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特許7201253劣化状態判定装置および劣化状態判定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】劣化状態判定装置および劣化状態判定方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/00 20060101AFI20221227BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20221227BHJP
   H01M 10/42 20060101ALI20221227BHJP
   G01R 31/367 20190101ALI20221227BHJP
   G01R 31/389 20190101ALI20221227BHJP
   G01R 31/392 20190101ALI20221227BHJP
【FI】
H02J7/00 Q
H01M10/48 P
H01M10/42 P
H02J7/00 A
G01R31/367
G01R31/389
G01R31/392
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020125817
(22)【出願日】2020-07-22
(62)【分割の表示】P 2019569847の分割
【原出願日】2018-10-12
(65)【公開番号】P2020191779
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2021-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2018061133
(32)【優先日】2018-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】595098011
【氏名又は名称】東洋システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宗像 一郎
(72)【発明者】
【氏名】庄司 秀樹
【審査官】佐藤 卓馬
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-037230(JP,A)
【文献】特開2007-057379(JP,A)
【文献】特開2009-071986(JP,A)
【文献】特開2017-227535(JP,A)
【文献】国際公開第2014/185163(WO,A1)
【文献】特開2010-060384(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00
H01M 10/48
H01M 10/42
G01R 31/367
G01R 31/389
G01R 31/392
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池の一の特性を表わす第1特性パラメーターとしての前記二次電池の電流(I)の測定値(I(k))に基づき、指定アルゴリズムにしたがって第1基礎指標値(f(I(k)))を取得し、判定対象時点(k)を含む判定対象期間にわたる前記第1基礎指標値(f)の値の累積値(Σkf(I(k)))または積分値を前記二次電池の今回状態を表わす第1指標値(F1)として取得する機能と、
前記二次電池の電流(I)および前記二次電池の他の特性を表わす第2特性パラメーターとしての前記二次電池の温度(T)のそれぞれの前記判定対象時点(k)における測定値としての今回測定値(I(k),T(k))に基づき、前記二次電池と同一規格の参照二次電池の初期特性を表わす初期特性モデルにしたがって、前記初期特性モデルの出力として電流(I)の前記判定対象時点(k)よりも過去の初期時点(0)における値を前記第1特性パラメーター(I)の初期特性推定値(I(0←k))として取得し、 前記第1特性パラメーター(I)の初期特性推定値(I(0←k))に基づき、前記指定アルゴリズムにしたがって第2基礎指標値(f(I(0←k)))を計算し、前記第2基礎指標値(f(I(0←k)))の前記判定対象期間にわたる累積値(Σkf(I(0←k)))または積分値を前記二次電池の初期状態を表わす第2指標値(F2)として取得する機能と、
前記第1指標値(F1)および前記第2指標値(F2)の偏差が大きいほど、前記二次電池の初期状態を基準とした劣化度が高くなるように当該劣化度(D)を導出する機能と、を備えていることを特徴とする劣化状態判定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の劣化状態判定装置において、
前記劣化度(D)に応じた劣化診断情報Inf(D(i))を生成する機能と、
対象機器を構成する入力インターフェースに前記劣化診断情報Inf(D(i))を送信または入力することにより、前記対象機器を構成する出力インターフェースに前記劣化度(D)に関する情報を出力させる機能と、をさらに備えていることを特徴とする劣化状態判定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の劣化状態判定装置において、
前記二次電池が搭載されている前記対象機器を構成する演算処理装置により特性パラメーターセンサーの出力信号に基づいて測定された前記第1特性パラメーターおよび前記第2特性パラメーターの測定値を前記出力インターフェースから受信するまたは受け付ける機能をさらに備えていることを特徴とする劣化状態判定装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載の劣化状態判定装置と、前記対象機器と、により構成されている劣化状態判定システム。
【請求項5】
前記二次電池が搭載されている対象機器に対して劣化判定用ソフトウェアを送信することにより、前記対象機器を構成する演算処理装置に対して請求項1~3のうちいずれか1項に記載の劣化状態判定装置としての機能を付与することを特徴とするソフトウェアサーバー。
【請求項6】
二次電池の一の特性を表わす第1特性パラメーターとしての前記二次電池の電流(I)の測定値(I(k))に基づき、指定アルゴリズムにしたがって第1基礎指標値(f(I(k)))を取得し、判定対象時点(k)を含む判定対象期間にわたる前記第1基礎指標値(f)の値の累積値(Σkf(I(k)))または積分値を前記二次電池の今回状態を表わす第1指標値(F1)として取得する工程と、
前記二次電池の電流(I)および前記二次電池の他の特性を表わす第2特性パラメーターとしての前記二次電池の温度(T)のそれぞれの前記判定対象時点(k)における測定値としての今回測定値(I(k),T(k))に基づき、前記二次電池と同一規格の参照二次電池の初期特性を表わす初期特性モデルにしたがって、前記初期特性モデルの出力として電流(I)の前記判定対象時点(k)よりも過去の初期時点(0)における値を前記第1特性パラメーター(I)の初期特性推定値(I(0←k))として取得し、 前記第1特性パラメーター(I)の初期特性推定値(I(0←k))に基づき、前記指定アルゴリズムにしたがって第2基礎指標値(f(I(0←k)))を計算し、前記第2基礎指標値(f(I(0←k)))の前記判定対象期間にわたる累積値(Σkf(I(0←k)))または積分値を前記二次電池の初期状態を表わす第2指標値(F2)として取得する工程と、
前記第1指標値(F1)および前記第2指標値(F2)の偏差が大きいほど、前記二次電池の初期状態を基準とした劣化度が高くなるように当該劣化度(D)を導出する工程と、を含んでいることを特徴とする劣化状態判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオンバッテリー等の二次電池の劣化状態を判定するシステム等に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池の電流値、電圧値および周囲温度の今回測定結果に基づき、二次電池の電気的等価回路モデルにおけるモデルパラメーターの値を推定することにより、当該二次電池の劣化を診断する技術的手法が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-016991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、当該先行技術によれば、モデルパラメーターの推定値の時系列的な変化量に基づき、二次電池の劣化が診断されるため、二次電池が初期状態からどの程度劣化しているかを判定するためには、当該二次電池それ自体の初期電流値等の測定が前提とされている。よって、対象となる二次電池それ自体の電流値等の初期測定結果が存在しない場合、当該二次電池の劣化状態の判定が困難になる。
【0005】
そこで、本発明は、対象となる二次電池それ自体の特性パラメーターの初期測定結果が存在しない場合でも、当該二次電池の劣化状態を判定しうる装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る劣化状態判定装置は、
二次電池の一の特性を表わす第1特性パラメーターとしての前記二次電池の電流(I)の測定値(I(k))に基づき、指定アルゴリズムにしたがって第1基礎指標値(f(I(k)))を取得し、判定対象時点(k)を含む判定対象期間にわたる前記第1基礎指標値(f)の値の累積値(Σ k f(I(k)))または積分値を前記二次電池の今回状態を表わす第1指標値(F 1 )として取得する機能と、
前記二次電池の電流(I)および前記二次電池の他の特性を表わす第2特性パラメーターとしての前記二次電池の温度(T)のそれぞれの前記判定対象時点(k)における測定値としての今回測定値(I(k),T(k))に基づき、前記二次電池と同一規格の参照二次電池の初期特性を表わす初期特性モデルにしたがって、前記初期特性モデルの出力として電流(I)の前記判定対象時点(k)よりも過去の初期時点(0)における値を前記第1特性パラメーター(I)の初期特性推定値(I(0←k))として取得し、 前記第1特性パラメーター(I)の初期特性推定値(I(0←k))に基づき、前記指定アルゴリズムにしたがって第2基礎指標値(f(I(0←k)))を計算し、前記第2基礎指標値(f(I(0←k)))の前記判定対象期間にわたる累積値(Σ k f(I(0←k)))または積分値を前記二次電池の初期状態を表わす第2指標値(F 2 )として取得する機能と、
前記第1指標値(F 1 )および前記第2指標値(F 2 )の偏差が大きいほど、前記二次電池の初期状態を基準とした劣化度が高くなるように当該劣化度(D)を導出する機能と、を備えている
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る劣化状態判定装置によれば、対象の第1特性パラメーターおよび第2特性パラメーターのそれぞれの「今回測定値(判定対象時点における測定値)」に基づき、当該対象の特性を表わす初期特性モデルにしたがって第1特性パラメーターの「初期特性推定値(初期状態としての推定値)」が計算される。さらに、第1特性パラメーターの測定値の今回時系列(判定対象時点を含む判定対象期間における測定値の時系列)に基づいて「第1指標値」が計算され、第1特性パラメーターの初期特性推定値の今回時系列(判定対象時点を含む判定対象期間における初期特性推定値の時系列)に基づいて「第2指標値」が計算される。そして、「第1指標値」および「第2指標値」に基づき、対象の劣化状態が判定される。
【0008】
このため、劣化状態の判定対象そのものの特性パラメーターの初期または過去の測定結果が存在しない場合でも、当該対象の劣化状態が判定されうる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態としての劣化状態判定装置の構成に関する説明図。
図2】劣化状態判定装置の機能を表わすブロックダイヤグラム。
図3】バッテリーの電気的等価回路モデルの一例に関する説明図。
図4】本発明の一実施形態としての劣化状態判定方法に関する説明図。
図5】第1指標値および第2指標値の計算のための積分区間に関する説明図。
図6】劣化診断情報の出力例に関する説明図。
図7】本発明に係る劣化状態判定方法のタイムチャート。
図8】従来技術に係る劣化状態判定方法のタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(劣化状態判定装置の構成)
図1に示されている本発明の一実施形態としての劣化状態判定装置は、対象機器200とネットワークを介して通信可能な一または複数のサーバーにより構成されている。劣化状態判定装置100は、対象機器200に電源として搭載されている二次電池220の劣化状態を判定する。
【0011】
劣化状態判定装置100は、入力要素102と、出力要素104と、第1演算処理要素110と、第2演算処理要素120と、第3演算処理要素130と、を備えている。
【0012】
入力要素102は、二次電池220が搭載されている対象機器200から、特性パラメーターの測定値を受信する。出力要素104は、二次電池220の劣化状態の判定結果またはこれに応じて生成された劣化診断情報を対象機器220に対して送信する。
【0013】
第1演算処理要素110、第2演算処理要素120および第3演算処理要素130のそれぞれは、プロセッサー(演算処理装置)、メモリー(記憶装置)およびI/O回路等により構成されている。当該メモリーまたはこれとは別個の記憶装置には、二次電池220の特性を表わす特性パラメーターなどの様々なデータのほか、プログラム(ソフトウェア)が記憶保持されている。二次電池220またはこれが搭載されている対象機器200の種類を識別するための複数の識別子のそれぞれと、複数のモデルのそれぞれとが対応付けられてメモリーに記憶保持されている。プロセッサーがメモリーから必要なプログラムおよびデータを読み取り、当該データに基づき、当該プログラムにしたがった演算処理を実行することにより、各演算処理要素110、120、130に割り当てられたタスクが実行される。
【0014】
第1演算処理要素110は、二次電池220の特性を表わす複数の特性パラメーターp=(p1,‥pn)のそれぞれの今回測定値p(k)を初期特性モデルに入力することにより、複数の特性パラメーターpのうち第1特性パラメーターp1の初期特性推定値p1(0←k)を初期特性モデルの出力として計算する。「初期特性モデル」は、規格または種類の別に応じた二次電池の初期特性を表わす。初期特性モデルは、関数Gにより関係式(110)にしたがって表わされる。
【0015】
1(0←k)=G(p(k)) ‥(110)。
【0016】
関数Gは、複数の特性パラメーターpの今回測定値p(k)に応じた第1初期特性パラメーターq1(p(k))の従変数としての第2初期特性パラメーターq2(q1(p(k)))と、第1特性パラメーターp1とは別の第2特性パラメーターp2の今回測定値p2(k)と、を主変数とする多変数関数G1として関係式(111)により定義されていてもよい。
【0017】
G=G1(q2(q1(p(k))),p2(k)) ‥(111)。
【0018】
関数Gは、第2初期特性パラメーターq2(q1(p(k)))と、第2特性パラメーターp2の今回測定値p2(k)と、に加えて、第2特性パラメーターp2の測定値p2(j)が0になった時点t=jにおける第1特性パラメーターp1の測定値p1(j)を主変数とする多変数関数G2として関係式(112)により定義されていてもよい。
【0019】
G=G2(q2(q1(p(k))),p1(j),p2(k)) ‥(112)。
【0020】
第2演算処理要素120は、二次電池220の複数の特性パラメーターpの測定値p(k)の時系列P(i)={p(i)|i=k,k+1,‥}に基づき、多変数関数f(p)にしたがって算出される値f(p(k))=f(p1(k),p2(k),‥)の累積値または時間積分値を第1指標値F1として計算する(関係式(121)参照)。
【0021】
1=Σkf(p(k)) ‥(121)。
【0022】
第2演算処理要素120は、第1特性パラメーターp1の初期特性推定値p1(0←k)およびその他の特性パラメーターpu(u=2,3‥)の測定値pu(k)に基づき、同一の多変数関数f(p)にしたがって算出される値f(p1(0←k),p2(k),‥)の累積値または時間積分値を第2指標値F2として計算する(関係式(122)参照)。
【0023】
2=Σkf(V(0←k),I(k),T(k)) ‥(122)。
【0024】
第3演算処理要素130は、第1指標値F1(i)および第2指標値F2(i)に基づき、関係式(130)にしたがって二次電池220の劣化度D(i)を計算する。
【0025】
D(i)={F2(i)-F1(i)}/F2(i) ‥(130)。
【0026】
対象機器200は、入力インターフェース202と、出力インターフェース204と、制御装置210と、二次電池220と、センサー群222と、を備えている。対象機器200は、パソコン、携帯電話(スマートフォン)、家電製品または電動自転車等の移動体など、二次電池220を電源とするあらゆる機器を含んでいる。
【0027】
制御装置210は、プロセッサー(演算処理装置)、メモリー(記憶装置)およびI/O回路等により構成されている。当該メモリーまたはこれとは別個の記憶装置には、特性パラメーターの測定値の時系列などの様々なデータが記憶保持される。制御装置210は、二次電池220から供給電力に応じて作動し、通電状態において対象機器200の動作を制御する。対象機器200の動作には、当該対象機器200を構成するアクチュエータ(電動式アクチュエータなど)の動作が含まれる。制御装置210を構成するプロセッサーがメモリーから必要なプログラムおよびデータを読み取り、当該データに基づき、当該プログラムにしたがった演算処理を実行することにより、割り当てられたタスクを実行する。
【0028】
二次電池220は、例えばリチウムイオンバッテリーであり、ニッケル・カドミウム電池等のその他の二次電池であってもよい。センサー群222は、二次電池220の特性パラメーターのほか、対象機器200の制御に必要なパラメーターの値を測定する。センサー群222は、例えば二次電池220の電圧、電流および温度のそれぞれに応じた信号を出力する電圧センサー、電流センサーおよび温度センサーにより構成されている。
【0029】
劣化状態判定装置100は対象機器200に搭載されていてもよい。この場合、ソフトウェアサーバー(図示略)が、対象機器200が備えている制御装置210を構成する演算処理装置に対して劣化判定用ソフトウェアを送信することにより、当該演算処理装置に対して劣化状態判定装置100としての機能を付与してもよい。
【0030】
(各演算処理要素の構成)
図2には、各演算処理要素110、120、130の機能を表わすブロックダイヤグラムが示されている。
【0031】
第1演算処理要素110は、第1初期特性モデルパラメーター記憶部112、第2初期特性モデルパラメーター初期特性推定値計算部114、および第1特性パラメーター初期特性推定値計算部116としての機能を備えている。第2演算処理要素120は、第1指標値計算部121および第2指標値計算部122としての機能を備えている。第3演算処理要素130は、劣化度計算部としての機能を備えている。
【0032】
第1初期特性モデルパラメーター記憶部112は、参照二次電池と同一規格または同一種類の任意の二次電池の初期特性を表わす第1初期特性モデルパラメーターq1(p)を記憶保持する。第1初期特性モデルパラメーターq1(p)は、二次電池の規格または種類を識別するための複数の識別子IDおよび複数の特性パラメーターpのさまざまな測定値pに対応する複数の値を有する。
【0033】
本実施形態では、二次電池220の端子間電圧V、電流Iおよび温度Tが、特性パラメーターp=(p1,p2,p3)として測定される。特性パラメーターp=(p1,p2,p3)は、(V,T,I)、(I,V,T)、(I,T,V)、(T,I,V)または(T,V,I)であってもよい。特性パラメーターpは2つ(p1,p2)であってもよく、4つ以上(p1,‥pN)(4≦N)であってもよい。
【0034】
例えば、図3に示されている電気的等価回路モデルに、第1初期特性モデルパラメーターq1が適用されることにより初期特性モデルが定義される。この電気的等価回路は、起電力V0の内部電源および抵抗値rの内部抵抗により構成されている。二次電池220の電気的等価回路モデルの電気特性は、二次電池220の端子間電圧V、電流I、内部電源の起電力V0および内部抵抗の抵抗値rに基づき、関係式(210)にしたがって定義される。
【0035】
V=V0-I・r ‥(210)。
【0036】
規格が相違する複数の参照二次電池の電圧V(第1特性パラメーターp1)、電流I(第2特性パラメーターp2)および温度T(第3特性パラメーターp3)と、初期状態における当該二次電池の内部抵抗の抵抗値rとの関係は、基準電圧Va、基準電流Iaおよび基準温度Taに基づき、関係式(212)により近似的に表わされる。
【0037】
r(V,I,T)=r(Va,Ia,Ta)+(∂r/∂V)(V-Va
+(∂r/∂I)(I-Ia
+(∂r/∂T)(T-T0) ‥(212)。
【0038】
基準電流Ia=0である場合、基準電圧Vaは内部電源の起電力V0に相当するので、関係式(212)は関係式(214)により表わされる。
【0039】
r(V,I,T)=r(V0,0,Ta)+(∂r/∂V)(V-V0
+(∂r/∂I)I
+(∂r/∂T)(T-Ta) ‥(214)。
【0040】
初期状態における二次電池の電圧V、電流Iおよび温度Tが測定され、当該測定結果に基づき、さまざまなp=(V,I,T)の組み合わせごとに、偏微分係数(∂r/∂ps)(s=1,2,3)が算定される。このようにして任意のpに対して算定された偏微分係数(∂r/∂ps)が、第1初期特性モデルパラメーターq1(p)として第1初期特性モデルパラメーター記憶部112に記憶保持される。離散的な偏微分係数(∂r/∂ps)の算定結果に基づき、p=(V,I,T)に対する(∂r/∂ps)が連続関数により近似表現され、当該連続関数が第1初期特性モデルパラメーターq1(p)として第1初期特性モデルパラメーター記憶部112に記憶保持されてもよい。
【0041】
内部抵抗の過渡応答特性が勘案された形で電気的等価回路モデルが構築されていてもよい。例えば、図3右上部分に示されているように、内部抵抗が、抵抗(抵抗値Rs)および3つの複合抵抗(インピーダンスZ1、Z2、Z3)が直列接続されることにより構成されていてもよい。第1複合抵抗は、抵抗(抵抗値R0)およびインダクタ(インダクタンスL0)の並列回路により構成されている。第2複合抵抗は、抵抗(抵抗値R1)およびキャパシタ(キャパシタンスC1)の並列回路により構成されている。第2複合抵抗は、一対の抵抗(抵抗値R1)および抵抗(インピーダンスZW)の直列回路とキャパシタ(キャパシタンスC2)との並列回路により構成されている。内部抵抗の抵抗値rは、関係式(216)にしたがって定義される。
【0042】
r=Rs+Z1(L0,R0)+Z2(C1,R1)+Z3(C2,R2+ZW) ‥(216)。
【0043】
この場合、Rs、Z1、Z2およびZ3のそれぞれが、式(12)と同様の形で近似されることにより、任意のp_m=(V_m,I_m,T_m)に対して算定された偏微分係数(∂Z/∂pi)(Z=Rs、Z1、Z2、Z3)が、第1初期特性モデルパラメーターq1(V,I,T)として第1初期特性モデルパラメーター記憶部112に記憶保持されてもよい。
【0044】
第2初期特性モデルパラメーター初期特性推定値計算部114は、二次電池220の識別子IDに加えて複数の特性パラメーターV,IおよびTのそれぞれの今回測定値(V(k),I(k),T(k))に対応する第1初期特性モデルパラメーターq1を第1初期特性モデルパラメーター記憶部112から読み取る。第2初期特性モデルパラメーター初期特性推定値計算部114は、二次電池220の複数の特性パラメーターの今回測定値p(k)=(V(k),I(k),T(k))と、当該今回測定値p(k)に応じた第1初期特性モデルパラメーターq1(p(k))と、に基づき、関係式(218)にしたがって、内部抵抗の抵抗値rを第2初期特性モデルパラメーターq2の今回初期特性推定値q2(0←k)として計算する。
【0045】
r(0←k)=r(V0,0,T0)+(∂r/∂V)(V(k)-V0
+(∂r/∂I)I(k)
+(∂r/∂T)(T(k)-T0) ‥(218)。
【0046】
第1特性パラメーター初期特性推定値計算部116は、二次電池220の電流測定値I(t)が0であった最後の時点t=jにおける電圧Vの測定値V(j)である基準測定値V0(j)と、電圧Vの今回測定値V(k)と、内部抵抗の今回初期特性推定値r(0←k)と、に基づき、関係式(220)にしたがって電圧Vの今回初期特性推定値V(0←k)を計算する(関係式(112)参照)。
【0047】
V(0←k)=V0(j)-I(k)・r(0←k) ‥(220)。
【0048】
二次電池220の電圧Vの測定値V(j)が、第1特性モデルパラメーター初期特性推定値計算部116を構成する記憶部に記憶保持される。その後、二次電池220の電流測定値I(t)が0になった場合、その時点における二次電池220の電圧Vの測定値V(j)が、初期特性モデルにおける内部電源の今回起電力V0(k)として当該記憶部に上書き保存される。
【0049】
第1演算処理要素110は、二次電池220の特性を表わす複数の特性パラメーターp=(p1,‥pN)のそれぞれの今回測定値p(k)=(p1(k),‥pN(k))を、初期特性モデルを表わす関数Gに入力することにより、当該初期特性モデルの出力G(p(k))として複数の特性パラメーターpのうち第1特性パラメーターp1の今回初期特性推定値p1(0←k)を計算する。当該関数Gは、例えば、関係式(14)の右辺第2項に関係式(122)を代入することにより得られる関数である。
【0050】
第1指標値計算部121は、二次電池220の特性パラメーターpの測定値p(k)=(V(k),I(k),T(k))に基づき、多変数関数f(p)にしたがって算出される値f(V(k),I(k),T(k))の累積値または時間積分値を第1指標値F1として計算する(関係式(121)参照)。第2指標値計算部122は、電圧Vの初期特性推定値V(0←k)ならびに電流Iの測定値I(k)および温度Tの測定値T(k)に基づき、同一の多変数関数f(V,I,T)にしたがって算出される値f(V(0←k),I(k),T(k))の累積値または時間積分値を第2指標値F2として計算する(関係式(122)参照)。
【0051】
図5には、初期状態における二次電池220の電圧V(第1特性パラメーターp1(t))の時間変化態様が実線で示され、劣化状態における二次電池220の電圧Vの時間変化態様が破線で示されている。図5に示されているように任意の期間が累積区間または積分区間[t1,t2]として採用されてもよい。電流Iが0になった最後の時点からの経過期間が所定期間以内であるような区間が当該累積区間として採用されてもよい。
【0052】
当該関数fに代えて、少なくとも電圧V(第1特性パラメーターp1)を主変数とする関数f1(V)、f2(V,I)およびf3(V,T)のうち少なくとも1つにしたがって、関係式(121)(122)と同様に当該関数(従変数)の値が累積または積分されることにより第1指標値F1および第2指標値F2が計算されてもよい。
【0053】
第3演算処理要素130(劣化度計算部)は、第1指標値F1(i)および第2指標値F2(i)に基づき、関係式(130)にしたがって二次電池220の劣化度D(i)を計算する。
【0054】
(劣化状態判定方法)
前記構成の劣化状態判定装置により実行される対象の劣化状態判定方法について説明する。
【0055】
対象機器200において、通電状態の制御装置210により第1条件が満たされているか否かが判定される(図4/STEP202)。「第1条件」としては、対象機器200において、入力インターフェース202を通じて二次電池220の劣化状態判定の要請があったこと、所定のアプリケーションソフトウェアが対象機器200において起動されたこと、二次電池220の特性パラメーターの測定値が第1の変化態様を示したことなどの条件が採用される。
【0056】
第1条件が満たされていないと判定された場合(図4/STEP202‥NO)、第1条件の充足性判定処理が再び実行される(図4/STEP202)。第1条件の充足性判定処理(図4/STEP202)は省略されてもよい。
【0057】
第1条件が満たされていると判定された場合(図4/STEP202‥YES)、センサー群222の出力信号に基づき、二次電池220の特性を表わす複数の特性パラメーターpの測定値p(k)=(V(k),I(k),T(k))が取得される(図4/STEP204)。「k」はサンプリング周期に応じた離散的な時刻を表わす指数である。二次電池220の電圧Vが第1特性パラメーターp1として測定される。二次電池220の電流I(充電電流および放電電流を含む。)が第2特性パラメーターp2として測定される。二次電池220の温度T(ハウジングの周囲温度または表面温度)が第3特性パラメーターp3として測定される。この測定の過程で、電流Iが0になった最後の時点t=jにおける電圧Vの測定値V(j)が、基準測定値V0(j)としてメモリーに記憶保持される。
【0058】
続いて、制御装置210により第2条件が満たされているか否かが判定される(図4/STEP206)。「第2条件」としては、最後に第1条件が満たされたと判定された第1時点から所定時間が経過した第2時点に至ったこと、特性パラメーターp(k)の測定結果を表わすデータの第1時点からの累計値が閾値に達したこと、センサー群222により測定される二次電池220の特性パラメーターの測定値が第2の変化態様を示したことなどの条件が採用される。
【0059】
第2条件が満たされていないと判定された場合(図4/STEP206‥NO)、指数kが「1」だけ増やされ(図4/STEP208)、そのうえで各特性パラメーターps(s=1,2,3)の測定値ps(k)が取得される(図4/STEP204)。この際、特性パラメーターpsの測定値ps(k)の今回時系列Ps(i)={ps(i)|i=k,k+1,‥}が累積的にメモリーに記憶保持される。
【0060】
第2条件が満たされていると判定された場合(図4/STEP206‥YES)、特性パラメーターpsの測定値ps(k)の今回時系列PS(i)が、出力インターフェース102を構成する送信装置により対象機器200から劣化状態判定装置100に対して送信される(図4/STEP210)。この際、二次電池220の規格または種類を識別するための識別子ID、および、電圧Vの基準測定値V0(j)も対象機器200から劣化状態判定装置100に対して送信される。当該送信に応じて指数iが「1」だけ増やされ(図4/STEP212)、その上で第1条件の充足性判定以降の処理が再び実行される(図4/STEP202→STEP204→‥STEP210参照)。
【0061】
第2条件の充足性判定処理(図4/STEP206)が省略され、特性パラメーターpsの今回測定値ps(k)が、識別子IDおよび電圧Vの基準測定値V0(j)とともに、対象機器200から劣化状態判定装置100に対して逐次的に送信されてもよい。
【0062】
劣化状態判定装置100において、入力要素201が、特性パラメーターps(k)の測定値の今回時系列Ps(i)、識別子IDおよび電圧Vの基準測定値V(j)を受信する(図4/STEP102)。
【0063】
第1演算処理要素110(第2初期特性モデルパラメーター計算部114)が、識別子IDおよび特性パラメーターpの測定値p(k)に対応する第1初期特性モデルパラメーターq1(p(k))をメモリー(図2/第1初期特性モデルパラメーター記憶部112)から読み取る(図4/STEP104)。第1初期特性モデルパラメーターq1は、前記関係式(12)における偏微分係数(∂r/∂ps)である。
【0064】
第1演算処理要素110(第2初期特性モデルパラメーター計算部114)が、二次電池220の特性パラメーターpの今回測定値p(k)と、第1初期特性モデルパラメーターq1(p(k))と、に基づき、関係式(122)にしたがって、初期状態モデルにおける二次電池の内部抵抗の抵抗値rの今回初期特性推定値r(0←k)を第2初期特性モデルパラメーターq2(0←k)として計算する(図4/STEP106)。
【0065】
第1演算処理要素110(第1特性パラメーター初期特性推定値計算部116)が、電圧Vの基準測定値V0(j)、電流Iの今回測定値I(k)および初期モデルにおける内部抵抗の抵抗値rの今回初期特性推定値r(0←k)に基づき、関係式(220)にしたがって電圧Vの今回初期特性推定値V(0←k)を計算する(図4/STEP108)。
【0066】
第2演算処理要素120(第1指標値計算部121)が、少なくとも第1特性パラメーターp1としての電圧Vの測定値V(k)の今回時系列V(i)に基づき、例えば関係式(121)にしたがって第1指標値F1(i)を計算する(図4/STEP110)。第2演算処理要素120(第2指標値計算部122)が、少なくとも第1特性パラメーターp1としての電圧Vの測定値V(k)の今回時系列V(i)に基づき、例えば関係式(122)にしたがって第2指標値F2(i)を計算する(図4/STEP110)。
【0067】
第3演算処理要素130(劣化度計算部)が、第1指標値F1(i)および第2指標値F2(i)に基づき、例えば関係式(130)にしたがって二次電池220の劣化度D(i)を計算する(図4/STEP112)。
【0068】
第3演算処理要素130が、二次電池220の劣化度D(i)に応じた劣化診断情報Inf(D(i))を生成する(図4/STEP114)。出力要素102を構成する送信装置により診断情報Inf(D(i))が劣化状態判定装置100から対象機器200に対して送信される(図4/STEP116)。
【0069】
対象機器200において、入力インターフェース201を構成する受信装置が劣化診断情報Inf(D(i))を受信する(図4/STEP222)。出力インターフェース202を構成するディスプレイ装置に、劣化診断情報Inf(D(i))が出力表示される(図4/STEP224)。これにより、例えば図6に示されているように、二次電池220の劣化度D(i)を示すグラフ表示のほか、「バッテリーの劣化度は30%です。あと150日で交換することをおススメします。」といった劣化度D(i)に応じた対処方法などに関するメッセージがディスプレイ装置に表示される。
【0070】
(効果)
本発明の劣化状態判定装置および劣化状態判定方法によれば、劣化状態の判定対象そのものである二次電池220の初期時点・初期期間における特性パラメーターpの測定を省略し、図5および図7に示されているように任意の始点および終点を有する今回期間t=t1~t2における特性パラメーターpの測定結果に基づいて二次電池220の劣化状態が判定される。このため、二次電池220の劣化状態判定に要する期間の短縮を図ることができる。
【0071】
これに対して、前記先行技術によれば、二次電池220の劣化状態を判定するためには、図8に示されているように一定期間t=tx1~tx2における二次電池220の特性パラメーターp=(V,I,T)の測定値の今回時系列のみならず、今回以前(例えば初期状態)の一定期間t=t01~t02における二次電池220の特性パラメーターp=(V,I,T)の測定値の過去時系列を用いることが必要になる。
【符号の説明】
【0072】
100‥劣化状態判定装置、102‥入力要素、104‥出力要素、110‥第1演算処理要素、112‥第1初期特性モデルパラメーター記憶部、114‥第2初期特性モデルパラメーター初期特性推定値計算部、116‥第1特性パラメーター初期特性推定値計算部、120‥第2演算処理要素、121‥第1指標値計算部、122‥第2指標値計算部、130‥第3演算処理要素(劣化度計算部)、200‥対象機器、202‥入力インターフェース、204‥出力インターフェース、210‥制御装置、220‥二次電池、222‥センサー群。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8