから、ハット材が適度な重量を有することとなり、施工段階で天井下地材に係止させているだけのハット材によって防振材を上記する10%乃至20%の範囲に圧縮することができる。また、ハット材が軽過ぎないことから、防振材が圧縮された状態において、ハット材が上方に反ることが抑制され、防振材による十分な防振性が保障される。
【0018】
また、本発明による天井防振構造の一態様は、
天井面材と、該天井面材を支持する天井下地材と、対向する該天井下地材に架け渡される前記天井防振材と、を有し、
前記防振材が圧縮率10%乃至20%の範囲に圧縮した状態で前記天井面材に当接していることを特徴とする。
【0019】
本態様によれば、防振材が圧縮率10%乃至20%の範囲で圧縮された状態で天井面材に当接していることにより、上階の床衝撃音に起因して天井面材が振動した際に、圧縮状態の防振材がこの天井面材の振動に追随しながら弾性変形して、広範囲の周波数帯域の床衝撃音(重量床衝撃音及び軽量床衝撃音)による天井面材の振動を効果的に防振することができる。ここで、防振材が圧縮率10%乃至20%の範囲で圧縮され、重量床衝撃音の周波数帯域である63Hz前後に防振材をチューニングしておくことにより、音の周波数と振動伝達率の間の一般的な関係に基づけば、例えば256Hz乃至500Hz程度の周波数帯域である軽量床衝撃音も防振することができる。
【0020】
また、本発明による天井防振構造の他の態様は、前記ハット材が前記天井下地材に固定されていることを特徴とする。
【0021】
本態様によれば、ハット材の係止片と天井下地材がビスや釘等で固定されていることにより、天井下地材が振動した際にハット材と天井下地材との間のがたつき音の発生を抑止することができる。ハット材の厚みが厚く、比較的重量が重い場合は、防振材が天井面材に押圧されて圧縮している状態において、係止片と天井下地材が当接する場合がある。このような場合に、係止片が天井下地材に単に係止されているだけでは双方の間のがたつき音の発生が懸念されるため、このがたつき音を抑止するものである。
【発明の効果】
【0022】
以上の説明から理解できるように、本発明の天井防振材及び天井防振構造によれば、重量に依存することなく、広範囲の周波数帯域の床衝撃音を防振することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施形態に係る天井防振材の斜視図である。
図2】実施形態に係る天井防振構造の施工工程図であって、天井下地材に天井防振材が係止されている状態を示す図である。
図3図2のIII方向矢視図である。
図4図2に続く天井防振構造の施工工程図であって、天井面材を横方向にスライドさせながら天井下地材に取り付けている状態を示す図である。
図5図4に続く天井防振構造の施工工程図であって、天井面材が天井下地材に取り付けられ、天井防振構造が形成されている状態を示す図である。
図6】(a)は天井防振材が天井下地材に固定されていない実施形態を示す正面図であり、(b)は、天井防振材が天井下地材に固定されている実施形態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、実施形態に係る天井防振材及び天井防振構造について、添付の図面を参照しながら説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0025】
[実施形態に係る天井防振材]
はじめに、図1を参照して、実施形態に係る天井防振材について説明する。ここで、図1は、実施形態に係る天井防振材の斜視図である。尚、天井防振材の説明に際して、適宜図2等を参照する。図示する天井防振材10は、天井下地材20(図2参照)に係止される左右のL型の係止片1と、左右の係止片1を繋ぐ底片2と、が一体とされている、正面視ハット型のハット材3と、底片2の底面2の左右二箇所に取り付けられている防振材5と、を有する。
【0026】
ハット材3は、鋼製で比較的重量があり、以下で詳説するように、下方から天井面材にて防振材5が押圧された際に、ハット材3と天井面材により防振材5を所定の圧縮率で圧縮できる程度の重量を有している。ハット材3の厚みt1は3.2mm乃至4.5mmの範囲にあり、ハット材3がこの範囲の厚みt1を有する鋼製の部材であることにより上記する適度な重量を有している。尚、ハット材3は、鋼製の部材の他にも、比較的硬質で適度な重量のある樹脂製の部材であってもよい。
【0027】
防振材5は、圧縮率10%乃至20%の範囲で圧縮された状態で天井面材40(図5参照)に当接されるように設定されている。防振材5は、発砲ウレタン等の発砲樹脂やゴム等により形成される。防振材5の寸法は、一例として、平面寸法であるt3×t4が20mm×40mm程度であり、厚みt2が20mm程度である。厚みt2が20mmの形態では、圧縮率10%乃至20%の範囲に圧縮される場合に、防振材5は2mm乃至4mm圧縮される。
【0028】
また、防振材5の硬度は、1度乃至20度の範囲に設定されている。尚、発砲ウレタン等により形成される防振材5の硬度は、JIS規格に基づき、デュロメータを用いて測定される。防振材5の素材の一例である発砲ウレタンの硬度の測定方法には、JIS K 7312の熱硬化性ポリウレタンエラストマー成形物の物理試験方法と、JIS K 6400の二つがあるが、本実施形態では、例えば5倍以下の低発泡倍率の発砲ウレタンを主として使用する観点から、エラストマーと同じ測定方法である、JIS K 7312に基づき、アスカーゴム硬度計(デュロメータ)のC型もしくはF型を使用して、防振材5の硬度を測定する。尚、補足的に記載するが、JIS K 6400は、発泡倍率が20倍を超える発泡ウレタン等に対して適用されることが一般的である。
【0029】
防振材5の硬度が1度乃至20度の範囲にあることにより、施工時に、防振材5は上記する圧縮率10%乃至20%の範囲に圧縮され易くなる。
【0030】
[実施形態に係る天井防振構造]
次に、図2乃至図6を参照して、実施形態に係る天井防振構造について、その施工方向とともに説明する。ここで、図2は、実施形態に係る天井防振構造の施工工程図であって、天井下地材に天井防振材が係止されている状態を示す図であり、図3は、図2のIII方向矢視図である。また、図4は、図2に続く天井防振構造の施工工程図であって、天井面材を横方向にスライドさせながら天井下地材に取り付けている状態を示す図である。さらに、図5は、図4に続く天井防振構造の施工工程図であって、天井面材が天井下地材に取り付けられ、天井防振構造が形成されている状態を示す図である。
【0031】
図2に示すように、上階の床材30の下方には、下階の天井を構成する天井下地材である野縁20が配設されている。より具体的には、図3に示すように、複数本の野縁20が所定間隔を置いて水平方向に平行に配設されており、各野縁20に対して直交する方向に延出する野縁受25が、各野縁20に対してビス等により固定されている。野縁受25は吊りボルト等の吊木(図示せず)を介してH形鋼等の形鋼材により形成される床梁(図示せず)から垂下される。野縁20と野縁受25は、木桟や溝形鋼等の形鋼材により形成される。また、床材30は、例えばALC(Autoclaved Lightweight Concrete、軽量気泡コンクリート)板等により形成される。
【0032】
所定間隔を置いて配設されている左右の野縁20に対して、天井防振材10を構成するハット材3の左右の係止片1が係止されることにより、天井防振材10が野縁20に仮留めされる。図2において、天井防振材10が野縁20に係止された状態において、防振材5の下端は野縁20の下面20aから下方に突出しており、この突出長t5は、上記する圧縮率10%乃至20%を充足する長さである。例えば、防振材5の厚みt2が20mmの形態では、突出長t5は圧縮率10%乃至20%に相当する2mm乃至4mmとなる。すなわち、野縁20にハット材3が架け渡された状態において、天井面材40(図5参照)にて押圧されて防振材5が圧縮率10%乃至20%の範囲に圧縮されるように、ハット材3の係止片1の高さt6や防振材の厚みt2が設定されている。
【0033】
図2及び図3に示すように、各野縁20に対して複数の天井防振材10を架け渡した後、図4に示すように、石膏ボード等により形成される天井面材40を野縁20に取り付けていく。ここで、天井面材40の取り付け方法は一般に、図4の左側に示す天井の端部の天井面材40を取り付けた後、目地を合わせるようにして取り付け済の天井面材40に対して新たな天井面材40を斜め側方にX方向にスライドさせながら野縁20に留め付けていく。
【0034】
この際、野縁20の下面から防振材5の下端が若干下方に張り出していることから、天井面材40を野縁20に留め付けた際に防振材5を所定量だけ圧縮することができる。ここで、仮に、ハット材3の底片2の底面2aの一箇所(例えば中央位置)に防振材5が取り付けられている形態では、上記するように天井面材40をスライドさせながら留め付ける際に、一つの防振材5がスライドする天井面材40から横方向にひきずられる際にせん断力Sを受け、防振材5には部位ごとに圧縮率の分布が生じ易くなる。防振材5の部位ごとに圧縮率の分布があると、防振材5が初期の防振性能を発揮できない恐れがある。
【0035】
そこで、図示する天井防振材10では、ハット材3の底片2の底面2aの左右二箇所に防振材5が取り付けられていることにより、スライドしながら留め付けが行われる天井面材40にて付与されるせん断力Sが左右二つの防振材5に振り分けられることにより、各防振材5のせん断力Sによる圧縮率の分布を低減でき、防振材5による初期の防振性能を保障することを可能にしている。
【0036】
また、防振材5としては、その厚みt2が数mm乃至十数mm程度のものが適用される。そのため、圧縮率10%未満に設定することは精度上難しいことから、圧縮率の下限値を上記する10%に規定している。さらに、防振材5が20%を超える圧縮率で圧縮されると、防振材5が圧縮され過ぎて天井面材40の振動に対する応答性が悪くなり、十分な防振性が得られ難いことから、圧縮率の上限値を上記する20%に規定している。
【0037】
図5に示すように、天井面材40が野縁20に対してビス等によって固定されることにより、防振材5は下方からで天井面材40にて押圧力Pで押圧され、かつ同時に上方からハット材3の重量のうちの分担荷重Wにて押圧されることにより、圧縮率10%乃至20%の範囲に圧縮した状態で天井面材40に当接して天井防振構造50が形成される。尚、床材30と天井面材40の間の空間G1には、グラスウールやロックウール等が充填されることにより断熱材層が形成されてもよい。
【0038】
ここで、天井防振材10を構成するハット材3の係止片1は、天井下地材である野縁20に対して、図6(a)に示すように固定されていない形態であってもよいし、図6(b)に示すようにビス等により固定されている形態であってもよい。
【0039】
防振材5が下方から天井面材40にて押圧された際に、図6(a)に示すように係止片1が野縁20に対して固定されていない場合において、ハット材3の重量のうちの分担荷重Wよりも押圧力Pが大きな場合には、天井防振材10は上方に僅かに浮き上がり、係止片1と野縁20の間に僅かな隙間G2が生じ得る。ここで、ハット材3の厚みt1が3.2mm乃至4.5mmの範囲にあり、ハット材3がこの範囲の厚みt1を有する鋼製の部材であって適度な重量を有することから、ハット材3にて防振材5が圧縮され、圧縮率10%乃至20%の範囲に圧縮された状態を形成できる。
【0040】
一方、下方から押圧力Pにて天井防振材10が上方に押圧された際に、ハット材3の重量のうちの分担荷重Wよりも押圧力Pが小さな場合には、ハット材3の重量によって係止片1が野縁20から浮き上がらない。このような場合に、係止片1が野縁20に単に係止されているだけでは、上階の床材30を介してその振動が天井面材40に伝搬され、天井面材40が励振された際に、係止片1と野縁20の間のがたつき音の発生が懸念される。そこで、図6(b)に示すように係止片1と野縁20をビス等の固定手段60によって固定することにより、このがたつき音を抑止することができる。
【0041】
天井防振構造50によれば、防振材5が圧縮率10%乃至20%の範囲で圧縮された状態で天井面材40に当接していることにより、上階の床衝撃音に起因して天井面材40が振動した際に、圧縮状態の防振材5がこの天井面材40の振動に追随しながら弾性変形して、広範囲の周波数帯域の床衝撃音(重量床衝撃音から軽量床衝撃音までの床衝撃音)による天井面材40の振動を効果的に防振することができる。ここで、防振材5が圧縮率10%乃至20%の範囲で圧縮され、重量床衝撃音の周波数帯域である63Hz前後に防振材5をチューニングしておくことにより、音の周波数と振動伝達率の間の一般的な関係に基づけば、例えば256Hz乃至500Hz程度の周波数帯域である軽量床衝撃音も防振することができる。
【0042】
[振動加速度低減レベルを検証した実験その1]
本発明者等は、複数種の防振材を有する図1に示す天井防振材を製作し、各天井防振材を備える図5に示す天井防振構造を製作して、各天井防振構造における振動加速度低減レベルを検証する実験を行った。ここで、防振材の圧縮率を10%と20%の二種類で変化させ、防振材の硬度を1度、5度及び20度で変化させることにより複数種の天井防振構造を形成した。各天井防振構造を形成する防振材の寸法、圧縮率、硬度と、振動加速度低減レベルを以下の表1に示す。尚、表1における振動加速度低減レベルは、基準となるベンチマークにおける振動加速度に対して低減される加速度レベルを示しており、従って、数値はマイナス表記である。
【0043】
【表1】
【0044】
表1より、防振材の圧縮率が10%、20%のいずれにおいても(圧縮率が10%乃至20%の範囲)、また、防振材の硬度が1度乃至20度の範囲において、基準となる振動加速度レベルに対して振動加速度低減レベルは20dB以上と極めて高い低減レベルとなることが実証されている。この結果より、硬度が1度乃至20度の範囲の防振材が、圧縮率10%乃至20%の範囲で圧縮されてなる天井防振構造が望ましい構造であると規定することができる。
【0045】
[振動加速度低減レベルを検証した実験その2]
本発明者等はさらに、ハット材の厚みを変化させて複数種の天井防振構造を試作し、各天井防振構造における振動加速度低減レベルを検証する実験を行った。ここで、ハット材の厚みは、4.5mm、3.2mm、2.3mmの3種とした。各天井防振構を形成する防振材の寸法、圧縮率、硬度、及びハット材の厚みと、振動加速度低減レベルを以下の表2に示す。
【0046】
【表2】
【0047】
表2より、ハット材の厚みが2.3mmの実施例9において、基準となる振動加速度レベルに対して振動加速度低減レベルは19.9dBと20dBに近い低減レベルとなり、ハット材の厚みが4.5mm、3.2mmの実施例7,8において、基準となる振動加速度レベルに対して振動加速度低減レベルが20dB以上と極めて高い低減レベルとなった。この結果より、ハット材の厚みとしては、2.3mm乃至4.5mmの範囲が好ましい範囲であり、3.2mm乃至4.5mmの範囲が望ましい範囲であると規定することができる。
【0048】
上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、また、本発明はここで示した構成に何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0049】
1:係止片、2:底片、2a:底面、3:ハット材、5:防振材、10:天井防振材、20:天井下地材(野縁)、25:野縁受、30:床材(ALC版)、40:天井面材(石膏ボード)、50:天井防振構造、60:固定手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6