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特許7201184匂い識別装置、情報処理装置、携帯デバイス、ウエアラブルデバイス、空調機器、及び医療機器
<図1>
  • 特許-匂い識別装置、情報処理装置、携帯デバイス、ウエアラブルデバイス、空調機器、及び医療機器 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】匂い識別装置、情報処理装置、携帯デバイス、ウエアラブルデバイス、空調機器、及び医療機器
(51)【国際特許分類】
   G01N 5/02 20060101AFI20221227BHJP
   G01N 27/12 20060101ALI20221227BHJP
   G01N 19/00 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
G01N5/02 A
G01N27/12 B
G01N19/00 H
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021087744
(22)【出願日】2021-05-25
(62)【分割の表示】P 2019180423の分割
【原出願日】2014-08-29
(65)【公開番号】P2021121815
(43)【公開日】2021-08-26
【審査請求日】2021-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】715010521
【氏名又は名称】株式会社アロマビット
(74)【代理人】
【識別番号】100123559
【弁理士】
【氏名又は名称】梶 俊和
(74)【代理人】
【識別番号】100177437
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 英子
(72)【発明者】
【氏名】黒木 俊一郎
(72)【発明者】
【氏名】橋詰 賢一
【審査官】北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3175367(JP,U)
【文献】特開平01-244335(JP,A)
【文献】特開平06-066701(JP,A)
【文献】特開2007-309752(JP,A)
【文献】特開平07-190916(JP,A)
【文献】特開平10-142134(JP,A)
【文献】特開2000-275157(JP,A)
【文献】特開2005-086405(JP,A)
【文献】特開2005-094170(JP,A)
【文献】特開2005-170255(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 5/02
G01N 27/12
G01N 19/00
G01N 37/00
G01N 27/414
G01N 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルに含まれる匂い原因物質と相互作用可能なセンサーを複数備え、かつ、その複数のセンサーの各々が配列変更可能であるセンサーユニットと、
前記センサーユニットから得られる相互作用の結果であって、前記匂い原因物質と前記複数のセンサーとの間の相互作用の結果を、前記サンプルの相互作用パターン情報として処理するセンサーデータ処理部と、を備えるサンプル情報取得部を有する匂い識別装置であって、
前記センサーユニットにおける前記複数のセンサーの配列情報を格納するセンサー配列情報部と、
前記サンプルの相互作用パターン情報、既知の匂いの相互作用パターン情報、及び前記配列情報に基づいて前記サンプルの匂いを識別するパターン識別部と、を備える情報処理装置と、前記サンプル情報取得部とが通信手段を介して通信可能とされた、匂い識別装置。
【請求項2】
前記複数のセンサーの各々が、前記匂い原因物質を吸着可能な各々異なる機能膜を有し、
前記複数のセンサーの各々は、前記匂い原因物質が前記機能膜へ吸着することによる重量変化に起因する前記機能膜の振動数変化を検知するセンサーである、請求項1に記載の匂い識別装置
【請求項3】
複数の前記機能膜のうちの1つ以上が、他と異なる振動数で振動が加えられる、請求項2に記載の匂い識別装置
【請求項4】
複数の前記センサーのうちの1つ以上が、他と異なる共振周波数を有する、請求項2又は請求項3に記載の匂い識別装置
【請求項5】
複数の前記機能膜のうちの1つ以上が、他と異なる厚みを有する、請求項2から請求項4のうちいずれか1項に記載の匂い識別装置
【請求項6】
前記センサーが、水晶振動子を用いたセンサーであり、
複数の前記センサーが有する前記水晶振動子のうちの1つ以上が、他と異なる厚みを有する、請求項2から請求項5のうちいずれか1項に記載の匂い識別装置
【請求項7】
サンプルに含まれる匂い原因物質と相互作用可能なセンサーを複数備え、かつ、その複数のセンサーの各々が配列変更可能であるセンサーユニットと、
前記センサーユニットから得られる相互作用の結果であって、前記匂い原因物質と前記複数のセンサーとの間の相互作用の結果を、前記サンプルの相互作用パターン情報として処理するセンサーデータ処理部と、を備えるサンプル情報取得装置と通信手段を介して通信可能とされた情報処理装置であって、
前記センサーユニットにおける前記複数のセンサーの配列情報を格納するセンサー配列情報部と、
前記サンプルの相互作用パターン情報、既知の匂いの相互作用パターン情報、及び前記配列情報に基づいて前記サンプルの匂いを識別するパターン識別部と、を備える情報処理装置と、を備える、情報処理装置。
【請求項8】
請求項1から請求項6のうちいずれか1項に記載の匂い識別装置が組み込まれた、携帯デバイス。
【請求項9】
請求項1から請求項6のうちいずれか1項に記載の匂い識別装置を搭載した、ウエアラブルデバイス。
【請求項10】
請求項1から請求項6のうちいずれか1項に記載の匂い識別装置が組み込まれた、空調機器。
【請求項11】
請求項1から請求項6のうちいずれか1項に記載の匂い識別装置が組み込まれた、医療機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、匂い自体をパターン化し認識する嗅覚システムおよび匂い識別装置、また匂い識別方法に関する。また、当該システムに用いられるセンサーに関する。更には当該センサーに用いられるデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
これまでのところ、匂いは様々な化学物質が同時に複合的に嗅覚細胞に働きかけることで匂い情報(知覚情報)として認識されると考えられている。一方匂いに関するセンシングにおいては、匂いを構成する化学物質群(以下、匂い要因とも言う。)の中から匂いに関係する特定の気体状化学物質を検出し、測定することを目的とするものがほとんどである。
【0003】
すなわち匂いを構成する化学物質の中から特定したり、個別の匂い原因物質、例えばアンモニア、メルカプタン、アルデヒド、硫化水素やアミンなどの特有の臭気を有する匂い原因物質をその物質を測定することを目的に設計された化学センサー、すなわちアンモニアセンサーや硫化水素センサーなどが用いられることが多い。
【0004】
このようなセンサーは特定の分子に対して物理的化学的に選択性を有する表面状態を構成し、その表面に該特定分子が反応あるいは吸着した際の表面状態の変化を利用して、その特定物質を測定したり、吸着カラムなどの化学物質を分離する手段、例えばクロマトグラフィー法などを利用して特定の匂い原因物質を分離後測定するものである。
【0005】
このような匂いの原因物質の個別分離測定に利用できるセンサーシステムとしては、検出器部分にはレーザー光の金属ナノ粒子との相互作用で発生する表面プラズモン(SPR)法を利用するもの、半導体シリコン上にソース、ドレイン及びゲート電極を設け、ゲート上に分子選択膜を形成して表面に物質が吸着することを利用した電界効果型トランジスタを用いるもの、表面弾性波の伝搬速度の表面に物質が吸着することによる変化を測定して検出する表面弾性波センサー、水晶振動子の共振周波数が、表面に付着する物質の重量に応じて変動することを利用するQCMセンサーなどがある。
【0006】
既存の匂いセンサーとしては、これらのセンサーシステムにおいて、検出部の表面に物質選択制を有する薄膜を構成し、これにより匂いの原因となっている特定物質を検出するものが一般的である。
【0007】
また、高温にした金属酸化物半導体表面における酸素の酸化還元反応に伴うキャリア密度の変化を利用するものも存在するが、このセンサーの場合、表面で還元性物質の酸化反応が生じるためにその表面を物質選択制のある膜などで覆うことができないこと、還元性の物質しか測定できないことなどから、臭気物質としてはアンモニアや硫化水素などの限定された臭気物質にしか有効ではない。
【0008】
一方、水晶振動子等を用いたセンサー等においては水晶振動子を複数設けたアレイ型の匂いセンサーが開示されている。(例えば特許文献1参照)
このセンサーにおいては、水晶振動子を基板に対して特定の方向で配列させて複数設けることで、検出すべき物質を含む気体が効率よく、また多量にセンサー部と接触することができ、検出効率が向上することが開示されている。
【0009】
また、非特許文献2では、複数のセンサーを用いて多変量解析を行って匂いの特定を図ろうとしている。この場合、用いられるセンサシステムは予め規定された特定の化学物質を測定する単機能のセンサの組み合わせで構成されるため、匂いを構成する物質が既知の場合には多変量解析により匂いを表現することはできている。
【0010】
さらに、上述のような匂いを構成する特定の物質の検出・測定だけでなく、匂い自体を検出・評価することを目的として、極性の異なる分子に応答する複数の発光分子を基板上に塗布し、匂い要因に暴露させると、その匂いに特有のパターンに基板が発光し、これを撮影、記録することで匂いのイメージングを行うという試みも近年なされている(非特許文献3:SCOPEプロジェクト)。
【0011】
この匂いイメージングシステムでは、複数の匂いをそれぞれ認識する化合物と検出のための例えば蛍光性ナノ粒子を組み合わせた粒子を配置したマルチプローブフィルムを用いている。
このような構成とすることで、それぞれの粒子が特定の匂い要因と結合したときに、その粒子が発光し、それをCCDカメラなどで捕捉し、可視化できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特許4737726号公報
【非特許文献】
【0013】
【文献】株式会社イーノーズインスツルメンツホームページ http://e-nose.co.jp/product00.html
【文献】東京工業大学研究室紹介誌LANDFALL第39号,p.19-22,2000年4月 (http://silvia.mn.ee.titech.ac.jp/system.html )
【文献】SCOPEプロジェクト (http://o.ed.kyushu-u.ac.jp/SCOPE/Welcome.html)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、このようなセンサーが検出できるのは、例えば電気抵抗値の有無あるいは高低による特定の分子構造を有する物質あるいは規定された物質の組み合わせに関する情報であり、特定できるのはその物質の分子構造や分子量等によって特定される匂いの原因物質(分子)の特定に過ぎないため、その物質の存在の有無を検出することができても、嗅覚試験のような人間の嗅覚を利用して得られる匂い情報を測定結果として検出・識別することは困難である。
【0015】
また、特許文献1でも、匂いセンサーとして開示がなされているが、実際には特定の分子に対応する振動周波数の強弱により、その特定の分子の検出及び定量のみが可能となっている。
【0016】
また、非特許文献2に示す多変量解析においては、複数のセンサーに利用される各個別のセンサーが測定する物質は事前に規定される必要が有るため、それぞれのセンサーが想定していない物質により構成される匂いを正確に表現することはできない。
【0017】
すなわち、一般的には匂いは複数の化学物質からなる複雑な構成をとっているため、ある匂いに含まれる特定の被測定物を特定した単一機能センサーを組み合わせただけでは匂い情報を取得表現することは困難であるという問題がある。
【0018】
このような問題を解消するために上述のSCOPEプロジェクトの方法においては、蛍光物質による発光を捕捉している。しかしながら、発光させるために必要な励起光源やCCDカメラなどが必要となるため、この場合は装置そのものが大掛かりになり、簡単に匂いの特定や識別を行うことが難しい。
【0019】
本発明は、上記課題を鑑み、不特定多数の匂い原因物質の混合状態においても、簡便に特定の匂いとして検出・峻別・認識することが可能な嗅覚システム、匂い識別装置、匂い識別方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の嗅覚システムは、上記課題を解決するために以下の手段を提供する。
(1) 被測定物の匂い原因物質群の少なくとも1以上と相互作用する少なくとも2つ以上のセンサーを作用アレイとして含む作用アレイ部と、前記作用アレイから得られる前記相互作用の結果を匂いパターン情報として処理するセンサーデータ処理部と、既知の匂い要因情報および既知の匂い物質のパターン情報からなる匂い情報を格納している匂い要因情報格納部と、及び前記センサーデータ処理部で処理された前記匂いパターン情報と前記匂い要因情報格納部の情報とを参照し、その反応パターンに基づいて前記被測定物の匂いが格納されている前記既知の匂い情報と照合し識別するパターン識別部と、を備える嗅覚システム。
【0021】
(2)前記センサーが水晶振動子センサーである(1)に記載の嗅覚システム。
(3)前記センサーが表面弾性波センサーである(1)に記載の嗅覚システム。
(4)前記センサーが電界効果型トランジスタセンサーである(1)に記載の嗅覚システム。
(5)前記センサーが電荷結合素子センサーであることを特徴とする(1)に記載の嗅覚システム
(6)前記センサーが有機導電性ポリマーセンサーである(1)に記載の嗅覚システム。
【0022】
(7)前記センサーが、配列変更可能であることを特徴とする(1)から(6)のいずれか1に記載の嗅覚システム。
(8)前記センサーの配列情報を格納するセンサー情報部を更に備えることを特徴とする(1)から(7)いずれか1に記載の嗅覚システム。
(9)測定対象を含むサンプルを取り込むサンプル取得部を更に備えることを特徴とする(1)から(8)のいずれか1に記載の嗅覚システム。
【0023】
(10)少なくとも2つのセンサーを含むセンサーアレイとサンプルを相互作用させること、該相互作用したセンサーにおける相互作用情報をセンサーデータ処理すること、該センサーデータ処理した情報と匂い要因情報とを照合すること、及び該照合により匂いを識別すること、を含む匂い識別方法。
【0024】
(11)前記センサーが水晶振動子センサーである(10)に記載の匂い識別方法。
(12)前記センサーが表面弾性波センサーである(10)に記載の匂い識別方法。
(13)前記センサーが電界効果型トランジスタセンサーである(10)に記載の匂い識別方法。
(14)前記センサーが電荷結合素子センサーであることを特徴とする(10)に記載の匂い識別方法。
(15)前記センサーが有機導電性ポリマーセンサーである(10)に記載の匂い識別方法。
(16)前記センサーが、配列変更可能であることを特徴とする(10)から(15)のいずれか1に記載の匂い識別方法。
【0025】
(17)測定対象を感知する少なくとも二つのセンサーを含むセンサーユニットと、前記センサーユニットにおける反応のデータ処理するセンサーデータ処理ユニットと、及び前記センサーデータ処理により作製されたセンサーデータパターンにより測定対象を識別するパターン識別ユニットと、を備える匂い識別装置。
(18)前記センサーが水晶振動子センサーである(17)に記載の匂い識別装置。
(19)前記センサーが表面弾性波センサーである(17)に記載の匂い識別装置。
(20)前記センサーが電界効果型トランジスタセンサーである(17)に記載の匂い識別装置。
(21)前記センサーが電荷結合素子センサーであることを特徴とする(17)に記載の匂い識別装置。
(22)前記センサーが有機導電性ポリマーセンサーである(17)に記載の匂い識別装置。
(23)前記センサーが、配列変更可能であることを特徴とする(17)から(22)のいずれか1に記載の匂い識別装置。
【0026】
(24)測定対象を含むサンプルを取り込むサンプル取得部と、該サンプル中の各匂い要因と相互作用し、配列変更可能な少なくとも2つ以上のセンサーを含む作用アレイ部と、作用アレイ部で匂い要因と相互作用したパターンを処理するセンサーデータ処理部と、該匂い要因情報および該匂い要因の相互作用パターン情報をあらかじめ格納している匂い要因情報格納部と、該反応アレイ部のセンサー配列情報を格納するセンサー配列情報部と、を含み、該センサーデータ処理部で処理されたデータと匂い要因情報格納部の情報及び該センサー配列情報部の情報とを参照し、その相互作用パターンに基づいて該匂い要因を識別するパターン識別部と、を具備する嗅覚システム。
【0027】
(25)コンピュータを、測定対象を含むサンプルを取り込むサンプル取得部と、該サンプル中の各匂い要因と相互作用し、配列変更可能な少なくとも2つ以上のセンサーを含む反応アレイ部と、反応アレイ部で匂い要因と相互作用したデータを処理するセンサーデータ処理部と、該匂い要因情報および該匂い要因の相互作用パターン情報をあらかじめ格納している匂い要因情報格納部と、該反応アレイ部のセンサー配列情報を格納するセンサー配列情報部と、を含み、該センサーデータ処理部で処理されたデータと匂い要因情報格納部の情報及び該センサー配列情報部の情報とを参照し、その相互作用パターンに基づいて該匂いを識別するパターン識別部と、を具備する嗅覚システム、として機能させるプログラム。
【発明の効果】
【0028】
本発明のシステムを用いることで、従来検知識別が困難であった、実際には複数の物質が混合状態となっている環境における特定の「匂い」の検出が可能になる。これにより、従来検出・識別およびその表現が困難であった、不特定の物質群から構成される特定の匂い(該匂いを構成する特定の物質に限るものではない)に関して検出・識別および表現を可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の嗅覚システムの模式図である。
図2】本発明の嗅覚システムに用いられるセンサーアレイの概念図である。
図3】本発明の嗅覚システムに用いられるセンサーアレイに用いられる水晶振動子の斜視図である。
図4】本発明の嗅覚システムに用いられるセンサーアレイに用いられる水晶振動子の断面図である。
図5】本発明の嗅覚システムの手順を示すフローチャートである。
図6】本発明の嗅覚システムに用いられるセンサーアレイでの匂い原因物質の相互作用と配列情報を示す模式図である。
図7】本発明の嗅覚システムの使用例としてリンゴとコーヒーの香りを検出、識別するプロセスを示すシステム概念図である。
図8】本発明の嗅覚システムの使用例として、携帯電話にセンサーアレイ部を組み込んだ模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0031】
1.嗅覚システム
本発明のシステムは、匂いサンプル、すなわち特定の場所の大気中の匂い要因と相互作用する少なくとも2つ以上のセンサーを含む作用アレイ部と、作用アレイ部で匂い原因物質に反応したパターンを処理するセンサーデータ処理部と、該匂い情報および該匂いの作用パターン情報をあらかじめ格納している匂い要因情報格納部と、及び該センサーデータ処理部で処理されたパターンと匂い要因情報格納部の情報とを参照し、その作用パターンに基づいて該匂いを識別するパターン識別部と、を備える嗅覚システムである。
【0032】
ここで、「匂い」とは、人間あるいはそれを含む生物が嗅覚情報として取得することができる、特定の分子単体もしくは異なるからなる分子群がそれぞれの濃度を持って集合したものを含む。
「匂い原因物質」とは、匂いを構成する特定の分子・化合物を意味する。
「匂い要因」とは、匂い原因物質を複数含み、その匂い特有の構成を有する物質群を言う。
【0033】
一般的に人を含む動物の鼻の嗅覚メカニズムとしては、以下のように説明されうる。
まず鼻から匂い要因が入ると、鼻腔最上部の嗅上皮と呼ばれる特別な粘膜に匂い原因物質が溶け込み感知され、嗅上皮にある嗅細胞が電気信号を発生、電気信号が嗅神経、嗅球、脳(大脳辺縁系)へと伝達し、匂い感覚が起きる。
【0034】
ここで、嗅上皮の粘膜層に広がっている嗅毛には、匂いをキャッチする嗅覚受容体(匂いセンサー)が存在する。そして匂い要因に含まれる一つの匂い原因物質に対していくつかの嗅覚受容体が反応し、匂いを検知する。また、匂いの濃度が変わると、反応する嗅覚受容体の組み合わせが変わり、違う匂いとして感じられる。
【0035】
アームアは、異なる分子構造を持つ複数の匂い原因物質が類似した匂いを与えることに着目し、それらの似た匂いを与える分子の外形に少なくとも一部が大変良く似ていることを見出して、嗅覚受容体が分子の概形構造を認識している可能性があることを示唆している。
【0036】
また、外崎肇一著「 「におい」と「香り」の正体」ではそれぞれの匂い原因物質の与える振動数をこれら嗅覚受容体が認識していると説明している。
【0037】
このように、嗅覚受容体は匂い原因物質の持つ属性のうち、これまでの化学分析で用いられてきたような分子量、酸化還元電位、官能基とその結合位置などのような化合物を同定できる比較的直接的な情報ではなく、分子の外形情報などの間接的な物質の特性を検出していると考える方が説明がつきやすいと考えられてきた。
【0038】
本発明のシステムでは、上述の通り複数のセンサーを含む作用アレイ部が、この嗅覚受容体のような働きをすることで、様々な匂いの検出及びその濃度の強弱により、複数の匂い原因物質を含む匂いそのものを認識することを可能とするものである。
したがって、「匂い」がどのように鼻と相互作用して特定の情報として検出されるか、を模擬していることを特徴とするセンサーであって、「匂い原因物質」を個別に特定することにより「匂い」を特定するとする従来技術とは原理が異なる。
1a.嗅覚システム
【0039】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を説明する。
【0040】
図1は本発明の匂い識別システムのブロック図である。
本発明にかかる匂い識別システム100は、サンプル情報取得部110、通信手段120、情報処理部130から構成される。
【0041】
匂いサンプルの情報を得るために設けられたサンプル情報取得部110では、匂いサンプルを取り込むサンプル取得部111、当該取得したサンプルの物質と相互作用させるセンサーを少なくとも2つ設けたセンサーアレイ部112、及び当該サンプル物質とセンサーアレイ部112における作用状態をセンサーデータ処理するためのセンサーデータ処理部113とを設けている。
【0042】
通信手段120は、サンプル情報取得部110及び情報処理部130を接続する。例えば直接結線やRS-232、USB、あるいは無線もしくは有線LAN、WiFi等種々ネットワークを確立するための手段を適宜用いることができる。
【0043】
情報処理部130には、例えば、識別のためのサンプルを取得し、当該データを受信するデータ受信部131、当該受信されたデータと参照するため、あらかじめ匂い要因に関してその匂い情報を格納している匂い要因情報格納部133、同じく匂い要因のデータと参照するために、システムに配置されるセンサーアレイ部に関する情報を格納しておくセンサー配列情報格納部132と、測定対象となっているサンプル情報のセンサーアレイ部112における認識情報パターンをあらかじめ登録しておき、サンプルを測定するときに参照するパターン認識部114、更にはこれらシステム各部とサンプルの情報とを参照することで得られた判定データを表示する表示部115を備えている。
【0044】
本発明のシステムでは、センサーアレイ部112に配置するセンサーを、測定する物質に応じて選定することが可能である。すなわち、検出及び識別する匂い原因物質に特異的な特性を持つセンサーを適宜選択して配置することができる。
センサーの数は少なくとも2つ配置させるため、匂い要因に含まれる複数の匂い原因物質をについてそれぞれ特異的に検出することが可能となる。
各センサーにおける検出感度を変える等することで測定対象とする匂い原因物質の濃度等も測定することが可能である。
【0045】
このような構成により、サンプルとして気体中に存在するあらゆる匂い原因物質について測定が可能となる。更に従来であれば単に匂い要因に含まれている個別の分子の量等からその分子特有の匂いの強弱しか測定できなかったが、センサーの検出パターンの組み合わせから測定した匂い要因を具体的な匂い、つまり複数の匂い原因物質の複合体として識別特定することが可能となる。
【0046】
更に本発明のシステムは、サンプル情報取得部110で得られたサンプル情報データを情報処理部130に送信するための情報通信手段120が設けられている。
つまり、サンプル情報取得部110で取得、作用、センサーデータ処理されたサンプル物質に関する情報は、情報手段120を通じて情報処理部130へと送信され、当該システムサーバにおいて当該センサーデータ処理パターンと匂い要因情報格納部133とを参照、もしくはセンサーデータ処理パターンと匂い要因情報格納部133及びセンサー配列情報格納部132の両方の情報とを参照することで、そのセンサーアレイ部112のセンサーにおいて検出された表示パターンとにより、測定対象となる匂い要因の中の特定の匂いを検出し、識別することが可能となる。
1b.センサーアレイ
【0047】
本発明のシステム100のセンサーアレイ部112では、少なくとも2つの匂いセンサーを設けている。配置するセンサーの数は特に限定されることはなく、2個以上配置する構成とすれば良い。
【0048】
従来のいわゆる匂いセンサーというものは、匂い原因物質分子を検出するプローブが一つのものがほとんどであり、そのような場合は、匂い原因物質分子単体の定性的ないしは定量的な測定しかできない。
【0049】
これに対し、本発明のシステム100のセンサーアレイ部112は、複数のセンサーを設けている。また、各センサーはそれぞれ、作用させようとする分子に特異的な反応を示す構成をとることができ、また、各対象とする分子への作用の程度を調整することが可能である。
【0050】
このような構成により、本システムのユーザーが検出及び特定を所望するだけの数の物質を検出するに必要な数だけセンサーを設ければ良く、これにより、匂い要因に含まれる複数の匂い原因物質を定量・定性的に測定し、この匂い要因を全体的に識別することが可能となる。
【0051】
すなわち、本発明のセンサーアレイ部112におけるセンサーアレイでは、特定の物質分子に対して特異的に作用するセンサーの数及びその配列やセンサーの種類を、作用した時のアレイ全体における反応パターンを任意にデザインした上で決めることが可能である。そして、その反応パターンをあらかじめ情報処理部130に設けられているセンサー配列情報格納部に格納しておくことで、それぞれの匂い要因に対するセンサーアレイ部112における反応と照合可能となるため、複数の匂い原因物質の集合体を識別でき、それにより従来の匂いセンサーでは実現できなかった匂い原因物質を複数含む匂い要因そのものを識別することが可能になる。
【0052】
ここで用いられるセンサーとしては特に限定されず、その時々の目的等に応じて種々のセンサーを適宜用いることができる。
センサーの例としては、例えば、電気化学センサー、MOS電界効果トランジスターセンサー、金属酸化物半導体センサー、有機導電性ポリマーセンサー、水晶振動子センサー(QCMセンサー)、表面弾性波方式センサー、電荷結合素子センサー等があげられる。
これらのセンサーの中では例えば水晶振動子センサーが好適に用いられる。
【0053】
使用可能なセンサーの一例として図2に水晶振動子素子(QCM素子)210を用いたセンサーアレイ200の平面斜視図を示す。
本発明のQCM型センサーマルチアレイ200は、水晶基板220、振動部230、振動部表面に設けられた機能膜240、振動を励振電極250(図示せず)から構成されるQCM素子210を複数実装したものであって、異なる機能性膜240を有する一つ以上の複数のQCM素子210を共通基板200上に実装した、マルチアレイQCMセンサーである。
【0054】
図3はQCM素子の斜視図、図4は当該素子の断面図である。
1c.QCM素子
水晶振動子すなわちQCM素子は、電極表面の重量変化を周波数変化として検出する質量センサーとなることは良く知られている。一般的に、図3にあるように、水晶基板320上の片面表面に電極ならびにガスまたは匂い分子などの吸着する機能膜340を配置し、反対側の表面には、励振電極350を配置する構成を有する。
【0055】
励振電極350よりQCM素子310を振動駆動させ、外気に接したQCM素子310の表面にある機能膜340に被測定物質である匂い分子が到達すると、吸着、相互作用してQCM素子310の共振周波数が変化する。その周波数変化を電気的に特定する。
従来から用いられている化学センサーには様々な種類があるが、特にQCMすなわち水晶振動子のような物理的振動検出素子に限っては、デバイスを小型化、つまり、厚みを薄くして電極面積も小さくすると、水晶振動子の共振周波数などが大きくなり、結果として周波数変化率が増えて検出限界がさがるという特性がある。これにより、低濃度の化学物質まで検出できるという特徴がある。
【0056】
これらの異なる機能膜を用いた複数のQCM素子を任意に共通基板上に実装して配置することで、図2のような本発明のマルチアレイQCM型センサーシステムを得る。各QCM素子の励振用電極は周波数カウンター等に配線され、上述の通り各QCM素子の周波数変化を電気的に特定する。
【0057】
異なる機能膜を塗布したQCM素子は被測定対象である匂い原因物質に対して、異なる相互作用をする。これら異なる機能膜を設けたセンサーをアレイ上に配置することで、それぞれのQCM素子の周波数変化を検知、分析して、匂い要因を定性及び定量分析することができる。
【0058】
例えば、より具体的には、共通基板上に配置された異なる機能膜を有する各QCM素子の配列規則としてX軸方向、Y軸方向の情報としてどの臭気物質を吸着して検出するセンサーであるかといったセンサーの配列情報と同QCM素子群の周波数変化(吸着特性や相互左右の度合い)の最低3次元からなる定性的な匂いパターンを得ることができる。
ここで、QCM素子(310)や励振電極(350)は任意の導電性材料で形成することができる。
【0059】
例としては、金、銀、白金、クロム、チタン、アルミニウム、ニッケル、ニッケル系合金、シリコン、カーボン、カーボンナノチューブなどの無機材料ならびに、ポリピロール、ポリアニリンなどの導電性高分子等有機材料をあげることができる。
【0060】
また、例えば、空間軸方向に微妙に濃度分布や化学修飾により疎水性、親水性などの強さを傾斜させた機能傾斜膜を用いることで、被測定物質である匂い原因物質に対して各アレイを構成する各センサーがそれぞれ少しずつ異なる相互作用をすることができる。
【0061】
そのほかにも、各振動子の共振周波数を変化させることで、共存する他の振動子から受ける影響、すなわちクロストークを低減することも可能であり、好ましい。共通基板内の各振動子が異なる感度を示すよう任意に設計することが可能である。
各水晶振動子の共振周波数が同じ場合は、匂い吸着膜の厚みを変化させることで変化させていることも試みられている。加えて、異なる共振周波数の素子(例えば水晶基板の厚みを変えたオーバートーンモード等)を用いることもできる。
【0062】
共通基板の種類としては、シリコン基板、水晶結晶からなる基板、プリント配線基板、セラミック基板、樹脂基板などが用いることができる。
また、共通基板(300)は、インターポーザ基板など多層配線基板であり、水晶基板を励振動させるための励振電極(500)と実装配線、通電するための電極(301)が任意の位置に配置されており、電気的なグラウンドや他の電子回路基板等へ導通するため、例えば302にみられるようなバンプへ結線されている。
【0063】
水晶振動子の形状としては一例として、コンベックス形状がより小型で且つ、振動子内にエネルギーを封じ込め、基板内の各振動子間の干渉を防止し、同時にQ値の向上が見込まれるなど、より好ましい形状である。
水晶振動子に厚さ分布を与えたコンベックス形状(レンズ形状または凸上)として、なお、片面を分離型の励振電極(振動用の電圧を入力する電極)にし、導電性膜は励振電極と反対面の対向する位置に設置する構造とすることができる。
【0064】
これにより、他の振動モードとの結合を抑制し、振動子にマルチアレー化した際の水晶振動子間の伝播や反射などの干渉を防止することが可能となることが知られている。そのため、より小型化、低容量化する程、振動子間の距離が短くなり効果も大きくなる。
同様に、振動エネルギーの封じ込め効果により、Q値およびコンダクタンスを向上することができ、小型化しても振動エネルギーが低下することなく、外部接触の干渉を受けにくい水晶振動子にすることができる。その結果、S/N比を向上させて高感度化される。
【0065】
なお、ここで形成されるQCMセンサーは逆メサ型あるいはコンベックス型と呼ばれる構造であると、近接した表面実装が可能であるので、小型化のためには好適である。本実施例では、より小型に適したコンベックス型を例にとっているが、より最適な形状があればそれを選択することが可能である。
【0066】
また、逆メサの凹内にコンベックスを入れ込んだ凸ハイブリッド型も試みられている。また、円形だけでなく楕円形もQCM素子の感度(Q値)向上等が見られ、コスト面等を考慮して、より最適なものを用いれば良い。
以上、本発明のセンサーアレイの構成について、一例として水晶振動子を用いたセンサーアレイについて説明したが、本発明がこれに限定されるものではないということは言うまでもない。
2.匂い識別方法
【0067】
次に、本システムで用いられる匂い識別方法に関して説明する。
2a.匂い識別方法概要
図5は本発明の匂い識別方法の概要を示すフロー図である。
まず、図1に示される本発明の匂い識別システム100のサンプル情報取得部110を、測定対象となる匂い要因に接触させる(ステップ501)。この接触によりサンプル取得部111から匂い要因の分子が取り込まれ、センサーアレイ部112に送られる(ステップ502)。
【0068】
センサーアレイ部112は、少なくとも2つ以上のセンサーが配置されたマルチアレイ構造になっている。ここで、各センサーはそれぞれ目的とする匂い原因物質ごとに特有の程度に相互作用をするようになっており、匂い要因に含まれる様々な匂い原因物質と相互作用するようになっている。このアレイ部分に取り込んだ匂い要因を含む気体を接触させ、それぞれのセンサーが示す相互作用の結果をデータとして取得する(ステップ503)。
【0069】
この相互作用データは、使用するセンサーによるが、例えば発光応答であったり、電気抵抗の変化であったり、あるいは振動周波数の変化である。
これら相互作用データのパターンを測定される特定の匂い要因と関連付けされ、センサーアレイ上で反応しているセンサーの位置情報やその相互作用の強弱を含む情報としてセンサーデータ処理を行う(ステップ504)。
【0070】
次に、このセンサーデータ処理された相互作用パターン情報を情報処理部130に送信し、センサー配列情報格納部132及び匂い要因情報格納部133の中のデータを参照して(ステップ505)、該当するパターンを読み出し、匂い要因の識別を行う(ステップ506)。
ここで、単一の匂い原因物質を検出したい場合には、センサー配列情報を参照しなくとも、匂い原因物質情報のみを参照、照合してその匂い原因物質を特定することも可能である。
2b.具体例
【0071】
次に、図5のフロー及び、図6図7を参照しながら識別方法のフローを具体的に説明する。
図6は、センサーアレイでの匂い原因物質の相互作用と配列情報を示す模式図である。
図7は、一例としてリンゴとコーヒーの香りを検出、識別するプロセスを示すシステム概念図である。
【0072】
本例においても、匂い原因物質の情報のみでも、その匂い要因の検出・識別も可能であるが、上述の通り匂い要因情報及びセンサー情報の両方を参照することにより、例えばセンサー部分の配列情報、センサー構成情報、センサー製品情報等をあらかじめ登録しておいたセンサー関連情報と、匂い要因情報の両方を参照することで、当該センサーを用いた場合の特定のパターンによりデータ処理を行うことが可能となる。
【0073】
この構成であれば、測定する匂い要因情報を、そのセンサーを用いる使用者の個人情報等と関連づけることが可能となる。例えばこの関連情報を個人認証そのほかのセキュリティ技術に応用したり、医療における診断技術へと利用することも可能となり、その用途を拡大することができる。
【0074】
まず、ユーザーは本発明の匂い識別システムに、被測定対象となる特定の匂い要因をセンサーに特定させる。本例では、被測定対象は、リンゴならびに珈琲の匂いとし、それぞれを匂いA、匂いBとする。これらの匂いを匂い要因として匂い要因情報格納部に格納しておく。
【0075】
まず、リンゴとコーヒーの匂い要因を含むサンプルと本システムとを接触させて、サンプルを取得する(ステップ501)。取得されたサンプルの気体は図6のセンサーアレイ部600へと送られ該アレイ部で反応が起こる。
ここで、本発明のセンサーシステムに実装されている、異なる機能膜が塗布されたQCM素子群601はこれらリンゴもしくはコーヒーに含まれる複数の匂い原因物質に対して異なる相互作用を生じ、それぞれのQCM素子がそれぞれの反応に応じた周波数変化を出力する。
【0076】
つまり、ある素子群601において、(X1、Yn)の素子群は例えばリンゴの香気成分、すなわち臭気物質である酢酸アミルにと強く相互作用し、その程度はYnのnが大きくなるに従って弱くなっていくものとする。一方(Xn、Y1)の素子群は酢酸ヘキシル等と強く相互作用し、その程度はXnのnが大きくなるに従って弱くなるような機能性膜を有する構成としている。
【0077】
また、(X2、Yn)の素子群はコーヒーの香気成分であるカフェインに、(X3、Yn)の素子群はテオフィリンに、(X4、Yn)の素子群はテオブロミンに相対的に強く相互作用する機能性膜を有する構成とする。
これらの構成(位置情報及び機能膜情報)及びセンサーの製品情報(製品情報(センサーの製造番号、アレイ位置情報(X、Y)、各QCM素子の種類、など)はあらかじめ図1に示すセンサー配列情報格納部132に格納しておく。
【0078】
このような構成により、それぞれの素子601がその香気成分の濃度に応じて素子配列に相関したQCM素子の振動周波数の変化をパターンとして検出できるという構成になっている。
この、サンプルの臭気物質と各素子における相互作用とで発生する各素子の周波数変化をデジタルデータとして、センサーデータ処理部113に送り、そこでセンサーデータ処理を施すことで例えば画像データへと変換してセンサーアレイ情報を取得する(ステップ504)。
【0079】
この時、一般的なセンサーデータ処理を用いてセンサー出力されたパターンとデータベースの情報を比較する。例えば、一般的なセンサーデータ処理技術としては、2次元バーコードリーダー、顔認識、もしくは指紋認証などの、近似情報処理技術を用いることができる。
【0080】
このようにして、図6に示す各素子601で相互作用があると、その機能膜の相互作用の強さに応じた出力が各素子601からあり、それと同時にそれぞれの素子601の配列情報が出力される。
【0081】
この時、例えば本発明のシステムを搭載している電子機器は、ネットワークを介してセンサー配列情報格納部に事前格納されている同センサー素子等の製品情報(製品情報(センサーの製造番号、アレイ位置情報(X、Y)、各QCM素子の種類、など)をネットワーク上に参照しにいき、各QCM素子の周波数変化の出力データと照らし合わせて、匂いパターン(X、Y、QCM出力)を算出することができる。つまり、図7中に示すような、アレイのマトリクスパターンが得られる。
【0082】
その後ステップ505で上述の相互作用のパターンデータと、臭気物質情報格納部のデータ及びセンサーアレイ部の特性、配列、及び製品としてのセンサー情報等を格納しているセンサー配列情報格納部とを照合・参照することでサンプルに含まれる匂い要因の特定を行う(ステップ506)。
そして図7に図示するように、出力パターンがリンゴやコーヒーの匂いパターンと近似、もしくは該当すれば、ユーザーに対して、「匂いAはリンゴに似た匂いである」、「匂いBはコーヒーに似た匂いである」と結果を返す。
【0083】
以上のように、本発明の嗅覚システムは事前格納したセンサーシステムのQCM素子の配列規則情報と出力情報から得た匂い要因との相互作用パターンを取得すると同時に、ネットワーク上に構築された匂い要因情報を格納するデータベースを参照することによって、本発明のセンサーシステムを搭載するユーザーの機器において、簡便にクラウド環境において、匂いの特定ができる。
【0084】
無論、データベースはユーザーが任意に、匂い対象物を、匂いパターンと共に登録することが可能である。よって、よりセキュアで安全なシステムを設計するこができる。
3.匂い識別装置
【0085】
本発明の匂い識別装置は、上述した嗅覚システム及びその方法を実行するための構成を具備するものである。
【0086】
すなわち、測定対象を感知する少なくとも二つのセンサーを含むセンサーユニットと、前記センサーユニットにおける反応のデータ処理するセンサーデータ処理ユニットと、及び前記センサーデータ処理により作製されたセンサーデータパターンにより測定対象を識別するパターン識別ユニットとを備える。
このセンサーユニットと、パターン識別ユニットとが、それぞれ図1に示すサンプル情報部110と情報処理部130とに対応しており、各ユニットは一つの装置内に設けても良いし、別個の装置として構成しても良い。これらの例については以下に例示する。
4.システムの利用例
【0087】
4a.嗅覚システムを設けた携帯デバイス
本発明のシステムは、センサーアレイ部を小型化することが可能であるため、サンプル情報取得部をスマートフォン等の携帯デバイスに組み込むことも可能である。その場合は、情報処理部も当該デバイス内に組み込んでも良いし、該情報処理部についてはネットワーク通信手段を介してデバイス外に設けた情報処理部に必要な情報を参照にいく構成としても良い。
【0088】
図8は、本発明のセンサーアレイ部を内部に組み込んだ携帯デバイスの概要図である。
センサーアレイの組み込み位置は任意に設定可能であるが、図8では一例としてスマートフォン800のマイク設置部のダクト801の直下(ホームボタンの直下、マイク部品の直下)にセンサーアレイ部802を設けている。この構成では、例えば歯周病や内臓疾患による口腔内トラブルを検知可能なヘルスチェック機能を付与することが可能となる。
4b.嗅覚システムを設けたウエアラブルデバイス
【0089】
当該システムは小型装置に組み込むことが可能であるため、例えば現在市場に出てきそうなウエアラブルデバイスに当該システム又は装置を搭載させることで、匂いセンサーとして利用可能である。例えば眼鏡などにシステムデバイスを搭載すれば、e-noseとして使用可能となるだけでなく、そのほか様々な利用が可能である。
4c.空気清浄機、空調、エアコン等への利用
【0090】
本発明のシステムをエアコン等に用いることで、室内の匂い要因を測定、識別し、それにより必要に応じて空気を清浄するといった処理を行うことが可能となり、より質の高い機能を提供することができる。
4d.吸気診断装置等医療用途への応用
【0091】
現在の医療では、呼気に含まれる特定の物質をマーカーとして疾病診断を行うという手法が開発されつつある。このような場合に本発明のシステムを用いれば、複数のマーカー・検出物質を含む呼気においても、その診断精度が向上するということが考えられる。このような診断用途で本システムを用いる場合には、医療機器そのものとして設計・製造し、本発明のシステムを組み込むことも可能であるし、あるいは、上述したような携帯電話・スマートフォンにセンサーアレイ部等を組み込み、センサーアレイ部が取得した情報をサーバーとの通信により、例えば医療機関などでの遠隔診断に用いる、ということも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0092】
それぞれ異なる機能膜を表面に有する複数独立のセンサー素子を一定の規則に従った順番で整列して実装する際、この規則をネットワーク上の任意の場所に、製造情報とともに記録すること、前記規則が、個別製品ごと、製造バッチごと、製造工場ごとなど任意のクラスターからなる製品情報ごとに変更され記録されること、特定の匂いに対する応答パターンをそのパターンを測定した各個別機器に実装されたセンサーの製品情報から当該センサーの配列パターンデータをネットワーク上の任意の場所から読み出し照合して匂いを特定すること、を特徴とする、嗅覚システムが提供される。
【0093】
本発明の嗅覚システム、匂い識別方法及び識別装置は、従来の匂いセンサーでは識別までできなかった匂い要因についても全体的に判定識別が可能であるため、不特定多数の匂い原因物質の混合状態においても、それらから構成される匂い要因を検出・認識することが可能となる。それにより、様々なデバイスに匂いセンサーとして用いられるだけでなく、空気清浄機や医療用途などへの応用も可能となる。
【符号の説明】
【0094】
100 匂い識別システム
110 サンプル情報部
111 サンプル取得部
112 センサーアレイ部
113 センサー素子データ処理部
130 情報処理部
132 センサー配列情報格納部
133 匂い要因情報格納部
134 パターン識別部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8