(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】真空ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04C 25/02 20060101AFI20221227BHJP
F04C 18/18 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
F04C25/02 K
F04C18/18 B
(21)【出願番号】P 2021520514
(86)(22)【出願日】2019-05-17
(86)【国際出願番号】 JP2019019799
(87)【国際公開番号】W WO2020234947
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2021-10-08
(73)【特許権者】
【識別番号】591255689
【氏名又は名称】樫山工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090170
【氏名又は名称】横沢 志郎
(72)【発明者】
【氏名】乙田 朝史
(72)【発明者】
【氏名】茂木 幸太郎
(72)【発明者】
【氏名】油井 将希
(72)【発明者】
【氏名】岩下 航己
【審査官】松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-194187(JP,A)
【文献】特開2012-021450(JP,A)
【文献】国際公開第2012/126137(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第101033747(CN,A)
【文献】登録実用新案第3193869(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 25/02
F04C 18/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ室と、
前記ポンプ室内に、平行な回転中心線周りに回転可能に配置した一対のポンプロータと、
各ポンプロータにおける前記回転中心線の方向の両側のロータ端面と、
前記ポンプ室における前記回転中心線の方向の両側に位置し、前記ロータ端面のそれぞれに対峙しているポンプ室内側端面と
を備えており、
前記ロータ端面のそれぞれには、ロータ端面凸部およびロータ端面凹部が形成されており、
前記ロータ端面凸部として、前記ロータ端面の外周縁に沿って当該外周縁の全周に亘って、外周縁側凸部が形成されており、
前記ロータ端面凹部は、前記ロータ端面における前記外周縁側凸部に囲まれた部分に形成されており、
相互に対峙する前記ロータ端面と前記ポンプ室内側端面との間において、前記ロータ端面凸部は、第1隙間で、前記ポンプ室内側端面に対峙し、前記ロータ端面凹部は、前記第1隙間よりも広い第2隙間で前記ポンプ室内側端面に対峙して
おり、
前記ポンプロータの各ロータ端面および前記ポンプ室内側端面には、ロータ軸が貫通して延びる軸穴がそれぞれ開口しており、
前記ポンプ室は、前記ポンプロータの前記回転中心線に直交する方向の一方の側において吸気側に連通し、他方の側において排気側に連通しており、
前記ポンプ室内側端面には、凹部が形成されており、
前記凹部は、前記ポンプ室内側端面において、前記ポンプロータの前記回転中心線に対して前記排気側であって、前記軸穴から離れた位置に形成されており、
前記凹部は、前記第1隙間よりも広い第3隙間で、前記ロータ端面凸部に対峙する真空ポンプ。
【請求項2】
請求項1において、
前記ロータ端面凸部として、前記ロータ端面に開口している前記軸穴の全周を取り囲む状態に、内周縁側凸部が形成されており、
前記ロータ端面凹部は、前記外周縁側凸部と前記内周縁側凸部との間に形成されている真空ポンプ。
【請求項3】
請求項
1において、
前記ロータ端面凸部として、前記ロータ端面の長径位置において、当該ロータ端面の一方の外周縁端から他方の外周縁まで直線状に延びる直線状凸部が形成されており、
前記直線状凸部は、前記外周縁側凸部よりも前記ポンプ室内側端面の側に突出した端面部分である真空ポンプ。
【請求項4】
ポンプ室と、
前記ポンプ室内に、平行な回転中心線周りに回転可能に配置した一対のポンプロータと、
各ポンプロータにおける前記回転中心線の方向の両側のロータ端面と、
前記ポンプ室における前記回転中心線の方向の両側に位置し、前記ロータ端面のそれぞれに対峙しているポンプ室内側端面と
を備えており、
前記ロータ端面のそれぞれには、ロータ端面凸部およびロータ端面凹部が形成されており、
前記ロータ端面凸部として、前記ロータ端面の外周縁に沿って当該外周縁の全周に亘って、外周縁側凸部が形成されており、
前記ロータ端面凹部は、前記ロータ端面における前記外周縁側凸部に囲まれた部分に形成されており、
相互に対峙する前記ロータ端面と前記ポンプ室内側端面との間において、前記ロータ端面凸部は、第1隙間で、前記ポンプ室内側端面に対峙し、前記ロータ端面凹部は、前記第1隙間よりも広い第2隙間で前記ポンプ室内側端面に対峙しており、
前記ロータ端面凸部として、前記ロータ端面の長径位置において、当該ロータ端面の一方の外周縁端から他方の外周縁まで直線状に延びる直線状凸部が形成されており、
前記直線状凸部は、前記外周縁側凸部よりも前記ポンプ室内側端面の側に突出した端面部分である真空ポンプ。
【請求項5】
請求項1
ないし4のうちのいずれか一つの項において、
筒状のケーシング本体と、前記ケーシング本体の両端に取り付けたサイドプレートとを備えており、
前記ケーシング本体の内周面と、前記サイドプレートのそれぞれのプレート内側端面との間に、前記ポンプ室が形成されており、
前記サイドプレートのそれぞれの前記プレート内側端面によって、前記ポンプ室内側端面が規定されている真空ポンプ。
【請求項6】
請求項1
ないし4のうちのいずれか一つの項において、
前記ポンプ室として、少なくとも、吸気側の第1ポンプ室と排気側の第2ポンプ室を備えており、
前記第1ポンプ室および前記第2ポンプ室のそれぞれに、相互に対峙する前記ロータ端面および前記ポンプ室内側端面が備わっており、前記ロータ端面のそれぞれに、前記ロータ端面凸部および前記ロータ端面凹部が形成されている真空ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対のポンプロータがポンプ室内周壁に沿って微小なクリアランスを保ちながら反対方向に回転して流体の排出動作を行う真空ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
メカニカルブースタポンプ等の真空ポンプは、ポンプ作用部に封液を使用せず、一対のポンプロータが、ポンプ室内周壁に沿って微小な隙間を保ちながら、反対方向に無接触で回転して、一定量の気体を吸気側から排気側へ輸送して真空を得る構造となっている。この形式の真空ポンプは油蒸気による汚染の少ない真空排気が可能であり、エッチング、CVD等の半導体製造プロセスにおいて清浄な真空空間を作る目的で使用される。
【0003】
真空ポンプを使用して、半導体製造プロセス等において発生したガスを吸引排出する場合、真空ポンプ内に吸引したガスによって、微小隙間で対峙しているポンプ室内周壁表面およびロータ表面に、生成物の蓄積、固着が起きる。これらの表面に蓄積・固着した生成物が微小隙間に詰まることに起因して、ポンプロータの回転が止まる、ポンプロータの回転駆動力が上昇してポンプロータを回転駆動するモータが過大電流の状態となり、ポンプが停止する、等の弊害が引き起こされる。また、ポンプ停止後の再運転時に、蓄積・固着した生成物をロータが噛みこむ、又は摺動する事により、ポンプが再起動できないこともある。
【0004】
特許文献1には、生成物がポンプ室内部に堆積してもモータに過負荷を与えることなく、運転を継続できるようにした真空ポンプが提案されている。この真空ポンプでは、排気側のポンプロータの端部を円錐台形状として、ポンプロータの外周縁部分とポンプケーシングとの間の隙間を大きくしている。あるいは、ポンプケーシングにおける排気側の部分に、ポンプロータとの間の隙間を広げるための凹部を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の真空ポンプにおいては、生成物の蓄積・固着に起因する弊害を回避するために、ポンプ室の排気側における僅かな面積の部分に、広い隙間の部分を形成している。ポンプ室内部における生成物の蓄積・固着に起因する弊害を確実に回避するためには、ポンプ室内周壁表面とロータ表面との間の隙間を、一部ではなく、広い範囲に亘って広げる必要がある。しかし、広い範囲で隙間を増加すると、真空ポンプの排気性能が低下してしまう。したがって、必要とされる排気性能(気体シール性)を確保しつつ、生成物の蓄積・固着に起因する弊害を回避できることが望まれる。
【0007】
本発明の目的は、この点に鑑みて、排気性能に影響を及ぼすことなく、生成物の蓄積・固着に起因する弊害をより確実に防止できるようにした真空ポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の真空ポンプは、
ポンプ室と、
前記ポンプ室内に、平行な回転中心線周りに回転可能に配置した一対のポンプロータと、
各ポンプロータにおける前記回転中心線の方向の両側のロータ端面と、
前記ポンプ室における前記回転中心線の方向の両側に位置し、前記ロータ端面のそれぞれに対峙しているポンプ室内側端面と
を備えており、
前記ロータ端面のそれぞれには、ロータ端面凸部およびロータ端面凹部が形成されており、
前記ロータ端面凸部として、前記ロータ端面の外周縁に沿って当該外周縁の全周に亘って、外周縁側凸部が形成されており、
前記ロータ端面凹部は、前記ロータ端面における前記外周縁側凸部に囲まれた部分に形成されており、
対峙する前記ロータ端面と前記ポンプ室内側端面との間において、前記ロータ端面凸部は、第1隙間で、前記ポンプ室内側端面に対峙し、前記ロータ端面凹部は、前記第1隙間よりも広い第2隙間で前記ポンプ室内側端面に対峙している。
【0009】
本発明の真空ポンプにおいて、ポンプロータのロータ端面に形成した外周縁側凸部は、狭い第1隙間でポンプ室内側端面に対峙している。回転するポンプロータの外周縁の全周に亘って、狭い第1隙間の気体シール部が形成される。これにより、ポンプ排気性能が確保される。ポンプロータのロータ端面において、その外周縁側凸部によって取り囲まれているロータ端面凹部は、第1隙間よりも広い第2隙間で、ポンプ室内側端面に対峙する。第2隙間を十分に広くしておけば、このロータ端面凹部に溜まった生成物がポンプ室内周端面とポンプロータのロータ端面との間に挟み込まれ、ポンプロータの回転に支障を来すことがない。ポンプロータのロータ端面において、気体シール部として機能する外周縁側凸部は狭い幅で形成しておけばよく、その内側の広い面積のロータ端面部分を、広い第2隙間で、ポンプ室内側端面に対峙させることができる。
【0010】
本発明によれば、気体シール性を確保するために狭い第1隙間でポンプ室内側端面に対峙させる部分の面積を小さくでき、生成物の蓄積・堆積に起因する弊害を回避するために広い第2隙間でポンプ室内側端面に対峙させる部分の面積を大きくできる。よって、排気性能を維持しつつ、生成物の蓄積・固着に起因する弊害を確実に解消可能な真空ポンプが得られる。また、ポンプ室内側端面に対して狭い第1隙間を保った状態で回転するポンプロータのロータ端面の外周縁側凸部は、ポンプ室内側端面に蓄積・固着した生成物を掻き取る掻き取り部としても機能するので、ポンプ室内側端面に対する生成物の堆積を抑制あるいは防止できる。
【0011】
本発明において、生成物が多く堆積しやすい排気口側の部分に、より広い隙間の部分を形成することが望ましい。このために、本発明では、ポンプ室内側端面に凹部を形成する。凹部は、ポンプ室内側端面において、ポンプロータの回転中心線に対して排気側の位置に形成される。この凹部は、第1隙間よりも広い第3隙間で、ロータ端面凸部に対峙する。
【0012】
ポンプロータが回転すると、ロータ端面は、ポンプ室内側端面に沿って、そこに形成した凹部に対峙する状態を経由して移動する。ロータ端面の側のロータ端面凹部が、ポンプ室内側端面の凹部に対峙した状態では、ロータ端面と凹部との間に、第2隙間よりも広い隙間が形成される。このように排気側に大きな隙間の部分が形成されるので、生成物の堆積量が多い排気口側において、生成物がポンプ室内側端面とポンプロータのロータ端面との間に詰まることに起因する弊害を確実に回避できる。
【0013】
次に、本発明では、ロータ端面凸部として、ロータ端面の長径位置において、当該ロータ端面の一方の外周縁端から他方の外周縁まで直線状に延びる直線状凸部を形成する。直線状凸部は、外周縁側凸部よりもポンプ室内側端面の側に突出した端面部分である。
【0014】
ポンプロータが回転すると、ロータ端面の直線状凸部は、第1隙間よりも狭い隙間で、ポンプ室内側端面に対峙した状態で、当該ポンプ室内側端面に沿って移動する。ポンプ室内側端面に付着あるいは堆積する生成物を、回転するポンプロータの直線状凸部によって効率良く掻き取ることができる。これにより、ポンプ室内側端面に、第1隙間に対応する厚さの生成物が堆積することがない。この結果、第1隙間で対峙する第1ロータ端面部分とポンプ内側端面との間に生成物が詰まり、ポンプロータの回転が阻害されるなどの弊害を確実に除去できる。
【0015】
ポンプ室は、筒状のケーシング本体と、ケーシング本体の両端に取り付けたサイドプレートとによって構成することができる。この場合、ケース本体の内周面と、サイドプレートのそれぞれのプレート内側端面との間に、ポンプ室が形成される。サイドプレートのそれぞれのプレート内側端面によってポンプ室内側端面が規定される。
【0016】
本発明を多段真空ポンプに適用する場合には、ケーシング本体と各段のサイドプレートによって区切られるポンプ室内において生成物の蓄積・固着が生じる。したがって、各段のポンプロータのロータ端面に、ロータ端面凸部およびロータ端面凹部を形成すればよい。また、各段のポンプ室のポンプ室内側端面に内側端面凹部を形成すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】(a)は本発明を適用した2段真空ポンプをA-A線で切断した場合の概略断面図であり、(b)は2段真空ポンプをB-B線で切断した場合の概略断面図であり、(c)は2段真空ポンプのモータ側の概略端面図である。
【
図2】(a)、(b)および(c)は、
図1の2段真空ポンプの後段のポンプロータを示す端面図、断面図および反対側の端面図であり、(d)および(e)は、
図1の2段真空ポンプのモータ側サイドプレートを示す端面図および断面図である。
【
図3】(a)は
図1の2段真空ポンプの後段のポンプ室を示す概略部分断面図であり、(b)は後段のポンプ室を示す説明図である。
【
図4】(a)はポンプロータの別の例を示す端面図、(b)は(a)のb-b線で切断した場合の断面図、(c)は(a)とは反対側の端面図、(d)は(c)のd-d線で切断した場合の断面図、(e)はポンプロータの外周面を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、図面を参照して、本発明の実施の形態に係る真空ポンプを説明する。以下に述べる真空ポンプは2段真空ポンプであるが、本発明は単段の真空ポンプ、3段以上の多段真空ポンプにも同様に適用可能である。また、以下の例は、ポンプロータとして、マユ型ロータを用いた場合である。ポンプロータの形状は、マユ型に限定されるものではないことは勿論である。
【0019】
(全体構成)
図1は本実施の形態に係る2段真空ポンプを示し、(a)はポンプ中心軸線を含む水平面(
図1(c)のA-A線の位置)で切断した場合の概略断面図であり、
図1(b)は、ポンプ中心軸線を含む水平面(
図1(c)のB-B線の位置)で切断した場合の概略断面図であり、
図1(c)はモータ側の端面図である。
【0020】
2段真空ポンプ1(以下、単に、真空ポンプ1と呼ぶ。)は、前段のポンプ室2aおよび後段のポンプ室2b、モータ3、並びにギヤ室4を備えている。ポンプ室2a、2bを挟み、後段のポンプ室2bの側にモータ3が配置され、前段のポンプ室2aの側にギヤ室4が配置されている。ポンプ室2a、2bは、筒状のケーシング本体6と、その一方の端を封鎖しているモータ側サイドプレート7と、ケーシング本体6の他方の端を封鎖しているギヤ室側サイドプレート8から構成されている。
【0021】
ケーシング本体6の内部は、仕切りプレート9によって、ポンプ中心軸線1aの方向に仕切られている。ケーシング本体6の内周面部分6aと、ギヤ室側サイドプレート8の端面であるポンプ室内側端面8aと、仕切りプレート9の一方の端面であるポンプ室内側端面9aとの間に、容積の大きな前段の真空側のポンプ室2aが形成されている。また、ケーシング本体6の内周面部分6bと、仕切りプレート9の他方の端面であるポンプ室内側端面90と、モータ側サイドプレート7の端面であるポンプ室内側端面70との間に、容積の小さな後段の大気側のポンプ室2b(最終段のポンプ室)が形成されている。
【0022】
ポンプ室2aは、ケーシング本体6に形成した吸気口10に連通しており、ポンプ室2bは、ケーシング本体6に形成した排気口11に連通している。ポンプ室2aの排気側は、ケーシング本体6内に形成した連通路12を介して、ポンプ室2bの吸気側に連通している。モータ側サイドプレート7にはモータ3が取り付けられている。反対側のギヤ室4は、ギヤ室側サイドプレート8と、ここに取り付けたギヤカバー13とによって封鎖されている。
【0023】
ポンプ室2a、2bには、仕切りプレート9を貫通して、駆動側のロータ軸14および従動側のロータ軸15が配置されている。ロータ軸14、15は、一定の間隔を開けて平行に延びている。駆動側のロータ軸14の回転中心線がポンプ中心軸線1aである。ロータ軸14、15には、それぞれ、ポンプロータ16a、16b、ポンプロータ30a、30bが取り付けられている。一対のポンプロータ16a、16bは前段のポンプ室2a内に位置し、一対のポンプロータ30a、30bは後段のポンプ室2b内に位置している。ポンプロータ30a、30bは同一形状をしているので、以下の説明においては、これらを纏めて、ポンプロータ30として説明する場合もある。
【0024】
駆動側のロータ軸14のモータ側の軸端部14aは、モータ側サイドプレート7に取り付けた軸受21によって支持されていると共に、モータ3の側に延びて、モータ軸22に連結されている。ロータ軸14のギヤ室側の軸端部14bは、ギヤ室側サイドプレート8に取り付けた軸受23によって支持されていると共に、ギヤ室4の内部まで延びている。従動側のロータ軸15のモータ側の軸端部15aはモータ側サイドプレート7に取り付けた軸受24によって支持されており、そのギヤ室側の軸端部15bはギヤ室側サイドプレート8に取り付けた軸受25によって支持されていると共に、ギヤ室4の内部まで延びている。双方のロータ軸14、15のギヤ室側の軸端部14b、15bは歯車列26を介して連結され、ロータ軸14が回転すると、ロータ軸15は逆方向に同期して回転するようになっている。
【0025】
(ポンプロータ、モータ側サイドプレート)
図2(a)は真空ポンプ1の後段のポンプロータ30を示す端面図であり、
図2(b)はその断面図であり、
図2(c)はその反対側の端面図である。
図2(d)および(e)は、モータ側サイドプレート7を示す端面図および断面図である。また、
図3(a)は後段のポンプ室2bを示す概略部分断面図であり、
図3(b)は後段のポンプ室2bを示す説明図である。
【0026】
これらの図を参照して説明すると、ポンプロータ30は、全体として、マユ型の輪郭形状をしている。ポンプロータ30は、一定幅のロータ外周面31と、両側のロータ端面32、33とを備えている。ポンプロータ30の中心には、その厚さ方向に、円形断面の軸穴34が貫通している。軸穴34の両端が、ロータ端面32、33に開口している。ロータ外周面31は、微小隙間で、ポンプ室2bの内周面であるケーシング本体6の内周面部分6bに対峙している。一方のロータ端面32は、ポンプ中心軸線1aの方向から、微小隙間で、ポンプ室2bの一方のポンプ室内側端面90である仕切りプレート9の内側端面に対峙している。他方のロータ端面33は、ポンプ中心軸線1aの方向から、微小隙間で、ポンプ室2bの他方のポンプ室内側端面70であるモータ側サイドプレート7の内側端面に対峙している。
【0027】
ポンプロータ30が回転すると、そのロータ外周面31は、一定の微小隙間を保った状態で、ポンプ室2bの内周面部分6bに沿って移動する。これに対して、ポンプロータ30の両側のロータ端面32、33は、一部は微小な第1隙間Δ1を保った状態でポンプ室内側端面70、90に沿って移動し、残りの部分は広い第2隙間Δ2を保った状態で、ポンプ室内側端面70、90に沿って移動する。
【0028】
ポンプロータ30のロータ端面32、33の形状を説明する。まず、仕切りプレート9の内側端面であるポンプ室内側端面90に対峙するロータ端面32について説明する。ロータ端面32には、ロータ端面凸部32aおよびロータ端面凹部32bが形成されている。ロータ端面凸部32aに対して、ロータ端面凹部32bは所定寸法だけ後退した端面部分である。本例では、ロータ端面凸部32aの凸面は、ポンプ中心軸線1aに直交する平面によって規定されており、ロータ端面凹部32bの凹面も、ポンプ中心軸線1aに直交する平面によって規定されている。凸面を凸曲面によって規定し、凹面を凹曲面によって規定することも可能である。
【0029】
本例では、ロータ端面凸部32aとして、ロータ端面32の外周縁に沿って当該外周縁の全周に亘って、外周縁側凸部32cが形成されている。また、ロータ端面凸部32aとして、ロータ端面32における軸穴34の全周を取り囲む状態に、内周縁側凸部32dが形成されている。外周縁側凸部32cと内周縁側凸部32dは、所定幅、同一高さの凸部であり、軸穴34の外周側の部分で相互に繋がっている。本例では、ロータ端面32の中心回りに、外周縁側凸部32cと内周縁側凸部32dは、それぞれ、回転対称の形状をしている。ロータ端面凹部32bは、ロータ端面32における外周縁側凸部32cと内周縁側凸部32dによって囲まれた部分に形成されている。本例では、ロータ端面凹部32bは円形の一定深さの凹部であり、ロータ端面32の中心回りに、回転対称の位置に形成されている。
【0030】
ロータ端面32に対峙するポンプ室内側端面90である仕切りプレート9の内側端面は、ポンプ中心軸線1aに直交する平面である。したがって、対峙するロータ端面32とポンプ室内側端面90との間において、ロータ端面凸部32a、すなわち、外周縁側凸部32cおよび内周縁側凸部32dは、微小な第1隙間Δ1で、内側端面90に対峙する。これに対して、ロータ端面凹部32bは、第1隙間Δ1よりも広い第2隙間Δ2で、内側端面90に対峙する。
【0031】
次に、モータ側サイドプレート7の内側端面であるポンプ室内側端面70に対峙しているポンプロータ30のロータ端面33の形状を説明する。ロータ端面33の形状は基本的にロータ端面32と同様であり、ロータ端面凸部33aおよびロータ端面凹部33bが形成されている。ロータ端面凸部33aに対して、ロータ端面凹部33bは後退した端面部分である。ロータ端面凸部33aの凸面は、ポンプ中心軸線1aに直交する平面によって規定されており、ロータ端面凹部33bの凹面も、ポンプ中心軸線1aに直交する平面によって規定されている。凸面を凸曲面によって規定し、凹面を凹曲面によって規定することも可能である。
【0032】
本例では、ロータ端面凸部33aとして、ロータ端面33の外周縁に沿って当該外周縁の全周に亘って、外周縁側凸部33cが形成されている。また、ロータ端面凸部33aとして、ロータ端面33における軸穴34の全周を取り囲む状態に、内周縁側凸部33dが形成されている。外周縁側凸部33cと内周縁側凸部33dは、所定幅で同一高さの凸部であり、軸穴34の外周側の部分で相互に繋がっている。
【0033】
ロータ端面33の中心回りに、外周縁側凸部33cと内周縁側凸部33dは、それぞれ、回転対称の形状をしている。ロータ端面凹部33bは、ロータ端面33における外周縁側凸部33cと内周縁側凸部33dによって囲まれた部分に形成されている。本例では、ロータ端面凹部33bは円形の一定深さの凹部であり、ロータ端面33の中心回りに、回転対称の位置に形成されている。
【0034】
次に、
図2(d)、(e)を参照して、ロータ端面33に対峙するポンプ室内側端面70であるモータ側サイドプレート7の内側端面の形状を説明する。ポンプ室内側端面70は、ポンプ中心軸線1aに直交する平面によって規定されている。ポンプ室内側端面70には、ロータ軸14、15の軸端部14a、15aが貫通して延びる一対の円形断面の軸穴71、72が左右対称の位置に開口している。軸穴71、72と、排気通路用凹部73との間には、一定深さの凹部74が形成されている。排気通路用凹部73および凹部74は、相互に繋がっており、ポンプ室内側端面70から、析出する生成物厚に対し十分な深さを持つ平坦な凹部である。内側端面凹部74と軸穴71、72との間には、所定幅のポンプ室内側端面70の部分70aが介在している。
【0035】
対峙するロータ端面33とポンプ室内側端面70との間において、ロータ端面凸部33a、すなわち、外周縁側凸部33cおよび内周縁側凸部33dは、微小な第1隙間Δ1で、ポンプ室内側端面70に対峙する。これに対して、ロータ端面凹部33bは、第1隙間Δ1よりも広い第2隙間Δ2で、ポンプ室内側端面70に対峙する。また、ロータ端面33のロータ端面凹部33bが、ポンプ室内側端面70に形成した凹部74に対峙する状態では、これらの間には、第2隙間Δ2よりも広い第3隙間Δ3が形成される。
【0036】
本例の真空ポンプ1においては、最終段のポンプ室2bにおいて、ポンプロータ30の両側のロータ端面32、33の外周縁および内周縁に沿って、ロータ端面凸部32a(外周縁側凸部32c、32d)および33a(外周縁側凸部33c、内周縁側凸部33d)を形成し、これらの間に、ロータ端面凹部32b、33bを形成してある。気体シール部として機能するロータ端面凸部32a、33aを除いたロータ端面凹部32b、33b(段差部)は、対峙するポンプ室内側端面70、90に対して、大きな第2隙間Δ2が確保される。したがって、ロータ端面32、33と、ポンプ室内側端面70、90との間における生成物の蓄積・固着のリスクを大幅に軽減できる。
【0037】
また、ロータ端面32、33における狭い第1隙間Δ1でポンプ室内側端面70、90に対峙しているロータ端面凸部32a、33a(気体のシール部として機能する部分)の面積を小さくできる。よって、生成物に起因したポンプロータ30の回転抵抗の増加を抑制でき、ポンプロータ30の回転停止のリスクを小さくできる。また、ポンプ停止後の生成物が介在した状態での再起動時においても、ロータ端面32、33の気体のシール部として機能するロータ端面凸部32a、33aの面積を小さくすることができる。これにより、生成物との接触面積も小さくなるので、回転に必要なトルクが小さくなり、再起動性の向上が期待できる。
【0038】
さらに、排気口11に連通しているポンプ室内側端面70の部分には、凹部74が形成されている。凹部74とポンプロータ30のロータ端面33との間には最も広い第3隙間Δ3が形成される。生成物が他の部分に比べて多く生成される排気口側の部分に広い隙間の部分を形成してあるので、生成物の蓄積、固着に起因する弊害を確実に解消できる。
【0039】
また、
図3(b)に示すように、ポンプ室2bにおいて、最も広い第3隙間が形成される排気側の凹部74の形成領域部分は、第1隙間Δ1の気体シール部分によって、吸気側と分離された状態が維持される。すなわち、ポンプロータ30のロータ端面33に形成されているロータ端面凸部33aによって規定される狭い第1隙間Δ1の部分によって、ポンプ室2bにおいて吸気側と排気側とが分離されるように、凹部74が形成されている。広い隙間Δ2、Δ3の部分を介して、吸気側と排気側とが連通する状態が形成されることがない。よって、真空ポンプ1の排気性能の低下を回避しつつ、生成物の蓄積、固着に起因する弊害を解消できる。
【0040】
さらには、ロータ端面32、33の外周縁に沿って外周縁側凸部32c、33cが形成されている。ロータ回転中に析出してポンプ室内側端面70、90に堆積した生成物を、当該ポンプ室内側端面70、90に沿って移動する外周縁側凸部32c、33cによって掻き落とす効果も期待できる。
【0041】
図4には、ポンプロータ30の代わりに用いることのできるポンプロータを示してある。このポンプロータ30Aは、ロータ端面32、33による生成物の掻き落とし効果を高める構造を備えている。
図4(a)はポンプロータ30Aを示す端面図であり、
図4(b)は
図4(a)のb-b線で切断した場合の断面図であり、
図4(c)は
図4(a)とは反対側の端面図であり、(d)は(c)のd-d線で切断した場合の断面図である。また、
図4(e)はポンプロータ30Aの外周面を示す説明図であり、その一部を取り出して拡大して示してある。
【0042】
本例のポンプロータ30Aの基本構成はポンプロータ30と同一であるので、
図4においてポンプロータ30の各部位と対応する部位には同一符号を付し、それらの説明は省略する。本例のポンプロータ30Aでは、そのロータ端面33に、直線状凸部35が形成されている。
【0043】
図4(c)において、一点鎖線Lは、ロータ端面33の長径位置を示す。直線状凸部35は一定幅の線状凸部であり、長軸位置Lにおいて、当該ロータ端面33の一方の外周縁端33eから他方の外周縁端33fまで延びている。また、直線状凸部35は、ロータ端面凸部33a(外周縁側凸部33c、内周縁側凸部33d)よりもポンプ室内側端面70の側に突出している。
【0044】
ポンプロータ30Aが回転すると、直線状凸部35は、第1隙間Δ1よりも狭い第4隙間で、ポンプ室内側端面70に沿って移動する。第4隙間は、直線状凸部35がポンプ室内側端面70に接触しない範囲で、なるべく狭くする。これにより、ポンプ室内側端面70に付着、堆積した生成物が効果的に直線状凸部35によって掻き取られる。ロータ端面33とポンプ室内側端面70との間に生成物が詰まり、ロータ回転に支障を来すなどの弊害を確実に解消できる。