(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】放射線検出器及びそれを含む放射線撮像装置
(51)【国際特許分類】
G01T 1/36 20060101AFI20221227BHJP
G01T 1/17 20060101ALI20221227BHJP
A61B 6/03 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
G01T1/36 A
G01T1/17 H
A61B6/03 320R
A61B6/03 373
(21)【出願番号】P 2022506381
(86)(22)【出願日】2020-11-24
(86)【国際出願番号】 JP2020043669
(87)【国際公開番号】W WO2022113170
(87)【国際公開日】2022-06-02
【審査請求日】2022-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(73)【特許権者】
【識別番号】516088329
【氏名又は名称】株式会社ANSeeN
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(72)【発明者】
【氏名】青木 徹
(72)【発明者】
【氏名】都木 克之
(72)【発明者】
【氏名】木村 洸介
(72)【発明者】
【氏名】小池 昭史
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-96993(JP,A)
【文献】特開2015-104664(JP,A)
【文献】特開2020-99667(JP,A)
【文献】特開平11-128214(JP,A)
【文献】特開2014-45896(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/36
G01T 1/17
A61B 6/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被写体を透過した放射線のエネルギあるいは粒子の数に対応する電荷を生成する複数の電荷生成領域が二次元的に配列された電荷生成部、及び前記複数の電荷生成領域のそれぞれによって生成される前記電荷に基づく前記放射線の強度信号を出力する複数の読出回路とが、互いに積層されて構成されており、
前記複数の読出回路のうちから間引かれた一部の読出回路は、前記電荷に基づいて前記放射線のスペクトルに関するスペクトル信号を生成し、前記スペクトル信号を出力する、
放射線検出器。
【請求項2】
前記一部の読出回路は、当該読出回路に対応して配置された前記電荷生成領域において生成された前記電荷に基づいて前記スペクトル信号を生成する、
請求項1に記載の放射線検出器。
【請求項3】
前記一部の読出回路は、当該読出回路に対応して配置された前記電荷生成領域において生成された前記電荷と、当該電荷生成領域の所定範囲内の前記電荷生成領域において生成された前記電荷とに基づいて、前記スペクトル信号を生成する、
請求項1に記載の放射線検出器。
【請求項4】
前記一部の読出回路は、前記スペクトル信号として、前記放射線のエネルギと前記エネルギに対応する強度値との複数の組み合わせを示すデータを生成する、
請求項1~3のいずれか1項に記載の放射線検出器。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の放射線検出器と、
前記放射線検出器から出力された前記強度信号及び前記スペクトル信号を基に、画像を生成するプロセッサと、
を備える放射線撮像装置。
【請求項6】
前記プロセッサは、
前記複数の読出回路から出力された前記強度信号を基に前記被写体の像を表す情報を高解像度の輝度情報として生成し、前記一部の読出回路から出力された前記スペクトル信号を基に前記被写体の物性の分布を表す情報を低解像度の色情報として生成し、前記輝度情報と前記色情報とを組み合わせることにより、前記被写体のカラー画像を生成する、
請求項5記載の放射線撮像装置。
【請求項7】
前記プロセッサは、
前記放射線検出器から出力された前記強度信号及び前記スペクトル信号を基にCT画像を再構成する機能を有する、
請求項5又は6に記載の放射線撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、放射線検出器及びそれを含む放射線撮像装置を説明する。
【背景技術】
【0002】
従来のX線を用いた撮像装置として、下記特許文献1に記載のように、X線CT(Computed Tomography:コンピュータ断層撮影)装置が知られている。このX線CT装置は、二つ以上のエネルギレベルで被写体を透過したX線の検出を行うことにより物質弁別が可能なCT画像を再構成する機能(以下、スペクトラルCTと呼ぶ)を有する。スペクトラルCTによれば、線減弱係数の分布であるCT画像のみでなく、実効原子番号等の物性データの分布を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のスペクトラルCTの機能を有する撮像装置は、通常のCT画像に対して物性データの分布を色にマッピングして重畳した断面画像を生成することが可能である。このような撮像装置において、複数の画素を有する放射線検出器を備える構成を採用した場合に、全画素から、CT画像の再構成に用いられる強度情報と二以上のエネルギレベルの強度情報(以下、エネルギ情報ともいう。)とを取得する必要がある。その結果、従来の撮像装置では、処理負荷及び消費電力が増大する傾向があった。
本開示は、処理負荷及び消費電力を低くしながら強度情報及びエネルギ情報を提供することが可能な放射線検出器及びそれを含む放射線撮像装置を説明する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一形態である放射線検出器は、被写体を透過した放射線のエネルギあるいは粒子の数に対応する電荷を生成する複数の電荷生成領域が二次元的に配列された電荷生成部、及び複数の電荷生成領域のそれぞれによって生成される電荷に基づく放射線の強度信号を出力する複数の読出回路とが、互いに積層されて構成されており、複数の読出回路のうちから間引かれた一部の読出回路は、電荷に基づいて放射線のスペクトルに関するスペクトル信号を生成し、スペクトル信号を出力する。
【0006】
この放射線検出器において、電荷生成部の複数の電荷生成領域において入射した放射線のエネルギあるいは粒子の数に対応する電荷が生成され、それぞれの電荷生成領域に対応する読出回路において、電荷に基づく放射線の強度情報が出力される。それとともに、複数の読出回路のうちから間引きされた一部の読出回路において、電荷に基づく放射線のスペクトルに関するスペクトル信号が生成および出力される。これにより、被写体の像の強度情報の解像度を保ちながら、放射線検出器が出力する電荷生成領域ごとのエネルギ情報を削減することができる、その結果、出力する被写体の画像の解像度を維持しつつ、処理負荷及び消費電力を低減することができる。
【0007】
一形態において、一部の読出回路は、当該読出回路に対応して配置された電荷生成領域において生成された電荷に基づいてスペクトル信号を生成してもよい。この場合、複数の電荷生成領域のうちから間引きされた一部の電荷生成領域において生成された電荷に基づいて、それぞれの電荷生成領域に入射する放射線のスペクトルに関するスペクトル信号が生成および出力される。これにより、処理負荷及び消費電力を低減させながら強度情報及びエネルギ情報を出力することができる。
【0008】
一形態において、一部の読出回路は、当該読出回路に対応して配置された電荷生成領域において生成された電荷と、当該電荷生成領域の所定範囲内の電荷生成領域において生成された電荷とに基づいて、スペクトル信号を生成してもよい。この場合、複数の電荷生成領域のうちの所定範囲内に含まれる複数の電荷生成領域において生成された電荷に基づいて、所定範囲内のそれぞれの電荷生成領域に入射する放射線のスペクトルがまとめられたスペクトル信号が生成および出力される。これにより、処理負荷及び消費電力を低減させながら強度情報及びエネルギ情報を出力することができる。
【0009】
一形態において、一部の読出回路は、スペクトル信号として、放射線のエネルギとエネルギに対応する強度値との複数の組み合わせを示すデータを生成してもよい。この構成によれば、間引かれた一部の読出回路のみから物性データの分布を得るためのエネルギ情報を効率的に出力することができる。その結果、処理負荷及び消費電力を低減させながら強度情報及びエネルギ情報を出力することができる。
【0010】
本開示の他の形態である放射線撮像装置は、上述した放射線検出器と、放射線検出器から出力された強度信号及びスペクトル信号を基に、画像を生成するプロセッサと、を備える。この放射線撮像装置によれば、処理負荷及び消費電力を低減させながら強度情報及びエネルギ情報を基にした画像生成を実現することができる。
【0011】
他の形態において、プロセッサは、複数の読出回路から出力された強度信号を基に被写体の像を表す情報を高解像度の輝度情報として生成し、一部の読出回路から出力されたスペクトル信号を基に被写体の物性の分布を表す情報を低解像度の色情報として生成し、輝度情報と色情報とを組み合わせることにより、被写体のカラー画像を生成してもよい。この構成によれば、被写体の繊細な画像を物性分布を視認可能な状態で効率的に生成することができる。
【0012】
他の形態において、プロセッサは、放射線検出器から出力された強度信号及びスペクトル信号を基にCT画像を再構成する機能を有する、ことでもよい。このような構成においては、処理負荷及び消費電力が低減されたスペクトラルCTを実現することができる。
【発明の効果】
【0013】
本開示の放射線検出器及び放射線撮像装置は、処理負荷及び消費電力を低くしながら強度情報及びエネルギ情報を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、実施形態に係る放射線検出器100を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係る放射線撮像装置200の構成を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、
図3のプロセッサ9の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、プロセッサ9により処理された画像の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、プロセッサ9により処理された画像の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、変形例における放射線検出素子1の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照しながら本開示の放射線検出器及び放射線撮像装置を詳細に説明する。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図1に示す実施形態に係る放射線検出器100は、被写体を透過して到達する放射線に基づく断面画像を得るための装置である。放射線は、例えば、ガンマ線、X線、アルファ線、ベータ線などでありうるが、本実施形態ではX線である。放射線検出器100は、放射線検出素子1と、処理部2と、制御部3と、を有する。
【0016】
放射線検出素子1は、矩形板状の読出回路基板8と、その読出回路基板8上に積層された矩形板状の検出素子基板(電荷生成部)7と、を有している。検出素子基板7は、被写体を透過して入射したX線のエネルギに対応する電荷を生成する材料からなる基板である。ただし、検出素子基板7は、放射線として粒子線を検出対象とする場合には、放射線の粒子の数に対応する電荷を生成する材料からなる。検出素子基板7は、複数の画素を有し、画素毎に入射したX線によって電子正孔対(電荷対)を生成する。この検出素子基板7としては、例えば、Cd(Zn)Te電荷生成器、Si電荷生成器、Ge電荷生成器、GaAs電荷生成器、GaN電荷生成器、TlBr電荷生成器等を利用してよい。また、検出素子基板7として、画素毎に、シンチレータと光検出器とを備えた装置を用いてもよい。シンチレータは、X線を光に変換する。光検出器は、シンチレータが生成した光を電荷に変換する。読出回路基板8は、検出素子基板7によって各画素毎に生成される電荷に基づく信号を生成および出力する回路群を内蔵する基板である。
【0017】
図2は、放射線検出素子1の断面図である。このように、検出素子基板7は、矩形平板状のCdTe等の化合物半導体からなる検出素子7aと、表面電極7b、および複数のバンプ電極7cとを含む。検出素子7aの放射線入射側の表面全体に表面電極7bが形成されている。検出素子7aの裏面には、2次元的に配列された突起状の電極であるバンプ電極7cが形成されている。このような構造の検出素子基板7においては、バンプ電極7cに対向する検出素子7aの複数の領域のそれぞれが画素(電荷生成領域)7dを形成する。放射線検出器100の使用時には、外部から表面電極7bに正のバイアス電圧が印加される。これにより、検出素子7aの各画素7dにおいて入射したX線のエネルギに対応した電荷が電流信号として生成され、それぞれに対応するバンプ電極7cから読出回路基板8に電流信号が取り出される。例えば、バンプ電極7cは検出素子7aの裏面に96個×96個で二次元的に配列される。このような構成においては、放射線検出素子1は96個×96個で二次元的に配列された画素7dを有することとなる。
【0018】
読出回路基板8は、検出素子基板7の裏面側においてバンプ電極7cに接合された状態で配置されている。この読出回路基板8には、検出素子基板7の複数の画素7dに対向する位置に配置された複数の読出回路8a,8bが内蔵されている。複数の読出回路8a,8bのそれぞれは、検出素子基板7の複数の画素7dに対してバンプ電極7cを介して電気的に接続されている。これらの複数の読出回路8a,8bは、複数の画素7dに対向する位置に設けられ、読出回路8aは、複数の画素7dのうちから二次元のそれぞれの配列方向において3個おきに間引きされた画素7dに対向する位置に設けられ、読出回路8bは、上記間引きされた画素7d以外の画素7dに対向する位置に設けられる。すなわち、読出回路8aは、検出素子基板7の全ての画素7dに対向する複数の読出回路8a,8bのうちから間引かれた一部の読出回路を意味している。なお、本実施形態では、3個おきに間引きされた画素7d毎に読出回路8aが設けられているが、この間引きの度合いは、8個おき、16個おき、32個おき、等に適宜変更されてよい。
【0019】
読出回路8bは、検出素子基板7の各画素7dが生成した電荷を処理する。詳細には、読出回路8bは、その読出回路8bに対向する画素7dが出力する電流信号を基に、電流信号をある一定期間蓄積してX線の強度信号を生成する。そして、読出回路8bは、画素毎7dの強度信号を後述する処理部2に出力する。読出回路8bの出力する画素7d毎の強度信号は、各画素7dに入射したX線の強度を示す信号である。
【0020】
読出回路8aは、検出素子基板7の全画素7dから間引きされた画素7dが生成した電荷を処理する。すなわち、読出回路8aは、多重波高分析器(Multi Channel Analyzer:MCA)を含み、その読出回路8aに対応する画素7dが出力する電流信号をパルス信号として計数し、そのパルス信号の高さをX線光子のエネルギとして検出し、エネルギ毎の計数値(強度値)を記録する。そして、読出回路8aは、X線光子のエネルギの値とそのエネルギの計数値(強度値)との複数の組み合わせを示すデータを、入射したX線のスペクトルを表すスペクトル信号として生成する。そして、読出回路8aは、画素7d毎のスペクトル信号を後述する処理部2に出力する。ここで、読出回路8aは、対応する画素7d毎のスペクトル信号に加えて、読出回路8bと同様に画素7d毎の強度信号を生成および出力する機能を有していてもよい。なお、読出回路8aは、スペクトル信号を生成する機能を有するため、読出回路8bに比較して読出回路基板8内に占める回路規模が大きくなっている。
【0021】
図1に戻って、処理部2は、配線部4を介して読出回路基板8のそれぞれの読出回路8a,8bに接続されている。処理部2は、それぞれの読出回路8a,8bから、画素毎の強度信号及びスペクトル信号を受け取る。例えば、処理部2は、読出回路8bから画素毎の強度信号を順次受け取り、読出回路8aから間引かれた画素毎のスペクトル信号を受け取り、受け取った画素毎の強度信号及びスペクトル信号を外部に出力する。
【0022】
制御部3は、配線部6を介して読出回路基板8のそれぞれの読出回路8a,8bに接続されている。制御部3は、複数の読出回路8a,8bにおける、電荷の検出タイミング、強度信号とスペクトル信号の生成タイミング、及びそれらの出力タイミングを制御する制御信号を、複数の読出回路8a,8bに提供する。例えば、制御部3は、外部におけるX線の照射タイミングに同期させて電荷の検出タイミングを設定するように制御信号を提供し、その後、検出素子基板7の各画素7dから順次強度信号およびスペクトル信号を出力するように制御信号を提供する。
【0023】
図3は、実施形態に係る放射線撮像装置200の構成を示すブロック図である。放射線撮像装置200は、上述した放射線検出器100と、プロセッサ9とを備える。プロセッサ9は、放射線検出器100から出力された各画素の強度信号及び各画素のスペクトル信号を処理して被写体の断面画像を生成および出力する。プロセッサ9は、有線通信あるいは無線通信によるネットワークを介して放射線検出器100の処理部2から、強度信号及びスペクトル信号を受信する。
【0024】
プロセッサ9は、オペレーティングシステム、アプリケーション・プログラム等を実行するCPU(Central Processing Unit)と、ROMおよびRAMで構成される主記憶装置と、ハードディスク、フラッシュメモリ等で構成される補助記憶装置と、ネットワークカードまたは無線通信モジュールで構成される通信制御装置と、キーボード、マウス、タッチパネル等の入力装置と、モニタ、タッチパネルディスプレイ等の出力装置とを備える。プロセッサ9の各機能要素は、CPUまたは主記憶装置上に予め定められたプログラムを読み込ませてCPUにそのプログラムを実行させることで実現される。CPUはそのプログラムに従って、通信制御装置、入力装置、または出力装置を動作させ、主記憶装置または補助記憶装置におけるデータの読み出しおよび書き込みを行う。処理に必要なデータまたはデータベースは主記憶装置または補助記憶装置内に格納される。
【0025】
図4は、プロセッサ9の機能構成の一例を示すブロック図である。プロセッサ9は、機能要素として、強度画像生成部11、エネルギ画像生成部12、CT画像生成部13、および画像重畳部14を備える。
【0026】
強度画像生成部11は、放射線検出器100から出力された各画素の強度信号及び各画素のスペクトル信号を用いて、被写体におけるX線の透過像の強度分布を示す高解像度の強度画像を生成する。すなわち、強度画像生成部11は、各画像の強度信号及びスペクトル信号を、強度画像の各画素の画素値に変換する。ここで、強度画像生成部11は、読出回路8aに対応する画素についてスペクトル信号のみを取得する場合には、そのスペクトル信号を基に、複数のエネルギ毎の強度値を全てのエネルギに亘って積分することにより、対応する画素の強度値に変換する。
【0027】
エネルギ画像生成部12は、放射線検出器100から出力された間引きされた各画素のスペクトル信号を用いて、被写体における所定のエネルギ帯のX線の透過像の強度分布を示す低解像度のエネルギ画像を、複数のエネルギ帯について生成する。本実施形態では、CT画像生成部13がデュアルエナジCT(Dual Energy Computed Tomography:DECT)方式によって2種類のエネルギ情報を取得するため、2種類のエネルギ帯(例えば、25keVと65keVのエネルギ帯)のエネルギ画像を生成する。ここで、エネルギ画像生成部12は、読出回路8aに対応する画素のスペクトル信号を基に、2つのエネルギ帯のそれぞれについて、強度値を積分することにより、エネルギ画像の画素の強度値に変換する。
【0028】
CT画像生成部13は、強度画像生成部11によって生成された高解像度の強度画像を、被写体に対するX線の様々な照射方向について取得し、様々な照射方向における強度画像を解析することにより、被写体の所定断層面における高解像度の線減弱係数の分布を表すCT画像を生成する。この際、CT画像生成部13は、CT画像の生成時に用いる画像再構成の方式として、2次元フーリエ変換法、フィルタ補正逆投影法、逐次近似法、等を採用することができる。
【0029】
また、CT画像生成部13は、エネルギ画像生成部12によって生成された複数種類のエネルギ帯の低解像度のエネルギ画像を、様々な照射方向について取得し、それらの低解像度のエネルギ画像を解析することにより、被写体の所定断層面における複数種類のエネルギ帯の低解像度のCT画像を生成する。この際、CT画像生成部13は、CT画像の生成時に用いる画像再構成の方式として、上述した方式を採用できる。
【0030】
また、CT画像生成部13は、複数種類のエネルギ帯の低解像度のCT画像を基に、被写体の断層面における物性の分布を示す物性分布画像を生成する。例えば、CT画像生成部13は、デュアルエナジCT方式が採用される場合には、線減弱係数μ、エネルギ値E、電子密度ρ、原子番号Z、光電吸収減弱係数F、及び散乱減弱係数Gの関係を示す下記式;
μ=ρ[Z4F(E,Z)+G(E,Z)]
の関係を用いて、2つのエネルギ帯のCT画像の示す線減弱係数を基に、実効原子番号Z及び電子密度ρを、各画素毎に算出する。ここで、光電吸収減弱係数F、及び散乱減弱係数Gは、エネルギ値E及び原子番号Zを引数とした既知の関数(例えば、マッピングテーブル)であり、予めプロセッサ9内に記憶される。そして、CT画像生成部13は、算出した各画素毎の実効原子番号Zあるいは電子密度ρを割り当てることにより、低解像度の実効原子番号Zあるいは電子密度ρの分布を示す物性分布画像を生成する。
【0031】
画像重畳部14は、CT画像生成部13によって生成された高解像度のCT画像の各画素値を出力画像の輝度情報に設定し、CT画像生成部13によって生成された低解像度の物性分布画像の各画素値を出力画像の色情報に設定し、各画素毎に輝度情報と色情報とを組み合わせることにより、カラー画像である出力画像を生成する。これにより、画像重畳部14は、被写体の所定断層面における線減弱係数の分布と、所定断層面における物性値の分布とを、同時に視認可能に出力することができる。このような出力画像において、高解像度の白黒画像に低解像度のカラーのグリッド(線あるいはドット)を重ねることにより、視認者に対して目の錯覚により、高解像度のカラー画像と認識させることができる。
【0032】
図5及び
図6には、骨と血管を模したモデルを被写体としてプロセッサ9により処理された画像の一例を示す。
図5において、画像G1は25keVのエネルギ帯の低解像度のCT画像を示し、画像G2は65keVのエネルギ帯の低解像度のCT画像を示し、画像G3は画像G1および画像G2を基に生成された実効原子番号の物性分布画像を示し、画像G4は画像G1および画像G2を基に生成された電子密度の物性分布画像を示す。
図6において、画像G5はスペクトル信号が画素8個おきに間引きされた場合での電子密度の物性分布画像を示し、画像G6は画像G5が重畳された出力画像を示し、画像G7はスペクトル信号が画素16個おきに間引きされた場合での電子密度の物性分布画像を示し、画像G8は画像G7が重畳された出力画像を示し、画像G9はスペクトル信号が画素32個おきに間引きされた場合での電子密度の物性分布画像を示し、画像G10は画像G9が重畳された出力画像を示す。これらの結果より、間引きの度合いが8個おき及び16個おきの場合は電子密度の分布が出力画像に明確に現れており、物性分布が視認可能に表示できることがわかる。
【0033】
以上説明した放射線検出器100において、検出素子基板7の複数の画素7dにおいて入射したX線のエネルギに対応する電荷が生成され、それぞれの画素7dに対応する読出回路8a,8bにおいて、電荷に基づく透過X線の強度分布を示す強度信号が出力される。それとともに、複数の読出回路8a,8bのうちから間引きされた一部の読出回路8aにおいて、電荷に基づく透過X線のスペクトルに関するスペクトル信号が生成および出力される。これにより、被写体の透過X線像の強度情報の解像度を保ちながら、放射線検出器100が出力する画素7dごとのエネルギ情報を削減することができる、その結果、出力する被写体の画像の解像度を維持しつつ、処理負荷及び消費電力を低減することができる。
【0034】
本実施形態において、一部の読出回路8aは、当該読出回路8aに対応して配置された画素7dにおいて生成された電荷に基づいてスペクトル信号を生成している。この場合、複数の画素7dのうちから間引きされた一部の画素7dにおいて生成された電荷に基づいて、それぞれの画素7dに入射する透過X線のスペクトルに関するスペクトル信号が生成および出力される。これにより、処理負荷及び消費電力を低減させながら強度情報及びエネルギ情報を出力することができる。
【0035】
本実施形態において、一部の読出回路8aは、スペクトル信号として、透過X線のエネルギとエネルギに対応する強度値との複数の組み合わせを示すデータを生成する。この構成によれば、間引かれた一部の読出回路8aのみから物性データの分布を得るためのエネルギ情報を効率的に出力することができる。その結果、処理負荷及び消費電力を低減させながら強度情報及びエネルギ情報を出力することができる。
【0036】
本実施形態に係る放射線撮像装置200によれば、上述した放射線検出器100が備えられているので、処理負荷及び消費電力を低減させながら強度情報及びエネルギ情報を基にした画像生成を実現することができる。
【0037】
特に、放射線撮像装置200に備えられるプロセッサ9は、複数の読出回路8a,8bから出力された強度信号を基に被写体のX線透過像を表す情報を高解像度の輝度情報として生成し、一部の読出回路8aから出力されたスペクトル信号を基に被写体の物性の分布を表す情報を低解像度の色情報として生成し、輝度情報と色情報とを組み合わせることにより、被写体のカラー画像を生成している。この構成によれば、被写体の繊細なCT画像を物性分布を同時に視認可能な状態で効率的に生成することができる。
【0038】
また、本実施形態において、プロセッサ9は、放射線検出器100から出力された強度信号及びスペクトル信号を基にCT画像を再構成する機能を有する、ことでもよい。このような構成においては、処理負荷及び消費電力が低減されたスペクトラルCTを実現することができる。
【0039】
本開示の放射線検出器は、前述した実施形態に限定されない。本開示の放射線検出器は、請求項の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0040】
上述した実施形態における放射線検出器100における画素数あるいは間引きの度合いは一例であり、様々に変更されてもよい。
【0041】
また、放射線検出器100が出力するデータは、放射線のエネルギに対応する電荷を基にした強度信号及びスペクトル信号には限定されず、放射線検出器100の各画素に入射する放射線粒子の数に対応する電荷を基にした信号であってもよい。
【0042】
上述した実施形態における放射線検出器100の読出回路基板8の構成は、
図7に示すような構成に変更されてもよい。
図7に示す変形例においては、読出回路基板8内に2次元方向に隣接する所定範囲内の読出回路8aに接続される複数の読出回路8cがさらに設けられる。読出回路8cは、1つの読出回路8aに対向して設けられた画素7dによって生成された電荷に基づくスペクトル信号と、その画素7dの所定の範囲内の画素7dに対向する1以上の読出回路8aによって生成されたスペクトル信号とをまとめて1つのスペクトル信号を生成及び出力する(ビニング処理を行う)。例えば、読出回路8cは、複数のスペクトル信号を1つの信号にまとめる際には、エネルギ毎の強度値を合算する、あるいは、平均化することにより行う。
【0043】
本変形例によれば、複数の画素7dのうちの所定範囲内に含まれる複数の画素7dにおいて生成された電荷に基づいて、所定範囲内のそれぞれの画素7dに入射する透過X線のスペクトルがまとめられたスペクトル信号が、生成および出力される。これにより、処理負荷及び消費電力を低減させながら強度情報及びエネルギ情報を出力することができる。
【0044】
また、上記変形例では、放射線検出素子1の画素7dに対向する全ての読出回路がスペクトル信号を生成する機能を有し、複数の読出回路8cが所定範囲内の読出回路から出力されたスペクトル信号を対象にビニング処理を行ってもよい。
【符号の説明】
【0045】
100…放射線検出器、200…放射線撮像装置、7…検出素子基板(電荷生成部)、7d…画素(電荷生成領域)、8…読出回路基板、8a,8b,8c…読出回路、9…プロセッサ。