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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】連続除染装置
(51)【国際特許分類】
   A61L 2/18 20060101AFI20221227BHJP
【FI】
A61L2/18 102
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019071167
(22)【出願日】2019-04-03
(65)【公開番号】P2020168181
(43)【公開日】2020-10-15
【審査請求日】2022-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】599053643
【氏名又は名称】株式会社エアレックス
(74)【代理人】
【識別番号】100121784
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 稔
(72)【発明者】
【氏名】川崎 康司
(72)【発明者】
【氏名】角田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】益留 純
(72)【発明者】
【氏名】二村 はるか
(72)【発明者】
【氏名】矢崎 至洋
(72)【発明者】
【氏名】北野 司
(72)【発明者】
【氏名】郭 志強
(72)【発明者】
【氏名】小川 亜由美
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-29859(JP,A)
【文献】特開2009-195563(JP,A)
【文献】特開2008-253937(JP,A)
【文献】特開2012-61403(JP,A)
【文献】実開平1-178041(JP,U)
【文献】特表2004-537345(JP,A)
【文献】特開2006-198120(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 2/00-2/28
A61L 9/00-9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無菌作業室に連設されて、物品の外表面を除染剤ミストにより除染して、当該物品を前記無菌作業室の内部に搬送する連続除染装置において、
除染領域とエアレーション領域とからなる装置本体と、前記物品を搬送する搬送手段と、ミスト供給手段と、ミスト制御手段と、エアレーション手段とを備え、
前記装置本体は、除染前の物品を前記除染領域に搬入する搬入口と、除染済みの物品を前記エアレーション領域から搬出する搬出口とを備え、
前記搬送手段は、前記搬入口から搬入された物品を前記除染領域及び前記エアレーション領域の内部を経由して、前記搬出口まで搬送し、
前記ミスト供給手段は、除染剤を除染剤ミストに変換して前記除染領域の内部に供給し、
前記ミスト制御手段は、前記除染領域の内部壁面近傍に配置した震動盤を具備し、当該震動盤を超音波振動させて盤面から垂直方向に超音波による音響流を発生させ、
前記除染領域の内部に供給された前記除染剤ミストに音響放射圧による押圧を作用させることにより、前記搬送手段により前記除染領域の内部を搬送されている前記物品の外表面に前記除染剤ミストを集中して作用させ、
前記エアレーション手段は、前記除染領域から前記搬送手段により搬送されてきた物品の外表面に残存した除染剤ミストを清浄気体により除去することを特徴とする連続除染装置。
【請求項2】
前記ミスト制御手段は、1対又は2対以上の震動盤を具備し、
対をなす前記震動盤は、互いにその盤面を前記搬送手段によって搬送方向に向かって搬送される前記物品の外周部側から対向させて配置することにより、
前記音響放射圧による押圧が前記除染領域の内部を搬送されている前記物品の方向に作用して、前記除染剤ミストが前記物品の外表面に集中するように制御されることを特徴とする請求項1に記載の連続除染装置。
【請求項3】
前記震動盤は、基盤と複数の送波器とを具備し、
前記基盤の平面上に前記複数の送波器の送波方向を統一して配置すると共にこれらの送波器を同位相で作動させることにより、
前記複数の送波器の正面方向の超音波を互いに強め合うと共に、当該複数の送波器の横方向の超音波を互いに打ち消し合うようにして、前記震動盤の盤面から垂直方向に指向性の強い超音波による音響流を発生させることを特徴とする請求項1又は2に記載の連続除染装置。
【請求項4】
前記除染領域内に供給された前記除染剤ミストは、前記震動盤から発生する超音波振動により更に微細化することを特徴とする請求項1~3のいずれか1つに記載の連続除染装置。
【請求項5】
前記エアレーション領域は、その内部壁面近傍に配置した他の震動盤を具備し、当該震動盤を超音波振動させて盤面から垂直方向に超音波による音響流を発生させ、
前記エアレーション領域の内部を搬送されている前記物品の外表面に残留した前記除染剤ミストの凝縮膜に音響流による超音波振動を作用させ、エアレーションの効率を促進することを特徴とする請求項1~4のいずれか1つに記載の連続除染装置。
【請求項6】
前記搬送手段は、前記物品の底壁面を載置して搬送するローラコンベア、メッシュコンベアなどのコンベア装置、又は、側面部を担持して搬送するタイミングベルトなどの担持装置であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1つに記載の連続除染装置。
【請求項7】
除染対象である前記物品は、滅菌済みのシリンジやバイアルなどの医療器具等を収納してなる収納体であることを特徴とする請求項1~6のいずれか1つに記載の連続除染装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物品の外表面を除染剤ミストにより連続除染して、この除染後の物品を無菌環境の作業室に搬送する連続除染装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療現場での利便性から前もって医薬品を充填したプレフィルドシリンジやプレフィルドバイアルなどが製造されている。これらのシリンジやバイアルなどに医薬品を充填する作業は、無菌環境下の充填作業室(以下「無菌作業室」という)で行われる。この作業に使用するシリンジやバイアルなどは、1つ1つが小さなものであり、また、処理される数量も多く必要とされる。そこで、これらのシリンジやバイアルなどは、それぞれの製造段階でγ線照射、電子線照射、EOG(エチレンオキサイドガス)などで滅菌され所定個数をまとめてパッケージに収納した状態で無菌作業室に搬入される。
【0003】
このパッケージには、例えば、下記特許文献1に提案され或いは従来技術として記載される医療用器具パッケージなどがある(図1におけるP)。これらのパッケージは、一般に、剥き開きパッケージ(peel-open package)とよばれ、内部に収納されるシリンジやバイアルなどの医療器具の形状に合わせて成形されたプラスチック製タブ(図1におけるP1)と気体透過可能な上面シール(図1におけるP2)とを備えている。この上面シールには、一般に高密度ポリエチレン極細繊維からなる不織布、タイベック(商標)が使用され、このタイベック(商標)が有する微細孔を通してプラスチック製タブ内部への気体の透過は可能であるが、微生物の侵入は阻止される。
【0004】
このように構成されたパッケージは、更にその外部を包装袋で包装されて流通、運搬される。しかし、流通や運搬の際、或いは、無菌作業室に搬入するためにその包装袋から取り出される際に、プラスチック製タブ及び上面シールの外表面が汚染される。従って、この汚染された外表面を除染しなければ無菌作業室に搬入することはできない。そこで、無菌作業室に連設された除染装置によりプラスチック製タブ及び上面シールの外表面を除染してから無菌作業室に搬送し、無菌作業室内でプラスチック製タブから上面シールを剥き開き、内部の滅菌されたシリンジやバイアルに対して充填作業が行われる。
【0005】
一般に、無菌作業室に搬入する収納体を除染するための除染装置には、EOG(エチレンオキサイドガス)、過酸化水素(ガス又はミスト)、オゾンガス、プラズマ、γ線照射、紫外線照射或いは電子線照射など種々の方法が目的に合わせて採用されている。これらの中で、最も一般的な方法の一つに過酸化水素(ガス又はミスト)による方法がある。この過酸化水素は、強力な除染効果を有し、安価で入手しやすく、且つ、最終的には酸素と水に分解する環境に優しい除染剤として有効である。しかし、過酸化水素による方法では、要求されるレベルの除染効果を得るために多くの時間を要するという問題があった。また、除染後に収納体の表面に凝縮した過酸化水素膜を除去するエアレーションに更に多くの時間を要するという問題があった。
【0006】
一方、プレフィルドシリンジの製造のように、単位時間当たりに数多くの収納体を処理する必要がある除染装置においては、短時間処理で除染効果の高い方法が望まれる。そこで、下記非特許文献1には、一般的な過酸化水素などの除染剤を使用する装置に比べ、高い除染効果が得られ、しかも、生産性が高く残留物質のない安全な装置として、低エネルギー電子加速器を組み込んだ除染装置が紹介されている。
【0007】
この除染装置は、プレフィルドシリンジを収納したパッケージの処理に実際に稼働するもので、予め除染処理されたシリンジが入ったパッケージは、その外表面を電子線で除染されて無菌作業室にコンベアで搬送される。この装置は、それぞれ120度の角度で配置された3台の低エネルギー電子加速器(図2における56、57、58)で3方向の各照射窓(56a、57a、58a)からパッケージの全ての表面に電子線を照射する。
【0008】
なお、この装置においては、照射する電子線の線量を制御することにより、プラスチック製タブと上面シールとを効率的に除染することができる。下記非特許文献1によると、この装置により、1時間当たり3600個ものシリンジを処理することが可能となり高い生産性を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第4237489号
【非特許文献】
【0010】
【文献】財団法人放射線利用振興協会、放射線利用技術データベース、データ番号:010306(作成:2007/10/03、関口正之)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、上記非特許文献1の除染装置においては、医療用器具パッケージの外表面全体を除染するために、搬送方向に向かって搬送される医療用器具パッケージの外周部側にそれぞれ120度の角度で配置された3台の低エネルギー電子加速器から同時に電子線を照射する(図2参照)。
【0012】
この方法においては、医療用器具パッケージの外表面(上面部、底面部及び左右側面部)に対して電子線を照射するには十分である。しかし、医療用器具パッケージの搬送方向に向かって前後側面部には距離があり、電子線を照射するには不十分である。従って、除染効果の信頼性と安全性を高く維持することが難しい。そこで、医療用器具パッケージの前後側面部に外周部から電子線を照射する場合、各電子加速器の照射窓からの距離が遠くなるので、各電子加速器の照射窓を大きくして照射角度を調整すると共に各電子加速器の加速電圧を高くして照射強度を強くする必要があった。
【0013】
一般に、照射面積が広く、加速電圧を高くすることのできる低エネルギー電子加速器は、1台当りの価格が高価である。また、加速電圧を高くした場合、電子加速器の使用積算時間による使用限界(寿命)が短くなり、交換によるメンテナンス費用も割高となる。従って、高価な装置を3台同時に稼働することにより、装置の初期費用とメンテナンス費用が共に高くなるという問題があった。
【0014】
一方、各電子加速器の照射強度を強くして医療用器具パッケージの前後側面部を十分に除染するようにした場合、医療用器具パッケージの部位により照射強度に強弱が生じ、電子加速器の照射窓からの距離が近い部位にあっては過剰な電子線による照射が行われ、医療用器具パッケージにダメージが生じることとなる。また、医療用器具パッケージの各部位と各電子加速器の照射窓との距離が異なることにより、各部位の除染レベルが異なるという問題があった。
【0015】
このように、近年広く使用されている過酸化水素などの除染剤による方法は、強力な除染効果・安価・環境に優しいなどの効果が認められる反面、処理に長時間を要し大量処理を必要とする医療用器具パッケージの除染には問題があった。一方、電子加速器による方法は、大量処理を必要とする医療用器具パッケージの除染には効果が認められる反面、装置価格とメンテナンス費用が高額となり、各部位の除染レベルが異なるという問題があった。
【0016】
そこで、本発明は、上記の諸問題に対処して、高額の電子加速器を使用することなく、近年広く使用されている過酸化水素などの除染剤を採用し、短時間処理が可能で各部位の除染レベルが均等となり、除染対象物品の大量処理が可能な連続除染装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題の解決にあたり、本発明者らは、鋭意研究の結果、超音波振動を採用して除染装置に供給した除染剤ミストを微細化すると共に、除染装置内の除染対象物品の表面に除染剤ミストを集中させることにより本発明の完成に至った。
【0018】
即ち、本発明に係る連続除染装置は、請求項1の記載によれば、
無菌作業室(20)に連設されて、物品(P)の外表面を除染剤ミスト(31、31a)により除染して、当該物品を前記無菌作業室の内部に搬送する連続除染装置(10)において、
除染領域(12)とエアレーション領域(13)とからなる装置本体(10a)と、前記物品を搬送する搬送手段(14,14a、14b)と、ミスト供給手段(30)と、ミスト制御手段(40)と、エアレーション手段とを備え、
前記装置本体は、除染前の物品を前記除染領域に搬入する搬入口(16)と、除染済みの物品を前記エアレーション領域から搬出する搬出口(18)とを備え、
前記搬送手段は、前記搬入口から搬入された物品を前記除染領域及び前記エアレーション領域の内部を経由して、前記搬出口まで搬送し、
前記ミスト供給手段は、除染剤を除染剤ミストに変換して前記除染領域の内部に供給し、
前記ミスト制御手段は、前記除染領域の内部壁面近傍に配置した震動盤(41、42、43、44、45、46)を具備し、当該震動盤を超音波振動させて盤面から垂直方向に超音波による音響流を発生させ、
前記除染領域の内部に供給された前記除染剤ミストに音響放射圧による押圧を作用させることにより、前記搬送手段により前記除染領域の内部を搬送されている前記物品の外表面に前記除染剤ミストを集中して作用させ、
前記エアレーション手段は、前記除染領域から前記搬送手段により搬送されてきた物品の外表面に残存した除染剤ミストを清浄気体により除去することを特徴とする。
【0019】
また、本発明は、請求項2の記載によれば、請求項1に記載の連続除染装置であって、
前記ミスト制御手段は、1対又は2対以上の震動盤を具備し、
対をなす前記震動盤は、互いにその盤面を前記搬送手段によって搬送方向に向かって搬送される前記物品の外周部側から対向させて配置することにより、
前記音響放射圧による押圧が前記除染領域の内部を搬送されている前記物品の方向に作用して、前記除染剤ミストが前記物品の外表面に集中するように制御されることを特徴とする。
【0020】
また、本発明は、請求項3の記載によれば、請求項1又は2に記載の連続除染装置であって、
前記震動盤は、基盤(51)と複数の送波器(53)とを具備し、
前記基盤の平面(52)上に前記複数の送波器の送波方向を統一して配置すると共にこれらの送波器を同位相で作動させることにより、
前記複数の送波器の正面方向の超音波を互いに強め合うと共に、当該複数の送波器の横方向の超音波を互いに打ち消し合うようにして、前記震動盤の盤面から垂直方向に指向性の強い超音波による音響流を発生させることを特徴とする。
【0021】
また、本発明は、請求項4の記載によれば、請求項1~3のいずれか1つに記載の連続除染装置であって、
前記除染領域内に供給された前記除染剤ミストは、前記震動盤から発生する超音波振動により更に微細化することを特徴とする。
【0022】
また、本発明は、請求項5の記載によれば、請求項1~4のいずれか1つに記載の連続除染装置であって、
前記エアレーション領域は、その内部壁面近傍に配置した他の震動盤を具備し、当該震動盤を超音波振動させて盤面から垂直方向に超音波による音響流を発生させ、
前記エアレーション領域の内部を搬送されている前記物品の外表面に残留した前記除染剤ミストの凝縮膜に音響流による超音波振動を作用させ、エアレーションの効率を促進することを特徴とする。
【0023】
また、本発明は、請求項6の記載によれば、請求項1~5のいずれか1つに記載の連続除染装置であって、
前記搬送手段は、前記物品の底壁面を載置して搬送するローラコンベア、メッシュコンベアなどのコンベア装置、又は、側面部を担持して搬送するタイミングベルトなどの担持装置であることを特徴とする。
【0024】
また、本発明は、請求項7の記載によれば、請求項1~6のいずれか1つに記載の連続除染装置であって、
除染対象である前記物品は、滅菌済みのシリンジやバイアルなどの医療器具等を収納してなる収納体であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
上記構成によれば、本発明に係る連続除染装置は、除染領域とエアレーション領域とからなる装置本体と、物品を搬送する搬送手段と、ミスト供給手段と、ミスト制御手段と、エアレーション手段とを備えている。装置本体は、除染前の物品を除染領域に搬入する搬入口と、除染済みの物品をエアレーション領域から搬出する搬出口とを備えている。搬送手段は、搬入口から搬入された物品を除染領域及びエアレーション領域の内部を経由して、搬出口まで搬送する。
【0026】
ミスト供給手段は、除染剤を除染剤ミストに変換して除染領域の内部に供給する。ミスト制御手段は、除染領域の内部壁面近傍に配置した震動盤を具備し、当該震動盤を超音波振動させて盤面から垂直方向に超音波による音響流を発生させる。除染領域の内部に供給された除染剤ミストに音響放射圧による押圧を作用させることにより、搬送手段により除染領域の内部を搬送されている物品の外表面に除染剤ミストを集中して作用させる。エアレーション手段は、除染領域から搬送手段により搬送されてきた物品の外表面に残存した除染剤ミストを清浄気体により除去する。
【0027】
このように、上記構成によれば、高額の電子加速器を使用することなく、近年広く使用されている過酸化水素などの除染剤を採用し、短時間処理が可能で各部位の除染レベルが均等となり、除染対象物品の大量処理が可能な連続除染装置を提供することができる。
【0028】
また、上記構成によれば、ミスト制御手段は、1対又は2対以上の震動盤を具備してもよい。これらの対をなす震動盤は、互いにその盤面を搬送手段によって搬送方向に向かって搬送される物品の外周部側から対向させて配置することにより、音響放射圧による押圧が除染領域の内部を搬送されている物品の方向に作用して、除染剤ミストが物品の外表面に集中するように制御される。よって、上記作用効果をより具体的に発揮することができる。
【0029】
また、上記構成によれば、震動盤は、基盤と複数の送波器とを具備し、基盤の平面上に複数の送波器の送波方向を統一して配置すると共にこれらの送波器を同位相で作動させる。その結果、複数の送波器の正面方向の超音波を互いに強め合うと共に、当該複数の送波器の横方向の超音波を互いに打ち消し合うようになる。このことにより、震動盤の盤面から垂直方向に指向性の強い超音波による音響流を発生させることができる。よって、上記作用効果をより具体的に発揮することができる。
【0030】
また、上記構成によれば、除染領域内に供給された除染剤ミストは、震動盤から発生する超音波振動により更に微細化される。このことにより、上記作用効果をより具体的に発揮することができる。
【0031】
また、上記構成によれば、エアレーション領域は、その内部壁面近傍に配置した他の震動盤を具備していてもよい。これらの震動盤を超音波振動させて盤面から垂直方向に超音波による音響流を発生させる。そのことにより、エアレーション領域の内部を搬送されている物品の外表面に残留した除染剤ミストの凝縮膜に音響流による超音波振動を作用させる。その結果、凝縮膜の蒸発が促進しエアレーションの効率を向上することができる。よって、上記作用効果をより具体的に発揮することができる。
【0032】
また、上記構成によれば、搬送手段は、物品の底壁面を載置して搬送するローラコンベア、メッシュコンベアなどのコンベア装置であってもよい。また、搬送手段は、物品の側面部を担持して搬送するタイミングベルトなどの担持装置であってもよい。このことにより、上記作用効果をより具体的に発揮することができる。
【0033】
また、上記構成によれば、除染対象である物品は、滅菌済みのシリンジやバイアルなどの医療器具等を収納してなる収納体であってもよい。このことにより、上記作用効果をより具体的に発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】第1及び第2実施形態に係る連続除染装置で除染対象とする収納体(パッケージ)を示す斜視図である。
図2】非特許文献1の連続除染装置の電子加速器の配置を示す概要図である。
図3】第1実施形態に係る連続除染装置を示す概略平面図である。
図4】第1実施形態に係る連続除染装置を示す概略正面図である。
図5図4の概略正面図の内部の状態を示す概略断面図である。
図6】第1実施形態に係るミスト供給装置とミスト制御装置との関係を示す概要図であって(A)正面断面図、(B)側面断面図である。
図7】第1実施形態に係る震動盤においてスピーカー基盤に複数の超音波スピーカーを配置した状態を示す概要斜視図である。
図8図6のミスト供給装置とミスト制御装置との関係を示す概要図において、搬送手段の変形例を示す(C)正面断面図である。
図9図6のミスト供給装置とミスト制御装置との関係を示す概要図において、搬送手段の他の変形例を示す(D)正面断面図である。
図10】実施例においてパッケージPの外表面に酵素インジケーター(EI)を貼付した位置を示す図である。
図11】第2実施形態に係るミスト供給装置とミスト制御装置との関係を示す概要図であって(A)正面断面図、(B)側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明において「ミスト」とは、広義に解釈するものであって、微細化して空気中に浮遊する除染剤の液滴の状態、除染剤のガスと液滴が混在した状態、除染剤がガスと液滴との間で凝縮と蒸発との相変化を繰り返している状態などを含むものとする。また、粒径に関しても、場合によって細かく区分されるミスト・フォグ・液滴などを含んで広義に解釈する。
【0036】
よって、本発明に係るミストにおいては、場合によってミスト(10μm以下と定義される場合もある)或いはフォグ(5μm以下と定義される場合もある)と呼ばれるもの、及び、それ以上の粒径を有するものも含むものとする。なお、本発明においては、超音波振動の作用により、ミスト・フォグ・液滴などの3μm~10μm或いはそれ以上の液滴であっても、3μm以下の超微細粒子に均一化されて短時間においても高度な除染効果を発揮するものと考えられる(後述する)。
【0037】
以下、本発明に係る連続除染装置を各実施形態により詳細に説明する。なお、本発明は、下記の各実施形態にのみ限定されるものではない。以下に示す各実施形態に係る連続除染装置においては、除染剤として過酸化水素を使用する。まず、過酸化水素により除染する物品を説明する。各実施形態においては、シリンジやバイアルなどの医療器具を収納した収納体(パッケージ)を除染対象物品とする。なお、本発明においては、除染対象物品をこれらの収納体(パッケージ)に限るものではなく、連続除染して無菌作業室に搬送するものであれば対象とする。
【0038】
<第1実施形態>
図1は、本第1実施形態に係る連続除染装置で除染対象とする収納体(パッケージ)を示す斜視図である。但し、本発明においては、収納体の形状は図1の形状のみに限定するものではない。図1において、パッケージPは、ポリエチレン製タブP1とタイベック(商標)製の上面シールP2とを備えている。本第1実施形態においては、その内部にプレフィルドシリンジの充填作業に使用される滅菌したシリンジを多数収納し、密封された状態で除染される。
【0039】
次に、本第1実施形態に係る連続除染装置について説明する。図3は、本第1実施形態に係る連続除染装置を示す概略平面図であり、図4は、連続除染装置を示す概略正面図である。本第1実施形態に係る連続除染装置は、除染領域とエアレーション領域とからなる装置本体と、パッケージPを搬送するローラコンベアと、ミスト供給装置と、ミスト制御装置と、エアレーション用の清浄空気の給排気装置とを備えている。
【0040】
図3及び図4に示すように、本第1実施形態に係る連続除染装置10の装置本体10aは、周囲をステンレス製金属板からなる外壁部で覆われ、アイソレーター20の側壁21に連接して床面上に載置されている。また、装置本体10aは、導入領域11と除染領域12とエアレーション領域13とに区分され、エアレーション領域13の壁部がアイソレーター20の側壁21と連通するようにして連接している。また、装置本体10aの内部には、パッケージPを搬送するローラコンベア14が、アイソレーター20の外部環境から導入領域11の搬入口15、導入領域11の内部、除染領域12の搬入口16、除染領域12の内部、除染領域12の搬出口(兼、エアレーション領域13の搬入口)17、エアレーション領域13の内部、エアレーション領域13の搬出口18を経由して、アイソレーター20の内部に配置されている(後述する)。
【0041】
このような構成において、連続除染装置10の内部の状態及び除染操作について説明する。図5は、図4の概略正面図の内部の状態を示す概略断面図である。図5において、外部環境にいる作業者(図示せず)は、複数のパッケージPを駆動するローラコンベア14の上に載置する。パッケージPは、駆動するローラコンベア14に載置された状態で導入領域11の搬入口15を介して導入領域11の内部に搬入される。
【0042】
導入領域11の内部には、除染領域12の搬入口16を介して除染領域12から過酸化水素水ミストが漏出する。この漏出した過酸化水素水ミストが外部環境を汚染しないように、導入領域11の内部には清浄空気を給気すると共に内部の空気(過酸化水素を含む)を強制的に排気する(給排気装置は図示せず)。また、強制排気によって、導入領域11の内部圧を外部環境よりも陰圧にすることにより、導入領域11の搬入口15から外部環境の空気が導入領域11の内部に流入するようにすることが好ましい。また、導入領域11の内部から強制的に排気した空気中の過酸化水素は、過酸化水素分解装置(図示せず)によって酸素と水に分解される。
【0043】
次に、パッケージPは、除染領域12の搬入口16を介して除染領域12の内部に搬入され、除染領域12の内部を搬送される(図示右方向)。除染領域12の内部には、複数のミスト供給装置30(図5においては4台)がローラコンベア14の下部に配置され、ローラコンベア14で搬送されているパッケージPに向けてローラコンベア14の各ロールの間から過酸化水素水ミスト31を放出している。これによって、除染領域12の内部、特にローラコンベア14の上部に過酸化水素水ミスト31が均一に充満し、複数のパッケージPを搬送しながら連続して除染している。なお、ミスト供給装置30及びミスト制御装置(図5に図示せず)については後述する。このようにして、パッケージPは、ローラコンベア14で搬送されながら除染領域12の内部に予め設定された時間滞留することで、外表面全体が均一に除染される。また、パッケージPは、複数のロールの上を移動するので底壁部も十分に除染される。
【0044】
次に、パッケージPは、除染領域12の搬出口(兼、エアレーション領域13の搬入口)17を介してエアレーション領域13の内部に搬入され、エアレーション領域13の内部を搬送される(図示右方向)。ここで、ローラコンベア14によってエアレーション領域13の内部に搬入されてきたパッケージPの外表面には均一な過酸化水素薄膜が凝縮している(理由については後述する)。また、除染領域12の搬出口17を介して除染領域12からエアレーション領域13の内部に過酸化水素水ミストが漏出する。そこで、凝縮した過酸化水素薄膜と漏出した過酸化水素水ミストとがアイソレーター20の内部を汚染しないように、エアレーション領域13の内部でエアレーション操作を行う。
【0045】
具体的には、給気装置(図示せず)によりエアレーション領域13の内部に清浄空気を供給する。また、排気装置(図示せず)によりエアレーション領域13の内部の空気(気化した過酸化水素と過酸化水素水ミストとを含む)を強制的に排気する。また、強制的に排気した空気中の過酸化水素は、過酸化水素分解装置(図示せず)によって酸素と水に分解される。なお、エアレーション操作における清浄空気の給排気量とエアレーション時間は、予め設定された条件とする。このようにして、パッケージPは、エアレーション領域13の内部を搬送されながらエアレーションされて除染操作が完了した状態となる。
【0046】
次に、パッケージPは、エアレーション領域13の搬出口18を介してアイソレーター20の内部に搬入される。このとき、エアレーション領域13の搬出口18を介してアイソレーター20の内部にエアレーション操作の排気空気(気化した過酸化水素と過酸化水素水ミストとを含む)が流入しないように、エアレーション操作の強制排気によって、エアレーション領域13の内部圧をアイソレーター20の内部よりも陰圧にすることにより、エアレーション領域13の搬出口18からアイソレーター20の内部の空気がエアレーション領域13の内部に流入するようにすることが好ましい。
【0047】
このようにして、除染操作が完了しアイソレーター20の内部に搬入されたパッケージPは、アイソレーター20内でパッケージPから上面シールP2を剥き開き、内部の滅菌されたシリンジやバイアルに対して充填作業が行われる。
【0048】
次に、ミスト供給装置及びミスト制御装置について説明する。図6は、本第1実施形態に係るミスト供給装置とミスト制御装置との関係を示す概要図である。図6(A)は、ローラコンベア14に載置された状態のパッケージPを進行方向に向かって見た正面断面図である。図6(B)は、ローラコンベア14に載置された状態のパッケージPを進行方向(図の矢印方向)の横方向から見た側面断面図である。
【0049】
図6において、装置本体10aの除染領域12の内部には、ローラコンベア14の上にパッケージPが載置されて搬送されている。本第1実施形態においては、ミスト供給装置30として二流体スプレーノズル30を使用し、除染領域12の底壁面12aに設置されている。また、本第1実施形態においては、除染剤として過酸化水素水(H水溶液)を使用した。なお、本第1実施形態においては、4台の二流体スプレーノズル30を使用している(図5参照)。
【0050】
二流体スプレーノズル30は、コンプレッサー(図示せず)からの圧縮空気により過酸化水素水をミスト化して過酸化水素水ミスト31とし、除染領域12の内部に供給する。なお、本発明においては、ミスト供給装置に関しては二流体スプレーノズルに限るものではなく、ミスト発生手段及び出力等について特に限定するものではない。
【0051】
ここで、ミスト制御装置40について説明する。本第1実施形態においては、1台の二流体スプレーノズル30に対して1組のミスト制御装置40を設置している。なお、図6においては、1台の二流体スプレーノズル30と1組のミスト制御装置40について説明する。各ミスト制御装置40は、それぞれ6台の震動盤41、42、43、44、45、46を具備している。
【0052】
6台の震動盤のうち、震動盤41、42は、除染領域12の両側壁面12b、12cの内部を背にして、震動面41a、42aを水平方向に対向させてローラコンベア14で搬送中のパッケージPに向けて配置されている。また、震動盤43、44は、除染領域12の両側壁面12b、12cの内部に側面を接して、震動面43a、44aを垂直方向に除染領域12の上部(ローラコンベア14より上の部分)に向けて配置されている。また、震動盤45、46は、除染領域12の底壁面12aの内部に底側面を接して、震動面45a、46aを水平方向に対向させて二流体スプレーノズル30から供給される過酸化水素水ミスト31に向けて配置されている。
【0053】
ここで、震動盤41(42、43、44、45、46も同じ)について説明する。図7は、図6のミスト制御装置40が具備する震動盤においてスピーカー基盤に複数の超音波スピーカーを配置した状態を示す概要斜視図である。図7において、震動盤41は、基盤と複数の送波器とを具備している。本第1実施形態においては、基盤としてスピーカー基盤51を使用し、送波器として超音波スピーカー53を使用した。本第1実施形態においては、スピーカー基盤51の平面52上に25個の超音波スピーカー53をそれらの震動面54の送波方向(図示正面左方向)を統一して配置されている。なお、超音波スピーカーの個数は、特に限定するものではない。
【0054】
本第1実施形態においては、超音波スピーカー53として超指向性の超音波スピーカーを使用した。具体的には、周波数40KHz付近の超音波を送波する周波数変調方式の超音波スピーカー(DC12V、50mA)を使用した。なお、超音波スピーカーの種類、大きさと構造、出力等に関しては、特に限定するものではない。また、本発明においては、ミスト制御装置が具備する震動盤に関しては超音波スピーカーに限るものではなく、超音波の発生手段、周波数域及び出力等について特に限定するものではない。
【0055】
本第1実施形態において、複数(25個)の超音波スピーカー53の震動面54の送波方向を統一すると共にこれらの送波器を同位相で作動させることにより、各超音波スピーカー53の正面方向の超音波が互いに強め合うと共に、各超音波スピーカー53の横方向の超音波が互いに打ち消し合うようになる。その結果、スピーカー基盤51に配置された超音波スピーカー53が超音波振動すると、各震動面54から垂直方向に空気中を進行する指向性の強い音響流が発生する。なお、超音波制御装置(図示せず)により超音波スピーカー53の周波数と出力を制御することにより、効率的な除染操作が可能となる。
【0056】
ここで、本第1実施形態に係る搬送手段の変形例について説明する。上記説明においては、搬送手段としてパッケージPの底壁面を載置して搬送するローラコンベア14を使用した。しかし、搬送手段は、これに限るものではなく、同様にパッケージPの底壁面を載置して搬送するメッシュコンベアなどの他のコンベア装置を使用するようにしてもよい。また、パッケージPの側面部を担持して搬送するタイミングベルトなどの担持装置を使用するようにしてもよい。
【0057】
図8は、図6のミスト供給装置とミスト制御装置との関係を示す概要図において、搬送手段の変形例を示す(C)正面断面図である。図8(C)においては、搬送手段としてメッシュコンベア14aを使用する。この場合には、二流体スプレーノズル30は、メッシュコンベア14aで搬送されているパッケージPに向けてメッシュコンベア14aのメッシュの間から過酸化水素水ミスト31を放出している。これによって、除染領域12の内部、特にローラコンベア14の上部に過酸化水素水ミスト31が均一に充満し、複数のパッケージPを搬送しながら連続して除染している。また、パッケージPの底壁部は、メッシュの上に載置されたかたちで移動し、且つ、後述する震動盤による超音波振動に共振して、パッケージPの底壁部のメッシュコンベア14aに接する部分も十分に除染されるものと考えられる。
【0058】
図9は、図6のミスト供給装置とミスト制御装置との関係を示す概要図において、搬送手段の他の変形例を示す(D)正面断面図である。図9(D)においては、搬送手段としてタイミングベルト14bを使用する。2本のタイミングベルト14bは、進行方向に向かって進行するパッケージPの両肩部を両側面部から担持して搬送する。この場合には、二流体スプレーノズル30は、タイミングベルト14bで搬送されているパッケージPに向けて直接、過酸化水素水ミスト31を放出している。これによって、除染領域12の内部、特にローラコンベア14の上部に過酸化水素水ミスト31が均一に充満し、複数のパッケージPを搬送しながら連続して除染している。また、パッケージPの両肩部は、タイミングベルト14bで担持されているが接触面は少なく、且つ、後述する震動盤による超音波振動に共振して十分に除染されるものと考えられる。
【0059】
次に、上記構成に係るミスト供給装置30及びミスト制御装置40を配置した除染領域12の内部における過酸化水素水ミスト31の挙動について、図6を用いて説明する。なお、図6において、除染領域12の内部には、1台の二流体スプレーノズル30と6台の震動盤41、42、43、44、45、46が配置されている。また、ローラコンベア14の上にパッケージPが載置されて搬送されている。
【0060】
この状態で各震動盤の超音波スピーカー53が超音波振動すると、6つの震動面41a、42a、43a、44a、45a、46aからそれぞれ垂直方向に進行する指向性の強い音響流(盤面から矢印で表示)が発生する。これらの音響流のうち、まず、震動盤45、46の震動面45a、46aから発生した音響流は、二流体スプレーノズル30から放出された過酸化水素水ミスト31に作用する。この過酸化水素水ミスト31は、二流体スプレーノズル30からの放出圧により上方(除染領域12の上部)に向かって進行する。このとき、過酸化水素水ミスト31は、震動面45a、46aから発生した音響流による超音波振動の作用により微細化された微細ミスト31aとなり、ローラコンベア14の各ロールの間からパッケージPの周囲に向かって進行する。
【0061】
次に、ローラコンベア14の上部において、震動盤41、42の震動面41a、42aから発生した音響流は、震動面45a、46aによる超音波振動の作用で微細化された微細ミスト31aに作用して高度に微細化する。また、震動盤43、44の震動面43a、44aから発生した音響流も、同様に微細ミスト31aに作用して高度に微細化する。
【0062】
本発明者らは、この状態において、震動面41a、42a、43a、44aによる超音波振動の作用により高度に微細化された微細ミスト31aが、ローラコンベア14の上に載置されたパッケージPの周囲に集中して作用することを見出した(図6参照)。この理由については定かではないが、各震動盤から発生する音響波がパッケージPに到達した時に一部しか反射せず、主にパッケージPの表面に吸収又は散乱することにより、音響放射圧の押圧作用がパッケージPの方向に集中するためと考えられる。
【0063】
このとき、微細ミスト31aは、超音波振動の作用で微細化され粒径が小さく表面積が大きくなることから、ミストの蒸発効率が高く蒸発と凝縮とを繰り返しているものと考えられる。また、微細ミスト31aは、高度に微細化されたミストでありパッケージPの外表面に集中すると共に、均一且つ薄層の凝縮膜をパッケージPの外表面に形成する。従って、除染領域12の内壁面やローラコンベア14の各ロールに無駄な凝縮を起こすことがない。
【0064】
このように、過酸化水素の微細ミスト31aは、超音波振動の作用を常に受けながら蒸発と凝縮と微細化を繰り返しながら搬送されているパッケージPの周囲に集中する。また、パッケージPの外表面においても、超音波振動の作用を常に受け均一且つ薄層の凝縮膜の再蒸発と凝縮とが繰り返される。これらのことにより、パッケージPの周囲には過酸化水素の3μm以下の超微細粒子と過酸化水素ガスとが相変化しながら共存して高度な除染環境を発現するものと考えられる。
【0065】
また、パッケージPの外表面に均一且つ薄層で形成された凝縮膜が再蒸発と凝縮とを繰り返すことにより、除染ミスト中の除染剤濃度を上げることが可能で、少量の除染剤で効率の良い除染を可能にする。また、少量の除染剤で効率よく除染できるので、パッケージPの表面に残留した微細ミスト31aの凝縮膜のエアレーションの効率も向上し除染操作の短時間化が可能となる。
【0066】
次に、上記構成に係るミスト供給装置30及びミスト制御装置40を配置した除染領域12の内部における除染効果の確実性と除染時間の短縮可能性について、実施例により確認した。
【実施例
【0067】
本実施例においては、図6に示す1台の二流体スプレーノズル30と6台の震動盤41、42、43、44、45、46を配置した「除染ユニット」を使用し、パッケージPをローラコンベア14のロールの上に載置した状態で移動をさせずに、所定条件における除染時間の確認を行った。なお、以下に示す実施例においては、パッケージPのサイズは、縦250mm、横240mm、高さ120mmのものを使用した。
【0068】
パッケージPの外表面の除染効果は、酵素インジケーター:EI(Enzyme Indicator)で確認した。EIは、試験後に残存酵素活性を蛍光測定し除染効果を確認するものであり、従来のBI(Biological Indicator)に比べ、培養操作が不要で短時間で効果を確認することができる。近年、BIとの比較同等性が確認され、普及が進んでいる。除染後のEIの蛍光強度から菌数の対数減少によるLRD値(Log Spore Reduction)を計算し、充分な除染効果として認められる4~6LRD又はそれ以上を合格と判断した。なお、パッケージPの外表面において、上面3か所にEI-1~EI-3を配置し、底面1か所にEI-4を配置し、片側の側面1ヶ所にEI-5を配置した(図10参照)。
【0069】
本実施例において、除染ユニットへの過酸化水素水(35W/V%)の投入は、投入速度5.6g/分で統一し、除染操作時間3分(除染時間2.5分+エアレーション時間0.5分)及び除染操作時間5分(除染時間4分+エアレーション時間1分)の2水準とした。それぞれの過酸化水素水の投入量は、300g/mと500g/mに相当する。また、比較例として、ミスト制御装置40(震動盤)を作動させずに除染操作時間5分としたもの1水準を行った。除染操作後の実施例及び比較例のEI-1~EI-5のLRD値を表1に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
表1から分かるように、過酸化水素水の投入速度5.6g/分とした場合には、除染操作時間5分(除染時間4分+エアレーション時間1分)の条件においては(条件2)、パッケージPの外表面全体に亘ってLRD値が4~6LRD又はそれ以上であり十分な除染効果を確認した。この条件(条件2)においては、パッケージPの外表面全体が均一に除染されていることが分かる。これに対して、震動盤を作動させずに行った比較例においては(条件3)、同様の除染操作時間5分(除染時間4分+エアレーション時間1分)の場合に、4LRDに達しない除染不十分領域が上面及び側面で認められた。また、震動盤を作動させ行った除染操作時間3分(除染時間2.5分+エアレーション時間0.5分)においては(条件1)、除染効果が不十分であった。
【0072】
これらの結果から、例えば、条件2を採用して除染領域4000mm、エアレーション領域1000mmの1ラインの連続除染装置を設計した場合には、100本のバイアル又はシリンジを収納したパッケージ(縦250mm、横240mm、高さ120mm)を装置内に約15個収納でき、1個を5分の滞留で除染処理することができる。つまり、このラインにおいては、1分間にパッケージ3個を処理できるので、300本/分でバイアル又はシリンジをアイソレーター内に搬送することができる。また、搬入ラインの長さやライン数を増やすことにより、短くコンパクトにすることや、より多くのバイアル又はシリンジをアイソレーター内に搬送することも可能である。
【0073】
<第2実施形態>
本第2実施形態においては、上記第1実施形態に対してミスト制御装置の震動盤の数と配置を変更した。図11は、本第2実施形態に係るミスト供給装置とミスト制御装置との関係を示す概要図である。図11(A)は、ローラコンベア114に載置された状態のパッケージPを進行方向に向かって見た正面断面図である。図11(B)は、ローラコンベア114に載置された状態のパッケージPを進行方向(図の矢印方向)の横方向から見た側面断面図である。
【0074】
図11において、装置本体110aの除染領域112の内部には、ローラコンベア114の上にパッケージPが載置されて搬送されている。本第2実施形態においては、ミスト供給装置130として上記第1実施形態と同じ二流体スプレーノズル130を使用し、除染領域112の底壁面112aに設置されている。また、本第2実施形態においても、上記第1実施形態と同様に除染剤として過酸化水素水(H水溶液)を使用した。
【0075】
二流体スプレーノズル130は、コンプレッサー(図示せず)からの圧縮空気により過酸化水素水をミスト化して過酸化水素水ミスト131とし、除染領域112の内部に供給する。なお、本発明においては、ミスト供給装置に関しては二流体スプレーノズルに限るものではなく、ミスト発生手段及び出力等について特に限定するものではない。
【0076】
ここで、ミスト制御装置140について説明する。本第2実施形態においては、1台の二流体スプレーノズル130に対して1組のミスト制御装置40を設置している。なお、図11においては、1台の二流体スプレーノズル130と1組のミスト制御装置140について説明する。各ミスト制御装置140は、それぞれ4台の震動盤141、142、143、144を具備している。
【0077】
4台の震動盤のうち、震動盤141、142は、上記第1実施形態と同様に除染領域112の両側壁面112b、112cの内部を背にして、震動面141a、142aを水平方向に対向させてローラコンベア114で搬送中のパッケージPに向けて配置されている。また、震動盤143、144は、除染領域112の両側壁面112b、112cの内部に側面を接して、震動面143a、144aを斜め上方に除染領域112の上部(ローラコンベア114より上の部分)に向けて配置されている。
【0078】
なお、震動盤141、142、143、144の構造については、上記第1実施形態と同様のスピーカー基盤に複数(25個)の超音波スピーカーを配置したものを使用した(図7参照)。
【0079】
また、本第1実施形態においては採用していないが、本第2実施形態においては、エアレーション効率の更なる向上を目的としてエアレーション領域に震動盤を配置した(図示しない)。本第2実施形態における震動盤は、2台の震動盤を除染領域112における震動盤141、142と同じ位置に配置した(図11参照)。このことにより、エアレーション領域内において清浄空気の給排気と共に音響流による超音波振動が、パッケージPの外表面に作用して過酸化水素の微細ミスト131aの凝縮膜の蒸発を促進する。よって、エアレーションの効率を促進することができる。
【0080】
次に、上記構成に係るミスト供給装置130及びミスト制御装置140を配置した除染領域112の内部における過酸化水素水ミスト131の挙動について、図11を用いて説明する。なお、図11において、除染領域112の内部には、1台の二流体スプレーノズル130と4台の震動盤141、142、143、144が配置されている。また、ローラコンベア114の上にパッケージPが載置されて搬送されている。
【0081】
この状態で各震動盤の超音波スピーカー53(図7参照)が超音波振動すると、4つの震動面141a、142a、143a、144aからそれぞれ垂直方向に進行する指向性の強い音響流(盤面から矢印で表示)が発生する。二流体スプレーノズル130から放出された過酸化水素水ミスト131は、二流体スプレーノズル130からの放出圧により上方(除染領域112の上部)に向かって進行し、ローラコンベア114の各ロールの間からパッケージPの周囲に向かって進行する。
【0082】
次に、ローラコンベア114の上部において、震動盤141、142の震動面141a、142aから発生した音響流は、過酸化水素水ミスト131に作用して微細ミスト131aに微細化する。また、震動盤143、144の震動面143a、144aから発生した音響流も、同様に微細ミスト131aに作用して高度に微細化する。
【0083】
本発明者らは、この状態において、震動面141a、142a、143a、144aによる超音波振動の作用により高度に微細化された微細ミスト131aが、ローラコンベア114の上に載置されたパッケージPの周囲に集中して作用することを見出した(図11参照)。この理由については定かではないが、各震動盤から発生する音響波がパッケージPに到達した時に一部しか反射せず、主にパッケージPの表面に吸収又は散乱することにより、音響放射圧の押圧作用がパッケージPの方向に集中するためと考えられる。
【0084】
このとき、微細ミスト131aは、超音波振動の作用で微細化され粒径が小さく表面積が大きくなることから、ミストの蒸発効率が高く蒸発と凝縮とを繰り返しているものと考えられる。また、微細ミスト131aは、高度に微細化されたミストでありパッケージPの外表面に集中すると共に、均一且つ薄層の凝縮膜をパッケージPの外表面に形成する。従って、除染領域112の内壁面やローラコンベア114の各ロールに無駄な凝縮を起こすことがない。
【0085】
このように、過酸化水素の微細ミスト131aは、超音波振動の作用を常に受けながら蒸発と凝縮と微細化を繰り返しながら搬送されているパッケージPの周囲に集中する。また、パッケージPの外表面においても、超音波振動の作用を常に受け均一且つ薄層の凝縮膜の再蒸発と凝縮とが繰り返される。これらのことにより、パッケージPの周囲には過酸化水素の3μm以下の超微細粒子と過酸化水素ガスとが相変化しながら共存して高度な除染環境を発現するものと考えられる。
【0086】
また、パッケージPの外表面に均一且つ薄層で形成された凝縮膜が再蒸発と凝縮とを繰り返すことにより、除染ミスト中の除染剤濃度を上げることが可能で、少量の除染剤で効率の良い除染を可能にする。また、少量の除染剤で効率よく除染できるので、除染後のエアレーションの効率も向上し除染操作の短時間化が可能となる。
【0087】
よって、上記各実施形態によれば、高額の電子加速器を使用することなく、近年広く使用されている過酸化水素などの除染剤を採用し、短時間処理が可能で各部位の除染レベルが均等となり、除染対象物品の大量処理が可能な連続除染装置を提供することができる。
【0088】
なお、本発明の実施にあたり、上記各実施形態に限らず、次のような種々の変形例が挙げられる。
(1)上記第1実施形態においては、1台の二流体スプレーノズルに対して6台の震動盤を組み合わせた。また、上記第2実施形態においては、1台の二流体スプレーノズルに対して4台の震動盤を組み合わせた。しかし、これらに限るものではなく、パッケージの左右或いはその他の部位に配置した2台から6台、又はそれ以上の震動盤を組み合わせて連続除染するようにしてもよい。
(2)上記各実施形態においては、パッケージの上部には震動盤を配置しなかった。しかし、これに限るものではなく、除染領域の上壁面に震動盤を配置してパッケージの上面に音響波による超音波振動を与えるようにしてもよい。
(3)上記第1実施形態においては、二流体スプレーノズルが過酸化水素水ミストを放出する位置に2台の震動盤(45、46)を配置して超音波波振動を作用させた。その後、微細化したミストをパッケージに向けて放出した。しかし、これに限るものではなく、過酸化水素水ミストの放出位置に震動盤を配置することなくミストの誘導版などでパッケージの方向にミストを誘導するようにしてもよい。
(4)上記第1実施形態においては、2台の震動盤(43、44)の震動面を垂直方向に除染領域12の上部に向けて配置して超音波波振動を作用させた。しかし、これに限るものではなく、垂直方向に向けた震動盤を配置することなく過酸化水素水ミストを制御するようにしてもよい。
(5)上記第1実施形態においては、エアレーション領域に震動盤を配置していない。また、上記第2実施形態においては、エアレーション領域に震動盤を配置した。しかし、これらの組合せに限るものではなく、エアレーション領域への震動盤の配置は、エアレーション領域の装置長など必要により任意に選択すればよい。
(6)上記実施形態においては、除染領域に4台の二流体スプレーノズルとそれぞれに対応する震動盤を配置した。しかし、これに限るものではなく、除染操作のスピードに合わせて5台以上或いは3台以下の二流体スプレーノズルとそれぞれに対応する震動盤を配置するようにしてもよい。
(7)上記実施形態においては、ミスト供給装置として二流体スプレーノズルを使用した。しかし、これに限るものではなく、超音波加湿器(ネブライザー)や一流体スプレーノズルなどを使用するようにしてもよい。また、複数種類のミスト供給装置を組み合わせて使用するようにしてもよい。
(8)上記実施形態においては、ミスト制御装置の震動盤としてスピーカー基盤に複数の超音波スピーカーを配置したものを使用した。しかし、これに限るものではなく、震動盤として一定面積を有するステンレス板にランジュバン型震動子を固定した震動盤やその他の超音波振動する盤面を有するものであればどのような震動盤を使用するようにしてもよい。
(9)上記実施形態においては、ミスト循環分散装置の震動盤としてスピーカー基盤に複数の超音波スピーカーを配置したものを使用し、超音波スピーカーの送波方向を統一して配置すると共にこれらの超音波スピーカーを同位相で作動させるようにした。しかし、これに限るものではなく、複数の超音波スピーカーを異なる位相で作動させるようにしてもよい。
(10)上記実施形態においては、除染剤として過酸化水素水(H水溶液)を使用した。しかし、これに限るものではなく、除染剤として使用される液体状の除染剤であればどのようなものを使用するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0089】
10、110…連続除染装置、10a、110a…装置本体、
11…導入領域、12、112…除染領域、13…エアレーション領域、
14,114…ローラコンベア、
14a…メッシュコンベア、14b…タイミングベルト、
15、16…搬入口、17、18…搬出口、
20…アイソレーター、21…側壁、
30、130…ミスト供給装置(二流体スプレーノズル)、
40、140…ミスト制御装置、
31、131…過酸化水素水ミスト、31a、131a…微細ミスト、
41、42、43、44、45、46、141、142、143、144…震動盤、
41a、42a、43a、44a、45a、46a…震動面、
51…スピーカー基盤、52…スピーカー基盤の平面、
53…超音波スピーカー、54…超音波スピーカーの震動面、
P…パッケージ、P1…タブ、P2…上面シール、P3…側面肩部、
EI-1~EI-5…酵素インジケーター(Enzyme Indicator)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11