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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】亜鉛の回収方法
(51)【国際特許分類】
   C25C 1/16 20060101AFI20221227BHJP
   C22B 3/12 20060101ALI20221227BHJP
   C22B 1/00 20060101ALI20221227BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20221227BHJP
   C22B 19/20 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
C25C1/16 A
C22B3/12
C22B1/00 601
C22B3/44
C22B19/20 102
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022552400
(86)(22)【出願日】2020-12-14
(86)【国際出願番号】 JP2020046569
(87)【国際公開番号】W WO2022130462
(87)【国際公開日】2022-06-23
【審査請求日】2022-08-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519355493
【氏名又は名称】日揮グローバル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503107255
【氏名又は名称】株式会社キノテック
(74)【代理人】
【識別番号】100145023
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 学
(72)【発明者】
【氏名】左右田 賢三
(72)【発明者】
【氏名】庵崎 雅章
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特表昭57-501384(JP,A)
【文献】特表2014-526614(JP,A)
【文献】特開昭59-133337(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25C 1/16
C22B 19/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛を含有する原料を、温度100℃以上のアルカリ流体で処理して、前記原料に含まれる亜鉛を溶解する溶解工程と、
前記溶解工程で前記原料から抽出された亜鉛を回収する回収工程と、
を有し、
前記回収工程が、亜鉛を含有する液相から電気分解により金属亜鉛を得る電気分解工程を含み、
前記溶解工程に先立って、前記原料をアルカリ水溶液で洗浄して、可溶性のハロゲン化合物を除去するアルカリ洗浄工程を更に有し、
前記アルカリ洗浄工程で用いる前記アルカリ水溶液の濃度は、前記溶解工程で用いる前記アルカリ流体の濃度よりも低く設定され
前記アルカリ洗浄工程において洗浄に用いられた後の前記アルカリ水溶液は、前記可溶性のハロゲン化物を含むと共に、前記溶解工程及び前記電気分解工程に送られることなく系外に排出される一方で、前記アルカリ洗浄工程において前記アルカリ水溶液で前記可溶性のハロゲン化合物が除去された後の前記原料は、前記溶解工程に送られ、前記溶解工程において、前記原料に含まれる前記亜鉛が溶解した前記アルカリ流体が得られ、前記電気分解工程において、電解浴として用いる前記アルカリ流体由来の前記液相中の塩素濃度は1000ppm以下とされることを特徴とする亜鉛の回収方法。
【請求項2】
前記原料が鉄分を含有することを特徴とする請求項1に記載の亜鉛の回収方法。
【請求項3】
前記原料がジンクフェライトを含有することを特徴とする請求項1または2に記載の亜鉛の回収方法。
【請求項4】
前記溶解工程を、大気圧、温度100~200℃で行うことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の亜鉛の回収方法。
【請求項5】
前記溶解工程を、圧力が大気圧より0.017MPa~2MPa高い加圧条件下、温度105~220℃で行うことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の亜鉛の回収方法。
【請求項6】
前記原料が有機ハロゲン化合物を含有し、
前記回収工程が、亜鉛を含有する液相から電気分解により金属亜鉛を得る電気分解工程を含み、
前記溶解工程において、前記アルカリ流体により前記有機ハロゲン化合物を分解し、前記電気分解工程に先立って、ハロゲンを系外に排出することを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の亜鉛の回収方法。
【請求項7】
前記回収工程が、前記原料に含まれる鉄分を含有する固相と、亜鉛を含有する液相とを分離する固液分離工程を含むことを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の亜鉛の回収方法。
【請求項8】
前記回収工程において、亜鉛を亜鉛地金として回収することを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の亜鉛の回収方法。
【請求項9】
前記回収工程を経た残液に含まれるアルカリ金属塩を電気分解または濃縮によりアルカリ流体に再生する再生工程を有し、
前記再生工程で得られたアルカリ流体を前記溶解工程に供給することを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の亜鉛の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄スクラップは、リサイクルのため、製鉄原料として処理されている。製鉄プロセスで生じる微粉末は、集塵機等の捕集装置により、製鋼ダストとして回収される。製鋼ダストは、高炉から回収されると高炉ダスト、電気炉から回収されると電気炉ダストと呼ばれる。亜鉛メッキが施された鉄スクラップ等に由来して、製鋼ダストには、高温で揮発性のある亜鉛、鉛等の金属が多く含まれている。このため、製鋼ダストは、資源として注目されている。
【0003】
非特許文献1には、20~80℃のNaOHを用いた電気炉ダストのアルカリ浸出において、不溶性のジンクフェライト(ZnFe)が存在するためにZnの回収率が低下することが記載されている。非特許文献2には、30~75℃のアルカリ性溶液から亜鉛の電解採取(EW)を行うことが記載されている。非特許文献3の75~79ページおよび91~98ページには80℃(353K)または90℃(363K)でNaOHを用いてジンクフェライトおよび電気炉ダストから亜鉛を浸出することが記載されている。
【0004】
従来技術として、90℃以下の条件でジンクフェライトまたは電気炉ダストをアルカリ溶液にて溶解する方法が研究されている。しかし、従来技術では、亜鉛の溶解率が60~70%程度にとどまっている。また溶解のために、長い滞留時間を必要もあり、商業化されていない。
【0005】
一方、乾式法として、カルシウム(Ca)塩を含む添加剤と共にダストを800~1000℃で高温焙焼して、ジンクフェライトからバイカルシウムフェライト(2CaO・Fe)と酸化亜鉛(ZnO)を生成した後、アルカリに溶解しやすいZnOをアルカリ溶解させる方法が考えられている。しかし、この方法では、高温焙焼のエネルギーがかなりの運営コストとなる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】H.Mordoganら、“Caustic Soda Leach of Electric Arc Furnace Dust”、Turkish Journal of Engineering and Environmental Sciences、1999年、第23巻、p.199-207
【文献】S.Afifiら、“On the Electrowinning of Zinc from Alkaline Zincate Solutions”、Journal of The Electrochemical Society、1991年、第138巻、p.1929-1933
【文献】Dan Kui Xia、“Recovery of Zinc from Zinc Ferrite and Electric Arc Furnace Dust”、Queen's University、1997年、博士論文
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、亜鉛を含有する原料がジンクフェライト等の難溶性の亜鉛化合物を含む場合であっても、効果的に亜鉛を溶解することができる亜鉛の回収方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様は、亜鉛を含有する原料を、温度100℃以上のアルカリ流体で処理して、前記原料に含まれる亜鉛を溶解する溶解工程と、前記溶解工程で前記原料から抽出された亜鉛を回収する回収工程と、を有し、前記回収工程が、亜鉛を含有する液相から電気分解により金属亜鉛を得る電気分解工程を含み、前記溶解工程に先立って、前記原料をアルカリ水溶液で洗浄して、可溶性のハロゲン化合物を除去するアルカリ洗浄工程を更に有し、前記アルカリ洗浄工程で用いる前記アルカリ水溶液の濃度は、前記溶解工程で用いる前記アルカリ流体の濃度よりも低く設定され、前記アルカリ洗浄工程において洗浄に用いられた後の前記アルカリ水溶液は、前記可溶性のハロゲン化物を含むと共に、前記溶解工程及び前記電気分解工程に送られることなく系外に排出される一方で、前記アルカリ洗浄工程において前記アルカリ水溶液で前記可溶性のハロゲン化合物が除去された後の前記原料は、前記溶解工程に送られ、前記溶解工程において、前記原料に含まれる前記亜鉛が溶解した前記アルカリ流体が得られ、前記電気分解工程において、電解浴として用いる前記アルカリ流体由来の前記液相中の塩素濃度は1000ppm以下とされることを特徴とする亜鉛の回収方法である。
【0009】
本発明の第2の態様は、前記原料が鉄分を含有することを特徴とする第1の態様の亜鉛の回収方法である。
【0010】
本発明の第3の態様は、前記原料がジンクフェライトを含有することを特徴とする第1または第2の態様の亜鉛の回収方法である。
【0011】
本発明の第4の態様は、前記溶解工程を、大気圧、温度100~200℃で行うことを特徴とする第1~3のいずれか1の態様の亜鉛の回収方法である。
【0012】
本発明の第5の態様は、前記溶解工程を、圧力が大気圧より0.017MPa~2MPa高い加圧条件下、温度105~220℃で行うことを特徴とする第1~3のいずれか1の態様の亜鉛の回収方法である。
【0014】
本発明の第の態様は、前記原料が有機ハロゲン化合物を含有し、前記回収工程が、亜鉛を含有する液相から電気分解により金属亜鉛を得る電気分解工程を含み、前記溶解工程において、前記アルカリ流体により前記有機ハロゲン化合物を分解し、前記電気分解工程に先立って、ハロゲンを系外に排出することを特徴とする第1~のいずれか1の態様の亜鉛の回収方法である。
【0015】
本発明の第の態様は、前記回収工程が、前記原料に含まれる鉄分を含有する固相と、亜鉛を含有する液相とを分離する固液分離工程を含むことを特徴とする第1~のいずれか1の態様の亜鉛の回収方法である。
【0016】
本発明の第8の態様は、前記回収工程において、亜鉛を亜鉛地金として回収することを特徴とする第1~7のいずれか1の態様の亜鉛の回収方法である。
【0018】
本発明の第の態様は、前記回収工程を経た残液に含まれるアルカリ金属塩を電気分解または濃縮によりアルカリ流体に再生する再生工程を有し、前記再生工程で得られたアルカリ流体を前記溶解工程に供給することを特徴とする第1~のいずれか1の態様の亜鉛の回収方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の第1の態様によれば、亜鉛を含有する原料がジンクフェライト等の難溶性の亜鉛化合物を含む場合であっても、効果的に亜鉛を溶解して、回収することができると共に、製鋼ダスト等に不純物として含まれるハロゲン化物を除去して、電気分解におけるハロゲンの影響を抑制し、特に塩素の影響を抑制して、高品質の亜鉛地金を製造することができる。
【0020】
本発明の第2の態様によれば、高炉ダスト、電気炉ダスト等の製鋼ダスト、鉄スクラップ等を原料として用いることができる。
【0021】
本発明の第3の態様によれば、高炉ダスト、電気炉ダスト等の製鋼ダストにおいて、酸化条件下で鉄分が亜鉛と反応してジンクフェライトが生成している原料にも適用することができる。
【0022】
本発明の第4の態様によれば、内部が大気に開放される装置に適用することができ、設備をより簡易にすることができる。
【0023】
本発明の第5の態様によれば、水分の沸騰を抑制して、高温のアルカリ流体を安定的に取り扱うことができる。
【0025】
本発明の第の態様によれば、製鋼ダスト等に不純物として含まれる有機ハロゲン化物を分解するとともに、電気分解におけるハロゲンの影響を抑制しつつ、亜鉛地金を製造することができる。
【0026】
本発明の第の態様によれば、原料が鉄分を含有する場合に、鉄分と亜鉛の分離を容易に行うことができる。
【0027】
本発明の第8の態様によれば、原料に含まれる亜鉛を亜鉛地金という市場価値の高い製品として回収することができる。
【0029】
本発明の第の態様によれば、アルカリ流体に含まれるアルカリ金属塩を循環して、亜鉛の溶解工程に繰り返し使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】第1実施形態の亜鉛の回収方法の概略を示す構成図である。
図2】溶解工程および固液分離工程を行うシステムを例示する構成図である。
図3】第2実施形態の亜鉛の回収方法の概略を示す構成図である。
図4】第3実施形態の亜鉛の回収方法の概略を示す構成図である。
図5】亜鉛を亜鉛地金として回収する方法の具体例を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本実施形態による亜鉛の回収方法は、亜鉛を含有する原料を、温度100℃以上のアルカリ流体で処理して、原料に含まれる亜鉛を溶解する溶解工程を有する。溶解工程により原料から亜鉛が抽出されるので、液相に含まれる亜鉛を回収工程により回収することができる。なお、本明細書において、亜鉛とは、金属亜鉛、亜鉛イオン、亜鉛化合物、亜鉛合金等に含まれる亜鉛(Zn)を意味する。
【0032】
図1に、第1実施形態として、原料1に含まれる亜鉛を亜鉛地金7として回収する回収システム10の概略を示す。
【0033】
第1実施形態の亜鉛の回収方法は、概略として、原料1に含まれる亜鉛をアルカリ流体2に溶解する溶解工程S1と、溶解工程S1で得られた生成物3を固相4と液相5に分離する固液分離工程S2と、液相5中の不純物5bを除去する不純物除去工程S3と、不純物除去工程S3を経た亜鉛を含む液相6を電気分解して亜鉛地金7を得る電気分解工程S4とを有する。亜鉛の回収工程は、固液分離工程S2、不純物除去工程S3、電気分解工程S4を含んでもよい。
【0034】
亜鉛を含有する原料1としては、高炉ダスト、電気炉ダスト等の製鋼ダスト、鉄スクラップ、亜鉛化合物、亜鉛精鉱等が挙げられる。原料1に含まれる亜鉛の形態としては、亜鉛化合物、金属亜鉛、亜鉛合金等が挙げられる。製鋼ダスト、鉄スクラップ等の原料1は、鉄分に加えて、亜鉛メッキ等に由来する亜鉛を含有する。製鋼ダストでは、製鋼工程を経ることにより、鉄分および亜鉛が、酸化物、水酸化物、ジンクフェライト等に変化している場合がある。
【0035】
原料1として使用可能な亜鉛化合物としては、酸化亜鉛(亜鉛を含む酸化物)、水酸化亜鉛(亜鉛を含む水酸化物)、炭酸亜鉛(亜鉛を含む炭酸塩)、塩化亜鉛(亜鉛を含む塩化物)等が挙げられる。原料1として使用可能な亜鉛精鉱としては、亜鉛の酸化鉱物、炭酸塩鉱物等から選鉱により亜鉛の品位を高めた鉱石が挙げられる。
【0036】
上述したように、原料1が、鉄分を含有してもよい。原料1に含まれる鉄分の形態としては、酸化鉄、ジンクフェライト等の鉄化合物、金属鉄、鉄合金等が挙げられる。原料1中の亜鉛および鉄が、ジンクフェライト、複合酸化物等のように、金属として亜鉛および鉄を含む化合物を生成していてもよい。原料1がジンクフェライト以外の鉄分を含有してもよい。原料1に含まれる亜鉛の割合としては、例えば、10~40重量%程度が挙げられる。
【0037】
原料1は、亜鉛から分離することが望まれる要分離成分として、亜鉛以外の金属または非金属成分を含有してもよい。亜鉛以外の金属としては、鉄(Fe)、鉛(Pb)、銅(Cu)、カドミウム(Cd)、アルミニウム(Al)、シリコン(Si)等が挙げられる。亜鉛以外の金属は、酸化物、水酸化物、ケイ酸塩等として原料1に含まれていてもよい。要分離成分は、亜鉛を原料1からアルカリ流体2に溶解させるとき、原料1に残留することが好ましい。また、要分離成分がアルカリ流体2に溶解した分は、亜鉛を回収する際に、亜鉛から分離することが好ましい。
【0038】
図2に、溶解工程S1および固液分離工程S2を行うシステムの一例を示す。原料1とアルカリ流体2を別々に溶解工程S1に供給してもよい。原料1とアルカリ流体2をあらかじめ混合した状態で溶解工程S1に供給してもよい。アルカリ流体2としては、アルカリ化合物の水溶液、粉体、分散液等が挙げられる。例えばアルカリ流体2中に含まれるアルカリ化合物の割合が5~50重量%程度の水溶液でもよく、50~80重量%程度の分散物であってもよい。
【0039】
溶解工程S1に用いられるアルカリ化合物としては、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)等のアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム(NaCO)、炭酸カリウム(KCO)等のアルカリ金属炭酸塩が挙げられる。アルカリ化合物が1種でもよく、2種以上でもよい。水酸化物を用いる場合は、炭酸塩の生成を抑制するため、アルカリ流体2が接するガス(空気、水蒸気等)における二酸化炭素(CO)を低減することが好ましい。
【0040】
原料1が粗大物を含む場合は、あらかじめ粉砕、篩分け等を経た細片、微粒子等を溶解工程S1に供給することが好ましい。粉砕手段としては、特に限定されないが、ボールミル、ロッドミル、ハンマーミル、流体エネルギーミル、振動ミル等の1種又は2種以上を用いることができる。
【0041】
原料1の粒子表面が酸化物、ケイ酸塩等の被覆層で覆われている場合、または原料1がアルカリ流体2に接した際に粒子表面で被覆層が生成する場合は、被覆層を破壊することが好ましい。例えば、原料1およびアルカリ流体2を前処理装置11に供給して、アルカリ流体2の存在下で原料1を処理してもよい。前処理装置11としては、ボールミルを用いたメカノケミカル処理装置等、湿式粉砕機が挙げられる。前処理装置11における原料1およびアルカリ流体2の温度は5~35℃程度の常温でもよく、それ以上の温度に加熱されてもよい。
【0042】
前処理装置11により前処理された混合物11aは、原料1およびアルカリ流体2を含む。供給容器12中で混合物11aを均一に撹拌して得られたスラリー状の混合物12aは、ポンプ(図示せず)等を用いて予備加熱装置13に圧送される。前処理装置11と供給容器12との間で、混合物11aにさらにアルカリ流体2を添加してもよい。また、前処理装置11を省略する場合は、原料1およびアルカリ流体2を直接、供給容器12に供給してもよい。
【0043】
予備加熱装置13では、混合物12aが水蒸気15aに接して加熱される。これにより、混合物12aが濃厚で高粘度でも、効率よく加熱することができる。混合物12aの加熱方法は特に限定されず、内燃機関、電力、太陽熱などを用いてもよい。
【0044】
予備加熱装置13により高温に加熱された混合物13aは、反応容器14に供給される。反応容器14では、モータMを用いた撹拌装置等を用いて、反応中の混合物14bが撹拌される。固相の原料1に含まれる亜鉛を、高温のアルカリ流体2で処理することにより、亜鉛を液相中に溶解することができる。混合物14bの加熱方法は特に限定されず、水蒸気、内燃機関、電力、太陽熱などを用いることができる。混合物14bに含まれるアルカリ化合物の濃度としては、例えば5~80重量%程度が挙げられる。溶解工程S1に用いるアルカリ流体2の温度または反応中の混合物14bの温度としては、95℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましい。
【0045】
亜鉛は両性金属であるため、原料1に含まれる亜鉛はアルカリ流体2に溶解する。鉄分のうち酸化鉄等はアルカリ流体2に対して難溶である。ジンクフェライトは、難溶解性として知られるが、高温のアルカリ流体2に接することで、容易に溶解する。これにより、原料1中の亜鉛を効果的に溶解することができる。アルミニウム(Al)も両性金属であるが、アルミナ(Al)は結晶性が高く、アルカリに侵されにくい。
【0046】
溶解工程S1を大気圧で行うことも可能である。この場合、内部が大気に開放される装置に適用することができ、設備をより簡易にすることができる。大気圧で溶解工程S1を行う場合の処理温度としては、例えば温度100~200℃が挙げられる。処理温度を大気圧における水の沸点(100℃)より高くするには、反応中の混合物14bに含まれるアルカリ化合物の濃度を高くすることが好ましい。例えば、50重量%のNaOH水溶液の沸点は130~135℃である。
【0047】
反応容器14にオートクレーブ等を用いる場合、溶解工程S1を加圧条件下で行うことも可能である。この場合、水分の沸騰を抑制して、高温のアルカリ流体を安定的に取り扱うことができる。加圧条件下で溶解工程S1を行う場合の処理温度としては、例えば温度105~220℃が挙げられる。加圧条件下における圧力としては、大気圧より0.017MPa~2MPa高いことが好ましい。
【0048】
原料1がジンクフェライトを含有する場合、252℃以上の温度ではジンクフェライトが変性するといわれている。このため、溶解工程S1における処理温度は、252℃以下の温度が好ましい。反応容器14内で原料1およびアルカリ流体2を含む混合物14bを一定時間滞留させることにより、混合物14bの温度が上記の処理温度に維持される。
【0049】
反応容器14内で所定の反応条件を継続しながら反応中の混合物14bを滞留させるため、反応容器14が入口から出口に向けて、混合物14bを徐々に移動させてもよい。反応容器14の形状が、移動方向を横断する方向の寸法に比べて、移動方向に沿った寸法を大きくした形状であってもよい。混合物14bの移動速度を規制するため、移動方向に対して、移動を抑制または促進する機構を設置してもよい。移動を規制する機構としては、例えば、移動方向に対する断面積が減少または増大する箇所が挙げられる。
【0050】
反応容器14内が大気圧より加圧されている場合は、反応容器14で溶解工程S1を経た反応後の混合物14aが、フラッシュベッセル等の降圧装置15に移送される。100℃以上の温度に加熱された混合物14aの圧力を降圧装置15で降下させると、混合物14aに含まれる水分が気化して水蒸気15aが生成する。降圧装置15内で水蒸気15aを生成物3から分離した後、生成物3は固液分離工程S2に送られる。降圧装置15で分離された水蒸気15aは、予備加熱装置13の熱源として用いることも可能である。
【0051】
溶解工程S1の生成物3がスラリー状である場合、鉄分等が固相に含まれ、アルカリに溶解した亜鉛が液相に含まれる。このため、固相と液相を分離することにより、鉄分と亜鉛の分離を容易に行うことができる。固液分離の方式は特に限定されないが、濾過、遠心分離、沈降分離等の1種または2種以上が挙げられる。濾過法において、濾過の方式は特に限定されず、重力濾過、減圧濾過、加圧濾過、遠心濾過、濾過助剤添加型濾過、圧搾絞り濾過等が挙げられる。濾過等による固液分離は、連続式でもよく、バッチ式でもよい。
【0052】
固液分離工程S2においては、例えば生成物3を沈殿槽16に移送し、沈殿剤16cを加えて撹拌した後、静置する等して、上澄み16aと沈殿物16bを分離することができる。鉄、クロム、マンガン等を含む沈殿物16bの析出を促進するため、生成物3に空気を吹き込むエアレーション工程を実施してもよい。酸素(O)を用いた酸化反応により、生成物3のアルカリ性を維持したまま、沈殿物16bの分離を容易にすることができる。沈殿物16bに含まれる液相を分離するため、回転濾過機等の濾過装置17を用いてもよい。沈殿槽16で得られた上澄み16aと濾過装置17で得られた濾液17aを合わせた液相5は、亜鉛を含有する相として回収される。
【0053】
沈殿槽16および濾過装置17により液相5から分離された固相4は、酸化鉄等の資源を含むことから、水などを用いて洗浄してもよい。洗浄槽18において洗浄水18bに固相4を分散させた後、得られたスラリー18aを脱水装置19に移送して、固相の残渣19aを水相19bから分離することができる。シリカ、アルミナ等は残渣19aとして除去される。
【0054】
水相19bはアルカリ性であるため、必要に応じて濃縮した後、アルカリ流体2に加えてもよい。残渣19aが酸化鉄等の鉄分を多く含む場合、電気炉等の製鉄材料にすることができる。洗浄水18bには、予備加熱装置13から回収された蒸気13bを凝縮させて得られる液体を用いてもよい。蒸気13bを凝縮させる際、復水器等の熱交換器を用いて、熱エネルギーを回収してもよい。
【0055】
上述したように、固液分離工程S2において、固相4から分離された液相5には、亜鉛が含まれている。このため、図1に示すように、電気分解工程S4において、電解採取(EW)、電解精製(ER)等の電気分解により金属亜鉛を析出させて亜鉛地金7を得ることができる。電気分解工程S4に先立ち、不純物除去工程S3として、液相5に除去剤5aを添加して不純物5bを除去すると、亜鉛地金7の品質を向上できるため、好ましい。
【0056】
除去剤としては、不純物5bが鉛(Pb)イオン等の重金属を含む場合、硫化ナトリウム(NaS)、硫化水素ナトリウム(NaSH)、四硫化ナトリウム(Na)等の硫化剤を用いてもよい。これにより、鉛(Pb)、銅(Cu)、カドミウム(Cd)、水銀(Hg)等を硫化物として沈殿させることができる。
【0057】
また、除去剤5aとして金属亜鉛(Zn)を液相5に添加することで、亜鉛よりイオン化傾向の小さい金属のイオンを還元して置換析出させることができる。置換析出により金属亜鉛(Zn)から生成した亜鉛イオンは、原料に含まれる亜鉛と同じく液相6に溶解する。金属亜鉛を除去剤5aとして用いるときの量は、不純物5bの量に応じた少量でよいため、電気分解工程S4により回収した金属亜鉛の一部を、置換による除去剤5aとして用いることもできる。
【0058】
電気分解工程S4では、不純物除去工程S3を経た液相6を電解浴として電気分解することにより、亜鉛地金7を得ることができる。電気分解により金属亜鉛を採取または精製する場合は、陽極および陰極にステンレスを用いることが好ましい。これにより、電気分解の際に電解浴とされる液相6が強アルカリ性であっても、電極の腐食を抑制することができる。電極の形状は特に限定されないが、例えば平板状であってもよい。
【0059】
液相6中に塩素(Cl)が共存すると、塩素(Cl)がCl、ClO等の陰イオンとなって、電極(陰極)における金属亜鉛の析出を妨害する恐れがある。このため、液相6中の塩素濃度が低いことが好ましく、塩素濃度を1000ppm以下とすることが好ましい。これにより、電気分解における塩素の影響を抑制して、電極上で箔状、板状等となるように金属亜鉛を析出させ、高品質の亜鉛地金7を製造することができる。なお、ppmは、mg/lで表示してもよい。
【0060】
また、平滑で高品質の地金を得るために、亜鉛の電解精製や電解採取や電気亜鉛鍍金において常用される添加剤を併用しても良い。アルカリ亜鉛鍍金浴はジンケート浴として公知であり、いわゆる光沢剤、抑制剤、促進剤などと称する鍍金用の添加剤を使うこともできる。添加剤としてチオ尿素、ポリアルキルアミンなどが例示できる。
【0061】
液相6中の塩素濃度を低減する方法としては、液相6に酸を加えて酸性にし、塩素ガス(Cl)を揮散させる方法、液相6に有機物を加えてクロロホルム(CHCl)等の揮発性有機塩素化合物を揮散させる方法、陰イオン交換樹脂によりClを吸着してOHに置換する方法、硝酸銀等の銀塩を添加して塩化銀(AgCl)を沈殿させる方法等が挙げられる。
【0062】
原料1が有機ハロゲン化合物を含有する場合、溶解工程S1において、高温のアルカリ流体2により有機ハロゲン化合物を分解することができる。これにより、製鋼ダスト等に不純物として含まれる有機ハロゲン化物を分解して無害化することができる。しかし、有機ハロゲン化合物の分解により生成した塩素、臭素等のハロゲンまたは無機ハロゲン化合物に由来するハロゲンは、アルカリ性条件では揮発しにくく、液相5,6に残留しやすい。このため、電気分解工程S4に先立って、ハロゲンを系外に排出することが好ましい。これにより、電気分解におけるハロゲンの影響を抑制しながら、金属亜鉛を製造することができる。
【0063】
図3に、第2実施形態として、原料1に含まれる亜鉛を亜鉛地金7として回収する回収システム10Aにおいて、原料1からハロゲン化合物を除去するためのアルカリ洗浄工程S6を行う場合の概略を示す。第2実施形態の溶解工程S1、固液分離工程S2、不純物除去工程S3、電気分解工程S4および再生工程S5は、第1実施形態と同様な工程を実施することが可能である。
【0064】
溶解工程S1に先立って、ハロゲンを系外に排出する方法としては、アルカリ水溶液により原料1を洗浄するアルカリ洗浄工程S6が挙げられる。中性の水による洗浄では洗浄効果が不十分であるが、0.1~20重量%程度のアルカリ水溶液10aにより原料1を洗浄することで、十分なハロゲン除去効果が得られる。原料1中のハロゲン化合物が中性の水に溶けにくい理由は明らかではないが、例えば塩化アルミニウムや銅オキシクロリドのような無機ハロゲン化合物として存在しているため、と推定される。
【0065】
アルカリ洗浄工程S6では、原料1とアルカリ水溶液10aとを混合した後、アルカリ洗浄液10bを原料1Aと分離することにより、原料1中のハロゲン化合物がアルカリ洗浄液10b中に除去される。これにより、洗浄後の原料1A中のハロゲン濃度を低減することができる。アルカリ洗浄液10bは、アルカリ水溶液10aに由来するアルカリ分に加えて、原料1に由来するハロゲン化合物等の可溶成分を含有する。原料1の状態でハロゲン化合物を洗浄し、除去することにより、電気分解工程S4におけるハロゲン化合物の影響を抑制することができる。
【0066】
アルカリ洗浄工程S6のアルカリ水溶液10aに用いられるアルカリ化合物としては、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)等のアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム(NaCO)、炭酸カリウム(KCO)等のアルカリ金属炭酸塩が挙げられる。アルカリ洗浄工程S6に用いるアルカリ水溶液10aの濃度は、溶解工程S1に用いるアルカリ流体2の濃度より低くてもよい。アルカリ水溶液10aの濃度が、例えば、10重量%以下、あるいは5重量%以下でもよい。また、アルカリ流体2の濃度が、例えば、5重量%以上、あるいは10重量%以上でもよい。
【0067】
アルカリ洗浄工程S6において、低濃度のアルカリ水溶液10aを用いることにより、アルカリ洗浄液10bへの亜鉛の溶出を抑制することができる。なお、アルカリ洗浄液10bに溶解した亜鉛は、後述する炭酸化工程S7により、炭酸亜鉛として回収することも可能である。
【0068】
また、溶解工程S1のアルカリ高温浸出の過程においても、ハロゲンの少なくとも一部を揮発させることができる。また、反応中の混合物14bに少量のアルコールのような有機物を共存させると、ハロゲンの揮発を促進することができる。理由は明らかでないが、原料1中の重金属が触媒的に機能して、低沸点、疎水性の揮発性有機塩素化合物を生成するため、と推定される。溶解工程S1においてハロゲンを除去するには、反応中の混合物14bから遊離した揮発成分を反応容器14から系外に放出して除去する機構を設けてもよい。
【0069】
図1に示す第1実施形態または図3に示す第2実施形態において、電気分解工程S4を経た電解尾液等の残液8には、アルカリ金属塩が含まれる。残液8がアルカリ性の場合、アルカリ流体2として溶解工程S1に用いることが可能である。残液8におけるアルカリ濃度が十分でない場合は、電気分解、濃縮等により、アルカリ濃度を高める再生工程S5を実施することが好ましい。再生工程S5により再生されたアルカリ流体9を、新たに供給されるアルカリ流体2と共に溶解工程S1に供給することにより、アルカリ金属塩を循環して溶解工程S1に繰り返し使用することができる。再生工程S5において、電気分解および濃縮を併用してもよい。
【0070】
再生工程S5に電気分解を用いる場合は、イオン交換膜等の隔膜を陰極と陽極との間に配置し、電解槽を陰極側の陰極室と陽極側の陽極室とに区分することが好ましい。イオン交換膜の具体例としては、例えば、カルボン酸、スルホン酸等の陰イオンを与える官能基を有する含フッ素高分子膜などの陽イオン交換膜が挙げられる。
【0071】
陽極室に残液8を供給して電気分解を進行させると、残液8中の不純物は金属水酸化物等として沈殿するか、錯陰イオンとして陽極室に滞留する。アルカリ金属は陽イオンのまま、陰極室に移動するため、陰極室に得られる陰極液は、不純物が少なく、高濃度のアルカリ金属水酸化物水溶液となる。このため、陰極液を再生アルカリ流体9として用いることができる。再生工程S5において、電気分解を2回以上繰り返してもよい。
【0072】
再生工程S5に濃縮を用いる場合は、例えば、ヒーターの表面に残液8の液膜を形成する等して、残液8に含まれる水分を蒸発させることができる。これにより、アルカリ水溶液を濃縮して、再生アルカリ流体9として用いることができる。濃縮装置におけるヒーター等の素材には、高濃度のアルカリ水溶液に対する耐食性が高い金属として、ニッケル、ステンレス等を用いることが好ましい。再生工程S5において、濃縮を2回以上繰り返してもおよい。
【0073】
次に、図4に示すように、第3実施形態として、原料1に含まれる亜鉛を炭酸亜鉛22または酸化亜鉛23として回収する回収システム20を説明する。
【0074】
第3実施形態の亜鉛の回収方法は、概略として、原料1に含まれる亜鉛をアルカリ流体2に溶解する溶解工程S1と、溶解工程S1で得られた生成物3を固相4と液相5に分離する固液分離工程S2と、液相5中の亜鉛を炭酸亜鉛22に変換する炭酸化工程S7と、炭酸亜鉛22を酸化亜鉛23に変換する熱処理工程S8とを有する。亜鉛の回収工程は、固液分離工程S2、炭酸化工程S7、熱処理工程S8を含んでもよい。
【0075】
溶解工程S1および固液分離工程S2は、第1実施形態において、図2を参照して説明したのと同様な工程を実施することが可能である。このため、重複する説明を省略する。
【0076】
炭酸化工程S7では、二酸化炭素(CO)等の炭酸化剤21を液相5に供給し、液相5中の亜鉛を炭酸亜鉛22として沈殿させる。また、第3実施形態でも、第1実施形態と同様に、不純物除去工程S3を実施してもよい。この場合は、上述したように、不純物5bを除去した後の液相6に炭酸化剤21を加えることで、炭酸化工程S7を実施することができる。炭酸化工程S7で炭酸亜鉛22の沈殿を液相から分離する方法としては、特に限定されないが、濾過、遠心分離、沈降分離等の1種または2種以上が挙げられる。炭酸亜鉛22は、正塩の炭酸亜鉛(ZnCO)でもよく、OHを含む塩基性炭酸亜鉛でもよい。
【0077】
熱処理工程S8において、炭酸亜鉛22を熱分解することにより、COと共に酸化亜鉛23を得ることができる。炭酸亜鉛22の熱分解により生成したCOは、炭酸化工程S7の炭酸化剤21として再利用することができる。COを回収する方法としては、特に限定されないが、塩基性の有機化合物であるアミン系の吸収剤を使用してもよい。アミン系溶液中にCOを含むガスを通すと、COがアミン系溶液に吸収される。COを吸収したアミン系溶液を加熱すると、COが気相中に放出される。
【0078】
炭酸化工程S7で炭酸亜鉛22から分離された残液24は、過剰なCOを含有し、酸性を呈する場合がある。残液24をアルカリ流体9に再生するため、残液24にアルカリ化剤25を添加するアルカリ化工程S9を実施してもよい。アルカリ化剤25としては、アルカリ土類金属の水酸化物または酸化物、例えば、Ca(OH)、CaO等が挙げられる。これにより、過剰なCOはアルカリ土類金属の炭酸塩等として沈殿する。炭酸塩沈殿26は、濾過、遠心分離、沈降分離等により、アルカリ性の液相から除去することができる。
【0079】
炭酸化工程S7で炭酸塩沈殿26を除去して再生されたアルカリ流体9は、溶解工程S1に用いることが可能である。再生アルカリ流体9におけるアルカリ濃度が十分でない場合は、第1実施形態または第2実施形態と同様に、電気分解、濃縮等により、アルカリ濃度を高める再生工程S5を実施してもよい。再生アルカリ流体9を、新たに供給されるアルカリ流体2と共に溶解工程S1に供給することにより、アルカリ金属塩を循環して溶解工程S1に繰り返し使用することができる。
【0080】
実施形態の回収システム10,10A,20によれば、原料1に含まれる亜鉛を、亜鉛地金7、酸化亜鉛23または炭酸亜鉛22のように、市場価値の高い製品として回収することができる。
【0081】
好適な実施形態の具体例として、図5の流れ図に示すプロセスが挙げられる。
(1)上述のアルカリ洗浄工程S6:
電気炉ダスト101をアルカリ水溶液102で洗浄するアルカリ洗浄103により、ハロゲン化合物104を除去する。
(2)上述の溶解工程S1:
アルカリ洗浄103を経た電気炉ダスト101を高温のアルカリ流体105と接触させて高温溶解106を行う。高温溶解106では、亜鉛が選択的に溶解される。
(3)上述の固液分離工程S2:
高温溶解106の生成物を沈殿分離107により処理する。沈殿分離107は、沈降濃縮器(シックナー)のように大部分の上澄み液を分離して、沈殿に少量の液が残留してもよい。沈殿分離107で得られた沈殿を水で洗浄し、濾過108により酸化鉄109の沈殿が得られる。酸化鉄109は製鉄原料として電気炉110に投入することができる。
(4)上述の不純物除去工程S3:
沈殿分離107で得られた液相および濾過108で得られた洗浄液を合わせ、金属亜鉛111を加えて鉛除去(置換)112を行う。生じた沈殿物の濾過113により、鉛を含む残渣114が得られる。濾過113で得られる濾液には、アルカリ浸出により溶解した亜鉛が含まれる。
(5)上述の電気分解工程S4:
濾過113により鉛を除去した液相の電解精製115により亜鉛地金116を製造する。亜鉛地金116の一部は、鉛除去(置換)112の金属亜鉛111に利用することができる。
(6)上述の再生工程S5:
電解精製115で得られた電解尾液を再生して、アルカリ流体105を得ることができる。
【0082】
以上、本発明を好適な実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は上述の実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。改変としては、各実施形態における構成要素の追加、置換、省略、その他の変更が挙げられる。また、異なる実施形態に用いられた構成要素を適宜組み合わせることも可能である。
【0083】
例えば、第3実施形態の回収システム20を用いて回収された炭酸亜鉛22または酸化亜鉛23をアルカリ流体に溶解した液を、第1実施形態または第2実施形態の電気分解工程S4の電解浴として用い、亜鉛地金7を製造することができる。炭酸亜鉛22または酸化亜鉛23として回収した後で電気分解を行うことにより、より高品質の亜鉛地金7を得ることができる。炭酸亜鉛22または酸化亜鉛23の溶解液を不純物除去工程S3で処理した後に、電気分解工程S4をしてもよい。
【実施例
【0084】
以下、実験例をもって、本発明をより具体的に説明する。
【0085】
<電気炉ダスト>
実験例1~5で用いた電気炉ダストに含まれる主な金属の割合(重量%)は次のとおりであった。
Na:ND、Mg:0.544、Al:0.180、K:0.883、Ca:16.985、Cr:0.152、Mn:1.081、Fe:13.327、Ni:0.014、Cu:0.214、Cd:0.115、Sn:ND、Pb:0.096、Zn:30.500
【0086】
<実験例1>
[亜鉛抽出工程]
炭酸カルシウム441gと電気炉ダスト762.8gを混合し、か焼して870gの二次ダスト(A10)を得た。この二次ダスト(A10)から60.5gを分取し、濃度16.5%のNaOH水溶液と接触させた後、NaOHに溶解しない固形分(A11)を濾過により分離して395mlの亜鉛抽出液(B11)を得た。固形分(A11)中に残った抽出可能な成分をさらに抽出する場合を想定して、固形分(A11)を16.5%のNaOH水溶液866mlと接触させて、濾過により未洗浄の濾物(A12)および濾液(B12)を分離した。未洗浄の濾物(A12)を純水で洗浄した後、濾過して乾燥重量43.3gの残渣(A13)を得た。二次ダスト(A10)および固形分(A11)をNaOH水溶液に接触させる際、温度95℃、常圧、1回ごとの接触時間を8時間とした。
【0087】
[炭酸亜鉛分離工程]
亜鉛抽出液(B11)にCOを吹き込み、炭酸亜鉛を含む沈殿物(P11)を析出させ、グラスファイバ/C濾紙を濾材として使用した吸引濾過により沈殿物(P11)を濾液(Q11)と分離した。得られた沈殿物(P11)22.1gを製品とした。
【0088】
[補足]
残渣(A13)を純水で洗浄したときに濾液として得られる洗浄水(B13)は、希釈水として繰り返し利用することも可能である。沈殿物(P11)を濾別して得られた濾液(Q11)は、NaCOおよびNaHCOを含むが、アルカリ性であるため、ダストから亜鉛を抽出させるためのアルカリ溶液として繰り返し利用することも可能である。この場合、濾液(Q11)に残渣(A13)を接触させると、残渣(A13)に含まれるCaOによりNaCOおよびNaHCOをNaOに転換することができる。
【0089】
[抽出液の分析]
亜鉛抽出液(B11)に含まれる主な成分の濃度(mg/l)を分析した結果は次のとおりである。
Na:80120、Mg:0.1、Al:122、K:4750、Ca:30、Cr:398、Mn:0.3未満、Fe:3、Ni:1未満、Cu:10、Cd:0.6未満、Sn:15未満、Pb:91、Zn:43000
【0090】
[残渣の分析]
残渣(A13)に含まれる主な成分の割合(重量%)を分析した結果は次のとおりである。
Na:0.51、Mg:0.76、Al:0.15、Ca:23.7、Cr:0.04、Mn:1.51、Fe:18.61、Ni:0.02、Cu:0.25、Cd:0.16、Zn:3.37
【0091】
[製品の分析]
製品とした沈殿物(P11)に含まれる主な成分の割合(重量%)を分析した結果は次のとおりである。
Na:2未満、Mg:0.00086、Al:0.2未満、K:10未満、Ca:0.71、Cr:0.03未満、Mn:0.03未満、Fe:0.03未満、Ni:0.05未満、Cu:0.2未満、Cd:0.05未満、Sn:1未満、Pb:0.05未満、Zn:77.0
【0092】
[抽出結果]
二次ダスト(A10)60.5gに含まれるZnは約18.45g、亜鉛抽出液(B11)395mlに含まれるZnは約16.98g、残渣(A13)43.3gに含まれるZnは約1.46g、沈殿物(P11)22.1gに含まれるZnは約17.01gと算出された。亜鉛抽出液(B11)に含まれるZnを略全量、炭酸亜鉛の沈殿物(P11)として回収することができたと考えられる。
【0093】
<実験例2>
[亜鉛抽出工程]
炭酸カルシウム441gと電気炉ダスト762.8gを混合し、か焼して870gの二次ダスト(A20)を得た。この二次ダスト(A20)から60.5gを分取し、濃度16.5%のNaOH水溶液1000gと接触させた後、NaOHに溶解しない固形分(A21)を濾過により分離した。さらに、浸出液の固形分比率を塩素濃度が480mg/lとなるように調節して、770mlの亜鉛抽出液(B21)を得た。NaOH水溶液に溶解しない固形分(A21)は、純水で洗浄後濾過して乾燥重量46.2gの残渣(A22)を得た。二次ダスト(A20)をNaOH水溶液に接触させる際、温度95℃、常圧、接触時間を8時間とした。
【0094】
[電気分解工程]
亜鉛抽出液(B21)を電気分解して8.7gの平滑な箔状の金属亜鉛(P21)を得た。電気分解条件は、定電流1A、電極は陰極,陽極ともにSUS304(厚さ1mmの平板、液中の寸法が幅20mm×高さ80mm)、電極間距離20mm、幾何面積基準の電流密度62.5mA/cm、電解時間8.5時間、Zn析出電流効率は84%であった。
【0095】
[補足]
電気分解工程により亜鉛抽出液(B21)から金属亜鉛(P21)を取り出した後に残る電解尾液(Q21)は、アルカリ性であるため、亜鉛抽出工程で繰り返し使用することも可能である。
【0096】
[抽出液の分析]
亜鉛抽出液(B21)に含まれる主な成分の濃度(mg/l)を分析した結果は次のとおりである。
Na:82758、Mg:0.1未満、Al:51、K:628、Ca:17、Cr:88、Mn:0.5未満、Fe:6、Ni:1未満、Cu:25未満、Cd:1未満、Sn:15未満、Pb:68、Zn:19961、Cl:480
【0097】
[残渣の分析]
残渣(A22)に含まれる主な成分の割合(重量%)を分析した結果は次のとおりである。
Na:0.1未満、Mg:0.051、Al:0.3、K:0.6未満、Ca:0.001未満、Cr:0.08、Mn:1.7、Fe:22、Ni:0.02、Cu:0.1、Cd:0.05、Sn:0.5未満、Pb:0.6、Zn:6.9
【0098】
[抽出結果]
二次ダスト(A20)60.5gに含まれるZnは約18.45g、亜鉛抽出液(B21)770mlに含まれるZnは約15.37g、残渣(A22)46.2gに含まれるZnは約3.19g、電気分解で得られた金属亜鉛(P21)は8.7g、電解尾液(Q21)750mlに含まれるZnは約6.6gであった。電解尾液(Q21)のZn濃度は8850mg/lであった。
【0099】
<実験例3>
[二次ダスト(A30)]
電気炉ダストから得られた二次ダスト(A30)としては、実験例1の二次ダスト(A10)でも実験例2の二次ダスト(A20)でもよいが、二次ダスト(A30)に含まれる主な成分の割合(重量%)を分析した結果は次のとおりである。
Na:0.22、Mg:2.29、Al:0.32、K:500未満、Ca:1.55、Cr:3未満、Mn:0.59、Fe:0.13、Ni:0.51、Cu:0.77、Cd:0.03、Sn:50未満、Pb:0.14、Zn:29.05、Cl:4.91
【0100】
[浸出工程]
二次ダスト(A30)100gをビーカ中の濃度16.5%NaOH水溶液に加えて撹拌後全量濾過し、固形分(A31)と抽出液(B31)を得た。固形分(A31)を新しい16.5%NaOH水溶液に加えてリパルプした後、全量を濾過して亜鉛抽出液(B32)と残渣(A32)を得た。濾液である亜鉛抽出液(B32)にさらに二次ダスト(A30)を加えて浸出を繰り返した。最終的に得られた浸出液(B33)に含まれる主な成分の濃度(mg/l)を分析した結果は次のとおりである。
Na:101000、Mg:1未満、Al:32、K:232、Ca:2、Cr:10未満、Mn:10未満、Fe:20未満、Ni:20未満、Cu:951、Cd:10未満、Sn:50未満、Pb:3750、Zn:45800
【0101】
[浸出残渣の分析]
浸出液(B33)から分離して得られた浸出残渣(A33)に含まれる主な成分の割合(重量%)を分析した結果は次のとおりである。
Na:0.08未満、Mg:2.12、Al:0.23、K:0.6未満、Ca:1.32、Cr:0.001、Mn:0.53、Fe:0.13、Ni:0.49、Cu:0.20、Cd:0.03、Sn:0.008未満、Pb:0.09、Zn:0.88
【0102】
[置換工程]
浸出工程の結果から、浸出液(B33)にはZnだけではなく、Pb,Cuもかなりの割合で浸出されることが分かった。このため、浸出液(B33)に平均粒径5mmの金属亜鉛粒子を添加して、置換(セメンテーション)をした後、全量濾過した。セメンテーションにより金属粉が得られたことから、Cu,Pbを分別回収できることが分かった。セメンテーション後の浸出液(B34)に含まれる主な成分の濃度(mg/l)を分析した結果は次のとおりである。
Na:100857、Mg:0.1未満、Al:24、K:120未満、Ca:2、Cr:0.5未満、Mn:1、Fe:2未満、Ni:2未満、Cu:4未満、Cd:1未満、Sn:10未満、Pb:2未満、Zn:51514、Cl:9400
【0103】
[炭酸亜鉛分離工程]
セメンテーション後の浸出液(B34)にCOガスを吹き込み、炭酸亜鉛(P31)を析出させ、濾別により採取した。得られた炭酸亜鉛(P31)に含まれる主な成分の割合(重量%)を分析した結果は次のとおりである。
Na:0.49、Mg:0.00016、Al:0.0003未満、K:0.02未満、Ca:0.0025未満、Cr:0.00007、Mn:0.00005、Fe:0.0002未満、Ni:0.0002未満、Cu:0.0004未満、Cd:0.00001未満、Sn:0.001未満、Pb:0.0002、Zn:59.9、Cl:0.29
【0104】
[炭酸亜鉛を採取した後の浸出液の分析]
炭酸亜鉛(P31)を採取した後の浸出液(B35)に含まれる主な成分の濃度(mg/l)を分析した結果は次のとおりである。
Na:102462、Mg:1未満、Al:20未満、K:1172、Ca:2、Cr:2未満、Mn:0.7未満、Fe:10未満、Ni:7未満、Cu:20未満、Cd:0.2未満、Sn:30未満、Pb:14、Zn:6978
【0105】
[補足]
セメンテーションによりCu,Pbを除去した後で炭酸亜鉛(P31)を析出させることにより、純度の高い炭酸亜鉛を得ることができる。COガス吹き込み後の浸出液(B35)に副生するNaCOおよびNaHCOは、二次ダスト(A30)に含まれるCa(OH)を主成分とする残渣(A32)と接触させることにより、NaOHを再生することができる。炭酸亜鉛分離工程に用いるCOは炭酸亜鉛分解工程においてCOガスを捕集することができる。Na分およびCOについては、理論上薬品の消費なく再利用することができる。浸出工程における不溶解残渣(A32)のNiを陰極で、Mnを陽極で電解回収できる。電気分解工程を採用すれば、塩素をpH調整により塩素ガスとして、または有機物を共存させてクロロホルムなどの揮発性有機塩素化合物として揮散させ、循環アルカリ溶液中の塩化物イオン濃度を調整することもできる。炭酸亜鉛を回収した後の浸出液(B35)はイオン交換法によりNaOHとして再生しても良い。また、炭酸ナトリウムを結晶化して分離回収しても良い。
【0106】
<実験例4>
[繰り返しの亜鉛抽出]
実験例2で生じた電解尾液(Q21)を亜鉛抽出工程のアルカリ溶液として繰り返し使用した結果、200mlの亜鉛抽出液(B41)が得られた。亜鉛抽出液(B41)に含まれる主な成分の濃度(mg/l)を分析した結果は次のとおりである。
Na:87240、Mg:0.1未満、Al:63、K:725、Ca:20、Cr:102、Mn:0.5未満、Fe:6、Ni:1未満、Cu:17、Cd:1未満、Sn:15未満、Pb:68、Zn:25457未満、Cl:1500
【0107】
[塩素除去工程]
塩素濃度が1500mg/lである亜鉛抽出液(B41)に塩素除去剤として硝酸銀を添加し、析出したAgClを塩素化合物(A41)として濾過により除去した。これにより、AgClを除去した後に濾液として得られる亜鉛抽出液(B42)の塩素濃度を240mg/lに低減することができた。
【0108】
[置換工程]
塩素除去工程を経た亜鉛抽出液(B42)に金属亜鉛粒子を接触させ、亜鉛抽出液(B42)に残留する銀塩を金属銀として析出させて濾別し、濾液として銀が亜鉛に置換された亜鉛抽出液(B43)を得た。
【0109】
[電気分解工程]
置換工程を経た亜鉛抽出液(B43)を電解浴として電気分解し、金属亜鉛3.7gを採取した。電気分解条件は、定電流375mA、電極SUS304(厚さ1mmの平板、液中の寸法が幅20mm×高さ30mm)、電極間距離20mm、幾何面積基準の電流密度62.5mA/cm、電解時間10時間とした。得られた金属Znは平滑な箔で、Zn析出の電流効率は81%、極間電圧の平均値は2.4Vであった。
【0110】
[補足]
銀イオン源に硝酸銀を使ったが、電解浴中に残留するNO は電解還元されてNH となり爆発性の窒化銀を生成する恐れがある。このため、銀イオン源は硝酸銀以外の方が好ましい。電気分解後の浸出液(電解尾液)は再び亜鉛抽出工程におけるアルカリ溶液として循環的に使用することができる。
【0111】
<実験例5>
[1回目の亜鉛抽出工程]
Znを含有する原料として、実験例3と同じ二次ダスト(A30)を用いた。濃度16.5%のNaOH水溶液に二次ダスト(A30)100gを加えて撹拌後全量濾過し、固形分(A51)とアルカリ浸出液(B51)を得た。アルカリ浸出液(B51)に含まれる主な成分の濃度(mg/l)を分析した結果は次のとおりである。
Na:119000、Mg:0.1未満、Al:113、K:400未満、Ca:20、Cr:1、Mn:0、Fe:2、Ni:2未満、Cu:246、Cd:0、Sn:12、Pb:545、Zn:29518
【0112】
[2回目の亜鉛抽出工程]
1回目の亜鉛抽出工程で得られた固形分(A51)を新しい16.5%NaOH水溶液に加えてさらにZn抽出をし、全量濾過し、残渣(A52)とアルカリ浸出液(B52)を得た。残渣(A52)に含まれる主な成分の割合(重量%)を分析した結果は次のとおりである。
Na:7.2、Mg:6.0、Al:0.7、K:0.5未満、Ca:1.2、Cr:0.001未満、Mn:0.2、Fe:0.2、Ni:1.1、Cu:0.4、Cd:2.0、Sn:0.1、Pb:0.01、Zn:2.0
【0113】
[1回目の置換工程]
1回目の亜鉛抽出工程で得られたアルカリ浸出液(B51)に新しい金属亜鉛粒子を添加し、置換(セメンテーション)をした後、全量濾過し、セメンテーション後の浸出液(B53)を得た。浸出液(B53)に含まれる主な成分の濃度(mg/l)を分析した結果は次のとおりである。
Na:117612、Mg:1未満、Al:13、K:300未満、Ca:21、Cr:1未満、Mn:1未満、Fe:5未満、Ni:5未満、Cu:5未満、Cd:1未満、Sn:10未満、Pb:5未満、Zn:29943、Cl:2000
【0114】
[1回目の電気分解工程]
1回目の置換工程で得られた浸出液(B53)をそのまま電解浴として、電気分解により金属亜鉛粉末(P51)2.6g(純度92%、粒径約500μm)を採取した。電気分解条件は、定電流250mA、電極SUS304(厚さ1mmの平板、液中の寸法が幅20mm×高さ20mm)、電極間距離20mm、幾何面積基準の電流密度62.5mA/cm、電解時間8時間とした。銀塩等の塩素除去剤を使用せずに、Cl濃度が2000mg/lである浸出液(B53)をそのまま電気分解した。Zn析出の電流効率は97.7%、極間電圧の平均値は2.35Vであった。
【0115】
[金属亜鉛粉末(P51)の分析]
金属亜鉛粉末(P51)に含まれる主な成分の割合(重量%)を分析した結果は次のとおりである。
Na:5未満、Mg:0.01未満、Al:0.1未満、K:8、Ca:0.08、Cr:0.02、Mn:0.01未満、Fe:0.1未満、Ni:0.1未満、Cu:0.1未満、Cd:0.01未満、Sn:1未満、Pb:0.1未満、Zn:92
【0116】
[1回目の電気分解工程後の電解浴の分析]
1回目の電気分解工程により金属亜鉛粉末(P51)を採取した後に残った電解浴(Q51)に含まれる主な成分の濃度(mg/l)を分析した結果は次のとおりである。
Na:117750、Mg:1未満、Al:13.0、K:300未満、Ca:24、Cr:1未満、Mn:1未満、Fe:5未満、Ni:5未満、Cu:5未満、Cd:1未満、Sn:10未満、Pb:5未満、Zn:18402
【0117】
[2回目の置換工程]
2回目の亜鉛抽出工程で得られたアルカリ浸出液(B52)に、1回目の電気分解工程で得られた金属亜鉛粉末(P51)を添加し、置換(セメンテーション)をした。全量濾過により、セメンテーション後の濾液(B54)を得た。
【0118】
[2回目の電気分解工程]
セメンテーション後の濾液(B54)をそのまま電解浴(塩素濃度250mg/l)として、電気分解により平滑な金属亜鉛(箔)を採取した。
【0119】
<実験例6>
[1回目のアルカリ浸出工程]
電気炉ダスト100gを濃度45%のNaOH水溶液500mlに接触させ、最高温度を180℃として4時間浸出し、固形分51.3gと、洗浄水を含む濾液1231mlを得た。
【0120】
[2回目のアルカリ浸出工程]
1回目のアルカリ浸出工程で得られた固形分を新たに濃度45%のNaOH水溶液500mlに接触させ、最高温度を180℃として4時間浸出し、残渣31.6gと、洗浄水を含む濾液1337mlを得た。ICP分析法により、残渣に含まれる主な成分の割合(重量%)を分析した結果は次のとおりである。
Na:9、Mg:1.1、Al:0.3、K:3未満、Ca:3.7、Cr:0.98、Mn:5.5、Fe:32、Cu:0.2、Zn:8、Cd:0.12、Sn:0.2未満、Pb:0.1
【0121】
<実験例7>
電気炉ダスト4gと固形NaOH6.8gと脱塩水29gとを混合してアルミナ製のるつぼ(100ml)に収容した。るつぼ内の混合物(NaOH濃度17wt%)が沸騰するように30分間加熱した。加熱後の混合物に脱塩水を加えて希釈した。グラスファイバ/C濾紙を濾材として使用した吸引濾過により、希釈後の混合物を固形分および浸出液に分離した後、濾材上に脱塩水を加えて固形分を洗浄した。濾材上に残った固形分を残渣、濾材を通過した脱塩水を洗浄水とした。この場合、Zn浸出率は、94.2wt%であった。
【0122】
<実験例8>
電気炉ダスト4gと固形NaOH6.8gと脱塩水29gとを混合してガラス製のビーカ(100ml)に収容した。ビーカ内の混合物(NaOH濃度17wt%)を80℃で約半日加熱した。加熱後の混合物に脱塩水を加えて希釈した。希釈後の混合物を実験例7と同様に処理して、浸出液、残渣および洗浄水を得た。この場合、Zn浸出率は、67.0wt%であった。
【0123】
<実験例9>
電気炉ダスト4gと固形NaOH6.8gと脱塩水29gとを混合してポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製の密閉容器(100ml)に収容した。密閉容器内で内圧の計算値が最高で0.017MPaとなるように、密閉容器内の混合物(NaOH濃度17wt%)を30分間加熱した。加熱後の混合物に脱塩水を加えて希釈した。希釈後の混合物を実験例7と同様に処理して、浸出液、残渣および洗浄水を得た。この場合、Zn浸出率は、82.5wt%であった。
【0124】
<実験例10>
電気炉ダスト4gと固形NaOH6.8gと脱塩水29gとを混合してニッケル製のるつぼ(100ml)に収容した。るつぼ内の混合物(NaOH濃度17wt%)を大気圧の下、100℃で加熱した。加熱後の混合物に脱塩水を加えて希釈した。希釈後の混合物を実験例7と同様に処理して、浸出液、残渣および洗浄水を得た。この場合、Zn浸出率は、82.0wt%であった。
【0125】
<実験例7~10の分析結果の詳細>
表1に、実験例7~10で得られた浸出液、残渣および洗浄水の分析結果の詳細を示す。なお、Zn浸出率(wt%)は、Znの合計量(g)に対して、液相(浸出液および洗浄水)に浸出されたZnの量(g)が占める割合である。各試料中のZnおよびFeの定量は、溶液(浸出液、残渣の35%塩酸溶液または洗浄水)のICP分析により実施した。
【0126】
【表1】
【0127】
<実験例11>
電気炉ダスト10gと固形NaOH17gと脱塩水73gとを混合してポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製の密閉容器(100ml)に収容した。この場合、固形NaOHと脱塩水を合わせて得られる溶液のNaOH濃度は18wt%である。密閉容器内の混合物(NaOH濃度17wt%)を15分間で炉内空間温度を220℃まで昇温し、その後220℃を保持して5.75時間加熱した。加熱後の混合物に脱塩水を加えて希釈した。グラスファイバ/C濾紙を濾材として使用した吸引濾過により、希釈後の混合物を固形分および浸出液に分離した後、濾材上にNaOH水溶液(濃度16.25%)を加えて固形分を一次洗浄し、さらに脱塩水を加えて固形分を二次洗浄した。濾材上に残った固形分を残渣、濾材を通過したNaOH水溶液を洗浄液、濾材を通過した脱塩水を洗浄水とした。この場合、Znの浸出率は、61.2%であった。
【0128】
<実験例12>
電気炉ダスト10gと固形NaOH17gと脱塩水73gとを混合してアルミナ製のるつぼ(200ml)に収容し、ホットプレート上で加熱した。るつぼ内の混合物(NaOH濃度17wt%)を約100℃で沸騰させた後138℃に達するまで4時間加熱した。加熱後の混合物に脱塩水を加えて希釈した。一次洗浄に用いるNaOH水溶液の濃度を11.24%としたこと以外は、希釈後の混合物を実験例11と同様に処理して、浸出液、残渣、洗浄液および洗浄水を得た。この場合、Znの浸出率は、84.3%であった。
【0129】
<実験例13>
電気炉ダスト10gと固形NaOH17gと脱塩水87gとを混合してポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製の密閉容器(100ml)に収容した。この場合、固形NaOHと脱塩水を合わせて得られる溶液のNaOH濃度は16wt%である。密閉容器内の混合物(NaOH濃度15wt%)を、15分間で炉内空間温度を220℃まで昇温し、その後220℃を保持して5.25時間加熱した。加熱後の混合物に脱塩水を加えて希釈した。一次洗浄に用いるNaOH水溶液の濃度を17.72%としたこと以外は、希釈後の混合物を実験例11と同様に処理して、浸出液、残渣、洗浄液および洗浄水を得た。この場合、Znの浸出率は、69.0%であった。
【0130】
<実験例14>
電気炉ダスト10gと固形NaOH17gと脱塩水135gとを混合してアルミナ製のるつぼ(200ml)に収容した。この場合、固形NaOHと脱塩水を合わせて得られる溶液のNaOH濃度は11.2wt%である。るつぼ内の混合物(NaOH濃度10.5wt%)をホットプレート上で加熱し、約100℃で沸騰させた後180℃に達するまで2.75時間加熱した。加熱後の混合物に脱塩水を加えて希釈した。一次洗浄に用いるNaOH水溶液の濃度を17%としたこと以外は、希釈後の混合物を実験例11と同様に処理して、浸出液、残渣、洗浄液および洗浄水を得た。この場合、Znの浸出率は、71.3%であった。
【0131】
<実験例15>
電気炉ダスト10gと固形NaOH67.4gと脱塩水76gとを混合してアルミナ製のるつぼ(200ml)に収容した。この場合、固形NaOHと脱塩水を合わせて得られる溶液のNaOH濃度は47wt%である。るつぼ内の混合物(NaOH濃度44wt%)をホットプレート上で加熱し、約132℃で沸騰させた後180℃に達するまで8時間加熱した。加熱後の混合物に脱塩水を加えて希釈した。一次洗浄に用いるNaOH水溶液の濃度を46.94%としたこと以外は、希釈後の混合物を実験例11と同様に処理して、浸出液、残渣、洗浄液および洗浄水を得た。この場合、Znの浸出率は、98.6%であった。
【0132】
<実験例16>
電気炉ダスト10gと固形NaOH17gと脱塩水100gとを混合してアルミナ製のるつぼ(200ml)に収容した。この場合、固形NaOHと脱塩水を合わせて得られる溶液のNaOH濃度は14.5wt%である。るつぼ内の混合物(NaOH濃度13.4wt%)をホットプレート上で加熱し、約100℃で沸騰させた後210℃に達するまで4時間加熱した。加熱後の混合物に脱塩水を加えて希釈した。一次洗浄に用いるNaOH水溶液の濃度を17.65%としたこと以外は、希釈後の混合物を実験例11と同様に処理して、浸出液、残渣、洗浄液および洗浄水を得た。この場合、Znの浸出率は、97.0%であった。
【0133】
<実験例17>
実験例12の残渣から分取した3.3gと固形NaOH17gと脱塩水100gとを混合してアルミナ製のるつぼ(200ml)に収容した。この場合、固形NaOHと脱塩水を合わせて得られる溶液のNaOH濃度は14.5wt%である。るつぼ内の混合物(NaOH濃度14.1wt%)をホットプレート上で加熱し、約100℃で沸騰させた後180℃に達するまで2.26時間加熱した。加熱後の混合物に脱塩水を加えて希釈した。一次洗浄に用いるNaOH水溶液の濃度を17.03%としたこと以外は、希釈後の混合物を実験例11と同様に処理して、浸出液、残渣、洗浄液および洗浄水を得た。この場合、Znの浸出率は、98.2%であった。
【0134】
<実験例18>
電気炉ダスト10gと固形NaOH67.4gと脱塩水76gとを混合してアルミナ製のるつぼ(200ml)に収容した。この場合、固形NaOHと脱塩水を合わせて得られる溶液のNaOH濃度は47wt%である。るつぼ内の混合物(NaOH濃度44wt%)をホットプレート上で加熱し、約132℃で沸騰させた後180℃に達するまで2.67時間加熱した。加熱後の混合物に脱塩水を加えて希釈した。一次洗浄に用いるNaOH水溶液の濃度を40.12%としたこと以外は、希釈後の混合物を実験例11と同様に処理して、浸出液、残渣、洗浄液および洗浄水を得た。この場合、Znの浸出率は、94.6%であった。
【0135】
<実験例11~18の分析結果の詳細>
表2に、実験例11~18で得られた浸出液、残渣、洗浄液および洗浄水の分析結果の詳細を示す。なお、Zn浸出率(wt%)は、Znの合計量(g)に対して、液相(浸出液、洗浄液および洗浄水)に浸出されたZnの量(g)が占める割合である。各試料中のZnおよびFeの定量は、溶液(浸出液、残渣の35%塩酸溶液、洗浄液または洗浄水)のICP分析により実施した。
【0136】
【表2】
【0137】
<実験例19>
[電気炉ダスト]
実験例19で用いた電気炉ダストに含まれる主な成分の割合(重量%)は次のとおりであった。
Na:1.49、Mg:0.55、Al:0.37、K:3.13、Ca:1.38、Cr:0.56、Mn:2.15、Fe:12.3、Ni:0.03、Cu:0.16、Cd:0.06、Sn:0.02、Pb:1.78、Zn:40.59、Si:1.41、Cl:4.97
【0138】
[アルカリ洗浄および亜鉛抽出工程]
電気炉ダスト100gと0.8重量%NaOH水溶液730mlとを1000mlのビーカに入れて撹拌洗浄した後、濾過した。得られた洗浄後の電気炉ダストと固形NaOH333gと脱塩水407gとを混合してアルミナ製のるつぼ(2000ml)に収容し、るつぼ内の混合物を撹拌しながらホットプレート上で加熱し、約132℃で沸騰させた後180℃に達するまで4時間加熱した。加熱後の混合物に脱塩水を加えて希釈した。グラスファイバ/C濾紙を濾材として使用した吸引濾過により、希釈後の混合物を固形分および浸出液に分離した。この場合、Znの浸出率は、94.1%であった。得られた未洗浄の固形分を純水で洗浄した後、濾過して乾燥重量33.3gの残渣を得た。
【0139】
[エアレーション工程]
分取した浸出液に空気を吹き込み、鉄、クロム、およびマンガンを含む沈殿物を析出させ、グラスファイバ/C濾紙を濾材として使用した吸引濾過により沈殿物を濾液と分離した。
【0140】
[置換工程]
エアレーション工程を経た浸出液に金属亜鉛粒子を接触させ、浸出液に残留する鉛などの重金属を析出させて濾別し、濾液として鉛などの重金属が亜鉛に置換された浸出液を得た。
【0141】
[電気分解工程]
置換工程を経た浸出液を分取し、電解浴として電気分解し、金属亜鉛3.7gを採取した。電気分解条件は、定電流375mA、電極SUS304(厚さ1mmの平板、液中の寸法が幅20mm×高さ30mm)、電極間距離20mm、幾何面積基準の電流密度62.5mA/cm、電解時間10時間とした。得られた金属Znは平滑な箔で、Zn析出の電流効率は98.4%、極間電圧の平均値は2.4Vであった。
【産業上の利用可能性】
【0142】
本発明は、電気炉ダスト等の亜鉛を含む原料から亜鉛を回収し、亜鉛地金、酸化亜鉛、炭酸亜鉛等の製品を製造することができる。
【符号の説明】
【0143】
M…モータ、S1…溶解工程、S2…固液分離工程、S3…不純物除去工程、S4…電気分解工程、S5…再生工程、S6…アルカリ洗浄工程、S7…炭酸化工程、S8…熱処理工程、S9…アルカリ化工程、1,1A…原料、2…アルカリ流体、3…生成物、4…固相、5,6…液相、5a…除去剤、5b…不純物、7…亜鉛地金、8…電気分解工程の残液、9…再生されたアルカリ流体、10,10A,20…回収システム、10a…アルカリ水溶液、10b…アルカリ洗浄液、11…前処理装置、11a…前処理された混合物、12…供給容器、12a…スラリー状の混合物、13…予備加熱装置、13a…加熱された混合物、13b…蒸気、14…反応容器、14a…反応後の混合物、14b…反応中の混合物、15…降圧装置、15a…水蒸気、16…沈殿槽、16a…上澄み、16b…沈殿物、16c…沈殿剤、17…濾過装置、17a…濾液、18…洗浄槽、18a…スラリー、18b…洗浄水、19…脱水装置、19a…残渣、19b…水相、21…炭酸化剤、22…炭酸亜鉛、23…酸化亜鉛、24…炭酸化工程の残液、25…アルカリ化剤、26…炭酸塩沈殿。
図1
図2
図3
図4
図5